(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011825
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/387 20060101AFI20220107BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16F1/387 A
F16F15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113205
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】安藤 龍一
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048BC10
3J059AB11
3J059BA54
3J059BA73
3J059BC01
3J059BC06
3J059GA20
(57)【要約】
【課題】軸方向ストッパゴムを有効に設けつつ、一対のゴム腕の耐久性の向上を図ることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供すること。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14が一対のゴム腕28,28によって相互に連結された構造を有する筒形防振装置10であって、アウタ筒部材14が軸方向一方の端部において内周側へ向けて突出する内フランジ状部20を有しており、内フランジ状部20の軸方向外面には軸方向ストッパゴム34が設けられ、内フランジ状部20の軸方向内面にはゴム腕28が固着され、内フランジ状部20にはゴム腕28の周方向端面40と対応する位置に配された部分的な短尺部22が設けられていると共に、内フランジ状部20には短尺部22を周方向へ外れた部分に長尺部24が設けられており、短尺部22の径方向長さ寸法L1がゴム腕28への固着部分における長尺部24の径方向長さ寸法L2よりも小さくされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が該インナ軸部材から径方向の両側へ向けて延び出す一対のゴム腕によって相互に連結された構造を有する筒形防振装置であって、
前記アウタ筒部材が軸方向一方の端部において内周側へ向けて突出する内フランジ状部を有しており、
該内フランジ状部の軸方向外面には軸方向ストッパゴムが設けられ、
該内フランジ状部の軸方向内面には前記ゴム腕が固着され、
該内フランジ状部には該アウタ筒部材の周方向における該ゴム腕の端面と対応する位置に配された部分的な短尺部が設けられていると共に、該内フランジ状部には該短尺部を周方向へ外れた部分に長尺部が設けられており、
該短尺部の径方向長さ寸法が該ゴム腕への固着部分における該長尺部の径方向長さ寸法よりも小さくされている筒形防振装置。
【請求項2】
前記内フランジ状部には、周方向における前記一対のゴム腕の各両端面と対応する位置に前記短尺部がそれぞれ設けられている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記長尺部が、前記一対のゴム腕に固着された第一長尺部と、該一対のゴム腕の周方向間に位置する第二長尺部とを有し、
該第一長尺部の径方向長さ寸法が該第二長尺部の径方向長さ寸法と同じとされている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記長尺部が、前記一対のゴム腕に固着された第一長尺部と、該一対のゴム腕の周方向間に位置する第二長尺部とを有し、
該第二長尺部の径方向長さ寸法が該第一長尺部の径方向長さ寸法よりも大きくされている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記短尺部の内側面が角のない湾曲面によって構成されている請求項1~4の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
前記アウタ筒部材が軸方向他方の端部において外周側へ向けて突出する外フランジ状部を備えている請求項1~5の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサブフレームマウント等に用いられる筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のサブフレームマウント等に用いられる筒形防振装置が知られている。筒形防振装置は、例えば、特開2011-117570号公報(特許文献1)に示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材が、インナ軸部材から径方向の両側へ向けて延び出す一対のゴム腕によって相互に連結された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒形防振装置は、特許文献1にも示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向の相対変位量を制限する軸方向のストッパ機構を備える場合がある。軸方向のストッパ機構は、例えば、アウタ筒部材の軸方向一方の端部に内周へ向けて突出する内フランジ状部が設けられており、内フランジ状部から軸方向の外方へ向けて突出する軸方向ストッパゴムが内フランジ状部に固着された構造を有している。そして、内フランジ状部がインナ軸部材側に対して軸方向ストッパゴムを介して軸方向において当接することにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向の相対変位量が制限される。
【0005】
しかしながら、アウタ筒部材に内フランジ状部が設けられた構造では、内フランジ状部の軸方向投影面積を確保して軸方向ストッパゴムの固着面積を大きく得ながら、一対のゴム腕の耐久性を確保することが難しい場合もあった。即ち、アウタ筒部材の軸方向一方の端部に内フランジ状部が設けられていると、一対のゴム腕を成形する金型が挿通されるアウタ筒部材の軸方向一方の開口が、内フランジ状部によって小径化される。それゆえ、内フランジ状部の内周への突出長さ寸法を大きくして、内フランジ状部の軸方向投影面積を確保しようとすると、金型によって成形される一対のゴム腕の自由長が短くなって、一対のゴム腕の耐久性に対する高度な要求を満たすことが難しくなる場合もあった。特に、一対のゴム腕は、周方向端部の自由長が十分に確保されない場合に、周方向端部において亀裂が生じるなどして耐久性を確保することが難しい場合もあった。
【0006】
本発明の解決課題は、軸方向ストッパゴムを有効に設けつつ、一対のゴム腕の耐久性の向上を図ることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が該インナ軸部材から径方向の両側へ向けて延び出す一対のゴム腕によって相互に連結された構造を有する筒形防振装置であって、前記アウタ筒部材が軸方向一方の端部において内周側へ向けて突出する内フランジ状部を有しており、該内フランジ状部の軸方向外面には軸方向ストッパゴムが設けられ、該内フランジ状部の軸方向内面には前記ゴム腕が固着され、該内フランジ状部には該アウタ筒部材の周方向における該ゴム腕の端面と対応する位置に配された部分的な短尺部が設けられていると共に、該内フランジ状部には該短尺部を周方向へ外れた部分に長尺部が設けられており、該短尺部の径方向長さ寸法が該ゴム腕への固着部分における該長尺部の径方向長さ寸法よりも小さくされているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、内フランジ状部の軸方向外面に軸方向ストッパゴムが設けられていることにより、内フランジ状部とインナ軸部材側の他部材との軸方向ストッパゴムを介した当接によって、インナ軸部材とアウタ筒部材との軸方向の相対変位量が制限される。それ故、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向での過大な相対変位による一対のゴム腕の損傷が回避されて、一対のゴム腕の耐久性の向上が図られる。
【0010】
また、アウタ筒部材の周方向における一対のゴム腕の端面の自由長が、アウタ筒部材の内フランジ状部に設けられた短尺部によって長く確保可能とされて、一対のゴム腕の耐久性の向上が図られる。即ち、一対のゴム腕がアウタ筒部材の内周に形成される際に、一対のゴム腕の成形用金型がアウタ筒部材の軸方向両側の開口を通じて挿入されることから、アウタ筒部材の開口が内フランジ状部によって狭められると、一対のゴム腕の自由長が短くなってしまう。そこで、内フランジ状部に短尺部を設けて、短尺部を各ゴム腕の周方向端面と対応する位置に配することにより、短尺部を通じてアウタ筒部材に挿入される金型によって、周方向端面の自由長が長いゴム腕を成形することができるようにした。これにより、大きな軸方向投影面積を有する長尺部を備えた内フランジ状部によって、耐荷重性に優れた軸方向のストッパ機構を構成しつつ、亀裂の発生等が問題になり易いゴム腕の周方向端面において自由長が十分に確保されて、一対のゴム腕の耐久性を有利に確保することができる。
【0011】
特に、ゴム腕は、周方向端面において亀裂等が問題となり易く、それに対して周方向中間部分では、周方向端面に比して自由長が短くされていても、周方向端面と同等の耐久性を実現することが可能である。そこで、内フランジ状部は、ゴム腕の周方向端面に対応する部分が径方向長さの短い短尺部とされ、ゴム腕への固着部分となるゴム腕の周方向中間に対応する部分が径方向長さの長い長尺部とされている。これにより、ゴム腕の周方向端面において自由長の確保による耐久性の向上を実現しつつ、長尺部をゴム腕上にも設けることによって、軸方向のストッパ荷重を受ける面積を大きく確保して、軸方向のストッパ機構における耐荷重性の向上も実現することができる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記内フランジ状部には、周方向における前記一対のゴム腕の各両端面と対応する位置に前記短尺部がそれぞれ設けられているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材の周方向における各ゴム腕の両端面の自由長が何れも長く確保されて、一対のゴム腕の耐久性の向上がより有利に図られる。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記長尺部が、前記一対のゴム腕に固着された第一長尺部と、該一対のゴム腕の周方向間に位置する第二長尺部とを有し、該第一長尺部の径方向長さ寸法が該第二長尺部の径方向長さ寸法と同じとされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ軸部材と内フランジ状部の長尺部との径方向の離隔距離が、全周にわたって大きくされて、径方向においてインナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位のストロークを十分に確保することができる。
【0016】
第四の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記長尺部が、前記一対のゴム腕に固着された第一長尺部と、該一対のゴム腕の周方向間に位置する第二長尺部とを有し、該第二長尺部の径方向長さ寸法が該第一長尺部の径方向長さ寸法よりも大きくされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、第二長尺部の径方向長さ寸法を大きくすることによって、ストッパ荷重を受ける長尺部の軸方向投影面積を大きくすることができる。しかも、一対のゴム腕に固着された第一長尺部は、第二長尺部よりも径方向長さ寸法が小さいことから、長尺部の軸方向投影面積を第二長尺部によって大きく得ながら、一対のゴム腕の自由長が第一長尺部によって過度に短くなるのを防ぐことができる。
【0018】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記短尺部の内側面が角のない湾曲面によって構成されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、素板を打ち抜くなどして内フランジ状部に短尺部を形成する際に、応力の分散化が図られて、割れなどの不具合を回避することができる。また、内フランジ状部にストッパ荷重などの外力が作用する場合にも、短尺部の内側面において応力集中が回避される。
【0020】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材が軸方向他方の端部において外周側へ向けて突出する外フランジ状部を備えているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、外フランジ状部が設けられたアウタ筒部材の軸方向他方の端部は、内フランジ状部が設けられたアウタ筒部材の軸方向一方の端部よりも開口面積が大きく、ゴム腕の自由長の確保が妨げられない。また、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向の相対変位量を制限する軸方向のストッパ機構を、外フランジ状部を利用して構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軸方向ストッパゴムを有効に設けつつ、一対のゴム腕の耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのサブフレームマウントを示す斜視図
【
図6】
図1に示すサブフレームマウントを構成するアウタ筒部材の斜視図
【
図8】本発明の第二の実施形態としてのサブフレームマウントを示す平面図
【
図9】本発明の第三の実施形態としてのサブフレームマウントを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1~
図5には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の第一の実施形態として、自動車用のサブフレームマウント10が示されている。サブフレームマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が、本体ゴム弾性体16によって相互に連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、軸方向とはマウント中心軸方向である
図4中の上下方向を、左右方向とは後述する一対のゴム腕28,28が配される
図2中の左右方向を、それぞれ言う。また、前後方向とは左右方向と直交する径方向である
図2中の上下方向であって、前方とは
図2中の下方を言う。また、以下の説明において、周方向とは、原則として、アウタ筒部材14の周方向を言う。
【0026】
インナ軸部材12は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、略一定断面で直線的に延びる円筒形状とされている。インナ軸部材12は、必ずしも円形の断面形状を有する円筒形状に限定されないし、断面の形状や大きさ等が軸方向において変化していてもよい。また、インナ軸部材12は、例えば、軸方向の中央部分において径方向の外側へ向けて突出するストッパ突部を有していてもよい。
【0027】
アウタ筒部材14は、インナ軸部材12と同様に金属等によって形成されており、インナ軸部材12に比して薄肉大径の円筒形状を有する筒状部18を備えている。筒状部18は、本実施形態において略一定の断面形状で軸方向に直線的に延びる円筒形状とされているが、例えば、断面形状が楕円であってもよいし、軸方向において部分的に拡径するなど断面の形状や大きさ等が変化していてもよい。
【0028】
アウタ筒部材14は、
図6,
図7に示すように、軸方向一方の端部である上端部に内フランジ状部20を備えている。内フランジ状部20は、筒状部18と一体形成されており、筒状部18の上端から内周へ向けて突出している。内フランジ状部20は、周方向の全周にわたって連続して設けられている。
【0029】
内フランジ状部20は、周方向の4箇所に短尺部22を備えている。短尺部22は、内フランジ状部20において周方向で部分的に径方向長さ寸法が小さくされた部分であって、突出先端面である内側面23が凹状とされている。本実施形態において、短尺部22の内側面23は、軸方向視で略半円形状とされており、角のない滑らかな湾曲面によって構成されている。
【0030】
内フランジ状部20において短尺部22を周方向に外れた部分は、長尺部24とされており、短尺部22よりも内周まで突出している。長尺部24は、後述する一対のゴム腕28,28の上面に固着される第一長尺部24a,24aと、一対のゴム腕28,28の周方向間に位置する第二長尺部24b,24bとを、有している。そして、短尺部22における内フランジ状部20の径方向長さ寸法L1(内周への突出寸法)は、第一長尺部24aの径方向長さ寸法L2と第二長尺部24bの径方向長さ寸法L3との何れよりも小さくされている(L1<L2,L1<L3)。従って、内フランジ状部20の径方向長さ寸法は、第一,第二長尺部24a,24bの周方向間に設けられた短尺部22において、周方向で部分的に小さくされている。
【0031】
本実施形態の内フランジ状部20は、長尺部24の径方向長さ寸法が、周方向において略一定とされている。要するに、第一長尺部24aの径方向長さ寸法が周方向において略一定のL2であると共に、第二長尺部24bの径方向長さ寸法が周方向において略一定のL3であり、更に第一長尺部24aの径方向長さ寸法L2と、第二長尺部24bの径方向長さ寸法L3とが等しい(L2=L3)。従って、内フランジ状部20の内周側に形成されるアウタ筒部材14の上開口は、全体として略円形とされており、短尺部22が配された周方向の4箇所において部分的に拡径されている。第二長尺部24bは、第一長尺部24aよりも周方向長さ寸法が大きくされている。
【0032】
アウタ筒部材14は、軸方向他方の端部である下端部に外フランジ状部26を備えている。外フランジ状部26は、筒状部18と一体形成されており、筒状部18の下端から外周へ向けて突出している。外フランジ状部26は、周方向の全周にわたって略一定の径方向長さ寸法で連続して設けられている。
【0033】
図2~
図5に示すように、インナ軸部材12がアウタ筒部材14の内周へ同軸的に配されて、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に連結されている。本体ゴム弾性体16は、一対のゴム腕28,28を含んで構成されている。ゴム腕28は、左右方向に延びており、左右内側の端部がインナ軸部材12の外周面に固着されていると共に、左右外側の端部がアウタ筒部材14の内周面に固着されている。従って、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、インナ軸部材12から径方向の両側へ向かって延び出す一対のゴム腕28,28が、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向対向面間に配されていることにより、径方向において相互に連結されている。なお、本体ゴム弾性体16の内周端部は、円筒形状とされて、インナ軸部材12の外周面に全周にわたって固着されている。また、本体ゴム弾性体16の外周端部は、円筒形状とされて、アウタ筒部材14の内周面に全周にわたって固着されている。
【0034】
本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。即ち、インナ軸部材12とアウタ筒部材14がセットされた図示しない成形用金型のキャビティにゴム材料を充填して加硫成形することにより、本体ゴム弾性体16がインナ軸部材12とアウタ筒部材14に固着された状態で成形される。
【0035】
ゴム腕28の周方向端面40は、アウタ筒部材14の内フランジ状部20に設けられた短尺部22に対して位置決めされている。4つの短尺部22は、一対のゴム腕28,28の各周方向端面40に対して位置決めされている。各ゴム腕28のアウタ筒部材14側の端部は、周方向端面40が短尺部22の内周を通じて軸方向の上方へ露出している。ゴム腕28の周方向端面40は、短尺部22の周方向の中央部分に位置している。
【0036】
図4,
図5に示すように、ゴム腕28における左右外側の端部は、軸方向端面である上面が、内フランジ状部20を構成する第一長尺部24aの軸方向内面(下面)に加硫接着されている。また、ゴム腕28の上面における内フランジ状部20よりも内周側には、上方へ向けて開口して周方向に延びる溝状の上すぐり部30が形成されている。ゴム腕28の下面には、下方へ向けて開口して周方向に延びる溝状の下すぐり部32が形成されている。
【0037】
内フランジ状部20の軸方向外面である上面には、軸方向ストッパゴムとしての第一ストッパゴム34が固着されている。第一ストッパゴム34は、内フランジ状部20における4つの短尺部22を周方向へ外れた位置に配されており、内フランジ状部20の4つの長尺部24において上方へ突出している。第一ストッパゴム34の周方向間には、短尺部22に固着されて周方向に延びる連結ゴム36が設けられており、周方向において隣り合う2つの第一ストッパゴム34が、連結ゴム36によって一体的に連結されている。連結ゴム36は、第一ストッパゴム34に比して、突出高さが低く且つ径方向の幅が狭くされている。第一ストッパゴム34及び連結ゴム36は、内フランジ状部20よりも内周側において本体ゴム弾性体16と連続して一体的に設けられている。なお、
図1~
図3において、短尺部22の内側面23は、本体ゴム弾性体16と連結ゴム36をつなぐゴムによって被覆された状態で図示されている。
【0038】
外フランジ状部26の軸方向外面である下面には、第二ストッパゴム38が固着されている。第二ストッパゴム38は、全周にわたって連続する環状とされており、外フランジ状部26から下方へ向けて突出している。第二ストッパゴム38は、本体ゴム弾性体16と一体的に設けられている。
【0039】
サブフレームマウント10は、
図4に示すように、インナ軸部材12が図示しないボルトによって車両ボデー42に固定されると共に、アウタ筒部材14がサブフレーム44の取付筒部46に圧入固定されることにより、車両へ装着される。サブフレームマウント10は、インナ軸部材12が図示しないインナブラケットを介して車両ボデー42に取り付けられてもよいし、アウタ筒部材14が図示しないアウタブラケットを介してサブフレーム44に取り付けられてもよい。そして、車両への装着状態において、サブフレーム44からサブフレームマウント10へ振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の弾性変形による振動減衰作用や振動絶縁作用によって、サブフレーム44から車両ボデー42への振動伝達が低減される。
【0040】
ところで、振動入力によって本体ゴム弾性体16が弾性変形する際に、本体ゴム弾性体16を構成する一対のゴム腕28,28は、周方向端面40において亀裂を生じやすい。そこで、一対のゴム腕28,28は、他部材によって直接的に拘束されていない自由表面である周方向端面40が、略左右方向であるゴム腕28の延伸方向の長さ(自由長)を長くされている。
【0041】
すなわち、ゴム腕28の上面を成形する第一金型と、ゴム腕28の下面を成形する第二金型とが、アウタ筒部材14の内周へ軸方向の両側から差し入れられ、それら第一金型と第二金型の間に形成されるキャビティにゴム材料が充填されて加硫成形されることにより、ゴム腕28が形成される。それ故、一対のゴム腕28,28は、第一金型と第二金型によって成形可能な形状とされる。具体的には、
図2~
図5に示すように、一対のゴム腕28,28の上面は、外周端部において内フランジ状部20の下面に固着されていると共に、内フランジ状部20よりも内周側において上方に露出している。一対のゴム腕28,28の下面は、筒状部18の下開口を通じて下方に露出している。
【0042】
したがって、ゴム腕28の延伸方向の自由長は、筒状部18から内周へ突出した内フランジ状部20によって規定されている。ここにおいて、内フランジ状部20は、短尺部22を備えており、短尺部22において内フランジ状部20の筒状部18から内周への突出寸法(径方向長さ寸法)が小さくされていることから、短尺部22の形成部分においてゴム腕28の自由長が長くされている。短尺部22は、ゴム腕28の周方向端面40に対して位置決めされていることから、ゴム腕28の周方向端面40の自由長が短尺部22によって長くされている。それ故、耐久性が問題となり易いゴム腕28の周方向端面40において、長い自由長が確保されることによる耐久性の向上が図られて、例えば、ゴム腕28の周方向端面40における亀裂の発生などが回避される。
【0043】
本実施形態では、4つの短尺部22が一対のゴム腕28,28の各周方向端面40と対応する位置に配されている。それ故、一対のゴム腕28,28の各周方向端面40において、それぞれ自由長が長く確保されており、一対のゴム腕28,28の耐久性の向上が有利に図られている。また、4つの短尺部22を備えるアウタ筒部材14は、180度の回転対称形状とされている。それ故、アウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16の成形用金型にセットされる際に、アウタ筒部材14が金型に対して正しい向きに容易にセットされる。
【0044】
短尺部22の内側面23が滑らかな湾曲面とされていることにより、内フランジ状部20に短尺部22を形成する際や、内フランジ状部20にストッパ荷重が入力される際に、応力集中が回避されて、応力の分散化による内フランジ状部20の損傷の回避等が図られる。
【0045】
短尺部22の内側面23が円弧状に湾曲する湾曲面とされており、内フランジ状部20の径方向長さ寸法が、短尺部22の周方向の中央に向けて小さくなっている。また、周方向におけるゴム腕28の端面40は、周方向において短尺部22の中央部分に位置している。それ故、径方向長さが短くされた短尺部22の周方向中央によって、ゴム腕の延伸方向の自由長が、ゴム腕28の周方向端面40において効率的に確保されている。
【0046】
サブフレームマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向の相対変位量を制限するストッパ機構を備えている。即ち、サブフレームマウント10の車両への装着状態において、インナ軸部材12に固定された車両ボデー42の一部が、アウタ筒部材14の内フランジ状部20に対して、上方に対向して配されている。そして、それら車両ボデー42の一部と内フランジ状部20の長尺部24とが第一ストッパゴム34を介して当接することによって、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する下方への相対移動量が制限されている。また、サブフレームマウント10の車両への装着状態において、インナ軸部材12に固定された車両ボデー42の他の一部が、アウタ筒部材14の外フランジ状部26に対して、下方に対向して配されている。そして、それら車両ボデー42の他の一部と外フランジ状部26が第二ストッパゴム38を介して当接することによって、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する上方への相対移動量が制限されている。これらによって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位量を軸方向の両側において制限するストッパ機構が構成されている。
【0047】
第一ストッパゴム34は、内フランジ状部20において短尺部22を外れた長尺部24に固着されている。それ故、短尺部22において内フランジ状部20の径方向長さ寸法を小さくして、一対のゴム腕28,28の耐久性の向上を図りつつ、長尺部24では軸方向投影面積を確保することができる。それ故、長尺部24に大きな第一ストッパゴム34を固着することができて、第一ストッパゴム34の耐久性の向上を図ることができる。
【0048】
内フランジ状部20は、ゴム腕28の周方向中間部分に固着された部分が第一長尺部24aとされている。ゴム腕28の周方向中間部分は、周方向端面40に比べて短い自由長でも耐久性を確保可能であることから、ゴム腕28の周方向中間部分に対応する部分において内フランジ状部20を第一長尺部24aとしても、耐久性を確保することができる。従って、ゴム腕28上に第一長尺部24aを設けることにより、ストッパ荷重を受ける内フランジ状部20の軸方向投影面積を、優れたスペース効率で大きく得ることができる。
【0049】
また、内フランジ状部20において一対のゴム腕28,28の周方向間に位置する部分が第二長尺部24bとされており、短尺部22がゴム腕28の左右外端部における周方向端面40の成形に必要な範囲にのみ周方向で限定的に設けられている。これにより、内フランジ状部20においてストッパ荷重の作用面を周方向の広い範囲にわたって確保することができて、軸方向ストッパ機構における耐荷重性の向上が図られる。
【0050】
内フランジ状部20の長尺部24は、径方向長さ寸法が周方向において略一定とされており、インナ軸部材12と第二長尺部24bの前後方向間のスペースが大きく確保されている。それ故、一対のゴム腕28,28においてせん断ばね成分が支配的となってインナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する相対変位量が大きくなりやすい前後方向において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の大きな相対変位が許容される。
【0051】
また、ゴム腕28の上面に固着される第一長尺部24aも周方向において径方向長さ寸法が略一定とされていることから、ゴム腕28は、第一長尺部24aによって自由長が規定される周方向中間部分において、延伸方向の自由長が周方向で略一定とされている。従って、ゴム腕28の周方向中間部分において局所的な応力集中等が回避されて、優れた耐久性が実現される。
【0052】
図8には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の第二の実施形態として、自動車用のサブフレームマウント50が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
サブフレームマウント50は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体52によって相互に連結された構造を有している。本体ゴム弾性体52は、一対のゴム腕54,54を有している。一対のゴム腕54,54は、インナ軸部材12から左右両側へ延び出しており、外周端部がアウタ筒部材14に固着されている。一対のゴム腕54,54は、何れも左右方向の外方へ向けて前方へ傾斜する傾斜形状を有している。
【0054】
アウタ筒部材14の内フランジ状部20は、一対のゴム腕54,54の周方向端面40と対応する位置に短尺部22を備えている。一対のゴム腕54,54が傾斜形状とされていることにより、一対のゴム腕54,54の周方向間に位置する第二長尺部24b,24bは、前方の第二長尺部24bの周方向長さが、後方の第二長尺部24bの周方向長さよりも短くされている。
【0055】
このような傾斜形状のゴム腕54,54を有するサブフレームマウント50においても、第一の実施形態と同様に、軸方向のストッパ機構を有効に構成しつつ、一対のゴム腕54,54の耐久性の向上を図ることができる。
【0056】
図9には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の第三の実施形態として、自動車用のサブフレームマウント60が示されている。サブフレームマウント60は、インナ軸部材12とアウタ筒部材62が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。
【0057】
アウタ筒部材62は、上端において筒状部18から内周へ向けて突出する内フランジ状部64を備えている。内フランジ状部64は、短尺部22を周方向へ外れた部分に設けられた第一長尺部24a,24aと第二長尺部24b,24bが、軸方向視において互いに異なる形状とされている。
【0058】
すなわち、一対のゴム腕28,28が配された左右方向に位置する第一長尺部24aは、第一の実施形態と同様に、径方向長さ寸法L2が周方向において略一定とされている。一対のゴム腕28,28が配された左右方向と直交する前後方向に位置する第二長尺部24bは、径方向長さ寸法が周方向において変化している。より具体的には、第二長尺部24bは、径方向長さ寸法が、周方向の中央部分において周方向の両端部分よりも大きくされている。
【0059】
本実施形態では、第二長尺部24bの周方向両端における径方向長さ寸法が、第一長尺部24aの径方向長さ寸法と略同じとされており、第二長尺部24bの径方向長さ寸法が、周方向の全体にわたって、第一長尺部24aの径方向長さ寸法以上とされている。第二長尺部24bの周方向中央部分における径方向長さ寸法L4は、第一長尺部24aの径方向長さ寸法L2よりも大きくされている(L2<L4)。
【0060】
第一長尺部24aと第二長尺部24bの径方向長さが異なる内フランジ状部64を備えたアウタ筒部材62は、内フランジ状部64の内周を上下に貫通する上開口が、左右方向の幅寸法が前後方向の幅寸法よりも大きくされた扁平な形状とされている。
【0061】
このように、第二長尺部24bの径方向長さ寸法が、第一長尺部24aの径方向長さ寸法以上とされており、特に周方向の中間部分において第一長尺部24aの径方向長さ寸法よりも大きくされていることにより、第二長尺部24bの軸方向投影面積が大きくされている。それ故、第二長尺部24bに固着される軸方向ストッパゴムとしての第一ストッパゴム68は、第一長尺部24aに固着される第一ストッパゴム34に比して、軸方向投影面積が大きくされている。
【0062】
第二長尺部24bの突出先端面である内周の側面は、左右方向の両端部分が左右方向へ直線的に延びる平面とされていると共に、左右方向の中央部分がインナ軸部材12の外周面に対応する凹状の湾曲面とされている。これにより、第二長尺部24bの軸方向投影面積を大きくしながら、第二長尺部24bとインナ軸部材12の前後方向における離隔距離が確保されている。
【0063】
このような本実施形態に従う構造とされたサブフレームマウント60によれば、軸方向のストッパ機構を構成する第二長尺部24bが、軸方向の投影面積を大きくされている。それ故、ストッパ荷重を受ける内フランジ状部64の面積が大きく確保されて、耐荷重性の向上が図られると共に、第二長尺部24bに設けられる第一ストッパゴム68の面積をより大きくすることにより、第一ストッパゴム68の耐久性の向上も図られる。
【0064】
このように、内フランジ状部64における長尺部24の径方向長さ寸法を適宜に変更すれば、ゴム腕28の耐久性の向上を短尺部22によって図りながら、軸方向のストッパ荷重に対する耐荷重性や耐久性等を確保することもできる。なお、第一長尺部24aの径方向長さ寸法を大きくしようとすると、ゴム腕28の周方向中間部分における自由長が短くなり過ぎる場合があることから、ゴム腕28,28を周方向に外れた位置に配された第二長尺部24bの径方向長さ寸法を、要求特性に応じて長くすることが望ましい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態に示した短尺部22の内側面形状や大きさは、あくまでも例示であって、限定されるものではない。また、複数の短尺部22が設けられる場合に、それら全ての短尺部22が同一の内側面形状や大きさである必要はなく、少なくとも1つが他とは異なる形状や大きさとされていてもよい。
【0066】
短尺部22は、内フランジ状部20において少なくとも1つが形成されていればよい。好適には、短尺部22が形成されてもアウタ筒部材14が180度の回転対称形状となるように、短尺部22は2つ又は4つが形成される。
【0067】
例えば、第二長尺部24bの径方向長さ寸法は、第一長尺部24aの径方向長さ寸法よりも小さくてもよい。これによれば、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の前後方向の相対的な変位ストロークを、より大きく確保することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 サブフレームマウント(筒形防振装置)(第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 筒状部
20 内フランジ状部
22 短尺部
23 内側面
24 長尺部
24a 第一長尺部
24b 第二長尺部
26 外フランジ状部
28 ゴム腕
30 上すぐり部
32 下すぐり部
34 第一ストッパゴム(軸方向ストッパゴム)
36 連結ゴム
38 第二ストッパゴム
40 周方向端面
42 車両ボデー
44 サブフレーム
46 取付筒部
50 サブフレームマウント(筒形防振装置)(第二の実施形態)
52 本体ゴム弾性体
54 ゴム腕
60 サブフレームマウント(筒形防振装置)(第三の実施形態)
62 アウタ筒部材
64 内フランジ状部
68 第一ストッパゴム