(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117878
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】正極活物質、正極材料及び該正極材料を備える二次電池、並びに、正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20220804BHJP
C01G 39/06 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H01M4/58
C01G39/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014643
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岳 喜岩
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 佳佳
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE08
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB01
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5H050CB05
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5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB13
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】二次電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる正極活物質、この正極活物質を含む正極材料並びに正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の正極活物質は、遷移金属元素M1の硫化物と、前記遷移金属元素M1以外の少なくとも1種の遷移金属元素M2とを含有する。本発明の正極活物質の製造方法であって、遷移金属元素M1源と、遷移金属元素M2源と、硫黄源と、溶媒とを含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程Aと、前記工程Aで得られた生成物を焼成する工程Bとを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素M1の硫化物と、前記遷移金属元素M1以外の少なくとも1種の遷移金属元素M2とを含有する、正極活物質。
【請求項2】
前記遷移金属元素M1は、Mo、W又はVである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記遷移金属元素M2は、Mo、W及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記硫化物は、前記遷移金属元素M1の一部が前記遷移金属元素M2に置き換えられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
積層構造を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、正極材料。
【請求項7】
請求項6に記載の正極材料を備えた、二次電池。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法であって、
遷移金属元素M1源と、遷移金属元素M2源と、硫黄源と、溶媒とを含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程Aと、
前記工程Aで得られた生成物を焼成する工程Bと、
を備える、正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極材料及び該正極材料を備える二次電池、並びに、正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のリチウムイオン電池等の二次電池に対する要求は年々高まっており、近年では、高い安全性に加えて、高いエネルギー密度及び高いサイクル特性を実現することも求められている。このような次世代二次電池の高い要求に応えるべく、各種の電極材料を改良するための開発が盛んに行われており、様々な高性能電極(正極および負極)活物質材料が開発されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
例えば、二次元層状硫化物MS2(Mは金属原子を示す)は、積み重ねられた層間のファンデルワールス力が弱いため、エネルギー貯蔵用途の有望な電極材料として、ますます注目を集めている。この観点から、最近、電池の電極材料としてのMS2の性能を向上させるためのナノ構造の設計が重要視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MS2は、その層間間隔(0.615nm)は大きいにもかかわらず導電率が低い。このため、クーロン効率を向上させることが難しく、また、容量も大きくすることが難しいので、電池のサイクル特性に問題があり、エネルギー貯蔵分野への応用が制限されているのが実情であった。このような観点から、MS2を使用した電極材料では、そのサイクル特性をさらに向上させることが求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二次電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる正極活物質、この正極活物質を含む正極材料並びに正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の遷移金属元素の硫化物を構成成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
遷移金属元素M1の硫化物と、前記遷移金属元素M1以外の少なくとも1種の遷移金属元素M2とを含有する、正極活物質。
項2
前記遷移金属元素M1は、Mo、W又はVである、項1に記載の正極活物質。
項3
前記遷移金属元素M2は、Mo、W及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の正極活物質。
項4
前記硫化物は、前記遷移金属元素M1の一部が前記遷移金属元素M2に置き換えられている、項1~3のいずれか1項に記載の正極活物質。
項5
積層構造を有する、項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質。
項6
項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、正極材料。
項7
項6に記載の正極材料を備えた、二次電池。
項8
項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法であって、
遷移金属元素M1源と、遷移金属元素M2源と、硫黄源と、溶媒とを含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程Aと、
前記工程Aで得られた生成物を焼成する工程Bと、
を備える、正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の正極活物質は、二次電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた正極活物質(LS-VMS)のSEM画像を示す。
【
図2】
図1のSEM画像において、硫黄元素(S)、モリブデン元素(Mo)、および、バナジウム元素(V)を元素マッピングした画像を示す。
【
図3】実施例1で得られた正極活物質(LS-VMS)のX線回折測定(XRD)結果を示す。
【
図4】実施例1で得られた正極活物質(LS-VMS)の構造の一部を示す模式図である。
【
図5】(A)は、作製例1で組み立てた電池を用いた定電流充放電試験の結果を、(B)は、作製例2で組み立てた電池を用いた定電流充放電試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.正極活物質
本発明の正極活物質は、遷移金属元素M1の硫化物と、前記遷移金属元素M1以外の少なくとも1種の遷移金属元素M2とを含有する。本発明の正極活物質は、種々の二次電池を構成するための正極材料として使用することができ、二次電池に優れたサイクル特性をもたらすことができる。
【0013】
遷移金属元素M1は、各種の遷移金属元素を例示することができる。二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、遷移金属元素M1は、Mo、W又はVであることが好ましい。
【0014】
従って、遷移金属元素M1の硫化物は、各種の遷移金属元素の硫化物を例示することができ、二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、Moの硫化物、Wの硫化物又はVの硫化物であることが好ましい。
【0015】
遷移金属元素M1の硫化物は、二次電池に特に優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、Moの硫化物(例えば、MoS2)であることが特に好ましい。
【0016】
本発明の正極活物質は、前述のように、遷移金属元素M1の硫化物に加えて、遷移金属元素M1とは異なる遷移金属元素M2をさらに含有する。正極活物質に含まれる遷移金属元素M2は、1種のみであってもよいし、2種以上を含むこともできる。
【0017】
遷移金属元素M2は、各種の遷移金属元素を例示することができ、中でも、二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、遷移金属元素M2は、Mo、W及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、少なくともVであることがより好ましい。
【0018】
本発明の正極活物質において、遷移金属元素M2の存在状態は特に限定的ではない。例えば、遷移金属元素M2は、前記硫化物中の遷移金属元素M1と置き換えられて存在することができる(つまり、遷移金属元素M2も硫黄と結合し得る)。具体的には、前記硫化物は、前記遷移金属元素M1の一部が前記遷移金属元素M2に置き換えられた構造を有することができる(つまり、本発明の正極活物質において、遷移金属元素M2は、例えば、遷移金属元素M1の硫化物のフレームワーク中に存在することができる)。この場合、正極活物質は、二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすい。
【0019】
遷移金属元素M2が遷移金属元素M1の硫化物のフレームワーク中に存在することは、例えば、公知の種々の方法で判断することができ、例として、正極活物質のXRDスペクトルから判断することができる。
【0020】
正極活物質において、遷移金属元素M1及び遷移金属元素M2の存在比率は特に限定されない。例えば、正極活物質中における遷移金属M1と遷移金属M2とのモル比、M1:M2は1:0.2~1:5であることが好ましく、1:1~1:4であることがより好ましい。これにより、正極活物質はより優れたサイクル特性を二次電池にもたらすことができる。
【0021】
正極活物質において、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2及び硫黄原子は、正極活物質の全体にわたって均一に分散して存在していることが好ましい。正極活物質における遷移金属元素M1、遷移金属元素M2及び硫黄原子の分散状態は、例えば、SEM画像に基づく元素マッピングによって把握することができる。
【0022】
正極活物質は、遷移金属元素M1の硫化物と、遷移金属元素Mとを必須の成分として含む限り、本発明の効果が阻害されない程度に他の成分を含むことができる。例えば、正極活物質は、遷移金属元素M1及びM2以外の他の金属を含むことができ、例として、正極活物質に不可避的に含まれる金属元素を挙げることができる。正極活物質が遷移金属元素M1の硫化物及び遷移金属元素M2以外を含む場合、その含有割合は、遷移金属元素M1の硫化物及び遷移金属元素M2の総質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくはて0.1質量%以下である。
【0023】
正極活物質は、例えば、粉末等の固体状であるが、その形状は特に限定されず、種々の形状を形成することができる。中でも、正極活物質は、積層構造を有していることが好ましく、より具体的には、正極活物質は、複数の層が層状に積み重なって形成される、いわゆる、レイヤーバイレイヤー構造を有していることが好ましい。これにより、正極活物質は、二次電池にさらに優れたサイクル特性をもたらすことができる。特に、レイヤーバイレイヤー構造は、電池充放電中における正極材料の体積膨張に対してバッファー効果をもたらすことができ、加えて、電極材料中のイオン拡散チャネルも提供しやすくなり、イオンの快速拡散に有利である。その他、正極活物質は、ナノフラワー構造を形成することもできる。
【0024】
正極活物質を製造する方法は特に限定されない。例えば、後記する工程A及び工程Bを備える製造方法によって、本発明の正極活物質を製造することができる。
【0025】
2.正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、例えば、下記の工程A及び工程Bを備えることができる。
工程A:遷移金属元素M1源と、遷移金属元素M2源と、硫黄源と、溶媒とを含む原料を加熱処理することで生成物を得る工程。
工程B:前記工程Aで得られた生成物を焼成する工程。
【0026】
上記工程A及び工程Bを備える製造方法により、正極活物質を製造することができ、例えば、前述の本発明の正極活物質を製造することができる。
【0027】
(工程A)
工程Aは、遷移金属元素M1源と、遷移金属元素M2源と、硫黄源と、溶媒とを含む原料を加熱処理する工程である。
【0028】
遷移金属元素M1は、各種の遷移金属元素を例示することができ、中でも、二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、遷移金属元素M1は、Mo、W又はVであることが好ましい。
【0029】
遷移金属元素M2は、各種の遷移金属元素を例示することができ、中でも、二次電池により優れたサイクル特性をもたらしやすいという点で、遷移金属元素M2は、Mo、W及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、少なくともVであることがより好ましい。
【0030】
遷移金属元素M1源(以下、単に「M1源」と表記する)は、遷移金属元素M1単体であってもよいし、遷移金属元素M1を含む化合物であってもよいが、遷移金属元素M1を含む化合物であることが好ましい。
【0031】
遷移金属元素M1を含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、遷移金属元素M1を含む各種無機化合物を挙げることができる。遷移金属元素M1を含む無機化合物としては、例えば、遷移金属元素M1の酸化物、遷移金属元素M1のオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)の他、遷移金属元素M1の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、遷移金属元素M1を含む無機化合物は、遷移金属元素M1のオキソアニオンを含む化合物であることが好ましい。
【0032】
具体的な遷移金属元素M1のオキソアニオンを含む化合物として、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等を挙げることができる。塩の種類は特に限定されず、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。バナジン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)が挙げられる。モリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)が挙げられる。タングステン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)が挙げられる
【0033】
M1源は、遷移金属元素M1の各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、遷移金属元素M1の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0034】
遷移金属元素M2源(以下、単に「M2源」と表記する)は、遷移金属元素M2単体であってもよいし、遷移金属元素M2を含む化合物であってもよいが、遷移金属元素M2を含む化合物であることが好ましい。
【0035】
遷移金属元素M2を含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、遷移金属元素M2を含む各種無機化合物を挙げることができる。遷移金属元素M2を含む無機化合物としては、例えば、遷移金属元素M2の酸化物、遷移金属元素M2のオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)の他、遷移金属元素M2の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、遷移金属元素M2を含む無機化合物は、遷移金属元素M2のオキソアニオンを含む化合物であることが好ましい。
【0036】
具体的な遷移金属元素M2のオキソアニオンを含む化合物として、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等を挙げることができる。塩の種類は特に限定されず、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。バナジン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)が挙げられる。モリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)が挙げられる。タングステン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)が挙げられる。
【0037】
M2源は、遷移金属元素M2の各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、遷移金属元素M1の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0038】
工程Aで使用する硫黄源は硫黄単体であってもよいし、硫黄を含む化合物であってもよいが、硫黄を含む化合物であることが好ましい。
【0039】
硫黄を含む化合物としては、例えば、公知の硫黄化合物を広く挙げることができ、例えば、チオアセトアミド(CH3CSNH2)、チオ尿素(SC(NH2)2)、システイン(C3H7NO2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、硫化アンモニウム((NH4)2S)、硫化ナトリウム(Na2S)等を挙げることができる。なお、硫黄を含む化合物としては、硫黄元素の一部が、Se及び/又はTe元素に置き換えられてもよい。
【0040】
硫黄源は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。
【0041】
工程Aで使用する原料は、M1源、M2源及び硫黄源の他、溶媒を含む。溶媒としては水を使用することができる他、各種有機溶媒も使用することができる。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、オレイン酸、エチレングリコール、オクタデセン、エチレンジアミン等を挙げることができる。工程Aで使用する溶媒は、水と有機溶媒との混合物とすることもできる。
【0042】
溶媒は、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、アンモニア水の他、ポリビニルピロリドン(PVP)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ラウリルスルホン酸ナトリウム(SDS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の分散安定剤や界面活性剤を含むことができる。溶媒が添加剤を含むことで、前述のレイヤーバイレイヤー構造を有する正極活物質が得られやすくなる。溶媒が添加剤を含む場合、溶媒の全質量に対して添加剤の含有割合は、5質量%以下とすることができ、好ましくは3質量&以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0043】
工程Aで使用する原料において、M1源、M2源、硫黄源及び溶媒の含有割合は特に限定されない。例えば、工程Aで使用する原料において、遷移金属元素M1と遷移金属元素M2とのモル比、M1:M2が1:0.2~1:5となるように、好ましくは1:1~1:4となるように、M1源及びM2源が含まれることが好ましい。これにより、得られる正極活物質はより優れたサイクル特性を二次電池にもたらすことができる。
【0044】
また、工程Aで使用する原料において、硫黄源の含有割合は、遷移金属元素M1の硫化物が形成されやすく、所望の正極活物質が得られやすいという点で、M1源及びM2源の総モル数に対して1~30モル%とすることが好ましく、2~15モル%とすることがより好ましく、3~10モル%とすることがさらに好ましい。
【0045】
工程Aで使用する原料に含まれる溶媒の量は特に限定されない。例えば、原料中の遷移金属元素M1の濃度が1~1000mMとなるように原料中の溶媒の使用量を調節することができ、より好ましい濃度は10~500mM、さらに好ましい濃度は20~100mMである。
【0046】
工程Aでは、前記原料を加熱処理する。これによって、硫化物を含む生成物が生成する。加熱処理の方法として、例えば、原料を容器内に収容して容器を密閉し、該容器内を加熱する方法が挙げられる。原料中の溶媒が水である場合、いわゆる水熱合成法となる。
【0047】
工程Aでの加熱処理時の容器内の温度は特に制限されず、例えば、100~400℃とすることができ、150~250℃であることが好ましい。加熱時間も特に限定されず、加熱温度に応じて適宜決定することができ、例えば、6~40時間とすることができる。加熱処理時の容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0048】
工程Aにおいて、加熱処理が終了した後は、適宜の方法で生成物を取り出すことができる。例えば、生成物は固形分として得られる場合、固形分を遠心分離等の方法で分離し、洗浄及び乾燥することで、生成物を固形物として得ることができる。
【0049】
(工程B)
工程Bでは、前記工程Aで得られた生成物を焼成する。斯かる焼成により、目的の正極活物質が得られる。
【0050】
工程Bにおいて、焼成の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、200~1000℃とすることができ、220~800℃であることが好ましく、250~600℃であることがより好ましく、280~500℃であることがさらに好ましい。
【0051】
焼成の時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、0.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0052】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0053】
工程Bでの焼成処理によって、例えば、残存している副生成物や硫黄源等の未反応原料が除去され、目的の正極活物質を純度よく得ることができ、また、得られる正極活物質の結晶度を高めることができる。
【0054】
上記工程A及び工程Bを備える製造方法によれば、簡便な工程で容易に本発明の正極活物質を得ることができる。
【0055】
3.正極材料
本発明の正極材料は、上記正極活物質を含む限り、他の成分を含むこともでき、例えば、二次電池(特にリチウム二次電池)の正極材料に使用されている公知の成分を挙げることができる。例えば、本発明の正極材料は、上記正極活物質の他、導電助剤及びバインダーを含むことができる。
【0056】
導電助剤は、例えば、二次電池の電極材料を形成するために使用されている公知の導電助剤を広く挙げることができる。導電助剤としては、例えば、各種の炭素材料が例示され、天然黒鉛、人造黒鉛、導電性カーボンブラック、グラフェン、炭素繊維等を挙げることができる。炭素繊維としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電助剤は、その他、銅、ニッケル等の金属粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等を使用することもできる。
【0057】
バインダー例えば、二次電池の電極材料を形成するために使用されている公知のバインダーを広く挙げることができる。バインダーとしては、例えば、各種樹脂材料を挙げることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0058】
正極材料において、正極活物質の含有割合は特に限定されない。例えば、正極材料に含まれる正極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、正極活物質が50~95質量%含まれることが好ましく、60~90質量%含まれることがより好ましい。
【0059】
正極材料において、導電助剤の含有割合は特に限定されない。例えば、正極材料に含まれる正極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、導電助剤が3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0060】
正極材料において、バインダーの含有割合は特に限定されない。例えば、正極材料に含まれる正極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、バインダー3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0061】
正極材料は、正極活物質、導電助剤及びバインダーのみで構成されていてもよいし、その他の成分が含まれていてもよい。
【0062】
正極材料の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の正極材料の調製方法を広く採用することができる。例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダーを所定の割合にて、適宜の方法で混合することで、正極材料を調製することができる。正極材料を調製するにあたっては、正極活物質、導電助剤及びバインダーを分散させるべく、溶媒を使用することもできる。溶媒としては、水の他、各種の有機溶媒、例えば、炭素数1~3の低級アルコール化合物、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を挙げることができる。正極材料が溶媒を含む場合は、例えば、スラリー状やペースト状となる。
【0063】
4.二次電池
本発明の二次電池は、前記正極材料を備える限り、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知の二次電池と同様の構成とすることができる。二次電池の種類は特に制限されず、例えば、リチウムイオン二次電池等を挙げることができる。
【0064】
二次電池は、例えば、正極、負極、電解質及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、その用途に応じて適宜決定することができる。
【0065】
正極は、例えば、金属箔に前記正極活物質が担持された構造を有することができる。金属箔を形成するための金属としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。正極は公知の方法で作製することができ、例えば、金属箔上に前述の本発明の正極材料を塗布することで金属箔に正極活物質が担持された正極を形成することができる。
【0066】
負極は、例えば、金属箔に負極活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。負極活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;金属硫化物;Li4Ti5O12;等を挙げることができる。負極は公知の方法で作製することができる。
【0067】
二次電池において、電解質の種類も特に限定されず、例えば、二次電池に使用される公知の電解質を使用することができる。電解質は固体電解質及び液体電解質のいずれでもよい。
【0068】
液体電解質としては、電解質が溶媒に溶解した溶液を挙げることができる。電解質としては各種アルカリ塩を挙げることができ、例えば、NaPF6、NaClO4、NaCF3SO3、NaFSI、NaTFSI、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiBOB、LiAsF6、LiCF3SO3、LiTFSI、LiFSI、KPF6、KFSI、KTFSI、KBF4等が挙げられ、その他、公知のマグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等も挙げられる。溶媒は水、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸プロピル、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が例示される。
【0069】
固体電解質としては、硫化物系や酸化物系等の無機物材料や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料が挙げられる。
【0070】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等で形成された材料を挙げることができる。セパレータは、多孔質膜、不織布、織布等の形態とすることができる。その他、セパレータとしては、各種の高分子膜、および無機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、例えば、LiLaTiO3、Li7La3Zr2O12(LLZO)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、Na3PSe4等が挙げられる。
【実施例0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
0.234gのNH4VO3と、0.3629gのNa2MoO4・2H2Oと、30mLの蒸留水と、28質量%濃度のアンモニア水0.25mlとを混合し、そこへ、2.402gのC2H5NSを添加し、1時間撹拌することで原料を調製した。
【0073】
得られた原料を、テフロン(登録商標)で裏打ちされた50mL容量のオートクレーブに移して当該オートクレーブを密閉し、220℃で24時間加熱した(工程1)。その後、オートクレーブ内の生成物を遠心分離により回収し、蒸留水およびエタノールを使用して数回洗浄した後、真空オーブン内にて60℃で12時間にわたって生成物の乾燥処理を行った。最後に、アルゴン雰囲気下、300℃で1時間焼成し、目的の正極活物質を得た(工程2)。得られた正極活物質を「LS-VMS」と表記した。
【0074】
(作製例1)
正極活物質として実施例1で得られたLS-VMSと、導電性添加剤としてsuperP(導電性カーボンブラック)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とからなる正極材料を準備した。この正極材料において、LS-VMS:superP:PVDF=8:1:1(質量比)とした。正極材料に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として添加し、12時間攪拌して均一に混合した。得られたスラリーをAl集電体(アルミニウム箔)にコーティングし、真空中120℃で12時間乾燥させることで、正極を製作した。この正極と、負極(銅箔付きリチウム金属)と、液体電解質と、この液体電解質をしみ込ませたセパレータ(Cytiva提供の「Whatman GF/Cガラス繊維ろ紙」)とを用い、公知の方法により、電池を組み立てた。電解質は、1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液とし、斯かる溶液の溶媒は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート混合溶媒(体積比1:1)とした。
【0075】
(作製例2)
正極活物質としてLS-VMSの代わりに市販のLiFePO4(HEOLOTECHNALOGYGROUP Co.Ltd,China)に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0076】
図1は、実施例1で得られたLS-VMSのSEM画像を示している。このSEM画像から、実施例1で得られたLS-VMSは層ごとの積層構造、つまり、レイヤーバイレイヤー構造を形成していることがわかった。
【0077】
図2は、
図1のSEM画像において、硫黄元素(S)、モリブデン元素(Mo)、および、バナジウム元素(V)の元素マッピング画像を示している。
図2(B)は、
図2(A)における枠内部分をS、Mo及びVそれぞれでマッピングした結果を示す画像である。
図2のマッピング結果から、実施例1で得られたLS-VMSは、S、Mo及びVが正極活物質全体にわたって均一に分布していることが確認できた。
【0078】
図3は、実施例1で得たLS-VMSのX線回折測定(XRD)結果を示している。X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~100°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0079】
図3のXRDスペクトルからわかるように、2θ=14.6°、2θ=32.9°、2θ=39.5°および2θ=58.3°に回折ピークが明確に観察された。これらの回折ピークはそれぞれ、2H-MoS
2の(002)、(100)、(103)および(110)面に属するものであった(JCPDSNO.37-1492を参照した)。一方で、
図3のXRDスペクトルにおいて、VS
2を示す構造が見られないことが分かった。
【0080】
この結果、
図4に示すように、実施例1で得たLS-VMSは、バナジウム元素(V)が二硫化モリブデン(MoS
2)のフレームワークに入り込んだ構造を有していることが分かる。
【0081】
図5(A)は、作製例1で組み立てた電池を用いた定電流充放電試験の結果を、
図5(B)は、作製例2で組み立てた電池を用いた定電流充放電試験の結果を示している。これらの測定には、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して測定した。ここで、測定温度は30℃、印加電圧は1.5~3.5Vとした。
【0082】
図5(A)に示されるように、実施例1で得られたLS-VMSを正極活物質として備える作製例1の電池では、1000サイクル後、1Ag
-1の高電流密度において約100%のクーロン効率であり、また、1000サイクル後、118mAhg
-1の比容量を提供できることがわかる。これに対し、
図5(B)に示すように、市販のLiFePO
4を正極活物質として備える作製例2の電池では、1000サイクル後、低電流密度0.17Ag
-1であってクーロン効率が約96.7%に留まり、また、1000サイクル後、の比容量も109mAhg
-1に留まった。
【0083】
以上より、実施例1で得られたLS-VMSを正極活物質として備える二次電池は、優れたサイクル特性を有していることがわかった。