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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118329
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】多層チューブ
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20220805BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20220805BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220805BHJP
   F16L 11/04 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
B41J2/175 503
B41J2/175
B32B1/08 B
B32B27/30 D
F16L11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014767
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 欽司
(72)【発明者】
【氏名】佐原 真
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 善治
【テーマコード(参考)】
2C056
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
2C056KB14
3H111AA02
3H111BA15
3H111CB01
3H111DB10
3H111DB25
4F100AK01C
4F100AK04C
4F100AK17A
4F100AK18A
4F100AK19A
4F100AK46B
4F100AK53B
4F100AK69B
4F100AL05B
4F100AL09C
4F100BA03
4F100BA07
4F100DA11
4F100GB41
4F100JB16C
4F100JD02
4F100JD04
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、溶剤の搬送が可能であって、酸素ガスや窒素ガス等に対するガスバリア性及び水蒸気バリア性を兼ね備え、さらにチューブの柔軟性及び層間の接着性においても優れる多層チューブを提供することにある。
【解決手段】少なくとも3層以上で構成される多層チューブであって、 内層はふっ素樹脂組成物から成り、中間層は少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物から成り、外層は熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成されていることを特徴とする。
【選択図】 図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層以上で構成される多層チューブであって、
内層は、ふっ素樹脂組成物から成り、
中間層は、少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物から成り、
外層は、熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成されていることを特徴とする多層チューブ。
【請求項2】
前記内層は、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)の少なくとも1種類から成ることを特徴とする、
請求項1に記載の多層チューブ。
【請求項3】
前記中間層のバインダー樹脂成分は、ポリアミド樹脂又はエポキシ変性オレフィン樹脂であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の多層チューブ。
【請求項4】
前記中間層の組成は、エチレン-ビニルアルコール共重合体:バインダー樹脂成分=90~10:10~90%であることを特徴とする、
請求項1~3に記載の多層チューブ。
【請求項5】
層間剥離強度が2N/cm以上であることを特徴とする、
請求項1~4の何れか一項に記載の多層チューブ。
【請求項6】
曲げ荷重は0.5[N]以下であることを特徴とする、
請求項1~5の何れか一項に記載の多層チューブ。
【請求項7】
25℃における窒素ガスの透過係数が、1.0×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることを特徴とする、
請求項1~6の何れか一項に記載の多層チューブ。
【請求項8】
80℃における水蒸気の透過係数が、800×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることを特徴とする、
請求項1~7の何れか一項に記載の多層チューブ。
【請求項9】
インクジェットプリンタのインク供給用途に用いられることを特徴とする、
請求項1~8の何れか一項に記載の多層チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に液体搬送用の多層チューブであって、特にインクジェットプリンタ用のインク等、有機溶剤の搬送用に好適に用いられる多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
インク搬送用の多層チューブとして、例えば、内層にETFE樹脂、中間層にEVOH樹脂、外層から成る多層チューブが示されている(特許文献1)。内層をETFE樹脂で構成するため、有機系溶剤の耐性に優れ、かつ、中間層をEVOH樹脂で構成することで、酸素バリア性や低透湿性を向上することが記載されている。さらに、外層は、中間層に対し融着性を有するとともに、チューブ屈撓性を付与する樹脂又はエラストマーから成ることが記載されている。しかし、中間層のEVOH樹脂は硬度が高く、チューブの柔軟性が乏しい点や、内外層との接着性においてもさらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5199971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、溶剤の搬送が可能であって、酸素ガスや窒素ガス等に対するガスバリア性及び水蒸気バリア性を兼ね備え、さらにチューブの柔軟性及び層間の接着性においても優れる多層チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0006】
(1)少なくとも3層以上で構成される多層チューブであって、内層はふっ素樹脂組成物から成り、中間層は少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物から成り、外層は熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成されていることを特徴とする。
(2)内層は、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)の少なくとも1種類から成ることが好ましい。
(3)中間層のバインダー樹脂成分は、ポリアミド樹脂又はエポキシ変性オレフィン樹脂であることが好ましい。
(4)中間層の組成は、エチレン-ビニルアルコール共重合体:バインダー樹脂成分=90~10:10~90%であることが好ましい。
(5)層間剥離強度が2N/cm以上であることが好ましい。
(6)曲げ荷重は0.5[N]以下であることが好ましい。
(7)25℃における窒素ガスの透過係数が、1.0×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることが好ましい。
(8)80℃における水蒸気の透過係数が、800×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることが好ましい。
(9)インクジェットプリンタのインク供給用途に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層チューブは、内層がふっ素樹脂組成物から成るため耐溶剤性に優れ、中間層は少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体を含むため酸素ガスや窒素ガス等に対するガスバリア性に優れる。さらに中間層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体の他にバインダー成分を含むため、層間の接着性の向上が可能となる。層間に接着層を設けないため、チューブの薄肉化・細径化が可能となり柔軟性に寄与するである。中間層が、少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物から成ることで、チューブの柔軟性と層間接着性の両特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る多層チューブの一例を示す図である。
図2】層間剥離強度の測定方法を示す概略図である。
図3】曲げ荷重の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の多層チューブについて、実施例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0010】
図1の多層チューブ1は、内側より内層2、中間層3、外層4の少なくとも3層以上で構成され、内層はふっ素樹脂組成物、中間層は少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物、外層は熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成されていることを特徴とする。
【0011】
内層2のふっ素樹脂組成物は特に限定されないが、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)の少なくとも1種類から成ることが好ましい。内層2がふっ素樹脂組成物であるため、チューブは有機溶剤や薬品等の液体搬送が可能となる。柔軟性の点で最も好ましくは、THVである。
【0012】
中間層3は、少なくともエチレン-ビニルアルコール共重合体及びバインダー成分を含む組成物である。バインダー樹脂成分は、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等挙げられるが、好ましくはエポキシ変性オレフィン樹脂である。
【0013】
中間層の組成は、エチレン-ビニルアルコール共重合体:バインダー樹脂成分=90~10%:10~90%であることが好ましい。さらに好ましくは70~30%:30~70%であり、最も好ましく60~30%:40~70%である。柔軟性の観点においては、40~30%:60~70%が最も好ましい。
【0014】
外層4は、熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成されていることを特徴とする。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン等、様々な種類があり、特に限定されない。エラストマーは、例えば、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、シリコーン系、ふっ素系等、様々な種類があり、特に限定されない。外層4の材料は、多層チューブ1の用途、要求特性等に応じて、適宜選択される。柔軟性が要求される場合は、外層4に熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0015】
一般的な多層チューブは各層間に接着層を設けた構造が広く知られているが、本発明の多層チューブ1は、接着層を設けないため薄肉化や細径化も可能である。
【0016】
多層チューブ1の層間剥離強度は、2N/cm以上になるよう形成されることが好ましい。層間剥離強度が2N/cm以上である場合、多層チューブ1に屈曲、捻回等の外力に対して、層間の剥離、割れ防止に寄与する。より好ましくは、各層間における層間剥離強度が5N/cm以上である。
【0017】
柔軟性の指標として、図3に示す曲げ荷重の測定を行う。好ましくは、曲げ荷重を0.5[N]以下となるよう多層チューブを成形される。より好ましくは、0.3[N]以下である。
【0018】
多層チューブ1は、25℃における窒素ガスの透過係数が、1.0×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることが好ましい。測定方法は、JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法に準拠する。透過係数が1.0×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下である多層チューブ1は、ガスバリア性に優れるため、多層チューブ1によって搬送される流体に対して、多層チューブ1の外部からのガスの混入を防ぐ効果がある。より好ましくは、窒素ガスの透過係数が0.05×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下、さらに好ましくは0.01×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0019】
多層チューブ1は、80℃における水蒸気の透過係数が、800×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下になるよう形成されることが好ましい。測定方法は、JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法に準拠する。80℃における水蒸気の透過係数が800×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下である多層チューブ1は、高温環境下においても一定の水蒸気バリア性を有する。より好ましくは、水蒸気の透過係数が600×10-10cm・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0020】
多層チューブ1の寸法は、特に限定されないが、内径は2~10mm、外径は3~12mmが好ましい。
【0021】
多層チューブ1の製法は特に限定されないが、好ましくは押出成型である。複数の層を同時に成形するため生産性に優れ、層間接着性に優れる。必要に応じて、延伸処理、ケミカル処理、プラズマ処理、電子架橋処理等施しても良い。
【0022】
本発明は様々な用途で使用可能であるが、耐溶剤性やガスバリア性に優れることから、インクジェットプリンタのインク供給用途において特に好適に用いられる。
【実施例0023】
以下、本発明のチューブ(図1)について、実施例を挙げさらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1~3は、内層はふっ素樹脂組成物のうちETFE、中間層はEVOHとポリアミド樹脂からなる組成物であり、外層はポリエチレンである。EVOHとポリアミド樹脂の各含有量は表1に記載する。チューブ寸法は、内径3.0、外径4.0mmであり、各層の肉厚は、内側より0.10mm、0.05mm、0.35mmである。
【0025】
実施例4~6は、実施例1のうち、内層はTHV、中間層はEVOHとエポキシ変性オレフィン樹脂からなる組成物である。詳細は表1に記載する。
【0026】
比較例1は、実施例1のうち、中間層はEVOHのみから成る層を用いる。
【0027】
実施例及び比較例について、層間剥離強度、曲げ荷重、窒素ガス及び水蒸気の透過係数の測定を行い、結果を表1に示す。
【0028】
(層間剥離強度の測定方法)
JIS Z 0237に記載の180度剥離試験を行う(図2)。測定サンプルについて、長さ約12cmの多層チューブを、長さ方向に切り開き、シート状の試験片を作成する。試験片の長さ方向の端部から層間を一部剥離した後、図2に示すように、引張試験機を用いて、200mm/分の引張り速度にて180度剥離試験を実施する。測定長は10cmとし、引張強度の最大値を、層間剥離強度として測定する。
【0029】
(曲げ荷重の測定方法)
図3に示すように、測定台から50mmに位置するサンプルの先端部を10mm撓ませる際の荷重[N]を測定する。測定器は汎用のプッシュブルゲージを用いる。曲げ荷重が大きいほど、チューブは硬く柔軟性に乏しいことを示す。
【0030】
(窒素ガスの透過係数の測定方法)
JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法に準拠し、25℃における、窒素ガスの透過係数を測定する。
測定器は、汎用のガス透過試験機を用い、キャリアガスの流量は10ml/min、試験時の大気圧は101.3kPaである。
【0031】
(水蒸気の透過係数の測定方法)
JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法に準拠し、80℃における、水蒸気の透過係数を測定する。
測定器は、汎用のガス透過試験機を用い、キャリアガスの流量は10ml/min、相対湿度は75%、試験時の水蒸気の分圧は38.6kPa、窒素ガスの分圧は49.5kPa、酸素ガスの分圧は13.2kPaである。
【0032】
(表1)
【0033】
実施例1~6の多層チューブは、比較例と比べ、曲げ荷重が格段に小さいことから柔軟性に優れると言える。その上、層間剥離強度試験の結果より高い層間接着性を有し、さらに一定の窒素ガスバリア性及び水蒸気バリア性を有することが確認できる。
【0034】
特に、実施例1の内層がETFE、中間層がEVOH(30%)とポリアミド樹脂(70%)からなる組成物の場合と、実施例4の内層がTHV、中間層がEVOH(30%)とエポキシ変性オレフィン樹脂(70%)の場合、特に層間接着性及び柔軟性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の多層チューブは、インクジェットプリンタ用のインク供給用チューブの他、化学、医療、製薬、食品、分析機器等、広い分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1、1’ 多層チューブ
2、2’ 水蒸気バリア層
3、3’ ガスバリア層
4 外層

図1
図2
図3