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特開2022-117715情報処理装置、水資源管理方法、情報処理方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117715
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】情報処理装置、水資源管理方法、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220804BHJP
   G16Y 20/30 20200101ALI20220804BHJP
【FI】
G06Q50/10
G16Y20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014358
(22)【出願日】2021-02-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TENSORFLOW
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】矢野 伸二郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雅俊
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC11
(57)【要約】
【課題】従来の情報処理装置においては、従来、各対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することは困難であったという課題があった。
【解決手段】所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部151と、算定部151により取得された各メッシュに対応する水収支算定値と、各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成部255と、構成部255により構成された所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力部160と備える、情報処理装置1により、対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、前記各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成された、前記所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、前記各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部と、
前記算定部により取得された前記各メッシュに対応する水収支算定値と、前記各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成部と、
前記構成部により構成された前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力部と備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における水資源の循環状態を表す所定のパラメータの値と所定の閾値との比較結果に関する情報を含む、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記所定の閾値は、前記所定領域内の各地点における前記所定のパラメータの値の平均値に対応する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における有効降水量の値と前記所定領域の単位面積あたりの有効降水量との比較結果に関する情報を含む、請求項1から3のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における河川流量の値と前記所定領域の単位流域面積あたりの河川流量との比較結果に関する情報を含む、請求項1から4のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記所定領域の形を視覚的に表示するための地理情報を取得する地理情報取得部をさらに備え、
前記出力部は、前記地理情報に基づいて、前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を、前記所定領域の形と共に視覚的に出力する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記構成部は、1以上の各メッシュに対応する前記水資源の収支に関する観測データを取得し、前記算定部により取得された水収支算定値と、前記位置情報と、前記観測データとに基づいて、前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する、請求項1から6のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、前記水収支算定値に基づいて前記構成部により算出された所定のパラメータの値と、前記観測データに基づく前記所定のパラメータの値とを含む、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
所定領域における水資源を管理するための水資源管理方法であって、
前記所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いた請求項2から5のいずれかに記載の情報処理装置の前記出力部により出力された前記比較結果に関する情報を取得するステップと、
前記所定領域のうち、その地点の前記比較結果に関する情報が所定の条件を満たす地点に対応する一部の領域の支配要素の状態を変更するステップとを含む、水資源管理方法。
【請求項10】
算定部と、構成部と、出力部とにより実現される情報処理方法であって、
前記算定部が、所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、前記各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成された、前記所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、前記各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定ステップと、
前記構成部が、前記算定部により取得された前記各メッシュに対応する水収支算定値と、前記各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成ステップと、
前記構成部により構成された前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力ステップとを備える、情報処理方法。
【請求項11】
情報処理装置のプロセッサを、
所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、前記各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成された、前記所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、前記各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部と、
前記算定部により取得された前記各メッシュに対応する水収支算定値と、前記各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成部と、
前記構成部により構成された前記所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力部として機能させるための、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定範囲の空間的広がりを持つ空間における水資源を管理するために重要な地点を特定する情報処理装置、水資源管理方法、情報処理方法、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば工場等の施設を稼働させる際には、各施設単位や当該施設を含む流域単位など、一定範囲の空間的広がりを持つ地域の空間単位における水資源量を意識することが求められている。例えば、対象領域における水資源量をモニタリングし、モニタリング結果の分析を行ったうえで、分析結果を、生産活動、水資源の運用管理、又は水資源の保護活動等に活用することが行われている。このような活動については、時間スケールも考慮に入れた将来予測を行うことで、有効な将来計画を策定して適切な運用管理が遂行されようにすることが望ましい。
【0003】
すなわち、従来、例えば、工場等で生産活動が行われる場合において、生産される製品の種類にかかわらず、例えばボイラー用、原料用、製品処理用、機器洗浄用、機器冷却用、温度調節用機器洗浄水、などの用途で、水資源が大量に使用される。水資源を使用する施設としては、井戸を自己保有し取水している施設や、国や自治体などから購入した水道水や工業用水を使用している施設などがある。いずれの取水方法においても、その施設の周辺の流域内の水資源や、その近傍の水資源が利用される。
【0004】
施設を継続して稼働させることができるかどうかは、施設周辺の流域における水資源確保の持続可能性に左右される。水資源確保の持続可能性を高めるためには、施設における水資源利用の効率化だけではなく、施設周辺の流域における水資源への影響が小さくなるように施設の運用計画を立てることが重要となる。具体的には、例えば、施設の運用計画の策定にあたっては、河川の水位、地下水の水位、及び湧水量というような、水に関連した各種指標について注視することが必要となる。また、もしも、その施設周辺の流域内の水資源確保の持続可能性が低く見積もられる場合には、水資源を保護するために、例えば水田涵養活動や森林保全活動等の実施計画を立てる必要がある。
【0005】
ところで、ある広がりを持った一定範囲の地圏環境において、水の挙動を正確に把握するのは簡単ではない。水は、大気、地表さらには地下といった様々な系の間で、蒸発、蒸散、降雨、降雪、河川の流れ、浸透、地下水流動、湧出など様々な挙動を繰り返して、地下水として涵養され貯水されたり、その地域から流出したりしている。
【0006】
そのため、施設単位及び施設を含む流域単位において、水資源確保の持続性を確認するためには、当該流域内の水資源の収支を監視対象とする必要がある。そして、施設単位及び当該施設を含む流域単位における水資源の流動量、貯留量、及び変動量(以下、対象地域の水収支と呼ぶ)を適切に管理する必要がある。
【0007】
しかしながら、対象地域の水収支に関わる全てのパラメータを、流域内のすべての地点において把握することは現実的ではない。特に、山岳地域等のアクセスが困難な地点の涵養量や、地下水流動量のように直接に観測することが困難である量を管理対象とする場合に、これらの観測値を得ることはできないため、適切に管理を行うことは困難である。
【0008】
このような問題を背景として、従来、水資源管理を行うために水循環モデルが用いられることがある。このような水循環モデルには、いわゆる集中型モデルと分布型モデルとがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
集中型モデルは、計算に必要なデータ数が少なく、比較的簡単に計算でき、システム化が容易であるといった特徴がある。しかしながら、集中型モデルでは、水循環を再現したり予測したりする精度を高くすることが比較的難しい場合もある。
【0010】
一方、分布型モデルでは、対象とする空間を細かいメッシュに区切り、各メッシュでの水循環の物理則に従って水循環を再現することができる。そのため、現実の水循環に近い現象を比較的高精度に再現することができる。すなわち、分布型モデルは、施設における生産能力の管理等を行うことを目的とする場合に適している(非特許文献2及び非特許文献3参照)。このような分布型水循環モデルとして、例えば特許文献1や非特許文献4に記載されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011-13753号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】株式会社日水コン、“分布型洪水予測モデル | 株式会社日水コン-潤いある未来へ”、[online]、[2020年6月12日検索]、インターネット<URL:http://www.nissuicon.co.jp/jigyou/kasen/kouzui-yosoku/>
【非特許文献2】登坂博行,小島圭二,三木章生,千野剛司,地表流と地下水流を結合した3次元陸水シミュレーション手法の開発,地下水学会誌,1996,38巻,4号,p.253-267
【非特許文献3】森康二,多田和広,佐藤壮,柿澤展子,内山佳美,横山尚秀, 山根正伸,神奈川県水源エリアの3次元水循環モデル,神自環保セ報10(2013)215-223.
【非特許文献4】McDonald,Michael G.and Arlen W. Harbaugh.“A modular three-dimensional finite-difference ground-water flow model.” Techniques of water-resources investigations(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、施設単位及び施設を含む流域単位において、水資源を用いて、施設を利用した生産活動等を持続可能な態様で行うには、水資源の流動量、貯留量、及び変動量(以下、対象地域の水収支と呼ぶ)を適切に管理する必要がある。対象地域の水収支を適切に管理するためには、必要に応じて、対象地域における水資源の保全活動を行うことが必要になる場合がある。
【0014】
水資源の保全活動は、水収支に影響を及ぼす支配要素(例えば、下層植生、土壌、河床、樹木、表層地質、及び深層地質など)のそれぞれに関して、対象地域内の各地点において行われうる。しかしながら、保全活動のための労力、費用等の資源は限られており、全ての地点において保全活動を行うことは困難である。そのため、管理する水資源について重要な地点において優先的に保全活動を行うなど、効果的な保全活動を行って、効率的に水資源を管理することが必要とされている。
【0015】
従来、各対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することは困難であった。例えば、対象地域の現地調査を行うことで重要な地点がどこであるかを理解することが考えられるが、これには、多くの工数が必要となり、また、長い時間がかかる。
【0016】
本発明は、対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することができる情報処理装置、水資源管理方法、情報処理方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本第一の発明の情報処理装置は、所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成された、所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部と、算定部により取得された各メッシュに対応する水収支算定値と、各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成部と、構成部により構成された所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力部と備える、情報処理装置である。
【0018】
かかる構成により、対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することができる。
【0019】
また、本第二の発明の情報処理装置は、第一の発明に対して、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における水資源の循環状態を表す所定のパラメータの値と所定の閾値との比較結果に関する情報を含む、情報処理装置である。
【0020】
かかる構成により、重要な地点をより容易に特定することができる。
【0021】
また、本第三の発明の情報処理装置は、第二の発明に対して、所定の閾値は、所定領域内の各地点における所定のパラメータの値の平均値に対応する、情報処理装置である。
【0022】
かかる構成により、確実に重要な地点を特定することができる。
【0023】
また、本第四の発明の情報処理装置は、第一から三のいずれかの発明に対して、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における有効降水量の値と所定領域の単位面積あたりの有効降水量との比較結果に関する情報を含む、情報処理装置である。
【0024】
かかる構成により、所定領域における涵養量について重要な地点をより容易に特定することができる。
【0025】
また、本第五の発明の情報処理装置は、第一から四のいずれかの発明に対して、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、各地点における河川流量の値と所定領域の単位流域面積あたりの河川流量との比較結果に関する情報を含む、情報処理装置である。
【0026】
かかる構成により、所定領域における河川流量について重要な地点をより容易に特定することができる。
【0027】
また、本第六の発明の情報処理装置は、第一の発明に対して、所定領域の形を視覚的に表示するための地理情報を取得する地理情報取得部をさらに備え、出力部は、地理情報に基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を、所定領域の形と共に視覚的に出力する、情報処理装置である。
【0028】
かかる構成により、視覚的に表示された情報を利用して、重要な地点を容易に特定することができる。
【0029】
また、本第七の発明の情報処理装置は、第一から六のいずれかの発明に対して、構成部は、1以上の各メッシュに対応する水資源の収支に関する観測データを取得し、算定部により取得された水収支算定値と、位置情報と、観測データとに基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する、情報処理装置である。
【0030】
かかる構成により、観測データに基づいて、重要な地点を高い精度で特定することができる。
【0031】
また、本第八の発明の情報処理装置は、第七の発明に対して、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報は、水収支算定値に基づいて構成部により算出された所定のパラメータの値と、観測データに基づく所定のパラメータの値とを含む、情報処理装置である。
【0032】
かかる構成により、観測データに基づいて、重要な地点をより高い精度で特定することができる。
【0033】
また、本第九の発明の水資源管理方法は、第二から五のいずれかの発明に対して、所定領域における水資源を管理するための水資源管理方法であって、所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いた情報処理装置の出力部により出力された比較結果に関する情報を取得するステップと、所定領域のうち、その地点の比較結果に関する情報が所定の条件を満たす地点に対応する一部の領域の支配要素の状態を変更するステップとを含む、水資源管理方法である。
【0034】
かかる構成により、各対象地域において効果的な保全活動を行って、効率的に水資源を管理することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明による情報処理装置によれば、対象地域における水資源の保全活動を行う上で重要な地点を容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施の形態1における分布型水循環モデルの一例について説明する図
図2】同分布型水循環モデルの利用に関して説明するフローチャート
図3】同情報処理装置のブロック図
図4】同情報処理装置の高影響パラメータの抽出に関する動作を示すフローチャート
図5】同情報処理装置が行う抽出処理の一例を示すフローチャート
図6】同情報処理装置を用いた水資源管理方法を示すフローチャート
図7】本発明の実施の形態2に係る情報処理装置のブロック図
図8】同情報処理装置の地点情報の構成及び出力に関する動作を示すフローチャート
図9】同情報処理装置を用いた水資源管理方法を示すフローチャート
図10】上記実施の形態におけるコンピュータシステムの概観図
図11】同コンピュータシステムのブロック図
図12】実施例1における植生分布について説明する図
図13】本実施例における地質区分について説明する図
図14】本実施例における比流量とメッシュ平年値から推定した有効降水量の比較を示す図
図15】本実施例における透水係数の設定イメージを示す図
図16】本実施例における感度解析の結果を説明する図
図17】本実施例における管理施策の効果について説明する図
図18】本実施例における地点情報の表示例について説明する図
図19】実施例2について対象となる所定領域を示す図
図20】本実施例の主な検討ステップを示す図
図21】本実施例のモデル化および計算に用いた気象、地形、植生、土地利用、地質に関するデータを示す表
図22】構築した三次元数値モデルの鳥瞰図
図23】本実施例における湧水位置について説明する図
図24】本実施例における涵養量の空間分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、情報処理装置等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0038】
なお、以下において用いる用語は、一般的には次のように定義される。なお、これらの用語の語義は常にここに示されるように解釈されるべきではなく、例えば以下において個別に説明されている場合にはその説明も踏まえて解釈されるべきである。
【0039】
水資源とは、例えば、地下水、河川水、湖等の貯留水、湧水などをいうが、これに限られない。
【0040】
ある事項について識別子とは、当該事項を一意に示す文字又は符号等である。符号とは、例えば英数字やその他記号等であるが、これに限られない。識別子は、例えば、それ自体が特定の意味を示すものではない符号列であるが、対応する事項を識別しうる情報であれば種類は問わない。すなわち、識別子は、それが示すものそのものの名前であってもよいし、一意に対応するように符号を組み合わせたものであってもよい。2以上の情報(例えば、データベースに記録されているレコードの属性値など)の組合せが識別子として用いられてもよい。
【0041】
取得とは、ユーザ等により入力された事項を取得することを含んでいてもよいし、自装置又は他の装置に記憶されている情報(予め記憶されている情報であってもよいし当該装置において情報処理が行われることにより生成された情報であってもよい)を取得することを含んでいてもよい。他の装置に記憶されている情報を取得するとは、他の装置に記憶されている情報をAPI経由などで取得することを含んでいてもよいし、他の装置により提供されている文書ファイルの内容(ウェブページの内容なども含む)を取得することを含んでいてもよい。
【0042】
また、情報の取得には、いわゆる機械学習の手法を利用するようにしてもよい。機械学習の手法の利用については、例えば次のようにすることができる。すなわち、特定の種類の入力情報を入力とし、取得したい種類の出力情報を出力とする分類器を、機械学習の手法を用いて構成する。例えば、予め、入力情報と出力情報との組を2以上用意し、当該2組以上の情報を機械学習の分類器を構成するためのモジュールに与えて分類器を構成し、構成した分類器を格納部に蓄積する。なお、分類器は学習器ということもできる。なお、機械学習の手法としては、例えば、深層学習、ランダムフォレスト、SVR等、問わない。また、機械学習には、例えば、fastText、tinySVM、random forest、TensorFlow等の各種の機械学習フレームワークにおける関数や、種々の既存のライブラリを用いることができる。
【0043】
なお、分類器は、機械学習により得られるものに限られない。分類器は、例えば、入力情報等に基づく入力ベクトルと、出力情報との対応関係を示すテーブルであってもよい。この場合、入力情報に基づく特徴ベクトルに対応する出力情報をテーブル中から取得するようにしてもよいし、テーブル中の2以上の入力ベクトルと各入力ベクトルの重み付けなどを行うパラメータとを用いて入力情報に基づく特徴ベクトルに近似するベクトルを生成し、生成に用いた各入力ベクトルに対応する出力情報とパラメータとを用いて、最終的な出力情報を取得するようにしてもよい。また、分類器は、例えば、入力情報等に基づく入力ベクトルと、出力情報を生成するための情報との関係を表す関数などであってもよい。この場合、例えば、入力情報に基づく特徴ベクトルに対応する情報を関数により求めて、求めた情報を用いて出力情報を取得するなどしてもよい。
【0044】
情報を出力するとは、ディスプレイへの表示、プロジェクタを用いた投影、プリンタでの印字、音出力、外部の装置への送信、記録媒体への蓄積、他の処理装置や他のプログラムなどへの処理結果の引渡しなどを含む概念である。具体的には、例えば、情報のウェブページへの表示を可能とすることや、電子メール等として送信することや、印刷するための情報を出力することなどを含む。
【0045】
情報の受け付けとは、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力デバイスから入力された情報の受け付け、他の装置等から有線もしくは無線の通信回線を介して送信された情報の受信、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなどの記録媒体から読み出された情報の受け付けなどを含む概念である。
【0046】
(実施の形態1)
【0047】
本実施の形態において、情報処理装置は、一定範囲の空間的広がりを持つ空間単位における水資源の循環状態を再現する分布型水循環モデルによって水資源の流動量や貯留量変動量などを計算する機能を有している。情報処理装置は、分布型水循環モデルを構成する各パラメータのうち、水資源の流動量や貯留量変動量に影響度の高い高影響パラメータを抽出し、その高影響パラメータを識別する識別子を出力する。本実施の形態において、情報処理装置は、高影響パラメータの出力は、水資源の流動量や貯留量変動量などの水収支に影響が大きい順に、順位付けを行ったうえで行われることが好ましい。
【0048】
本実施の形態においては、水循環要素の観測データと観測データに相当する分布型水循環モデルの計算値との照合によって再現性が確認された分布型水循環モデルの入力パラメータの設定値を中心にして、各パラメータをそれぞれ変化させ、そのパラメータの変化によって目的とする地域の水資源に係る要素が変動する割合が大きい順にパラメータを抽出することが好ましい。この場合、例えば、各パラメータの値を所定率だけ変化させて一定比率以上変動するパラメータを抽出したり、各パラメータの値を取りうる範囲において変化させて一定比率以上変動するパラメータを抽出したりすることが考えられる。なお、抽出される高影響パラメータは、人間活動によって影響を及ぼすことができる要素に対応するものに限定されていることが好ましい。また、抽出される高影響パラメータは、対象地域において実際に人間の活動の影響が及ぶような要素に対応するものであることが好ましい。
【0049】
以下、このように構成された情報処理装置1について説明する。
【0050】
図1は、本発明の実施の形態1における分布型水循環モデルの一例について説明する図である。
【0051】
図1に示されるように、本実施の形態において、分布型水循環モデルは、森林、河川、その他の種類の土地が含まれる所定領域において、水資源の循環状態がモデル化されたものである。所定領域は、例えば、工場単位や工場を含む流域単位で設定されうるものである。すなわち、所定領域は、一定範囲の空間的広がりを持つ空間単位で設定されうるものである。本実施の形態において、分布型水循環モデルとしては、例えば、「GETFLOWS(登録商標)」や「MODFLOW」などの公知のモデルを採用することができ、本発明においては「GETFLOWS(登録商標)」がより好ましい。
【0052】
分布型水循環モデルは、所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成されている。分布型水循環モデルの各メッシュについて、パラメータの値が設定されていることにより、モデルにおける水資源の循環状態のシミュレーションを行うことが可能となっている。パラメータは、例えば気象、地表、浅層、及び深層などの要素に関連するもの(例えば、降水、気温、表土、堆積物、透水層など)や、その地点特有の性質等に関連するものなどが設定されうる。すなわち、パラメータは、水資源の循環状態に影響を及ぼす支配要素に関連するものであるということができる。本実施の形態においては、分布型水循環モデルを構成するパラメータ群には、降水量、蒸発散量、気温、風速、日照時間、相対湿度、樹冠被覆率、樹冠貯留量、リター被覆率、リター貯留量、積雪-融雪温度、アルベド、バルク輸送係数、土壌蒸発効率、地下水流れ、等価粗度係数、地下水流れ、透水係数、有効間隙率、固相圧縮率、相対浸透率、毛細管圧力、流体物性、流体密度、空気密度、流体の粘性係数、空気の粘性係数などのパラメータが含まれる。なお、パラメータはこれに限られず、種々設定されていればよい。なお、各メッシュの位置情報は、隣接するメッシュとの相対的な位置関係を示す情報であってもよいし、所定の座標系における位置を示す情報など、絶対的な位置を示す情報であってもよい。各メッシュに係る情報は、メッシュを識別するメッシュ識別子に、位置情報や、各パラメータの値などが対応付けられて構成されうるが、これに限られない。
【0053】
図2は、同分布型水循環モデルの利用に関して説明するフローチャートである。
【0054】
上記のような分布型水循環モデルを利用して、事業者等の利用者は、対象地域についての水収支に関する情報を把握することができる。分布型水循環モデルは、例えば、以下のような流れで利用することができる。
【0055】
(ステップS1)すなわち、まず、水収支に関する情報を把握するべき対象領域を決定する。具体的には、例えば水資源を利用する工場の周囲の水収支について把握する場合には、工場の上流の山林等の涵養域、その下流において工場が地下水や河川水を取水する領域、さらにはその下流の領域などが、対象領域として選択されうる。
【0056】
(ステップS2)対象領域について、地形、地質、植生等の情報を収集する。情報の収集については、踏査を行うこと、情報が記録された文献やデータベース等を調査することなど、種々の手法が採られうる。
【0057】
(ステップS3)収集した情報を用いて、対象領域を分布型水循環モデルとしてモデル化する。
【0058】
(ステップS4)作成した分布型水循環モデルについて、気象外力データを入力して、水収支を計算する。
【0059】
(ステップS5)観測データを用いて、モデルの再現性を確認する。また、情報収集とモデルの調整とを繰り返し、再現性を向上させる。なお、このような作業は、必要に応じて行うようにすればよい。
【0060】
(ステップS6)ここまでで利用可能な分布型水循環モデルが完成すると、対象地域の水収支を計算する。計算は、採用する分布型水循環モデルの構成により、公知の方法で計算機を用いて行うことができる。
【0061】
(ステップS7)所定期間の各パラメータ値を分布型水循環モデルに入力して、当該期間における水収支を積算して求める。
【0062】
(ステップS8)これにより、算定された水収支に関する情報(水収支算定値)を用いて、当該対象領域における所定期間の生産活動等について、計画することができる。
【0063】
なお、本実施の形態において、水収支算定値の算定は、後述するように、情報処理装置1の処理部140の算定部151により行うことができるが、これに限られない。
【0064】
なお、図2に示される分布型水循環モデルの利用方法は一例であり、分布型水循環モデルの構成や用途により、種々の変形が可能である。
【0065】
ここで、以下に説明するように、本実施の形態では、情報処理装置1を用いて、所定領域における水資源の水収支算定値に対して影響が大きい支配要素を特定することができる。すなわち、情報処理装置1を用いて、情報処理装置1から以下のように出力される高影響パラメータの識別子を取得し、所定領域において取得した識別子に対応する支配要素の状態を変更する活動を行うようにすることで、効果的に、所定領域における水資源を管理することができる。
【0066】
なお、本実施の形態において、水収支算定値は、所定領域における水資源の流動量、貯留量、又はこれらの変動量に関するものである。より具体的には、水収支算定値は、所定領域における地下水の流動量、貯留量、又はこれらの変動量に関するものとすることができる。すなわち、水収支とは、例えば、対象地域についての水資源の流動量、貯留量、及び変動量などを指す概念である。水収支算定値は、例えば、各メッシュにおいて算定されうるが、このような各メッシュにおける算定結果に基づいて特定の地点毎や一部の領域毎に算定されるようにしてもよい。
【0067】
例えば、地下水資源の管理を行う目的で、水資源の流動量として、水源保全のパラメータである涵養量に注目する場合がある。ここで涵養とは、主に地表から地下水面への水の供給をいい、涵養量とは、その水の供給量をいう。このように所定領域における地下水の涵養量に注目する場合、それに関して、地下水として涵養される水量や、特定のエリアへ地下水として流入する水量や、地下水位などを水収支算定値として算定し、把握することが行われうる。
【0068】
なお、水収支算定値はこれに限られず、水収支を把握する目的等に応じて、適宜、水資源に関する量について定義することができる。
【0069】
例えば、河川水などの地表水資源水の管理を行う目的で、渇水時の流量などに注目する場合がある。このような場合、湧水として地表に流出する水量や、河川水として河川に流出する水量や、林外雨に対する林内雨の量や、林外雨に対する水の流出率や、林内雨に対する水の流出率などを水収支算定値として算定し、把握することが行われうる。
【0070】
また、例えば、土壌水資源の管理を行う目的で、農業のための土壌水分量などに注目する場合がある。このような場合、土壌水として浸透する水量などを水収支算定値として算定し、把握することが行われうる。
【0071】
まず、情報処理装置1の構成について説明する。
【0072】
図3は、同情報処理装置1のブロック図である。
【0073】
図3に示されるように、情報処理装置1は、格納部110、受付部130、処理部140、及び出力部160を備える。情報処理装置1は、例えばパーソナルコンピュータであるが、これに限られず、サーバ装置や携帯情報端末などであってもよい。情報処理装置1は、1つのサーバにより構成されていてもよいし、互いに連携して動作する複数のサーバにより構成されていてもよいし、その他の機器に内蔵された電子計算機等であってもよい。なお、サーバは、いわゆるクラウドサーバでも、ASPサーバ等でもよく、その種類は問わない。
【0074】
格納部110は、モデル情報格納部111、観測データ格納部113、及び性質情報格納部117を備える。格納部110は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。格納部110の各部には、例えば受付部130により受け付けられた情報や処理部140によって取得された情報などが格納されるが、格納部110の各部に記憶される情報等や、その情報等が記憶される過程は、これに限られない。例えば、記録媒体を介して情報等が格納部110で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された情報等が格納部110で記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された情報等が格納部110で記憶されるようになってもよい。
【0075】
モデル情報格納部111には、分布型水循環モデルに関する情報が格納されている。分布型水循環モデルに関する情報には、例えば、モデルを構成する各メッシュに関する情報が含まれる。各メッシュについて適用されている各パラメータの値などが、モデル情報格納部111に記憶されている。また、各メッシュの位置を特定可能な情報などが、モデル情報格納部111に記憶されている。
【0076】
観測データ格納部113には、対象領域の各種パラメータに関する観測データが格納されている。観測データは、例えば、踏査により得られたデータや、観測機関等から取得したデータ等であるが、これらに限られない。各観測データは、例えば、対応するパラメータを識別する識別子に対応付けて格納されている。例えば、降水量に関する観測データは、降水量を示すパラメータの識別子に対応付けて格納されている。なお、水資源の収支に関する観測データは、水資源の収支についてのものであることを識別する識別子に対応付けて格納されていればよい。観測データは、例えば、観測地点に対応する位置情報と対応付けられているが、これに限られない。位置情報は、位置を示す情報であってもよいし、対応するメッシュを特定可能な情報であってもよい。また、観測データは、例えば、観測されたタイミングを示す時間情報と対応付けられているが、これに限られない。観測データとしては、例えば、地下水位や河川流量等、各パラメータについてのものに限られない。例えば、湧水地点の空間分布等、地理空間情報も含まれるようにしてもよい。
【0077】
性質情報格納部117には、分布型水循環モデルを構成するパラメータ群のうち、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するパラメータを特定する情報が格納されている。例えば、降水量は、作業者の活動に左右されない。一方で、有効降水量は、その地点における樹木の量や植生などの支配要素に応じて変化しうるので、間伐等の作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するパラメータであるといえる。このような、性質情報格納部117には、各パラメータについて、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するか否かなどを示すフラグ等が、当該パラメータを識別する識別子に対応付けて記録されている。なお、性質情報格納部117に記憶されている情報は、後述のように受付部130が受け付けたユーザ等の設定操作などに応じて記憶されているものであるが、これに限られない。例えば、予め定められて記憶されているものであってもよい。
【0078】
受付部130は、例えば、情報処理装置1に接続された入力手段を用いて入力された情報や、情報処理装置1に接続された読み取り装置(例えば、コードリーダなど)を用いて行われた入力操作(例えば、装置により読み取られた情報も含む)により入力された情報を受け付ける。受け付けられた情報は、例えば、格納部110に記憶される。受付部130により受付可能な情報の入力に用いられうる入力手段は、テンキーやキーボードやマウスやメニュー画面によるものなど、何でもよい。受付部130は、テンキーやキーボード等の入力手段のデバイスドライバーや、メニュー画面の制御ソフトウェア等で実現されうる。なお、受付部130は、例えば、マイクにより入力された音声などの情報を受け付けるようにしてもよい。
【0079】
本実施の形態において、受付部130は、ユーザによる、各パラメータについて、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するものであるか否かを指定する指定操作を受け付ける。すなわち、ユーザは、分布型水循環モデルを構成する各パラメータについて、所定領域において作業者の活動対象となりうるか否かを指定することができる。受付部130は、指定操作を受け付けると、当該パラメータを識別する識別子と、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するか否かなどを示すフラグ等とを対応付けて、性質情報格納部117に記憶する。ユーザは、例えば、所定領域について現地調査を行ったうえで、各パラメータについての上記性質に関する情報を指定することができる。
【0080】
処理部140は、通常、MPUやメモリ等から実現されうる。処理部140の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現してもよい。処理部140は、各種の処理を行う。各種の処理とは、例えば、以下のように処理部140の各部が行う処理である。
【0081】
本実施の形態において、処理部140は、抽出部141、算定部151、及び構成部155を備える。
【0082】
抽出部141は、予め決められた条件を満たすほど、水収支算定値に及ぼす影響が大きい高影響パラメータを抽出する。高影響パラメータは、分布型水循環モデルに用いられているパラメータ群から抽出される。高影響パラメータは、1つであっても、2以上であってもよい。
【0083】
ここで、予め決められた条件とは、種々の条件を設定可能である。本実施の形態においては、抽出部141は、例えば、各パラメータについて、感度解析の結果が所定の抽出条件を満たすものであるか否かを判断する。抽出条件としては、例えば、値の変動前後の水収支の算定値の比率が所定の閾値以上であることなどを適宜設定可能である。なお、抽出部141は、例えば、後述のような順位設定部1415による順位付けの結果に応じて、水収支算定値に及ぼす影響が高い順に、所定の数(例えば、1つであってもよいし、2以上の数であってもよい)の上位のパラメータを高影響パラメータとして抽出する。
【0084】
なお、本実施の形態において、抽出部141は、分布型水循環モデルを構成するパラメータ群のうち作業者の活動に応じて変化しうる性質を有すると判定したパラメータの中から、高影響パラメータを抽出する。抽出部141は、例えば、性質情報格納部117に格納されている情報に基づいて、各パラメータについて、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有すると判定可能である。すなわち、本実施の形態においては、抽出部141は、受付部130により受け付けられた指定操作により作業者の活動対象となりうると指定されたパラメータを、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するパラメータであるとして判定するように構成されている。なお、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するか否かの判定は、水収支算定値に及ぼす影響について後述のように各パラメータの感度分析を行った後で行われるようにしてもよい。また、各パラメータのうち、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するもののみを対象にして、水収支算定値に及ぼす影響について感度分析が行われるようにしてもよい。
【0085】
本実施の形態において、抽出部141は、各パラメータが水収支算定値に及ぼす影響に関する感度分析を行うことにより、高影響パラメータを抽出する。感度分析は、各パラメータの値を変化させて算定部151に水収支算定値を取得させることにより行われる。
【0086】
抽出部141は、パラメータ設定部1411、変化後算定部1412、及び順位設定部1415を備える。
【0087】
パラメータ設定部1411は、1以上のパラメータに関する観測データを、観測データ格納部113から取得する。また、パラメータ設定部1411は、水資源の収支に関する観測データを、観測データ格納部113から取得する。パラメータ設定部1411は、パラメータや水収支を識別する識別子を用いて、対応する観測データを取得することができる。
【0088】
パラメータ設定部1411は、取得した観測データに対応する各パラメータの値とその他のパラメータの値とを用いて処理部140で算定される水収支算定値が、取得した水資源の収支に関する観測データに対応するように、各パラメータの値を設定する。すなわち、パラメータ設定部1411は、各パラメータの値を、観測データに照らして合理的な値となるように設定する。例えば、対応する観測データがあるパラメータについては、当該観測データに対応する値が設定されればよく、その他のパラメータの値は、水収支の観測データと水収支算定値との差が所定値内となるように、例えばニュートン法などの解析方法を用いて、当該パラメータの取りうる値の範囲内において設定されればよい。
【0089】
変化後算定部1412は、各パラメータについて、パラメータ設定部1411が設定したパラメータの値を変化させて、水収支を算定する。これにより算定される水収支の算定値を、変化後算定値と呼ぶ。すなわち、変化後算定部1412は、変化後算定値を取得する。
【0090】
本実施の形態において、変化後算定部1412は、各パラメータについて、パラメータ設定部1411が設定したパラメータの値を所定率だけ変化させて変化後算定値を取得する。具体的には、例えば、一のパラメータについて、設定された値を1パーセントだけ増加又は減少させて、変化後の値を用いて、変化後算定値を算定する。なお、変化させる割合はこれに限られない。また、各パラメータについて予め設定された変化量を設定値に加減することにより、変化後算定値の算定に用いる値を得るようにしてもよい。
【0091】
抽出部141は、各パラメータについて、変化後算定部1412が算定した変化後算定値に基づいて、高影響パラメータを抽出する。本実施の形態においては、抽出部141は、各パラメータについて、パラメータ設定部1411が設定したパラメータ群を用いて水収支算定値を取得する。そして、取得した水収支算定値と、変化後算定部1412が算定した変化後算定値との差を求める。求めた差が、所定の閾値以上である場合には、当該パラメータを高影響パラメータとして抽出する。なお、抽出部141は、水収支算定値と変化後算定値との比率が所定の閾値以上である場合に、当該パラメータを高影響パラメータとして抽出するようにしてもよい。
【0092】
ここで、本実施の形態において、順位設定部1415は、例えば、各パラメータについて求めた水収支算定値と変化後算定値との差をパラメータ間で比較し、高影響パラメータの順位付けを行う。すなわち、水収支算定値と変化後算定値との差が大きい(感度が高い)ほど、水収支算定値への影響が大きいパラメータであるとして、上位に順位付けされる。これにより、抽出部141は、抽出する各高影響パラメータが水収支算定値に及ぼす影響が高い順に高影響パラメータの順位付けを行う。なお、各パラメータを高影響パラメータとして抽出したか否かを示す情報(例えば、フラグ)や、順位設定部1415による順位付けが行われた結果を示す情報などは、当該パラメータを識別する識別子等と対応付けられて、格納部110に記憶されるようにすればよい。
【0093】
抽出部141は、各パラメータについてこのような値を変動させて感度分析を行うことで、予め決められた条件を満たすほど、水収支算定値に及ぼす影響が大きい高影響パラメータ、すなわち水収支に対して応答性が高いパラメータを抽出することができる。感度分析は、パラメータ設定部1411が設定した値から変動させた値を用いて行われるので、当該パラメータが実際にとる可能性が高いと考えられる値の近傍における、当該パラメータの感度を確認することができる。
【0094】
なお、抽出部141は、例えば以下のようにして高影響パラメータの抽出を行うようにしてもよい。すなわち、変化後算定部1412は、各パラメータについて、パラメータ設定部1411が設定した当該パラメータの値を、取りうる範囲の最大値と最小値とのそれぞれに変化させて、2つの変化後算定値を取得するようにしてもよい。この場合、抽出部141は、各パラメータについて、2つの変化後算定値の差又は比率が所定の閾値以上である場合に、当該パラメータを高影響パラメータとして抽出するようにしてもよい。具体的には、例えば、2つの変化後算定値の比率が1パーセント以上である場合に、当該パラメータを高影響パラメータとして抽出することができるが、閾値や、2つの変化後算定値を用いた判定方法は、これに限られない。また、例えば、パラメータの取りうる最大値と最小値とのいずれか一方を用いて算出した変化後算定値と、パラメータ設定部1411が設定したパラメータ群を用いて得た水収支算定値とに基づいて、感度分析を行うようにしてもよい。
【0095】
算定部151は、分布型水循環モデルを用いて、適用されたパラメータ群の値に基づいて、水収支算定値を取得する。
【0096】
構成部155は、算定部151が水収支算定値を取得した場合に、その水収支算定値を用いて出力データを構成する。
【0097】
また、本実施の形態において、構成部155は、上述のように抽出部141が高影響パラメータを抽出した場合に、当該高影響パラメータを識別する識別子を用いて出力データを構成する。高影響パラメータを識別する識別子としては各パラメータに対応付けられた符号などであってもよいし、当該パラメータの名称そのものなどであってもよい。なお、構成部155は、順位設定部1415による順位付け結果に応じた順番(例えば、高い順番)に各高影響パラメータの識別子をソートして出力データを構成するようにしてもよい。
【0098】
出力部160は、本実施の形態において、例えば情報処理装置1に設けられたディスプレイデバイスに情報を表示することなどにより情報を出力する。本実施の形態において、出力部160は、例えば、構成部155により構成された出力データを出力する。すなわち、出力部160は、水収支算定値が取得された場合に、その水収支算定値を出力可能である。また、本実施の形態において、高影響パラメータが抽出された場合に、出力部160は、抽出された高影響パラメータを識別する識別子を出力する。このとき、出力部160は、順位付けの結果に応じて、識別子の出力を行う。なお、順位付けの結果に応じて出力するとは、順位を示す情報と識別子を対応付けて出力することであってもよいし、上述のように順位付けの結果に応じた順番にソートされた識別子を出力することであってもよい。また、高い順位の識別子から順に順次出力することや、低い順位の識別子から順に順次出力することであってもよい。
【0099】
なお、出力部160は、例えば、図示しない送信部等を用いて、ネットワーク等を介して他の装置に情報を送信することにより情報を出力するように構成されていてもよい。出力部160は、ディスプレイやスピーカー等の出力デバイスを含むと考えても含まないと考えてもよい。出力部160は、出力デバイスのドライバーソフト又は、出力デバイスのドライバーソフトと出力デバイス等で実現されうる。
【0100】
本実施の形態において、抽出部141による、各パラメータについての作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するか否かの判定は、例えば以下のように行われてもよい。すなわち、例えば、抽出部141は、各場所において、地表から所定の深さの地点よりも上部にある要素に関するパラメータを、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するパラメータであるとして判定するように構成されていてもよい。例えば、予め当該パラメータについて作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するものであるとの情報を対応付けて性質情報格納部117等に格納しておくことにより、抽出部141がこのように判定を行うことが可能となる。これにより、情報処理装置1のユーザは、実際に作業者による活動により影響を及ぼしやすい支配要素に対応するパラメータについて、高影響パラメータであることを示す情報を得ることができる。
【0101】
次に、情報処理装置1が行う、高影響パラメータの抽出に関する動作の流れの一例について説明する。
【0102】
図4は、同情報処理装置1の高影響パラメータの抽出に関する動作を示すフローチャートである。
【0103】
(ステップS11)処理部140は、分布型水循環モデルのパラメータ群のうち、作業者の活動に応じて変化しうる性質を有すると判定したパラメータを特定する。これは、上述のように、例えば性質情報格納部117に格納されている情報に基づいておこなうことができる。特定されたパラメータが、感度分析の対象となる。
【0104】
(ステップS12)処理部140は、特定されたパラメータについて感度分析を行い、高影響パラメータを抽出する処理を行う。抽出処理の流れについては、後述する。
【0105】
(ステップS13)処理部140は、抽出された高影響パラメータについて順位付けを行う。
【0106】
(ステップS14)所定部140は、抽出された高影響パラメータを識別する識別子を含む出力データを構成する。構成は、順位付け結果を用いて行われるが、これに限られない。また、出力部160は、出力データの出力を行う。これにより、高影響パラメータを識別する識別子が出力される。その後、一連の処理が終了する。
【0107】
図5は、同情報処理装置1が行う抽出処理の一例を示すフローチャートである。
【0108】
(ステップS21)処理部140は、カウンタiにゼロをセットする。
【0109】
(ステップS22)処理部140は、カウンタiをインクリメントする。
【0110】
(ステップS23)処理部140は、感度分析を行うi番目のパラメータを選択する。
【0111】
(ステップS24)処理部140は、選択したパラメータの取りうる値の幅を取得する。
【0112】
(ステップS25)処理部140は、選択したパラメータの値を変動させて感度解析を実施する。
【0113】
(ステップS26)処理部140は、感度解析の結果が、所定の抽出条件を満たすものであるか否かを判断する。抽出条件としては、例えば、上述のように、変動前後の水収支の算定値の比率が所定の閾値以上であることなどを設定することができる。抽出条件が満たされる場合にはステップS27に進み、そうでない場合にはステップS28に進む。
【0114】
(ステップS27)処理部140は、選択しているパラメータを抽出対象としてセットする。すなわち、処理部140は、選択しているパラメータが高影響パラメータとして抽出されるようにする。
【0115】
(ステップS28)処理部140は、カウンタiが、感度分析を行うパラメータの総数に一致するか否かを判断する。一致する場合には抽出処理が終了する。一致しない場合には、ステップS22に戻る。
【0116】
なお、図4に示される例においては、情報処理装置1は、感度分析の対象となるパラメータの特定が行われた後に感度分析が行われるが、これに限られない。例えば、抽出処理が行われた後に、高影響パラメータとして最終的に出力されうるパラメータが作業者の活動に応じて変化しうる性質を有するものに限定されるようにしてもよい。また、順位付け処理は、抽出処理の過程で行われてもよい。この場合、抽出条件として、順位付けの結果に関するものが設定されていてもよい。
【0117】
以上説明したように、本実施の形態では、情報処理装置1は、各パラメータについて感度分析を行い、予め決められた条件を満たすほど水収支算定値に対する影響が大きい高影響パラメータを特定してその識別子を出力することができる。したがって、情報処理装置1のユーザは、情報処理装置1を用いて、所定領域における水資源を管理する水資源管理方法を使用することができる。
【0118】
図6は、同情報処理装置1を用いた水資源管理方法を示すフローチャートである。
【0119】
(ステップS51)まず、上述のようにして、対象となる所定領域について、分布型水循環モデルのモデル化を行う。
【0120】
(ステップS52)分布型水循環モデルを用いて、算定部151により水収支算定値を取得させたり、観測データを取得させたりし、所定領域における水循環の状況を把握する。
【0121】
(ステップS53)情報処理装置1において上述のような処理を実行させて、出力部160により出力された高影響パラメータの識別子を取得する。これにより、所定領域における水資源の水収支算定値に対して影響が大きい支配要素を特定することができる。
【0122】
(ステップS54)所定領域において、取得した識別子に対応する支配要素の状態を変更する活動を実行する。これにより、高影響パラメータに関する値が実質的に変更されることとなる。すなわち、ステップS53及びステップS54の工程により、水資源の管理を行うことができる。
【0123】
(ステップS55)支配要素の状態を変更したことによる効果を確認する。例えば、ステップS52と同じように、水収支算定値の取得や観測データの取得を行って、ステップS54の活動後の水資源に関する変化を確認する。
【0124】
このように、情報処理装置1を用いることにより、所定領域において水収支に与える影響が大きい高影響パラメータに対応する支配要素を容易に特定することができる。したがって、水資源の管理を行う場合には、支配要素の状態を変更する活動を行うようことで、効果的に、所定領域における水資源を管理することができる。
【0125】
なお、本実施の形態における処理は、ソフトウェアで実現してもよい。そして、このソフトウェアをソフトウェアダウンロード等により配布してもよい。また、このソフトウェアをCD-ROMなどの記録媒体に記録して流布してもよい。なお、本実施の形態における、情報処理装置1を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、情報処理装置1のコンピュータで実行されるプログラムであって、情報処理装置1のプロセッサを、2以上のパラメータを含むパラメータ群を用いて構成され所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、各パラメータについて適用された値に基づいて、当該所定領域における水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部と、各パラメータを変化させて算定部に水収支算定値を取得させることにより各パラメータが水収支算定値に及ぼす影響に関する感度分析を行って、予め決められた条件を満たすほど、水収支算定値に及ぼす影響が大きい高影響パラメータを抽出する抽出部と、抽出部により抽出された高影響パラメータを識別する識別子を出力する出力部として機能させるための、プログラムである。
【0126】
(実施の形態2)
【0127】
実施の形態2の概要を、上述の実施の形態1とは異なる部分について説明する。実施の形態2では、実施の形態1と同様に、分布型水循環モデルを用いて水収支算定値を算定可能な情報処理装置201が用いられる。情報処理装置201は、各メッシュに対応する水収支算定値を用いて、地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力可能に構成されている。
【0128】
また、実施の形態2においては、情報処理装置201は、分布型水循環モデルによって格子間の水資源の循環状態を再現し、計算結果を各格子の位置情報と連結し、地理情報として表示することによって空間分布を可視化することにより、水資源管理にとって重要な地点を特定することができるように構成されている。以下、このような情報処理装置201について説明する。
【0129】
図7は、本発明の実施の形態2に係る情報処理装置201のブロック図である。
【0130】
図7に示されるように、情報処理装置201は、格納部110、受付部130、処理部240、出力部160を備える。本実施の形態において、処理部240は、抽出部141及び算定部151のほか、構成部255と、地理情報取得部257とを有している。そのほかの処理部240の基本的な構成は、実施の形態1にかかる処理部140と同様である。
【0131】
実施の形態2において、構成部255は、算定部151により取得された各メッシュに対応する水収支算定値と、各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報(以下、地点情報ということがある)を、出力データとして構成する。本実施の形態においては、地点情報は、各メッシュの位置情報と水収支算定値とが対応付けられた情報である。すなわち、地点情報は、例えば、所定領域の多数のメッシュのそれぞれについての位置情報と、それに対応する水収支算定値とを含む。このような地点情報は、所定領域における水収支算定値の空間分布を示す情報であるといえる。なお、地点情報は、各メッシュの情報を含むものに限られず、メッシュの分割よりも大きく分割された各地点の情報を含むものであってもよい。このような地点情報も、各メッシュの位置情報と水収支算定値とに基づいて各地点の情報を構成部255が算出するように構成されていてもよい。
【0132】
本実施の形態において、地点情報としては、種々の水収支に関する空間分布を表すものとすることができる。例えば、土壌水として浸透する水の量の空間分布や、地下水として涵養される水の量の空間分布や、特定のエリアへ地下水として流入する水の量の空間分布や、湧水として地表に流出する水の量の空間分布や、河川水として河川に流出する水の量の空間分布など、種々の情報とすることができる。
【0133】
地理情報取得部257は、所定領域の形を視覚的に表示するための地理情報を取得する。地理情報は、例えば地図を表示するための情報である。地理情報は、所定領域の2次元地図画像や航空写真、衛星写真等であってもよいし、所定領域の形状を所定のソフトウェアによりレンダリングして表すための描画情報であってもよい。描画情報は、2次元画像を表すものであってもよいし、3次元形状を描画可能にする情報であってもよい。地理情報は、例えば、格納部110に予め格納されている情報であるが、これに限られない。例えば、地理情報取得部257は、情報処理装置1と通信可能な外部のサーバ等から送信された地理情報を取得可能に構成されていてもよい。
【0134】
出力部160は、実施の形態2において、構成部255により構成された地点情報を出力する。本実施の形態においては、出力部160は、地理情報取得部257により取得された地理情報に基づいて、地点情報を、地理情報に対応する所定領域の形と共に、ユーザが視覚的に確認できるように出力する。視覚的に確認できるように出力するとは、例えばディスプレイ等へ表示することであるが、これに限られず、用紙等への画像形成、他の装置において表示や画像形成を行うための情報の送信等などであってもよい。ユーザは、出力部160により地点情報を視覚的に確認することにより、水収支の空間分布を容易に把握することができる。なお、出力部160は、地理情報を用いずに、地点情報を出力するようにしてもよい。地点情報においては各地点の位置情報と水収支算定値とが対応付けられた情報が含まれるため、この場合でも、ユーザは、水収支の空間分布を容易に把握することができる。なお、この場合でも、出力部160が、各地点の位置情報に基づいて、水収支算定値を視覚的に分布状況を確認できるように構成されていてもよい。
【0135】
なお、地点情報の出力にあたっては、各地点の水収支算定値の大きさ等に応じて、地点毎に異なる態様で種々の表示が表れるようにすることが好ましい。地点毎に異なる態様で表れるものには、例えば、色相や濃淡が水収支算定値の大きさ等に応じて異なるようなヒートマップ様のものや、水収支算定値を数値等で示す場合のフォントの大きさやウエイトが水収支算定値の大きさ等に応じて異なるものや、水収支算定値を棒グラフ等で示すものなど、種々のものが該当しうる。このような表示態様で地点情報が出力されるようにすることにより、ユーザは、水収支の空間分布をより直感的に把握することができる。
【0136】
ここで、本実施の形態においては、構成部255は、1以上の各メッシュに対応する水資源の収支に関する観測データを取得し、算定部151により取得された水収支算定値と、位置情報と、観測データとに基づいて、地点情報を構成するようにしてもよい。この場合、水収支算定値に基づいて構成部255により算出された所定のパラメータの値と、観測データに基づく所定のパラメータの値とが地点情報に含まれるようにしてもよい。
【0137】
このように観測データに基づいて地点情報を構成する場合、例えば、観測データがある地点については、水収支算定値よりも確かな観測データが出力されるようにすることにより、ユーザは、より高精度な水収支の空間分布を把握することができる。また、この場合、観測データがある地点については、水収支算定値と観測データとが互いに対応付けられて出力されるようにしてもよい。これにより、ユーザは、分布型水循環モデルの再現性がどの程度のものであるかを容易に確認し、地点情報を利用するにあたって参考にすることができる。
【0138】
このように、本実施の形態においては、ユーザは、地点情報を用いて、所定領域における水収支の空間分布を容易に把握することができる。所定領域の各地点について、他の地点との水収支の差を確認することにより、所定領域における水資源の管理施策を検討するにあたって、注目するべき地点を容易に決定することができる。
【0139】
なお、構成部255は、各地点における水資源の循環状態を表す所定のパラメータの値と所定の閾値との比較結果に関する情報を地点情報に含ませるように構成されていてもよい。ここで、所定のパラメータの値は、水収支算定値や水収支算定値を集計した値であってもよいし、その他のパラメータの値であってもよい。例えば、構成部255は、メッシュ毎に、水収支算定値と所定の閾値とを比較し、その比較結果を当該メッシュに対応する位置情報と対応付けることにより、地点情報を構成するようにしてもよい。このような地点情報が出力部160により出力されることにより、ユーザは、水収支算定値が閾値を超えている地点(又は閾値を下回っている地点)の空間分布を容易に把握することができる。目的に応じて閾値を的確に設定することにより、ユーザは、所定領域における水資源の管理施策を検討するにあたって、注目するべき地点を容易に決定することができる。なお、この場合も、比較結果が所定の条件を満たす場合(正の値である場合、負の値である場合など)や、比較結果の大きさ程度に応じて、各地点に関する表示態様が異なるようにすることが好ましい。
【0140】
ここで、所定の閾値は、例えば、所定領域内の各地点における所定のパラメータの値の平均値に対応する値としてもよい。
【0141】
例えば、地点情報は、各地点における有効降水量の値と、所定領域の単位面積あたりの有効降水量(すなわち、各地点の有効降水量の平均値)との比較結果に関する情報が表されるものであってもよい。この場合、有効降水量の値が平均値を超えている場所を、涵養量の管理などを行うにあたって重要な地点であるとしてユーザに注目させることができる。
【0142】
また、例えば、地点情報は、各地点における河川流量の値と、所定領域の単位流域面積あたりの河川流量(すなわち、河川の各地点における河川流量の平均値)との比較結果に関する情報が表されるものであってもよい。この場合、河川流量の値が平均値を超えている場所を、河川流量の管理を行うにあたって重要な地点であるとしてユーザに注目させることができる。
【0143】
次に、情報処理装置201が行う、地点情報の構成及び出力に関する動作の流れの一例について説明する。
【0144】
図8は、同情報処理装置201の地点情報の構成及び出力に関する動作を示すフローチャートである。
【0145】
(ステップS211)処理部140は、分布型水循環モデルを用いて、各メッシュの水収支算定値を取得する。
【0146】
(ステップS212)処理部140は、各メッシュについて水収支算定値と所定の閾値とを比較し、比較結果と当該メッシュの位置情報とを対応付けて地点情報を構成する。構成した地点情報は、例えば、格納部110に記憶されればよい。
【0147】
(ステップS213)地理情報取得部257は、格納部110から地理情報を取得する。
【0148】
(ステップS214)出力部160は、格納部110に格納されている地点情報を取得し、地理情報と共に、ディスプレイに出力する。その後、一連の処理が終了する。
【0149】
以上説明したように、本実施の形態では、情報処理装置201は、各地点の水収支算定値やその比較結果を含む地点情報を出力することができる。したがって、情報処理装置201のユーザは、情報処理装置201を用いて、例えば以下のように、所定領域における水資源を管理する水資源管理方法を使用することができる。
【0150】
図9は、同情報処理装置201を用いた水資源管理方法を示すフローチャートである。
【0151】
(ステップS251)まず、上述のようにして、対象となる所定領域について、分布型水循環モデルのモデル化を行う。
【0152】
(ステップS252)分布型水循環モデルを用いて、算定部151により水収支算定値を取得させる。
【0153】
(ステップS253)情報処理装置201において上述のような処理を実行させて、出力部160により、各地点の水収支算定値と所定の閾値との比較結果をディスプレイ等に出力させる。これにより、ユーザは、所定領域における水資源の管理を行う上で注目すべき重要な地点を把握することができる。
【0154】
(ステップS254)所定領域において、その地点の比較結果に関する情報が所定の条件を満たすような地点に対応する一部の領域の支配要素の状態を変更する活動を実行する。例えば、他の地点とは比較結果が異なる(所定の条件を満たすことの一例)ような、特定の地点の周囲の領域(一部の領域の一例)において、当該特定の地点の水収支算定値に影響を及ぼす支配要素の状態を変更する。これにより、特定の地点の水収支算定値が変化することとなる。すなわち、ステップS252からステップS254の工程により、水資源の管理を行うことができる。
【0155】
(ステップS255)その後、支配要素の状態を変更したことによる効果を確認する。例えば、ステップS252及びステップS253の処理を再度行ったり特定の地点の観測データを取得したりし、ステップS254の活動後の水資源に関する変化を確認する。
【0156】
このように、情報処理装置1を用いることにより、所定領域における水収支の空間分布を容易に把握することができる。したがって、水資源の管理を行う場合には、注目すべき地点の水収支に影響を及ぼす支配要素の状態を変更する活動を行うことで、効果的に、所定領域における水資源を管理することができる。
【0157】
なお、本実施の形態における処理は、ソフトウェアで実現してもよい。そして、このソフトウェアをソフトウェアダウンロード等により配布してもよい。また、このソフトウェアをCD-ROMなどの記録媒体に記録して流布してもよい。なお、本実施の形態における、情報処理装置201を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、情報処理装置201のコンピュータで実行されるプログラムであって、情報処理装置201のコンピュータを、所定領域を格子状に分割してなる多数のメッシュであってそれぞれ位置を特定する位置情報に対応付けられている多数のメッシュと、各メッシュに適用される2以上のパラメータを含むパラメータ群とを用いて構成された、所定領域における水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用いて、各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得する算定部と、算定部により取得された各メッシュに対応する水収支算定値と、各メッシュに対応する位置情報とに基づいて、所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を構成する構成部と、構成部により構成された所定領域内の地点毎の水資源の循環状態に関する情報を出力する出力部として機能させるための、プログラムである。
【0158】
(その他)
【0159】
図10は、上記実施の形態におけるコンピュータシステム800の概観図である。図11は、同コンピュータシステム800のブロック図である。
【0160】
これらの図においては、本明細書で述べたプログラムを実行して、上述した実施の形態の情報処理装置1等を実現するコンピュータの構成が示されている。上述の実施の形態は、コンピュータハードウェア及びその上で実行されるコンピュータプログラムで実現されうる。
【0161】
コンピュータシステム800は、CD-ROMドライブを含むコンピュータ801と、キーボード802と、マウス803と、モニタ804とを含む。
【0162】
コンピュータ801は、CD-ROMドライブ8012に加えて、MPU8013と、CD-ROMドライブ8012等に接続されたバス8014と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM8015と、MPU8013に接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶するとともに一時記憶空間を提供するためのRAM8016と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、及びデータを記憶するためのハードディスク8017とを含む。ここでは、図示しないが、コンピュータ801は、さらに、LANへの接続を提供するネットワークカードを含んでもよい。
【0163】
コンピュータシステム800に、上述した実施の形態の情報処理装置等の機能を実行させるプログラムは、CD-ROM8101に記憶されて、CD-ROMドライブ8012に挿入され、さらにハードディスク8017に転送されてもよい。これに代えて、プログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ801に送信され、ハードディスク8017に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM8016にロードされる。プログラムは、CD-ROM8101またはネットワークから直接、ロードされてもよい。
【0164】
プログラムは、コンピュータ801に、上述した実施の形態の情報処理装置等の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティープログラム等を、必ずしも含まなくてもよい。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいればよい。コンピュータシステム800がどのように動作するかは周知であり、詳細な説明は省略する。
【0165】
なお、上記プログラムにおいて、情報を送信する送信ステップや、情報を受信する受信ステップなどでは、ハードウェアによって行われる処理、例えば、送信ステップにおけるモデムやインターフェースカードなどで行われる処理(ハードウェアでしか行われない処理)は含まれない。
【0166】
また、上記プログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0167】
また、上記実施の形態において、一の装置に存在する2以上の構成要素は、物理的に一の媒体で実現されてもよい。
【0168】
また、上記実施の形態において、各処理(各機能)は、単一の装置(システム)によって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置によって分散処理されることによって実現されてもよい(この場合、分散処理を行う複数の装置により構成されるシステム全体を1つの「装置」として把握することが可能である)。
【0169】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、又は、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0170】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、又は長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、又は、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、又は、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0171】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、又は、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。また、上述においてフローチャートで示された処理や手順において、ステップの追加、削除、変形、順序変更等、種々の変形が行われてもよい。
【0172】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものである。また、上述の実施の形態のうち、一部の構成要素や機能が省略されていてもよい。
【0173】
上述の複数の実施の形態を適宜組み合わせた実施の形態を構成してもよい。例えば、上述の実施の形態の構成そのものに限られず、上述の実施の形態のそれぞれの構成要素について、適宜、他の実施の形態の構成要素と置換したり組み合わせたりしてもよい。また、上述の実施の形態のうち、一部の構成要素や機能が省略されていてもよい。例えば、実施の形態2において、実施の形態1と同様に、高影響パラメータの識別子を出力可能にしてもよい。
【実施例0174】
以下、実験例1を示して本発明の一実施例について詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0175】
この実施例1では、一定範囲の空間的広がりを持つ空間単位における水資源の循環状態を再現する水循環モデルを作成し、水資源の素過程のうち地下水涵養量の管理指標を設定したうえで、指標を管理することによる効果が確認されたことを示している。
【0176】
対象とした地域は、岐阜県内の所定領域である。この領域において、水資源の素過程のうち地下水涵養量の管理指標の設定と、指標の管理による効果確認を行った。
【0177】
まず、分布型水循環モデルの作成を行った。地圏環境テクノロジーが構築した国土水循環モデルから岐阜県南東部の約250ha、および約374haを含む領域を抽出し、100mに平面格子を細分化した。対象期間は2011年から2015年までの5年間とした。なお2011年の1年間は定常状態(バックグラウンド解析)から非定常状態(現況再現解析)へ移行するための助走期間とした。
【0178】
当該地域の平均的な気象条件を与えた平衡状態のものに、非定常解析を実施した。計算結果から、対象領域の水循環の再現結果および地域の水源特性を表す諸量を抽出した。
【0179】
計算条件は、以下のとおりである。
【0180】
降水について、バックグラウンド解析では、時間変化を考慮しない一定の降水量を用いた。対象領域内の空間分布は、メッシュ平年値2010より水平解像度1kmの多年の日平均降水量を用いた。計算上の取り扱いは、後述する蒸発散量を降水量から差し引いた有効降水量を求め、地表層格子に割り当てるというものである。現況再現解析は、レーダーアメダス解析雨量を日単位データに集計して用いた。
【0181】
蒸発散について、バックグラウンド解析では、ハーモン法(Harmon W.R.,1961)を用いて可能蒸発散量を求めた。ハーモン法による可能蒸発散量の算定は次式に従う。なお、以下の数式において「^」は指数を示す記号であり、「_」は下付き文字を示す記号である。
【0182】
Ep=0.14×(D_0)^2×Pt
ここで、「Ep」は日平均蒸発散量(mm/d)、「D_0」は12時間を1に規格化した可照時間、「Pt」は飽和絶対湿度(g/m^3)である。可照時間には、北緯に対する昼の長さの補正値(地下水ハンドブック編集委員会,1979)を用いた。
【0183】
積雪、融雪について、バックグラウンド解析及び現況再現解析のいずれにおいても、その効果は考慮しないものとした。
【0184】
植生等について、バックグラウンド解析では、植生による降水遮断の効果は考慮しないものとした。現況再現解析では、樹冠及び林床での降水遮断のプロセスを考慮した。林外雨量は樹冠、林床で遮断・貯留され、それぞれで貯留された水量については単層熱収支法で求められた蒸発散によって系外へ流去するものとした。残った水量のみが樹冠を通過し林床に達し、さらにその一部は林床を通過して地表面に到達するものとした。樹冠、林床のそれぞれに対しては、土地利用や植生区分等に対応付けた貯留量、被覆率をパラメータとして与えた。本検討では、自然環境保全基礎調査現存植生図を基本とし、植生分布を、草原・裸地、市街地、落葉広葉樹、常緑広葉樹、針葉樹林及び竹林の6区分に再分類した。
【0185】
図12は、実施例1における植生分布について説明する図である。図13は、本実施例における地質区分について説明する図である。
【0186】
感度分析については、以下のようにした。すなわち、涵養量に影響を及ぼしうるパラメータとしては、有効降水量などの境界条件、透水係数などの内部条件が考えられる。感度解析は定常計算であるため、非定常計算のみに影響を与えるパラメータ(間隙率など)については対象から除外した。また、そもそもパラメータの幅が非常に小さいパラメータ(水の密度など)は除外した。最終的に感度解析を実施したパラメータは有効降水量、粗度係数、透水係数である。これらのパラメータの取りうる幅は、例えば、降雨などの測定時に生じる誤差や、地質区分で設定している透水係数の幅などに起因したものを想定した。そのため、これまでの現地データ(雨量観測、現地踏査、透水試験、水文観測、など)や文献値、解析結果等を組み合わせて、境界条件及び内部条件の幅を絞り込んだ。なお、パラメータの幅については広く設定するほど涵養量の幅が大きくなることが予想されるため、十分に幅をとりつつも、ある程度絞り込んでおくことが望ましい。
【0187】
有効降水量の幅については、以下のようである。対象エリア周辺の河川流量観測データから比流量を計算し、これとメッシュ平年値2010からハーモン法を用いて推定された対象エリア周辺における有効降水量が概ね対応していることを確認し、その上で、両者の差から有効降水量の幅を算出した。具体的にはまず対象エリア周辺の河川流量地点について、地形・地質などから、その地点の集水域における有効降水量のほぼ全量が流出すると考えられ、かつ多年にわたる地点を選定した。選定した地点ごとに平均比流量を算出し、河川流量の精度をプラスマイナス10パーセントと仮定して幅を設けた。これは、「収集既存の水位流量曲線図に流量値をプロットし、曲線からかけ離れた値でないか(10%程度を目安とする)照査する。かけ離れた値であれば、その原因を究明する」(平成14年度版水文観測(土木研究所)第5章流量資料に記載)という知見を参考とした。地点ごとに得られた比流量の幅とメッシュ平年値2010とから推定した有効降水量の差のうち最も大きいものを、対象エリア周辺における平均有効降水量の幅とした。
【0188】
図14は、本実施例における比流量とメッシュ平年値2010から推定した有効降水量の比較を示す図である。
【0189】
図14において、「白川口」については名倉ダムにおける取水の影響が示唆されるため集計から除外した。最終的に得られた比流量と、メッシュ平年値2010から推定した有効降水量との差は、マイナス114ミリメートル毎年から402ミリメートル毎年の間であった。
【0190】
内部条件の幅は、以下のように設定した。本実施例の定量評価では、定常計算における再現性を確認しパラメータセットを絞り込んだ。非定常での再現性は考慮しないため、貯留性に関わる間隙率等のパラメータは対象としない。よって、内部条件の対象パラメータは透過粗度係数・透水係数とした。透過粗度係数は、ベースケースにおいて土地利用に関連付けて設定されており、本実施例でも引き続き土地利用に関連付けて設定することとした。取りうる幅については、既往文献から土地利用毎に設定した。透水係数はベースケースにおいて地層区分に関連付けて設定しており、引き続き地層区分に関連付けて設定することとした。
【0191】
図15は、本実施例における透水係数の設定イメージを示す図である。
【0192】
注目領域(図9中の実線で囲まれた領域)を含む山地部など、多くの地層区分について透水試験データ等の現地データは収集されていない。そこで、図15に示されるように、いずれのモデルについても、基本的に表層から深層に向けて透水係数が小さくなるように設定しており、プラスマイナス1オーダー程度であれば、この相対的な構造は維持される。そのため、設定値プラス1オーダーを最大値、設定値マイナス1オーダーを最小値とする幅を本的に設定した。ただし、設定値プラス1オーダーの値が大きすぎると考えられる場合は、最大値を設定値、最小値を設定値マイナス2オーダーとした。逆に、設定値マイナス1オーダーの値が小さすぎると考えられる場合は、最大値を設定値プラス2オーダー、最小値を設定値とした。
【0193】
図16は、本実施例における感度解析の結果を説明する図である。
【0194】
図16に示されるように感度解析の結果が得られた。なお、風化ゆるみ区分、新鮮部などが設定されている地質では、それらを同時に最大値又は最小値に振り、感度解析を行った。また、粗度係数については全ての土地利用を同時に最大値又は最小値に振り感度解析を行った。注目領域における涵養量に対して感度があると判断されたパラメータは以下の通りである。
【0195】
有効降水量、粗度係数、表土の透水係数、後期更新世・完新世の堆積物の透水係数、中古生層泥質部の透水係数、中生代から新第三紀火山岩類(火砕流堆積物を含む)の透水係数
【0196】
有効降水量の変化は、地下水涵養量を31.2パーセント変動させる重要な指標であることがわかった。水資源の管理を行う上で重要な指標(高影響パラメータ)として、有効降水量が挙げられた。
【0197】
以上の結果を踏まえ、管理施策として、有効降水量を増やす方策をとった。ここでは、密集する樹木の間伐を実施した。
【0198】
図17は、本実施例における管理施策の効果について説明する図である。
【0199】
管理施策の効果についての確認結果は、次の通りである。2012年12月に密集する樹木の間伐を行ったGHS2では2013年以降、2014年5月に密集する樹木の間伐を行ったGHS2では2014年に林外雨量に対する林内雨量の割合が増え、有効降水量が増えたことが確認できた。また、同時期に基底流量の増加傾向が確認できた。これは、涵養量が増えたことを示唆している。
【0200】
図18は、本実施例における地点情報の表示例について説明する図である。
【0201】
図18において、格子に分けられた各地点における涵養量の相対的な多少が、分布図として示されている。涵養量が多い地点ほど濃い色で示されている。また、各地点は、所定領域の形を示す地図に重ねて示されている。
【実施例0202】
以下、実験例2を示して本発明の一実施例について詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0203】
この実施例2では、一定範囲の空間的広がりを持つ空間単位における水資源の循環状態を再現する分布型水循環モデルを作成したものである。水資源として地下水涵養量に注目しており、湧水の箇所の一致により、水収支の再現性を確認できたものである。
【0204】
図19は、実施例2について対象となる所定領域を示す図である。
【0205】
実施例2では、山梨県北杜市を流れる神宮川を中心とし、隣接する流域との水の出入りの可能性を考慮し、富士川水系釜無川流域に右岸から流入する中ノ川、黒川、流川、松山沢川、田沢川、尾白川を含む約100平方キロメートルの領域を対象とした。
【0206】
水循環過程の再現に統合型流域モデリングシステム「GETFLOWS(登録商標)」を用いた。「GETFLOWS(登録商標)」は陸域における水循環システムを多相多成分流体系として定式化し、地上および地下の水の流れを一体として取り扱うことが可能な統合型水循環シミュレーションシステムである。流域モデルの解析結果を河川流量、地下水位、水質、年代等の実測値または実測値から推定される涵養や湧出等の地下水流動に関する状況と比較した。これにより、流域全体の水循環過程の同定を試みた。
【0207】
図20は、本実施例の主な検討ステップを示す図である。
【0208】
陸面および水理地質構造のモデル化を行った。フィールド調査と流域モデリングによる再現を相互に連動させることで高い精度での水循環過程の同定を目指した。対象領域中の計算格子は、河道および地形の被覆を考慮して、水平解像度30mから130m、鉛直解像度0.05mから1,000m として作成した。モデルの総格子数は661,152で、これを東西方向193、南北方向168、深度方向24に分割した。非定常解析に用いる気象および水利用に関する外力データの時間分解能は1日で、2011年から2013年までを再現対象期間とした。地形および表層地質を高精度で解析するため、航空レーザ測量の結果(LiDARデータ)を使用した。
【0209】
図21は、本実施例のモデル化および計算に用いた気象、地形、植生、土地利用、地質に関するデータを示す表である。図22は、構築した三次元数値モデルの鳥瞰図である。
【0210】
地下水涵養量の推計を行った。地下水への入力である地下水涵養は狭義には地下水面への水の供給と定義される。バランスした水収支の観点からは、降雨による地下水涵養量は地下水から河川への流出量にほぼ等しくなると考えられ、我が国では地下水流出量は河川の渇水流量にほぼ等しいとされる。しかしながら、渇水流量には地下水として対象流域から出ていく成分が含まれず、日々変化する正味の地下水涵養量を推定する場合に誤差が生じる。本実施例2では、モデル上で時々刻々と変化する自由地下水面を下向きに通過するフラックスの年間積算値を推計することで、地下水面への水の供給量である地下水涵養量を直接評価した。併せて、3次元モデルにおいて表土層として再現されるメッシュの下面を下向きに通過するフラックスの年間積算値を推計し、両者の比較を行った。
【0211】
検証結果は、以下のとおりである。構築したモデルによる定常解析の結果を用いて、多地点で実測された周辺地下水の静水位の再現精度を検証した。その結果、41地点中26地点においてプラスマイナス5m以内、41地点中36地点においてプラスマイナス10m以内の精度で静水位を再現することに成功した。この再現結果について、観測値と計算値の一致度を示すNash-Sutcliffe Model Efficiencyは、0.92であった。
【0212】
図23は、本実施例における湧水位置について説明する図である。
【0213】
図23において、湧水位置を再現できていることが確認できた。
【0214】
図24は、本実施例における涵養量の空間分布を示す図である。
【0215】
図24においては、格子に分けられた各地点における涵養量の相対的な多少が、3次元形状の分布図として示されている。涵養量が多い地点ほど濃い色で示されている。
【産業上の利用可能性】
【0216】
以上のように、本発明にかかる情報処理装置は、各対象地域における水資源についての重要な支配要素が何であるかを容易に特定することができるという効果を有し、情報処理装置等として有用である。
【符号の説明】
【0217】
1,201 情報処理装置
110 格納部
111 モデル情報格納部
113 観測データ格納部
117 性質情報格納部
130 受付部
140,240 処理部
141 抽出部
151 算定部
155,255 構成部
160 出力部
257 地理情報取得部
1411 パラメータ設定部
1412 変化後算定部
1414 順位設定部
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