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  • 特開-角度付き直管の製造方法 図1
  • 特開-角度付き直管の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117679
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】角度付き直管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 13/02 20060101AFI20220804BHJP
   F16L 9/02 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B22D13/02 501Z
F16L9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014300
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】堤 親平
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕也
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111BA02
3H111CB28
3H111EA09
(57)【要約】
【課題】受口の内周面が軸心に対し所定角度傾斜した角度付き直管を簡便かつ安定的に製造することができる角度付き直管の製造方法を提供する。
【解決手段】直管部2と、直管部2の一端側に形成された受口3と、直管部2の他端側に形成された挿し口と、を有し、受口3の外周面が直管部2の軸心cに対し回転対称の形状となっており、その内周面が軸心cに対し所定角度θ傾斜した角度付き直管の製造方法において、モールド4の受口3側に、外周面が軸心cに対し所定角度θ傾斜し、直管部2側の端部が軸心cに対し垂直な垂直面7となっている中子6を取り付け、モールド4内に遠心鋳造によって溶湯mを鋳込む工程と、中子6が取り外された直管の垂直面7に向かい合う内面9を、所定角度θ傾斜した傾斜面10となるように研削する工程と、を有する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直管部(2)と、前記直管部(2)の一端側に形成された受口(3)と、前記直管部(2)の他端側に形成された挿し口と、を有し、前記受口(3)の外周面が前記直管部(2)の軸心(c)に対し回転対称の形状となっており、その内周面が前記軸心(c)に対し所定角度(θ)傾斜した角度付き直管の製造方法において、
モールド(4)の前記受口(3)側に、外周面が前記軸心(c)に対し前記所定角度(θ)傾斜し、前記直管部(2)側の端部が前記軸心(c)に対し垂直な垂直面(7)となっている中子(6)を取り付け、前記モールド(4)内に遠心鋳造によって溶湯(m)を鋳込む工程と、
前記中子(6)が取り外された直管の前記垂直面(7)に向かい合う内面(9)を、前記所定角度(θ)傾斜した傾斜面(10)となるように研削する工程と、
を有する角度付き直管の製造方法。
【請求項2】
前記中子(6)の外周面に、前記受口(3)の内周面の形状に対応した凹凸が形成されている請求項1に記載の角度付き直管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受口の内周面が軸心に対し所定角度傾斜した角度付き直管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管などの配管に用いられるダクタイル鉄管には、管路の直線部に用いられる直管と、管路の曲線部に用いられる曲管とがある。直管は、内外径が一定の直管部と、直管部の一端側に形成され内外径が直管部よりも大きい受口と、直管部の他端側に形成され離脱防止のための突起部などを除き内外径が直管部と等しい挿し口と、を有するものが一般的である。この直管は、モールドの受口側に中子を取り付けた上で、モールド内に溶湯を流し込みながらこのモールドを軸周りに回転させる遠心鋳造法によって製造されることが多い。
【0003】
その一方で、曲管は屈曲した形状であることから遠心鋳造法を適用することができず、単に鋳型に溶湯を流し込むことによって成形する重力鋳造法によって製造されることが多い。一般的に、重力鋳造法は遠心鋳造法よりも製造コストの面で不利である。そこで、受口の内周面を軸心に対し所定角度傾斜させた直管同士を接続することによって、曲管のような異形管を用いることなく管路の曲線部を構成する手段が提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1に係る管の製造方法においては、まず、遠心鋳造法で受口側から挿し口側の全体に亘って内径が一定の管を鋳造する。そして、受口側の内周面を切削加工して、その内周面に所定の傾斜角度を形成している(特許文献1の段落0036、0037、図7図8など参照)。
【0005】
また、下記特許文献2に係る角度付き直管の製造方法においては、所定の仕上げ代を取った外周面を有し、その軸心が直管部の軸心に対してθ度傾いた中子をモールド内に設けた上で、このモールド内に溶湯を流し込んで遠心鋳造法で直管を鋳造し、仕上げ代を研削して所定の受口内周面形状としている。この構成によると、中子を傾けたことによってその重心が軸心から偏心し、遠心鋳造の際の安定性が低下するおそれがある。そこで、中子の外周面の一部を欠如させたり、中子内にカウンターウェイトを埋設したりすることで、傾けた中子の軸心周りの断面一次モーメントを均一化して安定性の改善を図っている(特許文献2の段落0016~0020、図1図4など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-173886号公報
【特許文献2】特開2020-163395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る構成は、受口の内周面をすべて切削加工によって形成しているため、通常の直管と比較して加工時間や加工コストが大幅に増加する問題がある。また、特許文献2に係る構成は、中子を傾斜して設けることにより、受口の内周面に傾斜角を付与することができる反面、中子の直管部側端部が管軸に対して傾斜しているため、鋳造性が低下する問題がある。これは、図2(a)(b)に示すように、モールド20およびこのモールド20に金型バンド21を用いて所定角度θ傾斜して取り付けられた中子22の軸周りの回転に伴って、中子22の直管部側端部の軸方向位置(特に図2(a)(b)中のB部)が周期的に(中子22が半回転する毎に)変化し、この変化に伴ってこの直管部側端部の溶湯mがかき乱されることで、凝固時の形状の形成に悪影響を与えるためである。さらに、モールド20と中子22の間の隙間にスムーズに溶湯が入り込まないことにも起因する。また、特許文献2に示すように、軸心周りの断面一次モーメントを均一化するために、中子22の一部を欠如させた上で追加の切削加工を行ったり、中子22にカウンターウェイトを取り付けたりする作業は非常に煩雑であり、製造コスト高につながるおそれがある。
【0008】
そこで、この発明は、受口の内周面が軸心に対し所定角度傾斜した角度付き直管を簡便かつ安定的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、
直管部と、前記直管部の一端側に形成された受口と、前記直管部の他端側に形成された挿し口と、を有し、前記受口の外周面が前記直管部の軸心に対し回転対称の形状となっており、その内周面が前記軸心に対し所定角度傾斜した角度付き直管の製造方法において、
モールドの前記受口側に、外周面が前記軸心に対し前記所定角度傾斜し、前記直管部側の端部が前記軸心に対し垂直な垂直面となっている中子を取り付け、前記モールド内に遠心鋳造によって溶湯を鋳込む工程と、
前記中子が取り外された直管の前記垂直面に向かい合う内面を、前記所定角度傾斜した傾斜面となるように研削する工程と、
を有する角度付き直管の製造方法を構成した。
【0010】
このようにすると、中子の直管部側の端部において溶湯がかき乱されにくくなるため、凝固時の形状の形成に悪影響を与えにくくなることと同時に、モールドと中子の間の隙間にスムーズに溶湯を入り込ませることができ、鋳造性を向上することができる。しかも、中子の前記直管部側の端部を垂直面とすることで中子の軸心周りの断面一次モーメントが均一化する方向に向かうため、中子の一部を欠如させたり、カウンターウェイトを取り付けたりする必要がなくなり、作業性を向上することができる。また、鋳造後に前記垂直面に対応する内面などの研削量を必要最小限に抑えることができるため、その研削に要する加工時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
前記構成においては、前記中子の外周面に、前記受口の内周面の形状に対応した凹凸が形成されている構成とするのが好ましい。
【0012】
このようにすると、鋳造後に受口の内周面において研削量が大幅に少なくなるため、その研削に要する加工時間を削減することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、上記のように角度付き直管の製造方法を構成したので、その角度付き直管を簡便かつ安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明に係る角度付き直管の製造方法の一実施形態を示す断面図であって、(a)はモールドの受口側に中子を取り付けた状態、(b)はモールド内に溶湯を流し込んでいる状態、(c)は鋳造された管の受口内面を研削した状態
図2】従来技術に係る角度付き直管の遠心鋳造工程を示す断面図であって、(a)は中子の下端側で直管部側端部が管軸方向に突出している状態、(b)は中子の上端側で直管部側端部が管軸方向に突出している状態
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る角度付き直管1の製造方法を図面に基づいて説明する。この角度付き直管1は、内外径が一定の直管部2と、直管部2の一端側に形成され内外径が直管部2よりも大きい受口3と、直管部2の他端側に形成され内外径が直管部2と等しい挿し口と、を有している。受口3の外周面は、直管部2の軸心cに対し回転対称の形状となっており、その内周面が軸心cに対し所定角度θ傾斜した直管(図1(c)を参照)である。
【0016】
この製造方法においては、まず、図1(a)に示すように、モールド4の受口側に、金型バンド5を用いて中子6を取り付ける。この中子6は、軸心cに対して所定角度θだけ傾斜し、受口3の内周面の凹凸形状、すなわち、受口3の内周面に形成されたロックリングの収納溝や突条などの形状に対応した外周面を有している。また、中子6の直管部2側の端部(図1(a)において右側の端部)は、軸心cに対し垂直な垂直面7となっている。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、モールド4(中子6)を軸周りに回転させながら、ライナー8を介してモールド4内に溶湯mを流し込む遠心鋳造法によって直管を鋳造する。この実施形態においては、中子6の直管部2側の端部を軸心cに対して垂直な垂直面7としたので、モールド4を軸周りに回転させた際に、中子6の直管部2側端部の軸方向位置が変動せず、この直管部2側端部の溶湯mがかき乱されない。このため、凝固時の形状の形成に悪影響を与えにくくなると同時に、モールド4と中子6の間の隙間に溶湯mをスムーズに入り込ませることができる。しかも、中子6の直管部2側端部を垂直面7とすることで、その断面一次モーメントが均一化する方向に向かうため、遠心鋳造の際にモールド4の振動などを抑制することができる。
【0018】
なお、この垂直面7は、軸心cに対する厳密な垂直に限定されず、遠心鋳造時に中子6の直管部2側端部の溶湯mが、鋳造性に影響を与える程度にかき乱されない限りにおいて、多少の傾斜(例えば、0度を超え3度以下など)が許容される場合もある。
【0019】
モールド4内に流し込んだ溶湯mが固化したら、図1(c)に示すように、モールド4および中子6を取り外して直管を得る。そして、中子6が取り外された直管の垂直面7に向かい合う内面9を、所定角度θ傾斜した傾斜面10となるように研削して(図1(c)において網掛けAを付した領域が研削領域)、角度付き直管1に仕上げる。
【0020】
この実施形態においては、受口3の内周面の凹凸形状に対応した外周面を有する中子6を用いたが、その外周面は、必ずしも受口3の内周面の凹凸形状に対応していなくてもよい。その場合は、図1(c)の工程で内面9を研削する際に、受口3の内周面も併せて研削する必要がある。
【0021】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0022】
1 角度付き直管
2 直管部
3 受口
4 モールド
5 金型バンド
6 中子
7 垂直面
8 ライナー
9 内面
10 傾斜面
c 軸心
θ 所定角度
m 溶湯
図1
図2