(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117663
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】OCT装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220804BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220804BHJP
A61B 3/15 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G01N21/17 630
A61B3/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014279
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】余語 宏文
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 倫全
【テーマコード(参考)】
2G059
4C316
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059AA06
2G059BB12
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF02
2G059JJ15
2G059JJ22
2G059MM01
2G059MM04
2G059MM10
2G059MM14
4C316AA09
4C316AB03
4C316FA14
4C316FB29
4C316FY01
(57)【要約】
【課題】 良好にOCTデータを得ることができるOCT装置を提供する。
【解決手段】 光源からの光を、被検体の組織上に導かれる測定光と、参照光路に導かれる参照光とに分割する光分割器と、測定光と参照光とのスペクトル干渉信号を受光する検出器と、を含むOCT光学系と、参照光の自己干渉による変調成分を示す変調成分情報を、検出器からの参照光の受光信号を処理することによって取得する変調成分取得手段と、測定光と参照光とのスペクトル干渉信号から被検体のOCTデータを生成する演算処理において、OCTデータにおける自己干渉ノイズを変調成分情報に基づいて低減するOCTデータ生成手段と、を備えるOCT装置。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を、被検体の組織上に導かれる測定光と、参照光路に導かれる参照光とに分割する光分割器と、前記測定光と前記参照光とのスペクトル干渉信号を受光する検出器と、を含むOCT光学系と、
前記参照光の自己干渉による変調成分を示す変調成分情報を、前記検出器からの前記参照光の受光信号を処理することによって取得する変調成分取得手段と、
前記測定光と前記参照光との前記スペクトル干渉信号から被検体のOCTデータを生成する演算処理において、前記OCTデータにおける自己干渉ノイズを前記変調成分情報に基づいて低減するOCTデータ生成手段と、を備えるOCT装置。
【請求項2】
前記OCT装置は、
前記検出器に前記測定光と前記参照光のうち、前記参照光を選択的に検出させる選択手段を備え、
前記変調成分取得手段は、
前記選択手段によって、参照光が前記検出器によって選択的に検出された場合における前記受光信号に基づいて、前記変調成分情報を取得する、請求項1に記載のOCT装置。
【請求項3】
前記OCTデータ生成手段は、
前記変調成分取得手段によって取得された前記変調成分情報に対して最適化処理を行うことで、
前記演算処理において、前記変調成分情報に前記最適化処理を行わない場合よりも、前記OCTデータにおける自己干渉ノイズを低減させる、請求項1又は2に記載のOCT装置。
【請求項4】
前記変調成分取得手段は、
前記OCTデータのグラフに現れるピークを検出し、検出したピークに基づいて前記変調成分情報を抽出する抽出処理を行う、請求項1~3のいずれかに記載のOCT装置。
【請求項5】
前記自己干渉は、前記OCT光学系中の光学素子で生じた前記参照光の多重反射に起因している、請求項1~4のいずれかに記載のOCT装置。
【請求項6】
前記変調成分取得手段は、
前記OCT装置が被検体の検査を行う前に、前記変調成分情報を取得する請求項1~5のいずれかに記載のOCT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検体のOCTデータを得るOCT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体(例えば、眼)のOCTデータを得るために、被検体から反射された測定光と参照光との干渉信号を受光素子により検出するOCT光学系を備えるOCT装置が知られている。
【0003】
また、被検体のOCTデータを得るOCT装置として、例えば、複数の参照光路を備える装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたOCT装置では、画角切換用のアタッチメントを対物光学系に着脱することで、測定光の走査範囲が変更される。複数の参照光路は、アタッチメントの装着状態と退避状態とのそれぞれにおける、測定光路の光路長に対応する光路長で、それぞれ形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような複数の参照光路を備える装置において、複数の参照光路のいずれかに参照光を選択的に導くために光スイッチを配置することが検討された。この場合、光スイッチ内部での多重反射によって、参照光に自己干渉が生じ、自己干渉に起因するノイズ(以下、「自己干渉ノイズ」と称する)が、OCTデータに生じてしまう場合があった。
【0007】
本開示は、上記問題を鑑みてなされたものであり、良好にOCTデータを得ることができる、OCT装置を提供すること技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) OCT装置は、光源からの光を、被検体の組織上に導かれる測定光と、参照光路に導かれる参照光とに分割する光分割器と、前記測定光と前記参照光とのスペクトル干渉信号を受光する検出器と、を含むOCT光学系と、前記参照光の自己干渉による変調成分を示す変調成分情報を、前記検出器からの前記参照光の受光信号を処理することによって取得する変調成分取得手段と、前記測定光と前記参照光との前記スペクトル干渉信号から被検体のOCTデータを生成する演算処理において、前記OCTデータにおける自己干渉ノイズを前記変調成分情報に基づいて低減するOCTデータ生成手段と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施例に係るOCT装置の光学系の一例を示す図である。
【
図2】本実施例に係るOCT装置の制御系の一例を示す図である。
【
図3】多重反射光が生じる光スイッチの構造の一例を示した図である。
【
図4】変調光のスペクトル波形の一例を示したグラフである。
【
図5】OCT画像上に現れる自己干渉ノイズを説明する図である。
【
図6】ダークデータから変調成分情報を取得する処理の流れ説明するフローチャート図である。
【
図7】被検眼のOCTデータを取得する処理の流れを説明するフローチャート図である。
【
図8】スペクトル干渉信号に変調成分由来のピークが現れることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[構成]
以下、図面を参照しつつ、本実施例に係る光コヒーレンストモグラフィー(OCT)装置を説明する。本実施例に係るOCT装置1は、例えば、スペクトルドメイン式OCT(SD-OCT)を基本的構成としている。また、本実施例において、被検体の例として、被検眼を測定する場合を記載するが、測定対象はこれに限られない。
【0011】
図1に示すように、OCT装置1は、光源102、OCT光学系100、および、演算制御器(演算制御部)70(
図2参照)を含む。その他、OCT装置1には、メモリ72、表示部75、図示無き正面像観察系及び固視標投影系が設けられてもよい。演算制御器(以下、制御部)70は、光源102、OCT光学系100、メモリ72、表示部75に接続されている。
【0012】
OCT光学系100は、導光光学系150によって測定光を被検眼に導く。なお、OCT光学系100は、参照光学系110に参照光を導く。OCT光学系100は、被検眼Eによって反射された測定光と参照光との干渉、によって取得される干渉信号光を検出器(受光素子)120に受光させる。なお、OCT光学系100は、図示無き筐体(装置本体)内に搭載され、ジョイスティック等の操作部材を介して周知のアライメント移動機構により被検眼Eに対して筐体を3次元的に移動させることによって被検眼に対するアライメントが行われてもよい。
【0013】
本実施例では、特に断りが無い限り、OCT光学系100には、SD-OCT方式が用いられるものとする。SD-OCTであるOCT光学系100には、光源102として低コヒーレント長の光束を出射する光源が用いられる。また、検出器120として、スペクトル干渉信号を波長成分ごとに分光して検出する分光検出器が用いられる。但し、必ずしもこれに限られるものでは無く、OCT光学系100には、SS-OCT方式等の他の方式の光学系が用いられてもよい。
【0014】
カップラ(スプリッタ)104は、第1の光分割器として用いられ、光源102から出射された光を測定光路と参照光路に分割する。カップラ104は、例えば、光源102からの光を測定光路側の光ファイバ152に導光すると共に、参照光路側の参照光学系110に導光する。
【0015】
<導光光学系>
導光光学系150は、測定光を被検眼Eに導くために設けられる。導光光学系150には、例えば、光ファイバ152、コリメータレンズ154、可変ビームエキスパンダ155、光スキャナ156、及び、対物光学系158(本実施例における対物光学系)が順次設けられてもよい。この場合、測定光は、光ファイバ152の出射端から出射され、コリメータレンズ154によって平行ビームとなる。その後、可変ビームエキスパンダ155によって所望の光束径となった状態で、光スキャナ156に向かう。光スキャナ156を通過した光は、対物光学系158を介して、被検眼Eに照射される。対物光学系158に関して光スキャナ156と共役な位置に、第1旋回点P1が形成される。この第1旋回点P1に前眼部が位置することで、測定光はケラレずに眼底に到達する。また、光スキャナ156の動作に応じて測定光が眼底上で走査される。このとき、測定光は、眼底の組織によって散乱・反射される。
【0016】
光スキャナ156は、被検眼E上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させてもよい。光スキャナ156は、例えば、2つのガルバノミラーであり、その反射角度が駆動機構によって任意に調整される。光源102から出射された光束は、その反射(進行)方向が変化され、眼底上で任意の方向に走査される。光スキャナ156としては、例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられてもよい。
【0017】
測定光による被検眼Eからの散乱光(反射光)は、投光時の経路を遡って、光ファイバ152へ入射され、カップラ104に達する。カップラ104は、光ファイバ152からの光を、検出器120に向かう光路へと導く。
【0018】
また、例えば、導光光学系150にはシャッター159が備えられる。本実施例において、シャッター159の開閉は後述する制御部70によって制御される。シャッター159が閉じられることで、測定光(及び眼底由来の反射光)が遮断されて検出器120に入射しなくなる。すなわち、測定光と参照光のうち、参照光が選択的に検出器120によって検出される状態となる。この状態で検出器が検出する受光信号を、本実施例においては便宜的にダークデータと称する(詳細は後述する)。
【0019】
なお、シャッター159は、測定光と参照光のうち、参照光を選択的に検出器120に検出させるための選択手段の一例であり、これに限定されない。例えば、選択手段として、光吸収部材が備えられていてもよい。その場合、例えば、制御部70が光スキャナ156を制御し、測定光を光吸収部材に導くことで、検出器120に測定光が入射することが抑制される。これにより、測定光と参照光のうち、参照光を選択的に検出器120に検出させることができる。
【0020】
本実施例において、シャッター159はカップラ104とコリメータレンズ154の間に配置されている。もちろん、シャッター159の配置はこれに限定されない。例えば、シャッター159は、対物光学系158と被検眼Eとの間に配置されてもよい。
【0021】
<アタッチメント光学系>
実施例のOCT装置1においてアタッチメント光学系160(「画角切換光学系」の一例)は、導光光学系150における対物光学系158と、被検眼Eとの間において挿脱される。アタッチメント光学系160を含む鏡筒が、図示無き筐体面に対して着脱されることで、対物光学系158と被検眼Eとの間において、アタッチメント光学系160の挿脱が行われる。
【0022】
アタッチメント光学系160は複数のレンズ161~164を含んでいてもよい。ここで、
図1に示したアタッチメント光学系160において主要な正のパワーを持つレンズは、被検眼の眼前に置かれたレンズ164である。少なくともレンズ164の挿脱一は、対物光学系158によって形成される第1旋回点P1と被検眼Eとの間となっている。第1旋回点P1を通過した測定光を少なくともレンズ164が光軸Lに向けて折り曲げることで、アタッチメント光学系160および対物光学系158に関して光スキャナ156と共役な位置に第2旋回点P2が形成される。つまり、アタッチメント光学系160は、第1旋回点P1を第2旋回点P2へリレーする光学系である。
【0023】
本実施例において、第2旋回点P2における測定光の立体角は、第1旋回点P1における立体角に比べて大きくなる。例えば、第2旋回点P2での立体角は、第1旋回点P1における立体角に対して2倍以上に増大される。本実施例では、退避状態においてφ60°程度の画角で走査可能であり、挿入状態では、φ100°程度の画角で走査可能となる。
【0024】
可変ビームエキスパンダ155は、実施例における光束径調整部である。一例として、可変ビームエキスパンダ155は、両側テレセントリック光学系を形成する複数のレンズを有し、レンズ間隔がアクチュエータによって変化されることで、光束径を切換える構成であってもよい。可変ビームエキスパンダ155は、制御部70からの指示に基づいて測定光の光束径を調整する。
【0025】
仮に、挿入状態と退避状態との間で、可変ビームエキスパンダ155から光スキャナ156へ導かれる測定光の光束径が一定であるとすると、眼底上での測定光のスポットサイズは画角と比例するので、挿入状態では退避状態に比べて解像力が低下してしまう。そこで、本実施例では、制御部70は、アタッチメント光学系160の挿脱に応じて、可変ビームエキスパンダ155を駆動し、挿入状態での光束径を、退避状態に対して縮小する。挿入状態と退避状態とにおける光束径(可変ビームエキスパンダ155における光束径)の比は、挿入状態と退避状態とにおける画角の逆比であることで、アタッチメント光学系160の挿脱に基づく解像力の変化を抑制できる。
【0026】
<参照光学系>
参照光学系110は、測定光の眼底反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110を経由した参照光は、カップラ148にて測定光路からの光と合波されて干渉する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであってもよい。
【0027】
図1に示す参照光学系110は、透過光学系によって形成されている。この場合、参照光学系110は、カップラ104からの光を戻さず透過させることにより検出器120へと導く。これに限らず、参照光学系110は、例えば、反射光学系によって形成され、カップラ104からの光を反射光学系により反射することにより検出器120に導いてもよい。
【0028】
本実施例において、参照光学系110には複数の参照光路が設けられてもよい。例えば
図1では、参照光路が、光スイッチ143によって、ファイバ141を通過する光路(本実施例における第1分岐光路)と、ファイバ142を通過する光路(本実施例における第2分岐光路)と、に分岐される。ファイバ141とファイバ142は、カップラ140に接続されている。
【0029】
例えば、後述する制御部70は、光スイッチ143を制御し、アタッチメント光学系160の有無に対応して、参照光が通過する分岐光路を切り換える。これによって、2つの分岐光路のうち測定に好適な光路長を持つ分岐光路に対して、参照光が選択的に入射される。すなわち、アタッチメント光学系160が挿入されている場合は、アタッチメント光学系160の光路長を補償するための光路長を備える第2分岐光路に参照光が入射し、アタッチメント光学系160が挿入されていない場合は、第1分岐光路に参照光が入射する。
【0030】
また、2つの分岐光路のうち一方に選択的に参照光が導かれることで、仮に2つの分岐光路に同時に参照光が入射する場合と比べると、測定光と適切に干渉する参照光の光量が確保されやすくなる。このため、検出器120が取得する干渉信号の信号強度が増加し、良好にOCTデータを得ることができる。
【0031】
すなわち、光スイッチ143を設けることによって、光スイッチ143が備えられず、第1分岐光路を通過した参照光と、第2分岐光路を通過した参照光の両方が検出器120に導かれる場合と比較して、より好適に干渉信号が得られる。
【0032】
本実施例において、光スイッチ143は透過型の光学素子143a(例えば、プリズム)を備える。例えば、光スイッチ143内の光学素子143aの配置が変更されることで、2つの分岐光路の間で、参照光が導かれる光路が切り換わる。本実施例において、光学素子143aの配置は、後述する制御部70によって変更される。
【0033】
本実施例において、カップラ104からの参照光は、光スイッチ143によってファイバ141とファイバ142とのいずれかに導かれる。
【0034】
ここで、本実施例では、光スイッチ143とカップラ148との間の光路上、つまりは、第1分岐光路と第2分岐光路との共通光路上に、参照光路調整部145が設けられているので、測定光路と参照光路との間の光路長差の調整であって、眼軸長の個人差に関する調整を、第1分岐光路および第2分岐光路の両方に対して、まとめて実行することが可能となる。
【0035】
なお、参照光路調整部145における光路長の調整範囲は、ファイバ141とファイバ142との光路長差(換言すれば、第1分岐光路と第2分岐光路との間における光路長差)に対して十分短く設定されることが好ましい。
【0036】
<光検出器>
検出器120は、測定光路からの光と参照光路からの光による干渉を検出するために設けられている。本実施例において、検出器120は、分光検出器であって、例えば、分光器と、ラインセンサとを含み、カップラ148によって合波された測定光と参照光とが、分光器で分光され、波長毎にラインセンサの異なる領域(画素)に受光される。これによって画素毎の出力が、スペクトル干渉信号として取得される。なお、カップラ148において、第1分岐光路と第2分岐光路とのうち、光スイッチ143によって選択されている方の光路を通過した参照光と、測定光とが合波される。
【0037】
眼底の湾曲と測定光の結像面とは必ずしも一致しておらず、アタッチメント光学系160の挿入状態では、眼底中心部または眼底周辺部の少なくとも一方において、両者の乖離が増大するので、光検出器においては、当該乖離を考慮した十分なDepth rangeが確保されていることが好ましい。例えば、SD-OCTでは、所期するDepth rangeに対して十分な画素数のラインカメラが採用されることが好ましい。
【0038】
勿論、第2補正値は、更に細分化されていてもよい。例えば、眼底全体が、眼底中心部と、眼底中心部よりも外側の第1の眼底周辺部と、第1の眼底周辺部よりも外側の第2の眼底周辺部と、に分割され、眼底中心部に対応する補正値と、第1の眼底周辺部に対応する補正値と、第2の眼底周辺部に対応する補正値と、が第2補正値として、異なる値で設定されていてもよい。
【0039】
<制御系>
次に、
図2を参照して、実施例に係るOCT装置1の制御系を説明する。本実施例において、制御部70はOCTデータ生成手段の一例である。制御部70は、CPU(プロセッサ)、RAM、ROM等を備えてもよい(
図2参照)。例えば、制御部70のCPUは、OCT装置1の制御を司ってもよい。RAMは、各種情報を一時的に記憶する。制御部70のROMには、OCT装置1の動作を制御するための各種プログラム、初期値等が記憶されてもよい。
【0040】
制御部70には、記憶部としての不揮発性メモリ(以下、メモリに省略する)72、表示部75等が電気的に接続されてもよい。メモリ72には、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体が用いられてもよい。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および、OCT装置1に着脱可能に装着されるUSBメモリ等をメモリ72として使用することができる。メモリ72には、OCTデータの取得及びOCT画像の撮影を制御するための制御プログラムが記憶されてもよい。また、メモリ72には、OCTデータから生成されるOCT画像の他、撮影に関する各種情報が記憶されてもよい。表示部75は、OCTデータから生成されるOCT画像を表示してもよい。
【0041】
<深さ情報の取得>
制御部70は、検出器120によって検出されたスペクトル干渉信号を演算処理してOCTデータを取得する。OCTデータは、深さ領域(Z空間)における情報である。OCTデータが更に画像化されることで、OCT画像が得られる。
【0042】
ここで、演算処理の一例を説明する。スペクトル干渉信号(スペクトルデータ)は、波長毎の信号強度として表される。演算処理において、スペクトル干渉信号は、波長λの関数として書き換えられ、波数k(=2π/λ)に関して等間隔な関数I(k)に変換されてもよい。演算制御器は、波数k空間でのスペクトル干渉信号をフーリエ変換することにより、深さ領域(Z空間)における情報として、OCTデータが取得される。但し、ここでは、スペクトル干渉信号は、波長毎の信号強度として取得される場合について示した。但し、例えば、SS-OCTの場合は、初めから波数kに関して等間隔な関数I(k)としてスペクトル干渉信号が取得されてもよい(K―CLOCK技術)。また、フーリエ変換後の情報は、Z空間での実数成分と虚数成分を含む信号として表されてもよい。制御部70は、Z空間での信号における実数成分と虚数成分の絶対値を求めることによってOCTデータを取得してもよい。
【0043】
[自己干渉ノイズ除去方法]
OCT装置1において、2つの分岐光路を切り換えるために参照光学系110に光スイッチ143を設けた結果、光スイッチ143が備える透過型の光学素子143aにおいて参照光の一部が多重反射してしまうことが考えられる(
図3参照)。この場合において、例えば、光学素子143aの光路長をdとしたとき、多重反射光における光路長は、多重反射せずに光学素子143aを通過する参照光の光路長と比べて、およそ、d×n(nは反射の回数)だけ長くなる。例えば、2回反射の場合、多重反射光の光路長は、参照光の光路長よりも長さ2dだけ長くなる。
【0044】
多重反射光は参照光と位相が一致していないため、多重反射光は参照光と干渉し、これにより、参照光を変調させる。例えば、参照光のスペクトル波形が変調する(
図4参照)。本開示において、説明の便宜上、多重反射光との干渉によってスペクトル波形が変調した参照光のことを変調光と称する。
【0045】
変調光と、測定光と、のスペクトル干渉信号に基づいて取得された被検眼のOCTデータには、自己干渉ノイズが生じてしまう場合がある(
図5参照)。本実施例において、自己干渉ノイズは、参照光の変調(参照光と多重反射光の自己干渉)に起因するノイズの一種である。例えば、自己干渉ノイズは、OCT画像上において被検眼Eの像が深さ方向にブレたような形状で出現する。例えば、
図5において、自己干渉ノイズは被検眼Eの像の上下両側に生じる。
【0046】
なお、多重反射光の強度は、多重反射をすることなく光スイッチ143を通過した参照光と比較して十分に弱い。このため、多重反射光と測定光が干渉しても、検出器120によって検出されるスペクトル干渉信号(ノイズ)は、参照光(及び変調光)と測定光とのスペクトル干渉信号よりも弱く、OCTデータに影響しない。
【0047】
OCT画像上に現れる自己干渉ノイズの出現位置及び形状は、被検眼の像の位置及び形状に応じて変化する。このような自己干渉ノイズは、画像処理によって特定することは困難である。
【0048】
そこで、本実施例において、制御部70は、取得処理と除去処理を行うことで、OCTデータから自己干渉ノイズを低減させる。取得処理及び除去処理の例について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は取得処理として制御部70に実行されるプログラムのフローチャート図である。
図7は、除去処理として制御部70に実行されるプログラムのフローチャート図である。
【0049】
<取得処理>
取得処理では、参照光の自己干渉による変調成分を示す変調成分情報が、変調光による検出器120からの受光信号を処理することによって取得される。取得処理は、
図6に示すように、ダークデータを取得するステップ(S101)と、変調成分情報を抽出するステップ(S102)と、を含む。本実施例において、一連の取得処理は、被検眼のOCTデータの取得動作よりも前に実行されるものとして、説明する。但し、一連の取得処理が実行されるタイミングは、必ずしもこれに限られない(詳細は後述する)。
【0050】
<S101:ダークデータの取得>
前述したように、変調光が検出器120に入射し、かつ測定光が検出器120に入射しない状態で、検出器120から出力される受光信号が、ダークデータとして、制御部70によって取得される。本実施例において、ダークデータは変調光のスペクトルデータである(
図4参照)。つまり、ダークデータでは、参照光と多重反射光とが合波された状態が波長毎の信号強度として表される。
【0051】
ダークデータを取得する際、制御部70は、測定光路上に配置されたシャッター159を閉じることで、検出器120に測定光が導かれることを遮断しつつ、変調光のみが検出器120に入射される状態へと、OCT光学系100を設定する。このように、本実施例では、シャッター159で測定光を遮断した状態で検出器120に検出された受光信号を取得することで、変調光由来の受光信号としてダークデータを取得することができる。
【0052】
なお、以下の説明において、シャッター159を閉じた場合には測定光が完全に遮断されるものとするが、必ずしもこれに限られるものではない。後述する演算処理によって、ダークデータから変調成分が抽出可能な範囲で、測定光が部分的に遮断されてもよい。
【0053】
<S102:変調成分を抽出>
次に、制御部70は、変調成分情報をダークデータに基づいて取得する。変調成分情報は、OCT光学系の自己干渉ノイズの特徴を表しており、参照光の自己干渉(参照光と多重反射光との干渉)による変調成分を示す。なお、ここでいう変調成分は、本来の参照光のスペクトル波形を変調光のスペクトル波形に変化させる信号成分である。例えば、本来の参照光のスペクトル波形に変調成分が足されることで変調光のスペクトル波形となる(
図4参照)。
【0054】
変調成分情報は、OCT光学系ごとに一定であり、すなわちOCT装置1ごとに一定である。なお、本実施例において、制御部70は変調成分取得手段である。
【0055】
ここで、S102の処理(抽出処理)の内容の一例を、詳細に説明する。
【0056】
まず、制御部70は、S101で検出器120が検出した受光信号(ダークデータ)を、フーリエ変換することで時間領域の信号に変換する。例えば、ダークデータから得られた時間領域の信号には、本来の参照光のスペクトル干渉信号に由来する成分と、変調成分に由来するピークが含まれる(
図8参照)。
【0057】
例えば、変調光(U’Reference)は、以下の式(1)で表される。
【0058】
【数1】
なお、U
0(ω)は、本来の参照光のスペクトル波形を表す関数、Dは光スイッチ143による多重反射の反射率(ただし0<D<<1とする)、t
2は参照光が光源102から参照光路を通過して検出器120に到達するまでの時間、Kは参照光が光スイッチ143の光学素子143aに入射してから、光学素子143a内で多重反射光し、そして(多重反射光として)光学素子143aを通過するまでの時間である。
【0059】
ここで、受光信号(ダークデータ)の信号強度(S(ω)Dark)は、変調光(U’Reference)を用いて以下の式(2)で表される。
【0060】
【数2】
C1は直流成分(DC成分)であり、時間によらず一定の値である。このため、制御部70は、演算を行うことで式(2)からC1を消去し、ダークデータの信号強度(S(ω)
Dark)のうち、時間によって変化する成分を抽出する(式(3)参照)。
【0061】
例えば、変調成分は、ダークデータの信号強度(S(ω)
Dark)のグラフにおいてピークとして現れる(
図8参照)。
【0062】
例えば、制御部70は、式(2)に窓関数をかけることで、ダークデータの信号強度(S(ω)
Dark)のグラフから変調成分に由来するピークを検出する。そして、制御部70は、検出したピークに基づいて変調成分を抽出する。例えば、
図8のグラフにおいて、変調成分に由来するピークを検出し、変調成分を抽出する。なお、ダークデータのグラフから変調成分に由来するピークを検出するために使用される窓関数は、実験的に決定され、例えばハミング窓である。抽出された変調成分に由来するピークは以下の式(2)で表される。
【0063】
【数3】
この式(3)は、ダークデータに含まれる変調成分を示す変調成分情報であり、すなわち自己干渉ノイズの特徴を表している。なお、以上の演算処理は、ダークデータから変調成分情報を取得する演算の一例であって、これに限らない。
【0064】
<被検眼のOCTデータの生成>
次に、
図7に示すように、被検眼が測定される。まず、被検眼に測定光を照射し、測定光と参照光とのスペクトル干渉信号が取得される(S201)。次に、OCT生成処理が行われ、スペクトル干渉信号に対する演算処理の結果として、被検眼のOCTデータが生成される(S202)。本実施例では、演算処理において、除去処理(S202a)が実行され、自己干渉ノイズが低減されたOCTデータが生成される。
【0065】
<除去処理>
除去処理によって、OCTデータにおける自己干渉ノイズが変調成分情報に基づいて低減される。ここで、除去処理の処理内容の一例を、詳細に説明する。
【0066】
まず、変調光と測定光とはカップラ148で合波され、干渉する。この場合における合波U’は以下の式(4)で表される。
【0067】
【数4】
ここで、U
Sampleは測定光を表す項であり、以下の式(5)で表される。
【0068】
【数5】
なお、rは反射率、t
1は測定光が光源102から被検眼Eを経て検出器120に到達するまでの伝搬時間である。
【0069】
ここで、検出器120が検出する、変調光と測定光の干渉によるスペクトル干渉信号の信号強度(S(ω))は、以下の式(6)で表される。
【0070】
【数6】
ここで、式(6)を整理すると、式(6)に含まれる項のうち自己干渉ノイズの成分(S(ω)
Noise)は以下の式(7)で表される。
【0071】
【数7】
なお、自己干渉ノイズの成分(S(ω)
Noise)は、Kに依存して変化する成分である。
【0072】
また、式(6)を整理すると、式(6)に含まれる項のうち参照光と測定光の干渉による信号成分は(S(ω)Signal)は以下の式(8)で表される。
【0073】
【数8】
なお、信号成分(S(ω)
Signal)は、Kに依存して変化しない。
【0074】
実際の変調光と測定光の干渉によるスペクトル干渉信号S(ω)Interferenceは、S(ω)NoiseとS(ω)Signalの和である。そこで、式(7)と式(8)との和について整理すると、以下の式(9)のように表すことができる。
【0075】
【数9】
なお、式(9)において、[]内は信号の複素波形で、ヒルベルト変換解析などにより取得することができる。
【0076】
式(9)のうち、{1-D exp[-iKω]}が、Kに依存して変化する成分である。ここで、自己干渉ノイズの成分はKに依存して変化する成分であることから(式(7)参照)、式(9)における{1-D exp[-iKω]}は、自己干渉ノイズ由来の成分であり、すなわち変調成分に由来する成分である。
【0077】
制御部70は、式(9)に対して式(3)を用いて演算処理を行うことで、{1-Dexp[-iKω]}を除去する。これにより、Kに依存して変化する成分が消えるため、測定光と変調光の干渉によるスペクトル干渉信号から変調成分を除去することができる。
【0078】
式(3)を用いた演算処理の一例を説明する。例えば、制御部70は式(3)に対して、逆フーリエ変換を行い、波長の関数から時間の関数に変換する。次いで、制御部70は、式(9)から式(3)を除算することで、自己干渉信号由来の変調成分を除去する。
【0079】
例えば、制御部70は、前述の演算処理において、式(3)に対して最適化処理を行った上で、式(9)から複素周波数成分を除去してもよい。例えば、最適化処理は、変調成分(式(3))に対して位相(ω)や多重反射の反射率(D)の調整を行う処理である。これによれば、より好適にノイズ除去が行われる。
【0080】
例えば、式(3)に対して行う最適化処理は装置ごとに異なる。例えば、最適化処理は、操作者又は制御部70がダークデータ又はスペクトル干渉信号に基づいて定める処理である。
【0081】
なお、本実施例において、最適化処理として行われる演算の内容は、装置ごとに実験によって予め定められる。以下に最適化処理の内容を定める方法の一例を説明する。
【0082】
例えば、制御部70は、金ミラーを測定し、スペクトル干渉データを得る。なお、金ミラーはスペクトル干渉データが既知であるサンプルの一例である。
【0083】
また、制御部70は、自己干渉が起きない(または抑制されている)OCT装置によって金ミラーを測定して得られたスペクトル干渉データを、外部からの入力によって取得する。なお、自己干渉が起きないOCT装置とは、例えば、多重反射を起こす光学素子(例えば、光スイッチ)が参照光学系に備えられていないOCT装置である。
【0084】
そして、制御部70は、測定によって取得されたスペクトル干渉データと、外部から入力されたスペクトル干渉データと、の差分を求める。そして、求められた差分が消去されるように、制御部70は式(3)に加える演算処理(すなわち、最適化処理)を決定する。これによれば、自己干渉ノイズを除去する効果がより大きくなるように最適化処理の内容を定めることができる。
【0085】
なお、もちろん、最適化処理として行われる演算の内容は、逐次定められてもよい。これによれば、変調成分が変化した場合(例えば、光学系が経時変化した場合)においても、好適に自己干渉ノイズを除去することができる。
【0086】
以上の演算処理によれば、制御部70は、変調光と測定光との干渉によるスペクトル干渉信号から、自己干渉由来の変調成分を除去することができる。すなわち、被検体を撮像したOCT画像から自己干渉ノイズを除去することができる。このため、多重反射を起こす部材が光学系に含まれていても、OCTデータを良好に取得することができる。
【0087】
なお、参照光と多重反射光によって生じる固定パターンノイズについても、自己干渉によって生じるノイズとして、本実施例の演算処理によれば除去することができる。
【0088】
また、本実施例では、2つの参照光路を有しているため、参照光路毎に、変調成分情報を取得してもよい。光スイッチ143を通過する際の多重反射光の光路長と光スイッチ143をそのまま通過する参照光の光路長とが、2つの参照光路の間で異なっていても、参照光路に応じて適切な変調成分情報を選択することで、自己干渉ノイズが良好に抑制されやすい。
【0089】
[変形例]
本開示は、上記の実施例の記載に必ずしも限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0090】
例えば、上記実施例では、ダークデータに基づく変調成分情報が、被検眼のOCTデータの取得動作よりも前に実行される場合について説明したが、変調成分情報を取得するタイミングはこれに限られない。
【0091】
例えば、被検眼のOCTデータの取得動作が開始され、装置と被検眼とのアライメント、OCT光学系100の最適化動作(光路長調整,偏光調整,および,フォーカス調整等)等の間に、シャッター159を一時的に閉じて、変調成分情報を取得してもよい。また、被検眼Eに測定光を照射した後に、変調成分情報を取得してもよい。また、例えば、取得処理のうち、ダークデータの取得(S101)が、スペクトル干渉信号の取得(S201)よりも前に行われ、ダークデータからの変調成分情報の抽出(S102)はスペクトル干渉信号の取得(S201)後に行われてもよい。また、この場合、ステップS101で取得されたダークデータは、メモリ72に保存されてもよい。
【0092】
また、変調成分情報は光学系ごとに一定であるため、一度ダークデータから変調成分情報を抽出した場合は、それ以降は必ずしも取得処理(S101及びS102)を行う必要はない。すなわち、検査する被検眼に関わらず、得られたスペクトル干渉信号から、一度取得された変調成分情報に基づいて除去処理(S201及びS202)を行えば、自己干渉ノイズを除去することができる。
【0093】
なお、本実施例において、光スイッチ143によって参照光が多重反射を起こす場合について説明したが、光スイッチ143は、参照光が多重反射を起こす原因となる光学素子の一例であり、これに限られない。例えば、ガラスの平板やレンズといった光学素子によっても参照光の多重反射は発生する場合がある。その場合においても、本開示と同様の方法で、自己干渉ノイズを低減することができる。
【0094】
また、本実施例では光スイッチ143で参照光が多重反射を起こす場合について説明したが、多重反射を起こす光学素子の位置はこれに限られない。例えば、光源102からの光が、カップラ104で参照光と測定光とに分光されるまでの間で多重反射光が生じる場合であっても、本開示と同様の方法で自己干渉ノイズを低減することができる。
【0095】
さらにまた、本実施例ではダークデータから変調成分を抽出する場合を記載したが、変調光と測定光の干渉によるスペクトル干渉信号から変調成分を抽出してもよい。その場合、例えば、スペクトル干渉信号の信号強度のグラフから、変調成分に由来するピークが抽出されてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 OCT装置
70 制御部
100 OCT光学系
110 参照光学系
120 検出器
143 光スイッチ
150 導光光学系
159 シャッター