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特開2022-117411齧歯類変異型ALK2遺伝子を有する齧歯類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117411
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】齧歯類変異型ALK2遺伝子を有する齧歯類
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20220803BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162653
(22)【出願日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2021013282
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 岳信
(72)【発明者】
【氏名】塚本 翔
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 麻衣
(57)【要約】
【課題】ヒトなどの霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映した動物モデルとして利用可能な齧歯類の提供。
【解決手段】ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有し、前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を含む齧歯類である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有し、
前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を含むことを特徴とする齧歯類。
【請求項2】
霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映したモデルである請求項1に記載の齧歯類。
【請求項3】
マウス及びラットのいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の齧歯類。
【請求項4】
異所性骨化が抑制される請求項1から3のいずれかに記載の齧歯類。
【請求項5】
肝においてリンパ球が浸潤している請求項1から4のいずれかに記載の齧歯類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齧歯類変異型ALK2遺伝子を有する齧歯類に関する。
【背景技術】
【0002】
骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)は、トランスフォーミング増殖因子β(Transforming growth factor-β、TGF-β)ファミリーに分類される成長因子の一群である。BMPはBMP15までが同定されており、それらがホモ又はヘテロ二量体として、骨や軟骨、筋肉などの運動器の発生や維持、肝臓における鉄代謝など、多彩な生理活性を発揮する。
【0003】
BMPを含むTGF-βファミリーの活性は、標的細胞が細胞膜上に発現するアクチビン様キナーゼ(Activin Like Kinase、ALK)1~ALK7と呼ばれる7種類のI型に分類される膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼ受容体によって伝達される。しかし、TGF-βファミリーの活性は、別の膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼであるII型受容体や、さまざまな因子によって修飾されており、生体内での生理作用には未だ不明な点が多い。
【0004】
ALK2は、BMPの骨誘導活性を伝達する膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼ受容体である。ALK2は、遺伝子変異で発症する難病との関連が報告されている。前記遺伝子変異で発症する疾患としては、例えば、全身で異所性骨化が起こる進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia ossificans progressiva、FOP)、腱や靭帯が骨化するびまん性特発性骨増殖症(Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis、DISH)、小児の脳腫瘍であるびまん性橋膠腫(Diffuse Intrinsic Pontine Glioma、DIPG)、先天性心疾患(Congenital heart diseases、CHDs)などがある。
【0005】
BMPやTGF-βファミリーの活性の生理的役割や、関連疾患の発症機序、治療薬の開発などは、主にマウスをモデルとして研究されている。しかし、FOP症例の変異をマウスALK2に導入しても、マウスは出生直後に死亡してしまい、ラインとして病態モデルを樹立できないのが現状である(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
したがって、ヒトのALK2を介したBMPシグナル伝達を反映できるマウスモデルの確立が強く望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chakkalakal SA, Zhang D, Culbert AL, Convente MR, Caron RJ, Wright AC, Maidment AD, Kaplan FS, Shore EM. An Acvr1 R206H knock-in mouse has fibrodysplasia ossificans progressiva. J Bone Miner Res. 2012 Aug;27(8):1746-56.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ヒトなどの霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映した動物モデルとして利用可能な齧歯類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、ALK1~ALK7と呼ばれる7種類のI型に分類される膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼ受容体の中で、ALK2だけは、マウスとヒトで活性に差があること、マウスALK2はヒトALK2よりも活性が高いこと、この主たる原因は細胞内のキナーゼ領域に位置する330番の1アミノ酸残基の違いによることを知見した。
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有し、
前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を含むことを特徴とする齧歯類である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、ヒトなどの霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映した動物モデルとして利用可能な齧歯類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、試験例1において、骨誘導性シグナル(Smad1/5/9)の活性を測定した結果を示す図である。
図1B図1Bは、試験例1において、非骨誘導性シグナル(Smad2/3)の活性を測定した結果を示す図である。
図2A図2Aは、試験例2において、BMP7を用いた場合の活性を測定した結果を示す図である。
図2B図2Bは、試験例2において、BMP9を用いた場合の活性を測定した結果を示す図である。
図3図3は、試験例3において活性を測定した結果を示す図である。
図4図4は、試験例5におけるマイクロCTにて異所性骨を解析した結果を示す図である。
図5図5は、試験例6におけるヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す図である。
図6図6は、試験例7において活性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(齧歯類)
本発明の齧歯類(以下、「ALK2 S330置換齧歯類」、「ALK2 S330変異齧歯類」、「ALK2 S330P齧歯類」、「ALK2 S330P変異齧歯類」と称することがある。)は、ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有し、前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の変異を含む。
【0014】
<ALK2>
前記ALK2は、BMPの骨誘導活性を伝達する膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼ受容体である。前記ALK2は、FOP、DISH、DIPG、CHDsなどの遺伝子変異で発症する難病との関連が報告されている。
【0015】
前記ALK2のアミノ酸配列情報は、公知のデータベースから入手することができる。
例えば、データベース「National Center for Biotechnology Information (NCBI)」では、ヒトALK2はNP_001096、サルALK2はNP_001247690.1、マウスALK2はNP_001103675.1、ラットALK2はNP_077812.1のアクセッション番号で入手することができる。
【0016】
前記ALK2のアミノ酸配列における330番目のアミノ酸は、齧歯類ではセリンであるのに対し、霊長類ではプロリンであり、両者は異なっている。
後述する〔実施例〕の項目に示したように、7種のI型受容体の中で、ALK2は霊長類のヒトより齧歯類のマウスの方が、活性が高い。
【0017】
本発明の齧歯類は、ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有する。
前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を少なくとも含む。
【0018】
上記したように、ALK2タンパク質の330番目に位置するアミノ酸は、齧歯類と霊長類とで異なっている。
また、後述する〔実施例〕の項目に示したように、霊長類のヒトのALK2における330番目のプロリンを齧歯類のマウス型のセリンに変えるとBMP活性が上昇し、齧歯類のマウスのALK2における330番目のセリンを霊長類のヒト型のプロリンや、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンに変えるとBMP活性が低下する。そのため、ALK2タンパク質の330番目に位置するアミノ酸が、活性を制御していると考えられる。
本発明の齧歯類では、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を有することで、霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映することができる。前記変異の中でも、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンをプロリンとする変異が好ましい。
【0019】
前記齧歯類は、前記齧歯類変異型ALK2遺伝子のヘテロ接合型であってもよいし、ホモ接合型であってもよいが、ホモ接合型であることが好ましい。
【0020】
前記齧歯類は、霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映したモデルとして好適に用いることができる。霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映するとは、齧歯類において、霊長類におけるALK2と、そのリガンドであるBMPとの作用を反映することをいう。
前記BMPの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記齧歯類の種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マウス、ラット、スナネズミ、オキナワハツカネズミ、シッキムハツカネズミ、チャイニーズハムスター、などが挙げられる。これらの中でも、実験動物として有用である点で、マウス及びラットのいずれかが好ましい。
【0022】
前記霊長類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サルなどが挙げられる。これらの中でも、ヒトが好ましい。
【0023】
本発明の齧歯類は、後述する〔実施例〕の項目に示したように、野生型ALK2遺伝子を有する齧歯類と比べて、異所性骨化が抑制される。また、野生型ALK2遺伝子を有する齧歯類と異なり、肝においてリンパ球の浸潤が認められる。
【0024】
前記齧歯類変異型ALK2遺伝子におけるその他の変異としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、FOP、DISH、DIPG、CHDsなどの遺伝子変異で発症する疾患における遺伝子変異などが挙げられる。
本発明の齧歯類は、ヒトなどの霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映できるため、ヒトなどの霊長類の遺伝性疾患の変異を更に導入することで、前記遺伝性疾患を反映したモデルとすることができる。
【0025】
本発明の齧歯類は、ALK2の330番目のアミノ酸を霊長類型にしているため、齧歯類野生型ALK2よりも活性が低くなり、霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映できる。そのため、従来マウスで樹立することができなかった遺伝性疾患の病態モデルを樹立し得る。
【0026】
本発明の齧歯類の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、Cas9タンパク、ガイドRNA(齧歯類ALK2遺伝子内配列)及び、ドナーオリゴDNA(齧歯類ALK2遺伝子配列由来)を用いたゲノム編集技術による変異導入により製造する方法などが挙げられる。
【0027】
例えば、前記齧歯類としてマウスを用いる場合は、前記ガイドRNAとして、例えば、配列番号1で表される配列を標的配列とするものを用い、前記ドナーオリゴDNAとして、配列番号2で表される配列のものを用いる方法などが挙げられる。この例の場合、chr2: 58,462,951-58,462,959の座位(ALK2遺伝子の第8エクソン上)に合計4塩基の変異が導入される。なお、331番目及び332番目のアミノ酸配列は同義置換のためAla-Ileのままであり、330番目のSerがProに置換される。
<ガイドRNAの標的配列>
5’-CAGATCTCGATGGGCAATGGcgg-3’(配列番号1:chr2: 58,462,936-58,462,958)
配列番号1中の小文字部分(cgg)はPAM配列を示す。
<ドナーオリゴDNA(ssDNA)>
5’-GGTTAGCTGCCTTCGGATTGTACTGTCCATAGCCAGCGGCCTTGCCCATTTGCACATAGAGATATTTGGGACCCAAGGGAAGGCATGCCCATCGAGATCTGAAGAGCAAAAACATCCTGGTGAAGAAGA-3’(配列番号2)
配列番号2中の下線部は、変異箇所を示す。
【0028】
本発明の齧歯類は、霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達の運動器や肝臓などにおける生理的役割を齧歯類で解析することを可能にすると共に、ALK2の遺伝子変異で起こるさまざまな疾患の発症機序の解明や、前記疾患や骨折などの治療薬・予防薬等の開発に応用が期待できる。また、ALK2の遺伝的変異に起因するFOP、DISH等による異所性骨化やDIPGの病態モデルや、ALK2のシグナルを解析するための実験用動物としても利用可能である。
【実施例0029】
以下に本発明の試験例を説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(試験例1:7種のI型受容体の中でALK2はヒトよりマウスの活性が高い)
BMP特異的なルシフェラーゼ・レポーターを用いて、7種のI型受容体を介した細胞内シグナルの活性を測定した。
具体的には、HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナー社製)に播種し、10% FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5% COの条件下で一晩培養した。翌日、pcDEF3/ヒ卜ALK1(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK1」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK2(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK2」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK3(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK3」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK4(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK4」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK5(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK5」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK6(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK6」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK7(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ALK7」と称することがある。)、又はpcDEF3(プラスミドのトータル量を一定量に合わせるために使用。「モック」と称することがある。)と、pGL4.26/IdlWT4F-luc(Genes Cells,7,949 (2002); Biochem Biophys Res Commun, 407, 213 (2011))と、phRL-SV40(Promega社製)とを、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて導入した。2.5時間後、それぞれ、0.5ng/mLのBMP9(Peprotech社製、「B9」と称することがある。)、10ng/mLのBMP7(Miltenyi Biotec社製、「B7」と称することがある。)、10ng/mLのBMP2(Corefront社製、「B2」と称することがある。)、10ng/mLのActivin A(Peprotech社製、「ActA」と称することがある。)、1ng/mLのTGF-β1(Peprotech社製、「Tb1」と称することがある。)、10ng/mLのGDF5(Peprotech社製、「GDF5」と称することがある。)、又は10ng/mLのActivin B(Peprotech社製、「ActB」と称することがある。)を含むOPTI-MEM I(Thermo Fisher Scientific社製)に交換し、さらに一晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、ファイアフライ(Firefly)及びレニラ(Renilla)のルシフェラーゼ活性をプレートリーダー GENios(TECAN社製)で測定した。
【0031】
骨誘導性シグナル(Smad1/5/9)の活性を測定した結果を図1Aに、非骨誘導性シグナル(Smad2/3)の活性を測定した結果を図1Bに示す。図1A及び1B中の横軸の項目はモック又は各I型受容体を表し、各項目における棒グラフは左から順にモック、ヒト、マウスの場合の結果を表す。
図1A及び1Bに示したように、骨誘導性シグナルの伝達に関与するALK2では、ヒトよりもマウスの方が、活性が数倍高いことが確認された。
【0032】
(試験例2:ALK2の330番アミノ酸が活性を制御する)
BMP特異的なルシフェラーゼ・レポーターを用いて、ALK2を介した細胞内シグナルの活性を測定した。
具体的には、HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナー社製)に播種し、10% FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5% COの条件下で一晩培養した。翌日、pcDEF3/ヒ卜ALK2(WT)-V5-His(ヒト野生型、「ヒト」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK2(P330S)-V5-His(ヒト野生型における330番目のプロリンをセリンに置換し、マウス型に改変、「hP330S」と称することがある。)、pcDEF3/マウスALK2(WT)-V5-His(マウス野生型、「マウス」と称することがある。)、pcDEF3/マウスALK2(S330P)-V5-His(マウス野生型における330番目のセリンをプロリンに置換し、ヒト型に改変、「mS330P」と称することがある。)、又はpcDEF3(プラスミドのトータル量を一定量に合わせるために使用。「モック」と称することがある。)と、pGL4.26/IdlWT4F-luc(Genes Cells,7,949 (2002); Biochem Biophys Res Commun, 407, 213 (2011))と、phRL-SV40(Promega社製)とを、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて導入した。2.5時間後、10ng/mLのBMP7(Miltenyi Biotec社製)若しくは、0.5ng/mLのBMP9(Peprotech社製)を含むOPTI-MEM I(Thermo Fisher Scientific社製)に交換し、さらに一晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、ファイアフライ(Firefly)及びレニラ(Renilla)のルシフェラーゼ活性をプレートリーダー GENios(TECAN社製)で測定した。
【0033】
BMP7を用いた場合の結果を図2Aに、BMP9を用いた場合の結果を図2Bに示す。図2A及び2B中、横軸の項目は使用した発現ベクターを表し、各項目における棒グラフは左側から順に、コントロール、BMP7又はBMP9を用いた場合の結果を示す。
図2A及び2Bに示したように、ヒトのALK2における330番目のプロリンをマウス型のセリンに変えるとBMP活性が上昇し、マウスのALK2における330番目のセリンをヒト型のプロリンに変えるとBMP活性が低下することが確認された。
【0034】
(試験例3:ALK2 330番アミノ酸がリガンド依存的活性を制御する)
BMP特異的なルシフェラーゼ・レポーターを用いて、ALK2を介したリガンド依存的活性を測定した。
具体的には、HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナー社製)に播種し、10% FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5% C0の条件下で一晩培養した。翌日、pcDEF3/ヒ卜ALK2(WT)-V5-His(ヒト野生型、「hA2WT」と称することがある。)、pcDEF3/ヒ卜ALK2(P330S)-V5-His(ヒト野生型における330番目のプロリンをセリンに置換し、マウス型に改変、「hA2(P330S)」と称することがある。)、又はpcDEF3(プラスミドのトータル量を一定量に合わせるために使用。「モック」と称することがある。)と、pGL4.26/IdlWT4F-luc(Genes Cells,7,949 (2002); Biochem Biophys Res Commun, 407, 213 (2011))と、phRL-SV40(Promega社製)とを、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて導入した。2.5時間後、1ng/mL、10ng/mL、又は100ng/mLのBMP2(Corefront社製)、BMP4(R&D社製)、BMP5(Peprotech社製)、BMP6(Peprotech社製)、BMP7(Mi1tenyi Biotec社製)、BMP9(Peprotech社製)、BMP10(Mi1tenyi Biotec社製)、GDF5(Peprotech社製)、又はActivin B(Peprotech社製)を含むOPTI-MEM I(Thermo Fisher Scientific社製)に交換し、さらに一晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、ファイアフライ(Firefly)及びレニラ(Renilla)のルシフェラーゼ活性をプレートリーダー GENios(TECAN社製)で測定した。
【0035】
結果を図3に示す。図3中、横軸の項目は使用した各種BMP、GDF5、Activin B(Act B)を表し、各項目中の「1、10、100」は各種BMP、GDF5、Activin B(Act B)の使用量を表し、各使用量における棒グラフは左側から順に、モック、hA2WT、hA2(P330S)を用いた場合の結果を示す。
図3に示したように、BMP2、4、及び10では、野生型(hA2WT)も変異型(hA2(P330S))も発現させると活性が低下した。一方、BMP5、6、7、及び9では、変異型にすると活性が上がった。Activin Bは、野生型は反応しないが、変異型にすると反応していた。
これらの結果から、マウスALK2は、ヒトALK2の活性を正確に反映しないと考えられる。そのため、従来のヒト遺伝性疾患の変異を導入したマウスのモデルは、おそらくヒトの遺伝性疾患を反映したモデルにはなっていないと考えられる。
【0036】
骨誘導因子として発見され、臨床応用の開発が進められたBMP7は、ALK2を受容体として生物活性を発揮するBMPの1つと考えられる。以前から、BMPは齧歯類では強力な骨誘導活性を示すのに対し、ヒトを含む霊長類では骨誘導活性が弱いことが知られてきたが、その機序は解明されていない。上記の結果から、ALK2の330番残基の違いが、BMP7などのBMPの骨誘導活性に影響している可能性が考えられた。
【0037】
(試験例4:遺伝子改変によるALK2 S330Pマウスの樹立)
Cas9タンパク、ガイドRNA(マウスALK2遺伝子内配列)及び、ドナーオリゴDNA(マウスALK2遺伝子配列由来)を用いたゲノム編集技術(CRISPAR/Cas9)による変異導入により、ALK2 S330P変異マウス(マウスALK2における330番目のSerをヒト型のProに変えたマウス)を樹立した。ALK2 S330Pマウスでは、chr2: 58,462,951-58,462,959の座位(ALK2遺伝子の第8エクソン上)に合計4塩基の変異を導入した。その結果ALK2タンパクの330番目のSerがProに置換された(331番目及び332番目のアミノ酸配列は同義置換のためAla-Ileのまま)。
樹立したマウスは、肉眼的な異常を認めず、通常の交配維持が可能であった。
<ガイドRNAの標的配列>
5’-CAGATCTCGATGGGCAATGGcgg-3’(配列番号1:chr2: 58,462,936-58,462,958)
配列番号1中の小文字部分(cgg)はPAM配列を示す。
<ドナーオリゴDNA(ssDNA)>
5’-GGTTAGCTGCCTTCGGATTGTACTGTCCATAGCCAGCGGCCTTGCCCATTTGCACATAGAGATATTTGGGACCCAAGGGAAGGCATGCCCATCGAGATCTGAAGAGCAAAAACATCCTGGTGAAGAAGA-3’(配列番号2)
配列番号2中の下線部は、変異箇所を示す。
【0038】
(試験例5:ALK2 S330Pマウスでは異所性骨化が抑制される)
ALK2 S330Pの異所性骨化に対する影響をBMP移植による異所性骨化モデルにて解析した。直径4mmの円形状に切り取り取ったCollaTape(Zimmer Dental社製)に、2.5μgのBMP7(Milteney社製)を染み込ませ凍結乾燥し、BMP7ペレットを作製した。ALK2 WT/WTマウス(野生型)、ALK2 S330P/WTマウス(ヘテロ接合体)、ALK2 S330P/S330Pマウス(ホモ接合体)を、2%イソフルラン吸引麻酔下で、大腿を切開し、BMP7ペレットを骨格筋内に移植した。移植3週間後に、マイクロCT(CosmoScanGX社製)にて異所性骨を解析した。
【0039】
結果を図4に示す。図4中、上段(WT/WT)は野生型の3個体の結果を示し、中段(S330P/WT)はヘテロ接合体の3個体の結果を示し、下段はホモ接合体の3個体の結果を示す。図4中、白抜きの矢印は、異所性骨を示す。
図4に示したように、ヘテロ接合体及びホモ接合体では、野生型と比べて、異所性骨の大きさが小さいことが確認された。この結果は、上記したインビトロで見られた、マウスALK2における330番目のセリンをプロリンとした際に活性が低くなることを反映した結果であると考えられる。
【0040】
(試験例6:ALK2 S330Pマウスの肝における表現形質)
ALK2 WT/WTマウス(野生型)、ALK2 S330P/WTマウス(ヘテロ接合体)、ALK2 S330P/S330Pマウス(ホモ接合体)から、採取した肝臓を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(ナカライテスク社製)で2日間固定後、エタノール脱水後に、キシレンへ置換し、パラフィンで包埋した。回転式ミクロトーム(Leica社製)を用いて、パラフィン切片を作製した後、定法に従い、ヘマトキシリン・エオジン染色を施し、カバーガラスで封入し組織標本を作製した。組織標本は、BZ-9000(Keyence社製)により観察した。
【0041】
結果を図5に示す。図5中、上段(WT/WT)は野生型の3個体の結果を示し、中段(S330P/WT)はヘテロ接合体の3個体の結果を示し、下段はホモ接合体の3個体の結果を示す。
図5に示したように、ヘテロ接合体及びホモ接合体では、肝にリンパ球の浸潤が認められた。
【0042】
試験例5及び6の結果は、ALK2がBMP7による骨誘導活性に重要な受容体であることを示唆すると共に、肝などの組織でALK2が未知の生理作用を持つ可能性を示唆する。
【0043】
(試験例7:マウスALK2の330番アミノ酸の置換)
マウス野生型ALK2における330番目アミノ酸(セリン)を下記のアミノ酸に置換し、試験例2と同様にして、BMP特異的なルシフェラーゼ・レポーターを用いて、ALK2を介した細胞内シグナルの活性を測定した。また、マウス野生型ALK2における330番目アミノ酸を置換していない場合についても、同様にして試験した。
<置換したアミノ酸>
(1) Pro
(2) Ala
(3) Arg
(4) Asn
(5) Asp
(6) Cys
(7) Gln
(8) Glu
(9) Gly
(10) His
(11) Ile
(12) Leu
(13) Lys
(14) Met
(15) Phe
(16) Thr
(17) Trp
(18) Tyr
(19) Val
【0044】
具体的には、HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナー社製)に播種し、10% FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5% COの条件下で一晩培養した。翌日、pcDEF3/マウスALK2(S330置換)-V5-His(マウス野生型における330番目のセリンを上記したアミノ酸に置換したもの)、pcDEF3/マウスALK2(WT)-V5-His(マウス野生型、330番目がセリン)、又はpcDEF3(プラスミドのトータル量を一定量に合わせるために使用。「モック」と称することがある。)と、pGL4.26/IdlWT4F-luc(Genes Cells,7,949 (2002); Biochem Biophys Res Commun, 407, 213 (2011))と、phRL-SV40(Promega社製)とを、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて導入した。2.5時間後、10ng/mLのBMP7(Miltenyi Biotec社製)を含むOPTI-MEM I(Thermo Fisher Scientific社製)に交換し、さらに一晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、ファイアフライ(Firefly)及びレニラ(Renilla)のルシフェラーゼ活性をプレートリーダー GENios(TECAN社製)で測定した。
【0045】
結果を図6に示す。図6中、横軸の項目は使用した発現ベクターを表す。なお、モック以外はマウスALK2における330番目のアミノ酸で表した。
図6に示したように、マウスのALK2における330番目のセリンを、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンに変えるとBMP活性が低下することが確認された。
【0046】
以上の結果から、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を含む本発明の齧歯類は、BMP活性の弱い霊長類ALK2を反映したin vivoモデルとして利用できる可能性が示された。ヒトなどの霊長類におけるBMPシグナルを反映する齧歯類モデルは、霊長類におけるALK2を介したBMPシグナルの運動器や肝臓などにおける生理的役割を齧歯類で解析することを可能にすると共に、ALK2の遺伝子変異で起こるさまざまな疾患の発症機序の解明や、前記疾患や骨折などの治療薬・予防薬等の開発に応用が期待できる。
【0047】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ALK2タンパク質の330番目のアミノ酸をコードする位置に変異を有する齧歯類変異型ALK2遺伝子を有し、
前記齧歯類変異型ALK2遺伝子は、齧歯類野生型ALK2タンパク質における330番目のセリンが、プロリン、アスパラギン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸となる変異を含むことを特徴とする齧歯類である。
<2> 霊長類におけるALK2を介したBMPシグナル伝達を反映したモデルである前記<1>に記載の齧歯類である。
<3> マウス及びラットのいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の齧歯類である。
<4> 異所性骨化が抑制される前記<1>から<3>のいずれかに記載の齧歯類である。
<5> 肝においてリンパ球が浸潤している前記<1>から<4>のいずれかに記載の齧歯類である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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