(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117258
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】回動リターン構造
(51)【国際特許分類】
F16D 23/14 20060101AFI20220803BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20220803BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
F16D23/14 Z
F16F1/06 M
F16F1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013852
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】矢代 智仁
【テーマコード(参考)】
3J056
3J059
【Fターム(参考)】
3J056AA33
3J056AA37
3J056AA58
3J056AA62
3J056CA06
3J056CC03
3J056CC14
3J056CC44
3J056DA03
3J056GA02
3J056GA12
3J059AB20
3J059BA02
3J059BA07
3J059BB01
3J059BD04
3J059CA01
3J059GA14
(57)【要約】
【課題】リターンスプリングが軸に干渉することを抑制できる、回動リターン構造を提供する。
【解決手段】リターンスプリング15は、先端が手動変速機のケースに接続される接続部21と、接続部21に連続し、接続部21の先端側に向けて螺旋状に巻回される内側巻回部22と、内側巻回部22に連続する連結部23と、連結部23に連続し、第1先端部21の先端側から第1先端部21と内側巻回部22との接続箇所側に向けて螺旋状に巻回される外側巻回部24とを有している。外側巻回部24の先端は、レリーズレバーヨークに接続される。外側巻回部24における金属線材の巻回方向は、クラッチが繋がった状態から切れた状態に遷移するときのレリーズレバーヨークの変位により外側巻回部24が縮径する方向である。内側巻回部22は、外側巻回部24と逆巻きで巻回されており、外側巻回部24が縮径したときに、その縮径に伴って、外側巻回部24から連結部23を介して伝達される力により拡径する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動軸と、
前記回動軸を回動可能に保持する保持部材と、
コイル状に巻回された線材からなり、前記線材の巻回部分に前記回動軸が挿通されることにより前記回動軸に外装され、前記線材の一端が前記回動軸または前記回動軸と一体に回動する部位に接続され、前記線材の他端が前記保持部材に接続されたリターンスプリングと、を含み、
前記リターンスプリングは、
前記回動軸の外周で巻回された内側巻回部と、
前記内側巻回部の外周で前記内側巻回部と逆巻きで巻回された外側巻回部と、を備え、
自然状態から前記回動軸の回動により弾性変形する際に、前記内側巻回部が拡径し、前記外側巻回部が縮径するように、前記線材が巻回されて構成されている、回動リターン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回動軸の回動を元に戻す回動リターン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、手動変速機(MT:Manual Transmission)を搭載した車両では、エンジンと手動変速機との間に、エンジンと手動変速機との間で動力を伝達/遮断するクラッチが介装されている。運転席の前方には、クラッチペダルが配設されており、クラッチペダルが踏み込まれていないときには、クラッチが繋がっており、クラッチペダルが踏み込まれると、クラッチが切れる。クラッチが繋がっているときには、エンジンの動力が手動変速機で変速されて駆動輪に伝達される。クラッチが切れた状態で、変速段を切り替えることができ、また、エンジンストールを発生させずに車両を停止させることができる。
【0003】
クラッチは、エンジンの出力軸に保持されるフライホイールと、フライホイールに固定されたクラッチカバーと、クラッチカバーに外周部が支持されるダイヤフラムスプリングと、フライホイールとダイヤフラムスプリングとの間に配置されるプレッシャプレートと、フライホイールとプレッシャプレートとの間に配置されるクラッチディスクとを備えている。
【0004】
クラッチペダルが踏まれていない状態では、ダイヤフラムスプリングのばね力による押付力がダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートに入力され、プレッシャプレートによりクラッチディスクがフライホイールに押し付けられる。この状態がクラッチの繋がった状態であり、エンジンの動力がクラッチを介して手動変速機に伝達される。
【0005】
ダイヤフラムスプリングに対してプレッシャプレート側と反対側には、レリーズベアリングがダイヤフラムスプリングの内周部に対向して配置されている。クラッチペダルが踏まれると、たとえば、クラッチペダルにレリーズケーブルを介して接続されたレリーズレバーが回動し、そのレリーズレバーの回動に伴ってレリーズレバーヨークが回動して、レリーズレバーヨークがレリーズベアリングをダイヤフラムスプリング側に押圧する。この押圧力がレリーズベアリングを介してダイヤフラムスプリングの内周部に入力され、ダイヤフラムスプリングが傾動および弾性変形し、ダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートへの押付力の入力が解除される。その結果、クラッチディスクがフライホイールから離れた状態となる。この状態がクラッチの切れた状態であり、この状態では、エンジンの動力が手動変速機に伝達されない。
【0006】
レリーズレバーおよびレリーズレバーヨークは、レリーズレバー軸に固定されている。レリーズレバー軸には、コイルばねからなるリターンスプリングが外装されている。リターンスプリングの一端は、手動変速機の外殻をなすトランスミッションケースに固定され、その他端は、レリーズレバーヨークに接続されている。クラッチペダルが踏まれて、レリーズレバーヨークが回動すると、リターンスプリングが縮径してばね力を蓄える。クラッチペダルの踏み込みが解除されると、ダイヤフラムスプリングのばね力にリターンスプリングのばね力が加わり、それらのばね力(反力)により、レリーズベアリング、レリーズレバーヨーク、レリーズレバー軸およびレリーズレバーが元の位置に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、クラッチペダルが踏まれて、リターンスプリングが縮径した際に、リターンスプリングの線材がレリーズレバー軸と干渉し、レリーズレバー軸および/またはリターンスプリングの線材が摩耗する。
【0009】
本発明の目的は、リターンスプリングが軸に干渉することを抑制できる、回動リターン構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係る回動リターン構造は、回動軸と、回動軸を回動可能に保持する保持部材と、コイル状に巻回された線材からなり、線材の巻回部分に回動軸が挿通されることにより回動軸に外装され、線材の一端が回動軸または回動軸と一体に回動する部位に接続され、線材の他端が保持部材に接続されたリターンスプリングとを含み、リターンスプリングは、回動軸の外周で巻回された内側巻回部と、内側巻回部の外周で内側巻回部と逆巻きで巻回された外側巻回部とを備え、自然状態から回動軸の回動により弾性変形する際に、内側巻回部が拡径し、外側巻回部が縮径するように、線材が巻回されて構成されている。
【0011】
この構成によれば、回動軸は、保持部材に回動可能に保持されている。回動軸には、線材をコイル状に巻回して形成されたリターンスプリングが外装されている。リターンスプリングは、回動軸の外周で巻回された内側巻回部と、内側巻回部の外周で内側巻回部と逆巻きで巻回された外側巻回部とを備えている。リターンスプリングの自然状態から、回動軸が回動されると、リターンスプリングは、内側巻回部が拡径し、外側巻回部が縮径する。そのため、リターンスプリングが回動軸に干渉することを抑制でき、その干渉による回動軸および/またはリターンスプリングの線材の摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リターンスプリングが回動軸に干渉することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る回動リターン構造を備える手動変速機の正面図である。
【
図3】リターンスプリングの構成を図解的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
<回動リターン構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る回動リターン構造1を備える手動変速機2の正面図であり、
図2は、その側面図である。
【0016】
回動リターン構造1は、エンジン(図示せず)と手動変速機2との間で動力を伝達/遮断するクラッチに付随して設けられる。クラッチは、図示されていないが、エンジンの出力軸に保持されるフライホイールと、フライホイールに固定されたクラッチカバーと、クラッチカバーに外周部が支持されるダイヤフラムスプリングと、フライホイールとダイヤフラムスプリングとの間に配置されるプレッシャプレートと、フライホイールとプレッシャプレートとの間に配置されるクラッチディスクとを備えている。
【0017】
回動リターン構造1には、レリーズレバー軸11、レリーズレバー12、レリーズベアリング13、レリーズレバーヨーク14およびリターンスプリング15が含まれる。
【0018】
レリーズレバー軸11は、手動変速機2の外殻をなすケース16に挿通されて、ケース16に回動可能に保持されている。
【0019】
レリーズレバー12は、その一端がレリーズレバー軸11におけるケース16の外部に突出した部分に相対回転不能に接続されている。手動変速機2が搭載される車両には、運転席の前方に、運転者の足で操作されるクラッチペダルが配置されており、レリーズレバー12の他端には、クラッチペダルの操作を伝達するレリーズケーブル(図示せず)が接続されている。
【0020】
レリーズベアリング13は、ダイヤフラムスプリングに対してフライホイール側と反対側において、手動変速機2のインプット軸17に外嵌され、インプット軸17の軸線方向に移動可能に設けられている。ダイヤフラムスプリングの内周部は、レリーズベアリング13に当接している。
【0021】
レリーズレバーヨーク14は、一端部がレリーズレバー軸11に固定されており、レリーズレバー軸11と一体に回動(揺動)可能に設けられている。レリーズレバーヨーク14は、レリーズレバー軸11からレリーズベアリング13に向けて延び、レリーズレバーヨーク14の他端部は、レリーズベアリング13にエンジン側と反対側、つまりクラッチカバー側と反対側から当接している。
【0022】
リターンスプリング15は、後に詳述するが、線材を内外で二重コイル状に巻回して形成されたコイルばねである。リターンスプリング15は、その内側にレリーズレバー軸11が挿通されることにより、レリーズレバー軸11に外装されている。リターンスプリング15の一端は、ケース16に接続(係止)されている。リターンスプリング15の他端は、レリーズレバーヨーク14に接続(係止)されている。
【0023】
クラッチペダルが操作されていない状態(踏まれていない状態)では、ダイヤフラムスプリングのばね力による押付力がダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートに入力され、プレッシャプレートによりクラッチディスクがフライホイールに押し付けられる。この状態がクラッチの繋がった状態であり、エンジンの動力がクラッチを介して手動変速機2に伝達される。
【0024】
クラッチペダルが操作されると、そのクラッチペダルの操作がレリーズケーブルを介してレリーズレバーヨーク14に伝達される。具体的には、クラッチペダルが踏まれると、レリーズケーブルがクラッチペダルに引っ張られて、レリーズレバー12がクラッチペダル側に引き寄せられる。これにより、レリーズレバー12がレリーズレバー軸11とともに回動する。レリーズレバー軸11の回動に伴い、レリーズレバーヨーク14が回動する。また、レリーズレバー軸11の回動により、リターンスプリング15がばね力を蓄える。
【0025】
レリーズレバーヨーク14の回動により、レリーズレバーヨーク14がレリーズベアリング13をクラッチカバー側に押圧する。この押圧力がレリーズベアリング13を介してダイヤフラムスプリングの内周部に入力され、ダイヤフラムスプリングが傾動および弾性変形し、ダイヤフラムスプリングの外周部からプレッシャプレートへの押付力の入力が解除される。その結果、クラッチディスクがフライホイールから離れ、クラッチが切れた状態となる。クラッチが切れた状態では、エンジンの動力が手動変速機2に伝達されない。
【0026】
クラッチペダルの踏み込みが解除されると、ダイヤフラムスプリングのばね力と、リターンスプリング15のばね力とにより、レリーズレバー軸11、レリーズレバー12、レリーズベアリング13およびレリーズレバーヨーク14が元の位置に戻る。
【0027】
<リターンスプリング>
図3は、リターンスプリング15の構成を図解的に示す斜視図である。
【0028】
リターンスプリング15は、金属線材を巻回して形成されている。リターンスプリング15は、直線状に延び、先端が手動変速機2のケース16に接続される接続部21と、接続部21に連続し、接続部21の先端側に向けて螺旋状(コイル状)に巻回される内側巻回部22と、内側巻回部22に連続する連結部23と、連結部23に連続し、接続部21の先端側から接続部21と内側巻回部22との接続箇所側に向けて螺旋状に巻回される外側巻回部24とを有している。外側巻回部24の先端は、レリーズレバーヨーク14に接続される。
【0029】
外側巻回部24における金属線材の巻回方向は、クラッチが繋がった状態から切れた状態に遷移するときのレリーズレバーヨーク14の変位により外側巻回部24が縮径する方向である。内側巻回部22は、外側巻回部24と逆巻きで巻回されており、外側巻回部24が縮径したときに、その縮径に伴って、外側巻回部24から連結部23を介して伝達される力により拡径する。
【0030】
なお、
図3では、図面の視認性を考慮して、接続部21および内側巻回部22が破線で示され、連結部23および外側巻回部24が実線で示されている。
【0031】
<作用効果>
このように、クラッチが繋がった状態から切れた状態に遷移するときのレリーズレバーヨーク14の変位により、外側巻回部24が縮径し、内側巻回部22が拡径する。そのため、リターンスプリング15がレリーズレバー軸11に干渉することを抑制でき、その干渉によるレリーズレバー軸11および/またはリターンスプリング15の線材の摩耗を抑制することができる。
【0032】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0033】
たとえば、前述の形態では、回動リターン構造1がクラッチに適用されているが、本発明に係る回動リターン構造は、クラッチに限らず、一方向の入力により回動された回動軸がその入力の解除により他方向に回動する機構に広く適用することができる。
【0034】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1:回動リターン構造
11:レリーズレバー軸(回動軸)
15:リターンスプリング
16:ケース(保持部材)
22:内側巻回部
24:外側巻回部