(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118293
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 17/18 20150101AFI20220805BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20220805BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20220805BHJP
H04B 17/40 20150101ALI20220805BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
H04B17/18
H04B17/29 300
H04B17/309
H04B17/40
H04B7/08 480
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014711
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 史明
(72)【発明者】
【氏名】神谷 伶
(57)【要約】
【課題】 受信電界強度を解析して空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断する無線通信装置を提供する。
【解決手段】 放送波を中継伝送する無線通信装置であって、処理装置30の処理部31が、受信側の電界強度のログを定期的にメモリ32に記憶し、処理部31が、メモリ32から電界強度を読み出して、電界強度のログを解析し、電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断する無線通信装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波を中継伝送する無線通信装置であって、
受信側の電界強度のログを定期的に記憶する記憶部と、
前記電界強度のログを解析し、前記電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断する処理部とを有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
処理部は、受信電界強度の状態に対する天候、装置故障又は妨害波の変動要因を対応付けており、記憶部に記憶された電界強度のログを解析して前記変動要因を推測することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
放送波を中継伝送する無線通信装置であって、
等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、選択合成に切り替えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
放送波を中継伝送する無線通信装置であって、
等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、他方の正常な受信波を経路長が等長になるよう分配し、更に経路長が等長になるよう再合成することを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
放送波を中継伝送する無線通信装置であって、
等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、当該劣化した経路を切り離し、解放端から線路長がλ/2となるよう合成することを特徴とする無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送波を中継伝送する無線通信装置に係り、特に、受信電界強度を解析して空中回線の状況又は装置の故障を判断する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来の地上デジタル放送における放送波を中継伝送する無線通信装置としてSTL(Transmitter to Studio Link)装置、TTL(Transmitter to Transmitter Link)装置がある。
この無線通信装置は、受信側アンテナで受信される電界強度を1秒周期で1年分をメモリ(記憶部)するようになっていた。
【0003】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開平07-244100号公報「空中線系監視装置」(特許文献1)、特開2010-272978号公報「無線受信装置」(特許文献2)、特開2013-110501号公報「無線通信システム」(特許文献3)がある。
【0004】
特許文献1には、空中線系の断線と出力電界強度の低下を検出可能な監視装置が示されている。
特許文献2には、マルチキャリア方式でそれぞれ硬判定を行い、判定結果により最大比合成法、等利得合成法、選択合成法から合成法を選択する無線受信装置が示されている。
特許文献3には、複数の受信アンテナ毎の各受信電界強度測定値の相互比較結果に基づいて複数の受信アンテナの故障状態を検出する無線通信システムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07-244100号公報
【特許文献2】特開2010-272978号公報
【特許文献3】特開2013-110501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の無線通信装置では、受信側アンテナで受信される電界強度を1秒周期で1年分をメモリに記憶しているものの、それら電界強度のデータを十分に利用できていないという問題点があった。
【0007】
尚、特許文献1~3には、メモリに蓄積された受信電界強度のデータをメモリから抽出して分析し、空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断する構成の記載がない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、受信電界強度を解析して空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断する無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、受信側の電界強度のログを定期的に記憶する記憶部と、電界強度のログを解析し、電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断する処理部とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明は、上記無線通信装置において、処理部が、受信電界強度の状態に対する天候、装置故障又は妨害波の変動要因を対応付けており、記憶部に記憶された電界強度のログを解析して変動要因を推測することを特徴とする。
【0011】
本発明は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、選択合成に切り替えることを特徴とする。
【0012】
本発明は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、他方の正常な受信波を経路長が等長になるよう分配し、更に経路長が等長になるよう再合成することを特徴とする。
【0013】
本発明は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、当該劣化した経路を切り離し、解放端から線路長がλ/2となるよう合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、受信側の電界強度のログを定期的に記憶する記憶部と、電界強度のログを解析し、電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断する処理部とを有する無線通信装置としているので、受信電界強度を解析して空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断できる効果がある。
【0015】
本発明によれば、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、選択合成に切り替える無線通信装置としているので、複雑な処理を行うことなくSN比の劣化を軽減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の無線通信装置を用いた第1の通信システムを示す概略図である。
【
図2】第1の無線通信装置を用いたスペースダイバーシティ受信方式の第2の通信システムを示す概略図である。
【
図3】変動要因と受信電界強度の関係を示す図である。
【
図4】受信電界強度の動きと変動要因推測シーケンスを示す図である。
【
図5】電界強度の変化量の大きさを示すグラフ図である。
【
図9】SD受信変換器を採用したSTL/TTL受信装置の概略図である。
【
図11】シミュレーション結果を示すグラフ図である。
【
図15】第3の構成例で一方のアイソレータから前を切り離したシミュレーションの回路図である。
【
図16】
図15のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る第1の無線通信装置(第1の無線通信装置)は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、受信側の電界強度のログを定期的に記憶部に記憶し、処理部が、電界強度のログを解析し、電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断するものであり、空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断できるものである。
【0018】
また、本発明の実施の形態に係る第2の無線通信装置(第2の無線通信装置)は、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、処理部が、選択合成に切り替えるものであり、複雑な処理を行うことなくSN比の劣化を軽減できるものである。
【0019】
[第1の無線通信装置:
図1,2]
第1の無線通信装置について、
図1,2を参照しながら説明する。
図1は、第1の無線通信装置を用いた第1の通信システムを示す概略図であり、
図2は、第1の無線通信装置を用いたスペースダイバーシティ受信方式の第2の通信システムを示す概略図である。
尚、第1の無線通信装置及び第2の無線通信装置は、STL/TTL装置である。
【0020】
[第1の通信システム:
図1]
第1の通信システムは、
図1に示すように、送信装置10と、受信装置20、処理装置30とを有している。
送信装置10は、2重の冗長化が図られており、デジタル変調器1a,1bと、送信変換器2a,2bと、SHF切替器3と、送信アンテナ4とを備えている。
【0021】
受信装置20は、2重の冗長化が図られており、受信アンテナ5と、受信共用分配器6と、受信変換器7a,7bと、デジタル復調器8a,8bとを備えている。
処理装置30は、処理部31と、メモリ32とを備えている。
尚、第1の通信システムにおいて、第1の無線通信装置は、受信装置20と処理装置30とから成るものである。
【0022】
[送信装置10]
送信装置10において、デジタル変調器1a,1bは、地上デジタル放送信号を中継伝送するためのIF(中間周波数:Intermediate Frequency)信号に変調する。
送信変換器2a,2bは、信号周波数をマイクロ波(SHF:Super High Frequency)までアップコンバートし、電力増幅を行う。
SHF切替器3は、送信変換器2a,2bの出力のいずれかを選択して送信アンテナ4に出力する。つまり、SHF切替器3は、送信変換器2a,2bのいずれかと送信アンテナ4との接続を切り替える。
【0023】
[受信装置20]
受信装置20において、受信アンテナ5で受信した信号を受信共用分配器6が2つの受信変換器7a,7bに分配する。
受信変換器7a,7bは、受信したマイクロ波をIF信号までダウンコンバートする。
デジタル復調器8a,8bは、ダウンコンバートされたIF信号を地上デジタル放送信号に復調し、中継を行う。
【0024】
[処理装置30]
処理装置30において、処理部31は、受信変換器7a,7bで障害が発生した場合の原因究明のためのデータとして、受信アンテナ5で受信される受信電界強度(受信レベルの値)を1秒周期で取得し、メモリ32に記憶する。
また、処理部31は、メモリ32から電界強度を読み出し、後述する解析を行う。
メモリ32は、1秒周期の電界強度の値を1年間分記憶するものである。
処理装置30は、コンピュータ等を用いた装置であり、後述するグラフ表示させるには、表示部、入力部を備えた構成とするのがよい。
【0025】
[第2の通信システム:
図2]
第2の通信システムは、
図2に示すように、スペースダイバーシティ(SD)方式の場合であり、送信装置110と、受信装置120、処理装置130とを有している。
【0026】
[送信装置110]
送信装置110は、2重の冗長化が図られており、デジタル変調器11a,11bと、送信変換器12a,12bと、SHF切替器13と、送信アンテナ14は、第1の通信システムの送信装置10のデジタル変調器1a,1bと、送信変換器2a,2bと、SHF切替器3と、送信アンテナ4に相当している。
【0027】
[受信装置120]
受信装置120は、2つの受信アンテナ(MAINアンテナ15,SUBアンテナ16)と、SD受信共用分配器17と、SD受信変換器18a,18bと、デジタル復調器19a,19bとを備えている。
受信装置120も2重の冗長化が図られている。
【0028】
2つの受信アンテナ15,16で中継波を受信し、SD受信共用分配器17では、各アンテナからの中継波を分配してSD受信変換器18a,18bに出力する。
SD受信変換器18a,18bは、2つの受信アンテナ15,16からの合成波(COMB)を生成し、IF信号までダウンコンバートし、デジタル復調器19a,19bに出力する。
デジタル復調器19a,19bは、そのIF信号を地上デジタル放送信号に復調する。
【0029】
[処理装置130]
処理装置130において、処理部131は、SD受信変換器18a,18bで障害が発生した場合の原因究明のためのデータとして、MAINアンテナ15,SUBアンテナ16で受信される中継波と、SD受信変換器18a,18bでの合成波の受信電界強度(受信レベルの値)を1秒周期で取得し、メモリ132に記憶する。
【0030】
つまり、受信電界強度は、2つのアンテナで受信された信号とSD受信変換器18a又はSD受信変換器18bで合成された信号の計3個の電界強度を取得する。
また、処理部131は、メモリ132から電界強度を読み出し、後述する解析を行う。
メモリ132は、3つの信号について1秒周期の電界強度の値を1年間分記憶するものである。
【0031】
[変動要因と受信電界強度の関係:
図3]
処理装置30,130の処理部31,131の処理を説明する前に、変動要因と受信電界強度の関係について
図3を参照しながら説明する。
図3は、変動要因と受信電界強度の関係を示す図である。
図3では、変動要因、受信電界強度の動き、回線断の可能性を示している。
天候、装置故障、妨害波について、それぞれ受信電界強度の動き(変動状態)が示され、各変動要因に対して回線断の有り無しの可能性が示されている。
【0032】
[処理装置30,130の処理:
図4]
次に、第1の無線通信装置の処理装置30,130における処理について
図4を参照しながら説明する。
図4は、受信電界強度の動きと変動要因推測シーケンスを示す図である。
処理装置30,130の処理部31,131は、メモリ32,132から蓄積された電界強度の値を読み出して、
図4に示すシーケンスを実行する。
【0033】
まず、処理部31,131は、受信可能な電界強度、例えば-80dBmを下回ったか否かを判定し(S1)、下回った場合(「はい」の場合)、装置故障又はメンテナンスの可能性であると推測する(S2)。
【0034】
処理S1で受信可能な電界強度を下回っていない場合(「いいえ」の場合)、次に、復旧したかどうか判定し(S3)、復旧しなければ(「いいえ」の場合)、処理S2の内容であると推測する。
処理S3で復旧したのであれば(「はい」の場合)、次に電界強度の変化量がゆっくり変動したか、早く(急峻に)変動したか判定する(S4)。
【0035】
処理S4で、変化量がゆっくり変動した場合(「ゆっくり」の場合)、降雨の影響の可能性であると推測する(S5)。
また、処理S4で、変化量が早く変動した場合(「早い」の場合)、次に、電界強度の変動の連続性を判定する(S6)。
【0036】
処理S6で、電界強度の変動の連続性が単発である場合(「単発」の場合)、装置故障又はメンテナンスの可能性であると推測する(S7)。
また、処理S6で、電界強度の変動の連続性が連続である場合(「連続」の場合)、雷雨、台風の可能性であると推測する(S8)。
以上のようにして、処理部31,131は、受信電界強度の動きから変動要因を推測する。
【0037】
[受信電界強度のグラフ表示例:
図5~8]
メモリ32,132に蓄積された受信電界強度を分類、分析し、空中回線の状態、装置故障を判断するための情報を提供するためのグラフ表示例について、
図5~8を参照しながら説明する。
図5は、電界強度の変化量の大きさを示すグラフ図であり、
図6は、回線断等の状況を示すグラフ図であり、
図7は、障害継続の状況を示すグラフ図であり、
図8は、推測要因を示すグラフ図である。
具体的には、処理部31,131が、メモリ32,132の電界強度のデータを該当する条件のものを抽出して、
図5~8のグラフを生成するものである。
【0038】
[電界強度の変化量の大きさ:
図5]
図5は、電界強度の変化量の大きさを示すもので、横軸は時間で、縦軸は指定の電界強度の変化量の回数である。横軸の時間は、時単位(0~23時)、月単位(1~12月)、日単位(365日)に設定可能である。また、縦軸では「10dB以上の変化の回数」としているが、変化量は任意に設定可能である。
図5のグラフにより、特定の変化量以上の回数を時系列に把握することができる。
【0039】
[回線断等の状況:
図6]
図6は、回線断等の状況を示すもので、横軸は時間で、縦軸は特定電界強度を下回った回数である。
図6では、「-80dBm以下の回数」であるので、回線断の回数となる、「-80dBm」の値を上げて例えば「-60dBm」以下とすると、回線断寸前の状況も示すことができる。
図6のグラフにより、回線断又は回線断寸前の状況等を時系列に把握することができる。
【0040】
[障害継続状態の状況:
図7]
図7は、障害継続状態の状況を示すもので、横軸は時間で、縦軸は特定電界強度の状態が特定時間継続した回数である。
図7では、例えば「-80dBm」以下の状態が「30分以上の継続の回数」としているので、障害継続の状態となる。
図7のグラフにより、障害継続状態等を時系列に把握することができる。
【0041】
[推測要因:
図8]
図8は、推測要因を示すもので、横軸は時間で、縦軸は推測要因別の回数である。推測要因は、
図3の関係図に基づき
図4のシーケンスに従って求められるものである。
図8のグラフにより、推測要因の発生回数を時系列に把握することができる。
【0042】
[第2の無線通信装置]
次に、第2の無線通信装置について説明する。
第2の無理通信装置は、第1の無線通信装置で説明した第2の通信システムにおける受信装置120のSD受信変換器18a,18bを改良したものである。
第2の無線通信装置の説明に入る前に、以下、前提について説明する。
【0043】
[前提]
地上デジタル放送のTS伝送方式STL/TTL装置では、地形や障害物等の影響により、受信電界が頻繁に変動するフェージングが起こり得る回線がある。
そのような回線において、相関の低い複数の受信波を得て合成することにより受信特性の劣化を防止するダイバーシティ受信方式を採用する場合が多い。
【0044】
[SD受信変換器を採用したSTL/TTL受信装置:
図9]
ダイバーシティ受信方式のうち、十分離れた2つのアンテナを用いたSD(Space Diversity)受信方式を採用したTS伝送方式STL/TTL装置の概略図を
図9に示す。
図9は、SD受信変換器を採用したSTL/TTL受信装置の概略図である。
【0045】
STL/TTL受信装置は、
図9に示すように、送信装置のデジタル変調器11が、中継伝送のためにIF信号に変調し、送信変換器12がマイクロ波までアップコンバートして電力増幅し、RF(Radio Frequency)信号を送信アンテナから送信する。
受信装置は、アンテナ(1),(2)でRF信号を受信し、SD受信変換器18の位相調整器181-1,181-2で位相調整を行い、ダウンコンバータ182-1,182-2でIF信号にダウンコンバートし、信号の回り込みを防止するアイソレータ(IOS)183-1,183-2を介して合成器184にIF信号が入力される。
【0046】
合成器184は、後述する3つの受信波の合成方法により合成し、デジタル復調器19が、合成された信号を地上デジタル放送信号に復調するものである。
以下、2つの受信波を合成する3つの合成方法について説明する。
【0047】
[3つの合成方法]
得られた2つの受信波の合成法は3つに大別される。
第1の合成方法は、選択合成法と呼ばれるもので、信号強度の最も大きい受信波を選択する方法である。
第2の合成方法は、等利得合成と呼ばれるもので、すべての受信波の位相を合わせて合成する方法であり、選択合成法よりも高いSN(Signal/Noise)比を得ることができる。
第3の合成方法は、最大比合成と呼ばれるもので、すべての受信波の位相を合わせたのち、各受信波のSN比に応じた重みづけを行い合成する方法であり、3つの方法のうち得られるSN比が最大となる。
【0048】
等利得合成法は、最大比合成法に比べ処理が単純かつ、選択合成法よりも高いSN比を得ることができるメリットがある。この等利得合成法を採用する場合、片側の受信特性が劣化し破綻した場合、もう一方の経路からの回り込みによって故障することがないよう、合成前にアイソレータ(IOS)を入れることが多い。
【0049】
しかし、アイソレータを入れることによって、両方の受信波が正常に受信されている場合は合成波が単体の受信波よりもSN比が良くなる一方、片側の受信特性が劣化すると、もう一方の経路から回り込んだ信号が終端されるため合成波のSN比が単体の受信波よりも劣化する現象が生じる。
【0050】
[シミュレーションの回路:
図10]
例として、
図10に示すように、入力側のインピーダンスを50Ωとし、出力側の線路を線路長λ/4、インピーダンス√(25*50)=35.4Ωとすることでマッチングをとった合成回路を用いた、2波の合成について電力シミュレーションを行った。
図10は、シミュレーションの回路図である。
【0051】
[シミュレーションの結果:
図11]
シミュレーションの結果は、
図11に示すように、1GHzを中心とした上下1GHzにおいて、入力レベル0dBmの2つの信号を合成する場合のものである。
図11は、シミュレーション結果を示すグラフ図である。
図11では、横軸に1GHzを中心とした周波数を示し、縦軸に電力(dBm)を示している。尚、入力電力は、三段の中央の曲線である。
【0052】
2つの信号が正常に入力された場合、合成電力は入力信号単体に比べ3dB上昇する。正常な時の合成電力は上段の曲線である。
ここで片方の入力をなくすと、合成電力は入力信号単体より3dB低下する。そのため、片側の信号がなくなった場合では正常時より電力が6dB低下することになる。片側入力断の合成電力は下段の曲線である。
SN比は信号レベルとノイズレベルの比であるため、信号レベルが6dB低下するならば、SN比も同様に6dB劣化することになる。
【0053】
受信波の回り込みによるSN比の劣化を軽減させる手段として、片方の受信特性が劣化した場合に、正常な入力のみを利用することが考えられる。この方法ならば、合成信号の電力は入力信号と同じとなるため、正常時と比較して、SN比の劣化を3dBに抑えることが可能である。
【0054】
そこで、第2の無線通信装置では、等利得合成法を用いたダイバーシティ受信方式において、1つの受信波の特性が劣化した際にも、複雑な処理が必要なくSN比の劣化を軽減するものとしている。
【0055】
[第2の無線通信装置における構成例]
次に、第2の無線通信装置において、片方の受信特性が特定のしきい値より劣化した場合に、正常な入力のみを利用するSD受信装置について、
図12~14を参照しながら第1~3の構成例を説明する。
図12は、第1の構成例の受信装置の概略図であり、
図13は、第2の構成例の受信装置の概略図であり、
図14は、第3の構成例の受信装置の概略図である。
【0056】
[第2の無線通信装置における第1の構成:
図12]
第1の構成例の受信装置は、等利得合成の回路と選択合成の回路を組み合わせたものであり、
図12に示すように、アンテナ(1),(2)と、SD受信変換器としての位相調整器181-1,181-2と、ダウンコンバータ182-1,182-2と、アイソレータ(IOS)183-1,183-2と、合成器としてのスイッチ(SW)(1)~(4)と、受信特性監視部40-1,40-2とを備えている。
SW(1)~(4)と受信特性監視部40-1,40-2以外の構成及び動作は、
図9で説明したものと同様である。
【0057】
受信特性監視部40-1,40-2は、処理部であり、アンテナ(1)(2)から入力される信号の受信特性(例えば、受信電界強度)を監視し、受信特性が予め設定されたしきい値より劣化した場合にSW(1)~(4)の切り替えを制御するものである。
【0058】
SW(1)は、アイソレータ183-1からの出力をSW(4)又はSW(3)に出力するよう切り替えるものであり、アンテナ(1)の受信特性が正常及び異常のときは、SW(4)に接続し、アンテナ(2)の受信特性が異常のときにSW(3)に切り替える。
【0059】
SW(2)は、アイソレータ183-2からの出力をSW(4)又はSW(3)に出力するよう切り替えるものであり、アンテナ(2)の受信特性が正常及び異常のときは、SW(4)に接続し、アンテナ(1)の受信特性が異常のときにSW(3)に切り替える。
【0060】
SW(3)は、SW(1)又はSW(2)のいずれかを選択するよう切り替えてSW(4)に出力する。具体的には、一方のアンテナの受信特性が劣化した場合に、他方の劣化していない側のSWと接続するよう切り替える。
【0061】
SW(4)は、正常時はSW(1)とSW(2)の両方に接続して2つのアンテナからの合成信号を入力し、アンテナのいずれかに受信特性の劣化がある場合には、SW(3)に接続して、正常な受信信号のみを入力するよう切り替える。
【0062】
図12では、正常な状態を表しており、等利得合成を行っている。例えば、アンテナ(1)側で受信特性が劣化した場合、受信特性監視部40-1は、その劣化を認識し、SW(1)をそのままSW(4)に接続するようにして、SW(2)をSW(4)への接続からSW(3)への接続に切り替え、SW(3)をSW(2)に接続するよう切り替え、SW(4)をSW(3)に接続するよう切り替える。
【0063】
これにより、受信特性が劣化したアンテナ(1)側の入力はSW(4)で切り離され、アンテナ(2)側の入力だけがSW(2)、SW(3)、SW(4)の切り替えにより選択することが可能となる。
尚、この第1の構成例が請求項3記載の発明に相当している。
【0064】
[第2の無線通信装置における第2の構成:
図13]
第2の構成例の受信装置は、等利得合成の回路において、受信特性が劣化した経路のアイソレータから前を切り離し、正常な入力を分配し、再度合成するものである。
第2の構成例の受信装置は、
図13に示すように、第1の構成例とほぼ同様であるが、SW(11)~(14)の構成及び動作、受信特性監視部40-3,40-4の制御が異なっている。
【0065】
具体的には、受信特性監視部40-3は、SW(11)をアイソレータ183-1に接続するか、終端に接続するかを切り替える。受信特性監視部40-4は、SW(12)をアイソレータ183-2に接続するか、終端に接続するかを切り替える。
受信特性監視部40-4は、SW(13)を、SW(12)が終端に接続した場合は、終端から回路接続に切り替え、SW(11)からの出力信号を分配して合成し、受信特性監視部40-3は、SW(14)を、SW(11)が終端に接続した場合は、終端から回路側に切り替え、SW(12)からの出力信号を分配して合成する。
【0066】
図13は正常時の状態であり、片側の受信特性の劣化を検知した場合、その経路にあるSWを切り替え、アイソレータも含めた前段を切り離すものである。
アンテナ(1)の受信特性が劣化して、SW(11)を終端に切り替える場合は同時に、SW(13)を終端に接続したままとし、SW(14)を終端ではない方に接続するよう切り替える。
また、アンテナ(2)の受信特性が劣化して、SW(12)を終端に切り替える場合は、SW(14)を終端に接続したままとし、SW(13)を終端でない方に接続するよう切り替える。
【0067】
以上のSWの切り替えにより、正常な入力のみを分配し再度合成することが可能である。ただし、
図13に示すように分配する2つの経路長は等長にする必要がある。つまり、分配された2つの経路が同じ長さの経路となるよう設計される。
この場合、分配部分で信号の電力は3dB低下するが、合成することで再度3dB上昇するため正常な入力を選択して使う第1の構成例と同様の効果が得られる。
【0068】
[第2の無線通信装置における第3の構成:
図14]
第3の構成例の受信装置は、等利得合成の回路において、受信特性が劣化した経路のアイソレータを含めた前段を切り離すのみで、第1,2の構成例と同等の効果を得るものである。
第3の構成例の受信装置は、
図14に示すように、第1の構成例とほぼ同様であるが、SW(21),(22)の構成及び動作、受信特性監視部40-5,40-6の制御が異なっている。
【0069】
第3の構成例の受信装置は、片側の受信特性の劣化を受信特性監視部40-5,40-6が検知した場合、その経路にあるSWを切り替える。つまり、受信特性監視部40-5がアンテナ(1)に入力される信号について受信特性が劣化したと認識すると、SW(31)を終端に切り替え、受信特性監視部40-6がアンテナ(2)に入力される信号について受信特性が劣化したと認識すると、SW(32)を終端に切り替える。
【0070】
そのように制御することで、回り込む信号を解放端で全反射させ合成波の電力ロスをなくすことができる。ただし、SWの解放端(終端)から合成部までの線路長はλ/2にする必要がある。
【0071】
[第3の構成例のシミュレーション:
図15,16]
第3の構成例について、例として、
図10のシミュレーションにおいて50Ωの線路長をλ/2とし、片側のアイソレータから前を切り離した回路構成を
図15に示した。その回路構成での合成電力のシミュレーション結果を
図16に示す。合成電力は約0dBmであり、入力単体の電力と同等となった。
図15は、第3の構成例で一方のアイソレータから前を切り離したシミュレーションの回路図であり、
図16は、
図15のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【0072】
[実施の形態の効果]
第1の無線通信装置によれば、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、処理装置30の処理部31が、受信側の電界強度のログを定期的にメモリ32に記憶し、処理部31が、電界強度のログを解析し、電界強度の変化回数と変化量の状態に基づき回線断の状態又は回線断寸前の状態を認識して、空中回線の状況若しくは装置故障の状況を判断するものとしているので、空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断できる効果がある。
【0073】
第2の無線通信装置によれば、放送波を中継伝送する無線通信装置であって、等利得合成を採用したスペースダイバーシティ受信方式にて、1つの受信波の受信状態が特定のしきい値より劣化した場合に、受信特性監視部40が、選択合成に切り替えるものとしているので、複雑な処理を行うことなくSN比の劣化を軽減できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、受信電界強度を解析して空中回線の状況又は装置の故障を適正に判断する無線通信装置に好適である。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b…デジタル変調器、 2a,2b…送信変換器、 3…SHF切替器、 4…送信アンテナ、 5…受信アンテナ、 6…受信共用分配器、 7a,7b…受信変換器、 8a,8b…デジタル復調器、 10,110…送信装置、 11a,11b…デジタル変調器、 12a,12b…送信変換器、 13…SHF切替器、 14…送信アンテナ、 15…MAINアンテナ、 16…SUBアンテナ、 17…SD受信共用分配器、 18,18a,18b…SD受信変換器、 19a,19b…デジタル復調器、 20,120…受信装置、 30,130…処理装置、 31,131…処理部、 32,132…メモリ、 184…合成器、 181-1,181-2…位相調整器、 182-1,182-2…ダウンコンバータ、 183-1,183-2…アイソレータ(IOS)、 40-1,40-2,40-3,40-4,40-5,40-6…受信特性監視部