(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117439
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】インビトロパッケージングを用いた多断片DNAの連結および細胞内導入方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20220803BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220803BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220803BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20220803BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/09 Z
C12N1/20 A
C12N9/16 Z
C12N7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208460
(22)【出願日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2021012661
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 晋五
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050DD02
4B050LL01
4B050LL03
4B050LL05
4B065AA26X
4B065AA98X
(57)【要約】
【課題】効率よく迅速に複数のDNA断片を試験管内で連結して長鎖DNAを調製し、細胞内に導入することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シームレスアセンブリーによって連結した長鎖DNAを、ファージのインビトロパッケージングを利用して細胞内に導入する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結して、ウイルス粒子にインビトロパッケージングする方法であって、以下:
(1)2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片をシームレスアセンブリーによって連結して、1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成する工程;
(2)工程(1)において形成した直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結して、1つまたは複数のDNA構築物単位を形成する工程;
(3A)該DNA構築物単位が1つである場合は、これをそのまま1つのDNA構築物として得る工程;
(3B)該DNA構築物単位が複数である場合は、これらをシームレスアセンブリーによって連結して1つのDNA構築物を得る工程;および
(4)工程(3A)または工程(3B)において得たDNA構築物をウイルス粒子にインビトロパッケージングする工程
を含む、方法。
【請求項2】
該DNA構築物が、両端にウイルスパッケージング開始部位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)および工程(2)を同時に行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)および工程(2)において制限酵素およびDNAリガーゼを用いない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、連結に際して隣接する領域において、それぞれの末端に相同な塩基配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記相同な塩基配列の長さが、10塩基対以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記直鎖状二本鎖DNA断片、前記直鎖状二本鎖連結DNA、および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、それぞれの両端部分に一本鎖突出端領域を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一本鎖突出端領域が、二本鎖特異的エキソヌクレアーゼによって形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、宿主のゲノムDNAと相同な塩基配列をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記連結DNAの長さが38kb以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を含む、前記DNA構築物の細胞内導入方法。
【請求項12】
細胞内に導入したDNA構築物が環状化される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(2)において複数のDNA構築物単位を形成する、請求項12に記載の細胞内導入方法。
【請求項14】
細胞としてrecA+大腸菌を用いる、請求項13に記載の細胞内導入方法。
【請求項15】
細胞としてΔrecA大腸菌を用いる、請求項13に記載の細胞内導入方法。
【請求項16】
請求項14に記載の細胞内導入方法によってDNA構築物が導入された細胞から、単量体のDNA構築物単位を回収する工程を含む、DNA構築物単位の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の細胞内導入方法によってDNA構築物が導入された細胞から、複数のDNA構築物単位が連結された多量体DNA構築物を回収する工程を含む、多量体DNA構築物の製造方法。
【請求項18】
2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングによるクローニングを行うためのキットであって、
直鎖状二本鎖ファージベクターDNA;
一本鎖突出端生成酵素;
インビトロパッケージング反応溶液;および
大腸菌
を含む、前記キット。
【請求項19】
前記一本鎖突出端生成酵素が、3’→5’エキソヌクレアーゼ、5’→3’エキソヌクレアーゼ、および制限酵素からなる群より選択される、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
1組以上のプライマーセットをさらに含む、請求項18または19に記載のキットであって、ここで該プライマーセットは、前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ファージベクターDNAのそれぞれの末端に、連結に際して隣接する領域において相同な塩基配列を付加するための塩基配列を有するものである、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の直鎖状二本鎖DNAの連結および細胞内導入方法に関する。より詳細には、シームレスアセンブリーとインビトロパッケージングを組み合わせて、2以上の直鎖状二本鎖DNAを連結し、細胞内に導入することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
10kb程度のDNA断片を複数連結させて長鎖DNAを得る方法としては、現在、酵母の細胞内連結システムを用いる方法が主流であり(特許文献1)、近年では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の約30kbのゲノムの合成にも、この酵母の細胞内連結システムが用いられている(非特許文献1)。しかし、酵母は生育が比較的遅いという問題が存在する。
【0003】
酵母に比べて生育の早い大腸菌を用いてDNAをクローニングする方法としては、目的のDNAを環状のプラスミドDNAに組み込む方法が一般的である。酵母に比べて大腸菌は生育が非常に速く、大量のプラスミドを迅速かつ簡便に調製することが可能なためである。しかし、複数のDNA断片を連結させて、長鎖で環状のプラスミドを作製しようとした場合、反応混合物におけるDNA断片の濃度が高すぎると、末端同士の結合頻度が低下し、コンカテマーを形成してしまうという問題がある。だからといって、反応混合物におけるDNA断片の濃度を低下させると、そもそもの連結の効率が低下するというジレンマが存在する。
【0004】
大腸菌を用いた長鎖DNAのクローニング技術としては、バクテリオファージ(以後、単にファージという)のインビトロパッケージング技術がある(非特許文献2)。インビトロパッケージング技術により、20-40kb程度の長さのDNAのクローニングが可能になった。現在使用されているインビトロパッケージング方法では、制限酵素等によってDNAを切断した後に、DNAリガーゼを用いたライゲーション反応によって連結されたDNAを使う必要がある(非特許文献3、4)。制限酵素によって露出させた一本鎖DNAは4塩基程度と短いため、複数のDNA断片を同時に連結する目的のためには不向きである。したがって、インビトロパッケージング技術はこれまで、すでに存在する長いDNA、たとえばcDNAやゲノムDNAを用いたライブラリー構築のために用いられてきた。また、DNAリガーゼを用いるライゲーション反応は、一晩程度の長い時間を必要とするという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thao et al., Nature 582, 2020, 561-565
【非特許文献2】Hohn et al., Journal of Supramolecular Structure 2, 1974, 302-317
【非特許文献3】Gigapack III Gold Packaging Extract, Gigapack III Plus Packaging Extract, and Gigapack III XL Packaging Extract INSTRUCTION MANUAL、アジレント・テクノロジー株式会社(https://www.chem-agilent.com/pdf/strata/200201.pdf)
【非特許文献4】Manual MaxPlax Lambda Packaging Extracts, BIOSEARCH TECHNOLOGIES(https://www.lucigen.com/docs/manuals/MA065E-MaxPlax-Packing-Extracts.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率よく迅速に複数のDNA断片を試験管内で連結して長鎖DNAを調製し、細胞内に導入することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シームレスアセンブリーによって連結した長鎖DNAを、ファージのインビトロパッケージングを利用して細胞内に導入することができることを見出した。
【0009】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の態様の発明を包含する。
[1]
2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結して、ウイルス粒子にインビトロパッケージングする方法であって、以下:
(1)2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片をシームレスアセンブリーによって連結して、1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成する工程;
(2)工程(1)において形成した直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結して、1つまたは複数のDNA構築物単位を形成する工程;
(3A)該DNA構築物単位が1つである場合は、これをそのまま1つのDNA構築物として得る工程;
(3B)該DNA構築物単位が複数である場合は、これらをシームレスアセンブリーによって連結して1つのDNA構築物を得る工程;および
(4)工程(3A)または工程(3B)において得たDNA構築物をウイルス粒子にインビトロパッケージングする工程
を含む、方法。
[2]
該DNA構築物が、両端にウイルスパッケージング開始部位を含む、[1]に記載の方法。
[3]
工程(1)、工程(2)、および工程(3A)または工程(3B)を同時に行う、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
工程(1)、工程(2)、および工程(3A)または工程(3B)において制限酵素およびDNAリガーゼを用いない、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、連結に際して隣接する領域において、それぞれの末端に相同な塩基配列を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記相同な塩基配列の長さが、10塩基対以上である、[5]に記載の方法。
[7]
前記直鎖状二本鎖DNA断片、前記直鎖状二本鎖連結DNA、および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、それぞれの両端部分に一本鎖突出端領域を有する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記一本鎖突出端領域が、二本鎖特異的エキソヌクレアーゼによって形成される、[7]に記載の方法。
[9]
前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、宿主のゲノムDNAと相同な塩基配列をさらに含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]
前記連結DNAの長さが38kb以上である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]
[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法を含む、前記DNA構築物の細胞内導入方法。
[12]
細胞内に導入されたDNA構築物が環状化される、[11]に記載の細胞内導入方法。
[13]
前記工程(2)において複数のDNA構築物単位を形成する、[12]に記載の細胞内導入方法。
[14]
細胞としてrecA+大腸菌を用いる、[13]に記載の細胞内導入方法。
[15]
細胞としてΔrecA大腸菌を用いる、[13]に記載の細胞内導入法。
[16]
[14]に記載の細胞内導入方法によってDNA構築物が導入された細胞から、単量体のDNA構築物単位を回収する工程を含む、DNA構築物単位の製造方法。
[17]
[15]に記載の細胞内導入方法によってDNA構築物が導入された細胞から、複数のDNA構築物単位が連結された多量体DNA構築物を回収する工程を含む、多量体DNA構築物の製造方法。
[18]
2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングによるクローニングを行うためのキットであって、
直鎖状二本鎖ファージベクターDNA;
一本鎖突出端生成酵素;
インビトロパッケージング反応溶液;および
大腸菌
を含む、前記キット。
[19]
前記一本鎖突出端生成酵素が、3’→5’エキソヌクレアーゼ、5’→3’エキソヌクレアーゼ、および制限酵素からなる群より選択される、[18]に記載のキット。
[20]
1組以上のプライマーセットをさらに含む、[18]または[19]に記載のキットであって、ここで該プライマーセットは、前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ファージベクターDNAのそれぞれの末端に、連結に際して隣接する領域において相同な塩基配列を付加するための塩基配列を有するものである、前記キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、効率よく迅速に複数のDNA断片を試験管内で連結して長鎖DNAを調製し、ベクターDNAと連結して形成したDNA構築物として、外来DNAを細胞内に導入することが可能となる。本発明はインビトロパッケージングを用いることにより、DNA構築物を最初から環状化した状態で形成する必要がなく、直鎖状のコンカテマーとして形成することができるため、高濃度のDNA断片やベクターDNAを用いて効率的な反応を行うことができる。ベクターDNAとしてコスミドベクターDNAやフォスミドベクターDNA等を用いれば、形成したDNA構築物を細胞内に導入した後に環状化させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、λファージゲノムDNA等を鋳型として作製した直鎖状二本鎖DNA断片のPCR結果を示す。
【
図2】
図2は、直鎖状二本鎖DNA断片La1, La2, La3, La4, La5を用いて、アセンブリーを行っていないものと行ったものについてインビトロパッケージングを行い、大腸菌へと導入した結果を示す。
【
図3】
図3は、その他の直鎖状二本鎖DNA断片の組み合わせによるプラーク形成結果を示す。
【
図4】
図4は、変異λファージのPCRによる確認結果を示す。
【
図5】
図5は、mCherryを指標とした外来遺伝子の発現結果を示す。
【
図6】
図6は、本発明の方法を用いたプラスミドの構築結果を示す。
【
図7】
図7は、本発明の方法を用いた48kbのプラスミドの設計(左)とPCR断片の確認結果(右)を示す。
【
図8】
図8は、本発明の方法を用いた48kbのプラスミドの構築において得られたコロニー(左)、ミニプレップしたプラスミドの確認結果(右上)、Nde Iによるプラスミドの構造確認結果(右下)を示す。
【
図9】
図9は、本発明の方法を用いた単量体プラスミドおよび多量体プラスミドの構築結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングする方法>
本発明は、2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングする方法に関する。
【0013】
本発明の方法は、
(1)2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片をシームレスアセンブリーによって連結して、1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成する工程;
(2)工程(1)において形成した直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結して、1つまたは複数のDNA構築物単位を形成する工程;
(3A)該DNA構築物単位が1つである場合は、これをそのまま1つのDNA構築物として得る工程;
(3B)該DNA構築物単位が複数である場合は、これらをシームレスアセンブリーによって連結して1つのDNA構築物を得る工程;および
(4)工程(3A)または工程(3B)において得たDNA構築物をウイルス粒子にインビトロパッケージングする工程
を含む。
【0014】
<(1)2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片をシームレスアセンブリーによって連結して、1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成する工程>
本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖DNA断片は、どのような長さのものであってもよく、100塩基対(bp)以上、200bp以上、300bp以上、400bp以上、500bp以上、600bp以上、700bp以上、800bp以上、900bp以上、1kb以上、2kb以上、3kb以上、4kb以上、5kb以上、6kb以上、7kb以上、8kb以上、9kb以上、10kb以上、20kb以上、30kb以上、40kb以上、または50kb以上のものとすることができる。本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖DNA断片の長さに上限はないが、たとえば100kb以下、50kb以下、40kb以下、30kb以下、または20kb以下のものとすることができる。本発明の方法で用いる2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片は、後述するシームレスアセンブリーを行うことができる構造を有すれば、どのような塩基配列のものであってもよい。
【0015】
本発明の方法において1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成する手段としては、シームレスアセンブリーを用いる。シームレスアセンブリーは、DNA断片に内在する制限酵素認識配列に依存することなく、DNA断片を連結する手段をいう。代表的なシームレスアセンブリーには、ゴールデンゲート(Golden Gate)法(Engler et al., PLoS ONE 4, e25553等)等のType IIS制限酵素を使用する方法、ギブソン・アセンブリー法(Gibson et al., 2009, Nature Methods 6, 343、特許第6165789号公報等)、In fusion法(米国特許第7,575,860号公報等)等があるが、これらに限られない。本発明の方法では、制限酵素および/またはDNAリガーゼを用いないシームレスアセンブリーを好適に使用することができる。
【0016】
本発明の方法で用いる2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片は、連結に際して隣接する領域において、それぞれの末端に相同な塩基配列(以後、相同領域と呼ぶことがある)を含むものであることが好ましい。また、工程(1)において直鎖状二本鎖DNA断片を連結して形成した直鎖状二本鎖連結DNAは、後述する直鎖状二本鎖ベクターDNAとの連結に際して隣接する領域において、その末端に相同な塩基配列を含む。ここで「塩基配列が相同である」とは「塩基配列が同一である」ことを意味する。相同領域に制限酵素または3’→5’エキソヌクレアーゼもしくは5’→3’エキソヌクレアーゼ等の二本鎖特異的エキソヌクレアーゼ等の酵素を作用させることにより、一本鎖突出端領域を露出させることができる。上記の酵素は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出および精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。酵素反応条件は当業者が適宜設定することができる。互いに相補的な一本鎖突出端領域をアニーリングさせることにより、2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を、塩基配列が相同である領域同士で互いに連結して、1つの直鎖状二本鎖連結DNAを形成することができる。制限酵素またはエキソヌクレアーゼによる一本鎖突出端領域の露出と、露出した一本鎖突出端領域のアニーリングは、別の反応混合物中で行ってもよいし、同一の反応混合物中で同時に行うこともできる。アニーリング反応混合物は、任意選択で、DNAリガーゼやリコンビナーゼ等のアニーリング反応を補助する追加の成分を含んでもよいし、含まないものであってもよい。
【0017】
相同領域の塩基配列は、連結させるすべての直鎖状二本鎖DNA断片において同一の塩基配列としてもよいし、DNA断片ごとにそれぞれ異なる塩基配列としてもよい。DNA断片ごとに異なる塩基配列の相同領域を有するものとすることで、DNA断片を所望の順番に従って連結させることができる。たとえば、DNA断片A、DNA断片B、DNA断片Cを、5’末端からA→B→Cの順番で連結させる場合、DNA断片Aの3’末端およびDNA断片Bの5’末端にそれぞれ相同領域aを設け、DNA断片Bの3’末端およびDNA断片Cの5’末端にそれぞれ相同領域bを設ければ、DNA断片AとDNA断片Bとが相同領域aで連結し、DNA断片BとDNA断片Cとが相同領域bで連結した1つの直鎖状二本鎖連結DNA「ABC」を形成することができる。
【0018】
相同領域は、DNA断片の塩基配列に応じて適宜設計したプライマーを用いたPCRによって、DNA断片に付加することができる。
相同領域の長さは、アニーリング反応混合物中で一本鎖同士が特異的にハイブリダイズすることができる長さであればよく、当業者はそれを適宜決定することができる。制限酵素処理によって相同領域における一本鎖DNA露出反応を行う場合、相同領域の長さは、少なくとも制限酵素認識配列を含む長さであればよい。エキソヌクレアーゼ処理によって相同領域における一本鎖DNA露出反応を行い、DNAリガーゼ等のアニーリング反応を補助する追加の成分を用いずにアニーリング反応を行う場合、相同領域の長さは、10塩基対(bp)以上であることが好ましく、15bp以上であることがより好ましく、20bp以上であることがさらに好ましい。また、相同領域の最大長は500bpであることが好ましく、300bpであることがより好ましく、200bpであることがさらに好ましい。同様に、相同領域の融解温度(Tm)を決定するためのGC含量等も、当業者は適宜決定することができる。
【0019】
このようにして形成した直鎖状二本鎖連結DNAの長さは、10kb以上、20kb以上、30kb以上、38kb以上、40kb以上、45kb以上、50kb以上、または100kb以上とすることができる。
【0020】
<(2)工程(1)において形成した直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結して、1つまたは複数のDNA構築物単位を形成する工程>
本発明の、2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングする方法は、前記工程(1)において形成した直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結して、1つまたは複数のDNA構築物単位を形成する工程(2)を含む。工程(1)および工程(2)は同一反応混合物中で同時に行うこともできる。
【0021】
本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖ベクターDNAは、シームレスアセンブリーを行うことができる構造を有すれば、どのようなものであってもよい。本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖ベクターDNAは、直鎖状二本鎖連結DNAとの連結によって形成された1つのDNA構築物がその両端にウイルスパッケージング開始部位を含むものとなる構造を有するものであってよく、そのような直鎖状二本鎖ベクターDNAの例としては、たとえば、cos配列を含むベクターDNAやpac配列を含むベクターDNAが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖ベクターDNAは、直鎖状二本鎖連結DNAとの連結によって形成された1つのDNA構築物がその両端にウイルスパッケージング開始部位を含まないものであってもよく、そのような直鎖状二本鎖ベクターDNAの例としては、たとえばT4ファージのパッケージングシステム等で用いられるようなバクテリア人工染色体(BAC)DNAのような長鎖DNAを保持可能なベクターDNAが挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖ベクターDNAの例としては、λファージ染色体DNA、P22ファージ染色体DNA、P1ファージ染色体DNA、T4ファージ染色体DNA、T7ファージ染色体DNA、コスミドベクターDNA、フォスミドベクターDNA、P1ファージ由来人工染色体(PAC)DNA、およびバクテリア人工染色体(BAC)DNA、またはこれらの変異体を挙げることができる。変異体とは、オリジナルのウイルスが有するパッケージング機能および感染機能が保存されるように、オリジナルのウイルスゲノムの塩基配列において1または数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入または付加された塩基配列を有するDNAをいう。好ましくは、変異体は、オリジナルのウイルスゲノムの塩基配列と、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の配列同一性を有するDNAである。オリジナルのウイルスが有するパッケージング機能および感染機能が保存されていれば、変異体は、種々の所望の形質(薬剤遺伝子等のマーカー遺伝子やレポーター遺伝子等)が導入されたものであってよい。本発明の方法で用いる直鎖状二本鎖ベクターDNAは、ベクターウイルスの宿主のゲノムDNAと相同な塩基配列をさらに含むものであってよい。直鎖状二本鎖ベクターDNAが、宿主のゲノムDNAと相同な塩基配列を含むものを用いることにより、本発明の方法を、ベクターウイルス宿主のゲノム編集にも応用することができる。
【0022】
工程(2)において、前記直鎖状二本鎖連結DNAを直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結する手段としては、上述したシームレスアセンブリーを用いる。ここで、前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAが、連結に際して隣接する領域において、それぞれの末端に相同な塩基配列を含むものである場合、工程(1)と工程(2)のシームレスアセンブリーを同時に行うことが可能となる。前記直鎖状二本鎖連結DNAは、2つの直鎖状二本鎖ベクターDNAの間に連結されてもよいし、1つの直鎖状二本鎖ベクターDNAの5’末端または3’末端に連結されてもよい。
【0023】
工程(2)において形成される1つまたは複数のDNA構築物単位は、その両端にウイルスパッケージング開始部位を含むものであってよい。ウイルスパッケージング開始部位は、2つともあらかじめ直鎖状二本鎖ベクターDNAに存在していてもよいし、1つは直鎖状二本鎖ベクターDNAに存在し1つは直鎖状二本鎖連結DNAに存在していてもよい。ウイルスパッケージング開始部位とは、ウイルスDNAがウイルス粒子に取り込まれる際に認識されるための塩基配列をいい、たとえばcos型バクテリオファージのcos部位、pac型バクテリオファージのpac部位等が挙げられ、それらの塩基配列および機能は当業者が熟知している。
【0024】
DNA構築物単位の長さに制限はないが、5kb~50kb、10kb~40kb、または10kb~30kbとすることができる。
【0025】
<(3A)DNA構築物単位が1つである場合は、これをそのまま1つのDNA構築物として得る工程>
工程(2)で形成したDNA構築物単位が1つである場合は、これをそのまま1つのDNA構築物として得て、後述する工程(4)で使用することができる。この1つのDNA構築物は、その両端に上記ウイルスパッケージング開始部位を含むものであってよい。
【0026】
<(3B)DNA構築物単位が複数である場合は、これらをシームレスアセンブリーによって連結して1つのDNA構築物を得る工程>
工程(2)で形成したDNA構築物単位が複数である場合は、これらをシームレスアセンブリーによって連結して1つのDNA構築物を得る。複数のDNA構築物単位を連結して得た1つのDNA構築物は、同じ種類のDNA構築物単位を複数連結した同種多量体であってもよく、異なる種類のDNA構築物単位を複数連結した異種多量体であってもよい。この1つのDNA構築物は、その両端に上記ウイルスパッケージング開始部位を含むものであってよい。
【0027】
工程(1)、工程(2)、および工程(3A)または工程(3B)は同時に行うことができる。
工程(1)、工程(2)、および工程(3A)または工程(3B)は制限酵素およびDNAリガーゼを用いないで行うことができる。
【0028】
<(4)工程(3A)または工程(3B)において得たDNA構築物をウイルス粒子にインビトロパッケージングする工程>
本発明の方法は、上記工程(2)において形成したDNA構築物をウイルス粒子にインビトロパッケージングする工程(3)を含む。
【0029】
インビトロパッケージングとは、試験管内で、ウイルスDNAをウイルス粒子内に詰め込むことをいう。具体的には、上記DNA構築物を、ウイルスの外殻タンパク質およびターミナーゼ等の必要な酵素等と混合して、DNA構築物をウイルスの外殻タンパク質内に詰め込み、ウイルス粒子を形成する。たとえばλ系ファージやT系ファージ、P系ファージ、アデノウイルス等の種々のウイルスベクターについて確立されているインビトロパッケージング技術を、適宜本発明において使用してもよい。
【0030】
<DNA構築物の細胞内導入方法>
本発明は、上記2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結して、ウイルス粒子にインビトロパッケージングする方法を含む、DNA構築物の細胞内導入方法にも関する。
【0031】
上述したようにDNA構築物をインビトロパッケージングさせたウイルス粒子を、ウイルスの宿主細胞に感染させることにより、DNA構築物を細胞内に導入することができる。たとえばインビトロパッケージング反応を行った溶液をそのまま、宿主細胞の懸濁液に混合して培養することで、ウイルス粒子を宿主細胞に感染させて、DNA構築物を細胞内に導入することができる。DNA構築物中にマーカー遺伝子を導入しておけば、目的のDNA構築物が細胞内に導入されたかどうかを確認することができる。
【0032】
DNA構築物は、直鎖状二本鎖DNAの形態のまま、宿主細胞内において複製、溶原化、粒子形成等の機能を発現させてもよい。また、DNA構築物は、宿主細胞内に導入した後に環状化させてもよい。たとえばλファージDNAを直鎖状二本鎖ベクターDNAとして使用してDNA構築物を形成すれば、宿主細胞内に導入した後に環状化することができる。また、コスミドベクターDNAやPAC DNA等を直鎖状二本鎖ベクターDNAとして使用してDNA構築物を形成すれば、大腸菌等の宿主細胞内に導入した後に環状化させて、プラスミドの形態として複製することができる。
【0033】
従来技術において、たとえばλファージを用いたインビトロパッケージングでは、クローニング可能なDNAの長さは概ね38~52kb程度と比較的限定されていた。しかし、本発明によれば、直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結したDNA構築物単位を複数連結して得た1つのDNA構築物を、RecAのような相同組換えタンパク質を発現する細胞(たとえばrecA+大腸菌)内に導入することにより、連結前の長さを有するDNA構築物単位を細胞から回収することができる。つまり、従来技術においてクローニング可能とされてきたDNAよりも短い、38kb未満または10kb~30kbのDNAのクローニングが本発明によって可能となる。本発明によれば、25kb以下、20kb以下、または10kb以下のDNAのクローニングも可能となる。
【0034】
また、従来のクローニング技術では、二量体以上の多量体プラスミドは、副産物として得られることはあっても、それらだけを狙って作製することは非常に困難だった。しかし、本発明によれば、直鎖状二本鎖連結DNAをシームレスアセンブリーによって直鎖状二本鎖ベクターDNAと連結したDNA構築物単位を複数連結して得た1つのDNA構築物を、RecAのような相同組換えタンパク質を欠損した細胞(たとえばΔrecA大腸菌)内に導入することにより、目的の数だけDNA構築物単位が連結した多量体プラスミドを細胞から回収することができる。このようにして得られた多量体プラスミドを細胞に導入することで、複数の単量体プラスミドを1つの細胞に導入する方法と比べてより安定的かつ効率的に、多コピーの遺伝子や多種類の遺伝子を1つの細胞で発現させることができる。
【0035】
<2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングによるクローニングを行うためのキット>
本発明は、2つ以上の直鎖状二本鎖DNA断片を連結してインビトロパッケージングによるクローニングを行うためのキットにも関する。
【0036】
本発明のキットは、
直鎖状二本鎖ベクターDNA;
一本鎖突出端生成酵素;
インビトロパッケージング反応溶液;および
宿主細胞
を含む。
【0037】
本発明のキットは、
直鎖状二本鎖ファージベクターDNA;
一本鎖突出端生成酵素;
インビトロパッケージング反応溶液;および
大腸菌
を含むものであってもよい。
【0038】
本発明のキットに含まれる直鎖状二本鎖ベクターDNAは、上記のとおりの構造を有する。
本発明のキットに含まれる一本鎖突出端生成酵素としては、3’→5’エキソヌクレアーゼ、5’→3’エキソヌクレアーゼ等の二本鎖特異的エキソヌクレアーゼ、および制限酵素等の酵素を好適に使用することができる。
【0039】
本発明のキットは、制限酵素および/またはDNAリガーゼを含まないものであってよい。
本発明のインビトロパッケージング反応溶液は、直鎖状二本鎖ベクターDNAに応じたウイルスの外殻タンパク質および必要な酵素を含む。
【0040】
本発明のキットは、1組以上のプライマーセットをさらに含むものであってよい。この1組以上のプライマーセットは、前記直鎖状二本鎖DNA断片および前記直鎖状二本鎖ベクターDNAのそれぞれの末端に、連結に際して隣接する領域において相同な塩基配列を付加するための塩基配列を有する。
【0041】
本発明のキットは、目的に応じて、反応バッファーの濃縮物あるいは反応バッファー等の追加の構成品を含むものであってよい。
本発明のキットは、10kb~30kbの長さを有するDNA構築物単位をクローニングするためのキットとすることもできる。その場合、キットに含まれる大腸菌は、recA+大腸菌とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明のキットは、複数のDNA構築物単位が連結されたDNA構築物をクローニングするためのキットとすることもできる。その場合、キットに含まれる大腸菌は、ΔrecA大腸菌とすることが好ましい。
【実施例0043】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
【0044】
<1.直鎖状二本鎖DNA断片の作成>
λファージ(λcI857)のゲノムDNA等を鋳型としてPCRを行い、種々の直鎖状二本鎖DNA断片を作製した。
PCRはKOD One(TOYOBO)を用いて行った。プライマーとして使用したオリゴDNAの配列を表1に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
また、PCR産物である直鎖状二本鎖DNA断片の長さ及び用いたプライマーのセット、鋳型DNAについて表2に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
PCR産物はアセンブリーの際に隣り合うDNAと50 bpのオーバーラップを持つように作製した。PCR後のDNA断片はNucleoSpin Gel and PCR Clean-upキット(タカラバイオ)を用いて精製した。PCR産物について、0.7%アガロースゲル電気泳動を行った結果を
図1に示す。
【0052】
これらのPCR断片は5~7つを組み合わせることでλファージのゲノムを構築できる。直鎖状二本鎖DNA断片の組み合わせを表3に示す。
【0053】
【0054】
controlλはλcI857のゲノムが、それ以外の組み合わせでは変異の入ったλファージゲノムが構築された。導入された変異は下記の通りである。
λΔ177: cos配列上流の1877 bpが欠失
λΔea47: ea47遺伝子領域の1690 bpが欠失
λΔea31-59: ea31, ea59遺伝子領域の2938 bpが欠失
λΔea22: ea22遺伝子領域の1843 bpが欠失
λΔgba: gam, bet, exo遺伝子領域の2278 bpが欠失
λΔex63: exo遺伝子領域の1063 bpが欠失
λΔbet: bet遺伝子領域の750 bpが欠失
λΔea47::mCherry: ea47遺伝子領域にmCherry遺伝子が挿入。
【0055】
<2.直鎖状二本鎖DNA断片のシームレスアセンブリー>
上記作製した直鎖状二本鎖DNA断片のシームレスアセンブリーを行い、DNA構築物を作製した。
アセンブリー反応液の組成は下記のとおりである。
10 mM Tris-HCl (pH 7.9), 50 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 5% PEG8,000, 1 mM Dithiothreitol, 0.6 mU Exonuclease III (タカラバイオ)
5 μL反応液中に、各2.4 nMになるように表3に示す組み合わせで直鎖状二本鎖DNA断片を加えて、75℃で5分間処理後、氷上に置いた。
【0056】
<3.DNA構築物のインビトロパッケージング>
インビトロパッケージングは、LAMDA INN in vitro packaging kit (ニッポンジーン)を用いて行った。
4 μL のpackaging extractに0.5 μLのアセンブリー後のDNA構築物溶液を加えて、25℃で60分間静置し、パッケージングを行った。
【0057】
<4.大腸菌へのDNA構築物の導入>
大腸菌株はSN1171株(MG1655 ΔhsdR ΔendA)を用いた (Nozaki and Niki, J. Bacteriol., 2019 DOI: 10.1128/JB.00660-18)。
0.7% マルトースを含むLB培地(ナカライテスク)で、37℃で一晩培養した大腸菌培養液1 mLを5,000 g 1分間遠心により沈殿させ、上清を除いた。沈殿した細胞は500 μLの10 mM MgSO4溶液に懸濁した。100 μLの細胞懸濁液に1 μL のパッケージング産物を加えて25℃で15分静置した。これを3 mLの溶けた状態の0.7%の軟寒天培地と混合し、LB寒天培地上に流して固めた後、37℃で一晩培養した。
【0058】
直鎖状二本鎖DNA断片: La1, La2, La3, La4, La5を用いて、アセンブリーを行っていないものと行ったものについてインビトロパッケージングを行い、大腸菌へと導入した結果を
図2に示す。アセンブリーを行ったときのみ、ファージによる溶菌で生じる虫食い状のプラークが得られた。λファージとして機能するためにはLa1~5までの全ての断片が細胞内に導入され、環状化する必要がある。ここでプラークが得られたということは、5つのPCR断片からλファージの環状ゲノムが構築されたことを意味する。
【0059】
その他の直鎖状二本鎖DNA断片の組み合わせによるプラーク形成結果を
図3に示す。control λ以外の直鎖状二本鎖DNA断片の組み合わせにより、欠失変異や挿入変異を持ったλファージの構築が可能であった。このことは外来DNAとしてDNA構築物中に導入するDNA配列が変更可能であることを意味する。
【0060】
<5.変異λファージのPCRによる確認>
上記作製した変異ラムダファージの溶菌液をテンプレートとしてPCRを行った。コントロールとして野生型のラムダファージ溶菌液を用いた。PCRはTakara社のEX taqを用いた。変異部位の確認のためのPCRに用いたプライマーセット及び、それらのプライマーセットを用いて野生株及び変異株についてPCRを行った際に出現するDNAの長さをそれぞれ表4に示す。
【0061】
【0062】
増幅後のPCR産物は0.7%アガロースゲル電気泳動により解析した。結果を
図4に示す。いずれの変異株においても正しく変異が導入された位置にバンドが出現した。
【0063】
<5.mCherryの発現>
100 μLのSN1171株の一晩培養液を加えた3 mLのLB培地に、λΔea47::mCherryの導入により出現したプラークから白金耳を用いて採取したファージを導入した。
37℃で6時間培養後に顕微鏡観察により赤色蛍光タンパク質mCherryの発現を確認した。顕微鏡観察はmCherry観察用のフィルターセット 63 HE (Zeiss) を装備した倒立顕微鏡AxioObserver (Zeiss) を用いて行った。結果を
図5に示す。control λを導入した大腸菌細胞からはmCherryの蛍光は検出されなかったが、λΔea47::mCherryを導入した大腸菌細胞ではmCherryの蛍光が検出された(白矢印)。このことは、DNA構築物を細胞内に導入した後に、大腸菌内で外来遺伝子の発現が可能であることを意味する。
【0064】
<6.プラスミドの構築>
pCCcos-λ14(Δnu1-A Δgba)の作製についても、λファージの作製と同様に行った。ただし、大腸菌株への導入後には、50 μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布した。得られたコロニー10個についてキアゲン社のQiaprep mini spin miniprepキットを用いてプラスミドDNAの調製を行った。プラスミドDNAは0.7%アガロースゲル電気泳動により確認した。結果を
図6に示す。すべてのコロニーで、44kbの正しい長さのプラスミドが構築できていた。
【0065】
<7.多断片のDNAを連結した高精度なプラスミドの構築>
本発明の方法を用いて、6断片のPCR産物から、48kbのプラスミド(pBRcos-P1j)の構築を行った。
表5に示すプライマーを、表6に示す鋳型DNAとセットにしてPCRを行い、直鎖状二本鎖DNA断片を調製した。
【0066】
【0067】
【0068】
鋳型DNAとして用いたpBR322-cosの配列は下記の通りである。
ttctcatgtttgacagcttatcatcgataagctttaatgcggtagtttatcacagttaaattgctaacgcagtcaggcaccgtgtatgaaatctaacaatgcgctcatcgtcatcctcggcaccgtcaccctggatgctgtaggcataggcttggttatgccggtactgccgggcctcttgcgggatatcgtccattccgacagcatcgccagtcactatggcgtgctgctagcgctatatgcgttgatgcaatttctatgcgcacccgttctcggagcactgtccgaccgctttggccgccgcccagtcctgctcgcttcgctacttggagccactatcgactacgcgatcatggcgaccacacccgtcctgtggatcctctacgccggacgcatcgtggccggcatcaccggcgccacaggtgcggttgctggcgcctatatcgccgacatcaccgatggggaagatcgggctcgccacttcgggctcatgagcgcttgtttcggcgtgggtatggtggcaggccccgtggccgggggactgttgggcgccatctccttgcatgcaccattccttgcggcggcggtgctcaacggcctcaacctactactgggctgcttcctaatgcaggagtcgcataagggagagcgtcgaccgatgcccttgagagccttcaacccagtcagctccttccggtgggcgcggggcatgactatcgtcgccgcacttatgactgtcttctttatcatgcaactcgtaggacaggtgccggcagcgctctgggtcattttcggcgaggaccgctttcgctggagcgcgacgatgatcggcctgtcgcttgcggtattcggaatcttgcacgccctcgctcaagccttcgtcactggtcccgccaccaaacgtttcggcgagaagcaggccattatcgccggcatggcggccgacgcgctgggctacgtcttgctggcgttcgcgacgcgaggctggatggccttccccattatgattcttctcgcttccggcggcatcgggatgcccgcgttgcaggccatgctgtccaggcaggtagatgacgaccatcagggacagcttcaaggatcgctcgcggctcttaccagcctaacttcgatcattggaccgctgatcgtcacggcgatttatgccgcctcggcgagcacatggaacgggttggcatggattgtaggcgccgccctataccttgtctgcctccccgcgttgcgtcgcggtgcatggagccgggccacctcgacctgaatggaagccggcggcacctcgctaacggattcaccactccaagaattggagccaatcaattcttgcggagaactgtgaatgcgcaaaccaacccttggcagaacatatccatcgcgtccgccatctccagcagccgcacgcggcgcatctcgggcagcgttgggtcctggccacgggtgcgcatgatcgtgctcctgtcgttgaggacccggctaggctggcggggttgccttactggttagcagaatgaatcaccgatacgcgagcgaacgtgaagcgactgctgctgcaaaacgtctgcgacctgagcaacaacatgaatggtcttcggtttccgtgtttcgtaaagtctggaaacgcggaagtcagcgccctgcaccattatgttccggatctgcatcgcaggatgctgctggctaccctgtggaacacctacatctgtattaacgaagcgctggcattgaccctgagtgatttttctctggtcccgccgcatccataccgccagttgtttaccctcacaacgttccagtaaccgggcatgttcatcatcagtaacccgtatcgtgagcatcctctctcgtttcatcggtatcattacccccatgaacagaaatcccccttacacggaggcatcagtgaccaaacaggaaaaaaccgcccttaacatggcccgctttatcagaagccagacattaacgcttctggagaaactcaacgagctggacgcggatgaacaggcagacatctgtgaatcgcttcacgaccacgctgatgagctttaccgcagctgcctcgcgcgtttcggtgatgacggtgaaaacctctgacacatgcagctcccggagacggtcacagcttgtctgtaagcggatgccgggagcagacaagcccgtcagggcgcgtcagcgggtgttggcgggtgtcggggcgcagccatgacccagtcacgtagcgatagcggagtgtatactggcttaactatgcggcatcagagcagattgtactgagagtgcaccatatgcggtgtgaaataccgcacagatgcgtaaggagaaaataccgcatcaggcgctcttccgcttcctcgctcactgactcgctgcgctcggtcgttcggctgcggcgagcggtatcagctcactcaaaggcggtaatacggttatccacagaatcaggggataacgcaggaaagaacatgtgagcaaaaggccagcaaaaggccaggaaccgtaaaaaggccgcgttgctggcgtttttccataggctccgcccccctgacgagcatcacaaaaatcgacgctcaagtcagaggtggcgaaacccgacaggactataaagataccaggcgtttccccctggaagctccctcgtgcgctctcctgttccgaccctgccgcttaccggatacctgtccgcctttctcccttcgggaagcgtggcgctttctcatagctcacgctgtaggtatctcagttcggtgtaggtcgttcgctccaagctgggctgtgtgcacgaaccccccgttcagcccgaccgctgcgccttatccggtaactatcgtcttgagtccaacccggtaagacacgacttatcgccactggcagcagccactggtaacaggattagcagagcgaggtatgtaggcggtgctacagagttcttgaagtggtggcctaactacggctacactagaaggacagtatttggtatctgcgctctgctgaagccagttaccttcggaaaaagagttggtagctcttgatccggcaaacaaaccaccgctggtagcggtggtttttttgtttgcaagcagcagattacgcgcagaaaaaaaggatctcaagaagatcctttgatcttttctacggggtctgacgctcagtggaacgaCCATtgttcattccacggacaaaaacagagaaaggaaacgacagaggccaaaaagctcgctttcagcacctgtcgtttcctttcttttcagagggtattttaaataaaaacattaagttatgacgaagaagaacggaaacgccttaaaccggaaaattttcataaatagcgaaaacccgcgaggtcgccgccccgtaacctgtcggatcaccggaaaggacccgtaaagtgataatgattatcatctacatatcacaacgtgcgtggggtctgacagttaccaatgcttaatcagtgaggcacctatctcagcgatctgtctatttcgttcatccatagttgcctgactccccgtcgtgtagataactacgatacgggagggcttaccatctggccccagtgctgcaatgataccgcgagacccacgctcaccggctccagatttatcagcaataaaccagccagccggaagggccgagcgcagaagtggtcctgcaactttatccgcctccatccagtctattaattgttgccgggaagctagagtaagtagttcgccagttaatagtttgcgcaacgttgttgccattgctgcaggcatcgtggtgtcacgctcgtcgtttggtatggcttcattcagctccggttcccaacgatcaaggcgagttacatgatcccccatgttgtgcaaaaaagcggttagctccttcggtcctccgatcgttgtcagaagtaagttggccgcagtgttatcactcatggttatggcagcactgcataattctcttactgtcatgccatccgtaagatgcttttctgtgactggtgagtactcaaccaagtcattctgagaatagtgtatgcggcgaccgagttgctcttgcccggcgtcaacacgggataataccgcgccacatagcagaactttaaaagtgctcatcattggaaaacgttcttcggggcgaaaactctcaaggatcttaccgctgttgagatccagttcgatgtaacccactcgtgcacccaactgatcttcagcatcttttactttcaccagcgtttctgggtgagcaaaaacaggaaggcaaaatgccgcaaaaaagggaataagggcgacacggaaatgttgaatactcatactcttcctttttcaatattattgaagcatttatcagggttattgtctcatgagcggatacatatttgaatgtatttagaaaaataaacaaataggggttccgcgcacatttccccgaaaagtgccacctgacgtctaagaaaccattattatcatgacattaacctataaaaataggcgtatcacgaggccctttcgtcttcaagaa
PCRはKOD One(TOYOBO)を用いて行った。PCR後の直鎖状二本鎖DNA断片はNucleoSpin Gel and PCR Clean-upキット(タカラバイオ)を用いて精製し、0.7% アガロースゲルにより確認した。プラスミドの設計とPCR後の直鎖状二本鎖DNA断片の精製結果を
図7に示す。
【0069】
得られた直鎖状二本鎖DNA断片を用いてシームレスアセンブリー反応を行った。アセンブリー反応液の組成は下記のとおりである。
10 mM Tris-HCl (pH 7.9), 50 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 5% PEG8,000, 1 mM Dithiothreitol, 0.6 mU Exonuclease III (タカラバイオ)。
【0070】
上記反応液5 μL中に氷上で各2.4 nMになるように直鎖状二本鎖DNA断片を加えて、75℃で1分間処理後、25℃に5分間置いてシームレスアセンブリー反応を行い、1つのDNA構築物単位を形成し、これをそのまま1つのDNA構築物として得た。シームレスアセンブリー反応後のDNA溶液0.5 μLを4 μLのpackaging extract (ニッポンジーン)に加えて、25℃で二時間静置し、パッケージングを行った。DNAを導入する大腸菌株にはDH5α株 (F-, Φ80d lacZΔM15, Δ(lacZYA-argF)U169, deoR, recA1, endA1, hsdR17(rK- mK+), phoA, supE44, λ-, thi-1, gyrA96, relA1)を用いた。LB培地(ナカライテスク)で、37℃で一晩培養した大腸菌培養液1 mLを5,000 g で1分間遠心により沈殿させ、上清を除いた。沈殿した細胞は500 μLの10 mM MgSO
4溶液に懸濁した。100 μLの細胞懸濁液に4.5 μL のパッケージング産物を加えて25℃で15分静置した。これを75 μg/mL アンピシリンを含むLB寒天培地上塗布して、37℃で一晩培養したところ、約1,800個のコロニーを得た。出現したコロニーのうちランダムに選んだ20個から、キアゲン社のQiaprep mini spin miniprepキットを用いてプラスミドDNAの調製を行った。プラスミドDNAは0.7%アガロースゲル電気泳動により確認した。また、得られたプラスミドDNAを制限酵素NdeI(New England Biolabs)を用いて切断し、0.7%アガロースゲル電気泳動により構造確認を行った。結果を
図8に示す。多断片のDNAを連結して、48kbのプラスミドをきわめて高精度(100%正確)に構築することができた。
【0071】
<8.単量体プラスミドおよび多量体プラスミドの構築>
本発明の方法を用いて、それぞれ15 kb及び 20 kb, 25 kbのプラスミド、pBRcos15k, pBRcos20k, pBRcos25kの構築を行った。
表7に示すプライマーを用いて、表8の鋳型DNAのセットでPCRを行い、上記<7>における48 kbのプラスミド構築と同様の方法で、直鎖状二本鎖DNA断片を調製した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
調製した直鎖状二本鎖DNA断片を、表9に示す組み合わせでシームレスアセンブリー反応によって連結して、3種類のDNA構築物(pBRcos15k、pBRcos20k、pBRcos25k)を調製した。次いでこれらのDNA構築物のパッケージングを行い大腸菌株へ導入した。シームレスアセンブリー反応及びパッケージング反応については、上記<7>における48 kbのプラスミド構築と同様の方法で行った。大腸菌株への導入については、用いた大腸菌株をSN1187株(MG1655 ΔhsdR ΔendA ΔrecA)、SN1171株(MG1655 ΔhsdR ΔendA)へと変更したことを除いて、上記<7>における48 kb のプラスミド構築と同様に行った。各大腸菌株にDNA構築物を導入した後、75 μg/mLアンピシリンを含むLB培地上に大腸菌を塗布した。37℃で一晩培養して得られたコロニーのうちランダムに選んだ3個ずつから、キアゲン社のQiaprep mini spin miniprepキットを用いてDNA構築物を回収した。回収したDNA構築物を0.7%アガロースゲル電気泳動により確認した。結果を
図9に示す。
【0076】
recA+の菌株であるSN1171を用いて調製したものでは、それぞれ15 kb, 20 kb, 25 kbの単量体のDNA構築物単位であるプラスミドが得られた。また、得られたDNA構築物単位であるプラスミドを制限酵素Afl II (New England Biolabs)を用いて切断し、0.7%アガロースゲル電気泳動により構造確認を行ったところ設計通りに構築できていた。すなわち、本発明の方法により、38kb未満のDNA構築物単位を連結して多量体としたDNA構築物を、組換えタンパク質を発現する細胞に導入することで、38kb未満の長さを有するDNA構築物単位であるプラスミドを構築することができることがわかった。
【0077】
さらに、ΔrecAの菌株を用いて調製したものでは、15 kbのDNA構築物単位を3つ連結した三量体(45 kb)のプラスミド、20 kbのDNA構築物単位を2つ連結した二量体(40 kb)のプラスミド、および25 kbのDNA構築物単位を2つ連結した二量体(50 kb)のプラスミドのみを正確に構築し、回収することができた。