(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118217
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】内在性免疫グロブリン遺伝子を阻害し、そして、トランスジェニック・ヒト・イディオタイプ抗体を製造するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220804BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220804BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10
A01K67/027
C12N15/85 Z
C12N15/13 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101081
(22)【出願日】2022-06-23
(62)【分割の表示】P 2020092210の分割
【原出願日】2008-05-30
(31)【優先権主張番号】60/941,619
(32)【優先日】2007-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/044,324
(32)【優先日】2008-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509328294
【氏名又は名称】オムニアブ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】ビューロウ,ロナルド
(57)【要約】
【課題】本発明は、内在性Igを欠き、且つ、トランスジェニック抗体を産生する能力があるトランスジェニック動物、並びにその製造方法に関する。本発明は、こうした動物によるトランスジェニック抗体の製造方法、及びそのように製造されたトランスジェニック抗体にさらに関する。
【解決手段】少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞の製造方法であって、生殖細胞、受精卵母細胞、若しくは胎仔において少なくとも1のメガヌクレアーゼを発現して、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を産生するステップを含んでなり、ここで、上記メガヌクレアーゼが、上記内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在しているメガヌクレアーゼ標的配列を認識する前記方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受容非ヒト生殖細胞、非ヒト受精卵母細胞又は非ヒト胚への人工免疫グロブリン(Immunoglobulin:Ig)遺伝子座の標的化組み込みのための方法であって、受容非ヒト生殖細胞、非ヒト受精卵母細胞又は非ヒト胚の中に、内在性Ig遺伝子座を標的とする部位特異的メガヌクレアーゼと、人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニックベクターとを導入し、これにより前記人工Ig遺伝子座が、受容非ヒト生殖細胞、非ヒト受精卵母細胞又は非ヒト胚のゲノム内に標的化組み込みにより組み込まれ、相同組換により前記内在性Ig遺伝子座又はその一部を置換することを含むと共に、前記メガヌクレアーゼが、二本鎖DNA開裂を介した相同組換の頻度を増加させる、方法。
【請求項2】
前記メガヌクレアーゼが調節可能な発現コンストラクトにより供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メガヌクレアーゼが誘導プロモーターに作動式に連結されてなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
人工Ig遺伝子座が標的化部位に組み込まれると共に、調節可能なメガヌクレアーゼ発現コンストラクトがゲノム内に組み込まれた細胞を選択することを更に含む、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
選択された細胞を、分化全能性且つ機能的な新生仔を形成する能力を有する、除核した核移植ユニット細胞と融合させ、形成された細胞を得ることを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記除核した核移植ユニット細胞が卵母細胞又は胚性幹細胞、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
i)選択された細胞を分化中の非ヒト胚に注入し、又は、
ii)得られた細胞を適切な培地で培養し、得られた細胞をトランスジェニック非ヒト動物を産生するために同期させた受容者内に移す
ことを更に含む、請求項4~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記人工Ig遺伝子座が、ヒト及び非ヒトのIg遺伝子座の断片を含む、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記人工Ig遺伝子座が、少なくとも1つのヒトV遺伝子セグメントを含む、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記人工Ig遺伝子座が複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントを含み、ここで前記遺伝子セグメントが、少なくとも1つのV領域遺伝子セグメント、1又は2以上のJ遺伝子セグメント、1又は2以上のD遺伝子セグメント、及び、1又は2以上の定常領域遺伝子を含む、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記メガヌクレアーゼ標的配列が、J遺伝子セグメント及び定常領域遺伝子セグメントから選択される遺伝子セグメントの内部又は近傍に存在する、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が第二のメガヌクレアーゼの使用を更に含むと共に、前記第二のメガヌクレアーゼが、前記内在性Ig遺伝子座の内部又は近傍に存在する第二のメガヌクレアーゼ標的配列を認識し、前記第一のメガヌクレアーゼと共に、但し前記第一のメガヌクレアーゼの切断部位とは異なる部位で、前記内在性Ig遺伝子座を選択的に切断し、それにより少なくとも1つの内在性Ig遺伝子座を不活性化する、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法により得られうるトランスジェニック非ヒト動物であって、
i)少なくとも1つの調節可能なゲノム内メガヌクレアーゼ発現コンストラクト;及び、
ii)内在性Ig遺伝子座を置換した人工Ig遺伝子座を含み、
ここで前記動物は、ヒトイディオタイプを有する抗体を産生する能力を有する、トランスジェニック動物。
【請求項14】
前記動物が、鳥、齧歯動物、及びイタチから選択される、請求項13に記載のトランスジェニック動物。
【請求項15】
前記動物がラットである、請求項14に記載のトランスジェニック動物。
【請求項16】
インビトロでの標的化組み込みにおけるトランスジェニックベクターの使用であって、前記トランスジェニックベクターが、内在性Ig遺伝子座を標的する部位特異的メガヌクレアーゼをコードする核酸と、当該核酸に作動式に連結された誘導発現調節領域とを含み、ここで当該使用が、前記トランスジェニックベクターを受容非ヒト生殖細胞、非ヒト受精卵母細胞、又は非ヒト胚に導入し、これにより前記トランスジェニックベクターが前記生殖細胞、受精卵母細胞、又は胚のゲノムに組み込まれ、更に人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニックベクターを前記受容非ヒト生殖細胞、非ヒト受精卵母細胞又は非ヒト胚内に導入し、これにより前記人工遺伝子座が標的化組み込みにより受容非ヒト生殖細胞のゲノム、受精卵母細胞又は胚内に組み込まれる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
当該出願は、2007年6月1日に出願された米国特許仮出願番号第60/941,619号、及び2008年4月11日に出願された米国特許仮出願番号第61/044,324号に対する優先権を主張する。前記文献の全体を本明細書中に援用する。
【0002】
発明の概要
本発明は、1又は複数の不活性化された内在性免疫グロブリン遺伝子座を持つトランスジェニック動物、及びその製造方法に関する。本発明は、こうしたトランスジェニック動物を使用したヒト化及び完全なヒト抗体の製造のための組成物及び方法、並びにそうやって作り出された抗体にさらに関する。
【背景技術】
【0003】
抗体は、感染症、癌、アレルギー疾患、及び移植片‐対‐宿主疾患を含めた様々なヒトの病気及び病態の治療、並びに移植拒絶反応の予防にうまく使用された重要なクラスの医薬製品である。
【0004】
ヒト以外の免疫グロブリンの治療への適用に関連する1つの問題が、ヒト患者におけるその潜在的な免疫原性である。こうした調製物の免疫原性を低減するために、部分的なヒト(ヒト化)抗体及び完全なヒト抗体の製造のための様々なストラテジーが開発された。イディオタイプ領域内に抗原結合決定部位があり、そして、ヒト以外のイディオタイプが最新の抗体治療薬の免疫原性に関与すると考えられるので、ヒト以外の動物においてヒト・イディオタイプを持つトランスジェニック抗体を作り出す能力が特に望ましい。ヒト・イディオタイプは、モノクローナル抗体治療薬に関して特に重要な検討事項である、なぜなら、ポリクローナル抗体混合物によって低濃度にてデリバリーされる様々なイディオタイプと対照的に、比較的に高濃度にてデリバリーされる単独のイディオタイプから成るからである。
【0005】
ヒト以外の動物のヒト化トランスジェニック抗体を作り出すための多くのアプローチが記載されたが、多くのこうしたアプローチで遭遇する1つの重大な問題は、宿主動物においてトランスジェニック抗体に対して優先的であるか、又はそれと組み合わせた内在性抗体の産生である。様々な組み換えクローニング・スキームが、この問題に対処するために、宿主動物において内在性免疫グロブリン産生を妨害するための試みに使用された。しかしながら、免疫グロブリン遺伝子の機能的不活性化は、多くの脊椎動物種において多くの障害を示す。
【0006】
例えば、JH遺伝子座を欠失させたホモ接合突然変異マウスは、相同組み換えを使用することでうまく作り出されるが、ES細胞、又は内在性遺伝子座の不活化のために相同組み換えがおこなわれ得る継続維持可能な多能性細胞は、ほとんどの脊椎動物種から容易に入手できない。
【0007】
さらに、細胞表面発現を妨げるが、免疫グロブリンVDJ又はVJ遺伝子セグメントの生産的な再配列を妨げることはない突然変異は、内在性Ig発現を完全に不活化するには不十分である。これは、μ重鎖の膜エクソンを破壊したホモ接合突然変異マウス(いわゆる、μMTマウス)は、IgM又はIgGを産生できないが、有意量のIgAを産生し続けるという事実によって例示される(非特許文献1:Macpehrson et al. Nature Immunol 2(7): 625-631 (2001))。加えて、ヘテロ接合突然変異マウスの血清は、野生型対立遺伝子と突然変異μMT対立遺伝子の両方の対立遺伝子によってコードされたIgMとIgGを含んでいる(非特許文献2:Kitamura and Rajewky, Nature 356: 154-156 (1992))。これは、プロB細胞を作り出す、B細胞発生の経過の中の最初の再配列が両相同染色体上のDH-及びJH-セグメントの接合であるという事実に起因する。μMT/+マウスにおいて、プロB細胞が最初に突然変異IgH遺伝子座におけるその後のVH-DHJH接合を受け、且つ、その接合がフレーム内に存在する(「生産的」)場合、得られたプレB細胞は、分泌型のμ鎖を発現することはできるが、膜結合型μを形成することができない。膜結合型μ発現が対立遺伝子排除に必要なので、そのような細胞は、まだ野生型IgH遺伝子座におけるVH-DHJH接合を受けることができる;そして、この2番目の再配列もまた生産的である場合、その細胞は、その1つが膜結合型である、2つの異なるμ鎖を発現する。こうしたマウスの血清には、両方の対立遺伝子から得られたIgMが含まれる。加えて、スイッチングは、多くの場合、B細胞の両方のIgH遺伝子座において同時に誘発されるので、両方の対立遺伝子に由来するIgGが、こうしたマウスの血清中に見られる。
【0008】
不完全な対立遺伝子排除はまた、機能的なトランスジェニック免疫グロブリン遺伝子座、及び(再配列VDJ又はVJ遺伝子セグメントがまだ生産的であり得る)突然変異内在性免疫グロブリン遺伝子座を持つ動物でも観察される。一方又は両方の突然変異内在性遺伝子座においてVH-DHJHを再配列するB細胞は、再配列トランスジェニック免疫グロブリン遺伝子座がまだ生産的である場合がある。そのようなB細胞は、膜結合型トランスジェニック免疫グロブリンを発現し、そして、成熟B細胞に発達する。B細胞の発生中、突然変異内在性遺伝子座のアイソタイプ・スイッチングは、内在性免疫グロブリンを発現するB細胞をもたらす場合がある。従って、こうした突然変異は、トランスジェニック免疫グロブリン遺伝子座を用いた、動物の内在性免疫グロブリン発現の完全な不活性化には不十分である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macpehrson et al. Nature Immunol 2(7): 625-631 (2001)
【非特許文献2】Kitamura and Rajewky, Nature 356: 154-156 (1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
ヒト以外の動物におけるヒト化トランスジェニック抗体の産生に関連する重大な問題は、宿主における内在性抗体の優先的な産生又は同時産生である。この発明は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を持ち、且つ、内在性免疫グロブリンを産生する能力を欠くトランスジェニック動物を提供することによってこの問題を解決する。これらの動物は、ヒト化及び完全なヒト・トランスジェニック抗体の製造に非常に有用である。こうしたトランスジェニック動物を製造するのに使用される方法は、ES細胞又は継続維持可能な多能性細胞が、現在、容易に入手可能ではない種、及び相同組み換えや遺伝子ノックアウトが容易に行われない種を含めた多くの種で効果的である。
【0011】
本発明は、一つには、メガヌクレアーゼがヒト化及び完全なヒト・トランスジェニック抗体の製造に有用なトランスジェニック動物の製造のための内在性免疫グロブリン遺伝子座を機能上除去するために使用できるという知見から起こっている。さらに、異なるゲノム部位を標的とする2つの異なるメガヌクレアーゼが、免疫グロブリン遺伝子座の大半(最大で数kb)を効果的に削除するのに使用でき、その結果、その遺伝子座の完全な不活性化を確実にし、そして、生殖系列突然変異を担持するトランスジェニック動物が、内在性免疫グロブリン産生の能力があるあらゆるB細胞を産生しないことをさらに確実にする。
【0012】
従って、1つの側面において、本発明は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、内在性Ig遺伝子座を不活性した少なくとも1の生殖系列を持つトランスジェニック動物を提供する。本発明に使用される動物は、小さい実験動物、特に鳥類、齧歯動物類、及びイタチ類である。本発明に使用される人工遺伝子座は、少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。好ましい態様において、人工Ig遺伝子座は:(i)生殖系列をコードする少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを持つV領域、又は高頻度変異ヒトV領域アミノ酸配列;(ii)1又は複数のJ遺伝子セグメント;及び(iii)1又は複数の定常領域遺伝子を含んでなり、ここで、上記人工Ig遺伝子座は、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。
【0013】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、不活性化された内在性Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、不活性化された両内在性Ig重鎖遺伝子座を持つので、従って、機能的な内在性Ig重鎖遺伝子座を担持していない。
【0014】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、不活性化された内在性Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、不活性された両内在性Ig軽鎖遺伝子座を持つので、従って、機能的な内在性Ig軽鎖遺伝子座を担持していない。
【0015】
好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は機能的な内在性Ig重鎖遺伝子座と機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている。
【0016】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0017】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0018】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0019】
好ましい態様において、人工Ig遺伝子座は、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0020】
1つの態様において、人工Ig遺伝子座の1以上の定常領域遺伝子は、少なくとも1の非ヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、それは、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、キメラ免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記のキメラ免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ免疫グロブリンが含まれている。
【0021】
1つの態様において、人工Ig遺伝子座の1以上の定常領域遺伝子は、少なくとも1のヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、それは、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0022】
1つの側面において、本発明は、本発明のトランスジェニック動物の子孫を提供する。好ましい態様において、子孫は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化された生殖系列を持つ。
【0023】
1つの側面において、本発明は、不活性化された少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を産生する能力があるトランスジェニック動物を提供する。
【0024】
1つの態様において、こうしたトランスジェニック動物は、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物、好ましくは、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された誘導可能な発現制御部位を持つ構築物を含んでなる、ここで、上記のコードされたメガヌクレアーゼは、トランスジェニック動物の内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在しているメガヌクレアーゼ標的配列を認識する。トランスジェニック動物が性的に成熟であり、且つ、生育可能な生殖細胞を含んでなり、そして、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物が、その生存率を落とすことなしに、試験管内若しくは生体内において上述の生殖細胞の標的内在性Ig遺伝子座を不活性化するのに使用されるとき、Ig遺伝子座内に生殖細胞を担持するF1動物がそこから得られることを確実にする。
【0025】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座をさらに含んでなる。
【0026】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化されている生育可能な生殖細胞を含んでなるトランスジェニック動物を提供する。1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座をさらに含んでなる。
【0027】
1つの側面において、本発明は、本発明のトランスジェニック動物の製造方法を提供する。
【0028】
1つの態様において、本発明は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を持つトランスジェニック動物の製造方法を提供する。好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、内在性Ig軽鎖、及び/又は内在性Ig重鎖に関してヌル欠損のもの(nullizygous)である。
【0029】
好ましくは、内在性Ig遺伝子座は、親生殖細胞又は祖先の生殖細胞において、そこでのメガヌクレアーゼの発現によって、不活性化される。前記方法は、前記生殖細胞においてメガヌクレアーゼを産生するステップを含んでなる、ここで、前記メガヌクレアーゼは、選択的に内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在しているメガヌクレアーゼ標的配列を認識し、そして、生殖細胞内の標的Ig遺伝子座を不活性化し、その結果、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を製造する。少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つそのような生殖細胞は、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を持つ動物を製造するために使用される。1つの態様において、生殖細胞又はそれが組み合わせられるものは、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。1つの態様において、生殖細胞又はそれが組み合わせられるものは、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。1つの態様において、生殖細胞又はそれが組み合わせられるものは、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座と、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0030】
1つの態様において、前記方法は、生殖細胞内にメガヌクレアーゼ発現構築物又はメガヌクレアーゼをコードする核酸を導入するステップを伴う。
【0031】
好ましい態様において、前記生殖細胞は、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなり、その構築物は、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された発現制御領域を含んでなる。好ましい態様において、前記生殖細胞は、誘導性ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなり、そして、前記方法は、生殖細胞におけるメガヌクレアーゼをコードする核酸の発現を誘導するステップを伴う。1つの態様において、前記方法は、生殖細胞においてメガヌクレアーゼをコードする核酸の誘導性発現のステップを繰り返すステップを伴う。1つの態様において、誘導は、生体内において行われる。他の態様において、誘導は、試験管において行われる。1つの態様において、前記生殖細胞は、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなり、その構築物は、生殖細胞に特異的に活性を示す発現制御領域を含んでなる。
【0032】
結果として得られた生殖細胞は、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を持つF1動物を作出するのに使用できる。前記F1動物は、1又は複数の人工Ig遺伝子座を含んでもよく、又は少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなるこうした動物を作出すために交配されてもよい。
【0033】
代替の態様において、前記方法は、メガヌクレアーゼ発現構築物又はメガヌクレアーゼをコードする核酸を受精卵母細胞又は胎仔に導入し、そして、得られた創始動物において、少なくとも1の不活性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を作り出すステップを伴う。前記創始動物は、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を持つF1動物を作出するのに使用できる。前記F1動物は、1又は複数の人工Ig遺伝子座を含んでもよく、又は少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなるこうした動物を作出するために交配されてもよい。
【0034】
1つの態様において、前記メガヌクレアーゼ標的配列は、J遺伝子セグメント内又はその近位に存在している。
【0035】
1つの態様において、前記メガヌクレアーゼ標的配列は、免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメント内又はその近位に存在している。好ましい態様において、前記定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0036】
1つの態様において、前記方法は、生存率と内在性Ig遺伝子座の不活性化について生殖細胞をスクリーニングするステップを伴う。1つの態様において、前記方法は、人工Ig遺伝子座の存在について生殖細胞をスクリーニングするステップを伴う。
【0037】
本明細書中の方法では、動物の交配は、内在性Ig軽鎖、及び/又は内在性Ig重鎖に関してヌル欠損である動物を作出するために、不活性化された内在性遺伝子座を持つ動物の間でおこなうのが好ましい。
【0038】
好ましい態様において、前記方法は、第2のメガヌクレアーゼの使用をさらに含んでなる。前記第2のメガヌクレアーゼは、内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在している第2のメガヌクレアーゼ標的配列を認識し、そして、第1のメガヌクレアーゼと一緒だが、第1のメガヌクレアーゼのそれとは異なる部位にて内在性Ig遺伝子座を選択的に開裂し、その結果、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を不活性化する。
【0039】
好ましい態様において、前記生殖細胞は、第2のゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなり、その構築物は、第2のメガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された発現制御領域を含んでなる。好ましい態様において、前記発現制御部位は、誘導可能な発現制御部位であり、且つ、前記方法は、生殖細胞において第2のメガヌクレアーゼをコードする核酸の発現を誘導し、第1のメガヌクレアーゼと一緒に、コードされている第2のメガヌクレアーゼを産生させ、その生殖細胞の標的Ig遺伝子座を選択的に不活性化するステップを含んでなる。1つの態様において、前記方法は、生殖細胞において第2のメガヌクレアーゼをコードする核酸の誘導性発現のステップを繰り返すステップを伴う。1つの態様において、誘導は、生体内において行われる。1つの態様において、誘導は、試験管において行われる。1つの態様において、第2のゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物は、生殖細胞に特異的に活性を示す発現制御領域を含んでなる。
【0040】
代替の態様において、前記方法は、第2のメガヌクレアーゼ発現構築物又は第2のメガヌクレアーゼをコードする核酸を生殖細胞内に導入するステップを伴う。
【0041】
代替の態様において、前記方法は、第2のメガヌクレアーゼ発現構築物又は第2のメガヌクレアーゼをコードする核酸を受精卵母細胞又は胎仔に導入し、そして、得られた創始動物において、少なくとも1の不活性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を作り出すステップを伴う。前記創始動物は、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を持つF1動物を作出するのに使用できる。前記F1動物は、1又は複数の人工Ig遺伝子座を含んでもよく、又は少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなるこうした動物を作出するために交配されてもよい。
【0042】
好ましい態様において、前記の第1及び第2のメガヌクレアーゼは、J遺伝子セグメントを標的とする。1つの態様において、前記の第1及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、まとめると、内在性Ig遺伝子座内の1以上のJ遺伝子セグメントの上流や下流に存在し、そして、第1及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂は、1又は複数のJ遺伝子セグメントを含んでなるゲノムDNAセグメントの欠失を生じる。
【0043】
他の態様において、前記の第1及び第2のメガヌクレアーゼは、定常領域遺伝子セグメントを標的とする。1つの態様において、前記の第1及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、まとめると、1又は複数の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントの上流や下流に存在し、そして、第1及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂は、1又は複数の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントを含んでなるゲノムDNAセグメントの欠失を生じる。好ましい態様において、前記定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0044】
本明細書中の方法では、使用される人工遺伝子座は、少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。好ましい態様において、人工Ig遺伝子座は、(i)生殖系列をコードする少なくとも1のヒトV遺伝子セグメント、又は高頻度変異ヒトV領域アミノ酸性配列を持つV領域;(ii)1又は複数のJ遺伝子セグメント;及び(iii)1又は複数の定常領域遺伝子を含んでなる、ここで、上記人工Ig遺伝子座は、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。
【0045】
1つの態様において、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座が、本発明のトランスジェニック動物のゲノム内に組み込まれる。1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている。
【0046】
1つの態様において、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座が、本発明のトランスジェニック動物のゲノム内に組み込まれる。
【0047】
1つの態様において、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座、及び少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座が、本発明のトランスジェニック動物のゲノム内に組み込まれる。
【0048】
好ましい態様において、人工Ig遺伝子座は、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0049】
1つの態様において、人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1の非ヒト定常領域遺伝子を含んでなり、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、キメラ免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記のキメラ免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ免疫グロブリンが含まれている。
【0050】
1つの態様において、人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1のヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプ、及びヒト定常領域を持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0051】
1つの態様において、本発明のトランスジェニック動物の製造方法は、内在性Ig遺伝子座を不活性化された少なくとも1の生殖細胞系を持つトランスジェニック動物を、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を持つ第2のトランスジェニック動物と交配するステップを含んでなり、上記の少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、F1トランスジェニック動物を作出するために、(i)生殖系列をコードする少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを持つV領域、又は高頻度変異ヒトV領域アミノ酸配列;(ii)1又は複数のJ遺伝子セグメント;及び(iii)1又は複数の定常領域遺伝子を含んでなる、ここで、上記F1トランスジェニック動物は、第2のトランスジェニック動物の少なくとも1つの人工Ig遺伝子座で含んでなり、そして、ここで、上記第2のトランスジェニック動物からの人工Ig遺伝子座は、F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。交配は、動物育種によるか、又は試験管内操作を含めたその他の結合配偶子によって行われてもよい。
【0052】
1つの態様において、前記第2のトランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0053】
1つの態様において、前記第2のトランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0054】
1つの態様において、前記第1及び第2のトランスジェニック動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、そして、前記第2のトランスジェニック動物は、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。前記動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなるF1を作出するために交配され得る。
【0055】
1つの態様において、前記第2のトランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1つの人工Ig軽鎖遺伝子座を含めた、少なくとも2の人工Ig遺伝子座を含んでなる。1つの態様において、前記の第2のトランスジェニック動物の人工Ig遺伝子座は、F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記第2のトランスジェニック動物の人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1の非ヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、キメラ免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記のキメラ免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記第2のトランスジェニック動物の人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1のヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプとヒト定常領域を持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0056】
同様に、1つの態様において、前記方法は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を持つ第2のトランスジェニック動物を、不活性化された少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を産生する能力がある本発明のトランスジェニック動物と交配するステップを含んでなる。好ましい態様において、前記第2のトランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含めた、少なくとも2の人工Ig遺伝子座を含んでなる。
【0057】
1つの態様において、前記方法は、1又は複数のメガヌクレアーゼの活性によって不活性化された又は不活性化されることができる少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つ生殖細胞内に少なくとも1の人工Ig遺伝子座を導入するステップを含んでなり、ここで、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座が、(i)生殖系列をコードする少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを持つV領域、又は高頻度変異ヒトV領域アミノ酸配列;(ii)1以上のJ遺伝子セグメント;及び(iii)1以上の定常領域遺伝子を含んでなり、ここで、前記人工Ig遺伝子座は、生殖細胞に由来するトランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、人工免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記方法は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、そのように作出された生殖細胞からの1又は複数のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された、少なくとも1の生殖系列が不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つF1トランスジェニック動物を得るステップをさらに含んでなる。
【0058】
1つの態様において、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでいる。
【0059】
1つの態様において、前記生殖細胞は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、前記の生殖細胞内に導入された人工Ig遺伝子座は、Ig重鎖遺伝子座である。
【0060】
1つの態様において、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでいる。
【0061】
好ましい態様において、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含めた、少なくとも2の人工遺伝子座が、生殖細胞内に導入される。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座は、派生F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1の非ヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、派生F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、キメラ免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記のキメラ免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1のヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、派生F1トランスジェニック動物において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプとヒト定常領域を持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0062】
1つの態様において、前記方法は、生存率と内在性Ig遺伝子座の不活性化について生殖細胞をスクリーニングするステップを伴う。1つの態様において、前記方法は、人工Ig遺伝子座の存在について生殖細胞をスクリーニングするステップを伴う。
【0063】
1つの態様において、前記方法は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を、1又は複数のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された若しくは不活性化されることができる少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つ生殖細胞に由来する受精卵母細胞又は胎仔に導入するステップを含んでなる、ここで、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、(i)生殖系列をコードする少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを持つV領域、又は高頻度変異ヒト可変領域アミノ酸配列;(ii)1又は複数のJ遺伝子セグメント;及び(iii)1又は複数の定常領域遺伝子を含んでなり、ここで、前記人工Ig遺伝子座は、上記の受精卵母細胞又は胎仔に由来する創始トランスジェニック動物又はその子孫において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、人工免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記方法は、受精卵母細胞又は胎仔から創始トランスジェニック動物、及び、任意に、その子孫を得て、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、1又は複数のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された不活性化内在性Ig遺伝子座を持つ少なくとも1の生殖系列を持つトランスジェニック動物を得るステップをさらに含んでなる。
【0064】
1つの態様において、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでいる。
【0065】
1つの態様において、前記少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでいる。
【0066】
1つの態様において、前記の受精卵母細胞又は胎仔は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、そして、前記の受精卵母細胞又は胎仔に導入された人工Ig遺伝子座は、Ig重鎖遺伝子座である。
【0067】
好ましい態様において、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含めた、少なくとも2の人工遺伝子座が、受精卵母細胞又は胎仔に導入される。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座は、創始トランスジェニック動物又はその子孫において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1の非ヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、創始トランスジェニック動物又はその子孫において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、キメラ免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記のキメラ免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ免疫グロブリンが含まれている。1つの態様において、前記人工Ig遺伝子座の1又は複数の定常領域遺伝子は、少なくとも1のヒト定常領域遺伝子を含んでなり、そして、創始トランスジェニック動物又はその子孫において、機能的であり、且つ、遺伝子再配列を受けて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。前記の免疫グロブリンのレパートリーには、ヒト・イディオタイプとヒト定常領域を持つ免疫グロブリンが含まれている。
【0068】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化されている生育可能な生殖細胞を産生する能力があるトランスジェニック動物の製造方法を提供する。好ましい態様において、前記方法は、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を持つトランスジェニック動物を製造するステップを含んでなり、ここで、上記発現構築物は、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された発現制御領域を含んでなる。好ましい態様において、前記構築物は、生殖細胞においてメガヌクレアーゼをコードする核酸を発現するように誘導され得る誘導性ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物である。
【0069】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化されている生育可能な生殖細胞を持つトランスジェニック動物の製造方法を提供する。前記方法は、生殖細胞において、あるいは、親生殖細胞、又はそこから派生した受精卵母細胞若しくは胎仔において、そこでのメガヌクレアーゼの発現によって、内在性Ig遺伝子座を不活性化するステップを含んでなる。
【0070】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化されることができる生育可能な生殖細胞を提供する。好ましい態様において、前記生殖細胞は、ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなり、ここで、前記発現構築物は、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された発現制御領域を含んでなる。好ましい態様において、前記構築物は、生殖細胞においてメガヌクレアーゼをコードする核酸を発現するように誘導され得る誘導性ゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物である。
【0071】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0072】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0073】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0074】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の内在性Ig遺伝子座が不活性化されている生育可能な生殖細胞を提供する。
【0075】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0076】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0077】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなる。
【0078】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞の製造方法を提供する。前記方法は、生殖細胞、受精卵母細胞、又は胎仔において少なくとも1のメガヌクレアーゼを発現して、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を作出するステップを伴う。従って、そのように発現されたメガヌクレアーゼは、前述の内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在するメガヌクレアーゼ標的配列を認識する。
【0079】
1つの態様において、メガヌクレアーゼが生殖細胞内で発現されている場合、上記のメガヌクレアーゼが発現されている生殖細胞は、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞をもたらす。あるいは、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞は、メガヌクレアーゼが発現されている生殖細胞に由来する動物から得ることができる。
【0080】
1つの態様において、メガヌクレアーゼが受精卵母細胞又は胎仔において発現されている場合、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞は、上記のメガヌクレアーゼが発現された受精卵母細胞又は胎仔に由来する動物から得ることができる。
【0081】
1つの態様において、前記の少なくとも1の内在性Ig遺伝子座は、試験管内において不活性化される。1つの態様において、前記の少なくとも1の内在性Ig遺伝子座は、生体内において不活性化される。
【0082】
1つの態様において、前記生殖細胞は、少なくとも1の人工Ig遺伝子座をさらに含んでなる。1つの態様において、前記の少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を含んでいる。1つの態様において、前記の少なくとも1の人工Ig遺伝子座は、少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでいる。
【0083】
1つの態様において、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を含めた、少なくとも2の人工Ig遺伝子座が、生殖細胞に導入される。
【0084】
本発明はまた、1又は複数の人工遺伝子座を担持し、且つ、メガヌクレアーゼ活性によって不活性化された1以上の内在性Ig遺伝子座を持つ現在開示しているトランスジェニック動物における抗体の産生に端を発する、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ハイブリドーマ、並びにその製造方法及び使用方法も提供する。
【0085】
1つの態様において、前記抗体は、重鎖のみ抗体であり、その抗体は、本明細書中に記載した方法によって達成された、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工重鎖遺伝子座を含んでなるトランスジェニック動物を使用することで製造される。
【0086】
1つの側面において、本発明は、本明細書中に提供されたトランスジェニック動物を使用した抗体の製造方法を提供する。前記方法は、免疫原で、本発明のトランスジェニック動物を免疫するステップを含んでなり、その動物は、本明細書中に記載したように、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持ち、且つ、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を担持している。好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、内在性Ig重鎖、及び/又は内在性Ig軽鎖に関してヌル欠損である、従って、内在性免疫グロブリンを産生する能力がない。1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0087】
1つの側面において、本発明は、そのように製造されたポリクローナル抗血清組成物を提供する。本発明のポリクローナル抗血清は、ヒト・イディオタイプを持つ抗体を含むことが好ましい。好ましい態様において、ポリクローナル抗血清は、基本的に、ヒト・イディオタイプを持つ抗体から成る抗体を含んでなる。
【0088】
1つの側面において、本発明は、モノクローナル抗体の製造方法を提供する。
【0089】
1つの態様において、前記方法は、以下のステップ(i)本発明のトランスジェニック動物(その動物は、本明細書中に記載したように、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持ち、且つ、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を担持している)を、免疫原で免疫し;(ii)上記トランスジェニック動物からモノクローナル抗体産生細胞を単離し、ここで、上記モノクローナル抗体産生細胞は、免疫原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する;そして、(iii)上記モノクローナル抗体産生細胞を、免疫原に特異的に結合するモノクローナル抗体を製造するのに使用するか、又は、上記モノクローナル抗体産生細胞を、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を製造するのに使用し、そして、そのハイブリドーマ細胞をモノクローナル抗体を製造するのに使用する、を含んでなる。
【0090】
1つの態様において、前記方法は、以下のステップ(i)本発明のトランスジェニック動物(その動物は、本明細書中に記載したように、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持ち、且つ、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を担持している)を、免疫原で免疫し;(ii)上記トランスジェニック動物からモノクローナル抗体産生細胞を単離し、ここで、上記モノクローナル抗体産生細胞は、免疫原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する;(iii)上記モノクローナル抗体産生細胞から、免疫原に特異的に結合するモノクローナル抗体をコードするモノクローナル抗体核酸を単離し;そして、(iv)上記モノクローナル抗体核酸を使用して、免疫原に結合する特異的にモノクローナル抗体を製造する、を含んでなる。
【0091】
好ましい態様において、前記モノクローナル抗体は、ヒト・イディオタイプを持つ。
【0092】
1つの側面において、本発明は、そのように製造したモノクローナル抗体を提供する。
【0093】
1つの側面において、本発明は、こうしたモノクローナル抗体をコードする単離した核酸を提供する。
【0094】
1つの側面において、本発明は、完全ヒト・モノクローナル抗体の製造方法を提供する。前記方法は、以下のステップ(i)本発明のトランスジェニック動物(その動物は、本明細書中に記載したように、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持ち、且つ、少なくとも1の人工Ig遺伝子座を担持している)を、免疫原で免疫し;(ii)上記トランスジェニック動物からモノクローナル抗体産生細胞を単離し、ここで、上記モノクローナル抗体産生細胞は、免疫原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する;(iii)上記モノクローナル抗体産生細胞から、免疫原に特異的に結合するモノクローナル抗体をコードするモノクローナル抗体核酸を単離し;(iv)上記モノクローナル抗体核酸を修飾して、完全ヒト・モノクローナル抗体をコードする組み換え核酸を製造し;そして、(v)上記の完全ヒト・モノクローナル抗体をコードする組み換え核酸を使用して、コードされた完全ヒト・モノクローナル抗体を製造する、を含んでなる。
【0095】
1つの側面において、本発明は、そのように製造した完全ヒト・モノクローナル抗体を提供する。
【0096】
1つの側面において、本発明は、完全ヒト・モノクローナル抗体をコードする組み換え核酸、及びその製造方法を提供する。
【0097】
1つの態様において、本明細書中の方法で使用される免疫原は、疾患を引き起こす生物体又はその抗原性部分を含んでなる。
【0098】
1つの態様において、本明細書中の方法で使用される免疫原は、ヒトにとって内在性の抗原である。代替の態様において、本明細書中の方法で使用される免疫原は、ヒトにとって外来性の抗原である。
【0099】
1つの側面において、本発明は、人体成分により抗原性実体の活性を中和するか、又は調節するための方法を提供する。1つの態様において、前記方法は、人体成分を、本発明のポリクローナル抗血清組成物と接触させるステップを含んでなり、ここで、上記ポリクローナル抗血清組成物は、抗原性実体に特異的に結合し、そして、その活性を中和するか又は調節する免疫グロブリン分子を含んでなる。
【0100】
1つの態様において、前記方法は、人体成分を、本発明のモノクローナル抗体と接触させるステップを含んでなる、ここで、上記モノクローナル抗体は、抗原性実体に特異的に結合し、そして、その活性を中和するか又は調節する。
【0101】
好ましい態様において、前記モノクローナル抗体は、完全ヒト・モノクローナル抗体である。
【0102】
1つの態様において、前記抗原性実体は、感染症を引き起こす生物体からのものである。
【0103】
1つの態様において、前記抗原性実体は、細胞表面分子である。
【0104】
1つの態様において、前記抗原性実体は、ヒト・サイトカイン又はヒト・ケモカインである。
【0105】
1つの態様において、前記抗原性実体は、悪性癌細胞上の細胞表面分子である。
【0106】
1つの側面において、本発明は、本発明のトランスジェニック動物に由来する細胞を提供する。
【0107】
好ましい態様に、本発明は、本発明のトランスジェニック動物の脾臓に由来する細胞を提供する。
【0108】
好ましい態様において、本発明は、本発明のトランスジェニック動物に由来するB細胞を提供し、そのB細胞は、ヒト・イディオタイプを持つ抗体を産生する能力がある。
【0109】
好ましい態様に、本発明は、本発明のトランスジェニック動物に由来する生殖細胞を提供する。
【0110】
1つの側面において、本発明は、ヒト・イディオタイプを持つ抗体を産生する能力があるハイブリドーマの製造方法を提供する。前記方法は、本発明のトランスジェニック動物に由来する細胞の使用を含んでなる。
【0111】
1つの側面において、本発明は、そのように製造したハイブリドーマを提供する。
【0112】
1つの側面において、本発明は、ヒト・イディオタイプを持つ抗体を提供し、その抗体は、本発明のハイブリドーマによって産生される。
【0113】
1つの側面において、本発明は、本発明の抗体を含んでなる医薬組成物を提供し、その抗体は、ヒト・イディオタイプを持つ。
【0114】
1つの側面において、本発明は、治療を必要としている患者の治療方法であって、治療的に有効な量の本発明の医薬組成物を上記患者に投与するステップを含んでなる前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【
図1】ヒトV-、D-、及びJ-領域、ラット・イントロン・エンハンサ、及びいくつかの人工定常領域遺伝子から成る人工重鎖の略図を示す。人工定常領域遺伝子は、ヒトCH1ドメイン、並びにラットCH2、3、及び4ドメインをコードするエクソンを含む。膜貫通及び細胞質ポリペプチド配列は、ラット・エクソンによってコードされている。
【
図2】I-Scelと、認識配列の3’末端のDNAとの相互作用の図解である。
【
図3】I-Scel認識配列の5’末端と、I-Scelとの相互作用の図解である。
【
図4】(Nucleic Acids Res., 34, 4791-4800からの)I-Crelの配列認識機序の概要である。
【
図5】I-Crelの認識配列を変更するためのストラテジーの概略図である。
【
図6】ラットIgMをコードする配列に対して設計されたジンクフィンガー・タンパク質(ZFP)を細胞内で発現させ、染色体DNAを調製し、そして、IgM遺伝子座の適切な領域をPCR法により増幅した。反応生成物を、ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動によって分析した。上記の図は、開裂活性を実証する代表的な例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0116】
「人工免疫グロブリン遺伝子座」は、少なくとも1の可変領域(V)遺伝子セグメント、1又は複数のJ遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合には1以上のD遺伝子セグメント、及び1又は複数の定常領域遺伝子セグメントを含めた複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントを含む、ヒト及び非ヒト免疫グロブリン遺伝子座の断片を含んでなる免疫グロブリン遺伝子座を意味する。本発明において、V遺伝子セグメントの少なくとも1つは、生殖系列又は高頻度変異ヒト可変領域アミノ酸配列をコードする。好ましい態様において、本発明の人工免疫グロブリン遺伝子座は、機能的であり、且つ、再配列されて、免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。好ましい態様において、少なくとも1のD遺伝子セグメントが、ヒトD遺伝子セグメントである。「人工Ig遺伝子座」は、本明細書中では、再配列されていない遺伝子座、部分的に再配列された遺伝子座、及び再配列された遺伝子座を指す。人工Ig遺伝子座は、人工Ig軽鎖遺伝子座と人工Ig重鎖遺伝子座を含んでいる。1つの態様において、人工Ig遺伝子座は、非ヒトC域遺伝子を含んでなり、そして、非ヒトC領域を持つキメラ免疫グロブリンを含めた免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。1つの態様において、人工Ig遺伝子座は、ヒトC域遺伝子を含んでなり、そして、ヒトC領域を持つ免疫グロブリンを含めた免疫グロブリンのレパートリーを産生する能力がある。1つの態様において、人工Ig遺伝子座は、「人工定常領域遺伝子」を含んでなり、それは、ヒト及び非ヒト定常領域遺伝子に由来するヌクレオチド配列を含んでなる定常領域遺伝子を意味する。例えば、代表的な人工C定常領域遺伝子は、ヒトIgG CH1ドメイン、並びにラットIgG CH2及びCH3ドメインをコードする定常領域遺伝子である。
【0117】
いくつかの態様において、人工Ig重鎖遺伝子座は、CH1、又は結果として得られた免疫グロブリンが代表的な免疫グロブリン:シャペロン結合を回避することを可能にする同等な配列を欠いている。こうした人工遺伝子座は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、したがって、機能的なIg軽鎖を発現しないトランスジェニック動物において重鎖のみ抗体の産生を提供する。こうした人工Ig重鎖遺伝子座は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなるトランスジェニック動物を作り出すための本明細書中の方法において使用される。前記動物は、重鎖のみ抗体を産生する能力がある。あるいは、人工Ig遺伝子座は、CH1又は同等な領域を破壊し、そして、重鎖のみ抗体の製造のために提供される人工Ig重鎖遺伝子座を産生するように現場(in situ)において操作されてもよい。軽鎖欠損マウスにおける重鎖のみ抗体の製造に関して、例えば、Zou et al., JEM, 204: 3271-3283, 2007を参照のこと。
【0118】
「ヒト・イディオタイプ」は、免疫グロブリンV遺伝子セグメントによってコードされたヒト抗体上に存在するポリペプチド配列を意味している。「ヒト・イディオタイプ」という用語は、本明細書中では、ヒト抗体の天然に存在する配列、並びに天然に存在するヒト抗体に見られるポリペプチドと実質的に同一な合成配列の双方を含む。「実質的に」は、アミノ酸配列同一性の度合いが少なくとも約85%~95%であることを意味する。好ましくは、アミノ酸配列同一性の度合いは、90%超であり、より好ましくは、95%超である。
【0119】
「キメラ抗体」又は「キメラ免疫グロブリン」は、ヒト免疫グロブリン・ポリペプチド配列の一部(又はヒトIg遺伝子セグメントによってコードされるポリペプチド配列)と、非ヒト免疫グロブリン・ポリペプチド配列の一部を含んでなる免疫グロブリン分子を意味する。本発明のキメラ免疫グロブリン分子は、非ヒトFc領域又は人工Fc領域、及びヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンである。こうした免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン分子を産生するために設計された本発明の動物から単離される。
【0120】
「人工Fc領域」は、人工定常領域遺伝子によってコードされたFc領域を意味する。
【0121】
「Ig遺伝子セグメント」という用語は、本明細書中では、Ig分子の様々な部分をコードするDNAのセグメントを指し、それは、ヒト以外の動物及びヒトの生殖系列に存在し、そして、B細胞において接合されて、再配列Ig遺伝子を形成する。よって、Ig遺伝子セグメントは、本明細書中では、V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント、J遺伝子セグメント、及びC領域遺伝子セグメントを含んでいる。
【0122】
「ヒトIg遺伝子セグメント」という用語は、本明細書中では、ヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列、ヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列の変性型、並びにヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列によってコードされたポリペプチドと実質的に同一なポリペプチド配列をコードする合成配列の双方を含んでいる。「実質的に」は、アミノ酸配列同一性の度合いが、少なくとも約85%~95%であることを意味する。好ましくは、アミノ酸配列同一性の度合いは、90%超であり、より好ましくは95%超である。
【0123】
「メガヌクレアーゼ」は、DNAにおいて、好ましくは少なくとも12ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも13ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも14ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも16ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、そして、最も好ましくは少なくとも18ヌクレオチドの長さの長い認識部位を認識するエンドデオキシリボヌクレアーゼを意味する。メガヌクレアーゼには、ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ、天然に存在するホーミング・エンドヌクレアーゼ、カスタム遺伝子操作されたジンクフィンガー・ヌクレアーゼ、及びホーミング・エンドヌクレアーゼが含まれる。本発明における使用に必要であるのは、メガヌクレアーゼが、機能的な突然変異をメガヌクレアーゼの作用によってIg遺伝子座内に導入できるように、対象動物の内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在するメガヌクレアーゼ標的配列を認識することである。メガヌクレアーゼに関するより多くの考察は、例えば、米国特許出願公開番号第20060206949号、同第20060153826号、同第20040002092号、同第20060078552号、及び同第20050064474号を参照のこと。
【0124】
変更された特異性を有するジンクフィンガー・ヌクレアーゼは、個々のジンクフィンガーを異なるトリプレット標的と組み合わせることによって製造できる。天然に存在するホーミング・エンドヌクレアーゼの特異性は、構造ベースのタンパク質工学によって変更できる。例えば、Proteus and Carroll, nature biotechnology 23(8): 967-97, 2005を参照のこと。
【0125】
「Ig遺伝子座が不活性化された生殖系列」又は「内在性Ig遺伝子座が不活性化された生殖系列」又は「内在性Ig遺伝子座における生殖系列変異」を持つ動物は、あらゆる細胞、すなわち、あらゆる体細胞及び生殖細胞に不活性化された内在性Ig遺伝子座がある。本発明において、遺伝子座が不活性化された生殖系列を持つ動物は、その結果として得られる動物又はその祖先をもたらす生殖細胞におけるメガヌクレアーゼの作用によって達成される突然変異によって作出される。
【0126】
不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞及びトランスジェニック動物の製造
【0127】
本発明では、メガヌクレアーゼは、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を作出するために、内在性Ig遺伝子座を不活性化するのに使用される。前記方法は、生殖細胞、受精卵母細胞、又は胎仔において少なくとも1のメガヌクレアーゼを発現させて、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞を作出するステップを伴う。そうやって発現されたメガヌクレアーゼは、対象動物の内在性Ig遺伝子座内又はその近位に存在しているメガヌクレアーゼ標的配列を認識する。
【0128】
1つの態様において、メガヌクレアーゼが生殖細胞内で発現される場合、その中でメガヌクレアーゼが発現されている生殖細胞は、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞をもたらす。あるいは、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞は、メガヌクレアーゼが発現された生殖細胞に由来する動物から得ることができる。
【0129】
1つの態様において、メガヌクレアーゼが受精卵母細胞又は胎仔において発現される場合、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞は、メガヌクレアーゼが発現された受精卵母細胞又は胎仔から得られる動物から得ることができる。
【0130】
本発明はまた、内在性Ig遺伝子座が不活性化された少なくとも1の生殖系列を含んでなるトランスジェニック動物の製造方法も提供する。前記方法は、本明細書中の方法に従って製造した少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞からトランスジェニック動物を得るステップを含んでなる。
【0131】
1つの態様において、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞は、人工Ig遺伝子座をさらに含んでなり、そして、そのように作出されたトランスジェニック動物は、人工Ig遺伝子座を含んでなる。
【0132】
1つの態様において、前記方法は、そこから誘導された少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞、又はその生殖細胞の子孫、若しくはそれらに由来する受精卵母細胞や胎仔の中に人工Ig遺伝子座を導入するステップをさらに含んでなって、そのように作出されたトランスジェニック動物は、人工Ig遺伝子座を含んでなる。
【0133】
1つの態様において、前記方法は、少なくとも1の不活性化された内在性Ig遺伝子座を持つ生育可能な生殖細胞、又はその生殖細胞子孫を、人工Ig遺伝子座を含んでなる配偶子と結合させるステップを含んでなり、そして、そのように作出されたトランスジェニック動物は、人工Ig遺伝子座を含んでなる。
【0134】
内在性Ig遺伝子座の不活性化
【0135】
内在性Ig遺伝子座の不活性化は、対象動物にとって内在性の重鎖、及び/又は軽鎖遺伝子座内の免疫グロブリン遺伝子断片に特異的なメガヌクレアーゼを使用して行われる。1つの態様において、二本鎖切断は、生殖細胞、受精卵母細胞、又は胎仔の中へのメガヌクレアーゼの注入によって誘発することができる。あるいは、メガヌクレアーゼをコードし、そして、生殖細胞、受精卵母細胞、又は胎仔において発現する能力がある発現ベクター又は核酸が、その中に注入されてもよい。
【0136】
1つの態様において、前記方法は、試験管内又は生体内において、生殖細胞(それは、精原幹細胞などのその前駆体を含むことができる)に、メガヌクレアーゼをコードする核酸又は発現構築物を形質移入するステップを伴う。例えば、Ryu et al., J. Androl., 28: 353-360, 2007;Orwig et al., Brol. Report, 67: 874-879, 2002を参照のこと。
【0137】
好ましい態様において、メガヌクレアーゼ発現構築物は、対象動物のゲノム内に組み込まれる。生殖細胞におけるメガヌクレアーゼをコードする導入遺伝子の発現は、内在性Ig遺伝子座の二本鎖切断と、それに続く、制限部位の突然変異を結果として生じるだろう。トランスジェニック動物の交配は、突然変異/不活性化された免疫グロブリン遺伝子座を持つ子孫をもたらす。
【0138】
本発明の非常に好ましい態様において、調節可能なメガヌクレアーゼ発現構築物が、対象動物のゲノム内に組み込まれる。その調節可能な構築物は、生殖細胞において誘導性である。こうした構築物は、誘導性プロモータ、例えば、熱誘導性プロモータ、放射線照射誘導性プロモータ、テトラサイクリン・オペロン、ホルモン誘導性プロモータ、及びトランス活性化因子の二量体化によって誘導できるプロモータ等、を介した制御された発現を通じて、特定のメガヌクレアーゼの発現に関連する細胞傷害効果の最少化を提供する。例えば、Vilaboa et al., Current Gene Therapy, 6: 421-438, 2006を参照のこと。
【0139】
あるいは、メガヌクレアーゼ発現は、前記生殖細胞に由来する胎仔において誘導されるかもしれない。
【0140】
1つの態様において、単一のメガヌクレアーゼが、生殖細胞において発現される、ここで、上記メガヌクレアーゼは、対象動物の生殖細胞にとって内在性の免疫グロブリン遺伝子座内又はその近位の標的配列を認識する。好ましい態様において、前記メガヌクレアーゼ標的配列は、J遺伝子セグメント内又はその近位に存在する。別の好ましい態様において、前記メガヌクレアーゼ標的配列は、免疫グロブリン定常領域遺伝子内又はその近位に存在する。好ましい態様において、免疫グロブリン定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0141】
好ましい態様において、異なる標的配列を有する少なくとも2つのメガヌクレアーゼが使用される。前記の少なくとも2のメガヌクレアーゼが、生殖細胞において発現される、ここで、上記メガヌクレアーゼは、対象動物の生殖細胞にとって内在性の免疫グロブリン遺伝子座内又はその近位の異なる標的配列を認識する。
【0142】
好ましい態様において、第1及び第2のメガヌクレアーゼは、J遺伝子セグメントを標的とする。1つの態様において、第1及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、まとめると、内在性Ig遺伝子座の中の1以上のJ遺伝子セグメントの上流と下流に存在し、そして、第1及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂が、1又は複数のJ遺伝子セグメントを含んでなるゲノムDNAセグメントの欠失を生じる。
【0143】
他の態様において、第1と第2のメガヌクレアーゼは、定常領域遺伝子セグメントを標的とする。1つの態様において、第1及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、まとめると、1又は複数の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントの上流と下流に存在し、そして、第1及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂は、1又は複数の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントを含んでなるゲノムDNAセグメントの欠失を生じる。好ましい態様において、前記定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0144】
1つの態様において、内在性Ig重鎖、及び/又はIg軽鎖遺伝子座の全体、あるいは、その大部分が、対象動物のゲノムから削除される。こうした動物はまた、不活性化された内在性遺伝子座を含んでなるとも言われる。
【0145】
1つの態様において、少なくとも1のメガヌクレアーゼが、内在性Ig重鎖遺伝子座のCH1領域を妨害し、代表的な免疫グロブリン:シャペロン結合を回避する、無傷のままの、且つ、Ig重鎖を産生する能力がある遺伝子座の残りの部分を残すために使用される。好ましくは、このCH1ターゲッティングは、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている動物で行われる。こうした動物におけるこうしたターゲッティングは、重鎖のみ抗体を製造するために有用である。
【0146】
1つの態様において、2以上のメガヌクレアーゼが、Ig重鎖遺伝子座の中のCH1を標的とするのに使用される。
【0147】
1つの態様において、2のメガヌクレアーゼが認識する隣接した部位が、使用される。1つの態様において、前記部位は、パリンドロームの要素である。1つの態様において、前記の2のメガヌクレアーゼは、リンカーによって連結される。
【0148】
好ましい態様において、使用される育種ストラテジーは、内在性Ig軽鎖、及び/又は内在性Ig重鎖についてヌル欠損である動物を得るように設計される。
【0149】
調節可能なゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなるトランスジェニック動物
【0150】
1つの側面において、本発明は、少なくとも1の調節可能なゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなるトランスジェニック動物を提供する。
【0151】
前記トランスジェニック動物は、小型実験動物、特に、鳥類(ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、アヒル、キジ、又はガチョウ等)、齧歯動物類(例えば、ラット、ハムスター、及びモルモット)、及びイタチ類(例えば、フェレット)から選択される。
【0152】
好ましい態様において、調節可能なゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物は、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された誘導性発現制御部位を含んでなる。前記誘導性発現制御部位は、特定のトランスジェニック動物の生殖細胞において誘導性について機能的であり、そして、前記のコードされたメガヌクレアーゼは、対象動物の内在性免疫グロブリン遺伝子座内又はその近位に位置しているメガヌクレアーゼ標的配列に対して選択的である。
【0153】
調節可能なメガヌクレアーゼ発現構築物は、誘導性プロモータ、例えば、熱誘導性プロモータ、放射線照射誘導性プロモータ、テトラサイクリン・オペロン、ホルモン誘導性プロモータ、及びトランス活性化因子の二量体化によって誘導できるプロモータ等、を介して制御される発現を通じて、特定のメガヌクレアーゼの発現に関連した細胞傷害効果の最少化を提供する。
【0154】
好ましい態様において、本発明のトランスジェニック動物は、2つの異なる標的配列を認識する2つの異なるメガヌクレアーゼをコードする2つの異なる核酸を含んでなる2つの調節可能なゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなる。組み合わせた2つのメガヌクレアーゼは、内在性Ig遺伝子座のゲノムDNAセグメントを削除し、それによって、内在性Ig遺伝子座を不活性化するように機能する。
【0155】
少なくとも1の調節可能なゲノム・メガヌクレアーゼ発現構築物を含んでなるトランスジェニック動物は、当該技術分野で周知の手段によって製造できる。例えば、メガヌクレアーゼをコードする核酸に作動できるように連結された誘導性発現制御部位を含むトランスジェニック・ベクターが、(単数若しくは複数の)受容細胞内に導入され、その後、ランダム組み込み又は標的組み込みによって上記の(単数若しくは複数の)受容細胞のゲノム内に組み込まれることができる。
【0156】
ランダム組み込みについて、こうしたトランスジェニック・ベクターは、標準的なトランスジェニック技術によって受容細胞内に導入できる。例えば、トランスジェニック・ベクターは、受精卵母細胞の前核に直接的に注入できる。トランスジェニック・ベクターはまた、卵母細胞の受精前の、精液とトランスジェニック・ベクターとの同時インキュベーションによっても導入できる。トランスジェニック動物は、受精卵母細胞から発生させることができる。トランスジェニック・ベクターを導入する別の方法は、胚幹細胞又は他の多能性細胞(例えば、始原生殖細胞)に形質移入し、それに続いて、その遺伝子組み換え細胞を発生中の胚の中に注入するステップによる方法である。あるいは、(裸の、又は促進試薬と組み合わせて)トランスジェニック・ベクターは、発生中の胚内に直接的に注入される。他の態様において、前記トランスジェニック・ベクターは、細胞のゲノム内に導入され、そして、動物は、核移植クローニングによるトランスフェクト細胞に由来する。
【0157】
標的組み込みについて、そのようなトランスジェニック・ベクターは、胚幹細胞又は既に分化した体細胞などの適切な受容細胞内に導入できる。その後、導入遺伝子が相同組み換えによって標的部位にて動物ゲノム内に組み込まれた細胞は、標準的な方法によって選定できる。選定された細胞は、その後、除核した核移植ユニット細胞、例えば、卵母細胞又は胚幹細胞、分化全能性であり、且つ、機能的な新生仔を形成する能力がある細胞、に融合されてもよい。融合は、十分に確立された従来型の手法に従って実施される。例えば、Cibelli et al., Science (1998) 280: 1256 Zhou et al., Science (2003) 301: 1179を参照のこと。卵母細胞の除核と核移植はまた、注入ピペットを使用した顕微鏡手術によっても実施される(例えば、Wakayama et al., Nature (1998) 394: 369を参照のこと)。得られた細胞は、次に、適切な培地中で培養され、そして、トランスジェニック動物を作出するために同期させた受容細胞内に移す。あるいは、前記の選定された遺伝子組み換え細胞が、発生中の胚内に注入されることもある。
【0158】
1つの態様において、メガヌクレアーゼは、二本鎖DNA開裂を通じて標的部位における相同組み換えの頻度を増加させるために使用される。
【0159】
人工Ig遺伝子座を含んでなり、且つ、ヒト・イディオタイプを持つ抗体を産生する能力があるトランスジェニック動物
【0160】
1つの側面において、本発明は、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンを産生する能力があるトランスジェニック動物、並びにその製造方法を提供する。
【0161】
使用されるトランスジェニック動物は、特に、鳥類(ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、アヒル、キジ、又はガチョウ等)、齧歯動物類(例えば、ラット、ハムスター、及びモルモット)、及びイタチ類(例えば、フェレット)から選択される。
【0162】
本発明におけるヒト化抗体産生に使用されるトランスジェニック動物は、1又は複数のメガヌクレアーゼの活性によって達成された内在性Ig遺伝子座における生殖系列突然変異を担持している。好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、内在性Ig重鎖、及び/又は内在性Ig軽鎖についてヌル欠損である。さらに、これらの動物は、機能的であり、且つ、トランスジェニック動物において免疫グロブリン分子のレパートリーを産生する能力がある少なくとも1の人工Ig遺伝子座を担持している。本発明に使用される人工Ig遺伝子座は、少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを含んでいる。
【0163】
好ましい態様において、トランスジェニック動物は、それぞれ機能的であり、且つ、トランスジェニック動物において免疫グロブリン分子のレパートリーを産生する能力がある、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座と少なくとも1の人工Ig軽鎖遺伝子座を担持している。前記の免疫グロブリン分子のレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ抗体が含まれている。1つの態様において、少なくとも1の非ヒトC遺伝子を含む人工遺伝子座が使用され、そして、ヒト・イディオタイプと非ヒト定常領域を持つキメラ抗体を産生する能力がある動物が提供される。1つの態様において、少なくとも1のヒトC遺伝子を含む人工遺伝子座が使用され、そして、ヒト・イディオタイプとヒト定常領域を持つ抗体を産生する能力がある動物が提供される。
【0164】
他の好ましい態様において、前記トランスジェニック動物は、少なくとも1の人工Ig重鎖遺伝子座を担持し、且つ、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている。こうした動物が重鎖のみ抗体の製造に役立つことが分かった。
【0165】
こうしたトランスジェニック動物の製造は、1又は複数のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された又は不活性化される少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つトランスジェニック動物のゲノム内への1又は複数の人工重鎖Ig遺伝子座と1又は複数の人工軽鎖Ig遺伝子座の組み込みを伴う。好ましくは、前記トランスジェニック動物は、内在性Ig重鎖、及び/又は内在性Ig軽鎖についてヌル欠損であり、従って、内在性免疫グロブリンを産生する能力がない。染色体位置にかかわらず、本発明の人工Ig遺伝子座には、遺伝子再配列を受けて、その結果、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力がある。遺伝子再配列を受ける能力があるIg遺伝子座はまた、本明細書中、「機能的な」Ig遺伝子座とも呼ばれ、そして、機能的なIg遺伝子座によって産生される多様性を有する抗体はまた、本明細書中、「機能的な」抗体又は抗体の「機能的な」レパートリーとも呼ばれる。
【0166】
そのようなトランスジェニック動物を作出するために使用される人工遺伝子座は、それぞれ、複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントを含んでいる。前記の複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントは、少なくとも1のV領域遺伝子セグメント、1又は複数のJ遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合には、1又は複数のD遺伝子セグメント、及び1又は複数の定常領域遺伝子を含んでいる。本発明において、少なくとも1のV遺伝子セグメントは、生殖系列又は高頻度変異ヒト可変領域アミノ酸配列をコードする。従って、こうしたトランスジェニック動物には、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力があり、その免疫グロブリン分子の様々なレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ抗体が含まれている。
【0167】
1つの態様において、使用される人工遺伝子座は、少なくとも1の非ヒトC領域遺伝子セグメントを含んでなる。従って、こうしたトランスジェニック動物には、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力があり、その免疫グロブリン分子の様々なレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つキメラ抗体が含まれている。
【0168】
1つの態様において、使用される人工遺伝子座は、少なくとも1のヒトC領域遺伝子セグメントを含んでなる。従って、こうしたトランスジェニック動物には、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力があり、その免疫グロブリン分子の様々なレパートリーには、ヒト・イディオタイプとヒト定常領域を持つ抗体が含まれている。
【0169】
1つの態様において、使用される人工遺伝子座は、少なくとも1の人工定常領域遺伝子を含んでなる。例えば、代表的な人工C定常領域遺伝子は、ヒトIgG CH1ドメイン、並びにラットIgG CH2及びCH3ドメインをコードする定常領域遺伝子である。従って、こうしたトランスジェニック動物には、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力があり、その免疫グロブリン分子の様々なレパートリーには、ヒト・イディオタイプ、及びヒト成分と非ヒト成分の両方を含んでなる人工定常領域を持つ抗体が含まれている。
【0170】
人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニック・ベクターは、(単数若しくは複数の)受容細胞の中に導入され、その後、ランダム組み込み又は標的組み込みによって(単数若しくは複数の)受容のゲノム内に組み込まれる。
【0171】
ランダム組み込みについて、人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニック・ベクターは、標準的なトランスジェニック技術によって受容細胞内に導入できる。例えば、トランスジェニック・ベクターは、受精卵母細胞の前核に直接的に注入できる。トランスジェニック・ベクターはまた、卵母細胞の受精前の、精液とトランスジェニック・ベクターとの同時インキュベーションによっても導入できる。トランスジェニック動物は、受精卵母細胞から発生させることができる。トランスジェニック・ベクターを導入する別の方法は、胚幹細胞又は他の多能性細胞(例えば、始原生殖細胞)に形質移入し、それに続いて、その遺伝子組み換え細胞を発生中の胚の中に注入するステップによる方法である。あるいは、(裸の、又は促進試薬と組み合わせて)トランスジェニック・ベクターは、発生中の胚内に直接的に注入される。結局、キメラ・トランスジェニック動物は、トランスジェニック動物の少なくともいくつかの体細胞のゲノム内に組み込まれた人工Ig導入遺伝子を含む胎仔から作出される。他の態様において、前記トランスジェニック・ベクターは、細胞のゲノム内に導入され、そして、動物は、核移植クローニングによるトランスフェクト細胞に由来する。
【0172】
好ましい態様において、人工Ig遺伝子座を含む導入遺伝子は、(受精卵母細胞又は発生中の胚などの)受容細胞のゲノム内にランダムに組み込まれる。前記受容細胞は、1以上のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つ動物に由来する。あるいは、人工免疫グロブリン遺伝子座を担持しているトランスジェニック動物を、1又は複数のメガヌクレアーゼの作用によって不活性化された少なくとも1の内在性Ig遺伝子座を持つトランスジェニック動物と交配することもできる。使用される特定の方法にかかわらず、好ましい態様において、内在性Ig重鎖、及び/又はIg軽鎖についてヌル欠損であり、従って、内在性免疫グロブリンを産生する能力がなく、且つ、トランスジェニック免疫グロブリンを産生する能力がある子孫が得られる。
【0173】
標的組み込みについて、トランスジェニック・ベクターは、胚幹細胞、他の多能性細胞、又は既に分化した体細胞などの適切な受容細胞内に導入できる。その後、導入遺伝子が動物ゲノム内に組み込まれ、そして、相同組み換えによって対応する内在性Ig遺伝子座を置き換えた細胞は、標準的な方法によって選定できる。選定された細胞は、その後、除核した核移植ユニット細胞、例えば、卵母細胞又は胚幹細胞、分化全能性であり、且つ、機能的な新生仔を形成する能力がある細胞、に融合されてもよい。融合は、十分に確立された従来型の手法に従って実施される。例えば、Cibelli et al., Science (1998) 280: 1256 Zhou et al., Science (2003) 301: 1179を参照のこと。卵母細胞の除核と核移植はまた、注入ピペットを使用した顕微鏡手術によっても実施される(例えば、Wakayama et al., Nature (1998) 394: 369を参照のこと)。得られた細胞は、次に、適切な培地中で培養され、そして、トランスジェニック動物を作出するために同期させた受容細胞内に移す。あるいは、前記の選定された遺伝子組み換え細胞が、その後成長してキメラ動物になる発生中の胚内に注入されることもある。
【0174】
1つの態様において、メガヌクレアーゼは、二本鎖DNA開裂を通じて標的部位における相同組み換えの頻度を増加させるために使用される。内在性免疫グロブリン遺伝子座内への組み込みのために、部位特異的なメガヌクレアーゼを使用できる。1つの態様において、内在性Ig遺伝子座を標的とするメガヌクレアーゼは、人工Ig遺伝子座又はその一部による、内在性Ig遺伝子座又はその一部の相同組み換え及び置き換えの頻度を増加させるのに使用される。
【0175】
1つの態様において、前記トランスジェニック動物は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。
【0176】
人工Ig遺伝子座
【0177】
本発明は、人工Ig遺伝子座、及びヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンを産生する能力があるトランスジェニック動物を作出する際の人工Ig遺伝子座の使用にさらに向けられる。
【0178】
それぞれの人工Ig遺伝子座は、少なくとも1のV領域遺伝子セグメント、1又は複数のJ遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合には、1又は複数のD遺伝子セグメント、及び1又は複数の定常領域遺伝子を含めた複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントを含んでなる。本発明において、少なくとも1つのV遺伝子セグメントは、生殖系列又は高頻度変異ヒト可変領域アミノ酸配列をコードする。従って、こうしたトランスジェニック動物には、免疫グロブリン分子の様々なレパートリーを産生する能力があり、その免疫グロブリン分子の様々なレパートリーには、ヒト・イディオタイプを持つ抗体が含まれている。重鎖遺伝子座において、ヒト又は非ヒト由来D遺伝子セグメントは、人工Ig遺伝子座を含むことができる。こうした遺伝子座内の遺伝子セグメントは、再配列されていない立体配位(又は「生殖系列立体配置」)又は部分的に若しくは完全に再配列された立体配位において互いに対して並置される。人工Ig遺伝子座は、対象動物において(遺伝子セグメントが完全に再配列されていない場合に)遺伝子再配列を受け、それによって、ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンの様々なレパートリーを産生する能力がある。
【0179】
プロモータ、エンハンサ、スイッチ領域、組み換えシグナル等のような調節エレメントは、ヒト又は非ヒト起源のものであってもよい。必要なことは、人工遺伝子座が機能的である状態にするために、前記要素が、関係している動物種において作動できるということである。
【0180】
1つの側面において、本発明は、宿主動物において遺伝子再配列を受け、それにより、ヒト・イディオタイプを持つ重鎖の様々なレパートリーを産生する能力がある人工重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック構築物を提供する。導入遺伝子の中の人工重鎖遺伝子座は、少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを有するV領域を含んでいる。好ましくは、前記V領域は、少なくとも約5~100のヒト重鎖V(又は「VH」)遺伝子セグメントを含んでいる。先に記載したように、ヒトVHセグメントは、ヒトVH遺伝子セグメントの天然に存在する配列、ヒトVH遺伝子セグメントの天然に存在する配列の変性型、並びにヒト重鎖Vドメイン・ポリペプチドと実質的に(すなわち、少なくとも約85%~95%)同一のポリペプチド配列をコードする合成配列を網羅する。
【0181】
好ましい態様において、前記人工重鎖遺伝子座は、少なくとも1又は複数のラット定常領域遺伝子、例えば、Cδ、Cμ、又は(Cγサブクラスのいずれかを含めた)Cγを含んでいる。
【0182】
他の好ましい態様において、前記人工重鎖遺伝子座は、人工定常領域遺伝子を含んでいる。好ましい態様において、こうした人工定常領域遺伝子は、ヒトCH1ドメイン、並びにラットCH2及びCH3ドメイン、又はヒトCH1、並びにラットCH2、CH3、及びCH4ドメインをコードする。ヒトCH1ドメインとのハイブリッド重鎖は、完全なヒト軽鎖と効果的に対になる。
【0183】
他の好ましい態様において、前記人工重鎖遺伝子座は、CH1ドメインを欠いている人工定常領域遺伝子を含んでいる。好ましい態様において、こうした人工定常領域遺伝子は、CH1ドメインを欠いているが、CH2及びCH3、又はCH1、CH2、CH3、及びCH4ドメインを含んでなる切断IgM、及び/又はIgGをコードする。CH1ドメインを欠いた重鎖は、Ig軽鎖と効果的に対になれないので、重鎖のみ抗体を形成する。
【0184】
他の側面において、本発明は、宿主動物において遺伝子再配列を受け、それにより、ヒト・イディオタイプを持つ軽鎖の様々なレパートリーを産生する能力がある人工軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニック構築物を提供する。導入遺伝子の中の人工軽鎖遺伝子座は、少なくとも1のヒトV遺伝子セグメントを有するV領域、例えば、少なくとも1のヒトVL遺伝子、及び/又は少なくとも1の再配列されたヒトVJセグメントを持つV領域、を含んでいる。好ましくは、前記V領域は、少なくとも約5~100のヒト軽鎖V(又は「VL」)遺伝子セグメントを含んでいる。常に、ヒトVLセグメントは、ヒトVL遺伝子セグメントの天然に存在する配列、ヒトVL遺伝子セグメントの天然に存在する配列の変性型、並びにヒト軽鎖Vドメイン・ポリペプチドと実質的に(すなわち、少なくとも約85%~95%)同一のポリペプチド配列をコードする合成配列を網羅する。1つの態様において、前記人工軽鎖Ig遺伝子座は、少なくとも1のラットC遺伝子(例えば、ラットCλ又はCκ)を持ったC領域を持つ。
【0185】
本発明の他の側面は、人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニック・ベクターの製造方法に向けられる。こうした方法は、Ig遺伝子座又はその断片を単離し、それを、ヒトV領域の要素をコードする配列を含んでなる1又は数個のDNA断片と組み合わせるステップを伴う。前記の(単数若しくは複数の)Ig遺伝子セグメントは、対象動物において有効な遺伝子再配列を受ける遺伝子座の能力を維持するような方法による連結反応又は相同組み換えによって人工Ig遺伝子座又はその一部の中に導入される。
【0186】
好ましくは、非ヒトIg遺伝子座は、そのゲノムDNAから調製したプラスミド、コスミド、YACs、又はBACs等のライブラリをスクリーニングすることによって単離される。YACクローンは、最大2メガ塩基のDNA断片を担持しているので、動物の重鎖遺伝子座の全体、又はその大半が、1つのYACクローンで単離され得るか、又は1つのYACクローンの中に含まれるように再構築され得る。BACクローンは、小さいサイズ(約50~500kb)のDNA断片しか担持することができない。しかしながら、Ig遺伝子座のオーバーラップしている断片を含む複数のBACクローンが、別々に変更され、それに続いて、動物受容細胞の中に一緒に注入できる、ここで、上記オーバーラップしている断片は、受容者動物細胞の中で再結合して、連続したIg遺伝子座を生じる。
【0187】
ヒトIg遺伝子セグメントは、DNA断片の連結反応、又は相同組み換えによるDNA断片の導入を含めた、様々な方法によってベクター(例えば、BACクローン)上のIg遺伝子座内に組み込まれることができる。ヒトIg遺伝子セグメントの組み込みは、ヒトIg遺伝子セグメントが、機能性ヒト化Ig遺伝子座を生じるような導入遺伝子の中で宿主動物配列に作動できるように連結される、すなわち、Ig遺伝子座が、ヒト・イディオタイプを持つ抗体の様々なレパートリーの産生につながる遺伝子再配列をできるような方法で行われる。相同組み換えは、高頻度の相同組み換え事象を有する細菌、酵母、及び他の細胞で実施され得る。遺伝子操作したYACs及びBACsは、細胞から容易に単離され、そして、トランスジェニック動物を製造する際に使用されることができる。
【0188】
ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリン
【0189】
ヒト・イディオタイプを持つ免疫グロブリンを産生する能力があるトランスジェニック動物がいったん作られると、抗原に対する免疫グロブリンと抗体調製物は、その抗原によって上記動物を免疫することによって容易に得られる。「ポリクローナル抗血清組成物」は、本明細書中では、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体調製物を含んでいる。
【0190】
様々な抗原が、トランスジェニック動物を免疫するのに使用できる。こうした抗原には、これだけに制限されることなく、微生物、例えば、ウイルス及び単細胞生物(細菌や真菌など)、生きているもの、弱毒化したもの、又は死滅したもの、微生物の断片、あるいは、微生物から単離された抗原分子が含まれる。
【0191】
動物の免疫における使用のための好ましい細菌性抗原には、5型や8型の莢膜多糖類などのスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)からの精製抗原、アルファ毒素などの病原性因子の組み換えバージョン、接着結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、及びフィブロネクチン結合タンパク質が含まれる。好ましい細菌性抗原にはまた、S.アウレウス(S. aureus)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス(enterococcus)、エンテロバクター(enterobacter)、及びクレブシエラ・ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)の弱毒化バージョン、又はこれらの細菌細胞からの培養上清が含まれる。免疫に使用される他の細菌性抗原は、精製リポポリサッカライド(LPS)、莢膜抗原、莢膜多糖類、及び/又は外膜タンパク質、フィブロネクチン結合タンパク質、エンドトキシン、及びシュードモナス・エルギノーサ、エンテロコッカス、エンテロバクター、及びクレブシエラ・ニューモニアからの外毒素の組み換えバージョンが含まれる。
【0192】
真菌に対する抗体の製造のための好ましい抗原には、真菌又はその外膜タンパク質の弱毒化バージョンが含まれる。前記真菌には、これだけに制限されることなく、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、及びカンジダ・トロピカリス(Candida tropical)、及びクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)が含まれる。
【0193】
ウイルスに対する抗体を製造するための免疫における使用のための好ましい抗原には、これだけに制限されることなく、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)(特にFタンパク質)、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、EBV、及びHSVを含めたウイルスのエンベロープ・タンパク質及び弱毒化バージョンが含まれる。
【0194】
癌に特異的な抗体は、トランスジェニック動物を、単離された腫瘍細胞又は腫瘍細胞株、並びに、これだけに制限されることなく、Her-2-neu抗原(それに対する抗体は乳癌の治療に有用である);CD20、CD22、及びCD53抗原(それに対する抗体はB細胞リンパ腫の治療に有用である)、前立腺に特異的な膜抗原(PMSA)(それに対する抗体は前立腺癌の治療に有用である)、並びに17-1A分子(それに対する抗体は結腸癌の治療に有用である)を含めた腫瘍関連抗原で免疫することによって製造される。
【0195】
前記抗原は、アジュバントの有無にかかわらず、いずれかの簡便な様式によりトランスジェニック動物に投与されることができ、そして、予定されたスケジュールに従って投与されることができる。
【0196】
モノクローナル抗体を製造するために、免疫されたトランスジェニック動物から脾臓細胞が単離され、そして、ハイブリドーマの製造のために形質転換細胞株との細胞融合に使用されるか、又は抗体をコードするcDNAsが、標準的な分子生物学技術によってクローンニングされ、そして、トランスフェクト細胞の中で発現される。モノクローナル抗体を製造するための手順は、当該技術分野で十分に確立されている。例えば、欧州特許出願番号第0 583 980A1号(「Method For Generating Monoclonal Antibodies From Rabbits」)、米国特許番号第4,977,081号(「Stable Rabbit-Mouse Hybridomas And Secretion Products Thereof」)、WO 97/16537(「Stable Chicken B-cell Line And Method of Use Thereof」)、及びEP 0 491 057B1(「Hybridoma Which Produces Avian Specific Immunoglobulin G」)を参照のこと、上記文献の開示を本明細書中に援用する。クローン化cDNA分子からのモノクローナル抗体の試験管内における製造は、AndrisWidhopfら「Methods for the generation of chicken monoclonal antibody fragments by phage display」J Immunol Methods 242:159 (2000)及びBurton, D. R.「Phage display」Immunotechnology 1:87 (1995)によって説明されている。
【0197】
ヒト・イディオタイプを持つキメラ・モノクローナル抗体がいったん製造されると、こうしたキメラ抗体は、標準的な分子生物学技術を使用することで容易に完全なヒト抗体に変換されることができる。完全なヒト・モノクローナル抗体は、ヒトにおいて免疫原性ではなく、そして、ヒト患者の治療療法における使用に適当である。
【0198】
重鎖のみ抗体を含めた本発明の抗体
【0199】
1つの態様において、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ、人工重鎖遺伝子座を含んでなるトランスジェニック動物は、抗原によって免疫されて、抗原に特異的に結合する重鎖のみ抗体を産生する。
【0200】
1つの態様において、本発明は、こうした動物に由来するモノクローナル抗体産生細胞、及びそこから誘導された核酸を提供する。また、そこから誘導されたハイブリドーマも提供する。また、そこから誘導された完全なヒト重鎖のみ抗体、並びにコード核酸も提供する。
【0201】
重鎖のみ抗体に関する教示は、当該技術分野に見られる。例えば、PCT公開広報WO 02085944、WO 02085945、WO 2006008548、及びWO 2007096779を参照のこと。また、US 5,840,526;US 5,874,541;US 6,005,079;US 6,765,087;US 5,800,988; EP 1589107;WO 9734103;及びUS 6,015,695も参照のこと。
【0202】
医薬組成物
【0203】
本発明のさらなる態様において、精製したモノクローナル又はポリクローナル抗体は、患者への投与に好適な適切な医薬担体と混合されて、医薬組成物を提供する。
【0204】
本発明の医薬組成物によって治療される患者は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトであるが、しかしながら、獣医学の用途もまた想定される。
【0205】
当該医薬組成物に利用され得る医薬として許容される担体は、ありとあらゆる溶媒、分散媒質、等張剤等である。あらゆる従来の培地、作用物質、希釈剤、又は担体は、受容者又はそこに含まれた抗体の治療上の有効性に有害である場合を除いて、本発明の医薬組成物におけるその使用に適切である。
【0206】
前記担体は、液体担体、半固形担体、例えば、ペースト、又は固形担体であり得る。担体の例には、オイル、水、生理的食塩溶液、アルコール、糖、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔性マトリックス、結合剤、充填剤、被覆剤、保存料等、又はその組み合わせ物が含まれる。
【0207】
治療方法
【0208】
本発明のさらなる側面において、方法は、疾患を治療するのに望ましい本発明の精製した抗体組成物を投与することによって、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、好ましくは霊長目動物、特に好ましい態様であるヒト対象における疾患の治療方法を提供する。
【0209】
前記抗体組成物は、人体組織における疾患を引き起こす若しくは関与する、又は望ましくない若しくは異常な免疫応答を誘発する抗原性実体に結合して、そして、中和するか、又は調節するのに使用される。「抗原性実体」は、タンパク質を含めたあらゆる可溶性又は細胞表面結合分子、並びに細胞、又は感染性疾患を引き起こす生物体、又は少なくとも抗体に結合する能力があり、好ましくは、免疫応答を刺激する能力もある作用物質を網羅するように本明細書中に規定される。
【0210】
単独療法として又は化学治療法と組み合わせた、感染性物質に対する抗体組成物の投与は、感染性粒子の排除をもたらす。抗体の単独投与は、感染性粒子の数を、通常10~100倍、より一般的に1000倍を超えて減少させる。同様に、単独療法として又は化学療法と組み合わせて利用される、悪性疾患を患っている患者の抗体療法は、通常10~100倍、又は1000倍を超えて悪性細胞の数を減らす。療法は、感染性粒子、悪性細胞などの完全な除去を確保するために長期間にわたり反復されることもある。場合によっては、抗体調製物を用いた療法は、検出可能な量の感染性粒子又は望ましくない細胞が存在しない状態で長期間続けられるだろう。
【0211】
同様に、免疫応答の調節のための抗体療法の使用は、単独又は複数の治療抗体の投与から成ることができる。療法は、あらゆる病徴が存在しない状態で長期間続けられることもある。
【0212】
対象の治療に、感染性疾患又は悪性腫瘍を抑制するのに十分な投薬量にて化学療法とともに利用されてもよい。自己免疫性疾患患者又は移植受容者では、抗体療法が、免疫反応を抑制するのに十分な投薬量にて免疫抑制療法とともに利用されてもよい。
【0213】
すべての引用文献の全体を明確に本明細書中に援用する。
【実施例0214】
ラット免疫グロブリン配列に特異的なホーミング・エンドヌクレアーゼの指向進化
【0215】
ラットIgMエクソン配列の分析は、遺伝子操作されたホーミング・エンドヌクレアーゼのためのいくつかの標的切断配列の識別をもたらした。ホーミング・エンドヌクレアーゼI-Scelを使用して、2つの標的配列、一方は、ラットIgMエクソンII内(CGTGGATCACAGGGGTCT)そして、もう一方は、ラットIgMエクソンIII内(CTGGGATAACAGGAAGGA)を同定した。これらの部位は、61%(18塩基のうちの11個)の配列同一性をI-Scelの天然の認識配列(TAGGGATAACAGGGTAAT)と共有する。
【0216】
【0217】
これらの標的配列に特異的なホーミング・エンドヌクレアーゼの設計のために、我々は、(Chen and Zhao, Nucleic Acid Research 33(18): e154, 2005によって詳細に記載されている)酵素的DNA開裂を宿主細胞の生存と結びつけるホーミング・エンドヌクレアーゼの定向進化のための高感度選定を使用した。試験管内における共進化ストラテジーを、標的配列特異性を有するI-Scel変種を設計するのに使用した。表2に示されているように、標的配列T3のために、2つの新しい配列T3i1及びT3i2を中間配列として選定し、それに対して、標的配列T4のために、2つの新しい配列、T4i1及びT4i2を中間配列として選定した。前記T3i1及びT4i1配列を、レポーター・プラスミド内にクローンニングして、それぞれ、p11-LacY-T3i1及びp11-LacY-T4i1を得た。
【0218】
【0219】
T3i1又はT4i1配列特異性を有するI-Scel突然変異体を得るために、分子モデリングを、最初におこなって、飽和突然変異誘発を介した重点的ライブラリを構築するのに使用する残基を同定した。
図2に示されているように、I-Scelは、DNAの小溝にある緩んだループを通してたT3i1又はT4i1の3末端に結合する。残基Gly13、Pro14、Asn15、及びLys20は、この3末端に近く、そして、Asn15は、水素結合を通して野性型認識配列の3末端の最後のチミンに直接結合している。これらの4つの選択された残基におけるアミノ酸置換のすべての可能な組み合わせ物を含む突然変異体に関するライブラリを、飽和突然変異誘発によって構築した。十分に大きいライブラリを作製するために、連結反応及びDNA形質転換の手順を、いくつかのトライアルを通じて最適化した。2.9×10
6の突然変異体から成るライブラリを作成した。
【0220】
前記ライブラリを、T3i1配列に対して活性増大があるI-Scel突然変異体についてスクリーニングした。ラウンド0(野性型I-Scel)と比較して、スクリーニングの最初のラウンドは、細胞生残率が10倍まで増加したので、T3i1配列に対して活性増大を伴う突然変異体をもたらした。ラウンド2及び3における潜在的に陽性の突然変異体の集積は、細胞生存率のさらなる改良を示した。同様に、前記ライブラリを、T4i1配列に対して活性増大があるI-Scel突然変異体についてスクリーニングした。突然変異体のスクリーニングは、T4i1配列に対して活性増大を伴う突然変異体をもたらした。
【0221】
平行して、認識配列の5’末端を標的とするI-Scel突然変異体に関する第2のライブラリを設計した。飽和突然変異誘発を使用して構築された最初のライブラリは、I-Scel認識配列の3’末端の4つのヌクレオチドと相互作用するそれらの残基に焦点を合わせた。分子モデリングに基づき、Trp149、Asp150、Tyr151、及びAsn152が、5’末端ヌクレオチドによって形成された主溝に位置している。Asn152が、水素結合を通じてT(-7)と直接的に相互作用する。Asp150及びTyr152は、A(-6)と反対のTと水分子を通じて間接的に相互作用する。Trp149及びTyr151は、リン酸骨格と相互作用する。よって、これらの4つの残基は、I-Scelの塩基配列特異性に重要であるので、これらの4つの残基の同時飽和突然変異誘発をおこなって、第2のI-Scel突然変異体ライブラリを構築した。
【0222】
これらの酵素結果のさらなる共進化は、ラットIgMエクソンII及びIII内の標的配列(CGTGGATCACAGGGGTCT及びCTGGGATAACAGGAAGGA)に特異的な新規メガヌクレアーゼの製造をもたらした
【0223】
規定の配列特異性を有するI-Creの設計
【0224】
新規標的配列に特異的なホーミング・エンドヌクレアーゼを設計するために、我々は、(Chen and Zhao, Nucleic Acid Research 33(18): e154, 2005によって詳細に記載されている)酵素的DNA開裂を宿主細胞の生存と結びつけるホーミング・エンドヌクレアーゼの定向進化のための高感度選定を使用した。加えて、規定の配列特異性を有するI-Crel突然変異体を設計するための一般的なストラテジーを計画した。I-Crelは、偽パリンドローム様式の標的配列を認識する。パリンドローム塩基は、I-Crelによって直接認識されるので、それを変更することは難しい(J. Mot Bid., 280, 345-353)(
図4)。
【0225】
この特性は、非パリンドローム配列を認識するI-Crel誘導体の直接的な設計を妨げる。この問題を克服するために、標的配列を、左半分(上流の半分)と右半分(下流の半分)に分割した。I-Crelを、それぞれ、左半分のパリンドロームと右半分のパリンドロームの中間配列に最適化する(
図4)。そして、中間配列に最適化したI-Crel突然変異体を、標的配列パリンドロームを認識するように設計する。最終的に、それぞれ、右半分について最適化されたI-Crel突然変異体と、左半分についてのそれを、同時発現させて、標的配列を開裂する。加えて、右半分の最適化された突然変異体の、左半分の最適化された突然変異体とのポリペプチド・リンカーを用いた融合について調べる。
【0226】
ホーミング・エンドヌクレアーゼI-Crelの天然の認識配列と59%の配列同一性を共有するエクソンIVの中の標的配列(CAACTGATCCTGAGGGAGTCGG)を同定した。それに続いて、本来のI-Crel標的配列の中のパリンドローム塩基の同一性に基づいて、2つの配列、T5及びT6を、I-Crel設計の標的配列として選定した。
【0227】
【0228】
前記の2つの標的配列、T5及びT6を、レポーター・プラスミド内にクローンニングした。I-Crel遺伝子を、pTrcプラスミド内にクローンニングし、そして、PCR増幅中に突然変異が全く導入されなかったことを確認するために配列決定した。I-Crel選定システムは、細胞生残率について評価される。
【0229】
加えて、分子モデリングを実施し、そして、DNA基質と直接的に接触するタンパク質残基を同定した。加えて、我々は、試験管内における共進化実験のための中間配列を設計した。
【0230】
【0231】
それに続いて、I-Crel突然変異体に関するライブラリを作成し、そして、I-Crel誘導体について新規標的配列を用いてスクリーニングする。これらの酵素さらなる共進化は、ラットIgMのエクソンIVの中の標的配列(CAACTGATCCTGAGGGAGTCGG)に特異的な新規メガヌクレアーゼの製造をもたらす。
【0232】
ジンクフィンガー・ヌクレアーゼの設計
【0233】
ジンクフィンガー・タンパク質(ZFP)を、ラットIgM(エクソン1~4)をコードする配列に対して設計し、そして、記載したとおり組み立てて、以下のZFP残基を得た(Zhang, L et al. Synthetic zing finger transcription factor action at an endogenous chromosomal site. Activation of the human erythropoietin gene. J. Biol. Chem 275: 33850-33860, 2000及びLiu, P.Q. et al. Regulation of an endogenous locus against a panel of designed zinc finger proteins targeted to accessible chromatin regions. Activation of vascular endothelial growth factor. J Biol. Chem. 2765: 11323-11334, 2001)。
【0234】
【0235】
ZFPsをコードするDNAを、発現ベクター内にクローンニングした。ラットC6細胞を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから得、5%の適切なウシ胎仔血清(FCS、Hyclone)、15%のウマ血清(Invitrogen)、及び5mMのグルタミンを補ったF-12培地(Invitrogen)中、推薦されるとおりに培養した。細胞を、TrypLE Selectプロテアーゼ(invitrogen)を使用してプラスチック容器から剥がした。トランスフェクションのために、200,000個のC6細胞を、400ngのプラスミドDNA及び20μLのAmaxa Solution SFと混合した。細胞を、プログラム96 FF-137を使用したAmaxa Nucleofector II Shuttleによりトランスフェクトし、0.1Lの暖め、補充したF-12培地中で回復させた。トランスフェクションの3日後及び9日後に、細胞を回収し、そして、染色体DNAを、Quick Extract Soultion 1.0(Epicentre)を使用して調製した。IgM遺伝子座の適切な領域を、Accuprime High-fidelity DNA polymerase(Invitrogen)を使用してPCR増幅した。PCR反応物を94℃まで加熱し、その後、徐々に室温まで冷ました。約200ngのアニーリングしたDNAを、0.33μLのCEL-I酵素(Transgenomic)と混合し、42℃にて20分間インキューベートした。反応生成物を、1×Tris-ボレート-EDTAバッファー中、ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動によって分析した。開裂活性を実証する代表的な例を、
図6に示す。
【0236】
メガヌクレアーゼをコードする発現プラスミドを使用した、不活性化された内在性重鎖遺伝子座を持つラットの作出
【0237】
ラットCμエクソンに特異的なメガヌクレアーゼをコードするcDNA配列を、発現がテトラサイクリン・オペレータ配列によって制御されるところの発現ベクター内にクローンニングする。プラスミドDNAを、制限酵素消化によって線状にし、そして、精製する。ラット卵母細胞に、テトラサイクリン応答性リバース・トランスアクチベータをコードする導入遺伝子を持つラットからの精液を受精させる。精製プラスミドDNAを、こうして受精させたラット卵母細胞の前核内に注入する。それに続いて、ラット胎仔を、養母に移植し、そして、出産させる。新生仔を、組織サンプルから単離したDNAを使用したPCR法によって、メガヌクレアーゼをコードする導入遺伝子の存在について分析する。雄トランスジェニック創始動物を、それらが性的に成熟する4カ月間、飼育する。トランスジェニック動物におけるメガヌクレアーゼの発現を、1~7日間のドキシサイクリンの連日投与によって誘発する。それに続いて、精液を、1週間に2度回収し、そして、PCR法によって分析する。突然変異精液を産生する雄動物を、繁殖に使用する。突然変異ラットCμを持つ子孫を、組織サンプルのPCR分析によって特定する。
【0238】
特異的なメガヌクレアーゼをコードするプラスミドDNAを持つ受精卵母細胞のマイクロインジェクションによる、不活性化された内在性重鎖遺伝子座を有するラットの作出
【0239】
ラットCμエクソンに特異的なメガヌクレアーゼをコードするcDNA配列を、発現がCAG-プロモータによって制御されるところの発現ベクター内にクローンニングする。精製プラスミドDNAを、受精したラット卵母細胞の前核内に注入する。それに続いて、ラット胎仔を、養母に移植し、そして、出産させる。新生仔を、PCR法及び直接配列決定法によって、突然変異IgMエクソンの存在について分析する。あるいは、突然変異IgMエクソンを持つ細胞を含んでいる動物を、CEL-I酵素と、加熱し、そして、冷却したPCR産物とのインキュベーション、それに続くゲル電気泳動によって特定する。