(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118288
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
G01H9/00 C
G01H9/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014703
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】畑 浩二
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BC05
2G064BC12
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で、広範囲な領域を効果的に監視する。
【解決手段】光ファイバ20と、光ファイバ20に光を入射する第1光源12及び、光ファイバ20から出射されるレイリー散乱光を検出する第1検出器14を含む第1測定機11と、を有し、光ファイバ20に加わる振動を、入射光とレイリー散乱光との差に基づいて検出する分布型振動センサ10と、光ファイバ20の所定部位を周回させて形成した周回部25を含むセンサ部22と、光ファイバ20の一端に光を入射する第2光源42及び、周回部25を通過して光ファイバ20の他端から出射される出力光を検出する第2検出器44を含む第2測定機41と、を有し、センサ部22に加わる振動を、周回部25を通過する光の周波数変化に基づいて検出する光ファイバドップラセンサ40とを備えた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、
前記光ファイバに光を入射する第1光源及び、前記光ファイバから出射されるレイリー散乱光を検出する第1検出器を含む第1測定機と、を有し、
前記光ファイバに加わる振動を、入射光とレイリー散乱光との差に基づいて検出する分布型振動センサと、
前記光ファイバの所定部位を周回させて形成した周回部を含むセンサ部と、
前記光ファイバの一端に光を入射する第2光源及び、前記周回部を通過して前記光ファイバの他端から出射される出力光を検出する第2検出器を含む第2測定機と、を有し、
前記センサ部に加わる振動を、前記周回部を通過する光の周波数変化に基づいて検出する光ファイバドップラセンサと、を備える
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記光ファイバと前記第1測定機とを接続する第1接続状態と、前記光ファイバと前記第2測定機とを接続する第2接続状態とに選択的に切り替え可能な光路切り替え器をさらに備える
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記光ファイバは、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に、前記トンネルの延伸方向に沿って設置されており、
前記センサ部は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に設置されており、
前記分布型振動センサは、前記岩盤から前記光ファイバに加わる振動を該光ファイバの長手方向に沿って分布的に検出し、
前記光ファイバドップラセンサは、前記岩盤から前記センサ部に加わる局所的な振動を検出する
請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
複数の第1ファイバ素線が束ねられた多芯の第1光ファイバと、
前記第1光ファイバの一端に光を入射する第1光源及び、前記第1光ファイバの一端から出射されるレイリー散乱光を検出する第1検出器を含む第1測定機と、を有し、
前記第1光ファイバは、他端側において複数の前記第1ファイバ素線ごとに分岐しており、分岐した複数の前記第1ファイバ素線にそれぞれ加わる振動を、入射光とレイリー散乱光との差に基づいて検出する分布型振動センサと、
複数の第2ファイバ素線が束ねられており、一端と他端との間が複数の前記第2ファイバ素線ごとに分岐した多芯の第2光ファイバと、
複数の前記第2ファイバ素線の所定部位をそれぞれ周回させて形成した周回部を含む複数のセンサ部と、
前記第2光ファイバの一端に光を入射する第2光源及び、複数の前記周回部を通過して前記第2光ファイバの他端から出射される出力光を検出する第2検出器を含む第2測定機と、を有し、
複数の前記センサ部にそれぞれ加わる振動を、前記周回部を通過する光の周波数変化に基づいて検出する光ファイバドップラセンサと、を備える
ことを特徴とする計測装置。
【請求項5】
分岐した複数の前記第1ファイバ素線は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に、前記トンネルの延伸方向に沿って設置されており、
複数の前記センサ部は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に設置されており、
前記分布型振動センサは、前記岩盤から複数の前記第1ファイバ素線に加わる振動を該第1ファイバ素線の長手方向に沿って分布的に検出し、
前記光ファイバドップラセンサは、前記岩盤から前記センサ部に加わる局所的な振動を検出する
請求項4に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測装置に関し、特に、構造物の健全性を広範囲な領域で監視するのに好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1,2には、光ファイバを通過する光の周波数変化に基づいて振動を検出することができる光ファイバドップラセンサ(Fiber Optical Doppler Sensor:以下、FODセンサと称する)が開示されている。
【0003】
このFODセンサは、光ファイバの一部を周回させて形成した周回部を含むセンサ部を被測定体に固定し、該センサ部に加わる振動に応じて変化する入射光と出射光との周波数変化に基づいて、被測定体からセンサ部に加わる振動を高精度に検出できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2003/002956号公報
【特許文献2】特許第5350999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のFODセンサをトンネル等の構造物の健全性評価に用いれば、岩盤中の割れ目や脆弱部の変状に伴う損傷等を監視することができる。しかしながら、トンネル等の線形構造物は監視領域が広範囲となる。このため、センサ部を多数設置しなければならず、コストの増加や装置全体の大型化を招くといった課題がある。
【0006】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、広範囲な領域を効果的に監視することができる計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の計測装置は、光ファイバと、前記光ファイバに光を入射する第1光源及び、前記光ファイバから出射されるレイリー散乱光を検出する第1検出器を含む第1測定機と、を有し、前記光ファイバに加わる振動を、入射光とレイリー散乱光との差に基づいて検出する分布型振動センサと、前記光ファイバの所定部位を周回させて形成した周回部を含むセンサ部と、前記光ファイバの一端に光を入射する第2光源及び、前記周回部を通過して前記光ファイバの他端から出射される出力光を検出する第2検出器を含む第2測定機と、を有し、前記センサ部に加わる振動を、前記周回部を通過する光の周波数変化に基づいて検出する光ファイバドップラセンサと、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記光ファイバと前記第1測定機とを接続する第1接続状態と、前記光ファイバと前記第2測定機とを接続する第2接続状態とに選択的に切り替え可能な光路切り替え器をさらに備えることが好ましい。
【0009】
また、前記光ファイバは、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に、前記トンネルの延伸方向に沿って設置されており、前記センサ部は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に設置されており、前記分布型振動センサは、前記岩盤から前記光ファイバに加わる振動を該光ファイバの長手方向に沿って分布的に検出し、前記光ファイバドップラセンサは、前記岩盤から前記センサ部に加わる局所的な振動を検出することが好ましい。
【0010】
本開示の第2の計測装置は、複数の第1ファイバ素線が束ねられた多芯の第1光ファイバと、前記第1光ファイバの一端に光を入射する第1光源及び、前記第1光ファイバの一端から出射されるレイリー散乱光を検出する第1検出器を含む第1測定機と、を有し、前記第1光ファイバは、他端側において複数の前記第1ファイバ素線ごとに分岐しており、分岐した複数の前記第1ファイバ素線にそれぞれ加わる振動を、入射光とレイリー散乱光との差に基づいて検出する分布型振動センサと、複数の第2ファイバ素線が束ねられており、一端と他端との間が複数の前記第2ファイバ素線ごとに分岐した多芯の第2光ファイバと、複数の前記第2ファイバ素線の所定部位をそれぞれ周回させて形成した周回部を含む複数のセンサ部と、前記第2光ファイバの一端に光を入射する第2光源及び、複数の前記周回部を通過して前記第2光ファイバの他端から出射される出力光を検出する第2検出器を含む第2測定機と、を有し、複数の前記センサ部にそれぞれ加わる振動を、前記周回部を通過する光の周波数変化に基づいて検出する光ファイバドップラセンサと、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、分岐した複数の前記第1ファイバ素線は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に、前記トンネルの延伸方向に沿って設置されており、複数の前記センサ部は、トンネル周囲の岩盤内及び、又は岩盤表面に設置されており、前記分布型振動センサは、前記岩盤から複数の前記第1ファイバ素線に加わる振動を該第1ファイバ素線の長手方向に沿って分布的に検出し、前記光ファイバドップラセンサは、前記岩盤から前記センサ部に加わる局所的な振動を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の計測装置によれば、簡素な構成で、広範囲な領域を効果的に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る計測装置に用いられる分布型振動センサの一例を示す模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る計測装置に用いられるFODセンサの一例を示す模式的な全体構成図である。
【
図3】本実施形態に係る計測装置に用いられるFODセンサのセンサ部の一例を示す模式的な正面図である。
【
図4】第一実施形態に係る計測装置を示す模式的な全体構成図である。
【
図5】第二実施形態に係る計測装置を示す模式的な全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る計測装置について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
[分布型振動センサ]
図1は、本実施形態に係る計測装置に用いられる分布型振動センサ(Distributed Vibration Sensor:DVS、又は、Distributed Acoustic Sensor:DAS)の一例を示す模式的な全体構成図である。
【0016】
図1に示すように、分布型振動センサ10は、DVS用測定機11(本開示の第1測定機)と、光ファイバ20と、演算装置30とを備えている。
【0017】
DVS用測定機11は、主として、レーザ光源12(本開示の第1光源)、光サーキュレータ13、検出器14(本開示の第1検出器)等を備えて構成されている。
【0018】
レーザ光源12は、半導体レーザ等の光源であって、所定の波長範囲(例えば、低周波帯域)のレーザ光を出射する。本実施形態において、レーザ光源12は、演算装置30からの指令に応じて所定の波長周期の光パルス(レーザパルス)を光サーキュレータ13に出射する。光サーキュレータ13に入射した光パルスは、光ファイバ20に出射される。
【0019】
光ファイバ20は、一端部20Aと、他端部20Bとを有する。光ファイバ20の一端部20Aに入射した光パルスは、光ファイバ20内を伝播する。具体的には、光パルスは、一端部20Aから他端部20Bに向けて送り出され、他端部20Bに達するまでの伝送経路において、光ファイバ20内の屈折率の揺らぎ等によって生じるレイリー散乱による後方散乱光が一端部20Aに向けて伝播する。レイリー散乱光は、接続点からのフレネル反射による反射光と共に光サーキュレータ13に入射し、受光素子としての検出器14に出射される。検出器14で検出された光は光電変換されて所定のレベルに増幅された後、後述する演算装置30に時間領域で記録される。
【0020】
演算装置30は、DVS用測定機11の検出器14から送信される検出信号等に基づいて振動を演算するコンピュータシステムであって、DVS用測定機11と有線又は無線通信で相互に通信可能に接続されている。具体的には、演算装置30は、CPU31、RAM32、記憶部33等を備えている。CPU31は、中央演算処理装置であって、記憶部33から読み出した振動測定プログラムを実行する。RAM32は、揮発性メモリであって、CPU31が処理するデータ等を一時的に記憶する。記憶部33は、ROM等の不揮発メモリであって、CPU31が実行する振動測定プログラムを記憶する。
【0021】
なお、振動測定プログラムは、記憶部33に格納する必要はなく、コンピュータが読み取り可能な光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM等の記憶媒体に格納してもよく、或いは、演算装置30がインターネットや通信回線などのネットワークを介して受信するプログラムを実行するように構成してもよい。
【0022】
本実施形態において、分布型振動センサ10は、時間領域反射測定(Optical Time Domain Reflectometer:OTDR)を用いて、光ファイバ20に作用する振動を分布的に検出する。具体的には、分布型振動センサ10は、被計測体に生じるAEなどの振動が伝播して光ファイバ20が振動することにより生じるレイリー散乱光が入射端(一端部20A)に戻ってくるまでの往復時間から、光ファイバ20が振動を受けた箇所までの距離を求めることができる。また、レイリー散乱光と基準光との干渉によって強度や位相の変化を捉えることができ、その変化に基づいて被計測体に生じる振動の大きさなどを求めることができる。本実施形態では、位相の変化が用いられる。
【0023】
このように、分布型振動センサ10は、OTDRによって取得される後方散乱光(レイリー散乱光)の位相の変化を検出することにより、光ファイバ20に作用する振動の情報を分布的に取得することができる。このような分布型振動センサ10の光ファイバ20を、例えば、トンネルの坑壁やトンネル周囲の岩盤等に、トンネルの延伸方向に沿って設置すれば、1本の光ファイバ20によって取得された分布的なAEの情報に基づき、トンネルの健全性を広範囲な領域で監視することが可能となる。
【0024】
[FODセンサ]
図2は、本実施形態に係る計測装置に用いられるFODセンサ40の一例を示す模式的な全体構成図である。
【0025】
図2に示すように、FODセンサ40は、FOD用測定機41(本開示の第2測定機)と、光ファイバ20と、演算装置30とを備えている。ここで、演算装置30については、分布型振動センサ10(
図1参照)の演算装置30と同様の構成となるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
FOD用測定機41は、主として、レーザ光源42(本開示の第2光源)、音響光学変調器(Acoustic Optical Modulator:AOM)45、検出器43(本開示の第2検出器)等を備えている。
【0027】
レーザ光源42は、半導体レーザ等の光源であって、演算装置30からの指令に応じて所定の波長(例えば、1550nm)のレーザ光(コヒーレント光)を出射する。ここで、コヒーレント光とは、振動計測に必要な程度、言い換えれば、光周波数の変化を検出可能な程度に振幅と位相が揃っている光をいう。レーザ光源42と光ファイバ20の入力端20Aとの間には、入力光の一部をAOM45に送るミラー44が配されている。
【0028】
光ファイバ20は、入力端(一端部)20Aと、周回部25を含むセンサ部22と、出力端(他端部)20Bとを備えている。周回部25は、入力端20Aと出力端20Bとの間に設けられており、光ファイバ20を周回部25の厚さ方向(
図3の紙面垂直方向)に積層して周回させることにより、中空筒状に形成されている。このような周回部25を設けることで、光ファイバ20の所定部位に湾曲した部分が形成される。周回部25には、入力端20Aから入射されたレーザ光が通過する。また、周回部25の周囲には、光ファイバ20の周回状態を保持できるよう、好ましくは、接着剤が塗布されている。
【0029】
図3に示すように、周回部25の横断面形状は、周回部25の軸線方向(
図3の紙面垂直方向)に直交する一方向の長さL1が、このL1及び軸線方向と直交する他方向の長さL2よりも長くなるように構成されている(L1>L2)。すなわち、周回部25の横断面形状は、略楕円形状又は、長円状に形成されている。
【0030】
センサ部22は、周回部25と、周回部25を拘束して保持する拘束治具26と、筐体状の収容器27とを有する。拘束治具26は、周回部25の長径方向の一端側を拘束するように取り付けられる。この拘束治具26が設けられた側がセンサ部22の受波面となる。収容器27は、例えば金属材等で箱状に形成されており、その内部に周回部25及び、拘束治具26を収容する。センサ部22は、周回部25及び、拘束治具26を内蔵した収容器27を、被計測体の内部に埋め込んだ入り、或は、図示例のように、被計測体の表面に接着又は圧着することにより固定される。被計測体としては、例えば、トンネルの坑壁やトンネル周囲の岩盤等が挙げられる。収容器27を被計測体の表面に接着する場合は、接着剤として、エポキシ系などの適宜のものを用いることができる。また、収容器27を被計測体の表面に圧着する場合は、収容器27を空気圧やバネ等の付勢手段によって押し付けるようにすればよい。このような押し付け式を採用すれば、故障時やメンテナンス時にセンサ部22を被計測体から着脱自在とすることができる。
【0031】
図2に戻り、検出器43は、周回部25を通過して出力端20Bから入射される出力光と、レーザ光源12からミラー44、AOM45、ミラー46を介して入射される入力光との間の周波数変化を検出する。
【0032】
具体的には、光ファイバ20の入力端20Aから入射されたレーザ光は、周回部25を光ファイバ20の周回に従って周回しながら通過する。周回部25を通過したレーザ光は、光ファイバ20の出力端20Bから検出器43に出射される。センサ部22に振動が加わると、周回部25を通過するレーザ光の周波数(或いは、波長)は振動に応じて変化するようになる。この周波数変化を検出器43で検知することにより、FODセンサ40は、センサ部22に加わる振動を計測することができる。
【0033】
このように、FODセンサ40は、振動の計測に光の周波数変化を用いるので、光ファイバを通過するパルス光の強度変化や位相変化を用いる振動センサに比べ、微小な振動を精度良く計測することが可能となる。振動の検出原理は、上記特許文献1,2に記載された技術と同様とすることができるため、詳細な説明を省略する。
【0034】
ここで、FODセンサ40は、分布型振動センサ10に比べ、被計測体からセンサ部22に加わる振動を高精度に検出することはできるが、検出範囲はセンサ部22から局所的な範囲になってしまう。この検出範囲は媒体の弾性波減衰特性に依存し、例えば、媒体が亀裂などを含む岩盤の場合、検出範囲は約3~7mとなり、媒体が亀裂を含まないか、或は、亀裂が非常に少ないコンクリート等の場合、検出範囲は岩盤よりも少し長い距離となる。このようなFODセンサ40で振動を広範囲な領域で検出するには、センサ部22の個数を増やすか、或いは、周回部25の直径を拡張して低い周波数帯にも対応できるようにすることが考えられる。しかしながら、このような手法では、装置全体の大型化やコストの上昇を招くこととなる。
【0035】
そこで、本開示の技術では、局所的な計測をFODセンサ40で行い、且つ、全体計測を分布型振動センサ10で行うことにより、装置の小型化及びコストの削減を図りつつ、広範囲な領域と局所的な領域の両方の監視を実現するようにした。以下、本実施形態に係る計測装置の詳細を説明する。
【0036】
[第一実施形態]
図4は、第一実施形態に係る計測装置1Aを示す模式的な全体構成図である。
【0037】
図4に示すように、第一実施形態に係る計測装置1Aは、1個の分布型振動センサ10と、1個のFODセンサ40とを備え、これら各センサ10,40の光ファイバ20を共用させたものである。
【0038】
光ファイバ20は、単芯の光ファイバであって、光路切り替え器50を介して、DVS用測定機11に接続される「第1接続状態」と、FOD用測定機41に接続される「第2接続状態」とに選択的に切り替えられるように構成されている。光路切り替え器50は、演算装置30からの指令に応じて制御される。
【0039】
光ファイバ20を分布型振動センサ10のセンサ部として用いる場合、演算装置30は、光路切り替え器50を第1接続状態に制御する。第1接続状態に制御されると、DVS用測定機11からDVS接続用光ファイバ18に出射されたレーザ光が光路切り替え器50を介して光ファイバ20に入射しつつ、光ファイバ20で生成された後方散乱光(レイリー散乱光)が光路切り替え器50からDVS接続用光ファイバ18を経由してDVS用測定機11に入射されるようになる。
【0040】
一方、光ファイバ20をFODセンサ40のセンサ部として用いる場合、演算装置30は、光路切り替え器50を第2接続状態に制御する。第2接続状態に制御されると、FOD用測定機41からFOD接続用光ファイバ48に出射されたレーザ光が光路切り替え器50を介して光ファイバ20に入射しつつ、センサ部22(周回部25)を通過したレーザ光が光路切り替え器50からFOD接続用光ファイバ48を経由してFOD用測定機41に入射されるようになる。
【0041】
図4の一例において、計測装置1Aは、トンネルTの健全性の監視に用いられている。計測装置1AをトンネルTの監視に用いる場合、光ファイバ20は、トンネルTの延伸方向に沿って設ければよい。
【0042】
具体的には、トンネルTの周囲の岩盤に、トンネルTの延伸方向に延びる貫通孔2を設け、該貫通孔2に光ファイバ20を挿入すればよい。この場合、光ファイバ20の各部位のうち、貫通孔2の内周と接触する区間Aが、分布型振動センサ10のセンサ部として機能するようになる。
【0043】
また、トンネルTの坑壁(岩盤表面)に、トンネルTの延伸方向に延びる凹溝3を設け、該凹溝3に光ファイバ20を嵌め込んで設置してもよい。この場合、光ファイバ20の各部位のうち、凹溝3の内周面と接触する区間Bが、分布型振動センサ10のセンサ部として機能するようになる。
【0044】
また、光ファイバ20をトンネルTの坑壁面に対して、Uボルト等の固定具4で保持するように固定してもよい。この場合、光ファイバ20の各部位のうち、固定具4で保持された部分Cが、分布型振動センサ10のセンサ部として機能するようになる。固定具4を用いる場合、光ファイバ20は坑壁面に接触させてもよく、或いは、坑壁面に接触させなくてもよい。光ファイバ20を坑壁面に接触させなくても、岩盤から固定具4を介して光ファイバ20に振動が加わることにより、振動を計測することができる。
【0045】
光ファイバ20の所定部位を周回させた周回部25を含むセンサ部22は、岩盤中の割れ目や脆弱部の近傍等、トンネルTの局所的な監視が必要とされる個所に設ければよい。センサ部22を岩盤表面に取り付ける場合、周回部25の長径方向の一端側が受波面となるように、センサ部22を岩盤表面に接着又は圧着すればよい。或いは、センサ部22を岩盤中に取り出し可能に埋設して設置してもよい。このように、岩盤中の割れ目や脆弱部の近傍にFODセンサ40のセンサ部22を設置すれば、振動を高精度に検知できるようになり、岩盤中の割れ目や脆弱部の変状に伴う損傷を効果的に監視することが可能となる。
【0046】
光路切り替え器50を第1接続状態又は、第2接続状態に切り替えるタイミングは、トンネルTの健全性の監視目的に応じて適宜に設定することができる。例えば、分布型振動センサ10で振動を計測する第1接続状態と、FODセンサ40で振動を計測する第2接続状態とを、所定の周期毎に切り替えることにより、分布型振動センサ10による全体計測と、FODセンサ40による局所計測とを交互に行うようにしてもよい。
【0047】
また、常時は第1接続状態で分布型振動センサ10による全体計測を行いつつ、振動を検知すると、第2接続状態に切り替えてFODセンサ40による局所計測を開始するようにしてもよい。或いは、常時は、第2接続状態でFODセンサ40による局所計測を行いつつ、局所的な振動を検知すると、第1接続状態に切り替えて分布型振動センサ10による全体計測を開始するようにしてもよい。また、第1接続状態及び、第2接続状態の切り替えは、自動制御に限定されず、手動で行えるように構成してもよい。
【0048】
以上詳述した第一実施形態の計測装置1Aによれば、1個の分布型振動センサ10と、1個のFODセンサ40と、光路切り替え器50とを備え、各センサ10,40の光ファイバ20を共用させることで、1本の光ファイバ20が分布型振動センサ10及び、FODセンサ40のセンサ部として機能するように構成されている。これにより、1本の光ファイバ20に、DVS用測定機11及び、FOD用測定機41を組み込む簡素な構成で、分布型振動センサ10による全体計測及び、FODセンサ40による局所計測を実現できるようになり、トンネルTの健全性を局所的及び広範囲な領域の両方で、高精度、且つ、効果的に監視することが可能になる。
【0049】
また、1本の光ファイバ20を共用させ、当該1本の光ファイバ20に対して光路切り替え器50を介してDVS用測定機11及び、FOD用測定機41のそれぞれを組み込むことで、分布型振動センサ及び、FODセンサを単純に一個ずつ配置する構成に比べ、光ファイバの本数等、部品点数を効果的に削減することができ、装置全体の小型化、さらには、コストの削減を図ることも可能になる。
【0050】
[第二実施形態]
次に、
図5に基づいて、第二実施形態に係る計測装置1Bの詳細を説明する。
【0051】
図5は、第二実施形態に係る計測装置1Bを示す模式的な全体構成図である。第二実施形態に係る計測装置1Bは、複数の分布型振動センサ10と、複数のFODセンサ40とを有し、第一実施形態とは異なり、各センサ10,40が光ファイバ60,70をそれぞれ備えるように構成したものである。
【0052】
具体的には、光ファイバ60,70は、複数の光ファイバ素線が束ねられた多芯光ファイバであって、DVS用光ファイバ60(本開示の第1光ファイバ)と、FOD用光ファイバ70(本開示の第2光ファイバ)とを備える。
【0053】
DVS用光ファイバ60は、一端をDVS用測定機11に接続されると共に、他端側において光ファイバ素線ごとに分岐しており、分岐した各光ファイバ素線が分布型振動センサ10のセンサ部として機能するようになっている。図示例において、DVS用光ファイバ60は、他端側を2本に分けられているが、光ファイバ素線の本数に応じて3本以上としてもよい。各光ファイバ素線のトンネルTや岩盤への設置方法は第一実施形態と同様にすることができるため、説明は省略する。
【0054】
FOD用光ファイバ70は、各光ファイバ素線の一端及び他端をFOD用測定機41に接続されると共に、各光ファイバ素線の一端と他端との間に周回部25を含むセンサ部22をそれぞれ備えて構成されている。図示例において、FOD用光ファイバ70は3本に分けられており、3個のセンサ部22を備えているが、光ファイバ素線の本数に応じて2本(センサ部22を2個)、或いは4本以上(センサ部22を4個以上)としてもよい。各センサ部22のトンネルTや岩盤への設置方法は第一実施形態と同様にすることができるため、説明は省略する。
【0055】
以上詳述した第二実施形態の計測装置1Bによれば、DVS用光ファイバ60を分岐させた各光ファイバ素線がそれぞれセンサ部として機能する分布型振動センサ10と、FOD用光ファイバ70を分岐させた各光ファイバ素線にそれぞれセンサ部22を設けたFODセンサ40とを並列に備えて構成されている。これにより、分布型振動センサ10による全体計測と、FODセンサ40による局所計測とを同時、且つ並行して行えるようになり、トンネルTの健全性を局所的及び広範囲な領域の両方で、高精度、且つ、リアルタイムに監視することが可能になる。
【0056】
また、多芯の光ファイバ60,70の各光ファイバ素線を分岐させて複数のセンサ部として機能させることで、複数本の単芯光ファイバを配置してセンサ部とする構成に比べ、部品点数を確実に削減できるようになり、装置全体の小型化、さらには、コストの削減を図ることも可能になる。
【0057】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態において、分布型振動センサ10は、レイリー散乱光の位相変化を検知する方式を一例に説明したが、振幅変動(強度)を検知する方式等、他の検知方式を用いるものであってもよい。また、FODセンサ40の周回部25の横断面形状は、上記の通り略楕円形状又は長円状とするのが最良の形態となるが、これら楕円や長円以外の形状を適用することも可能である。
【0059】
また、本開示の適用範囲は、トンネルTの監視に限定されず、原子力発電所等から搬出される放射性廃棄物の地下埋設施設、ダム本体やダム本体の周辺岩盤、橋脚や橋梁、塔状構造物等の監視にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1A,1B…計測装置,10…分布型振動センサ,11…DVS用測定機(第1測定機),12…レーザ光源(第1光源),13…光サーキュレータ,14…検出器(第1検出器),18…DVS接続用光ファイバ,20…光ファイバ,22…センサ部,25…周回部,26…拘束治具,27…収容器,30…演算装置,40…FODセンサ,41…FOD用測定機,42…レーザ光源(第2光源),43…検出器(第2検出器),48…FOD接続用光ファイバ,50…光路切り替え器,60…DVS用光ファイバ,70…FOD用光ファイバ