(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117434
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ヒートシール性ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220803BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B32B27/36
C08L67/00 ZAB
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021204015
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】110103439
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】楊 文政
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲テ▼超
(72)【発明者】
【氏名】楊 春成
(72)【発明者】
【氏名】蕭 嘉▲イェン▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 敬堯
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41C
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100AL01A
4F100AL01B
4F100AL01C
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100AL05C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100JA06B
4F100JA06C
4F100JK16B
4F100JK16C
4F100JL12B
4F100JL12C
4F100JL16B
4F100JL16C
4F100JN01B
4F100JN01C
4F100YY00B
4F100YY00C
4J002CF00W
4J002CF00X
4J002CF07Y
4J002EC046
4J002EF116
4J002FD026
4J002FD02Y
4J002GF00
4J002GG00
4J002GJ00
(57)【要約】
【課題】再生ポリエステルマスターバッチ材料の割合を高めることができるヒートシール性ポリエステルフィルムを提供する。
【手段】本開示は、ベース層と、ベース層上に形成されたヒートシール層とを含むヒートシール性ポリエステルフィルムを提供する。ヒートシール層は、物理的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステル樹脂と、改質剤とを含む。ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール温度は、100℃と230℃との間である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層と、
ベース層の少なくとも一方の表面に形成され、ポリエステル組成物によって形成されたヒートシール層と、
前記ポリエステル組成物は、第1の固有粘度を有する物理的再生ポリエステルチップによって形成された物理的再生ポリエステル樹脂と、第1の固有粘度よりも小さい第2の固有粘度を有する化学的再生ポリエステルチップによって形成された化学的再生ポリエステル樹脂と、前記物理的再生ポリエステル樹脂と前記化学的再生ポリエステル樹脂に分散された改質剤とを含み、
前記ヒートシール層が所定の固有粘度を有し、前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール温度が100℃以上230℃以下になるように、前記物理的再生ポリエステル樹脂、前記化学的再生ポリエステル樹脂、及び前記改質剤が混合されている、
ことを特徴とするヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ヒートシール層の所定の固有粘度は、0.5dL/g以上0.75dL/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100mol%を基準として、前記ヒートシール性ポリエステルフィルム中のイソフタル酸の含有量は、0.5mol%以上40mol%以下であり、
150±2℃、10Hzで測定した前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率は、3.5×109dyne/cm2以上6.5×109dyne/cm2以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項4】
(i)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100wt%を基準にして、前記ヒートシール性ポリエステルフィルム中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有量が5wt%以下であり、
(ii)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヘイズが5%以下であり、
(iii)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が1nm以上100nm以下であり、
(iv)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの動的摩擦係数が0.2以上0.6以下であり、
(v)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール強度が2N/15mm以上30N/15mm以下である、
条件を満たすことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ベース層と、前記ベース層の少なくとも一方の表面に形成されたヒートシール層とを含み、
前記ヒートシール層は、所定の流動特性を有し、
前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール温度が100℃以上230℃以下になるように前記ヒートシール層に改質剤が添加されている、
ことを特徴とするヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ヒートシール層の所定の固有粘度が0.5dL/g以上0.75dL/g以下である請求項5に記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100mol%を基準にして、前記ヒートシール性ポリエステルフィルム中のイソフタル酸の含有量が0.5mol%以上40mol%以下であり、
150±2℃、10Hzで測定した前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率が3.5×109dyne/cm2以上6.5×109dyne/cm2以下である、
ことを特徴とする請求項5に記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【請求項8】
(i)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100wt%を基準にして、前記ヒートシール性ポリエステルフィルム中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有量が5wt%以下であり、
(ii)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヘイズが5%以下であり、
(iii)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が1nm以上100nm以下であり、
(iv)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの動的摩擦係数が0.2以上0.6以下であり、
(v)前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール強度が2N/15mm以上30N/15mm以下である、
条件を満たすことを特徴とする請求項5からム7のいずれかに記載のヒートシール性ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒートシール性ポリエステルフィルム、特に、リサイクルポリエステル材料を使用して調製されたヒートシール性ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃PETボトルの最も一般的なリサイクル方法は、物理的リサイクル法(又はメカニカルリサイクル法)である。物理的リサイクル法は、主に物理的機械的手段で廃PETボトルを粉砕し、粉砕されたPETボトル材料を高温環境下に置いて溶融し、溶融PETボトル材料をペレット化して物理的再生ポリエステルチップを形成する。物理的再生ポリエステルチップは、後処理作業に使用されてもよい。
【0003】
物理的リサイクル法によって製造された物理的再生ポリエステルチップは、通常、より高い固有粘度(IV)を有する。物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を調整するには、主に固体重合法が用いられる。ただし、固体重合法は、物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を高めるためにのみ使用することができ、物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を下げるために使用することはできない。また、一般的なフィルム製造工程では、通常、ポリエステルチップの固有粘度範囲に一定の制限がある。物理的再生ポリエステルチップは、一般に、ボトルブローやスピニング加工にのみ適しており、フィルムの押出には適していない。
【0004】
物理的再生ポリエステルチップをフィルム製造プロセスに適したものにするために、物理的再生ポリエステルチップと追加の未使用ポリエステルチップを混合して、ポリエステル材料の全体の固有粘度を減少させる。しかし、この方法では、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のリサイクルポリエステル材料の割合を効果的に増やすことはできない。そのため、最終的なヒートシール性ポリエステルフィルム製品は、環境保護の要求を満たさない可能性がある。言い換えれば、現在のヒートシール性ポリエステルフィルムにおける再生ポリエステルの割合には、克服すべき一定の制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在のヒートシール性ポリエステルフィルムにおける再生ポリエステルの割合には、克服すべき一定の制限が存在する。
【課題の解決するための手段】
【0006】
本開示は、従来技術の欠点を克服するためのヒートシール性ポリエステルフィルムを提供することである。
【0007】
本開示は、以下を含むヒートシール性ポリエステルフィルムを提供する。
ベース層。
前記ベース層の少なくとも1つの表面上に形成されたヒートシール層。
第1の流動特性を有する物理的再生ポリエステルチップによって形成された物理的再生ポリエステル樹脂と、前記第1の固有粘度よりも小さい第2の固有粘度を有する化学的再生ポリエステルチップによって形成された化学的再生ポリエステル樹脂と、前記物理的再生ポリエステル樹脂及び前記化学的再生ポリエステル樹脂中に分散された改質剤を含むポリエステル組成物。
前記ヒートシール層が所定の固有粘度を有し、前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール温度が100℃以上230℃以下になるように、前記物理的再生ポリエステル樹脂、前記化学的再生ポリエステル樹脂、及び前記改質剤が混合されている。
【0008】
前記ヒートシール層の所定の固有粘度は、0.5dL/g以上0.75dL/g以下であることを特徴とする。
【0009】
ヒートシール性ポリエステルフィルムの全体の厚さは、4μm以上100μm以下であり、ヒートシール層の厚さは、0.5μm以上50μm以下であり、ヒートシール層の厚さは、ヒートシール性ポリエステルフィルムの全体の厚さの3%以上50%以下である。
【0010】
ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100mol%を基準として、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のイソフタル酸の含有量は、0.5mol%以上40mol%以下である。また、150±2℃、10Hzで測定したヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率は、3.5×109dyne/cm2以上6.5×109dyne/cm2以下であることを特徴とする。
【0011】
ヒートシール性ポリエステルフィルムは、以下の条件を満たすことを特徴とする。
(i)ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100wt%を基準として、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有量が5wt%以下。
(ii)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヘイズが5%以下。
(iii)ヒートシール性ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が1nm以上100nm以下。
(iv)ヒートシール性ポリエステルフィルムの動的摩擦係数が0.2以上0.6以下。
(v)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール強度が2N/15mm以上30N/15mm以下。
【0012】
本開示は、以下を含むヒートシール性ポリエステルフィルムを提供することである。ベース層と、前記ベース層の少なくとも1つの表面に形成されたヒートシール層とを含み、前記ヒートシール層は、所定の流動特性を有する。前記ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール温度が100℃以上230℃以下になるように、前記ヒートシール層に改質剤が添加されている。
【0013】
前記ヒートシール層の所定の固有粘度は、0.5dL/g以上0.75dL/g以下である。
【0014】
ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100mol%を基準にして、前記ヒートシール性ポリエステルフィルム中のイソフタル酸の含有量が0.5mol%以上40mol%以下であり、150±2℃、10Hzで測定した前記ヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率が、3.5×109dyne/cm2以上6.5×109dyne/cm2以下である。
【0015】
ヒートシール性ポリエステルフィルムは、以下の条件を満たすことを特徴とする。
(i)ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100wt%を基準にして、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有量が5wt%以下。
(ii)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヘイズが5%以下。
(iii)ヒートシール性ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が1nm以上100nm以下。
(iv)ヒートシール性ポリエステルフィルムの動的摩擦係数が0.2以上0.6以下。
(v)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール強度が2N/15mm以上30N/15mm以下。
【発明の効果】
【0016】
本開示の有益な効果の1つは、本開示が提供するヒートシール性ポリエステルフィルム及びその製造方法において、「物理的再生ポリエステルチップは第1の固有粘度を有する」及び「化学的再生ポリエステルチップは第1の固有粘度よりも小さい第2の固有粘度を有する」という技術的解決策を用いて、「物理的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステル樹脂と、改質剤とを、所定の固有粘度に従って混合し、ヒートシール層が所定の固有粘度を有するようにする」ことによって、再生ポリエステルマスターバッチ材料の割合が高くなるように、押出成形や製膜工程に適した所定の固有粘度を有するように調整できることである。
【0017】
本開示の特徴及び技術的内容をさらに理解するために、以下の本開示の詳細な説明及び図を参照することができる。ただし、提供される図は、参照及び説明のためにのみ使用され、本開示を限定するために使用されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付の図面は、本開示のさらなる理解を提供するためのもので、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成している。図面は、本開示の実施形態を示し、説明と合わせて、本開示の原理を説明する役割を果たす。
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムの模式的な側面図である。
【0020】
【
図2】
図2は、本開示の第2実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムの模式的側面図である。
【0021】
【
図3】
図3は、本開示の第3実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムの模式的側面図である。
【0022】
【
図4】
図4は、本開示のヒートシール性ポリエステルフィルムの製造方法のステップフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下は、本開示に開示される実施形態を説明するための具体的な実施形態である。当業者であれば、本明細書に開示されている内容から、本開示の利点や効果を理解することができる。本開示は、他の異なる具体的な実施形態によっても実施又は適用することができ、また、本明細書の様々な詳細も、本開示の概念を逸脱することなく、異なる視点や用途に基づいて修正及び変更することができる。また、本開示の図は単なる模式図であり、実際のサイズに従って描かれているわけではない。以下の実施形態では、本開示の関連する技術内容をさらに詳細に説明するが、開示された内容は本開示の範囲を限定するものではない。
【0024】
本明細書では、様々な装置又は信号を説明するために「第1」、「第2」、及び「第3」などの用語が使用されることがあるが、これらの装置又は信号はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は主に、1つのデバイスを別のデバイスと区別するため、又は1つの信号を別の信号と区別するために使用される。また、本明細書で使用される用語「又は」は、実際の状況に応じて、関連する複数の記載事項のいずれか1つ又はその組み合わせを含むことができる。
【0025】
<第1実施形態>
【0026】
図1に示す通り、本開示の第1実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムZは、ベース層1とヒートシール層2とを含み、ヒートシール層2は、ベース層1の少なくとも一方の表面に形成されている。特に、ヒートシール層2の融点は、ベース層1の融点よりも低い。そのため、2枚のヒートシール性ポリエステルフィルムZを積層してホットプレスした後に、融点の低いヒートシール層2を溶かして接着することで、ヒートシール性の効果を得ることができる。
【0027】
本明細書において、「ポリエステル」、「ポリエステル材料」などの用語は、あらゆる種類のポリエステル、特に芳香族ポリエステルを意味し、実施形態では特に、テレフタル酸とエチレングリコールとの共重合から得られるポリエステル、即ちポリエチレンテレフタレート(PET)を意味していることを述べておく。
【0028】
本実施形態では、ヒートシール性ポリエステルフィルムZの全体の厚さは4μm以上100μm以下であり、ヒートシール層2の厚さは0.5μm以上50μm以下(好ましくは0.μm以上10μm以下)であり、ヒートシール層2の厚さはヒートシール性ポリエステルフィルムZの全体の厚さの3%以上50%以下(好ましくは3%以上30%以下)である。
【0029】
ベース層1は、ポリエステル組成物によって形成され、ポリエステル組成物の主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル組成物は、物理的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステル樹脂とを含む。物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の主成分は、それぞれ再生ポリエチレンテレフタレートである。
【0030】
特に、物理的再生ポリエステル樹脂の含有量は、ベース層1の総重量100wt%を基準として、50wt%以上95wt%以下であることが好ましい。化学的再生ポリエステル樹脂の含有量は1wt%以上40wt%以下であり、物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の合計含有量は50wt%以上100wt%以下である。本実施形態では、ベース層1が後述する改質剤を含まないことは特筆に値する。
【0031】
ヒートシール層2は、ポリエステル組成物によって形成されており、ポリエステル組成物の主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル組成物は、物理的再生ポリエステル樹脂、化学的再生ポリエステル樹脂、及び改質剤を含む。物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の主成分は、それぞれ再生ポリエチレンテレフタレートである。
【0032】
特に、物理的再生ポリエステル樹脂の含有量は、ヒートシール層2の総重量100wt%を基準として、50wt%以上95wt%以下であることが好ましい。化学的再生ポリエステル樹脂の含有量は1wt%以上40wt%以下であり、改質剤の含有量は0.1wt%以上30wt%以下であり、物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の合計含有量が50wt%以上100wt%以下である。
【0033】
より具体的には、物理的再生ポリエステル樹脂は、物理的再生ポリエステルチップによって形成され、物理的再生ポリエステルチップは、第1の固有粘度を有する。化学的再生ポリエステルチップで形成される化学的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステルチップは、第2の固有粘度を有する。特に、化学的再生ポリエステルチップの第2の固有粘度は、物理的再生ポリエステルチップの第1の固有粘度よりも小さい。
【0034】
より具体的には、物理的再生ポリエステルチップの第1の固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以上であり、より好ましくは0.65dL/g以上0.80dL/g以下である。さらに、化学的再生ポリエステルチップの第2の固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上0.65dL/g以下である。
【0035】
ヒートシール層2では、物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的再生ポリエステル樹脂に改質剤が分散されている。改質剤は、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、及びポリブチレンテレフタレートからなる材料群から選択される少なくとも1つである。改質剤の添加により、ヒートシール層2の融点が低下し、ヒートシール性ポリエステルフィルムZが100℃以上230℃以下の温度範囲でヒートシールされてもよい。
【0036】
特に、物理的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステル樹脂と、改質剤とは、ヒートシール層2が所定の固有粘度を有するように、所定の固有粘度に従って混合される。所定の固有粘度は、好ましくは0.50dL/g以上0.75dL/g以下、より好ましくは0.60dL/g以上0.65dL/g以下である。さらに、ヒートシール性ポリエステルフィルムZのヒートシール温度は、100℃以上230℃以下である。
【0037】
本開示の一実施形態では、改質剤は、ポリエステルマスターバッチを改質することによって、物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的再生ポリエステル樹脂に分散される。特に、改質されたポリエステルマスターバッチは、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチ及び化学的再生改質ポリエステルマスターバッチの少なくとも一方である。
【0038】
換言すれば、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチは、改質剤を含み、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチ中の改質剤は、ポリブチレンテレフタレートである。
【0039】
さらに、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチが改質剤を含み、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチ中の改質剤が、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、及びネオペンチルグリコールの少なくとも1つの化合物の残基である。
【0040】
さらに、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチの固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以上であり、より好ましくは0.65dL/g以上0.80dL/g以下である。また、化学的再生された改質ポリエステルマスターバッチの固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以下、より好ましくは0.50dL/g以上0.65dL/g以下であるが、本開示はこれに限定されない。
【0041】
以上のことから、ベース層1及びヒートシール層2はそれぞれ、ポリエステル組成物によって形成されており、これらのポリエステル組成物はいずれも、物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的再生ポリエステル樹脂を含んでいる。なお、ベース層1を形成するポリエステル組成物と、ヒートシール層2を形成するポリエステル組成物とは、互いに同じであっても異なっていてもよく、本開示はこの点において限定されない。
【0042】
本開示の一実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムZは、物理的再生ポリエステル樹脂と混合され化学的再生ポリエステル樹脂を混合することで、ベース層1とヒートシール層2に含まれるリサイクルポリエステル材料の割合を大幅に増やすことができる。バージンポリエステルマスターバッチを添加する必要があった従来の製造方法に比較して、本開示の実施形態に係るヒートシール性ポリエステルフィルムZは、環境保護の効果をより発揮することができ、また、従来の物理的再生ポリエステル樹脂のみを用いた場合に生じる多くの不純物の問題を解決することができる。
【0043】
より具体的には、物理的再生ポリエステル樹脂は、1種類又は複数種類の物理的再生ポリエステルチップによって形成されており、物理的再生ポリエステルチップの主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートである。化学的再生ポリエステル樹脂は、1種類又は複数種類の化学的再生ポリエステルチップによって形成されており、化学的再生ポリエステルチップの主成分は再生ポリエチレンテレフタレートである。以下に、物理的再生ポリエステルチップ及び化学的再生ポリエステルチップの調製方法について説明する。
【0044】
上記構成のヒートシール性ポリエステルフィルムZは、以下の条件を満たすことを特徴とする。
(i)ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100wt%を基準にして、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有量が5wt%以下。
(ii)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヘイズが5%以下。
(iii)ヒートシール性ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が1nm以上100nm以下。
(iv)ヒートシール性ポリエステルフィルムの動的摩擦係数が0.2以上0.6以下。
(v)ヒートシール性ポリエステルフィルムのヒートシール強度が2N/15mm以上30N/15mm以下。
【0045】
図4に示す通り、本実施形態では、ヒートシール性ポリエステルフィルムの製造方法は、ステップS1~S5を含む。本実施形態で説明したステップの順序や実際の操作方法は、要求に応じて調整することができ、本実施形態で説明したものに限定されない。
【0046】
ステップS1は、物理的再生ポリエステル材料の一部を物理的に再生して、物理的再生ポリエステルチップを得ることを含み、ここで、物理的再生ポリエステルチップは、第1の固有粘度を有する。
【0047】
具体的には、物理的再生ポリエステルチップの製造ステップは、以下を含む。リサイクルポリエステル材料の一部(リサイクルPETボトル(r-PET)ボトルフレークなど)を物理的機械的手段で粉砕し、リサイクルポリエステル材料を溶融するのに必要な時間とエネルギー消費を削減する。次に、粉砕されたリサイクルポリエステル材料を高温(例えば、230℃以上270℃以下の高温)で溶融させ、リサイクルポリエステル材料を溶融状態とする。次に、第1スクリーンを用いて、溶融状態にあるリサイクルポリエステル材料を濾過し、リサイクルポリエステル材料中の固形不純物を除去する。最後に、濾過されたリサイクルポリエステル材料をペレット化して、物理的再生ポリエステルチップを形成する。
【0048】
言い換えれば、リサイクルポリエステル材料は、切断、溶融、濾過、押し出しなどの方法で順に再形成されることにより、オリジナルリサイクルポリエステル素材中のポリエステル分子が再配置され、物理的再生ポリエステルチップが作製される。
【0049】
物理的再生工程におけるリサイクルポリエステル材料の分子量は大きく変化しないため、リサイクルポリエステル材料は、溶融状態での粘度が比較的高く、流動性が悪くなります。したがって、メッシュ径が不十分なスクリーンを使用すると、フィルタ効率が悪くなるという問題が発生し易い。
【0050】
より良い濾過効果を得るためには、本実施形態では、第1スクリーンのメッシュ径は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。即ち、第1スクリーンは、メッシュ径よりも大きい粒径の固形不純物を選別してもよいが、本開示はこれに限定されない。
【0051】
本実施形態において、物理的再生ポリエステルチップには、物理的に再生された「従来型」のポリエステルチップが含まれ、機能性添加物は添加されていない。物理的再生ポリエステルチップの主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートである。物理的再生ポリエステルチップの第1固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以上であり、より好ましくは0.65dL/g以上0.80dL/g以下である。
【0052】
さらに、物理的な再生の過程において、機能性添加剤(例えば、滑剤、着色剤、又はマット剤など)を溶融混合物に添加して、異なる機能を有する物理的に再生された「機能性」ポリエステルチップ、例えば以下の物理的に再生された「改質」ポリエステルチップを調製することもできる。
【0053】
異なるフィルム製造プロセスには、異なる適切な固有粘度範囲がある。一般に、物理的再生によって得られた物理的再生ポリエステルチップ(物理的再生ポリエステル樹脂)は、より高い固有粘度(0.65dL/g以上)を有する。物理的再生ポリエステルチップ(物理的再生ポリエステル樹脂)のみを使用した場合、ポリエステルマスターバッチ材料は、ボトルブローやスピニング加工にのみ適しており、フィルム押出工程には適していない。
【0054】
物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を調整するために、主に固体重合が採用されている。しかし、固体重合法は、物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を増加させるためにのみ使用することができ、物理的再生ポリエステルチップの固有粘度を減少させるために使用することはできない。
【0055】
上記課題を解決するために、本開示の一実施形態では、化学的再生ポリエステルチップ(化学的再生ポリエステル樹脂)は、より低い固有粘度(0.65dL/g以下)を得るため、ステップS2の化学的再生ステップによって調整される。その結果、物理的再生ポリエステルチップと化学的再生ポリエステルチップを同時に使用し、物理的再生ポリエステルチップと化学的再生ポリエステルチップの割合を調整することで、固有粘度を調整する効果が得られ、ポリエステルマスターバッチ材料の固有粘度を調整する効果が得られ、ポリエステルマスターバッチ材料をフィルム押出工程に適したものにすることができる。
【0056】
ステップS2は、リサイクルポリエステル材料の別の部分を化学的に再生して、化学的再生ポリエステルチップを得ることを含み、その場合、化学的再生ポリエステルチップは、第1の固有粘度よりも小さい第2の固有粘度を有する。
【0057】
具体的には、化学的再生ポリエステルチップの製造ステップは、以下を含む。リサイクルポリエステル材料の別の部分(r-PETボトルフレークなど)を切断又は粉砕して、リサイクルポリエステル材料を解重合するのに必要な時間及びエネルギー消費を削減する。次に、切断又は粉砕した再生ポリエステル材料を化学的解重合液に投入し、再生ポリエステル材料を解重合してオリゴマー混合物を形成する。次に、第2スクリーンを用いてオリゴマー混合物を濾過して、リサイクルポリエステル材料中の固形不純物を除去し、オリゴマー混合物中の非ポリエステル不純物の濃度を低下させる。
【0058】
次に、第2スクリーンによって濾過されたオリゴマー混合物をエステル化反応に付し、エステル化反応中に無機物添加剤又はコポリマーモノマーを添加する。最後に、特定の反応条件で、オリゴマー混合物を再重合し、ペレット化して、化学的再生ポリエステルチップを得る。
【0059】
特に、化学的解重合液の液温は、例えば、160℃以上250℃以下であってもよいが、本開示はこれに限定されない。さらに、第2スクリーンのメッシュ径は、第1スクリーンのメッシュ径よりも小さい。
【0060】
化学的解重合液は、解重合の効果を得るために、リサイクルポリエステル材料中のポリエステル分子に鎖の切断を引き起こしてもよく、分子鎖が短く、1つの二酸単位と2つのジオール単位からなるエステルモノマーを有するポリエステル組成物、例えば、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)をさらに得るものでもよい。即ち、オリゴマー混合物の分子量は、リサイクルポリエステル材料の分子量よりも小さい。
【0061】
本実施形態では、化学的解重合液は、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、又はそれらの組み合わせの溶液であってもよいが、本開示はこれに限定されない。例えば、加水分解には水が用いられ、アルコール分解にはメタノール、エタノール、エチレングリコール、又はジエチレングリコールが用いられる。
【0062】
さらに、物理的再生ステップとは異なり、化学的再生ステップでは、「再生ポリエステル材料中のポリエステル分子の解重合と再重合」を行い、ポリエステル分子をより分子量の小さい分子に解重合し、さらに再重合して新たなポリエステル樹脂を得ることができる。
【0063】
本実施形態では、化学的再生ポリエステルチップは、化学的再生法で得られた「従来型」ポリエステルチップを含み、機能性添加剤は添加されていない。化学的再生ポリエステルチップの第2の固有粘度は、好ましくは0.65dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上0.65dL/g以下である。
【0064】
さらに、化学的再生の過程で、オリゴマー混合物に上記の機能性添加剤(滑剤、着色剤、マット剤など)を添加した後、再度重合を行い、以下の化学的再生された「改質」ポリエステルチップのような、異なる機能を有する化学的再生された「機能性」ポリエステルチップを調製してもよい。
【0065】
さらに、ケミカルリサイクル法により、再生ポリエステル材料は分子量の小さいモノマーに解重合されている可能性がある。そのため、再生ポリエステル材料(r-PETボトルフレークなど)に元々含まれている不純物(コロイド状の不純物やその他のポリエステル以外の不純物など)は、物理的なリサイクル方法に比べて、濾過によってより容易に排除される可能性がある。
【0066】
また、化学的再生操作によって、リサイクルポリエステル材料の分子量が低下することがある(例えば、分子鎖の短いポリエステル組成物や複合モノマーが形成される)ので、リサイクルポリエステル材料は、解重合後の粘度が低くなり、流動性が向上する。従って、化学的再生操作では、ポリエステル材料中の粒径の小さい不純物を除去するために、より小さいメッシュ径のスクリーンを採用してもよい。
【0067】
より良い濾過効果を得るために、本実施形態では、第2スクリーンのメッシュ径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。つまり、第2スクリーンは、メッシュ径よりも大きい粒径の固形不純物を選別してもよいが、本開示はこれに限定されない。
【0068】
固形不純物の濾過に関しては、物理的再生ステップでは、ポリエステル材料中の粒径が大きい固形不純物のみを濾過して再利用し、化学的再生ステップでは、ポリエステル材料中の粒径が小さい固形不純物を濾過して再利用してもよい。これらにより、ヒートシール性ポリエステルフィルムの製造品質を効果的に向上させることができる。
【0069】
さらに、化学的再生ステップによって製造された化学的再生ポリエステルチップは、一般に、より低い流動特性を有する。さらに、化学的再生ポリエステルチップの流動特性は制御が容易であり、物理的再生ポリエステルチップの流動特性よりも小さくなるように調整されてもよい。
【0070】
ステップS3は、所定の流動特性に従って、改質ポリエステルマスターバッチ、物理的再生ポリエステルチップ、及び化学的再生ポリエステルチップの間の混合比を調整すること、及びマスターバッチ材料混合物を形成するために混合処理を実行することを含む。
【0071】
改質ポリエステルマスターバッチ、物理的再生ポリエステルチップ、及び化学的再生ポリエステルチップと混合されたマスターバッチ材料混合物は、フィルム作成処理に適した固有粘度(例えば、0.50dL/g以上0.75dL/g以下の固有粘度)を有してもよい。
【0072】
リサイクルポリエステル材料の再生処理から得られた改質ポリエステルマスターバッチは、さらに、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、及びポリブチレンテレフタレートの少なくとも1つから選択された改質剤を含む。
【0073】
マスターバッチ材料混合物は、ヒートシール層2を形成するために使用されてもよい。改質ポリエステルマスターバッチは、物理的再生方法又は化学的再生方法によって、リサイクルポリエステル材料から調製されてもよい。
【0074】
改質ポリエステルマスターバッチは、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチ及び物理的再生改質ポリエステルマスターバッチの少なくとも一方から構成される。改質ポリエステルマスターバッチの主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートであり、さらに、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール及びポリブチレンテレフタレートのうちの少なくとも1つを含む。したがって、改質ポリエステルマスターバッチの添加により、ヒートシール層2を形成するポリエステル組成物は、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、及びポリブチレンテレフタレートの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0075】
具体的には、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチの調製ステップは、リサイクルポリエステル材料を溶融して第1の溶融混合物を得ることと、第2の溶融混合物を形成するためポリブチレンテレフタレートを第1の溶融混合物に添加することと、第2の溶融混合物を再成形して物理的再生改質ポリエステルマスターバッチを得ることとを含む。
【0076】
物理的再生改質ポリエステルマスターバッチの主成分は再生ポリエチレンテレフタレートであり、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチはさらにポリブチレンテレフタレートを含む。特に、物理的再生改質ポリエステルマスターバッチは、0wt%以上30wt%のポリブチレンテレフタレートを含む。
【0077】
具体的には、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチの調製ステップは、リサイクルポリエステル材料を解重合して第1のオリゴマー混合物を得ることと、第2のオリゴマー混合物を形成するために、第1のオリゴマー混合物に1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、及びネオペンチルグリコールのうちの少なくとも1つを加えることと、第2のオリゴマー混合物を再重合して化学的再生改質ポリエステルマスターバッチを得ることを含む。
【0078】
化学的再生改質ポリエステルマスターバッチの主成分は、再生ポリエチレンテレフタレートであり、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチは、1,4-ブタンジオール、イソフタル酸、及びネオペンチルグリコールの少なくとも1つの残基をさらに含む。特に、化学的再生改質ポリエステルマスターバッチは、0重量%以上30重量%の1,4-ブタンジオールの残基、0重量%以上30重量%のイソフタル酸の残基、及び0重量%以上30重量%のネオペンチルグリコールの残基を含む。
【0079】
本明細書で使用される用語「残基」は、化学反応の結果から特定の化合物に由来する基又は単位を指す。即ち、「二酸成分の残基」とは、エステル化反応又は重縮合反応により合成されたポリエステル又はコポリエステル中の二酸成分に由来する基をいい、「ジオール成分の残基」とは、エステル化反応又は重縮合反応により合成されたポリエステル又はコポリエステル中のジオール成分に由来する基をいう。
【0080】
ステップS4は、マスターバッチ材料混合物を用いて、ヒートシール層2を形成することを含む。
【0081】
ステップS5は、ヒートシール層2上にベース層1を配置して、積層構造を有するヒートシール性ポリエステルフィルムZを得ることを含む。特に、ヒートシール性ポリエステルフィルムZのヒートシール温度は、100℃以上230℃以下である。
【0082】
マスターバッチ材料混合物は、例えば、溶融押出によってヒートシール層2に形成されてもよい。また、ベース層1及びヒートシール層2は、例えば共押出によってヒートシール性ポリエステルフィルムZに形成されてもよい。さらに、所定の固有粘度は、好ましくは0.50dL/g以上0.75dL/g以下、より好ましくは0.60dL/g以上0.65dL/g以下である。
【0083】
ステップS3では、ステップS1で調製した物理的再生ポリエステルチップとステップS2で調製した化学的再生ポリエステルチップとを混合して基材を形成する。この基材を用いてベース層1を形成してもよい。このようにして得られた本実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムZは、再生ポリエステルの割合が高い。他の実施形態では、ベース層1は、他の商業的に入手可能なポリエステル材料であってもよい。
【0084】
ステップS4では、ステップS3で調製されたマスターバッチ材料混合物と、ステップS3で調製された基材とを共押出によって押し出して、ヒートシール性ポリエステルフィルムZを形成する。
【0085】
ヒートシール性ポリエステルフィルムZは、マスターバッチ材料混合物によって形成されたヒートシール層2と、基材によって形成されたベース層1とを含む。他の実施形態では、ヒートシール性ポリエステルフィルムZの調製方法は、共押出の手段に限定されず、ベース層1とヒートシール層2とをまず別々に形成し、その後、ベース層1上にヒートシール層2を配置することもできる。
【0086】
本実施形態では、リサイクルポリエステル材料の原料はリサイクルPETボトルフレークである。PETボトルフレークの主な材料はポリエステルである。一般的に、ポリエステルは、ジオール単位と二酸単位の重縮合によって形成されている。リサイクルPETボトルフレークでは、ジオール単位に、石油化学原料のエチレングリコールやバイオマス原料のエチレングリコールを含んでいる可能性がある。したがって、ベース層1とヒートシール層2を形成するポリエステル組成物は、ポリエステル組成物の総重量100wt%を基準として、5wt%以下のバイオマス由来の材料を含む。
【0087】
上記の構成によれば、本実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムの製造方法は、バージンポリエステル樹脂を添加せずに高比率のリサイクルポリエステル材料を用いて行ってもよいし、少量のバージンポリエステル樹脂を添加するだけでもよい。例えば、本開示の一実施形態では、バージンポリエステル樹脂の量は、通常50重量部以下であり、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。
【0088】
本開示の一実施形態では、物理的再生ポリエステルチップは、第1の酸価を有し、化学的再生ポリエステルチップは、第1の酸価よりも大きい第2の酸価を有する。特に、第1の酸価は10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下、第2の酸価は20mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、酸価範囲の測定方法としては、ASTMD7409-15標準試験法を用いて実施する滴定法を用いる。
【0089】
本開示の一実施形態のヒートシール性ポリエステルフィルムの製造方法の特徴は、物理的再生ポリエステルチップの使用と化学的再生ポリエステルチップを同時に使用することで、フィルム製造プロセスの生産性を向上させ、ヒートシール性ポリエステルフィルムの物理的特性を改善することができる。フィルムの生産性を向上させ、ヒートシール性ポリエステルフィルムの製造コストを低減させることができる。
【0090】
本開示の一実施形態では、ヒートシール性ポリエステルフィルムの総重量100mol%を基準として、ヒートシール性ポリエステルフィルム中のイソフタル酸の含有量が0.5mol%以上40mol%以下である。また、150±2℃、10Hzで測定したヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率は、3.5×109dyne/cm2以上6.5×109dyne/cm2以下である。ヒートシール性ポリエステルフィルムの貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置で測定したMD方向とTD方向の平均値である。
【0091】
<第2実施形態>
【0092】
図2に示すように、本開示の第2実施形態は、ヒートシール性ポリエステルフィルムZ’を提供する。ヒートシール性ポリエステルフィルムZ’は、ベース層1と、2つのヒートシール層2及び3とを含み、2つのヒートシール層2及び3は、2つのベース層1の対向する2つの表面にそれぞれ形成されている。
【0093】
本実施形態のベース層1及び2つのヒートシール層2、3の材料は、第1実施形態のそれと実質的に同じであり、本明細書では繰り返さない。
【0094】
<第3実施形態>
【0095】
図3に示すように、本開示の第3実施形態は、ヒートシール性ポリエステルフィルムZ’’を提供する。ヒートシール性ポリエステルフィルムZ’’は、ベース層1と、2つのヒートシール層2及び3と、易接着層4とを含む。ヒートシール層2及び3は、それぞれベース層1の対向する2つの表面にそれぞれ形成されており、易接着層4はヒートシール層2におけるベース層1と反対側の表面に形成されている。
【0096】
第3実施形態におけるベース層1及びヒートシール層2及び3の材料は、第1実施形態のものと実質的に同じであり、ここでは繰り返さない。本明細書では繰り返さない。
【0097】
易接着層4は、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂、及び硬化剤のうちの少なくとも1つによって形成されているので、インクの接着が容易であり、表面の再加工性が良好であるという効果を奏することができる。
【0098】
<実施形態の利点>
【0099】
本開示の有益な効果の1つは、本開示が提供するヒートシール性ポリエステルフィルム及びその製造方法において、「物理的再生ポリエステルチップは第1の固有粘度を有する」及び「化学的再生ポリエステルチップは第1の固有粘度よりも小さい第2の流動特性を有する」という技術的解決策を用いて、「物理的再生ポリエステル樹脂と、化学的再生ポリエステル樹脂と、改質剤とを、所定の固有粘度に従って混合し、ヒートシール層が所定の固有粘度を有するようにする」、「化学的再生ポリエステルチップは、第1固有粘度よりも小さい第2固有粘度を有する」、及び「物理的再生ポリエステル樹脂、化学的再生ポリエステル樹脂、および改質剤を所定の固有粘度に応じて混合し、ヒートシール層が所定の固有粘度を有するようにする」ことによって、再生ポリエステルマスターバッチ材料の割合が高くなるように、押出成形や製膜工程に適した所定の固有粘度を有するように調整できることである。
【0100】
以上に開示した内容は、本開示の好ましい実施形態及び実現可能な実施形態に過ぎず、本開示の特許請求の範囲を限定するものではない。したがって、本開示の明細書及び図の内容を用いてなされた同等の技術的変更は、すべて本開示の特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
ヒートシール性ポリエステルフィルムは、ヒートシール性ポリエステルフィルムの分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
Z、Z’、Z’’:ヒートシール性ポリエステルフィルム
1:ベース層
2、3:ヒートシール層
4:易接着層
【外国語明細書】