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特開2022-117708細胞組織化用基板およびマイクロプレート
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  • 特開-細胞組織化用基板およびマイクロプレート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117708
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】細胞組織化用基板およびマイクロプレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014346
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋行
(72)【発明者】
【氏名】高畠 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由香利
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA01
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】平面的な広がりを持つ三次元細胞組織の成長が可能でありながら立体的にも成長が可能な細胞組織化用基板を提供する。
【解決手段】細胞を二次元および三次元的に組織化させる基板として使用するための細胞組織化用基板3であって、細胞組織化用基板の、ウェルの底面とは反対側の面が、細胞組織化用基板の中央部側の内側領域8と、内側領域の外側に備えられた外側領域7と、に区画されており、内側領域は疎水性であり、外側領域は親水性であることを特徴とする細胞組織化用基板。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を二次元および三次元的に組織化させる基板として使用するための細胞組織化用基板であって、
細胞組織化用基板の、ウェルの底面とは反対側の面が、細胞組織化用基板の中央部側の内側領域と、内側領域の外側に備えられた外側領域と、に区画されており、
内側領域は疎水性であり、外側領域は親水性であることを特徴とする細胞組織化用基板。
【請求項2】
前記外側領域の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の細胞組織化用基板。
【請求項3】
前記凹凸構造がピラー状凸部構造体であり、該ピラー状凸部構造体の、高さは100nm~20μmであり、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項2に記載の細胞組織化用基板。
【請求項4】
前記凹凸構造が溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、該溝状凹部構造体の、深さは100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項2に記載の細胞組織化用基板。
【請求項5】
前記疎水性および前記親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の細胞組織化用基板。
【請求項6】
前記細胞組織化用基板の周縁端部から前記外側領域までの距離が10μm以上離間していることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の細胞組織化用基板。
【請求項7】
前記細胞組織化用基板の周縁端部に把持具により把持可能な切り欠き部が備えられていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の細胞組織化用基板。
【請求項8】
前記細胞組織化用基板の、前記ウェルの底面と対向する面に、前記細胞組織化用基板を前記ウェルの底面から離間するためのスペーサが備えられていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の細胞組織化用基板。
【請求項9】
前記細胞組織化用基板が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかであることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の細胞組織化用基板。
【請求項10】
板状の基材にマトリクス状に形成された複数の、底面が平面からなる凹部であるウェルを細胞培養容器として使用するマイクロプレートであって、
前記ウェルの底面に、請求項1~9のいずれかに記載の細胞組織化用基板を備えていることを特徴とするマイクロプレート。
【請求項11】
板状の基材にマトリクス状に形成された複数の底面が平面からなる凹部であるウェルを細胞培養容器として使用するマイクロプレートであって、
ウェルの底面に、底面の中央部側の内側領域と、内側領域の外側に配置された外側領域
と、を備えており、
内側領域は疎水性であり、外側領域は親水性であることを特徴とするマイクロプレート。
【請求項12】
前記外側領域の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項10または11に記載のマイクロプレート。
【請求項13】
前記凹凸構造がピラー状凸部構造体であり、該ピラー状凸構造体の、高さは100nm~20μmであり、ピラー状凸構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、ピラー状凸構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項12に記載のマイクロプレート。
【請求項14】
前記凹凸構造が溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、該溝状凹部構造体の、深さは100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項12に記載のマイクロプレート。
【請求項15】
前記疎水性および前記親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であることを特徴とする請求項11に記載のマイクロプレート。
【請求項16】
前記ウェルの底面の周縁端部から前記外側領域までの距離が10μm以上離間していることを特徴とする請求項11~15のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項17】
前記ウェルの内側の表面が親水性であることを特徴とする請求項11~16のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項18】
前記ウェルの内側の表面には凹凸構造が形成されていないことを特徴とする請求項10~17のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項19】
前記基材が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかであることを特徴とする請求項10~18のいずれかに記載のマイクロプレート。
【請求項20】
前記ウェルの底面に疎水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項10~19のいずれかに記載のマイクロプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療用の細胞組織を形成する細胞組織化用基板に関する。さらに詳しくは、培養する細胞が付着し易い表面と付着し難い表面によって区画された領域を備えた細胞組織化用基板とその細胞組織化用基板を備えたマイクロプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の皮膚や神経、臓器などをヒトの細胞から人工的に作り出し、人体の治療に役立てることを目標とした再生医療分野の技術開発が進められている。具体的には、例えば、人のiPS細胞に代表される幹細胞を使用して、いろいろな臓器になる細胞組織を形成する技術開発が進められている。
【0003】
幹細胞は、神経や色々な臓器を形成する細胞に変わる分化機能を有する。例えば、幹細胞を分化させることにより皮膚細胞を作り出し、皮膚細胞を増殖させることにより、皮膚を作り出すことができる。皮膚以外にも、神経や血管、各種臓器を作り出すことを目指している。幹細胞を分化させた後、細胞を増殖させる手段として、細胞培養容器が使用される。
【0004】
細胞を培養することにより細胞を増殖する形態として2つの方法が知られている。1つは細胞を平面的に増殖させる方法である。もう1つは細胞を立体的に増殖させる方法である。
【0005】
細胞培養容器の内壁面が、細胞にとって付着し、接着し易い表面である場合、細胞は内壁面に沿って二次元的に増殖することが知られている。一方、内壁面が、細胞にとって接着し難い表面である場合、細胞は培養容器内部を浮遊し続けることで、三次元的に増殖することが知られている。
【0006】
例えば、血管細胞の三次元細胞組織を培養する場合、従来技術では培地(細胞を培養する栄養分などを含む溶液)中の浮遊細胞が培養容器の底部に沈殿するときに集まりやすいように、図4(b)に例示したような丸底の小さな試験管状の容器(ウェル1´と記す。)がマトリクス状に多数配置されたマイクロプレート10´(図4(a)参照)と称する容器を用いて培養を行う。このとき、丸底に沈殿し集積した三次元細胞は丸みを帯びることが知られている。しかしながら、丸みを帯びた三次元細胞組織では血管細胞が組織化されにくいという問題がある。一方で、平面状の血管細胞が組織化されやすいことを期待し、平底のマイクロプレートで三次元細胞組織を培養する場合、平底の底面全体に細胞が広がり、十分な厚みの三次元細胞組織が得られないという問題がある。
【0007】
細胞を三次元的に増殖する先行技術としては、例えば特許文献1に、細胞培養容器の内壁面に細胞が接着し難い性能が長期的に保持される構造として、規則性を有して配列されてなる複数のピラー状凸構造部を有する細胞培養容器が開示されている。しかしながら、この技術においては、培養する細胞の接着性を乏しくする表面構造に主眼をおいており、三次元細胞組織の立体的な成長と同時に特定の範囲内において平面的な広がりを持つ細胞組織を培養することに配慮がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-41719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明は、特定の範囲内において平面的な広がりを持つ三次元細胞組織の組織化が可能でありながら立体的にも組織化が可能な細胞組織化用基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する手段として、本発明の請求項1に記載の発明は、細胞を二次元および三次元的に組織化させる基板として使用するための細胞組織化用基板であって、
細胞組織化用基板の、ウェルの底面とは反対側の面が、細胞組織化用基板の中央部側の内側領域と、内側領域の外側に備えられた外側領域と、に区画されており、
内側領域は疎水性であり、外側領域は親水性であることを特徴とする細胞組織化用基である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記外側領域の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の細胞組織化用基板である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記凹凸構造がピラー状凸部構造体であり、該ピラー状凸部構造体の、高さは100nm~20μmであり、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項2に記載の細胞組織化用基板である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記凹凸構造が溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、該溝状凹部構造体の、深さは100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項2に記載の細胞組織化用基板である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記疎水性および前記親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の細胞組織化用基板である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、前記細胞組織化用基板の周縁端部から前記外側領域までの距離が10μm以上離間していることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の細胞組織化用基板である。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、前記細胞組織化用基板の周縁端部に把持具により把持可能な切り欠き部が備えられていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の細胞組織化用基板である。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、前記細胞組織化用基板の、前記ウェルの底面と対向する面に、前記細胞組織化用基板を前記ウェルの底面から離間するためのスペーサが備えられていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の細胞組織化用基板である。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、前記細胞組織化用基板が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかであることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の細胞組織化用基板である。
【0019】
また、請求項10に記載の発明は、板状の基材にマトリクス状に形成された複数の、底面が平面からなる凹部であるウェルを細胞培養容器として使用するマイクロプレートであって、
前記ウェルの底面に、請求項1~9のいずれかに記載の細胞組織化用基板を備えていることを特徴とするマイクロプレートである。
【0020】
また、請求項11に記載の発明は、板状の基材にマトリクス状に形成された複数の底面が平面からなる凹部であるウェルを細胞培養容器として使用するマイクロプレートであって、
ウェルの底面に、底面の中央部側の内側領域と、内側領域の外側に配置された外側領域と、を備えており、
内側領域は疎水性であり、外側領域は親水性であることを特徴とするマイクロプレートである。
【0021】
また、請求項12に記載の発明は、前記外側領域の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項10または11に記載のマイクロプレートである。
【0022】
また、請求項13に記載の発明は、前記凹凸構造がピラー状凸部構造体であり、該ピラー状凸構造体の、高さは100nm~20μmであり、ピラー状凸構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、ピラー状凸構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項12に記載のマイクロプレートである。
【0023】
また、請求項14に記載の発明は、前記凹凸構造が溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、該溝状凹部構造体の、深さは100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅は100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチは100nm~5μmであることを特徴とする請求項12に記載のマイクロプレートである。
【0024】
また、請求項15に記載の発明は、前記疎水性および前記親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であることを特徴とする請求項11に記載のマイクロプレートである。
【0025】
また、請求項16に記載の発明は、前記ウェルの底面の周縁端部から前記外側領域までの距離が10μm以上離間していることを特徴とする請求項11~15のいずれかに記載のマイクロプレートである。
【0026】
また、請求項17に記載の発明は、前記ウェルの内側の表面が親水性であることを特徴とする請求項11~17のいずれかに記載のマイクロプレートである。
【0027】
また、請求項18に記載の発明は、前記ウェルの内側の表面には凹凸構造が形成されていないことを特徴とする請求項10~17のいずれかに記載のマイクロプレートである。
【0028】
また、請求項19に記載の発明は、前記基材が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかであることを特徴とする請求項10~18のいずれかに記載のマイクロプレートである。
【0029】
また、請求項20に記載の発明は、前記ウェルの底面に疎水性を発現可能な凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項10~19のいずれかに記載のマイクロプレートである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の細胞組織化用基板は、疎水性の内側領域と、その内側領域の外側に備えられた親水性の外側領域と、を備えた基板である。細胞培養容器の中で培養される細胞は、親水性の表面には接着し難く、疎水性の表面には接着し易い、という特性がある。そのため、疎水性の内側領域には、その領域に対応した平面的な広がりを備えた細胞組織が三次元的に増殖した三次元細胞組織が成長可能な細胞組織化用基板を提供可能となる。
【0031】
本発明のマイクロプレートによれば、マイクロプレートの板状の基材に形成された細胞培養容器として機能する各ウェルの底部に本発明の細胞組織化用基板を備えている。そのため、平面的な広がりを持つ三次元細胞組織を大量に増殖可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の細胞組織化用基板を備えたマイクロプレートのウェルを例示する説明図であり、(a)はウェルの断面図、(b)はウェルの底面またはウェルの底面に備えられた細胞組織化用基板の上面図、である。
図2】本発明の細胞組織化用基板を例示する説明図であり、(c)は細胞組織化用基板の切り欠き部を例示した上面図である。
図3】本発明のマイクロプレートを例示する説明図であり、(a)は上面図、(b)は断面図、である。
図4】従来のマイクロプレートを例示する説明図であり、(a)は上面図、(b)は(a)の切断線A-A´における断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<細胞組織化用基板>
本発明の細胞組織化用基板について図1図3を用いて説明する。
【0034】
本発明の細胞組織化用基板3は、板状のマイクロプレート基材2にマトリクス状に形成された複数の凹部であるウェル1を細胞培養容器として使用するマイクロプレート10(図3(a)、(b)参照)のウェルの底面6(図1(a)参照)に設置して、細胞組織を二次元および三次元的に増殖させ、組織化させる基板として使用される細胞組織化用基板である。
【0035】
本発明の細胞組織化用基板3においては、ウェルの底面6とは反対側の面が、細胞組織化用基板3の中央部側の内側領域8と、内側領域8の外側に備えられた外側領域7と、に区画されている(図1(b)参照)。さらに、内側領域8は疎水性であり、外側領域7は親水性であることが特徴である。内側領域8が疎水性であることにより、培地中の細胞が内側領域8に接着し、増殖し易くなる。また、外側領域7が親水性であることにより、培地中の細胞が外側領域7に接着し、増殖し難くなる。
【0036】
本発明の細胞組織化用基板3を細胞培養溶液の中に入れ、容器の底面に設置することによって、平面状の内側領域8において、細胞の二次元的な増殖が進行するのと同時に、内側領域8が疎水性であることにより三次元的な増殖も進行する。そのため、平面的な広がりを持つと同時に、厚み方向にも細胞の増殖が進んだ細胞組織が成長する。
【0037】
また、内側領域8の表面には、疎水性を発現可能な凹凸構造が形成されていても良い。
疎水性を発現可能な凹凸構造とは、蓮の葉の表面のような微細な凹凸構造を指す。疎水性材料からなる微細な凹凸構造は、元の疎水性材料より強い疎水性を示すことが知られている。逆に、親水性材料からなる微細な凹凸構造によりさらに強い親水性を示すことが知られている。疎水性の材料は、ポリビニールアルコールや一般的なセルロースのような親水性の樹脂を除き、ポリエチレンやポリプロピレンなど、親水基を持たない樹脂が疎水性を持っている。また、親水基をもたない疎水性の樹脂表面をコロナ放電処理などの親水化処理を行うことにより、表面の親水化を行うことが可能である。
【0038】
凹凸構造の1つの形態として、ピラー状凸部構造体を挙げることができる。ピラー状凸部構造体の、高さが100nm~20μmであり、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチが100nm~5μmであっても良い。疎水性材料からなるこのような凹凸構造により、その材料が持つ疎水性より強い表面が得られる。ピッチとは、凹凸構造の隣り合うピラー状凸部構造体の端部間の距離を言い、後述するように凹凸構造が溝状凹部構造体である場合には、隣り合う凹部の端部間の距離を言う。
ピラー状凸部構造体の高さが100nm未満である場合は、基板作製時の熱インプリント工程で凸部形状の転写が困難であるという問題がある。また、ピラー状凸部構造体の高さが20μmを超える場合は、ピラー構造のアスペクト比が高くなり基板作製時の熱インプリント工程で転写が困難となる。
ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm未満である場合は、基板作製時の熱インプリント工程で凸部形状の転写が困難であるという問題がある。また、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が5μmを超える場合は、細胞がピラー上で結合し増殖してしまうおそれがある。
ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチが100nm未満である場合は、基板作製時の熱インプリント工程で凸部形状の転写が困難であるという問題がある。
となる。また、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチが5μmを超える場合は、細胞がピラー間の溝に広がってしまうおそれがある。
【0039】
また、凹凸構造が溝状凹部構造体であっても同様の効果が得られる。例えば、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、その溝状凹部構造体の、深さが100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチが100nm~5μmであっても良い。
溝状凹部構造体の深さが100nm未満である場合は基板作製時の熱インプリント工程で凸部形状の転写が困難であるという問題があり、20μmを超えると凹部構造のアスペクト比が高くなり基板作製時の熱インプリント工程で転写が困難となる。また、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm未満である場合はとなり、5μmを超えると細胞が凹部に広がってしまうおそれがある。
また、溝状凹部構造体の幅方向のピッチが100nm未満である場合は基板作製時の熱インプリント工程で凸部形状の転写が困難であるという問題があり、5μmを超えると細胞が凹部に広がってしまうおそれがある。
【0040】
また、凹凸構造がフラクタル構造またはフラクタル構造を含む構造またはフラクタル構造に類似した構造を含む構造からなるものであっても良い。
【0041】
また、上述した、疎水性および親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であっても良い。
【0042】
また、細胞組織化用基板の周縁端部から外側領域までの距離が10μm以上離間していることであっても良い。10μm以上離間していることによって基板作製時の熱インプリ
ント工程で作業性、成形性が良好になるというメリットがある。
【0043】
また、細胞組織化用基板の周縁端部に把持具により把持可能な切り欠き部が備えられていても良い。切り欠き部が備えられていることにより、ピンセットなどの把持具を用いて細胞組織化用基板を把持し易くなる。
【0044】
また、細胞組織化用基板の、ウェルの底面と対向する面に、細胞組織化用基板をウェルの底面から離間可能なスペーサが備えられていても良い。スペーサが備えられていていることにより、ピンセットなどの把持具を用いて細胞組織化基板をハンドリングし易くなる効果や細胞組織化基板とウェルの底面が増殖した細胞によって癒着することを回避し易くなる、というメリットがある。
【0045】
(細胞組織化基板)
細胞組織化基板3の材料としては、細胞の増殖などを阻害しない材料であれば特に限定する必要はない。例えば、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかであれば好適に使用することができる。
【0046】
(ウェル)
ウェル1は、図1に例示したように、マイクロプレート基材2に形成した凹部である。凹部の形状は特に限定されないが、その中に細胞増殖用の培養溶液を入れておき、細胞の増殖を行うことに使用される。そのため、安価に形成可能な単純な形状であればよい。例えば、平底を備えた小さな試験管のような凹部であればよい。
【0047】
(マイクロプレート基材)
マイクロプレート基材2は、板状の基材であり、その基材に複数のウェル1をマトリクス状に形成可能な厚さと機械的な強度を備えたものであれば特に限定されないが、形成されたウェル1の内壁面5と底面6には、細胞が付着し、接着して増殖を開始し難い性質を持っていることが望ましい。マイクロプレート基材2自身にそのような特性を備えていても良いし、ウェル1を形成後、内壁面5と底面6に、細胞が付着し、接着して増殖を開始し難い性質を持っている層を形成しても良い。
【0048】
マイクロプレート基材2の材料は、細胞の増殖などを阻害しない材料であれば特に限定する必要はない。例えば、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ガラス、シリコンの中から選ばれたいずれかを好適に使用することができる。
【0049】
(スペーサ)
スペーサ4は、細胞組織化用基板3の一方の面に配置して、細胞組織化用基板3をウェル1の底面6から浮かせる物品である。スペーサ4の材料は、細胞組織化用基板3と同じであっても良いし、細胞の組織化に何ら悪影響を与えない材料であり、スペーサとしての機能を果たせる機械的な強度や化学的な安定性を備えた材料であれば特に限定する必要はない。また、スペーサ4の形態としても、細胞組織化用基板3をウェル1の底面6から浮かせることができる高さまたは同じ厚さを備えた支持体であれば特に限定されない。
【0050】
(切り欠き部)
切り欠き部9は、細胞組織化用基板3の周縁部の対向する少なくとの2か所に形成されたピンセットのような把持具による細胞組織化用基板3の把持を容易にするために形成された把持容易化部である。図2(c)に例示したような細胞組織化用基板3の内側に向かって切り欠いた部分であっても良いし、細胞組織化用基板3の周縁部の内側に形成した穴または貫通孔であっても良い。あるいは、ピンセットのような把持具で把持可能な突起であっても良い。
【0051】
<細胞組織化用基板の製造方法>
次に、本発明の細胞組織化用基板の製造方法について説明する。
まず、シリコン基板上に、高アスペクト比のパターンを形成可能なネガ型感光性レジストSU-8をスピンコートし、プレベーク後に、マスクレス露光装置を用いてパターンを描画する。この描画するパターンは、細胞組織化用基板の外側領域に形成する凹凸構造を形成するパターンである。例えば、凹凸構造は、平面視、1つ1つは正方形の溝であり、一辺の長さ:5μm、深さ:10μm、ピッチ:10μmで、直径10mmの円の内側に、マトリクス状に形成し、円の中心から直径5mmの内側にはパターンを設けないことにより、直径5mmの内側領域と、内側領域の外側に直径10mmのドーナツ状の外側領域を形成することができる。また、溝ではなく、凸状の凹凸構造とすることもできる。
【0052】
次に、パターン描画後のシリコン基板を現像液に浸し、洗浄後にハードベークすることにより、凹凸パターンが施されたシリコン原版を作製する。
【0053】
次に、得られたシリコン原版に、スパッタ法によりニッケル導電層を100nmの厚さに形成する。この導電層は、続いて行う電解ニッケルめっきにおけるシード層となる。
【0054】
次に、前記シード層上に、電解メッキ法によってニッケルめっき膜を1200μmの厚さに形成する。
【0055】
次に、90℃に加熱した濃度が30重量%の水酸化カリウム水溶液を用いてウェットエッチングを行い、前記のニッケルめっきされたシリコン基板を完全に除去する。
以上より、ニッケルからなる凹凸パターン金型を作製することができる。
【0056】
次に、成形材料であるポリスチレンを、凹凸パターン金型と裏面足部金型(細胞組織化用基板のスペーサを形成する金型)の間に配置し、熱インプリント法によってポリスチレン樹脂からなるポリスチレン製凹凸パターンチップを得ることができる。
【0057】
次に、ポリスチレン製凹凸パターンチップの凹凸構造が形成された外側領域をプラズマ処理やコロナ放電処理などの親水処理を行うことで、疎水性の内側領域と親水性の外側領域を備えた本発明の細胞組織化用基板を得ることができる。
【0058】
<マイクロプレート>
次に本発明のマイクロプレートについて、図1図2を用いて説明する。
【0059】
[第1の実施形態]
本発明のマイクロプレート10は、板状のマイクロプレート基材2にマトリクス状に形成された複数の凹部であるウェル1を細胞培養容器として使用する部材である。
ウェルの底面6に、本発明の細胞組織化用基板3を備えている(図1(a)参照)。
【0060】
本発明の細胞組織化用基板3は、ウェルの底面6とは反対側の面が、細胞組織化用基板3の中央部側の内側領域8と、内側領域8の外側に配置された外側領域7と、を備えている。内側領域8は疎水性であり、外側領域7は親水性である。疎水性であることにより、培地中の細胞が内側領域8に接着し易くなる。また、親水性であることにより、培地中の細胞が外側領域7に接着し難くなる。
【0061】
外側領域の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていても良い。
【0062】
また、凹凸構造が、ピラー状凸部構造体であり、そのピラー状凸部構造体の、高さが100nm~20μmであり、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチが100nm~5μmであっても良い。
【0063】
また、凹凸構造が、溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、その溝状凹部構造体の、深さが100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチが100nm~5μmであっても良い。
【0064】
また、上述した、疎水性および親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であっても良い。
【0065】
また、細胞組織化用基板3の周縁端部から外側領域の外周端までが10μm以上離間いても良い。そのようにすることで、基板作製時の熱インプリント工程で作業性、成形性が良好になるというメリットがある。
【0066】
また、細胞組織化用基板3の周縁端部に、把持具により把持可能な切り欠き部を備えていても良い。このような切り欠き部を備えた細胞組織化用基板3とすることで、ウェル1の底部に配置されている細胞組織化用基板3を容易に取り出したり、挿入したりすることが可能となる。
【0067】
また、細胞組織化用基板3の、ウェルの底面6とは反対側の面に、細胞組織化用基板3をウェルの底面6から離間可能なスペーサ4が備えられていても良い。このようなスペーサ4を備えた細胞組織化用基板3とすることで、ウェル1の底部に配置されている細胞組織化用基板3を容易に取り出したり、挿入したりすることが可能となる。
【0068】
[第2の実施形態]
本発明のマイクロプレート10は、板状のマイクロプレート基材2にマトリクス状に形成された複数の凹部であるウェル1を細胞培養容器として使用する部材である。
【0069】
本発明のマイクロプレート10はウェルの底面6に、底面6の中央部側の内側領域8と、内側領域8の外側に配置された外側領域7と、を備えている。さらに、内側領域8は疎水性であり、外側領域7は親水性である。疎水性であることにより、培地中の細胞が内側領域8に接着し易くなる。また、親水性であることにより、培地中の細胞が外側領域7に接着し難くなる。
【0070】
外側領域7の表面には、親水性を発現可能な凹凸構造が形成されていても良い。
【0071】
また、凹凸構造が、ピラー状凸部構造体であり、そのピラー状凸部構造体の、高さが100nm~20μmであり、ピラー状凸部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、ピラー状凸部構造体の幅方向のピッチが100nm~5μmであっても良い。
【0072】
また、凹凸構造が、溝状凹部構造体であり、凹部が延伸する方向と直交する平面における断面形状が、円または楕円または矩形の一部からなる形状であり、その溝状凹部構造体のい、深さが100nm~20μmであり、溝状凹部構造体が延伸する方向と直交する方向の幅が100nm~5μmであり、溝状凹部構造体の幅方向のピッチが100nm~5
μmであっても良い。
【0073】
また、上述した、疎水性および親水性が、水を使用した液滴法による静的な接触角の測定により測定した接触角が、それぞれ、90°以上および90°未満であっても良い。
【0074】
また、ウェルの底面6がウェルの内壁面5と当接する部位から外側領域7の外周端までが10μm以上離間いても良い。そのようにすることで、基板作製時の熱インプリント工程で作業性、成形性が良好になるというメリットがある。
【0075】
<マイクロプレートの製造方法>
次に、本発明のマイクロプレートの製造方法について説明する。
本発明のマイクロプレート10は、板状の基材2にマトリクス状に形成された複数の凹部であるウェル1を細胞培養容器として使用する物品である。
そのような構造を備えた板状の基材2を得るためには、まず、ウェル1を形成可能な厚さを備えた板状の基材を用意する。その基材を構成する材料は、細胞培養容器として使用可能な材料であれば限定されない。例えば、疎水性の透明な樹脂材料を使用することができる。例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなどを挙げることができる。
【0076】
次に、その板状の基材に対して、底面が平面からなる凹部であるウェル1、すなわち、円柱状の空間を形成する。そのような凹部は、ボール盤に先端が平面になる加工が可能なドリルを使用して作製することができる。また、そのようなウェル1をマトリクス状の形成することもボール盤を使用して実施可能である。
【0077】
次に、細胞組織化用基板の製造方法で説明した凹凸パターン金型を用いて、ウェルの底面6に熱圧することによって、図1(b)に例示したような凹凸構造を備えた外側領域7と凹凸構造を備えていない内側領域8を形成することができる。
【0078】
また、本発明の細胞組織化用基板をウェルの底面6に接着しても良い。
【0079】
以上のようにして、本発明のマイクロプレートを製造することができる。
【符号の説明】
【0080】
1、1´・・・ウェル
2・・・板状の基材
3・・・細胞組織化用基板
4・・・スペーサ
5・・・(ウェルの)内壁面
6・・・(ウェルの)底面
7・・・内側領域
8・・・外側領域
9・・・切り欠き部
10、10´・・・マイクロプレート
図1
図2
図3
図4