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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117842
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】トポロジカル垂直結合器
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/122 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
G02B6/122 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014576
(22)【出願日】2021-02-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2020年第81回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集、講演番号:10p-Z18-10、発行年月日:令和2年8月26日 2.2020年第81回応用物理学会秋季学術講演会 口頭発表、講演番号:10p-Z18-10 オンライン講演のウェブサイトのアドレス https://meeting.jsap.or.jp/jsap2020a/ 開催日 令和2年9月8日~11日(発表日:令和2年9月10日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」、「人工グラフェンに基づくトポロジカル状態創成と新規特性開発」、「トポロジカルフォトニクスの光通信デバイス応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】各務 響
(72)【発明者】
【氏名】古月 暁
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB15
2H147AB21
2H147AB31
2H147BF03
2H147BF06
2H147BF08
2H147BF10
2H147BF14
2H147BG01
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
(57)【要約】
【課題】垂直結合効率を大幅に向上させることができるトポロジカル垂直結合器を提供する。
【解決手段】トポロジカル垂直結合器30は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体11と、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体12と、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13と、フォトニック構造体11またはトポロジカルフォトニック構造体12から、1または複数個の格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40と、を有する
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体(Trivial photonic structure)と、
内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)と、
前記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ(Topological edge)と、
前記フォトニック構造体または前記トポロジカルフォトニック構造体から、1または
複数個の格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティと、を有する
ことを特徴とするトポロジカル垂直結合器。
【請求項2】
前記キャビティの周囲を取り囲む波長選択用格子と、
前記キャビティと波長選択用格子との中心間の距離を変えて、垂直結合効率のピーク周波数を調整する調整手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル垂直結合器。
【請求項3】
前記キャビティは、前記トポロジカルエッジ近傍の前記フォトニック構造体または前記トポロジカルフォトニック構造体に配置される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトポロジカル垂直結合器。
【請求項4】
前記キャビティは、垂直結合入射光を受光する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のトポロジカル垂直結合器。
【請求項5】
前記トポロジカルフォトニック構造体は、配列されたセル内で対称性を有する誘電体を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル垂直結合器。
【請求項6】
前記トポロジカルフォトニック構造体は、C6v対称性を有するナノホールを含む誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル垂直結合器。
【請求項7】
前記トポロジカルフォトニック構造体は、Zトポロジーで表わされるトポロジカル構造である
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル垂直結合器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン光回路上に集積可能なトポロジカル垂直結合器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワークに用いられている各種光素子には、レーザ、変調器、多重化素子、光スイッチ等がある。光集積回路は、光通信で必須とされる種々の機能をワンチップ上に一括集積したものである。単一機能の光デバイスに比べて、実装コスト・消費電力・サイズなどの低減が可能なことから、数多くのモジュールが実用化されており、現在の光市場を席巻している。
一般的な光集積回路においては、伝搬光のモードは、TEモード(Transverse Electric mode)またはTMモード(Transverse Magnetic mode)に固定される。そのため、光回路上に集積された各種デバイスは、それらのモードに対して動作するように設計されている。
【0003】
近年、光の自由度を積極的に利用した通信方式に関心が集まっている。特に、光渦(光の軌道角運動量)には、未開拓の領域が多く残っていることから研究が盛んになっている。光渦は、波面のらせん周期に情報を乗せることで、理論上無限チャネル多重化が可能であり、光通信との親和性が極めて良いとされている。
【0004】
特許文献1には、第1層と、第1層に対向する第2層とを備え、第1層は、各々が光学異方性を有する複数の第1構造体を含み、第2層は、第1層から入射した光を反射する際は、光の入射時と反射時とで光の偏光状態を維持したまま光を反射する、光学素子が記載されている。特許文献1の段落[0258]には、「光LT2は、光渦として出射される。光渦とは、特異点を有し、等位相面が螺旋面を形成する光のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-84679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的な光回路においては、その構成要素の導波路型デバイス群がTE/TMモード光でのみ動作するため、光渦との親和性は決して高くない。例えば、TEモード/TMモードしか扱えず、TE/TMモードで動作する光集積回路では、光渦を制御することはできないという課題がある。
【0007】
従来型の光回路の一部をトポロジカルフォトニクス系に置き換えることで、光回路内において光渦伝搬をはじめとした各種制御を行うことを目指している(TPICs : Topological Photonic Integrated Circuits)。
TPICsにおいて重要な要素の一つは、トポロジカルフォトニクス系への高効率な結合を、水平・垂直の両方向に対して実現することが課題としてある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、垂直結合効率を大幅に向上させることができるトポロジカル垂直結合器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明に係るトポロジカル垂直結合器は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体(Trivial photonic structure)と、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)と、前記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ(Topological edge)と、前記フォトニック構造体または前記トポロジカルフォトニック構造体から、1または複数個の格子内の構造を取り除いたキャビティと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、垂直結合効率を大幅に向上させることができるトポロジカル垂直結合器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器に用いるトポロジカルエッジ伝送路(Topological edge state waveguide)の構造を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器におけるC6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーンの図である。
図3図1のトポロジカルエッジ伝送路に光を垂直入射する場合の模式図である。
図4図1のトポロジカルエッジ伝送路における垂直結合(入射)位置依存性を説明する図である。
図5図4のトポロジカルエッジ伝送路の各垂直結合位置A,B,C,Dに円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度の解析結果を示す図である。
図6図4のトポロジカルエッジ伝送路の垂直結合位置Aに円偏光を垂直入射した場合のPort1およびPort2の波長に対する出力強度である。
図7】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器の垂直結合位置Aにキャビティを有する構造を示す図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器の垂直結合位置Bにキャビティを有する構造を示す図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器の垂直結合位置Cにキャビティを有する構造を示す図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器の垂直結合位置Dにキャビティを有する構造を示す図である。
図11図7のトポロジカル垂直結合器に右円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度の解析結果を示す図である。
図12図7のトポロジカル垂直結合器に右円偏光を垂直入射した場合、トポロジカルエッジ状態が生じるバンド内の各波長におけるモード分布を示す図である。
図13】本発明の第2の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器の構造を示す図である。
図14図13のトポロジカル垂直結合器に右円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(原理説明)
トポロジカル絶縁体(Topological insulator)やワイル半金属(Weyl Semimetal)などにおける電子系のトポロジーをフォトンの系にトレースする試みは、トポロジカルフォトニクスと呼ばれ、近年急速に進展している。トポロジカル絶縁体は、バルクはエネルギーギャップを持つ絶縁体でありながら、エッジ(2次元系では端、3次元系では表面)にギャップレスの金属状態が生じている物質をいう。
【0013】
特に、C6v対称性(60°回転させると重なる対称性)を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造におけるZトポロジー(電子波動関数のもつトポロジカルな構造の分類における一つのクラス)の発現は、光渦の伝送が可能なトポロジカルエッジ状態の実現を可能にする。
【0014】
<トポロジカルエッジ伝送路の設計>
図1は、本発明の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器に用いるトポロジカルエッジ伝送路(Topological edge state waveguide)20の構造を説明する図(Si-based topological edge state waveguide we used in simulation)である。
図1に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体(Trivial photonic structure)11と、トポロジカルエッジ伝送路20は、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)12と、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ(Topological edge)13と、を有する。
【0015】
<フォトニック構造体>
フォトニック構造体(Trivial Ph.C.)11は、C6v対称性を有する第1誘電体111が蜂の巣格子状(例えば、周期a=800nm)に配列された構造である。
トポロジカルフォトニック構造体(Topological Ph.C.)12は、C6v対称性を有する第2誘電体112が蜂の巣格子状(例えば、周期a=800nm)に配列された構造である。
【0016】
第1誘電体111は、SOI(Silicon-On-Insulator)ウェハ上に、C6v対称性を有するナノホール111aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル(unit cell)121に配列したナノ(nm,1nm=10-9m)構造を用いる。
第2誘電体112は、SOIウェハ(例えばSi膜厚220nm)131上に、C6v対称性を有するナノホール112aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル122に配列したナノ構造を用いる。
第1誘電体111のナノホール111aと第2誘電体112のナノホール112aは、蜂の巣格子のセル121,122中心からナノホール111a,112aの中心までの距離rおよびナノホール1辺の長さlのパラメータがそれぞれ異なる(後記)。
【0017】
トポロジカルフォトニクス系では、誘電体がハチの巣状誘電体部の△の一辺の長さと、セルの中心からの距離がわずかに異なる2種類のフォトニック構造の界面にトポロエッジ状態が発生し、そこを光が伝搬する。光渦の回転の向きにより、左か右の一方向のみにしか伝搬しない。図1では、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界のトポロジカルエッジ13には、トポロジカルエッジモード(Topological edge mode)が発現している。
トポロジカルフォトニック構造体12によって作られた2つの領域の界面に生じる光状態(トポロジカルエッジ状態)は、特定の偏光・光渦を有する光のみを許容し、これら特定の偏光・光渦は伝播方向依存性を有する。
【0018】
<C6v対称性を有するナノホールの構造>
図2は、C6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーンの図(Schematic image of a unit cell in the reciprocal space)である。フォトニック構造体11の第1誘電体111のナノホール111aを例に採る。トポロジカルフォトニック構造体12の第2誘電体112のナノホール112aについても同様の構造である。
図2の右図に示すように、蜂の巣格子のセル121の中心をブリルアンゾーンの中心(原点)Γ点とする。また、ブリルアンゾーンの高対称点として、M点(長方形面の中心)、K点(2つの長方形面をつなぐ辺の中心)、A点(六角形面の中心)、H点(端点)、L点(六角形面と長方形面をつなぐ辺の中心)がある。
【0019】
図2の左図に示すように、Si膜133は、蜂の巣格子状のセル121とセル121に配列されたC6v対称性を有するナノホール111aとが形成される。残存Si膜133と当該Si膜133に開孔したナノホール111aからなるフォトニック構造は、フォトニック構造体11の第1誘電体111を形成する。図2の左図は、フォトニック構造体11のセル121を上面手前の斜め上から見た図であり、開孔したナノホール111aの下のSiO絶縁膜132が露出している。
図2の左図のナノホール111aは、蜂の巣格子のセル121の中心(Γ点)からナノホール111aの中心までの距離r、ナノホール111aの1辺の長さlをパラメータとする。隣り合うナノホール111aのセル121の中心角は、π/3である。
フォトニック構造体11のナノホール111aの場合、例えばr=240nm,l=240nmである。
また、トポロジカルフォトニック構造体12のナノホール112aの場合、例えばr=290nm,l=250nmである。
さらに、図2の左図に示すように、隣り合う蜂の巣格子のセル121同士の中心(Γ点)間距離a1、a2は、同じ(ここでは、a1=a2=800nm≡a)である。
【0020】
<トポロジカル系への垂直結合>
図3は、図1のトポロジカルエッジ伝送路20に光10を垂直入射する場合の模式図である。
トポロジカルエッジ伝送路20に、垂直入射する場合の光10は、平面波(電界Eと磁場Hが伝播する方向に直交)である。また、偏光は円偏光(circular polarization)である。
【0021】
図4は、トポロジカルエッジ伝送路20における垂直結合(入射)位置依存性を説明する図である。図4は、図3に示す平面波(円偏光10)のスポットを、トポロジカルエッジ伝送路20の各垂直結合位置A,B,C,Dに垂直入射した場合を示している。例えば、トポロジカルエッジ伝送路20の垂直結合位置A,B,C,Dにそれぞれ平面波のスポットを垂直入射した場合、Port1の出力をみると、垂直結合位置Aに光を垂直入射したときに出力がもっとも大きい。このため、垂直結合された光をPort1に出力する場合、トポロジカルエッジ伝送路20の垂直結合位置Aに、キャビティ40(後記)を設けることが望ましい。
【0022】
本発明者らは、フォトニック構造体11側では、トポロジカルエッジ13から1セル離れた垂直結合位置Aへの光の入射が、トポロジカルエッジ13に近い垂直結合位置Bよりも垂直結合効率が高いことを見出した。また、トポロジカルフォトニック構造体12側では、トポロジカルエッジ13に近い垂直結合位置Cが、それよりも1セル離れた垂直結合位置Dより垂直結合効率が高いことを見出した。さらに、図4の構造例では、垂直結合位置A,B,C,Dのうち、垂直結合位置Aがもっとも垂直結合効率が高い知見を得た。
【0023】
<円偏光入射時のポート分岐>
図5は、図4のトポロジカルエッジ伝送路20の各垂直結合位置A,B,C,Dに円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度(面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hy)の解析結果を示す図(Output power of port 1 as a function of wavelength of vertical incident light.)である。横軸に波長(wavelength)(μm)、縦軸にPort1での面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hyをとる。ただし、円偏光入射光の強度はHyとしている。
【0024】
図5に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20に円偏光を垂直入射する。Port1の出力(縦軸)が最大となる垂直結合位置Aに入射した場合であっても、垂直結合効率は、10%にも満たない。すなわち、図4に示すトポロジカルエッジ伝送路20を用いて、トポロジカル垂直結合器を構成する場合、垂直結合効率が悪いことが想定される。
【0025】
図6は、図4のトポロジカルエッジ伝送路20の垂直結合位置Aに円偏光を垂直入射した場合のPort1およびPort2の波長に対する出力強度(磁界分布(Hz)の解析結果を示す図(Output power of port 1,2 as a function of wavelength of vertical incident light.)である。横軸に波長(wavelength)(μm)、縦軸に磁界分布(Hz)をとる。
【0026】
図6に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20に円偏光を垂直入射した場合、1.54μmの波長では、Port2の出力は最小となる。
【0027】
(第1の実施形態)
図7図10は、本発明の第1実施形態に係るトポロジカル垂直結合器30の構造を示す図(Schematic image of proposed device.)である。図7のトポロジカル垂直結合器30A(30)は、図4の垂直結合位置Aにキャビティ40を有する構造を示し、図8のトポロジカル垂直結合器30B(30)は、図4の垂直結合位置Bにキャビティ40を有する構造を示し、図9のトポロジカル垂直結合器30C(30)は、図4の垂直結合位置Cにキャビティ40を有する構造を示し、図10のトポロジカル垂直結合器30D(30)は、図4の垂直結合位置Dにキャビティ40を有する構造を示す。トポロジカル垂直結合器30A~30Dを区別しない場合は、トポロジカル垂直結合器30という。なお、図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0028】
図7図10に示すように、トポロジカル垂直結合器30は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体11と、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体12と、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13と、トポロジカル伝送路(光渦伝送路)において、1または複数個の格子単位胞内の構造を取り除くキャビティ(Cavity)40と、を有する。
【0029】
換言すれば、トポロジカル垂直結合器30は、図1に示すトポロジカルエッジ伝送路20において、垂直結合に向けて、トポロジカル伝送路近傍の1つまたは複数個の格子単位胞内の構造を取り除くキャビティ40を有する。
【0030】
トポロジカル垂直結合器30は、膜厚300nmのSiコア層を空気クラッドで挟んだエアブリッジ構造とし、C6v対称性を有する三角ナノホールを蜂の巣格子状(格子間隔775nm)に配置するトポロジカル伝送路20(図1参照)を構成した。トポロジカル伝送路20は、バンド解析により、フォトニック構造体11およびトポロジカルフォトニック構造体12におけるフォトニック構造のR/Lは、それぞれ225/265nm,270/265nmとした。
そして、トポロジカル垂直結合器30は、トポロジカル伝送路近傍の1格子単位胞内の誘電体を全て取り除いたキャビティ構造(キャビティ40)を有する。
【0031】
<キャビティ>
キャビティ40は、トポロジカル伝送路近傍の1つまたは複数個の格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ構造である。ここでは、キャビティ40は、Air部をSiで埋める構造を採る。
図7に示すトポロジカル垂直結合器30Aは、フォトニック構造体11上で、トポロジカルエッジ13から1格子単位胞離れた1つの格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40を有する。
図8に示すトポロジカル垂直結合器30Bは、フォトニック構造体11上で、トポロジカルエッジ13に接する1つの格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40を有する。
図9に示すトポロジカル垂直結合器30Cは、トポロジカルフォトニック構造体12上で、トポロジカルエッジ13に接する1つの格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40を有する。
図10に示すトポロジカル垂直結合器30Dは、トポロジカルフォトニック構造体12上で、トポロジカルエッジ13から1セル離れた1つの格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40を有する。
【0032】
[シミュレーション]
<キャビティによる高効率結合>
図11は、図7のトポロジカル垂直結合器30A(30)に右円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度(面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hy2)の解析結果を示す図(Output power of port 1 as a function of wavelength of vertical incident light.)である。横軸に波長(wavelength)(μm)、縦軸に面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hyをとる。
図11の太実線は、右円偏光入射時におけるport1の出力強度の解析結果を示し、図11の細実線は、キャビティがない通常のトポロジカル伝送路(図4のトポロジカル伝送路20参照)の解析結果を示す。
【0033】
右円偏光入射時におけるport1の出力強度を解析することで、トポロジカル垂直結合器30A(30)の垂直結合効率を判定することができる。
【0034】
シミュレーションにおいては、図7のトポロジカル垂直結合器30A(30)の1.5μm上部にフォーカルレンズ(focal length lens)を配置し、ビームウェスト径1μmで、図7に示すキャビティ構造(トポロジカル垂直結合器30Aのキャビティ40)を中心とする領域に光が入射されるように設定する。また、入射光は、平面波とし、偏光は左右円偏光の2種類で変化させる。
【0035】
図11の矢印aに示すように、トポロジカル垂直結合器30(キャビティ40を有するトポロジカルエッジ伝送路)は、キャビティ40を有しない通常のトポロジカルエッジ伝送路に比べて、垂直結合効率に大幅な改善が見られ、トポロジカルエッジ状態が生じるバンド内において、最大で876%(波長1540nm)の出力強度の向上が確認された。Port1の出力(Port1に出力される強度)が1桁弱以上向上している。
【0036】
<キャビティによる結合モード分布>
図12は、図7のトポロジカル垂直結合器30A(30)に右円偏光を垂直入射した場合、
トポロジカルエッジ状態が生じるバンド内の各波長(1540nm、1560nm、1580nm)におけるモード分布を示す図(Mode distribution at each wavelength.)である。横軸にZ軸(z axis)(μm)(Z軸左端がPort1、Z軸右端がPort2)をとり、縦軸にPort1およびPort2の各波長に対する出力強度(面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hy)をとる。図12の濃淡は、磁界成分強度分布Hyの強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。
【0037】
バンドの中心において、顕著に見られるスピン-スピン散乱によるエッジ状態の消失が予想され、このときは伝送路への結合は完全に遮断されている。
図12に示すように、スピン-スピン散乱が起こる波長(1560nm)では、両方方向共に散乱(遮断)することが確認された。
スピン-スピン散乱が起こる波長(1560nm)の両側の波長(1540nm、1580nm)では、光渦向きに応じて一方向のみに伝播する。
【0038】
(第2の実施形態)
図13は、本発明の第2の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器30の構造を示す図である。図13のトポロジカル垂直結合器30A(30)は、図4の垂直結合位置Aにキャビティ40を有する構造である。図7と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
図13に示すように、トポロジカル垂直結合器30は、キャビティ40周辺の誘電体の配置を変えた格子単位胞50を有する。図13では、キャビティ40を取り囲む6個の格子単位胞50のキャビティ40の中心から当該格子単位胞の中心までの距離aを変える。中心間の距離aを変えることで、各格子単位胞50の大きさは変わらずに、6個の三角形の位置が変わる。
【0039】
図14は、図13のトポロジカル垂直結合器30A(30)に右円偏光を垂直入射した場合のPort1の波長に対する出力強度(面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hy)の解析結果を示す図(Output power of port 1 as a function of wavelength of vertical incident light.)である。横軸に波長(wavelength)(μm)、縦軸に面直(y軸)方向の磁界成分強度分布Hyをとる。
図14は、キャビティ40の中心から当該セルの中心までの距離aを、775nm、800nm、805nm、815nmに変えた場合を表わしている。例えば、フォトニック構造体11の第1誘電体111を、距離a=775nmに構成することで、垂直結合の効率のピーク周波数を1.54μmに調整することができる。また、距離a=800nmに変えることで、垂直結合効率のピーク周波数を1.58μmに調整することができる。
このように、距離aを変えることで、垂直結合効率のピーク周波数をシフトさせることができ、波長をコントロールすることができる。
【0040】
以上説明したように、第1の実施形態に係るトポロジカル垂直結合器30(図7参照)は、バルクがエネルギーギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体11と、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体12と、フォトニック構造体11とトポロジカルフォトニック構造体12の境界において光渦伝播が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13と、フォトニック構造体11またはトポロジカルフォトニック構造体12から、1または複数個の格子単位胞内の構造を取り除いたキャビティ40と、を有する。
【0041】
この構成により、垂直結合効率を大幅に向上させることができるトポロジカル垂直結合器を提供することができる。これにより、トポロジカルシリコン光回路(Topological photonic integrated circuits:T-PICs)上に集積可能なトポロジカル垂直結合器を実現することができる。
【0042】
第2の実施形態では、トポロジカル垂直結合器30は、キャビティ40の周囲を取り囲む波長選択用格子50と、キャビティ40と波長選択用格子50との中心間の距離aを変えて、垂直結合効率のピーク周波数を調整する調整手段と、を有する。
このように、距離aを変えることで、垂直結合効率のピーク周波数をシフトさせることができ、波長をコントロールすることができる。
【0043】
トポロジカル垂直結合器10は、トポロジカル特性の光回路への応用が可能である。光渦の伝送を用いたトポロジカル垂直結合器は、半導体基板(シリコン,InPなど)上に形成することができ、半導体レーザや大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れていることから光通信との親和性の向上も期待できる。
【0044】
本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、キャビティ40は、トポロジカルエッジ伝送路20に配置されるものであれば、どのような配置でもよい。
【0045】
また、キャビティ40の構造、配列、寸法、個数、材質は、実施形態・変形例には限定されない。キャビティ40は、2個以上でもよい。キャビティ40は、Air部をSiで埋める構造のほか、誘電体を形成しない構造でもよい。
【符号の説明】
【0046】
11 フォトニック構造体(Trivial photonic structure)
12 トポロジカルフォトニック構造体(Topological photonic structure)
13 トポロジカルエッジ(Topological edge)
20 トポロジカルエッジ伝送路
30,30A,30B,30C,30D トポロジカル垂直結合器
40 キャビティ(Cavity)
50 セル(波長選択用格子単位胞)
111 第1誘電体
112 第2誘電体
121 フォトニック構造体のセル
122 トポロジカルフォトニック構造体のセル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14