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特開2022-117541リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータ及びその製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117541
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータ及びその製法
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/028 20160101AFI20220804BHJP
   H02K 13/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H02K11/028
H02K13/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014071
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】591013997
【氏名又は名称】株式会社 五十嵐電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】林 宏治
【テーマコード(参考)】
5H611
5H613
【Fターム(参考)】
5H611AA03
5H611BB03
5H611SS04
5H611UA07
5H613AA02
5H613AA03
5H613BB04
5H613BB15
5H613BB26
5H613QQ06
5H613SS09
(57)【要約】
【課題】モータ体格を大きくすること無く、電機子の高速回転及び発熱に対しても信頼性が高く且つ、小型で低コストの、リング状バリスタ付き整流子モータを提供する。
【解決手段】整流子セグメントには、外側端面の外周側に対応する位置において、外側端面から軸線方向の外側に伸び、かつ整流子セグメントの円周方向の長さよりも短い幅で、延長細片部が一体に設けられており、複数の整流子セグメントの延長細片部と、絶縁性筒体部と整流子の外側端面により、凹部状の素子収容空間を構成しており、リング状バリスタは、リング状のバリスタ本体と帯状の複数の銅電極とを有しており、凹部状の素子収容空間に、リング状バリスタが収容され、各延長細片部とリング状バリスタの各電極とが一体に結合されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定される整流子と、前記整流子に接続されたリング状バリスタとを備えた小型の直流モータであって、
前記整流子は、
絶縁材料からなり、内側端面及び外側端面を有する円筒状の絶縁性筒体部と、
導電性材料からなり、前記絶縁性筒体部の外周に離間して固定された複数の整流子セグメントと、
前記回転軸と共通の軸線を有する中空穴とを有し、
前記各整流子セグメントは、前記絶縁性筒体部の前記内側端面の外周側に対応する位置に、電機子巻き線との接続部を有しているものにおいて、
前記各整流子セグメントには、前記外側端面の外周側に対応する位置において、前記外側端面から前記軸線方向の外側に伸び、かつ前記整流子セグメントの円周方向の長さよりも短い幅で、延長細片部が一体に設けられており、
前記複数の整流子セグメントの前記延長細片部と、前記絶縁性筒体部と前記整流子の前記外側端面により、凹部状の素子収容空間を構成しており、
前記リング状バリスタは、リング状のバリスタ本体と、前記バリスタ本体のリングの外周の表面部に等間隔に設けられ前記各整流子セグメントに対応する、帯状の複数の電極とを有しており、
前記凹部状の素子収容空間に、前記リング状バリスタが収容され、前記各延長細片部と、前記リング状バリスタの前記各電極とが一体に結合されていることを特徴とする小型直流モータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記各延長細片部の円周方向の幅の総和は、前記整流子の外周の円周長さの1/3~1/5であり、
前記延長細片部の軸方向長さLは、前記リング状バリスタの軸方向の厚みと同等であり、
前記素子収容空間は、前記整流子の外側に開いた空間であることを特徴とする小型直流モータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記整流子セグメントの材料及び前記リング状バリスタの前記各電極の材料は銅であり、
前記各延長細片部と、前記リング状バリスタの前記各電極とが、溶融により一体化されていることを特徴とする小型直流モータ。
【請求項4】
請求項2において、
前記整流子セグメントの材料及び前記リング状バリスタの前記各電極の材料は銅であり、
前記各延長細片部と、前記リング状バリスタの前記各電極とが、錫合金の半田溶接により、溶融により一体化されていることを特徴とする小型直流モータ。
【請求項5】
請求項1に記載の小型直流モータの製法であって、
前記整流子における前記各整流子セグメントの前記延長細片部に、前記リング状バリスタの前記電極とを近接配置し、
加圧力を与えながら高周波電流を流し、高周波溶接により前記延長細片部と前記リング状バリスタの前記電極を溶融させ、前記延長細片部と前記リング状バリスタの前記電極と接合させる
ことを特徴とする小型直流モータの製法。
【請求項6】
請求項1に記載の小型直流モータの製法であって、
前記整流子における前記各整流子セグメントの前記延長細片部と、前記リング状バリスタの前記各電極とを対応させて近接配置し、
錫合金の半田溶接により、前記整流子セグメントの前記延長細片部に前記リング状バリスタを接続する
ことを特徴とする小型直流モータの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータ及びその製法に係り、特に、自動車の電動アクチュエータ等に適した、駆動電源の電圧が100Vよりも低い、小型の直流モータを対象とするものである。
【背景技術】
【0002】
整流子を備える小型直流モータは、電気的接点かつ機械的接点としてのカーボンブラシと整流子があるため、ブラシと整流子が切り替わったタイミングで、整流子とブラシの接点に火花が発生することがあり、それが電気ノイズの原因となる。従来から、この火花放電、換言するとサージを除去する目的で、小型直流モータの整流子に、電気雑音防止素子、例えばバリスタ、抵抗、および厚膜集積回路等を接続することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1の図24図25には、コンミテータと電機子コイルとの間に、リング状バリスタを設けた例が開示されている。すなわち、アマチュアに固設された回転軸の一端側に、コンミテータを構成する各整流子片やブラシが配置され、さらに、回転軸と同軸状で電機子コイル側、すなわちコンミテータとは反対側に、円板状のリングバリスタが設けられている。
【0004】
また、特許文献2の図23図25には、多数の導電性整流子セグメントを具備する電気モータの整流子において、各整流子セグメントを、短絡導電体を介して、リングバリスタに接続する構成が開示されている。
さらに、特許文献3には、ブラシ摺動部の背面側空間に設けられたリング状の凹部を備える整流子本体部と、リテーナ部品と、ノイズ素子と、蓋状の封入用部品と、弾性絶縁部品とを備える、整流子が開示されている。リング状凹部の内部空間には、リテーナ部品で位置決めされたノイズ素子を設置し、ノイズ素子上部又は下部から弾性絶縁部品を押し当て、弾性絶縁部品上部又は下部から蓋状の封入用部品で蓋をすることで、各整流子片と前記ノイズ素子を当接させ電気的に接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-063347号公報
【特許文献2】特開2001-157415号公報
【特許文献3】特開2013-34278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車の電動アクチュエータ等に使用されるモータには、所定の耐熱性や耐震性が求められる。特に、整流子を備える直流モータにおいては、モータ駆動時の電流の転流による火花放電、換言すると、整流時にカーボンブラシと整流子の間で発生するサージによって生成されたジュール熱により、整流子付近の温度が一時的に高温になることがある。また、出力の大きなモータでは、高速回転時等に流れる大きな電流により、ブラシと整流子との摺動部における摩擦により発熱し、整流子付近の温度が上昇する。
【0007】
特許文献1に開示されているように、電機子コイル側にリング状バリスタを取り付ける場合は、耐熱性に関する配慮の必要性は低くなる。他方、リング状バリスタの半径が大きくなるため、耐震性を考慮する必要がある。例えば、20000RPMを超える高速回転で、ラジアル方向に大きな力が働き、リング状バリスタが割れるケースが報告されている。また、半径が大きくなると必然的に接続のための半田の量も多くなる。そのため、高速回転を伴うモータに、リング状バリスタは殆ど採用されていない。
リング状バリスタの電極は、一般的に半田の濡れ性が銅電極よりも良い銀電極が用いられる。その反面、サージによってジュール熱が発生した場合、整流子のセグメント銅片との熱膨張差により、リング状バリスタに対する熱応力が加わり、割れやすくなる。
【0008】
特許文献2に開示された発明は、リングバリスタを整流子の外端側に配置し、リングバリスタの各電極と各整流子セグメントを、半田を用いず、短絡導電体を介して個々に短絡するものである。この発明は、短絡導電体の弾性を利用してリングバリスタの各電極と各整流子セグメントとを電気的に接続しているが、機械的な結合力が弱いため、長期的に安定した接続状態を確保するのが難しく、実用化には至っていない。
【0009】
特許文献3に開示された発明では、ノイズ素子 と各整流子片との電気的接合に半田を用いず、Oリング等の弾性絶縁部品をノイズ素子に押し当てて圧迫固定することで電気的接合を行っている。しかし、自動車の電動アクチュエータ等、長期間にわたり、耐熱性、耐震性の要求される用途に対し、弾性部材で十分な機械的強度を確保するには限度がある。
また、リング状バリスタを、樹脂で一体化する例も知られているが、この方式は、放熱特性を犠牲にしている。
【0010】
本発明は、リング状バリスタの放熱特性を損なわずリング状バリスタの破壊を防止でき、かつ、コンパクトで、作業性に優れた、バリスタ付き整流子を備えた直流モータ及びその製法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様によれば、回転軸に固定される整流子と、前記整流子に接続されたリング状バリスタとを備えた小型の直流モータであって、
前記整流子は、
絶縁材料からなり、内側端面及び外側端面を有する円筒状の絶縁性筒体部と、
導電性材料からなり、前記絶縁性筒体部の外周に離間して固定された複数の整流子セグメントと、
前記回転軸と共通の軸線を有する中空穴とを有し、
前記各整流子セグメントは、前記絶縁性筒体部の前記内側端面の外周側に対応する位置に、電機子巻き線との接続部を有しているものにおいて、
前記各整流子セグメントには、前記外側端面の外周側に対応する位置において、前記外側端面から前記軸線方向の外側に伸び、かつ前記整流子セグメントの円周方向の長さよりも短い幅で、延長細片部が一体に設けられており、
前記複数の整流子セグメントの前記延長細片部と、前記絶縁性筒体部と前記整流子の前記外側端面により、凹部状の素子収容空間を構成しており、
前記リング状バリスタは、リング状のバリスタ本体と、前記バリスタ本体のリングの外周の表面部に等間隔に設けられ前記各整流子セグメントに対応する、帯状の複数の電極とを有しており、
前記凹部状の素子収容空間に、前記リング状バリスタが収容され、前記各延長細片部と、前記リング状バリスタの前記各電極とが一体に結合されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、サージによってジュール熱が発生した場合でもリング状バリスタの放熱特性を損なわないため、リング状バリスタの破壊を防止できる。また、コンパクトで、作業性に優れた、リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態になる、リング状バリスタ付き整流子を備えた直流モータの縦断面図である。
図2図1の直流モータにおける、リング状バリスタ付き整流子とその周辺部分を拡大して示した縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態における、整流子とリング状バリスタの関係を示す、斜視図である。
図4】本発明の一実施形態における、リング状バリスタ付き整流子の縦断面図である。
図5図4の右側面図である。
図6】本発明の一実施形態における、EMC回路の構成例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態における、直流モータの製造方法の例を示す図である。
図8A】本発明の一実施形態における、直流モータの製造方法の例を示す図である。
図8B】本発明の一実施形態における、直流モータの製造方法の例を示す図である。
図9】本発明の一実施形態になる直流モータと比較例の直流モータの、伝導エミッションの関係を示す図である。
図10】本発明の一実施形態になる直流モータと比較例の直流モータの、放射エミッションの関係を示す図である。
図11A】本発明の他の実施形態における、整流子とリング状バリスタの関係を示す、斜視図である。
図11B図11Aに示した実施形態の、製造方法の例を示す図である。
図12図11Aに示した実施形態の直流モータにおける、リング状バリスタ付き整流子の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る直流モータの実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0015】
以下、本発明の一実施形態になる、リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータの実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態になるリング状バリスタ付き整流子を備える直流モータの一例を示す、縦断面図である。直流モータ10のモータケース11は、その一端が開口したカップ状をした鉄等の金属製のケースである。このモータケース11の開口側に固定されたエンドプレート13の内側には、絶縁性樹脂製のエンドキャップ25が固定されている。
モータケース11には、直流モータのステータを構成するマグネット12が固定されている。直流モータのロータを構成する電機子巻線17及び積層鉄心18が回転軸16と一体に形成され、この回転軸は軸受14、15を介して、モータケース11及びエンドプレート13に回転自在に支持されている。積層鉄心18は円周方向に多極に分極され、各鉄心に夫々電機子巻線17が巻回され、それらの端部は整流子19に接続されている。
【0016】
直流モータ10はさらに、回転軸16に固定された整流子19に摺接する一対のカーボンブラシ20と、エンドキャップ25に保持されたブラシホルダー21とを備えている。エンドキャップ25の半径方向外縁付近には、ピグテール23を介して各々カーボンブラシ20に接続された給電用のターミナルが設けられており、このターミナルは、エンドプレート13の外側に伸びるターミナル端子22を有している。整流子19にはリング状バリスタ26が一体に固定され、リング状バリスタ付き整流子を構成している。
【0017】
図2は、図1の直流モータにおける、リング状バリスタ付き整流子とその周辺部分を拡大して示した縦断面図である。また、図3は、整流子19とリング状バリスタ26との関係を示す、斜視図である。
整流子19は、樹脂製の絶縁性筒体部24の外周に固定された複数、本実施例では5個の、銅製の整流子セグメント190を有している。各整流子セグメント190の一端には、軸方向に伸びる延長細片部191が設けられ、これら延長細片部191の内側に、リング状バリスタ26を収容する凹部状の素子収容空間28が形成されている。各整流子セグメント190の他端には電機子巻線接続片192が設けられている。各整流子セグメント間にはセグメント間ギャップ193がある。
【0018】
リング状バリスタ26は、リング状のバリスタ本体260と、このバリスタ本体のリングの外周の表面部に等間隔に設けられた帯状の複数の銅電極261とを有する。バリスタ本体260は、非直線性抵抗特性を持つ半導体セラミックスで構成されている。各銅電極261は整流子セグメント190に対応して、バリスタ本体260の外周面に設けられており、本実施例では5個の銅電極がある。
本発明に使用するリング状バリスタは、結晶粒子を調整することによりセラミック自体の機械的強度も高いものを使用する。電機子コイル側にリング状バリスタを取り付けるのに比べると、半径のサイズが1/2程度と小型になるので、モータの回転に伴う振動への耐性は高くなる。
【0019】
本発明では、絶縁性筒体部24の反電機子巻線側端面を外側端面241、電機子巻線側端面を内側端面242と定義する。換言すると、整流子19の外側端面に設けられた素子収容空間28は、絶縁性筒体部24の外側端面241と各整流子セグメント190の延長細片部191とによって囲まれた空間である。
伴う振動への耐性は高くなる。
【0020】
本発明では、整流子セグメント190の円周方向の幅に対して、延長細片部191の幅を狭くすることで、素子収容空間28の隙間を大きくし、外部に対して大きく開いた空間としている。一例として、整流子19の直径が5mm、整流子セグメントが5個の場合、各整流子セグメントの円周方向の幅は4mmであるのに対し、延長細片部191の円周方向の幅は0.9mmである。この場合、各延長細片部191の円周方向の幅は、各整流子セグメント190の円周方向の幅の約1/4である。延長細片部191の円周方向の幅は、整流子19の直径や整流子セグメントの数によっても変化する。しかし、実用上、比較的高速の回転に耐えるリング状バリスタの直径には制限があり、従って、モータの整流子19の直径にも上限がある。そのため、実用上、各延長細片部191の円周方向の幅の総和は、整流子19の外周の円周長さの1/3~1/5とするのが望ましい。
また、延長細片部の軸方向長さLは、1.0mm~1.2mm程度であり、延長細片部の半径方向の厚みは、0.4mm~0.6mm程度である。
このように、延長細片部191の円周方向の幅が整流子セグメント190の円周方向の幅よりもかなり小さく、軸方向長さLも短いため、素子収容空間28は、隙間が大きく、外部に対して大きく開いた空間となっている。
【0021】
本発明によれば、リング状バリスタ26は、複数の延長細片部191に固定されているため、各延長細片部の間は、外部空気層と直接、接触している。すなわち、リング状バリスタ自体が、整流子の整流子セグメントの内側の空間に封じ込まれたり、樹脂で一体化されたりしていない。また、リング状バリスタの片面、すなわち、絶縁性筒体部24の外側端面241に面していない側の面を露出させることにより、放熱性を高めている。そのため、本発明のリング状バリスタ26は、温度上昇時の冷却特性が優れている。そのため、モータ駆動時の電流の転流による火花放電による温度変化で、複数部材の熱膨張率の違いにより、部材の繰返し変形が生じた場合でも、電気雑音防止素子の放熱特性を損なわず、電気雑音防止素子の破壊を防止することができる。
【0022】
また、リング状バリスタは、整流子セグメントの複数の延長細片部(本実施例の場合は5か所)で支えられているので、ラジアル方向(遠心方向)に作用する力にも強い。
また、凹部状の素子収容空間28は、その外側と内側の間に段差を有する2段の凹設部となっている。これは、絶縁性筒体部24の樹脂とリング状バリスタ26の熱膨張係数とが異なるため、絶縁性筒体部24とリング状バリスタ26との接触面積を減らすためである。
【0023】
本発明の一実施形態になる、リング状バリスタ付き整流子の詳細について、さらに説明する。
図4は、リング状バリスタ付き整流子の縦断面図であり、図5図4の右側面図である。
絶縁性筒体部24は、各整流子セグメント190が固定される筒体の本体部240と、回転軸16に固定するための中空穴243を有している。銅製の各整流子セグメント190の延長細片部191とリング状バリスタ26の銅電極261とは、各々、高周波による溶融部300で一体に結合されている。
【0024】
図6に、本発明の一実施形態における、EMC回路27の構成例を示す。このEMC回路27は、ICフィルタ回路を構成する、コンデンサC1、C2、C3、C4、チョークコイル(L1、L2)、PTC等の素子が基板上に実装された回路である。コンデンサC1、C4、チョークコイル(L1、L2)は、コモンモードノイズ対策として機能し、コンデンサC2、C3は、ディファレンシャルモードのノイズ対策として機能する。モータの出力が大きくなると通電電流が増えるために、転流時のノイズが大きくなり、カーボンブラシや整流子の摺動面の寿命を延ばし、電気ノイズの発生を抑制する必要がある。本発明では、電気雑音防止素子としてリング状バリスタ26を実装する。放電しようとする電荷は、リング状バリスタ26に蓄積されるので、火花放電や電気ノイズが低減される。すなわち、ICフィルタ回路は、整流時にカーボンブラシと整流子の間で発生した電磁波を吸収する役割を担い、低周波帯域においてフィルタ効果が認められる。一方のリング状バリスタは、整流時にカーボンブラシと整流子の間で発生するサージによって生成されてジュール熱量をバリスタで消費することにより広い周波数帯域において電気ノイズを抑制する働きがある。
【0025】
本発明によれば、リング状バリスタが、整流子素子の反電機子巻線側端面と整流子セグメント190の一端を若干延長した延長細片部とを利用して形成された収容空間28に内蔵されているために、部品点数を少なくすることができ、電機子を製作する上で作業工数が大幅に少なくすることができる。且つ、モータの材料コストを大幅に下げることができる。
【0026】
また、この実施形態によれば、素子収容空間28すなわちリング状の凹部を、カーボンブラシ摺動部の背面側空間に設けるため、整流子の半径方向の外側にリング状バリスタが露出せず、整流子の寸法、特に半径方向の寸法、を増大させることが無く、モータ本体の大型化を防ぐことができる。すなわち、絶縁性筒体部24の反電機子巻線側端面にリング状の凹部を設けことにより、リング状バリスタを収納し内蔵することができるため、モータ本体を半径方向に大型化させることなく素子収容空間を構成することができ、モータの電機子の質量バランスが均質となる。
【0027】
次に、本発明の一実施形態における、直流モータの製造方法について、図7図8A図8Bを参照しながら、説明する。
まず、図7の(A)に示したように、回転軸及び積層鉄心18を備えたモータのロータと、整流子19と、リング状バリスタ26を用意する。次に、整流子19の外側端面に設けられた素子収容空間28内において、バリスタ26の位置決めをする。すなわち、整流子19の延長細片部191の軸方向の中心とリング状バリスタ26のいずれかの銅電極261の軸方向の中心とを一致させて、延長細片部191と銅電極261とを、図8Aのように、重ね合わせる。バリスタの銅電極261の位置はカメラ等で確認する。なお、以下も含めて、一例の作業は、ロボットにより行う。次に、リング状バリスタ26を整流子19に溶接によって固定する。この溶接は、例えば、1つの整流子セグメント190の延長細片部191の両側から銅電極261との溶接を約2秒かけて行い、延長細片部191と銅電極261とを、高周波溶接する。すなわち、1つの延長細片部191と対応する銅電極261とに、加圧力を与えながら各々高周波電流を流し、発生する抵抗熱によって加熱し、延長細片部191と銅電極261を溶融させ、溶融部300(図8B参照)として一体化する。その後、整流子19を72度(360度/5)だけ回転させ、順次、次の地点の延長細片部191と対応する銅電極261の溶接を行う。このようにして、各延長細片部191の銅の細片とリング状バリスタ26の各銅電極261とを、高周波により溶融させて接合し、溶融部300として一体化する。接合のために延長細片部自体を溶かすため、延長細片部の円周方向の幅は、リング状バリスタ26を整流子19に保持するのに必要な機械的強度の観点から求められる幅よりも、若干大きくなる。
素子収容空間28は、隙間が大きく、外部に対して大きく開いた空間となっているため、高周波溶接の作業は容易である。
【0028】
次に、図7の(B)に示したように、バリスタ付き整流子を、積層鉄心18を備えたモータの回転軸に所定の位置まで圧入し、図7の(C)に示した状態とする。その後、円周方向に多極に分極された各積層鉄心18に夫々電機子巻線17が巻回され、この電機子巻線と整流子とを電気的に接続することにより、モータのロータが完成する。
なお、上記製造方法に代えて、回転軸及び積層鉄心18を備えたモータのロータに整流子19を圧入し、この整流子に、高周波溶接によりバリスタ26を固定しても良い。
【0029】
また、各整流子片に対し、バリスタの電極部を大きくしているため、換言すると、電極部の円周方向の幅を大きくしているため、絶縁性筒体部のカーボンブラシ摺動部の背面側空間にリング状の凹部を設け、バリスタを収納し内蔵する際、リテーナ部品等でバリスタを位置決めすることなく比較的ラフに設置しても溶融接続が可能である。また、延長細片部191の周囲は、隙間が大きく、外部に対して大きく開いた空間となっているため、溶接作業が容易である。
さらに、溶融接続部をできる限り小さく、バリスタに整流子片と同一材料である銅を電極とすることで、溶融接続時の熱応力による破壊や剥がれを極力低減することができる。
【0030】
出力の比較的大きなモータでは、通電される電流値が大きくなるため、整流子とカーボンブラシの摺動部では大きく発熱し、周辺部品は熱膨張、収縮を繰り返すこととなる。その際、各部品の熱膨張率も各々異なるため、部品間で熱応力が繰返し発生することとなる。整流子片とバリスタを半田接合させていると、熱応力により半田接合部にクラックが発生したり、バリスタ自体が熱衝撃により割れや欠けの現象が起こり得る。
本発明の実施例では、半田を用いず、各整流子片とバリスタの対応する電極部とを、高周波溶接により溶融させて接合させることにより、溶融接合部分に過大な応力がかかることが無く、バリスタの破壊を防止することができる。
【0031】
ここで、延長細片部191の軸方向長さL(図8B参照)について、説明する。
この延長細片部191の軸方向長さLは、リング状バリスタ26の軸方向の厚みと同等である。すなわち、Lは、リング状バリスタ26の厚みの0.8~1.0倍とするのが望ましい。具体的な例として、リング状バリスタの厚みは、溶接時の伝熱性を考慮し、0.6~1.0mmとする。一般に、リング状バリスタは、厚みを薄くすると、機械的強度が弱くなる。本実施例では、結晶粒子のサイズを調整することにより、一般の汎用的なバリスタのセラミック自体よりも機械強度を3~5倍程度高くし、これにより、溶接時の急激な熱応力の変化に対し、リング状バリスタを割れ難くしている。
【0032】
延長細片部191とリング状バリスタの電極261を溶接する際、(1)接触面積を大きくとることにより接触抵抗を下げる、(2)隣接する整流子セグメントに半田溶接部が接触しないよう、スペースを設ける、(3)整流子セグメントの延長部を「細片部」にし、且つ軸方向の長さを短くすることによって、熱応力を緩和すると共に、溶接の時間を短縮することが可能となる。
【0033】
図9は、整流子に、リングバリスタを取り付けた場合の伝導エミッションの測定結果の例を示すものである。実線は、本発明の一実施形態、すなわち、絶縁性筒体部24の外側端面241にリングバリスタを取り付けた場合の測定結果である。破線は比較例、すなわち、電機子巻線側端面である内側端面242にリングバリスタを取り付けた場合の測定結果である。リング状バリスタの設置位置以外の条件は同じである。
本発明は、比較例に比べて、低域150KHzから高域108MHzまでの広い周波数範囲において、伝導エミッションの値が低くなっており、ノイズ抑制効果が認められる。
【0034】
図10は、図9と同様の2組の整流子に関して、放射エミッションの関係を求めたものである。本発明の場合、1GHz付近では、比較例よりも放射エミッション、すなわち電界強度の値が高くなっているが、1.2GHz以上2.5GHzまでの高周波帯域において、ノイズ抑制効果が認められる。
本発明によれば、モータ駆動電圧が100Vよりも低い、例えば最大70V以下であれば、バリスタの電圧範囲を調整することにより、整流機構で発生する火花放電を低減し得る電機子、及びモータを提供することが可能である。
【0035】
このように、本発明の実施例によれば、サージによってジュール熱が発生した場合でもリング状バリスタの放熱特性を損なわず、リング状バリスタの破壊を防止でき、かつ、コンパクトで、作業性に優れた、リング状バリスタ付き整流子を備える直流モータ及びその製法を提供することができる。
【0036】
次に、本発明の他の実施形態について、図11A図11B図12を参照しながら説明する。この実施例では、延長細片部191とリング状バイリスタの電極261とを、半田によって溶接する。
図11Aは、本発明の他の実施形態における、整流子とバリスタの関係を示す斜視図である。310が、はんだによる溶接部である。
絶縁性筒体部24の外側端面241に、例えば、双頭自動錫溶接機を利用して、1つの整流子セグメント190の延長細片部191と銅電極261とを、半田溶接により溶接し、図11Bに示したように、溶接部310として一体化する。素子収容空間28は、隙間が大きく、外部に対して大きく開いた空間となっているため、半田溶接の作業は容易である。
【0037】
より具体的には、回転軸に整流子を取り付けた後に、リング状バリスタの位置決めを行う。各整流子セグメントの延長細片部と、バリスタの電極部分の位置を、カメラ等で確認し、半田溶接する。半田としては、錫合金を使用して接合する。延長細片部は、半田溶接では溶けないので、前記した実施例の場合よりも、延長細片部の幅を若干小さくしても良い。この場合でも、各延長細片部191の円周方向の幅の総和は、整流子19の外周の円周長さの1/3~1/5とするのが望ましい。
【0038】
溶接により絶縁性筒体部24の外側端面241に固定されるリング状バリスタは、小径のため、半田の濡れ性をカバーすることにより銅電極に替えることができる。その結果、整流子のセグメント(銅片)とリング状バリスタ上の銅電極間の半田接合量が少なくて済むため、銅片との熱膨張差が小さくなり、バリスタに加わる熱応力を緩和(ショックアブソーバー)することが期待できる。加えて、銅電極は銀電極より、耐熱性が3~5倍くらい優れている。総じて、銅電極の採用とバリスタ(セラミック)素子の耐熱性の向上により、半田を非鉛化することで半田溶接温度が上昇しても電極割れやサーマルクラックの心配がなくなる。
【符号の説明】
【0039】
10 直流モータ
11 モータケース11
12 マグネット
13 エンドプレート
14 軸受
15 軸受
16 回転軸
17 電機子巻線
18 積層鉄心
19 整流子
190 整流子セグメント
191 延長細片部
192 電機子巻線接続片
193 セグメント間ギャップ
20 カーボンブラシ
21 ブラシホルダー
22 ターミナル端子
23 ピグテール
24 絶縁性筒体部
240 筒体の本体部
241 外側端面(反電機子巻線側端面)
242 内側端面(電機子巻線側端面)
243 中空穴
25 エンドキャップ
26 リング状バリスタ
260 バリスタ本体
261 バリスタの銅電極
27 EMC回路
28 素子収容空間
300 高周波による溶融部
310 はんだによる溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12