(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117943
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】結晶体および光源装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/28 20060101AFI20220804BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C30B29/28
C09K11/08 Z
C09K11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003870
(22)【出願日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2021014586
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】角銅 萌子
(72)【発明者】
【氏名】照井 達也
(72)【発明者】
【氏名】梅田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】クパン ムヌサミー
【テーマコード(参考)】
4G077
4H001
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB10
4G077BB01
4G077BC24
4G077CF01
4G077ED01
4G077HA02
4H001CA01
4H001CA02
4H001CF01
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA39
4H001YA58
(57)【要約】
【課題】内部量子収率が高い結晶体を提供することを目的とする。
【解決手段】蛍光特性を発現する蛍光発現相が、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される結晶体である。蛍光発現相は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上である広ラメラ相と、特定ラメラ幅の(1/2)以下のラメラ幅を持つ狭ラメラ相とを有し、断面視野には、少なくとも2つ以上の狭ラメラ相と少なくとも1つ以上の広ラメラ相とが近接して混在する混在領域が観察される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光特性を発現する蛍光発現相が、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される結晶体であって、
前記蛍光発現相は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上である広ラメラ相と、ラメラ幅が前記特定ラメラ幅の(1/2)以下である狭ラメラ相とを有し、
前記断面視野には、少なくとも2つ以上の前記狭ラメラ相と少なくとも1つ以上の前記広ラメラ相とが近接して混在する混在領域が観察される結晶体。
【請求項2】
前記特定ラメラ幅が20μm以上である請求項1に記載の結晶体。
【請求項3】
前記広ラメラ相は75μm×20μmの仮想長方形を全て含むことができる大きさである請求項1または2に記載の結晶体。
【請求項4】
前記混在領域は、それぞれの前記広ラメラ相について、直径が250μmの仮想円を、前記広ラメラ相が、その面積で80%以上含むように、可能な限り多数描いたときに、これらの仮想円の集合体の範囲として定義される請求項1~3のいずれかに記載の結晶体。
【請求項5】
前記断面視野において、前記混在領域の面積の合計の割合が1~40%である請求項1~4のいずれかに記載の結晶体。
【請求項6】
前記断面視野において、前記広ラメラ相の面積の合計の割合が15~35%以下である請求項1~5のいずれかに記載の結晶体。
【請求項7】
蛍光特性を発現する蛍光発現相が、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される共晶体であって、
前記蛍光発現相は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上である広ラメラ相と、前記特定ラメラ幅の(1/2)以下のラメラ幅を持つ狭ラメラ相とを有し、
前記断面視野では、前記広ラメラ相の面積の合計の割合が15~35%である結晶体。
【請求項8】
前記特定ラメラ幅が20μm以上である請求項7に記載の結晶体。
【請求項9】
前記広ラメラ相は75μm×20μmの仮想長方形を全て含むことができる大きさである請求項7または8に記載の結晶体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の結晶体であって、前記結晶体はマイクロ引き下げ法によって生成されることを特徴とする結晶体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の結晶体を含む光源装置。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の結晶体と、青色発光ダイオードおよび/または青色半導体レーザーとを有する光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶体およびその結晶体を用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色光を作る方法の一つとして、黄色蛍光体に青色LEDを当て、青色光と発光した黄色光を混ぜる方法がある。黄色蛍光体としては一般的に多結晶、単結晶および共晶体が挙げられる。
【0003】
共晶体蛍光体は、一般的にAl2O3相とCe:YAG相とからなる(特許文献1)。特許文献1の段落0010には、「微細な散乱体が形成される」と記載されていることから、特許文献1の共晶体蛍光体は構成する蛍光発現相(Ce:YAG相)と酸化物相(Al2O3相)とが微細なレベルで均質な構造であると考えられる。このため、特許文献1では、蛍光成分(YAG)の占める割合が低いため、内部量子収率が低いことから蛍光量が少なくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこれらの課題を鑑み、内部量子収率が高い結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る結晶体は、
蛍光特性を発現する蛍光発現相が、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される結晶体であって、
前記蛍光発現相は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上である広ラメラ相と、前記特定ラメラ幅の(1/2)以下のラメラ幅を持つ狭ラメラ相とを有し、
前記断面視野には、少なくとも2つ以上の前記狭ラメラ相と少なくとも1つ以上の前記広ラメラ相とが近接して混在する混在領域が観察される。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る結晶体は、
蛍光特性を発現する蛍光発現相が、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される共晶体であって、
前記蛍光発現相は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上である広ラメラ相と、ラメラ幅が前記特定ラメラ幅の(1/2)以下である狭ラメラ相とを有し、
前記断面視野では、前記広ラメラ相の面積の合計の割合が15~35%である。
【0008】
本発明者は、結晶体が上記の構成であることにより、内部量子収率が高いことから蛍光量が多くなることを見出した。
【0009】
好ましくは、前記特定ラメラ幅が20μm以上である。
【0010】
好ましくは、前記広ラメラ相は75μm×20μmの仮想長方形を全て含むことができる大きさである。
【0011】
好ましくは、前記混在領域は、それぞれの前記広ラメラ相について、直径が250μmの仮想円を、前記広ラメラ相が、その面積で80%以上含むように、可能な限り多数描いたときに、これらの仮想円の集合体の範囲として定義される。
【0012】
好ましくは、前記断面視野において、前記混在領域の面積の合計の割合が1~40%である。
【0013】
好ましくは、前記断面視野において、前記広ラメラ相の面積の合計の割合が15~35%である。
【0014】
好ましくは、付活元素の濃度が前記広ラメラ相の外周部で最大値を示し、
前記付活元素の濃度が前記広ラメラ相の中心部で最小値を示す。
【0015】
好ましくは、前記広ラメラ相の前記付活元素の濃度の最小値Cminに対する前記広ラメラ相の前記付活元素の濃度の最大値Cmaxの比(Cmax/Cmin)は1.1以上である。
【0016】
好ましくは、前記広ラメラ相の前記付活元素の濃度の最小値Cminに対する前記広ラメラ相の前記付活元素の濃度の最大値Cmaxの比(Cmax/Cmin)は4.6以上である。
【0017】
好ましくは、前記共晶体はマイクロ引き下げ法によって生成されることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る光源装置は、上記の結晶体を含む。
【0019】
本発明に係る光源装置は、上記の結晶体と、青色発光ダイオードおよび/または青色半導体レーザーとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る結晶体の概略斜視図である。
【
図2】
図2は
図1に示すII-II線に沿う結晶体の断面図である。
【
図5】
図5は本発明の他の実施形態に係る結晶体の拡大断面図である。
【
図6】
図6は本発明の一実施形態に係る結晶体を製造するための結晶製造装置の概略断面図である。
【
図7】
図7は
図6に示す結晶製造装置のVII部の拡大断面図である。
【
図8】
図8は
図7に示すダイ部のVIII-VIII線に沿う矢視図である。
【
図9】
図9はCIEν値の測手方法の説明図である。
【
図10】
図10は本発明の一実施形態に係る結晶体の模式図である。
【
図11】
図11は本発明の一実施形態に係る結晶体に含まれる広ラメラ相内の付活元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図12】
図12は本発明の一実施形態に係る結晶体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[
第1実施形態]
<
光源装置>
本実施形態に係る光源装置102を
図2に示す。本実施形態に係る光源装置102は、少なくとも本実施形態に係る結晶体104と、青色発光素子110とを有する。
図2に示すように本実施形態では、結晶体104と青色発光素子110の間に空隙が備えられている。
【0022】
<
青色発光素子>
図2に示すように青色発光素子110は、結晶体104の蛍光成分を励起するための励起光である青色光L1を発する。青色発光素子110の青色光L1は通常ピーク波長が425nm~475nmである。結晶体104の第1面141に入射した青色光L1のうちの一部は結晶体104に吸収されて波長変換され、蛍光を発する。このようにして発せられた蛍光と青色光L1が混合して結晶体104の第2面142から白色光L2を発する。
【0023】
青色発光素子110としては、蛍光と混合することにより白色光L2を発し、なおかつ結晶体104により蛍光に波長変換されることができる青色光L1を発することができれば特に限定されないが、たとえば青色発光ダイオード(青色LED)または青色半導体レーザー(青色LD)が挙げられる。
【0024】
<
結晶体>
図1に本実施形態に係る結晶体104を示す。
図1に示す結晶体104は直方体の柱状である。
【0025】
本実施形態に係る結晶体104のサイズは特に限定されないが、「結晶体104を透過する青色光L1の光路に垂直な縦方向の長さX0」は入射光のスポット径と同径以上であることが好ましい。これにより、局所加熱により生じる応力による結晶体104の損傷を防ぐことができる。
【0026】
「結晶体104を透過する青色光L1の光路に平行な長さY0」は50~1000μmであることが好ましい。これにより、青色光L1を結晶体104内に充分に留めることができるため、より良い蛍光特性を得ることができる。
【0027】
「結晶体4を透過する青色光L1の光路に垂直な横方向Z0の長さ」すなわち長手方向Z0は100μm以上である。これにより、励起光(青色光L1)を効率よく吸収することができる。
【0028】
図2に
図1のII-II線に沿う結晶体104の断面を示す。すなわち、
図2の結晶体104の断面は長手方向Z0に垂直な任意の断面である。
【0029】
図3は
図2のIII部の拡大図である。
図3に示すように、本実施形態に係る結晶体104は、酸化物相52と、蛍光特性を発現する蛍光発現相54と、を有する。本実施形態に係る結晶体104は多結晶体であることが好ましく、共晶体であることがより好ましい。
【0030】
図3に示すように、本実施形態に係る結晶体104の蛍光発現相54は、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される。ここで、「ラメラ構造」とは、層を積み重ねた配列をとる構造を言う。
【0031】
また、「所定範囲の断面視野」とは、好ましくは500μm×750μmである。
【0032】
酸化物相52を構成する成分は特に限定されないが、たとえば、Al、Ba、Be、Ca、Co、Cr、Fe、Fe、Ga、Hf、Li、Mg、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Sn、Sr、Ta、Th、U、Y、Zn、Zrおよび希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)から選ばれる少なくとも1以上の酸化物であり、好ましくはAl、Ca、SiおよびZrから選ばれる少なくとも1以上の酸化物であり、より好ましくはAlの酸化物である。
【0033】
特に限定されないが、蛍光発現相54は、たとえば、好ましくはAl、Ba、Be、Ca、Co、Cr、Fe、Fe、Ga、Hf、Li、Mg、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Sn、Sr、Ta、Th、U、Y、Zn、Zrおよび希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)から選ばれる少なくとも1以上、より好ましくはAl、Lu、YおよびSiから選ばれる少なくとも1以上、さらに好ましくはAl、LuおよびYから選ばれる少なくとも1以上の酸化物が付活元素により付活されて蛍光特性を付与されている。
【0034】
なお、付活元素としては特に限定されないが、たとえばCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、TmおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つである。これにより、発光特性を付与することができる。上記の観点から、付活元素は好ましくはCeまたはEuであり、より好ましくはCeである。
【0035】
蛍光発現相54については、下記のように表すこともできる。蛍光発現相54は、少なくともYおよびLuのいずれか一方を含む元素αと、添加物である元素βを有し、(α1-xβx)3+aAl5-aO12(0.0001≦x≦0.007、-0.016≦a≦0.315)で表される。
【0036】
ここで、元素αとしては他にGd、TbまたはLaを含んでいてもよい。また、元素αは少なくともYを含むことが好ましい。元素αが少なくともYを含むことにより、発光特性をより向上させることができる。添加物である元素βは上記した付活元素である。
【0037】
なお、結晶体104の各成分濃度は、レーザアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、エネルギー分散型分光器(EDX)等で測定できる。
【0038】
本実施形態では、蛍光発現相54の内部に全て含まれる最大面積の仮想長方形60の短手方向の幅を「ラメラ幅」とする。
【0039】
本実施形態に係る蛍光発現相54は、少なくとも広ラメラ相56と、狭ラメラ相58とを有する。
【0040】
本実施形態に係る広ラメラ相56は、ラメラ幅が特定ラメラ幅以上であり、好ましくは特定ラメラ幅の2倍以上であり、より好ましくは特定ラメラ幅の5倍以上である。
【0041】
本実施形態では、特定ラメラ幅は好ましくは20μm以上であり、より好ましくは40μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。
【0042】
広ラメラ相56は75μm×20μmの仮想長方形60を全て含むことができる大きさであることが好ましく、200μm×150μmの仮想長方形60を全て含むことができる大きさであることがより好ましい。
【0043】
本実施形態に係る狭ラメラ相58は、ラメラ幅が特定ラメラ幅の(1/2)以下であり、好ましくは特定ラメラ幅の(1/3)以下であり、より好ましくは特定ラメラ幅の1/4以下である。
【0044】
本実施形態に係る蛍光発現相54は、その一部に酸化物相52を含んでいてもよい。また、広ラメラ相56および狭ラメラ相58が円相当径で10μm以下の微細な酸化物相52を含む場合、広ラメラ相56および狭ラメラ相58の各種の測定に関しては、この微細な酸化物相52は無視して測定する。すなわち、この微細な酸化物相52も広ラメラ相56または狭ラメラ相58の一部として測定する。
【0045】
本実施形態に係る蛍光発現相52は、広ラメラ相56のラメラ幅と狭ラメラ相58のラメラ幅との間のラメラ幅を有するラメラ相を有していてもよい。
【0046】
本実施形態に係る結晶体4は、
図3に示すように、所定範囲の断面視野において、少なくとも2つ以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上の狭ラメラ相58と、少なくとも1つ以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上の広ラメラ相56とが近接して混在する混在領域62が観察される。
【0047】
「近接して混在する」とは、たとえば広ラメラ相56と狭ラメラ相58との距離および一の広ラメラ相56と他の広ラメラ相56との距離がそれぞれ1μm以下の位置関係となっている状態をいう。
【0048】
混在領域62は所定範囲の断面視野において少なくとも1箇所以上観察される。
【0049】
混在領域62の定義は特に限定されないが、
図4に示すように、それぞれの広ラメラ相56について、直径が250μmの仮想円64を、広ラメラ相56が、その面積で80%以上含むように、より好ましくは90%以上含むように、可能な限り多数描いたときに、これらの仮想円64の集合体の範囲として定義されてもよい。なお、それぞれの広ラメラ相56について、直径が250μmの仮想円64を、広ラメラ相56が、その面積で80%以上含むように、可能な限り多数描いたときに、これらの仮想円64の集合体の範囲として定義される混在領域を「特定混在領域」とする。
【0050】
図4では、仮想円64は、3つしか描いていないが、仮想円64は無数に描くことができ、仮想円64の集合体としての混在領域62は一義的に決定される。
【0051】
本実施形態では、所定範囲の断面視野において、混在領域62の面積の合計の割合が1~40%であることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、所定範囲の断面視野において、広ラメラ相56の面積の合計の割合が15~35%であることが好ましい。
【0053】
<
結晶体の製造方法>
本実施形態に係る結晶体104は、μ-PD法(マイクロ引き下げ法)により製造されることができる。
図6に本実施形態の結晶製造装置2を示す。μ-PD法は、試料を入れた坩堝4を直接的または間接的に加熱することにより坩堝4内に対象物質の融液を得て、坩堝4の下方に設置した種結晶14を坩堝4下端の開口部へ接触させ、そこで固液界面を形成しつつ種結晶14を引き下げることにより結晶を成長させる溶融凝固法である。
【0054】
本実施形態の結晶製造装置2は、坩堝4と、耐火炉6とを有する。耐火炉6は、坩堝4の周りを二重に覆っている。耐火炉6には、坩堝4からの融液の引き下げ状態を観察するための観察窓20が備えられている。
【0055】
耐火炉6は、さらに外ケーシング8により覆われており、外ケーシング8の外周には、坩堝4の全体を加熱するための主ヒータ10が設置してある。本実施形態では、外ケーシング8は、たとえば石英管で形成してあり、主ヒータ10としては、誘導加熱コイル(加熱用高周波コイル)10を用いている。
【0056】
坩堝4の下方には、種結晶保持治具12により保持された種結晶14が配置される。種結晶14としては、特に限定されないが、製造される結晶と同一または同種類の結晶を用いることができる。たとえば製造される結晶が酸化アルミニウムとセリウム(Ce)ドープのYAGの共晶であれば、種結晶14としてはYAG単結晶またはサファイアなどが用いられる。
【0057】
図6および
図7に示すように、坩堝4の下端外周には、筒状のアフターヒータ16が設置されている。アフターヒータ16は、耐火炉6の観察窓20と同位置に観察窓22が形成してある。アフターヒータ16は、坩堝4に連結して用いられ、筒状のアフターヒータ16の内部空間に、坩堝4のダイ部34のダイ流出口38が位置するように配置され、ダイ部34とダイ流出口38から引き出される融液とを加熱可能になっている。アフターヒータ16は、たとえば坩堝4と同様(同一である必要はない)な材質などで構成され、坩堝4と同様に主ヒータ10によりアフターヒータ16が誘導加熱されることで、アフターヒータ16の外表面から輻射熱が発生し、アフターヒータ16の内部を加熱可能になっている。
【0058】
なお、図示しないが、結晶製造装置2には、耐火炉6の内部を減圧する減圧手段、減圧をモニターする圧力測定手段、耐火炉6の温度を測定する温度測定手段および耐火炉6の内部に不活性ガスGを供給するガス供給手段が設けられている。
【0059】
結晶の融点が高いなどの理由から、坩堝4の材質はイリジウム(Ir)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、または、これらの合金であることが好ましい。また、坩堝4はカーボン(C)製であってもよい。また、坩堝4の材質の酸化による結晶への異物混入を防止するために、坩堝4の材質としては、Irを用いることがより好ましい。
【0060】
なお、1500℃以下の融点の物質を対象とする場合は、坩堝4の材質としてPtを使用することが可能である。また、坩堝4の材質としてPtを使用する場合には、大気中での結晶育成(結晶成長)が可能である。1500℃を超える高融点物質を対象とする場合は、坩堝4の材質として、Ir等を用いるため、結晶育成はアルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。耐火炉6の材質は特に限定されないが、保温性や使用温度、結晶への不純物混入防止の観点からアルミナであることが好ましい。
【0061】
次に、本実施形態の結晶製造装置2に用いる坩堝4について説明する。
図7に示すように、本実施形態に係る坩堝4は、結晶の原料となる融液30を溜める融液貯留部24と、結晶の形状を制御するダイ部34とを有し、これらは一体的に形成してある。なお、坩堝4が大型の場合には、融液貯留部24の長手方向の途中で複数の部材を接合して坩堝4を構成してもよい。
【0062】
本実施形態では、坩堝4は、μ-PD法に用いられ、ダイ部34が融液貯留部24の鉛直方向の下側に位置し、融液貯留部24に貯留してある融液30は、ダイ部34の下端面42に形成してあるダイ流出口38から、種結晶14により鉛直方向Zの下側に引き出されるようになっている。
【0063】
融液貯留部24は、筒状の側壁26と、側壁26に連続して形成してある底壁28とで構成される。側壁26の内面と底壁28の内面とで、一定量の融液30を融液貯留部24に貯留可能になっている。底壁28の略中央部には、貯留部流出口32が形成してある。貯留部流出口32は、ダイ部34に形成してあるダイ流路36に連通してある。ダイ流路36については後述する。
【0064】
底壁28の内面は、下方に向けて内径が小さくなる逆テーパ状の傾斜面となっており、融液貯留部24内の融液30が、貯留部流出口32に向けて流れ易くなっている。底壁28の外側面は、側壁26の外側面と面一となっていることが好ましく、さらに、アフターヒータ16の外側面とも面一となっていることが好ましい。底壁28の下面28aは、融液30の流れ方向(引出方向または引き下げ方向とも言う)Zに略垂直な平面となっており、その外周部にアフターヒータ16が連結される。
【0065】
底壁28の下面28aの略中央部に、ダイ部34の少なくとも一部が下方に突出するように形成してある。具体的には、ダイ部34の下端面42は、底壁28の下面28aから、所定距離で突出している。ダイ部34の下端面42の略中央部に形成してあるダイ流出口38と、底壁28の略中央部に形成してある貯留部流出口32とは、ダイ部34に形成してあるダイ流路36により連絡してある。
【0066】
図8に示すように、ダイ部34の下端面42では、ダイ流出口38の周りには、引出方向Zに実質的に垂直で平坦な端周面42aが形成してある。ダイ部34の下端面42の外形とダイ流出口38の外形との間に、端周面42aが形成される。
【0067】
得られる結晶体104の横断面(引下方向Zに垂直な断面)形状は、ダイ部34の下端面42の外形に合わせて形成される。すなわち、ダイ部34の下端面42の外形が矩形であれば、得られる結晶体104の横断面形状も矩形となる。
【0068】
本実施形態では、ダイ部34の下端面42の外形が、得られる結晶体104の横断面(引下方向Zに垂直な断面)形状に合わせて矩形であり、ダイ流出口38の形状が円形であるが、これに限定されない。たとえばダイ部34の下端面42の外形は、得られる結晶体104の断面形状に合わせて円形、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能であり、また、ダイ流出口38の断面形状も、円形に限らず、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能である。また、ダイ流路36の断面形状も、円形に限らず、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能である。
【0069】
次に、本実施形態の結晶製造装置2を用いる結晶体104の製造方法について説明する。本実施形態の結晶製造装置2では、まず、炉内を不活性ガスGで置換する。不活性ガスGの種類は特に限定されないが、結晶体104の酸化を防げることが好ましく、たとえば窒素(N2)、アルゴン(Ar)または水素(H2)などである。
【0070】
次に不活性ガスGを10~100ml/minで流入させながら主ヒータ10で坩堝4を加熱し、原料を溶融して融液を得る。坩堝4の融液貯留部24に、得ようとする結晶体の原料を入れ、主ヒータ10を起動させ融液貯留部24を加熱する。融液貯留部24が加熱されることで原料は融液貯留部24内で溶融し融液30となり、ダイ部34の貯留部流出口32からダイ流路36に流れる。融液30はダイ流出口38で種結晶14の上端に接触する。
【0071】
その前後で、アフターヒータ16も起動され、ダイ部34付近を加熱する。
【0072】
原料が十分溶融されると坩堝4下端のダイ流出口38から融液が滲み出し、ダイ部34の下端面42に濡れ広がる。一方、種結晶14を坩堝4下部から徐々に近づけ、坩堝4下端のダイ流出口38付近に種結晶14を接触させて、種結晶14を下降させ、結晶育成を開始させる。
【0073】
結晶育成速度は固液界面の様子をCCDカメラ、またはサーモカメラで観察しながらマニュアルで温度と共にコントロールする。
【0074】
主ヒータ10の移動により、結晶の成長速度は選択可能である。
【0075】
坩堝4内の融液が出なくなるまで種結晶14を下降させ、坩堝4から種結晶14を離す。
【0076】
耐火炉6内部には、上記の結晶育成の間、加熱時と同条件で不活性ガスGを流入したままにする。
【0077】
本実施形態では、種結晶14の引き下げ方向(結晶育成方向)Zが、結晶体104の横方向(長手方向、Z0方向)に一致する。言い換えると、種結晶14の引き下げ方向Zが結晶体104を透過する青色光L1の光路の垂直方向と一致する。
【0078】
本実施形態では、種結晶14の引き下げ方向Zに垂直な断面(長手方向Z0断面)において、広ラメラ相56と狭ラメラ相58との所定の混在領域62を有する結晶体104が得られる。このような結晶体104を製造する方法は特に限定されず、たとえば、「結晶育成段階においてダイ部34の下端面42に温度ムラを生じさせる方法」、「結晶育成速度を遅くする方法」、または「ダイ流出口38の円相当径を制御する方法」、「ダイ流出口38の数と配置を制御する方法」およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0079】
まず、「結晶育成段階においてダイ部34の下端面42に温度ムラを生じさせる方法」について説明する。たとえば不活性ガスGの流量を好ましくは40~100ml/minより好ましくは50~70ml/minに制御する。このように不活性ガスGの流量が比較的速いことにより、坩堝4の周りが冷えやすくなり、ダイ部34の下端面42に温度ムラを生じさせ易くなる。その結果、混在領域62を有する結晶体104が得られ易くなる。
【0080】
また、不活性ガスGの流量を制御することにより、広ラメラ相56、狭ラメラ相58および広ラメラ相56と狭ラメラ相58の間のラメラ幅を有するラメラ相のラメラ幅を制御することができる。
【0081】
「結晶育成速度を遅くする方法」について説明する。たとえば、結晶育成速度を好ましくは0.01~0.20mm/min、より好ましくは0.10~0.15mm/minに制御する。結晶育成速度を比較的遅くすることにより、結晶性が良好になり、その結果、広ラメラ相56が生成され易くなり、混在領域62を有する結晶体4が得られ易くなる。なお、主ヒータ10の移動により、結晶の成長速度は選択可能である。
【0082】
「ダイ流出口38の円相当径を制御する方法」について説明する。たとえばダイ流出口38の円相当径は0.2~0.7mmであることが好ましく、0.4~0.5mmであることがより好ましい。混在領域62はダイ流出口38の下方に生成される傾向となる。ダイ流出口38の円相当径が上記の範囲であることにより、広ラメラ相56が生成され易くなり、混在領域62を有する結晶体104が得られ易くなる。
【0083】
なお、本実施形態では、ダイ流出口38は一つだけであるが、ダイ流出口38は2箇所以上であってもよく、好ましくは2~11箇所である。ダイ流出口38が上記の範囲内の場合には、混在領域62や特定混在領域が形成され易くなる傾向となる。
【0084】
本実施形態に係る結晶体104は、μ-PD法により生成されることにより、従来のCZ法(Czochralski Method)により生成される結晶体に比べて、広ラメラ相56が得られ易く、混在領域62を有する結晶体104が得られ易い。このため、本実施形態に係る結晶体104はμ-PD法により生成されることが好ましい。
【0085】
本実施形態に係る結晶体104は、所定範囲の断面視野において、広ラメラ相56と狭ラメラ相58との所定の混在領域62を有する。これにより、内部量子収率を高くすることができることから蛍光量が高くなる。広ラメラ相56のようにラメラ幅が大きくラメラ相自体の面積も大きいということは安定して結晶成長しており結晶性が良好であると言える。このため、本実施形態に係る結晶体104は一般的な共晶体蛍光体に比べて結晶性が良好であることから内部量子収率が高い。したがって、本実施形態に係る結晶体104は蛍光特性の良好な共晶体蛍光体となる。
【0086】
また、本実施形態に係る結晶体104は、混色性が良好であり、なおかつ、熱伝導率が高いという効果も得ることができる。
【0087】
本実施形態に係る結晶体104は、酸化物相52と、蛍光特性を発現する蛍光発現相54と、を有し、蛍光発現相54は、所定範囲の断面視野においてラメラ構造のように観察される。このため、励起光である青色光L1が透過しにくいため青色光L1と黄色光とが混ざり易い。したがって、本実施形態に係る結晶体104は混色性が良好となる。
【0088】
なお、混色性とは、結晶体の所定の範囲を線分析した際のCIEν値の標準偏差で示され、CIEν値の標準偏差が低いほど、混色性が良好であると判断される。
【0089】
さらに、本実施形態に係る結晶体104の混在領域62内では、青色光L1の散乱が起こり易いことから、励起経路が多い。このため、蛍光特性が向上している。
【0090】
さらに、本実施形態に係る結晶体104はAl2O3相などの酸化物相52が存在するため、全体としての熱伝導率が高く、その結果、温度消光が改善されるという利点もある。なお、温度消光とは、青色光L1(励起光)により蛍光体が熱を持つことで、蛍光特性が下がる現象である。
【0091】
[
第2実施形態]
本実施形態では、
図10に示す広ラメラ相56の外周部56aの付活元素(元素β)の濃度が中心部56cの付活元素の濃度に比べて高い。すなわち、広ラメラ相56の外周部56aは付活元素の偏析を有する。
【0092】
広ラメラ相56の外周部56aとは、たとえば広ラメラ相56の輪郭56bから広ラメラ相56の中心に向かって10μmまでの範囲である。本実施形態では広ラメラ相56の外周部56a以外の領域を中心部56cとする。言い換えると、広ラメラ相56の外周部56aよりも内側の領域を中心部56cとする。
【0093】
図11に、広ラメラ相56の略中心を通る直線Lに沿って付活元素の濃度を点分析した結果のグラフに示す。
図11に示すグラフのX軸は直線Lの長さを示しており、Y軸は付活元素の濃度を示している。P1およびP4は直線L上の広ラメラ相56の輪郭56bに当たる点であり、P2およびP3は直線L上の外周部56aと中心部56cの境界に当たる点である。
【0094】
図11に示すように、広ラメラ相56の付活元素の濃度の最大値Cmaxは外周部56aで観測される。また、広ラメラ相56の付活元素の濃度の最小値Cminは中心部56cで観測される。本実施形態では、Cminに対するCmaxの比(Cmax/Cmin)が1.1以上であることが好ましく、4.6以上であることがより好ましい。
【0095】
本実施形態では、広ラメラ相56の外周部56aの付活元素の濃度が中心部56cの付活元素の濃度に比べて高いことでより高い内部量子収率を示すことができると考えられる。その理由は下記の通りであると考えられる。
【0096】
蛍光変換効率と付活元素の濃度とは比例する。また、
図12に示すように、広ラメラ相56に照射された青色光L1は、多くの場合が最初に付活元素の濃度が高い外周部56aに照射される。このため、青色光L1は外周部56aで集中的に、なおかつ確実に蛍光変換され易い。このため、青色光L1の蛍光変換の頻度を高めることができ、内部量子収率の向上を図ることができる。
【0097】
広ラメラ相56では中心付近から結晶成長すると考えられる。また、結晶成長の初期段階では添加物である付活元素は広ラメラ相56に入り込みにくい。言い換えると、付活元素を融液側に排出しながら広ラメラ相56が成長する。このため、広ラメラ相56の中心部56cでは付活元素の濃度が低くなる傾向となる。徐々に結晶が成長するにつれて、結晶化していない融液中の付活元素の濃度が高くなることにより、付活元素が広ラメラ相56に入り込むようになる。すなわち、広ラメラ相56の外周部56aでは中心部56cに比べて付活元素の濃度が高くなる傾向となる。
【0098】
本実施形態に係る結晶体104では、混在領域62が形成されている。混在領域62は安定して結晶成長した結果、結晶性が良好な領域である。すなわち、本実施形態では、結晶性が良好になるように、たとえば結晶育成速度を遅くするなどして結晶体104を製造している。したがって、本実施形態では、付活元素が広ラメラ相56の中心部56cに、より入り込みにくいと考えられる。このため、混在領域62を構成する広ラメラ相56では、付活元素の濃度分布がより確実に生じ易い。具体的には、混在領域62を構成する広ラメラ相56では、外周部56aの付活元素の濃度が高く、中心部56cの付活元素の濃度が低くなる結果、Cmax/Cminが1以上の数値になる現象が顕著に確認できる。
【0099】
[第3実施形態]
本実施形態に係る結晶体104aは、以下に示す以外は、第1実施形態の結晶体104と同様である。
【0100】
本実施形態では、所定範囲の断面視野において、広ラメラ相56の面積の合計の割合が15~35%である。これにより、内部量子収率を高くすることができることから蛍光量が多くなる。
【0101】
また、本実施形態に係る結晶体104aは、混色性が良好であると共に、熱伝導率が高いという効果も得ることができる。
【0102】
本実施形態に係る結晶体104aは、
図5に示すように、特定混在領域が観察されなくてもよい。また、図示していないが、本実施形態に係る結晶体は混在領域が観察されなくてもよい。
【0103】
本実施形態に係る結晶体104aは、広ラメラ相56の面積の合計の割合が比較的高いことから、安定して結晶成長しており結晶性が良好であると言える。このため、本実施形態に係る結晶体104aは一般的な共晶体蛍光体に比べて結晶性が良好であることから内部量子収率が高い。
【0104】
また、本実施形態に係る結晶体104aも広ラメラ相56の外周部56aの付活元素の濃度が中心部56cの付活元素の濃度に比べて高くてもよい。この点も高い内部量子収率に寄与していると考えられる。
【0105】
本実施形態に係る結晶体104aの製造方法は特に限定されないが、たとえばダイ流出口38を12~20箇所にする方法が挙げられる。
【0106】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0107】
たとえば、上記では、結晶体104と青色発光素子110の間には空隙が備えられているが、結晶体104と青色発光素子110とは密着していてもよい。また、結晶体104と青色発光素子110との間には透明樹脂が備えられていてもよい。
【0108】
また、結晶体104,104aの製造方法としては、μ-PD法以外にも、EFG法により育成して得ることができる。なお、EFG法の説明は下記の通りである。
【0109】
まず、坩堝に原料を投入し加熱することで融解させる。融解した原料を坩堝に直立設置されたスリットダイ(結晶育成用ダイ)の開口部に導く。この開口部にて原料融液に種結晶を接触させた状態で種結晶を引き上げることにより、毛細管現象で融液を吸い上げて結晶を育成させる。結晶の断面形状はスリットダイの大きさで制御することができる。
【実施例0110】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0111】
(試料番号1~11)
図6に示す単結晶製造装置2を用いてμ-PD法により蛍光発現相54をCe:YAGとし、酸化物相52をAl
2O
3とする共晶体蛍光体を生成した。
【0112】
出発原料としてY2O3、Al2O3およびCeO2を準備し、内径16mmのIr製の坩堝4に投入した。出発原料の配合比はY2O3、Al2O3およびCeO2の合計を100モル部としたとき、Y2O3は19.95モル部であり、Al2O3は80モル部であり、CeO2は0.05モル部であった。
【0113】
次に、これらの原料を投入した坩堝4を耐火炉6に投入し、耐火炉6内の雰囲気をN2に置換した。耐火炉6内を常圧に維持したまま耐火炉6内に流入させるN2ガス(不活性ガスG)の流量を試料毎に表1に記載の通り変化させて結晶育成を行った。
【0114】
その後、坩堝4の加熱を開始しCe:YAGとAl2O3の共融点に達するまで1時間かけて徐々に加熱した。
【0115】
YAG単結晶を種結晶14として用い、種結晶14の先端を坩堝4下端のダイ流出口38に接触させて、ダイ流出口38から融液が出たことを確認したのち、種結晶14を降下させながら結晶育成を開始した。ここでの種結晶14の降下速度を「結晶育成速度」という。この際、試料毎に結晶育成速度を表1に記載の通り変化させて結晶育成を行った。
【0116】
その結果、直径10mm、長さ40mmの柱状のCe:YAGとAl2O3の共晶体蛍光体が得られた。ここで、「長さ」は長手方向の長さZ0であり、長手方向は引き出し方向Zに対応している。
【0117】
なお、X線回折法(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)により少なくともCe:YAG相およびAl2O3相が確認できる場合は、共晶体蛍光体であると判断した。この方法により、試料番号1~11は共晶体蛍光体であることを確認した。
【0118】
<断面観察>
得られた柱状の共晶体蛍光体の長手方向の長さZ0が1mmになるように断面を得た。得られた断面について、500μm×750μmの視野において、「混在領域の有無」、「広ラメラ相の平均ラメラ幅」、「狭ラメラ相の平均ラメラ幅」、「広ラメラ相が75μm×20μmの仮想長方形を含むか否か」、「特定混在領域の有無」、「特定混在領域の合計面積/共晶体の面積」および「広ラメラ相の合計面積/共晶体の面積」について調査した。結果を表1に示す。
【0119】
なお、少なくとも2つ以上の狭ラメラ相と、少なくとも1つ以上の広ラメラ相とが近接して混在している箇所を混在領域と判断した。「近接して混在する」とは、広ラメラ相と狭ラメラ相との距離および一の広ラメラ相と他の広ラメラ相との距離がそれぞれ1μm以下の位置関係となっている状態とした。
【0120】
試料番号1では、いずれのラメラ相もほぼ同じ大きさであり、広ラメラ相と狭ラメラ相との区別ができなかったため、表1の試料番号1の「広ラメラ相の合計面積/共晶体の面積」は0%とした。
【0121】
<内部量子収率>
得られた柱状の共晶体蛍光体をX0×Y0×Z0=2.5mm×2.5mm×2.0mmのサイズに切り出した測定用サンプルを得た。測定用サンプルについて、F-7000形分光蛍光光度計(日立ハイテク株式会社製)を用いて、内部量子収率を下記の条件で測定した。
内部量子収率
雰囲気温度:25℃
測定モード:蛍光スペクトル
励起波長:460nm
ホトマル電圧:400V
なお、励起光を引き出し方向Zに平行な方向から照射して測定した。すなわち、励起光をX0-Y0平面に垂直な方向から照射して測定した。また励起光の照射面積は測定用サンプル面に対して十分小さくした。結果を表1に示す。
【0122】
<
混色性>
得られた柱状の共晶体蛍光体の長手方向の長さZ0が1mmになるように断面を得た。共晶体蛍光体(結晶体)104の長手方向の長さZ0に平行な方向から
図9に示すように青色光L1を照射した。蛍光発現相を照射した青色光L1は蛍光を発現させて、青色光L1と蛍光により白色光L2を発する。また、一部の青色光L1は蛍光発現相を照射せずに共晶体蛍光体104をそのまま透過する。このため、白色光L2はハーフミラー202を透過させてCCDカメラ204で受光し、共晶体蛍光体104の蛍光発現相を照射せずに透過した青色光L1はハーフミラー202で反射させてCCDカメラ204で受光しないようにした。
【0123】
上記の方法により、共晶体蛍光体104をCCDカメラ204で撮像し、共晶体蛍光体104の断面の重心を通る線分において、1μmの間隔で線分析し、色味をCIEν値で数値化し、標準偏差を求めた。表1において、標準偏差が0.01未満の場合は「A」とし、標準偏差が0.01以上0.1未満の場合は「B」とし、標準偏差が0.1以上の場合は「C」と示している。
【0124】
<Cmax、CminおよびCmax/Cmin>
上記の断面観察で得た断面中の10個の広ラメラ相56について第2実施形態に記載の方法によりCmaxおよびCminをそれぞれ測定した。すなわち、Ceの濃度に基づき、CmaxおよびCminを測定した。測定にはLA-ICPを用いた。測定スポットはφ10μm程度であった。
【0125】
得られたCmaxから平均値を算出した。また、得られたCminから平均値を算出した。Cmaxの平均値およびCminの平均値からCmax/Cminを算出した。結果を表1に示す。なお、表1には「Cmax」および「Cmin」と記載しているが、それぞれ「Cmaxの平均値」および「Cminの平均値」の意味である。
【0126】
【0127】
表1より、混在領域を有する場合(試料番号2~8)は混在領域を有していない場合(試料番号1)に比べて内部量子収率が高いことが確認できた。
【0128】
表1より、混在領域を有しておらず「広ラメラ相の合計面積/共晶体の面積」が15~35%の場合(試料番号9~11)は、混在領域を有しておらず「広ラメラ相の合計面積/共晶体の面積」が0%の場合(試料番号1)に比べて内部量子収率が高いことが確認できた。
【0129】
表1より、「Cmax/Cmin」が1.1以上の場合(試料番号2~8,10および11)は「Cmax/Cmin」が1.1未満の場合(試料番号1および9)に比べて内部量子収率が高く、「Cmax/Cmin」が4.6以上の場合(試料番号7,8および11)は内部量子収率がより高いことが確認できた。