(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011773
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物および該樹脂組成物からなる樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20220107BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220107BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20220107BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/34
C08G63/60
D01F6/92 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113128
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(72)【発明者】
【氏名】梅村 雄二
(72)【発明者】
【氏名】大野 希望
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CF051
4J002CF081
4J002CF181
4J002DJ016
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD016
4J002GF00
4J002GP02
4J002GQ00
4J002GQ01
4J029AA05
4J029AB07
4J029AD01
4J029AD06
4J029AD09
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BB10A
4J029CB06A
4J029CC06A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
4L035AA05
4L035EE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度性に優れる樹脂成形品が得られる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の組成の液晶ポリエステル樹脂(A)と、シリカ、マイカ、およびタルクからなる群から選択される少なくとも1種であるフィラー(B)からなり、測定周波数10GHzにおける空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が1.0×10-3以下であることを特徴とする樹脂組成物。液晶ポリエステル樹脂(A):6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)40モル%以上75モル%以下、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)12モル%以上≦30モル%以下、テレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)および/または2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含む芳香族ジカルボン酸化合物に由来する構成単位(III)12モル%以上≦30モル%以下。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)と、フィラー(B)とを含む樹脂組成物であって、
前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、および芳香族ジカルボン酸化合物に由来する構成単位(III)を含み、前記構成単位(III)が、テレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)および/または2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含み、
前記構成単位の組成比(モル%)が、下記の条件:
40モル%≦構成単位(I)≦75モル%
12モル%≦構成単位(II)≦30モル%
12モル%≦構成単位(III)≦30モル%
を満たし、
前記フィラー(B)が、シリカ、マイカ、およびタルクからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物は、測定周波数10GHzにおける空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が、1.0×10-3以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)および前記フィラー(B)の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステル樹脂(A)の配合量が50質量部以上99質量部以下であり、前記フィラー(B)の配合量が1質量部以上50質量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)の融点が300℃以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリエステル樹脂(A)は融点+20℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度が、5Pa・s以上120Pa・s以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記構成単位(II)が、下記式で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式中、Ar
1は、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)
【請求項6】
前記構成単位(III)が、テレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)を含み、かつ、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含み、前記構成単位(IIIA)および構成単位(IIIB)の組成比が、下記の条件:
3モル%≦構成単位(IIIA)≦28モル%
2モル%≦構成単位(IIIB)≦9モル%
を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる、樹脂成形品。
【請求項8】
フィルム状である、請求項7に記載の樹脂成形品。
【請求項9】
繊維状である、請求項7に記載の樹脂成形品。
【請求項10】
射出成形品である、請求項7に記載の樹脂成形品。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂成形品を備えてなる、電気電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度性に優れる樹脂成形品を得られる樹脂組成物に関する。さらに、本発明は該樹脂組成物からなる樹脂成形品および該該樹脂成形品を備える電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信量は急速に増加し続け、使用される信号の周波数はさらに高まっており、周波数が109Hz以上であるギガヘルツ(GHz)帯の周波数において更に低い誘電正接を有する樹脂が求められている。このような課題に対し、特許文献1では、高周波数帯において低誘電正接を示す液晶性芳香族ポリエステルとして、p-又はm-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位およびヒドロキシナフトエ酸に由来する構成単位の2種以上を含む液晶性芳香族ポリエステルが提案されている。また、特許文献2では、全芳香族ポリエステルとして、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を1~6%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位を40~60%、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位を17.5~30%、および芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を17.5~30%含むポリエステル樹脂が提案されている。しかし、本出願人は、特許文献1において提案されるポリエステル樹脂を用いたとしても、高周波数帯において要求される十分な低誘電正接を示さないことを見出した。また、同様に、特許文献2において提案されるポリエステル樹脂を用いたとしても、高周波数帯において要求される十分な低誘電正接を示さないことを見出した。
【0003】
また、液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性や薄肉成形性などに優れていることから、射出成形して得られる表面実装の電子部品に幅広く用いられている。さらに、誘電損失が小さく電気特性にも優れる材料でもあることから、最近では、芳香族液晶ポリエステルをTダイ押出法やインフレーション法、溶液キャスト法などでフィルム状に成形する方法が検討されている。
【0004】
さらに液晶ポリエステル樹脂を使いデバイス等を設計する際は、はんだによる加工のような高温の熱プロセスを経ることが一般的であるため、十分な耐熱性が必要である。本出願人は、特許文献1において提案されるポリエステル樹脂は、測定周波数10GHzという高周波帯において要求される十分な低誘電正接と、十分な耐熱性とを両立させることはできないことを見出した。これまでに、本出願人は、全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、特定の構成単位およびそれらを特定の組成比に調節することにより、とりわけ低い誘電正接を有しながら、耐熱性および加工性のバランスに優れた下記の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を得られることを提案した(特許文献3参照)。
【0005】
また、モノマー設計以外の材料設計法としては、液晶ポリエステル樹脂にフィラーや他樹脂を混練ないしブレンドすることで優れた特性をもつ材料を開発する手法も知られている。例えば、空気層を有する中空ガラスバルーンフィラーを液晶ポリエステル樹脂に混練することが提案されている(特許文献4参照)。空気は誘電率1と極めて低い誘電率をもつため、樹脂にブレンドすることで誘電率を低下させることができる。しかしながら、中空ガラスバルーンは液晶ポリエステル樹脂の液晶性を大きく阻害するために、少量の混練であっても顕著に粘度を上昇させる。そのため、樹脂組成物の加工性を顕著に低下させてしまうため、現実的には樹脂組成物全体の10質量%以下程度のごく少量のみしか混練することができない。また、中空であるがゆえに、混練後の材料は脆く、機械強度や耐熱性が低下してしまうという課題も存在する。
【0006】
さらに、誘電正接を低下させる手法としては、液晶ポリエステル樹脂に酸化マグネシウムや窒化ホウ素等のセラミックスを混練ないしブレンドすることも知られている。しかし、セラミック材料は、誘電正接は10-4~10-5台と低いが、誘電率は8以上であり、場合によっては80程度と非常に高く、混練した材料の誘電率は逆に上昇してしまう。
【0007】
また、従来、誘電正接および誘電率がともに極めて低い材料としては、フッ素系の材料が知られている。特にポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)は誘電率が2程度であり、誘電正接も10-4台として優れた電気特性を持つことで知られている。一方で、PTFEは溶融状態での粘度が極めて高いことが知られており、射出成形や溶融押出し製膜等の溶融加工することはできない。唯一の加工法は圧縮したブロック体を切削する切削加工であるが、こうした方法では射出成形のような高い生産性や微細加工は不可能であった。PTFEの加工性を改良する方法として、PTFEの構造を変えたテトラフルオロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)等のフッ素材料が開発されている。こうした材料はPTFEより粘度が低下し、フィルムなどへの加工が可能になっている一方で、PTFEほどの低誘電正接を維持することはできない。そのため、電気物性を犠牲にして加工性を向上させるものとなっており、加工に適切な溶融粘度、製品としてはんだ耐熱等を担保する耐熱性を維持した状態で、誘電正接を低下させることができる材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-250620号公報
【特許文献2】特開2002-179776号公報
【特許文献3】特許第6434195号公報
【特許文献4】特開2004-27021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、低誘電正接を有する液晶ポリエステル樹脂を含む樹脂成形品を提供するために、特定の液晶ポリエステル樹脂と、フッ素樹脂とを含む樹脂組成物を開発した。しかし、本発明者らは、フッ素樹脂を配合した樹脂組成物は低誘電正接という効果を有するものの、靭性等の機械強度に劣る場合があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の液晶ポリエステル樹脂にフィラーとしてシリカ、マイカ、およびタルクの少なくとも1種を配合することで、上記課題が解決できることを改めて見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明の一態様によれば、
液晶ポリエステル樹脂(A)と、フィラー(B)とを含む樹脂組成物であって、
前記液晶ポリエステル樹脂(A)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、芳香族ジカルボン酸化合物に由来する構成単位(III)を含み、前記構成単位(III)が、テレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)および/または2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含み、
前記構成単位の組成比(モル%)が、下記の条件:
40モル%≦構成単位(I)≦75モル%
12モル%≦構成単位(II)≦30モル%
12モル%≦構成単位(III)≦30モル%
を満たし、
前記フィラー(B)が、シリカ、マイカ、およびタルクからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物は、測定周波数10GHzにおける空洞共振器摂動法で測定した誘電正接が1.0×10-3以下である、樹脂組成物が提供される。
【0012】
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル樹脂(A)および前記フィラー(B)の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステル樹脂(A)の配合量が50質量部以上99質量部以下であり、前記フィラー(B)の配合量が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル樹脂(A)の融点が300℃以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル樹脂(A)は融点+20℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度が、5Pa・s以上120Pa・s以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記構成単位(II)が、下記式で表されることが好ましい。
【化1】
(式中、Ar
1は、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)
ことが好ましい。
【0016】
本発明の態様においては、前記構成単位(III)が、テレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)を含み、かつ、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含み、前記構成単位(IIIA)および構成単位(IIIB)の組成比が、下記の条件:
3モル%≦構成単位(IIIA)≦28モル%
2モル%≦構成単位(IIIB)≦9モル%
を満たすことが好ましい。
【0017】
本発明の別の態様によれば、上記樹脂組成物からなる、樹脂成形品が提供される。
【0018】
本発明の別の態様においては、樹脂成形品がフィルム状であることが好ましい。
【0019】
本発明の別の態様においては、樹脂成形品が繊維状であることが好ましい。
【0020】
本発明の別の態様においては、樹脂成形品が射出成形品であることが好ましい。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、上記樹脂成形品を備える電気電子部品が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度に優れる樹脂成形品が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、このような樹脂組成物からなる樹脂成形品および該樹脂成形品を備えた電気電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[樹脂組成物]
本発明による樹脂組成物は、下記の液晶ポリエステル樹脂(A)と、フィラー(B)とを含むものである。このような樹脂組成物を用いることで、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度に優れる樹脂成形品を得ることができる。さらに、本発明による樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂と比べて遜色ない耐熱性を兼ね備えることもできる。
【0024】
樹脂組成物の10GHzの空洞共振器摂動法で測定した誘電正接は、1.0×10-3以下であり、好ましくは0.95×10-3以下であり、より好ましくは0.9×10-3以下である。
また、樹脂組成物の10GHzの空洞共振器摂動法で測定した比誘電率は、好ましくは3.8以下であり、より好ましくは3.7以下であり、さらに好ましくは3.6以下であり、さらにより好ましくは3.5以下である。
誘電正接および比誘電率の値は、樹脂組成物の射出成形品のMD方向およびTD方向の平均値である。なお、当該射出成形品は、60mm×60mm×0.8mm(厚み)の平板から60mm×3mm(幅)に切削した試験片である。
なお、本明細書において、樹脂組成物の10GHzにおける誘電正接は、アンリツ社のネットワークアナライザーとエーイーティー社の共振器を用いて、空洞共振器摂動法により測定することができる。また、特別に指定がない場合、誘電正接の値は、23℃、大気雰囲気下での測定値である。
【0025】
以下、樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0026】
(液晶ポリエステル樹脂(A))
本発明の樹脂組成物に用いる液晶ポリエステル樹脂(A)は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)、ジオール化合物に由来する構成単位(II)、およびジカルボン酸に由来する構成単位(III)を含むものである。以下、液晶ポリエステル樹脂(A)に含まれる各構成単位について説明する。
【0027】
(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I))
液晶ポリエステル樹脂(A)は、下記式(I)で表される6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)を含む。
【化2】
【0028】
構成単位(I)を与えるモノマーとしては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA、下記式(1))、そのアセチル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化3】
【0029】
液晶ポリエステル樹脂(A)の誘電正接の低下および融点の向上という観点からは、液晶ポリエステル樹脂(A)中における構成単位(I)の組成比(モル%)は、下限値としては、40モル%以上であり、好ましくは45モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、上限値としては、75モル%以下であり、好ましくは70モル%以下であり、より好ましくは65モル%以下である。
【0030】
(ジオール化合物に由来する構成単位(II))
液晶ポリエステル樹脂(A)を構成する単位(II)は、ジオール化合物に由来する構成単位であり、下記式(II)で表される芳香族ジオール化合物に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(II)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0031】
【化4】
上記式中Ar
1は、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0032】
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP、下記式(2))、ハイドロキノン(HQ、下記式(3))、メチルハイドロキノン(MeHQ、下記式(4))、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(BisPA、下記式(5))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0033】
ポリエステル樹脂全体の構成単位に対する構成単位(II)の組成比(モル%)は、
下限値としては、12モル%以上であり、好ましくは12.5モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、30モル%以下であり、好ましくは27モル%以下であり、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは23モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0034】
(芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III))
液晶ポリエステル樹脂(A)を構成する単位(III)は、下記式(IIIA)で表されるテレフタル酸に由来する構成単位(IIIA)および/または下記式(IIIB)で表される2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)を含むものであり、構成単位(IIIA)および構成単位(IIIB)の両方を含むことが好ましい。
【0035】
【0036】
構成単位(IIIA)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA、下記式(6))、およびこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。TPAやその誘導体はポリエチレンテレフタレートなど汎用プラスチックの原料などとして幅広く使用され、芳香族ジカルボン酸化合物の中で最も原価が低い部類であるため、構成単位(III)中の構成単位(IIIA)の組成比を高めることで樹脂製品としてのコスト優位性が向上する。
【化11】
【0037】
構成単位(IIIB)を与えるモノマーとしては、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA、下記式(7))、およびこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。NADAはTPAなどに比べ原価が高いため、構成単位(III)中の構成単位(IIIB)の組成比を下げることで樹脂製品としてのコスト優位性が向上する。
【化12】
【0038】
ポリエステル樹脂(A)全体の構成単位に対する構成単位(III)の組成比(モル%)は、下限値としては、12モル%以上であり、好ましくは12.5モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、30モル%以下であり、好ましくは27モル%以下であり、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは23モル%以下である。
ポリエステル樹脂(A)全体の構成単位に対する構成単位(IIIA)の組成比(モル%)は、下限値としては、好ましくは3モル%であり、より好ましくは6モル%以上であり、さらに好ましくは8モル%以上であり、さらにより好ましくは11モル%以上であり、上限値としては、好ましくは28モル%以下であり、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは23モル%以下であり、さらにより好ましくは21モル%以下である。
ポリエステル樹脂(A)全体の構成単位に対する構成単位(IIIB)の組成比(モル%)は、下限値としては、好ましくは2モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは4モル%以上であり、上限値としては、好ましくは9モル%以下であり、より好ましくは8モル%以下である。なお、構成単位(II)の組成比と、構成単位(III)の組成比(構成単位(IIIA)および構成単位(IIIB)の合計組成比)とは実質的に当量((構成単位(II)≒構成単位(III))となる。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂(A)の特に好ましい配合としては、以下が挙げられる。
45モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦75モル%
12モル%≦芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)≦27.5モル%
3モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位構成単位(IIIA)≦25モル%
2モル%≦2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(IIIB)≦9モル%
である。
ポリエステル樹脂(A)全体の構成単位に対して、各構成単位が上記範囲内であれば、誘電正接の低いポリエステル樹脂を得ることができる。
【0040】
液晶ポリエステル樹脂(A)の液晶性は、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)等を用い、族液晶ポリエステル樹脂(A)を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させた後、光学異方性の有無を観察することにより確認することができる。
【0041】
液晶ポリエステル樹脂(A)の融点は、下限値として、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは305℃以上であり、さらに好ましくは310℃以上である。上限値として、好ましくは360℃以下であり、好ましくは350℃以下であり、さらに好ましくは340℃以下である。液晶ポリエステル樹脂(A)の融点を上記数値範囲とすることにより、本発明で示す範囲の液晶ポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物の加工安定性、具体的にはせん断をかけた溶融成形加工性の安定性、せん断をかけない状態での溶融加工安定性を向上させることができると共に、これを用いて作製した成形品の材料としての耐熱性をはんだ耐熱の観点で良好な範囲に維持させることができる。
【0042】
液晶ポリエステル樹脂(A)の10GHzの空洞共振器摂動法で測定した誘電正接は、好ましくは1.0×10-3以下であり、好ましくは0.9×10-3以下であり、より好ましくは0.8×10-3以下であり、さらに好ましくは0.7×10-3以下である。誘電正接の値は、液晶ポリエステル樹脂(A)の射出成形品の面内方向のTD方向およびMD方向の平均値である。当該射出成形品は、60mm×60mm×0.8mm(厚み)の平板から60mm×3mm幅に切削した試験片である。
【0043】
液晶ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、溶融成形加工性という観点からは、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+20℃以上、せん断速度1000s-1の条件において、下限値として、好ましくは5Pa・s以上であり、より好ましくは10Pa・s以上であり、さらに好ましくは20Pa・s以上であり、上限値として、好ましくは120Pa・s以下であり、より好ましくは110Pa・s以下であり、さらに好ましくは100Pa・s以下である。
【0044】
(液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法)
液晶ポリエステル樹脂(A)は、所望により構成単位(I)~(III)を与えるモノマーを、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、本発明に係る液晶ポリエステル樹脂(A)は、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合する2段階重合によっても製造することができる。
【0045】
溶融重合は、本発明に係るポリエステル化合物が効率よく得られる観点から、所望により上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマーを、所定の配合で合わせて100モル%として、モノマーが有する全水酸基に対し、1.05~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
【0046】
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、または真空下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましくは選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0047】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100重量部に対して、0.0001~0.1重量部であることが好ましい。
【0048】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
【0049】
(フィラー(B))
本発明の樹脂組成物に用いるフィラー(B)としては、シリカ、マイカ、およびタルクが挙げられる。フィラー(B)は1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。液晶ポリエステル樹脂(A)にフィラー(B)を配合することで、液晶ポリエステル樹脂(A)の誘電特性を損なわずに、靭性等の機械強度に優れた樹脂成形品を得ることができる。
【0050】
シリカとしては、従来公知のシリカを用いることができる。シリカの形状は特に限定されず、球状、板状、および薄片状のいずれであってもよい。シリカとしては、非晶質シリカおよび結晶質シリカのいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。シリカとしては、市販品を用いることもでき、例えば、(株)アドマテックス製の商品名SC2500-SPJ(球状シリカ)、キンセイマテック(株)製の商品名KSE625(球状シリカ)、商品名KSE2045(球状シリカ)、商品名FHD05(溶融シリカ)、商品名FCS12(溶融シリカ)等が挙げられる。
【0051】
マイカとしては、従来公知のマイカを用いることができる。マイカとしては、湿式粉砕したマイカ粉および乾式粉砕したマイカ粉のいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。また、マイカは、天然物であってもよいし、合成品であってもよい。マイカとしては、市販品を用いることもでき、例えば、(株)ヤマグチマイカ製の商品名AB-25S(白マイカ(湿式))、商品名A-21S(白マイカ(湿式))、商品名Y-1800(白マイカ(湿式))、商品名S-30(白マイカ(乾式))、(株)レプコマイカ製の商品名S-325(金マイカ(乾式))、片倉コープアグリ(株)製の商品名MK-300(合成マイカ)等が挙げられる。
【0052】
タルクとしては、従来公知のタルクを用いることができる。タルクとしては、市販品を用いることもでき、例えば、日本タルク(株)製MS-KY等が挙げられる。
【0053】
フィラー(B)として、上記以外にも、繊維充填材がさらに含まれていてもよい。繊維充填材は、無機繊維状材料および有機繊維状材料から選択され得る。無機繊維状材料としては、炭素繊維(カーボンファイバー)、炭化ケイ素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、アスベストス繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ウォラストナイト、ウィスカ、チタン酸カリウム繊維および金属繊維等が挙げられ、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、ウォラストナイト、ウィスカ、および金属繊維が好ましく、炭素繊維およびガラス繊維がより好ましい。また、有機繊維状材料としては、アラミド繊維等の高融点有機繊維状材料が挙げられる。繊維充填材は、ナノファイバーの形態であってもよい。
【0054】
本発明による樹脂組成物においては、液晶ポリエステル樹脂(A)とフィラー(B)の合計100質量部に対して、液晶ポリエステル樹脂(A)の配合量は、下限値として、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは55質量部以上であり、さらに好ましくは60質量部以上であり、さらにより好ましくは65質量部以上であり、上限値として、好ましくは99質量部以下であり、より好ましくは95質量部以下であり、さらに好ましくは90質量部以下である。また、液晶ポリエステル樹脂(A)とフィラー(B)の合計100質量部に対して、フィラー(B)の配合量は、下限値として、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上であり、上限値として、好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは45質量部以下であり、さらに好ましくは40質量部以下であり、さらにより好ましくは35質量部以下である。液晶ポリエステル樹脂(A)とフィラー(B)の配合比が上記数値範囲程度であれば、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度に優れる樹脂成形品が得られる。さらには溶融成形加工性および耐熱性により優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0055】
(他の添加剤)
本発明による樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の添加剤、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0056】
(樹脂成形品)
本発明による樹脂成形品は上記の樹脂組成物からなるものである。本発明による樹脂成形品は、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度に優れるものである。さらに、樹脂成形品は耐熱性に優れるものであることが好ましい。本発明による樹脂成形品の形状は特に限定されず、板状、フィルム状、および繊維状等であってもよい。
【0057】
(樹脂成形品の製造方法)
本発明においては、上記の液晶ポリエステル樹脂(A)およびフィラー(B)や所望により他の添加剤等を含む樹脂組成物を、従来公知の方法で成形して得ることができる。なお、樹脂組成物は、全液晶ポリエステル樹脂(A)およびフィラー(B)等をバンバリーミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機等を用いて、溶融混練することにより得ることができる。
【0058】
樹脂成形品の成形方法としては、特に限定されず、例えば、プレス成形、発泡成形、射出成形、押出成形、打ち抜き成形等が挙げられる。上記のようにして製造される成形品は、用途に応じて、様々な形状に加工することができる。
【0059】
詳細には、フィルム状の樹脂成形品は、従来の公知の方法、例えば、インフレーション成形、溶融押出成形等の押出成形、および溶液キャスト法により得ることができる。このようにして得られるフィルムは、本発明の樹脂組成物のみからなる単層フィルムであってもよく、異種材料との多層フィルムであってもよい。
なお、押出成形または溶液キャスト成形したフィルムを寸法安定性、機械特性を改良する目的で、単軸、または二軸にて延伸処理をしてもよい。また、これらフィルムの異方性を除去する、または耐熱性向上目的で熱処理を行ってもよい。
【0060】
また、繊維状の樹脂成形品は、従来公知の方法、例えば、溶融紡糸法、溶液紡糸法等により得ることができる。繊維は、本発明の樹脂組成物のみからなるものであってもよく、他の樹脂と混合してもよい。
【0061】
(電気電子部品)
本発明による電気電子部品は、上記の樹脂組成物を備えてなる。電気電子部品としては、例えば、ETC、GPS、無線LANおよび携帯電話等の電子機器や通信機器に使用されるアンテナ、高速伝送用コネクタ、CPUソケット、回路基板、フレキシブルプリント基板(FPC)、積層用回路基板、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、RFIDタグ、コンデンサー、インバーター部品、絶縁フィルム、ケーブルの被覆材、リチウムイオン電池等の二次電池の絶縁材、スピーカー振動板等が挙げられる。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造>
(合成例1)
攪拌翼を有する重合容器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)50モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)25モル%、テレフタル酸(TPA)17モル%、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA)8モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0064】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が310℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕し目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0065】
次に、上記で得られたプレポリマーを、ヤマト科学(株)製のオーブンでヒーターにより、温度を室温から14時間かけて300℃まで昇温した後、300℃で温度を2時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、液晶ポリエステル樹脂A1を得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリエステル樹脂試料を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0066】
(合成例2)
モノマー仕込みを、HNA55モル%、BP22.5モル%、TPA16.5モル%、およびNADA6モル%に変更した以外は合成例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂A2を得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリエステル樹脂A2が液晶性を示すことを確認した。
【0067】
(合成例3)
モノマー仕込みを、HNA60モル%、BP20モル%、TPA15.5モル%、およびNADA4.5モル%に変更した以外は合成例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂A3を得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリエステル樹脂A3が液晶性を示すことを確認した。
【0068】
(合成例4)
モノマー仕込みを、HNA65モル%、BP17.5モル%、TPA15.5モル%、およびNADA2モル%に変更した以外は合成例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂A4を得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリエステル樹脂A4が液晶性を示すことを確認した。
【0069】
(合成例5)
モノマー仕込みを、HNA70モル%、BP15モル%、TPA6モル%、およびNADA9モル%に変更した以外は合成例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂A5を得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリエステル樹脂A5が液晶性を示すことを確認した。
【0070】
<性能評価>
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A1~A5の構成単位(モノマー組成)を表1に示した。以下、上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A1~A5について性能評価を行った。
【0071】
(融点の測定)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A1~A5の融点を、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠して、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)により測定した。このとき、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点(Tm2)とした。測定結果を表1に示した。
【0072】
(誘電正接測定(10GHz))
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A1~A5を用いて、それぞれの融点~融点+30℃条件で加熱溶融し、60mm×60mm×0.8mm(厚み)の金型を用いて射出成形し、平板状試験片を作製した。続いて、作製した平板状試験片を60mm×3mm(幅)に切削し、アンリツ社製のネットワークアナライザーMS46122Bとエーイーティー社製の共振器を用いて、空洞共振器摂動法により、周波数10GHzの流動方向の比誘電率と誘電正接を測定した。なお、各試験片のTD方向とMD方向の誘電正接を測定し、その平均値を表1に示した。
【0073】
(溶融粘度の測定)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A1~A5の、せん断速度1000S-1における融点+20℃での溶融粘度(Pa・s)を、キャピラリーレオメーター粘度計((株)東洋精機製作所キャピログラフ1D)と内径1mmキャピラリーを用い、JIS K7199に準拠して測定した。測定結果を表1に示した。なお、測定前に樹脂組成物を150℃、4時間減圧下で乾燥した。
【0074】
【0075】
<フィラー(B)の準備>
フィラー(B)として、以下の樹脂を準備した。
・シリカ1:球状シリカ、(株)アドマテックス製、商品名SC2500-SPJ
・シリカ2:球状シリカ、キンセイマテック(株)製、商品名KSE625
・シリカ3:球状シリカ、キンセイマテック(株)製、商品名KSE2045
・シリカ4:溶融シリカ、キンセイマテック(株)製、商品名FHD05
・シリカ5:溶融シリカ、キンセイマテック(株)製、商品名FCS12
・マイカ1:白マイカ(湿式)、(株)ヤマグチマイカ製、商品名AB-25S
・マイカ2:白マイカ(湿式)、(株)ヤマグチマイカ製、商品名A-21S
・マイカ3:白マイカ(湿式)、(株)ヤマグチマイカ製、商品名Y-1800
・マイカ4:白マイカ(乾式)、(株)ヤマグチマイカ製、商品名S-30
・マイカ5:白マイカ(乾式)、(株)レプコマイカ製、商品名M-325
・マイカ6:金マイカ(乾式)、(株)レプコマイカ製、商品名S-325
・マイカ7:合成マイカ、片倉コープアグリ(株)製、商品名MK-300
・タルク1:日本タルク(株)製、商品名MS-KY
【0076】
<他の添加剤の準備>
他の添加剤として、以下の添加剤を準備した。
・ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE):(株)喜多村製、商品名KT-400M
・中空ガラス(GB):3M社製、商品名S-60HS
・ガラスファイバ(CGF):日本電気硝子(株)製、商品名T-786H
【0077】
[試験例1]
液晶ポリエステル樹脂にシリカ、マイカ、またはタルクを配合した樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂に他の添加剤を配合した樹脂組成物に比べて、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度性に優れた樹脂成形品を得られることを確認するために以下の試験を行った。
【0078】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のシリカ1を10質量部とを、ドライブレンドし、その後2軸混練機(株式会社池貝製、PCM 30)で液晶ポリエステル樹脂A3のTm2+20~50℃の温度で混練し、ストランドカットしてペレタイズすることで、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0079】
(実施例2)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を75質量部と、上記のマイカ1を25質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0080】
(実施例3)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を80質量部と、上記のタルク1を20質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0081】
(比較例1)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のPTFEを10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0082】
(比較例2)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を95質量部と、上記のGBを5質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0083】
(比較例3)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を85質量部と、上記のGBを15質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0084】
(比較例4)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のCGFを10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0085】
<性能評価>
上記で得られた樹脂組成物の組成を表2に示した。以下、上記で得られた樹脂組成物について性能評価を行った。
【0086】
(誘電正接・比誘電率測定(10GHz))
上記で得られた樹脂組成物を小型の射出成形機を用いて、液晶ポリエステルA3の融点+20~融点+30℃条件で加熱溶融し、60mm×60mm×0.8mm(厚み)の金型を用いて射出成形し、平板状試験片を作製した。続いて、作製した平板状試験片を60mm×3mm(幅)に切削し、アンリツ社製のネットワークアナライザーMS46122Bとエーイーティー社製の共振器を用いて、空洞共振器摂動法により、周波数10GHzの流動方向の誘電正接および比誘電率を測定した。なお、各試験片のTD方向とMD方向の誘電正接および比誘電率を測定し、その平均値を表2に示した。
【0087】
(アイゾット衝撃強度の測定)
上記で得られた樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE30DUZ)を用いて、シリンダー最高温度340℃、金型温度80℃で射出成形して、ASTM D790に準じた曲げ試験片を作製した。続いて、作製した曲げ試験の試験片を用い、ASTM D256に準拠して、アイゾット衝撃強度(kJ/m2)の測定を行った。アイゾット衝撃強度の数値が高い程、樹脂成形品は靱性に優れることを示す。
【0088】
(引張強度および引張弾性率の測定)
上記で得られた樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE30DUZ)を用いて、シリンダー最高温度340℃、金型温度80℃で射出成形して、ASTM D638に準じた引張試験片を作製した。続いて、作製した引張試験片を用い、ASTM D638に準拠して、引張強度(MPa)および引張弾性率(MPa)の測定を行った。
【0089】
【0090】
[試験例2]
液晶ポリエステル樹脂に配合するシリカおよびマイカの種類を変更しても、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度性に優れた樹脂成形品を得られることを確認するために以下の試験を行った。
【0091】
<樹脂組成物の製造>
(実施例4)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のシリカ2を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0092】
(実施例5)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のシリカ3を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0093】
(実施例6)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のシリカ4を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0094】
(実施例7)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のシリカ5を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0095】
(実施例8)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ2を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0096】
(実施例9)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ3を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0097】
(実施例10)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ4を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0098】
(実施例11)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ5を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0099】
(実施例12)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ6を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0100】
(実施例13)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を90質量部と、上記のマイカ7を10質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0101】
<性能評価>
上記で得られた樹脂組成物の組成を表3に示した。以下、上記で得られた樹脂組成物について、[試験例1]と同様にして性能評価を行った。
【0102】
【0103】
[試験例3]
液晶ポリエステル樹脂に配合するシリカおよびマイカの濃度を変更しても、低誘電正接であり、かつ、靭性等の機械強度性に優れた樹脂成形品を得られることを確認するために以下の試験を行った。
【0104】
<樹脂組成物の製造>
(実施例14)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を70質量部と、上記のマイカ1を30質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0105】
(実施例15)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を75質量部と、上記のマイカ1を25質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0106】
(実施例16)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を80質量部と、上記のマイカ1を20質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0107】
(実施例17)
上記で得られた液晶ポリエステル樹脂A3を80質量部と、上記のシリカ4を20質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0108】
<性能評価>
上記で得られた樹脂組成物の組成を表4に示した。以下、上記で得られた樹脂組成物について、[試験例1]と同様にして性能評価を行った。
【0109】