(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117572
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】イメージセンサおよびそれを用いたカメラ
(51)【国際特許分類】
H04N 5/365 20110101AFI20220804BHJP
H04N 5/374 20110101ALI20220804BHJP
H04N 5/378 20110101ALI20220804BHJP
【FI】
H04N5/365
H04N5/374
H04N5/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014138
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野本 真司
(72)【発明者】
【氏名】増永 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】桑名 諒
(72)【発明者】
【氏名】河村 哲史
【テーマコード(参考)】
5C024
【Fターム(参考)】
5C024CX04
5C024GX03
5C024GX16
5C024GX18
5C024GY39
5C024GY41
5C024HX13
5C024HX17
5C024HX23
5C024HX29
5C024HX47
5C024JX41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SiCMOSFETを用いたイメージセンサにおいて、画素回路に含まれる増幅トランジスタのしきい値電圧シフトΔVthの影響を抑制する技術を提供する。
【解決手段】SiCMOSFETを含むSiC素子で構成されるイメージセンサは、フォトダイオードPDと、フォトダイオードで発生した電荷を電圧信号に変換する増幅トランジスタM
Dと、電圧信号を出力する第1及び第2の転送トランジスタM
1、M
2と、電源電位と増幅トランジスタのゲートとの間にソース・ドレイン経路を有するリセットトランジスタM
RSTとを備える画素回路10を有する。リセットトランジスタは、基準電圧を読み出す第1の読み出しタイミングに先立ってオンされ、リセットトランジスタがオンされる期間は、SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトが飽和するために要する時間に基づき設定される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCMOSFETを含むSiC素子で構成されるイメージセンサであって、
フォトダイオードと、前記フォトダイオードで発生した電荷を電圧信号に変換する増幅トランジスタと、前記電圧信号を出力する第1及び第2の転送トランジスタと、電源電位と前記増幅トランジスタのゲートとの間にソース・ドレイン経路を有するリセットトランジスタとを備える画素回路と、
第1の読み出しタイミングで前記第1の転送トランジスタがオンされることにより、前記画素回路から読み出された前記電圧信号を基準電圧として保持する第1のキャパシタと、前記第1の読み出しタイミングよりも後の第2の読み出しタイミングで前記第2の転送トランジスタがオンされることにより、前記画素回路から読み出された前記電圧信号を信号電圧として保持する第2のキャパシタと、前記基準電圧と前記信号電圧との差分電圧を出力する差動回路とを備える読み出し回路とを有し、
前記リセットトランジスタは、前記第1の読み出しタイミングに先立ってオンされ、前記リセットトランジスタがオンされる期間は、前記SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトが飽和するために要する時間に基づき設定されるイメージセンサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記リセットトランジスタがオンされる期間は、前記SiCMOSFETの飽和時間以上とされ、
前記飽和時間は、前記SiCMOSFETへのゲート電圧印加開始直後の時間帯におけるゲート電圧印加時間と前記SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトとの相関を示す第1の関係式と、前記SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトが飽和したとみなせる時間帯におけるゲート電圧印加時間と前記SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトとの相関を示す第2の関係式との交点におけるゲート電圧印加時間として定められるイメージセンサ。
【請求項3】
請求項1において、
前記画素回路は、前記増幅トランジスタ及び前記第1の転送トランジスタまたは前記第2の転送トランジスタと直列接続される行選択トランジスタを備え、
前記第1の転送トランジスタがオンされる期間及び前記第2の転送トランジスタがオンされる期間は、前記行選択トランジスタがオンされる期間内に含まれるイメージセンサ。
【請求項4】
請求項3において、
複数の前記画素回路がマトリックス状に配置されており、
前記読み出し回路は、同一カラムに配置される前記画素回路ごとに設けられる前記第1及び第2のキャパシタの組と、前記第1及び第2のキャパシタの組に対応して設けられ、前記差動回路の第1入力に接続する前記第1のキャパシタを選択する第1の列選択トランジスタと前記差動回路の第2入力に接続する第2のキャパシタを選択する第2の列選択トランジスタとを備え、
同一ロウに配置される前記画素回路ごとに、前記第1及び前記第2の転送トランジスタと、前記リセットトランジスタと、前記行選択トランジスタとを制御する第1の走査回路と、
前記第1及び第2の列選択トランジスタを制御し、前記第1及び第2のキャパシタの組のいずれかを前記差動回路に接続する第2の走査回路とを有するイメージセンサ。
【請求項5】
請求項4において、
マトリックス状に配置された前記画素回路から、前記基準電圧と前記信号電圧との差分電圧が連続して前記差動回路から出力されるよう、前記第1の走査回路は同一ロウに配置される前記画素回路を制御するタイミングが調整されており、
前記リセットトランジスタがオンされる期間は、前記行選択トランジスタがオンされる期間の終点から、次に前記行選択トランジスタがオンされる期間の始点までの間で設定されるイメージセンサ。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のイメージセンサと、
前記イメージセンサに前記電源電位を供給する電圧回路と、
前記読み出し回路からの出力を増幅するアンプと、
前記アンプからの出力をデジタル信号に変換するアナログデジタルコンバータと、
制御信号を生成する制御部と、
前記制御信号にしたがって、前記第1の走査回路が前記画素回路を制御する、及び前記第2の走査回路が前記読み出し回路を制御するタイミングを与えるパルス信号を出力するパルス生成部と、
前記制御信号にしたがって、前記アナログデジタルコンバータからの出力を受けて、画素位置ごとの輝度情報を算出するFPGAと、
前記FPGAで算出された画素位置ごとの輝度情報を符号化して画像として出力するエンコーダとを有するカメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCMOSFETを含むSiC素子で構成されるイメージセンサおよびそれを用いたカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、単位画素の2次元配列における面内での特性の揺らぎに対するマージンを低減するように、リセットレベルを設定可能な固体撮像装置が開示される。特許文献2には、画質を低下させる列固定パターンノイズやシェーディングを抑制しつつ、高速な画素信号の読み出し可能な固体撮像装置が開示される。これらの具体的な適用例としては、SiMOSFETを用いたCMOSイメージセンサが想定されている。
【0003】
SiC素子は、Si素子に比べて高い耐放射線性を有する。このため、イメージセンサをSiC素子で構成することにより、強い放射線環境下で使用可能なカメラが実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-229120号公報
【特許文献2】国際公開第2012/144218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1にSiCMOSFETを用いたイメージセンサを構成する画素回路10及び読み出し回路11の回路図を示す。イメージセンサは、後述するように、画素回路がマトリックス状に配置され、読み出し回路は複数の画素回路に対して共通に設けられている。ここでは、理解のしやすさのため、画素回路10と読み出し回路11とを1対1で接続した状態を示している。
【0006】
画素回路10と読み出し回路11とはSiC基板上に形成されたSiC素子で構成されている。電源電位VDDの大きさは特に限定するものではないが、例えば4Vである。画素回路10はフォトダイオードPDを含む。フォトダイオードPDに光が照射されると、光電変換によりフォトダイオードPDに電荷が発生する。発生する電荷量はフォトダイオードPDに照射された光量に依存する。画素回路10ではフォトダイオードPDで発生した電荷を電圧信号に変換し、読み出し回路11は、画素回路10で変換した電圧を選択的に読み出すことにより、画素ごとに照射された光量を検出する。
【0007】
図2に、
図1に示した画素回路10と読み出し回路11の読み出し波形(模式図)を示す。
図2は、
図1に示すトランジスタのそれぞれのゲートに印加される電圧を示している。波形21は、増幅トランジスタM
Dのゲート電位であり、波形21aは光量が大きい(明るい)場合の変化を、波形21bは光量が少ない(暗い)場合の変化を示している。なお、トランジスタはいずれも電源電圧V
DDで動作するSiCMOSFETであるが、
図2ではアナログ動作を行う増幅トランジスタM
Dの波形21は、電圧の大きさを、オン/オフ動作(スイッチ動作)を行う他のトランジスタの波形に比べて強調して描いている。
【0008】
まず、リセットトランジスタMRSTがオン(導通)とされることにより、増幅トランジスタMDのゲート電位は電源電位VDDに引き上げられる。このとき、増幅トランジスタMDのドレイン電位とゲート電位とは等しく、ソース・ドレイン経路は導通状態となっている。その後、リセットトランジスタMRSTがオフ(非導通)とされ、行選択トランジスタM1がオンとされる。行選択トランジスタM1は画素回路10の読み出し処理が行われる期間中継続してオンで保持される。行選択トランジスタM1がオンとされている期間を読み出し期間という。
【0009】
読み出し期間の初期において、第1転送トランジスタM2が所定期間オンとされることにより、電源電位VDDからトランジスタMD,M1,M2のソース・ドレイン経路を経由してキャパシタC1に電荷が保持される。これにより、キャパシタC1に発生する電圧を基準電圧といい、第1転送トランジスタM2をオンするタイミングを基準電圧読み出しタイミングTrという。一方、読み出し期間の終期において、第2転送トランジスタM3が所定期間オンとされることにより、電源電位VDDからトランジスタMD,M1,M3のソース・ドレイン経路を経由してキャパシタC2に電荷が保持される。これにより、キャパシタC2に発生する電圧を信号電圧といい、第2転送トランジスタM3をオンするタイミングを信号電圧読み出しタイミングTSという。
【0010】
基準電圧と信号電圧の大きさの違いは、増幅トランジスタMDのゲート電位、すなわちフォトダイオードPDのカソード電位に依存する。光量が大きい場合はフォトダイオードPDで発生する電荷量が多いため波形21aに示されるように増幅トランジスタMDのゲート電位は接地電位(GND、0Vとする)に近づき、増幅トランジスタMDのソース・ドレイン経路の抵抗値が高くなることにより、基準電圧と信号電圧との差分電圧は大きくなる。これに対して、光量が少ない場合はフォトダイオードPDで発生する電荷量が少ないため波形21bに示されるように増幅トランジスタMDのゲート電位は電源電位VDDからあまり低下せず、増幅トランジスタMDのソース・ドレイン経路の抵抗値は低く保たれることにより、基準電圧と信号電圧との差は小さくなる。読み出し期間終了後に、列選択トランジスタM4,M5をオンとし、差動回路12の2つの入力端子(+,-)に基準電圧と信号電圧とがそれぞれ入力され、出力端子OUTから差分電圧が出力される。
【0011】
強い放射線環境下では強いγ線にさらされることにより、SiCMOSFETのしきい値電圧がシフトする。このため、イメージセンサを構成する画素回路ごとに、SiCMOSFETのしきい値電圧が大きくばらつく。
図1に示した回路構成では、基準電圧及び信号電圧ともに増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧に依存し、それらの差分電圧を求めることで、増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧の影響が相殺される。したがって、画素ごとの増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧ばらつきに影響されることなく、光量を検出できる利点がある。
【0012】
しかしながら、発明者らの検討の結果、
図1の画素回路10では、基準電圧読み出しタイミングT
rと信号電圧読み出しタイミングT
sとで、増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧Vthが大きくシフトする現象がみられた。
図3A,Bに、発明者らが試作したSiCMOSFETのしきい値電圧のシフトΔVthを示す。
【0013】
図3Aは、SiCMOFETのしきい値電圧のシフトΔVthの例を示している。試作したSiCMOFETのソース電位、ドレイン電位を0V、ゲート電位を4Vとして、ゲート電圧を印加する時間を変えながら、しきい値電圧のシフトΔVthを計測したものである。横軸は時間(対数表示)、縦軸にしきい値電圧のシフトΔVth(線形表示)を示している。この例では、基準電圧読み出しタイミングT
rと信号電圧読み出しタイミングT
sとの間におよそ0.5msの差がある場合、しきい値電圧はおよそ7.9mVシフトしている。
【0014】
図3Bは、このように計測した30個のSiCMOSFETのサンプルについて、しきい値電圧のシフトΔVthの累積度数分布を示したものである。サンプルの最も外れた値と中央値とを比較すると、しきい値電圧のシフトΔVthは、256階調のイメージセンサの場合、8階調に相当する大きさであった。
【0015】
このように、SiCMOSFETを用いたイメージセンサでは、SiCMOSFETが比較的大きなしきい値電圧シフトΔVthをもち、そのばらつきが大きい。したがって、
図1のような画素ごとの増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧ばらつきの影響を受けにくい回路構成としても、SiCMOSFET(増幅トランジスタM
D)のしきい値電圧シフトΔVthのばらつきにより、光量の検出精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施態様であるSiCMOSFETを含むSiC素子で構成されるイメージセンサは、フォトダイオードと、フォトダイオードで発生した電荷を電圧信号に変換する増幅トランジスタと、電圧信号を出力する第1及び第2の転送トランジスタと、電源電位と増幅トランジスタのゲートとの間にソース・ドレイン経路を有するリセットトランジスタとを備える画素回路と、第1の読み出しタイミングで第1の転送トランジスタがオンされることにより、画素回路から読み出された電圧信号を基準電圧として保持する第1のキャパシタと、第1の読み出しタイミングよりも後の第2の読み出しタイミングで第2の転送トランジスタがオンされることにより、画素回路から読み出された電圧信号を信号電圧として保持する第2のキャパシタと、基準電圧と信号電圧との差分電圧を出力する差動回路とを備える読み出し回路とを有し、リセットトランジスタは、第1の読み出しタイミングに先立ってオンされ、リセットトランジスタがオンされる期間は、SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトが飽和するために要する時間に基づき設定される。
【発明の効果】
【0017】
SiCMOSFETを用いたイメージセンサにおいて、画素回路に含まれる増幅トランジスタのしきい値電圧シフトΔVthの影響を抑制する。
【0018】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】画素回路及び読み出し回路の読み出し波形である。
【
図3A】SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトΔVthの例である。
【
図3B】SiCMOSFETのしきい値電圧のシフトΔVthのばらつきを示す図である。
【
図6A】本実施例の効果を説明するための図である。
【
図6B】本実施例の効果を説明するための図である。
【
図7A】室温でのSiCMOSFETのしきい値電圧のシフトΔVthの例である。
【
図7B】50℃でのSiCMOSFETのしきい値電圧のシフトΔVthの例である。
【
図9】SiCMOSFETの飽和時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図4に本実施例のイメージセンサの回路図を示す。画素回路、読み出し回路の構成は
図1に示した回路構成と同じであるので、重複する説明は省略する。画素回路10はn×nのマトリックス状に配置され、
図4ではn=4の例を示している。なお、縦方向と横方向に配置される画素回路の数が異なっていても差し支えない。読み出し回路11の列選択トランジスタM
4,M
5及びキャパシタC
1,C
2は、画素マトリックスの1カラム(column)ごとに共通に設けられ、さらに列選択トランジスタM
4,M
5はそれぞれ、差動回路12の2つの入力端子に並列接続されている。
【0021】
垂直走査回路31及び水平走査回路32を総称してドライバ回路という。垂直走査回路31は画素回路10に含まれるリセットトランジスタMRST、行選択トランジスタM1、転送トランジスタM2,M3を制御する。図面の複雑化を避けるため、制御線の数は省略して示しているが、同一ロウの画素回路に対して制御線が共通化されているため、同一ロウ(row)の画素回路10は同じタイミングで動作する。水平走査回路32は、読み出し回路に含まれる列選択トランジスタM4,M5を制御する。
【0022】
図5に
図4のイメージセンサの動作波形を示す。回路動作は
図1、2を用いて説明した通りであるが、読み出し回路がマトリックス状に配置された画素回路で共有されており、イメージセンサとして動作速度を高速動作させるため、各画素回路からの出力が差動回路12から連続的に出力されるよう、タイミング調整されている。
【0023】
すなわち、第iロウ(1≦i≦(n-1))の第1カラムから第nカラムの画素回路からの出力に連続して、第(i+1)ロウの第1カラムの画素回路からの出力が開始されるよう、垂直走査回路31による第iロウに対する制御タイミングと第(i+1)ロウに対する制御タイミングとの間隔は調整される。また、第nロウの第1カラムから第1カラムの画素回路からの出力に連続して、再度第1ロウの第1カラムの画素回路からの出力が開始されるよう、垂直走査回路31による第jサイクル(1≦j)の開始タイミングと第(j+1)サイクルの開始タイミングとの間隔が調整される。
【0024】
本実施例では、SiCMOSFETのしきい値電圧シフトΔVthのばらつきを抑えるため、各画素回路の読み出し期間の開始前に、増幅トランジスタM
Dのゲートに電気ストレスを印加する。具体的には、リセットトランジスタM
RSTをオンとする時間t
RST(ストレス印加時間という)を所定時間以上とする。リセットトランジスタM
RSTの機能は、増幅トランジスタM
Dのゲート電位を電源電位V
DDに引き上げることであるから、この観点からはリセットトランジスタM
RSTをオンとする時間は、画素回路中の他のトランジスタをオンとする時間と同等で済む(
図2参照)。これに対して、本実施例では、各画素回路における増幅トランジスタM
Dのしきい値電圧シフトΔVthのばらつきを抑えるため、リセットトランジスタM
RSTをオンとする時間t
RSTを延長する。
【0025】
SiCMOSFETのしきい値電圧シフトΔVthが生じる原因はPBTI(Positive Bias Temperature Instability)であると考えられる。PBTIは高温状態でMOSFETのゲート電圧が正にバイアスされることで生じる現象であり、ゲート絶縁膜にトラップされる電荷の挙動によりしきい値電圧シフトΔVthが発生するとされている。PBTIはSiCMOSFETに限った現象ではないが、SiCMOSFETでは、SiMOSFETに比べてその影響が顕著に表れる。その理由は以下の通りである。まず、SiCMOSFETのゲート絶縁膜は、SiMOSFETのゲート絶縁膜よりも欠陥が多く、電荷がトラップされやすい。さらにSiC素子の駆動時間が遅いため、フォトダイオードPDのカソード電位の変化を適正に検出するために、SiMOSFETで構成されるイメージセンサに比べて読み出し時間を長くとらなければならない(例えば、0.5ms程度)ためである。
【0026】
画素回路の読み出し期間の開始前に、増幅トランジスタM
Dのゲートに電気ストレスを印加することの効果を
図6A,Bを用いて説明する。
【0027】
図3Aに示したSiCMOFETのしきい値電圧のシフトΔVthに対して、ストレス印加時間t
RSTを0.5msとし、基準電圧読み出しタイミングT
rと信号電圧読み出しタイミングT
sとの間を0.5msとしたときのしきい値電圧のシフトΔVthを
図6Aに示す。この場合、基準電圧読み出しタイミングT
rと信号電圧読み出しタイミングT
sとの間におけるしきい値電圧のシフトΔVthは、0.4mVに抑制されている。
【0028】
図6Bに、
図3Bで測定した30個のSiCMOSFETのサンプルについて、読み出しタイミングを
図6Aと同じとした場合のしきい値電圧のシフトΔVthの累積度数分布42を示す。比較のため、
図3Bに示したしきい値電圧のシフトΔVthの累積度数分布41とともに示している。累積度数分布41の場合には、最大ばらつきが8階調相当であったものが、累積度数分布42の場合には、最大ばらつきが1階調相当に抑えられていることが分かる。
【0029】
リセットトランジスタM
RSTをオンとする時間を延長しても、
図5に示すサイクルiの読み出し時間(トランジスタM
1がオンとされている期間)の終点とサイクル(i+1)の読み出し時間の始点との間におさまっている限り、イメージセンサ全体の動作遅延にはつながらないため、イメージセンサの動作速度を劣化させることなく、検出精度を高めることが可能になる。
【0030】
リセットトランジスタMRSTを長くとることでしきい値電圧のシフトΔVthのばらつきを抑制する効果が得られるが、SiCMOSFETのゲートに電圧を印加し続けると、単位時間あたりのしきい値電圧のシフトΔVthの変化が小さくなる(飽和する)ため、ストレス印加時間tRSTは、少なくともしきい値電圧のシフトΔVthが飽和する時間以上とすることが望ましい。
【0031】
図7A,Bは試作したSiCMOSFETについて、異なるゲート電圧ごとに、しきい値電圧のシフトΔVthを計測したものである。計測方法は
図3Aと同じである。
図7A,Bではゲート電圧印加時間を線形表示している。
図7Aは室温(25℃)で計測したもの、
図7Bは50℃で計測したものである。いずれの場合も、ゲート電圧の印加開始直後でしきい値電圧のシフトΔVthは大きく上昇し、印加時間が経過するにつれて、しきい値電圧のシフトΔVthの上昇は抑えられている。そこで、
図8Aに示すような、ゲート電圧印加開始直後の時間帯におけるゲート電圧印加時間としきい値電圧のシフトΔVthとの相関を示す第1の関係式と、
図8Bに示すようなしきい値電圧のシフトΔVthが飽和したとみなせる時間帯(
図8Bでは1ms前後)におけるゲート電圧印加時間としきい値電圧のシフトΔVthとの相関を示す第2の関係式とを求める。第1の関係式と第2の関係式との交点におけるゲート電圧印加時間をSiCMOSFETの飽和時間として定義し、ストレス印加時間t
RSTを、SiCMOSFETの飽和時間以上とする。
【0032】
図9は、
図7A,Bに示した計測結果に基づき、SiCMOSFETの飽和時間を算出したものである。ストレス印加時間t
RSTは、イメージセンサの仕様に基づき設定することになるが、例えば、ゲート電圧3.3Vとしたときの50℃でのSiCMOSFETの飽和時間を基準として設定する場合には、ストレス印加時間t
RSTは、8.4μs以上となるように設定される。
【0033】
図10に、本実施例のイメージセンサ50を適用したカメラの構成を示す。イメージセンサ50は、画素回路51、読み出し回路52、ドライバ回路53を含み、
図4に相当する。イメージセンサ50はSiCMOSFETで構成され、これ以外の回路ブロックは、SiMOSFETで構成される。
【0034】
電源回路71は、降圧レギュレータ72を介してイメージセンサ50の電源電圧V
DDを供給する。制御部60は、制御信号を出力する。ドライバ回路53が
図5に示したタイミングで画素回路51及び読み出し回路52を動作するよう、パルス生成部61は制御部60からの制御信号にしたがってパルス信号をドライバ回路53に出力する。読み出し回路52からの出力信号はアンプ62により増幅され、アナログデジタルコンバータ(ADC)63によりデジタル信号に変換される。FPGA(Field Programmable Gate Array)64では、制御部60からの制御信号にしたがって、ADC63からの出力を受けて、画素位置ごとの輝度情報を算出する。エンコーダ65は、FPGA64で算出された画素位置ごとの輝度情報を符号化して、画像として出力する。
【符号の説明】
【0035】
10:画素回路、11:読み出し回路、12:差動回路、21:波形、31:垂直走査回路、32:水平走査回路、41,42:累積度数分布、50:イメージセンサ、51:画素回路、52:読み出し回路、53:ドライバ回路、60:制御部、61:パルス生成部、62:アンプ、63:ADコンバータ、64:FPGA、65:エンコーダ、71:電源回路、72:降圧レギュレータ。