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特開2022-118283エレベーターシステム及びプログラム
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  • 特開-エレベーターシステム及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118283
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】エレベーターシステム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/18 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
B66B1/18 N
B66B1/18 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014696
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成井 智祐
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502JA05
3F502JA08
3F502JA72
3F502KA37
3F502KA43
3F502KA50
3F502MA02
3F502MA03
3F502MA07
(57)【要約】
【課題】エレベーターの利用者の温熱感覚に対する不快感の低減を考慮したエレベーターかごの運転制御を行う。
【解決手段】運行管理システム30は、携帯端末10を携行するユーザが出先から自社ビルに戻るまでの移動経路を示す移動経路情報及び移動時におけるユーザの行動量を示す行動量情報を受信する情報受信部31と、移動経路上の気象情報から得られるユーザの移動時の温熱環境と、移動時の行動量から自社ビルに戻ったときのユーザの熱負荷を推定する熱負荷推定部33と、自社ビルのエレベーターかごのかご内温度とユーザの熱負荷を参照して、温熱環境上、ユーザにとって熱負荷を低減可能な快適かごを決定するかご決定部35と、決定したかごをユーザのいる階に呼ぶかご制御部36と、決定したかごを識別するかご番号を携帯端末10に表示させるよう制御する表示制御部37と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のかごを備える建物におけるエレベーターシステムにおいて、
前記建物のエレベーターの利用者の出発地から目的地となる前記建物までの移動経路を示す移動経路情報及び当該移動時における前記利用者の行動量を示す行動量情報を取得する手段と、
前記利用者の移動時における前記移動経路上の気象情報を取得する気象情報取得手段と、
前記行動量情報及び前記気象情報を参照して、エレベーターのかごに乗るときの前記利用者の熱負荷を推定する推定手段と、
前記利用者がかごを利用する際の各かごのかご内温度を取得する温度取得手段と、
前記利用者の熱負荷及び前記各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、前記利用者にとって快適な空間を提供するかごを決定する決定手段と、
を有することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項2】
前記利用者が前記建物に到着してかごに乗る出発階及び降りる到着階を特定する乗降階情報を取得する乗降階情報取得手段を有し、
前記決定手段は、前記利用者がかごに乗っている階数を更に参照してかごを決定することを特徴とする請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
前記乗降階情報取得手段は、前記利用者により携行される携帯端末装置であって、前記利用者により指定された前記出発階及び前記到着階を受け付けて前記乗降階情報を生成する手段を有する携帯端末装置から前記乗降階情報を取得することを特徴とする請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
前記乗降階情報取得手段は、前記建物の入退を管理する入退室管理システムであって、前記建物の入口のある階を前記出発階とし、前記建物への入館時に前記利用者が携行するICカードから読み取った前記利用者の識別情報に基づき特定した前記利用者の行先階を前記到着階として前記乗降階情報を生成する手段を有する入退室管理システムから前記乗降階情報を取得することを特徴とする請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
前記決定手段は、前記利用者がかごに乗っている階数が少ないほど当該利用者の熱負荷をより迅速に低減可能なかごを選択することを特徴とする請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
前記決定手段は、前記利用者がかごを利用する時間帯を更に考慮してかごを決定することを特徴とする請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項7】
複数のかごを備える建物におけるエレベーターシステムに含まれるコンピュータを、
前記建物のエレベーターの利用者の出発地から目的地となる前記建物までの移動経路を示す移動経路情報及び当該移動時における前記利用者の行動量を示す行動量情報を取得する手段、
前記利用者の移動時における前記移動経路上の気象情報を取得する気象情報取得手段、
前記行動量情報及び前記気象情報を参照して、エレベーターのかごに乗るときに前記利用者にかかっている熱負荷を推定する推定手段、
前記利用者がかごを利用する際の各かごのかご内温度を取得する温度取得手段、
前記利用者にかかっている熱負荷及び前記各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、前記利用者にとって快適な空間を提供するかごを決定する決定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム及びプログラム、特にエレベーターの利用者の快適性に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、従業員等が出発地(例えば、客先)から目的地となる自社ビル等の建物に戻ってきたときに、夏場においては汗が止まらないことから、なるべく早く涼みたい場合がある。その逆に、冬場においては、人体が冷え切っていることから、なるべく早く暖まりたい場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、利用者が持ち歩く歩数計から得た歩数情報に基づき利用者の活動量を推定し、活動量から利用者が外出帰りか否かの判定結果に基づいて空気調和機の制御を行う空調制御システムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、複数のかごのかご内温度を検出し、乗り場釦を操作した個人が希望するかご内温度であるかごの中から最も早く呼び登録された階に到着するかごに呼び設定するエレベーターの運転装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-345029号公報
【特許文献2】特開平04-169479号公報
【特許文献3】特開2020-005194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、従業員等が建物に入り、戻り先となる居室のある階までエレベーターを利用して移動する場合、エレベーターの利用者となる従業員等は、暑さ又は寒さに関する不快感をエレベーターのかごの中で解消することを望むかもしれない。
【0007】
しかしながら、従来においては、利用者の温熱感覚に対する不快感の低減を考慮してエレベーターのかごを運行制御させていなかった。
【0008】
本発明は、エレベーターの利用者の温熱感覚に対する不快感の低減を考慮したエレベーターかごの運転制御を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエレベーターシステムは、複数のかごを備える建物におけるエレベーターシステムにおいて、前記建物のエレベーターの利用者の出発地から目的地となる前記建物までの移動経路を示す移動経路情報及び当該移動時における前記利用者の行動量を示す行動量情報を取得する手段と、前記利用者の移動時における前記移動経路上の気象情報を取得する気象情報取得手段と、前記行動量情報及び前記気象情報を参照して、エレベーターのかごに乗るときの前記利用者の熱負荷を推定する推定手段と、前記利用者がかごを利用する際の各かごのかご内温度を取得する温度取得手段と、前記利用者の熱負荷及び前記各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、前記利用者にとって快適な空間を提供するかごを決定する決定手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記利用者が前記建物に到着してかごに乗る出発階及び降りる到着階を特定する乗降階情報を取得する乗降階情報取得手段を有し、前記決定手段は、前記利用者がかごに乗っている階数を更に参照してかごを決定することを特徴とする。
【0011】
また、前記乗降階情報取得手段は、前記利用者により携行される携帯端末装置であって、前記利用者により指定された前記出発階及び前記到着階を受け付けて前記乗降階情報を生成する手段を有する携帯端末装置から前記乗降階情報を取得することを特徴とする。
【0012】
また、前記乗降階情報取得手段は、前記建物の入退を管理する入退室管理システムであって、前記建物の入口のある階を前記出発階とし、前記建物への入館時に前記利用者が携行するICカードから読み取った前記利用者の識別情報に基づき特定した前記利用者の行先階を前記到着階として前記乗降階情報を生成する手段を有する入退室管理システムから前記乗降階情報を取得することを特徴とする。
【0013】
また、前記決定手段は、前記利用者がかごに乗っている階数が少ないほど当該利用者の熱負荷をより迅速に低減可能なかごを選択することを特徴とする。
【0014】
また、前記決定手段は、前記利用者がかごを利用する時間帯を更に考慮してかごを決定することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るプログラムは、複数のかごを備える建物におけるエレベーターシステムに含まれるコンピュータを、前記建物のエレベーターの利用者の出発地から目的地となる前記建物までの移動経路を示す移動経路情報及び当該移動時における前記利用者の行動量を示す行動量情報を取得する手段、前記利用者の移動時における前記移動経路上の気象情報を取得する気象情報取得手段、前記行動量情報及び前記気象情報を参照して、エレベーターのかごに乗るときに前記利用者にかかっている熱負荷を推定する推定手段、前記利用者がかごを利用する際の各かごのかご内温度を取得する温度取得手段、前記利用者にかかっている熱負荷及び前記各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、前記利用者にとって快適な空間を提供するかごを決定する決定手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エレベーターの利用者の温熱感覚に対する不快感の低減を考慮したエレベーターかごの運転制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1におけるエレベーターシステムの全体構成及びブロック構成図である。
図2】実施の形態1における携帯端末のハードウェア構成図である。
図3】実施の形態1における運行管理システムのハードウェア構成図である。
図4】実施の形態1において、熱負荷と気温及び行動量との関係を示す概念図である。
図5】実施の形態1におけるかご呼び制御処理を示すフローチャートである。
図6】実施の形態2におけるエレベーターシステムの全体構成及びブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態におけるエレベーターシステムの全体構成及びブロック構成図である。本実施の形態におけるエレベーターシステムは、ビル等の建物に導入され、複数のエレベーターのかごの運行を管理、制御するシステムである。建物の各階には、建物の利用者が従事する居室等がある。
【0020】
図1には、携帯端末10及び運行管理システム30が示されている。携帯端末10は、建物内にて従事する従業員等であってエレベーターを利用する従業員等(以下、「ユーザ」)が外出する際に携行される。携帯端末10は、例えば、スマートフォンやタブレット端末等の携帯性のある情報処理装置である、本実施の形態の場合、携帯端末10を汎用的なハードウェア構成にて実現することができる。
【0021】
図2は、本実施の形態における携帯端末10のハードウェア構成図である。携帯端末10は、図2に示すようにCPU21、ROM22、RAM23、記憶手段としてのストレージ24、ユーザインタフェースとしてのタッチパネル25、通信手段として設けられたネットワークインタフェース(IF)26、測位手段であるGPS(Global Positioning System)27、加速度センサ28を内部バス29に接続して構成される。
【0022】
運行管理システム30は、建物に設置されている複数のエレベーターのかごの運行を管理する。本実施の形態では、運行管理システム30を、サーバコンピュータの汎用的なハードウェア構成実現することができる。
【0023】
図3は、本実施の形態における運行管理システム30のハードウェア構成図である。本実施の形態における運行管理システム30は、図3に示すようにCPU41、ROM42、RAM43、記憶手段としてのハードディスクドライブ(HDD)44、通信手段として設けられたネットワークインタフェース(IF)45、マウスやキーボード等の入力手段及びディスプレイ等の表示手段を含むユーザインタフェース(UI)46を内部バス47に接続して構成される。
【0024】
図1に戻り、携帯端末10は、移動経路特定部11、行動量推定部12、乗降階情報取得部13、情報送信部14、表示制御部15、移動経路情報記憶部16、行動量情報記憶部17及び乗降階情報記憶部18を有している。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素については、図から省略している。
【0025】
移動経路特定部11は、GPS27が測位した経緯度情報に基づいてユーザの各時点における現在位置を検出し、検出した現在位置の遷移から、携帯端末10を携行するユーザの出発地から目的地までの移動経路を特定する。移動経路情報記憶部16には、移動経路特定部11により特定されたユーザの移動経路を示す移動経路情報が記憶される。
【0026】
行動量推定部12は、加速度センサ28により計測された加速度を取得し、取得した加速度の変化から、携帯端末10を携行するユーザの行動量を推定する。行動量情報記憶部17には、行動量推定部12により推定された行動量を示す行動量情報が記憶される。行動量については後述する。
【0027】
乗降階情報取得部13は、ユーザが建物に到着してエレベーターのかごに乗る階(以下、「出発階」)及びかごから降りる階(以下、「到着階」)を取得する。本実施の形態の場合、乗降階情報取得部13は、ユーザにより入力指定された出発階及び到着階を受け付ける。乗降階情報記憶部18には、乗降階情報取得部13により取得された出発階及び到着階を含む乗降階情報が記憶される。
【0028】
情報送信部14は、ネットワークインタフェース26を介して、各記憶部16~18に保存されている各情報を運行管理システム30へ送信する。情報送信部14は、移動の目的地である建物に到着した後、エレベーターを利用する前に送信する。
【0029】
表示制御部15は、運行管理システム30から送信されてきたかごを特定する情報、例えばかご番号等をタッチパネル25に表示させるための制御を行う。タッチパネル25に表示せるかご番号に紐付くかごは、ユーザに利用させるかごであり、ユーザに快適な空間を提供しうるかごである。
【0030】
なお、建物を利用する各ユーザが携行する携帯端末10は、前述した構成要素を有しているので、図1には、1台のみ代表させて図示している。
【0031】
携帯端末10における各構成要素11~15は、携帯端末10に内蔵されるコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU21で動作するプログラムとの協調動作により実現される。また、各記憶部16~18は、携帯端末10に搭載されたストレージ24又はRAM23にて実現される。
【0032】
運行管理システム30は、情報受信部31、気象情報取得部32、熱負荷推定部33、かご内温度取得部34、かご決定部35、かご制御部36及び表示制御部37を有している。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素については、図から省略している。
【0033】
情報受信部31は、ネットワークインタフェース45を介して、携帯端末10から送信されてくる情報を受信する。
【0034】
気象情報取得部32は、例えば気象庁等の気象情報の発信局から気象情報を取得する。情報受信部31は、携帯端末10から送信されてくる移動経路情報を受信するが、本実施の形態における気象情報取得部32は、移動経路情報から特定されるユーザの移動時における移動経路上における気象情報を少なくとも取得すればよい。
【0035】
熱負荷推定部33は、推定手段として機能し、携帯端末10から取得した行動量情報及び気象情報取得部32が取得した気象情報を参照して、ユーザがかごに乗るときの当該ユーザにかかっている熱負荷を推定する。本実施の形態における熱負荷推定部33は、気象情報として気温のみを用いて熱負荷を推定する場合を例にして説明するが、湿度や天気等を参照する場合、気象情報取得部32は、気象情報として、熱負荷推定部33が参照する湿度や天気等を合わせて取得する必要がある。
【0036】
かご内温度取得部34は、建物に設置されているエレベーターのかごの内部の温度をかご内温度として取得する。かご内温度取得部34は、各かご内に設置されている温度センサが計測したかご内温度を直接又は間接的に取得するようにしてもよい。あるいは、かご内温度が空調機器によって制御されている場合、空調機器に対する設定温度を取得するようにしてもよい。本実施の形態においては、複数のかごのかご内温度の全てが同一温度でないことを前提として説明する。
【0037】
かご決定部35は、決定手段として機能し、熱負荷推定部33が推定したユーザの熱負荷及びかご内温度取得部34が取得した各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、ユーザにとって快適な空間を提供するかごを決定する。
【0038】
かご制御部36は、かご決定部35が決定したかごがユーザの出発階に到着するようかごの運行を制御する。
【0039】
表示制御部37は、かご決定部35が決定したかごを特定する情報、例えばかご番号等をディスプレイ等に表示させるための制御を行う。表示制御部37は、携帯端末の表示制御部15と連携して、携帯端末10のタッチパネル25に表示させるよう表示制御してもよい。
【0040】
運行管理システム30における各構成要素31~37は、運行管理システム30を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU41で動作するプログラムとの協調動作により実現される。
【0041】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD-ROMやUSBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPUがプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0042】
ここで、本実施の形態において用いる「行動量」及び「熱負荷」という用語について説明する。
【0043】
まず、行動量推定部12が推定する「行動量」というのは、人の動きの量を数量的に示す指標である。人の動きが大きければ大きいほど行動量は大きくなる。また、行動量が大きいほど、人体は、エネルギーを消費して発熱しやすくなる。本実施の形態における行動量推定部12は、出発地から目的地までの移動に要した人の動きの量を行動量として推定する。目的地は、建物、より詳細には建物の出発階となるエレベーター乗り場である。出発地は、自宅や客先等の外出先である。
【0044】
行動量は、一般に移動の速度が速いほど大きくなる。例えば、自分の脚という移動手段を用いた場合、同じ距離の移動であれば歩くより走った方が行動量は大きくなる。自分の脚という移動手段の場合、身体を動かした時間が長いほどエネルギーを消費するので行動量は大きくなる。移動手段として自動車等の交通手段を利用した場合、人の動きは少なくなる。従って、行動量は少なくなるので、交通手段の利用時間に長短があったとしても、行動量に差異はほとんどないと考えられる。また、同じ距離を移動する場合、移動手段として交通手段を利用する場合より自分の脚を用いた方が行動量は大きくなる。ユーザが携帯している携帯端末10に搭載された加速度センサ28によって移動速度及び移動速度の変化量は検出できるので、移動手段(脚(歩行、走行)、自転車、自動車、電車等)は判別できる。
【0045】
また、「熱負荷」とは、一般に、部屋等の空間内を所定の温度に保つときに必要とする熱量(顕熱負荷)、水分(潜熱負荷)の総量、あるいは室内を一定の温湿度に保つために必要とする熱量・カロリーなどのように定義される。このように、「熱負荷」という場合、室内環境についての用語であるが、本実施の形態おいては、人体に対して「熱負荷」という用語を用いる。つまり、本実施の形態において「熱負荷」というのは、暑さや寒さの熱的な感覚(以下、「温熱感覚」)に関し、人体にかかる負荷のことをいう。人体に対する「熱負荷」に影響を与える要因としては、人体に対する外的要因と内的要因と大別できる。以下、「熱負荷」と外的要因と内的要因について図4を用いて説明する。
【0046】
図4は、本実施の形態における人体にかかる熱負荷と外的要因と内的要因との関係を示す概念図である。温熱感覚には個人差があるため、人が置かれている温熱環境によって感じる熱負荷は異なる可能性はあるが、ここでは一般論として説明する。また、ここでは、外的要因の一つである気温を、内的要因の一つである行動量を、それぞれ例にして説明する。図4において、気温及び行動量は、図面の右にいくほど大きい値をとる。
【0047】
まず、人にかかる熱負荷が小さい(あるいは、人が熱負荷を感じてない)ということは、人は快適であると感じている。これに対し、熱負荷が相対的に大きいということは、人は暑すぎたり寒すぎたりすることで不快を感じている。従って、ユーザのかかる熱負荷を小さくすることによって快適にすることが望ましい。
【0048】
熱負荷と気温との関係において、夏場では、涼しさを感じているときには熱負荷が小さく快適に感じる。気温が上昇して暑くなるに連れ、熱負荷は大きくなるため不快感は増加する。一方、冬場では、寒く感じているときには熱負荷が大きく不快を感じている。そして、気温が上昇して暖かくなるに連れ、熱負荷は小さくなるため快適感は増加する。
【0049】
また、熱負荷と行動量との関係において、行動量が増加すると、人体は発熱しやすくなる。これにより、夏場では、人体が熱くなり熱負荷は大きくなるため不快感は増加する。一方、冬場では、人体の発熱により、熱負荷は小さくなるため快適感は増加する。
【0050】
以上の説明では、熱負荷と気温、熱負荷と行動量、という関係について説明したが、気温等によって決まる温熱環境において人が行動するので、実際には、夏場、冬場に分けて説明したように、人が置かれている温熱環境と行動量が融合して熱負荷が決まる。「温熱環境」というのは、人がいる場所の温熱に関する環境であり、主として外部から利用者にかかる外部要因、例えば室温や外気温等の温度、湿度、気流等に依存する傾向がある。
【0051】
上記説明では、気温を外的要因の一例として説明したが、気温に限定する必要はなく、他の外的要因、つまり湿度や風向や風量等を合わせて考慮してもよい。また、行動量を内的要因の一例として説明したが、行動量のみに限定する必要はなく、例えば、着衣量を考慮してもよい。夏場では、着衣量が多いほど熱負荷は大きく、冬場では、着衣量が多いほど熱負荷は小さくなる。
【0052】
着衣量を考慮する場合、例えば、エレベーター乗り場にカメラ等の撮影手段を設置してユーザを撮影する。あるいは、図示していない携帯端末10のカメラを用いてユーザの着衣を撮影させ、運行管理システム30へ送信させる。そして、熱負荷推定部33は、撮影画像を解析して着衣量を推定するようにしてもよい。あるいは、携帯端末10から着衣量をユーザに入力させてもよい。
【0053】
なお、上記説明は、一般論として説明した。実際は、夏場でも、冷房が効きすぎて室温等の空間内温度が下がりすぎると、熱負荷は大きくなる。また、冬場でも着衣量が多すぎると熱負荷は大きくなる。
【0054】
次に、本実施の形態における動作について説明する。ここでは、ユーザが客先に出向いた後、自社が所在する建物(以下、「自社」又は「自社ビル」ともいう)に戻る場合を想定して説明する。この場合、出発地は客先であり、目的地は自社ビルである。
【0055】
ユーザが客先から自社に戻る場合、携帯端末10に対して所定の操作を行うことで、移動経路特定部11を起動する。移動経路特定部11は、起動されると、GPS27から経緯度情報を定周期的に取得する。これにより、ユーザの現在位置の遷移が得られる。この現在位置の遷移がユーザの移動経路となる。そして、移動経路特定部11は、ユーザの現在位置が自社の所在地になることで、目的地に到着したと認識する。そして、移動経路特定部11は、目的地に到着すると、各時点における現在位置の遷移を、移動経路を示す移動経路情報として移動経路情報記憶部16に保存した後、動作を終了する。
【0056】
なお、ユーザが出発時点を入力させずに次のように処理してもよい、すなわち、例えば、移動経路特定部11は、GPS27から経緯度情報を定周期的に常時取得するようにし、ユーザの移動を所定期間以上検出されていない状態後に検出した場合、ユーザが客先から出たと認識する。つまり、ユーザが移動した時点を出発時点と認識し、その出発時点における現在位置を出発地として特定するように処理してもよい。
【0057】
出発地から移動を開始したことが検出されると、携帯端末10における行動量推定部12は、ユーザが出発地を出てから目的地に到着するまでの間、加速度センサ28から加速度を常時取得する。そして、行動量推定部12は、取得した加速度の変化から、携帯端末10を携行するユーザの行動量を推定する。行動量推定部12は、前述したように加速度の遷移からユーザの移動手段を特定できる。また、過去の推定実績等を参照するように処理することによって、ユーザの行動量をより精度良く推定することができる。行動量推定部12は、ユーザが目的地に到着すると、ユーザの移動時における行動から行動量を推定し、推定した行動量を含む行動量情報を行動量情報記憶部17に保存する。
【0058】
以上のようにして、移動経路情報及び行動量情報は、ユーザが目的地となる建物に到着した後、少なくともユーザがエレベーターのかごに乗る前に生成される。
【0059】
また、ユーザは、エレベーターのかごに乗る前に、携帯端末10に対して所定の操作を行うことで乗降階の入力画面をタッチパネルに表示させ、その入力画面から出発階及び到着階を入力する。乗降階情報取得部13は、ユーザにより入力された出発階及び到着階を受け取ると、出発階及び到着階を含む乗降階情報を乗降階情報記憶部18に保存する。
【0060】
以上のようにして、移動経路情報、行動量情報及び乗降階情報が各記憶部16~18に保存されると、情報送信部14は、各記憶部16~18から各情報を読み出して運行管理システム30へ送信する。
【0061】
運行管理システム30は、携帯端末10から送信されてくる情報を受信することによって処理を開始する。以下、運行管理システム30において実施されるかご呼び制御処理について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。
【0062】
情報受信部31は、携帯端末10から送信されてくる行動量情報及び移動経路情報を受信し(ステップ101)、更に乗降階情報を受信する(ステップ102)。本実施の形態では、説明の便宜上、乗降階情報の受信を行動量情報及び乗降階情報の受信と分けたが、3種類の情報をまとめて受信するようにしてもよい。
【0063】
続いて、気象情報取得部32は、移動経路情報を参照して、移動時における移動経路上の気象情報を取得する(ステップ103)。
【0064】
続いて、熱負荷推定部33は、移動時におけるユーザの置かれていた温熱環境を推定する(ステップ104)。例えば、気温、湿度、天気、風等の気象情報を参照して、ユーザは、移動時に暑い環境にいたのか、寒い環境にいたのか、などを推定する。
【0065】
続いて、熱負荷推定部33は、推定した温熱環境及び行動量情報を参照して、ユーザにかかる熱負荷を推定する(ステップ105)。つまり、熱負荷推定部33は、温熱環境という外的要因と、行動量という内的要因とを考慮してユーザにかかる熱負荷を推定することになる。
【0066】
例えば、夏場において晴れて気温の高い昼間の移動であれば、ユーザにかかる熱負荷は大きいと推定される。ただ、電車や自動車等の交通手段の利用時は、冷房運転されている車内にいると推測できるので、熱負荷は相対的に小さくなるよう推定する。
【0067】
熱負荷推定部33がユーザの熱負荷を推定すると、かご決定部35は、かご内温度取得部34から、運行している各かごのかご内温度を取得する(ステップ106)。そして、かご決定部35は、ユーザの熱負荷及び各かごのかご内温度を参照して、温熱環境上、ユーザにとって快適な空間を提供するかごを決定する(ステップ107)。
【0068】
複数のかごの中から、温熱環境上、ユーザにとって快適なかごの選択方法は種々考えられる。例えば、ユーザの熱負荷に応じて選択候補とするかご内温度の範囲を予め設定しておき、その範囲に含まれるかごの中からユーザの熱負荷の低減に最適なかご、例えば夏場であればかご内温度が最も低いかごを選択したり、輸送効率を考慮して選択候補の中から出発階に最も早く到着するかごを選択したりする。
【0069】
また、本実施の形態では、ユーザの出発階と到着階を含む乗降階情報を事前に取得している。従って、ユーザがかごの乗っている階数は、事前に把握できる。階数が相対的に多いと、かごに乗っている時間も相対的に長くなる。従って、かごに乗っている時間が長い場合、その長い時間の中で熱負荷の低減が可能なようにかごを選択してもよい。例えば、ユーザが1階から20階までのように相対的に多い階数を乗る場合、ユーザは、長い時間かごの中にいることになるので、ユーザの熱負荷を急速に低減する必要はない。このため、例えば冬場では、かご内温度が通常若しくは相対的に低いかごを選択してもよい。一方、ユーザが1階から3階までのように相対的に少ない階数を乗る場合、ユーザは、短い時間しかかごの中にいないので、ユーザの熱負荷を急速に低減することが望まれる。そのため、例えば、冬場では、かご内温度が相対的に高いかごを選択することによって、ユーザを短い時間で暖められるようにする。このように、かご決定部35は、ユーザがかごに乗っている階数が少ないほどユーザの熱負荷をより迅速に低減可能なかごを選択するようにしてもよい。
【0070】
また、同じ熱負荷であっても時間帯に応じてかごを選択するようにしてもよい。例えば、冬場の寒い朝の出勤時であれば、早く暖まりたいと考えるかもしれないので、出勤時であることを考慮して、かご内温度が高めのかごを選択するようにしてもよい。
【0071】
かご決定部35が出発階に呼び設定するかごを決定すると、かご制御部36は、決定されたかごを出発階に呼ぶようかごの運行を制御する(ステップ108)。また、これと同時に、表示制御部37は、かご決定部35が決定したかごをユーザに通知するためにかごを識別するかご番号を携帯端末10へ送信する(ステップ109)。
【0072】
携帯端末10における表示制御部15は、運行管理システム30からかご番号が送信されてくると、タッチパネル25に表示させる。これにより、ユーザは、タッチパネル25に表示されたかご番号のかご、すなわちユーザにとって快適なかごに乗ることができる。
【0073】
本実施の形態によれば、以上のようにして温熱環境上、ユーザにとって快適な空間を提供するかごを選択することができ、また、ユーザは、選択されたかごを利用することで、かごの中で熱負荷を低減させることができる。
【0074】
実施の形態2.
図6は、本実施の形態におけるエレベーターシステムの全体構成及びブロック構成図である。実施の形態1においては、ユーザに携帯端末10を操作させて、かごに乗る出発階及び降りる到着階を指定させていたが、本実施の形態では、出発階及び到着階をユーザに指定させることなく自動的に取得できるように構成したことを特徴としている。
【0075】
そのために、本実施の形態におけるエレベーターシステムでは、入退館管理システム50と連携動作する。入退館管理システム50は、建物及び建物内の居室等の空間のユーザの入退を管理するシステムである。入退館管理システム50は、カードリーダ51、乗降階情報送信部52及び個人情報記憶部53を有している。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素は図から省略している。
【0076】
個人情報記憶部53には、建物の各利用者の個人情報が記憶されている。個人情報には、各利用者を識別する識別コードに、建物において当該利用者が所属する部署の居室がある階(以下、「居室階」)が少なくとも対応付けされている。
【0077】
建物の各利用者は、ICカード54を携行する。ICカード54には、前述したユーザの識別コードが記録されている。カードリーダ51は、ICカード54が近づけられると、ICカード54に記録されている識別コードを読み取る。乗降階情報送信部52は、詳細は後述するが、ユーザが建物に入館したときに乗降階情報を生成し、その生成した乗降階情報を運行管理システム30へ送信する。
【0078】
入退館管理システム50における乗降階情報送信部52は、入退館管理システム50に含まれるコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPUで動作するプログラムとの協調動作により実現される。また、個人情報記憶部53は、入退館管理システム50に搭載されたHDD等の記憶手段にて実現される。
【0079】
前述したように、本実施の形態では、入退館管理システム50が乗降階情報を生成するので、実施の形態1において携帯端末10が有する乗降階情報取得部13及び乗降階情報記憶部18は不要となる。
【0080】
次に、本実施の形態における動作について説明する。本実施の形態においては、携帯端末10が実施する処理のうち、乗降階情報を生成し、運行管理システム30へ送信する処理は不要となる。また、図5に示す運行管理システム30が実施するかご呼び制御処理は、実施の形態1と同じでよい。ただ、本実施の形態では、乗降階情報を携帯端末10からではなく入退館管理システム50から取得するので、ステップ102における処理の内容が異なる。以下、実施の形態1と異なるステップ102における処理について説明する。
【0081】
ユーザが建物に入館する際に、携帯しているICカード54を建物の入口にあるカードリーダ51にかざす。これにより、カードリーダ51は、ICカード54からユーザの識別コードを読み取る。
【0082】
乗降階情報送信部52は、建物の入口のカードリーダ51から識別コードが送られてくると、個人情報記憶部53を検索することで、送られてきた識別コードに対応するユーザの居室階を取得する。ここで取得した居室階は、自社に戻ってきたユーザの行先階であると推定できる。そこで、乗降階情報送信部52は、建物の入口のある階を出発階とし、ICカード54から読み取った識別コードに基づき特定した居室階を到着階として乗降階情報を生成する。そして、乗降階情報送信部52は、生成した乗降階情報を運行管理システム30へ送信する。
【0083】
以上のようにして乗降階情報送信部52から乗降階情報が送信されてくると、運行管理システム30におけるかご決定部35は、前述したように乗降階情報を参照してかごを決定する。なお、決定したかごのかご番号は、携帯端末10や運行管理システム30の他、入退館管理システム50が備える入退場ゲートに設けられている表示部に表示させるようにしてもよい。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態によれば、入退館管理システム50と連携することによって、出発階と到着階をユーザに入力させることなく、出発階と到着階に基づくかごを決定することができる。
【0085】
なお、本実施の形態では、入退館管理システム50に含まれる個人情報を参照してユーザ到着階を推定した。ただ、自社への顧客の情報は、個人情報に含まれていない。また、従業員であっても居室ではなく、スケジュールに従って会議室等他の部屋に直行する場合も考えられる。そこで、従業員や来訪者のスケジュールを管理するシステムと連携することで、ユーザの到着階を推定するようにしてもよい。
【0086】
前述したように、本実施の形態では、出発地として客先を例にして説明したが、これに限る必要はない。例えば、自宅を出発地とする通勤時にも適用することができる。また、出発地を自社内の居室とすれば、退勤時におけるかごの運行制御にも適用可能である。この場合、建物内は、通常、空調が効いているので、ユーザの熱負荷が小さい場合におけるかご呼び制御を行うことになると考えられる。
【符号の説明】
【0087】
10 携帯端末、11 移動経路特定部、12 行動量推定部、13 乗降階情報取得部、14 情報送信部、15,37 表示制御部、16 移動経路情報記憶部、17 行動量情報記憶部、18 乗降階情報記憶部、21,41 CPU、22,42 ROM、23,43 RAM、24 ストレージ、25 タッチパネル、26,45 ネットワークIF、27 GPS、28 加速度センサ、29,47 内部バス、30 運行管理システム、31 情報受信部、32 気象情報取得部、33 熱負荷推定部、34 かご内温度取得部、35 かご決定部、36 かご制御部、44 HDD、46 UI、50 入退館管理システム、51 カードリーダ、52 乗降階情報送信部、53 個人情報記憶部、54 ICカード。
図1
図2
図3
図4
図5
図6