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特開2022-117687ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる加熱処理シートの延伸にて作製された多孔膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117687
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる加熱処理シートの延伸にて作製された多孔膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014316
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拳
(72)【発明者】
【氏名】小鍋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】深澤 隼之介
(72)【発明者】
【氏名】宮前 宏平
(72)【発明者】
【氏名】大野 遥
(72)【発明者】
【氏名】島谷 俊一
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AB02
4F074CA03
4F074CA06
4F074CC02Y
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA43
4F074DA47
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、小孔径で、破れにくく、突き刺しなどの外力にも強いポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜、およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】
JIS K3832に基づくイソプロピルアルコールによるバブルポイントが500kPa以上であって、かつ、JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が200mN/μm以上であり、電子顕微鏡による表面画像における細孔の開孔部の比率が10~30%、繊維の太さが250nm以上であるポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜であって、
JIS K3832に基づくイソプロピルアルコールによるバブルポイントが500kPa以上であって、
JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が200mN/μm以上であり、
細孔の開孔部の比率が10~30%であり、かつ、
繊維の太さが250nm以上である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンを、示差走査熱量計を用い10℃/分の速度で365℃まで加熱後、-10℃/分の速度で330℃まで冷却し、-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却し、さらに-10℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で365℃まで加熱する際の296~343℃間の融解熱量が、32J/g未満であるポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜であって、
前記バブルポイントが600kPa以上であって、かつ、
前記針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が250mN/μm以上である
ことを特徴とする請求項1記載のポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法であって、
(1)ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を得る工程;
(2)前記シートまたは塗膜を固定し、下記の結晶融解熱量(ΔH0)と(ΔH)との比(ΔH/ΔH0)が、1.0~2.0になるよう加熱処理する工程、
ここで、
ΔH0:ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を、360℃で20分加熱した後、室温で冷却して得られるシートまたは塗膜を、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量、
ΔH :ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を加熱処理した後、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量
を意味する;
(3)加熱処理されたシートまたは塗膜を、1方向に延伸した後、その方向に対し垂直な方向に逐次に延伸する工程、
を含む多孔膜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程(2)が、前記(1)のシートまたは塗膜を固定し、前記の結晶融解熱量(ΔH0)と(ΔH)との比(ΔH/ΔH0)が、1.2~1.8になるよう加熱処理する工程である、請求項3記載の多孔膜の製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程(3)で、前記加熱処理工程(2)で加熱処理されたシートを、押出方向に延伸した後、垂直方向に逐次に延伸する請求項3または4に記載の多孔膜の製造方法。
【請求項6】
前記(1)の工程で使用するシートが、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンと、150~290℃の沸点を有する炭化水素系溶剤とを混合後、押出機を用いRR35~120、室温~120℃の成形温度にて押出して得られるシート状またはビード状押出物を圧延して得られるシートである、請求項3~5のいずれか1項に記載の多孔膜の製造方法。
【請求項7】
前記(1)の工程で使用する塗膜が、界面活性剤、造膜剤、及び増粘剤を含有する固形分濃度5~75質量%のポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを、400℃以上の耐熱性を有する平板に、乾燥後の厚みが1~50μmになるよう塗布した後、100~150℃で10~20分乾燥して得られる塗膜である、請求項3または4に記載の多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小孔径で、かつ高い強度、特に裂けにくく破れにくいポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、その優れた耐熱性、耐薬品性、撥水性、耐候性及び低誘電率のため、様々な分野に利用されている。PTFEは延伸により容易に多孔化するため、これまで様々な特性を持つ多くのPTFE多孔膜およびその製法が発明されている。
【0003】
PTFE多孔膜は、高い撥水性を有するため、防水通気性を有するウェアー、自動車部品の内圧調整としてのベントフィルター、通信機器の防水通音膜等の用途に用いられている。
防水性能は、耐水圧試験の数値で示され、例えば、100m防水の携帯電話等に用いられる膜には1MPaの耐水圧が求められるが、1MPaの耐水圧を有する膜は、その孔径が数十ナノメートル以下であることが必要となる。
また、自動車部品の内圧調整としてのベントフィルターにおいては、内圧調整が必要な部材への溶着が必要で、溶着に耐えうる強度も必要となる。さらには、自動車の走行時の過酷な条件、例えば、塵、埃、小石、等の異物が高速で接触し、膜にダメージを与え防水機能を低下させることがある。そのため、膜に保護キャップや蓋を設けてそのような異物が直接膜に接触することを防止する構造を設けていることもあるが、自動車の安全を重視した場合、完全とは言えず、膜自身が高強度であることも要求される。
さらには、防水機能を有するウェアーでは、クリーニング時の洗濯機等の攪拌による外力が膜に加わることも考慮する必要があり、破れにくいことも必要である。このような分野でも、膜の強度が要求されることは言うまでもない。
【0004】
防塵用途としては、空気清浄機用或いは掃除機用のフィルター、ごみ焼却炉用等の集塵用バグフィルター、半導体製造のためのクリーンルーム用エアーフィルター等に用いられている。
また、PTFEの純粋性から、すなわち、溶出物が殆ど無いことから、超純水製造用のファイナルフィルターとして、従来の限外濾過膜に代わり用いられつつある。
【0005】
加えて、耐薬品性にも優れるため、腐食性液体、有機溶剤、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、及びエッチング液中の有価物の回収等の用途にも用いられている。
半導体製造用途では、近年、回路の集積度が高まってきており、エッチング液中にナノオーダーの微粒子が存在すると集積回路の配線上に微粒子が残留し、製造上の歩留まりを低下させる原因となるため、エッチング液中のナノオーダーの微粒子を除去可能な、ナノオーダーの孔径を有するPTFE多孔膜が求められている。そのような多孔膜としては、ろ過圧力やろ過操作に耐える強度を有することが必要である。
【0006】
さらに、PTFE多孔膜の用途として注目されているのは、エネルギー分野、特に、電気に代わるエネルギー貯蔵手段である水素の製造や電池やキャパシターの分野での利用である。水素は、水の電気分解等を用いて製造されるが、多孔膜は、濃厚なアルカリ液、高温での酸化還元反応下で、正極/負極の電極間に挿入してセパレーターとして使用される
。電極は平滑ではなく、多少の凹凸があるばかりか、電極反応で生じた結晶物で膜が破損する場合も考えられる。さらには、膜は電極間で強く抑えられるため、膜には、例えば、針状の異物で押し付けられた場合と同様のダメージを負うことがある。これらの分野においても、PTFE多孔膜は、強度の高いものが求められている。
以上の事より、PTFE多孔膜には、小孔径だけでなく、裂けにくく、針状物の押し付けなどでも破れない強度も必要となってくる。
しかしながら、高い強度を有するナノオーダーの孔径を有するPTFE多孔膜を得ることは困難であった。
【0007】
一般に、PTFE多孔膜は、以下の工程で製造されることが多い。
1.PTFEと助剤(炭化水素系溶剤等)とを混合する。
2.シリンダー断面積/出口断面積の比(RR)を大きくし、押出成形によりPTFEにシェアー(剪断力)を与え繊維化させながらシート状またはビード状押出物を得る。
3.得られた押出物を、圧延機(ロール)等で適宜圧延しシート状とした後、炭化水素系溶剤を蒸発除去する。
4.得られたシート状物を、高温で押出方向(以下、MDということがある。)、及び押出方向と垂直な方向(以下、CDということがある。)に延伸後、PTFEの融点(342~343℃)以上の温度で焼成して、PTFE多孔膜を得る。
【0008】
しかしながら、この様な一般的な方法では、小孔径で、かつ高強度、裂けにくいPTFE多孔膜を得ることが困難である。これは、延伸条件が、PTFEの融点(342~343℃)以下の温度条件で行なわれているため、細かい繊維が多く発生し、強度が高くならないことが原因と考えられる。また、融点以下ではPTFEはよく伸びるため、延伸倍率が高くなり、空隙率も大きくなるのも要因と考えられる。延伸倍率を上げることは、PTFE分子がより強く配向するため、引張強度が増加するメリットがあるが、裂け等に対しては弱い場合も多い。
そこで、PTFE多孔膜の製法として、圧延乾燥したシートをあらかじめPTFEの融点以上に加熱した後、延伸する方法も多く提案されてきている。融解温度以上に加熱は行うが、完全に焼成しない状態で延伸することもあり、半焼成延伸と呼ばれることもある。この方法を用いると、太い繊維ができ、かつ、小孔径の膜が得られることが知られている。
【0009】
特許文献1では、PTFEの結晶融解熱量の測定法を規定して、融解熱量が32J/g以上、47.8J/g未満の樹脂を用いてシートを作製し、融点以上で加熱した後冷却して延伸を行って、気孔率が30%以上、厚みが50μm以下の多孔膜を得ている。融解熱量が32J/g以上、47.8J/g未満の樹脂は、主として、市販の低分子量樹脂や市販樹脂を放射線などで分解して分子量を低下した樹脂が用いられている。
【0010】
また、特許文献2では、PTFEディスパージョンにポリイミドフィルムを浸漬してPTFE塗布膜を形成し、乾燥・焼成工程を繰り返してPTFE膜を得た後、該PTFE膜をポリイミドフィルムから剥離し、該剥離したPTFE膜をCD、MDに逐次延伸している。この方法により得られる多孔膜は、針突き刺し強度が、単位厚みに対し5~15gf/μmの特性値(49~147mN/μm)を有する針突き刺しに強い膜を作製している。
【0011】
特許文献3では、PTFE多孔膜の製造工程のうち、延伸前のフィルムの片面を加熱して該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを、押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)に逐次に延伸し熱固定することにより、厚み方向に平均孔径が連続的に減少し、加熱面の平均孔径が0.05μm~10μmである、非対称構造を有する、気体及び液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い延伸フィルムを作製して
いる。
【0012】
しかしながら、特許文献1では、用いる樹脂の分子量が低く、分子量が低いと一般のプラスティック材料と同様、強度面で劣る場合が多い。また、特許文献2では、針突き刺し強度が規定されているが、十分強いとは言い切れない。特許文献3においても、加熱面のごく薄い部分の強度は強いかもしれないが、膜全体として十分な強度の膜が得られていない。
これらの従来公知の技術は限定された用途においては効果があるものの、他の用途においては、膜強度が不足したりする等の問題が有り、小孔径であり、より過酷な条件で使われる多孔膜を提供するには不十分と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第5008850号公報
【特許文献2】特開2018-204006号公報
【特許文献3】特許第4850814号公報
【特許文献4】国際公開第2016/117565号公報
【特許文献5】国際公開第2007/119829号公報
【特許文献6】特許第5054007号公報
【特許文献7】特開2018-16697号公報
【特許文献8】米国特許第3,037,953号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、小孔径で、破れにくく、突き刺しなどの外力にも強い新規なポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、JIS K3832に基づくイソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントが500kPa以上であって、かつ、JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が200mN/μm以上であり、電子顕微鏡による表面画像における細孔の開孔部の比率が10~30%、繊維の太さが250nm以上であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜を提供する。
【0016】
ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂が、上記に加えて、示差走査熱量計を用い10℃/分の速度で365℃まで加熱後、-10℃/分の速度で330℃まで冷却し、-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却し、さらに-10℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で365℃まで加熱する際の296~343℃間の融解熱量が、32J/g未満であるポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜であって、前記バブルポイントが600kPa以上であって、かつ、前記針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が250mN/μm以上であるポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
本発明はまた、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法であって、
1.ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからな
る250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を得る工程;
2.前記シートまたは塗膜を固定し、下記の結晶融解熱量(ΔH0)と(ΔH)との比(ΔH/ΔH0)が、1.0~2.0になるよう加熱処理する工程、ここで、ΔH0は、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を、360℃で20分加熱した後、室温で冷却して得られるシートまたは塗膜を、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量を、また、ΔHは、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を加熱処理した後、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量を意味し;
3.加熱処理されたシートまたは塗膜を、1方向に延伸した後、その方向に対し垂直な方向に逐次に延伸する工程、
を含む、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法を提供する。
【0018】
ここで、前記加熱処理工程が、前記シートまたは前記塗膜を固定し、前記の結晶融解熱量(ΔH0)と(ΔH)との比(ΔH/ΔH0)が、1.2~1.8になるよう加熱処理する工程である多孔膜の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
また、前記の加熱処理されたシートを、押出方向に延伸した後、垂直方向に逐次に延伸する多孔膜の製造方法も、本発明の好ましい態様である。
【0020】
さらに、前記の250℃以上の加熱処理を受けていないシートが、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンと、150~290℃の沸点を有する炭化水素系溶剤とを混合後、押出機を用いRR35~120、室温~120℃の成形温度にて押出して得られるシート状またはビード状押出物を圧延して得られるシートである多孔膜の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0021】
前記の250℃以上の加熱処理を受けていない塗膜が、界面活性剤、造膜剤、及び増粘剤を含有する固形分濃度5~75質量%のポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを、400℃以上の耐熱性を有する平板に、乾燥後の厚みが1~50μmになるよう塗布した後、100~150℃で10~20分乾燥して得られる塗膜である多孔膜の製造方法も、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、高耐水性、高強度を必要とする通信機器用の防水通音用途、自動車用のベントフィルター、及び腐食性液体や有機溶剤、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、並びにエッチング液中の有価物の回収等の用途等のほかに、燃料電池、キャパシター、リチウム電池等のセパレーター及びその一部として使用することも可能であり、各種正極と負極の物理的な分離用のセパレーターの一部として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例2のPTFE多孔膜の表面の電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)
図2】実施例2のPTFE多孔膜の表面の2値化写真(倍率:10000倍)
図3】比較例2のPTFE多孔膜の表面の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)
図4】比較例2のPTFE多孔膜の表面の2値化写真(倍率:5000倍)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の多孔膜を形成するPTFEは、それに替え、PTFEの特性を損なわない範囲
で、テトラフルオロエチレン(TFE)と共重合可能な、1重量%未満のコモノマーにより変性された変性PTFEを用いてもよい。そのような変性PTFEとしては、特許文献5に記載されるTFEと微量のTFE以外の単量体との共重合体を例示することができる。より具体的にはテトラフルオロエチレンと、テトラフルオロエチレンと共重合可能な、1重量%未満のヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロアルキルエチレン、クロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体であって、溶融成形性を有さない共重合体が挙げられる。
【0025】
本発明で用いるPTFEおよび/または変性PTFEについては、示差走査熱量計を用い10℃/分の速度で365℃まで加熱後、-10℃/分の速度で330℃まで冷却し、-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却し、さらに-10℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で365℃まで加熱する際の296~343℃間の結晶融解熱量が、32J/g未満である場合には、分子量が高いPTFEで有ることを意味し、強度の高いPTFE延伸膜、すなわち、高い針突き刺し強度を有するPTFE多孔膜得ることが出来るため、より好ましい。本願のPTFEおよび/または変性PTFEも、汎用のプラスティック材料と同様に、分子量が高いほど高い機械的強度を得ることが出来る。
【0026】
このようなPTFEまたは変性PTFEの分子量は、ASTM D4895に基づく標準比重(SSG)と相関関係にあり、本発明のPTFEまたは変性PTFEのSSGは、2.19以下、好ましくは2.18以下、より好ましくは2.16以下であることが高強度の多孔膜の作製に好適である。
これらの樹脂としては、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製:660J、650J、および高分子量の変性ポリテトラフルオロエチレン 、ダイキン工業社製では、F106、F104、AGC社製では、CD123E、CD145E、等を用いることができる。
本発明のPTFEまたは変性PTFEからなる多孔膜は、
・JIS K3832に基づくイソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントが500kPa以上、
・JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験による針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が200mN/μm 以上、
・細孔の開孔部の比率が10~30%、
・繊維の太さが250nm以上
の要件をすべて満たすものである。
【0027】
本発明の多孔膜の、JIS K3832に基づくイソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントは、500kPa以上、好ましくは600kPa以上である。バブルポイントが500kPa以上であることは、PTFE多孔膜の孔径がナノオーダーの微粒子を除去可能な小孔径で有ることを示している。
一般に、PTFE多孔膜の最大孔径は、バブルポイントを用い、次式にて算出される。
【0028】
PTFE多孔膜の最大孔径(直径:nm)= 4 × γ × cosΘ/P ×109
γ:IPAの表面張力(Pa・m)
Θ:IPAと多孔膜の接触角(Θ=0)
P:バブルポイント圧力(Pa)
【0029】
バブルポイントが500kPaの場合、上記の式にて算出される最大孔径は約146nmであるが、PTFE多孔膜には、146nm以下の孔径も多数存在するため、液体のろ過においては、数十ナノの粒子を捕集することが可能である。一般に、バブルポイントが400kPa未満である場合には、ナノオーダーの微粒子の除去が困難であり、防水性も
低下するため好ましくない。
本発明のPTFE多孔膜は、バブルポイントが500kPa以上であるため、多孔膜の孔径が小さい。そして、本発明のPTFE多孔膜は高強度であるため、ベントフィルターや防水通音の用途における100m近い水圧においても裂けることが無く水漏れを引き起こさないものである。
【0030】
本発明のPTFE多孔膜は、JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験で、針が貫通するまでの最大力を試験片の厚みで除した数値が、200mN/μm以上を示す。JIS Z1707に基づく針突き刺し強さ試験は、ベントフィルターや電池のセパレーター用途に必要な物性の一つであり、引張強度などの物性値よりも、より多孔膜の裂けにくさ、破れにくさを示す指標である。本発明では、具体的には、JIS Z1707に規定される直径 1.0mm,先端形状半径 0.5mmの半円形の針を試験速度 50±5mm/分で突き刺し,針が貫通するまでの最大力(mN)を試験片の厚み(μm)で除した数値(針突き刺し強度)を計測する。膜厚が厚いほうが針突き刺し強度は高くなるため、本発明では薄くても破れにくい膜を提供することを目的として、単位厚みあたりの強度で規定している。
本発明の針突き刺し強度は、200mN/μm以上、好ましくは250mN/μm以上、より好ましくは300mN/μm以上である。
また、前記の特許文献2によれば、針突き刺し強度は、49~146mN/μmと記載されているが、本発明のPTFE多孔膜は200mN/μm以上の値を有するものである。
【0031】
本発明のPTFE多孔膜の細孔の開孔部(表面開口率)は、10~30%である。表面開口率は、多孔膜の通気性に関与する物性値であるため高い方が好ましいが、30%を超えると針突き刺し強度が低下するため好ましくなく、また、10%未満の場合には通気性、或いは通液性(流量)が低下する(低くなりすぎる)ため好ましくない。
本発明の多孔膜の表面開口は、多孔膜の製造工程でPTFEのシートまたは塗膜を加熱処理したことにより生じた結晶部分が、延伸により変形(破壊)されて生じたものである。このことは、PTFE多孔膜の当業者ではよく知られていることである。加熱処理による再結晶の過程においては、加熱温度、加熱時間、徐冷による結晶の成長の程度(再結晶化度)が開口率に影響する。加熱処理が不十分な場合には小孔径の多孔膜を得ることが困難であり、過度な加熱処理では延伸による変形が生じ難いため多孔化されない。
【0032】
本発明のPTFE多孔膜の繊維の太さは250nm以上であり、300nm以上であることが望ましい。繊維の太さが250nm未満の場合には、PTFE多孔膜の強度が得られない(強度が低下する)ため好ましくない。
本発明のPTFE多孔膜における繊維は、前記した多孔膜の製造工程での加熱処理によって生じた、PTFEの非晶部分(結晶部分ではPTFEの分子鎖が規則的に並んでいるのに対して、規則的に並んでいない部分)であり、PTFE分子鎖の絡み合い度合いが高く、延伸時の剪断力、針突き刺し等の負荷に対し変形(破壊)され難く、優れた機械的強度(針突き刺し強度)を示すと思われる。
この様な本発明の繊維は、250℃以上の加熱処理を受けていないシートの延伸によって生じる、PTFE粒子中の分子鎖が解れて生じる機械的強度に劣る繊維(PTFE分子鎖)とは異なるものであると思われる。
【0033】
上記した本発明のPTFE多孔膜の表面開口率や繊維の太さは、電子顕微鏡にて多孔膜の表面を観察し、その画像から直接寸法や面積を計測する方法も用いられるが、本発明では、特許文献4に記載の画像ソフトを用いることが好ましい。例えば、Media Cybernetic社製の画像解析ソフト:Image-Pro-Plusを用い、多孔膜と空隙の部分を、白黒に色分けを行いそれぞれの比率を自動的に計算する方法を用いるこ
とにより、より簡便に正確に算出することができる。この方法は、2値化処理といわれる。2値化に用いる電子顕微鏡の画像は、細孔と繊維構造が判別できる倍率で撮影した画像であれば良く、その倍率は限定されないが、本発明のIPAのバブルポイントが500kPa以上の小孔径の多孔膜においては、倍率5000倍~20000倍の電子顕微鏡の画像が好適に用いられる。
【0034】
本発明のPTFE多孔膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、70μm以下であるポリテトラフルオロエチレン多孔膜は、本発明の好ましい態様である。膜厚の好ましい範囲は、50μm以下であり、さらに好ましくは、20μm以下である。
次に、本発明のPTFE多孔膜の製造方法を説明する。
【0035】
本発明では、特許文献1に記載されるような、延伸前のシートを融点以上に加熱した後に延伸する加熱処理延伸法が用いられる。前記したような、融点以下で延伸した後、焼成して作製する通常の方法では、繊維径が細く強度不足となり、本発明が目指す高い針突き刺し強度を得ることができない。
前記したように、延伸により結晶が変形して多孔化が生じるが、本発明で採用した加熱処理延伸法では、製造に用いるPTFEの結晶融解熱量が大きいほうが、延伸が容易で多孔化しやすい。PTFEは、一旦加熱して結晶を融解させても、冷却により一部が再結晶する性質が知られており、結晶融解熱量が高いほうが多くの結晶が存在しているからである。
結晶の量が少ないと延伸によっても多孔化しないが、逆に、結晶量が多い場合には小孔径の膜が得られないばかりか、低い針突き刺し強度の多孔膜となってしまう。この点に関し、特許文献1でも、融点以上に加熱した後冷却しても32J/g以上、47J/g未満の結晶融解熱量が必要と記載されている。
【0036】
しかしながら、このような融解熱量を持つ樹脂は分子量が低く、高い針突き刺し強度の膜を作製することは困難である。
本発明では、加熱処理の条件を特定の範囲とすることで延伸による小孔径化を実現し、かつ、高い針突き刺し強度の膜を作製する方法を見出したものである。また、32J/g未満のPTFEを用いた場合には、より針突き刺し強度が高い膜を得ることが可能となる。
【0037】
本発明でのPTFE多孔膜の製造方法の詳細は、以下のとおりである。
本発明の製造方法では、大きく分けて、1.PTFEおよび/または変性PTFEからなる250℃以上の加熱処理をしていないシートまたは塗膜を得る工程、2.加熱処理工程、3.延伸工程の三工程を経る。
まず、1.PTFEおよび/または変性PTFEからなる250℃以上の加熱処理をしていないシートまたは塗膜を得る工程、そして、それに引き続く、2.加熱処理工程について、説明する。
【0038】
PTFEおよび/または変性PTFEからなるシートまたは塗膜を得る方法は、特に限定されるものではない。
まず、PTFEおよび/または変性PTFEを得るには、当該技術分野で一般的に使用されている方法を採用することができる。
そして、「シート」を用いる方法においては、一般的なPTFE多孔膜の製法を基に、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンのパウダーと150~290℃の沸点を有する炭化水素系溶剤を加えて混合し、押出機を用いRR35~120にて押出して得られるシート状またはビード状押出物などを得て、当該押出物に対して圧延を行いシート状の圧延物を作製した後、炭化水素系溶剤を除去して作製する以下の方法が好適である。
【0039】
本発明のPTFE多孔膜の製造に用いられる炭化水素系溶剤は、150~290℃の沸点を有する、炭素数8~16の少なくとも1種からなる直鎖式飽和炭化水素系溶剤および/または分岐鎖式飽和炭化水素系溶剤、例えば、直鎖式飽和炭化水素系溶剤としては、ナフサ(炭素数8~14の直鎖式飽和炭化水素の少なくとも1種からなる炭化水素系溶剤、沸点150~180℃)、ノルパー13(炭素数12~14、沸点 222~243℃)、ノルパー15(炭素数9~16、沸点 255~279℃)を、分岐鎖式飽和炭化水素系溶剤としてはエクソンモービル社製 アイソパーG(炭素数9~12、沸点 160~176℃)、アイソパーH(炭素数10~13、沸点 178~188℃)、アイソパーM(炭素数11~16、沸点 223~254℃)、出光興産社製スーパーゾルFP25(炭素数11~13、沸点150℃以上)等を挙げることができるが、圧延の際の溶剤の蒸発を防ぎ、加温により容易に除去可能であり、かつ、無臭であることから、アイソパーMを用いることが好ましい。
【0040】
押出成形を円滑にするため、前記炭化水素系溶剤(好ましくは、エクソンモービル社製アイソパーM)を、PTFEに対し16重量%~22重量%、押出の容易さから好ましくは18重量%~20重量%の量を加えて3~5分間混合し、20℃以上で12時間以上静置し、円柱状の加圧装置に樹脂を投入して、シリンダーで加圧して樹脂パウダーと炭化水素系溶剤中に含まれる空気を追い出して、円柱状の予備成形物を得る。
【0041】
次に、押出機を用い、円柱状の予備成形物をRR35~120、好ましくは50~120、より好ましくは50~80、成形温度40~60℃、好ましくは40~50℃、ラム押出速度10~60mm/分、好ましくは20~30mm/分で押出成形し、シート状押出物とビード状押出物、チューブ状押出物などを作製する。チューブ状の押出物は、刃物で長さ方向に切断して開いてシート状にすることができる。
ラム押出速度が10mm/分未満の場合には、生産性が低下するため好ましくなく、押出速度が60mm/分を超える場合には、押出圧の上昇や、均一な押出物が得られ難くなるため、好ましくない。
RRが35未満の場合には、PTFEの一次粒子に十分なシェアー(剪断力)がかからずPTFE一次粒子が繊維化しないため、押出物の強度が低下し、好ましくない。
また、RRを高くするにつれ、押出成形時の押出圧力が上がり、RRが120を超える場合には大型の成形機が必要となるため、好ましくない。
加えて、成形温度が室温未満の場合には、前記炭化水素系溶剤とPTFEのなじみが悪く、流動性が低下するため好ましくなく、120℃を超える場合には、炭化水素系溶剤の蒸発が進みすぎるため、好ましくない。
【0042】
前記シート状押出物等に、2組のロールを用い、所定の厚みになるように、MDに圧延を行う。圧延の厚みは、200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μmまで圧延されるが、この方法では、50~100μmが限界である。
また、特許文献6では、押し出されたシートに対し、ロールでのMDへの圧延だけでなく、押出方向と垂直な方向に助剤を含んだまま引っ張る工程を含むことで、圧延されたシートのMDとCDの引張強さの比を調整する方法が紹介されている。本発明では、圧延の方法は限定されるものではないが、必要に応じて加熱処理前のシートのMDとCDの強度の差を小さくするため、類似の方法を採用することも可能である。すなわち、MDへの圧延としては、押出後のシートを適当な長さに切断後、MDに圧延を行う。引き続くCDへの圧延は、MDへの圧延を行ったシートを、MDに対して90度回転させてから、CDに変形させる。これら2つの方向への圧延を併用して、400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下にシート状押出物等を圧延しシート状圧延物を得る。
【0043】
前記シート状圧延物中の炭化水素系溶剤を150℃以上、好ましくは200℃以上で、5分以上、好ましくは15分以上蒸発除去して、250℃以上の加熱処理を受けていない圧延シートを得る。
次にこのシートを、360℃で20分加熱して室温にて冷却した後、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量を測定し、これをΔH0とする。次に、加熱温度、加熱時間のみを変化させた以外は同一条件で結晶融解熱量を測定し、これをΔHとしたときに、ΔH/ΔH0の値が1.0~2.0になるように、加熱温度、加熱時間を決定する。そのような加熱処理の温度は、PTFEの融点以上であることが必要である。ΔH/ΔH0の値は、好ましくは、1.2~1.8、さらに好ましくは1.2~1.6である。
加熱処理は、PTFEおよび/または変性PTFEからなるシートを寸法変化がないよう固定して行われる。
上記の加熱処理工程は、後記する塗膜に対する加熱処理工程にも同様に適用される。
なお、上記の方法で得られた250℃以上の加熱処理を受けていない圧延シートは、連続的に加熱炉を通過させて、ΔH/ΔH0が1.0~2.0の範囲に加熱処理させることもできる。また、所定面積にカットして高温乾燥機中で加熱処理も可能である。加熱処理の条件は、樹脂の種類によって、焼成される条件が異なるため、一概に規定することはできないが、一般的なPTFEまたは変性PTFEであれば、用いるPTFEまたは変性PTFEの融点以上~400℃、好ましくは350~400℃、より好ましくは350~385℃の温度で、ΔH/ΔH0値を1.0~2.0の範囲にするには、30~500秒程度加熱することによって達成される。
【0044】
次に、「塗膜」を用いる方法について説明する。この方法は、特許文献7に準拠して、平板にディスパージョンを塗布する方法である。
平均粒径0.01~5.00μm、好ましくは0.10~1.00μm、より好ましくは0.10~0.50μmの平均粒径を有するポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる、固形分濃度が5~75質量%、好ましくは40~65質量%のディスパージョンに、界面活性剤、造膜剤、増粘剤としての水溶性高分子と有機溶剤を添加した後、400℃以上の耐熱性を有する厚さ1mm以上の平滑な板に塗布し、水分を乾燥させた後に360℃以上の温度で加熱して添加物を分解除去した後に室温にて冷却し、平滑な板から剥離して塗膜を作製する方法が好適である。
前記の界面活性剤、造膜剤、増粘剤としての水溶性高分子と有機溶剤を添加したディスパージョンは、B型粘度計による粘度(No2ローターを用いた30rpmにおける粘度)が、1~600cps、好ましくは100~600cps、より好ましくは200~500cpsであることが望ましい。
【0045】
ディスパージョンに添加する界面活性剤は、例えばライオン社製レオコール、ダウケミカルカンパニー製TRITON、TERGITOLシリーズ、花王社製エマルゲンなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の非イオン系界面活性剤や、ライオン社製リパール、花王社製エマール、ペレックスなどのスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、硫酸モノ長鎖アルキル系の陰イオン系界面活性剤、ライオン社製レオアール、ダウケミカルカンパニー社製OROTANなどのポリカルボン酸塩、アクリル酸塩系の高分子界面活性剤などが挙げられる。造膜剤は、例えば、ポリアミドやポリアミドイミド、アクリル、アセテートなどの高分子系造膜剤、高級アルコールやエーテル、造膜効果を有する高分子界面活性剤などが挙げられる。増粘剤は、水溶性セルロース類や、溶剤分散系増粘剤、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、アクリル酸 エステルなどが挙げられ、加えることができる。
【0046】
また、ディスパージョンとしては、重合直後の分散液を用いても良いが、特許文献8に
記載の方法などの公知の技術により濃縮し安定化した分散液を用いることが好ましい。ディスパージョンの濃度としては、5~75質量%であることが好ましく、濃縮によりPTFE樹脂の濃度を増加させて、40~70質量%としたものを用いることが好ましい。
また、樹脂は、前述した通り、特許文献1に記載された32J/g未満の樹脂(中・高分子量の樹脂)がより好ましい。
【0047】
次に、前記の界面活性剤、造膜剤、増粘剤としての水溶性高分子と有機溶剤を添加したディスパージョンを、400℃以上の耐熱性を有するステンレス板、アルミ板、ポリイミドフィルム、ガラス板に塗布した後、100℃程度に加熱して水分を乾燥させる。本発明では、塗布方法は限定しないが、スプレーノズルを用いて吹付し水分を乾燥する方法、前記の界面活性剤、造膜剤、増粘剤としての水溶性高分子と有機溶剤を添加したディスパージョンに板を浸漬し所定速度で引き上げたのち乾燥する方法などが好適に用いられる。塗布厚みは、ディスパージョンの粘度、吹付回数、吹付量、引き上げ速度、等で自由に制御される。塗布工程も、連続的にポリイミドフィルムやアルミ板に塗布することも可能であり、熱風乾燥炉内で長時間停滞するよう、速度や炉の長さを調整して作製することもできる。また、所定面積のガラス板やアルミ板に塗布して、高温乾燥炉で加熱処理する方法でも目的の塗膜を得ることもできる。
【0048】
続いて、360℃以上の温度で添加物を分解除去する。加熱温度が低いと、炭化された添加物の影響で、塗膜が着色するため、完全に白色になるまで加熱が必要である。加熱温度は、添加物の種類によって異なるが、用いるPTFEまたは変性PTFEの融点以上~400℃、好ましくは350~400℃、より好ましくは350~385℃に加熱する必要がある。さらに加熱時間は、分解除去の程度を確認して行う必要があるが、少なくとも20分加熱することが好ましい。加熱後は室温にて冷却して、延伸工程にて多孔膜を作製する。なお、室温に冷却した塗膜は、すでに融点以上に加熱されているため、改めて加熱処理のための加熱処理は必要ない。
なお、この条件では、加熱処理状態の塗膜ではなく、完全に焼成された塗膜とみなされなくはないが、本発明では、どのような加熱処理であっても、ΔHを測定しΔH0との比を算出して、ΔH/ΔH0=1.0~2.0であれば、加熱処理と定義する。
【0049】
本発明のPTFEおよび/または変性PTFEからなる多孔膜の製造方法で用いる加熱処理されたシートまたは塗膜の作製について、PTFE樹脂を炭化水素系溶剤と混合、押出、圧延、乾燥してシートを作製して加熱処理する方法と、薄い多孔膜を作製するためにPTFE樹脂のディスパージョンを塗布して加熱処理の処理と同時に添加物の分解除去を行って塗膜を作製する方法について具体的に紹介した。本発明では、加熱処理されたシートまたは塗膜の作製については、特に制限されるものではないが、この2つの方法が好適に用いられる。さらに加熱処理を行うための加熱手段についても、高温の乾燥を紹介したが、加熱手段はこれに限定されるものではなく、赤外線ヒーターでの加熱、加熱ロールを始め融点以上に加熱された面に接触させる方法も本発明では用いることができる。
【0050】
最後に、3.延伸工程について説明する。
延伸工程においては、前記のようにして得られた加熱処理シートを、150~320℃、好ましくは300℃の雰囲気中にて、1方向に延伸した後、その垂直方向に逐次延伸して延伸を行い、多孔膜を作製する。
2.の加熱処理工程を行っていないものを延伸する方法では、初めに延伸する方向はある程度決まっており、押出された方向から延伸するのが一般的ではある。しかしながら、本発明で採用した加熱処理延伸法での延伸では、どの方向からも延伸することができる。特に、ディスパージョン塗布を用いて作製したシートや、特許文献6で紹介された方法で、MD、CDの強度に差のない作り方をしたシートでは、どの方向から延伸を始めても問題なく、多孔膜を作製することができる。
延伸後の多孔膜に、熱固定が必要な場合には、PTFEの融点以上~400℃、好ましくは350~400℃、より好ましくは350~385℃で、10~120秒間焼成しても構わない。
【0051】
PTFE多孔膜を得るための延伸工程においては、2.の工程が行われたシート状圧延物を非連続的(バッチ式)に延伸する非連続延伸方法と連続延伸方法が用いられる。本発明においては、目的とするPTFE多孔膜の特性に応じて、延伸方法や延伸装置を適宜選択することにより、PTFE多孔膜を得ることができる。
2.の工程が行われたシート状圧延物のMD及びCDの延伸倍率の比は、そのように加熱処理されていないシート状圧延物に比べて伸びにくいため、MD及びCDにおける延伸倍率は5~7倍が限界である。また、MD及びCDにおける延伸倍率を同倍率にする必要はなく、目的に応じて各々の方向の延伸倍率を決めることができる。
非連続的(バッチ式)に延伸する方法は、融点以上の温度で加熱処理されたシート状圧延物をカットし、2軸延伸機を用いて逐次に延伸する方法である。
【0052】
連続延伸方法においては、先ず、前記2.の工程が行われたシート状圧延物を、加熱可能かつ上下でニップ(挟圧)可能なロール(ニップロール)を複数組有する縦(押出方向)延伸装置を用い、ロール各組の速度を変えて、前記2.の工程が行われたシート状圧延物の押出方向(MD)と同一方向に連続的に延伸する。複数組のロール対を用いて押出方向(MD)に連続延伸する場合、それぞれの組のロール対の回転速度に速度差をつけることが好ましい。より具体的には、進行方向に対し、一組目のロール対の回転速度よりも、二組目以降のロール対の回転速度を速くすることで、この間で縦延伸が完了し、延伸倍率は、この回転速度の比が、延伸の倍率となる。三組以上のロール対を使用する場合も、進行方向に速度を上げていくことで縦延伸する(押出方向(MD)に連続延伸する)ことが好ましい。
ロールの直径は限定されないが、一般的には約200mmΦである。また、各々のロール対の組の間に加熱炉を備えた装置を用いて押出方向(MD)に連続延伸する方法も好適に用いられる。
次に、連続的に押出方向と垂直な方向(CD)に延伸可能なテンターを用い、押出方向(MD)に連続延伸されたシート状延伸物の両側をチャックで掴み、加熱しながらチャックを動かすことにより、押出方向と垂直な方向(CD)に連続的に延伸して、PTFE多孔膜を得る。
【実施例0053】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
(標準比重(SSG))
ASTM D4895に従い、PTFEの標準比重を求めた。
【0055】
(結晶融解熱量)
結晶融解熱量は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 Diamond DSC)を用いた。
1.PTFEまたは変性PTFE
250℃以上の加熱履歴の無いPTFEまたは変性PTFEの10mgを、10℃/分の速度で365℃まで加熱後、-10℃/分の速度で330℃まで冷却し、-1℃/分の速度で330℃から305℃まで冷却し、さらに-10℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却後、10℃/分の速度で365℃まで加熱する際の296~343℃間の結晶融解熱量を求めた。
2.シートまたは塗膜
ΔH0: 250℃以上の加熱履歴の無いPTFEまたは変性PTFEのシートまたは塗膜を、360℃で20分加熱した後、室温で冷却して得られるシートまたは塗膜の10mgを、10℃/分の速度で380℃まで昇温して得られたDSC曲線から、295~360℃における結晶融解熱量(J/g)を求めた。
ΔH : ポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる250℃以上の加熱処理を受けていないシートまたは塗膜を、結晶融解熱量(ΔH0)と(ΔH)との比(ΔH/ΔH0)が、1.0~2.0になるよう加熱処理して得られるシートの10mgを、10℃/分の速度で380℃まで昇温した時の295~360℃間の結晶融解熱量(J/g)を求めた。
【0056】
(IPAバブルポイント)
マイクロトラックベル社製 Porolux1000を用い、JIS K3832に従い、イソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントを測定した。
【0057】
(引張強さ(引張強度)、及び通気性(ガーレー値))
表1に示す条件にて得られたPTFE多孔膜から作成された多孔膜サンプル片を用い、JIS K6251に従い、オリエンテック社製 テンシロンRTC1310Aを用いて、25℃、チャック間隔22mm、引張速度200mm/分にて引張強さ(引張強度)を測定した。なお、MD(押出方向)強度は、MD50mm×CD10mmの多孔膜サンプル片を用い、CD(押出方向と垂直な方向)強度は、MD10mm×CD50mmの多孔膜サンプル片を用いた。また、MD強度×CD強度はPTFE多孔膜全体の強度を示す指標であり、その値が大きいほど強度に優れていることを示す。
通気性は、東洋精機製ガーレー式デンソメーター(透気度試験機)を用いて測定した。
【0058】
(PTFE多孔膜の開口部の比率(表面開孔率)、繊維径)
PTFE多孔膜を白金パラジウム合金でスパッタ蒸着した後、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU-8000)にて観察した。
実施例では、10000倍で表面構造を観察し、Media Cybernetic社製の画像解析ソフトImage-Pro-Plusを用いて2値化して、多孔膜の細孔の開孔率を算出した。
繊維径は、Phenom World社製卓上走査型電子顕微鏡ProXのソフト PhenomTM Pro Suiteの中のFibermetricを用いて解析した。
【0059】
(膜厚)
ピーコック社製 ダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。
【0060】
(針突き刺し試験(針突き刺し強度))
JIS Z1707に規定される直径 1.0mm,先端形状半径 0.5mmの半円形の針を試験速度 50±5 mm/分で突き刺し、針が貫通するまでの最大力(mN)を、試験片の厚み(μm)で除した数値(針突き刺し強度)を計測した。
【0061】
(実施例1で用いるPTFEの重合)
攪拌翼及び温度調節用ジャケットを備えた、内容量が4リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、パラフィンワックスを60g、脱イオン水を2300ml、及びフルオロモノエーテル酸(式C37-O-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を12g、及びフルオロポリエーテル酸(C37-O-[CF(CF3)CF2n-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を0.05g、コハク酸を0.75g、シュウ酸を0.026g、塩化亜鉛を0.01g仕込み、80℃に加温しながら窒素ガスで3回系内を置換し酸素を除いた後、真空引きを行った。その後、パーフルオロブチルエチレン1gを添加し、テトラフルオロエチレン(TFE)で内圧を2.75MPaにし、1
11rpmで攪拌しながら、内温を63℃に保った。
【0062】
次に、2000mlの水に40mgの過マンガン酸カリウム(KMnO4)を溶かした水溶液510mlをポンプで注入した。過マンガン酸カリウムの注入が終了した時点で、内温を85℃に昇温し、引き続きTFEを供給した。TFEの消費が740gになった時点で、攪拌を停止した。オートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、真空引きを行い、窒素ガスで常圧に戻した後で内容物を取り出し反応を終了した。得られたPTFEディスパージョンの固形分は28%であり、一次粒子の平均粒子径は0.24μmであった。続いて、得られたディスパージョンを固形分15%になるまで水で希釈し、機械攪拌により凝集した二次粒子が分離されるまで、室温にて、機械攪拌を続けた。
得られた凝集した二次粒子(PTFE粉末)を190℃で11時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。得られたPTFEファインパウダーの標準比重(SSG)、特許文献1で規定した結晶融解熱量を表1に示す。
【0063】
(実施例1)
前記PTFEファインパウダーを用い、エクソンモービル社製 アイソパーMを、表1に示す量加えて、Willy A.Bachofen AG社製 Turbulaシェイカーを用いて5分間混合し、25℃で24時間静置した後、予備成形機の直径80mmΦのシリンダーに投入しシリンダー上部に蓋をし、室温(約15~30℃)にて、50mm/分の速度で圧縮成形し円柱状の予備成形物を得た。得られた予備成形物を、押出機を用い、RR36、成形温度50℃、押出速度20mm/分にて、押出ダイス(厚み1mm×幅140mm)を用いて押出成形し、シート状押出物を得た。得られたシート状押出物を長さ250mmにカットし、50℃に加温された2組のロールにて、表1に示す圧延後の厚みになるまで押出方向(MD)、及び押出方向と垂直な方向(CD)にそれぞれ複数回圧延した。その後、200℃で15分間、前記アイソパーMを蒸発除去しシート状圧延物を得た後、該シート状圧延物を正方形(120mm角)に切断した。
得られたシートは、1mm厚のアルミ板(100mm角)に四隅を固定して、高温乾燥器を用いて表1に示す温度と時間で加熱処理を行った。加熱後室温にて冷却し、ΔH、ΔH0を測定した。加熱処理の温度と時間を表1に示す。
【0064】
延伸は、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製 EX10-S5型)を用い、該正方形(90mm角)の加熱処理シートの周囲をチャックで固定し(2軸延伸装置のチャック掴み代を除くサイズ:72mm角)、成形温度300℃にて、延伸速度(チャックを動かす速度)4.32m/分にて、MD及びCDに逐次2倍延伸して延伸物(PTFE多孔膜)を得た(バッチ式)。
得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0065】
(実施例2及び3)
実施例2は、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製のPTFE樹脂650Jを用い、表1に示す加熱時間とした以外は、すべて実施例1と同様の条件でシートを作製した。
実施例3は、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製のPTFE樹脂660Jを用い、表1に示す加熱時間とした以外は、すべて実施例1と同様の条件でシートを作製した。
実施例2及び実施例3で得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
なお、図1および図2に、実施例2で得られたPTFE多孔膜の表面を電子顕微鏡で10000倍にて観察した写真、および、この画像を2値化した写真を示す。
【0066】
(実施例4)
樹脂として三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製のPTFE樹脂650Jを用い、溶
剤分散系増粘剤(分解温度380℃未満)、アクリル系造膜剤(分解温度380℃未満)、非イオン系界面活性剤(ライオン社製レオコールTDN90-80、分解温度300℃以下)を含有する、粘度418cps、固形分濃度65質量%のPTFEディスパージョン(PTFEの比重2.16、平均粒径0.25μm)中に、イソプロピルアルコール含有キムワイプにて表面に付着した油分を取り除いたガラス板(10cm×10cm)を浸漬して、引き上げ速度10mm/秒で垂直に引き上げ、120℃で15分乾燥した後、380℃、60分加熱処理し、厚み35μmの塗膜を得た。その後、該塗膜をガラス板から剥がした。
剥がした塗膜を、実施例1と同じ条件にて延伸し、延伸物(PTFE多孔膜)を得た。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0067】
(実施例5)
表1に示す延伸倍率以外は、実施例3と同様の条件にて延伸し、延伸物(PTFE多孔膜)を得た。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製のPTFE樹脂650Jを用い、前記シート状圧延物を成形し、加熱処理工程を経ることなく、そのまま、成形温度300℃にて、延伸速度(チャックを動かす速度)4.32m/分にて、MD及びCDに逐次2倍延伸して延伸物(PTFE多孔膜)を得た(バッチ式)。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製のPTFE樹脂650Jを用い、前記シート状圧延物を成形し、加熱処理工程を経ることなく、そのまま、成形温度300℃にて、延伸速度(チャックを動かす速度)4.32m/分にて、MD及びCDに逐次10倍延伸して延伸物を得た(バッチ式)。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
なお、図3および図4には、比較例2で得られた多孔膜の表面構造を電子顕微鏡で5000倍にて観察写真および、この画像を2値化した写真を示す。
【0070】
(比較例3)
表1に示す加熱時間とした以外は、実施例1と同様の条件にて延伸し、延伸物(PTFE多孔膜)を得た。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0071】
(比較例4)
表1に示す加熱時間とした以外は、実施例3と同様の条件にて延伸し、延伸物(PTFE多孔膜)を得た。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0072】
(比較例5)
表1に示す加熱時間とした以外は、実施例3と同様の条件にて延伸し、延伸物(PTFE多孔膜)を得た。得られたPTFE多孔膜の物性を表1に示す。
また、所定条件での樹脂の融解熱量及びΔH/ΔH0を表1に示す。
【0073】
本発明は、小孔径で、かつ、針突き刺し強度が高く、引張強度の値も高い多孔膜を提供
することが可能となる。
加熱処理後に延伸することで、従来の延伸膜よりも、はるかに強度に優れた膜が作製可能である。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、小孔径で、破れにくく、突き刺しなどの外力にも強いポリテトラフルオロエチレンおよび/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜、およびその製造方法が提供される。
本発明は、高耐水性、高強度を必要とする通信機器用の防水通音用途、自動車用のベントフィルター、及び腐食性液体や有機溶剤、或いは、半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、並びにエッチング液中の有価物の回収等の用途等のほかに、燃料電池、キャパシター、リチウム電池等のセパレーター及びその一部として使用することも可能であり、各種正極と負極の物理的な分離用のセパレーターの一部として用いることもできる。
図1
図2
図3
図4