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特開2022-118059光学フィルター及び光学フィルターを用いた固体撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118059
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】光学フィルター及び光学フィルターを用いた固体撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20220804BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220804BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220804BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B5/22
H01L27/146 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092978
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2018072945の分割
【原出願日】2018-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2017075125
(32)【優先日】2017-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岸田 寛之
(57)【要約】
【課題】従来の近赤外線カットフィルター等の光学フィルターが有していた欠点を解決し、70%以上の可視波長領域の透過特性、近赤外波長領域におけるOD値2以上の遮蔽性に優れ、空気中において、可視光波長領域の赤色青色に加え、波長500nm付近の緑色においても入射角度依存性が少なく、ゴーストの少ない、安価で薄く、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルター及び該光学フィルターを用いた装置を提供する。
【解決手段】固体撮像装置用光学フィルターは、透明性を有する基板を有し、前記基板の少なくとも一方の面に緩衝層を有する誘電体多層膜を有する光学フィルターであって、空気中の500nmの無偏光光線の0°~40°入射の実測透過率がいずれも70%以上であり、近赤外波長領域の0°入射の無偏光光線のOD値がいずれも2以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性を有する基板を有し、前記基板の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有する光学フィルターであって、
前記誘電体多層膜は、緩衝層部と、前記緩衝層部を挟む第1の層と第2の層とを含み、
前記第1の層及び前記第2の層は、屈折率1.9以上2.8以下の高屈折率層であり、60nmより厚い物理膜厚を有し、
前記緩衝層部は、緩衝層の第1のセット、緩衝層の第2のセット、及び前記緩衝層の第1のセットと前記緩衝層の第2のセットとの間の第3の層を含み、
前記緩衝層の第1のセットは、第1の低屈折率層及び第1の高屈折率層から成り、
前記緩衝層の第2のセットは、第2の低屈折率層及び第2の高屈折率層から成り、
前記第1の低屈折率層及び前記第2の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第1の高屈折率層及び前記第2の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第3の層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第1のセットの前記第1の高屈折率層が前記第3の層に隣接し、
前記緩衝層の第2のセットの前記第2の高屈折率層が前記第3の層に隣接し、
前記緩衝部は、前記基板から4層以上外側の層に設けられ、前記緩衝層の第1のセットが前記緩衝層の第2のセットより前記基板側に配置され、
空気中における波長500nmの無偏光光線の入射角度0°~40°の範囲における実測透過率が70%以上であり、かつ、
空気中における波長735nm~1100nmの範囲における無偏光光線の0°入射のOD値が2以上であることを特徴とする光学フィルター。
【請求項2】
前記緩衝層部は、緩衝層の第3のセットと、第4の層と、をさらに含み、
前記緩衝層の第3のセットは、第3の低屈折率層及び第3の高屈折率層から成り、
前記第3の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第3の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第4の層は、屈折率が1.9以上2.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第2のセットの前記第2の低屈折率層が前記第4の層に隣接し、
前記緩衝層の第3のセットの前記第3の低屈折率層が前記第4の層に隣接する、ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項3】
前記緩衝層部は、緩衝層の第4のセットと、第5の層と、をさらに含み、
前記緩衝層の第4のセットは、第4の低屈折率層及び第4の高屈折率層から成り、
前記第4の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第4の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下であり、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第5の層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第3のセットの前記第3の高屈折率層が前記第5の層に隣接し、
前記緩衝層の第4のセットの前記第4の高屈折率層が前記第5の層に隣接することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測反射率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項5】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測透過率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項6】
前記緩衝層部は、基板から16層以内に存在することを特徴とする請求項5に記載の光学フィルター。
【請求項7】
前記誘電体多層膜の層数は、16層~60層であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項8】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した450nm~630nmの無偏光光線の空気中における0°入射の実測透過率の平均が75%以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項9】
前記誘電体多層膜は、L層(Lは1より大きい自然数)からなり、
波長500nmにおいて、以下の式で表される空気中の等価アドミタンスYEと、真空の光学アドミタンスY0との差の絶対値が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学フィルター。
ここで、上記空気中の等価アドミタンスYEは以下の式で表す。
【数7】
(7)
ここで、上記式中のB、Cは以下の式で表す。
【数6】
(6)
ここで、上記式中のnは基板の屈折率である。
【数4】
(4)
【数5】
(5)
ここで、上記式中のM1は、前記誘電体多層膜に光が入射する1番目の層(入射側最外層)の特性マトリクスであり、上記式中のn1は、上記1番目の層の屈折率であり、上記式中のd1は、上記1番目の層の物理膜厚である。上記式中のMjは、上記1番目の層から前記基板に向かってj番目の層の特性マトリクスである。上記式中のnjは、上記j番目の層の屈折率であり、上記式中のdjは、上記j番目の層の物理膜厚である。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光学フィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルターに関し、さらに特定すると、固体撮像装置用光学フィルター及びこの光学フィルターを用いた固体撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などの固体撮像装置には、カラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されているが、これら固体撮像素子は、その受光部において人間の目では感知できない近赤外波長領域に感度を有するシリコンフォトダイオードが使用されている。これらの固体撮像素子は、主に赤色、青色、緑色の3種の画素から構成され、個々の画素で検出される赤色、青色、緑色の強度を、人間の目で見て自然な色合いにするための視感度補正を行うことが必要であり、特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカット(遮断)する光学フィルターを用いることが多い。固体撮像素子に用いる光学フィルターでは、特に例えば波長が735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域の光線のカット性能が重要であり、近年のシリコンフォトダイオードの感度の向上に伴い、要求されるカット性能は、近赤外波長領域の平均透過率5%以下でも不十分となっている。さまざまな光源において十分なカット性能を有するためには、光学濃度(光学濃度 Optical Density:OD)が近赤外波長領域のいずれにおいても2以上であることが求められている。光学フィルターには、従来からリン酸塩ガラス、フツリン酸塩ガラス、セシウムタングステン酸、フタロシアニン、ジイモニウム色素などの吸収剤が用いられているが、これらの吸収剤を、近赤外波長領域におけるOD値2以上を達成する濃度で用いると、可視波長領域の透過率が低下するという問題がある、あるいは、光学フィルターの薄型化が困難であるという問題があった。
【0003】
近赤外波長領域におけるOD値2以上の達成と可視波長領域における高い透過率の実現及び薄型化を両立した光学フィルターとして、誘電体多層膜を設けたものが知られている。しかし、近年のデジタルカメラやデジタルビデオ等の小型化、薄型化に伴い、デジタルカメラやデジタルビデオ等の広角化の進行により、光学フィルターに設けた誘電体多層膜の入射角度依存性が問題となっている。例えば、誘電体多層膜を設けた光学フィルターの光学スペクトルにおいて、光透過阻止帯から光透過帯への立ち上がり位置が光の入射角度によってずれる(シフトする)ことにより、画質に影響する帯域(光透過帯)の光量が変化する。また、光学スペクトルは、垂直入射光から斜入射光への変化に伴い、短波長側へシフトする。
【0004】
このようなシフトを改善するために、従来から各種方法で製造された誘電体多層膜と吸収剤とを組み合せた光学フィルターが知られており、例えば、基板として透明樹脂を用い、該透明樹脂中に近赤外線吸収色素を含有させた近赤外線カットフィルター等の光学フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、本出願人は特定の化学構造を有するスクアリリウム系化合物を含有する層を有する光学フィルターを提案している(特許文献2参照)。このような光学フィルターを使用した場合、近赤外波長領域における光学特性の入射角度依存性を低減することができ、既存の光学フィルターと比較して赤色の視野角度を改善することが可能となる。
【0005】
また、基板に近紫外線吸収色素を含有させた近赤外線カットフィルター等の光学フィルターでは、青や紫色の入射角依存性を改善することが可能となる(例えば特許文献3~5参照)。
【0006】
しかしながら、これらの光学フィルターでは、近赤外線に対する赤色の入射角依存性や青色の入射角依存性は低減されているが、誘電体多層膜に高角度で入射した際、誘電体多層膜の反射領域のおおむね半分の波長の透過領域である緑色の可視光の透過率の低下による入射角度依存性を十分に改良することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-200113号公報
【特許文献2】特開2012-8532号公報
【特許文献3】特開2013-190553号公報
【特許文献4】国際公開第2014/002864号
【特許文献5】国際公開第2015/099060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来の近赤外線カットフィルター等の光学フィルターに対し、可視波長領域における70%以上の透過特性、近赤外波長領域におけるOD値2以上の遮蔽性に優れ、空気中において、可視光波長領域の赤色及び青色のみならず、波長500nm付近の緑色においても入射角度依存性が少なく、ゴーストの少ない、安価で薄く、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルター及び該光学フィルターを用いた固体撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、少なくとも一面に誘電体多層膜を設け、以下の(A)及び(B)を満たす光学フィルターによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(A)空気中における波長500nmの無偏光光線の入射角度0°~40°の範囲における実測透過率が70%以上である。
(B)空気中における波長735nm~1100nmの範囲における無偏光光線の0°入射のOD値の最小値が2以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視波長領域の70%以上の優れた透過特性、近赤外波長領域における優れた遮蔽性、空気中において、可視光波長領域の赤色及び青色に加え、とくに波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、安価で薄く、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルター及び該光学フィルターを用いた装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の光学フィルターの断面概略模式図である。
図2】本発明の光学フィルター固体撮像装置の断面概略図である。
図3図3(a)は、本発明の光学フィルターの透過率を測定する方法を示す概略図である。図3(b)は、本発明の光学フィルターの反射率を測定する方法を示す概略図である。
図4】本発明の実施例1における光学フィルターが有する誘電体多層膜である膜設計1の無偏光光線の等価アドミタンスの入射角度0°~40°変更時の軌跡である。
図5】本発明の実施例1における光学フィルターが有する誘電体多層膜である膜設計1の無偏光光線の等価アドミタンスと真空のアドミタンスとの差の入射角度0°~40°の軌跡である。図5(a)は0°~40°軌跡の全体図であり、図5(b)は0°~20°の軌跡の拡大図である。
図6図6(a)、(b)は、本発明の実施例1における光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の透過率である。図6(c)は、本発明の実施例1における光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の膜設計1の誘電体多層膜から測定した反射率である。
図7】本発明の実施例3における光学フィルターが有する誘電体多層膜である膜設計2の入射角度変更時の無偏光光線の等価アドミタンスの軌跡である。
図8】本発明の実施例3における光学フィルターが有する誘電体多層膜である膜設計2の無偏光光線の等価アドミタンスと真空のアドミタンスとの差の入射角度0°~40°の軌跡である。
図9図9(a)は、本発明の実施例3における光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の透過率である。図9(b)は、本発明の実施例3における光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の膜設計2の誘電体多層膜から測定した反射率である。
図10】従来の光学フィルターである比較例1が有する誘電体多層膜である膜設計3の入射角度変更時の無偏光光線の等価アドミタンスの軌跡である。
図11】従来の光学フィルターである比較例1が有する誘電体多層膜である膜設計3の入射角度変更時の無偏光光線の等価アドミタンスと真空のアドミタンスの差の入射角度0°~40°の軌跡である。図11(a)は0°~40°軌跡の全体図であり、図11(b)は0°~20°の軌跡の拡大図である。
図12図12(a)は、従来の光学フィルターである比較例1の光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の透過率である。図12(b)は、従来の光学フィルターである比較例1の光学フィルターの空気中における500nmの入射角度変更時の無偏光光線の膜設計3の誘電体多層膜から測定した反射率である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明の態様の例を以下に示す。図面において示されている実施形態は実質的に説明及び例示のためであって、特許請求の範囲に記載される発明を限定するものではない。例示された実施形態に関する以下の詳細な説明は、以下の図面と関連して読むことによって理解されるであろう。なお、これらの図面において、同様の構造は同様の参照番号によって示されている。
【0014】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明するが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に何ら限定されない。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、厚みの比率等は実際のものとは異なる場合があることに留意されたい。さらに、以下の説明において、同一もしくは略同一の機能及び構成を有する構成用途については、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は光学フィルターの断面概略模式図である。図1に示す光学フィルター10は、透明性を有する基板1と、基板1の少なくとも一方の面(光の入射側の面)に緩衝層(図1では、高屈折率層24及び低屈折率層25)を有する誘電体多層膜21とを有する。また、基板1の他方の面(光の出射側の面)に誘電体多層膜31を有してもよい。図1では、光学フィルター10の光の入射側に入射媒質11が存在し、光の出射側に出射媒質12が存在する。なお誘電体多層膜21及び31の構造は図1に示す構造に限定されない。誘電体多層膜21及び31の構造の詳細は後述する。
【0016】
[光学フィルターの特性]
本発明に係る光学フィルターは、以下の(A)及び(B)を満たす。
(A)空気中における波長500nmの無偏光光線の入射角度0°~40°の範囲における実測透過率が70%以上である。
(B)空気中における波長735nm~1100nmの範囲における無偏光光線の0°入
射のOD値が2以上である。
【0017】
本発明に係る光学フィルターは、好ましくは、以下の(D)を満たすことが好ましい。
(D)少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測反射率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有する。
【0018】
反射率の極小値を2回有することで500nmの入射角依存性が少なくなり、かかる光学フィルターを具備した撮像素子の緑色の入射角依存性が少なくなり良好である。より好ましくは3回極小値を有することが好ましい。
【0019】
本発明に係る光学フィルターは、さらに以下の(E)を満たすことが好ましい。
(E)少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測透過率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有する。
【0020】
透過率の極大値を2回有することで500nmの入射角依存性が少なくなり、かかる光学フィルターを具備した撮像素子の緑色の入射角依存性が少なくなり良好である。より好ましくは3回極大値を有することが好ましい。
【0021】
本発明の光学フィルターが有する誘電体多層膜は、さらに以下の(F)~(H)を満たす少なくとも一つの緩衝層を有することが好ましい。
(F)緩衝層は、屈折率1.0以上1.8以下の低屈折率層と、屈折率1.9以上2.8以下の高屈折率層とをそれぞれ1層以上有する。
(G)低屈折率層と高屈折率層との物理膜厚は、それぞれ60nm以下である。
(H)緩衝層は、基板から4層以上離れた層であり、かつ最外層以外の層に存在し、交互に積層される前記低屈折率層と前記高屈折率層とが連続して少なくとも2層以上積層される。
【0022】
緩衝層を有することで、上記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の実測反射率が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを容易にし、波長500nmの無偏光光線の実測透過率が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有することを容易にする。
【0023】
緩衝層は、基板から外側に向かって16層以内に存在することが好ましい。
【0024】
誘電体多層膜の層数は、16層~60層であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る光学フィルターは、以下の(I)を満たすことが好ましい。
(I)光学フィルターの少なくとも一方の面から入射した450nm~630nmの無偏光光線の空気中における0°入射の実測透過率の平均が75%以上である。
【0026】
光学フィルターは撮像素子に具備されることが好ましい。
【0027】
[基板]
基板1は、例えば支持基板としての機能を有する。基板1は、透明性を有しており、少なくとも可視波長領域の波長を有する光の透過性を有する。可視波長領域は、例えば400nm以上700nm未満の波長を含む領域であることが好ましく、可視波長領域の光が可視光である。基板が透明性を有するとは、いずれかの波長の光の透過率が50%を超えることである。
【0028】
基板としては、例えばケイ酸ガラス基板、ホウケイ酸ガラス基板、リン酸ガラス基板、フ
ツリン酸ガラス基板、プラスチック基板、及び樹脂フィルム基板のうち少なくとも一つを用いてもよい。好ましくはガラス転移温度が140℃以上の材料が好ましく、割れにくくするために樹脂フィルム基板を含むことがより好ましい。好ましくは500nmの波長の屈折率が1.4以上~1.7以下であることが好ましい。基板は、近赤外線吸収剤を含むことが好ましく、酸化セシウムタングステンや酸化銅(II)等の無機系近赤外線吸収剤、金ナノロッド等の表面プラズモンを利用した近赤外線吸収剤、シアニン色素やスクアリリウム色素などの有機系近赤外線吸収剤、金属ジチオール錯体、金属フタロシアニン錯体等の金属錯体系の近赤外線吸収剤のなかから選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。これらの近赤外線吸収剤を含むことで、赤色の入射角依存性を低減することができるほか、誘電体多層膜の積層数を低減することができる。これにより波長500nm近傍の可視光透過率の入射角依存性を低減することができる。基板は、近紫外線吸収剤を含むことが好ましく、この場合は青色の入射角依存性を低減することができる。
【0029】
基板としては、割れにくさや光吸収剤の添加の容易さ、機能や効果の付与の観点から、複数層からなるものが好ましい。付与する機能としては、導電性、帯電防止効果、付着異物防止効果、傷つき防止効果、防曇性、耐熱性向上効果、ガスバリア性、高弾性、傷消し効果、平坦性、粗面性、吸湿性、老化防止効果等が挙げられる。基板の層数は好ましくは2層~5層であり、6層以上では基板間の密着性の低下や製造コストの増加が懸念される。各層の屈折率は近いほど良く、各層の屈折率の差は0.3以下であることが好ましい。
【0030】
基板の総膜厚は好ましくは30μm以上200μm以下であり、この範囲であれば固体撮像装置の薄型化に有用である。より好ましくは40μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは34μm以上110μm以下である。この範囲であれば、総厚み6.5mm以下の薄型固体撮像装置にも好適に用いることができる。30μm未満の膜厚の場合、反りやすさ、あるいは割れやすさが懸念される。
【0031】
[誘電体多層膜]
本発明の光学フィルターは、透明性を有する基板の少なくとも一方の面に、例えば図1に示すように、基板1の入射側の面に設けられた高屈折率層(H)22と、この高屈折率層22に接して積層された低屈折率層(L)23とを交互に積層した多層の誘電体層からなる誘電体多層膜21を有する。
【0032】
上記誘電体多層膜21は、可視波長領域に光透過帯を有し、近赤外波長領域及び近紫外領域に遮蔽性能を有する光学特性を有する。近赤外波長領域は、例えば735nm以上1100nm未満の波長を含む領域であることが好ましく、波長720nm以上1100nm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは710nm以上1100nm以下であり、上記近赤外波長領域に遮蔽性能を有する光学特性を有すれば、人間の目に見えない近赤外線を十分に遮蔽することができる。また、近赤外波長領域の光が近赤外線である。近紫外波長領域は、例えば250nm以上400nm未満の波長を含む領域であることが好ましく、近紫外波長領域の光が近紫外線である。近赤外波長領域に遮蔽性能を有する光学特性を有することにより、例えば近赤外波長領域の遮蔽性能を近赤外線吸収剤のみで達成する場合に比べて、可視波長領域の光透過性の向上が容易となる。
【0033】
高屈折率層22は、波長500nmの屈折率をnHとすると、例えば2.0以上の屈折率
を有することが好ましい。高屈折率層22としては、例えば酸化チタン(TiO2)、酸
化タンタル(Ta25)、酸化ニオブ(Nb25)、又はこれらの複合酸化物を含む膜を用いてもよい。また、屈折率が2.0以上であれば、添加物を含有していてもよい。なお、nHが高いほうが、斜入射時の波長シフト量抑制、紫外側の光透過阻止帯の拡張等に有
利である。このため、上記3つの物質のなかでも、屈折率のより高い酸化チタン、酸化ニオブが高屈折率層としてより好適である。
【0034】
低屈折率層23は、波長500nmの屈折率をnLとすると、例えば波長500nmの波
長を有する光に対して1.7以下の屈折率を有することが好ましく、透明性を有する基板の最表層の屈折率より低いことがより好ましい。低屈折率層23としては、例えば、酸化シリコン(SiO2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、又はこれらの複合酸化物を含む膜を用いてもよい。また、nLが1.7以下あるいは、透明性を有する基板の最表層の屈
折率より低いものであれば、添加物を含有していてもよい。
【0035】
高屈折率層22及び低屈折率層23等の各誘電体層は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンアシスト真空蒸着法、CVD法を用いて形成される。特に、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンアシスト真空蒸着法を用いて誘電体層を形成することが好ましい。光透過帯は、CCDイメージセンサー、CMOSイメージセンサー等の固体撮像素子の受光に利用される波長帯域であり、誘電体層の厚さの精度が重要となる。スパッタリング法、真空蒸着法、イオンアシスト真空蒸着法は、誘電体層を形成する際の厚さの制御に優れる。このため、これらの方法を用いて誘電体層を形成することで、誘電体層の積層からなる誘電体多層膜を構成する各層の厚さの精度を高めることができ、所望の光学特性を有する誘電体多層膜が得られる。これらの方法のなかでも、成膜速度と膜厚制御とを両立する観点から、イオンアシスト真空蒸着法がより好ましい。
【0036】
誘電体多層膜は透明性を有する基板の一方の面のみならず、両面に設けても好適である。図1では、基板1の入射側の面のみならず、出射側の面にも、高屈折率層(H)32と、この高屈折率層32に接して積層された低屈折率層(L)33とを交互に積層した多層の誘電体層からなる誘電体多層膜31が設けられている。基板の両面に誘電体多層膜を設けた場合、基板両面の可視光領域の反射を低減することによる可視光透過率の向上が期待でき、また反りの低減に好適である。
【0037】
[誘電体多層膜の光学特性]
誘電体多層膜の光学特性は特性マトリクス(又は特性行列)により記述される。
【0038】
[特性マトリクス]
誘電体多層膜中の単層の特性マトリクス(又は特性行列)M1は次の式で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
【数2】
【0041】
ここでnは単層の屈折率、λは光の波長、dは単層の物理膜厚である。
【0042】
誘電体多層膜の層数がL層(Lは1より大きい自然数)である場合、L層膜全体の特性マトリクス(又は特性行列)Mは、各層の特性マトリクスの積により以下の式で与えられる。
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
ここでM1は単層の特性マトリクスと同様、光が入射する最初の膜(入射側最外層)の特
性マトリクスであり、Mjは光が入射する最初の膜を1番目とし、基板側に向かってj番
目に位置する層の特性マトリクスである。またnjは同様にj番目に位置する層の屈折率
であり、djは同様にj番目に位置する層の物理膜厚である。
【0047】
[誘電体多層膜の特性マトリクス]
基板を含めた特性マトリクス(又は特性行列)は以下の式で表される。
【0048】
【数6】
【0049】
ここでnmは基板の屈折率である。
【0050】
誘電体多層膜の等価アドミタンスYEは以下の式で表される。ここで、「等価アドミタン
ス」とは、誘電体多層膜を1つの層とみなした場合のアドミタンスをいう。
【0051】
【数7】
【0052】
誘電体多層膜の各波長の理論透過率Tは次の式で表される。
【0053】
【数8】
【0054】
ここでY0は入射媒質及び出射媒質の光学アドミタンス、Ymは基板の光学アドミタンスを表し、Re( )は実部、( )*は複素共役を表す。ここで、「光学アドミタンス」と
は、電場と磁場との振幅をつなぐ係数(磁場を電場で割った値。次元は屈折率と同じで、√(誘電率/透磁率)×屈折率)をいう。入射媒質が空気である場合、Y0は真空の光学
アドミタンスを用い、真空の屈折率1.0を用いる。ここでYmは基板の屈折率にて近似
される。
【0055】
光学フィルターの理論透過率は、これに基板中の吸収や基板界面の反射率を加味した内部透過率、また基板から光が出射する際の理論反射率が加味される。また両面に誘電体多層膜を有する場合、同様に出射側の誘電体多層膜の特性マトリクスが得られ、理論透過率が求められる。
【0056】
式中Y0は入射媒質の光学アドミタンスであることからわかるとおり、誘電体多層膜の透
過率は入射媒質に大きく依存する。そのため、誘電体多層膜の透過率は入射媒質を厳密に区別して見積もらなければならず、入射媒質が区別されずに混同された透過率結果と比較することはできない。
【0057】
光の出射側に設けたq層の誘電体多層膜のq層膜全体の特性マトリクス(又は特性行列)M´は、各層の特性マトリクスの積により以下の式で与えられる。
【0058】
【数9】
【0059】
【数10】
【0060】
【数11】
【0061】
ここでM1´は光が出射する最後の層(出射側最外層)であり、Mj´は光が出射する最後の層を1番目とし、基板側に向かって第j層目に位置する層であり、Mq´は基板に隣接
する層である。光の出射側に設けた誘電体多層膜の等価アドミタンスYE´は以下の式で
表される。
【0062】
【数12】
【0063】
透明性を有する基板の両面に誘電体多層膜を設けた光学フィルターの理論透過率Ttは以
下の式で表される。なお、両面に設けた誘電体多層膜間の多重反射は軽微なため割愛している。
【0064】
【数13】
【0065】
式中Y0は入射媒質及び出射媒質の光学アドミタンスであることからわかるとおり、光学
フィルターの理論透過率Ttは入射媒質に大きく依存する。そのため、光学フィルターの
理論透過率Ttは入射媒質を厳密に区別して見積もらなければならず、入射媒質が区別さ
れずに混同された結果と比較することはできない。
【0066】
入射媒質及び出射媒質が空気である場合、Y0に空気の屈折率1.0を代入することで、
理論透過率Ttを実測透過率とみなしてもよい。数式(3)~数式(13)により等価ア
ドミタンスを適切に設計することで、誘電体多層膜の実測透過率を制御可能なことがわかる。
【0067】
誘電体多層膜は、以下の(C)を満たすことが好ましい。
(C)波長500nmにおいて、以下の式で表される空気中の等価アドミタンスYEと、
真空の光学アドミタンスY0との差の絶対値が、入射角度0°~40°の範囲において少
なくとも2回極小値を有する。
【0068】
(C)を満たす誘電体多層膜であれば、上記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の実測反射率が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを容易にし、波長500nmの無偏光光線の実測透過率が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有することを容易にする。
【0069】
光の入射側に設けた誘電体多層膜の各波長の理論反射率Rは次の式で表される。
【0070】
【数14】
【0071】
式中Y0は入射媒質及び出射媒質の光学アドミタンスであることからわかるとおり、誘電
体多層膜の反射率Rは入射媒質に大きく依存する。そのため、誘電体多層膜の反射率Rは、入射媒質を厳密に区別して見積もらなければならず、入射媒質が区別されず混同された結果と比較することはできない。
【0072】
光の出射側に設けた誘電体多層膜の各波長の理論反射率R´は次の式で表される。
【0073】
【数15】
【0074】
式中Y0は入射媒質及び出射媒質の光学アドミタンスであることからわかるとおり、誘電
体多層膜の理論反射率R´は出射媒質に大きく依存する。そのため、誘電体多層膜の理論反射率R´は出射媒質を厳密に区別して見積もらなければならず、出射媒質が区別されず混同された結果と比較することはできない。
【0075】
透明性を有する基板の両面に誘電体多層膜を設けた光学フィルターの理論反射率Rtは以
下の式で表される。なお、両面に設けた誘電体多層膜間の多重反射は軽微なため割愛している。
【0076】
【数16】
【0077】
光学フィルターのもう一方の面(反対面)に入射された光の理論反射率Rt´は、上述式
のRとR´とを入れ替えることにより求められる。
【0078】
入射媒質及び出射媒質が空気である場合、Y0に真空の光学アドミタンス:屈折率1.0
を代入することで、理論反射率Rt´を実測反射率であるとみなしてもよい。また数式(
3)~数式(12)、数式(14)~数式(16)により、等価アドミタンスを適切に設計することで、誘電体多層膜の実測反射率を制御可能なことがわかる。
【0079】
光学フィルターに斜めに入射される光の場合、誘電体多層膜における光学特性は入射される光の偏光状態に大きく依存する。そのため、誘電体多層膜における光学特性は偏光状態を厳密に区別して見積もらなければならず、偏光状態が区別されずに混同された透過率や反射率の結果とは比較できない。S偏光の電磁放射であるTEモード、P偏光の電磁放射であるTMモードの場合、光学アドミタンスや特性マトリクス、屈折率は以下の式をそれぞれ代入する。
【0080】
すなわち入射媒質では光学アドミタンスは以下の式に代替される。
【0081】
【数17】
【0082】
すなわち誘電体多層膜の特性マトリクスは以下の式に代替される。
【0083】
【数18】
【0084】
【数19】
【0085】
すなわち基板では光学アドミタンスは以下の式に代替される。
【0086】
【数20】
【0087】
また、各層における屈折率と入射角とには、スネルの法則により以下の式が成り立つ。
【0088】
【数21】
【0089】
ここでn0は入射媒質11及び出射媒質12の屈折率、θ0は入射媒質11及び出射媒質12の入射角(図1では、入射光3及び出射光4と光学フィルターからの垂線2とがなす角)、θjは光が入射する最初の層を1番目とし、基板側に向かってj番目に位置する層に
おける入射角、θmは基板における入射角を表す。
【0090】
入射光3が無偏光光線の場合、TEモードとTMモードとの平均によって理論透過率、理論反射率を近似することができる。
【0091】
斜入射の場合に用いる式である数式(1)~数式(21)により、誘電体多層膜の反射帯域は、入射角度が高くなるにつれ短波長にシフトすることがわかる。
【0092】
ここで、とくに空気中において波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、可視光透過率特性、近赤外線遮蔽性に優れた光学フィルターを得るためには、誘電体多層膜の構造が重要となる。
【0093】
誘電体多層膜の各層は、基板から外側に向かって2層までの層、最外層、緩衝層、及び緩衝層部を除き、反射を行う波長の1/4波長光学厚さ(Quarter-wave Optical Thickness:QWOT)の積層である反射形成層であることが好ましい。QWOTとは、特定の波長を有する光(例えば900nmの波長を有する光)の波長の1/4に対する倍率によって表された光学厚さである。
【0094】
光学厚さとは、層の屈折率と物理膜厚との積で表される物理量である。ここで設定する特定の波長は反射を行う反射形成層は、700nm以上1200nm以下の設計に応じた任意の波長であることが好ましく、QWOTは0.75以上1.25以下となる物理膜厚、屈折率とすることが好ましい。
【0095】
基板から外側に向かって2層までの層の物理膜厚は、可視波長領域の広帯域に及ぶ反射を防止するため50nm以下であることが好ましく、最外層のQWOTは、可視波長領域の反射強度低下のため0.3以上0.74以下であることが好ましい。
【0096】
例えば上記誘電体多層膜の一つは、屈折率1.0~1.8の低屈折率層と屈折率2.0~2.8の高屈折率層とを有する。誘電体多層膜の波長500nmの等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の絶対値が、入射角度0°~40°の間に1回極小値を有す
るようにすることは、入射角度0°で最小となる多層膜設計の各膜厚に、入射角度1°~39°の間で極小となるように補正係数Aをかけることで得られる。極小とする入射角度をθとした場合、補正係数Aは一般に以下の式で与えられる。
【0097】
【数22】
【0098】
ここでnは層に入射する媒質の屈折率、n´は層の屈折率である。
【0099】
[緩衝層]
緩衝層とは、誘電体多層膜に含まれる、基板から外側に向かって3層までの層以外の層(基板から4層以上離れた層)であり、かつ最外層以外の層であって、連続した少なくとも2層の60nm以下の物理膜厚を有する層である。60nm以下の物理膜厚を有する層は、図1では、高屈折率層24及び低屈折率層25に相当する。図示しないが、60nm以下の物理膜厚を有する層は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されている限り、3層以上積層されてもよく、積層される層数は奇数でもよい。
【0100】
より好ましくは、緩衝層は、連続した2層の60nm以下の物理膜厚を有する緩衝層のセットを、少なくとも2セット含むことが好ましい。さらに好ましくは、連続した2層の60nm以下の物理膜厚の緩衝層のセットと、それに隣接する60nmより厚い物理膜厚の層と、さらにそれに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚である緩衝層のセットとの5層からなる緩衝層部を有することが好ましい。さらに好ましくは、連続した2層の60nm以下の物理膜厚の緩衝層のセットと、それに隣接する60nmより厚い物理膜厚の層と、それに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚である緩衝層のセットと、それに隣接する60nmより厚い物理膜厚の層と、それに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚の緩衝層のセットとからなる8層の緩衝層部を有することが好ましい。より好ましくは、連続した2層の60nm以下の物理膜厚の緩衝層のセットと、それに隣接する60nmより厚い物理膜厚の層と、それに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚である緩衝層のセットと、それに隣接する60nmより厚い物理膜厚の層と、それに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚の緩衝層のセットと、それに隣接する60nm以上の物理膜厚の層と、さらにそれに隣接する連続した2層の60nm以下の物理膜厚である緩衝層のセットとからなる11層の緩衝層部を有することが好ましい。これらの緩衝層や緩衝層部を有することで、誘電体多層膜の空気中の波長500nmの等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の絶対値が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有する構成の発現を容易にする。誘電体多層膜の空気中の波長500nmの等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の絶対値は、好ましくは入射角度0°~37°の間に少なくとも2回の極小値を有することが好ましく、より好ましくは、5°~35°の範囲において少なくとも2回極小値を有することが好ましい。さらに好ましくは、0°~35°の範囲において少なくとも3回極小値を有することが好ましい。上記範囲であれば、0°~40°の500nmの入射角依存性が良好となる。
【0101】
緩衝層を有する誘電体多層膜の等価アドミタンスを、横軸に実数(実部)、縦軸に虚数(虚部)を置いた際の無偏光光線の0°~40°の軌跡は、同一点を2度通る弧を描くことが好ましい。同一点を2度通る弧を描く設計を有する誘電多層膜を有する光学フィルターは、固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。基板から外側に向かって3層まで
の層以外(基板から4層以上離れた層)に位置する連続した2層の60nm以下の物理膜厚を有する層のセットは、4セット(8層)以下であることが好ましい。同じ層数のQWOTを積層した誘電体多層膜に比較して、60nm以下の層を導入した誘電体多層膜では、60nm以下の層の層数が増加するにつれ、カット領域が狭帯域化する傾向にある。60nm以下の層を8層より多く有する場合、近赤外波長領域をOD値2以上で十分にカットすることが困難となる傾向にある。
【0102】
緩衝層の層数Sと反射形成層の層数Qとの関係は0.15<S/Q<0.40であることが好ましく、より好ましくは0.15<S/Q<0.35である。0.15以下である場合、十分に入射角依存性が改良されない。また0.4以上である場合、カット領域の狭帯域化により、可視波長領域を良好な透過性を維持したまま、例えば735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域においてOD値2以上の遮蔽性を効果的に有することが困難となる。
【0103】
以上の特徴を有した誘電体多層膜を有する本実施形態の光学フィルターでは、0°から40°までの入射角度の違いによる波長500nmの透過率の変量が低い値に制御される。これにより光の取り込み量の変動を抑制することができるため、緑色の入射角依存性を抑制することができ、固体撮像装置に好適に用いることができる。
【0104】
上記緩衝層は、誘電体多層膜のうち、基板から外側に向かって16層以内に含まれることが好ましい。より好ましくは14層以内に含まれることが好ましい。緩衝層を基板から17層以上離れた位置に設けた場合、特開2016-012096号公報で開示されるように、反射帯域に透過帯域を形成したバンドパスフィルターが形成され、例えば波長735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域の無偏光光線の0°入射のOD値の最小値が2以上であることを満たすことが困難となる。また、等価アドミタンスの調整が不十分となり、優れた入射角依存性を発現することが困難となる。
【0105】
上記光学フィルターは、例えば空気中の波長735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域の0°に入射される無偏光光線のOD値の最小値が2以上である光学フィルターであることが好ましい。より好ましくは、OD値2.3以上であり、OD値2.3以上であれば、例えば近赤外線を多く発するハロゲンヒーター等を好適に撮影可能な固体撮像装置を得ることができる。より好ましくは、OD値2.6以上であり、OD値2.6以上であれば、黒体放射により光を発する被写体を好適に撮影可能な固体撮像装置を得ることができる。より好ましくは、OD値3以上であり、OD値3以上であれば、人間の目に見えない近赤外線を十分に遮蔽することができる。また、遮蔽する近赤外波長領域に応じて、上記OD値は、波長720nm以上1100nm以下で達成することが好ましく、より好ましくは、波長710nm以上1100nm以下で達成することが好ましい。上記範囲を遮蔽することで、人間の目に見えない近赤外線を十分に遮蔽することができる。上記OD値は、波長735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域の40°に入射される無偏光光線においても、最小値が2以上であることが好ましい。より好ましくはOD値2.3以上であり、さらに好ましくは2.6以上である。
【0106】
OD値は以下の式により与えられる。
【0107】
【数23】
【0108】
ここでItは透過した光の強度、I0は入射した光の強度を表す。
【0109】
例えば透過率3%はOD値1.5に相当する。
【0110】
数式(23)により、波長735nm以上1100nm以下の近赤外波長領域のOD値の最小値は、波長710nm以上1100nm以下の近赤外線波長領域のOD値の最小値と等しいか又は大きくなる。
【0111】
上記光学フィルターが有する誘電体多層膜は、QWOTが0.75以上1.25未満である層が32層より多いことが好ましい。より好ましくは36層以上であり、さらに好ましくは42層以上である。特定の波長帯域の遮蔽性能を誘電体多層膜の層数にて達成するかどうかは、必要なOD値と遮蔽する波長の帯域幅(Δg)及び、QWOTが0.75以上1.25未満である高屈折率層と低屈折率層との1ペア(例えば、図1の誘電体多層膜21における高屈折率層22と低屈折率層23との1ペア)を追加した場合の光学濃度・帯域幅積 OD bandwidth product(ODBWP)により求められる。
【0112】
遮蔽する特定の波長帯域の帯域幅(Δg)は以下の式で求められる。
【0113】
【数24】
【0114】
ここでλSは遮蔽波長帯域の最も短い波長であり、λLは遮蔽波長帯域の最も長い波長である。
【0115】
必要な遮蔽性能は、必要なOD値と帯域幅との積で求められる。
【0116】
一方、QWOTが0.75以上1.25未満である高屈折率層と低屈折率層との1ペアを追加した場合の光学濃度・帯域幅積(ODBWP)は以下の式により与えられる。
【0117】
【数25】
【0118】
必要なOD値と帯域幅との積を、QWOTが0.75以上1.25未満である高屈折率層と低屈折率層との1ペアを追加した場合の光学濃度・帯域幅積(ODBWP)で割れば、必要な高屈折率層と低屈折率層とのペアの数が求められる。つまりこの数の2倍が特定の波長帯域の遮蔽性能に必要な誘電体多層膜の層数である。
【0119】
必要なOD値が特定の遮蔽波長帯域のいずれの波長でも達成することが求められる場合、層数はさらにおおむね2倍必要である。
【0120】
これらにより、例えば高屈折率層の屈折率nHが2.54、低屈折率層の屈折率nLが1.
47であった場合、QWOTが0.75以上1.25未満である層は、32層より多い場合であれば735nm~1100nmの近赤外波長領域においてOD値2以上の遮蔽性を効果的に有することができることがわかる。
【0121】
また光学フィルターが有する誘電体層は60層以下であることが好ましい。誘電体層を61層以上設けた場合、光学フィルターの反りが懸念されるほか、製造コストの増大の懸念や、過剰な積層により500nm近傍の入射角依存性が悪化する傾向にある。
【0122】
基板に設ける一方の面あたりの誘電体多層膜の層数は36層より少ない層数であることが望ましい。より好ましくは34層以下であり、より好ましくは32層以下である。一方の面あたりの誘電体多層膜の層数が36層以上である場合、波長500nmの誘電体多層膜の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の絶対値が入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有していても、0°~40°の波長500nmの入射角依存性が悪い傾向にあり、緑色の入射角依存性を良好に保つことが困難になる。また、32層以下であれば反りの少ない光学フィルターが得られ、固体撮像装置の薄型化に有用である。
【0123】
上記光学フィルターは空気中の450nm以上630nm以下の無偏光光線の0°入射平均実測透過率が75%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。平均実測透過率85%以上であれば固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0124】
上記光学フィルターは空気中の450nm以上630nm以下の無偏光光線の0°入射の平均透過率と40°入射の平均透過率との差が5%以下であることが好ましい。上記範囲であれば、光学フィルターの入射角依存性が少なく、固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0125】
上記光学フィルターは空気中の波長500nmの無偏光光線の0°~40°入射の実測透過率がいずれも70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。500nmの無偏光光線の透過率が0°~40°のいずれにおいても上記透過率以上であれば、緑色の入射角依存性が良好となり、固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0126】
上記光学フィルターは、波長500nmの無偏光光線の0°~40°入射の実測透過率の最大値と波長500nmの無偏光光線の0°~40°入射の実測透過率の最小値との差が25%以下であることが好ましい。25%を超える場合、波長500nmの光が光学フィルターで反射することに起因したゴーストが発生することから固体撮像装置用光学フィルターとして不適である。より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは16%以下である。16%以下であれば、緑色の入射角依存性が良好となり、固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。より好ましくは12%以下であり、いっそう好ましくは7%以下であり、最も好ましくは3%以下である。上記範囲であれば、波長500nmの光が光学フィルターで反射されることを抑制でき、ゴーストが少なく固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0127】
上記光学フィルターは空気中の波長450nm以上630nm以下の無偏光光線の40°入射の平均実測透過率が70%以上であることが好ましい。より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。平均実測透過率80%以上であれば固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0128】
光学フィルターは固体撮像素子のセンサー感度と人間の目の感度との補正のため、空気中の0°入射の無偏光光線の波長620nmから660nmまでの間に実測透過率50%となることが好ましい。また空気中の0°入射の無偏光光線の波長400nm以上425nm以下の間に実測透過率50%となることが好ましい。上記範囲であれば、固体撮像装置用光学フィルターとして好適である。
【0129】
以上のように、本実施形態の光学フィルターでは、近赤外波長領域の高い遮蔽性能と可視波長領域の高い透過性能とを両立しながらも、光学フィルターへの0°から40°までの入射角度の違いによる、波長500nmの透過率の変量が低い値に制御され、入射角依存性を抑制することができ、固体撮像装置に好適に用いることができる。
【0130】
<固体撮像装置>
本発明の固体撮像装置は、本発明の光学フィルターを具備する。ここで、固体撮像装置とは、CCDやCMOSイメージセンサーなどといった固体撮像素子を備えたイメージセンサーであり、具体的にはデジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラなどの用途に用いるものでもよい。図2は、本発明の固体撮像装置100の断面概略図である。固体撮像装置10は、固体撮像装置のレンズ群L1~L3、光学フィルター10、及び固体撮像素子101を含む。
【0131】
[評価方法]
<光学特性>
光学フィルターの光学特性は紫外可視近赤外分光光度計U4100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、図3(a)(b)に示す光路の評価を行い、空気中、P偏光光源、S偏光光源より得られた光学特性の平均より算出した。得られた透過率を光学フィルターの実測透過率、得られた反射率を光学フィルターの実測反射率とした。図3(a)は、本発明の光学フィルターの透過率を測定する方法を示す概略図である。図3(b)は、本発明の光学フィルターの反射率を測定する方法を示す概略図である。光学フィルターの透過率の測定は、光学フィルター10の入射側の検出器211、出射側の検出器212を用いて、光学フィルター10に対する入射光201の透過光202を測定する方法で行った。また、光学フィルターの反射率の測定は、光学フィルター10の入射側の検出器211、出射側の検出器212を用いて、光学フィルター10に対する入射光201の反射光203、光学フィルター10のもう一方の面からの入射光204の反射光205を測定する方法で行った。
【0132】
<反り>
反りはデジタルマイクロスコープVHX―2000(株式会社キーエンス製)を用いて、光学フィルターの曲率半径を測定した。曲率半径50mm以上であるものを○、曲率半径50mm未満であるものを×とした。
【0133】
<ガラス転移温度>
エスアイアイ・ナノテクノロジーズ株式会社製の示差走査熱量計(DSC6200)を用いて、昇温速度:毎分20℃、窒素気流下で測定した。
【実施例0134】
25を41重量部、Al23を5重量部、Na2Oを24重量部、MgOを6重量部、
CaOを6重量部、BaOを12重量部、秤量して混合した。これにCuOを加え、白金ルツボに入れ、1000℃の温度で加熱溶融した。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷し、切断・研磨して50mm×200mm×2mmの板を作製した。この板を軟化点付近に加熱して延伸加工、さらに研磨することにより、厚さ0.1mmのリン酸銅ガラス(500nmの屈折率1.53、ガラス転移温度480℃)を得た。これの両面に
環状オレフィン系樹脂「JSR株式会社製のARTON G5023 :500nmの屈折率1.52、ガラス転移温度165℃」に、下記構造式(26)であらわされるスクアリリウム化合物(近赤外線吸収剤、吸収極大波長;約698nm~707nm)、Uvitex(登録商標) OB(近紫外線吸収剤、吸収極大波長;396nm)、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が30%の溶液をアプリケーターで塗布した。
【0135】
【化1】
【0136】
60℃で8時間、100℃で8時間、さらに減圧下100℃で8時間乾燥することで、リン酸銅ガラスとノルボルネン樹脂からなる透明性を有する基板A(厚み0.11mm)を得た。CuO及び構造式(26)で表されるスクアリリウム化合物は、透明性を有する基板Aとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長620nmから660nmの間に実測透過率50%となる波長が635nmとなる量とした。Uvitex OBは透明性を有する基板Aとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長、400nm~425nmの間の透過率50%となる波長が405nmとなる重量部とした。この基板の一方に高屈折率層として二酸化チタン(TiO2:500nmの屈折率2.54)、低屈折率層として二酸化
ケイ素(SiO2:500nmの屈折率1.47)、表1に示す膜設計1の誘電体多層膜
、もう一方に表2に示す膜設計4の誘電体多層膜をイオンアシスト真空蒸着によって設けることで、本発明の光学フィルターを得た。膜設計1の誘電体多層膜を、透明性を有する基板Aに設けた際の空気中の500nmにおける無偏光光線の入射角度0°~40°の等価アドミタンスを図4に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
空気中の500nmにおける無偏光光線の膜設計1の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の0°~40°までの入射角依存性を図5(a)(b)に示す。図5(b)から、膜設計1の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差は5°~12°間と22°~28°間に2回極小値を有していた。得られた光学フィルターの膜設計1から入射される波長500nmの無偏光光線の空気中における0°~40°入射の実測透過率を図6(a)(b)に、実測反射率を図6(c)に示す。図6(a)、(b)から、得られた光学フィルターは、波長500nmにおける実測透過率において0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有すること(図6(a)では7°~12°間と24°~28°間)がわかる。また、図6(c)から、波長500nmにおける実測反射率において0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有すること(図6(c)では7°~12°間と24°~28°間)がわかる。得られた光学フィルターのその他の光学特性、反りを表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性
を有し、波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルターとして好適であった。
【実施例0140】
環状オレフィン系樹脂「JSR株式会社製のARTON G5023:500nmの屈折率1.52、ガラス転移温度165℃」に、構造式(26)で表されるスクアリリウム化合物、Uvitex OB、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が8%の溶液を得た。次いで、得られた溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、100℃で8時間、さらに減圧下100℃で8時間乾燥後に剥離し、厚さ0.1mmの透明性を有する基板Bを得た。スクアリリウム化合物は透明性を有する基板Bとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長620nmから660nmの間に実測透過率50%となる波長が636nmとなる量とした。Uvitex OBは透明性を有する基板Bとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長、400nm~425nmの間の透過率50%となる波長が409nmとなる重量部とした。得られた透明性を有する基板Bの両面に実施例1と同様に一方の面に膜設計1、もう一方の面に膜設計5の誘電体多層膜を設けることで、光学フィルターを得た。得られた光学フィルターの膜設計1から入射された際の光学特性及び反り評価結果を表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性を有し、波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルターとして好適であった。
【0141】
【表3】
【実施例0142】
環状オレフィン系樹脂「JSR株式会社製のARTON G5023:500nmの屈折率1.52、ガラス転移温度165℃」に、構造式(26)で表されるスクアリリウム化合物を加え、Uvitex OB(吸収極大波長;396nm)、及び塩化メチレンを加え、固形分が30重量%の溶液を得た。次いで、得られた溶液を平滑な厚み0.10mmのホウケイ酸塩ガラス(D263、ショット日本株式会社製、500nmの屈折率1.53、ガラス転移温度557℃)にアプリケーターで塗布した。60℃で8時間、100℃で8時間、さらに減圧下100℃で8時間乾燥後、総厚さ0.15mmの透明性を有する基板Cを得た。スクアリリウム化合物は透明性を有する基板Cとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長620nmから660nmの間に実測透過率50%となる波長が636nmとなる量とした。Uvitex OBは透明性を有する基板Cとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長、400nm~425nmの間の透過率50%となる波長が408
nmとなる重量部とした。得られた透明性を有する基板の両面に実施例1と同様に膜設計2、膜設計5の誘電体多層膜を設けることで、光学フィルターを得た。膜設計2の誘電体多層膜を、透明性を有する基板Cに設けた際の空気中の500nmにおける無偏光光線の入射角度0°~40°の等価アドミタンスを図7に、空気中の500nmにおける無偏光光線の膜設計2の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の0°~40°までの入射角依存性を図8に示す。膜設計2の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差は12°~20°の間、20°~30°の間、36°~40°の間に3回極小値を有していた。得られた光学フィルターの波長500nmにおける膜設計2から0°~40°に入射される無偏光光線の空気中における実測透過率、実測反射率を図9(a)(b)に示す。得られた光学フィルターは、波長500nmにおける実測透過率において0°~40°の間に2回極大値を有し、波長500nmにおける実測反射率において0°~40°の間に3回極小値を有していた。得られた光学フィルターの膜設計2から入射した際の光学特性、反り評価結果を表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性を有し、波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルターとして好適であった。
【実施例0143】
3Lの4つ口フラスコに2,6-ジフルオロベンゾニトリル35.12g(0.253mol)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン87.60g(0.250mol)、炭酸カリウム41.46g(0.300mol)、N,N-ジメチルアセトアミド(以下「DMAC」という。)443g及びトルエン111gを添加した。続いて、4つ口フラスコに温度計、撹拌機、窒素導入管付き三方コック、ディーンスターク管及び冷却管を取り付けた。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を140℃で3時間反応させ、生成する水をディーンスターク管から随時取り除いた。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を160℃まで上昇させ、そのままの温度で6時間反応させた。室温(25℃)まで冷却後、生成した塩をろ紙で除去し、ろ液をメタノールに投じて再沈殿させ、ろ別によりろ物(残渣)を単離した。得られたろ物を60℃で一晩真空乾燥し、樹脂Aを得た。ガラス転移温度は285℃であり、500nmの屈折率は1.60であった。
【0144】
得られた樹脂A100重量部に、構造式(26)で表されるスクアリリウム化合物、金ナノロッド(シグマアルドリッチジャパン株式会社、近赤外線吸収剤、極大吸収波長1064nm)、Uvitex OB、さらにDMACを加え、固形分が8%の溶液を得た。次いで、得られた溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、さらに減圧下140℃で8時間乾燥後に剥離し、厚さ60μmの透明性を有する基板Dを得た。スクアリリウム化合物、金ナノロッドは、透明性を有する基板Dとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長620nmから660nmの間に実測透過率50%となる波長が647nmとなる量とした。Uvitex OBは透明性を有する基板Dとして空気中の0°入射の無偏光光線の波長、400nm~425nmの間の透過率50%となる波長が408nmとなる重量部とした。得られた透明基板の両面に実施例1と同様に膜設計2、膜設計5の誘電体多層膜を設けることで、光学フィルターを得た。得られた光学フィルターの膜設計2から入射した際の光学特性及び反り評価結果を表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性を有し、波長500nm付近においても入射角度依存性が少なく、反りの少ない固体撮像装置用光学フィルターとして好適であった。
【0145】
[比較例1]
平滑な厚み0.12mmのホウケイ酸塩ガラス(ショット日本株式会社製のD263:500nmの屈折率1.53、ガラス転移温度557℃)の両面に実施例2と同様に膜設計3と膜設計5の誘電体多層膜を設けた。膜設計3の誘電体多層膜をホウケイ酸塩ガラスに設けた際の、空気中の500nmにおける無偏光光線の入射角度0°~40°の等価アド
ミタンスを図10に、空気中の500nmにおける無偏光光線の膜設計3の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差の0°~40°までの入射角依存性を図11(a)(b)に示す。基板から外側に向かって3層までの層を除き、少なくとも2層の連続した物理膜厚60nmの緩衝層を有さない膜設計3の等価アドミタンスと真空の光学アドミタンスとの差は7°~11°の間に1回極小値を有していた。得られた光学フィルターの膜設計3から入射した際の光学特性及び反り評価結果を表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性を有するものの、波長500nm付近において入射角度依存性が大きく、固体撮像装置用光学フィルターとして不適であった。
【0146】
[比較例2]
実施例2と同様に得た透明性を有する基板Bに、実施例1と同様に膜設計3と膜設計4の誘電体多層膜を設けた。得られた光学フィルターの膜設計3から入射した際の光学特性及び反り評価結果を表3に示す。得られた光学フィルターは、近赤外波長領域のOD値が高く遮蔽性を有すものの、波長500nm付近において入射角度依存性が大きく、固体撮像装置用光学フィルターとして不適であった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の光学フィルターは、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、アクションカメラ、ドローン用カメラ、スマートフォン用カメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ等のカメラ全般、携帯情報端末、パーソナルコンピュータ、ビデオゲーム機、医療機器、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、玩具ロボット、おもちゃ等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0148】
1:基板
2:光学フィルターからの垂線
3:入射光
4:出射光
10:光学フィルター
11:入射媒質 光学アドミタンスはY0=n0
12:出射媒質 光学アドミタンスはY0=n0
21:一方の面に設けた緩衝層を有する誘電体多層膜
22:高屈折率層 屈折率nH
23:低屈折率層 屈折率nL
24:緩衝層に含まれる高屈折率層
25:緩衝層に含まれる低屈折率層
31:光の出射側に設けた誘電体多層膜
32:高屈折率層 屈折率nH
33:低屈折率層 屈折率nL
100:固体撮像装置
101:固体撮像素子
L1~L3:固体撮像装置のレンズ群
201:入射光
202:透過光
203:反射光
204:光学フィルターのもう一方の面からの入射光
205:光学フィルターのもう一方の面の反射光
211:検出器
212:検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性を有する基板を有し、前記基板の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有する光学フィルターであって、
前記誘電体多層膜は、緩衝層部と、前記緩衝層部を挟む第1の層と第2の層とを含み、
前記第1の層及び前記第2の層は、屈折率1.9以上2.8以下の高屈折率層であり、60nmより厚い物理膜厚を有し、
前記緩衝層部は、緩衝層の第1のセット、緩衝層の第2のセット、及び前記緩衝層の第1のセットと前記緩衝層の第2のセットとの間の第3の層を含み、
前記緩衝層の第1のセットは、第1の低屈折率層及び第1の高屈折率層から成り、
前記緩衝層の第2のセットは、第2の低屈折率層及び第2の高屈折率層から成り、
前記第1の低屈折率層及び前記第2の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第1の高屈折率層及び前記第2の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第3の層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第1のセットの前記第1の高屈折率層が前記第3の層に隣接し、
前記緩衝層の第2のセットの前記第2の高屈折率層が前記第3の層に隣接し、
前記緩衝部は、前記基板から4層以上外側の層に設けられ、前記緩衝層の第1のセットが前記緩衝層の第2のセットより前記基板側に配置され、
空気中における波長500nmの無偏光光線の入射角度0°~40°の範囲における実測透過率が70%以上であり、かつ、
空気中における波長735nm~1100nmの範囲における無偏光光線の0°入射のOD値が2以上であることを特徴とする光学フィルター。
【請求項2】
前記緩衝層部は、緩衝層の第3のセットと、第4の層と、をさらに含み、
前記緩衝層の第3のセットは、第3の低屈折率層及び第3の高屈折率層から成り、
前記第3の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第3の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下で、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第4の層は、屈折率が1.9以上2.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第2のセットの前記第2の低屈折率層が前記第4の層に隣接し、
前記緩衝層の第3のセットの前記第3の低屈折率層が前記第4の層に隣接する、ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項3】
前記緩衝層部は、緩衝層の第4のセットと、第5の層と、をさらに含み、
前記緩衝層の第4のセットは、第4の低屈折率層及び第4の高屈折率層から成り、
前記第4の低屈折率層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第4の高屈折率層は、屈折率が1.9以上2.8以下であり、物理膜厚が60nm以下であり、
前記第5の層は、屈折率が1.0以上1.8以下であり、物理膜厚が60nmより厚く、
前記緩衝層の第3のセットの前記第3の高屈折率層が前記第5の層に隣接し、
前記緩衝層の第4のセットの前記第4の高屈折率層が前記第5の層に隣接することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測反射率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項5】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した波長500nmの無偏光光線の空気中における実測透過率が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極大値を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項6】
前記緩衝層部は、基板から16層以内に存在することを特徴とする請求項5に記載の光学フィルター。
【請求項7】
前記誘電体多層膜の層数は、16層~60層であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項8】
前記光学フィルターの前記少なくとも一方の面から入射した450nm~630nmの無偏光光線の空気中における0°入射の実測透過率の平均が75%以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項9】
前記誘電体多層膜は、L層(Lは1より大きい自然数)からなり、
波長500nmにおいて、以下の式で表される空気中の等価アドミタンスYEと、真空の光学アドミタンスY0との差の絶対値が、入射角度0°~40°の範囲において少なくとも2回極小値を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学フィルター。
ここで、上記空気中の等価アドミタンスYEは以下の式で表す。
【数7】
こで、上記式中のB、Cは以下の式で表す。
【数6】
こで、上記式中のnは基板の屈折率である。
【数4】
【数5】
こで、上記式中のM1は、前記誘電体多層膜に光が入射する1番目の層(入射側最外層)の特性マトリクスであり、上記式中のn1は、上記1番目の層の屈折率であり、上記式中のd1は、上記1番目の層の物理膜厚である。上記式中のMjは、上記1番目の層から前記基板に向かってj番目の層の特性マトリクスである。上記式中のnjは、上記j番目の層の屈折率であり、上記式中のdjは、上記j番目の層の物理膜厚である。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光学フィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。