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特開2022-118185葉菜類野菜の生産方法及び葉菜類野菜の生産装置
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  • 特開-葉菜類野菜の生産方法及び葉菜類野菜の生産装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118185
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】葉菜類野菜の生産方法及び葉菜類野菜の生産装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220804BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20220804BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G31/00 612
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100262
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2018101482の分割
【原出願日】2018-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017107475
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年1月29日、第15回赤外放射応用関連学会 東京工科大学蒲田キャンパス
(71)【出願人】
【識別番号】308030477
【氏名又は名称】株式会社キーストーンテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 聖一
(57)【要約】
【課題】 光質条件の他、温度条件も変化させて、葉酸塩の生合成量を増加させる環境制御の解明を試み、高葉酸塩の葉菜類野菜を生産できる葉菜類野菜の生産方法及び葉菜類野菜の生産装置を提供する。
【解決手段】 赤色、青色及び緑色の光を制御した人工照明下での水耕栽培による野菜のRGB独立調光光源植物栽培装置1は、野菜3に対して光を照射する光照射部5と、葉酸塩の濃度を増加させるために、光照射部5が照射する赤色、青色及び緑色の光の比率及び光合成有効光量子束密度(PPFD)並びに生育環境温度の少なくとも1つを制御する制御部7を備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがピーク波長を持ち、赤色、青色及び緑色による3つのピーク波長のみの光の組み合わせの比率を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産装置であって、
前記葉菜類野菜に対して光を照射する照射手段と、
葉酸塩の濃度を増加させるために前記葉菜類野菜の光呼吸を促進させるべく、生育環境温度である栽培気温を25℃にした温度条件で制御する制御手段を備えた、葉菜類野菜の生産装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記照射手段が照射する前記赤色、青色及び緑色の光の比率について少なくとも前記緑色を含めた光質条件で制御する、請求項1記載の葉菜類野菜の生産装置。
【請求項3】
それぞれがピーク波長を持ち、赤色、青色及び緑色による3つのピーク波長のみの光の組み合わせの比率を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産方法であって、
制御手段が、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために前記葉菜類野菜の光呼吸を促進させるべく、生育環境温度である栽培気温を25℃にした温度条件で制御することを特徴とする、葉菜類野菜の生産方法。
【請求項4】
前記制御手段が、前記赤色、青色及び緑色の光の比率について少なくとも前記緑色の光を含めた光質条件で制御する、請求項3記載の葉菜類野菜の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉菜類野菜の生産方法等に関し、赤色、青色及び緑色の光を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の技術が進んできている。特に、赤色、青色及び緑色の光を制御した人工照明下での水耕栽培については、発明者も、技術改良を行ってきた。このような技術の研究においては、赤色と青色との割合を調整するものが多い。
【0003】
ところで、葉菜類野菜のような食品には、葉酸塩が含まれており、具体的には天然ビタミンBである。この葉酸塩の摂取については、例えば、高ホモシステイン血症の治療や胎児の神経管閉鎖障害のリスクに有効と言われている。そのため、厚生労働省からも、妊婦における葉酸塩不足が胎児に障害をもたらす可能性があるとして、妊娠を希望している女性に対し、400μg/日を目安に摂取することを呼びかけている。ここで、このような葉酸塩の生合成については、非特許文献1のようなもので解明が進んでいる。
【0004】
なお、近年は、葉酸塩と葉酸との区別が明確になってきており、葉酸は天然には存在しない人工合成による薬やサプリメントに含まれていると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】John Scott, Fabrice Rebeille and John Fletcher, Review: Folic acid and folates: the feasibility for nutritional enhancement in plant foods, Journal of the Science of Food and Agriculture, 80:795-824 (2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現時点では、葉酸塩の生合成量を増加させる環境制御の解明は十分には行われていない。そこで、発明者は、特に、光質条件の他、温度条件も変化させてその解明を試みた。光質条件としては、R(赤色光)、G(緑色光)、B(青色光)比と光合成有効光量子束密度(PPFD)を変化させて解明を試みた。
【0007】
ゆえに、本発明は、光質条件の他、温度条件も変化させて、葉酸塩の生合成量を増加させる環境制御の解明を試み、高葉酸塩の葉菜類野菜を生産できる葉菜類野菜の生産方法及び葉菜類野菜の生産装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、赤色、青色及び緑色の光を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産装置であって、前記葉菜類野菜に対して光を照射する照射手段と、葉酸塩の濃度を増加させるために、前記照射手段が照射する前記赤色、青色及び緑色の光の比率及び光合成有効光量子束密度(PPFD)並びに生育環境温度の少なくとも1つを制御する制御手段を備えたものである。
【0009】
本発明の第2の観点は赤色、青色及び緑色の光を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産方法であって、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために、前記赤色、青色及び緑色の光の比率について少なくとも前記緑色の光を含めた光質条件で制御することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第3の観点は、第2の観点において、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら光合成有効光量子束密度(PPFD)を増加させた光質条件で制御することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第4の観点は、第2又は第3の観点において、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら生育環境温度を高くした温度条件で制御することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第5の観点は、光を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産方法であって、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら生育環境温度を高くした温度条件で制御することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第6の観点は、光を制御した人工照明下での水耕栽培による葉菜類野菜の生産方法であって、前記葉菜類野菜に対して、葉酸塩の濃度を増加させるために、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら光合成有効光量子束密度(PPFD)を増加させた光質条件で制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点によれば、葉菜類野菜に照射する赤色、青色及び緑色の光の比率及び光合成有効光量子束密度(PPFD)並びに生育環境温度の少なくとも1つを制御して葉酸塩の濃度を増加させることができる。これにより、高葉酸塩の葉菜類野菜を妊婦などに提供できる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、赤色、青色及び緑色の光の比率について少なくとも緑色の光を含めた光質条件で制御することにより、緑色の光を含めない場合に比べて葉菜類野菜に対して葉酸塩の濃度を増加させることができる。これにより、高葉酸塩の葉菜類野菜を妊婦などに提供できる。
【0016】
本発明の第3、第6の観点によれば、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら光合成有効光量子束密度(PPFD)を増加させ光質条件で制御することにより、葉菜類野菜に対して葉酸塩の濃度を増加させることができる。これにより、高葉酸塩の葉菜類野菜を妊婦などに提供できる。
【0017】
本発明の第4、第5の観点によれば、チップバーンが発生する前の状態を上限としながら生育環境温度を高くした温度条件で制御することにより、葉菜類野菜に対して葉酸塩の濃度を増加させることができる。これにより、高葉酸塩の葉菜類野菜を妊婦などに提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態にかかるRGB独立調光光源植物栽培装置のブロック図である。
図2】緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)の20℃栽培区での各光質条件における葉酸塩含有量についての結果を示したグラフである。
図3】緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)の25℃栽培区での各光質条件における葉酸塩含有量についての結果を示したグラフである。
図4図2及び図3に示したものを20℃と25℃とで比較し易くしたグラフである。
図5】栽培気温と葉酸塩生合成における相関(RB)を示したグラフである。
図6】栽培気温と葉酸塩生合成における相関(RGB)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態にかかるRGB独立調光光源植物栽培装置のブロック図である。
【0021】
RGB独立調光光源植物栽培装置1には、野菜3に対して光を照射するためのLED光源である光照射部5が設けられている。ここでは、例えば、赤色は660nm、緑色は525nm、青色は460nm波長に設定している。RGB独立調光光源植物栽培装置1は制御部7を備えており、制御部7は光質条件制御部9と温度条件制御部11とを有している。光質条件制御部9は、光照射部5から野菜3に照射される光質条件について、RGB比を制御し、また、光合成有効光量子束密度(PPFD)を制御する。温度条件制御部11は野菜3の生育環境温度を制御する。すなわち、制御部7は、光質条件のRGB比及び光合成有効光量子束密度(PPFD)並びに生育環境温度条件の3つのうちの少なくとも1つ(又は組み合わせ)を制御できるものとしている。
【0022】
以下では、今回の知見である葉酸塩の生合成のメカニズム解明により、RGB比及び光合成有効光量子束密度(PPFD)並びに生育環境温度条件を制御することにより、葉酸塩含有量を増加させることが示された実験について、説明する。
【0023】
[供試植物及び栽培光源設定]
実験では、緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)を供試植物として使用した。生育環境温度条件については、生育温度は20℃と25℃の2種類を設定した。光質条件については、RGB比を変えたRB区とRGB区を設け、さらに、それぞれの区において150ppfdと200ppfdという光合成有効光量子束密度(PPFD)の異なるものを設けた。
【0024】
ここで、LED光源を用い、RGBのRed(赤)は660nmの光を用い、Green(緑)は525nmの光を用い、Blue(青)は460nmの光を用いた。RB区に150ppfdについては、Redは112.0ppfd、Blueは38ppfd、200ppfdについては、Redは150.0ppfd、Blueは50.0ppfdとした。RGB区に150ppfdについては、Redは98.0ppfd、Greenは22.0ppfd、Blueは30ppfd、200ppfdについては、Redは139.0ppfd、Greenは21.0ppfd、Blueは40.0ppfdとした。
【0025】
栽培装置の環境設定条件としては、次のものを選択した。栽培装置は、インキュベータの一部にプラントセラー(TAPS-6T)を用い、キーストーンテクノロジー社オリジナルである植物生育用LEDライト及びコントローラ(各段独立制御)を用い、肥培管理はpH=6、EC=2dS/m、温湿度は20℃、25℃、60±5%とした。
【0026】
次に、播種から収穫までについて説明する。播種は、ウレタンに直播した。施肥は子葉展開後に黒のトレーに移し、培養液施肥を行った。定植は、播種後21日後に実施した。収穫は定植後21日後に実施した。
【0027】
次に、試験区を説明する。今回の実験では、定植から収穫まで21日間の栽培温度を20℃と25℃の2つのパターンを設定した。各栽培温度条件下では、上記もした4つの栽培区を設け、それぞれで3反復の栽培~収穫を行った。
【0028】
次に、葉酸塩の含有量の測定について説明する。定植から21日間生育したものを収穫し、根(地下部)を取り除いた可食部(地上部)を用いて葉酸塩の分析を行った。分析は、神奈川県産業技術センターに委託し、微生物学的試験方法にて行った。
【0029】
図2は緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)の20℃栽培区での各光質条件における葉酸塩含有量についての結果を示したグラフである。図3は緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)の25℃栽培区での各光質条件における葉酸塩含有量についての結果を示したグラフである。図4図2及び図3に示したものを20℃と25℃とで比較し易くしたグラフである。縦軸は、可食部新鮮重量100g当たりの葉酸塩含有量(μg)である。
【0030】
図2及び図3に示すように、各温度では、光合成有効光量子束密度(PPFD)の違いで含有量も違いがあり、Green(緑)が含まれた光と含まれない光とでも含有量の違いがあった。具体的には、150ppfdにおいてはRB区よりもRGB区のほうが有意に葉酸塩含有量は増加していた。200ppfdにおいても、微量だがRB区よりもRGB区のほうが葉酸塩含有量は増加していた。また、図4にも示すように、温度は20℃と25℃とでも含有量の違いがあった。特に、200ppfdのRB区及びRGB区においては、25℃で栽培した場合、20℃で栽培した場合に比べて約2倍の葉酸塩含有量の増加があった。
【0031】
以下、まとめる。本実験結果から、リーフレタスにおける可食部の葉酸塩含量を増加させるには、定植後の栽培温度を25℃で生育させるほうが良いことが明らかになった。また光合成有効光量子束密度が150ppfdよりも200ppfdの条件下のほうが葉酸塩含量を増加させることができることが示唆された。葉酸塩の含量を増加させるには、光呼吸を促進させることが有効という見解があり、今回の生育条件のように5℃の温度差で葉酸塩含量が大きく変化したことから、生育温度が葉酸塩含量の高い作物生産方法として有効であると考えられる。さらに、葉酸塩生合成の調節がmethionineによって行われていることから、細胞分裂が盛んな部位でDNAが必要となり、methionineが消費され、同時に葉酸塩が旺盛に生産されると予想される。従って、レタスの生体重成長速度が速い時に葉酸塩濃度が高くなると考えられる。このことから、レタスの生体重量が大きく増加する時期のみ(特に定植後約14日~21日)、栽培温度を25℃にすることで電気代の節約や,同時に栽培している他の作物への影響を抑えつつ、葉酸塩含量を増加させたレタスの栽培が可能になると考えられる。さらに、光条件を比較すると、光合成光量子束密度を高くすることや、緑色光を含んだ光源を使用した試験区の葉酸塩含量が増加していることから、今後は、緑色光の出力比率を高めた光源を使用して最適条件を見出すことで、さらなる葉酸塩含量の増加も期待される。
【0032】
なお、光合成有効光量子束密度(PPFD)の大きさの上限と、生育環境温度の上限は、チップバーンが発生しない前の状態が好ましい。ここで、チップバーンとは、葉っぱの先端が茶色に枯れてくる状況を言う。
【0033】
また、上記では、実験データとしては、緑系リーフレタス(ファンシーグリーン)について示したが、葉酸塩を含む野菜である緑黄色野菜、特に「葉菜類野菜」のようなものも本願発明の適用範囲になる。なぜなら、「葉菜類野菜」では、光合成が行われて葉酸塩の生合成が重要であり、本願で示される実験結果が葉酸塩の生合成のメカニズムの原理解明に基づくため、他のものでも同様と推論できるからである。ここで、「葉菜類野菜」は、葉や茎の部分を主に食用とする野菜をいい、例えば、レタス、水菜、ホウレンソウ、春菊、小松菜、チンゲンサイ、キャベツ、白菜、しそ、からし菜、ケール、ハーブ類(ルッコラ、バジル等)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0034】
上記に加えて、さらに考察を記載する。葉酸塩(Folate)生合成の出発物質は、6-hydroxymethyl-dihydropterinであり、この物質はGTP(グアノシン三リン酸)から合成される。GTPはDNAなどの核酸を構成する塩基の一つであるグアニンから合成される。GTPからプテリン、そして6-hydroxymethyl-dihydropterinが合成される。この後は、生合成がさらに進み、最終的にtetrahydrofolateが合成される。Tetrahydrofolateは葉酸塩代謝の起点であり、様々な葉酸塩に変化し役割を果たす。この生合成に使用される酵素であるHPPK、DHPS及びDHFR/TSはミトコンドリアに偏在する。したがって、葉酸塩の生合成は主にミトコンドリアで行われていると考えられる。
【0035】
光呼吸の過程でミトコンドリアではglycine-serine変換が行われ、このとき葉酸塩であるtetrahydrofolateと5,10-methylene-tetrahydorofolateが必要となる。つまり、光呼吸の過程で葉酸塩が光合成されるということになる。
【0036】
Tetrahydrofolateは、葉酸代謝の出発点であり、要の葉酸塩である。Tetrahydrofolateが沢山含まれる部位は、細胞分裂が盛んな組織である。例えば発芽時の子葉などがある。葉酸塩はDNAの合成に関わる物質であるため細胞分裂時に必要になると考えられる。
【0037】
図5及び図6に示すように、栽培環境温度25℃、200ppfdの条件において、RB及びRGBいずれの光質においても相関係数が0.9以上という強い相関関係が示された。
【0038】
ここで、緑色光を含む光質のRGB区は、栽培温度25℃、150ppfdの条件において栽培環境温度20℃条件時より葉酸塩濃度が40%以上高くなっていることが示された点は、特徴的なことである。RGB区が葉酸塩濃度を相対的に高めたメカニズムは、緑色光照射により気孔が閉じて、細胞内の二酸化炭素濃度が減少した結果、光呼吸が盛んになったと推察される。二次代謝物である葉酸塩生合成には、一次代謝産物が必要十分量生合成されていることが重要である。そのためには細胞内の光合成色素とアンテナ色素を効率よく働かせることが肝要である。
【0039】
緑色の葉から抽出されたクロロフィルまたは色素の吸収スペクトルは、緑色の光が弱くしか吸収されないことを示しているという指摘もあり、緑色の光は緑色の葉の光合成にとって不十分であると主張されている論文もある。しかしながら、積分球で測定された吸収率(光吸収の絶対値)の多くのスペクトルは、陸域の葉が緑色光のかなりの部分を吸収することを明らかにしている論文もある。葉に吸収された緑色光は、高い効率で光合成を促進することも知られている。
【0040】
以上のような考察によっても、図5及び図6に示すように、リーフレタスにおける可食部の葉酸塩含有量を増加させるには、定植後の栽培環境温度を25℃に設定して生育させるほうがよいことが明らかになったうえに、PPFDが150ppfdよりも200ppfdの光質条件下が葉酸塩を増加させることが示唆された。
【符号の説明】
【0041】
1・・・RGB独立調光光源植物栽培装置、5・・・光照射部、7・・・制御部、9・・・光質条件制御部、11・・・温度条件制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6