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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118246
(43)【公開日】2022-08-12
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102402
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2018098423の分割
【原出願日】2018-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】市村 一貴
(72)【発明者】
【氏名】石原 杏子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】内田 毅
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 利弘
(57)【要約】
【課題】減圧ポンプの駆動時間を短縮しつつ、調理時間を長くせずに内容物を低温で確実に沸騰させることができる加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱調理器は、上面に開口部を有し、内容物を収容する容器と、容器を収納する本体と、容器の開口部を覆う蓋体と、容器を加熱する加熱装置と、容器内を減圧する減圧装置と、加熱装置および減圧装置を制御し、容器を加熱して内容物の温度を設定温度まで昇温する昇温制御を行う制御装置とを備え、制御装置は、昇温制御を開始してから減圧装置の駆動を開始するまでの減圧開始時間の異なる複数の昇温モードを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に開口部を有し、内容物を収容する容器と、
前記容器を収納する本体と、
前記容器の前記開口部を覆う蓋体と、
前記容器を加熱する加熱装置と、
前記容器内を減圧する減圧装置と、
前記加熱装置および前記減圧装置を制御し、前記容器を加熱して前記内容物の温度を設定温度まで昇温する昇温制御を行う制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記昇温制御を開始してから前記減圧装置の駆動を開始するまでの減圧開始時間の異なる複数の昇温モードを有する加熱調理器。
【請求項2】
前記減圧開始時間は、前記内容物の量が多い場合に少ない場合に比べて長くなるように設定される
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
操作表示装置をさらに備え、
前記減圧開始時間は、前記操作表示装置で設定される食材の種類、食材の量、調理方法の少なくとも一つの情報と関係する設定条件に合わせて設定される請求項1に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧および加熱によって食材を調理する加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱調理器においては、容器内を真空にして容器内の内容物を加熱し、100℃未満の低温で沸騰させることにより、内容物を攪拌して全体を均一に調理できることが知られている。このような加熱調理器においては、発生した蒸気の凝縮熱によって内容物の昇温を促進し、調理時間を短縮化することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、減圧ポンプを搭載し、容器内を真空ポンプによって減圧して真空状態とし、真空下で容器を加熱することにより、100℃未満の低温で調理を行う加熱調理器が開示されている。加熱調理器は、容器内の内容物を飽和水蒸気圧まで減圧することにより、100℃未満の低温度帯でも内容物を沸騰させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-189883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、減圧ポンプは、駆動音が大きく、機械的な寿命も短いため、減圧ポンプは、できる限り短い駆動時間で動作させるようにすると望ましい。しかしながら、減圧ポンプの駆動時間を短くすると、容器内の内容物は、加熱による熱膨張により、所望の圧力よりも高くなってしまい、十分な沸騰を得ることができない場合がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、減圧ポンプの駆動時間を短縮しつつ、内容物を確実に沸騰させることができる加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の加熱調理器は、上面に開口部を有し、内容物を収容する容器と、前記容器を収納する本体と、前記容器の前記開口部を覆う蓋体と、前記容器を加熱する加熱装置と、前記容器内を減圧する減圧装置と、前記加熱装置および前記減圧装置を制御し、前記容器を加熱して前記内容物の温度を設定温度まで昇温する昇温制御を行う制御装置とを備え、前記制御装置は、前記昇温制御を開始してから前記減圧装置の駆動を開始するまでの減圧開始時間の異なる複数の昇温モードを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の加熱調理器によれば、減圧開始時間の異なる複数の昇温モードを有することにより、昇温モードに応じて異なる減圧開始時間で減圧装置による減圧が開始されるため、減圧ポンプの駆動時間を短縮しつつ、調理時間を長くせずに内容物を低温で確実に沸騰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る加熱調理器の構成の一例を示す模式断面図である。
図2図1の加熱調理器の構成の一例を示すブロック図である。
図3図1の制御装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4】内容物の温度と飽和蒸気圧との関係を示すグラフである。
図5】容器の内容物の温度と容器内の圧力との関係について説明するための概略図である。
図6図3の制御装置による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
図8】設定温度が第2の設定温度T2である場合の、容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
図9】加熱速度が遅い場合の、容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
図10】容器内の内容物の量が多い場合の、容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
図11】設定温度を第2の設定温度T2とし、かつ加熱速度が遅い場合の、容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
図12】設定温度を第2の設定温度T2とし、かつ加熱速度が速い場合の、容器の温度および容器内の圧力と、加熱装置、減圧ポンプ、電磁弁および蒸気排出弁それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る加熱調理器について説明する。図1は、本実施の形態1に係る加熱調理器100の構成の一例を示す模式断面図である。加熱調理器100は、本体1と、本体1に開閉自在に係止された外蓋2とを備えている。
【0011】
[加熱調理器100の構成]
本体1の内側には、容器収納部3が内装固着されている。容器収納部3には、有底筒状で上面が開口した鍋状の容器4が着脱自在に収納されている。容器4内には、被加熱物である食材等の内容物が収容される。容器収納部3の外壁には、加熱装置5が設けられている。加熱装置5は、例えば、容器収納部3にスパイラル状に旋回された加熱コイル5aであり、高周波電流が供給されることにより発生する磁界で容器4を誘導加熱する。加熱装置5の加熱動作は、制御装置50によって制御される。なお、加熱装置5として、この例に限られず、電流が供給されることによって熱を発生するヒータ等が用いられてもよい。
【0012】
容器収納部3の底面の中央部には貫通孔が形成され、貫通孔内に温度センサ6が配置されている。温度センサ6は、圧縮ばね7によって下方から支持され、容器4の底部に接触するように配置される。温度センサ6は、容器4の温度を計測する。
【0013】
容器4には取っ手部8が設けられている。取っ手部8は、容器収納部3に設けられた図示しない保持部上に係止される。これにより、容器4が本体1内に保持される。容器4の上面開口の周囲には、外方に延出するフランジ部4aが形成されている。
【0014】
外蓋2には、容器4の上面開口を覆う蓋体である内蓋9が連結されている。内蓋9の周縁には、シール材である蓋パッキン10が設けられている。蓋パッキン10は、外蓋2を閉じた際に、容器4のフランジ部4aおよび内壁と内蓋9との密閉性が得られるようになっている。
【0015】
内蓋9には蒸気孔11が形成されている。蒸気孔11には蒸気排出弁12が配置されている。蒸気排出弁12は、制御装置50による制御に基づき開閉し、容器4内を密閉または非密閉とする。
【0016】
蒸気排出弁12の下流には、カートリッジ13が配置されている。カートリッジ13は、蒸気排出口14を備え、蒸気排出弁12を介して容器4内の蒸気を蒸気排出口14から排出する。カートリッジ13には、蒸気の排出経路を密閉するためのカートリッジパッキン15が設けられている。
【0017】
内蓋9には、貫通する内蓋通気孔16が設けられている。外蓋2には、外面に開口する外蓋通気孔17と、内蓋通気孔16と外蓋通気孔17との間に設けられた、容器4の内外を連通する連通管18とが形成されている。連通管18は、中空状に形成され、内蓋通気孔16側の端部には、内蓋通気孔16に密閉接続するための経路パッキン19が配置されている。
【0018】
連通管18には、減圧装置である減圧ポンプ20と、開閉装置である電磁弁21が配置されている。減圧ポンプ20は、内蓋通気孔16を介して容器4内の空気を吸引し、吸引した空気を連通管18および外蓋通気孔17を介して外部に排出することにより、容器4内を減圧する。減圧ポンプ20の駆動は、制御装置50によって制御される。電磁弁21は、減圧ポンプ20よりも内蓋通気孔16側に設けられ、連通管18の内蓋通気孔16から減圧ポンプ20に至る流路を開閉する。電磁弁21の開閉動作は、制御装置50によって制御される。
【0019】
なお、外蓋通気孔17は、外蓋2の側面または底面に配置されると好ましい。これは、減圧ポンプ20への水分および異物の侵入を防ぎ、故障を抑制するためである。また、外蓋通気孔17は、容器4内の空気を外部に排気するための排気孔として配置されているが、このような排気孔は、これに限られず、例えば本体1の側面または底部等に配置してもよい。
【0020】
内蓋9には、貫通するセンサ孔22が設けられている。外蓋2には、圧力センサである蓋センサ23と蓋センサパッキン24とが配置されている。蓋センサ23は、センサ孔22を介して容器4内の圧力を計測する。蓋センサパッキン24は、センサ孔22と外蓋2とを密閉するために設けられている。
【0021】
また、本体1には、操作表示装置25が設置されている。操作表示装置25は、ユーザによる操作指示等の入力および動作状態等の表示を行う。なお、操作表示装置25は、本体1に設置される場合に限られず、例えば外蓋2に設置されてもよい。また、操作表示装置25に対する操作および表示等の各種機能は、スマートフォン等の外部の機器によって実現されてもよい。
【0022】
さらに、加熱調理器100は、制御装置50を備えている。制御装置50は、加熱調理器100全体を制御する。特に、本実施の形態1において、制御装置50は、温度センサ6および蓋センサ23の計測結果に基づき、加熱装置5の加熱動作、蒸気排出弁12の開閉動作、減圧ポンプ20の駆動および電磁弁21の開閉動作を制御する。制御装置50は、マイクロコンピュータなどの演算装置上でソフトウェアを実行することにより各種機能が実現され、もしくは各種機能を実現する回路デバイスなどのハードウェア等で構成されている。なお、制御装置50は、本体1に設けられてもよいし、外蓋2に設けられてもよい。
【0023】
(制御装置50)
図2は、図1の加熱調理器100の構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置50には、蒸気排出弁12、減圧ポンプ20、電磁弁21、温度センサ6、蓋センサ23および操作表示装置25、ならびに、加熱コイル5aに高周波電流を供給するインバータ部30が電気的に接続されている。
【0024】
図3は、図1の制御装置50の構成の一例を示す機能ブロック図である。図3に示すように、制御装置50は、温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、圧力判定部55、加熱制御部56、圧力制御部57および記憶部58を備えている。
【0025】
温度設定部51は、操作表示装置25に対する操作によって入力されたメニューと、記憶部58に記憶された調理シーケンスとに基づき、設定温度Tを設定する。温度判定部52は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物の温度を判定する。沸騰検知部53は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物が沸騰したか否かを判定する。
【0026】
圧力設定部54は、操作表示装置25に対する操作によって入力されたメニューと、記憶部58に記憶された調理シーケンスとに基づき、設定圧力Pを設定する。圧力判定部55は、蓋センサ23による計測結果に基づき、容器4内の圧力を判定する。
【0027】
加熱制御部56は、温度設定部51によって設定された設定温度Tに基づき、加熱装置5を制御する。また、加熱制御部56は、温度判定部52による判定結果に基づき、加熱装置5を制御する。さらに、加熱制御部56は、沸騰検知部53による検知結果に基づき、加熱装置5を制御する。
【0028】
圧力制御部57は、圧力設定部54によって設定された設定圧力Pに基づき、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12を制御する。また、圧力制御部57は、圧力判定部55による判定結果に基づき、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12を制御する。さらに、圧力制御部57は、沸騰検知部53による検知結果に基づき、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12を制御する。
【0029】
記憶部58は、メニュー毎の調理シーケンスを含むテーブルを予め記憶する。記憶部58は、温度設定部51および圧力設定部54からの要求に応じて、記憶されたテーブルから必要な調理シーケンスを読み出し、それぞれに供給する。
【0030】
調理シーケンスは、メニューに応じた設定温度T[℃]、設定圧力P[atm]、設定温度Tを維持する設定時間および減圧開始時間等を含む情報である。設定温度Tは、温調工程において調整される一定の温度である。設定温度Tは、100℃以下の温度とする。設定圧力Pは、温調工程において調整される一定の圧力である。設定圧力Pは、大気圧1.0atm以下の圧力とする。
【0031】
減圧開始時間は、昇温工程が開始されてから減圧を開始するまでの時間である。減圧開始時間は、容器4内の内容物の温度が設定温度Tに到達すると同時に容器4内の圧力が設定圧力Pとなるように、減圧を開始するための時間であり、調理シーケンスに含まれる各種の情報から得られる昇温工程の時間に基づいて決定される。すなわち、減圧開始時間は、メニューに応じて決定される。
【0032】
このような調理シーケンスは、例えばメニュー毎に設定されテーブル化されて記憶部58に予め記憶されている。なお、設定温度T、設定圧力P、設定時間等の設定条件は、調理シーケンスによって設定される場合に限られず、例えば、ユーザによってそれぞれが直接設定されてもよい。また、例えば、ユーザによる操作表示装置25に対する操作により、食材の種類、食材の量または調理方法等の情報を少なくとも1つ以上が設定され、設定された情報に基づいて設定条件が決定されてもよい。
【0033】
[加熱調理器100の動作]
次に、上記構成を有する加熱調理器100の動作について説明する。例えば、加熱調理器である炊飯器では、一般に、米の糊化温度以下(35℃~65℃)で水を吸水させる吸水工程が、米を糊化させる高温沸騰工程よりも前に設けられている。これにより、吸水後に昇温して沸騰状態を維持することで、容器内での対流が促進されるため、水分を十分に含んだおいしい仕上がりを得ることができる。また、吸水工程では、米に含まれるデンプン分解酵素が働くため、甘味を増やして食味を向上させることもできる。
【0034】
しかし、容器内の温度が低い場合には沸騰しないため、加熱面に近い底面付近と加熱面から遠い水面付近とでは、温度差が生じやすく、仕上がりにムラが生じる。これに対して、容器内の内容物を沸騰させて対流を促進させることで、仕上がりのムラを軽減することができ、炊飯後の仕上がりを均一にし、食味を向上することができる。
【0035】
また、容器内の内容物を沸騰させることで、炊飯以外の調理においても加熱ムラを軽減し、仕上がりを均一にすることができる。例えば、ローストビーフを調理する場合、60℃~70℃程度の温度を保って調理することで、タンパク質の収縮を抑制し、やわらかくジューシーな仕上がりとなることが知られている。
【0036】
しかし、60℃~70℃の低温では、通常、沸騰が起きない。そのため、煮汁に浸っている底面付近の内容物と、煮汁に浸かっていない底面から遠い位置の内容物とでは、加熱ムラが生じやすい。すなわち、底面から遠い内容物を十分に加熱すると、底面付近の内容物が煮崩れするといった問題が生じる。一方、容器4内を減圧して沸騰を維持して水蒸気を発生させることにより、煮汁に浸かっていない部分は、発生した水蒸気で加熱することができるため、均一な仕上がりを得ることができる。
【0037】
そこで、本実施の形態1に係る加熱調理器100は、容器4を加熱して内容物を昇温させながら減圧する昇温制御を行うとともに、真空すなわち大気圧未満の低圧で、温度を一定に保って沸騰が継続される温調制御を設定時間だけ維持する動作を行う。温度が一定に保たれることにより、食材毎の最適な調理時間で調理を行うことができるとともに、おいしさの向上を図ることができる。また、100℃未満の低温であっても、沸騰が継続される状態が維持されることにより、容器4内での煮汁の対流が促進されるため、沸騰していない場合と比較して、容器4内の加熱ムラを軽減することができる。そして、加熱ムラが軽減されることにより、容器4内の内容物が均一に加熱されるため、食材の仕上がりを安定させて、おいしさを向上させることができる。
【0038】
図4は、内容物の温度と飽和蒸気圧との関係を示すグラフである。図4のグラフは、内容物の温度に対する飽和蒸気圧、すなわち、内容物が沸騰する際の圧力と沸点との関係を示す。図4に示すように、容器4内の内容物の沸点は、容器4内の圧力によって変動する。例えば、容器4内の内容物である水を60℃で沸騰させるためには、容器4内を0.2気圧程度まで減圧すればよい。
【0039】
水を60℃で沸騰させるためには、容器4内の圧力が0.2気圧まで減圧された時点で、内容物が60℃となっている必要がある。したがって、例えば、容器4内の内容物が常温の状態で容器4内が0.2気圧まで減圧されてから、駆動時間を抑えるために減圧ポンプ20が停止され、容器4が密閉される。これにより、減圧ポンプ20の駆動時間を抑制することができる。しかしながら、その後、加熱装置5を駆動して加熱を開始した場合、容器4が60℃まで加熱されても、十分な沸騰が起きない。
【0040】
これは、加熱による内容物の熱膨張によって容器4内の圧力が上昇し、内容物が60℃に到達した際には、容器4内の圧力が例えば0.3気圧など、60℃における飽和水蒸気圧である0.2気圧よりも高い圧力になっているためである。図4に示すように、飽和水蒸気圧が0.3気圧である場合の沸点は70℃程度であるため、内容物の温度が60℃の場合、内容物は沸騰しない。
【0041】
図5は、容器4の内容物の温度と容器4内の圧力との関係について説明するための概略図である。図5に示すように、この例では、内容物の温度が目標となる温度に到達する前に、容器4内の圧力が目標となる圧力に到達したため、減圧ポンプ20が停止される。この場合、減圧ポンプ20が停止されてから、内容物の温度が目標温度に到達する間に、内容物の熱膨張によって容器4内の圧力が目標圧力よりも上昇する。これにより、内容物の沸点が上昇するため、内容物が目標温度に到達しても、到達した時点での沸点が目標温度よりも高くなるので、内容物は沸騰しない。
【0042】
また、同様に、容器4に対する加熱と減圧とを同時に開始し、内容物の温度が目標温度に到達する前に、容器4が目標温度における飽和水蒸気圧まで減圧され、減圧ポンプ20が停止されると、十分な沸騰が得られない。そのため、容器4の減圧を再度行う必要が生じ、減圧ポンプ20の駆動時間が長くなる。
【0043】
したがって、内容物を目標温度で確実に沸騰させる方法として、目標温度における飽和水蒸気圧まで減圧した後も、間欠的に減圧ポンプ20を駆動させて当該飽和水蒸気圧を維持した状態で、内容物を目標温度まで加熱することが考えられる。しかしながら、この場合は、目標温度における飽和水蒸気圧に減圧した後も、減圧ポンプ20を駆動させる必要があるため、減圧ポンプ20の駆動時間を抑制する点で好ましくない。
【0044】
また、内容物を目標温度で確実に沸騰させる他の方法として、内容物を目標温度まで加熱した後、目標温度における飽和水蒸気圧まで減圧を行うことが考えられる。容器4内を目標圧力まで減圧するには時間がかかる。そのため、この場合は、加熱装置5と減圧ポンプ20とが少なくとも一定時間だけ同時に駆動し、内容物の温度が目標温度に到達する時点で圧力が飽和水蒸気圧まで減圧されると、調理時間を長くすることなく減圧ポンプ20の駆動時間を抑制できるため、好ましい。
【0045】
一方、内容物の全体が目標温度に到達していない場合でも、加熱面である容器4の底面が目標温度よりも高い温度まで加熱されることにより、容器4内には水蒸気である気泡が容器4内に発生する。大気圧において、沸点よりも低い90℃~95℃程度で気泡がまだらに発生するのはこのためである。
【0046】
したがって、容器4内が減圧される場合も同様に、例えば容器4内が目標圧力に到達した際に減圧ポンプ20を停止して容器4を密閉した後、内容物が熱膨張する前に、強火で加熱面を急速に加熱する。これにより、目標温度付近で十分な沸騰が起こる。なお、強火で加熱しない場合、熱が内容物に奪われるため、加熱面が目標温度を超えるまでに時間がかかり、結果として熱膨張が発生し、十分な沸騰を得ることができない。
【0047】
しかしながら、上述したように、本実施の形態1に係る加熱調理器100は、低温度帯で沸騰を維持しながら、一定の温度で温調するものである。そのため、容器4の温度が目標温度を超えないように、目標温度付近で容器4を加熱する必要がある。この場合は、目標温度付近昇温が緩やかになり、目標温度に到達するまでに時間がかかるため、結果として内容物の熱膨張が発生し、気泡がまだらに発生する程度の沸騰しか得ることができない。したがって、容器4内での十分な対流は期待できない。
【0048】
また、強火で加熱を行うことにより、沸騰による対流が生じるが、容器4の加熱面が沸点に対して非常に高温となる。そのため、対流が生じたとしても加熱面付近と水面付近とで温度差が生じ、対流によって加熱ムラを抑制するという効果が得られない。
【0049】
さらに、この場合には、容器4の加熱面が目標温度よりも比較的高い温度まで昇温される。そのため、容器4の温度を目標温度に戻したとしても、内容物の温度が目標温度を超えてしまう可能性がある。さらに、加熱を緩めた時点で、容器4内での沸騰も弱くなるため、十分な沸騰を得るために減圧ポンプ20を再度駆動させる必要が生じる。したがって、十分な沸騰が生じる前に減圧ポンプ20を停止することは好ましくない。
【0050】
以上から、減圧ポンプ20の駆動時間を抑制しつつ、目標温度で容器4の内容物を沸騰させるためには、目標温度付近で沸騰が開始されるように、昇温工程に要する時間に応じて、減圧ポンプ20の駆動を開始するタイミングを変更する。本実施の形態1では、昇温工程に要する時間が長いほど、減圧ポンプ20の駆動開始を遅くするように制御する。
【0051】
(基本動作)
本実施の形態1に係る加熱調理器100の基本動作について、図1および図2を参照しながら説明する。ここでは、加熱装置5として加熱コイル5aが用いられる場合を例にとって説明する。
【0052】
まず、ユーザによって、任意のメニューを調理するのに必要な米、肉、魚、野菜、水および調味料等の材料が容器4内に投入される。その後、ユーザが取っ手部8を把持することにより、容器4が容器収納部3に載置され、外蓋2が閉じられる。これにより、内蓋9の蓋パッキン10が容器4のフランジ部4aに圧接され、容器4内が密閉される。
【0053】
次に、ユーザによる操作表示装置25に対する操作によってメニューが選択され、図示しないスイッチがオンとされると、制御装置50に調理開始指示が与えられ、調理が開始される。このとき、制御装置50には、選択されたメニューに応じた調理シーケンスが、指示として与えられる。
【0054】
調理シーケンスが制御装置50に与えられると、加熱コイル5aには、インバータ部30から高周波電流が供給され、高周波磁界が発生する。容器4の加熱コイル対向面は、発生した高周波磁界によって加熱コイル5aと磁気結合して励磁され、容器4の底面に渦電流が誘起される。そして、誘起された渦電流と容器4の抵抗とによりジュール熱が生じ、容器4の底面が発熱して容器4内の内容物を加熱する昇温工程が開始される。その後、内容物の温度が設定温度Tに到達すると、インバータ部30が制御され、設定温度Tを維持する温調工程が開始される。
【0055】
一方、電磁弁21は、調理開始時には「開」とされており、調理開始とともに「閉」となる。電磁弁21は、昇温工程中の減圧が行われるときにのみ「開」とされ、減圧ポンプ20と容器4内とが連通する。調理が開始されると、減圧ポンプ20が駆動され、容器4内の空気が内蓋通気孔16および連通管18を介して外蓋通気孔17から外部へ排出される。これにより、容器4内の圧力が徐々に低下する。
【0056】
そして、内容物の温度が、容器4内の圧力Pで沸騰する温度Tとなると、容器4内に収容された内容物が沸騰し、減圧低温沸騰が開始される。なお、圧力Pは大気圧1.0atmよりも低い圧力である。
【0057】
ここで、温調工程においては、内容物が沸騰することにより、容器4内に水蒸気が発生し、場合によっては容器4内の圧力が上昇する。この場合は、沸点が上昇し、次第に沸騰が起こらなくなる。そのため、減圧ポンプ20および電磁弁21が制御され、設定圧力Pが強制減圧圧力以上とならないように間欠的に減圧が行われ、容器4内の圧力が設定圧力Pを含む一定の圧力範囲内となるように、設定圧力Pが維持される。
【0058】
指示された設定時間が経過すると、調理が終了し、インバータ部30および減圧ポンプ20の駆動が停止され、加熱および減圧が停止する。また、電磁弁21が「開」とされる。調理終了後に電磁弁21が「開」とされることにより、調理時に吸引した湿気が経路から排出され、乾燥させることができる。
【0059】
(調理制御)
図6は、図3の制御装置50による処理の流れの一例を示すフローチャートである。制御装置50にメニューに応じた調理シーケンスが与えられると、調理が開始され、昇温工程が行われる。ステップS1において、圧力制御部57は、電磁弁21および蒸気排出弁12をともに「閉」とする。次に、ステップS10において、加熱制御部56は、加熱装置5を制御して加熱処理を開始する。また、ステップS20において、圧力制御部57は、予め設定された減圧開始時間に到達したか否かを判断する。
【0060】
判断の結果、減圧開始時間に到達した場合(ステップS20;Yes)、圧力制御部57は、ステップS21において、減圧ポンプ20を駆動するとともに電磁弁21を「開」とし、減圧処理を開始する。一方、減圧開始時間に到達していない場合(ステップS20;No)には、処理がステップS20に戻り、減圧開始時間に到達するまでステップS20の処理が繰り返される。
【0061】
ステップS2において、沸騰検知部53は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4内の内容物が沸騰したか否かを検知する。容器4内の内容物が沸騰したことを検知した場合(ステップS2;Yes)には、処理がステップS11およびステップS22に移行する。一方、容器4内の内容物が沸騰していないことを検知した場合(ステップS2;No)には、処理がステップS2に戻り、沸騰するまでステップS2の処理が繰り返される。
【0062】
ステップS2において沸騰が検知されると、ステップS11において、温度判定部52は、温度センサ6の計測結果と温度設定部51により設定された設定温度Tとに基づき、容器4内の内容物が設定温度Tに到達したか否かを判定する。
【0063】
容器4内の内容物が設定温度Tに到達したと判定された場合(ステップS11;Yes)には、ステップS3において温調が開始される。また、容器4内の内容物が設定温度Tに到達していないと判定された場合(ステップS11;No)には、処理がステップS11に戻り、容器4内の内容物が設定温度Tに到達するまで、ステップS11の処理が繰り返される。
【0064】
一方、ステップS2において沸騰が検知されると、圧力制御部57は、ステップS22において減圧ポンプ20を停止させるとともに、ステップS23において電磁弁21を「閉」とし、容器4を密閉する。そして、ステップS3において温調が開始される。
【0065】
ステップS3で温調が開始されると、ステップS12において、加熱制御部56は、容器4内の内容物が設定温度Tを維持するように加熱装置5を制御する。また、圧力判定部55は、ステップS24において、容器4内の圧力が強制減圧圧力以上であるか否かを判定する。
【0066】
容器4内の圧力が強制減圧圧力以上である場合(ステップS24;Yes)、圧力制御部57は、ステップS25において、電磁弁21を「開」とするとともに減圧ポンプ20を駆動し、強制減圧を行う。そして、圧力制御部57は、例えば5秒程度の設定時間だけ強制減圧を行った後、ステップS26において、電磁弁21を「閉」とするとともに減圧ポンプ20を停止させ、減圧を停止する。一方、容器4内の圧力が強制減圧圧力未満である場合(ステップS24;No)には、処理がステップS4に移行する。
【0067】
次に、ステップS4において、設定時間が経過したか否かが判定される。設定時間が経過した場合(ステップS4;Yes)には、一連の処理が終了する。一方、設定時間が経過していない場合(ステップS4;No)には、処理がステップS12およびステップS24に移行し、温調が継続される。
【0068】
図7は、本実施の形態1に係る加熱調理器100の調理制御について説明するための概略図である。図7は、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図7に示すように、加熱調理器100には、調理の際の工程として、昇温工程および温調工程が設定されている。この例では、調理の際に、容器4内の圧力を第1の設定圧力P1まで減圧し、第1の設定温度T1で内容物を沸騰させた状態を維持する場合について説明する。
【0069】
(昇温工程)
昇温工程は、容器4内の内容物が沸騰するまで昇温する工程である。調理開始後、加熱制御部56は、温度センサ6で計測された容器4の温度が第1の設定温度T1[℃]となるように加熱装置5を駆動し、容器4の加熱を開始する。なお、調理開始時において、電磁弁21は「開」とされており、調理が開始されると、電磁弁21は「閉」とされる。また、調理が開始されると、蒸気排出弁12も「閉」とされる。
【0070】
時点t1において、予め設定された減圧開始時間に到達すると、圧力制御部57は、減圧ポンプ20を駆動するとともに電磁弁21を「開」とし、容器4内の減圧を開始する。そして、圧力制御部57は、圧力が第1の設定圧力P1になるまで減圧を続ける。
【0071】
一方、加熱制御部56は、温度センサ6で計測された容器4の温度が第1の設定温度T1に近づくにつれて、容器4の温度が第1の設定温度T1となるように加熱装置5を制御する。具体的には、加熱制御部56は、容器4の温度が第1の設定温度T1に緩やかに到達するように、加熱装置5を制御する。
【0072】
時点t2において、沸騰検知部53が沸騰を検知すると、圧力制御部57は、減圧ポンプ20を停止させるとともに、電磁弁21を「開」から「閉」に切り替え、容器4を密閉状態にする。そして、工程が温調工程に移行する。なお、内容物の沸騰検知として、従来から用いられている各種公知の方法が用いられる。具体的には、例えば、容器4内の空間温度を計測する容器内空間温度センサを設け、容器内空間温度センサの計測温度と温度センサ6で計測された容器4の温度との温度差が設定値以下になった場合に、沸騰検知部53は、沸騰を検知することができる。
【0073】
(温調工程)
温調工程は、容器4内の内容物の温度が第1の設定温度T1を維持するように、温度を調整する工程である。内容物の温度が第1の設定温度T1に到達し、工程が温調工程に移行すると、加熱制御部56は、内容物の温度が第1の設定温度T1を維持するように加熱装置5を制御する。すなわち、加熱制御部56は、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まるように加熱装置5を制御する。なお、ここでは、「第1の設定温度T1を含む一定の温度範囲内に収まる」ことが「第1の設定温度T1を維持する」ことを意味するものとする。温調工程の時間が設定時間に到達すると、調理制御が終了する。
【0074】
ここで、内容物の温度が設定温度に到達したか否かの判断は、従来から用いられている各種公知の方法が用いられる。具体的には、例えば、細長い線状の温度センサを外蓋2に設け、蓋センサ23と同様に内蓋9に設けられた貫通孔を介して、内容物の温度を直接計測する方法を用いることができる。また、容器4内の空間温度を計測する容器内空間温度センサを設け、容器内空間温度センサの計測温度が設定値以下になった場合に設定温度に到達したと判定する方法が用いられてもよい。さらに、タイマーを備え、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度に到達してから設定時間が経過した際に設定温度に到達したと判定する方法が用いられてもよい。
【0075】
このように、本実施の形態1では、昇温工程中の予め設定された減圧開始時間t1で減圧を開始し、内容物の温度が第1の設定温度T1に到達すると同時に容器4内の圧力が第1の設定圧力P1となる。これにより、第1の設定温度T1に到達した時点で内容物が沸騰するため、その後の温調工程において、沸騰が維持された状態で温調することができる。
【0076】
[昇温工程時間と減圧開始時間との関係]
ここで、昇温工程に要する昇温工程時間は、設定温度、加熱速度および容器4内の内容物の量等の設定条件によって変動する。例えば、昇温工程時間は、設定温度が高い場合、加熱速度が遅い場合、あるいは、容器4内の内容物の量が多い場合に長くなる。一方、減圧開始時間は、内容物の温度が設定温度に到達すると同時に容器4内の圧力が設定圧力となるようにするための、昇温工程が開始されてから減圧が開始されるまでの時間である。そのため、減圧開始時間は、設定温度等の設定条件に応じて決定される必要がある。以下では、設定温度、加熱速度および容器4内の内容物の量のそれぞれの設定条件を変更することによって昇温工程時間が長くなった場合の減圧開始時間について説明する。
【0077】
(設定温度が高い場合)
図8は、設定温度が第2の設定温度T2である場合の、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図8に示す例において、第2の設定温度T2は、図7に示す第1の設定温度T1よりも高く設定されている。なお、加熱装置5の出力に基づく加熱速度および容器4内の内容物の量は、図7の例と同等であるものとする。
【0078】
この場合、図8に示すように、加熱速度および容器4内の内容物の量が図7の例と同様であり、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高いことから、昇温工程時間t4は、図7の例における昇温工程時間t2と比較して長くなる。また、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高いことから、第2の設定温度T2で内容物を沸騰させるための飽和水蒸気圧は、図7に示す例と比較して高い第2の設定圧力P2となる。そのため、容器4内を減圧する減圧時間は、図7に示す例と比較して短くなる。
【0079】
このように、図8に示す例では、図7の例と比較して、昇温工程時間が長く、減圧時間が短くなることから、減圧開始時間t3は、図7に示す減圧開始時間t1よりも長くなる。したがって、この場合の減圧開始時間t3は、減圧開始時間t1よりも長くなるように設定される。
【0080】
(加熱速度が遅い場合)
図9は、加熱速度が遅い場合の、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図9に示す例において、加熱速度は、加熱装置5の出力が図7の例よりも低く設定されることにより、遅く設定されている。なお、第1の設定温度T1および容器4内の内容物の量は、図7の例と同等であるものとする。
【0081】
この場合、図9に示すように、第1の設定温度T1および容器4内の内容物の量が図7の例と同様であり、加熱速度が図7の例よりも遅いことから、昇温工程時間t6は、図7の例における昇温工程時間t2と比較して長くなる。一方、第1の設定温度T1で内容物を沸騰させるための飽和水蒸気圧は、図7に示す例と同様である。そのため、容器4内を減圧する減圧時間は、図7に示す例と同様である。
【0082】
このように、図9に示す例では、図7の例と比較して、昇温工程時間が長く、減圧時間が同様であることから、減圧開始時間t5は、図7に示す減圧開始時間t1よりも長くなる。したがって、この場合の減圧開始時間t5は、減圧開始時間t1よりも長くなるように設定される。
【0083】
(内容物の量が多い場合)
図10は、容器4内の内容物の量が多い場合の、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図10に示す例において、容器4内の内容物の量は、図7の例よりも多く設定されている。なお、第1の設定温度T1および加熱装置5の出力は、図7の例と同等であるものとする。
【0084】
この場合、図10に示すように、第1の設定温度T1が図7の例と同様であり、容器4内の内容物の量が多いことによって容器4の昇温速度が図7の例よりも遅いことから、昇温工程時間t8は、図7の例における昇温工程時間t2と比較して長くなる。一方、第1の設定温度T1で内容物を沸騰させるための飽和水蒸気圧は、図7に示す例と同様である。そのため、容器4内を減圧する減圧時間は、図7に示す例と同様である。
【0085】
このように、図10に示す例では、図7の例と比較して、昇温工程時間が長く、減圧時間が同様であることから、減圧開始時間t7は、図7に示す減圧開始時間t1よりも長くなる。したがって、この場合の減圧開始時間t7は、減圧開始時間t1よりも長くなるように設定される。
【0086】
(設定温度が高く、加熱速度が遅い場合)
図11は、設定温度を第2の設定温度T2とし、かつ加熱速度が遅い場合の、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図11に示す例において、第2の設定温度T2は、図7に示す第1の設定温度T1よりも高く設定されている。また、加熱速度は、加熱装置5の出力が図7の例よりも低く設定されることにより、遅く設定されている。なお、容器4内の内容物の量は、図7の例と同等であるものとする。
【0087】
この場合、図11に示すように、容器4内の内容物の量が図7の例と同様であるが、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高く、加熱速度が図7の例よりも遅いことから、昇温工程時間t10は、図7の例における昇温工程時間t2と比較して長くなる。また、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高いことから、第2の設定温度T2で内容物を沸騰させるための飽和水蒸気圧は、図7に示す例と比較して高い第2の設定圧力P2となる。そのため、容器4内を減圧する減圧時間は、図7に示す例と比較して短くなる。
【0088】
このように、図11に示す例では、図7の例と比較して、昇温工程時間が長く、減圧時間が短くなることから、減圧開始時間t9は、図7に示す減圧開始時間t1よりも長くなる。したがって、この場合の減圧開始時間t9は、減圧開始時間t1よりも長くなるように設定される。
【0089】
図8図11に示す例では、いずれも図7に示す例と比較して昇温工程時間が長くなっており、この場合の減圧開始時間が長くなっている。したがって、本実施の形態1において、昇温工程時間が長い場合には、減圧を開始するタイミングが遅くなるように、減圧開始時間が長く設定される。また、本実施の形態1では、図8図11に示す例と図7に示す例とにおける昇温工程時間の差が、図8図11に示す例と図7に示す例とにおける減圧ポンプ20の駆動時間の差よりも大きくなるように、減圧開始時間が設定される。
【0090】
ここで、予め記憶されたメニューを実行する場合の減圧開始時間は、記憶部58に予め記憶されたメニューに応じた減圧開始時間に決定され、昇温工程時間が長いメニューほど、減圧開始時間が長くなるように設定される。また、ユーザによって設定温度が直接選択される場合、あるいは、ユーザによって設定された情報に基づいて設定温度が設定される場合には、例えば、容器4の温度が当該設定温度に対応する基準温度になったときに、減圧が開始されてもよい。
【0091】
具体的には、複数の設定温度と、減圧を開始する時点の容器4の基準温度とがそれぞれ関連付けられたテーブルを記憶部58に予め記憶しておき、ユーザによって設定温度が設定された場合に、テーブルを参照して当該設定温度に対応する基準温度が決定される。そして、温度センサ6によって計測された容器4の温度が決定された基準温度に到達した際に、減圧が開始される。
【0092】
なお、この場合の最適な基準温度は、減圧ポンプ20の性能および容器4の容量等によって大きく変わるため、基準温度は、減圧ポンプ20の性能および容器4の容量等を考慮して設定されるとよい。ただし、この場合の基準温度は、設定温度が高いほど高く、かつ設定温度以下となるようにする。すなわち、設定温度よりも低い温度のときに減圧が開始されるように、基準温度が設定される。また、基準温度は、例えば、温度センサ6等を用いて、昇温工程中の一定区間における容器4の温度差に基づき得られる容器4の昇温速度を求め、求めた昇温速度を用いて補正されてもよい。
【0093】
以上のように、本実施の形態1に係る加熱調理器100において、制御装置50は、昇温制御に要する昇温時間に応じて減圧開始時間を決定し、昇温制御の際に、容器4内の圧力が大気圧未満の設定圧力に減圧するように減圧ポンプ20を制御する。これにより、容器4の内容物の温度が設定温度に到達する時点で、容器4内の圧力が設定圧力となるため、減圧ポンプ20の駆動時間を短縮しつつ、内容物を確実に沸騰させることができる。
【0094】
また、加熱調理器100において、昇温工程時間が長い場合の減圧開始時間は、昇温工程時間が短い場合の減圧開始時間よりも長くなるように、減圧ポンプ20の駆動が制御される。すなわち、昇温工程時間が長い場合に、減圧ポンプ20による減圧の開始タイミングが遅くなるように、減圧ポンプ20の駆動が制御される。これにより、内容物の温度が設定温度に到達した際に、容器4内の圧力が設定圧力となるため、内容物を沸騰させるために減圧ポンプ20の駆動時間が長くなるのを抑制することができる。
【0095】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2では、昇温工程時間が同等である場合でも、減圧開始時間を変更する点で、実施の形態1と相違する。
【0096】
実施の形態1では、設定温度、加熱速度および容器4内の内容物の量等の設定条件が異なる調理モードにおいて、昇温工程時間が異なる場合に容器4内の減圧開始時間を変更することについて説明した。一方、設定条件によっては、異なる調理モードでも昇温工程時間が同等となる場合がある。そして、昇温工程時間が同等であっても、容器4内の減圧開始時間を変更することが望ましい場合がある。
【0097】
そこで、本実施の形態2では、異なる調理モードにおいて昇温工程時間が同等である場合でも、容器4内の減圧開始時間を変更するようにした。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、本実施の形態2に係る加熱調理器100の構成および基本動作は、実施の形態1と同様であるため、ここでは、本実施の形態2の特徴部分についてのみ説明する。
【0098】
(設定温度が高く、加熱速度が速い場合)
図12は、設定温度を第2の設定温度T2とし、かつ加熱速度が速い場合の、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ20、電磁弁21および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係の一例を示すタイミングチャートである。図12に示す例において、第2の設定温度T2は、図7に示す第1の設定温度T1よりも高く設定されている。また、加熱速度は、加熱装置5の出力が図7の例よりも高く設定されることにより、速く設定されている。なお、容器4内の内容物の量は、図7の例と同等であるものとする。
【0099】
この場合、図12に示すように、容器4内の内容物の量が図7の例と同様であるが、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高く、加熱速度が図7の例よりも速いことから、昇温工程時間t12は、図7の例における昇温工程時間t2と同等となっている。また、第2の設定温度T2が第1の設定温度T1よりも高いことから、第2の設定温度T2で内容物を沸騰させるための飽和水蒸気圧は、図7に示す例と比較して高い第2の設定圧力P2となる。そのため、容器4内を減圧する減圧時間は、図7に示す例と比較して短くなる。
【0100】
このように、図12に示す例では、図7の例と比較して、昇温工程時間が同等であるものの、減圧時間が短くなることから、減圧開始時間t11は、図7に示す減圧開始時間t1よりも長くなる。したがって、この場合の減圧開始時間t11は、減圧開始時間t1よりも長くなるように設定される。
【0101】
図12に示す例では、図7に示す例と比較して昇温工程時間が同等であっても、減圧開始時間が長くなっている。これは、設定温度が高く設定されることにより、当該設定温度における飽和水蒸気圧が高くなり、それによって減圧時間が短くなるためである。したがって、本実施の形態2では、異なる調理モードにおける昇温工程時間が同等であっても、設定温度が高い場合には、減圧を開始するタイミングが遅くなるように、減圧開始時間が長く設定される。また、本実施の形態2では、図12に示す例と図7に示す例とにおける昇温工程時間の差が、図12に示す例と図7に示す例とにおける減圧ポンプ20の駆動時間の差よりも小さくなるように、減圧開始時間が設定される。
【0102】
なお、図7に示す例と比較して、設定温度が高く設定されても昇温工程時間が同等となるのは、加熱速度が速くなるように設定された場合に限られない。例えば、容器4内の内容物の量が少ない場合には昇温速度が速くなるため、設定温度が高く設定されても昇温工程時間が同等となる。そのため、この場合も、図12に示す例と同様に、減圧開始時間が長く設定される。
【0103】
以上のように、本実施の形態2に係る加熱調理器100において、制御装置50は、設定温度に応じて減圧開始時間を決定し、昇温工程の際に、容器4内が大気圧未満の圧力に減圧するように減圧ポンプ20を制御する。これにより、実施の形態1と同様に、減圧ポンプ20の駆動時間を短縮しつつ、内容物を確実に沸騰させることができる。
【0104】
また、加熱調理器100において、設定温度が高い場合の減圧開始時間は、設定温度が低い場合の減圧開始時間よりも長くなるように、減圧ポンプ20の駆動が制御される。すなわち、設定温度が高い場合に減圧ポンプ20による減圧の開始タイミングが遅くなるように、減圧ポンプ20の駆動が制御される。これにより、容器4内の内容物の温度が設定温度に到達した際に、容器4内の圧力が設定圧力となるため、内容物を沸騰させるために減圧ポンプ20の駆動時間が長くなるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 本体、2 外蓋、3 容器収納部、4 容器、4a フランジ部、5 加熱装置、5a 加熱コイル、6 温度センサ、7 圧縮ばね、8 取っ手部、9 内蓋、10 蓋パッキン、11 蒸気孔、12 蒸気排出弁、13 カートリッジ、14 蒸気排出口、15 カートリッジパッキン、16 内蓋通気孔、17 外蓋通気孔、18 連通管、19 経路パッキン、20 減圧ポンプ、21 電磁弁、22 センサ孔、23 蓋センサ、24 蓋センサパッキン、25 操作表示装置、30 インバータ部、50 制御装置、51 温度設定部、52 温度判定部、53 沸騰検知部、54 圧力設定部、55 圧力判定部、56 加熱制御部、57 圧力制御部、58 記憶部、100 加熱調理器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12