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特開2022-117632液体吸収・放出性基材、有効成分放出性プレート若しくは粗粒、及び、それらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117632
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】液体吸収・放出性基材、有効成分放出性プレート若しくは粗粒、及び、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/14 20060101AFI20220804BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20220804BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C04B35/14
C04B35/117
A61L9/01 Q
A61L9/01 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014234
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】517202098
【氏名又は名称】桜サイエンスビューティー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591033364
【氏名又は名称】ヤマキ電器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川人 紫
(72)【発明者】
【氏名】小野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】小松山 沙織
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA03
4C180AA07
4C180AA16
4C180CA04
4C180EB02Y
4C180EB03X
4C180EB04X
4C180EB04Y
4C180EB06X
4C180EB06Y
4C180EB07X
4C180EB07Y
4C180EB08X
4C180EB08Y
4C180EB12X
4C180EB14X
4C180EB15X
4C180EC01
4C180GG17
4C180HH10
(57)【要約】
【課題】高い物理的強度を有しつつ、「揮発性有効成分を含有する液体」が好適に吸収され、その後、該揮発性有効成分及び/又は該液体が好適に放出される基材を提供すること、及び、該基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて、該揮発性有効成分を放出させるための液体吸収・放出性基材であって、体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料、及び、液体吸収・放出性基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料、の均一混合物が、プレス成型後に焼成されてなるものである液体吸収・放出性基材、有効成分放出性プレート若しくは粗粒、及び、液体吸収・放出性基材の製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて、該揮発性有効成分を放出させるための液体吸収・放出性基材であって、
体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料、及び、液体吸収・放出性基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料、の均一混合物が、プレス成型後に焼成されてなるものであることを特徴とする液体吸収・放出性基材。
【請求項2】
前記ナノカーボン材料が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、及び、グラフェンよりなる群から選ばれた1種、又は、2種以上のナノカーボン材料である請求項1に記載の液体吸収・放出性基材。
【請求項3】
前記セラミックス原料が焼成されてなるものが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、及び、ムライトよりなる群から選ばれた1種、又は、2種以上のセラミックスである請求項1又は請求項2に記載の液体吸収・放出性基材。
【請求項4】
前記セラミックスの表面に前記ナノカーボン材料が均一に分散して存在している請求項3に記載の液体吸収・放出性基材。
【請求項5】
前記均一混合物が、液体吸収・放出性基材全体に対して、質量で2ppm以上100ppm以下のアルカリ金属の塩を更に含有し、前記セラミックス原料が焼成されてなるセラミックスが、互いに該アルカリ金属を介して接触している請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材。
【請求項6】
液体吸収・放出性基材が、プレス成型後に焼成されてなるプレート状のものであるか、又は、該プレート状のものを粗粉砕してなる粗粒状のものである請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材に、前記揮発性有効成分を含有する液体として、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体が吸収されているものであることを特徴とする有効成分放出性プレート若しくは粗粒。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法であって、
(1)焼成されてセラミックスになる前記セラミックス原料を水に分散させてセラミックス原料スラリーを調製する工程と、
(2)前記ナノカーボン材料を水に分散させてナノカーボン材料スラリーを調製する工程と、
(3)該セラミックス原料スラリー、該ナノカーボン材料スラリー、及び、バインダーポリマーを混合して水系混合スラリーを調製する工程と、
(4)該水系混合スラリーから水を留去して、該セラミックス原料、該ナノカーボン材料、及び、該バインダーポリマーを含有する複合粉体を調製する工程と、
(5)該複合粉体を容器に収容しプレス成型して予備成型体を調製する工程と、
(6)該予備成型体を酸素の不存在下で焼成する工程と、
を有することを特徴とする液体吸収・放出性基材の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)ないし工程(3)の何れかにおいて、更に、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属塩を溶解させて前記水系混合スラリーを調製する請求項8に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法。
【請求項10】
前記工程(4)において、前記水系混合スラリーから水を留去する方法が、スプレードライ法である請求項8又は請求項9に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法。
【請求項11】
前記工程(6)において、前記予備成型体を1200℃以上1400℃以下で焼成する請求項8ないし請求項10の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法。
【請求項12】
前記工程(6)の後に、以下の工程(7)を有する請求項8ないし請求項11の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法。
(7)前記工程(5)でプレス成型して調製した前記予備成型体を前記工程(6)で焼成して得たプレート状のものを粗粉砕する工程
【請求項13】
請求項8ないし請求項12の何れかの請求項に記載の液体吸収・放出性基材の製造方法で製造した液体吸収・放出性基材に、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体を吸収させることを特徴とする、有効成分放出性プレート若しくは粗粒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて、該揮発性有効成分を放出させるための液体吸収・放出性基材に関するものであり、また、該液体吸収・放出性基材に、「揮発性有効成分を含有する液体」が吸収されてなる、有効成分放出性プレート若しくは粗粒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックは、種々の態様のものが、種々の用途に用いられている。
特許文献1には、水を吸収した吸水性樹脂とセラミック粉末を混合し成型し焼成してなる多孔質セラミックが記載されており、センサー素子、不燃性建材、触媒担持体、断熱材、防音材、衝撃吸収材等に用いられるとされている。
また、特許文献2には、セラミック粉末、無機バインダー、及び、高吸収性樹脂を押出成型して成型体にし、その後に加熱焼成する多孔質体の製造方法が記載され、触媒担持体、化合物の合成場として使用されることが記載されている。
【0003】
セラミックス材料は、通常は、低い吸水性、高い耐湿性、高い抵抗率等を特徴とするものであり、その逆の性質の向上を目的とした技術は少ないが、多孔質であること等から吸水性を目指したものは存在する(例えば、特許文献3~7)。
【0004】
特許文献4には、粉末状又は顆粒状のセラミック原料を乾式プレスした後、焼成して粉砕する多孔質セラミック粒の製造方法が記載され、得られた多孔質セラミック粒の吸水率は6~10%であるとされている。
特許文献5には、多孔質セラミックにより形成した吸水性のコースターが記載され、このコースターの吸水率は5%以上とされており、冷却により発色するインキ層を設けることで、熱変色性絵柄を有するコースターが得られるとされている。
【0005】
しかしながら、これらの技術(発明)は何れも、比較的大きな孔が存在する所謂「多孔質セラミック」に関するものであった。
【0006】
一方、カーボンナノチューブ等のナノサイズの炭素質物と、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスを組み合わせたものも知られている。
【0007】
特許文献6には、カーボンナノチューブが分散されてなる、電気抵抗率が低いセラミックス焼成体が記載されている。この技術(発明)によれば、セラミックス基板に導電性を付与し(絶縁性を下げて)、静電気(帯電)を抑制して、粉の付着によるパターン不良(による歩留まり低下)を防止できるとされている。また、帯電により電気ビームが曲げられ、電子ビームによるパターン形成に支障が出ることが抑制されると記載されている。
【0008】
特許文献7には、ジルコニア焼成体中にカーボンナノチューブを0.1~3.0質量%含有させた低体積抵抗率のジルコニア焼成体が記載されている。この技術(発明)によれば、低いカーボンナノチューブの含有で電導性が付与され、また、高い靭性と破壊強度が得られるとされている。
【0009】
特許文献8には、セラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面に、0.1~3.0質量%の含有量で、単分散状態で存在している微小炭素系物質とを備えたセラミックス焼成体が記載されている。この技術(発明)によれば、該微小炭素系物質の含有によって、電導性と破壊靭性を向上させられるとされている。
【0010】
しかしながら、特許文献6、7、8に記載の技術(発明)は、セラミックス基板としての絶縁性は保ちつつ、若干電気抵抗率を下げて(導電性を持たせて)、静電気(配線基板の帯電)を抑制して、セラミックス基板のパターン形成の歩留まりを向上させるものであった。
これらの技術(発明)は、電子基板やプリント配線板に関するものであるから、該セラミックス基板には、水等の液体の吸収性等は当然あってはならず、少なくともこれらの特許文献には吸水性・吸液性等に関する記載はない。
【0011】
特許文献9には、セラミックス粒子中にナノカーボン材料の大部分が凝集体を構成することなく均一に分散したナノカーボン複合セラミックスが記載されている。この技術(発明)によれば、25℃における波長域1.67μm~25μmの赤外線の放射率が高いので、赤外線放射体として優れたものが得られるとされている。
【0012】
しかしながら、特許文献9に記載の技術(発明)は、ナノカーボン材料の配合によって特に1μm~6μmの放射率を高めた赤外線放射体に関するものであり、椎茸等の乾燥に好適であると言うものである。
従って、特許文献9にも、水等の液体の吸収性等に関する記載はない。
【0013】
上記のように、多孔性セラミックスを除外すれば、所謂多孔性ではないセラミックスに「液体の吸収性」を持たせた材料は今までに存在しなかった。すなわち、所謂多孔性セラミックスではないセラミックスの有する種々の優れた物性を保持しつつ、水等の液体の吸収性(吸水性等)や、該液体や該液体中の揮発性有効成分の放出性を具備した材料は今までになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10-167856号公報
【特許文献2】特開平11-071188号公報
【特許文献3】特開2000-063184号公報
【特許文献4】特開2000-185980号公報
【特許文献5】特開2019-013289号公報
【特許文献6】特開2004-244273号公報
【特許文献7】特開2006-225205号公報
【特許文献8】特開2010-189214号公報
【特許文献9】特開2020-169102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、高い物理的強度を有しつつ、「揮発性有効成分を含有する液体」が好適に吸収され、その後、該揮発性有効成分及び/又は該液体が好適に放出される基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定サイズ・形状のセラミックス原料と、特定含有割合のナノカーボン材料とを用い、特定の方法で得られるような基材が、「セラミックス」であり、セラミックスの優れた特徴を保持しているにもかかわらず、意外にも吸水性・吸液性があり、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて、該揮発性有効成分を放出させるための液体吸収・放出性基材であって、
体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料、及び、液体吸収・放出性基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料、の均一混合物が、プレス成型後に焼成されてなるものであることを特徴とする液体吸収・放出性基材を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記セラミックスの表面に前記ナノカーボン材料が均一に分散して存在している前記の液体吸収・放出性基材を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記均一混合物が、液体吸収・放出性基材全体に対して「質量で2ppm以上100ppm以下のアルカリ金属」の塩を更に含有し、前記セラミックス原料が焼成されてなるセラミックスが、互いに該アルカリ金属を介して接触している前記の液体吸収・放出性基材を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、液体吸収・放出性基材が、プレス成型後に焼成されてなるプレート状のものであるか、又は、該プレート状のものを粗粉砕してなる粗粒状のものである前記の液体吸収・放出性基材を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記の液体吸収・放出性基材に、前記揮発性有効成分を含有する液体として、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体が吸収されているものであることを特徴とする有効成分放出性プレート若しくは粗粒を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記の液体吸収・放出性基材の製造方法であって、
(1)焼成されてセラミックスになる前記セラミックス原料を水に分散させてセラミックス原料スラリーを調製する工程と、
(2)前記ナノカーボン材料を水に分散させてナノカーボン材料スラリーを調製する工程と、
(3)該セラミックス原料スラリー、該ナノカーボン材料スラリー、及び、バインダーポリマーを混合して水系混合スラリーを調製する工程と、
(4)該水系混合スラリーから水を留去して、該セラミックス原料、該ナノカーボン材料、及び、該バインダーポリマーを含有する複合粉体を調製する工程と、
(5)該複合粉体を容器に収容しプレス成型して予備成型体を調製する工程と、
(6)該予備成型体を酸素の不存在下で焼成する工程と、
を有することを特徴とする液体吸収・放出性基材の製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記工程(1)ないし工程(3)の何れかにおいて、更に、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属塩を溶解させて前記水系混合スラリーを調製する前記の液体吸収・放出性基材の製造方法を提供するものである。
【0024】
また、本発明は、前記工程(6)において、前記予備成型体を1200℃以上1400℃以下で焼成する前記の液体吸収・放出性基材の製造方法を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、前記の液体吸収・放出性基材の製造方法で製造した液体吸収・放出性基材に、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体を吸収させることを特徴とする、有効成分放出性プレート若しくは粗粒の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上記問題点や上記課題を解決し、基材表面の硬度(引っかき強度、鉛筆硬度、ビッカース硬度、モース硬度等)に優れる;引張強さ(物体の強度、変形抵抗等)に優れる;靭性(曲げ強度、抗折力、破壊エネルギー等)が大きい;等と言った高い物理的強度を有しつつ、言い換えれば、「多孔質セラミックスではないセラミックス」が有する優れた物理的物性を有しつつ、「揮発性有効成分を含有する液体」が好適に吸収され、その後、該揮発性有効成分や該液体自体が好適に放出される基材を提供することができる。
例えば、テラコッタ、素焼き等の多孔質セラミックスより、靭性・曲げ強さ等の物理的強度が高い。
【0027】
また、本発明は、本発明の基材に、上記した新たな属性を見出したのみならず、セラミックス基材に、「揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて放出させるための液体吸収・放出性基材」又は「揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて徐放させるための液体吸収・徐放性基材」としての新たな用途を見出してなされたものである。
【0028】
ここで、「好適に吸収され」とは、該基材の用途に十分な量の「揮発性有効成分を含有する液体」が、許容される吸収時間等で吸収されることを言う。また、「好適に放出され」とは、該基材の用途にとって適切な時間をかけて徐々に、「揮発性有効成分を含有する液体自体」や「該液体に含有される揮発性有効成分」が、周囲の空間に放出されることを言う。また、「揮発性」とは、沸点が低い・蒸気圧が高い性質のみを意味せず、少なくとも用途に十分な分子が空間内に放出(蒸発)する性質のことを言う。
【0029】
本発明の「液体吸収・放出性基材」は、揮発性有効成分を徐々に放出する徐放性を有するようにもできるので、本発明は「液体吸収・徐放性基材」であるとも言える。ここで、「徐放性」とは、3日以上にわたり有意の量を放出し続ける性質を言い、好ましくは3週間以上、特に好ましくは3か月以上にわたり有意の量を放出するようにもできるので、そのように設定することも好ましい。
【0030】
本明細書においては、本発明の「液体吸収・放出性基材」を、単に「基材」と略記することがある。
【0031】
セラミックス原料の体積平均粒径は0.03μm以上3μm以下であるので、焼成した後のセラミックスの体積平均粒径も0.03μm以上3μm以下である。
本発明によれば、セラミックス原料とナノカーボン材料の均一混合物がプレス成型後に焼成されるので、「セラミックス原料が焼成されてなるセラミックス(粒子)」の周囲に均一にナノカーボン材料が存在している。そのために、本発明の液体吸収・放出性基材の内部には、ナノカーボン材料に起因する極めて微細な通路が均一にできていて、それによってセラミックスでありながら、優れた吸液性と放出性を有している液体吸収・放出性基材が実現できたと考えられる。
【0032】
本発明において、体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料を用いれば、ナノカーボン材料の好適量と混合されて(好適な含有比とすることができて)、上記したような、優れた物理的強度と吸液性・放出性を有している基材を提供することができる。
【0033】
また、本発明の製造方法によれば、ナノカーボン材料とセラミックス原料とを均一に混合することができ、該ナノカーボン材料が分散性良く均一にセラミックス原料の表面に付着され、その結果、焼成後にも、該ナノカーボン材料が分散性良く均一にセラミックス(粒子)の表面に付着され、好適な物理的強度と吸液性・放出性を有する基材ができる。
更に、得られる基材全体に対してのナノカーボン材料の含有量を特定の範囲とすれば、上記したような、優れた物理的強度と優れた吸液性・放出性を有する基材、すなわち性能的にバランスの取れた基材を提供することができる。
【0034】
更に、特に「シリカ」の場合等、プレス成型前に、セラミックス原料及びナノカーボン材料の均一混合物に、特定の含有量範囲のアルカリ金属塩を併用すれば、得られた基材中のセラミックス(粒子)が、該アルカリ金属の存在により更に緻密化する。
すなわち、アルカリ金属によって、前記した物理的強度を更に上げることができ、本発明の液体吸収・放出性基材の耐久性の向上や、該基材の応用範囲を拡大することができる。
【0035】
セラミックス原料及びナノカーボン材料の混合を、それぞれの水性スラリー同士の混合とし、そこに、上記したアルカリ金属塩の他に、バインダーポリマーや焼成助剤等を加えることによって、その後にプレス成型して焼成してなる本発明の基材は、より均一性を増して前記した吸液性・放出性が更に上がり、より緻密性を増して前記した物理的強度を更に上げることができる。また、製造の安定化とコストダウンも可能となる。
【0036】
本発明の基材は、プレス成型後に焼成されてなるプレート(を切断したプレート)自体でもよいし、該プレートを粗粉砕してなる粗粒状のものでもよい。プレート状の基材で使用するか、粗粒状の基材(粗粒)にして使用するかは、用途に適用させて選択することができる。該粗粒状の基材(粗粒)は、不織布等の通気性の袋、箱等の容器に収納して、好適に使用することができる。
【0037】
本発明の基材の用途としては、特に限定はされないが、そこに含有させる揮発性有効成分が「香りを有する成分」である場合には、アロマテラピー、医療、ディフューザー、嗜好品等に幅広く用いられ、そこに含有させる揮発性有効成分が「殺菌剤、殺虫剤等」である場合には、空間の殺菌・殺虫用の装置(器具)等に幅広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の液体吸収・放出性基材がプレート状(直径4.3cmの円盤状)のものであるときのその外観の一例の写真である。
図2】本発明の液体吸収・放出性基材の、評価例1における「吸液性」の評価方法を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0040】
[液体吸収・放出性基材]
本発明の液体吸収・放出性基材は、揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて、該揮発性有効成分を放出させるための液体吸収・放出性基材であって、
体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料、及び、液体吸収・放出性基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料、の均一混合物が、プレス成型後に焼成されてなるものであることを特徴とする。
【0041】
<セラミックス原料及びしてなるセラミックス>
本発明における「セラミックス原料」としては、焼成してセラミックスになるものであれば、特に限定はないが、例えば、焼成されて、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等になるものが挙げられる。
中でも、焼成して、シリカ、アルミナ、ジルコニア、又は、ムライトになるものがより好ましい。言い換えれば、本発明の基材においては、セラミックス原料が焼成されてなるものが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、及び、ムライトよりなる群から選ばれた1種、又は、2種以上のセラミックスであることがより好ましい。更に、中でも、特に好ましくは、シリカ又はアルミナである。
【0042】
<<シリカ>>
以下、シリカについて説明する。
焼成されてセラミックス(シリカ)になる「シリカ原料」は、特に限定はないが、火炎中で溶融し球状化した無孔質のものが好ましい。火炎中で溶融温度(1700℃)以上になるため、該球状シリカ原料の表面に活性点であるシラノール基がなくなり、後の工程である焼成が好適に進行する。
ゾルゲル法やケイ酸塩の加水分解で製造されたシリカ原料は、シラノール基が多く表面活性が高いため、焼成によってクリストバライトが生じる場合がある。
従って、「シリカ」の場合、セラミックス原料であるシリカ原料は、球状シリカ原料であることが好ましい。
【0043】
また、シリカ原料は、一般に微量のアルミニウムや鉄を含有することがある。特に限定はないが、本発明におけるシリカ原料が含有するアルミニウムの量は、シリカ原料全体に対して220ppm以下であることが好ましく、本発明におけるシリカ原料が含有する鉄の量は、シリカ原料全体に対して80ppm以下であることが好ましい。
上記上限より多いアルミニウムや鉄の含有は、クリストバライトの生成を誘発し、熱膨張率が大きくなり割れ易くなる等、焼成して得られる基材の物理的強度の低下をもたらす場合がある。
また、シリカ原料の場合、アルミニウムや鉄の含有は、焼成後の基材がガラス状に緻密化することを阻害するので、後述するアルカリ金属(塩)が必要になる場合がある。
【0044】
セラミックス原料全般に共通した(特に)好ましい粒径は後記するが、シリカ原料の体積平均粒径については、0.03μm以上3μm以下が好ましく、0.10μm以上1.0μm以下がより好ましく、0.2μm以上0.7μm以下が特に好ましい。
また、特に限定はないが、球状シリカ原料の比表面積は、2m/g以上30m/g以下が好ましく、3m/g以上20m/g以下がより好ましく、4m/g以上10m/g以下が特に好ましい。
【0045】
<<アルミナ>>
以下、アルミナについて説明する。
焼成されてセラミックス(アルミナ)になる「アルミナ原料」は、特に限定はないが、所謂「高純度アルミナ原料」であることが、焼成温度1300~1400℃で緻密に焼成できる等の点から好ましい。
該アルミナ原料の体積平均粒径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、比表面積は、8m/g以上15m/g以下が好ましい。
【0046】
<<ジルコニア>>
以下、ジルコニアについて説明する。
焼成されてセラミックス(ジルコニア)になる「ジルコニア原料」は、1300℃付近の温度で緻密化する、3mol%のイットリア(原料)を均一に分散させた、部分安定化ジルコニア原料が好ましい。
その体積平均粒子径は、0.1μm以上0.5μm以下が好ましく、比表面積は、10/g以上14m/g以下が好ましい。
【0047】
<<ムライト>>
以下、ムライトについて説明する。
焼成されてセラミックス(ムライト)になる「ムライト原料」は、シリカ(原料)とアルミナ(原料)を混合して電融させた電融ムライトが好ましい。
その体積平均粒子径は、0.1μm以上3μm以下が好ましい。
【0048】
<<セラミックス原料の粒径>>
セラミックス原料の粒径は、体積平均粒径として、0.03μm以上3μm以下であることが、水系スラリーで混合するときには、該水系混合スラリーが調製し易い;良好な焼成が進行する;焼成後に緻密性が上がり物理的強度等の物性が良好になる;セラミックスの表面積を好適範囲として、該表面のナノカーボン材料の量や均一分散性を良いものにする;等の点から好ましい。特に粒径が小さくなり過ぎると、分散性が低下し、分散性の良いスラリーができなくなり、生産性・収率が低下する。
より好ましくは0.08μm以上2.5μm以下であり、更に好ましくは0.10μm以上2μm以下であり、更に好ましくは0.15μm以上1.5μm以下であり、最も好ましくは0.2μm以上1.0μm以下である。
【0049】
上記セラミックス原料の粒径は、焼成してセラミックスとしても、ほぼ同一である。
本発明の液体吸収・放出性基材は、前記セラミックスの表面に、後記ナノカーボン材料が均一に分散されて、それが焼成時に成型されてなるものが好ましいが、従って、そのときのセラミックスの粒径、すなわち焼成後の粒径も、前記範囲であることが好ましい。
【0050】
<ナノカーボン材料>
本発明における「ナノカーボン材料」とは、ナノサイズ又はマイクロサイズの微小な炭素質物のことである。
本発明における「ナノカーボン材料」としては、具体的には、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、フラーレン、グラフェン(GP)若しくはその積層体、ナノサイズ又はマイクロサイズの微小なグラファイト若しくは無定形炭素質物、等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上の配合でもよい。
特に、上記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、及び、グラフェンよりなる群から選ばれた1種、又は、2種以上のナノカーボン材料であることが好ましい。
【0051】
上記ナノカーボン材料の、直径(太さ)、長さ、ベーサル面での面積、ベーサル面に直角方向の厚さ等の大きさは、一般的に定義される範囲であり、特に、更に限定されるものではない。
なお、カーボンナノチューブ(CNT)の直径は、0.4nm以上100nm以下(単層又は多層);グラフェン(GP)の厚さ2nm以上10nm以下、エリアサイズ5μm以上30μm以下;カーボンナノファイバー(CNF)の直径は、4nm以上100nm以下と言われている。
【0052】
本発明における「ナノカーボン材料」として、中でも、カーボンナノチューブ(CNT)又はカーボンナノファイバー(CNF)であることが、均一混合が可能である;セラミックスの表面に均一に分散する;基材としたときに液体の吸収性や放出性が良好である;等の点からより好ましい。
【0053】
更に、カーボンナノチューブ(CNT)であることが、上記点から特に好ましい。
カーボンナノチューブ(CNT)は、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよく、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよい。
カーボンナノチューブ(CNT)としては、市販品も好適に使用可能である。市販品としては、例えば、ナノサミット株式会社製の「CNT」等が挙げられる。
【0054】
基材中にナノカーボン材料が前記した好ましい態様で含有されると、基材が液体を吸収するようになる。
また、「香りを有する成分」や「殺菌若しくは殺虫成分」等の揮発性有効成分は、酸化され易い化合物や組成物が多いところ、カーボンナノチューブ(CNT)等のナノカーボン材料は、該揮発性有効成分の(酸化)分解を抑制して、結果として、有効成分放出性プレート若しくは粗粒の寿命を延長させる。
【0055】
<セラミックス(原料)とナノカーボン材料との含有比>
本発明の基材は、「前記セラミックス原料が焼成されてなるセラミックス」及び「前記ナノカーボン材料」を含有するが、該ナノカーボン材料は、基材全体に対して、0.2質量%以上10質量%以下で含有する。
該セラミックス原料は、焼成して該セラミックスにしても、質量は殆ど変わらない。従って、上記は、言い換えれば、本発明の基材は「セラミックス原料」及び「基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料」の均一混合物が、プレス成型後に焼成されてなるものである。
【0056】
基材全体に対して、ナノカーボン材料が、0.2質量%以上10質量%以下が必須であるが、0.5質量%以上9質量%以下が好ましく、1.0質量%以上8質量%以下がより好ましく、2質量%以上7質量%以下が特に好ましく、3質量%以上6質量%以下が最も好ましい。
【0057】
ナノカーボン材料が上記下限より少ないときは、得られる基材の液体吸収・放出性が劣る場合等がある。
一方、ナノカーボン材料が上記上限より多いときは、セラミックス同士の結合力・接着性を低下させ、得られる基材の靭性が劣ったり、表面硬度が低下したり、緻密な基材ができず、極端な場合は、テラコッタ、素焼き、チョーク等のようになったりして、物理的強度が低下する場合がある。また、後記するアルカリ金属塩の含有によってセラミックス同士の結合力・接着性を上げているときは、ナノカーボン材料の存在で、該結合力・接着性が低下する場合がある。
【0058】
<液体吸収・放出性基材の微視的構成>
本発明の液体吸収・放出性基材は、前記セラミックスの表面に前記ナノカーボン材料が均一に分散して存在しているものであることが好ましい。
体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス原料、及び、液体吸収・放出性基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量となるようなナノカーボン材料、の均一混合物をプレス成型し、その後に焼成させることによって、更に好ましくは後記する製造方法で製造することによって、前記したセラミックスの表面に前記したナノカーボン材料が均一に分散して存在しているものができる。
【0059】
言い換えれば、本発明の液体吸収・放出性基材は、体積平均粒径が0.03μm以上3μm以下のセラミックス粒子が、該セラミックス粒子が形成する粒界層を介して互いに結合してなるものであり、該粒界層には、該基材全体に対して0.2質量%以上10質量%以下の含有量のナノカーボン材料が(望ましくは上記した範囲のナノカーボン材料が)、該ナノカーボン材料同士で凝集せずに均一に存在しているものである。
焼成後の前記セラミックス粒子が、該粒界層を介して互いに結合することで、基材に物理的強度を与えている。
【0060】
ここで、上記「均一に分散して存在」や、上記「凝集せずに均一に存在」とは、ナノカーボン材料の大部分が上記のような状態で存在していることを言い、特に数値が限定されるものではないが、好ましくはナノカーボン材料全体の50質量%以上、より好ましくはナノカーボン材料全体の70%以上、特に好ましくはナノカーボン材料全体の90%以上が、上記のような状態でセラミックス粒子の表面に存在している状態を言う。
【0061】
<アルカリ金属の含有>
液体吸収・放出性基材は、前記セラミックス原料、及び、前記ナノカーボン材料の均一混合物が、液体吸収・放出性基材全体に対して、「質量で2ppm以上100ppm以下のアルカリ金属」の塩を更に含有し、前記セラミックス原料が焼成されてなるセラミックス(粒子又は粒界)が、互いに該アルカリ金属を介して接触している態様のものが特に好ましい。
【0062】
アルカリ金属の存在によって、得られる基材の靭性が上がり、緻密な基材ができ、極端な場合に基材がチョークのような状態になることを避けることができる。
特に、セラミックス原料が焼成されてなるものがシリカの場合には、シリカ原料にアルミニウムや鉄を含むことがあり、かかる不純物がクリストバライトの生成を誘発し、物理的強度に優れた基材ができ難くなるが、アルカリ金属の存在によって、該障害を抑制することができる。アルカリ金属の存在は、セラミックスがシリカの場合に特に有効である。
【0063】
上記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、又は、カリウムが、上記効果をより奏するので好ましく、中でもリチウムが特に好ましい。
【0064】
本発明の基材は、前記均一混合物が、基材全体に対して、「質量で2ppm以上100ppm以下のアルカリ金属」の塩を更に含有し、前記セラミックス原料が焼成されてなるセラミックス(粒子や粒界)が、互いに該アルカリ金属を介して接触しているものであることが、上記理由から好ましい。
言い換えると、前記セラミックス粒子が形成する前記粒界層が、基材全体に対して質量で2ppm以上100ppm以下のアルカリ金属を含有し、前記セラミックス粒子が前記アルカリ金属を含有する粒界層を介して互いに結合することで、基材に物理的強度を与えていることが好ましい。
【0065】
該アルカリ金属を含有するときは、基材全体に対して、質量で2ppm以上100ppm以下が好ましく、質量で4ppm以上80ppm以下がより好ましく、質量で5ppm以上40ppm以下が特に好ましい。
上記数値範囲は、基材全体に対してのものであるが、ナノカーボン材料の含有量は、セラミックス原料の含有量に比べて1桁以上少ないので、上記数値範囲は、セラミックス原料(固形分)全体に対してのものと読み換えることができる。
「アルミニウムや鉄を含むシリカ原料」を焼成してシリカとする際には、上記範囲のアルカリ金属の含有は特に好ましい。
【0066】
後述するように、セラミックス原料スラリーと、ナノカーボン材料スラリーとを混合して水系混合スラリーを調製する場合には、該アルカリ金属は、水溶性の塩の形にして、該スラリーに溶解させることが好ましい。
なお、上記した((特に)好ましい)含有量は、製造工程では塩の形で配合したとしても、アルカリ金属自体の(アルカリ金属自体に換算した)含有量である。
【0067】
<液体吸収・放出性基材の形状>
本発明の基材の形状は特に限定はないが、具体的には、例えば、後記する製造方法で製造したような直方体;棒状体;厚みのある円盤;細い棒等の周囲に付着している形状(ディフューザーの形状);ミキサー等で球状に成型してから焼成したような球状;等が挙げられる。
本発明の液体吸収・放出性基材は、プレス成型後に焼成されてなるプレート状のものであるか、又は、球状のものであるか、又は、該プレート状のものを粗粉砕してなる粗粒状のものであることが、取り扱い易い、揮発性有効成分を含有する液体を吸収させて放出させ易い、プレート状や粗粒状のものの用途が広い、種々の機器に設置し易い、棚・机等の台に置き易い、等の点から好ましい。
【0068】
プレート状基材のサイズは、特に限定はないが、縦、横及び/又は直径が、0.5cm以上30cm以下が好ましく、1cm以上20cm以下がより好ましく、2cm以上10cm以下が特に好ましい。また、特に限定はないが、直方体や円盤のときは、その厚さは、0.1cm以上3cm以下が好ましく、0.2cm以上2cm以下がより好ましく、0.3cm以上1cm以下が特に好ましい(図1参照)。
【0069】
本発明の液体吸収・放出性基材が粗粒状のものである場合の該粗粒の粒径は、特に限定はないが、体積平均粒径として、0.3mm以上15mm以下が好ましく、0.5mm以上10mm以下がより好ましく、1mm以上5mm以下が特に好ましい。
【0070】
上記プレートサイズや粒径であれば、揮発性有効成分や該揮発性有効成分を含有する液体の放出速度が好適となる(好適な放出性となる)、取り扱い易い、用途が広い、等の場合がある。
【0071】
本発明の基材は、プレス成型後に焼成されてなるが、その形状は、プレス成型されて得られる予備成型体自体の形状であっても、すなわち、例えば、該予備成型体がプレート状等のものであっても、該予備成型体を焼成したものから切り出したもの(切断したもの)でも、焼成体を形状加工したものでもよい。
粗粒状のものは、「プレス成型して得られる予備成型体を焼成してなるプレート状の基材」を粗粉砕して得られるが、該粗粉砕は、ハンマーミル、各種クラッシャー等、公知の粉砕機を用いて行われる。
【0072】
得られた粗粒は、不織布、網・メッシュ、織布等でできた通気性の袋や箱等の容器に収納して、好適に使用することができる。
【0073】
<有効成分放出性プレート若しくは粗粒>
本発明は、前記した本発明の液体吸収・放出性基材に、「前記揮発性有効成分を含有する液体として、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体」が吸収されているものであることを特徴とする有効成分放出性プレート若しくは粗粒でもある。ここで、「粗粒」には、プレートを粉砕してなるものや、球状に成型してから焼成してなる球体が含まれる。
【0074】
<<香りを有する成分を含有する液体>>
「香りを有する成分」は、特に限定はされないが、具体的には、例えば、ベンジルアルコール、エチルマルトール、フラネオール、1-ヘキサノール、3-ヘキセン-1-オール、メントール、フェニルエチルアルコール等のアルコール;アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヘキサナール、シンナムアルデヒド、シトラール、3-ヘキセナール、フルフラール、ネラール、バニリン、シトロネアール等のアルデヒド;インドール、2-エトキシ-3-イソプロピルピラジン、2-メトキシ-3-sec-ブチルピラジン、2-メトキシ-3-メチルピラジン、アルキルピラジン、メトキシピラジン、トリメチルアミン等のアミン;蟻酸イソブチル、酢酸エチル、酪酸エチル、カプリン酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸ヘキシル、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、酪酸ペンチル、吉草酸ペンチル、ソトロン、メチルフェニルグリシド酸エチル、フルクトン等のエステル;アネトール、アニソール、オイゲノール、2,4,6-トリクロロアニソール等のエーテル;ジヒドロジャスモン、1-オクテン-3-オン、2-アセチル-1-ピロリン、6-アセチル-2,3,4,5-テトラヒドロピリジン等のケトン;γ-デカラクトン、γ-ノナラクトン、δ-オクタラクトン、ジャスミンラクトン、マソイアラクトン、ワインラクトン等のラクトン;カンファー(樟脳)、シトロネロール、リナロール、ネロール、ネロリドール、テルピネオール、リモネン、シネオール、ツジョン、チモール、ピネン、チオテルピネオール、ミルセン、オシメン、コスメン、ゲラニオール、ミルセノール、ラバンジュロール、イプスジエノール、ジンゲロール、パラシメン、カマズレン、β-カリオフィレン、ビサボレン、セドレン、セドロール、サンタロール、スクラレオール等の「モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、トリテルペン等のテルペン、テルペノイド、テルペンアルコール」;エタンチオール、チオテルピネオール、メタンチオール等のチオール;メチルホスフィン;ジメチルホスフィン;ネロリン;テトラヒドロチオフェン;等が挙げられる。これらは、1種で使用又は2種以上が併用される。
【0075】
本発明における「香りを有する成分」は、植物由来物に含有されるものであることが好ましい。ここで、植物由来物は、複数の物質の混合物であってもよい。香りを有する成分の混合物であっても、そこに「香りを有する成分」以外の物質が混合されていてもよい。
本発明において、上記「植物由来物」における「植物」は、陸生植物の他に、緑藻(植物)や紅藻(植物)をも含めたアーケプラスチダを意味する。
【0076】
植物由来物(に含有されるもの)を用いることは、需要者に馴染みがある、安全性や安心性が高い、既に効能が知られているものが多い、生薬として知られているものが含まれる、混合物であることによる効能(相乗効果)が期待できる、等の点から好ましい。
【0077】
植物由来物としては、例えば、生の植物からの抽出物、植物の乾燥物からの湯煎等による抽出物、発酵物等が挙げられるが、生の植物からの抽出物が特に好ましい。
抽出方法は、特に限定されず、公知の方法が使用可能であるが、加熱溶媒抽出法、水蒸気蒸留法等の40℃より高い温度で抽出する方法より、40℃以下で抽出する減圧抽出法等が、細胞水が得られる、熱分解が少ない、天然物に近い組成となる等の点から、特に好ましい。溶媒を加えない「40℃以下で抽出する減圧抽出法」が特に好ましい。
【0078】
溶媒で抽出したときは、抽出溶媒を留去してもよいし、抽出溶媒の一部又は全部を残して、「揮発性有効成分を含有する液体」としてもよい。
植物における抽出部位は、効能が期待される部位であれば、特に限定はない。
【0079】
該植物由来物は、中でも、精油(エッセンシャルオイル)、又は、水蒸気蒸留等で得た芳香蒸留水、又は、植物細胞水であることが好ましい。植物から種々の方法で抽出すると、抽出液が2層に分かれることがあるが、その場合、油層であっても水層であってもよく、その混合物であってもよい。
ここで「植物細胞水」とは、植物の細胞内に存在する水溶液であり、生の植物からの(好ましくは40℃以下の低温での)抽出物に含有されるものである。
【0080】
上記植物由来物の植物としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、アイリス、アカヤジオウ、アカマツ、アカメガシワ、アキカラマツ、アケビ、アサ、アサガオ、アジョワン、アズキ、アニス、アマチャ、アミガサユリ、アルバローズ、アンジェリカ、アンズ、アンバー、アンブレット、イカリソウ、イグサ、イチョウ、イニュラ、イヌサフラン、イネ、イモーテル、イランイラン、インドジャボク、ウインターグリーン、ウスバサイシン、ウコン、ウド、ウメ、ウツボグサ、ウラルカンゾウ、ウンシュウミカン、エゾウコギ、エビスグサ、エレミ、エンゴサク、エンジュ、オオツヅラフジ、オオバコ、オークモス、オケラ、オタネニンジン、オニオン、オニノヤガラ、オポポナックス、オリーブ、オレガノ、オレンジスイート、オレンジビター、オレンジジャスミン、オールスパイス、カカオ、カキ、カギカズラ、ガジュツ、カナンガ、カノコソウ、カモミール、カユプテ、カラスビシャク、カラムス、ガランガル、ガーリック、カルダモン、ガルバナム、カワラヨモギ、カンファー(クスノキ)、キカラスウリ、キキョウ、キササゲ、キハダ、キバナオウギ、キャベッジローズ、キャラウェイ、キャロットシード、キュベブ、キーワ、クコ、クサスギカズラ、クズ、クチナシ、クマコケモモ、クミン、クララ、クラリセージ、グレープフルーツ、クレメンタイン、クローブ、クロモジ、ケシ、ゲットウ、ゲンチアナ、ゲンノショウコ、コウホネ、コガネバナ、コカノキ、ゴシュユ、コブシ、ゴボウ、コーヒー、コリアンダー、ゴマ、サイプレス、サイペルス、サクラ、ザクロ、サジオモダカ、サフラン、サネブトナツメ、サラシナショウマ、サンシュシュ、サンショウ、サンダルウッド、ジギタリス、シクンシ、シソ、シダーウッド、シトロネラ、シナニッケイ、シナマオウ、シナモン、シナレンギョウ、シャクヤク、ジャスミン、ジャノヒゲ、ジュニパーベリー、ショウヨウダイオウ、ジンジャー(ショウガ)、スイカズラ、スギ、スターアニス、ステビア、スパイクナード、セイボリー、セイヨウカラシナ、セージ、ゼラニウム・ブルボン(ローズゼラニウム)、ゼラニウム・エジプト、セリバオウレン、センキュウ、セロリ、セントジョンズワート、センブリ、ダイウイキョウ、タイム、ダイダイ、タジェット、タチバナ、タバコ、ターメリック、タラゴン、タンジー、タンジェリン、チガヤ、チェストツリー、チャノキ、チューブローズ、チョウジノキ、チョウセンゴミシ、チョレイマイタケ、チンネベリーセンナ、ティートリー、ティーローズ、ディル、テンダイウヤク、トウガラシ、トウガン、トウキ、トウゴマ、トウモロコシ、ドクダミ、トチバニンジン、トチュウ、トンカビーンズ、ナツメ、ナツメグ、ナルシス、ナンテン、ニアウリ、ニガキ、ニチニチソウ、ヌルデ、ネロリ、ノイバラ、バイオレット、パイン、バジル、パセリ、ハシリドコロ、バーチ、ハチミツ、パチュリ、ハッカ、バッカクキン、ハトムギ、ハマゴウ、ハマボウフウ、ハナスゲ、ハマビシ、ハマナス、ハニーサックル、バニラ、バルサム、パルマローザ、バレリアン、ヒキオコシ、ヒソップ、ヒナタイノコズチ、ヒノキ、ヒヨス、ヒロハセネガ、ビワ、ビンロウ、ファー(モミ)、フェンネル(ウイキョウ)、プチグレン、ブラックスプルース、ブラックペッパー(コショウ)、フランキンス、ベイ、ベチバー、ベラドンナ、ペニーロイヤル、ベニバナ、ベルガモット、ベンゾイン(アンソクコウ)、ホウノキ、ボタン、ホップ、ホーリーバジル、マクサ(テングサ)、マグワ、マジョラム、マツホド、マートル、マヌカ、マンダリン、ミシマサイコ、ミモザ、ミルラ、ミント・コーン、ミント・スペア、ミント・ペパー・ミント・ベルガモット、ミント・パイン、ムクゲ、ムラサキ、メイチャン、メドウスイート、メハジキ、メリッサ(レモンバーム)、モッコウ、モモ、ヤマトリカブト、ヤマノイモ、ヤマモモ、ヤマユリ、ヤロウ、ユーカリ、ユズ、ヨウシュチョウセンアサガオ、ヨモギ、ライム、ラッカセイ、ラーチ(ヨーロッパカラマツ)、ラバンジン、ラブダナム、ラブラドルティ、ラベンサラ、ラベンダー、リナロエウッド、リュウガン、リンデン、リンドウ、レモン、レモングラス、レモンバーベナ、ロウバイ、ローズ、ローズウッド、ローズマリー、ロータス(ハス)、ロベージ、ローレル、ワサビ、及び、ワタよりなる群から選択された1種以上の植物が挙げられる。これらの植物は、1種の植物の由来物として使用しても、2種以上の植物の由来物を混合して使用してもよい。
【0081】
より好ましい植物としては、アカマツ、アンジェリカ、イグサ、イランイラン、ウインターグリーン、ウコン、ウメ、オレガノ、オレンジスイート、カモミール、カンファー(クスノキ)、クチナシ、クラリセージ、グレープフルーツ、クロモジ、ゲットウ、コーヒー、サイプレス、サクラ、サンダルウッド、シソ、シダーウッド、シトロネラ、ジャスミン、ジュニパーベリー、ジンジャー(ショウガ)、スギ、セージ、ゼラニウム・ブルボン(ローズゼラニウム)、ゼラニウム・エジプト、タイム、ダイダイ、タラゴン、ティートリー、トウキ、ニアウリ、ネロリ、パイン、バジル、パチュリ、ハッカ、ハマナス、バニラ、パルマローザ、ヒノキ、ファー(モミ)、フェンネル(ウイキョウ)、プチグレン、ブラックスプルース、ブラックペッパー(コショウ)、フランキンセンス、ベチバー、ベルガモット、ベンゾイン(アンソクコウ)、ホーリーバジル、マジョラム、マートル、マヌカ、マンダリン、ミルラ、ミント・スペア、ミント・ペパー、ミント・ベルガモット、メリッサ(レモンバーム)、ユーカリ、ユズ、ヨモギ、ライム、ラベンサラ、ラベンダー、レモン、レモングラス、レモンバーベナ、ローズ、ローズウッド、ローズマリー、ロータス(ハス)、及び、ワサビよりなる群から選択された1種以上の植物が挙げられる。
これらの植物由来物は、大脳を刺激して人に種々の効果を与える、一般的に馴染みがある等の点からより好ましい。
【0082】
特に好ましい植物としては、イグサ、イランイラン、ウコン、ウメ、オレガノ、オレンジスイート、カモミール、クチナシ、クロモジ、ゲットウ、コーヒー、サクラ、サンダルウッド、ジャスミン、スギ、ゼラニウム・ブルボン(ローズゼラニウム)、ゼラニウム・エジプト、タイム、ティートリー、ネロリ、ハッカ、ハマナス、バニラ、ヒノキ、ファー(モミ)、プチグレン、フランキンセンス、ベルガモット、ホーリーバジル、マジョラム、マンダリン、ミント・スペア、ミント・ペパー、ミント・ベルガモット、メリッサ(レモンバーム)、ユーカリ、ユズ、ラベンサラ、ラベンダー、ローズ、ローズウッド、ローズマリー、ロータス(ハス)、及び、ワサビよりなる群から選択された1種以上の植物が挙げられる。
これらの植物由来物は、上記した点から特に好ましい。
【0083】
例えば前記したような「香りを有する成分」、例えば前記したような植物由来物に含有される「香りを有する成分」は、希釈せずにそのまま、前記した「揮発性有効成分を含有する液体」として基材に吸収させてもよいし、希釈溶媒で希釈して、前記した「揮発性有効成分を含有する液体」として基材に吸収させてもよい。
【0084】
上記希釈溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、アセトン、エチルメチルケトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、食用油脂、ペンタン、ヘキサン等が挙げられる。中でも、水又はエタノールが好ましく、水が特に好ましい。
【0085】
<<殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体>>
「殺菌若しくは殺虫成分」は、特に限定されず、殺菌効果若しくは殺虫効果がある公知の成分が挙げられる。また、炭素数6以上10以下のアルコール類若しくはアルデヒド類も挙げられる。
これらは、希釈せずにそのまま、前記した「揮発性有効成分を含有する液体」として基材に吸収させてもよいし、希釈溶媒で希釈して、前記した「揮発性有効成分を含有する液体」として基材に吸収させてもよい。
上記希釈溶媒としては、上記したものが挙げられる。
【0086】
<<基材に液体を吸収させる方法>>
基材に液体を吸収させることによって、本発明の「有効成分放出性プレート若しくは粗粒」を得るが、その際、吸収させる方法としては、特に限定はなく、あらゆる公知の方法が用いられる。
以下、「香りを有する成分を含有する液体又は殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体」を、単に「液体」と略記する。
【0087】
具体的には、例えば、前記した、基材、プレート又は粗粒の上から、液体を滴下する、スプレーする;前記した、基材、プレート又は粗粒を、液体中に完全に浸漬する、一部を浸漬する;前記した、基材、プレート又は粗粒を一旦真空に引いてから又は真空下に液体を付与する;等が挙げられる。
液体への浸漬時間;液体の付与時間;基材、プレート若しくは粗粒又は液体の温度;等は、好適に液体が基材にされれば特に限定はなく、適宜、好適範囲に決められる。
【0088】
[液体吸収・放出性基材の製造方法]
本発明の「液体吸収・放出性基材の製造方法」は、特に限定はされないが、以下の工程(1)ないし(6)の全てを有する製造方法が好ましい。
【0089】
(1)焼成されてセラミックスになる前記セラミックス原料を水に分散させてセラミックス原料スラリーを調製する工程と、
(2)前記ナノカーボン材料を水に分散させてナノカーボン材料スラリーを調製する工程と、
(3)該セラミックス原料スラリー、該ナノカーボン材料スラリー、及び、バインダーポリマーを混合して水系混合スラリーを調製する工程と、
(4)該水系混合スラリーから水を留去して、該セラミックス原料、該ナノカーボン材料、及び、該バインダーポリマーを含有する複合粉体を調製する工程と、
(5)該複合粉体を容器に収容しプレス成型して予備成型体を調製する工程と、
(6)該予備成型体を酸素の不存在下で焼成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0090】
<工程(1)>
工程(1)は、「焼成されてセラミックスになる前記セラミックス原料」を、水に分散させてセラミックス原料スラリーを調製する工程である。
【0091】
セラミックス原料については、前記したものが、本発明の効果を奏する優れた基材が製造し易い、シリカの場合は球状粒子が得られ易い、安価である、等の点から好ましい。セラミックス原料は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記したセラミックス原料以外のセラミックス原料を併用してもよい。その場合、前記セラミックス原料が、セラミックス原料全体に対して90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0092】
前記セラミックス原料を、水に分散させてセラミックス原料スラリーを調製する方法や装置は、特に限定はなく、公知の方法や湿式分散機が使用可能である。具体的には、例えば、ボールミル、ビーズミル、ポットミル等が挙げられる。容器の内面の材質、縦型か横型か、回転数、分散時間等については、特に限定はない。
【0093】
セラミックス原料スラリー中のセラミックス原料の濃度は、分散(安定)性;工程(3)でナノカーボン材料スラリーに混合する際の操作性・特性;工程(4)における水の留去性;プレス成型して得られる予備成型体や最終的な基材における、セラミックスとナノカーボン材料との比率;等を考慮して決められる。
【0094】
セラミックス原料を水に分散させる際に同時に、工程(3)で後述する「セラミックス原料でもナノカーボン材料でもアルカリ金属塩でもない配合物」(以下、括弧内を単に「他の配合物」と略記する場合がある)を加えて分散させてもよい。
該「他の配合物」としては、水溶性ポリマーやポリマーの水系エマルジョン(該ポリマーとしてはバインダーポリマー等が挙げられる);各種分散剤;各種界面活性剤;各種水溶性有機化合物;各種ワックス等が挙げられる。
【0095】
<工程(2)>
工程(2)は、前記ナノカーボン材料を水に分散させてナノカーボン材料スラリーを調製する工程である。
【0096】
ナノカーボン材料については、前記したものが挙げられる。該ナノカーボン材料を水に分散させる方法や装置は、特に限定はなく、公知の方法や湿式分散機が使用可能であるが、例えば、工程(1)で前記した方法や装置が挙げられる。
ナノカーボン材料を水に分散させる際に同時に、前記したような「他の配合物」を加えて分散させてもよい。
【0097】
分散に先立ち、予め、ボールミル、ビーズミル等を用いて、ナノカーボン材料に水に対する親和性をもたせる湿潤処理を行うことが、水に分散させてナノカーボン材料スラリーを調製し易くなる、本発明の前記した効果を奏し易くなる、等の点から特に好ましい。
【0098】
ナノカーボン材料スラリー中のナノカーボン材料の濃度は、分散(安定)性;工程(3)でセラミックス原料スラリーに混合する際の操作性・特性;工程(4)における水の留去性;プレス成型して得られる予備成型体や最終的な基材における、セラミックスとナノカーボン材料との比率;等を考慮して決められる。
【0099】
ナノカーボン材料は、凝集体を減らしたり無くしたりして、均一にスラリー中に分散させることが、最終的に得られる基材中で、前記したような「セラミックスの表面にナノカーボン材料が均一に分散して存在している状態」を現出させるために好ましい。
【0100】
<工程(3)>
工程(3)は、前記セラミックス原料スラリー、前記ナノカーボン材料スラリー、及び、バインダーポリマーを混合して水系混合スラリーを調製する工程である。
好ましくは、前記した「他の配合物」も混合して水系スラリーを調製する。
なお、バインダーポリマー、アルカリ金属塩、他の配合物等は、水系混合スラリーを調製する工程(3)の個所で記載しているが、工程(1)又は工程(2)の段階で既に配合しておいてもよい。
【0101】
<<バインダーポリマー>>
バインダーポリマーは、後述する予備成型体におけるバインダーとしての特性を示すものであれば、特に限定はなく、水溶性ポリマーを配合する、及び/又は、「非水溶性ポリマーの水系エマルジョン」の形で配合する。
【0102】
バインダーポリマーの種類としては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸(エステル)、スチレン、(無水)マレイン酸、酢酸ビニル等のビニル基含有モノマーの、(共)重合体、鹸化物、開環物、塩、誘導体等が挙げられる。なお、上記の括弧内は、あってもなくてもよいことを示す。また、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート等も挙げられる。
これらは、水溶性の場合はスラリー中に配合して溶解させ、非水溶性の場合は水系エマルジョンとして配合することが好ましい。
【0103】
バインダーポリマーは、水系混合スラリー全体に対して、2質量%以上20質量%以下で含有させることが好ましく、3質量%以上15質量%以下で含有させることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下で含有させることが特に好ましい。
【0104】
<<アルカリ金属塩>>
工程(1)ないし工程(3)の何れかにおいては、更に、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属塩を溶解させて前記水系混合スラリーを調製することが好ましい。工程(1)又は工程(2)で配合することが特に好ましい。
アルカリ金属塩の陰イオンは、特に限定はなく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩等として配合することが好ましい。
【0105】
アルカリ金属塩の配合割合は、「アルカリ金属」としての基材全体に対する含有量が前記した範囲(質量で2ppm以上100ppm以下)になるように配合することが望ましい。この範囲の含有量であると、セラミックス粒子がアルカリ金属を含有する粒界層を介して互いに結合することで、基材に物理的強度を与える。
【0106】
セラミックス原料がシリカ原料の場合には、該シリカ原料にアルミニウムや鉄を含むことがあり、これらがクリストバライトの生成を誘発し、物理的強度を低下させるが、該アルカリ金属の存在によって、該障害を抑制することができる。アルカリ金属の存在は、セラミックスがシリカの場合に特に有効である。
【0107】
<<他の配合物>>
前記「他の配合物」としては、各種分散剤;各種界面活性剤;各種(水溶性)有機化合物;各種ワックス等が挙げられる。
該各種分散剤としては、特に限定はなく、長鎖脂肪酸(塩)、(メタ)アクリル酸若しくは無水マレイン酸の(共)重合物の塩(ここで、「塩」としては、アンモニウム塩等の焼成で焼失するものが好ましい)等が挙げられる。また、市販品も好適に用いられる。
該各種界面活性剤としては、特に限定はなく、アニオン系、カチオン系、両系(ベタイン系等)又はノニオン系の界面活性剤が用いられる。
各種水溶性有機化合物としては、特に限定はなく、ポリエーテル等が用いられる。
なお、上記他の配合物やバインダーポリマーは、同一物が他の分類に重複して属している場合もある。
これらは、水溶性の場合はスラリー中に配合して溶解させ、非水溶性の場合は水系エマルジョンとして配合することが好ましい。
なお、上記「他の配合物」の具体例は、ここの工程(3)の項に記載したが、工程(1)ないし工程(3)の何れかの工程で配合してもよく、工程(1)又は工程(3)で配合することが好ましい。
【0108】
上記種々の「他の配合物」は、水系混合スラリー全体に対して、種類毎にそれぞれ、0.01質量%以上10質量%以下で含有させることが好ましく、0.03質量%以上5質量%以下で含有させることがより好ましく、0.10質量%以上2質量%以下で含有させることが特に好ましい。
【0109】
特に限定はされないが、例えば、以下のように、水系混合スラリーを調製することが好ましい。
まず、撹拌容器に、セラミックス原料スラリーを投入して撹拌する。次に、撹拌しながら、ナノカーボン材料スラリーを加える。両者の固形分としての混合比は、前記した(特に)好ましい範囲で行うことが望ましい。
更に、所定時間、撹拌を継続して、水系混合スラリーを調製する。撹拌装置、撹拌(回転)速度、撹拌のトルク、撹拌時間・温度等は、スラリーの、粘度、混合量、混合比等により適宜調節する。
【0110】
<工程(4)>
工程(4)は、前記水系混合スラリーから水を留去して、前記セラミックス原料、前記ナノカーボン材料、及び、前記バインダーポリマーを含有する複合粉体を調製する工程である。
【0111】
水の留去の方法・装置は、特に限定はないが、凝集させずに、均一な状態を保ったままで水を留去するために、スプレードライ法(装置)が好ましく、回転ディスク式スプレードライ法(装置)が特に好ましい。
【0112】
工程(4)では、水系混合スラリーを、装置に投入して水を除去すると共に複合粉体を調製する。以下、この「複合粉体を調製」を「造粒」と言うこともある。
該複合粉体は、前記セラミックス原料の表面に前記ナノカーボン材料が均一に分散して付着するように、水の留去条件を設定する。特に、回転ディスク式スプレードライヤーを使用した場合の、ディスク回転数、入口温度、出口温度、乾燥速度(留去速度)等は、上記態様を満足するように適宜選定する。
【0113】
<工程(5)>
工程(5)は、該複合粉体を容器に収容しプレス成型して予備成型体を調製する工程である。
【0114】
工程(5)では、工程(4)で「水系混合スラリーから水を留去して調製(造粒)した複合粉体」を、プレス成型して予備成型体を調製する。プレス成型は、常法に従って行えばよいが、乾式金型プレス装置等を用いることが好ましい。また、セラミックス製造用の成型機を使用することが好ましい。
プレス圧力は、良好に予備成型体ができれば特に限定はないが、400kg/cm以上2000kg/cm以下が好ましく、700kg/cm以上1500kg/cm以下が特に好ましい。
【0115】
調製された予備成型体は、チョークや落雁のような様相を有している。
予備成型体をプレート状に成型すれば、その後の工程(6)でもプレート状であるので、そのまま又は切断して、本発明の前記プレート状の基材とすることが可能である。
【0116】
<工程(6)>
工程(6)は、上記予備成型体を、酸素の不存在下で焼成する工程である。該焼成によって全体に固化する。
【0117】
ナノカーボン材料を有しているので、大気中(酸素の存在下)ではなく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空等、酸素がない状態又は酸素が極めて少ない状態で焼成する。少量の酸素の存在がナノカーボン材料を消失させる(燃す)恐れがあるときは、別途、炭素質物を併置させることも好ましい。
【0118】
焼成温度、昇温速度、焼成時間等は、特に限定されないが、温度は、1200℃以上1400℃以下で焼成することが好ましく、1230℃以上1380℃以下で焼成することがより好ましく、1260℃以上1350℃以下で焼成することが特に好ましい。
昇温速度は、特に限定されないが、100℃/h~250℃/hの範囲が好ましい。
焼成時間は、上記焼成温度に達したら、該温度で、0.5時間~2時間の範囲で焼成することが好ましい。
【0119】
<工程(7)>
本発明の液体吸収・放出性基材の製造方法においては、上記工程(6)の後に、以下の工程(7)を有することも好ましい。
工程(7)は、「『前記工程(5)でプレス成型して調製した前記予備成型体』を、上記工程(6)で焼成して得たプレート状のもの」を粗粉砕する工程である。
【0120】
前記工程(5)で、プレス成型して得られる予備成型体は、通常はプレート状であるので、それを焼成して得られる「プレート状の基材」を、そのまま又は切断して用途に供してもよいが、用途によっては粗粒状のものが好ましいこともある。その場合は、上記工程(7)を行う。
【0121】
工程(7)における粗粉砕の方法や使用する装置、調製する粗粒の形状等は、前記<液体吸収・放出性基材の形状>の項で記載した通りである。
【0122】
<有効成分放出性プレート若しくは粗粒の製造方法>
本発明は、液体吸収・放出性基材の製造方法で製造した液体吸収・放出性基材に、香りを有する成分を含有する液体、又は、殺菌若しくは殺虫成分を含有する液体を吸収させることを特徴とする、有効成分放出性プレート若しくは粗粒の製造方法でもある。
【0123】
「香りを有する成分」、「殺菌若しくは殺虫成分」、「それらを含有する液体」、「該液体の溶媒」、「該液体を本発明の基材に吸収させる方法」等は、前記した通りである。
【0124】
<用途>
本発明の、液体吸収・放出性基材や、有効成分放出性プレート若しくは粗粒の用途は、特に限定はされないが、揮発性有効成分が「香りを有する成分」である場合には、アロマテラピー、医療、ディフューザー、嗜好品、空間用芳香拡散カートリッジ等に用いられる。
また、揮発性有効成分が「殺菌若しくは殺虫成分」である場合には、医療、食品製造、一般家庭用品、空間用殺菌若しくは殺虫成分拡散カートリッジ等に用いられる。
【0125】
使用方法としては、棒状のディフューザーの基材として、本発明の「液体吸収・放出性基材」を用いることも好ましく;有効成分放出性プレート若しくは粗粒を、室内、浴室内、引き出し内、車内、コンテナ内、倉庫内等に設置することも好ましく;除湿機、空気乾燥機、エアコン、掃除機、洗濯機等の機器に取り付けることも好ましい。
「有効成分放出性プレート若しくは粗粒」は、カートリッジに収納・搭載して、交換し易いようにすることも好ましい。
【0126】
<作用・原理>
本発明の基材が、多孔質セラミックスではないのにもかかわらず、意外にも液体を吸収し放出する性質を有する作用・原理は、完全には明らかではないが、以下のように考えられる。
ただし、以下の作用・原理が当てはまる範囲のみに、本願発明の範囲が限定されることはない。
【0127】
すなわち、例えば、シリカと「アルミナ又はジルコニア」では、焼成のメカニズムが異なるが、何れも、焼成した粒子間の隙間に、ナノカーボン材料が入り込む構造を取ると考えられる。
シリカの場合、シリカ同士が、特に球状シリカ同士が(好ましくは、アルカリ金属の存在で接着して)、その部分的な隙間にナノカーボン材料が入り込み、アルミナ又はジルコニアの場合は、結晶粒の粒界の隙間にナノカーボン材料が入りこむと考えられる。
そして、このような微視的な構造が、本発明の基材に吸液性や放出性・徐放性をもたらしたと考えられる。
【実施例0128】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0129】
製造例1
<セラミックスがシリカで、ナノカーボン材料がカーボンナノチューブ(CNT)>
<<工程(1)>>
セラミックス原料として、無孔質の球状シリカ原料(デンカ株式会社製、SFP 20M)を用いた。該球状シリカ原料の体積平均粒径は、0.4μmであり、比表面積は、11.2m/gであった。また、球状シリカ原料全体に対して、アルミニウムを120ppmで、鉄を7ppmで含むものであった。
球状シリカ原料は、球状セラミックス原料スラリー全体に対して、固形分で50質量%配合した。
【0130】
分散剤としては、ポリアクリル酸アンモニウムを、セラミックス原料スラリー全体に対して1.4質量%配合した。
ポットミル中で、純水を配合して水分率50質量%に調整して、撹拌して、球状セラミックス原料(球状シリカ原料)の水スラリーを調製した。
【0131】
<<<アルカリ金属塩の配合>>>
アルカリ金属塩を、上記(球状)シリカ原料固形分全体に対して、アルカリ金属のみの質量濃度として、5~80ppmの範囲で配合した。なお、最終的に得られる基材全体に対しても、5~80ppmの範囲で配合したことになる。
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)を、それぞれ上記範囲となるように配合した。また、塩としては、硝酸塩を用いた。
【0132】
<<工程(2)>>
ナノカーボン材料として、カーボンナノチューブ(CNT)(ナノサミット株式会社製、CNT)を用いた。
純水を加えて濃度を調整し、ナノカーボン材料スラリーを調製した。該スラリー全体に対して、4質量%のカーボンナノチューブ(CNT)を含有するナノカーボン材料スラリーを調製した。
【0133】
<<工程(3)>>
得られたナノカーボン材料スラリー(CNTスラリー)を、セラミックス原料(球状シリカ原料)の固形分全体に対して、固形分で1、2、3、5、7、11質量%となるように配合・混合し、更に、下記する「バインダーポリマー」と「他の配合物」を添加して、水系混合スラリーを調製した。
【0134】
ナノカーボン材料もセラミックス原料(球状シリカ原料)も、その後の工程(6)の焼成では消失しないので(質量減量はないので)、上記配合比は、最終的な基材中での含有比となる。
【0135】
参考のために、ナノカーボン材料(スラリー)を配合しない、工程(1)で調製したセラミックス原料(球状シリカ原料)スラリーのみに、下記する「バインダーポリマー」と「他の配合物」を添加したスラリーも調製した。
【0136】
<<<バインダーポリマーと他の配合物の配合>>>
「バインダーポリマー」及び/又は「他の配合物」として、以下の物質を配合した。
以下に示す「質量%」は、水系混合スラリー中のセラミックス原料(球状シリカ原料)の固形分全体に対する含有割合である。
【0137】
イソシアネート変性ポリエーテル系高分子として、三洋化成工業株式会社製、メルポールF-220(バインダーとしても、界面活性剤としても機能する)を、0.4質量%
(メタ)アクリル系共重合体として、ハイケム株式会社製、セランダーAP-2(主にバインダーとして機能する)を、6.7質量%
ステアリン酸エマルジョンとして、中京油脂株式会社製、セロゾール920(主に滑剤として機能する)を、1.1質量%
【0138】
上記した、ナノカーボン材料スラリー(CNTスラリー)、セラミックス原料(球状シリカ原料)スラリー、バインダー、及び、他の配合物を混合し、次いで、得られた水系混合スラリーの濃度を、水分率70質量%に調整した。
【0139】
<<工程(4)>>
スプレードライヤーを用いて、上記工程(3)で調製した水系混合スラリーから、以下の条件で水を留去して、複合粉体を調製した(造粒した)。
入口温度:210℃
出口温度:110℃
差圧:0.7kPa
アトマイザー回転数:17000rpm
【0140】
<<工程(5)>>
上記工程(4)で得られた複合粉体を、乾式プレス成型機に付属した容器内に収容し、100MPaの圧力でプレス成型して予備成型体を調製した。
【0141】
<<工程(6)>>
上記工程(5)で得られた予備成型体を、窒素(N)雰囲気中で、1320℃まで昇温し、1時間かけて加熱・焼成した。
その際、該予備成型体を、カーボンのフェルトで巻いて黒鉛容器に入れることで、CNT(ナノカーボン材料)の焼失を防いだ。
【0142】
上記のようにして得られた「シリカとカーボンナノチューブ(CNT)を含有する液体吸収・放出性基材」を、直径4.3cm×厚さ0.6cm(6mm)の円盤状のプレートの基材にして(図1参照)、以下の「揮発性有効成分を含有する液体の吸収」及び「特性評価」に使用した。
【0143】
製造例2
<セラミックスがアルミナで、ナノカーボン材料がカーボンナノチューブ(CNT)>
<<工程(1)>>
製造例1の工程(1)において、セラミックス原料として、無孔質の球状シリカ原料に代えて、高純度アルミナ原料(大明化学工業株式会社製、TM-DAR)を用い、アルカリ金属塩を配合しなかった以外は、上記製造例1の工程(1)と同様にして、セラミック原料(アルミナ原料)の水スラリーを調製した。
該アルミナ原料の体積平均粒径は、0.2μmであり、比表面積は、13.4m/gであった。
【0144】
<<工程(2)~(6)>>
製造例1の工程(2)~(6)と同様にして、工程(2)~(6)を行い、得られた「アルミナとカーボンナノチューブ(CNT)を含有する液体吸収・放出性基材」を、上記製造例と同サイズにして、以下の評価例(「揮発性有効成分を含有する液体の吸収」及び「その他の評価」)に使用した。
【0145】
評価例1
製造例1で得られた基板(CNT/シリカ)について、以下の評価項目を、以下のように評価・測定した。
下記するそれぞれの評価項目の評価結果は、以下の表1にまとめて示す。「吸液量その2」の評価結果のみは、以下の表2に示す。
【0146】
<曲げ強さ>
JIS R 1601に従って、下記条件で測定した。
スケール:5kN
クロスヘッドスピード:0.5mm/min
スパン:30mm
試験片:平板
【0147】
<硬度>
JIS K5600-5-4に従って、ひっかき硬度(鉛筆法)を測定し、「鉛筆硬度」とした。
JIS Z2244に従って、試験力5kgfで測定し、「ビッカース硬さ」とした。
【0148】
<吸液量>
<<その1>>
直径4.3cm×厚さ0.6cm(6mm)の円盤状プレート状の基材の「底面のみのほぼ1面」(小面積の側面を含む)を、揮発性有効成分としてユズの成分を含み、ほぼ水溶液である「ユズ水」を「揮発性有効成分を含有する液体」とし、該液体10mLに5時間浸漬した。「ユズ水」は一般的な所謂精油より水が多いものである。
上記液体10mLを、上記「プレート状の基材」が水平に入るだけの底面積を有する平板上の容器に入れ、その中に上記「プレート状の基材」を、丁度基材全体が浸漬するように水平にして入れ、蓋をして無風の室内に20℃(室温)で5時間静置した。
【0149】
なお、液体に浸漬した基材の体積は、
[(4.3×4.3×π)/4]×0.6=8.7cmであったので、この基材体積を以下で用いた。
【0150】
5時間後、吸液されずに容器内に残存している液体の体積を測定し、最初の10mLから引くことにより、吸液した液体の体積を求めて、吸液量[mL]とした。なお、該液体の密度は1.00[g/cm]だったので、該吸液量の単位[mL]は、[g]でもある(表1参照)。
【0151】
用いた基材の体積(8.7cm)で除すことにより、吸液率[g/cm]とした。
測定中に容器内の液体は有意には蒸発していなかった。
【0152】
一方、5時間後、該基材を引き上げて、素早く表面の液体を拭き取って、重さを測定し、浸漬前後の質量差(重くなった量)を、浸漬前の質量で除して、更に、評価した上記「基板の液体に浸漬された体積」で除して、単位体積当たりの増加質量を求めた吸液率[g/cm]も、ほぼ上記吸液率と一致した。
【0153】
<<その2>>
上記した<吸液量><<その1>>における「液体10mL」を「液体0.5mL」に代え(減らし)、すなわち、基材の下部のみが液体に浸漬するようにし、容器内の液が基材に吸収されて、容器から完全に消失するまでの時間を測定した。
<吸液量><<その2>>の結果のみは、以下の表2に示す。
【0154】
<吸液性>
20℃のプレート状の基板の上面に、上記「吸液量」の測定に用いた液体と同様の液体を、スポイトで3滴(0.15mL)滴下し、高さ2mmの液体の膨らみを作り、該膨らみの高さ(初期は2mm)が、基板に吸収されて時間と共に小さくなっていくのを目視で観察した(図2参照)。
以下の基準で判定して「吸液性」とした。
【0155】
☆:滴下から10秒以内に、基板上の液体が完全になくなった
◎:滴下から10~20秒で、基板上の液体が完全になくなった
○:滴下から20秒~8分で、基板上の液体が完全になくなった
△:滴下から8分~32分で、基板上の液体が完全になくなった
×:32分より時間が経過しても、基板上の液体の量がなくならなかった
【0156】
<放出性・徐放性>
揮発性有効成分及びそれを含有する液体として、前記した「ユズ水」を用い、前記<吸液量><<その1>>と同様にして調製した基材を、調製直後(初日)、2日経過後、3日経過後に、被験者A、B、Cの3人に、香りの経時による継続性を評価してもらった。
基板からの香りの経時変化を、室温20℃で、基板から50cm離れた場所から、被験者A、B、Cが香りを嗅いで、以下の基準で、有効成分の「放出性・徐放性」を判定してもらった。表3~5に各被験者の評価結果を示す。
【0157】
<<放出性・徐放性の判定基準>>
5:強烈な香りを感じた
4:強い香りを感じた
3:楽に感知できる香りを感じた
2:何のにおいか分かる弱い香りを感じた
1:やっと感知できる香りを感じた
0:無臭であった(香りを感じなかった)
【0158】
「放出性・徐放性」の各被験者の評価結果については、被験者Aは表3に、被験者Bは表4に、被験者Cは表5にそれぞれ示す。
【0159】
3人を総合して、3日目の結果が約2以上を「◎」、約1~2を「○」、約0~1を「△」、全員(3人とも)0を「×」と言うように、「放出性・徐放性」を総合評価(判定)し、得られた3人の総合評価の結果を表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
【表4】
【0164】
【表5】
【0165】
評価例2
製造例1で得られた基材(CNT/シリカ)について、有機の液体の吸液量[g]と吸液率[g/g]を測定した。
評価例1は、「液体」として「ユズ水」(主成分は水)を用いたが、評価例2では、「液体」として、ジメチルスルホキシド(DMSO)(有機物液体)を用いた。
また、評価例1の吸液率[g/cm]は、吸収された液体の質量[g]を、基材の体積[cm]で割って求めたが、評価例2では、吸収された液体の質量[g]を、基材の質量[g]で割って求めた。
【0166】
製造例1で得られた基材(CNT/シリカ)を、80℃で10時間乾燥処理した後、それぞれの重さ[g]を、電子天秤を使い小数点2桁まで測定した。
【0167】
ナノカーボン材料(CNT)の配合割合、1質量%、2質量%、3質量%、5質量%、7質量%の5サンプルを、それぞれ、完全にDMSOに浸漬した状態で真空チャンバーに入れ、真空ポンプで30分間減圧した後、各サンプルをDMSOから取り出し、キムワイプ(登録商標)で、基材表面のDMSOをふき取った後、電子天秤で、重さを小数点2桁まで測定した。
【0168】
DMSOに浸漬後の基材の質量から、DMSOに浸漬前の基材の質量を引いて、吸液量[g]とした。次いで、以下の式から吸液率[%]を求めた。
[吸液率(%)]=[吸液量[g]/基材の質量[g]]×100
結果を以下の表6に示す。
【0169】
【表6】
【0170】
<結果>
結果を上記表1~6に示した。<吸液量><<その2>>の結果は上記表2に示す。
表1中、「-」は、測定不可能、又は、結果が悪く測定に意味がないために測定しなかったことを示す。「放出性・徐放性」の結果については、被験者Aは表3に、被験者Bは表4に、被験者Cは表5にそれぞれ示す。評価例2については表6に示す。
【0171】
ナノカーボン材料もセラミックス原料(球状シリカ原料)も、その後の工程(6)の焼成では消失しない(質量減量はない)。一方、バインダーポリマー、他の配合物等は、配合量が少ない上に、工程(6)の焼成で消失する(質量がなくなる)。
また、ナノカーボン材料は、セラミックス原料(球状シリカ原料)に対して含有量が桁違いに少ない。
従って、表1~6に記載の「セラミックス原料全体に対してのナノカーボン材料の固形分での配合割合」は、焼成後の最終形態である「基材全体に対してのナノカーボン材料の含有割合」と読み換えることができる。
【0172】
<<まとめ>>
基材全体に対して、1、2、3、5、7質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)は何れも、吸液量[mL]と、吸液率[g/cm][g/g]が共に良好な値を示した。
特に、基材全体に対して、2、3、5、7質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)は何れも、吸液性も含めて上記特性が極めて良好であった。
表1及び表6から分かるように、本発明の液体吸収・放出性基材は、大きい吸液率を示した。「テラコッタ等の多孔質ではないセラミックス」としては、極めて大きい驚異的な吸液率を示した。
【0173】
一方、基材全体に対して、11質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)は、セラミックスとは言えないような基材しかできなかった。物理的強度が弱かった。基材全体に対して10質量%以下のナノカーボン材料を含有すると良い(含有する必要がある)ことが分かった。
【0174】
ナノカーボン材料の含有量の増加と共に、物理的強度(特に曲げ強さ)が低下していく方向であり、強度的には、基材全体に対して、0、1、2、3、5質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)が良好であったが、用途によっては、7質量%のナノカーボン材料を含有する基材も十分使用可能であった。
中でも特に、0、1、2、3質量%のナノカーボン材料を含有する試料(基材)が、物理的強度には特に優れていた。
【0175】
吸液と強度を考慮すると、基材全体に対して、2、3、5質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)が総合的に最も優れていた。
【0176】
放出性・徐放性については、2、3、5、7質量%のナノカーボン材料を含有する試料(プレート状の基材)で、十分な放出性・徐放性を示した。
製造例1や評価例1、2では、使用した液体量が少ないこと、基材の体積(表面積)が小さいこと等を考慮すれば、形態を最適化すれば、香り、殺菌性、殺虫性等は、約3か月は持続するようにできることが示唆された。
【0177】
評価例1及び評価例2は、製造例1で得られた「セラミックスがシリカの『シリカ基材』」で評価したが、製造例2で製造した「アルミナ基材」で評価しても、評価例1及び評価例2における「シリカ基材」の評価とほぼ同様の結果が得られた。
また、カーボンナノチューブ(CNT)に代えて、カーボンナノファイバー、フラーレン、グラフェン等のナノカーボン材料を用いても、ほぼ同様の結果が得られることが示唆される。
【0178】
製造例3
製造例1で得られた、セラミックスがシリカで、ナノカーボン材料がカーボンナノチューブ(CNT)であるプレート状の基材を、体積平均粒径2mmに、ハンマーミルを用いて粗粉砕した。
【0179】
得られた粗粒50gを、不織布でできた袋に詰めて、該袋を通風のあるプラスチックケースに入れてエアコンの送風口に貼付した。
【0180】
3か月以上にわたって、揮発性有効成分である「ユズの香り成分」を放出し続けた。3か月に1回の頻度で交換すればよいことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の液体吸収・放出性基材は、セラミックスの性質を有したまま、液体を吸収するので、該液体又は該液体中の有効成分の放出性・徐放性が要求される分野に広く利用されるものである。
具体的には、アロマテラピー分野、美容産業分野、医療産業分野、ヘルスケア分野、アンチエージング分野、介護分野、環境分野、日用品分野、電気製品分野、等に広く利用されるものである。
図1
図2