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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117794
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】光学表示体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/32 20060101AFI20220804BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20220804BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220804BHJP
【FI】
G02B5/32
G03H1/02
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014498
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】内田 聡
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 彰人
(72)【発明者】
【氏名】香田 祖光
【テーマコード(参考)】
2H249
2K008
4F100
【Fターム(参考)】
2H249CA05
2H249CA09
2H249CA10
2H249CA15
2H249CA22
2K008AA13
2K008FF27
2K008HH18
4F100AT00A
4F100AT00D
4F100CB00C
4F100DD07A
4F100EJ08C
4F100JB14A
4F100JL11C
4F100JN06B
4F100JN18B
4F100JN30A
4F100JN30B
(57)【要約】
【課題】 エンボス層に賦形された微細凹凸構造の、光学素子としての光学性能発揮能力を高めた光学表示体を提供すること。
【解決手段】 本発明の光学表示体は、微細凹凸構造が賦形されたエンボス層と、微細凹凸構造の少なくとも一部を覆うように配置された薄膜層とを備え、薄膜層側から外部光が入射すると、外部光によって、薄膜層において光学作用が発生する。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細凹凸構造が賦形されたエンボス層と、
前記微細凹凸構造の少なくとも一部を覆うように配置された薄膜層とを備え、
前記薄膜層側から外部光が入射すると、前記外部光によって、前記薄膜層において光学作用が発生する、光学表示体。
【請求項2】
前記光学作用は、前記外部光の前記薄膜層における反射、前記外部光の前記薄膜層における屈折、前記外部光の前記薄膜層における吸収、前記外部光の前記薄膜層による散乱、前記外部光の前記薄膜層による回折、前記光学作用後の光による干渉、前記光学作用後の光による共鳴のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光学表示体。
【請求項3】
前記薄膜層を保護するための保護層と、
前記薄膜層と前記保護層との間に設けられ、前記薄膜層を覆うように前記保護層を前記薄膜層と接着する接着剤からなる接着層とを備えた、請求項1または2に記載の光学表示体。
【請求項4】
前記エンボス層の側断面において、前記微細凹凸構造は波状の形状を有し、前記微細凹凸構造の各底点から、対応する前記各微細凹凸構造に対して引かれる2つの接線によって形成される角度が、30°以上、150°以下の範囲にある、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項5】
前記エンボス層の側断面において、前記微細凹凸構造の略台形形状を有し、前記略台形形状の微細凹凸構造の底辺に対する立ち上がり角度が、60°以上、90°以下の範囲にある、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項6】
前記薄膜層の厚みが10nm以上、200nm以下の範囲である、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項7】
前記エンボス層が光硬化性樹脂を含む、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項8】
前記微細凹凸構造が、3次元再生像を形成する計算機ホログラムの位相変調素子である、請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項9】
前記薄膜層が配置された一方向への配置パターンによって、機械認識可能な1次元コードのパターンを実現する、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【請求項10】
前記薄膜層が配置された2次元平面における配置パターンによって、機械認識可能な2次元コードのパターンを実現する、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の光学表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を提供する表示技術が施された光学表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、カードやパスポートなどの個人認証体には、それらの偽造を困難にするため、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有するホログラムをはじめとした偽造防止媒体が内包され、カードとして積層一体化された光学表示体として構成される場合がある。
【0003】
一般に、ホログラムのような微細凹凸構造を備える光学表示体は、ロールツーロール法を適用して製造される。特許文献1には、ロールツーロール法を適用して作製したホログラムが内装され積層されたカード形態の光学表示体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/179685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなホログラムが内装されたカード形態の光学表示体には次のような問題がある。
【0006】
すなわち、この種の光学表示体では、内装されるホログラムにおいて、エンボス層に設けられた微細凹凸構造の光学素子としての光学効果が低下する場合がある。
【0007】
例えば、エンボス層に微細凹凸構造が設けられていることで、エンボス工程や、フィルム搬送工程、転写工程、ホログラム箔をカードとして内装する工程、カード状態で折り曲げるなどのストレスがかかる場合に、エンボス層の微細凹凸構造にひびが生じる場合がある。エンボス層の微細凹凸構造にひびがあると、光学表示体への入射光は、所望された光学性能を有効に発揮できず、十分な光学効果を得られなくなる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、エンボス層に賦形された微細凹凸構造の、光学素子としての光学性能発揮能力を高めた光学表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0010】
第1の発明は、微細凹凸構造が賦形されたエンボス層と、微細凹凸構造の少なくとも一部を覆うように配置された薄膜層とを備え、薄膜層側から外部光が入射すると、外部光によって、薄膜層において光学作用が発生する光学表示体である。
【0011】
第2の発明は、光学作用は、外部光の薄膜層における反射、外部光の薄膜層における屈折、外部光の薄膜層における吸収、外部光の薄膜層による散乱、外部光の薄膜層による回折、光学作用後の光による干渉、光学作用後の光による共鳴のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光学表示体である。
【0012】
第3の発明は、薄膜層を保護するための保護層と、薄膜層と保護層との間に設けられ、薄膜層を覆うように保護層を薄膜層と接着する接着剤からなる接着層とを備えた、請求項1または2に記載の光学表示体である。
【0013】
第4の発明は、エンボス層の側断面において、微細凹凸構造は波状の形状を有し、微細凹凸構造の各底点から、対応する各微細凹凸構造に対して引かれる2つの接線によって形成される角度が、30°以上、150°以下の範囲にある、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0014】
第5の発明は、エンボス層の側断面において、微細凹凸構造は略台形形状を有し、前記略台形形状の微細凹凸構造の底辺に対する立ち上がり角度が、60°以上、90°以下の範囲にある、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0015】
第6の発明は、薄膜層の厚みが10nm以上、200nm以下の範囲である、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0016】
第7の発明は、エンボス層が光硬化性樹脂を含む、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0017】
第8の発明は、微細凹凸構造が、3次元再生像を形成する計算機ホログラムの位相変調素子である、請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0018】
第9の発明は、薄膜層が配置された一方向への配置パターンによって、機械認識可能な1次元コードのパターンを実現する、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【0019】
第10の発明は、薄膜層が配置された2次元平面における配置パターンによって、機械認識可能な2次元コードのパターンを実現する、請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の光学表示体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エンボス層に賦形された微細凹凸構造の、光学素子としての光学性能発揮能力を高めた光学表示体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る光学表示体の層構成を模式表示するための側断面図である。
図2図2は、光学フィルムが配置されたカード形態の光学表示体の一例を示す平面図である。
図3A図3Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の一例を示す側断面図である。
図3B図3Bは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の一例を示す側断面図である。
図4A図4Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の別の例を示す側断面図である。
図4B図4Bは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の別の例を示す側断面図である。
図4C図4Cは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の別の例を示す側断面図である。
図5A図5Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体によるエンボス層のひびの影響を説明するための側断面図である。
図5B図5Bは、従来技術の光学表示体によるエンボス層のひびの影響を説明するための側断面図である。
図6A図6Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体によるエンボス層の表面荒れの影響を説明するための側断面図である。
図6B図6Bは、従来技術の光学表示体によるエンボス層の表面荒れの影響を説明するための側断面図である。
図7図7は、微細凹凸構造が計算機ホログラムの位相変調素子であるときの光学効果を説明するための模式図である。
図8A図8Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体へのリーダの入射光の光路を説明する図である。
図8B図8Bは、従来技術の光学表示体へのリーダの入射光の光路を説明する図である。
図9図9は、バーコードパターンが設けられた光学フィルムが配置されたカード形態の光学表示体の一例を示す平面図である。
図10図10は、微細凹凸構造をエンボス層に形成するためロールツーロール装置の一部の構成を例示する概念図である。
図11A図11Aは、モールドからエンボス層に微細凹凸構造が賦形される様子を示す側断面図である。
図11B図11Bは、モールドからエンボス層に微細凹凸構造が賦形される様子を示す側断面図である。
図11C図11Cは、モールドからエンボス層に微細凹凸構造が賦形される様子を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[構成]
(全体)
図1は、本発明の実施形態に係る光学表示体の層構成を模式表示するための側断面図である。
【0024】
光学表示体1は、下地層12に積層された中間層11の一部の中に、エンボス層15が埋め込まれるように配置されている。
【0025】
エンボス層15の表面側(図中Z方向)には、微細凹凸構造15aが賦形されており、微細凹凸構造15aの少なくとも一部を覆うように、かつ微細凹凸構造15aに追従するように薄膜層14が配置されている。なお、図1では、図中X方向における微細凹凸構造15aのすべてを覆うように、薄膜層14が配置されているように示されている。しかしながら、このような場合であっても、図中Y方向において、部分的に薄膜層14が配置されない領域を設けることによって、微細凹凸構造15aの少なくとも一部を覆うように、薄膜層14を配置することができる。
【0026】
光学表示体1はまた、薄膜層14を保護するための保護層10を備えている。保護層10と薄膜層14との間には、接着剤からなる接着層13が設けられており、接着層13は、保護層10を、薄膜層14を覆うように薄膜層14と接着する。
【0027】
このようにして、図1に例示するように、下地層12、中間層11、エンボス層15、薄膜層14、接着層13、および保護層10が積層された光学表示体1が形成される。
【0028】
光学表示体1において、図1において特に点線で示す部位は、光学フィルム17となる。
【0029】
図2は、光学フィルムが配置されたカード形態の光学表示体の一例を示す平面図である。
【0030】
図1に例示するように、保護層10および中間層11によって内装された光学フィルム17は、下地層12に積層されることによって、カード形態の光学表示体1として一体化される。
【0031】
(保護層)
保護層10には、プラスチックシートを適用できる。
【0032】
プラスチックシートは、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、ポリエチレンナフタレート(PEN)シート、ポリプロピレン(PP)シート、ポリ塩化ビニル(PVC)シート、非晶性ポリエステル(PET-G)シート、ポリカーボネート(PC)シートとできる。
【0033】
このうち、カードを、個人認証体用のカードやパスポートとして適用する場合、その基材としてPCVシート、PET-Gシート、PCシート等を適用すれば、熱や圧力による加工によって一体化することが容易である。
【0034】
保護層10の厚みは、50μm以上、400μm以下とできる。50μm以上の厚みとすることで、取り扱いが容易で、物理的な強度も確保されることに加え、積層一体化する際に生じる皺の抑制も容易となる。一方、400μm以下の厚みとすることで、積層一体化したカードとしての柔軟性も確保できる。
【0035】
(中間層)
中間層11には、保護層10と同様に、各種プラスチックシートを適用できる。積層一体化の加工のためにも、保護層10と同様の材料を主成分とするシートを適用することが好ましい。
【0036】
中間層11の厚みは、保護層10と同程度とすることができ、保護層10と同じ理由で50μm以上、400μm以下とできる。
【0037】
また、中間層11は所定の波長を有したレーザー光線の照射によって炭化する特性を有するプラスチックシートともできる。あるいは、中間層11として、ポリカーボネートを主原料とし、添加剤としてレーザー光線を吸収するエネルギー吸収体とすることもできる。
【0038】
(下地層)
下地層12には、保護層10、中間層11と同様に、各種プラスチックシートを適用できる。下地層12も、保護層10、中間層11と同様の材料を主成分とするシートを適用することで、熱や圧力をかけて積層一体化する際に生じうる皺を抑制でき、同程度の温度や圧力で熱可塑し樹脂が流動するので加工も容易となる。
【0039】
(エンボス層)
エンボス層15には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性樹脂などの光透過性樹脂を適用できる。エンボス層15が光透過性樹脂であることで、保護層10側から光学表示体1(すなわち、Z方向上側からZ方向下側)に入射した光は、薄膜層14を有さない領域では、図8Aを用いて後に説明するように、エンボス層15を透過して中間層11と下地層12の界面Cまで到達することができる。
【0040】
エンボス層15の厚みは0.6μm以上、20μm以下とできる。厚みが0.6μm以上あることで、ロールツーロール法で、ホログラムをはじめとした微細凹凸構造15aを賦形することが容易となる。また、厚みを10μm以下とすることで、積層一体化した際に、中間層11において、エンボス層15がある領域と、ない領域との境界に生じ得る空隙を、許容範囲内に抑えることができる。
【0041】
エンボス層15の硬度は、接着層13の硬度よりも高い方がよい。エンボス層15の硬度が、接着層13の硬度よりも低い場合、接着層13にもひびが生じやすい。硬度は、ナノインテンダーで計測できる。特にラミネート時の温度である180℃での計測値とできる。
【0042】
エンボス層15の耐熱性も、高い方が望ましい。樹脂材料の耐熱性が高いことで、光学フィルム17を内装する際の熱や圧力による変形を防げる。この耐熱性は、エンボス層15の材質を架橋されたポリマーとすることで得ることができる。
【0043】
また、エンボス層15の凹凸の深さは、エンボス層15の厚さの半分未満とできる。エンボス層15の凹凸の深さが、エンボス層15の厚さの半分以上となると、ひびが発生しやすく、外観上の劣化が起こりやすい。さらには、エンボス層15の凹凸の深さは、エンボス層15の厚さの1/3以下とすることができる。これにより、ひびの発生を抑制しやすい。
【0044】
図3Aおよび図3Bは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の一例を示す側断面図である。
【0045】
図3Aおよび図3Bに例示するように、エンボス層15の側断面において、微細凹凸構造15aは波状の形状を有し、微細凹凸構造15aの各底点Bから、対応する微細凹凸構造15aに対して引かれる2つの接線L1,L2によって形成される角度αは、30°以上、150°以下の範囲にある。各底点Bにおける角度αは、同一である必要はなく、30°以上、150°以下の範囲にあればよい。
【0046】
図4A図4B、および図4Cは、本発明の実施形態に係る光学表示体において、特に、エンボス層近傍の層構成の別の例を示す側断面図である。
【0047】
図4Aに示す例では、エンボス層15の側断面において、微細凹凸構造15aは略台形形状を有し、略台形形状の微細凹凸構造15aの底辺15bに対する立ち上がり角度βは、60°以上、90°以下の範囲にある。
【0048】
図4Bに示す例は、特に立ち上がり角度βが90°の場合である。この場合、エンボス層15の側断面における微細凹凸構造15aの形状は、長方形となる。
【0049】
図4Aおよび図4Bでは、例示のために、立ち上がり角度βが同一である構成を示しているが、図4Aおよび図4Bともに、立ち上がり角度βは同一である必要はなく、60°以上、90°以下の範囲にあればよい。
【0050】
なお、図4Bに例示するような矩形形状の微細凹凸構造15aを、ロールツーロール法で製造する場合、微細凹凸構造15aが加工されたエンボス層15を、モールドの原版から剥離する場合に、微細凹凸構造15aの形状がなまってしまい、立ち上がり角度βを90°とすることはできても、実際には、図4Cに示すように、微細凹凸構造15aの上面が湾曲する場合が多い。
【0051】
(薄膜層)
薄膜層14は、エンボス層15の微細凹凸構造15aの表面(すなわち、図中Z方向)の少なくとも一部を覆うように、かつ微細凹凸構造15aに追従するように配置されている。
【0052】
薄膜層14の材料には、アルミニウム、銀、金、およびそれらの合金など、光を反射する金属を適用する。中でもアルミニウムが好適である。また、金属以外でも、TiOやZnS等のような無機材料も適用できる。
【0053】
薄膜層14の厚みは、10nm以上、200nm以下とする。厚みを10nm以上とすることで、薄膜層14の反射効果を、目視で許容する程度に実現でき、微細凹凸構造15aの凹と凸との成形性の差異のレベリング効果を得られる。一方、厚みを200nm以下とすることで、加工時の取り回しを容易にできる。
【0054】
(接着層)
接着層13は、接着剤を主成分とできる。接着剤は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂とできる。接着剤には、接着性付与剤、充填剤、軟化剤、熱安定剤、酸化防止剤の単体、およびこれらの混合体などの改質剤を含有できる。
【0055】
接着層13は、可視域領域の透過率に優れている必要がある。そのため、接着層13に大きなドメインが少ない方が望ましく、接着層13内の大きなドメインの空間占有率は低い方が望ましい。接着層13のドメインのうち、直径の最大値が、20μm以上のものの空間占有率は30%以下が好ましい。
【0056】
接着層13の厚みは、0.1μm以上、10μm以下とできる。厚みを0.1μm以上とすることで、接着剤の接着効果を十分発現できる。一方、厚みを10μm以下とすることで、接着層13がある領域と、接着層13がない領域との境界で生じ得る空隙を、許容範囲内に抑えることができる。
【0057】
接着層13の厚みが仮に10μmよりも厚いと、この空隙が大きくなり、保護層10と、接着層13との剥離の原因となるのみならず、境界領域が不自然に目立ち、光学表示体の外観を損なわれる。
【0058】
以下、光学フィルム17にひびが生じる場合のエンボス層15および接着層13について説明する。
【0059】
まず、エンボス層15が塗工されたフィルムと、微細凹凸構造15aが設けられたモールドとを用い、エンボス層15にモールドの微細凹凸構造15aを賦形し、その後、搬送し、巻き取る工程が挙げられる。この工程によって、エンボス層15にストレスがかかりひびが生じる。この場合、ひびは、エンボス層15が硬い方が生じやすい。
【0060】
また、エンボス後のフィルムに薄膜層14を設け、さらに接着層13を設けた後、保護層10に転写する工程が挙げられる。転写時に熱および張力をかけて保護層10に接され、保護層10に接着する。この際、接着層13がエンボス層15よりも柔らかいことで、エンボス層15にひびが発生しても接着層13には生じにくい。
【0061】
さらに、接着層13によって保護層10に転写された光学フィルム17をカードとして内装する工程が挙げられる。この工程では、保護層10や下地層12を積層一体化するため、積層した状態で熱や圧を加える。接着層13はエンボス層15よりも加熱された状態での流動性を高くすることができ、この場合、接着層13よりも硬いエンボス層15にひびが生じても接着層13には生じにくく欠陥の発生を防止できる。また、ラミネート温度すなわち180℃での接着層13の損失弾性率が、基材の損失弾性率より低い方が好ましい。これにより、ラミネート時のエンボス層15にかかるせん断応力を緩和することができる。
【0062】
[光学作用]
上記のような構成の光学表示体1に、外部から保護層10を介して(すなわち、Z方向から)外部光が入射すると、外部光(以下、「入射光」とも称する)が接着層13を通過して、薄膜層14に到達し、薄膜層14において光学作用が発生する。
【0063】
光学作用は、入射光の薄膜層14における反射、入射光の薄膜層14における屈折、入射光の薄膜層14における吸収、入射光の薄膜層14による散乱、入射光の薄膜層14による回折、入射光の光学作用後の光による干渉、入射光の光学作用後の光による共鳴のうちの少なくとも1つを含む。
【0064】
このように、光学表示体1では、入射光が接着層13を通過して、薄膜層14に到達し、薄膜層14において光学作用が発生するようにしているので、従来技術とは異なり、エンボス層15におけるひびや、微細凹凸構造15aの表面荒れの影響を受けることなく、良好な光学素子としての機能を有効に発揮することができる。その理由について、以下に説明する。
【0065】
(エンボス層のひびの影響)
図5Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体によるエンボス層のひびの影響を説明するための側断面図である。
【0066】
図5Bは、従来技術の光学表示体によるエンボス層のひびの影響を説明するための側断面図である。
【0067】
従来技術の光学表示体は、図5Bに例示するように、図中Z方向において、保護層10の下にエンボス層15が積層され、エンボス層15に設けられた微細凹凸構造15aに追従するように薄膜層14が設けられ、薄膜層14が接着層13によって中間層11に接着されてなる構成をしている。そして、外部から保護層10を介して入射した入射光ILが、エンボス層15内を通過し、薄膜層14において光学作用し、出射光DLが得られる。
【0068】
ところで、ロールツーロール法でエンボス層15に微細凹凸構造15aが賦形される場合、図11A図11Cを用いて後述するように、凹部と凸部とが同一の断面形状であるモールド21bによって加工された場合であっても、モールド21bからエンボス層15を剥離する際における凹部と凸部との成形性の違いによって、微細凹凸構造15aの頂点Tよりも底点Bにおける角度α(図3A図3B参照)の方が小さくなる。そして、この角度αが、より鋭角であるほど、応力集中によりひびHが発生し易くなる。
【0069】
ひびHに入射光ILが達すると、ひびHにおいて散乱した光や、消失した光が出射光DLとして出射されるので、光学特性が低下し、光学素子としての十分な機能を発揮できなくなる。
【0070】
しかしながら、本発明の実施形態に係る光学表示体は、図5Aに示すような構成をしているので、保護層10を介して入射した入射光ILは、エンボス層15を通過することなく、接着層13を通過して、薄膜層14に到達し、薄膜層14において光学作用が発生する。したがって、本発明の実施形態に係る光学表示体は、ひびHの影響を受けない出射光DLを得ることができる。
【0071】
(エンボス層の表面荒れの影響)
図6Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体によるエンボス層の表面荒れの影響を説明するための側断面図である。
【0072】
図6Bは、従来技術の光学表示体によるエンボス層の表面荒れの影響を説明するための側断面図である。
【0073】
図6Aおよび図6Bに模式的に示すように、エンボス層15に設けられた微細凹凸構造15aの表面は、実際には、平坦ではなく、荒れRがあり、粗面である。薄膜層14も追従するように設けられているために、薄膜層14の、微細凹凸構造15aと接している側もまた同様に粗面となる。
【0074】
一方、薄膜層14の、微細凹凸構造15aと接していない側の面は、微細凹凸構造15a上の表面の荒れRがレベリングされているので、平坦面(鏡面)となる。
【0075】
従来技術の光学表示体では、図6Bに示すように、薄膜層14の粗面において光学作用が発生することになるので、荒れRにおいて散乱や消失した光が出射光DLとして出射されるので、光学特性が低下し、光学素子としての十分な機能を発揮できない。
【0076】
一方、本発明の実施形態に係る光学表示体は、図6Aに示すように、保護層10を介して入射した入射光ILは、薄膜層14の平坦面において光学作用が発生する。したがって、荒れRの影響を受けない出射光DLが得られる。
【0077】
このように、本発明の実施形態に係る光学表示体は、エンボス層15のひびHや、微細凹凸構造15aの荒れRの影響を受けることなく、光学素子としての機能を有効に発揮することができる。
【0078】
(キノフォーム再生作用)
図7は、微細凹凸構造が計算機ホログラムの位相変調素子であるときの光学効果を説明するための模式図である。
【0079】
位相変調素子は、例えば図3A図3Bに示すように、微細凹凸構造15aは側断面において波状の形状を有する場合がある。計算機ホログラムは、フーリエ変換ホログラムであっても、フレネル変換ホログラムであってもよい。保護層10側から光学表示体1に入射光ILが入射した場合、入射光ILはエンボス層15に賦形された位相変調素子の微細凹凸構造15aに追従した薄膜層14の凹凸構造に応じて回折され再生像が形成される。
【0080】
例えば、図3Bに示す微細凹凸構造15aが、側断面において角度をなすブレーズド形状である場合がある。ブレーズド形状であることで回折効率が高く、輝度の高い再生像が得られる。また、図4A図4Cに示すように、微細凹凸構造15aの形状を、略台形形状ともできる。
【0081】
位相変調素子はまた、入射光ILに対する出射光DLの波長分布を変える色変調素子としても機能でき、接着層13の表示面と略平行な部分を有する上面に設けられた複数の凸部、または、表示面と略平行である底面に設けられた複数の凹部と、保護層10と略平行な平坦部とで構成することによって、カラー表示媒体とすることもできる。
【0082】
また、微細凹凸構造15aを、深さの異なる複数の凸部または凹部から構成することで、凹部または凸部の深さで決まる色域内で、任意の呈色を得ることもできる。
【0083】
また、微細凹凸構造15aはエンボス層15に賦形されているが、エンボス層15の微細凹凸構造15aに追従する薄膜層14と、接着層13との界面での回折によって、微細凹凸構造15aの形状に起因するボケが小さい、明瞭な3次元再生像を認識できる。
【0084】
微細凹凸構造15aが3次元画像を形成する位相変調素子である場合、回折光の集光により再生像を結像することで、散乱効果をより低減でき、ボケの小さい明瞭な再生像を実現できる。
【0085】
ボケが小さいと目視で認識し易いのみならず、再生像を2次元画像として得る場合にもボケの小さい画像として得ることが容易となる。したがって、画像で真贋判定する場合にも認識精度の向上が期待される。同様に再生像の高さ情報を取得する場合にもボケの小さい明瞭な再生像を用いることで、ボケ誤差が小さく、より高い認識精度を達成できる。
【0086】
(機械認識可能コードへの適用)
次に、本発明の実施形態に係る光学表示体の機械認識可能コードへの適用性について説明する。
【0087】
図8Aは、本発明の実施形態に係る光学表示体へのリーダの入射光の光路を説明する図である。
【0088】
図8Bは、従来技術の光学表示体へのリーダの入射光の光路を説明する図である。
【0089】
図8A図8Bでは、図6A図6Bで省略されている下地層12が示されている。さらに、図8A図8Bに示す光学表示体では、図6A図6Bに示す構成から、薄膜層14の一部を排除することによって、薄膜層14を有する領域と、薄膜層14を有さない領域とをともに有する構成となっている。
【0090】
図9は、バーコードパターンが設けられた光学フィルムが配置されたカード形態の光学表示体の一例を示す平面図である。
【0091】
薄膜層14を有する領域と、薄膜層14を有さない領域との配置パターンによって、図9に例示するようにバーコードパターンPを形成することができる。
【0092】
例えばバーコードリーダのような情報読取装置は、このようにして図8A図8Bに示す光学表示体に設けられたバーコードに光を当て、その反射光を捉え、2値のデジタル信号に置き換えることによって、データを取り出すことができる。
【0093】
図8Aおよび図8Bを参照して詳述すると、バーコードリーダ(図示せず)からの入射光RILが、保護層10側から光学表示体に照射されると、薄膜層14がない領域では、入射光RILが、下地層12まで到達する。そして、中間層11と下地層12との界面Cで乱反射した光SLが、バーコードリーダまで戻り、受光されるために白く観察される。
【0094】
一方、薄膜層14を有する領域では、バーコードリーダからの入射光RILが、保護層10側から光学表示体に照射されると、薄膜層14の表面で反射し、反射光はバーコードリーダによって受光されないので黒く観察される。
【0095】
ところが、従来技術の光学表示体によれば、図8Bに示すように、薄膜層14の表面の荒れRや、エンボス層15のひびHによって、入射光RILは乱反射し、反射光SLの一部がバーコードリーダによって受光されてしまう。これは、ノイズとして寄与するので、シグナルのコントラストは低下する。
【0096】
それに対して、本発明の実施形態に係る光学表示体では、図8Aに示すように、薄膜層14の表面での反射は、乱反射が小さく、ほぼ正反射となるため、反射光SRLはバーコードリーダまで戻らず、受光されないために、ノイズとして寄与する光の量を低減することができる。
【0097】
本発明の実施形態に係る光学表示体ではさらに、図8Aに示すように、中間層11と下地層12の界面Cで乱反射した反射光SLは、エンボス層15を伝播する。そして、エンボス層15にひびHがあると、反射光SLはさらにひびHにおいて乱反射するので、結果として、バーコードリーダによって読み取られる反射光SLの強度は、従来技術の光学表示体よりも高くなる。
【0098】
以上の結果、本発明の実施形態に係る光学表示体によれば、コントラストが向上され、優れた機械認識性を提供するバーコードパターンを形成することができる。
【0099】
[製造方法]
(エンボス層の形成)
次に、微細凹凸構造15aをエンボス層15に形成するための製造方法について説明する。
【0100】
エンボス層15の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性樹脂などの光透過性樹脂を適用できる。光透過性樹脂を適用する場合、エンボス層15とモールドとの離型性の向上のため、あるいは、エンボス層15と薄膜層14との密着性の向上のために、任意の添加剤を加えることができる。この添加剤は、シリコーン添加剤とできる。または、アルキル基を有した高分子添加剤とできる。またシリカ粒子を添加剤としてもよい。
【0101】
熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂などの光透過性樹脂を適用すると、微細凹凸構造が形成された原版から、微細凹凸構造15aが設けられたエンボス層15を、光透過性の基材に転写成形することができる。
【0102】
光透過性の基材は、それ自体を単独に扱うことが可能なフィルムまたはシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)などを適用できる。
【0103】
基材の厚みは、10μm以上、300μm以下とすることができる。
【0104】
基材は、赤外線、可視光、または、その両方の透過性を有することができる。基材が赤外線の透過性を有することで、赤外線のレーザービームにより光学表示体1の内部の一部を炭化させることで、個別情報を記録することができる。このような記録は改ざんがされにくい。また、光学フィルム1内または光学フィルム1に隣接して、個人情報を記録することで、個人情報の不正な書き換えを防止できる。この記録の際に、光学フィルム17はレーザービームによりダメージを受け、ひびが発生しやすいが、本願の構成では、この際のひびの影響を低減できる。この個別情報は、個人のデータ、生体情報、生体特徴量とできる。個別情報は、目視で識別可能な情報、暗号化された情報、またはその双方とできる。個人のデータの実例は、名前、国籍、所属、年齢、性別である。生体情報の実例は、顔画像、サインである。生体特徴量は顔、指紋、虹彩の生体特徴量のいずれか、またはこれらを複数含んだものとできる。
【0105】
また基材とエンボス層15との剥離性を高めるために、基材とエンボス層15との間に、組成の異なる別の層を設けることができる。
【0106】
エンボス層15は、光透過性の基材上に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、またはUV硬化性樹脂を塗布し、この塗布面に回折格子が形成された原版を押し当て樹脂を硬化させることで得られる。典型的には上記工程をロール加工で行う。
【0107】
前述したように、本発明の実施形態に係る光学表示体は、エンボス層15のひびHの影響を受けることなく、光学素子としての機能を有効に発揮することができるので、エンボス後、脆く割れやすい光硬化性樹脂でエンボス層を構成することができる。
【0108】
図10は、微細凹凸構造をエンボス層に形成するためロールツーロール装置の一部の構成を例示する概念図である。
【0109】
ロールツーロール装置20は、版胴21、押圧ロール22、搬送ロール23、供給部24、加熱部25、および照射部26を備えている。図中X方向である上流から下流に向かう方向に、供給部24、加熱部25、および照射部26が順に配置されている。
【0110】
供給部24は、前駆体を構成する基材30上に未硬化の樹脂31を供給する。これにより、樹脂31は、基材30上に形成された、エンボス層15の前駆層となる。したがって、以下では、前駆層に対しても、樹脂と同じ付番を用いて、前駆層31と表す。そして、基材30と前駆層31とを合わせて前駆体32と称する。
【0111】
ここで、樹脂31は、紫外線硬化性樹脂31とする。この場合、前駆層31は、未硬化の紫外線硬化性樹脂によって形成された層である。
【0112】
加熱部25は、供給部24によって基材30に供給された紫外線硬化性樹脂31を加熱することによって、紫外線硬化性樹脂31を軟化させる。
【0113】
版胴21および押圧ロール22は、1つの方向である延設方向に沿って延びる円柱形状を有しており、図中矢印方向に回転するように制御される。
【0114】
版胴21と押圧ロール22とは、図中矢印方向に回転することによって、版胴21と押圧ロール22との間の隙間S1を通過させるように、前駆体32を搬送する。押圧ロール22は、前駆体32が隙間S1を通過するときに、基材30に接し、かつ、基材30上の前駆層31を版胴21の外表面に押圧する。
【0115】
版胴21は、本体部21aとモールド21bとを備えている。本体部21aは、延設方向に沿って延びる円柱形状を有している。モールド21bは、本体部21aの外周面を覆う円筒形状を有している。モールド21bの表面は、前駆層31に転写される幾何光学構造を含む微細凹凸形状を有している。
【0116】
押圧ロール22が前駆層31をモールド21bに対して押圧することによって、前駆層31に、モールド21bが有する微細凹凸形状が転写される。
【0117】
照射部26には、供給部24が供給する紫外線硬化性樹脂31の硬化特性に応じたランプを選択する必要があり、例えば水銀ランプ、および、メタルハライドランプなどの放電ランプを適用できる。また、紫外領域に含まれる光を発するLEDランプを適用することもできる。
【0118】
照射部26は、前駆体32に紫外線を照射する。これにより、前駆層31が硬化され、微細凹凸構造15aが賦形されたエンボス層15が形成される。このように微細凹凸構造15aが賦形されたエンボス層15が形成された前駆体32は、搬送ロール23へ搬送される。
【0119】
搬送ロール23は、押圧ロール22および版胴21と同様、延設方向に沿って延びる円柱形状を有しており、図中矢印方向に回転するように制御される。版胴21と搬送ロール23とは、版胴21と搬送ロール23との間の隙間S2を通過させるように、前駆体32を搬送する。
【0120】
搬送ロール23は、前駆体32が隙間S2を通過するとき、前駆体32の基材30に接し、かつ、前駆体32を搬送することによって、前駆体32の前駆層31、すなわちエンボス層15を、版胴21から剥離する。このとき、エンボス層15に含まれる添加剤によるエンボス層15の表面の版胴21との微視的な密着性の差異、エンボス層15の内部の揮発性溶剤の揮発、エンボス層15の版胴21からの剥離時における基材30の張力の不均一性、モールド21b自体の表面荒れ、エンボス層15の添加剤のブリードアウトなどによって、エンボス層15の微細凹凸構造15aの表面の平坦性が損なわれる。
【0121】
このようにして、微細凹凸構造15aが賦形されたエンボス層15を形成することができる。
【0122】
エンボス層15を形成するための樹脂31が、電子線硬化性樹脂である場合には、ロールツーロール装置20は、紫外線を照射する照射部26に代えて、電子線を照射する照射部26を適用する。
【0123】
エンボス層15を形成するための樹脂31が、紫外線以外の光によって硬化する樹脂である場合には、ロールツーロール装置20は、紫外線を照射する照射部26に代えて、エンボス層15を硬化させるための光を照射する照射部26を適用する。
【0124】
エンボス層15を形成するための樹脂31が、熱硬化性樹脂である場合には、ロールツーロール装置20は、加熱部25および照射部26に代えて、モールド21bに接している前駆層31、または、モールド21bに接した後の前駆層31を加熱する加熱部(図示せず)を適用する。
【0125】
エンボス層15を形成するための樹脂31が、熱可塑性樹脂である場合には、ロールツーロール装置20は、照射部26を省略し、かつ、加熱部25によって、モールド21bが有する形状を前駆層31に転写することが可能な程度に前駆層31を加熱する。
【0126】
ここで、モールド21bを形成するための材料としては、例えば、金属、樹脂、およびガラスなどを適用できる。このうち、金属は、例えば、鉄、クロム、ニッケル、銅、および、アルミニウムを適用でき、また、これらの合金も適用できる。また、図示してないが、モールド21bを、本体部21aの表面を覆うめっき層で構成できる。この場合には、めっき層は、例えば数μm程度の厚さを有する。
【0127】
モールド21bの表面を形成する方法には、電子線加工、レーザー加工、イオンビーム加工、フォトリソグラフィ、切削、腐食、および、彫刻などを適用できる。モールド21bを形成するときには、これらいずれかの方法を適用して、モールド21bを形成するための部材に、表面を形成する。または、モールド21bは、これらいずれかの方法を適用して原版の表面を製造した後に、原版を転写することによって、表面を備えるモールド21bを製造できる。または、原版を適用した電鋳によって、モールド21bを製造できる。
【0128】
図11A図11Cは、モールドからエンボス層に微細凹凸構造が賦形される様子を示す側断面図である。
【0129】
特に、図11Aは、モールド21bの側断面における形状が波形である場合、図11Bは、矩形である場合、図11Cは、鋸状である場合である。
【0130】
モールド21bの側断面における形状がいずれの場合も、エンボス層15は、熱圧がかかった状態で、モールド21bに押し当てられる。このとき、モールド21bの微細凹凸構造の凸部21bTに、エンボス層15が良好に接触するので、凸部21bTの形状は、エンボス層15にトレースされやすい。一方、モールド21bの微細凹凸構造の凹部21bBには、エンボス層15の樹脂供給は不十分になりやすく、エンボス層15の形状はなまりやすい。これによって、エンボス層15に賦形される微細凹凸構造15aは、頂点Tよりも底点Bの方が鋭角になる。
【0131】
ここで、例えば図3Aに示すように、微細凹凸構造15aの頂点T(薄膜層14と接着層13との界面)から底点B(薄膜層14とエンボス層15との界面)までのスカラー量のZ軸成分量、つまり、中間層11とエンボス層15との境界から垂直な軸に沿う距離を微細凹凸構造15aの高度とする。すなわち微細凹凸構造15aの高度は、中間層11とエンボス層15との境界から垂直な方向での接着層13と薄膜層14との境界までの距離の最大値と、中間層11とエンボス層15との境界から垂直な方向でのエンボス層15と薄膜層13との境界までの距離の最小値の差となる。このとき、底点BからZ軸上で高度の10%の距離でのエンボス層15に囲まれた薄膜層14と接着層13のXY平面に平行な切断面での断面積(底点B側断面積)と、底点BからZ軸上で高度の90%の距離での接着層13に囲まれた薄膜層14と接着層13のXY平面に平行な切断面での断面積(頂点T側断面積)とを比較すると、後者、すなわち、頂点T側断面積の方が大きい。なお、複数の高度を有する場合には、底点B側断面積と頂点T側断面積とを、それぞれ合算値同士で比較できる。これにより、接着層13側に発生するひびを抑制できる。
【0132】
(薄膜層の形成)
薄膜層14の材料には、アルミニウム、銀、金、およびそれらの合金などの金属材料からなる金属層を適用できる。薄膜層14は、真空蒸着法およびスパッタリング法などの気相堆積法により形成できる。例えば、薄膜層14は、真空蒸着法によって、アルミニウムをエンボス層15上に50nm設けることによって形成される。
【0133】
薄膜層14が極端に薄いと、薄膜層14は光透過率が高くなるため、光反射率が低くなる。したがって、薄膜層14の厚さは、20nm以上、100nm以下程度とする。
【0134】
薄膜層14をエンボス層15上に設けることで、エンボス層15に設けられた微細凹凸構造15aに追従したまま、金属薄膜を設けることとなり、エンボス層15の微視的な表面の平坦性を向上できる。この程度の薄膜層14を設けることで、目視で認識可能な再生像を良好に得ることができる。
【0135】
(ディメタ)
図8Aおよび図8Bに示すように、薄膜層14の一部が欠如した構成の光学表示体は、図6Aおよび図6Bに示すような構成の光学表示体を作製後、薄膜層14の一部をディメタにより除去することによって作製される。
【0136】
ディメタは、レーザービームの照射により実施できる。具体的には、保護層10側からレーザービームを照射し、リーダで読取可能な、すなわち機械認識可能な任意の1次元コード、2次元コード、あるいは任意の絵柄画像を作製することによって実施できる。
【0137】
レーザービームには、波長が1064nmのYVOや、YAGレーザーのような固定レーザーを適用できる。また、第2高調波である532nmや第3高調波の355nmのレーザーも適用できる。さらに、Fiberレーザー、LDレーザーも適用できる。COレーザーやHe-Neレーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザーのような気体レーザーも適用できる。また、パルスレーザー、あるいは連続出力式のレーザーも適用できる。
【0138】
レーザーの走査速度やステップ幅、出力の繰り返し周波数を調整することで、薄膜層14の除去領域におけるレーザーの走査方向の個々のパルス痕や、パルス痕とパルス痕との重なり程度を調整できる。
【0139】
薄膜層14の除去領域を調整することで、光学表示体として目視での3次元の再生像の観察と、リーダを用いた機械認識可能コードの作製との両方を、同一平平面において実現できる。
【0140】
また、光学表示体を作製後、薄膜層14の一部を除去する代わりに、光学表示体1を一体作製する前に、エンボス層15と薄膜層14とが一体化された状態で薄膜層14の一部を除去してもよい。この場合、薄膜層14の一部を除去した後に、保護層10、中間層11、および下地層12と、一部が除去された薄膜層14とエンボス層15との積層体を、さらに一体化して作製する。
【0141】
[光学特性]
以上説明したような本発明の実施形態に係る光学表示体の光学特性について説明する。
【0142】
[作用効果]
以上説明したように、本発明の実施形態に係る光学表示体によれば、微細凹凸構造15aが賦形されたエンボス層15と、微細凹凸構造15aの少なくとも一部を覆うように配置された薄膜層14とを備え、薄膜層14に接着層13によって固定された保護層10側から入射光ILが入射すると、入射光ILが、エンボス層15に到達することなく、薄膜層14において光学作用するので、エンボス層15のひびHや荒れRによって悪影響を受けることのない出射光DLを得ることができるので、入射光ILの利用効率が高い、優れた光学性能を実現することができる。
【0143】
さらに、この光学表示体1は、ロールツーロール法を適用して作製したホログラムをカードに内装することによって適用できる。
【実施例0144】
実施例1は、図2に示すように、カード形態の光学表示体1である。
【0145】
カード形態の光学表示体1は、図1に示す光学フィルム17を、保護層10と中間層11との間に挟み、さらに、この中間層11の下に下地層12を積層し、中間層11を保護層10と下地層12とで挟み、さらに、下地層12の下に中間層、保護層の順で重ねた状態で、180℃で10分間加熱、加圧後、冷却することで作製した。
【0146】
保護層10、中間層11、下地層12には透明樹脂フィルムであるポリカーボネートを適用した。エンボス層15には、アクリル系樹脂を主成分とする光硬化性樹脂を主成分とした材料を適用した。エンボス層15は、下地層12が予め塗工され設けられたPET上に、下地層12面側に塗工され設けられた。
【0147】
さらに、エンボス層15に、ロールツーロール方式によって、微細凹凸構造15aを賦形した。ロールツーロール方式では、微細凹凸構造が凹凸反転された形状が設けられ、150℃以上に加熱されたスタンパーによって、エンボス層15に微細凹凸構造15aを賦形した。
【0148】
さらに、微細凹凸構造15aの表面に、50nm以上の厚みのアルミニウムを真空蒸着させることによって、薄膜層14を形成した。
【0149】
その後、光学フィルム17を、基材であるPETから剥離し、ポリカシートに転写後、カードに内装し、熱融着により、カード16を良好に作製できた。
【0150】
また、微細凹凸構造15aは、計算機ホログラムのための位相変調素子として良好に機能した。
【実施例0151】
実施例2もまた、図2に示すように、カード形態の光学表示体1である。
【0152】
ただし、実施例2では、機械認識可能なコードを作製するために、アルミニウムからなる薄膜層14の一部を除去した。
【0153】
薄膜層14の一部を除去するために、YAGレーザーを保護層10側から照射した。これによって、アルミニウムが除去され、機械認識可能なコードを有するカードを、良好に作製できた。
【0154】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0155】
1・・光学表示体、10・・保護層、11・・中間層、12・・下地層、13・・接着層、14・・薄膜層、15・・エンボス層、15a・・微細凹凸構造、15b・・底辺、16・・カード、17・・光学フィルム、20・・ロールツーロール装置、21・・版胴、21a・・本体部、21b・・モールド、21bB・・凹部、21bT・・凸部、22・・押圧ロール、23・・搬送ロール、24・・供給部、25・・加熱部、26・・照射部、30・・基材、31・・前駆層、樹脂、32・・前駆体、B・・底点、C・・界面、DL・・出射光、H・・ひび、IL・・入射光、K・・界面、L1・・接線、L2・・接線、P・・バーコードパターン、R・・荒れ、RIL・・入射光、S1・・隙間、S2・・隙間、SL・・反射光、SRL・・反射光、T・・頂点、α・・角度、β・・角度
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C