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特開2022-117514亜鉛箔及びこれを用いた電池用負極活物質材料、並びに亜鉛箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117514
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】亜鉛箔及びこれを用いた電池用負極活物質材料、並びに亜鉛箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 18/00 20060101AFI20220803BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20220803BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C22C18/00
C25D1/04
H01M4/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085582
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2021561862の分割
【原出願日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2020059067
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀利
(72)【発明者】
【氏名】松藤 昌嗣
(72)【発明者】
【氏名】椛島 貴将
(57)【要約】
【課題】圧延によって負極材料を製造する場合には、亜鉛の結晶粒が成長しやすく、それによってガス発生が起こりやすくなるという従来技術が有する種々の欠点を解消し得る亜鉛の負極活物質を提供する。
【解決手段】亜鉛箔は、亜鉛の結晶粒のサイズが0.2μm以上50μm以下である。亜鉛箔は、亜鉛を母材とし、亜鉛以外の金属元素を含むことが好ましい。前記金属元素は、ビスマス、インジウム、マグネシウム、カルシウム、ガリウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、銀及びマンガンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。前記金属元素の含有割合が質量基準で10ppm以上10000ppm以下であることも好ましい。亜鉛箔は、外形測定による見かけ密度が3g/cm以上7g/cm以下であることも好ましい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛の結晶粒のサイズが0.2μm以上50μm以下である亜鉛箔。
【請求項2】
亜鉛を母材とし、亜鉛以外の金属元素を含む、請求項1に記載の亜鉛箔。
【請求項3】
前記金属元素が、ビスマス、インジウム、マグネシウム、カルシウム、ガリウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、銀及びマンガンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の亜鉛箔。
【請求項4】
前記金属元素の含有割合が質量基準で10ppm以上10000ppm以下である、請求項2又は3に記載の亜鉛箔。
【請求項5】
前記金属元素がビスマスであり、
ビスマスの含有割合が質量基準で10ppm以上10000ppm以下である、請求項4に記載の亜鉛箔。
【請求項6】
アルミニウムの含有割合が0.04質量%以下であり、鉛の含有割合が質量基準で60ppm以下である、請求項2ないし5のいずれか一項に記載の亜鉛箔。
【請求項7】
外形測定による見かけ密度が3g/cm以上7g/cm以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の亜鉛箔。
【請求項8】
亜鉛の結晶粒のサイズが0.2μm以上50μm以下である亜鉛箔からなる、電池用負極活物質材料。
【請求項9】
亜鉛を母材とし、亜鉛以外の金属元素を含む、請求項8に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項10】
前記金属元素が、ビスマス、インジウム、マグネシウム、カルシウム、ガリウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、銀及びマンガンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項9に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項11】
前記金属元素の含有割合が質量基準で10ppm以上10000ppm以下である、請求項9又は10に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項12】
前記金属元素がビスマスであり、
ビスマスの含有割合が質量基準で10ppm以上10000ppm以下である、請求項9に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項13】
アルミニウムの含有割合が0.04質量%以下であり、鉛の含有割合が質量基準で60ppm以下である、請求項8ないし12のいずれか一項に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項14】
外形測定による見かけ密度が3g/cm以上7g/cm以下である、請求項8ないし13のいずれか一項に記載の電池用負極活物質材料。
【請求項15】
亜鉛源を含む電解液を用い、該電解液に浸漬されたカソードに、亜鉛を還元析出させる亜鉛箔の製造方法であって、
前記電解液を循環速度0.001L/(min・mm)以上1L/(min・mm)以下の範囲で循環させながら還元を行い、
還元を行うときの電流密度を1000A/m以上10000A/m以下に設定する、亜鉛箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛箔に関する。また本発明は、亜鉛箔を用いた電池用負極活物質材料及び亜鉛箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛を負極活物質として使用する電池においては、長期保存中にガスが発生することを抑制することと、高い放電性能とを両立させることを目的として、従来鉛やカドミウムが亜鉛に添加されていた。しかし環境意識の高まりとともに鉛やカドミウムの使用が忌避され、これらの元素に代えてビスマスを用いることが提案されている。例えば特許文献1には、亜鉛地金にビスマスを1000ppm以上添加した亜鉛合金を圧延してなる負極亜鉛缶を用いたマンガン電池が記載されている。
【0003】
特許文献2には、マンガン乾電池負極亜鉛材料の製造方法が記載されている。この製造方法では、溶鉱炉で調製した亜鉛及びビスマスを含む合金を鋳造機で帯状に成形した後、所定の厚さに圧延している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-058045号公報
【特許文献2】US2008/029189A1
【発明の概要】
【0005】
亜鉛にビスマスを添加してなる負極材料によれば、ガス発生をある程度は抑制できるものの、未だ満足すべきレベルには至っていない。特に、特許文献1及び2に記載されているように圧延によって負極材料を製造する場合には、亜鉛の結晶粒が成長しやすく、それによってガス発生が起こりやすくなることがある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る亜鉛の負極活物質を提供することにある。
【0007】
本発明は、亜鉛の結晶粒のサイズが0.2μm以上50μm以下である亜鉛箔を提供するものである。
【0008】
また本発明は、亜鉛の結晶粒のサイズが0.2μm以上50μm以下である亜鉛箔からなる、電池用負極活物質材料を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、亜鉛源を含む電解液を用い、該電解液に浸漬されたカソードに、亜鉛を還元析出させる亜鉛箔の製造方法であって、
前記電解液を循環速度0.001L/(min・mm)以上1L/(min・mm)以下の範囲で循環させながら還元を行い、
還元を行うときの電流密度を1000A/m以上10000A/m以下に設定する、亜鉛箔の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電解液の循環速度を算出するために用いられる電極間面積を表す模式図である。
図2図2は、亜鉛の結晶粒のサイズを求めるときに用いられるソフトウエアのキャプチャ像である。
図3図3(a)は、実施例3で得られた亜鉛箔の厚み方向断面に沿う走査型電子顕微鏡像(70°傾斜)であり、図3(b)は、電子線後方散乱回折評価装置で観察した亜鉛の結晶粒の像である。
図4図4は、実施例3で得られた亜鉛箔における亜鉛の結晶粒サイズを解析ソフトウエアで解析した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の亜鉛箔は、亜鉛を母材とするものである。「亜鉛を母材とする」とは、亜鉛箔のうち、亜鉛元素が好ましくは80質量%以上の含有率を占めることをいう。亜鉛元素の含有割合は、ICP発光分光分析により測定することができる。
【0012】
本発明の亜鉛箔は、従来知られている亜鉛箔に比べて、亜鉛箔中での亜鉛の結晶粒のサイズが小さいことを特徴の一つとしている。このことによって、従来の亜鉛箔に比べて、電池の保存中のガス発生が抑制される。この理由は完全に明らかではないが、小さいサイズの亜鉛の結晶粒が分布し、粒界が多数存在する状態となることで、水素過電圧が変化しているためではないかと本発明者は考えている。この利点を一層顕著なものとする観点から、亜鉛の結晶粒のサイズは0.2μm以上50μm以下とすることが好ましく、0.5μm以上50μm以下とすることが更に好ましく、1μm以上30μm以下とすることが一層好ましく、2μm以上26μm以下とすることが更に一層好ましい。亜鉛箔にこのようなサイズの結晶粒を生じさせるための好適な方法については後述する。なお、結晶粒のサイズは、XRDパターンから求められる結晶子サイズとは異なる概念であることに留意すべきである。
【0013】
本発明の亜鉛箔における亜鉛の結晶粒のサイズは次の方法で測定される。測定には、電子線後方散乱回折(以下「EBSD」ともいう。)評価装置(OIM Data Collection Ver.7.2.0、株式会社TSLソリューションズ製)を搭載したFE銃型の走査型電子顕微鏡(SUPRA 55VP、カールツァイス株式会社製)及び付属のEBSD解析装置を用いる。ウルトラミクロトームを用いて断面が切り出されたサンプルを調製し、このサンプルについて、EBSD法に準じて、サンプル全体の厚みを測定し得る断面視における結晶粒サイズのデータを得る。
EBSDの測定データのバックグラウンド処理は、前記EBSD評価装置の「Image Proccessing」内の「Background Subtraction」、「Normalize Intensity Histgram」、「Dynamic Background Subtraction」のチェックを外した状態の「Binning」が4x4(160x120)の条件にて実施する。「Gain」、「Exposure」は「Camera」内の像が図2に示すとおり電子回折において菊池パターンが観察されない状態且つ30±1fpsになるように適宜条件を変更してもよい。この条件下で「Image Proccessing Function」内の「Ave」の値が10の条件下で、「Capture Bkd」にてバックグラウンドの情報を取得する。
結晶粒サイズを測定するときのWD値は15±1mmとし、「Image Proccessing」内の「Background Subtraction」、「Normalize Intensity Histgram」、「Dynamic Background Subtraction」のチェックを入れた状態で、観察箇所上で前記EBSD評価装置の「Capture Pattern」内の「Phase」から「Zn」を選択し、「Solutions」の「Fit」の値が1.5以内、「CI」の値が0.1より高い条件下にて、WD値を調整する。
結晶粒サイズは「Scan」内の「Capture SEM」にて取り出したサンプル断面の写真を「Start Scan」にて測定する。
この測定データを、EBSD解析プログラム(OIM Analysis Ver.7.3.1、株式会社TSLソリューションズ製)の分析メニューの「Grain Size Quick Chart」より「All data」を使用して、結晶粒サイズ(平均)(Grain Size(Average))を求める。この結晶粒サイズ(平均)を、本発明における亜鉛の結晶粒のサイズとする。
本測定においては、方位差15°以上を結晶粒界とみなす。ただし、亜鉛の結晶構造は六方最密充填構造であるために双晶粒界を考慮して、ある粒界での方位差を回転軸と回転角で表し、回転軸が下記の(1)で表され、回転角が94.8±1°及び57±1°の場合と、回転軸が下記の(2)で表され、回転角が34.8±1°及び64.3±1°の場合は、結晶粒界とみなさなかった。観察時の走査型電子顕微鏡の条件は加速電圧:20kV、アパーチャー径:60μm、High Current mode、試料角度:70°とする。観察倍率、測定領域及びステップサイズは、結晶粒の大きさに応じて、適宜、条件を変更してもよい。
【0014】
【数1】
【0015】
本発明の亜鉛箔は、上述のとおり亜鉛を母材とするものであるところ、亜鉛以外の金属元素を含んでいてもよい。それによって電池の保存中のガス発生が効果的に抑制される。この観点から、金属元素として、水素過電圧が亜鉛よりも高いか又は酸化還元電位が亜鉛よりも貴であるものを用いることが有利である。そのような金属元素としては、ビスマス、インジウム、マグネシウム、カルシウム、ガリウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、銀及びマンガンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの金属元素のうち、ビスマス、インジウム、スズ、銀、ガリウムからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが、ガス発生が更に抑制される点から好ましく、ビスマス、インジウム、スズ及び銀からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが、ガス発生の一層の抑制の点から好ましい。
【0016】
電池の保存中のガス発生を効果的に抑制する観点から、亜鉛箔における金属元素の含有割合は、金属元素の合計量で表して、質量基準で10ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、15ppm以上8000ppm以下であることが更に好ましく、質量基準で20ppm以上7000ppm以下であることが一層好ましく、30ppm以上6500ppm以下であることが更に一層好ましく、特に40ppm以上6000ppm以下であることが好ましい。亜鉛箔における金属元素の含有割合は、ICP発光分光分析法にて測定できる。ICP発光分光分析法による測定には、JIS H1111に準拠した方法を採用できる。具体的には、塩酸等の酸性溶液に亜鉛箔を溶解させた後、ICP発光分光分析法で亜鉛以外の含有金属の濃度を測定し、全金属の溶液濃度を1として各種金属元素の含有割合を質量として換算する。
【0017】
亜鉛箔中において前記の金属元素の存在状態は明らかでないが、少なくとも亜鉛との固溶体の状態ではない。固溶体の状態とは金属元素の添加によって亜鉛の結晶構造が変化する状態のことである。金属元素を含有する亜鉛箔の断面を、走査型電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分光法(特性X線検出法)を用いて元素マッピングすると、亜鉛の存在状態としてのマッピング像と金属元素の存在状態としてのマッピング像とがそれぞれ得られる。
【0018】
亜鉛箔において、金属元素はその存在状態が極力均一であることが好ましい。これによって、従来の金属元素含有の亜鉛箔に比べて、電池の保存中のガス発生が一層抑制される。このような金属元素の存在状態を実現するためには、亜鉛箔における亜鉛の結晶粒のサイズを上述のとおり小さくすることが有利である。特に、金属元素と亜鉛とが相溶性がない場合には、そのことに起因して、金属元素は亜鉛の結晶粒の粒界付近に偏析しやすい。この場合、亜鉛の結晶粒のサイズが大きいと、粒界の存在がわかる程度にマクロで観察した場合、金属元素の存在が不均一となる。逆に、亜鉛の結晶粒のサイズが小さいと、粒界の存在がわかる程度にマクロで観察した場合、金属元素の存在状態が均一となる。この理由によって、亜鉛箔における亜鉛の結晶粒のサイズを小さくすることが有利である。
【0019】
従来、金属元素含有の亜鉛箔は、金属元素含有の亜鉛の鋳造物を圧延することによって製造していた。鋳造によって金属元素含有の亜鉛を製造すると、冷却条件に起因して、亜鉛の結晶粒の成長が進行し、小さいサイズの結晶粒を生成させることが容易でなかった。その結果、大きなサイズの亜鉛の結晶粒の粒界付近に金属元素が析出し、粒界の存在がわかる程度に拡大して観察した場合、金属元素が不均一に存在する状態となっていた。このこととは対照的に、本発明においては、好適には後述する電解法によって亜鉛箔を製造している。このことに起因して、小さいサイズの亜鉛の結晶粒を容易に生成させることができ、金属元素の存在状態を極力均一なものとすることが初めて可能となった。
【0020】
本発明の亜鉛箔における金属元素の存在状態は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」ともいう。)によるエネルギー分散型X線分光法(以下「EDS」ともいう。)を用いた金属元素のマッピング像に基づき判断できる。詳細には、マッピング像中に、一辺が300nmの正方形の複数のマス目を仮想的に設定したときに、該複数のマス目の総数に対して好ましくは2個数%以上、更に好ましくは5個数%以上、一層好ましくは10個数%以上のマス目内に金属元素が観察される程度に、金属元素の存在状態が均一になっている。マス目の数は48個以上とする。
【0021】
前記の金属元素のうち、特にビスマスが亜鉛箔中に含まれていると、電池の保存中のガス発生が一層効果的に抑制されるので好ましい。電池の保存中のガス発生を更に一層抑制するために、亜鉛箔におけるビスマスの含有割合は質量基準で10ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、15ppm以上8000ppm以下であることが更に好ましく、20ppm以上6000ppm以下であることが一層好ましく、30ppm以上3000ppm以下であることが更に一層好ましく、特に40ppm以上1200ppm以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の亜鉛箔は、一次電池及び二次電池にて不働態化等の悪影響を低減する観点からアルミニウムを非含有であることが望ましく、環境負荷を軽減する観点から鉛を非含有であることが望ましい。また本発明の亜鉛箔が、これらの元素のうちの両者又は一方を含有したとしても、それらの元素の含有割合は極力低いことが望ましい。具体的には、アルミニウムについてはその含有割合が0.04質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることが更に好ましく、0.02質量%以下であることが一層好ましい。鉛についてはその含有割合が質量基準で60ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、40ppm以下であることが一層好ましい。本発明の亜鉛箔に含まれるアルミニウム及び鉛の含有割合は、ICP発光分光分析法によって測定される。また、本発明の亜鉛箔は、カドミウムを非含有であるか、又は含有したとしてもその割合は極力低いことが望ましい。特にカドミウムの含有割合は質量基準で10ppm以下であることが望ましい。
【0023】
本発明の亜鉛箔は、従来知られている亜鉛箔、例えば特許文献1及び2に記載の圧延法で製造された亜鉛箔に比べて見かけ密度が低いことも特徴の一つである。これによっても、従来の亜鉛箔に比べて、電池の保存中のガス発生が抑制される。
【0024】
亜鉛箔の見かけ密度の値は、具体的には3g/cm以上7g/cm以下であることが好ましく、4g/cm以上7g/cm以下であることが更に好ましく、5g/cm以上7g/cm以下であることが一層好ましい。亜鉛箔の見かけ密度をこの範囲に設定することで、電池の保存中のガス発生が効果的に抑制される。このような見かけ密度を有する亜鉛箔の好適な製造方法については後述する。
【0025】
前記の見かけ密度とは、亜鉛箔の外形測定によって求められる体積と、亜鉛箔の質量とから算出される値である。亜鉛箔の外形測定によって体積を求める方法は以下のとおりである。亜鉛箔の平面視での面積を、亜鉛箔の縦及び横の寸法から算出する。亜鉛箔の厚みを、マイクロメーターによって測定する。厚みは、15箇所での測定結果の相加平均値とする。面積と厚みとから体積を求めた試料の質量を測定し、体積と質量とから見かけ密度を算出する。こうして算出された見かけ密度を外形測定による見かけ密度ともいう。
見かけ密度以外のその他の密度も、ガス発生に影響するものと考えられる。その他の密度の測定方法として、例えばアルキメデス法やJISZ 8807:2012に準じた他の測定方法もある。更に他の測定方法として、比重瓶による密度及び比重の測定方法、ルシャテリエ比重瓶による密度及び比重の測定方法、液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法、音響法による密度及び比重の測定方法、気体置換法による密度及び比重の測定方法が挙げられる。
【0026】
上述した亜鉛箔の見かけ密度に関連し、本発明の亜鉛箔は、その厚みが好ましくは10μm以上500μm以下、更に好ましくは15μm以上400μm以下、一層好ましくは20μm以上300μm以下という薄型のものである。亜鉛箔の厚みは上述した方法によって測定される。このような薄型の亜鉛箔は、薄型一次電池や二次電池の負極材料として特に好適なものである。特に、本発明の亜鉛箔における亜鉛の結晶粒のサイズが、後述するとおり小さい場合には、そのことに起因して柔軟性が高くなり、その結果、薄型でありながら割れや皺の発生が抑制されたものとなる。
【0027】
次に、本発明の亜鉛箔の好適な製造方法について説明する。本発明の亜鉛箔は好適には電解法によって製造される。電解法においては、亜鉛源を含む電解液にアノード及びカソードを浸漬させ、カソードに亜鉛箔を析出させる。亜鉛源を含む電解液としては、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、塩化亜鉛水溶液等が挙げられる。電解液に含まれる亜鉛の濃度は、30g/L以上100g/L以下であることが、結晶粒のサイズが小さい亜鉛箔を容易に得ることができる点から好ましい。電解に使用するアノードとしては、公知の寸法安定化電極(DSE)を用いることが好ましい。DSEとしては、例えば酸化イリジウムをコートしたチタン電極、酸化ルテニウムをコートしたチタン電極などが好適に用いられる。一方、カソードとしては、その種類に特に制限はなく、亜鉛の還元に影響を及ぼさない材料が適宜選択される。例えばアルミニウムを用いることができる。
【0028】
電解液は、必要に応じ、亜鉛源に加えて、上述した金属元素源も含有する。電解液に含まれる金属元素源の濃度は、電解液中の亜鉛と金属元素との合計質量に対して、金属元素の質量の割合が好ましくは10ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、15ppm以上8000ppm以下であることが更に好ましく、20ppm以上7000ppm以下であることが一層好ましく、30ppm以上6500ppm以下であることが更に一層好ましく、特に30ppm以上6000ppm以下であることが好ましく、とりわけ400ppm以上6000ppm以下であることが好ましい。
【0029】
電解液は、更に、他の化合物を含んでいてもよい。他の化合物としては、例えば電解液のpHを調整する目的で硫酸を添加することができる。
【0030】
目的とする見かけ密度を有する亜鉛箔を首尾よく得る観点から、電解を行っている間、電解液を循環させることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。電解液を循環させるためには、例えば電解装置として、閉じた流路と、該流路中に配置された電解槽と、該流路中に配置されたポンプとを備えたものを用い、ポンプを駆動させて電解液を一方向に向けて電解槽中を流通させればよい。電解に使用するアノード及びカソードは、電解槽内に、両者を対向させた状態で浸漬させればよい。アノード及びカソードは、それらの対向面(カソードで言えば電着面)が、電解液の流通方向と平行になるように電解槽中に配置されることが好ましい。
【0031】
電解液を循環させつつ電解を行うときには、電解液の流速、すなわち循環速度を調整することが、目的とする見かけ密度を有する亜鉛箔を首尾よく得る観点から有利である。詳細には、電解液の循環速度を0.001L/(min・mm)以上1L/(min・mm)以下に設定することが好ましく、0.002L/(min・mm)以上0.6L/(min・mm)以下に設定することが更に好ましく、0.003L/(min・mm)以上0.4L/(min・mm)以下に設定することが一層好ましく、0.005L/(min・mm)以上0.04L/(min・mm)以下に設定することが更に一層好ましい。循環速度は、電解液の流量(L/min)を、電極間面積(mm)で除すことで算出される。電極間面積は、図1に示すとおり、電極間距離(mm)と、電着電極幅(mm)との積で表される。図1においては、紙面と直交する方向に向けて電解液を流通させることが好ましい。また図1においては、紙面と直交する方向に沿って電極が延在している。
【0032】
電解を行うときの電流密度は、得られる亜鉛箔における亜鉛の結晶粒の大きさや、亜鉛箔の見かけ密度に影響を及ぼす要因の一つである。詳細には、電流密度を通常の亜鉛電解の条件よりも大きくすることで、微細な結晶を多数生成させることができ、それによって結晶粒のサイズが小さい亜鉛箔を容易に得ることができる。この観点から、電流密度を1000A/m以上10000A/m以下に設定することが好ましく、1000A/m以上6000A/m以下に設定することが更に好ましく、1000A/m以上4000A/m以下に設定することが一層好ましい。これに対して、従来、電解亜鉛箔を製造するときの電流密度は500A/m程度と低いものである。
【0033】
電解液は非加熱状態又は加熱状態で電解に供することができる。電解液を加熱した状態で電解を行う場合には、電解液の温度を好ましくは10℃以上90℃以下に設定する。電解液の温度は、より好ましくは20℃以上90℃以下であり、更に好ましくは30℃以上80℃以下であり、より更に好ましくは30℃以上70℃以下である。亜鉛箔の厚みが、目的とする値となるまで行う。
【0034】
以上の条件で電解を行い、電解液に浸漬されたカソードに亜鉛を還元析出させ、目的とする亜鉛箔を得る。このようにして得られた亜鉛箔は、一次電池及び二次電池の電池用負極活物質材料として好適に用いられる。一次電池としては例えばマンガン電池が挙げられる。二次電池としては例えばニッケル・亜鉛電池、空気・亜鉛電池及びマンガン・亜鉛電池が挙げられる。本発明の亜鉛電池は特に、一次電池の電池用負極活物質材料として好適に用いられる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0036】
〔実施例1〕
(1)電解液の調製
亜鉛化合物として酸化亜鉛を用いた。これを硫酸ととともに水に溶解して電解液を調製した。電解液における亜鉛の濃度は50g/Lとした。硫酸の濃度は硫酸イオンの総量をHSOとして換算した値として200g/Lとした。
【0037】
(2)亜鉛の還元析出
アノードとして、酸化イリジウムをコートしたチタン電極からなるDSEを用いた。カソードとしてアルミニウム板を用いた。アノード及びカソードを図1に示す配置状態とし、電解液を35℃に加熱した状態下にアノードとカソードとの間に電流を流した。電流密度は2000A/mとした。電解液は、循環速度を0.029L/(min・mm)に設定して循環させた。この条件で電解を行い、厚み50μmの亜鉛箔を得た。
【0038】
〔実施例2〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は3000A/mとした。電解液の循環速度は0.033L/(min・mm)とした。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0039】
〔実施例3〕
実施例1で用いた電解液に硝酸インジウムを添加した。インジウムの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるインジウムの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は3000A/mとした。電解液の循環速度は0.033L/(min・mm)とした。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0040】
〔実施例4〕
実施例1で用いた電解液に金属スズを添加した。スズの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるスズの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は3000A/mとした。電解液の循環速度は0.033L/(min・mm)とした。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0041】
〔実施例5及び6〕
実施例1で用いた電解液に硝酸銀を添加した。銀の濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれる銀の含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は3000A/mとした。電解液の循環速度は0.033L/(min・mm)とした。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0042】
〔実施例7〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は2000A/mとした。電解液は循環させなかった。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0043】
〔実施例8〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は2000A/mとした。電解液の循環速度は0.008L/(min・mm)とした。これら以外は実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0044】
〔実施例9ないし11〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表1に示す値となるように調整した。電流密度は2000A/mとした。電解液の循環速度は0.0029L/(min・mm)とした。これら以外は、実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0045】
〔実施例12〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表3に示す値となるように調整した。電流密度は2000A/mとした。電解液の循環速度は0.0029L/(min・mm)とした。目的とする箔の厚みを20μmになるよう調整した。これら以外は、実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0046】
〔実施例13〕
実施例1で用いた電解液に硝酸ビスマスを添加した。ビスマスの濃度は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表3に示す値となるように調整した。電流密度は2000A/mとした。電解液の循環速度は0.0029L/(min・mm)とした。目的とする箔の厚みを200μmになるよう調整した。これら以外は、実施例1と同様にして亜鉛箔を得た。
【0047】
〔比較例1〕
本比較例は鋳造及び圧延によって亜鉛箔を製造した例である。純度99.99%の純亜鉛を500℃で溶融させ、溶湯にビスマスを添加した。ビスマスの添加量は、目的とする亜鉛箔に含まれるビスマスの含有割合が表1に示す値となるように調整した。この溶湯を黒鉛製鋳型(鋳造物の形状:10mm×100mm×1mm厚)に鋳込んで鋳造物を得た。その後、3tのロール式プレス機によって圧延し、厚さ50μmの亜鉛箔を得た。
【0048】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた亜鉛箔について、見かけ密度、各元素の含有割合、並びに亜鉛の結晶粒のサイズを上述の方法で測定した。また、以下の方法で亜鉛箔からのガス発生量を測定した。これらの結果を表1ないし3に示す。
また、実施例3で得られた亜鉛箔の厚み方向断面に沿う走査型電子顕微鏡像(70°傾斜)、及びEBSDで観察した亜鉛の結晶粒の像をそれぞれ図3(a)及び図3(b)に示す。更に、実施例3で得られた亜鉛箔における亜鉛の結晶粒サイズを解析ソフトウエアで解析した結果を表すグラフを図4に示す。なお、図3(a)からは、亜鉛箔の厚みが約十数μmであることが観察される。図3(a)は、亜鉛箔の断面を70°傾斜させて状態で撮影した像なので、実際の厚みは約50μmである。
【0049】
〔ガス発生量〕
電解液として、20%塩化アンモニウム水溶液を用いた。この電解液に亜鉛箔を浸漬し、60℃で1週間静置した。その間に発生した水素ガスの量を、ガラスセルを用いて測定した。測定結果は、単位面積当たり且つ一日当たりのガス発生量に換算した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表1ないし3に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた亜鉛箔は、比較例の亜鉛箔に比べて見かけ密度及び亜鉛の結晶粒のサイズが低く、それらのことに起因してガスの発生量が抑制されていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、負極活物質として用いた場合に、電池の長期保存中のガス発生量がこれまでよりも抑制される亜鉛箔が提供される。
図1
図2
図3
図4