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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117768
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】電圧調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20220804BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H02J3/12
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014452
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 博宣
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA01
5G064AA04
5G064AC09
5G064CB06
5G064CB12
5G064DA03
5G066DA01
(57)【要約】
【課題】整定値の演算によらずに配電線の電圧を適正に且つ自律的に調整することが可能な電圧調整装置を提供する。
【解決手段】電力系統の配電線の電圧を調整する電圧調整装置は、自身より前記配電線の下流側に位置し、且つ、自身と隣接する他の電圧調整装置又は前記配電線の所定位置との間に位置する電圧計測器から前記配電線の電圧を取得する取得部と、該取得部が取得した電圧が予め設定された不感帯領域を逸脱した時間を計時する計時部と、該計時部が計時した時間が予め設定された動作時限より長い場合、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回ったか又は下回ったかに応じて前記配電線の電圧を降圧又は昇圧するように調整する調整部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の配電線の電圧を調整する電圧調整装置であって、
自身より前記配電線の下流側に位置し、且つ、自身と隣接する他の電圧調整装置又は前記配電線の所定位置との間に位置する電圧計測器から前記配電線の電圧を取得する取得部と、
該取得部が取得した電圧が予め設定された不感帯領域を逸脱した時間を計時する計時部と、
該計時部が計時した時間が予め設定された動作時限より長い場合、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回ったか又は下回ったかに応じて前記配電線の電圧を降圧又は昇圧するように調整する調整部と
を備える電圧調整装置。
【請求項2】
前記取得部は、複数の前記電圧計測器から電圧を取得し、
前記調整部は、何れかの電圧計測器について前記計時部が計時した時間が前記動作時限より長い場合に電圧を調整する
請求項1に記載の電圧調整装置。
【請求項3】
前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回る電圧計測器と下回る電圧計測器が混在する場合、前記計時部は、どの電圧計測器についても時間を計時しない
請求項2に記載の電圧調整装置。
【請求項4】
前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回る電圧計測器と下回る電圧計測器が混在する場合、前記計時部は、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を逸脱する電圧計測器のうち、予め設定された優先度が最も高い電圧計測器について時間を計時する請求項2に記載の電圧調整装置。
【請求項5】
前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を逸脱する電圧計測器について前記不感帯領域の逸脱方向及び逸脱量を保持する保持部を更に備え、
前記調整部は、前記保持部が保持した逸脱方向別に、前記保持部が保持した逸脱量の総和を算出し、算出したそれぞれの総和の差分の符号及び大きさに基づいて電圧を調整する
請求項2に記載の電圧調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自身より下流側の配電線の電圧に基づいて配電線の電圧を調整する電圧調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の配電線は、変電所からの亘長が伸びるほど線路電圧降下が大きくなるため、亘長の長さに応じてSVR(=Step Voltage Regulator )等の電圧調整機器が複数設置される。電圧調整機器は、例えば、負荷中心点における線路電圧降下の推定結果に基づく整定値に応じて変圧器のタップを切り換えるLDC(=Line Voltage. Drop Compensator )機能を備えている。
【0003】
一方、近年の地球環境問題を背景に、太陽光発電(PV=Photo Voltaic)に代表される分散型電源が幅広く導入されている。分散型電源が配電線上に点在して接続されている場合、その発電量が天候の影響を受けるため、配電線における電圧及び電流の大きさ並びに電流の位相が大きく変動する。
【0004】
また、配電線上に容量負荷やリアクタンス負荷が多数接続されている場合、線路電圧降下は非線形性が強くなり、場合によっては電圧最小地点が末端よりも変電所側に近い位置になることがある。このように、分散型電源によって系統電圧が日々大きく変動し、変動の態様が多様化すると、電圧調整機器の整定値が適正ではなくなり、不必要な電圧調整が頻発する可能性がある。
【0005】
これに対し、特許文献1には、所定時間帯内における日射量及び配電系統内の子局から得た電圧、電流等の情報に基づいて整定値であるインピーダンスを求め、これを整定値としてタップを調整する電圧調整装置が開示されている。また、特許文献2には、配電系統に設置されたセンサから送られた電流、力率、電力、電圧等の計測データと自身で計測した計測データとに基づいて整定パラメータを決定する電圧自動調整器が開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、配電線上の複数地点で電圧計測を繰り返し、電圧の適正範囲から1箇所でも逸脱した場合、逸脱が最大となる計測地点に最も近い位置の電圧制御機器を作動させる電圧制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-126229号公報
【特許文献2】特開2010-220283号公報
【特許文献3】特開2007-330067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1又は2に開示された技術によれば、システム構成が複雑であり、整定値の演算が煩雑になるという問題があった。また、特許文献3に開示された技術によれば、複数の電圧制御機器を統括的に制御する制御装置が必要となる。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、整定値の演算によらずに配電線の電圧を適正に且つ自律的に調整することが可能な電圧調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電圧調整装置は、電力系統の配電線の電圧を調整する電圧調整装置であって、自身より前記配電線の下流側に位置し、且つ、自身と隣接する他の電圧調整装置又は前記配電線の所定位置との間に位置する電圧計測器から前記配電線の電圧を取得する取得部と、該取得部が取得した電圧が予め設定された不感帯領域を逸脱した時間を計時する計時部と、該計時部が計時した時間が予め設定された動作時限より長い場合、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回ったか又は下回ったかに応じて前記配電線の電圧を降圧又は昇圧するように調整する調整部とを備える。
【0011】
本発明にあっては、自装置より配電線の下流側に位置し、且つ、下流側に隣接する他の電圧調整装置があれば当該他の電圧調整装置より上流側に位置し、隣接する他の電圧調整装置が無ければ配電線の所定位置より上流側に位置する任意の電圧計測器から電圧を取得する。そして、取得した電圧が動作時限より長く不感帯領域を逸脱した場合、取得した電圧が不感帯領域を逸脱する逸脱方向に応じて配電線の電圧を昇降圧する。これにより、配電線の下流側における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整される。
【0012】
本発明に係る電圧調整装置は、前記取得部は、複数の前記電圧計測器から電圧を取得し、前記調整部は、何れかの電圧計測器について前記計時部が計時した時間が前記動作時限より長い場合に電圧を調整する。
【0013】
本発明にあっては、配電線の下流側に位置する複数の電圧計測器のうちの何れかから取得した電圧が、動作時限より長く不感帯領域を逸脱した場合に、配電線の電圧を調整する。これにより、配電線の下流側の複数の位置における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整される。
【0014】
本発明に係る電圧調整装置は、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回る電圧計測器と下回る電圧計測器が混在する場合、前記計時部は、どの電圧計測器についても時間を計時しない。
【0015】
本発明にあっては、配電線の下流側に位置する複数の電圧計測器のうち、取得された電圧が動作時限より長く不感帯領域を上回るものと下回るものが混在する場合は、どの電圧計測器についても不感帯領域を逸脱する時間を計時しない。これにより、配電線の不必要な電圧変動が抑制される。
【0016】
本発明に係る電圧調整装置は、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を上回る電圧計測器と下回る電圧計測器が混在する場合、前記計時部は、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を逸脱する電圧計測器のうち、予め設定された優先度が最も高い電圧計測器について時間を計時する。
【0017】
本発明にあっては、配電線の下流側に位置する複数の電圧計測器について、予め優先度が設定されており、各電圧計測器のうち、取得された電圧が動作時限より長く不感帯領域を上回るものと下回るものが混在する場合は、このうち最も優先度が高い電圧計測器について不感帯領域を逸脱する時間を計時する。これにより、配電線の下流側の優先度が最も高い位置における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整される。
【0018】
本発明に係る電圧調整装置は、前記取得部が取得した電圧が前記不感帯領域を逸脱する電圧計測器について前記不感帯領域の逸脱方向及び逸脱量を保持する保持部を更に備え、前記調整部は、前記保持部が保持した逸脱方向別に、前記保持部が保持した逸脱量の総和を算出し、算出したそれぞれの総和の差分の符号及び大きさに基づいて電圧を調整する。
【0019】
本発明にあっては、取得された電圧が不感帯領域を逸脱する電圧計測器について、逸脱方向及び逸脱量を保持する。配電線の下流側に位置する複数の電圧計測器について、保持した逸脱量の総和を逸脱方向別に算出し、算出したそれぞれの総和のどちらがどれだけ大きいかに基づいて配電線の電圧を昇降圧する。これにより、各電圧計測器についての不感帯領域に対する逸脱量が上限側と下限側とで相殺されるように調整される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、整定値の演算によらずに配電線の電圧を適正に且つ自律的に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態1に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図2】配電線の電圧が不感帯内に調整される様子を示すタイミングチャートである。
図3】積分時限型の動作時限の変化特性を例示するグラフである。
図4】各電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する態様の組合せを示す図表である。
図5】実施形態1に係る電圧調整装置で配電線の電圧を調整するCPUの処理手順を示すフローチャートである。
図6】実施形態2に係る電圧調整装置で配電線の電圧を調整するCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。いわゆるSVRである電圧調整装置100は、電力系統の配電線の電圧を変圧するタップ付きの変圧器110と、変圧器110が有するタップを切り換えるタップ切換器111と、タップ切換器111にタップの切換指令を発令する制御部10とを備える。
【0023】
変圧器110から見て、変電所200とは反対側(下流側)の配電線300には、区間S_1,S_2,S_3のそれぞれに対応して電圧計測器M_1,M_2,M_3が接続されている。区間S_1,S_2,S_3のそれぞれには、複数の負荷(不図示)が更に接続されている(以下同様)。配電線300における区間の数は3に限定されない。配電線300と、該配電線300の更に下流側の配電線301との間には、隣接する他の電圧調整装置101が接続されている。配電線301には、区間S_11,S_12,・・・のそれぞれに対応して電圧計測器M_11,M_12,・・・が接続されている。
【0024】
変圧器110から見て、変電所200側(上流側)の配電線302には、区間S_21,S_22,S_23のそれぞれに対応して電圧計測器M_21,M_22,M_23が接続されている。配電線302における区間の数は3に限定されない。配電線302と、該配電線302の更に上流側の配電線303との間には、隣接する他の電圧調整装置102が接続されている。
【0025】
電圧計測器M_1,M_2,M_3及びM_21,M_22,M_22は、それぞれが接続されている配電線300及び302の電圧を計測し、計測した電圧を、例えばポーリングによりマルチホップ方式で電圧調整装置100に無線送信する。電圧計測器M_1,M_2,M_3及びM_21,M_22,M_22のそれぞれが、電圧調整装置100に直接的に無線送信してもよいし、有線送信するようにしてもよい。
【0026】
各電圧計測器は、計測用変圧器又は抵抗分圧器を用いて専用に構成してもよいし、開閉局子局、柱上変圧器等の既存の設備に電圧の計測回路を追加して構成してもよい。各電圧計測器は、それぞれが接続される区間毎の契約需要家の容量及び負荷特性を考慮して接続位置を決定することにより、より正確に配電線300及び302の電圧を調整することが可能となる。
【0027】
制御部10は、装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit )11を備える。CPU11は、制御プログラム等の情報を記憶するROM(Read Only Memory )12、一時的に発生した情報を記憶するRAM(Random Access Memory )13及び経過時間等を計時するタイマ14と互いにバス接続されている。制御部10が、CPUを有するマイクロコンピュータを含んで構成されていてもよい。CPU11又はマイクロコンピュータは、予め処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行するように構成されている。
【0028】
CPU11には、また、タップ切換器111に切換指令を発令するための出力部15と、電圧計測器M_1,M_2,M_3及びM_21,M_22,M_23と通信するための通信部16とがバス接続されている。CPU11は、切換指令を発令する切換指令部の機能をソフトウェア処理によって実現する。CPU11は、更に、各電圧計測器が計測した計測結果である電圧を、通信部16を用いた無線通信又は有線通信により取得する。
【0029】
以上のように構成された電圧調整装置100の制御部10は、例えば、変圧器110のタップ切換前後における配電線300,302の電圧を不図示の計測用変圧器を用いて検出し、検出した電圧の変化態様に基づいて変電所200の接続方向である電気所方向を判定する。電気所方向は、いわゆる系統切替の前後で逆転することがある。電気所方向の判定については様々な方法が提案されており、ここでの説明を省略する。
【0030】
制御部10は、図1に示す接続構成において、配電線302側の方向を電気所方向と判定した場合、配電線300側を下流側とする。制御部10は、下流側に隣接する他の電圧調整装置101との間に位置する電圧計測器M_1,M_2,M_3から、例えば1秒周期で配電線300の電圧を取得する。
【0031】
制御部10が電圧を取得する電圧計測器は、例えば電圧計測器M_1,M_2であってもよいし、電圧計測器M_1,M_3であってもよいし、電圧計測器M_2,M_3であってもよい。下流側に電圧調整装置101が存在しない場合、制御部10は、例えば電圧計測器M_1,M_2,M_3から配電線300の電圧を取得してもよいし、これらに加えて、電圧計測器M_11,M_12,・・・から更に配電線301の電圧を取得してもよい。制御部10が電圧を取得する最も下流側の電圧計測器よりも更に下流側の適当な位置が所定位置に相当する。
【0032】
制御部10は、例えば取得した電圧の何れかが予め設定された動作時限より長く不感帯領域(以下、単に不感帯と言う)を逸脱した場合、取得した電圧が不感帯を上回ったか又は下回ったかに応じてタップを上げるか又は下げることにより、配電線300の電圧を昇降又は降圧する。
【0033】
制御部10は、図1に示す例とは逆に、配電線300側の方向を電気所方向と判定した場合、配電線302側を下流側とし、下流側に隣接する他の電圧調整装置102との間に位置する電圧計測器M_21,M_22,M_23から配電線302の電圧を取得する。制御部10が電圧を取得する電圧計測器は、例えば電圧計測器M_21,M_22であってもよいし、電圧計測器M_21,M_23であってもよいし、電圧計測器M_22,M_23であってもよい。制御部10は、取得した電圧が不感帯を上回ったか又は下回ったかに応じてタップを上げるか又は下げることにより、配電線302の電圧を昇降又は降圧する。
【0034】
図2は、配電線300の電圧が不感帯内に調整される様子を示すタイミングチャートである。図2の縦軸は配電線300の電圧を表し、横軸は時間(t)を表す。Vaは目標電圧(即ち基準電圧:6600V)を示し、Vb1及びVb2はそれぞれ不感帯の下限値及び上限値を示す。図2に示す例では不感帯の幅が目標電圧の±1%であり、下限値及び上限値はそれぞれ6534V及び6666Vである。時刻t1及びt3は、それぞれ一の電圧計測器から取得した電圧が不感帯の上限値を上回り始める時刻及び下限値を下回り始める時刻である。時刻t1からt2までの時間、及び時刻t3からt4までの時間が、動作時限に相当する。
【0035】
例えば一の電圧計測器から取得した電圧が不感帯の上限値を上回る逸脱状態が、時刻t1からt2まで動作時限だけ継続した場合、制御部10は、変圧器110のタップを下げる方向にタップ切換して降圧する。これにより、時刻t2にて配電線300の電圧がステップ状に下降する。また、一の電圧計測器から取得した電圧が不感帯の下限値を下回る逸脱状態が、時刻t3からt4まで動作時限だけ継続した場合、制御部10は、変圧器110のタップを上げる方向にタップ切換して昇圧する。これにより、時刻t4にて配電線300の電圧がステップ状に上昇する。
【0036】
一の電圧計測器から取得した電圧が不感帯の上限値を上回る逸脱状態から下回る状態に変化した場合、制御部10は、逸脱状態の継続時間の計時を一時的に停止し、該電圧が不感帯の上限値を再び上回った場合に計時を再開する。同様に、一の電圧計測器から取得した電圧が不感帯の下限値を下回る逸脱状態から上回る状態に変化した場合、制御部10は、逸脱状態の継続時間の計時を一時的に停止し、該電圧が不感帯の下限値を再び下回った場合に計時を再開する。
【0037】
逸脱状態の継続時間を計時する方式は、一定時間にわたって計時する定時限型であってもよいし、不感帯を逸脱する偏差電圧の大きさに応じて動作時限が変化する積分時限型であってもよい。図3は、積分時限型の動作時限の変化特性を例示するグラフである。図3の横軸は基準電圧から逸脱する電圧の偏差を、基準電圧に対する比率(±%)で表した偏差電圧であり、縦軸は動作時限(秒)を表す。動作時限は以下の式(1)によって表される。
【0038】
動作時限(秒)=積分定数(秒・%)/{偏差電圧(±%)-不感帯(±%)}…(1)
【0039】
図3の曲線は、偏差電圧が大きいほど動作時限が短くなる反限時特性を示している。ここでは、積分定数が200(秒・%)であり、不感帯が1(±%)であるから、例えば偏差電圧が6(±%)である場合、動作時限が40秒となる(図の太い実線参照)。
【0040】
上述の例では、一の電圧計測器から取得した電圧、即ち一の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱した場合について説明したが、3つの電圧計測器M_1,M_2,M_3の計測結果が不感帯を逸脱する態様は、一律ではない。このことについて、図表を用いて説明する。
【0041】
図4は、各電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する態様の組合せを示す図表である。不感帯を逸脱する態様は、「逸脱なし」、「(不感帯の)上限逸脱あり」及び「(不感帯の)下限逸脱あり」の3種類である。何れかの電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する逸脱状態が動作時限だけ継続した場合の動作を「限時動作」として記載してある。
【0042】
限時動作が「-」であるのは、制御部10が切換指令を発令しない場合に対応している。図表中の丸印は、不感帯を逸脱するそれぞれの態様に該当する電圧計測器が存在することを示している。また、括弧付きの丸印は、不感帯を逸脱するそれぞれの態様に該当する電圧計測器が存在する場合と、存在しない場合とが含まれることを示している。
【0043】
番号1の場合、どの電圧計測器の計測結果も不感帯を逸脱せず、切換指令は発令されない。番号2の場合、少なくとも1つの電圧計測器の計測結果が不感帯の上限値を逸脱しており、どの電圧計測器の計測結果も不感帯の下限値を逸脱しておらず、何れかの電圧計測器の計測結果が不感帯の上限値を逸脱する逸脱状態が動作時限だけ継続したときに、制御部10が降圧の切換指令を発令する。番号3の場合、少なくとも1つの電圧計測器の計測結果が不感帯の下限値を逸脱しており、どの電圧計測器の計測結果も不感帯の上限値を逸脱しておらず、何れかの電圧計測器の計測結果が不感帯の下限値を逸脱する逸脱状態が動作時限だけ継続したときに、制御部10が昇圧の切換指令を発令する。
【0044】
番号4の場合、少なくとも1つの電圧計測器の計測結果が不感帯の上限値を逸脱しており、且つ少なくとも1つの電圧計測器の計測結果が不感帯の下限値を逸脱している。この場合、1つ目の方法は、何れの電圧計測器についても不感帯を逸脱する逸脱状態の継続時間を計時しないことであり、制御部10は切換指令を発令しない。2つ目の方法は、何れかの電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する逸脱状態が動作時限だけ継続したときに、制御部10が昇圧又は降圧の切換指令を発令することである。3つ目の方法は、計測結果が不感帯を逸脱する電圧計測器のうち、最も優先度が高い電圧計測器について不感帯を逸脱する逸脱状態の継続時間を計時することであり、この逸脱状態が動作時限だけ継続したときに、制御部10が昇圧又は降圧の切換指令を発令する。
【0045】
なお、通常は、番号4の場合が出現することがないように、電圧調整装置100と電圧調整装置101,102との間の亘長の上限が設定されるが、それでも番号4の場合の出現が想定されるのであれば、各電圧計測器について各別の基準電圧及び不感帯を設定してもよい。例えば、電圧調整装置100からの亘長が長い電圧計測器ほど基準電圧を下げたり、不感帯を広げたりすればよい。
【0046】
次に、このように構成された実施形態1に係る電圧調整装置100の制御部10の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。以下に示す処理は、ROM12に予め格納された制御プログラムに従って、CPU11により実行される。図5は、実施形態1に係る電圧調整装置100で配電線300の電圧を調整するCPU11の処理手順を示すフローチャートである。
【0047】
図5の処理は、例えば1秒毎に起動される。図中では電圧計測器を計測器と略記する。また、逸脱状態の継続時間を逸脱時間と略記する。更に、上限値及び下限値それぞれを上限及び下限と略記する。各電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する時間は、タイマ14によって個別に計時され、計時の中断及び再開が可能である。電圧計測器M_1,M_2,M_3及びM_21,M_22,M_22については、予め優先度が設定されている。
【0048】
図5の処理が起動された場合、CPU11は、タップ切換中であるか否か、即ち切換指令を発令してから所定時間が経過していないか否かを判定し(S11)、タップ切換中である場合(S11:YES)、特段の処理を行わずに図5の処理を終了する。切換指令の発令後の所定時間内に特段の処理を行わないのは、タップ切換により配電線300の電圧が急激に変化して安定しないことを考慮するものである。
【0049】
タップ切換中ではない場合(S11:NO)、CPU11は、下流側の電圧計測器M_1,M_2,M_3から配電線300の電圧の計測結果を取得する(S12:取得部に相当)。計測結果を所定の収集時間内に取得できない場合は、前回の取得結果を用いればよい。次いで、CPU11は、一の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱しているか否かを判定し(S13)、逸脱していない場合(S13:NO)、当該電圧計測器について逸脱時間の計時中であれば計時を中断して(S14)、後述するステップS19に処理を移す。
【0050】
一の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱している場合(S13:YES)、CPU11は、当該電圧計測器について逸脱時間の計時中であるか否かを判定する(S15)。逸脱時間の計時中ではない場合(S15:NO)、CPU11は、逸脱時間の計時の中断中であるか否かに応じて計時を再開するか又は開始(S16:計時部に相当)した後に、ステップS19に処理を移す。ステップS16では、逸脱量、即ち偏差電圧の大小に応じて計時の速度を増減させることにより、積分時限型の計時を行うことができる。例えば、単位時間毎に残り時間をカウントダウンするカウントダウンタイマを用いる場合は、偏差電圧の大小に応じて、単位時間毎にカウントダウンする数値を増減させればよい。
【0051】
一の電圧計測器について逸脱時間の計時中である場合(S15:YES)、CPU11は、逸脱時間が動作時限を経過したか否かを判定する(S18)。動作時限を経過していない場合(S18:NO)、CPU11は、計測結果を取得した全ての電圧計測器についてステップS13以降の各処理を終了したか否かを判定する(S19)。
【0052】
計測結果を取得した全ての電圧計測器について各処理を終了していない場合(S19:NO)、CPU11は、他の一の計測器について各処理を行うためにステップS13に処理を移す。一方、計測結果を取得した全ての電圧計測器について各処理を終了した場合(S19:YES)、CPU11は、計測結果が不感帯を逸脱する電圧計測器のうち、上限値を逸脱するものと下限値を逸脱するものとが混在するか否かを判定する(S20)。
【0053】
上限値及び下限値を逸脱するものが混在しない場合(S20:NO)、CPU11は、そのまま図5の処理を終了する。一方、上限値及び下限値を逸脱するものが混在する場合(S20:YES)、CPU11は、計測結果が不感帯を逸脱する電圧計測器のうち、最高優先度に設定された電圧計測器を特定する(S21)。次いで、CPU11は、最高優先度より低い優先度の電圧計測器について逸脱時間の計時を停止(S22)した後に図5の処理を終了する。これにより、最高優先度の電圧計測器についてのみ逸脱時間の計時が継続される。ステップS22では、逸脱時間の計時を停止せずに中断するようにしてもよい。
【0054】
ステップS18で不感帯の逸脱時間が動作時限を経過した場合(S18:YES)、CPU11は、計測結果が不感帯の上限値を逸脱したか否かを判定する(S23)。不感帯の上限値を逸脱した場合(S23:YES)、CPU11は、降圧を指令する切換指令を発令する(S24:調整部に相当)。一方、不感帯の下限値を逸脱した場合(S23:NO)、CPU11は、昇圧を指令する切換指令を発令する(S25:調整部に相当)。ステップS24又はS25の処理を終えた場合、CPU11は、計測結果を取得した全ての電圧計測器について不感帯の逸脱時間の計時を停止(S26)した後に図5の処理を終了する。
【0055】
なお、図5のフローチャートは、電気所方向が配電線302側の方向であることを前提にしたものであるが、電気所方向が配電線300側の方向である場合についても同様である。即ち、ステップS12では下流側の電圧計測器M_21,M_22,M_23から配電線302の電圧の計測結果を取得する。また、昇圧及び降圧の切換指令は、配電線302の電圧を配電線300の電圧に対して昇圧及び降圧するものとする。
【0056】
また、図5のステップS20では、計測結果が不感帯の上限値を逸脱するものと下限値を逸脱するものとが混在するか否かを判定したが、この判定を行わずに図5の処理を終了してもよい。この場合、後に実行されるステップS18で一の電圧計測器について逸脱時間が動作時限を経過したと判定されたときに、ステップS24又はS25にて降圧又は昇圧の切換指令が発令されることとなる。
【0057】
更に、図5のステップS21,S22では、最高優先度の電圧計測器以外の電圧計測器について逸脱時間の計時を停止又は中断したが、計測結果を取得した全ての電圧計測器について逸脱時間の計時を停止又は中断してもよい。この場合、切換指令は発令されないこととなる。
【0058】
以上のように本実施形態1によれば、自装置より配電線300の下流側に位置し、且つ下流側に接続された他の電圧調整装置101より上流側に位置する電圧計測器M_1,M_2,M_3から電圧を取得し、取得した電圧が動作時限より長く不感帯領域を逸脱した場合、取得した電圧が不感帯領域を逸脱する逸脱方向に応じて配電線300の電圧を昇降圧する。これにより、配電線300の下流側における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整される。従って、整定値の演算によらずに配電線300の電圧を適正に且つ自律的に調整することが可能となる。
【0059】
また、実施形態1によれば、配電線300の下流側に位置する3つの電圧計測器M_1,M_2,M_3のうちの何れかから取得した電圧が、動作時限より長く不感帯領域を逸脱した場合に、配電線300の電圧を調整する。従って、配電線300の下流側の3つの位置における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整することができる。
【0060】
更に、実施形態1によれば、配電線300の下流側に位置する3つの電圧計測器M_1,M_2,M_3のうち、計測結果が動作時限より長く不感帯領域を上回るものと下回るものが混在する場合は、どの電圧計測器についても不感帯領域を逸脱する時間を計時しないようにしてもよい。この場合は、配電線300の不必要な電圧変動を抑制することができる。
【0061】
更に、実施形態1によれば、配電線300の下流側に位置する3つの電圧計測器M_1,M_2,M_3について、予め優先度が設定されており、各電圧計測器のうち、取得された電圧が動作時限より長く不感帯領域を上回るものと下回るものが混在する場合は、このうち最も優先度が高い電圧計測器について不感帯領域を逸脱する時間を計時する。従って、配電線300の下流側の優先度が最も高い位置における実際の電圧が、不感帯領域内に収まるように調整することができる。
【0062】
(実施形態2)
実施形態1は、一の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱した方向に応じて降圧又は昇圧を指令する形態であった。これに対し、実施形態2は、1又は複数の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱する方向と逸脱量とに応じて降圧又は昇圧の切換指令を発令する形態である。実施形態2に係る電圧調整装置のブロック構成は、実施形態1に係る電圧調整装置100と同様であるため、図示を省略すると共に、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0063】
本実施形態2では、不感帯の逸脱時間を計時中の電圧計測器について、制御部10が計測結果を取得する都度、逸脱方向と逸脱量とを記憶しておき、一の電圧計測器について計測結果が不感帯を逸脱する逸脱状態が動作時限だけ継続したときに、所定の演算を行って降圧するか又は昇圧するかを決定する。具体的には、制御部10は、計測結果を取得した全ての電圧計測器について、不感帯の上限値の逸脱量の総和と下限値の逸脱量の総和とを算出し、算出した各総和の差分の符号と大きさに基づいて降圧又は昇圧を指令する切換指令を発令する。
【0064】
以下では、上述した制御部10の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。図6は、実施形態2に係る電圧調整装置100で配電線300の電圧を調整するCPU11の処理手順を示すフローチャートである。図6に示すステップS31からS36の処理は、実施形態1の図5に示すステップS11からS16の処理と同等であるため、これらのステップの説明の大部分を省略する。
【0065】
図6の処理が起動された場合、CPU11は、ステップS31からステップS35までの処理を、ステップS11からステップS15までの処理と同様に実行する。一の電圧計測器の計測結果が不感帯を逸脱しており(S33:YES)、且つ当該電圧計測器について逸脱時間の計時中である場合(S35:YES)、CPU11は、逸脱方向及び逸脱量をRAM13に記憶する(S37:保持部に相当)。ここでの逸脱方向は2方向であり、計測結果が不感帯の上限値を上回っているか又は下限値を下回っているかに対応している。逸脱量としては、例えば不感帯を逸脱する偏差電圧とすればよい。
【0066】
その後、CPU11は、逸脱時間が動作時限を経過したか否かを判定する(S38)。動作時限を経過していない場合(S38:NO)、CPU11は、計測結果を取得した全ての電圧計測器についてステップS33以降の各処理を終了したか否かを判定する(S39)。全ての電圧計測器について各処理を終了していない場合(S39:NO)、CPU11は、他の一の計測器について各処理を行うためにステップS33に処理を移す。一方、全ての電圧計測器について各処理を終了した場合(S39:YES)、CPU11は図6の処理を終了する。
【0067】
ステップS38で不感帯の逸脱時間が動作時限を経過した場合(S38:YES)、CPU11は、ステップS37で記憶した逸脱方向及び逸脱量に基づき、不感帯の上限値及び下限値のそれぞれを逸脱した逸脱量の総和を各別に算出する(S41)。次いで、CPU11は、逸脱量の各総和の差分を算出し(S42)、算出した差分の符号と大きさに基づいて昇降圧を指令する切換指令を発令する(S43:調整部に相当)。そして、CPU11は、計測結果を取得した全ての電圧計測器について不感帯の逸脱時間の計時を停止(S44)した後に図6の処理を終了する。
【0068】
以上のように本実施形態2によれば、計測結果が不感帯領域を逸脱する電圧計測器について、逸脱方向と逸脱量とを保持する。配電線300の下流側に位置する複数の電圧計測器について、保持した逸脱量の総和を逸脱方向別に算出し、算出したそれぞれの総和のどちらがどれだけ大きいかに基づいて配電線300の電圧を昇降圧する。これにより、各電圧計測器についての不感帯領域に対する逸脱量が上限側と下限側とで相殺されるように調整することができる。
【0069】
なお、実施形態1及び2にあっては、電圧調整機器としたSVRを用いた例について説明したが、サイリスタ式の電圧調整装置(TVR=Thyristor type step Voltage Regulator )や、他の電圧調整機器を用いた場合についても同様である。他の電圧調整機器としては、例えば、電力伝送線路にスイッチを介してリアクトルを並列的に接続することにより、配電線の電圧を低下させるSSR(Step Switched Reactor )及びShR(Shunt Reactor )が挙げられる。また、配電線にスイッチを介してコンデンサを並列接続することにより、配電線の電圧を上昇させるSSC(Step Switched Capacitor )や、進相コンデンサ及びリアクトルを用いて無効電力を調整することにより配電線の電圧を調整するSVC(Static Var Compensator )が挙げられる。
【0070】
また、実施形態1及び2にあっては、各電圧計測器の計測結果について不感帯の逸脱の判定及び逸脱時間の計時を電圧調整装置100にて行ったが、これらの判定及び計時をそれぞれの電圧計測器で行ってもよい、この場合は、電圧調整装置100及び各電圧計測器の間の通信量を大幅に削減することができる。
【0071】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
100,101,102 電圧調整装置、 110 変圧器、 111 タップ切換器、 10 制御部、11 CPU、 12 ROM、 13 RAM、 14 タイマ、 15 出力部、 16 通信部、 200 変電所、 300,301,302,303 配電線、 M_1,M_2,M_3,M_11,M_12,M_13,M_21,M_22,M_23 電圧計測器、 S_1,S_2,S_3,S_11,S_12,S_13,S_21,S_22,S_23 区間
図1
図2
図3
図4
図5
図6