(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117506
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220803BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220803BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220803BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220803BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220803BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
C08L101/00
C08K7/06
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078410
(22)【出願日】2022-05-11
(62)【分割の表示】P 2021574248の分割
【原出願日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020166387
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 弘通
(72)【発明者】
【氏名】木内 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒尾 健太
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(57)【要約】
【課題】表面を研磨することにより、熱抵抗値が効果的に低減され、熱抵抗値の低いシートとなる熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【解決手段】有機高分子からなるマトリクスと炭素繊維Xを含み、前記炭素繊維Xがシートの厚み方向に配向している熱伝導性シートであって、前記炭素繊維Xのうち、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%以上であり、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である、熱伝導性シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子からなるマトリクスと炭素繊維Xを含み、前記炭素繊維Xがシートの厚み方向に配向している熱伝導性シートであって、
前記炭素繊維Xのうち、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%以上であり、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記炭素繊維Xのうち、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合が5%以下である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
さらに鱗片状炭素粉末を含有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
シート表面に前記炭素繊維Xの一部が露出しており、1mm×1mmの領域の表面を観察したときに、シートの最高点から、シートの最深部までの厚み方向の深さを100%とした場合において、シートの最高点から厚み方向に40%の位置における厚さ方向に垂直な断面において、シートの占める面積Sが65%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
熱抵抗値が0.024℃・in2/W以下である、請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
厚さが50~900μmである、請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関し、例えば、発熱体と放熱体の間に配置して使用される熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。
熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、高い柔軟性が求められる。したがって、ゴムやゲルなどの柔軟性の高い高分子マトリクスに、熱伝導性を有する充填材が配合されて構成される。また、熱伝導性シートは、厚さ方向の熱伝導性を高めるために、炭素繊維などの異方性を有する充填材を厚さ方向に配向させることが広く知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また特許文献3では、より熱伝導性を高める観点から、炭素繊維などの異方性を有する充填剤がシート面に表出しつつ、シート面の山頂点の算術平均曲(Spc)が一定以下である熱伝導性シートに関する発明が記載されており、実施例では、一定条件下で作成したシートを表面研磨することにより、熱抵抗値を低減できる(すなわち熱伝導性を高めることができる)ことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-056315号公報
【特許文献2】特開2018-014534号公報
【特許文献3】国際公開第2020/067141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献3に記載の発明では、熱抵抗値が比較的低く、放熱性の良好な熱伝導性シートが得られる。しかしながら、近年、電子機器の高度化に伴い発熱量が増大しており、従来よりも、より熱抵抗値の低い熱伝導性シートが求められている。
そこで、本発明は、従来よりも、熱抵抗値のより低い熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、有機高分子からなるマトリクスと炭素繊維Xを含み、前記炭素繊維Xがシートの厚み方向に配向している熱伝導性シートであって、炭素繊維Xが、繊維長が長い炭素繊維と、繊維長が短い炭素繊維をそれぞれ特定割合含む熱伝導性シートは、表面を研磨することにより、熱抵抗値が効果的に低減され、熱抵抗値の低いシートとなることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
【0007】
[1]有機高分子からなるマトリクスと炭素繊維Xを含み、前記炭素繊維Xがシートの厚み方向に配向している熱伝導性シートであって、前記炭素繊維Xのうち、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%以上であり、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である、熱伝導性シート。
[2]前記炭素繊維Xのうち、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合が5%以下である、上記[1]に記載の熱伝導性シート。
[3]さらに鱗片状炭素粉末を含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[4]シート表面に前記炭素繊維Xの一部が露出しており、1mm×1mmの領域の表面を観察したときに、シートの最高点から、シートの最深部までの厚み方向の深さを100%とした場合において、シートの最高点から厚み方向に40%の位置における厚さ方向に垂直な断面において、シートの占める面積Sが65%以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[5]熱抵抗値が0.024℃・in2/W以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[6]厚さが50~900μmである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面を研磨することにより、熱抵抗値が効果的に低減され、熱抵抗値の低いシートとなる熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の熱伝導性シートの一実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の熱伝導性シートの別の実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図3】シートの占める面積Sの算出方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱伝導性シート]
本発明の熱伝導性シートは、有機高分子からなるマトリクスと炭素繊維Xを含み、前記炭素繊維Xがシートの厚み方向に配向している熱伝導性シートであって、前記炭素繊維Xのうち、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%以上であり、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である、熱伝導性シートである。
【0011】
以下、本発明の熱伝導性シートについて詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る熱伝導性シートである。なお、本発明は図面の内容に限定されない。
本実施形態に係る熱伝導性シート10は、有機高分子からなるマトリクス14と炭素繊維Xを含んでおり、詳細には、マトリクス14中に炭素繊維Xが分散し、該炭素繊維Xは熱伝導性シート10の厚み方向に配向している。このように、炭素繊維Xが配向していることにより、熱伝導性シート10の熱伝導性が向上する。
【0012】
ここで、炭素繊維Xが熱伝導性シート10の厚み方向に配向している状態とは、個数割合で60%を超える炭素繊維Xの長軸方向が、熱伝導性シート10の厚み方向から20°以内の範囲に向いている状態をいう。こうした配向の状態は熱伝導性シート10の厚み方向に沿った断面を電子顕微鏡によって観察することで確認することができる。
【0013】
図1に示すように、炭素繊維Xは、その一部がシート表面に露出していることが好ましい。これにより、厚さ方向の熱伝導率を高めやすくなり、放熱性が向上する。また、図示していないが、後述するように炭素繊維Xと共に、鱗片状炭素粉末を含有してもよい。
さらに、熱伝導性シート10は、非異方性充填材16を含有してもよい。炭素繊維Xと共に、非異方性充填材16を含有することにより、熱伝導パスを形成しやすく、シートの厚み方向の熱伝導性が向上しやすくなる。なお、非異方性充填材16は本発明において必須の成分ではなく、
図2に示すように、非異方性充填材16を含まない熱伝導性シート20であってもよい。熱伝導性シート20は、非異方性充填材16が含有されない点以外は、熱伝導性シート10と同様である。
以下、本発明の熱伝導性シートを構成する各成分について、詳細に説明する。
【0014】
(炭素繊維X)
炭素繊維Xは、繊維長の異なる複数の炭素繊維で構成されている。本発明においては、炭素繊維Xのうち、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%以上であり、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である。
繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が40%未満であると、熱伝導性シートの表面を研磨することによる熱抵抗値の低減効果が低くなる。また、研磨後の熱抵抗値を低くするには、研磨前の熱抵抗値を低くすることが好ましく、そのような観点から、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合は好ましくは43%以上であり、より好ましくは45%以上であり、さらに好ましくは47%以上である。
なお、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合とは、炭素繊維X全体における、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の数の割合を意味する。
【0015】
上記した通り、本発明においては、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3~13%である。繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が3%未満であると、熱伝導性シートの研磨による熱抵抗値の低減効果が低くなる。一方、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が13%超であると、研磨前の熱抵抗値が高くなるため、結果として研磨後の熱抵抗値も高くなる。
熱伝導性シートの研磨後の熱抵抗値を低くする観点から、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合は好ましくは3~11%であり、より好ましくは3~8%であり、さらに好ましくは3~5%である。
なお、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合とは、炭素繊維X全体における、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の数の割合を意味する。
【0016】
炭素繊維Xのうち、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合は5%以下であることが好ましい。繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合が5%以下であることにより、研磨による熱抵抗値の低減効果が向上しやすくなる。炭素繊維(C)の割合は好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
なお、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合とは、炭素繊維X全体における、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の数の割合を意味する。
【0017】
炭素繊維Xの平均繊維長D50は、好ましくは50~150μmであり、より好ましくは70~130μmであり、さらに好ましくは80~120μmである。炭素繊維Xの平均繊維長D50がこれら下限値以上であると、炭素繊維同士が接触しやすくなり、熱の伝達経路が確保されやすくなる。炭素繊維Xの平均繊維長D50がこれら上限値以下であると、マトリクス中に炭素繊維を高充填しやすくなる。
【0018】
上記した炭素繊維Xにおける、炭素繊維(A)、炭素繊維(B)、及び炭素繊維(C)の割合、並びに平均繊維長D50は、炭素繊維Xを試料として、横軸を繊維長、縦軸を積算頻度とした繊維長分布曲線から求めることができる。該繊維長分布曲線は、繊維長の小さい炭素繊維から順次積算して得られる数基準の繊維長分布曲線である。
繊維長分布曲線は、炭素繊維Xの顕微鏡観察により作成することができる。例えば、炭素繊維Xを構成する2000個以上の炭素繊維について、繊維長を電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて測定して、繊維長分布曲線を作成し、炭素繊維(A)、炭素繊維(B)、及び炭素繊維(C)の割合を算出できる。また、平均繊維長D50は、積算頻度50%に相当する繊維長を意味する。なお、繊維長分布曲線は、繊維長30μm未満の小さい繊維長の繊維は除外して作成するものとする。より具体的には、測定試料として用いる炭素繊維Xは、熱伝導性シートから単離して準備することができる。また、その炭素繊維Xを光学顕微鏡で観察して観察像を得てから、三谷商事株式会社製画像解析ソフトウェア「WinROOF」を用いて繊維長を計測することができる。
【0019】
炭素繊維Xは、アスペクト比が高いものであり、具体的にはアスペクト比が2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、炭素繊維を厚さ方向に配向させやすくなり、熱伝導性シートの熱伝導性を高めやすい。
また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。
なお、炭素繊維のアスペクト比とは、繊維長/繊維の直径を意味する。
【0020】
熱伝導性シートにおける炭素繊維Xの含有量は、マトリクス100質量部に対して、30~500質量部であることが好ましく、50~300質量部であることがより好ましい。炭素繊維Xの含有量をこれら下限値以上とすることにより、熱伝導性を高めやすくなり、上限値以下とすることにより、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、炭素繊維Xの配向性が良好になる。
【0021】
炭素繊維Xは、平均繊維長の異なる2種以上の炭素繊維を原料として構成されることが好ましく、より具体的には、平均繊維長が50~120μmの短繊維長炭素繊維成分と、平均繊維長が120μm超の長繊維長炭素繊維成分とを併用することが好ましい。
短繊維長炭素繊維成分は、マトリクス100質量部に対して、好ましくは20~490質量部であり、より好ましくは40~290質量部である。
長繊維長炭素繊維成分は、マトリクス100質量部に対して、好ましくは3~100質量部であり、より好ましくは5~70質量部である。
【0022】
熱伝導性シートの研磨による熱抵抗値の低減効果を高め、研磨後の熱抵抗値を低くする観点から、長繊維長炭素繊維成分に対する短繊維長炭素繊維成分の質量比(短繊維長炭素繊維成分/長繊維長炭素繊維成分)は、好ましくは1.5~55であり、より好ましくは3~20である。
上記短繊維長炭素繊維成分の平均繊維長は、好ましくは70~115μmであり、より好ましくは90~110μmである。
上記長繊維長炭素繊維成分の平均繊維長は、好ましくは130~300μmであり、より好ましくは140~260μmである。
原料として配合する短繊維長炭素繊維成分及び長繊維長炭素繊維成分のそれぞれの平均繊維長は、電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の炭素繊維50個の繊維長を測定して、その平均値を平均繊維長とすることができる。
【0023】
炭素繊維Xは、黒鉛化炭素繊維であることが好ましい。黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。
【0024】
炭素繊維Xは、特に限定されないが、異方性を有する方向(すなわち、長軸方向)に沿う熱伝導率が、一般的に60W/m・K以上であり、好ましくは400W/m・K以上である。炭素繊維Xの熱伝導率は、その上限は特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法や、ASTM D5470に準拠した方法で測定することができる。
【0025】
熱伝導性シートは、炭素繊維Xと共に、鱗片状炭素粉末を含むことが好ましい。鱗片状炭素粉末を含むことにより、熱伝導性シートの研磨による熱抵抗値の低下効果をより高めることができる。
【0026】
熱伝導性シートにおける鱗片状炭素粉末の含有量は、マトリクス100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。鱗片状炭素粉末の含有量がこれら下限値以上であると、熱伝導性シートの研磨による熱抵抗値の低下効果をより高めることができ、これら上限値以下であると、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、鱗片状炭素粉末の配向性が良好になる。
【0027】
鱗片状炭素粉末のアスペクト比は2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、鱗片状炭素粉末を厚さ方向に配向させやすくなり、熱伝導性シートの熱伝導性を高めやすい。また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。鱗片状炭素粉末のアスペクト比は、鱗片状炭素粉末の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
鱗片状炭素粉末としては、鱗片状黒鉛粉末が好ましい。鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が鱗片面の面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。
【0028】
上記した黒鉛化炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末などの黒鉛化炭素材料としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
【0029】
黒鉛化炭素繊維は、原料に対して紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0030】
(非異方性充填材)
本発明の熱伝導性シートは、非異方性充填材を含有することが好ましい。非異方性充填材は、炭素繊維Xとは別に熱伝導性シートに含有される熱伝導性充填材であり、炭素繊維Xとともに熱伝導性シートに熱伝導性を付与する材料である。非異方性充填材を充填することで、シートへ硬化する前段階において、粘度上昇が抑えられ、分散性が良好となる。また、炭素繊維X同士では、例えば繊維長が大きくなると充填材同士の接触面積を高くしにくいが、その間を非異方性充填材で埋めることで、伝熱パスを形成でき、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。
非異方性充填材は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する磁力線発生下又は剪断力作用下など、炭素繊維Xが所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0031】
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2以下であり、1.5以下であることが好ましい。アスペクト比が低い非異方性充填材が含有されることで、炭素繊維Xの隙間に熱伝導性を有する充填材が適切に介在され、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。また、アスペクト比を2以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0032】
非異方性充填材の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
非異方性充填材は、上記した中でも、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムから選択されることが好ましく、特に充填性や熱伝導率の観点からアルミニウム、アルミナが好ましく、アルミナがより好ましい。
非異方性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
非異方性充填材の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましい。また、1~15μmであることが特に好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、炭素繊維Xの配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても混合組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
非異方性充填材は、例えば、非異方性充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径を有する非異方性充填材を使用してもよい。
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。あるいは平均粒径は、レーザー回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径である。
【0034】
非異方性充填材の含有量は、マトリクス100質量部に対して、100~800質量部の範囲であることが好ましく、150~700質量部の範囲であることがより好ましい。
非異方性充填材は、100質量部以上とすることで、炭素繊維X同士の隙間に介在する非異方性充填材の量が十分となり、熱伝導性が良好になる。一方、800質量部以下とすることで、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができ、また、非異方性充填材により炭素繊維Xによる熱伝導を阻害したりすることもない。さらに、150~700質量部の範囲内にすることで、熱伝導性シートの熱伝導性に優れ、混合組成物の粘度も好適となる。
【0035】
(マトリクス)
熱伝導性シートは有機高分子からなるマトリクスを含む。マトリクスは、エラストマーやゴム等の有機高分子であり、好ましくは主剤と硬化剤のような混合系からなる液状の高分子組成物(硬化性高分子組成物)を硬化して形成したものを使用するとよい。硬化性高分子組成物は、例えば、未架橋ゴムと架橋剤からなるものであってもよいし、モノマー、プレポリマーなどと硬化剤などを含むものであってもよい。また、上記硬化反応は常温硬化であっても、熱硬化であっても良い。
【0036】
硬化性高分子組成物から形成されるマトリクスは、シリコーンゴムが例示される。シリコーンゴムの場合、マトリクス(硬化性高分子組成物)としては、好ましくは、付加反応硬化型シリコーンを使用する。また、より具体的には、硬化性高分子組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含むものを使用すればよい。
【0037】
ゴムとしては、上記以外にも各種の合成ゴムを使用可能であり、具体例には、例えば、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらゴムを使用する場合、合成ゴムは、熱伝導性シートにおいて、架橋されてもよいし、未架橋(すなわち、未硬化)のままでもよい。未架橋のゴムは、主に流動配向にて使用される。
また、架橋(すなわち、硬化)される場合には、上記で説明したとおり、マトリクスは、これら合成ゴムからなる未架橋ゴムと、架橋剤とからなる硬化性高分子組成物を硬化したものとすればよい。
また、エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなど熱可塑性エラストマーや、主剤と硬化剤からなる混合系の液状の高分子組成物を硬化して形成する熱硬化型エラストマーも使用可能である。例えば、水酸基を有する高分子とイソシアネートとを含む高分子組成物を硬化して形成するポリウレタン系エラストマーを例示できる。
上記した中では、例えば硬化後のマトリクスが特に柔軟であり、炭素繊維や必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末、非異方性充填材の充填性が良い点から、シリコーンゴム、特に付加反応硬化型シリコーンを用いることが好ましい。
【0038】
また、マトリクスを形成するための高分子組成物は、高分子化合物単体からなるものでもよいが、高分子化合物と可塑剤とからなるものでもよい。可塑剤は、合成ゴムを使用する場合に好適に使用され、可塑剤を含むことで、未架橋時の高分子マトリクスの柔軟性を高めることが可能である。
マトリクスの含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは20~50体積%、より好ましくは25~45体積%である。
【0039】
(添加剤)
熱伝導性シートにおいて、マトリクスには、さらに熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、上記したように硬化性高分子組成物を架橋、硬化などさせる場合には、添加剤として、架橋、硬化を促進させる架橋促進剤、硬化促進剤などが配合されてもよい。
【0040】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明の熱伝導性シートは、特に限定されないが、例えば、以下の工程(A)、及び(B)を備える方法により製造することが好ましい。
工程(A):熱伝導性シートにおいて厚さ方向となる一方向に沿って、炭素繊維Xが配向された配向成形体を得る工程
工程(B):配向成形体を切断してシート状にして、熱伝導性シートを得る工程
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0041】
<工程(A)>
工程(A)では、例えば、マトリクスの原料となる高分子組成物と、炭素繊維Xと、必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末及び非異方性充填材とを含む混合組成物から配向成形体を成形する。混合組成物は、好ましくは硬化して配向成形体とする。配向成形体は、より具体的には磁場配向製法、流動配向製法により得ることができるが、これらの中では、磁場配向製法が好ましい。
【0042】
(磁場配向製法)
磁場配向製法では、硬化後にマトリクスとなる液状の高分子組成物と、炭素繊維Xと、必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末及び非異方性充填材とを含む混合組成物を注型容器などの内部に注入したうえで磁場に置き、炭素繊維X及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末を磁場に沿って配向させた後、高分子組成物を硬化させることで配向成形体を得る。配向成形体としてはブロック状のものとすることが好ましい。
また、金型内部において、混合組成物に接触する部分には、剥離フィルムを配置してもよい。剥離フィルムは、例えば、剥離性の良い樹脂フィルムや、片面が剥離剤などで剥離処理された樹脂フィルムが使用される。剥離フィルムを使用することで、配向成形体が金型から離型しやすくなる。
【0043】
磁場配向製法において使用する混合組成物の粘度は、磁場配向させるために、10~300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以上とすることで、各充填材が沈降しにくくなる。また、300Pa・s以下とすることで流動性が良好になり、磁場で炭素繊維X及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末が適切に配向され、配向に時間がかかりすぎたりする不具合も生じない。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV-E、スピンドルSC4-14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
ただし、沈降し難い炭素繊維X、鱗片状炭素粉末、又は非異方性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりする場合には、混合組成物の粘度は、10Pa・s未満としてもよい。
【0044】
磁場配向製法において、磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1~30テスラである。磁束密度を1テスラ以上とすると、炭素繊維を容易に配向させることが可能になる。また、30テスラ以下にすることで、実用的に製造することが可能になる。
高分子組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50~150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分~3時間程度である。
【0045】
(流動配向製法)
流動配向製法では、混合組成物に剪断力をかけて、面方向に炭素繊維X及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末が配向された予備的シートを製造し、これを複数枚積層して積層ブロックを製造して、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
より具体的には、流動配向製法では、まず、高分子組成物に炭素繊維X、及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末、非異方性充填材、並びに種々の添加剤を混入し攪拌し、混入させた固形物が均質に分散した混合組成物を調製する。ここで、高分子組成物に使用する高分子化合物は、常温(23℃)で液状の高分子化合物を含むものであってもよいし、常温で固体状の高分子化合物を含むものであってもよい。また、高分子組成物は、可塑剤を含有していてもよい。
混合組成物は、シート状に伸長させるときに剪断力がかかるように比較的高粘度であり、混合組成物の粘度は、具体的には3~500Pa・sであることが好ましい。混合組成物は、上記粘度を得るために、溶剤が配合されることが好ましい。
【0046】
次に、混合組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状(予備的シート)に成形する。剪断力をかけることで、炭素繊維X及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末を剪断方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に混合組成物を塗工し、その後、必要に応じて乾燥したり、混合組成物を半硬化させたりするとよい。予備的シートの厚さは、50~5000μm程度とすることが好ましい。予備的シートにおいて、炭素繊維X及び必要に応じて配合される鱗片状炭素粉末はシートの面方向に沿う一方向に配向している。
次いで、予備的シートを、配向方向が同じになるように複数枚重ねて積層した後、加熱、紫外線照射などにより混合組成物を必要に応じて硬化させつつ、熱プレス等により予備的シートを互いに接着させることで積層ブロックを形成し、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
【0047】
<工程(B)>
工程(B)では、工程(A)にて得られた配向成形体を、炭素繊維Xが配向する方向に対して垂直に、スライスなどにより切断して、熱伝導性シートを得る。スライスは、例えばせん断刃やレーザーなどで行うとよい。熱伝導性シートは、スライスなどの切断により、切断面である各表面においてマトリクスから炭素繊維Xの一部が露出する。露出する炭素繊維Xは、ほとんどが倒れずに厚さ方向に配向したものとなる。
【0048】
ここで、配向成形体は、JIS K6253で規定するタイプE硬度が10~80であることが好ましく、20~70であることがより好ましい。E硬度が10~80であると、シート状成形体をスライスする際に、炭素繊維Xよりもマトリクスの方が積極的に切断され、炭素繊維Xを露出させ易くすることができる。
【0049】
上記した工程(A)及び(B)を経て製造された本発明の熱伝導性シートは、上記したとおり、表面研磨することにより、効果的に熱抵抗値を低減でき、熱抵抗値の低い熱伝導性シートとなる。したがって、工程(A)及び(B)の後に、熱伝導性シートの表面を研磨する工程である工程(C)を設けることが好ましい。
【0050】
<工程(C)>
工程(C)は、熱伝導性シートの表面を研磨する工程である工程である。
工程(C)では、工程(B)で得られた熱伝導性シートの炭素繊維Xが露出した表面を研磨する。表面の研磨は、例えば、研磨紙や研磨フィルム、研磨布、研磨ベルト等を使用して行うとよい。
研磨紙の性状としては、含有する砥粒の平均粒径(D50)が0.1~100μmのものが好ましく、9~60μmのものがより好ましい。また、研磨紙の砥粒の粒度としては、♯120~20000であることが好ましく、♯300~15000であることが好ましく、♯320~4000であることがより好ましい。
研磨方法は、熱伝導性シートの表面に対して、例えば研磨紙を同一直線方向に連続して当接し研磨するほか、一定距離を往復して研磨したり、同一方向に回転して研磨をしたり、様々な方向に当接して研磨したり、といった方法を用いることができる。
また、研磨の程度は、例えば、表面状態を観察しながら行えばよいが、例えば往復研磨の場合は、1~300回の往復が好ましく、2~200回がより好ましく、3~50回がさらに好ましく、具体的には、炭素繊維Xの突出する長さが100μm以下になる程度に研磨することが好ましい。更には突出する長さが50μm以下になる程度に研磨することがより好ましい。
【0051】
[熱伝導性シートの表面状態]
本発明の熱伝導性シートは、前記したとおり、シート表面に炭素繊維Xの一部が露出していることが好ましい。これに加え、熱伝導性シートの表面状態が以下のとおりであることが、熱抵抗値を低くする観点から好ましい。
【0052】
熱伝導性シートの好適な表面状態について、表面近傍の断面を模式的に示した
図3により説明する。熱伝導性シートを表面から1mm×1mmの領域で観察した際において、シートの最高点Pから、シートの最深部Qまでの厚み方向の深さhを100%とした場合において、最高点Pからシートの厚み方向に40%の位置(すなわち最高点Pからシートの厚み方向に0.4hの位置)における厚さ方向に垂直な断面Rにおいて、シートの占める面積Sが65%以上であることが好ましい。
シートの占める面積Sが65%以上であると、熱伝導性シートの熱抵抗値をより低くすることができる。この理由は定かではないが、このような特定の表面状態の熱伝導性シートは、シートの最表面近傍で比較的平滑であることを意味しており、これにより発熱体などと接触しやすくなり、その結果、熱抵抗値が低下すると考えられる。
【0053】
熱抵抗値をより低下させる観点から、シートの占める面積Sは、好ましくは66%以上であり、より好ましくは68%以上である。また上記したシートの占める面積の上限は特に限定されないが、一般にはシートの占める面積Sは95%以下である。
【0054】
シートの最高点Pは、観察領域において、シートの最も高い位置にある部分であり、通常は表面から露出している炭素繊維Xの先端部分となる。シートの最深部Qは、観察領域におけるシート表面10Aにおける凹部のうち最もシート内部側に位置する部分である。
また、最高点Pからシートの厚み方向に40%の位置(0.4hの位置)における厚さ方向に垂直な断面Rにおけるシートの占める面積Sとは、断面R(面積 1mm×1mm)において、シートを構成する成分(マトリクス、炭素繊維Xなど)が存在する面積の割合を意味する。
なおシートの占める面積Sは、1mm×1mmの領域を10箇所観察して、それぞれの箇所において上記したシートの占める面積を求め、それらの平均値として求めればよい。
【0055】
シートの占める面積Sが一定以上である熱伝導性シートは、例えば、上記した工程(A)~工程(C)を経ることより得られるが、製法は特に限定されるものではない。
【0056】
熱伝導性シートの熱抵抗値は、好ましくは0.024℃・in2/W以下であり、より好ましくは0.022℃・in2/W以下である。熱抵抗値がこのような値であると、発熱体から放熱体へ熱を伝達させやすい熱伝導性シートとなる。熱抵抗値は小さければ小さいほどよいが、通常は0.001℃・in2/W以上である。なお、該熱抵抗値は、熱伝導性シートの厚み方向の熱抵抗値である。
このような熱抵抗値を有する熱伝導性シートは、特に限定されないが、例えば、上記したシート面積Sが一定以上である熱伝導性シートを製造することにより得られる。
【0057】
<表面各種パラメーター(Spc、Sa、Sdr)>
本発明の熱伝導性シートは、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下であることが好ましい。山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下であると、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。
山頂点の算術平均曲(Spc)は、17000(1/mm)以下であることが好ましく、16000(1/mm)以下であることがより好ましい。また、山頂点の算術平均曲(Spc)は、1000(1/mm)以上であることが好ましく、5000(1/mm)以上であることがより好ましい。
【0058】
山頂点の算術平均曲(Spc)は、ISO25178に準拠して測定される、定義領域中における山頂点の主曲率の算術平均を表すパラメータである。この値が小さいことは、発熱体等と接触する点が丸みを帯びていることを示す。一方、この値が大きいことは、発熱体等と接触する点が尖っていることを示す。
なお、丸みを帯びた接触点の位置は定かではないが、例えば、表面に露出した炭素繊維の端部若しくは端面、あるいは、炭素繊維の端部とマトリクスの表面とからなる面が、丸みを帯びた接触点になり得る。
また、山頂点の算術平均曲(Spc)は、所定の測定面積(例えば1mm2の二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0059】
山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙を用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。また、必要に応じて上記した配向成形体のE硬度を10~80程度としこれをシート状にスライスし、上記の研磨処理を行ってもよい。
【0060】
熱伝導性シートの表面の算術平均高さ(Sa)が20μm以下であることが好ましく、1~15μmであることがより好ましい。算術平均高さ(Sa)が20μm以下であることで、シート表面が平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。算術平均高さ(Sa)は、市販の表面性状測定機を利用して測定することが可能で、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0061】
算術平均高さ(Sa)を20μm以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙のうち比較的粒度の粗いものを用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。
【0062】
また、熱伝導性シートの表面は、界面の展開面積比(Sdr)は70以下であることが好ましく、1~60であることがより好ましい。熱伝導性シートの表面から炭素繊維が露出してシート表面が凸凹した状態であっても、界面の展開面積比(Sdr)が70以下であることで、シート表面に平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。
【0063】
なお、界面の展開面積比(Sdr)は、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積(例えば1mm2)に対してどれだけ増大しているかを示す指標であって、完全に平坦な面は展開面積比Sdrが0となる。界面の展開面積比(Sdr)は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0064】
また、界面の展開面積比(Sdr)を70以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙のうち比較的粒度の粗いものを用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。
【0065】
[厚さ]
本発明の熱伝導性シートの厚さは、該シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは50~900μmであり、より好ましくは50~800μmであり、さらに好ましくは150~400μmである。本発明の熱伝導性シートは、このように比較的薄い場合であったとしても、熱抵抗値を一定以下とすることができる。
【0066】
[用途]
熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、バッテリー等の電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートパイプ、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0068】
本実施例では、以下の方法により熱伝導性シートの物性を評価した。
【0069】
[各繊維長別の炭素繊維の割合、平均繊維長D50]
熱伝導性シートに含有される炭素繊維Xについて、繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合、繊維長50μm以下の炭素繊維(C)の割合を以下のとおり算出した。
研磨後の熱伝導性シートからシリコーン溶解剤(関東化学株式会社製KSR-1)を用いて炭素繊維Xを単離した。そして、該単離物を光学顕微鏡(株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX-900)を用いて観察像(画像)を得てから、画像解析ソフトウェアWinROOF2015(三谷商事株式会社製)により、約2000個の個々の炭素繊維の繊維長を計測した。続いて、横軸を繊維長、縦軸を積算頻度(数基準)とした繊維長分布曲線を得た。そして、該繊維長分布曲線により、炭素繊維Xにおける、炭素繊維(A)、炭素繊維(B)、炭素繊維(C)の割合をそれぞれ求めた。なお、このとき繊維長分布曲線は、繊維長30μm未満の小さい繊維長の繊維は除外して作成した。
また、上記のとおり得られた繊維長分布曲線により、炭素繊維Xの平均繊維長D50を求めた。
【0070】
[山頂点の算術平均曲(Spc)、算術平均高さ(Sa)、界面の展開面積比(Sdr)]
研磨後の熱伝導性シートの山頂点の算術平均曲(Spc)、算術平均高さ(Sa)、及び界面の展開面積比(Sdr)について以下のとおり測定した。
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X150)を用いた表面性状解析により、ISO25178に準拠して行った。具体的には、レンズ倍率10倍で、表面積1000μm×1000μmの二次元領域の表面プロファイルを、レーザー法により測定した。同一サンプルに対して3か所測定したときの平均値を山頂点の算術平均曲Spcとして採用した。
算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)についても、同様に同一サンプルに対して3か所測定し、これらの平均値をそれぞれ、算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)とした。
【0071】
[熱抵抗値]
熱抵抗値は、
図4に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。
具体的には、各試料について、本試験用に大きさが30mm×30mm×0.2mmtの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって荷重をかけて、厚さが元の厚さの80%となるように設定した。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θ
j0)、下方の銅製ブロック22の温度(θ
j1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θ
j1-θ
j0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θ
j1は下方の銅製ブロック22の温度、θ
j0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0072】
熱抵抗値の測定は、研磨前の熱伝導性シート及び研磨後の熱伝導性シートのそれぞれを試料として行い、研磨前の熱抵抗値R1、研磨後の熱抵抗値R2を求めた。
研磨後の熱抵抗値R2について以下の基準で評価した
(熱抵抗値R2の評価基準)
A R2が0.022℃・in2/W以下
B R2が0.022℃・in2/W超0.024℃・in2/W以下
C R2が0.024℃・in2/W超0.026℃・in2/W以下
D R2が0.026℃・in2/W超
【0073】
熱抵抗改善率(%)を下記式より算出し、以下の基準で評価した。なお熱抵抗改善率が高いほど、研磨による熱抵抗の低下効果が高いことを意味する。
熱抵抗改善率(%)=100×(R1-R2)/R1
(熱抵抗改善率(%)の評価基準)
A 熱抵抗改善率が45%以上
B 熱抵抗改善率が40%以上45%未満
C 熱抵抗改善率が30%以上40%未満
D 熱抵抗改善率が30%未満
【0074】
[シートの占める面積S]
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X150)を用いた表面性状を解析により、熱伝導性シートの1mm×1mmの領域の表面を観察して、得られた高さMAPを画像解析ソフトウェアWinROOF2015(三谷商事株式会社製)で解析することで各厚み方向の位置における面積の割合を計測した。そして、その計測結果から、シートの最高点と、シートの最深部までの厚み方向の深さを100%として、シートの最高点から厚み方向に40%の位置における厚さ方向に垂直な断面において、シートの占める面積を求めた。1mm×1mmの領域の表面を10箇所測定して、それぞれの測定箇所についてシートの占める面積を求め、それらの平均値を算出し、シートの占める面積Sとした。研磨前の熱伝導性シートと研磨後の熱伝導性シートを試料として、それぞれについてシートの占める面積Sを求めた。
【0075】
[配向率]
作製した熱伝導性シートの断面を電子顕微鏡により観察し、100個の炭素繊維を抽出し、100個中、シートの厚み方向に配向している炭素繊維の数を求めた。61個(61%)以上が配向しているものをAとし、60個(60%)未満のものをBとした。
なお、炭素繊維の長軸方向が、熱伝導性シートの厚み方向から20°以内の範囲に向いているものを配向していると判断した。
【0076】
熱伝導性シートを製造には、以下の各成分を使用した。
【0077】
(マトリクス)
主剤としてアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、硬化剤としてハイドロジェンオルガノポリシロキサンを含む付加反応型オルガノポリシロキサン
【0078】
(炭素繊維X)
以下の炭素繊維を使用した。
炭素繊維1・・・平均繊維長110μm、アスペクト比11、熱伝導率1200W/m・Kの黒鉛化炭素繊維
炭素繊維2・・・平均繊維長150μm、アスペクト比15、熱伝導率900W/m・Kの黒鉛化炭素繊維
炭素繊維3・・・平均繊維長200μm、アスペクト比20、熱伝導率1200W/m・Kの黒鉛化炭素繊維
【0079】
鱗片状黒鉛粉末・・鱗片状、平均粒径130μm、アスペクト比10、熱伝導率550W/m・K
酸化アルミニウム粉末・・球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0
アルミニウム粉末・・不定形、平均粒径3μm
カップリング剤・・n-デシルトリメトキシシラン
【0080】
[実施例1]
マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部)と、炭素繊維1 140質量部、炭素繊維2 10質量部、鱗片状黒鉛粉末20質量部、酸化アルミニウム粉末200質量部、アルミニウム粉末100質量部、及びカップリング剤22質量部を混合して混合組成物を得た。
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ250μmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出している熱伝導性シート(研磨前)を得た。
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒の平均粒径(D50)が60μmである粗目の研磨紙A(粒度#320)により50回往復研磨して、研磨後の熱伝導性シートを得た。該熱伝導性シートの厚みは200μmであった。
【0081】
[実施例2~6、比較例1~4]
混合組成物の組成を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0082】
【0083】
実施例1~6の熱伝導性シートは、該シートに含有される炭素繊維Xのうち繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合及び繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が本発明で規定する範囲であり、研磨することにより熱抵抗値が低下しやすく、かつ研磨後の熱抵抗値が低く放熱性に優れるものであった。これは、各実施例において、研磨後のシートの一定の深さ部分におけるシートが占める面積Sが大きい値となっていることより、シートの最表面近傍の表面性状が比較的平滑になっているからと考えられる。
これに対して、繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が本発明で規定する量よりも少ない比較例1の熱伝導性シート、及び繊維長100μm以下の炭素繊維(A)の割合が本発明で規定する量よりも少ない比較例2の熱伝導性シートは、研磨することによる熱抵抗値の低下効果が小さく、そのため研磨後の熱抵抗値が実施例のシートと比べ高くなっていた。
繊維長200μm以上の炭素繊維(B)の割合が本発明で規定する量よりも多い比較例3及び4の熱伝導性シートは、研磨による熱抵抗値の低下効果は大きいものの、研磨前の熱抵抗値が高いため、結果として研磨後の熱抵抗値が実施例のシートよりも高くなっていた。