(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117358
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】製鋼スラグの破砕方法及び破砕機
(51)【国際特許分類】
B02C 1/12 20060101AFI20220803BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B02C1/12
C21C5/28 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014016
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000233734
【氏名又は名称】株式会社アステック入江
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 顕
(72)【発明者】
【氏名】豊田 研治
(72)【発明者】
【氏名】永田 琢也
【テーマコード(参考)】
4D063
4K070
【Fターム(参考)】
4D063AA01
4D063AA19
4D063GA10
4D063GD04
4D063GD13
4D063GD22
4K070BC15
(57)【要約】
【課題】塊状の製鋼スラグであってもまた高温の状態でも早期の冷却が可能であり、迅速な処理が可能な製鋼スラグの破砕方法及び破砕機を提供する。
【解決手段】少なくとも表面が固化した製鋼スラグSを破砕する製鋼スラグの破砕方法であって、重量物50の下端側に設けられた複数の破砕刃20を、スラグ表面に当たるように配置する第一工程と、重量物の重量を利用して破砕刃を製鋼スラグに食い込ませて当該製鋼スラグを破砕する第二工程と、を含む、製鋼スラグの破砕方法。また、吊り下げ可能な被吊り下げ部11と、重量物50を着脱可能に保持する重り保持部12と、を有する本体10と、本体10の下端側に設けられて下方に向かって延出された複数の破砕刃20と、を含む、製鋼スラグの破砕機1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が固化した製鋼スラグを破砕する製鋼スラグの破砕方法であって、
重量物の下端側に設けられた複数の破砕刃を、前記表面に当たるように配置する第一工程と、
前記重量物の重量を利用して前記破砕刃を前記製鋼スラグに食い込ませて当該製鋼スラグを破砕する第二工程と、を含む、
製鋼スラグの破砕方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製鋼スラグの破砕方法であって、
前記第一工程の前に、前記破砕刃を移動する移動工程を含む、
製鋼スラグの破砕方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製鋼スラグの破砕方法であって、
前記破砕刃に加える加重は、60kgf/cm2以上とする、
製鋼スラグの破砕方法。
【請求項4】
吊り下げ可能な被吊り下げ部と、重量物を保持する重り保持部と、を有する本体と、
前記本体の下端側に設けられて下方に向かって延出された複数の破砕刃と、
を含む、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項5】
請求項4に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記重り保持部は、前記重量物を着脱可能に保持する、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記破砕刃は、その延出方向の中心軸線の方向から見て、前記中心軸線から少なくとも3方向へ放射状に延びる複数のフィン部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項7】
請求項6に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記フィン部は、前記中心軸線の方向から見て十字形状である、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記フィン部は、延出基部から長手方向の途中までの幅が同じに形成され、前記途中から先端に向かって漸次幅を狭くする先細り部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項9】
請求項6~8の何れか一項に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数のフィン部のうち少なくとも1つは、他の前記フィン部の先端よりも更に延出された先端平板部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項10】
請求項6~9の何れか一項に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数の破砕刃は、前記フィン部の向きが異なるもの、又は、前記フィン部の数が異なるものを含むように配置されている、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項11】
請求項4~10の何れか一項に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数の破砕刃は、破砕刃保持部に着脱自在に設けられ、
前記破砕刃保持部は、前記本体に着脱自在に設けられる、
製鋼スラグの破砕機。
【請求項12】
請求項4~11の何れか一項に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記破砕刃にかかる加重を、60kgf/cm2以上に調整できる、
製鋼スラグの破砕機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄の際に発生する製鋼スラグの破砕方法及び破砕機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製鋼スラグを処理する方法として、例えば特許文献1には、転炉から排出された製鋼スラグを冷却して処理する方法が記載されている。特許文献1に開示された方法は、起倒自在な浅底鉄板を複数個床面に配置し、同鉄板上に溶融鋼滓を全域に渡りできる限り薄く展開状に排滓し、その後冷水により強制的に冷却し、これによって固化した鋼滓を水中に投入し、水中で完全に冷却された後に廃棄する転炉滓の処理方法、である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法においては、流動性の高い製鋼スラグについては、浅底天板上に比較的、薄くした状態で冷水を散水することで効果的な冷却を可能にする、というものである。
しかしながら、製鋼スラグは、その温度状態や組成の影響により、早い段階で流動性が低くなる場合や、所定の処理場まで時間(移送時間)がかかってしまったときには、塊状になる場合がある。塊状になった製鋼スラグは、浅底鉄板のような容器に薄く広げることができなくなり、特許文献1に記載されているような処理方法は適用できなくなる。特に、近年の製鋼スラグにおいては、シリカ系の成分が少ないため、塊状になるのが短時間になってきており、特許文献1のような処理方法の適用が難しくなってきているのが現状である。
【0005】
また、スラグの熱電導度が低いため、塊状の製鋼スラグにおいては、所定の容器に収容して散水した場合、所定時間内(作業上許容できる時間内)での冷却・固化が難しくなる。更に、塊状のスラグの場合、冷却が不十分で塊状スラグの内部が未凝固のまま冷却ピット(水中)にスラグを投入する場合には、流動性のある未凝固スラグ内部に水が閉じ込められたとき、水の蒸気化による膨張に伴い急激に上昇する圧力の逃げ場がないことに起因する水蒸気爆発の危険性があり、安全上において大きな課題があった。ところが、実際の処理作業においては、塊状の製鋼スラグが内部まで冷却・固化しているかどうかは確認することができないことから、長時間放置する必要があるなど、多くの課題を抱えているのが現状であった。
【0006】
一方、冷却を促進する手段としては、製鋼スラグを破砕することも考えられる。しかし、破砕するには、特に固化が進んだ場合には、大きな力が必要であり、大きな衝撃を加えることは、装置の大型化及び駆動力の大型化によるコスト面の課題に加え、安全上並びに騒音等の問題も大きな課題である。さらに、固化が進む前の状態において破砕する場合には、破砕機の駆動系の耐熱対策の問題もある。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塊状の製鋼スラグであってもまた高温の状態でも早期の冷却が可能であり、迅速な処理が可能な製鋼スラグの破砕方法及び破砕機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記手段により達成することができる。
〔1〕
少なくとも表面が固化した製鋼スラグを破砕する製鋼スラグの破砕方法であって、
重量物の下端側に設けられた複数の破砕刃を、前記表面に当たるように配置する第一工程と、
前記重量物の重量を利用して前記破砕刃を前記製鋼スラグに食い込ませて当該製鋼スラグを破砕する第二工程と、を含む、
製鋼スラグの破砕方法。
【0009】
〔2〕
〔1〕に記載の製鋼スラグの破砕方法であって、
前記第一工程の前に、前記破砕刃を移動する移動工程を含む、
製鋼スラグの破砕方法。
【0010】
〔3〕
〔1〕又は〔2〕に記載の製鋼スラグの破砕方法であって、
前記破砕刃に加える圧力は、60kgf/cm2以上とする、
製鋼スラグの破砕方法。
【0011】
〔4〕
吊り下げ可能な被吊り下げ部と、重量物を保持する重り保持部と、を有する本体と、
前記本体の下端側に設けられて下方に向かって延出された複数の破砕刃と、
を含む、
製鋼スラグの破砕機。
【0012】
〔5〕
〔4〕に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記重り保持部は、前記重量物を着脱可能に保持する、
製鋼スラグの破砕機。
【0013】
〔6〕
〔4〕又は〔5〕に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記破砕刃は、その延出方向の中心軸線の方向から見て、前記中心軸線から少なくとも3方向へ放射状に延びる複数のフィン部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【0014】
〔7〕
〔6〕に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記フィン部は、前記中心軸線の方向から見て十字形状である、
製鋼スラグの破砕機。
【0015】
〔8〕
〔6〕又は〔7〕に記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記フィン部は、延出基部から長手方向の途中までの幅が同じに形成され、前記途中から先端に向かって漸次幅を狭くする先細り部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【0016】
〔9〕
〔6〕~〔8〕の何れか1つに記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数のフィン部のうち少なくとも1つは、他の前記フィン部の先端よりも更に延出された先端平板部を有する、
製鋼スラグの破砕機。
【0017】
〔10〕
〔6〕~〔9〕の何れか1つに記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数の破砕刃は、前記フィン部の向きが異なるもの、又は、前記フィン部の数が異なるものを含むように配置されている、
製鋼スラグの破砕機。
【0018】
〔11〕
〔4〕~〔10〕の何れか1つに記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記複数の破砕刃は、破砕刃保持部に着脱自在に設けられ、
前記破砕刃保持部は、前記本体に着脱自在に設けられる、
製鋼スラグの破砕機。
【0019】
〔12〕
〔4〕~〔11〕の何れか1つに記載の製鋼スラグの破砕機であって、
前記破砕刃にかかる圧力を、60kgf/cm2以上に調整できる、
製鋼スラグの破砕機。
【発明の効果】
【0020】
〔1〕の製鋼スラグの破砕方法によれば、重量物の重量を利用して、複数の破砕刃をスラグに食い込ませることでスラグを破砕するので、破砕機そのものに駆動力部が必要なく駆動部の高温対策も不要でスラグ温度が高い状態でも使用することができる。したがって、〔1〕の製鋼スラグの破砕方法は、汎用性の高い破砕方法である。また、駆動部がない破砕機を用いるので、低騒音を可能にする。
【0021】
〔2〕の製鋼スラグの破砕方法によれば、移動工程により、例えば水平並びに垂直移動によって、破砕が必要な個所に破砕刃(破砕機)を移動することができる。
【0022】
〔3〕の製鋼スラグの破砕方法によれば、破砕刃に加える圧力を60kgf/cm2以上とすることにより、破砕を良好に行うことができる。
【0023】
〔4〕の製鋼スラグの破砕機は、駆動力部を必要とせず、駆動部の高温対策も不要になり低コスト化を図ることができる。また、駆動部等がない分耐熱性が高く、スラグ温度が高い状態でも使用することができる。この結果、スラグの固化が進む前に粉砕でき破砕効率を高めることができる。また、駆動部がなくメンテナンス性に優れている。更に、駆動部がないことで低騒音にできる。
【0024】
〔5〕の製鋼スラグの破砕機は、重量物を着脱可能に保持することができるため、破砕刃に加える圧力を調整しやすい。また、メンテナンス性に優れる。
【0025】
〔6〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃が中心軸線から放射状に延びる複数のフィン部を有するので、破砕刃の強度向上を図ることができる。破砕刃がスラグ内部に食い込んだ時に、スラグに対して、フィン部の側面によって生じる粉砕力を加える方向を多くすることができ、粉砕の効率化を図ることができる。
【0026】
〔7〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃のフィン部が十字形の場合、フィン部の製造が容易である。
【0027】
〔8〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃のフィン部は、延出基部から長手方向の途中までの幅が同じに形成されていることで、フィン部の幅を先端近くまで大きく維持できるので破砕刃の強度を維持できる。また、フィン部の先端が尖っていることで、スラグ内に破砕刃が食い込みやすい。
【0028】
〔9〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃の先端平板部が設けられていることで、スラグへの食い込み性を高めることができる。
【0029】
〔10〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃のフィン部の向き或いはフィン部の数が異なることで、破砕刃がスラグ内部に食い込んだ時に、スラグに対して、フィン側面によって生じる粉砕力の方向を多様にすることができ、粉砕の効率化を良くすることができる。
【0030】
〔11〕の製鋼スラグの破砕機によれば、複数の破砕刃は、破砕刃保持部に着脱自在に設けられるので、破砕刃の交換等のメンテナンスが容易にできる。また、破砕刃保持部が本体に着脱自在に設けられるので、破砕刃のメンテナンス作業に際しては、本体から取り外すことができ、作業性が良い。
【0031】
〔12〕の製鋼スラグの破砕機によれば、破砕刃に加える圧力を60kgf/cm2以上に調整できるので、スラグの破砕を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の製鋼スラグの処理方法を実施する作業場の概略図である。
【
図4】
図1に示す破砕機の破砕刃ユニットを示す側面図である。
【
図5】
図1に示す破砕機の破砕刃ユニットを示す正面図である。
【
図6】
図5に示す破砕刃ユニットを底面側から見た底面図である。
【
図8】破砕刃の第1変形例を示す拡大斜視図である。
【
図9】破砕刃の第2変形例を示す破砕刃ユニットの正面図である。
【
図10】破砕機による製鋼スラグの破砕工程における初段状態を示す概略図である。
【
図11】破砕機による製鋼スラグの破砕状態を示す概略図である。
【
図12】破砕機による製鋼スラグの破砕工程における終段状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の製鋼スラグの処理方法及び破砕機の一実施形態について、
図1~
図12を参照して説明する。
図1は、本実施形態の製鋼スラグの処理方法を実施する作業場の概略図である。
【0034】
製鋼スラグを処理するには、
図1に示すように、例えば、屋根を有する作業場80には、製鋼炉から排出された製鋼スラグS(以下、単に「スラグ」ともいう)を、所定量収容可能な複数のスラグトレイ48が架台上に並べて設けられている。スラグトレイ48の上方には、スラグSを破砕するための破砕機1が設けられている。破砕機1は、下端側に破砕刃20を備えており、この破砕刃20によって、後述するようにスラグSを破砕する。破砕機1は、天井クレーン40によって吊り下げられており、前後左右に移動できると共に昇降可能に設けられている。
【0035】
天井クレーン40は、例えば、作業場80の天井側に図中左右方向に設置された横梁41a及び図中前後方向(紙面に対して垂直方向)の一対の縦梁41b、吊下げ移動部43等を備えている。要するに、天井クレーン40においては、破砕機1の吊下げ位置は、横梁41aが縦梁41b上を移動することで前後に移動し、吊下げ移動部43が横梁41a上を移動することで左右に移動する。さらに、破砕機1の上下の位置は、吊下げ移動部43の昇降作動により、フック部45に接続された吊下げワイヤ44の巻き上げ・巻き下ろしによって上下移動が行われる。
【0036】
図2は、破砕機1の側面図であり、
図3は、破砕機1の本体10の正面図である。
図2及び
図3に示すように、破砕機1は、枠構造の本体10と、この本体10の下側に設けられる破砕刃20を備える破砕刃ユニット25と、を有する。
【0037】
本体10は、前後(
図2においては左右)に一対設けられた垂直枠15と、垂直枠15を下端側で連結する水平底枠16と、を有している。垂直枠15の上端側には、被吊下げ部11が設けられている。この被吊下げ部11にフック部45が引っ掛けられることで、破砕機1が吊下げられる。なお、被吊下げ部11の近傍には、フック部45の外側を位置規制する、例えばロックピン19等も適宜設けられている。
【0038】
水平底枠16は、例えば、H型鋼を、複数本間隔をあけて配置した構成(
図3参照)であり、その上に重量物である重り50を載置可能に重り保持部12を構成している。重り保持部12は、例えば、複数の板状の重り要素51~55が積層状態で設置可能に構成されている。重り保持部12は、例えば、水平底枠16の外縁から垂直に立設された第一位置規制枠17及び垂直枠15の内側に立設された第二位置規制枠18によって、重り50を位置決め保持することができる。
【0039】
なお、重り50は、複数の重り要素51~55にて構成されていることから、必要に応じて、重さを変えることができる。すなわち、破砕機1が降下するときにスラグSの破砕に必要な重量は、常に一定ではない。したがって、複数の重り要素51~55は、スラグSの状態(性状)によって適宜変えることが可能である。
【0040】
図4は、破砕機1の破砕刃ユニット25を示す側面図である。
図5は、破砕刃ユニット25を示す正面図である。
【0041】
図4及び
図5に示すように、破砕刃20は、複数のものが破砕刃ユニット25として、本体10の下端側に設けられる。詳細には、破砕刃20は、破砕刃保持部30の保持板31に所定の間隔で一方方向(下方)に向かって延びる縦長刃として複数取り付けられる。保持板31は、例えば平板で矩形状に構成されており、各破砕刃20を、その基部側においてネジ止め等(
図7参照)により着脱可能に保持する。保持板31の前後には、取付孔32hを有する取付部32が設けられている。この取付部32は、その下側(破砕刃が突出する側)に突出する壁面として構成され、本体10の水平底枠16の取付突部16aにネジ止めにより取り付けられる取付孔32h等を有している。
【0042】
また、破砕刃保持部30は、保持板31の上側には、例えば、孔の開いた被支持突起31gが設けられている。この被支持突起31gは、破砕刃ユニット25の取り付け時あるいはメンテナンス時において、破砕刃ユニット25を、他の支持手段にて支持する部分として機能する。要するに、被支持突起31gは、破砕刃ユニット25の取り付け取り外しの作業性並びに安全性を確保する構造として機能する。
【0043】
図6は、破砕刃ユニット25を底面側(刃先方向)から見た底面図である。
図6に示すように、破砕刃20は、その延出方向の中心軸線CL(
図4及び
図5参照)の方向から見て、中心軸線CLから放射状に延びる、例えば4枚のフィン部21(21f,22f)を有する。本実施形態においては、フィン部21は、中心軸線CLから180度反対方向に延びる2枚の第一フィン21fと、第一フィン21fに対して90度異なる方向に延びる2枚の第二フィン22fと、を有する十字形状となっている。
【0044】
また、破砕刃20は、
図6に示すように、例えば、前後方向(図中上下方向)に7列、左右方向(図中左右方向)に5列の整列した状態で合計35個が保持板31に取り付けられている。ここで、破砕刃20のフィン部21(第一フィン21fと第二フィン22f)の形状は、後述するように少し異なっている。そして、破砕刃20の第一フィン21fの向きは、全てが同じにならないように設けられている。例えば、第一フィン21fが前後向き(図中において上下方向の向き)に向いた破砕刃20aと第一フィン21fが左右向き(図中において左右方向の向き)に向いた破砕刃20bとが略交互に隣接するように配置されている。
【0045】
なお、フィン部21の向きは、前後両端側の列の並びにおいては、全て第一フィン21fが前後方向に向くように配置されている。このように、破砕刃20の向きを多様にすることで、破砕効果を高めることが可能となる。
【0046】
図7は、破砕刃の拡大斜視図である。
フィン部21は、前掲のごとく中心軸線CLの方向から見て十字形状であるが、
図7に示すように、側面側から見ると、第一フィン21fは、第二フィン22fよりも先端側に延びている。要するに、先端面20eは十字形状ではなく、マイナス形状(「-」形状)となっている。したがって、第一フィン21fは、側面方向から見ると第二フィン22fよりも先端側に先端平板部20pを有している。また、第一フィン21fの厚み(d1)は、第二フィン22fの厚み(d2)と同じでもよいし、第二フィン22fの厚み(d2)よりも大きく構成されていても良い。
【0047】
また、破砕刃20は、延出基部21bから長手方向の途中までのフィン部21の幅(D)が同じに形成され、途中から先端に向かって漸次幅を狭くする先細り部21eを備えている。これにより、破砕刃20がスラグSに食い込むときに、食い込みやすくできる。
【0048】
フィン部21は、スラグSに食い込むときには、フィン先端面21t,22t、フィン側面21sw,22sw及びフィン縁側面21gw,22gwによって、スラグSに対して接触圧を加えながらスラグSを切り裂く。要するに、破砕刃20が降下するときにスラグSに対して圧力を加える接触面が多数あることで、スラグSに対して多数の向きの力を加えることができる。
【0049】
破砕刃20は、その延出基部21bがフィン部21に対して直交する、例えば平板状の取付板21aに固定されている。そして、取付板21aには、取付穴20hが設けられており、この取付穴20hに挿通するボルト等の締結部材によって保持板31に着脱自在に取り付けることができる。
【0050】
ここで、破砕機1の重さについて説明する。
実際の破砕機1は、その重さについては、重り50を変えることで変更することが容易である。例えば、破砕するスラグSの状態(性状)により重さを設定することができる。その一例を挙げると、例えば、破砕機1の総重量を100トン程度、
図7に示す形状の破砕刃20(長さ約80cm、幅約25cm、フィン厚み約5cm)を、約9m
2程度(破砕刃保持部30の大きさ)の範囲に30個程度並べた構成とすることができる。この場合、破砕刃20の先端(
図7においては、先端面20e)に加える圧力としては、重りを変えてテストした結果、60kgf/cm
2以上とすることで、スラグSの効果的な破砕が達成できた。
【0051】
以下、本実施形態における破砕刃20の変形例について、
図8及び
図9を参照して説明する。なお、
図8は、破砕刃20の第1変形例を示す要部拡大斜視図である。
図9は、破砕刃20の第2変形例を示す破砕刃ユニット25の正面図である。
【0052】
(第1変形例)
第1変形例の破砕刃20は、
図8に示すように、フィン部21が、
図7に示したものと同様に、中心軸線CLの方向から見て十字形状であり、全ての第一フィン21fが先端面20eまで延びている点が相違する。すなわち、
図7に示した第一フィン21fに相当する部分が4枚のフィンにより先端面20eが十字形状に構成されている。本変形例においては、4枚の第一フィン21fは、先細り部21eも同じ形状に構成されている。したがって、本変形例における破砕刃20は、側面方向いずれから見ても同じ形状となっている。
【0053】
(第2変形例)
第2変形例の破砕刃20は、
図9に示すように、破砕刃ユニット25として本変形例の破砕刃20が保持板31に取り付けられた状態である。ここに示す破砕刃20は、その4枚の全てのフィン部21が延出基部21bから先端面20eに向かって漸次幅を狭くする先細り形状(略二等辺三角形のような形状)となっている。
【0054】
以下、
図10~
図12を参照して、破砕機1による破砕工程について説明する。なお、
図10は、破砕機1によるスラグSの破砕工程における初段状態を示す概略図である。
図11は、破砕機1によるスラグ破砕状態を示す概略図である。また、
図12は、破砕機1によるスラグSの破砕工程における終段状態を示す概略図である。
【0055】
破砕機1によるスラグSの破砕工程においては、スラグトレイ48に収容されているスラグSの上方に、天井クレーン40(
図1参照)によって破砕機1を移動する移動工程がある。なお、スラグトレイ48内にスラグSを投入する間においては、破砕機1は、載置台60上に置かれた待機位置、或いはスラグトレイ48が配置された領域に接近した位置において予め待機している。
【0056】
スラグSの破砕すべき箇所の上方に移動した破砕機1は、
図10に示すように、第一工程として、複数の破砕刃20の先端がスラグ表面Ssに当たるようにする。
【0057】
引き続いて、
図11に示すように、第二工程として破砕機1を降下させる。この降下は、破砕機1上の重り50の重量を利用して破砕刃20をスラグSに食い込ませる。ここで、第一工程と第二工程とは、実際には連続した工程である。すなわち、破砕機1を所定位置に移動した後は、破砕機1を降下させることで、破砕刃20が、破砕機1の自重によってスラグSに亀裂を加えるように降下する。この結果、スラグSが破砕される。
【0058】
なお、破砕機1の降下移動位置としては、破砕刃20の先端がスラグトレイ48の底面に当たらないように(または当たったとしても荷重がかからないように)設定されていることが好ましい。これにより、破砕刃20が、破砕機1の自重を支えるような状態を回避し、破砕刃20の破損を防止することができる。
【0059】
次に、二回目の破砕動作に移る。
これは、第一回目の破砕動作(降下動作)が終了した後、破砕機1を、破砕刃20がスラグSから離れる所定位置まで上昇させる。上昇後、スラグトレイ48の長手方向、すなわち、
図11において右方向に移動する。ここでの横方向への移動距離は、一回目の破砕範囲の境界位置に略合わせる。要するに、横方向の移動距離は、破砕残しがないようにすることが前提であるが、例えば、破砕刃20の配置寸法の距離だけ移動するようにしても良いし、破砕刃20の配置寸法よりも短い距離、すなわち、破砕位置が若干重なるように移動しても良い。この設定は、スラグ性状によって適宜設定することができる。このようにして所定距離だけ横移動してから、破砕機1の降下を再び行って二回目の破砕を行う。
【0060】
なお、本実施形態においては、1つのスラグトレイ48に対して、三回の降下による破砕動作を繰り返す。また、スラグトレイ48は、本実施形態においては、例えば、3つを1セットとして回転可能なボックス(不図示)に収納して架台上に設置されているので、残りの2つのスラグトレイ48に対して同様な破砕工程を行う。
【0061】
破砕が終了した後は、
図12に示すように、上昇して待機位置に戻ってもよいが、スラグSが次のスラグトレイ48にある場合には、引き続き破砕工程を繰り返す。破砕が終了したスラグトレイ48上のスラグSは、全域にわたって破砕された状態である。ここに、冷却水を散布することで、破砕されたスラグSの破砕面に冷却水が行きわたることにより効果的な冷却が行われる。
【0062】
破砕されたスラグトレイ48上のスラグSの冷却が進行した後(所定時間後)は、例えば、スラグトレイ48の一端側(例えば3つのスラグトレイ48を載置したボックス)をクレーン等で上昇させるように回転させる。これにより、スラグトレイ48上のスラグSは、トレイ排出側48bから別の運搬台車に排出される。その後、空になったスラグトレイ48に再びスラグSを注いで同様の処理工程を繰り返す。
【0063】
なお、スラグトレイ48から搬出されたスラグSは、運搬台車によって水がはられたピットまで搬送され、ピット内に投入されて更に冷却される。そして、冷却が完了したスラグSは、ピットから搬出される。
【0064】
以上述べたように、本実施形態の製鋼スラグの破砕方法においては、重り50及び破砕機1の重量を利用して、複数の破砕刃20をスラグSに食い込ませることでスラグSを破砕するので、破砕機1そのものに駆動力部が必要なく駆動部の高温対策も不要でスラグ温度が高い状態でも使用することができ、汎用性の高い破砕方法である。また、駆動部がない破砕機1を用いるので、低騒音を可能にする。
【0065】
本実施形態の製鋼スラグの破砕方法においては、移動工程により、例えば水平並びに垂直移動によって、スラグSの破砕が必要な個所に破砕刃20(破砕機1)を移動することができるので、広範囲に置かれたスラグSに対しても破砕を容易に行うことができる。
【0066】
本実施形態においては、破砕刃20に加える加重を60kgf/cm2以上とすることにより、破砕を良好に行うことができる。
【0067】
本実施形態の破砕機1は、駆動力部がなく駆動部の高温対策も不要になり低コスト化を図ることができる。また、駆動部等がない分耐熱性が高く、スラグ温度が高い状態でも使用することができる。この結果、スラグの固化が進む前に粉砕でき破砕効率を高めることができる。また、駆動部がなくメンテナンス性に優れている。更に、駆動部がないことで低騒音にできる。
【0068】
本実施形態の破砕機1においては、破砕刃20が中心軸線CLから放射状に延びる複数のフィン部21を有するので、破砕刃20の強度アップを図ることができる。破砕刃20が放射状に設けられたフィン部21によって、スラグSの内部に食い込んだ時に、スラグSに対して、フィン部21の側面によって加えられる力の方向を多様化し、粉砕の効率化を図ることができる。
【0069】
また、本実施形態の破砕刃20においては、フィン部21が十字形に構成されているのでの、破砕刃20の強度アップができ、また、フィン部21の製造が容易である。
【0070】
更に、フィン部21は、延出基部21bから長手方向の途中までの幅が同じに形成されている場合には、フィン部21の幅(D)を破砕刃20の先端近くまで大きく維持できるので破砕刃20の強度を維持できる。また、フィン部21の先端が尖っていることで、スラグ内に破砕刃20が食い込み易くできる。
【0071】
また、本実施形態の破砕刃20においては、先端平板部20pが設けられていることで、スラグSへの食い込み性を高めることができる。
【0072】
本実施形態に破砕機1おいては、破砕刃ユニット25に設けられる破砕刃20の向きを変えることができることから、フィン部21の向きが異なる構成、更にはフィン部21のフィン数が異なる構成の場合、破砕刃20によるスラグSに対して、粉砕力の方向を多様にすることができるので、スラグSの粉砕の効率化を良くすることができる。
【0073】
本実施形態に破砕機1おいては、破砕刃20は、破砕刃保持部30に着脱自在に設けられるので、破砕刃20の交換等のメンテナンスが容易にできる。また、破砕刃保持部30が本体10に着脱自在な破砕刃ユニット25として構成されるので、破砕刃20のメンテナンス作業に際しては、本体10から取り外しことができ作業性が良い。
【0074】
また、本実施形態の破砕機1においては、本体10の重り保持部12は、複数の板状の重り要素51~55を積層状態で設置可能に構成されているので、処理するスラグSの性状が変化した場合でも、重り50の重量を自在に変えることができ、破砕刃20に加える加重を調整することが容易である。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、適宜変更できる。例えば、天井クレーン40等の移動手段の構成は、図示のものに何ら限定されるものではない。
【0076】
また、上記実施形態においては、破砕刃20を断面十字形状(フィン部が4枚)としたが、これに限るものではなく、例えば、フィン部21が3枚、或いは5枚以上の構成としても良い。
【0077】
また、上記実施形態においては、破砕刃20のフィン部21の放射方向の張り出しサイズ(幅(D))については、全てのフィン部21について略同じように構成したが、部分によって幅(D)変えるような構成であっても良い。
【符号の説明】
【0078】
1 破砕機
10 本体
11 被吊下げ部
12 重り保持部
20 破砕刃
21 フィン部
21b 延出基部
21e 先細り部
20f 先端平板部
30 破砕刃保持部
31 保持板
48 スラグトレイ
50 重り(重量物)