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特開2022-117905緩み防止機能を有するコンビネーションナット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117905
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】緩み防止機能を有するコンビネーションナット
(51)【国際特許分類】
F16B 39/18 20060101AFI20220804BHJP
F16B 39/12 20060101ALI20220804BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
F16B39/18
F16B39/12 Z
F16B37/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021049273
(22)【出願日】2021-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】398069182
【氏名又は名称】株式会社貴匠技研
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴文
(57)【要約】 (修正有)
【課題】戻り回転を伴うねじ締結体の緩みを防止するロック機能を有するコンビネーションナットにおいて、被締結部材の強固な締結とねじ締結体の強固なロックを低い締め付けトルクと簡単な締付け操作で達成する。
【解決手段】内円錐台形の嵌合凹部が形成され、該嵌合部が対向するように配置した一対の外側締結ナット24A,24Bと、外円錐台形のロックナット部がその大経端を共有するように倒置対称形に一体形成された内側ロックナットとよりなり、前記内側ロックナットのロックナット部を前記嵌合凹部に嵌合させた時、前記内側ロックナットの共有大経端が前記嵌合凹部の大経端から下記数式1を満足する所定の高さeだけねじ軸方向に突出する。下記数式において、締結用のナットとボルトの螺合時の遊び側フランクの幅をα、嵌合凹部及ロックナット部の母線角をθ及び締結体のピッチをpとする。
[数1]
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと該ボルトに螺合するナットより成り前記ボルトの頭部と前記ナットの座面との間に被締結部材を締結するねじ締結体に使用する締結ナットであり、該締結ナットは:
締結ボルトに螺合する大経端を共有し倒置対称形に一体的に形成された一対の外円錐台ナット部より成る内側ロックナットと、前記内側ロックナットの両側において前記締結ボルトに螺合し前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部の円錐角と同一の円錐角を有する内円錐台嵌合凹部を有する一対の外側締結ナットで構成され;
前記内側ロックナットは各外円錐台ナット部のねじ軸方向の全長に渡ってナット壁部に穿設されたスロット状開口を有し弾性変形により縮径可能であるとともに前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部のねじ軸方向の高さは前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく、前記各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大径端は該外側締結ナットの座面を含む平面内に開口するとともに前記内側ロックナットの共有大端径よりも内径が小さいことを特徴とする回転緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【請求項2】
前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部の大端径と前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大端径との差は、前記内側ロックナットの各外円錐題部が前記各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部に自重嵌合(無負荷状態で嵌合)(fit into and held within)した状態に於いて前記各外円錐台ナット部の大経端が前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大経端よりも所定の突出高さだけ軸方向に突出するように設定されていることを特徴とする請求項1記載の締結コンビネーションナット。
【請求項3】
前記内側ロックナットの各外円錐大分の大経端の所定の突出高さをe,ボルトが固定持の前記内側ロックナットとボルトの螺合時のねじの遊び側フランク間の幅をα、前記ねじ締結体のピッチをpとする時、前記所定の突出高さeは数式1を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の締結コンビネーションナット。
【数1】
【請求項4】
前記内側ロックナットが前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部内に完全に包摂されている状態において前記内側ロックナットの小径端と前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の小径端の間には微小な間隙が形成されることと特徴とする請求項2ないし3に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項5】
前記内側ロックナットはプレス成型されていることを請求項1ないし4に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項6】
前記内側ロックナットの円錐台部の外表面は梨地しょりされていることを請求項1ないし5に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項7】
ボルトと該通しボルトに螺合するナットより成り、前記ボルトの頭部と前記ナットの座面との間に被締結部材を締結固定するねじ締結体に使用する戻り回転を伴う締結体の緩み防止機能を有する締結コンビネーションナットであり、該締結コンビネーションナットは:
ボルトのねじ部に螺合するねじ部を有し大経端を共有し倒置対称形に一体的に形成された一対の外円錐台ナット部より成る弾性変形可能な内側ロックナットと、前記内側ロックナットの両側において前記ボルトのねじ部に螺合するねじ部と該ねじ部に隣接して設けられ前記ロックナットの各外円錐台ナット部の円錐角と同一の円錐角を有する内円錐台嵌合凹部とを有する一対の外側締結ナット、及び前記内側ロックナットと前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部とが自重嵌合した状態でねじ軸方向の両端部を除く前記締結コンビネーションナットを外装する裂開除去可能な外装体より構成されていることを特徴とする締結コンビネーションナット。
【請求項8】
前記内側ロックナットはそのナット壁部の全長に渡って穿設されたスリットを有し、内側ロックナットの各外円錐台ナット部のねじ軸方向の高さは前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく、前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部の大端径は前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大端径よりも大きくかつ前記内側ロックナットの各外円錐題部が前記各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部に自重嵌合(無負荷状態で嵌合)(fit into and held within)した状態に於いて前記各外円錐台ナット部の大経端が前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大経端よりも所定の突出高さだけ軸方向に突出するように組み合わされた状態で前記外装体で外装されていることを特徴とする請求項7締結コンビネーションナット。
【請求項9】
前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部の大端径と前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大端径との差は、前記内側ロックナットの各外円錐題部が前記各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部に自重嵌合(無負荷状態で嵌合)(fit into and held within)した状態に於いて前記各外円錐台ナット部の大経端が前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大経端よりも所定の突出高さだけ軸方向に突出するように設定されていることを特徴とする請求項7または8記載の締結コンビネーションナット。
【請求項10】
前記内側ロックナットの各外円錐大分の大経端の所定の突出高さをe,ボルトが固定持の前記内側ロックナットとボルトの螺合時のねじの遊び側フランク間の幅をα、前記ねじ締結体のピッチをpとする時、前記所定の突出高さeはα/tanθ≦e<pの関係を満足することを特徴とする請求項17ないし9に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項11】
前記内側ロックナットが前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部内に完全に包摂されている状態において前記内側ロックナットの小径端と前記外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の小径端の間には微小な間隙が形成されることと特徴とする請求項7ないし10に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項12】
前記内側ロックナットはプレス成型されていることを請求項7ないし11に記載の締結コンビネーションナット。
【請求項13】
前記内側ロックナットの円錐台部の外表面は梨地処理されていることを請求項7ないし12に記載の締結コンビネーションナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の被締結部材を締結するためのボルトとナットにより構成されるねじ締結体に使用され戻り回転を伴うねじ締結体の緩みを防止することができる締結ナットに関し、さらに詳しくは、低締結トルクで所要のボルト軸力(締結軸力)が得られ、作業現場において簡単で信頼性が高く効率的な締結作業が出来るねじ締結体用のコンビネーション締結ナットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の被締結部材を締結固定するために使用されるボルト・ナット締結体のようなねじ締結体としては、締結ボルトとこの締結ボルトに螺合するナットを用いて締結ボルト頭部とナット座面の間に被締結部材を挟持しナットを締付けて、締結ボルトに生じる張力であるボルト軸力(締結軸力)によって被締結部材を締結固定するのが一般的である。
【0003】
振動や繰り返し変動する荷重や衝撃荷重のような外部荷重に曝される構造物の一部を構成する被締結部材を締結固定するために使用されるねじ締結体にあっては、それら構造物の強度や信頼性を確保する上での不可欠な要件の一つはねじ締結体が緩まないことである。ねじ締結体が緩むと締結軸力であるボルト軸力が低下し、ねじ締結体の締結力が低下する原因となるからである。
【0004】
ねじ締結体の緩みは、ボルトやナットが相対的に緩む方向に回転する戻り回転を伴う締結体の緩み(戻り回転緩み)、ボルトやナットの戻り回転は起きないが締め付け軸力が低下する戻り回転を伴わない締結体の緩み(非回転緩み)や被締結部材のへたり(歪すなわち永久変形)による締結体の緩み等に大別される。このような締結体の緩みのなかでも戻り回を伴うねじ締結体の緩みは発生する可能性が高く、このような戻り回転は継続的な振動や繰り返し変動する外部負荷等によって生じるボルトとナットの相対回転に起因する。このような緩みの原因となる戻り回転の発生原因は、大別すると、ボルトの軸まわり方向かかる外部荷重、ボルトの軸方向にかかる外部荷重及び/あるいはボルトの軸に直角の方向にかかる外部荷重に起因する。ねじ締結体に戻り回転を伴う緩みが発生するとねじ締結体の締結力は低下し、場合によってはその締結体としての機能を失うばかりでなく、ボルトの疲労破壊や脱落という事態を惹起する可能性が生じ、結果的に構造物の信頼性や安全性を損なう結果になる。
【0005】
このようなねじ締結体の戻り回転緩みの発生に対処するために、締め付けたねじが相対回転して戻り回転を発生するのを抑止あるいは防止するために締付け部(ボルト頭部や締付けナットと被締結体)の間に種々の座金を介在させて使用したり、所謂ダブルナットなどを利用したり、あるいはねじ締結体の戻り回転緩みを防止する特殊構造を有するロックナットをねじ締結体と併用するなどしてねじ締結体の緩みの発生を防止し、もって締結力(締結軸力)が低下する危険性を回避するのが通常である。しかしながら、特に大型の橋梁構造物、高架道路構造物、熱機関、水力機関あるいは電力機関等の機械的原動機関、またこれらの機関を搭載した船舶、航空機あるいは自動車等の運輸装置構造物のように常に機械的振動などの種々の形態の変動する外力力に曝される構造物の一部を構成する部材の締結固定に使用されるねじ締結体は、ねじ締結体の回転緩みが僅かでも生じる場合には、その構造物の強度や信頼性にとって看過し得ない程の締結軸力の低下を惹起し、その結果これら構造物の機能や安全性に重大な瑕疵をもたらすことになり、ねじ締結体の戻り回転緩みが大きくなる場合には、ねじ締結体としての機能を失うばかりでなくボルトの疲労破壊や脱落を引き起こし、結果的に重大事故を誘発することにもなりかねない。そのためこのような構造物に使われているねじ締結体は定期的な点検が不可避であり、少しでも戻り回転を伴うねじ締結体の緩みが検知される場合には締結し直すか、場合によってはねじ締結体そのものを交換する必要が生じる場合もある。
【0006】
構造物に適用される締結体の戻り回転緩み防止用の締結ナットとて重層的に緊締する構造をもった二重ナットが提案されている。例えば特許文献1にはナット部に筒状部が設けられ該筒状部に形成された切込部及び先方に形成された突状部とが設けられた第一ナットと、この第一ナットに嵌入装着される開口部が形成された第二ナットで構成されたロックナットが開示されている。このロックナットでは、第二ナットの開口部の先方に先尖状のテーパ部が形成されているため、ねじ締結体の締結ボルトに螺着させて第二ナットの開口部に第一ナットの突状部が嵌入し、第一ナットの突状部が第二ナットのテーパ部に締め付けられて締結ボルトにロック状態で締結固定されるように構成されている。
【0007】
また特許文献2には、締結ボルトに螺合し中間の座鍔の両側に截頭円錐形の嵌合突部を対称的に備えると共に該突部の一側周面に縦溝を穿設した雄ナットと、雄ナットの両側に於いて締結ボルトに螺合し雄ナットの嵌合突部と嵌合する截頭円錐形の嵌合凹部を備えた一対の雌ナットで構成された双二重ナットが開示されている。この双二重ナットは、雌雄のナットが嵌合緊締されるとある程度の弾性を帯びた雄ナットが復動力を生じて嵌合し雄ナットの嵌合突部と雌ナットの嵌合凹部が密着して雌雄ナットの復転離脱を完全に防止する。またこの双二重ナットは雌雄のナットが嵌合緊締される際、雄ナットの圧縮が左右平均して行われ、雄ナットに局部的に集中した外力を加えて破損することなく緊密かつ堅牢な螺締ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公報 特許第6096420
【特許文献2】実用新案公報 昭30-10815
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載のロックナットは、第一ナットの突状部が第二ナットのテーパ部によって締め付けられて締結ボルトにロック状態で螺着されるが、第一締結ナットのボルトとの螺合距離が長いにもかかわらずテーパ部によって圧縮される第一ナットの筒状部の先方部分に突出形成された突状部の軸方向の長さが第一ナットのねじ部、もしくは筒状部に形成された切込み、に比して距離が短いので、第二ナットのテーパ部による上筒状部の圧縮が軸方向に不均一となり、第一ナットの突状部のボルトに対する螺合固定力の強度はねじ軸方向において不均一となる。このような不均一な螺合固定力によるボルトと第一ナットの間のロック状態は極めて不安定であり、その結果ボルトと第一ナットは相対的な戻り回転による回転緩みを生じる危険性がある。このような構造のロックナットは締結作業が煩雑であり、特に大型の橋梁構造物や高架道路構造物等のように作業環境が劣悪な現場においては作業者に大きな負担をかける結果になり、作業の安全性の観点から望ましいものとは言えない。また第一ナットの筒状部はその多角形部と一体構造である上にその幾何学的形状が複雑であるから製造作業が煩雑である上に工数が大きく、従来のねじ締結体のナットに比して製造コストが増大するという難点がある。
【0010】
特許文献2記載の双二重ナットは、最初に一方の雌ナットをボルトに螺着し、次に雄ナットを螺合し最後に他方の雌ナットを螺着して二重に螺着緊締する構成であり、最初の雌ナットをボルトの所定箇所まで螺着した後、雄ナットを雌ナットに螺合嵌入するためには雄ナットを多数回回転して雌ナットの嵌合凹部の深さにほぼ等しい距離だけ軸方向に締め付けて変位させて嵌合凹部へ嵌入して雄ナットを弾性変形させることによって締結固定しなければならない。さらに一方の雌ナットに螺合緊締した雄ナットに他方の雌ナットを螺合緊締するために、該他方の雌ナットをほぼ同様に操作して雄ナットの嵌合凸部の高さにほぼ等しい距離だけ軸方向に移行して嵌合凸部へ嵌合して螺合緊締することが必要である。このため、双二重ナットの締結を達成するためには、ねじ軸方向の距離が比較的長い螺合作業を三度に渡って繰り返さねばならず、また雄ナットの一方の雌ナット内への螺合締結に要求される締結トルク及び他方の雌ナットを雄ナットへ螺合締結するのに要求される締結トルクはともに高い。このような締結作業は大型の橋梁構造物や高架道路構造物等のように作業環境が劣悪な現場において、一か所のねじ締結部位に多数個のねじ締結体を施工する場合、高い締結トルクと長い締め付け距離を要求される螺合固定作業を三度繰り返すことは作業効率や作業の安全性の観点から望ましいものとは言えない。
【0011】
また大型の橋梁構造物や高架道路構造物等の接続固定部にはその部位によっては同一部位において数十個ないしは百個以上のねじ締結体を施工する場合も多い。このような作業現場では、最初に所定箇所に必要数のボルトを挿入設置し一方の雌ナットを全てのボルトに螺合定着した後、雄ナットを全ての雌ナットに螺合嵌合する。最後に他方の雌ナットを雄ナットに螺合定着するのであるが、時に他方の雌ナットの装着を失念してしまう作業ミスが少なからず発生する。このような作業ミスは構造物の強度や信頼性の低下を惹起するものであるから現場作業者は劣悪作業環境下において必要以上の精神的重圧感を受けることになる。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述する従来の緩み防止機能を備えたねじ締結体の欠点に鑑み、特に大型の橋梁構造物や高架道路構造物、種々の機械的原動機関、またこれらの機関を搭載した船舶、航空機あるいは自動車等の運輸装置等の構造物のような重量構造物等に使用され常時機械的振動や変動する外部負荷等に曝されるような厳しい環境に置かれる構造物のねじ締結体として施工され、過酷な作業環境下での締結作業が要求されるねじ締結体に適しており、ねじの戻り回転を伴うねじ締結体の緩みを確実に防止し、もって構造物の安全性や信頼性を担保することが出来るねじ締結体用のコンビネーション締結ナットを提供することを目的とするものである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、特に橋梁構造物や高架道路構造物のような大型構造物に施工するねじ締結体の締結ナットを締結するのに要する締結トルクが極めて低くて済む上に締結ナットの螺合・締結作業が簡潔で容易に行える一方、低コストで製造が可能なねじ締結体用のコンビネーション締結ナットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の締結ナットは、互いに螺合するボルトとナットの間に被締結部材を締結固定するねじ締結体に使用するものであり、戻り回転を伴う締結体の緩みの発生防止機能を有するコンビネーション締結ナットである。このコンビネーション締結ナットは締結ボルトに螺合する大経端を共有し倒置対称形に一体的に形成された一対の外円錐台ナット部で構成された内側ロックナットと、当該内側ロックナットの両側において締結ボルトに螺合し前記内側ロックナットの各外円錐台ナット部の円錐角と同一の円錐角を有する内円錐台嵌合凹部が形成された第一と第二の一対の外側締結ナットで構成されている。内側ロックナットは弾性変形により縮径可能なようにねじ軸方向の全長に渡ってナット壁部に穿設されたスロット状の開口を有しているとともにその各外円錐台ナット部のねじ軸方向の高さは各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく、また各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の大径端は当該外側締結ナットの座面を含む平面内に開口するとともに内側ロックナットの共有大端径よりも内径が小さいことを特徴としている。
【0015】
このようなコンビネーション締結ナットを使用して被締結部材を締結する場合、締結作業に先立つ準備作業として、被締結部材に通したボルトに第一と第二の一方、例えば第一の外側締結ナット、内側ロックナット及び他方、例えば第二の外側締結ナットを手指によって順次螺合し、内側ロックナットの両側から第一と第二の各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部と各内側ロックナット部を自重を除く外部負荷が互いに作用しない状態で嵌合させる。この準備作業によってボルトに螺合したコンビネーション締結ナットは、外側締結ナットの大端径と内側ロックナットの共有大端径との径差に応じた所定のねじ軸方向の高さだけ内側ロックナット部がそれぞれの外側締結ナットの座面から突出した状態で被締結部材に隣接した準備位置に位置付けられる。準備位置に位置付けられたコンビネーション締結ナットに於ける内側ロックナット部の外側締結ナットの座面からのねじ軸方向の所定の突出高さeは、ねじ締結体のピッチをp及びねじ締結体の螺合時の対面する遊び側フランク間の遊び幅をαとすると下記数式1で規定され、外円錐台形の内側ロックナットとボルトのロックは第一と第二の外側締結ナットの座面が密着当接するまでの外側締結ナットの360°以内の相対回転による締め付けで達成される。
【0016】
【0017】
準備位置に位置付けられたねじ締結体は、コンビネーション締結ナットを締結作業とロック作業に分けて締付けて一連の締結作業が達成される。すなわち、先ず第一の、即ち被締結部材に隣接する側の外側締結ナットを所定の締結トルクで締め付けて被締結部材を締結固定する。引き続いて、第二の外側締結ナットを締め付けると、摩擦係合している内側ロックナットを従属的に螺合回転させながらねじ軸方向へ変位させ、その座面が被締結部材を締結している第一の外側締結ナットの座面に当接するまで螺合回転してねじ軸方向に変位する。この間、内側ロックナットの外壁面が各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の内壁面から側圧を受けて内側ロックナットが弾性変形して徐々にその内径を縮小するとともに、内側ロックナットは第一と第二の外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部内に完全に嵌入する。内側ロックナットの弾性変形は最終的にボルトの雄ねじの山の頂の縁部が内側ロックナットの雌ねじのフランクを塑性変形させて食い込んで、その結果ボルトと内側ロックナットが機械的に固定状態になる。
【0018】
第二の外側締結ナットの締め付けが完了すると各外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の傾斜内壁面は弾性変形した内側外円錐台ロックナットの傾斜外壁面との間に生じる高い接触面圧(摩擦力)と両外側締結ナットの接触座面間に生じる高い接触面圧(摩擦力)とにより、各外側締結ナットの戻り回転が抑制される。すなわち本発明のねじ締結体用のコンビネーション締結ナットは内側ロックナットと締結ボルトの機械的ロックに加えて、複合的に戻り回転を防止する機能を備えており、従来のねじ締結体用のナット構造では得られなかった強固で信頼性の高いねじ締結体の緩みを防止する機能を実現するものである。
【0019】
また本発明の望ましい実施形態によれば、コンビネーション締結ナットは三個の構成ナット部品を順次締結ボルトに螺合して準備位置に位置付ける他に、三個の構成ナット部品をボルトに螺合するのに先立って、予め自重を除く外部負荷が互いに作用しない嵌合状態に組み合わせて集合体として手指で一体的に保持して締結ボルトに螺合して準備位置に位置付けることもできる。また三個の構成ナット部品を一体的に手指によって保持してボルトに螺合する代わりに、外部負荷が互いに作用しない嵌合状態に組み合わせた三個の構成ナット部品を容易に破断可能な外装体で一体的に外装固定して単体のコンビネーション締結ナット集合体として取り扱えるようにすれば、締結ボルトとの螺合による準備位置への位置付けは過酷な作業現場においてさえも、単一のナット集合体として一回の螺合作業で締結準備位置に簡単かつ効率的に位置付けすることが出来、その上で外装材を破断除去すれば締結前の準備は完結する。準備位置に位置付けされた後のコンビネーション締結ナットは同様の一連の締結作業工程を通して実施される。
【0020】
本発明のコンビネーション締結ナットによれば、締結準備位置に位置付けされている第二の外側締結ナットを360°以下の範囲の角度だけ回転してねじ軸方向へ変位させるだけで、内側ロックナットは従動的にねじ軸方向へ変位しながらねじ軸と直交する方向へ弾性変形してその直径が縮径されるとともに内側ロックナットが第一と第二の外側締結ナットの座面が互い圧接してその内円錐台嵌合凹部の内部に完全に嵌入されると、内側ロックナットと締結ボルトの間に強固な機械的ロックが達成される。内側ロックナットは第一及び第二の外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の内側壁傾斜面によって内側ロックナットの軸方向全長に渡って均一に押圧されるので、内側ロックナットのフランクと締結ボルトのねじ山の頂縁との噛み込みが内側ロックナットの全長に渡って均等になり内側ロックナットと締結ボルトはロック長さ全長に渡って強固で信頼性の高いロック結合が担保され、戻り回転を伴うねじ締結体の緩みの発生が確実に防止される。
【0021】
この強固なロック結合は内側ロックナットのねじの遊び側フランクと締結ボルトのねじ山の頂縁部との噛み込みを生じるに必要な内側ロックナットのねじ軸と直交方向への最小限の弾性変形量は遊び側フランク間の遊び幅にほぼ等しく、この遊び幅はねじのピッチに比較して極めて小さく、必要とされる第二の外側締結ナットの回動操作角は一回転の数分に1以下で十分である。第二の外側締結ナットを回動操作して軸方向へ螺合変位するのに伴って、内側ロックナットは外側締結ナットの内円錐台嵌合凹部の内側壁傾斜面との間の逓増する摩擦力によって従動的に回動されてねじ軸方向へ螺合変位する。この時の第二の外側締結ナットの締結トルクは内円錐台嵌合凹部の内側壁傾斜面によって増幅されて内側ロックナットの外側壁傾斜面に伝播されるので、内側ロックナットを弾性変形させるために第二の外側締結ナットの締結トルクを増加する必要がなく、コンビネーション締結ナットの締め付けトルクは低くて済む。
【0022】
また、本発明のコンビネーション締結ナットは内側ロックナットと締結ボルトとの強固なロック結合に加えて、弾性変形した内側ロックナットから外側締結ナット加わる反復圧力、内側ロックナットと外側締結ナットのテーパ面間に発生する摩擦力、及び第一と第二の外側締結ナットの座面間に発生する摩擦力によって、戻り回転を伴うねじ締結体緩みの発生を二重に補完的に防止する。
【0023】
本発明のコンビネーション締結ナットは三個のナット部品で構成されているにも拘らず、簡単かつ容易に組み合わせて集合一体化することが出来るので、三個の単体ナット部品を個々に長い締結ボルトのねじ部に螺合して三度の類似する締結作業を行うことを要せず、作業者が手指にて或いは外装体にて組み合わせて一体化された締結ナットを一回の締結操作で締結準備位置に螺合布置し、第一の外側締結ナットを締め付けるだけでコンビネーション締結ナットの締結作業とロック作業が達成できる。大型の構造物に対して締結作業を実施する場合のような一般に劣悪な作業環境下であっても、本発明のコンビネーション締結ナットは取り扱いがきわめて簡単かつ容易なので作業効率が向上し締結作業の信頼性が向上する。
【0024】
さらに本発明のコンビネーション締結ナットは幾何学的形状および機械的機能が全く同一の二個の外側締結ナットとプレス加工で製造できる内側ロックナットで構成出来るので、製造コストが安くその上製造管理が容易であるという現実的利点を有するものである。その上、容易に破断可能な外装体で三個の組み合わせナット部品が集合一体化されたコンビネーション締結ナットは、商品流通上のみならず現場作業上の処理・運用の利便性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本発明のコンビネーション締結ナットを使用したねじ締結体の構成を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は本発明のコンビネーション締結ナットの構成を示す断面図である。
【
図3】
図3の(a)は組み合わせて一体化した本発明のコンビネーション締結ナットの外観斜視図であり、(b)は組み合わせて一体化した本発明のコンビネーション締結ナットの断面図である。
【
図4】
図3の符号F4で示す部分幾何学的詳細示す部分拡大図である。
【
図5】
図5は
図1に示すねじ締結体の使用状態を示し、ねじ締結体が締結直前の準備位置に位置付けられた状態を示す部分断面図である。
【
図6】
図6は
図1に示すねじ締結体の使用状態を示し、ねじ締結体の締結作業がお終了した状態を示す断面図である。
【
図7】
図7の(a)締結ボルトが固定している時の雄ねじとナットの雌ねじのフランクの幾何学的位置関係を説明するための拡大模式図であり、(b)はナットの雌ねじが弾性変形によりねじ軸と直交する方向へ変形して雄ねじの山の頂部に噛み込む様子を示し、その幾何学的位置関係を説明するための拡大模式図である。
【
図8】
図8は本発明のコンビネーション締結ナットの他の実施例を示す外観平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0026】
以下に本発明の望ましい実施例について説明する。
図1は本発明のコンビネーション締結ナットを使用したボルト・ナット締結体(以下ねじ締結体と略記する)1の分解斜視図であり、2枚の平板状の被締結部材を一体的に締結して固定するのに使用される場合を例示的に示している。ねじ締結体1は、締結ボルト10とこの締結ボルト10と後述するように組み合わせて使用する三個の単体ナット部品よりなる本発明のコンビネーション締結ナット22で構成されている。締結ボルト10は日本工業規格に規定された六角ボルトが採用されているが、目的に応じて制作された特殊ボルトであっても良い。締結ボルト10は座面15を備えた頭部14、この頭部14一体の軸部18から成り、軸部18はねじ軸線方向に延在する円筒部19及び円筒部19の延長部外周に雄ねじ21が形成されたねじ部20より構成されている。締結ボルト10のねじ部20に形成された雄ねじ21はJISに規定された通常のメートル並み目ねじである。この締結ボルト10は通常通しボルトと呼ばれる雄ねじ部品であり被締結部材に形成された通し孔に挿通されて使用される(
図5、
図6参照)。
【0027】
図2に詳細に示されるように、締結ボル10と組み合わせて使用される本発明の締結ナットは三個の単体ナット部品で構成されたコンビネーション締結ナット22であり、一対の第一及び第二の外側締結ナット24Aと24B及び単一の双外円錐台形の内側ロックナット40で構成されている。第一及び第二の外側締結ナット24Aと24Bは後に詳述するように同一の幾何学的形状を有し、それぞれの外側締結ナット24A、24Bは雌ねじ部26に隣接して設けられた内円錐台形の嵌合凹部30が形成されている。一方双外円錐台形の内側ロックナット40は締結ボルト10のねじ部20の雄ねじ21と着脱自在に螺合する雌ねじ43が創成されたねじ部42が形成されている。これらの第一及び第二の外側締結ナット24Aと24B及び双外円錐台形の内側ロックナット40は基本的には呼び径が締結ボルト10と同一の単体ナット部品であるが、第一及び第二の外側締結ナット24Aと24Bが通常の鋼製ナットあるいはステンレス鋼製ナットであるのに対して、双外円錐台形の内側ロックナット40は弾性体材料で製作されたナットであり、望ましくはプレス加工によって製作されている。三個の単体ナット部品で構成されるコンビネーション締結ナット22は締結作業に際しては後述するように、
図3(a)及び(b)に示されたように分離可能に組み合わされて一体化された集合体として取り扱われるのが望ましい。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、第一の外側締結ナット24A(図中上側の締結ナット)にはねじ部26とこのねじ部26に隣接して内円錐台形の凹部空間30が内部に形成されている。ナット内部に形成された内円錐台形の嵌合凹部30はその直径がD
2の大経端31aが通常面取りされた側の座面29aを構成する端面内に開口し、一方直径がD
1の小径端31bはねじ部26に隣接し開口している。この内円錐台形の嵌合凹部30の傾斜壁面の母線角はθ(嵌合凹部30の円錐角=2θ)であり、深さはGである。後述するようにこれらの内円錐台形の嵌合凹部30の円錐角2θ及び深さGはねじ締結体1を構成する締結ボルトやナットの呼び径や幾何学的形状、物理的属性等及び被締結部材の締結強度等に応じて選定され締結体1の締結軸力やその他の諸条件に適合する最適な値に設定される。本実施例においては、ねじの呼び径が日本興業規格で規定されたM16のボルト及びナットを例示しており、二枚の板状部材を締結する締結体に使用される場合を例示すものであり、外側締結ナット24A、24Bの内円錐台形の嵌合凹部30の母線角θは11°(円錐角2θ=22°)に設定されている。外側締結ナット24Aと2Bはねじ軸X方向に見た使用態様が上下逆向きである事を除けば全く同一の幾何学的形状を有しているので、同一部分には同一の符号を付して第二の締結ナット24B(
図2及び
図3において上側の締結ナット)については説明を省略する。
【0029】
一方双外円錐台形の内側ロックナット40は倒置対称に配置された一対の外円錐台形の内側ロックナット部40a及び40bで構成され一体的に形成されている。具体的には内側ロックナット40は幾何学的形状が同一の一対の外円錐台形の内側ロックナット部40a及び40bがその大経端(双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想敵な面)を共有するように稜線41を含む平面を対称面としてねじ軸X方向に見て上下逆さに対称形に倒置重畳された双外円錐台形に形成された特殊ナットである。各外円錐台形の内側ナット部40a、40bの大端径d2(稜線33の直径)は外側締結ナット24の内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも大きく(d2>D2)、また各外円錐台形の内側ロックナット部40a、401bの小端径d1は外側締結ナット24の内円錐台形の嵌合凹部30の小端径D1よりも小さく(d2<D2)設定されている。また各外円錐台形の内側ナット部40a、40bの ねじ軸X方向の高さgは内円錐台形の嵌合凹部30のねじ軸X方向の深さGよりも小さく(g>G)設定されている。
【0030】
双外円錐台形の内側ロックナット40は外力によって弾性変形可能な材質で製作されており、締結ボルト10のねじ部20の雄ねじ21と着脱自在に螺合する雌ねじ43が形成されたねじ部42が形成されているとともに、壁部44の一方の小径端35aから他方の小径端35bの間にはねじ軸X方向に延在する細長のスリット45が形成されている。この弾性変形可能な双外円錐台形の内側ロックナット40はねじ軸Xに向かう方向に外力が加えられるとスリット37の幅が許容する範囲内で自身の直径が縮径するように弾性変形することが出来る。
【0031】
図3(a)及び(b)に関連して説明したように、コンビネーション締結ナット22は三個の単体ナット部品である外側締結ナット24A、24Bと内側ロックナット40組み合わせて集合体として一体化したナットである。
図3(b)に詳細に示されているように、コンビネーション締結ナット22は、内側ロックナット40の上下両側において外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30と内側ロックナット40の内側ナット部40aと40bとがそれぞれ自重以外の外力が付与されない状態で嵌合するように組み合わせて一体化されている。すなわち締結時に被締結部材に隣接する側(図中下側)の第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の内部へ内側ロックナット40の外円錐台形の一方の内側ロックナット部40aをねじ軸X方向にほぼ整合同軸的に落とし込む。この場合、第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の円錐角と外円錐台形の内側ロックナット部40aの円錐角は共に2θ(母線角=θ)で等しいが、外円錐台形の内側ロックナット部40aの大端径d2は第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも大きく設定されているので、外円錐台形の内側ロックナット部40aの自重以外のねじ軸X方向の外力が作用しない条件下では、外円錐台形の内側ロックナット部40aは外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30内に於いて 自重を除く荷重が付与されない状態で嵌合保持されている。この自重だけで嵌合保持された位置での内側ロックナット部40aの大経端(双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想敵な面)は第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大経端(双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想的な面)、即ち外側締結ナット24Aの座面291bから軸方向Xの高さeだけ露出する。
【0032】
次に上側の第二の外側締結ナット24Bの内円錐台形の嵌合凹部23をねじ軸X方向にほぼ同軸的に双外円錐台形の内側ロックナット40の上半部であるの外円錐台形の内側ロックナット部40bに覆い被せるようにして載置する。この上半部の内側ロックナット部40bと第二の外側締結ナット24bの嵌合凹部30は上記した位置関係とはねじ軸X方向に見て全く逆の上下が反転した位置関係にあることを除けば外円錐台形の内側ロックナット40の下半部の内側ロックナット部40aと第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30との幾何学的位置関係は全く同じであり、自重以外のねじ軸X方向の外力が作用しない条件下では、第二の外側締結ナット24Bは自重を除く荷重が付与されない状態でその嵌合凹部30を介して内側ロックナット40の上半部であるの外円錐台形の内側ロックナット部40bに嵌合保持される。この場合も内側ロックナット40の上半部の内側ロックナット部40bの大経端(双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想的な面)は第二の外側締結ナット24Bの座面29bからねじ軸X方向の高さeだけ露出することは明らかである。この三個の単体ナット部品が集合体として組み合わされた集合体のコンビネーション締結ナット22を分離しないように手指によって一体的に保持するか、望ましくは容易に破断可能な外装体、あるいは容易に剥離可能な接続部材又は接着剤などの周知の手段によって連結固定して一体的に保持するのが取り扱い上望ましい。
【0033】
図4は集合体として一体的に保持されたコンビネーション締結ナット22の
図3(b)中符号4Fで指示した部分の模式図であり、上述の外側締結ナット24A、24Bと双外円錐台形の内側ロックナット40の組み合わせ状態の幾何学的関係を示すものである。既に説明したように、外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30はその深さがG、母線角はθ(円錐角=2θ)である。また外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合の凹部30の大端径はD
2である。また双外円錐台形の内側ロックナット40はその各外円錐台形のロックナット部40a、40bのねじ軸X方向の高さがgでその円錐角は嵌合凹部30と同一で2θ(母線角=θ)である。この円錐角2θ(母線角θ)の値は被締結体の締結構造、被締結体やねじ締結体の材質や幾何学形状など及び双外円錐台形の内側ロックナット40の弾性係数等の属性をファクターとして設定されるのが望ましく、また方各外円錐台形の内側ロックナット部の40a、40bの大端径d
2は内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D
2よりも大きく設定されていること及び無負荷嵌合位置に於ける双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想的な面である大経端は外側締結ナット24A、24Bのそれぞれの座面29bからのねじ軸X方向の露出高さeだけ突出していることは既に述べたところである。図中符号tは第一及び第二の外側締結ナットの座面29bが当接して双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41が上下の内円錐台形の嵌合凹部30の内部に完全に包位された時、即ち外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41が外側締結ナットの座面29bの接合面に一致する位置まで外側締結ナット24Bを締め付けた時に、双外円錐台形の内側ロックナット40の小径端35aと外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部30の小径端31bの間に残留する間隙深さである。この隙間深さtは外側締結ナット20A及び20Bの対向する座面29bが当接した時に双外円錐台形の内側ロックナット40の雌ねじ36aが外側締結ナット24A、24Bの雌ねじ27との間に位相差が生じ噛み込みが発生してロックされるのを防止するために設けられる。
【0034】
集合体として一体化されたコンビネーション締結ナット22の締結前の準備作業としてのボルトへの螺合位置付け作業とそれに引き続いて行われる締結及びロック作業について
図5及び
図6を参照して説明する。締結作業現場に於いてはねじ締結体1は、締結作業に先立ち被締結部材M
1、M
2に挿通された締結ボルト10に、集合体として組み合わされ一体化されたコンビネーション締結ナット22を螺合して、
図5に示された締結前の準備位置(以下締結前準備位置と記す)に位置付ける。この締結前準備位置においては、コンビネーション締結ナット22の第一の外側締結ナット24Aの座面29aが被締結部材M1に接する位置に位置付けられ、第一と第二の外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30と双外円錐台形の内側ロックナット40の各内側ロックナット部40aと40bが無負荷嵌合状態(
図3参照)を維持するように、必要な場合には無負荷嵌合状態に螺合調整されて双外円錐台形の内側ロックナット40と第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bとが締結ボルト10と螺合状態にある。
【0035】
このコンビネーション締結ナット40の締結前準備位置への位置付けは、
図3に示されたように予め集合体として組み合わせたコンビネーション締結ナット22を手指で一体的に保持して被締結部材に挿通された締結ボルト10に螺合して締結前準備位置に位置付けることも出来るし、必要によっては、コンビネーション締結ナット22を構成する三個の単体ナット部品である第一外側締結ナット24A、内側ロックナット40B及び第二外側締結ナット24Bを個別にこの順序で締結ボルト10に螺合して最終的に一体化された集合体としてコンビネーション締結ナット22とし締結前準備位置に位置付けることも出来る。望ましくは、後述するように、
図3に示されたように予め組み合わせたコンビネーション締結ナット40の三個の単体ナット部品である第一外側締結ナット24A、内側ロックナット40及び第二外側締結ナット243Bを容易に破断可能な外装体当で包装し単一化された集合体として被締結部材に挿通された締結ボルト10に螺合し、締結前準備位置に位置付けることが出来る。
【0036】
コンビネーション締結ナット22の締結前準備位置への位置付けに引き続いて、まず第一の外側ナット24Aを締付けて被締結部材M1、M2を所定の締め付け軸力(締結ボルト軸力)で締結する。締結作業は、トルク法や回転角法等の締め付け管理法のもとで行われるが、既存の締め付け工具や装置を用いて実施され、第一の外側締結ナット24Aを所定の締め付け軸力を得るために予め定められた締付けトルクで締付けて被締結部材M1とM2を締結ボルト10の頭部11の座面11aと第一の外側締結ナット24Aの座面29aの間に緊締して締結する。例えばトルク法による締め付けでは、スパナ、一定のトルクで作動が止まるインパクトレンチ、一定の空気圧で一定時間作動する空圧式装置あるいは一定のトルクで油圧を作用させる油圧式装置などの締め付け工具や装置をしようして行うのが一般的である。
【0037】
被締結部材M1とM2の締結後、引き続き締結体1の回転緩みを防止のためのコンビネーション締結ナット20の締結ロック作業を行う。この回転緩み防止締結ロック作業は第二の外側締結ナット24Bを締め付けることで簡単に達成される。すなわち、第一の外側締結ナット24Aの緊締作業に採用された工具あるいは装置または類似の工具あるいは装置を使用して、第二の外側締結ナット240Bを回転して締め付ける。第二の外側締結ナット24Bは回転に伴ってそのねじ27と締結ボルト10のねじ21との螺合を介してねじ軸X方向下方へ変位する。この第二の外側締結ナット24Bのねじ軸X方向の変位に伴い、第二の外側締結ナット24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して上半部の外円錐台形の内側ロックナット部40bの外円錐台外壁面48bにはねじ軸X方向の力に対して母線角θに応じて増幅された外力が加えられ、その結果、内側ロックナット部40bは弾性変形して内径が減少する。同時進行的に第二の外側締結ナット24Aの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28と上半部の内側ロックナット部40bの外円錐台外壁面48bとの間の摩擦力が漸増的に高くなり、その結果、上半部の外円錐台形の内側ロックナット部40b、従って一体である下半部の外円錐台形の内側ロックナット部40bを含む双外円錐台形の内側ロックナット40全体が第二の外側締結ナット24Bの回転に従動して回転して締結ボルト10の雄ねじ21との螺合を介してねじ軸X方向下方へ変位する。双外円錐台形の内側ロックナット40全体のねじ軸X方向下方への変位、従って下半部の外円錐台形の内側ロックナット部40bのねじ軸X方向下方への変位により、第一の外側締結ナット24Aの嵌合凹部30の内円錐台内壁面24を介して下半部の外円錐台形の内側ロックナット部40aの外円錐台外壁面48aに大きな外力が加えられてねじ軸Xに直交する方向に弾性変形して内径が減少する。内側ロックナット40は対向する第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して上下両側から同時に外力を受けるのでその弾性変形はねじ軸X方向に均一となる。
【0038】
上述した締結ロック作業は、第二の外側締結ナット24Bの締付けによるねじ軸X方向の変位が進み、
図6に示すように第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29bが当接することによって達成される。締結ロック作業の達成状態においては、双外円錐台形の内側ロックナット40は第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30で形成される閉鎖空間内に完全に包含される。
図5及び
図6から明らかなように、第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29bが当接するまでに要する第二の外側締結ナット24Aのねじ軸X方向下方への変位距離は、コンビネーション締結ナット40が無負荷嵌合状態に集合体化された状態に於ける外円錐台形の各内側ロックナット部40a、40bの稜線41(仮想大経端)が各外側締結ナット24A、24Bの座面29bから露出する突出高さe(
図3(b)、
図4参照)に等しい。第二の外側締結ナット24Bが双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の突出高さeに等しい距離だけ変位すると、該内側ロックナット40は締結ボルト10にロックされる。締結ロック作業に於ける第二の外側締結ナット24Bの変位距離と内側ロックナット40と締結ボルト10の間に発生するロック機序について模式的に示した
図4及び
図7(a)(b)を参照して以下に詳述する。
【0039】
図7(a)は使用される締結ボルト10と双外円錐台形の内側ロックナット40が、例えばJISに規定されたねじ呼び径M16の一般用メートル並み目ねじの場合の締結前準備位置に位置付けられたコンビネーション締結ナット22の双外円錐台形の内側ロックナット40のねじ43と締結ボルト10のねじ21の幾何学的相対位置関係を示す模式図である。ねじの呼び径がM16のメートル並み目ねじの場合、締結ボルト10のねじ21と双外円錐台形の内側ロックナット240のねじ43のフランク角δは共に60°であり、コンビネーション締結ナット22と締結ボルト10が互いに螺合している場合のねじ21及び43の対向する遊び側フランク21a、43aの間には幅αの遊びが存在している。図中符号19は締結ボルト10のねじ13のねじ山の頂を、符号19a、19bはその側端縁を示している。
【0040】
図7(b)及び(b)は締結ボルト10と双外円錐台形の内側ロックナット40が機械的にロックされる前後の状態を模式的に示している。内側ロックナット24の弾性変形の結果、内側ロックナット40の雌ねじ43の遊び側と圧力側のフランク43a、43bが締結ボルト10の雄ねじ21のネジ山の頂19の側端縁19a、19bに係合して内側ロックナット24の遊び側フランク43aの塑性変形を惹起して山の頂19の側端縁13aが双外円錐台形のロックナット40の遊び側フランク43aに食い込み状態となり、その結果双外円錐台形の内側ロックナット40と締結ボルト10は相対的回転が不能化され両者は機械的にロックされる。
図7(b)中の符号Rはロック作業の工程に於いて、締結前準備位置に在る双外円錐台形の内側ロックナット40のねじ43の対向するフランク43a、43bの交点(ねじ43の谷底)Sが第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bと当接して内側ロックナット40が第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの内円錐台形の嵌合凹部30に嵌合して、上下の嵌合凹部30で形成された閉鎖空間の内部に完全に包含された時の双外円錐台形のロックナット40の遊び側フランク43aに食い込み状態となり、その結果双外円錐台形の内側ロックナット40の弾性変形による雌ねじ43の遊び側フランク43aが締結ボルト10の雄ねじ21の遊び側フランク21aに接した時(
図7(b)中点線で示す)に内側ロックナット40のフランクの交点Sが締結ボルト10のねじ21の圧力側フランク21bの延長線上を点S‘まで変位した時の交点Sのねじ軸Xに垂直な方向の変位距離を示している。
図5(b)から明らかなように、線分SS’の長さをM、フランク角をδとするとこの変位距離R及び遊び幅αは共にM・cos(δ/2)で表されるから、R=αが成立する。
【0041】
また
図4の双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A、24Bからの突出高さeと内側ロックナット40の弾性変形との関係を示す模式図において、図中rは第二の外側締結ナット24Bの回転により、内側ロックナット40がねじ軸X方向下方へ突出高さeに等しい距離だけ変位して、第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29bに当接した時、内側ロックナット40が弾性変形して生じる半径の偏差を表し、この偏差rはe/tanθで表わされることは明らかである。
【0042】
締結ロック作業の詳細を以下に説明する。コンビネーション締結ナット22が締結前準備位置に位置付けられた時、双外円錐台形の内側ロックナット40の雌ねじ43は
図7(b)中実線で示され、コンビネーション締結ナット22の第二の外側締結ナット24Bをその座面29bが対向する第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接した時、双外円錐台形の内側ロックナット40の雌ねじ43は
図7(b)中点線で示されている。締結ロック作業において、締結前準備位置に位置付けられたコンビネーション締結ナット22の第二の外側締結ナット24Aを締付けると、既に説明したように、第二の外側締結ナット24Bは締結ボルト10との螺合を介して締め付け回転角度に応じてねじ軸X方向下方に変位し、上半部の内側ロックナット部40bの内円錐台形の嵌合凹部30への強い嵌合を引き起こし、内円錐台形の嵌合凹部30の内円錐台内壁面28と上半部の内側ロックナット部40bの外円錐台外壁面48aとの間に強い嵌合摩擦力を発生する。この第二の外側締結ナット24Bの締付け回転により、強い摩擦力で第二の外側締結ナット24Bに係合している上半部の内側ロックナット部40bは双外円錐台形の内側ロックナット40全体を従属回転させてねじ軸X方向の変位を惹起する。双外円錐台形の内側ロックナット40全体の従属回転は同時に下半部の内側ロックナット部40aの第一の外側締結ナット24aの内円錐台形の嵌合凹部30への嵌入を惹起する。
【0043】
この上下半部の外円錐台形の内側ロックナット部40a、40bのそれぞれ第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bへの嵌入は随伴的に双外円錐台形の内側ロックナット40全体の直径方向(ねじ軸Xに直交する方向)の弾性変形を引き起こす。この弾性変形の起因となる外力は、第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bを締付ける軸X方向の負荷であり、この負荷が第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の傾斜内壁面28によりその母線角θに応じて増幅されたねじ軸Xの方向に向かう力である。そして、この弾性変形により内側ロックナット40の内径が減縮される。内側ロックナット40は対向する第一及び第二の外側締結ナットナット241A、24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して内側ロックナット40の外円錐台の傾斜外壁面48a,48bから同時に均等な外力を受けるのでその弾性変形はねじ軸X方向に均一である。
【0044】
b
既に説明したように、締結ロックのための第二の外側締結ナット24Aの回転で生じる内側ロックナット40の弾性変形により生じる対向するフランク43a、43bの交点Sのねじ軸Xに平行な方向の変位距離Rは内側ロックナット40がねじ軸X方向に変位した時に生じる半径の偏差rそのものであるからr=R=αが成立する。また既に
図4に関連して説明したように、第二の外側締結ナット24Aがねじ軸X方向下方へ突出高さeに等しい距離だけ変位してその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接した時、内側ロックナット40の弾性変形の結果生じる半径の偏差rはr=e/tanθで表わされる。また内側ロックナット40の弾性変形の結果生じる半径の偏差rと締結ボルト10が互いに螺合している場合の雄ねじ21及び雌ねじ43の対向する遊び側フランク21a、43aの間の遊び幅αとは等しい(r=α)関係にあるので、三個の単体ナット部品を無負荷嵌合状態に組み合わせて集合体としたコンビネーション締結ナット22の双頭外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A、24Bの座面29a、21bからの突出高さeはe=α/tanθで規定することが出来る。
【0045】
以上の説明から解るように、コンビネーション締結ナット22の組み立て集合体に於ける双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A、24Bの座面29a、29bからの突出高さeを下記数式1で規定するようにα/tanθより小さくなく,かつ双外円錐台形の内側ロックナット40のねじピッチp未満の値に設定管理すれば、締結前準備位置に位置付けられたコンビネーション締結ナット40の第二の外側締結ナット24Aの360°以下の締め付け回転操作で締結ボルト10と内側ロックナット40の間に強固で信頼性の高い機械的ロック状態を容易に実現することが出来る。
【0046】
【0047】
JISのねじ呼び径がM16の締結ボルトと三個の個別ナット部品でコンビネーション締結ナットを使用してねじ締結体1を構成する場合の具体的な本発明のコンビネーション締結ナット20Bを例示すると以下の如くである。第一及び第二の外側ナット20A1、20A2の幾何学的形状が呼び高さ13mm、二面幅24mm、内円錐台形の嵌合凹部23の円錐角2θ=22°、深さ5.0mm、大端径19.786mm,小端径18.0mm,また内側ロックナット20Bの幾何学的形状が呼び高さ9.7mm、稜線の外径20.0mm、スリット37の幅2.0mm、母線角θ=11°の場合、締結ボルト10と内側ロックナット20Bの螺合時のフランク間の幅α=0.05mmであるから、内側ロックナット20Bの稜線33(大経端)の第一及び第二の外側ナット20A1、20A2の座面21bからの突出高さe=α・tan11°は0.25mmとなる。
【0048】
このコンビネーション締結ナット22の双外円錐台形の内側ロックナット40と締結ボルト10とのそれぞれの雌ねじ43と21との間の機械的ロックのためにフランクの塑性変形を惹起するのに要する第二外側締結ナット24Aの必要な最小回転角λはねじの呼び径M16のねじピッチをpとして次の数式2で表すことが出来る。
【0049】
【0050】
本例ではM16のねじピッチpは2mmであるから第二の外側締結ナット24Aの必要最小回転角λは約46°となる。従って
図5に示される締結前準備位置に位置付けられた第一の外側締結ナット24Aを所定の締結トルクで締め付けて被締結部材M1,M2を締結固定した後、スパナやレンチ等の締結用具を使用して第二外側締結ナット24Bを締め付けてコンビネーション締結ナット20のロック状態を具現しようとする場合、上側の第二の外側締結ナット20Bを最小値で46°の回転操作をすれば内側ロックナット40と締結ボルト10との機械的ロックが達成される。コンビネーション締結ナット22の内側ロックナット40と締結ボルト10との機械的ロックが達成されたとき、各外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の内円錐台30の底壁である小径端31aと内側ロックナット40の小径端35aとの間には嵌合凹部30の内円錐台の深さGと内側ロックナット40の上下半部の円錐台形の内側ロックナット部40a、40bの高さgとの差(G-g)にほぼ等しい深さtの間隙が形成される。
【0051】
第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに接触した後、追加的に第二の外側締結ナット24Aを回転角46°を超えて回転操作すれば、螺合している内側ロックナット40の雌ねじ43と締結ボルト10の雄ねじ21との間に滑りが生じ、第二の外側締結ナットのねじ43のフランクは締結ボルト10のねじ山の頂19の側縁部19aに更なる塑性変形を惹起して食い込み量が増大するので、内側ロックナット40と締結ボルト10間にはより強固な機械的ロックが達成される。
【0052】
第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接して第二の外側締結ナット24Bの締め付けが完了すると、締結ボルト10と内側ロックナット40との機械的ロックが達成され、同時に副次的作用として各外側締結ナット24A,24Bの内円錐台形の嵌合凹部30の傾斜内壁面28は弾性変形した内側の双外円錐台形のロックナット40の傾斜外壁面48a、48bの高い弾性復元力により両側壁面間に高摩擦力が生じるので、各外側締結ナット24A,24Bは外的振動などに起因して戻り回転の発生を抑制するのに寄与し、同時に、第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29b同士の強い接触により、両座面間に高摩擦力が生じ、外側締結ナット24A,24Bは所謂ダブルナットと同様の作用によって、各外側締結ナット24A、24Bが外的振動などに起因して戻り回転することを抑制するのに寄与する。このように、コンビネーション締結ナット22は戻り回転防止機能が複合的に作用して、その結果戻り回転を伴うねじ締結体の緩み防止機能を高い信頼性をもって実現することができる。
【0053】
本発明のコンビネーション締結ナット22の性能評価のために、試験用に製作した上記具体例としてのコンビネーション締結ナットをNAS(米国航空規格)3350に準拠した加速振動試験機によってねじの緩み評価試験を実施した。試験条件は以下のとおりである。
試験用コンビネーション締結ナット
試験コンビネーション締結ナットの種類:M16メートル並み目鋼製ナット
ねじ締結トルク:186Nm;84.3Nm
ねじ締結体固定治具:NAS3350に準拠する試験用治具
NAS3350に準拠する試験環境
振動数:30Hz 振動方向:ボルト軸直角方向
振動幅:11.4+/-0.4mmp-p 衝撃幅:19mm
振動時間:16分40秒(振動回数30.000回相当)
上記緩み評価試験の結果、締めつけトルクが186N.m、100N.m及び84.3N.mの試験条件の場合について実施した緩み評価試験では、試験中も試験後もコンビネーション締結ナットには緩みの発生は全く認められなかった。さらに、試験後の緩みトルク測定においては締めつけトルクが100N.mの場合の緩みトルクは100N.mであった。この試験結果は、ねじ呼び径M16のナットに全く回転緩みが生じない締め付けトルクの最小値が84.3N.mであった事を実証しており、本発明のコンビネーション締結ナットがその信頼性の高い緩み防止機能を発現するために必要な締めつけトルクが如何に低いかを明確に示している。
【実施例0053】
図6は本発明の他の実施例を示すものであり、締結作業現場において締結作業を最も効率的に容易かつ安全に行うことを可能とするものである。
図3(a)及び(b)に示された無負荷嵌合状態に組み合わされたコンビネーション締結ナット22の集合体は、そのねじ軸X方向の両端を露出した状態で例えば薄いビニル樹脂製の筒状外装体100で包装されている。この筒状外装体100には両側の解放端縁101の間に延在する二本の平行なミシン目102が穿設されていると共に、ミシン目102の間の一方の解放端縁101の中央部には摘み用の突片103が形成されている。筒状外装体100はコンビネーション締結ナット22の集合体が挿入された筒状外装体100は熱収縮によりさせてコンビネーション締結ナット22三個の単体ナット部品24A、40及び24Bを固定する。
【0054】
筒状外装体100に包装されたコンビネーション締結ナット22は、その全体を手指で保持しつつ締結ボルト10に螺合されて締結前準備位置に位置付けられる。この時、コンビネーション締結ナット22はいずれの端部側から締結ボルト10に螺合しても良い。締結前準備位置に位置付けられたコンビネーション締結ナット22の筒状外装体100は、その摘み用の突片103を摘まんで平行なミシン目102に沿って引き裂くことによって容易に取り除くことができる。このように筒状外装体100で外装されたコンビネーション締結ナット22は、締結作業現場で包装されたまま集合体全体を一度の螺合操作で締結前準備位置に螺合位置付けすることが出来、被締結部材側の第一外側締結ナット24Aを締付けて被締結部材M1、M2の締結作業を行った後に、反対側の第二外側締結ナット24Bを締付けてることによってコンビネーション締結ナット22の緩み防止機能を簡単かつ迅速に有効化することが出来る。
【0055】
コンビネーション締結ナット22の三個の単体ナット部品24A、40及び24Bはほぼ無負荷嵌合状態に組み合わされたていれば良く、双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の突出高さeが規定された値よりも大きくても良い。集合体として外装されたままボルトに螺合する時隣接するナットのねじの位相にずれが生じると、隣接するねじ部分が干渉し合ってロック状態になってしまいそれ以上の螺合が困難になることを防ぐためである。このように外円錐台形の内側ロックナッ40の稜線41の突出高さeが規定値よりも大きなコンビネーション締結ナット20の場合は、筒状外装体100を取り除いた後にほぼ無負荷嵌合状態に微調整すればよい。
【0056】
コンビネーション締結ナット22の三個の単体ナット部品24A、40及び24Bを組み合わせ集合体として一体化するには、筒状外装体100以外に、コンビネーション締結ナット22のの内側ロックナット40を中間に挟み込んだ両側の外側締結ナット24Aと24Bが連結固定されていれば良く、例えば連結部材を両側の外側締結ナットの側面に分離可能に接着して外側締結ナット24Aと24Bを連結固定して単一の集合体することもできる。あるいは、集合体とされた両側の外側締結ナット24A、24Bと外円錐台形の内側ロックナット40とのそれぞれをその接触線に沿って分離可能に接着剤によって外側締結ナット24Aと24Bと内側ロックナット40を連結固定することもできる。剥離可能な連結部材を用いる場合には、筒状外装体100を用いる場合と同様に集合体全体を一度の螺合操作で締結前準備位置に螺合位置付けした後に連結部材を剥離した上で、外側締結ナットを締付けてコンビネーション締結ナット22緩み防止機能を迅速に有効化することが出来る。また、外側締結ナット24A、24Bと内側ロックナット40とをその接触線に沿って接着剤によって連結固定した場合には、集合体全体を一度の螺合操作で締結前準備位置に螺合位置付けした後に連結固定されたまま外側締結ナットを締付けてコンビネーション締結ナット20の緩み防止機能を迅速に有効化することが出来る。
【0057】
また上記実施例においては、ねじ呼び径M16という比較的大型のねじ締結体について説明したが、本発明のコンビネーション締結ナットのねじ呼び径の大小によらず適用することができるものである。
【0058】
以上の実施例1及び2は本発明のコンビネーション締結ナットを被締結部材をねじ軸方向に固定結合する場合ねじ締結体に適用された例であるが、本発明のコンビネーション締結ナットは、例えばそれ自体が振動するロボットのアームの関節部のように、枢軸に回転可能に枢着されかつ枢軸方向への往復動する関節の往復動許容範囲を規制するための往復動範囲規制部材あるいは往復動範囲規制装置としても適用することできる。
【符号の説明】
【0041】
1 ねじ締結体
10 締結ボルト
21 締結ボルトの雄ねじ
22 コンビネーション締結ナット
24A 第一の外側締結ナット
24B 第二の外側締結ナット
29a、29b 座面
30 内円錐台形の嵌合凹部
40 双外円錐台形の内側ロックナット
40a 下半部の外円錐台形のロックナット部
40b2 上半部の外円錐台形のロック」ナット部
43 双外円錐台形の内側ロックナットの雌ねじ
41 双外円錐台形の内側ロックナットの稜線(共有大経端)
37 スリット
100 外装体
G 内円錐台嵌合凹部のねじ軸方向深さ
g 外円錐台ナット部のねじ軸方向高さ
D1 内円錐台形嵌合凹部の小端径
D2 内円錐台形嵌合凹部の大端径
d1 外円錐台形ナット部の小端径
d2 外円錐台形ナット部の大端径
α フランク間遊び幅
θ 内外円錐台の母線角
e 外円錐台形のロックナット部の稜線の突出高さ
r 外円錐台形ナット部の弾性変形変位距離
p ねじ締結体のねじピッチ
λ 第二の外側締結ナット20A2の必要最小回転角
【手続補正書】
【提出日】2021-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと該ボルトに螺合するナットより成り前記ボルトの頭部と前記ナットの座面との間に被締結部材を締結するねじ締結体に使用する締結ナットであり、該締結ナットは、一対の同一形状の外円錐台形ナット部より成りかつそれらの大径端を共有するように倒置対称形に一体形成されているとともにそのナット壁部には径方向の外力に起因する弾性変形を許容するようにねじ軸方向の全長に渡ってスリット状開口が形成され締結ボルトに螺合する内側ロックナットと、前記内側ロックナットの前記外円錐台形ナット部の円錐角と同一の円錐角を有し前記内側錐ロックナットと嵌合可能であり一方の座面を含む平面内に開口する内円錐台形嵌合凹部が形成され締結ボルトに螺合した前記内側ロックナットの軸方向の両側において締結ボルトと螺合する同一形状の一対の外側締結ナットとで構成され、各前記内側円ロックナットの各前記外円錐台形ナット部のねじ軸方向の高さは前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく、前記内側ロックナットの前記外円錐台形ナット部の共有大径端の外径は各前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の大径端の内径よりも大きいことを特徴とする緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【請求項2】
前記内側ロックナットの各
前記外円錐台
形ナット部の
ねじ軸方向の高さと
各前記外側締結ナットの
前記内円錐台形嵌合凹部の軸方向の深さの距離差をe,前記内側ロックナットの各前記外円錐台形ナット部及び前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の円錐角をθ、締結ボルトと前記内側ロックナットとの螺合時のねじの遊び側フランク間の幅をα、前記内側ロックナット及び前記外側締結ナットのピッチをpとする時、前記軸方向距離差eは下記数式1の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の回転緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【数1】
【請求項3】
前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の深さは前記一対の外側締結ナットの対向する座面が当接する螺合当接位置において、前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の小径端と前記内側ロックナットの各前記外円錐台形部の小径端との間にねじ軸方向に前記両ナットのピッチ以下の微小間隙が残存することを特徴とする請求項1ないし2に記載の回転緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【請求項4】
前記内側ロックナットの外表面、前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の内表面及び前記外側締結ナットの座面の内少なくともいずれかの面は梨地仕上げ面であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の回転緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【請求項5】
前記内側ロックナットのそれぞれの前記外円錐台形ナット部を前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部内に嵌め込んで前記内側ロックナットを前記外側締結ナットの間に挟持して三個の単体ナットより成る組み合わせナットとして一体化し、該一体化組み合わせナットを前記外側締結ナットの対向するナットの座面間にほぼ所定の軸方向距離が保持されるように筒状外装体で外装されていることを特徴とする請求項1ないし4に記載の回転緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【請求項6】
ボルトにその軸方向の所定範囲内で往復動可能に保持された被保持部材の往復動許容範囲を規制するための締結ナットであり、該締結ナットは、一対の同一形状の外円錐台形ナット部より成りかつ大径端を共有するように倒置対称形に一体形成されているとともにそのナット壁部には径方向の外力に起因する弾性変形を許容するようにねじ軸方向の全長に渡ってスリット状開口が形成されボルトと螺合する内側ロックナットと、前記内側ロックナットの各前記外円錐台形ナット部と円錐角が同一であって前記内側錐ロックナットと嵌合可能であり一方の座面を含む平面内に開口する内円錐台形嵌合凹部が形成されており、前記内側ロックナットが螺合したボルトの軸方向の両側においてボルトと螺合する同一形状の一対の外側締結ナットとで構成され、各前記内側円ロックナットの各前記外円錐台形ナット部のねじ軸方向の高さは前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく、前記内側ロックナットの前記外円錐台形ナット部の共有大径端の外径は各前記外側締結ナットの前記内円錐台形嵌合凹部の大径端の内径よりも大きいことを特徴とする緩み防止機能を有するコンビネーション締結ナット。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結ボルトと該締結ボルトに螺合するナットより成り前記締結ボルトの頭部と前記ナットの座面との間に被締結部材を締結するねじ締結体に用する締結
用のコンビネーションナットであり、該
コンビネーションナットは、前記締結ボルトに螺合し、一対の同一形状の外円錐台形
のロックナット部より成りかつそれらの大径端を共有するように倒置対称形に一体形成されているとともに
、前記ロックナット部の壁部には径方向の外力に起因する弾性変形を許容するようにねじ軸方向の全長に渡って
スリット状開口が形成
された内側ロックナットと、前記内側ロックナットの
母線角と同一の
母線角を有し前記
ロックナット部と嵌合可能で
あってその座面を含む平面内に
大経端が開口する内円錐台形
の嵌合凹部が形成され
、前記締結ボルトに螺合した前記内側ロックナットの軸方向の両側において
前記締結ボルトと螺合する同一形状の一対の外側締結ナットとで構成され、
前記ロックナット部のねじ軸方向の高さは
前記嵌合凹部の
前記ねじ軸方向の深さよりも小さく、前記内側ロックナットの
共有された前記大径端の外径は
前記嵌合凹部の前記大径端の内径よりも大きく
、その小径端の外径は前記嵌合凹部の前記大径端の内径よりも小さく、
前記ロックナット部及び前記嵌合凹部の前記母線角をθ、前記締結ボルトと前記内側ロックナットとの螺合時のねじの遊び側フランク間の幅をα、及び前記内側ロックナットと前記締結ボルトのピッチをpとする時、前記ロックナット部と前記嵌合凹部とが自重を除く軸方向負荷が付与されない嵌合状態下において、前記内側ロックナットの共有された前記大径端が前記嵌合凹部の前記大経端から前記ねじ軸方向に突出する高さeは下記数式1の関係を満足することを特徴とする緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【数1】
【請求項2】
前記内側ロックナットの外表面は梨地仕上げ面であることを特徴とする請求項1に記載の緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【請求項3】
前記内側ロックナットの前記ロックナット部と前記外側締結ナットの前記嵌合凹部が自重を除く軸方向負荷が付与されない嵌合状態で組合わされた集合体を裂開可能な両端が開口した筒状外装体で外装したことを特徴とする請求項1又は2に記載の緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【請求項4】
前記内側ロックナットの前記ロックナット部と前記外側締結ナットの前記嵌合凹部が自重を除く軸方向負荷が付与されない嵌合状態で組合わされた集合体の前記外円錐台形ロックナットと前記前記外側締結ナットはその境界に沿って分離可能に接着剤で接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【請求項5】
前記内側ロックナットの前記ロックナット部と前記外側締結ナットの前記嵌合凹部が自重を除く軸方向負荷が付与されない嵌合状態で組合された集合体の両側に位置する前記外側締結ナットは剥離可能な連結部材によって連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【請求項6】
前記内側ロックナットはプレス加工により形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の緩み防止機能を有するコンビネーションナット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は複数の被締結部材を締結するためのボルトとナットにより構成されるねじ締結体に使用され、戻り回転を伴うねじ締結体の緩みを防止することができる締結用のコンビネーションナットに関し、さらに詳しくは、低締結トルクで所要のボルト軸力が得られ、作業現場において簡単で信頼性が高く効率的な締結及びロック作業が出来るねじ締結体用の緩み防止機能を有するコンビネーションナットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の被締結部材を締結固定するために使用されるボルト・ナット締結体のようなねじ締結体としては、締結用のボルトとこの締結用のボルトに螺合するナットを用いて締結用のボルト頭部とナット座面の間に被締結部材を挟持しナットを締付けて、締結用のボルトに生じる張力であるボルト軸力(締結軸力)によって被締結部材を締結固定するのが一般的である。
【0003】
振動や繰り返し変動する荷重や衝撃荷重のような外部荷重に曝される構造物の一部を構成する被締結部材を固定するために使用されるねじ締結体にあっては、それら構造物の強度や信頼性を確保する上での不可欠な要件の一つはねじ締結体が緩まないことである。ねじ締結体が緩むと締結軸力であるボルト軸力が低下し、ねじ締結体の締結力が低下する原因となるからである。
【0004】
ねじ締結体の緩みは、ボルトやナットが相対的に緩む方向に回転する戻り回転を伴う締結体の緩み(回転緩み)、ボルトやナットの戻り回転は起きないが締め付け軸力が低下する締結体の緩み(非回転緩み)や被締結部材のへたり(歪すなわち永久変形)による締結体の緩み等に大別される。このような締結体の緩みのなかでも戻り回転を伴うねじ締結体の緩みは発生する可能性が高く、このような戻り回転は継続的な振動や繰り返し変動する荷重や衝撃荷重等の外部負荷等によって生じるボルトとナットの相対回転に起因する。このような緩みの原因となる戻り回転の発生は、大別すると、ボルトの軸まわり方向かかる外部荷重、ボルトの軸方向にかかる外部荷重及び/あるいはボルトの軸に向かう方向にかかる外部荷重に起因する。ねじ締結体に回転緩みが発生するとねじ締結体の締結軸力は低下し、場合によってはその締結体としての機能を失うばかりでなく、ボルトの疲労破壊や脱落という事態を惹起する可能性が生じ、結果的に構造物の信頼性や安全性を損なう結果になる。
【0005】
このようなねじ締結体の回転緩みの発生に対処するために、締め付けたねじが相対回転して戻り回転を発生するのを抑止あるいは防止するために、締付け部(ボルト頭部や締付けナットと被締結体の間)に種々の座金を介在させて使用したり、所謂ダブルナットなどを利用したり、あるいはねじ締結体の回転緩みを防止する特殊構造を有するロックナットをねじ締結体と併用するなどしてねじ締結体の回転緩みの発生を防止し、もって締結力(締結軸力)が低下する危険性を回避するのが通常である。しかしながら、特に大型の橋梁構造物、高架道路構造物、熱や水力あるいは電力等を駆動エネルギーとする機械的原動機関、またこれらの機関を搭載した船舶、航空機あるいは自動車等の運輸装置構造物のように、常に機械的振動などの種々の形態の変動する外力に曝される構造物の一部を構成する部材の締結固定に使用されるねじ締結体は、ねじ締結体の回転緩みが僅かでも継続的に生じる場合には、その構造物の強度や信頼性にとって看過し得ない程の締結軸力の低下を惹起し、その結果これら構造物の機能や安全性に重大な瑕疵をもたらすことになり、ねじ締結体の戻り回転緩みが大きくなる場合には、ねじ締結体としての機能を失うばかりでなくボルトの疲労破壊や脱落を引き起す事態も生じ、結果的に構造物の重大事故を誘発することにもなりかねない。そのため、このような構造物に使われているねじ締結体は定期的な点検が不可避であり、少しでも戻り回転を伴うねじ締結体の緩みが検知される場合には締結し直すか、場合によってはねじ締結体そのものを交換する必要が生じる場合もある。
【0006】
構造物に適用される締結体の戻り回転緩み防止用の締結ナットとして重層的に緊締する構造をもった二重ナットが提案されている。例えば特許文献1にはナット部に筒状部が設けられ該筒状部に形成された切込み部及び先方に形成された突状部とが設けられたた第一ナットと、この第一ナットに嵌入装着される開口部が形成された第二ナットで構成されたロックナットが開示されている。このロックナットでは、第二ナットの開口部の先方に先尖状のテーパ部が形成されているため、ねじ締結体の締結ボルトを螺着させて第二ナットの開口部に第一ナットの突状部が嵌入し、第一ナットの突状部が第二ナットのテーパ部に締め付けられて締結ボルトにロック状態で締結固定されるように構成されている。
【0007】
また特許文献2には、締結ボルトに螺合し中間の座鍔の両側に截頭円錐形の嵌合突部を対称的に備えると共に、この該嵌合突部の一側周面に縦溝を穿設した雄ナットと、雄ナットの両側に於いて締結ボルトに螺合し雄ナットの嵌合突部と嵌合する截頭円錐形の嵌合凹部を備えた一対の雌ナットで構成された双二重ナットが開示されている。この双二重ナットは、雌雄のナットが嵌合緊締されるとある程度の弾性を帯びた雄ナットが復動力を生じて嵌合し雄ナットの外円錐台形の嵌合突部と雌ナットの内円錐台形の嵌合凹部が密着して雌雄ナットの復転離脱を完全に防止する。またこの双二重ナットは雌雄のナットが嵌合緊締される際、雄ナットの圧縮が左右平均して生じ、雄ナットは局部的集中荷重を受けて破損することなく緊密な螺締ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公報 特許第6096420
【特許文献2】実用新案公報 昭30-10815
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載のロックナットは、第一ナットの突状部が第二ナットのテーパ部によって締め付けられて締結ボルトにロック状態で螺着されるが、第一ナットのボルトとの螺合距離が長いにもかかわらずテーパ部によって圧縮される第一ナットの筒状部の軸方向の長さが、第一ナットのねじ部もしくは筒状部に形成された切込みがナット全長に比して距離が短いので、第二ナットのテーパ部による筒状部の圧縮が軸方向に不均一となり、第一ナットの突状部のボルトに対する螺合固定力の強度はねじ軸方向において不均一となる。このような不均一な螺合固定力によるボルトと第一ナットの間のロック状態は極めて不安定であり、その結果ボルトと第一ナットは相対的な戻り回転による回転緩みを生じる危険性がある。このような構造のロックナットは締結作業が煩雑であり、その上二度にわたるナット螺合作業を要し、特に大型の橋梁や高架道路等のように作業環境が劣悪な現場においては作業者に大きな負担をかける結果になり、作業の安全性の観点から望ましいものとは言えない。また第一ナットの筒状部はその多角形部と一体構造である上にその幾何学的形状が複雑であるから製造作業が煩雑である上に工数が大きく、従来のねじ締結体のナットに比して製造コストが増大するという難点がある。
【0010】
特許文献2記載の双二重ナットは、最初に一方(以下第一と表記する)の雌ナットをボルトに螺着し、次に雄ナットを螺合し最後に他方の雌ナットを螺着して二重に螺着緊締する構成であり、最初の雌ナットをボルトの所定箇所まで螺着した後、雄ナットを雌ナットに螺合嵌入するためには雄ナットを多数回回転して雄ナットの嵌合凹部の深さにほぼ等しい距離だけ軸方向に締め付けて変位させて嵌合凹部へ嵌入して雄ナットを弾性変形させることによって締結固定しなければならない。さらに一方の雌ナットに螺合緊締した雄ナットに他方の雌ナットを螺合緊締するために、該他方の雌ナットをほぼ同様に操作して雄ナットの嵌合凸部の高さにほぼ等しい距離だけ軸方向移行して嵌合凸部へ嵌合して螺合緊締することが必要である。このため、双二重ナットの締結を達成するためには、ねじ軸方向の距離が比較的長い螺合作業を三度に渡って繰り返さねばならず、また雄ナットの一方の雌ナット内への螺着締結に要求される締結トルク及び他方の雌ナットを雄ナットへ螺合締結するのに要求される締結トルクはともに高い。このような締結作業は大型の橋梁構造物や高架道路構造物等のように作業環境が劣悪な現場において、しかも、一か所のねじ締結部位に多数個のねじ締結体を施工する場合、高い締結トルクと長い締結距離を要求される螺合固定作業を三度繰り返すことは作業効率や作業の安全性の観点から望ましいものとは言えない。
【0011】
また大型の橋梁構造物や高架道路構造物等の接続固定部位によっては、同一部位において数十個ないしは百個以上のねじ締結体を施工する場合も多い。このような作業現場では、最初に所定箇所に必要数のボルトを挿入設置し一方の雌ナットを全てのボルトに螺合諦着した後、雄ナットを全ての雌ナットに螺合嵌合する。最後に他方の雌ナットを雄ナットに螺合諦着するのであるが、時に他方の雌ナットの装着を失念してしまう作業ミスが少なからず発生する。このような作業ミスは構造物の強度や信頼性の低下を惹起するものであるから、現場作業者は劣悪作業環境下においては必要以上の精神的重圧感を受けることになる。
【0012】
本発明は上述する従来の緩み防止機能を備えたねじ締結体の欠点に鑑み、特に大型の橋梁構造物や高架道路構造物、種々の機械的原動機関、またこれらの機関を搭載した船舶、航空機あるいは自動車等の運輸装置等のような重量構造物等に使用され、常時機械的振動や継続的に変動する外部負荷等に曝されるような厳しい環境下に置かれる構造物のねじ締結体として施工され、過酷な作業環境下での締結作業が要求されるねじ締結体に適しており、ねじの戻り回転を伴うねじ締結体の緩みを確実に防止し、もって構造物の安全性や信頼性を担保することが出来るねじ締結体用のコンビネーションナットを提供することを目的とするものである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、一対の同一形状の外側締結ナットと該一対の外側締結ナットの間に内側ロックナットを挟んで集合体として一体的に組み合わせて使用され、集合体に組み合わせられた状態で、外円錐ロックナットの大経端が外側締結ナットの座面から所定の高さ突出するようにすることによって、特に橋梁構造物や高架道路構造物のような大型構造物に施工するねじ締結体の締結及びロック作業に要する締結トルクが極めて低くて済む上に、ねじ締結体の締結ボルトとの螺合とねじ締結体の締結及びロック作業が、特に劣悪な締結ロック作業環境下における締結及びロック作業が、被締結部材から遠い方の外側締結ナットだけを一回転以下の回転操作によって容易に達成できる一方、三個のナット部品から成るねじ締結体が低コストで製造が可能なコンビネーションナットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のコンビネーションナットは、互いに螺合するボルトとナットの間に被締結部材を締結固定するねじ締結体に使用されるものであり、戻り回転を伴う締結体の緩みの発生防止機能を有するコンビネーションナットである。このコンビネーションナットは、締結ボルトに螺合する一対の同一形状の外側締結ナットと該外側締結ナットの間に挟まれて外側締結ボルトに螺合する双外円錐台形の内側ロックナットの独立した三個のナット部品で構成される。内側ロックナットは、一対の同一形状の外円錐台形のロックナット部より成るとともに、これらのロックナット部はそれらの大径端を共有するように倒置対称形に一体形成されているとともに、両ロックナット部の壁部には径方向の外力に起因する弾性変形によりその縮径を許容するようにねじ軸方向の全長に渡るスロット状開口が穿設されている。また外側締結ナットは内側ロックナットのロックナット部の母線角と同一の母線角を有しロックナット部と嵌合可能であり、その座面を含む平面内に大経端が開口する内円錐台形の嵌合凹部が形成されている。この外円錐台形のロックナット部のねじ軸方向の高さは、内円錐台形の嵌合凹部のねじ軸方向の深さよりも小さく構成され、また内側ロックナットの共有された大径端は外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部の大径端よりも大きく、その小径端は内円錐台形の嵌合凹部の大端径よりも小さく構成さている。そして、外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部とが自重を除く軸方向負
荷が付与されない無負荷嵌合状態におけるロックナット部の大径端が嵌合凹部の大経端から突出する高さをe,ロックナット部及び嵌合凹部の母線角をθ、外側締結ボルトと内側ロックナットとの螺合時のねじの遊び側フランク間の幅をα及び内側ロックナットと外側締結ボルトのピッチをpとする時、前記突出高さeは下記数式1の関係を満足することを特徴としている。
【0015】
【0016】
このようなコンビネーションナットを使用して被締結部材を締結する場合、締結及びロック作業に先立つ準備作業として、被締結部材に通した締結ボルトに一方(以下、下側または第一と表記する)の外側締結ナット、双外円錐台形の内側ロックナット及び他方(以下、上側または第二と表記する上側)の外側締結ナットを手指によって順次嵌合して、内側ロックナットの両側から第一、第二の外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部に自重を除く軸方向の外部負荷が互いにに作用しない状態、すなわち、内側ロックナットのロックナット部の小径端を外側締結ナットの嵌合凹部の内周面に最初に当接した状態で嵌合させて集合体を構成する。コンビネーションナットが、三個構成ナット部品が無負荷嵌合状態で嵌合して単一集合体化されて、無負荷嵌合状態に維持された準備状態のコンビネーションナットは、外側締結ナットの大端径と外円錐台形の内側ロックナットの共有された大端径との径差に応じて、外側締結ナットの座面(内円錐台形の嵌合凹部の大経端を含む面)からねじ軸方向に予め決められた所定の高さだけ突出した状態で準備位置に位置付けられる。この集合体化されたコンビネーションナットは、例えば親指を含む三本の指で、一体的に回転して外側締結ボルトに螺合し被締結部材に隣接する位置、すなわち締結及びロック作業を実行するための上記準備位置、へ位置付けられる。この準備位置におけるコンビネーションナットの被締結部材に隣接する外側締結ナットを所定の締結トルクで締め付けることによって、被締結部材の締結固定作業が達成される。
【0017】
この準備位置において、それぞれのロックナット部はその嵌合した外側締結ナットの座面から上記の所定突出高さだけ突出した状態に維持されている。そして、内側ロックナットに対して被締結部材に隣接する側の第一の外側締結ナットを、予め定められた所定のトルクで締め付けることによって被締結部材の締結固定が達成される。引き続いて、被締結部材とは反対側の第二の外側締結ナットを締め付けると、同時的に摩擦係合している内側ロックナットを従属的に螺合回転させながらねじ軸方向へ変位させ、その座面が被締結部材を締結している第一の外側締結ナットの座面に当接するまで螺合回転してねじ軸方向に変位する。この間、内側ロックナットの外壁面が各外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部の内壁面から側圧を受けて内側ロックナットが弾性変形して徐々にその内径を縮小するとともに、内側ロックナットは第一と第
二の外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部との嵌合深さを増大して行く。第一と第二の外側締結ナットの座面が当接するまで第二の外側締結ナットを締め付けると内側ロックナットは第一と第二の外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部内に完全に嵌入する。この結果、内側ロックナットの弾性変形は最終的に締結ボルトの雄ねじの山の頂の縁部が内側ロックナットの雌ねじのフランクを塑性変形させて食い込み、その結果、締結ボルトと内側ロックナットが機械的に鎖錠(ロック)状態になる。
【0018】
第二の外側締結ナットの締め付けが完了すると、各外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部の傾斜内壁面は弾性変形した内側ロックナットの傾斜外壁面との間に生じる高い接触面圧(摩擦力)と両外側締結ナットの接触座面間に生じる高い接触面圧(摩擦力)とにより、各外側締結ナットの戻り回転が抑制される。すなわち本発明のねじ締結体用のコンビネーションナットは内側ロックナットと締結ボルトの機械的ロックに加えて、複合的に戻り回転を防止する機能を備えており、従来のねじ締結体用のナット構造では得られなかった強固で信頼性の高いねじ締結体の緩みを防止する機能を実現するのみならず、その締結ロック作業を極めて簡単にするものである。
【0019】
また本発明の望ましい実施形態によれば、コンビネーションナットは三個の単体ナット部品を順次締結ボルトに螺合して準備位置に位置付ける他に、三個の単体ナット部品を締結ボルトに螺合するのに先立って、予め自重を除く外部負荷が互いに作用しない無負荷嵌合状態に組み合わせて集合体として、手指で一体的に保持して締結ボルトに螺合して準備位置に位置付けることもできる。また三個の単体ナット部品を一体的に手指によって保持してボルトに螺合する代わりに、外部負荷が互いに作用しない無負荷嵌合状態に組み合わせた三個の単体ナット部品を、容易に破断可能な外装体で一体的集合体として外装して単体のコンビネーションナットとして集合体として取り扱えるようにすれば、締結ボルトとの螺合による準備位置への位置付けは、過酷な作業現場においてさえも、単一のナット集合体として一回の螺合作業で締結準備位置に簡単にかつ効率的に位置付けすることが出来、その上で外装体を破断除去すれば締結前の準備は完結する。準備位置に位置付けされた後のコンビネーションナットは上述した作業と同様の一連の締結ロック作業工程を通して実施される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコンビネーションナットによれば、双外円錐台形の内側ロックナットの外側締結ナットの座面からの突出高さeをその許容範囲内で管理することによって、締結準備位置に位置付けされている第二の外側締結ナットを360°以下の範囲の角
度だけ回転してねじ軸方向へ変位させるだけで、双外円錐台形の内側ロックナットは従動的にねじ軸方向へ変位しながらねじ軸方向と直交する方向へ弾性変形してその直径が縮径されるとともに、内側ロックナットの座面が互いに圧接してその内円錐台形の嵌合凹部の内部に完全に嵌入されると、内側ロックナットと締結ボルトの間に強固な機械的ロックが達成される。内側ロックナットは第一及び第二の外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部の内側壁傾斜面によって内側ロックナットの軸方向全長に渡って均一に押圧されるので、内側ロックナットのフランクと締結ボルトのねじ山の頂縁との食い込みが内側ロックナットの全長に渡って均等になり、内側ロックナットと締結ボルトはロック長さの全長に渡って強固で信頼性の高いロック結合が担保され、戻り回転を伴うねじ締結体の緩みの発生が確実に防止される。
【0021】
この強固なロック結合は内側ロックナットのねじの遊び側フランクと締結ボルトのねじ山の頂縁部との食い込みを生じるに必要な内側ロックナットのねじ軸と直交方向への最小限の弾性変形量は遊び側フランク間の幅にほぼ等しく、この遊び幅はねじのピッチに比較して極めて小さく、必要とされる第二の外側締結ナットの回転操作角は一回転の数分の1以下で十分である。第二の外側締結ナットを回動操作して軸方向へ螺合変位するのに伴って、内側ロックナットは外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部の内側壁傾斜面との間の逓増する摩擦力によって従動的に回動されてねじ軸方向へ螺合変位する。この時の第二の外側締結ナットの締結トルクは内円錐台形の嵌合凹部の内側壁傾斜面に応じて内側ロックナットの外側壁傾斜面に伝播されるので、内側ロックナットを弾性変形させるために第二の外側締結ナットの締結トルクを増加する必要がなく、コンビネーションナットの締め付けトルクは低くて済む。
【0022】
また、本発明のコンビネーションナットは内側ロックナットと締結ボルトとの強固なロック結合に加えて、弾性変形した内側ロックナットから外側締結ナットに加わる反作用圧力、内側ロックナットと外側締結ナットの傾斜面間に発生する摩擦力、及び第一と第二の外側締結ナットの座面間に発生する摩擦力によって、戻り回転を伴うねじ締結体緩みの発生を二重に補強的に防止する。
【0023】
本発明のコンビネーションナットは三個の単体ナット部材で構成されているにも拘らず、簡単かつ容易に組み合わせて集合一体化することが出来るので、三個の単体ナット部品を個々に長い締結ボルトのねじ部に螺合して三度の類似する締結作業を繰り返し行うことを要せず、作業者が手指にて或いは外装体にて組み合わせて一体化されたコンビネーションナットを一回の手指による螺合操作で締結準備位置に螺合配置し、その後第二の外側締結ナットを締め付けるだけでコンビネーションナットの諦結作業とロック作業が同時に達成できる。大型の構造物に対して締結作業を実施する場合のような一般に劣悪な作業環境下であっても、本発明のコンビネーションナットは取り扱いが極めて簡単かつ容易なので、作業効率が向上し締結作業の信頼性が向上する。
【0024】
さらに本発明のコンビネーションナットは幾何学的形状および機械的機能が全く同一の二個の外側締結ナットとプレス加工で製造できる内側ロックナットで構成出来るので、製造コストが安くその上製造管理が容易であるという現実的利点を有するものである。その上、容易に破断可能な外装体で三個の組み合わせナット部品が集合一体化されたコンビネーションナットは、商品流通上のみならず現場作業上の処理・運用の利便性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本発明の
コンビネーションナットを使用したねじ締結体の構成を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の
コンビネーションナットの構成を示す断面図である。
【
図3】
図3の(a)は組み合わせて一体化した本発明の
コンビネーションナットの外観斜視図であり、(b)は組み合わせて一体化した
無負荷嵌合状態下の本発明のコンビネーションナットの断面図である。
【
図4】
図3の符号F4で示す部分
の幾何学的詳細を示す拡大摸式図である。
【
図5】
図5は
図1に示すねじ締結体の使用状態を示し、ねじ締結体が締結直前の準備位置に位置付けられた状態を示す部分断面図である。
【
図6】
図6は
図1に示すねじ締結体の使用状態を示し、ねじ締結体の締結
及びロック作業が終了した状態を示す部分断面図である。
【
図7】
図7の(a)
は締結ボルトが固定している時の
締結ボルトの雄ねじと
内側ロックナットの雌ねじのフランクの
弾性域の螺合状態下における幾何学的位置関係を説明する拡大模式図であり、(b)は
内側ロックナットの雌ねじが弾性変形によりねじ軸と直交する方向へ変形して
締結用ボルトの雄ねじの山の頂部に噛み込む様子を示し、その幾何学的位置関係を説明するための拡大模式図である。
【
図8】
図8は本発明の
コンビネーションナットの他の実施例を示す外観平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0026】
以下に本発明の望ましい実施例について説明する。
図1は本発明の
コンビネーションナットを使用したボルト・ナット締結体(以下ねじ締結体と略記する)1の分解斜視図であり、2枚の平板状の被締結部材を一体的に締結して固定するのに使用される場合を例示的に示している。ねじ締結体1は、
締結ボルト10とこの
締結ボルト10と後述するように組み合わせて使用する三個の単体ナット部品よりなる
コンビネーションナット22で構成されている。締結ボルト10は日本工業規格
(JIS)に規定された六角ボルトが採用されているが、目的に応じて制作された特殊ボルトであっても良い。締結ボルト10は座面15を備えた頭部14、この頭部14
と一体の
軸部18から成り、軸部18はねじの軸
X方向に延在する円筒部19及び円筒部19の延長部外周に雄ねじ21が形成されたねじ部20より構成されている。締結ボルト10のねじ部20に形成された雄ねじ21は
、例えばJISに規定された呼び径M16の通常の
メートルねじである。この締結ボルト10は通常通しボルトと呼ばれる雄ねじ部品であり被締結部材に形成された通し孔に挿通されて使用される(
図5、
図6のM1,M2参照)。
【0027】
図2に詳細に示されるように、締結ボル10と組み合わせて使用される本発明の締結ナットは三個の単体ナットで構成された
コンビネーションナット22であり、一対の第一及び第二の外側締結ナット24Aと24B及び単一の双外円錐台形の内側ロックナット40で構成されている。第一及び第二の外側締結ナット24Aと24Bは後に詳述するように全く同一の幾何学的形状を有し、それぞれの外側締結ナット24A、24Bは
雌ねじ27が形成されたねじ部26に隣接して設けられた内円錐台形の嵌合凹部30が形成されている。一方双外円錐台形の内側ロックナット40は
締結ボルト10のねじ部20の雄ねじ21と着脱自在に螺合する雌ねじ43が創生された
ねじ部42が形成されている。これらの第一及び第二の外側締結ナット24Aと24B及び双外円錐台形の内側ロックナット40は基本的には呼び径が
締結ボルト10と同一の単体のナット部品
であり、第一及び第二の外側締結ナット24Aと24Bが通常の鋼製ナットあるいはステンレス鋼製ナットであるのに対して、双外円錐台形の内側ロックナット40は弾性体材料で製作されたナットであり、望ましくはプレス加工によって制作されている。三個の単体ナット部品で構成される
コンビネーションナット22は締結作業に際しては後述するように、
図3(a)及び(b)に示されたように分離可能に組み合わされて一体化された集合体として取り扱われるのが望ましい。
以下の説明においては説明の都合上、内側ロックナット40の下側半分の部分を第一のロックナット部40a、上側半分の部分を第二のロックナット部40bと仮称する。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、第一の外側締結ナット24A(図中
下側の締結ナット)にはねじ部26とこのねじ部26に隣接して内円錐台形の嵌合凹部30が内部に形成されている。
外側締結ナット
24A内部に形成された内円錐台形の嵌合凹部30はその直径が
D2の大経端31aが通常面取りされた側の座面29aと構成する端面内に開口し、一方直径が
D1の小径端31bはねじ部26に隣接し開口している。この内円錐台形の嵌合凹部30の傾斜壁面の母線角はθ(嵌合凹部30の円錐角=2θ)であり、その深さはGである。後述するようにこれらの内円錐台形の嵌合凹部30の円錐角2θ及深さGはねじ締結体1を構成する締結ボルトやナットの呼び径や幾何学的、物理的属性等及び被締結部材の締結強度等に応じて
適切に選定され
、締結体1の締結軸力やその他の諸条件
を含む設計要素に適合する最適な値に設定れる。本実施例においては、ねじの呼び径が
JISで規定されたM16のボルト及びナットを例示しており、二枚の板状部材を締結する締結体に使用される場合を例示すものであり、外側締結ナット24A、24Bの内円錐台形の嵌合凹部30の母線角θは11°(円錐角2θは22°)に設定されている。外側締結ナット24Aと24Bはねじ軸X方向に見た使用態様が上下逆向きであることを除けば全く同一の幾何学的形状を有しているので、同一部分には同一の符号を付して第二の締結ナット24B(
図2及び3において上側の締結ナット)については説明を省略する。
【0029】
一方双外円錐台形の内側ロックナット40は倒置対称に配置された一対の外円錐台形の
ロックナット部40a及び40bで構成され一体的に形成されている。具体的には内側ロックナット40は幾何学的形状が同一の一対の外円錐台形の
ロックナット部40a及び40bがその大経端(
図4において点線41で示された双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む
仮想的な面)を共有するように稜線41を含む平面を対称面としてねじ軸X方向に見て上下逆さに対称形に倒置重畳された双外円錐台形に
一体化された特殊ナットである。各外円錐台形のロックナット部40a、40bの大端径d2(稜線
41で囲まれた端面円の直径)は外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも大きく(d2>D2)、また
、その小端径d1は外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも小さく(
d1<D2)設定されている。また各外円錐台形のロックナット部40a、40bのねじ軸X方向の高さgは内円錐台形の嵌合凹部30のねじ軸X方向の深さGよりも小さく(
g<G)設定されている。
【0030】
双外円錐台形の内側ロックナット40は外力によって弾性変形可能な材質で製作されており、締結ボルト10のねじ部20の雄ねじ21と着脱自在に螺合する雌ねじ43が形成されたねじ部42が形成されているとともに、その壁部44の一方の小径端35aから他方の小径端35aの間にはねじ軸X方向に延在する細長のスリット状開口45が形成されている。この弾性変形可能な双外円錐台形の内側ロックナット40はねじ軸X向かう方向に外力が加えられるとスリット状開口45の幅が許容する範囲内で自身の直径が縮径するように弾性変形することが出来る。
【0031】
図3(a)及び(b)関連して説明したように、
コンビネーションナット22は三個の単体ナット部品である外側締結ナット24A、24Bと内側ロックナット40を組み合わせて集合体として一体化したナットである。
図3(b)に詳細に示されているように、
コンビネーションナット22は、内側ロックナット40の上下両側において外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30と内側ロックナット40の
ロックナット部40aと40bとがそれぞれ自重以外の外力が付与されない状態で嵌合する(以下この状態を、無負荷嵌合状態と表記する)ように組み合わせて一体化されている。すなわち締結時に被締結部材に隣接する側(図中下側)の第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の内部へ
、内側ロックナット40の外円錐台形の一方の
ロックナット部40aをねじ軸X方向にほぼ
同軸的に整合させて挿入する。この場合、第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の円錐角と外円錐台形のロックナット部40aの円錐角は共に2θ(母線角=θ)で等しいが、外円錐台形の
ロックナット部40aの
大端径d2は第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも大きく設定されているので、外円錐台形の
ロックナット部40aの自重以外のねじ軸X方向の外力が作用しない条件下では、外円錐台形の
ロックナット部40aは外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30内に於いて自重を除く荷重が付与されない状態で嵌合(以下、無負荷嵌合と表記する)保持されている。
この無負荷嵌合状態にあっては、ロックナット部40aの大経端(外外円錐台形の内側ロックナット40の稜線を41を含む仮想的な面)は第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30の大経端
31a、即ち外側締結ナット24Aの座面
29b、から軸方向X
に所定の高さeだけ
突出する。
【0032】
次に上側の第二の外側締結ナット24Bの内円錐台形の嵌合凹部30をねじ軸X方向にほぼ同軸的に整合させて内側ロックナット40の上半部である外円錐台形のロックナット部40bに覆い被せるようにして載置する。この上半部のロックナット部40bと第二の外側締結ナット24Bの嵌合凹部30は、上記した位置関係とはねじ軸X方向に見て全く逆の上下が反転した位置関係にあることを除けば、外円錐台形の内側ロックナット40の下半部のロックナット部40aと第一の外側締結ナット24Aの内円錐台形の嵌合凹部30との幾何学的位置関係は全く同じであり、第二の外側締結ナット24Bは無負荷嵌合状態でその嵌合凹部30を介して内側ロックナット40の上半部である外円錐台形のロックナット部40bに嵌合保持される。この場合も内側ロックナット40の上半部のロックナット部40bの大経端(双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想的な面)は第二の外側締結ナット24Bの座面29bから軸方向Xに所定の高さeだけ突出することは明らかである。この三個の単体ナット部品が集合体として組み合わされたコンビネーションナット22を分離しないように手指によって一体的に保持するか、望ましくは容易に破断可能な外装体、あるいは容易に剥離可能な接続部材又は接着剤などの周知の手段によって連結固定して一体的に保持するのが取り扱い上望ましい。
【0033】
図4は集合体として一体的に保持された
コンビネーションナット22の図(b)中符号4Fで指示した部分の
拡大模式図であり、上述の外側締結ナット24A、24Bと双外円錐台形の内側ロックナット40の組み合わせ状態の幾何学的関係を示すものである。既に説明したように、外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30はその深さがG、母線角はθ(円錐角=2θ)である。また外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の
嵌合凹部30の大端径は
D2はである。また双外円錐台形の内側ロックナット40はその各外円錐台形のロックナット部40a、40bのねじ軸X方向の高さがgでその円錐角は嵌合凹部30と同一で2θ(母線角θ)である。この円錐角2θ(母線角θ)の値は被締結体の締結構造、被締結体やねじ締結体の材質や幾何学的形状など及び双外円錐台形の内側ロックナット40の弾性係数等の属性をファクターとして設定されるのが望ましく、また
双外円錐台形の内側ロックナット40の外円錐台形の
ロックナット部40a、40bの大端径d2は内円錐台形の嵌合凹部30の大端径D2よりも大きく設定されていること及び
無負荷嵌合状態に於ける双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41を含む仮想的な面である大経端は
、外側締結ナット24A、24Bのそれぞれの座面29bからのねじ軸X方向の
突出高さが値eだけ突出していることは既に述べたところである。図中符号tは第一及び第二の外側締結ナットの座面29bが当接して
、双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41が上下の内円錐台形の嵌合凹部30内部に完全に
包囲された時、即ち外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41が外側締結ナットの座面29bの
当接面に一致する位置まで
第二の外側締結ナット24Bを締め付けた時に、双外円錐台形の内側ロックナット40の小径端35aと外側締結ナットの内円錐台形の嵌合凹部30の小径端31bの間に残留する間隙深さである。この
間隙深さtは外側締結ナット24A及び24Bの対向する座面29bが当接した時に
、双外円錐台形の内側ロックナット40の雌ねじ
43が外側締結ナット24A、24Bの雌ねじ27との間に位相差が生じ
締結ボルト10と干渉するのを防止するために設けられる。
【0034】
集合体として一体化された
コンビネーションナット22の締結前の準備作業としての締結ボルト10への螺合位置付け作業と
、それに引き続いて行われる締結及びロック作業について
図5及び
図6を参照して説明する。締結作業現場に於いてはねじ締結体1は、締結作業に先立ち被締結部材
M1、M2の挿通孔1A,2Aに挿通された締結ボルト10に、集合体として組合され一体化された
コンビネーションナット22を螺合して、
図5に示された締結前の準備位置(以下、締結前準備位置と表記する)に位置付ける。この締結前の準備位置においては、
コンビネーションナット22の第一の外側締結ナット24Aの、
本実施例においては座面として作用する、頭部座面29aが被締結部材M1に接する位置に位置付けられ、第一と第二の外側締結ナット24Aと24Bの内円錐台形の嵌合凹部30と双外円錐台形の内側ロックナット40の
ロックナット部40aと40bが無負荷嵌合状態(
図3参照)を維持するように
して、双外円錐台形の内側ロックナット40と第一と第二の外側締結ナット24A、24Bとが
締結ボルト10と螺合状態にある。
【0035】
この
コンビネーションナット22の締結前準備位置への位置付けは、
図3に示されたように予め集合体として組み合わせた
コンビネーションナット22を手指で一体的に保持して被締結部材に挿通された締結ボルト10に螺合して締結前準備位置に位置付けることも出来るし、必要によっては、
コンビネーションナット22を構成する三個の単体ナット部品である第一外側締結ナット24A、内側ロックナット40及び第二外側締結ナット24Bを個別にこの順序で締結ボルト10に螺合して
、最終的に一体化された集合体として
コンビネーションナット22
として締結前準備位置に位置付けることも出来る。望ましくは、後述するように、
図3に示されたように予め組み合わせた
コンビネーションナット22の三個の単体ナット部品である第一外側締結ナット24A、内側ロックナット40及び第二外側締結ナット24Bを容易に破断可能な外装体等で包装し
、単一化された集合体として被締結部材に挿通された
締結ボルト10に螺合し、締結前準備位置に位置付けることが出来る。
【0036】
コンビネーションナット22の締結準備位置への位置付けに引き続いて、まず第一の外側締結ナット24Aを締付けて被締結部材M1、M2を所定の締め付け軸力(締結ボルト軸力)で締結する。締結作業は、トルク法や回転角法等の締め付け管理法のもとで行われるが、既存の締め付け工具や装置を用いて実施され、第一の外側締結ナット24Aを所定の締め付け軸力を得るために予め定められた締付けトルクで締付けて被締結部材M1とM2を締結ボルト10の頭部14の座面15と第一の外側締結ナット24Aの頭部座面29aの間に緊締して締結する。例えばトルク法による締め付けでは、スパナ、一定のトルクで作動が止まるインパクトレンチ、一定の空気圧で一定時間作動する空圧式装置あるいは一定のトルクで油圧を作用させる油圧式装置などの締め付け工具や装置を使用して行うのが一般的である。
【0037】
被締結部材M1とM2の締結後、引き続き締結体1の回転緩みを防止のためのコンビネーションナット22の締結ロック作業を行う。この回転緩み防止締結ロック作業は第二の外側締結ナット24Bを締め付けることで簡単に達成される。すなわち、第一の外側締結ナット24Aの締結作業に採用された工具あるいは装置または類似の工具あるいは装置を使用して、第二の外側締結ナット24Bを回転して締め付ける。第二の外側締結ナット24Bは回転に伴ってそのねじ27と締結ボルト10のねじ21との螺合を介してねじ軸X方向下方へ変位する。この第二の外側締結ナット24Bのねじ軸X方向の変位に伴い、第二の外側締結ナット24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して上半部の外円錐台形のロックナット部40bの外円錐台外壁面48bにはねじ軸X方向の力に対して母線角θに応じた外力が加えられ、その結果、ロックナット部40bは弾性変形して内径が減少する。同時進行的に第二の外側締結ナット24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28と上半部のロックナット部40bの外円錐台外壁面48bとの間の摩擦力が漸増的に高くなり、その結果、上半部の外円錐台形のロックナット部40b、従って一体である下半部の外円錐台形のロックナット部40aを含む双外円錐台形の内側ロックナット40全体が第二の外側締結ナット24Bの回転に従動して回転して締結ボルト10の雄ねじ21との螺合を介してねじ軸X方向下方へ変位する。双外円錐台形の内側ロックナット40全体のねじ軸X方向下方への変位、従って下半部分の外円錐台形のロックナット部40aのねじ軸X方向下方への変位により、第一の外側締結ナット24Aの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して下半部の外円錐台形のロックナット部40aの外円錐台外壁面28aに大きな外力が加えられてねじ軸Xに直交する方向に弾性変形して内径が減少する。内側ロックナット40は対向する第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して上下両側から同時にほぼ等しい外力を受けるのでその弾性変形はねじ軸X方向に均一となる。
【0038】
上述した締結ロック作業は、第二の外側締結ナット24Bの締め付けによるねじ軸X方向の変位が進み、
図6に示すように第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29bが当接することによって達成される。締結ロック作業の達成状態においては、双外円錐台形の内側ロックナット40は第一、第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30で形成される閉鎖空間内に完全に包含される。
図5及び
図6から明らかなように、第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29bが当接するまでに要する第二の外側締結ナット
24Bのねじ軸X方向下方への変位距離は、
コンビネーションナット22が無負荷嵌合状態
で集合体化された状態に於ける
双外円錐台形の
内側ロックナット
40の稜線41(仮想大経端)が各外側締結ナット24A、24Bの座面29bから
突出する突出高さe(
図3(b)及び
図4参照)に等しい。第二の外側締結ナット24Bが双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の突出高さeに等しい距離だけ変位すると、該内側ロックナット40は締結ボルト10
とロック状態になる。締結ロック作業に於ける第二の外側締結ナット24Bの変位距離と内側ロックナット40と締結ボルト10の間に発生するロック機序について模式的に示した
図4及び
図7(a)
及び(b)を参照して以下に詳述する。
【0039】
図7(a)は使用される締結ボルト10と双外円錐台形の内側ロックナット40が、例えばJISに規定されたねじ呼び径M16の一般用
メートルねじの場合の締結前準備位置に位置付けられた
コンビネーションナット22の双外円錐台形の内側ロックナット40のねじ43と締結ボルト10のねじ21の幾何学的相対位置関係を示す模式図である。ねじの呼び径がM16の
メートルねじの場合、締結ボルト10のねじ21と双外円錐台形の内側ロックナット
40のねじ43の
ねじ山角δは
共に60°、従って、フランク角は
30°であり、
コンビネーションナット22と締結ボルト10が互いに
普通通りに螺合している場合のねじ21及びねじ43の対向する遊び側フランク21a、
43aの間には幅αの遊びが存在している。図中符号9は締結ボルト10のねじ21のねじ山の頂を、符号9a、9bはその側端縁を示している。
【0040】
図7(
a)及び(b)は締結ボルト10と双外円錐台形の内側ロックナット40が機械的にロックされる前後の状態を模式的に示している。内側ロックナット
40の弾性変形の結果、内側ロックナット40の雌ねじ43の遊び側と圧力側のフランク43a、43bが締結ボルト10の雄ねじ21のネジ山の頂9の側端縁9a、9bに係合して内側ロックナット40の遊び側のフランク43aの塑性変形を惹起して
ねじ山21の頂9の側端縁
9aが双外円錐台形の内側ロックナット40の遊び側のフランク43aに食い込み状態となり、その結果双外円錐台形の内側ロックナット40と締結ボルト10は相対的回転が不能化され
、両者は機械的にロックされる。
図7(b)中の符号Rはロック作業の工程に於いて、締結前準備位置に在る双外円錐台形の内側ロックナット40のねじ43の対向するフランク43a、43bの交点(ねじ43の谷底)Sが、第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接して内側ロックナット40が第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの内円錐台形の嵌合凹部30に嵌合して、上下の嵌合凹部30で形成された閉鎖空間の内部に完全に包含された時の双外円錐台形の内側ロックナット40の遊び側フランク43aに食い込み状態となり、その結果双外円錐台形の内側ロックナット40の弾性変形による雌ねじ43の遊び側フランク43aが締結ボルト10の雄ねじ21の遊び側のフランク21aに接した時(
図7(b)で点線にて示す)に
、内側ロックナット40のフランクの交点Sが締結ボルト10のねじ21の圧力側フランク21bの延長線上を点S‘まで変位した時の交点Sのねじ軸Xに垂直な方向の変位距離を示している。
図5(b)から明らかなように、線分SS’の長さをM、フランク角を
δ/2(ねじ山角δ)とすると
、この変位距離R及び遊び幅αは共にM・cos(λ/2)で表される
から、
変位距離Rと遊び幅αは等しい(R=α)ことになる。
【0041】
また
図4の双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A、24Bからの突出高さeと内側ロックナット40の
半径方向の弾性変形との関係を示す模式図において、図中
符号rは第二の外側締結ナット24Bの回転により、内側ロックナット40がねじ軸X方向下方へ突出距離eに等しい距離だけ変位して、第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29b
が当接した時、内側ロックナット40が弾性変形して生じる
半径方向の
変位距離を表し、この
変位距離rは
e・tangθで表されることは明らかである。
【0042】
締結後のロック作業の詳細を以下に説明する。
コンビネーションナット22が締結前準備位置に位置付けられた時、内側ロックナット40の雌ねじ43は
図7(a)中実線で示され、
コンビネーションナット22の第二の外側締結ナット24Bをその座面29bが対向する第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接した時、内側ロックナット40の雌ねじ43は
図7(b)では点線で示され示されている。締結ロック作業において、締結前準備位置に位置付けられた
コンビネーションナット22の第二の外側締結ナット
24Bを締め付けると、既に説明したように、第二の外側締結ナット24Bは締結ボルト10との螺合を介して締め付け回転角度に応じてねじ軸X方向下方に変位し、上半部の
ロックナット部40bの内円錐台形の嵌合凹部30への強い嵌合を引き起こし、内円錐台形の嵌合凹部30の内円錐台内壁面28と上半部の
ロックナット部40bの外円錐台外壁面48aとの間に強い摩擦力を発生する。この第二の外側締結ナット24Bの締め付け回転により、強い摩擦力で第二の外側締結ナット24Bに係合している上半部の
ロックナット部40bは双外円錐台形の内側ロックナット40全体を従属回転させてねじ軸X方向の変位を惹起する。双外円錐台形の内側ロックナット40全体の従属回転は同時に
、下半部の
ロックナット部40aの第一の外側締結ナット
24Aの内円錐台形の嵌合凹部30への嵌入を惹起する。
【0043】
この上下半部の外円錐台形のロックナット部40a、40bのそれぞれ第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bへの嵌入は随伴的に双外円錐台形の内側ロックナット40全体の直径方向(ねじ軸Xに直交する方向)の弾性変形を引き起こす。この弾性変形の起因となる外力は、第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bを締付ける軸X方向の負荷であり、この負荷が第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の傾斜内壁面28によりその母線角θに応じてねじ軸Xの方向に向かう力である。そして、この弾性変形により内側ロックナット40の内径が減縮される。内側ロックナット40は対向する第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の内円錐台内壁面28を介して内側ロックナット40の外円錐台の傾斜外壁面48b、48bから同時に均等な外力を受けるのでその弾性変形はねじ軸X方向に均一である。
【0044】
既に説明したように、締結ロックのための第二の外側締結ナット
24Bの回転で生じる内側ロックナット40の弾性変形により生じる対向するフランク43a、43bの交点Sのねじ軸Xに
直交する方向の変位距離Rは
、内側ロックナット40がねじ軸X方向に変位した時に生じる
半径方向の
変位距離rそのものであるから、r=R=α
という関係が成立する。また既に
図4に関連して説明したように、第二の外側締結ナット
24Bがねじ軸X方向下方へ突出高さeに等しい距離だけ変位して
、その座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接した時、内側ロックナット40の弾性変形の結果生じる半径
の変位距離rはα/tanθで表される。また、すでに述べた通り、内側ロックナット40の弾性変形の結果生じる
半径方向の
変位距離rと締結ボルト10が互いに螺合している場合の雄ねじ21及び雌ねじ43の対向する遊び側フランク21a、43aの間には遊び幅αのとは等しい(r=α)関係にあるので、三個の単体ナット部品を無負荷嵌合状態に組合せて集合体とした
コンビネーションナット22の
双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A,24Bの座面29a、29からの突出高さeはe=α/tangθで規定することが出来る。
【0045】
以上の説明から解るように、コンビネーションナット22の組み立て集合体に於ける双外円錐台形の内側ロックナット40の稜線41の外側締結ナット24A、24Bの座面29a、29bからの突出高さeを下記数式1で規定するように、α/tanθより小さくなく、かつ双外円錐台形の内側ロックナット40のねじのピッチp未満の値に設定管理すれば、締結前準備位置に位置付けられたコンビネーションナット22の第二の外側締結ナット24Bの360°以下の締め付け回転操作で締結ボルト10と内側ロックナット40の間に強固で信頼性の高い機械的ロック状態を容易に実現することが出来る。
【0046】
【0047】
JISのねじ呼び径がM16の締結ボルト10と三個の個別ナットで構成された本発明のコンビネーションナット22を使用してねじ締結体1を構成する場合の具体的数値例を示すと以下の如くである。第一及び第二の外側締結ナット24A、24Bの高さ13mm、二面幅2.4mm、内円錐台形の嵌合凹部30の円錐角2θが22°(母線角11°)、深さ5.0mm、大端径19.786mm,小端径18.0mm,また双外円錐台形の内側ロックナット40のロックナット部の高さ9.7mm、大径端(稜線)41の外径20.0mm、スリット状開口45の幅2.0mmの場合、締結ボルト10と内側ロックナット40の螺合時のフランク間の遊び幅αは0.05mmであるから、内側ロックナット40の大径端(稜線)41の第一及び第二の外側締結ナット24A,24Bの座面29bからの突出高さeは約0.25mmとなる。
【0048】
このコンビネーションナット22の双外円錐台形の内側ロックナット40と締結ボルト10とのそれぞれの雌ねじ43と雄ねじ21との間の機械的ロックのためにフランクの塑性変形を惹起するのに要する第二外側締結ナット24Bの必要な最小回転角λはねじの呼び径M16のネジのピッチをpとして次の数式2で表すことが出来る。
【0049】
【0050】
本例では呼び寸法M16のねじピッチは2mmであるから第二の外側締結ナット
24Bの必要最小回転角λは約46°となる。従って
図5に示される締結準備位置に位置付けられた第一の外側締結ナット24Aを所定の締め付けトルクで締め付けて被締結部材M1,M2を締結固定した後、スパナ等の締結用具を使用して第二の外側締結ナット24Bを締め付けて
コンビネーションナット22のロック状態を具現しようとする場合、上側の第二の外側締結ナット24Bを最小値で約46°の回転操作をすれば内側ロックナット40と締結ボルト10との機械的ロックが達成される。
コンビネーションナット22の内側ロックナット40と締結ボルト10との機械的ロックが達成されたとき、各外側締結ナット24A、24Bの嵌合凹部30の
内円錐台の低壁である小径端31aと内側ロックナット40の小径端35aとの間には嵌合凹部30の内円錐台の深さGと内側ロックナット40の上下半部の
外円錐台形のロックナット部40a、40bの高さgとの差(G-g)にほぼ等しい深さtの間隙が形成される。
【0051】
第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに接触した後、追加的に第二の外側締結ナット24Bを回転角46°を超えて回転操作すれば、螺合している内側ロックナット40の雌ねじ43と締結ボルト10の雄ねじ21との間に滑りが生じ、第二の外側締結ナット24Bのフランクは締結ボルト10のねじ山の頂9にさらなる塑性変形を惹起して杭子に領が増大するので、内側ロックナット40と締結ボルト10間にはより強固な機械的ロックが達成される。
【0052】
更に第二の外側締結ナット24Bを締め付けてその座面29bが第一の外側締結ナット24Aの座面29bに当接して第二の外側締結ナット24Bを締め付けが完了すると、締結ボルト10と内側ロックナット40との機械的ロックが達成され、同時に副次的作用として、各外側締結ナット24A,24Bの内円錐台形の嵌合凹部30の傾斜内壁面28は弾性変形した内側の双外円錐台形のロックナット40の傾斜外壁面48a、48bの高い弾性復元力により両側壁面間に高摩擦力が生じるので、各外側締結ナット24A,24Bは外的振動などに起因して起きる可能性のある戻り回転の発生を抑制するのに寄与し、同時に、第一と第二の外側締結ナット24A、24Bの座面29b同士の強い接触により、両座面間に高摩擦力が生じ、外側締結ナット24A,24Bは所謂ダブルナットと同様の作用によって、各外側締結ナット24A,24Bが外的振動などに起因して戻り回転することを抑制する。このように、コンビネーションナット22は戻り回転防止機能が複合的に作用して、その結果戻り回転を伴うねじ締結体の緩み防止機能を高い信頼性をもって実現することができる。
【0053】
本発明のコンビネーションナット22の性能評価のために、試験用に製作した上記実施例中に具体例として例示したコンビネーションナット22をNAS(米国航空規格)3350に準拠した加速振動試験機によってねじの緩み評価試験を実施した。試験条件は以下のとおりである。
試験用コンビネーションナット:
試験コンビネーションナットの種類:M16鋼製ナット
ねじ締結トルク:186N.m;100N.m;84.3N.m
ねじ締結体固定治具:NAS3350に準拠する試験用治具
NAS3350に準拠する試験環境:
振動数:30Hz 動方向:ボルト軸直角方向
振動幅:11.4+/-0.4mmp-p 衝撃幅:19mm
振動時間:16分40秒(振動回数30.000回相当)
上記緩み評価試験の結果、締めつけトルクが186N.m、100N.m及び84.3N.mの試験条件の場合について実施した緩み評価試験では、試験中も試験後もコンビネーションナットには緩みの発生は全く認められなかった。さらに、試験後の緩みトルク測定においては締めつけトルクが100N.mの場合の緩みトルクは100N.mであった。この試験結果は、ねじ呼び径M16のナットに全く回転緩みが生じない締め付けトルクの最小値が84.3N.m以上でわない事を実証しており、本発明のコンビネ
ーションナットがその信頼性の高い緩み防止機能を発現するために必要な締めつけトルクが如何に低いかを明確に示している。