(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117499
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】セシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤及びこれを用いたセシウム及びストロンチウム除去システム
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20220803BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20220803BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20220803BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220803BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220803BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20220803BHJP
B01D 29/48 20060101ALI20220803BHJP
B01D 37/02 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
G21F9/12 501K
G21F9/06 521J
B01J20/06 A
B01J20/28 Z
C02F1/28 B
C02F1/28 E
B01D15/00 J
B01D15/00 N
B01D15/00 P
B01D15/00 101
B01D29/48 A
B01D37/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013799
(22)【出願日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2021013105
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596002549
【氏名又は名称】株式会社モノベエンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】物部 長順
(72)【発明者】
【氏名】物部 長智
(72)【発明者】
【氏名】内村 泰造
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
(72)【発明者】
【氏名】保科 宏行
【テーマコード(参考)】
4D017
4D116
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017AA03
4D017BA12
4D017BA13
4D017BA15
4D017CA04
4D017CB01
4D017DA01
4D017EA01
4D116BB01
4D116BC54
4D116DD05
4D116FF02A
4D116GG04
4D116GG08
4D116GG09
4D116GG12
4D116GG24
4D116HH14A
4D116QA22A
4D116QA22B
4D116QA22D
4D116QA23A
4D116QA23B
4D116QA23D
4D116QA41A
4D116QA41B
4D116QA41C
4D116QA41D
4D116VV01
4D116VV07
4D116VV10
4D116VV20
4D624AA05
4D624AB10
4D624AB15
4D624AB16
4D624BA14
4D624BB01
4D624BC01
4D624CA01
4D624DB03
4G066AA25B
4G066AA50B
4G066AA52B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA36
4G066CA12
4G066CA45
4G066CA46
4G066DA07
4G066EA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低い溶出性とより高い吸着率を備えたセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤及びこれを用いたセシウム及びストロンチウム除去システムを提供すること。
【解決手段】吸着ろ過剤は、リンタングステン酸アンモニウムを含むものである。この場合において、限定されるわけではないが、平均粒径は1μm以上2000μm以下の範囲にあることが好ましく、またこの吸着ろ過剤は、セシウムやストロンチウムを含む酸性溶液用であること、淡水用であること、海水等の塩類共存液用であること、油及び有機溶媒用であること、バネ状フィルタ用ろ過助剤であること、また容器充填用吸着剤であることが好ましい。処理対象となる原液に吸着ろ過剤を加えて攪拌するための混合槽と、バネ状フィルタと、前記バネ状フィルタを保持する筐体と、使用時において前記バネ状フィルタの外面に配置する、リンタングステン酸アンモニウムを含んでなる吸着ろ過剤と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンタングステン酸アンモニウムを含んでなるセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項2】
平均粒径が1μm以上2000μm以下の範囲にある請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項3】
セシウムとストロンチウムを含む酸性溶液用である請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項4】
セシウムとストロンチウムを含む淡水及び海水等の塩類共存液や油や有機溶媒用である請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項5】
バネ状フィルタ用ろ過助剤である請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項6】
容器充填用吸着剤である請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤。
【請求項7】
処理対象となる原液に請求項1記載のセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤を加えて撹拌するための混合槽と、
バネ状フィルタと、
前記バネ状フィルタを保持する筐体と、
使用時において前記バネ状フィルタの周囲に配置する吸着ろ過剤と、を備えるセシウム及びストロンチウム除去システムであって、
前記吸着ろ過剤は、リンタングステン酸アンモニウムを含んでなるセシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤であるセシウム及びストロンチウム除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム及びストロンチウム吸着ろ過剤(以下「吸着ろ過剤」という)及びこれを用いたバネ状フィルタ式のセシウム及びストロンチウム除去システム(以下「本システム」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
環境において、数多の金属が液体中にイオンの形で存在するが、この金属が人間の体内に取り込まれると健康障害を引き起こす場合がある。例えば、重金属のような致死性の高い金属や、放射性金属のように体内に蓄積されて内部被ばくによる健康障害を引き起こすものが知られている。
【0003】
放射性セシウムや放射性ストロンチウム(以下「放射性物質」という)は人間の体内に取り込まれると、蓄積されて内部被爆や単なる重金属摂取による健康障害を引き起こすため、環境への排水時には放射性物質や重金属を吸着剤等を用いた事前の処理が汚染拡大防止にとって極めて重要である。
【0004】
放射性物質の除去については様々な技術が検討されているが、例えば下記非特許文献1には、リンモリブデン酸アンモニウムの放射性セシウム吸着に関する記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】https://unit.aist.go.jp/georesenv/information/20150917/TechRep_Cs_Monitoring_Water.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献に記載の技術について、本発明者らが鋭意検討を行っていたところ、リンモリブデン酸アンモニウム(以下「AMP」という)はその使用において成分の溶出が大きいといった課題がある。成分の溶出が大きい場合、折角吸着した放射性物質を再び外部に放出してしまうことを意味する。また、より高い除去効率を目指す観点から、強酸性や塩類共存下の条件においても、成分の溶出が無くかつ、より高い吸着率を有する吸着ろ過剤であることが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、低い溶出性とより高い吸着率を備えた吸着ろ過剤及びこれを用いたシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る吸着ろ過剤は、リンタングステン酸アンモニウム(以下「AWP」という)を含むものである。
【0009】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、上記吸着ろ過剤は平均粒径が1μm以上2000μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、上記吸着ろ過剤は放射性物質を含む酸性溶液用であることが好ましい。
【0011】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、上記吸着ろ過剤は放射性物質を含む淡水及び海水等の塩類共存液や油や有機溶媒用であることが好ましい。
【0012】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、バネ状フィルタ用吸着ろ過助剤で
あることが好ましい。
【0013】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、容器充填用吸着ろ過助剤であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の他の一観点に係るシステムは、バネ状フィルタと、バネ状フィルタを保持する筐体と、使用時においてバネ状フィルタの外面に配置する吸着ろ過剤と、を備える放射性物質除去システムであって、吸着ろ過剤は、AWPを含んでなるものである。
【発明の効果】
【0015】
以上、本発明によって、より高度な吸着率を持つ吸着ろ過剤及びこれを用いた放射性物質除去システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る本システム内のバネ状フィルタ装置の概略を示す図である。
【
図2】実施形態に係る本システム内のバネ状フィルタの外面にろ過助剤をプリコートした状態の部分断面図である。
【
図3】実施形態に係る不溶物質と溶存物質を処理するバネ状フィルタシステムの概略を示す図である。
【
図4】実施形態に係るバネ状フィルタの概略を示す図である。
【
図5】実施形態に係るバネ状フィルタの部分断面図である。
【
図6】実施例におけるAWPの電子顕微鏡による拡大写真(1500倍)を示す図である。
【
図7】実施例におけるAWPの電子顕微鏡による拡大写真(10000倍)を示す図である。
【
図8】実施例及び比較例における処理後のろ液の外観写真を示す図である。
【
図9】実施例における吸着率を示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、また以下に示す実施形態、実施例において記載される具体的な例示についても適宜変更及び調整が可能であり、これらに限定されるものではない。以下、本明細書中で吸着剤という表現を用いる場合があるが、当該吸着剤はろ過材として使用することができる。
【0018】
(放射性物質除去システム)
図1は、本実施形態に係る本システム内のバネ状フィルタ装置の概略を示す図である。本図で示すように、本システムは、バネ状フィルタ11と、バネ状フィルタ11を支持する支持部材12と、バネ状フィルタ11及び支持部材12を保持する筐体13は、内部空間を上記支持部材12によって上下に区切られる。後述の記載から明らかであるが、バネ状フィルタ11の外面には放射性物質(放射性セシウム及び放射性ストロンチウム)を取り込んだ吸着ろ過剤が残り、内側へは放射性物質が除去された液体が通過する。すなわちバネ状フィルタ外側の空間と内側の空間が原液側とろ液側とで分かれることになる。
【0019】
図2は、バネ状フィルタ11の外面にろ過助剤または吸着ろ過剤15をプリコートした状態の部分断面図である。本システムでは、バネ状フィルタ11を用いており、バネ状フィルタ11の外面にろ過助剤または吸着ろ過剤15を備える。このバネ状フィルタによる除去の詳細については後述するが、本システムでは、バネ状フィルタ11の外面に配置される吸着ろ過剤15がAWPであり、バネ状フィルタ11の内部側にポンプなどで圧送することによりバネ状フィルタ11の外側から内側への流れを形成し、この流れの経路にある吸着ろ過剤15が処理対象となる溶液中に存在する放射性物質を吸着することができ、この吸着ろ過剤を排出させることで放射性物質を除去することができる。これ以上の詳細については吸着ろ過剤に関する言及の後、詳述する。
【0020】
(吸着ろ過剤)
上記の通り、本システムにおいて吸着ろ過剤は、AWPを含んでなる粉体を用いる。このAWP粉体は、本システムにおいて用いることが最も好ましいが、吸着剤として用いる場合においてその方式は特に限定されず、例えば、通常のイオン交換樹脂のように、粒状に成形したものを容器に密に詰め、この容器内に処理対象となる放射性物質含有液体を通すことで、放射性物質を除去する一般的な容器充填式イオン交換システムとして用いることも可能である。本明細書では、上述の通り、まずAWPの説明を行ってから、本システムの詳細な説明を行うこととする。
【0021】
AWPとは、リンタングステン酸のアンモニウム塩の水和物であって、下記分子式で示される。
【化1】
【0022】
AWPは、室温において固体であり、吸着剤として使用する場合、平均粒径が1μm以上2000μm以下の範囲にあることが好ましい。バネ状フィルター用としてはより好ましくは5μm以上200μm以下の範囲である。1μm以上とすることで本システムにおけるバネ状フィルタによるろ過が可能となる。容器充填用としてはより好ましくは300μm以上1000μm以下の範囲にあることが好ましい。バネ状フィルターを用いる場合、他の成分を含ませず物理ろ過とともに放射性物質の吸着による化学ろ過が可能となる。
【0023】
また、AWPは、放射性物質を含む酸性溶液用吸着ろ過剤であることが好ましい。放射性物質は酸溶液に溶出しやすい性質を有しており、土等に含まれる放射性物質を除去する場合、まず酸溶液に溶出させた後、吸着剤等で分離回収することから、酸性下において適用できる吸着ろ過剤であることが重要である。なおこのpHとしては、限定されるわけではないが、pH6以下で対応できるものであることが好ましく、より好ましくはpH5以下、更に好ましくはpH3以下、特に好ましくはpH2以下である。
【表1】
【0024】
また、AWPは、中性や塩基性溶液用であっても、また、対象となる溶液が放射性物質を含む淡水や海水(pH8~9)用であってもよい。AWPは、海水中に放射性セシウムが溶解した場合においても、それを選択的に効率よく除去できる。
【表2】
【表3】
【表4】
【0025】
一方、AWPはセシウムを効率的に吸着するだけでなく、ストロンチウムについても高い吸着性能を有する。特に、AWPは、公知のAMPよりも吸着率が高く、かつ吸着剤自身の溶出が極めて少ない。この結果、吸着効率が相乗的に極めて高くなるといった効果がある。またAWPはバネ状フィルタを用いる本システムにおいて、最大の吸着速度が得られることから、一般的な容器充填式イオン交換システムと比べて大幅に処理速度を高めることができる。
【表5】
【表6】
【0026】
(システム及び方法)
ここで、改めて、本システムの詳細、及び、本システムによって実現される放射性物質除去方法(以下「本方法」という。)について説明する。
【0027】
まず、本方法は、(1)処理対象となる原液に対し一次ろ過を行うステップ、(2)一次ろ過によって得られた一次ろ過液に、一次ろ過液内に溶解した放射性物質を吸着可能な吸着ろ過剤を混合するステップ、(3)吸着ろ過剤が混合された一次ろ過液に対し、二次ろ過を行うステップ、を備えるものである。
【0028】
図3は、本システムSの概略図であって、具体的には、一次バネ状フィルタ装置1と、この一次バネ状フィルタ装置1に接続され、一次ろ過液を収容する一次ろ過液槽2と、一次ろ過液槽2に収容される一次ろ過液をろ過する二次バネ状フィルタ装置3と、二次バネ状フィルタ装置3に接続され、二次ろ過液を収容する二次ろ過液槽4と、を備える。以下、本システム及び本方法について詳細に説明する。
【0029】
まず、本方法では、(1)処理対象となる原液に対し一次ろ過を行うステップ、を備える。
【0030】
本方法において、処理対象となる「原液」は、文字通り処理の対象となる液体であって、この液体には除去の対象となる放射性物質が含まれている。この液体の例としては、本方法に適用できるものである限りにおいて限定されず、一般には水を主成分として含むものであるが、適用可能である限りにおいて油や有機溶媒等を含んでいるものであってもよい。また、この除去の対象となる放射性物質は、液体に溶存するものだけでなく、液体に溶解せず微粒子等の体積を有するものとして混在・浮遊しているもの、又は放射性物質が吸着した砂や微生物等の不溶物質であってもよい。
【0031】
本方法における「一次ろ過」は、処理対象となる原液中において、水に溶解せず微粒子として混在・浮遊している不溶物質を、ろ過によって除去することをいい、物理ろ過ともいう。本方法の一次ろ過としては、上記の処理を行うことができる限りにおいて限定されるわけではないが、バネ状フィルタを用いたろ過装置によって行われることが好ましいため、本実施形態では、一次バネ状フィルタ装置1によって行う例を示す。
【0032】
本実施形態における一次バネ状フィルタ装置1の内部構造については、上記
図2に示したものと同様であり、本図はその概略断面図を示す。本図で示すように、一次バネ状フィルタ装置1は、少なくともバネ状フィルタ11及びこれを支持する支持部材12と、を有して構成される。後述の記載から明らかであるが、バネ状フィルタ11の外側には不溶物質が残り、内側には不溶物質が除去された液体が通過する。すなわち外側の空間と内側の空間が原液側とろ液側とで分かれることになる。
【0033】
また、本実施形態の一次バネ状フィルタ装置1では、上記支持部材12の他、バネ状フィルタ11及び支持部材12を収納する筐体13を有している。また、支持部材12によって筐体13内の空間14は上側の空間と下側の空間の二つに区切られており、支持部材12は仕切板としての機能を有している。より具体的には、支持部材12には複数の孔が形成されており、この孔にバネ状フィルタ11が挿入及び設置されることで、筐体13内の空間14を、バネ状フィルタの下部空間141(以下単に「下部空間」という。)と、バネ状フィルタの上部空間142(以下単に「上部空間」という。)に分けることが可能となる。また、一次バネ状フィルタ装置1では、後述するように、一次ろ過時において、バネ状フィルタ11の外側にろ過助剤15が付される。
図4に、本実施形態に係るバネ状フィルタ11の概略を示す。なおその一部断面は
図5であり、ろ過助剤が付された場合は上記
図2に示すとおりである。一次ろ過時において、ろ過助剤15がバネ状フィルタ11の外面に配置されることで、ケークが形成されフィルタ層として機能することになる。具体的には、支持部材12によってフィルタの下部空間141と上部空間142が区分けされ、処理対象となる原液が下部空間141側からフィルタ層を通って上部空間142側に移動する際、不溶物質がフィルタ層によって通ることができずフィルタ層において残留し、処理対象原液から除去されることになる。
【0034】
改めて、一次バネ状フィルタ装置1のバネ状フィルタ11は、文字通りバネ状のフィルタである。上記図で示すように、バネ状フィルタ11は、線材111が環状に巻かれかつ所定の間隙をもって重なり合うことによりバネ形状となっているフィルタである。また、限定されるわけではないが、一次バネ状フィルタ装置1におけるバネ状フィルタ11の線材111には、隣接する線材部分と上記所定の間隔を確保するための突起112が付されており、これによってバネ状フィルタの平均間隙幅、より具体的には線材間の隙間を安定的に確保することができる。
【0035】
また、一次バネ状フィルタ装置1におけるバネ状フィルタの平均間隙幅(線材間の隙間の平均)は、適宜な設定が可能であり限定されるわけではないが、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましく、更に好ましくは10μm以上120μm以下の範囲である。この範囲とすることで、一次ろ過において液体中の除去対象となる不溶解不純物を効率的に除去することができる。
【0036】
また、一次バネ状フィルタ装置1におけるバネ状フィルタ11の素材は、形状を維持し一次バネ状フィルタ装置1が所望の効果を達成することができる限りにおいて限定されず、例えば銅、鉄、チタン、ニッケル等の単体金属やステンレス等の合金などの金属材料、また、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、PPS等の樹脂材料、またセラミックス材料を例示することができる。
【0037】
また、一次バネ状フィルタ装置1におけるバネ状フィルタ11は、一本の線材111を環状の螺旋を描くよう巻くことで容易に実現することができるが、例えば突起が付された環状の線材や樹脂材を複数積層させた環状積層体とすることで、同様の構造を実現することも可能である。この場合においても、一次バネ状フィルタ装置1ではバネ状フィルタに含まれるものとする。すなわち、一次バネ状フィルタ装置1において、バネ状フィルタ11には巻バネ形状、または環状積層体の何れの構造も包含される。
【0038】
また、本実施形態においてバネ状フィルタ11は,上記の図で示すように、線材111の中心に芯材113を備え、この芯材113の両端近傍に一対の抑えるための金具を設ける構成としてもよい。このようにすることで、線材をより安定的に保持することができる。特に、金具の一方は支持部材12に接続する一方この支持部材12との間隙を少なくするため、ねじ溝が形成された構造となっていることも好ましい。このようにすることで支持部材12にもこれに嵌合するねじ溝を形成し、これらをはめ合わせることで支持部材12とバネ状フィルタ11とを安定的に固定することが可能となる。
【0039】
また、一次バネ状フィルタ装置1において、上記の記載からも明らかであるが、バネ状フィルタ11は一本であってもよいが、複数本備えていることが好ましい。具体的には支持部材12に多数の孔が形成され、この複数の孔にそれぞれバネ状フィルタ11が挿入及び固定されていることが好ましい。このようにすることでろ過効率を向上させることが可能となる。
【0040】
また、本実施形態において、筐体13内の空間14のうち、筐体13内のバネ状フィルタ11の下部空間141及び上部空間142は、巡回する配管を介して原液槽5、一次プリコート槽6、一次廃液槽7にそれぞれ接続されている。また、配管Tにはそれぞれの経路を開閉するための弁Vが備えられている。具体的には、原液槽5から一次バネ状フィルタ装置1までの配管T51の開閉を制御する弁V51、一次プリコート槽6から一次バネ状フィルタ装置1までの配管T61の開閉を制御する弁V61、一次バネ状フィルタ装置1から一次廃液槽7までの配管T71の開閉を制御する弁V71をそれぞれ備えている。また、原液槽5から一次バネ状フィルタ装置1までの配管T51、及び、一次プリコート槽6から一次バネ状フィルタ装置1までの配管T61には、それぞれに収容される液体を一次バネ状フィルタ装置1の下部空間141まで送るためのポンプP51、P61をそれぞれ備えている。なお、これら配管並びに弁及びポンプについては、共用することも可能であり、その位置や数については適宜調整が可能である。
【0041】
また、本実施形態において、筐体13の空間14のうち、筐体13内であるがバネ状フィルタ11の上部空間142は、配管T1を介して一次ろ過液槽2に接続されている。これにより一次ろ過液を貯蔵することができるようになる。具体的に、配管T1は、一次バネ状フィルタ装置1と一次ろ過液槽2を接続する配管となっている。また、配管T1には、この配管により形成される経路の開閉を制御するための弁V1を備えている。
【0042】
また、本実施形態において、筐体13内の上部空間142は、配管Tを介して原液槽5又は一次プリコート槽6に接続されていてもよい。具体的には、配管T52を介して液体は原液槽5に、配管T62を介して液体は一次プリコート槽6にそれぞれ戻される。また、配管T52、T62にはそれぞれその経路の開閉を制御する弁V52、V62を備えている。このようにすることで、原液槽5と一次バネ状フィルタ装置1の間、一次プリコート槽6と一次バネ状フィルタ装置1との間のそれぞれにおいてループを形成することができるようになる。これは、一次ろ過が行われ処理が安定する前の準備処理、プリコート(バネ状フィルタ11の外面にろ過助剤15を配置する処理)を行う際に必要となる。
【0043】
また、一次バネ状フィルタ装置1におけるバネ状フィルタ11の周囲には、上記の通り、一次ろ過(不溶解不純物の除去)時において、バネ状フィルタ用のろ過助剤15が配置される。より具体的に説明すると、ろ過助剤15は、ろ過時においてバネ状フィルタ11が下部空間141側から上部空間142側に液体を圧送する力によってバネ状フィルタ11の外面に層状に積層される。これにより、ろ過助剤15は不溶解物除去のためのフィルタ層として機能することができるのである。
【0044】
また、本方法において、ろ過助剤の形態としては、限定されるわけではないが粉末状であることが好ましい。粉末状のろ過助剤とすることで、液体に分散させやすくなるとともに、上記バネ状フィルタ11の外面に積層するいわゆるプリコート効果により安定的に配置できるようになる。なおここでろ過助剤の粉末の大きさとしては、特に限定されるわけではないが、好ましくは平均粒径5μm以上200μm以下の範囲であり、より好ましくは平均粒径10μm以上100μm以下の範囲である。
【0045】
また、ろ過助剤15の構成としては、上記の機能を発揮することができる限りにおいて限定されず、例えば珪藻土、活性炭、ゼオライト等の無機体粒子であってもよく、又は、ポリエチレン、ポリプロピレン等及びこれらの誘導体を含むポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテトラフルオロエチレン等及びこれらの誘導体を含むハロゲン化ポリオレフィン、エチレン・ビニルアルコール等及びこれらの誘導体を含むハロゲン化オレフィン共重合体、セルロース等及びセルロース骨格を有するセルロース誘導体等で例示される有機体粒子であってもよい。もちろん、化学吸着を行うことができる本吸着剤であるリンタングステン酸アンモニウムを用いることもできる。
【0046】
以上本方法の一次ろ過によると、上記バネ状フィルタ11とその周囲に配置されるろ過助剤15との組み合わせによって、所定の大きさ以上の不溶解物を除去することが可能となる。なおこの結果ろ過された一次ろ過液は、一次ろ過液槽2に貯蔵される。
【0047】
ここで、一次ろ過の方法の詳細について順を追って説明する。まず、一次ろ過では、準備として原液槽5に処理対象となる原液を収容する。
【0048】
一方、一次プリコート槽6にはろ過助剤15及び水等の液体が収納されており、配管T61を介して筐体13の下部空間141に供給され、バネ状フィルタ11、配管T62を経由して再びプリコート槽6に回収される。この際、これらに付された弁V61、V62は解放するとともに、ポンプP61を駆動してこの経路部材及びプリコート槽6、筐体13によって形成されるループ内に液体の流れを形成する。これにより、バネ状フィルタの外面にろ過助剤が徐々に付着していくことになる。
【0049】
そして、十分ろ過助剤がバネ状フィルタの外面に付着した後、弁V1を切り替え、原液槽5中の原液を筐体13の下部空間141に供給し、バネ状フィルタ11を介し、上部空間142側から一次ろ過液槽2に排出させる。これにより不溶物質を除去することができる。なお、この不溶物質は、一次ろ過が終了した後、配管T71を介して一次廃液槽7に排出される。
【0050】
次に本方法では、(2)一次ろ過によって得られた一次ろ過液に、一次ろ過液内に溶存する放射性物質を吸着可能な吸着ろ過剤を混合するステップを備える。本ステップは、一次ろ過を行った後、溶存する放射性物質を除去するための事前のステップである。
【0051】
また、本方法では、上記一次ろ過において一次バネ状フィルタ装置1を用いているが、本方法では、予め不溶物質の物理ろ過が十分に行われている場合や、二次ろ過で十分にこれらの除去が可能である場合は、一次ろ過を省略することも可能である。この場合、一次ろ過液槽2以後の構成のみを採用すれば十分である。
【0052】
ここで用いる吸着ろ過剤は、上記の通り、液体に溶存する放射性物質を除去することができる、AWPであり、その詳細については上記のとおりである。本システムでは、このような吸着ろ過剤を用いることで、効果的に溶存する放射性物質を除去できる。特に、一次ろ過と二次ろ過を分離してそれぞれ処理させることで、一次ろ過の後に除去される溶存物質を効率的に回収することができるようになる。特に、AWPを用いる場合、自身の溶解が少なく極めて有効である。
【0053】
なお、このステップでは、吸着ろ過剤が添加された一次ろ過液に対して攪拌を行うことが好ましい。攪拌することで、より効率的に溶存する放射性物質を除去することが可能となる。具体的には、一次ろ過液槽2に攪拌部材とこの攪拌部材を駆動するための駆動装置Kとを備えたものであることが好ましい一例であるがこれに限定されない。
【0054】
また本方法では、(3)吸着ろ過剤が混合された一次ろ過液に対し、二次ろ過を行うステップ、を備える。本ステップは、上記ステップにおいて投入された吸着ろ過剤に、液体中に溶存する放射性物質を吸着させ除去するステップであり、二次ろ過という。
【0055】
本ステップにおいて用いる二次ろ過には、上記の通り二次バネ状フィルタ装置3を用いる。本バネ式フィルタ装置3には上記(1)のステップにおいて用いる一次バネ状フィルタ装置1と同じものを用いることができ、重複する部分についての説明は省略する。ただし、本ステップでは、一次ろ過液と吸着ろ過剤が予め混合されており、これらを分離する処理に特化したものである点が異なる。すなわち、本方法では、まず、一次ろ過により液体に混入している不溶物質を除去して一次ろ過液とし、次に、溶存する放射性物質が含まれる一次ろ過液に対し、これらを吸着させるための吸着ろ過剤であるAWPを投入し、更に、本ステップでこの放射性物質が吸着した吸着ろ過剤を回収することで、結果として対象液中の不溶物質も、溶存する放射性物質も一連の処理で確実に除去することができるようになる。
【0056】
本方法についてより具体的に説明すると、上記ステップ(1)では、処理対象である原液を一次ろ過する前にバネ状フィルタ11の外面にプリコート処理によってろ過助剤15を配置し、十分にろ過助剤15がバネ状フィルタの外面に配置されたことを確認してから処理対象の原液を一次バネ状フィルタ装置1の筐体内13に導入して処理させる。一方、本ステップ(3)では、一次ろ過液を攪拌しながら溶存する放射性物質を吸着ろ過剤に吸着させる重要な処理であるとともに、放射性物質を吸着した吸着ろ過剤と液体とを分離するための処理となっている。例えば、一次ろ過液槽から筐体の下部空間に一次ろ過液を供給してバネ状フィルタを透過させた後、再び一次ろ過液槽に戻す一方、ある程度溶存する放射性物質が除去できたと判断できた段階で、配管の弁を切り替え、二次ろ過液槽にこの放射性物質が除去された二次ろ過液を二次ろ過液槽に排出させることで対応可能である。なお、場合によっては、このループを形成せず直接二次ろ過液槽に排出させることとしてもよい。
【0057】
ところで、二次ろ過液は不溶物質及び溶存する放射性物質を除去することができているため、基準を満たせば、二次ろ過液槽4にためずともそのまま排水することもできる。一方、二次ろ過装置の吸着ろ過剤には放射性物質が付着しており、この溶存物質は当初の原液よりも高濃度で付着しているため、廃棄物の量を大幅に減らすことが可能となる。
【0058】
以上、本方法によって、溶存する放射性物質をより効率的に除去することのできるバネ状フィルタシステムを提供することができる。
【0059】
なお、本実施形態では、最適な放射性物質除去を行うことを目的としてバネ状フィルタシステムを提示しているが、本方法を利用することができる限りにおいて、バネ状フィルタシステム以外のフィルタシステムを用いることも可能である。
【0060】
本発明において提案するAWPを含む吸着剤およびそれを用いたシステムの用途は、セシウムおよびストロンチウムの除去に限定されない。例えば、鉛、トリウム、ウランを吸着する目的で使用することもできる。また、これらの吸着対象は放射性同位体に限定されず、本発明において提案するAWPを含む吸着剤は安定同位体の吸着にも同様に利用可能である。
なお、これらAWPを含む吸着剤を用いた溶液中の金属イオン(例えば、鉛、トリウム、ウラン等)の除去方法は、上記セシウムおよびストロンチウムの除去方法で説明した方法と同様の方法で行うことができる。
【0061】
本発明におけるAWPを含む吸着剤の好適な例は、吸着基として機能するAWPが基材(母材)に固定されていないことを特徴とする。つまり、実質的にAWPからなる吸着剤が好ましく、AWPのみからなる吸着剤がより好ましい。
【0062】
一般的な吸着剤は吸着基が基材(例えば有機高分子)に固定されてなる。このような吸着基が基材(例えば有機高分子)に固定された吸着剤は、基材の特性により高い機械強度を付与すること等の特徴を付与することができるが、基材は対象のイオンを吸着する吸着機能を有しないために嵩が大きくなりがちである。
一方、吸着基として機能するAWPが基材に固定されていない吸着剤(好ましくは実質的にAWPからなる吸着剤)は、当該吸着剤内に基材を含まないため、単位体積当たりの吸着基の密度を高くすることできる。換言すれば、単位当たりの吸着容量を増大することができる。これにより、同一量の金属イオンを吸着するために必要な吸着剤の嵩(体積)を小さくすることができ、金属イオン吸着後の廃棄物の減容化を図ることができる。環境負荷の軽減、特に放射性金属イオンを吸着した放射性汚染廃棄物の処理体積の軽減を実現することができる。
これは、一般的な基材に吸着基が固定された吸着剤において、対象物の吸着に寄与しない母材の体積分吸着容量が減少していた課題、吸着後の廃棄物の減量化の課題を解決することができる点で有用である。
【0063】
さらに、吸着基と機能するAWPが基材に固定されていない吸着剤(好ましくは実質的にAWPからなる吸着剤)は、上述したシステムおよび除去方法において、筐体内に充填可能な吸着剤量(典型的には単位体積当たりの吸着基量)を増大することができる。これにより、吸着処理の処理時間の短縮、および/または、筐体の小容量化を実現することが可能である。
【0064】
また、吸着基として機能するAWPが基材に固定されていない吸着剤(好ましくは実質的にAWPからなる吸着剤)は、吸着基が基材から脱離する心配がない。吸着基にて吸着する対象物が放射性物質の場合、吸着剤から対象物が脱離することで生じる二次汚染防止することが肝要である。吸着基として機能するAWPが基材に固定されていない吸着剤(好ましくは実質的にAWPからなる吸着剤)は、吸着基が基材から脱離することがないため、上記放射性物質が吸着剤から脱離したことで生じる二次汚染を防止しうる。
【0065】
吸着基が基材に固定されていない吸着剤(好ましくは実質的に吸着基からなる吸着剤)の例として、吸着基がAWPである場合を例として説明したが、吸着基のみで液体からの金属吸着処理に耐えうる機械強度を有するものであれば、これに限定されない。上述したバネを用いたシステムおよび除去方法に耐えうる機械強度を有することが好ましい。
【0066】
このような吸着基の例として、ジルコニウム、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ゼオライト、活性炭などが挙げられる。
上記ジルコニウムは、ヒ素およびフッ素等の吸着に好適に利用可能である。上記硫酸アルミニウムは、鉄、ヒ素、塩素等の吸着に好適に利用可能である。上記ポリ塩化アルミニウムは、鉄、ホウ素、ヒ素等の吸着に好適に利用可能である。ゼオライトはヒ素、フッ素、ホウ素、セシウムの吸着に好適に利用可能である。活性炭はいずれの元素の吸着にも好適に利用可能である。
【0067】
溶液中からの除去が困難な難除去物質として知られるアニオン(ヒ素、ホウ素、フッ素など)1価のカチオン(例えば、セシウム、カリウム、ナトリウム等を高い選択性で吸着可能であることは産業上の利用価値が極めて高い。
【0068】
また、AWP、ジルコニウム、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ゼオライト、活性炭は、有機高分子と比較して機械的強度が高い。上述したバネを用いたシステムおよび除去方法において、高速で処理対象液を通液した場合に生じうる通液圧力によるろ過助剤の物理的破損、或いは圧力損失などが起こりづらい。
【0069】
(実施例1)
ここで、上記実施形態に係る放射性物質の吸着ろ過剤を用いて、実際にその除去性能を確認したので以下に説明する。
【0070】
AWPを用いて、セシウム吸着試験を行った。
【0071】
吸着剤として用いるAWPとしては、ほぼ全ての粒子が1~10μm程度であり、粒子径の分布が小さいことが確認できた。この電子顕微鏡(SEM)による観察結果について
図6、
図7に示しておく。
【0072】
一方、セシウムを含む処理液として、セシウムイオンを10.3ppm含むpH0.9の溶離液30mlを作成した。
【0073】
上記吸着剤0.3gを上記溶離液に加えて攪拌し、25℃で71時間吸着させ、0.2μmのフィルタによりろ過した後、分析を行った。なお、この結果の溶液は透明であることが確認された。
【0074】
この結果、セシウムの吸着率は91%であり、タングステンの溶出量は約1514mg/kgに抑えられていることが確認できた。
【0075】
(実施例2)
上記実施例1において、フィルタのろ過が0.45μmによるろ過とした以外は同じ条件で試験を行った。
【0076】
この結果、セシウムの吸着率は91%であり、タングステンの溶出量は1782mg/kgに抑えられていることが確認できた。
【0077】
(実施例3)
上記実施例1において、セシウムを含む処理液を、セシウムイオンを9.3ppm含むpH5.3の模擬液30mlを用いた以外は同じ条件として試験を行った。
【0078】
この結果、セシウムの吸着率はほぼ100%であり、タングステンの溶出量は127mg/kgに抑えられていることが確認できた。
【0079】
(実施例4)
上記実施例2において、セシウムを含む処理液を、セシウムイオンを9.3ppm含むpH5.3の模擬液30mlを用いた以外は同じ条件として試験を行った。
【0080】
この結果、セシウムの吸着率はほぼ100%であり、タングステンの溶出量は128mg/kgに抑えられていることが確認できた。
【0081】
(比較例1)
上記実施例との対比として、上記実施例1において、AWPをAMPに変えた以外は同一の条件として、試験を行った。
【0082】
この結果、セシウムの吸着率は87%、モリブデンの溶出量は4810mg/kgであり、タングステンAWPの場合に比べて吸着量は低く、溶出量も大幅に増えていることが確認できた。
【0083】
(比較例2)
上記実施例2において、AWPをリンモリブデン酸アンモニウムAMPに変えた以外は同一の条件として、試験を行った。
【0084】
この結果、セシウムの吸着率は88%、モリブデンの溶出量は402646mg/kgであり、AWPの場合に比べて吸着量は低く、溶出量も大幅に増えていることが確認できた。
【0085】
上記実施例1~4、比較例1、比較例2の結果については下記表に示す。これらの結果から、AWPはAMPに比べて吸着力も高く、溶出量も低く抑えられていることを確認した。
【表7】
【0086】
また、
図8に、実施例1、比較例1のそれぞれの残液に関する写真図を示す。本図において、左側はAWPによる除去の結果である実施例1を、右側はAMPによる除去の結果である比較例1の残液を示す。本図でも明らかなように、比較例では着色が顕著であり、モリブテンの溶出が激しい。
【0087】
以上の結果より、すなわち、AWPの方がセシウムの吸着率が高く、更に、溶出量の観点では極めて溶出しにくいことを確認した。
【0088】
(実施例5)
また一方で、リンタングステン酸アンモニウムを吸着剤として用いて、セシウム吸着試験を行った。セシウム溶液30mlに、上記吸着剤300mg、30mg、3mgをそれぞれ加え、シェイカーにて25℃、150rpm/minの条件で71時間吸着させた。セシウム溶液は、セシウム標準液(Cs 1000)(関東化学(株))を9.6ppm、pH5.4に調整した溶液を用いた。
【0089】
71時間経過後、孔径0.45μm及び0.2μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。ろ液を1,000倍に希釈した後、ICP-MS(Agilent 7700x)にてセシウム及びタングステンを定量した。
【0090】
この結果を以下及び
図9に示す。いずれの固液比でも吸着率は高いが、適正な固液比が3~30の間であることがわかった。
【表8】
【0091】
(実施例6)
リンタングステン酸アンモニウムを吸着剤2種類用いて、金属吸着試験を行った。吸着溶液には、セシウムと性質が類似する、リチウム、ナトリウム、カルシウムを50ppb、pH2.4に調整したセシウム溶液に同濃度、同pHの液質となるように添加して行った。上記吸着溶液50mlに、上記吸着剤30mgを加え、シェイカーにて25℃、150rpm/minの条件で1時間吸着させた。吸着後、0.2μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。
【0092】
ろ過後、ICP-MS(Agilent 7700x)にてXSTC-13に含まれる元素のうち、セシウムの性質に類似する、リチウム、ナトリウム、カルシウムとともに、セシウムを定量した。結果を以下に示す。
【表9】
【0093】
(実施例7)
上記実施例と同様、リンタングステン酸アンモニウム吸着剤を2種類用いて、金属吸着試験を行った。吸着溶液には、セシウムと性質が類似する、リチウム、ナトリウムを50 ppb、pH2.4に調整したセシウム溶液に同濃度、同pHの液質となるように添加して行った上、セシウム以外の放射性元素として混合されることが予想されるストロンチウム,ウラン、トリウムも同様に添加して行った。また、炉部材の鉛も同様に添加して評価した。吸着溶液50mlに、上記吸着剤30mgを加え、シェイカーにて25℃、150 rpm/minの条件で1時間吸着させた。
【0094】
吸着後、0.45μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。ろ過後、ICP-MS(Agilent 7700x)にて各元素を定量した。結果を以下に示す。
【表10】
【0095】
上記の結果、Cs以外の元素のうち、除去すべき元素であるストロンチウム、鉛、トリウム、ウランも全て高収率で回収することができた。また、この選択性は吸着後18時間でも変化がなく、維持していることがわかった。
【0096】
(実施例8)
固液比を1対100として、人工海水中にセシウム濃度が10mg/Lになるようにした溶液中で18時間室温で浸漬攪拌した。その結果、一般ゼオライトの2倍に相当する分配比1.2×10の2乗の吸着能を示した。
【0097】
(実施例9)
リンタングステン酸アンモニウム18.7mgを1μg/Lのセシウム溶液50mlに添加し、24時間浸漬攪拌した。その結果、セシウムの吸着率は、96.8%であった。また、同様に50μg/Lのセシウム溶液中の評価でも94.8%と高い吸着率であった。
【0098】
以上、本実施例により、本発明の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、放射性物質吸着ろ過剤及び放射性物質除去システムとして原子力分野等への利用可能性がある。