(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117750
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ハンドローラー、及び、保護シートの施工方法
(51)【国際特許分類】
B05C 17/02 20060101AFI20220804BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B05C17/02
B05D1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014424
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】二宮 晃
(72)【発明者】
【氏名】北里 辰範
(72)【発明者】
【氏名】堀内 則幸
(72)【発明者】
【氏名】宮本 怜
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC48
4D075AC54
4D075AC86
4D075DB12
4D075DC05
4D075EA35
4D075EB33
4F042AA16
4F042AB00
4F042FA10
4F042FA11
4F042FA19
(57)【要約】
【課題】高い技量を有していなくても迅速に接着剤層の脱泡と該接着剤層を介した構造物表面と保護シートの貼り付けとが可能なハンドローラーを提供する。
【解決手段】ロールと、前記ロールを転動可能な状態で支持する支持部と、前記ロールを前記支持部に固定する支持部材と、固定具を介して前記把手部及び支持部に固定された脱泡部材とを有し、前記脱泡部材は、前記ロールの進行方向の前方に配置されていることを特徴とするハンドローラー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールと、
前記ロールを転動可能な状態で支持し、且つ把持可能な支持部と、
前記ロールを前記支持部に固定する支持部材と、
固定具を介して前記支持部に固定された脱泡部材と
を有し、
前記脱泡部材は、前記ロールの進行方向の前方又は後方に配置されている
ことを特徴とするハンドローラー。
【請求項2】
支持部と一体に形成された、若しくは、前記支持部に接続した把手部を有する請求項1記載のハンドローラー。
【請求項3】
脱泡部材は、脱泡ローラー又は薄板である請求項1又は2記載のハンドローラー。
【請求項4】
固定具は、弾性材料から構成されている請求項1、2又は3記載のハンドローラー。
【請求項5】
凹凸を有する構造物の表面に保護シートを貼り付ける際に用いられる請求項1、2、3又は4記載のハンドローラー。
【請求項6】
ポリマーセメント硬化層と該ポリマーセメント硬化層上に積層された樹脂層とを有する保護シートを構造物の表面に貼り付ける保護シートの施工方法であって、
前記構造物の表面に接着剤層を形成した後に前記保護シートを前記ポリマーセメント硬化層が前記接着剤層側となるように貼り付ける貼付工程、
請求項1、2、3、4又は5記載のハンドローラーの脱泡部材を前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて移動させながら前記接着剤層の脱泡を行う脱泡工程、及び、
前記ロールを前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて転動させながら前記保護シートを前記構造物に密着させる密着工程を有する、
ことを特徴とする保護シートの施工方法。
【請求項7】
密着工程において、請求項1、2、3、4又は5記載のハンドローラーの脱泡部材とロールとを、構造物に貼り付けた保護シートの樹脂層側の表面に同時に押し付ける請求項6記載の保護シートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドローラー及び該ハンドローラーを用いた保護シートの施工方法に関する。さらに詳しくは、コンクリート等の構造物の表面やメッシュ状の表面を有する樹脂の表面等、凹凸を有する表面に対し保護シートを施工する場合であっても、迅速にかつ保護シートの表面を所望の状態に整理できるハンドローラー及び該ハンドローラーを用いた保護シートの施工方法並びに塗液の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物等の表面に接着剤層を形成し該接着剤層を介して保護シートを貼り付ける際、構造物に貼り付けた状態の保護シートの最表面にロールを備えたハンドローラーの該ロールを往復させて保護シートを構造物に十分に密着させている。
【0003】
このようなハンドローラーとして、例えば、特許文献1には単泡構造を有するゴムであるロールを備えたハンドローラーが開示され、また、例えば、特許文献2には支持部が把手の軸に対して回転自在なハンドローラーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-118699号公報
【特許文献2】特開2008-302340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物等の構造物の表面は均一でないことが多いため、保護シートを貼り付ける場合構造物表面に比較的厚い接着剤層を形成する必要がある。
しかしながら、厚い接着剤層には気泡が内包され易く、従来のハンドローラーを用いた保護シートの貼り付け方法では接着剤層に内包された気泡を接着剤層の外へ排除することは熟練の職人であっても難しく、気泡が接着剤層中に内包されると品質的に問題となるだけでなく、保護シートの構造物の表面への貼り付けが不十分になるという問題があった。
また、接着剤層の脱泡として加圧又は減圧環境下に接着剤層を置く方法が知られているが、コンクリート構造物の表面等への保護シートの施工は通常屋外で行われるため、このような加圧又は減圧環境下に置く方法を採用することはできなかった。
【0006】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、高い技量を有していなくても迅速に接着剤層の脱泡と該接着剤層を介した構造物表面と保護シートの貼り付けとが可能なハンドローラー、及び、該ハンドローラーを用いた保護シートの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ハンドローラーを用いた構造物シートの貼り付けについて鋭意検討した結果、ハンドローラーに接着剤層に内在する気泡を排除可能な脱泡部材を保護シートの表面の押し付けを行うロールの進行方向の前方及び/又は後方に配置させ、脱泡部材による接着剤層の脱泡とロールによる保護シートの構造物表面への貼り付けとを連続して行うことで、熟練者によらなくても気泡を殆ど含まない接着剤層を介した保護シートの構造物の表面への貼り付けができることを見出し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、平坦な保護シートの表面や被塗布面に対してだけでなく、凹凸を有する保護シートの表面や被塗布面に対し所望な表面を有する塗膜を形成する場合にも応用可能である。
【0008】
(1)本発明に係るハンドローラーは、ロールと、前記ロールを転動可能な状態で支持し、且つ把持可能な支持部と、前記ロールを前記支持部に固定する支持部材と、固定具を介して前記支持部に固定された脱泡部材とを有し、前記脱泡部材は、前記ロールの進行方向の前方又は後方に配置されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、接着剤層を介して保護シートを構造物表面に貼り付ける際に、熟練の職人によらなくても、脱泡部材による接着剤層の脱泡とロールによる保護シートの構造物表面への貼り付けとを連続して行うことができる。
【0010】
本発明に係るハンドローラーは、支持部と一体に形成された、若しくは、前記支持部に接続した把手部を有することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、接着剤層を介して保護シートを構造物表面に貼り付ける際に、把手部を握った状態で脱泡部材による接着剤層の脱泡とロールによる保護シートの構造物表面への貼り付けとを連続して行うことができる。
【0012】
本発明に係るハンドローラーにおいて、脱泡部材は、脱泡ローラー又は薄板であることが好ましい。
【0013】
この発明によれば、接着剤層の脱泡がより容易となり、より優れた密着性を有する保護シートの構造物表面への施工が可能となる。
【0014】
本発明に係るハンドローラーにおいて、固定具は、弾性材料から構成されていることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、上記固定具が緩衝材として機能するため、脱泡部材への力の伝達が均一になるよう調整でき、より好適に接着剤層の脱泡が可能となる。
【0016】
本発明に係るハンドローラーは、凹凸を有する構造物の表面に保護シートを貼り付ける際に用いられてもよい。
【0017】
この発明によれば、厚みのある接着剤層に対して脱泡部材による脱泡とロールによる保護シートの貼り付けとを好適に行うことができるので、凹凸を有する構造物表面であっても好適に保護シートを施工することができる。
【0018】
(2)本発明に係る保護シートの施工方法は、ポリマーセメント硬化層と該ポリマーセメント硬化層上に積層された樹脂層とを有する保護シートを構造物の表面に貼り付ける保護シートの施工方法であって、前記構造物の表面に接着剤層を形成した後に前記保護シートを前記ポリマーセメント硬化層が前記接着剤層側となるように貼り付ける貼付工程、前記本発明に係るハンドローラーのロールの脱泡部材を前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて移動させながら前記接着剤層の脱泡を行う脱泡工程、及び、前記ロールを前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて転動させながら前記保護シートを前記構造物に密着させる密着工程を有する、ことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、本発明に係るハンドローラーを用いるため、脱泡工程で接着剤層の脱泡と密着工程で構造物の表面に貼り付けた保護シートの密着とを連続して行うことができ、熟練の職人でなくても迅速に所望の保護シートの施工が可能となる。
【0020】
本発明に係る保護シートの施工方法は、密着工程において、本発明に係るハンドローラーの脱泡部材とロールとを、構造物に貼り付けた保護シートの樹脂層側の表面に同時に押し付けるものであってもよい。
【0021】
この発明によれば、密着工程においてロールを移動させる際のガイドの役割を脱泡部材が果たすことができ、より均一な表面の保護シートの貼り付けができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い技量を有していなくても迅速に脱泡された接着剤層を介して構造物の表面に保護シートの貼り付けが可能となるハンドローラー、及び、該ハンドローラーを用いた保護シートの施工方法を提供することができる。特に本発明に係るハンドローラーは、脱泡部材による接着剤層の脱泡とロールによる保護シートの密着とを連続して行うことができるため、厚みの厚い接着剤層を形成することができ、被塗布面に凹凸が形成されている場合であっても、迅速に所望の保護シートの貼り付けができる。
よって、これまでハンドローラーを操る職人の技量によるところが大きかった保護シートの貼り付けを容易に行うことができ、品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)~(c)は、本発明に係るハンドローラーの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明に係るハンドローラーの脱泡部材及びロールの一例を模式的に示す模式図である。
【
図3】本発明に係るハンドローラーの別の一例を模式的に示す模式図である。
【
図4】(A)、(B)は、保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図6】保護シートのメッシュ層の一例を示す模式図である。
【
図7】保護シートの樹脂層にエンボス処理を施す一例を示す模式図である。
【
図8】保護シートの樹脂層への凹凸形状の形成方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るハンドローラー及びそれを用いた保護シートの施工方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0025】
[ハンドローラー]
図1(a)に示したように、本発明に係るハンドローラー1は、ロール2と、ロール2を転動可能な状態で支持し、且つ把持可能な支持部6と、ロール2を支持部6に固定する支持部材5と、固定具4を介して支持部6に固定された脱泡部材3とを有する。
このような本発明に係るハンドローラー1及び構成する各部材の大きさについては特に限定されず施工者が支持部6をもって自由に扱うことができる大きさとなるよう適宜調整される。
図1(b)に示したように、本発明に係るハンドローラー1は、ロール2を軸として支持部6を回転させることができ、所望の位置に支持部6を移動させた後支持部材5部分を締め付けることで支持部6を固定することができる。
【0026】
[脱泡部材]
脱泡部材3は、コンクリート構造物等の表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成した後、後述する保護シートを貼り付ける際に、該保護シートの樹脂層側の表面から押し付けながら移動させることで接着剤層の脱泡を行う部材である。
このような脱泡部材としては、接着剤層中の気泡を外部に排出可能なものであれば特に限定されないが、例えば、脱泡ローラー又は薄板を好適に用いることができる。脱泡ローラー又は薄板を脱泡部材として用いることで、接着剤層の脱泡を好適に行うことができる。
【0027】
上記脱泡ローラーは、
図1(a)、(b)や
図2(a)に示した脱泡部材3のような繊維材料をロール状に成形したものが挙げられる。
上記繊維材料としては特に限定されず、例えば、天然毛、純毛、モヘア、合成繊維、混毛等の繊維のパイル、多孔質系樹脂や発泡系樹脂、その他の樹脂、あるいは金属、木材、紙材等が挙げられる。
【0028】
上記脱泡ローラーのローラー径としては本発明に係るハンドローラーの大きさ及び後述するロール2の大きさ等に合わせて適宜選択されるが、加えられる力を効率よく保護シートを介した接着剤層に伝えることができ、より効率的な接着剤層の脱泡が可能であることから15mm~40mmであることが好ましい。特に好ましくは25~30mmであれば脱泡の効率が高いことが認められている。
また、上記脱泡ローラーの幅のロール2の幅に対する比率としては100~120%程度であることが好ましい。100%未満であると、脱泡ローラーによる脱泡がされていない接着剤層に対してロール2による貼り付けがされる恐れがあり、120%を超えると、構造物の表面への保護シートの脱泡及び貼り付けを効率的に行うことができないことがある。上記比率のより好ましい下限は105%、より好ましい上限は110%である。
【0029】
図2(b)に脱泡部材3が薄板3aである場合の模式図を示したが、上記薄板は、接着剤層の脱泡のために保護シートの樹脂層側の表面から押し付けながら移動させる際に加えられる力により変形する弾性体であることが好ましい。上記薄板が加えられる力により変形しない剛体であると、薄板により保護シートが損傷する恐れがある。
上記弾性体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ベークライト、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、硬質ゴム、合成繊維等が挙げられる。
【0030】
薄板3aの幅は、上述した脱泡ローラーと同様であることが好ましい。
また、薄板3aの厚み(
図2(b)における左右方向の厚み)は使用される材料により適宜決定されるが、例えば、ポリエチレンから構成される薄板である場合、2mm~5mmであることが好ましい。2mm未満であると、接着剤層の脱泡時に十分な力を接着剤層に伝えることが難しく脱泡が不十分となることがあり、5mmを超えると薄板が強直となり接着剤層の脱泡が不十分となるだけでなく保護シートが損傷する恐れもある。
薄板3aの高さ(
図2(b)における上下方向の高さ)は、ロール2と同程度となるよう適宜調整される。
【0031】
また、本発明に係るハンドローラーおいて、
図2(a)、(b)に示したように脱泡部材3とロール2との間隔Dは35~45mmであることが好ましい。35mm未満であると、ロール2と脱泡部材3とが近づきすぎて脱泡部材3による接着剤層の脱泡とロール2による保護シートの構造物への密着とをスムーズに行うことができないことがあり、45mmを超えると、脱泡部材3に施工者が加える力が分散して不十分となり接着剤層の脱泡が不十分となることがある。脱泡部材3とロール2との間隔Dのより好ましい下限は38mm、より好ましい上限は42mmである。
ここで、上記間隔Dとは、
図2(a)、(b)に示したように、脱泡部材3のロール2側の表面(以下、内側面ともいう)とロール2の表面との最短距離であり、距離Dは、本発明に係るハンドローラーを側面方向から観察することで測定できる。なお、脱泡部材3の長軸方向とロール2の長軸方向とが平行でなく角度をもっている場合、上記距離Dは、脱泡部材3の内側面とロール2の表面との最短距離と最長距離とから算出した平均値である。
【0032】
本発明に係るハンドローラー1において、脱泡部材3は、ロール2の進行方向の前方又は後方に配置されている。このような配置であることで、脱泡部材3による接着剤層の脱泡とロール2による保護シートの貼り付けとを連続して行うことができる。脱泡部材3がロール2の進行方向の前方に配置されている場合、脱泡部材3による接着剤層の脱泡後にロール2による保護シートの貼り付けを行うことができ、脱泡部材3がロール2の進行方向の後方に配置されている場合、ロール2による貼り付け後に厚みが薄くなった接着剤層に対して脱泡部材3による脱泡を行うことができる。
いずれの方向に脱泡部材3を配置したとしても、本発明に係るハンドローラー1による保護シートの貼り付けは、保護シートに押し付けた状態で前後に繰り返し動かすことで接着剤層の脱泡と保護シートの構造物への密着とを好適に行うことができる。
【0033】
また、本発明に係るハンドローラーにおいて、脱泡部材3とロール2とを固定する固定具4は、
図2(a)、(b)に示したように構造物の表面に対して平行に配置されていてもよいが、所望の角度をもって配置されていてもよい。所望の角度をもって配置させる方法としては、後述するロール2を軸として固定具4を所望の角度に回転させ、支持部材5にて固定する方法が挙げられる。
【0034】
本発明に係るハンドローラーは、
図3に示したように、固定具4と支持部6とが垂直となるように脱泡部材3(薄板3a)が固定されていることが好ましい。
構造物の表面に塗布した接着剤層の脱泡は
図3に矢印で示した方向に本発明に係るハンドローラーを移動させて行う場合、固定具4と支持部6とが垂直となるように脱泡部材3(薄板3a)が固定されていることで脱泡部材3(薄板3a)に効率よく力を伝えることができ、接着剤層の脱泡をより好適に行うことができる。
【0035】
[ロール]
ロール2は、保護シートの表面を転動しながら押し付けて構造物に密着させる部材である。
ロール2の表面形状としては特に限定されず、例えば、平滑なもの、凹凸が形成されたもの等目的に応じて適宜選択できる。
また、保護シートの表面に立体模様を形成する場合においては、ロール2の表面は所定の凹凸模様を有する形状であることが好ましい。
【0036】
ロール2表面の凹凸模様としては特に限定されず、例えば、ドット模様、波模様、ストライプ模様等任意の模様が挙げられる。
ロール2の表面の材質としては特に限定されず、例えば、天然毛、純毛、モヘア、合成繊維、混毛等の繊維のパイル、多孔質系樹脂や発泡系樹脂、その他の樹脂、あるいは金属、木材、紙材等が挙げられる。
【0037】
本発明に係るハンドローラーにおいて、ロール2はローラー径が15~40mmであることが好ましい。15mm未満であると、均一な力で保護シートの構造物への密着ができないことがあり、40mmを超えると、ロール2に十分な力を伝えることが困難となることがある。ロール2のローラー径のより好ましい下限は25mm、より好ましい上限は30mmである。
また、ロール2は、長軸方向の幅が250~400mmであることが好ましい。250mm未満であると、広範囲にわたる保護シートの構造物への密着が困難となることがあり、400mmを超えると、均一な力で保護シートの構造物への密着ができないことがある。ロール2の長軸方向の幅のより好ましい下限は280mm、より好ましい上限は320mmである。
【0038】
[支持部]
支持部6は、ロール2の両端に連結されており、ロール2を転動自在となるように支持し、且つ把持可能な部材であり、ロール2を転動自在に支持且つ把持可能な形状であれば特に限定されない。
支持部6を構成する材料としては特に限定されず、例えば、金属、樹脂、木材、これらの組み合わせ等が挙げられる。
本発明に係るハンドローラー1は、支持部6を把持可能とすることで支持部6からロール2及び脱泡部材3への力の伝達が良好となり、脱泡部材3による接着剤層の脱泡とロール2による保護シートの密着とをよりスムーズに行うことができる。
【0039】
[支持部材]
支持部材5は、ロール2を支持部6に固定する部材であるが、後述する固定具4を介して板状部材3を支持部6に対して固定する役割も果たす。
このような支持部材5は、ネジのような固定と非固定とを調整できる部材であることが好ましい。支持部材5がネジ等で構成されていると、本発明に係るハンドローラー1の使用環境に合わせて脱泡部材3のロール2に対する固定位置を任意に調整できる。
更に、支持部材5は、ロール2を中心として脱泡部材3を回転自在に固定していてもよい。脱泡部材3がロール2を中心として回転自在に固定されていることで、脱泡部材3の自重による一定の圧力を接着剤層に加えることができ、保護シートの表面を脱泡部材3が均一に押し付けることで接着剤層の脱泡が均一に行われ、均一な表面状態の保護シートをより容易に形成することができる。なお、ロール2を中心として脱泡部材3を回転自在に固定する支持部材5を有する場合、脱泡部材3や後述する固定具4の質量を調整することで保護シートの表面に加える圧力を任意に調整できる。
【0040】
[固定具]
固定具4は、脱泡部材3とロール2及び支持部6との間に配置される部材であり、脱泡部材3は、固定具4によりロール2及び支持部6に固定される。
固定具4は、弾性材料から構成されていることが好ましい。固定具4が弾性材料から構成されていることで、固定具4が緩衝材として機能するため、脱泡部材3への力の伝達が均一になるよう調整でき、より均一な接着剤層の脱泡が可能となる。
上記弾性材料としては上述した脱泡部材3で列挙した弾性体と同様の材料の他、バネ等も用いることができる。
また、弾性材料以外の固定具4を構成する材料としては、例えば、金属、木材、紙材等が挙げられる。
【0041】
[把手部]
本発明に係るハンドローラー1は、
図1(c)に示したように支持部6と一体に形成された、若しくは支持部6に連結した把手部7を有していていもよい。
把手部7は、手などで把持できる形状及び大きさを有していれば特に限定されない。
把手部7を構成する材質としては特に限定されず、例えば、金属、樹脂、木材、あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。
このような把手部7は、従来公知のハンドローラーと同様の形状及び角度で支持部6に固定されていることが好ましい。
【0042】
上述した本発明に係るハンドローラー1によると、脱泡部材3による接着剤層の脱泡とロール2による保護シートの構造物への密着とを連続して行うことができるため、熟練者によらなくても気泡の内在しない接着剤層の形成と保護シートの構造物への貼り付けができ、かつ、所望の表面形状の保護シートを容易に形成できる。
【0043】
このような本発明に係るハンドローラー1は、凹凸を有する構造物の表面に保護シートを貼り付ける際に用いられてもよい。
上述のように脱泡部材3による接着剤層の脱泡とロール2による保護シートの構造物への貼り付けとを連続して行うことができるので、厚みの厚い接着剤層であっても好適に脱泡でき、凹凸を有する表面に対する塗布であっても所望の表面形状の保護シートを形成することができる。
【0044】
[保護シートの施工方法]
本発明に係るハンドローラーを用いた保護シートの施工方法としては、例えば、ポリマーセメント硬化層と該ポリマーセメント硬化層上に積層された樹脂層とを有する保護シートを構造物の表面に貼り付ける保護シートの施工方法であって、前記構造物の表面に接着剤層を形成した後に前記保護シートを前記ポリマーセメント硬化層が前記接着剤層側となるように貼り付ける貼付工程、本発明に係るハンドローラーの脱泡部材を前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて移動させながら前記接着剤の脱泡を行う脱泡工程、及び、前記ロールを前記構造物に貼り付けた前記保護シートの前記樹脂層側の表面に押し付けて転動させながら前記保護シートを前記構造物に密着させる密着工程を有する方法が挙げられる。このような保護シートの施工方法もまた、本発明の一つである。
【0045】
[保護シート]
本発明に係る保護シートの施工方法(以下、本発明の施工方法ともいう)において使用する保護シートは、ポリマーセメント硬化層と該ポリマーセメント硬化層上に積層された樹脂層とを有する。
より具体的には、
図4及び
図5に示すように、コンクリート構造物21側に設けられるポリマーセメント硬化層12と、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13とを備えている。このポリマーセメント硬化層12と樹脂層13の両層は、それぞれ、単層で形成されてもよいし積層として形成されてもよい。
【0046】
保護シート10は、水蒸気透過率が10~50g/m2.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層12はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層12上に設けられる樹脂層13は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、保護シート10全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、コンクリート等の構造物に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止しやすくなり、更には接着性の低下も防止しやすくなる。水蒸気透過率が所定の範囲にある他のメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、構造物中の金属(例えば鉄筋)の腐食を抑制できる傾向になる点を挙げることができる。また、雨の日に保護シート10を構造物に施工する場合には、構造物の表面が濡れると共に、構造物自体が水分を含んだ状態での施工となるが、保護シート10が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された構造物の製造後)に構造物にしみこんだ水分が外部へと抜けやすくなる。さらに、硬化直後のコンクリートは内部に多くの水分を含むが、このようなコンクリートに対しても保護シート10は好適に使用できる。
上記保護シート10のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば構造物のセメントが硬化していないような状態でも当該構造物の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、セメントを成型して硬化させる際に急激に水分が抜けるとセメントがポーラスになって構造物の強度が落ちる傾向となるが、上記保護シート10を硬化前のセメントに貼り付けることで、セメントの硬化時の水分除去のスピード等をコントロールでき、上記ポーラス構造になるのを避けやすくなるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m2.day未満であると、上記保護シート10が十分に水蒸気を透過させることができず、構造物に貼り付けた後の膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となる可能性がある。50g/m2.dayを超えると、セメントの硬化時の水分除去のスピードが過剰に早くなり、セメントの硬化物がポーラスになる不具合が生じる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m2.dayである。
このような水蒸気透過率を有する保護シート10は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層12と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層13に用いることにより得ることができる。
本発明における水蒸気透過率は、後述する方法で測定することができる。
【0047】
また、上記保護シート10は、建築用コンクリート基本ブロックに包んだ状態で5%硫酸水溶液に30日間浸漬後の硫酸浸透深さが0.1mm以下であることが好ましい。上記硫酸浸透深さが0.1mmを超えると、保護シート10の耐硫酸性が不十分となり、下水道コンクリート構造物といった硫酸に起因した腐食の生じる構造物に対して使用することができないことがある。上記硫酸浸透深さのより好ましい上限は0.01mmである。
なお、上記硫酸浸透深さは、公知の方法で測定することができる。
【0048】
また、保護シート10は、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。保護シート10で保護した構造物に対し、更に重ねて保護を行うことができるため、例えば、2枚の保護シートを並べて貼り付けた場合、これらの保護シート同士の境目を覆うように別の保護シートを貼り付けることができる。
上記保護シートは、ポリマーセメント硬化層がセメントと樹脂成分とを含有するものであるため、先に構造物に貼り付けた保護シートの樹脂層に対しても好適な接着性を示す。そのため、重ねた状態で保護シートは好適に使用できる。
【0049】
上記保護シート10において、JIS K 6781にある引裂荷重試験の項目の記載に従って測定した引裂荷重が3~20Nであることが好ましい。このような引裂荷重を有することで、保護をした構造物の崩壊や崩落が生じた際に適切に引き裂かれるため連鎖的な崩壊や崩落を防止することができる。また、保護をした構造物の一部のみ撤去する必要が生じた場合等においても任意の場所で引き裂きが可能なため構造物の一部の撤去が可能となる。上記引裂荷重が3N未満であると、構造物の保護自体が難しくなり、20Nを超えると適切なタイミングでの引き裂きが生じない場合がある。上記引裂荷重のより好ましい範囲は5~15Nである。
なお、上記引裂荷重は、公知の方法で測定することができる。
【0050】
上記保護シート10は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。保護シート10の厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層をコンクリート構造物21の表面に安定して設けることができる。
コンクリート構造物21側に設けられたポリマーセメント硬化層12は、コンクリート構造物21との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13は、所定の水蒸気透過率を有するが、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れた性質を容易に付与できる。
また、保護シート10は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の削減、構造物の長期保護を実現することができる。その結果、コンクリート構造物21の表面に貼り合わせる際の工期を削減できるとともにコンクリート構造物21を長期にわたって保護することができる。
【0051】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層12は、
図4に示すように、コンクリート構造物21側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層12は、例えば、
図4(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図4(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層12は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層13側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層がコンクリート構造物と接着することとなり両者に対する接着性が優れたものとなりやすい。
【0052】
ポリマーセメント硬化層12は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層12が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート構造物21への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。また、ポルトランドセメントの施工性もしくは施工後の物性を調整するために、ポルトランドセメントに、更に二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が加えられた公知の組成も使用可能である。
【0053】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層13を構成する樹脂成分と同じものであってもよい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層12の「硬化」の文言は、樹脂成分が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化する(層として固まる)ような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0054】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計量に対して10質量%以上、40重量%以下とする。10重量%未満であると、樹脂層13に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層12を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、コンクリート構造物21に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0055】
ポリマーセメント硬化層12を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを、乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルションを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0056】
ポリマーセメント硬化層12は、その塗工液を離型シート又は
図4に示すように離型シート14上に形成された後述する樹脂層13上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルションとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層12を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層12を形成した後に樹脂層を形成してもよいが、
図4に示すように離型シート上に樹脂層13を形成した後にポリマーセメント硬化層12を形成してもよい。本発明においては、例えば、離型シートにエンボス加工又はマット加工(凹凸形状の付与)をした上で、この上に樹脂層13(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)、ポリマーセメント硬化層12(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)の順番で形成し、樹脂層13に意匠性を付与するという方法を用いて保護シート10を製造してもよい。
【0057】
本発明では強度に優れる性能を付与できることからポリマーセメント硬化層12が後述するメッシュ層を有していてもよい。
メッシュ層を有する場合、例えば、離型シート上に樹脂層13をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後乾燥させる。
しかる後メッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、乾燥させることでポリマーセメント硬化層12にメッシュ層が存在する保護シート10を得ることができる。
また、離型シート上に樹脂層13をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後、乾燥させるステップを経ずにメッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、しかる後全体を乾燥させることでポリマーセメント硬化層12にメッシュ層が存在する保護シート10を得ることも可能である。
【0058】
ポリマーセメント硬化層12の厚さは特に限定されないが、コンクリート構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層12の厚さとしては、例えば0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0059】
このポリマーセメント硬化層12は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層13に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば10~50g/m2.day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、このポリマーセメント硬化層12は延伸性を付与できるので、コンクリート構造物21にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0060】
(メッシュ層)
メッシュ層は、
図5に示したようにポリマーセメント硬化層12の内部に存在していることが好ましい。メッシュ層16は、ポリマーセメント硬化層12の表面(ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13とが接する面又はその反対側の面)に配設されていてもよい。なかでも、メッシュ層16はポリマーセメント硬化層12の内部に埋設されていることが好ましい。メッシュ層16がポリマーセメント硬化層12の内部に埋設されていることで、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12との接触面積が増大し、両者の接着強度を優れたものとしやすくなり、ポリマーセメント硬化層12全体の強度も確保しやすくなる。
【0061】
本発明において、メッシュ層16にポリマーセメント硬化層12を構成する材料(例えばセメント成分又は樹脂成分)が含侵されていることが好ましい。
メッシュ層16にポリマーセメント硬化層12を構成する材料が含侵されている状態とは、メッシュ層16を構成する繊維間にポリマーセメント硬化層12を構成する材料が充填された状態にあることを意味し、このような含侵状態にあることで、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12との接着強度を極めて優れたものとしやすくなる。また、メッシュ層16とポリマーセメント硬化層12の材料との相互作用がより強固となりやすく、保護シート10の強度をより良好にしやすくなる。
【0062】
メッシュ層16は、
図6に示したように、経糸、緯糸の繊維を格子状にした構造が挙げられる。
上記繊維としては、例えば、ポリプロピレン系繊維、ビニロン系繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維から構成されたものであることが好ましく、なかでも、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維を好適に使用することができる。
またその形状は、特に限定されず、
図6に示したような二軸組布のほか、例えば、三軸組布等任意のメッシュ層16を用いることができる。
【0063】
メッシュ層16は、線密度0.2本~8.0本/cm、かつ線ピッチ50mm~1.2mmであることが望ましい。
線ピッチが1.2mm以下であると、メッシュ層16の上下のポリマーセメント硬化層12の結合が不十分になり、保護シート10の表面強度が不十分となることがある。また、線ピッチが50mmを超えると、保護シート10の表面強度に悪影響はないが、引張強度が弱くなることがある。
上記保護シート10において、引張強度と表面強度はトレードオフの関係にあり、本発明に適用するに適したメッシュ層16は、線ピッチ50mm~1.2mmの範囲にあるものである。
【0064】
メッシュ層16は、ポリマーセメント硬化層12の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層12の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層12よりも小さくてもよい。すなわち、メッシュ層16の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層16の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、メッシュ層16の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層12の平面視面積に対し90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。90%未満であると保護シート10の強度が不十分となることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。なお、メッシュ層16等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0065】
(樹脂層)
樹脂層13は、
図4に示すように、コンクリート構造物21とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層13は、例えば、
図4(A)に示すように単層であってもよいし、
図4(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0066】
樹脂層13は、柔軟性を有し、コンクリートに発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに、例えば防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層13を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前述したポリマーセメント硬化層12を構成する樹脂成分と同じものにしてもよい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有する樹脂であることが好ましい。
【0067】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0068】
樹脂層13を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート14上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層13を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層13を作製している。なお、離型シート14上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層13、ポリマーセメント硬化層12の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層12、樹脂層13の順番であってもよい。もっとも、離型シート上に樹脂層13を形成し、その後にポリマーセメント硬化層12を形成することが好ましい。
【0069】
樹脂層13の厚さは、コンクリート構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0070】
この樹脂層13は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、10~50g/m2.day程度とすることが望ましい。こうすることにより、保護シート10に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層12と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層12との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0071】
また、樹脂層13は、保護シート10のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層13は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層13に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア(酸化チタン)、酸化第二鉄等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。また、施工後の最表層に特有の意匠性を与えるために、カーボンブラックを含有させてもよい。
【0072】
また、樹脂層13のいずれか一方の面に意匠性が付与されていてもよい。ここで、いずれか一方の面とは、ポリマーセメント硬化層12側の面又はその反対の面をいう。意匠性は凹凸形状を設けるか又は印刷によって付与されていることが好ましい。上記意匠性を付与する処理としては特に限定されず、例えば、樹脂層13の表面に施されたエンボス処理又はマット処理(つや消し処理)、ミラー処理(光沢処理)、または樹脂層13の表面に印刷を行う処理が好適に用いられる。
【0073】
上記エンボス処理は樹脂層13の表面に所望の凹凸形状を付与する処理であり、例えば、
図7に示したようなロール表面に付与すべき凹凸に対応する凹凸が形成されたエンボスロール80に未硬化の樹脂層13’を送り出し、未硬化の樹脂層13’の表面を押し付けてエンボスロール80の凹凸を未硬化の樹脂層13’の表面に転写し、その後未硬化の樹脂層13’を硬化させて樹脂層13とする方法が挙げられる。
上記エンボスロールの凹凸の形状は特に限定されず、所望する意匠に応じで適宜選択すればよい。
なお、エンボス処理のその他の条件等は樹脂フィルムに対するエンボス処理として従来公知の条件を採用できる。
また、上記樹脂層13の表面に凹凸形状を形成する方法としては、エンボス処理に限定はされず、他の方法を用いてもよく、エンボス加工と類似の方法でいわゆるマット加工を行うことも可能である。
例えば、
図8に示したように、離型シート14にディンプル形状(半球状)の凹凸形状を深さ1ミクロン程度に設け、その上に上記未硬化の樹脂層13’を塗布し、その後未硬化の樹脂層13’中の樹脂を硬化させ、さらにポリマーセメント層12を設けた後に離型シート14を剥離すれば、樹脂層13の表面にマット状の意匠が形成された保護シート10を得ることができる。
【0074】
樹脂層13の表面を印刷する方法としては特に限定されず、例えば、溶剤と、バインダー樹脂(ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系等)と、各種顔料、体質顔料及び添加剤(可塑剤、乾燥剤、安定剤等)とを添加してなるインキにより印刷を行えばよい。
上記印刷する模様等は特に限定されず、構造物に付与する意匠に応じて適宜、文字、絵柄等が選択される。
また、上記インキの印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法が挙げられる。
なお、樹脂層13に対する密着性向上のため、上記インキを印刷する前に樹脂層13の表面にコロナ処理やオゾン処理等の処理が施されていてもよい。
上記保護シート10は一例として、離型シートの表面にエンボス状もしくはマット状の凹凸面を設け、その凹凸面に印刷により意匠を形成し、さらに樹脂層、ポリマーセメント層の順に設けることで形成することができる。
また、上記離型シートと凹凸面との界面にアクリルシリコンなどの透明樹脂層を介在させることも好適である。
その場合、構造物を保護した後の最表面にアクリルシリコンなどの樹脂層が存在するため、耐候性の向上に大きく寄与する。
【0075】
上記意匠性の付与は、樹脂層13の少なくとも一方の面に施されていればよく、例えば、樹脂層13の一方のポリマーセメント硬化層12側と反対側の面(保護シート10の表面となる面又は離型シート14と接する樹脂層13の表面)に施されている場合、より好的な意匠性を付与でき、特にエンボス処理等により凹凸形状を付与したときは立体感に優れた意匠性を付与できる。
また、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側の表面に意匠性の付与が施されている場合、付与された意匠が直接外気に接しないため長期間にわたり優れた意匠性を維持でき、また、エンボス処理を行った場合、立体的な意匠を付与しつつ樹脂層13の表面は平坦な構成が得られる。この場合、樹脂層13を透明又は半透明になるように形成してもよい。
更に、上記保護シート10では、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側の表面に印刷層を設け、樹脂層13の反対側の表面にエンボス処理等により凹凸形状を設けた構造も好適である。印刷層による優れた意匠性とエンボス処理の凹凸形状による立体感とを同時に得ることができ、更に上記凹凸形状による防眩性、防音性や防汚性といった機能を付与することもできる。
なお、樹脂層13のポリマーセメント硬化層12側と反対側面に凹凸形状を付与したときは、保護シート10の樹脂層12表面が凹凸を有することとなるが、後述する本発明に係るハンドローラーを用いた密着工程と整形工程とを行うので、所望の表面状態で保護シート10を構造物に貼り付けることができる。
【0076】
更に、樹脂層13は、公知の防汚剤を含有していてもよい。保護シート10は、通常屋外に設置されるコンクリート構造物の補修に用いられるため、樹脂層13は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで保護シート10が汚染されることを好適に防止できる。上記防汚剤としては特に限定されず従来公知の材料が挙げられる。
また、樹脂層13は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等が挙げられる。
【0077】
作製された保護シート10は、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との一方の面に離型シート14を備えてもよい。離型シート14は、例えば、施工現場移送の際に保護シート10の表面を保護することができ、施工現場では、対象となるコンクリート構造物21の上(又は下塗り層又は接着剤層15を介して)離型シート14を貼り付けたままの保護シート10を接着し、その後離型シート14を剥がすことで、施工現場での作業性が大きく改善される。なお、離型シート14は、保護シート10の生産工程で利用する工程紙や、離型処理を施したPETシートであることが好ましい。
【0078】
離型シート14として使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層やシリコンを含有する層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工上、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0079】
以上説明した保護シート10は、コンクリート構造物21を長期にわたって保護することができる。特に、保護シート10にコンクリート構造物21の特性に応じた性能を付与し、コンクリート構造物21に生じたひび割れや膨張に追従させること、コンクリート構造物21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした保護シート10は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術によらずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0080】
本発明の施工方法は、構造物の表面に接着剤層を形成した後に保護シートをポリマーセメント硬化層が接着剤層側となるように貼り付ける貼付工程、
本発明に係るハンドローラーのロールの脱泡部材を上記構造物に貼り付けた上記保護シートの上記樹脂層側の表面に押し付けて移動させながら上記接着剤層の脱泡を行う脱泡工程、及び、
上記ロールを上記構造物に貼り付けた上記保護シートの上記樹脂層側の表面に押し付けて転動させながら上記保護シートを上記構造物に密着させる密着工程を有する。
【0081】
[貼付工程]
(構造物)
上記構造物は、上記保護シート10が適用される相手部材である。
上記構造物としては、例えば、
図4に示したコンクリート構造物21等を挙げることができる。
上記コンクリートは、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたコンクリートは、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物として広く使用される。本発明では、コンクリート構造物21に保護シート10を適用することで、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。
【0082】
(接着剤層)
貼付工程では、上記構造物の表面に、硬化性樹脂材料を含有する接着剤層15を塗布することが好ましい。
上記硬化性樹脂材料としては、熱硬化、光硬化その他の方法で硬化して樹脂となるような性質を有する材料であれば特に制限はないが、好ましくは、エポキシ化合物を挙げることができる。この場合、接着剤層15が硬化することで形成される接着剤硬化層(
図1には不図示)は、エポキシ硬化物となる。エポキシ硬化物は、一般には、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を硬化剤により硬化させたものである。以下、エポキシ硬化物を接着剤層に用いる場合を例にとって説明する。
【0083】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物等が挙げられる。
また、上記硬化剤としては、多官能フェノール類、アミン類、ポリアミン類、メルカプタン類、イミダゾール類、酸無水物、含リン化合物等が挙げられる。これらのうち、多官能フェノール類としては、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ナフタレンジオール類、ビフェノール類、及び、これらのハロゲン化物、アルキル基置換体等が挙げられる。更に、これらのフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック、レゾールを用いることができる。アミン類としては、脂肪族又は芳香族の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩及び脂肪族環状アミン類、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられる。
上記例示のうち、接着剤層15の材料(硬化性樹脂材料を含む。)としては、エポキシ樹脂系接着剤として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ又はビスフェノールF型エポキシの主剤と、ポリアミン類又はメルカプタン類の硬化剤とを用いるもの等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂系接着剤は、上記主剤と硬化剤以外に、例えば、カップリング剤、粘度調整剤及び硬化促進剤等を含んでもよい。このような接着剤層として、例えば、東亞合成社製2液反応硬化形水系エポキシ樹脂エマルション「アロンブルコートP-300」(商品名 なお「アロンブルコート」は東亞合成社の登録商標である。)を用いることができる。
【0084】
接着剤層15は、一般的には構造物の下塗材として使用される。その塗布は、例えば、下塗材としては溶剤タイプのエポキシ樹脂溶剤溶液、又はエポキシ樹脂エマルション及びその他一般のエマルション、又は粘着剤等を構造物の表面に塗布すればよい。この場合、下塗材は通常の方法で施工することができ、例えば、劣化防止すべきコンクリート構造物21の表面に、刷毛又はローラー等により塗布したり、又はスプレーガン等で吹き付ける一般的な方法により塗布し、塗膜を形成させる。なお、本発明では上述した本発明に係るハンドローラーを用いた整形工程を有するので、接着剤層15の表面に凹凸が存在していても、所望の表面状態の保護シートの貼り付けが可能である。
接着剤層15の厚さは特に限定されないが、好ましくはウエットの状態で50μm以上、300μm以下の範囲内とすることができる。50μm以上とすることで接着剤層15の材料のコンクリートへのしみ込みを考慮した上で接着剤層15の厚さを均一にしやすくなると共に、構造物と保護シート10との接着性を確保しやすくなる。接着剤層15の厚さの上限は特に制限はされないが、塗布のしやすさや接着時の両層のずれを最小化する意味、また材料の使用料の最適化から、300μm以下とすることが好ましい。構造物の下塗り層として設ける接着剤層15、構造物と保護シート10との相互の密着を高めるように作用するので、接着剤層15を上記厚さにすれば、保護シート10は長期間安定して構造物を補強し保護しやすくなる。
なお、構造物にひび割れや欠損が生じている場合には、接着剤層15を塗布する前に、上記ひび割れや欠損を補修した後に接着剤層15を設けることが好ましい。補修の方法は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等を使って補修が行われる。
【0085】
貼付工程では、接着剤層15の上に、この接着剤層15とポリマーセメント硬化層12とが接するように保護シート10を設置する。保護シート10の設置は、例えば、
図4に示すように、コンクリート構造物21上に接着剤層15を塗布した後に保護シート10を貼り合わせることで行うことができる。その結果、熟練した作業者でなくとも厚さのバラツキの小さい層で構成された保護シート10を、コンクリート構造物21に設けることができ、工期を削減できるとともに、コンクリート構造物21を長期にわたって保護することができる。なお、接着剤層15はコンクリート構造物21上でなく、貼り合わせ直前に保護シート10のポリマーセメント硬化層12表面に塗布することも可能である。
【0086】
本発明の特徴の一つは、接着剤を用いることなく、下塗り層として機能する接着剤層15を接着層として用いることができる点にある。したがって、本発明においては、接着剤層15(未硬化、湿潤状態)の上に直接保護シート10を設置することができ、工程の短縮が図られる。
【0087】
[脱泡工程]
脱泡工程では、本発明に係るハンドローラー1の脱泡部材3を上記貼付工程で構造物の表面に貼り付けた保護シート10の樹脂層13側の表面に押し付けて移動させながら上記接着剤層の脱泡を行う。
上記脱泡工程では、
図1や
図3に示したように、本発明に係るハンドローラー1を脱泡部材3が移動方向の先頭となるように移動させる。
【0088】
脱泡部材3をロール2に固定する固定具4は、上述のように構造物の表面に対して所望の角度をもつように固定することができるので、本脱泡工程を行う際には構造物の表面の状態や保護シートの大きさ、作業者の好みに応じて適宜調整することが好ましい。
【0089】
[密着工程]
密着工程では、本発明に係るハンドローラー1のロール2を保護シート10の樹脂層13側の表面に押し付けて転動させる。
本発明に係るハンドローラー1のロール2の保護シート10表面への押し付け圧力としては特に限定されず、貼付対象物や保護シート10の材質、使用目的等を勘案して適宜調整される。
本密着工程を行うことで、保護シート10を構造物に密着させることができる。
【0090】
なお、上述した離型シート14を有する場合、本密着工程及び上述した脱泡工程は離型シート14越しに施し、その後離型シート14を剥がすことが好ましい。
【0091】
本密着工程において、接着剤層15を介して構造物に貼り付けた保護シート10の樹脂層13側の表面が凹凸を有していてもよい。
本発明の施工方法では、上述した脱泡工程と密着工程とを連続して行うことができるので、保護シート10の表面に凹凸を有していても迅速に所望の表面形状に整えることができる。
【0092】
密着工程を経た後、接着剤層15を硬化させて接着剤硬化層(
図4には不図示)とすることで、保護シート10をコンクリート構造物21のような構造物に施工することができる。
接着剤層15の硬化は、例えば、接着剤層15と保護シート10とを張り合わせた状態で24時間放置することによって行う。通常の環境における施工において硬化させることで、温度、湿度などの管理が不要となる利点がある。
【符号の説明】
【0093】
1 ハンドローラー
2 ロール
3 脱泡部材
3a 薄板
4 固定具
5 支持部材
6 支持部
7 把手部
10 保護シート
12 ポリマーセメント硬化層
13 樹脂層
13’ 未硬化の樹脂層
14 離型シート
15 接着剤層
16 メッシュ層
21 コンクリート構造物
80 エンボスロール