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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117874
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】組電池及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/20 20210101AFI20220804BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20220804BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20220804BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20220804BHJP
【FI】
H01M2/10 S
H01M10/613
H01M10/6554
H01M10/653
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014633
(22)【出願日】2021-02-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹下 恵介
【テーマコード(参考)】
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031KK01
5H040AA28
5H040AT06
5H040AY03
5H040CC25
5H040CC30
5H040NN05
(57)【要約】
【課題】通常時及び異常時に、各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができ、設計及び組立が容易である組電池及び電池パックを提供する。
【解決手段】各電池セル2は、電極3を有する電極面2aと、電極面2aに直交する面である外周面2bとを有し、各電池セル2は、その外周面2b同士が対向するように配置され、電極3及び不図示のコネクタ等を介して直列又は並列に接続されている。電池セル2の外周面は絶縁材14により被覆され、さらに絶縁材14の外周面は放熱部材8により被覆されており、これにより、組電池40が構成されている。放熱部材8は、例えば両端部が開口した筒状体であり、電池セル2側の面から放熱部材8側の面まで、絶縁材14の厚み方向に貫通する複数の孔14aを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する電極面と、前記電極面に直交する外周面と、を有し、前記外周面同士が対向するように配置された複数の電池セルが、直列又は並列に接続される組電池であって、
前記電池セルと、
前記電池セルの外周面を被覆する絶縁材と、
前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する放熱部材と、を有し、
前記絶縁材は、前記電池セル側の面から前記放熱部材側の面まで貫通する複数の孔を有する、組電池。
【請求項2】
前記絶縁材は、耐電圧が500V以上である、請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記絶縁材は、メッシュ状である、請求項1又は2に記載の組電池。
【請求項4】
前記絶縁材は、ゴム又はエラストマーからなる弾性材料により形成され、前記電池セルの外周面を周方向に被覆し、前記電池セルを押圧するように構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項5】
前記絶縁材は、両端部が開口した筒状体である、請求項4に記載の組電池。
【請求項6】
前記電池セルと前記絶縁材との間に、前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、請求項4又は5に記載の組電池。
【請求項7】
前記絶縁材及び放熱部材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、請求項4又は5に記載の組電池。
【請求項8】
前記絶縁材は、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有する防炎材料により形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項9】
前記放熱部材は、両端部が開口した筒状体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項10】
前記放熱部材は、シート状の放熱材料を、前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面に巻回したものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項11】
前記放熱部材は、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を材料として形成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組電池を電池ケースに収容した電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電動工具などに収容され、電動モータ等の電源として用いられる組電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電動工具には、いわゆる商用電源に接続して使用されるものと、その内部に、駆動用電動モータの電源となるための組電池が収容されたものがあり、内部に組電池が収容された電動工具は、操作性が優れている等の観点から多用されている。
組電池は、複数の電池セルが直列又は並列に接続されたものであり、例えば、ポリカーボネート等からなる電池ケースに各電池セルを格納して一体化され、電動工具の内部に収容される。
【0003】
電動工具内に収容される電池セルとしては、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。しかし、電池の内部短絡や過充電などが原因で、1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走の発生に対する対策として、例えば、特許文献1には、ある電池セルに過電流が流れ込むなどの理由により異常発熱が発生した場合に、隣接する電池セルへの類焼を防止・抑制することができる組電池が提案されている。上記特許文献1に記載の組電池は、複数の電池セルと、それを保持する金属材料からなるブロックで構成されており、このブロックは複数の小ブロックで構成されるものである。また、ブロックと電池セルとの隙間の大小を調整している。
【0005】
このように構成された特許文献1に係る組電池によれば、電池セルを保持するブロックが金属材料からなるため、熱をすばやく拡散することができるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、二次電池の放熱性を向上し、性能劣化の改善を目的としたバッテリーパックが開示されている。上記特許文献2に記載のバッテリーパックは、複数の二次電池をケース内に収納したものであり、複数の二次電池とケースとの間に、所定の値以上の熱伝導率を有し、圧力により形状が変化する板形状のゴムシートが配置されている。
【0007】
上記特許文献2によると、ゴムシートの熱伝導率が比較的高いため、二次電池の熱を、ケースを介して良好に放電することができることが記載されている。また、このバッテリーパックは、ゴムシートが弾力性を有するため、落下時に損傷を防止することができる。
【0008】
さらに、特許文献3には、蓄電デバイスの発火リスクを低減できる発火防止材が開示されている。上記発火防止材は、例えば、炭素系材料からなる多孔質素材の細孔内及び表面に、不燃性ガスあるいは水系溶媒又は不燃性溶媒を吸着させたものである。
【0009】
上記特許文献3には、異常時に、二次電池から電解液や電解液分解ガスなどのガス成分が発生した場合に、ガス成分が蒸気発火防止材を通過することにより、ガス成分の温度を下げる効果を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-96271号公報
【特許文献2】特開2004-146161号公報
【特許文献3】特開2013-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の組電池によると、金属材料からなるブロックが上下2段に分かれており、両者の間に断熱体が配置されているため、1つの電池から発生した熱を効率的に放出することが困難である。
また、上記特許文献1に記載の組電池は、複数のブロックが必要であり、ブロックと電池セルとの隙間を変化させるため、組電池が搭載される電子機器や電動工具等に応じて、ブロックの設計が必要となる。したがって、ブロックの設計及び組電池の組立が煩雑になるという問題点がある。
【0012】
さらに、特許文献2に記載のバッテリーパックは、電池セルに熱暴走が生じた場合に、隣接する他の電池セルの熱暴走の抑制について、考慮されていない。
【0013】
また、特許文献3においては、異常時に二次電池からガス成分が発生した場合に有効であるが、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち「通常使用時」)及び異常時に電池そのものの温度を下げることはできない。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、通常使用時及び異常時に、各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができ、設計及び組立が容易である組電池及び電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、組電池に係る下記[1]の構成により達成される。
【0016】
[1] 電極を有する電極面と、前記電極面に直交する外周面と、を有し、前記外周面同士が対向するように配置された複数の電池セルが、直列又は並列に接続される組電池であって、
前記電池セルと、
前記電池セルの外周面を被覆する絶縁材と、
前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する放熱部材と、を有し、
前記絶縁材は、前記電池セル側の面から前記放熱部材側の面まで貫通する複数の孔を有する、組電池。
【0017】
また、組電池に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
【0018】
[2] 前記絶縁材は、耐電圧が500V以上である、[1]に記載の組電池。
【0019】
[3] 前記絶縁材は、メッシュ状である、[1]又は[2]に記載の組電池。
【0020】
[4] 前記絶縁材は、ゴム又はエラストマーからなる弾性材料により形成され、前記電池セルの外周面を周方向に被覆し、前記電池セルを押圧するように構成される、[1~[3]のいずれか1つに記載の組電池。
【0021】
[5] 前記絶縁材は、両端部が開口した筒状体である、[4]に記載の組電池。
【0022】
[6] 前記電池セルと前記絶縁材との間に、前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、[4]又は[5]に記載の組電池。
【0023】
[7] 前記絶縁材及び放熱部材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、[4]又は[5]に記載の組電池。
【0024】
[8] 前記絶縁材は、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有する防炎材料により形成されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池。
【0025】
[9] 前記放熱部材は、両端部が開口した筒状体である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組電池。
【0026】
[10] 前記放熱部材は、シート状の放熱材料を、前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面に巻回したものである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組電池。
【0027】
[11] 前記放熱部材は、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を材料として形成されている、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組電池。
【0028】
また、本発明の上記目的は、電池パックに係る下記[12]の構成により達成される。
【0029】
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の組電池を電池ケースに収容した電池パック。
【発明の効果】
【0030】
本発明の組電池は、電池セルの外周面を被覆する絶縁材を有し、この絶縁材には電池セル側の面から放熱部材側の面まで貫通する複数の孔を有するため、通常使用時及び異常時において、電池セルにおいて発生した熱を効果的に放熱部材に伝播することができる。そして、放熱部材は、絶縁材の外周面を被覆しているため、放熱部材に到達した熱を、効率的に外部に放出することができる。さらに、本発明の組電池は、各電池セルの外周面に絶縁材及び放熱部材を取り付けるのみであるため、電池セルの種類に応じて、電池ケースの設計を変更する必要がなく、組立時に煩雑な作業が不要となる。
【0031】
本発明の電池パックは、上記組電池を収容したものであるため、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができるとともに、容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る組電池の一部を模式的に示す部分断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
図5図5は、メッシュ状の絶縁材を用いた組電池の一部を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者は、通常使用時及び異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができる組電池を提供するため、鋭意検討を行った。
その結果、本発明者は、各電池セルの外周面を、複数の孔を有する絶縁材により被覆し、その外周面を放熱部材で被覆することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0035】
[電池パック]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。また、図2は、本発明の第1の実施形態に係る組電池の一部を模式的に示す部分断面図である。電池パック1は、樹脂等により形成された電池ケース7に、以下に詳細に説明する第1の実施形態に係る組電池40が収容されたものである。
【0036】
<組電池>
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る組電池について、詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、各電池セル2は、電極3を有する電極面2aと、電極面2aに直交する面である外周面2bとを有し、各電池セル2は、その外周面2b同士が対向するように配置され、電極3及び不図示のコネクタ等を介して直列又は並列に接続されている。
【0037】
電池セル2の外周面2bは絶縁材14により被覆され、さらに絶縁材14の外周面は、例えば金属を材料として形成された放熱部材8により被覆されており、これにより、組電池40が構成されている。
本実施形態において、絶縁材14は、ゴム又はエラストマーからなる弾性材料により形成され、両端部が開口した筒状体であって、電池セル2及び防炎材4の外周面を周方向に被覆している。また、絶縁材14は、電池セル2側の面から放熱部材8側の面まで、絶縁材14の厚み方向に貫通する複数の孔14aを有する。
なお、本実施形態において絶縁材14(筒状体)の両端部とは、絶縁材14の長手方向(図1において上下方向)における一方の端部及び他方の端部の両方、すなわち、筒状体の開口端部を意味する。
【0038】
このように構成された組電池40においては、電池セル2の外周面2bが弾性材料からなる絶縁材14により被覆されており、弾性材料の原料となるゴム又はエラストマーは、放熱部材8と比較して、断熱性が優れている。したがって、通常使用時及び異常時において電池セル2から発生した一部の熱は、放熱部材8側への伝播を抑制することができる。
一方、絶縁材14は複数の孔14aを有するため、電池セル2から発生した熱の残部は、孔14aを介して効率的に放熱部材8側に伝播される。
なお、一般的に、電池セル2の近傍に導電性が高いものが配置されていると、電池セル2が短絡する危険性がある。本実施形態では、電池セル2と放熱部材8との間に絶縁材14が配置されているため、短絡を防止することができる。
【0039】
また、電池セル2及び絶縁材14のさらに外周面を被覆する放熱部材8は、後述のとおり、伝熱性が優れた材料からなるものである。したがって、絶縁材14の孔14aを介して放熱部材8に到達した熱は、放熱部材8の面方向に広がり、放熱部材8の両端部側、すなわち、絶縁材14の両端部側に放出されるため、効率的に電池セル2を冷却することができる。
さらに、本実施例においては、電池セル2から発生した熱の一部のみが放熱部材8に伝播されるため、放熱部材8が過度に熱せられることを防止することができ、一方の電池セルに隣接した他方の電池セルが熱を受けることを抑制でき、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0040】
ところで、異常時に、電池セルに熱暴走が生じると、この電池の内部でガスが発生し、内圧が上昇することにより電池セルの変形を引き起こし、この変形が大きい場合には、ケースが破壊されることがある。
【0041】
上記第1の実施形態に係る組電池40においては、電池セル2の外周面を周方向に被覆し、電池セル2を押圧する絶縁材14は、電池セル2の変形を抑制する効果と、電池セル2の変形を吸収する効果も有する。すなわち、異常時に電池セル2が変形した場合に、絶縁材14は電池セル2の変形を抑制しつつ、電池セル2の変形に対して柔軟に変形する。したがって、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
【0042】
また、電池セル2は、通常使用時である充放電サイクルにおいても、わずかに変形が発生している。すなわち、電池セル2と電池ケース7との隙間が小さい場合には、電池セル2の膨張時に、電池セル2は電池ケース7から圧力を受け、電池セル2の収縮時に、電池ケース7からの圧力は消失する。このように、電池セル2に対する押圧と緩和が繰り返されると、電池性能が低下する原因となる。
本実施形態においては、通常使用時である充放電サイクルにおける電池セル2のわずかな変形に対しても、絶縁材14が柔軟に変形するため、電池セル2の電池性能の低下を抑制することができる。
【0043】
さらに、本実施形態において、放熱部材8が金属を材料として形成されており、絶縁材14と同様に筒状体であると、伸縮性をほとんど有さないものとなる。しかし、組電池40は、弾性を有する絶縁材14が電池セル2と放熱部材8との間に配置されているため、通常使用時においても、通常使用時における電池セル2の若干の変形を吸収することができ、隣接する他の電池セル2に対して不要な圧力が印加されることを防止することができる。
【0044】
また、放熱部材8と電池セル2及び絶縁材14との隙間を小さくすることにより、異常時に電池セル2が変形した場合に、放熱部材8により、電池セル2の変形を抑制する効果をより一層得ることができ、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
仮に、電池セル2がさらに高温になり、内圧の上昇により破裂した場合であっても、電池セル2は、絶縁材14及び放熱部材8により被覆されているため、例えば、電池セル2の破片や電池セル2に存在していた有機電解液などが、他の電池セル2に到達して悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0045】
本実施形態において、電池セル2は角形であっても丸型であってもよい。
また、絶縁材14が有する孔14aの数及び大きさは特に限定されないが、電池セル2と放熱部材8との間の絶縁を確保することができるものであれば、孔14aの数及び大きさを適宜設計することができる。
さらに、放熱部材8は、絶縁材14により被覆された電池セル2の外周面の全面を被覆していることが好ましいが、上記したような放熱効果が得られるものであれば、必要に応じて、一部の領域が被覆されていなくてもよい。
【0046】
なお、上述の第1の実施形態に係る組電池40における放熱部材8は、両端部が開口した筒状体としたが、放熱部材8は筒状体に限定されない。例えば、シート状の放熱材料を使用して、これを絶縁材14により被覆された電池セル2の外表面に巻回したものとしてもよい。
【0047】
このように構成された放熱部材を使用した場合には、上述の筒状体である放熱部材8を使用した場合と比較して、電池セル2の変形を抑制する効果は減少する。しかし、上記第1の実施形態においては、絶縁材14が、電池セル2の外周面を周方向に被覆し、電池セル2を押圧しているため、電池セル2の変形を許容しつつ、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
【0048】
なお、シート状の放熱材料を使用した場合であっても、シートを絶縁材14の外表面に巻回した後、巻き終わりの端部をシートの一部に係止することにより、容易に筒状体の放熱部材8を作成することができる。
【0049】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。なお、以下の第2及び第3の実施形態を示す図3及び図4において、上記第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。
【0050】
第2の実施形態において、組電池50は、電池セル2と絶縁材14との間に、防炎材4を有する。
【0051】
このように構成された第2の実施形態においては、電池セル2の外周面2bが防炎材4により被覆されているため、絶縁材14及び放熱部材8の2層のみの場合と比較して、通常使用時及び異常時において、電池セル2から発生する熱の周囲への伝播を、より一層効果的に抑制することができる。特に、異常時において、一方の電池セルに熱暴走が発生した場合においても、周囲への熱の伝播が抑制されるため、一方の電池セルに隣接した他方の電池セルが熱を受けることを抑制でき、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0052】
また、防炎材4によっても伝播を抑制することができなかった一部の熱のうち、さらに一部は、上記第1の実施形態と同様に絶縁材14により断熱され、残部は孔14aを介して放熱部材8に伝播され、放熱される。したがって、第1の実施形態と比較して、一方の電池セルに熱暴走が発生した場合に、熱暴走の連鎖をより一層抑制することができる。
【0053】
さらに、上記絶縁材14が、熱によって変質されやすい材料からなるものである場合に、絶縁材14が高温の電池セル2に接していると、溶融等により、絶縁性能及び放熱部材8への熱の伝播性能が低下するおそれがある。第2の実施形態においては、防炎材4を電池セル2に接するように配置するため、絶縁材14が熱影響を受けることを抑制することができる。
【0054】
〔第3の実施形態〕
図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
第3の実施形態において、組電池60は、電池セル2の外周面2bにおける絶縁材14及び放熱部材8のさらに外周面に、防炎材4を有する。
【0055】
このように構成された第3の実施形態においては、放熱部材8に到達し、放熱部材8の厚み方向に伝播された熱を、防炎材4により遮断することができる。したがって、放熱部材8に到達した熱は、放熱部材8の面方向に移動されやすくなり、放熱部材8の両端部側からの放熱効果を高めることができ、熱暴走が発生した電池セルの周囲に熱が伝播されることを、より効果的に抑制することができる。
【0056】
なお、防炎材4を有する第2及び第3の実施形態において、防炎材4は電池セル2又は放熱部材8の外周面全面を被覆する必要はなく、上記したような防炎材4が奏する効果が期待できるものであればよい。例えば、電池セル2又は放熱部材8の外周面の一部のみを被覆するものでもよい。
【0057】
次に、本実施形態に係る組電池を構成する絶縁材14、放熱部材8及び防炎材4について、詳細に説明する。
【0058】
(絶縁材)
本実施形態に係る組電池40,50,60に用いられる絶縁材14としては、上記第1~第3の実施形態において示したように、ゴム又はエラストマーからなる弾性材料により形成されるものの他、防炎材料により形成されるものであってもよい。
絶縁材の絶縁性能としては、例えば、耐電圧が500V以上であることが好ましい。
【0059】
絶縁材14を弾性材料により形成する場合に、弾性材料は、電池セル2の変形に対して柔軟に変形する弾性と、電池セル2又は放熱部材8の外周面に絶縁材14を装着した際に、電池セル2を押圧する伸縮性とを有するものであることが好ましく、断熱性を有するものであることがより好ましい。
【0060】
絶縁材14を防炎材料により形成する場合に、防炎材料は、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有することが好ましく、必要に応じて無機粒子を含有することがより好ましい。本実施形態においては、これらの材料を、例えばシート状に加工したものを使用することができる。絶縁材14を構成する材料としては、絶縁性を有することが重要であるため、絶縁性能が高い材料から選択される。
【0061】
無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維及びチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0062】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面又は多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0063】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、絶縁材14の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0064】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、絶縁材の成形性及び強度が悪化するおそれがある。
【0065】
有機繊維としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなる繊維が選択可能であり、例えば、変性されたポリエチレンテレフタラート(PET;PolyEthylene Terephthalate)、ポリエチレン(PE;PolyEthylene)、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリブチレンテレフタラート等からなる合成繊維を使用することができる。
【0066】
本実施形態において使用することができる合成繊維の種類及び構造等について、より詳細に以下に説明する。
ビニロン(vinylon):ビニルアルコール単位を質量比で65%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ビニラール(vinylal):アセタール化の水準の異なるポリビニルアルコールの長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,chlorofiber):塩化ビニル単位を主成分として形成された長鎖状合成高分子から成る繊維。
ビニリデン(polyvinylidene chloride,chlorofiber):塩化ビニリデン単位(-CH-CCl-)を主成分として形成された長鎖状合成高分子から成る繊維。
アクリル(acrylic):アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
アクリル系(modacrylic):アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で35%以上、85%未満含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ナイロン(nylon,polyamide):繰り返しているアミド結合の85%以上が脂肪族又は環状脂肪族単位と結合している長鎖状合成高分子から成る繊維。
アラミド(aramid):2個のベンゼン環に直接結合しているアミド又はイミド結合が質量比で85%以上であり、イミド結合がある場合は、その数がアミド結合の数を超えない長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエステル(polyester):テレフタル酸と2価アルコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエチレンテレフタラート(PET;polyethylene terephthalate):テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリトリメチレンテレフタラート(PTT;polytrimethylene terephthalate):テレフタル酸と1,3-プロパンジオールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリブチレンテレフタラート(PBT;polybutylene terephthalate):テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエチレン(PE;polyethylene):置換基のない飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で、長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリプロピレン(PP;polypropylene):2個当たり1個の炭素原子にメチル基の側鎖がある飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で、立体規則性があり、他に置換基のない長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリウレタン(elastane,polyurethane):ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含み、張力をかけないときの長さの3倍に伸長したとき、張力を除くとすぐ元の長さに戻る長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリ乳酸(polylactide):乳酸エステル単位を質量比で50%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
有機繊維の平均繊維長及び平均繊維径の好ましい範囲は、無機繊維と同様である。
【0067】
無機粒子としては、耐熱性を有する化合物からなるものであることが好ましく、例えば、金属酸化物を使用することができる。
金属酸化物として、より具体的には、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ムライト(Al13Si)、ジルコニア(ZrO)、マグネシア(MgO)、及びチタニア(TiO)が挙げられるが、これらに限定されない。無機粒子としては、上記金属酸化物の他、窒化ホウ素(BN)及び炭化ホウ素(BC)等が好適に挙げられる。
【0068】
絶縁材14の孔14aは、上記実施形態で示したように、筒状又はシート状の材料に、電池セル2側の面から放熱部材8側の面に到達するように形成してもよいし、絶縁材14の材料をメッシュ状に加工することにより形成してもよい。
【0069】
図5は、メッシュ状の絶縁材を用いた組電池の一部を模式的に示す部分断面図である。図5に示すように、絶縁材24は、有機繊維,無機繊維等の絶縁材の材料を紐状に加工し、これを織り込むことによりシート状に成形したものである。
このような形状の絶縁材24であっても、絶縁材24には、電池セル2側の面から放熱部材8側の面に到達するような孔24aが形成されるため、上記第1~第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(放熱部材)
本実施形態に係る組電池に用いられる放熱部材の材料としては、電池セル2から発生し、放熱部材8にまで到達した熱を、放熱部材8の面方向に拡散し、放熱部材8の両端部側に放出するような伝熱性を有するものを選択することができる。
このような材料としては、例えば、熱伝導率が10(W/m・K)以上であることが好ましく、具体的には、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を選択することが好ましい。
なお、金属としては、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金等が挙げられる。
また、セラミックスとしては、SiC、AlN等が挙げられる。
【0071】
(防炎材)
上記第2及び第3の実施形態に記載の組電池50,60は、電池セル2と絶縁材14との間、又は放熱部材8の外周面に、防炎材を有するものである。このように配置される防炎材の材料としては、上記絶縁材の材料として記載した防炎材料を用いることができる。
【0072】
<電池ケース>
本実施形態に係る組電池40,50,60を収容する電池ケース7の材質及び形状は特に限定されない。電池ケース7の材質としては、ポリカーボネートの他、PP、PET、ポリアミド(PA;polyamide)、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS;Steel Use Stainless)等を使用することができる。また、電池ケース7の形状は、適用される電動工具等の機器に応じて、自由に選択することができる。
なお、本実施形態に係る組電池40,50,60は、各電池セル2が独自に断熱性を有しているとともに、隣接する電池セル2への熱の伝播をさらに抑制する放熱部材8を有しており、熱連鎖の発生を抑制することができるため、電池ケース7に収容されていなくてもよい。例えば、絶縁材14,24及び放熱部材8により被覆された複数の電池セル2をまとめて、バンド等により固定して組電池とすることにより、そのままの形態で電動工具等の機器の内部に格納することもできる。
【0073】
[組電池の組立方法]
本実施形態に係る組電池40,50,60は、電池セル2を、所望の孔14a,24aが形成された絶縁材14,24で被覆し、これに、例えば筒状体である放熱部材8を装着するのみで、上記効果を有する組電池を容易に組み立てることができる。また、各電池セル2のそれぞれに、絶縁材14,24及び放熱部材8を取り付けるため、電池ケース7の煩雑な設計が不要である。
さらに、本実施形態においては、絶縁材14,24がシート状のものであると、電池セル2の形状及び大きさにかかわらず、容易に電池セル2の外周面を覆う大きさに加工することができる。また、絶縁材14,24が弾性材料により筒状体に形成されたものであると、弾性材料は伸縮性を有するため、絶縁材14,24を装着する場合に、電池セル2の形状及び大きさに影響されず、種々の電池セル2に容易に取り付けることができる。
【0074】
なお、本実施形態に係る組電池及び電池パックは、電動工具の他、電動アシスト自転車、電動バイク、電動車両等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 電池パック
2 電池セル
2a 電極面
3 電極
4 防炎材
7 電池ケース
8 放熱部材
14,24 絶縁材
14a,24a 孔
40,50,60 組電池
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する電極面と、前記電極面に直交する外周面と、を有し、前記外周面同士が対向するように配置された複数の電池セルが、直列又は並列に接続される組電池であって、
前記電池セルと、
前記電池セルの外周面を被覆し、ゴム若しくはエラストマーからなる弾性材料、又は、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有する防炎材料により形成される絶縁材と、
前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆し、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を材料とする放熱部材と、を有し、
前記絶縁材は、前記電池セル側の面から前記放熱部材側の面まで貫通する複数の孔を有する、組電池。
【請求項2】
前記絶縁材は、耐電圧が500V以上である、請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記絶縁材は、メッシュ状である、請求項1又は2に記載の組電池。
【請求項4】
前記絶縁材は、ゴム又はエラストマーからなる弾性材料により形成され、前記電池セルの外周面を周方向に被覆し、前記電池セルを押圧するように構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項5】
前記絶縁材は、両端部が開口した筒状体である、請求項4に記載の組電池。
【請求項6】
前記電池セルと前記絶縁材との間に、前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、請求項4又は5に記載の組電池。
【請求項7】
前記絶縁材及び放熱部材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する防炎材を有する、請求項4又は5に記載の組電池。
【請求項8】
前記放熱部材は、両端部が開口した筒状体である、請求項1~のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項9】
前記放熱部材は、シート状の放熱材料を、前記絶縁材により被覆された前記電池セルの外周面に巻回したものである、請求項1~のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の組電池を電池ケースに収容した電池パック。