(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118395
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】光学計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20220805BHJP
G01B 9/04 20060101ALI20220805BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
G02B21/00
G01B9/04
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014883
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000101330
【氏名又は名称】アストロデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101269
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 道夫
(72)【発明者】
【氏名】武居 利治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂昭
(72)【発明者】
【氏名】武田 重人
(72)【発明者】
【氏名】有馬 龍穂
【テーマコード(参考)】
2F064
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2F064AA09
2F064CC04
2F064FF01
2F064GG23
2F064HH06
2F064MM03
2G059AA02
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059EE05
2G059FF01
2G059FF02
2G059FF03
2G059GG01
2G059HH02
2G059JJ11
2G059JJ22
2G059KK04
2G059MM01
2H052AA07
2H052AB01
2H052AB24
2H052AC04
2H052AC05
2H052AC15
2H052AC27
2H052AC34
2H052AF14
2H052AF21
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】受光素子から取得された信号に基づき、強度と光学的距離の情報を同時に取得しかつ両者を正確に分離するだけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を実行し得る光学計測装置を得る。
【解決手段】レーザー光源21、2次元走査デバイス26等が並んで配置され、対物レンズ31が測定対象物G1と対向する。測定対象物G1より受光した受光素子29A、29Bからの信号及び2次元走査デバイス26による走査の基準となる信号が信号比較器33を介してデータ処理部34に送られる。複数のデータを加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してずらした複数のデータを加算して得られた第2データ群とを、データ処理部34で作成する。2種のデータ群間の差の出力から、強度情報や位相情報だけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな照射光を照射する光源と、
光源からの照射光を走査させて測定対象物に送る走査素子と、
照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線として両側に各1つ位置し、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換する少なくとも2つの受光素子と、
これら受光素子にてそれぞれ光電変換されて出力された基本的な基本データの信号から求まる測定対象物についての和信号と差信号の計測値を得ると共に、光電変換されて出力された信号から、基本データ及び予め定められた所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれ予め定められた所定量ずらして抽出した複数のデータの値を加算して得られた第2データ群を作成し、これら2種のデータ群間の差の出力により、測定対象物についての微分演算を実行する計測部と、
を含む光学計測装置。
【請求項2】
基本データ間における所定間隔で抽出されたデータの数をkとしたときに、
第1データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
第2データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n+m番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n+m番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
nが0を含む自然数とされ、mが0を含まない自然数とされた請求項1に記載の光学計測装置。
【請求項3】
第1データ群が抽出するデータをサンプル点sxとした複数のデータの値を加算したものとし、第2データ群が抽出するデータをサンプル点s(x+m)とした複数のデータの値を加算したものとし、
sをデータ抽出間隔とし、xを各データ抽出間隔内の取得データ位置とし、mをシェア量とした請求項1に記載の光学計測装置。
【請求項4】
2つの受光素子に受光素子を2つ追加して、4つの受光素子として偏光を検出可能とした請求項1から請求項3の何れかに記載の光学計測装置。
【請求項5】
前記走査素子が、照射光を相互に直交する2方向にそれぞれ走査させる2次元走査素子とされ、この2方向の内の少なくとも1方向の走査により測定対象物に照射された照射光が変調される請求項1から請求項4の何れかに記載の光学計測装置。
【請求項6】
前記走査素子にコントローラを接続し、このコントローラが走査素子の動作を操作して走査速度及び走査範囲を調整する請求項1から請求項5の何れかに記載の光学計測装置。
【請求項7】
コヒーレントな照射光を照射する光源と、
光源からの照射光を走査させて測定対象物に送る走査素子と、
照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線として両側に各1つ位置し、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換する少なくとも2つの受光素子と、
これら受光素子にてそれぞれ光電変換されて出力された基本的な基本データの信号から測定対象物についての計測値を得る計測部と、
を有した光学計測装置のデータ演算方法であって、
計測部において、光電変換されて出力された信号から、基本データ及び予め定められた所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれ予め定められた所定量ずらして抽出した複数のデータの値を加算して得られた第2データ群を作成し、
測定対象物についての計測値を得る他、計測部でこれら2種のデータ群間の差の出力により測定対象物についての微分演算を実行する、光学計測装置のデータ演算方法。
【請求項8】
基本データ間における所定間隔で抽出されたデータの数をkとしたときに、
第1データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
第2データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n+m番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n+m番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
nが0を含む自然数とされ、mが0を含まない自然数とされた請求項7に記載の光学計測装置のデータ演算方法。
【請求項9】
第1データ群が抽出するデータをサンプル点sxとした複数のデータの値を加算したものとし、第2データ群が抽出するデータをサンプル点s(x+m)とした複数のデータの値を加算したものとし、
sをデータ抽出間隔とし、xを各データ抽出間隔内の取得データ位置とし、mをシェア量とした請求項7に記載の光学計測装置のデータ演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の照射により測定対象物の表面状態のプロフィルの計測、細胞等の表面状態および内部状態の計測や観察に対して、透過度、反射度、吸光度等の強度情報と光学的距離情報を同時に取得しかつ両者を正確に分離する光学計測装置に関し、顕微鏡等の光学機器の性能を向上させる装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の光学的顕微鏡では、光学的距離等の3次元の計測が困難であることに加え、位相情報と強度情報を正確に分離することはできなかった。例えば、位相差顕微鏡は、コントラストの低い生物細胞等を明瞭に観察するために、位相板を用いて、位相情報を強度情報に変換して観察していた。したがって、位相情報を可視化できるが、強度情報も観察されていた。
このように従来の位相差顕微鏡は、純粋に位相情報あるいは強度情報だけを分離して、観察する顕微鏡ではなかった。また、位相情報を可視化する微分干渉顕微鏡においても、同様であった。特に、3次元計測を可能にするためには、位相情報である光学的距離情報と強度情報は明確に分離する必要性がある。
【0003】
この一方、従来の光学的な行路差を検出する手段としては、共焦点顕微鏡やデジタルホログラム顕微鏡等が知られている。
前者の共焦点顕微鏡は、測定対象物にスポット光を照射しそのスポット光に対してピンホールを介して共焦点位置に配置した受光素子にて受光した光量が最大になるように、対物レンズまたは測定対象物を動かすことにより、測定対象物の高さ情報や行路差情報を取得していた。
【0004】
また、後者のデジタルホログラム顕微鏡は、測定対象物に対して略平行なレーザー光を照射し、測定対象物で回折された光を対物レンズにて集光し、レファランスとなる平面波とCCD等のエリアセンサ上にて干渉させてホログラムを作成するものである。そして、この干渉縞を計算にて解析することにより元の測定対象物からの波面を復元して、行路差情報を取得していた。
【0005】
ところが、前者の共焦点顕微鏡では、基本的にスポット光内に位相分布があるとビームが変形し誤情報となる。特に測定対象物が細胞等の屈折率変化など波面が位相的に変化するようなものに対しては、その値の信頼性は乏しいと言わざるを得ない。また、受光した光量が最大になるように対物レンズや測定対象物を動かす必要性があるので、リアルタイム性に欠けている。さらに、測定対象物が吸収率変化や反射率変化により強度むらの生じるようなものである場合、強度の変化が生じる点においては当然に受光した光量が変化するので、ピンホールを通過する光量は、合焦点で強度が強くなったのか、強度むらにより強くなったのか判断することはできず、誤った光学的距離を算出することになる。
【0006】
後者のデジタルホログラム顕微鏡では、対物レンズで回折された光を集光し、参照平面波と干渉させて、その明暗パターンをCCD等で取り入れ、計算機においてその波面を再生して情報としている。ところが、参照平面波はいくつもの光学素子を通過した平面波なので、平面波とはいえ微視的に見れば、波長の1/10程度は面内で凹凸がある。この波面の凸凹状態を何らかのキャリブレーション用の平面等で記憶しておいても、温度の揺らぎや空気密度の揺らぎ等で、実効的に揺らいでしまう。このために、異なる行路を通過した平面波と物体波との干渉パターンは厳密な意味では、物体波を再生しているとは言い難かった。
【0007】
また、従来のホログラム顕微鏡では、結像レンズ等を用いているものが多く、レンズのNAによる空間周波数領域での位相情報や強度情報はMTFにより変化があり、正しく空間周波数を再現されているとは言いがたかった。したがって、光学的距離情報も正しい値を計算しているとみなすことは困難であった。
【0008】
他方、従来の微分干渉顕微鏡では、測定対象物に異なる偏光を有する光をわずかに空間的にシフトして照射することで、測定対象物に照射された2つの偏光の光は行路差に違いが生じるのに伴って、偏光にリターデーションを与え、これを再び合成することにより、測定対象物のわずかな屈折率差や高さの位相差を可視化するものである。なお、この空間的にシフトして偏光の光を照射する際のシフト量をシェア量という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-27096号公報
【特許文献2】特開2015-075340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような微分干渉顕微鏡の長所としては、高い空間周波数成分を光学的に増幅するので、見た目には分解能が高くなったように見える。しかしながら、測定対象物に複屈折性や旋光性を有する物質等が含まれる場合、微分干渉顕微鏡では複屈折により偏光面が回転するのに伴い、像が変わって見え非常に扱いづらい欠点を有していた。
【0011】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、受光素子から取得された信号に基づき、強度情報と光学的距離とされる位相情報を同時に取得しかつ両者を正確に分離するだけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を実行し得る光学的計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る光学計測装置は、コヒーレントな照射光を照射する光源と、
光源からの照射光を走査させて測定対象物に送る走査素子と、
照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線として両側に各1つ位置し、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換する少なくとも2つの受光素子と、
これら受光素子にてそれぞれ光電変換されて出力された基本的な基本データの信号から求まる測定対象物についての和信号と差信号の計測値を得ると共に、光電変換されて出力された信号から、基本データ及び予め定められた所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれ予め定められた所定量ずらして抽出した複数のデータの値を加算して得られた第2データ群を作成し、これら2種のデータ群間の差の出力により、測定対象物についての微分演算を実行する計測部と、
を含む。
【0013】
請求項1に係る光学計測装置の作用を以下に説明する。
本発明においては、コヒーレントな照射光が光源から照射されると共に、走査素子がこの照射光を走査させて走査ビームとして測定対象物に送る。さらに、照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線とした両側に各1つ位置した2つの受光素子が、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換する。これに伴い、2つの受光素子でそれぞれ光電変換された基本データの信号から求まる測定対象物についての和信号と差信号の計測値により、測定対象物の強度情報と位相情報が得られる。
【0014】
そして、これら2つの受光素子でそれぞれ光電変換された信号から基本データ及び所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれシェア量に相当する所定量ずらして抽出された複数のデータの値を加算して得られた第2データ群とを、計測部にて作成する。さらに、これら2種のデータ群間の差の出力から、測定対象物についての和信号と差信号の計測値だけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算をそれぞれ実行できる。
【0015】
すなわち、微分情報を得るのに偏光のリターデーションを用いている従来の微分干渉顕微鏡に対して、本請求項の光学計測装置は偏光を用いずに電気信号を元にして微分的な情報が得られるので、複屈折性や旋光性を測定対象物が有していても、正しい微分干渉的な情報を生成することが出来る。
【0016】
したがって、従来の微分干渉顕微鏡の欠点を克服し、更に従来から用いていた強度や位相を得る手法に加えて、微分干渉顕微鏡の機能を付加した本請求項に係る光学計測装置の手法を追加することにより、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を実行することができ、従来の装置や方法では得られない新たな情報が得られる。なお、位相だけの微分演算は、従来の微分干渉とほぼ同義になる。ただし、偏光の影響を受けない点が異なる。
【0017】
以上の結果として、本発明が適用された顕微鏡等では、走査ビームの照射位置から同時に微分演算を施した強度情報と光学的距離情報を取得することができるので、生きたままの細胞やマイクロマシーンなどの状態変化などの空間周波数の高い部分を強調表現できるので、細部の強度観察と位相観察が容易にできることとなる。しかも、複数のCCD等により取得する複数のデータではなく、同一観測点からの情報となるので、画素ズレによる位置合わせとは無縁な処理となり、確実に同一箇所から異なる情報を取得することができる。
【0018】
さらに、本発明を透過型の顕微鏡に適用した場合、簡単な装置になるのに伴い、細胞や微小生物等を生きたままで蛍光着色せず、高い分解能であって簡易且つ高速度に可視化して観察できる。しかも、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を実行することができるので、極めて容易に観察対象の細部の構造を強調することができるといった大きな特徴を有することになる。
【0019】
請求項2のように、基本データ間の所定間隔で抽出されたデータの数をkとしたときに、
第1データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
第2データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n+m番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n+m番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
nが0を含む自然数とされ、mが0を含まない自然数とすることで、請求項1の光学計測装置による強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を確実に実行できるようになる。なお、位相だけの微分演算は、従来の微分干渉とほぼ同義になる。ただし、偏光の影響を受けない点が異なる。
【0020】
請求項3のように、第1データ群が抽出するデータをサンプル点sxとした複数のデータの値を加算したものとし、第2データ群が抽出するデータをサンプル点s(x+m)とした複数のデータの値を加算したものとし、
sをデータ抽出間隔とし、xを各データ抽出間隔内の取得データ位置とし、mをシェア量とすることで、請求項1の光学計測装置による強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算等を請求項2と同様に、確実に実行できるようになる。
【0021】
請求項4では、2つの受光素子に受光素子を2つ追加して、4つの受光素子として偏光を検出可能としたことで、4つの受光素子からの信号に対して、上記のような2種のデータ群を用いた演算を行うことにより、従来の微分偏光顕微鏡等の光学系では不可能な偏光微分干渉的な情報も得ることが出来る。
【0022】
この一方、請求項5のように、走査素子が、照射光を相互に直交する2方向にそれぞれ走査させる2次元走査素子とされ、この2方向の内の少なくとも1方向の走査により測定対象物に照射された照射光が変調されることが考えられる。さらに請求項6のように、前記走査素子にコントローラを接続し、このコントローラが走査素子の動作を操作して走査速度及び走査範囲を調整することが考えられる。このようにすれば、2次元の画像が単に得られるだけでなく、コントローラの設定を変更するだけで、任意の変調量かつ任意の範囲にて計測が可能となる。
【0023】
請求項7に係る光学計測装置のデータ演算方法は、コヒーレントな照射光を照射する光源と、
光源からの照射光を走査させて測定対象物に送る走査素子と、
照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線として両側に各1つ位置し、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換する少なくとも2つの受光素子と、
これら受光素子にてそれぞれ光電変換されて出力された基本的な基本データの信号から測定対象物についての計測値を得る計測部と、
を有した光学計測装置のデータ演算方法であって、
計測部において、光電変換されて出力された信号から、基本データ及び予め定められた所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれ予め定められた所定量ずらして抽出した複数のデータの値を加算して得られた第2データ群を作成し、
測定対象物についての計測値を得る他、計測部でこれら2種のデータ群間の差の出力により測定対象物についての微分演算を実行する。
【0024】
請求項7に係る光学計測装置のデータ演算方法の作用を以下に説明する。
本発明においては、コヒーレントな照射光が光源から照射されると共に、走査素子がこの照射光を走査させて走査ビームとして測定対象物に送る。さらに、照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線とした両側に各1つ位置した2つの受光素子が、走査に伴い測定対象物により変調された照射光をそれぞれ受光して光電変換することは請求項1と同様である。
【0025】
そして、これら2つの受光素子でそれぞれ光電変換された信号から基本データ及び所定間隔抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれシェア量に相当する所定量ずらして抽出した複数のデータを加算して得られた第2データ群とを、計測部にて作成する。さらに、これら2種のデータ群間の差の出力から、測定対象物についての和信号と差信号の計測値に基づく、強度情報や位相情報だけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算をそれぞれ実行できる。
【0026】
請求項8のように、基本データ間の所定間隔で抽出されたデータの数をkとしたときに、
第1データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
第2データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n+m番目から1つずつ抽出位置をずらしてサンプル点k+(k+1)n+m番目までの(k+1)個のデータの値を加算したものとし、
nが0を含む自然数とされ、mが0を含まない自然数とすることで、請求項7の光学計測装置のデータ演算方法による強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算等を確実に実行できるようになる。
【0027】
請求項9のように、第1データ群が抽出するデータをサンプル点sxとした複数のデータの値を加算したものとし、第2データ群が抽出するデータをサンプル点s(x+m)とした複数のデータの値を加算したものとし、
sをデータ抽出間隔とし、xを各データ抽出間隔内の取得データ位置とし、mをシェア量
とすることで、請求項7の光学計測装置のデータ演算方法による強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算等を請求項8と同様に、確実に実行できるようになる。
【発明の効果】
【0028】
上記に示したように、本発明の光学計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法は、コヒーレントな照射光が光源から照射されると共に、走査素子がこの照射光を走査させて走査ビームとして測定対象物に送ることで、この照射光を変調する。
さらに、照射光の光軸方向に対して垂直な方向を境界線として両側に各1つ位置した受光素子でそれぞれ光電変換された信号自体の和の信号より強度情報を、また、信号の差の出力のヒルベルト変換した信号より位相情報を取得する。そして、第1データ群と第2データ群との間の差の出力を求める。このことにより、測定対象物の強度情報と位相情報を同時に取得しかつ両者を正確に分離するだけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算等を実行できるという優れた効果を奏する。なお、位相だけの微分演算は、従来の微分干渉とほぼ同義になる。ただし、偏光の影響を受けない点が異なる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る光学計測装置の実施例1とされる反射光学系の装置のブロック図である。
【
図2】
図1の反射光学系の受光素子上における光照射領域を表す説明図である。
【
図3】レーザー光の繰り返し走査を説明する斜視図である。
【
図4】実施例1の強度及び位相に関するMTF曲線を表すグラフを示す図であって、
図4(A)に通常の強度情報のMTF曲線を示し、
図4(B)に微分的な情報を加味する手法による強度情報のMTF曲線を示し、
図4(C)に通常の位相情報のMTF曲線を示し、
図4(D)に微分的な情報を加味する手法による位相情報のMTF曲線を示す。
【
図5】本発明に係る光学計測装置の実施例2とされる透過光学系の装置のブロック図である。
【
図6】実施例2の変形例とされる透過光学系の装置のブロック図である。
【
図7】本発明に係る光学計測装置の実施例3とされる装置の受光素子上における光照射領域を表す説明図である。
【
図8】本発明の光学計測装置に係る実施例4を示す光学系のブロック図である。
【
図9】実施例4の対物レンズの光軸、集光レンズの光軸に対する0次回折光と1次回折光の関係を示す。
【
図10】実施例4の強度及び位相に関するMTF曲線を表すグラフを示す図であって、
図10(A)に通常の強度情報のMTF曲線を示し、
図10(B)に微分的な情報を加味する手法による強度情報のMTF曲線を示し、
図10(C)に通常の位相情報のMTF曲線を示し、
図10(D)に微分的な情報を加味する手法による位相情報のMTF曲線を示す。
【
図11】本発明の光学計測装置に係る実施例5を示す光学系のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る光学計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法の実施例1から実施例4を各図面に基づき、詳細に説明する。
【実施例0031】
本発明に係る光学計測装置の実施例1を以下に
図1及び
図2を参照しつつ説明する。本実施例は、走査ビームを測定対象物で反射する反射光学系の装置とされている。
図1は、実施例に係る反射光学系の装置の構成を示すブロック図である。
【0032】
この
図1に示すように、コヒーレントな照射光であるレーザー光が照射(出射)される光源であるレーザー光源21と、このレーザー光から平行光を得られるように収差補正されたコリメーターレンズ22とが順に配置されている。従って、本実施例では、レーザー光源21から出射されたレーザー光が、コリメーターレンズ22により平行光とされる。
【0033】
また、このコリメーターレンズ22に対して、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系25、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査素子である2次元走査デバイス26、入力されたレーザー光を本来的には分離して出射するためのものであるビームスプリッター27が、さらに順に並んで配置されている。そして、
図1に示すように瞳伝達レンズ系25に向かう側のレーザー光の光路を光軸Lとしている。なお、この2次元走査デバイス26には、レーザー光を2次元走査する走査範囲や走査速度を調整する電圧等を変更するための制御手段であるコントローラ23が接続されている。
【0034】
さらに、ビームスプリッター27に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が測定対象物G1と対向して配置されている。つまり、これら部材も光軸Lに沿って並んでいることになる。以上より、レーザー光がこの光軸Lに沿って、瞳伝達レンズ系25、2次元走査デバイス26、ビームスプリッター27、瞳伝達レンズ系30、対物レンズ31を順に経て、測定対象物G1に照射される。この際、2次元走査デバイス26の動作により、このレーザー光が走査ビームとなって測定対象物G1上で2次元的に走査される。
【0035】
他方、光軸Lが通過する方向に対して直交する方向であってビームスプリッター27の隣の位置には、複数の光センサにより構成される受光素子群29が配置されている。そして、
図1に示す測定対象物G1にて反射した走査ビームは回折光となり、対物レンズ31、瞳伝達レンズ系30及びビームスプリッター27の順で戻って平行光となる。これに伴いこのビームスプリッター27で反射して、本来の光軸Lに対して直交する照射光の光軸Lに沿って受光素子群29に入射される。
【0036】
尚、この受光素子群29は、測定対象物G1のファーフィールド(遠視野)面に配置されているだけでなく、本実施例では2つの受光素子29A、29Bにより構成されている。但し、
図2に示すように、走査ビームLAのスポットの中心となる光軸Lに沿った方向に対して略垂直な面上であってこの光軸Lを通る境界線Sを挟んで、これら受光素子29A、29Bがそれぞれ配置されている。つまり、境界線Sの片側にずれて受光素子29Aが位置し、これと境界線Sの反対側にずれて受光素子29Bが位置していて、測定対象物G1で反射することで経由した走査ビームLAをこれら各受光素子29A、29Bが受光する。
【0037】
さらに、各受光素子29A、29Bは図示しない光電変換部を有した構造とされていて、各受光素子29A、29Bが走査ビームLAを受光してそれぞれ光電変換することになる。
この各受光素子29A、29B及び、2次元走査デバイス26の動作を操作する前述のコントローラ23は、信号比較器33にそれぞれ接続されている。これに伴って、信号比較器33が各受光素子29A、29Bからの信号及びコントローラ23からの信号により測定対象物G1の強度情報および位相情報を得ることになる。そして、この信号比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G1のプロフィル等の計測値を得るデータ処理部34に繋がっている。このため、本実施例では、これら信号比較器33及びデータ処理部34が計測部とされている。尚、このデータ処理部34は図示しないものの、アナログデータをデジタルデータに変換するためのADコンバータを内蔵している。
【0038】
また、レーザー光源21は半導体レーザーであり、コヒーレントなレーザー光を発生する。このレーザー光をコリメーターレンズ22により平行光束にし、瞳伝達レンズ系25に入射させる。このとき、レーザー光の入射ビーム径は、瞳伝達レンズ系25との兼ね合いより、絞り機構(図示せず)等を用いて適正化しておくことにする。
【0039】
ここで、コリメーターレンズ22と2次元走査デバイス26との間に配置されている瞳伝達レンズ系25は、コリメーターレンズ22の出射面位置を次の2次元走査デバイス26に共役に伝達するための光学系である。この瞳伝達レンズ系25を通過したレーザー光は、2次元走査デバイス26を経由して走査ビームとなってビームスプリッター27に送られるが、このビームスプリッター27からの走査ビームは、対物レンズ31の瞳位置に共役にする瞳伝達レンズ系30を介して対物レンズ31に入射する。
【0040】
以上より、本実施例では、変調されていない状態のレーザー光がレーザー光源21より照射されるものの、2次元走査デバイス26により走査ビームとされたレーザー光が測定対象物G1に入射されてパターンを有する強度変化と光学的距離変化により実質的に変調されると共に測定対象物G1で反射された結果として、測定対象物G1のフーリエ変換の変調信号を受光素子群29が最終的に検出する。
【0041】
また、
図3に示すように、2次元走査デバイス26は、水平方向Xに沿ってレーザー光を繰り返して光軸Lを移動しつつ測定対象物G1上で走査する。但し、この繰り返しに際して
図3における1、2、3、4・・・のように垂直方向Yに沿って順次走査位置を変更していくことで、2次元走査を可能としている。そして、この2次元走査デバイス26の動作を調整するコントローラ23は、本装置の視野範囲を変更可能としている。つまり、コントローラ23が2次元走査デバイス26の水平方向の走査範囲をコントロールする電圧を変更したり、垂直方向の走査範囲を変更したりすることで、自由に3次元画像を拡大縮小して視野範囲を調整可能となる。尚この際、コントローラ23は横分解能を一定に保ったまま、視野範囲だけを変更できる。
【0042】
従って、本実施例によれば、
図3に示すように測定対象物G1の表面に凸部Cが存在するような凹凸があったり、高濃度の箇所Dが存在するような濃淡があったりした場合でも、2次元走査デバイス26により走査されて照射されたレーザー光の回折量や反射量の変化により、これら凸部Cや高濃度の箇所Dを正確に再現可能となる。
【0043】
このようにレーザー光源21から変調されていないレーザー光が照射されるが、2次元走査デバイス26による走査により走査ビームとされたこのレーザー光は、測定対象物G1を経て回折を生じて実質的に回折光となる。この回折光のうち、0次回折光及び1次回折光自体は無変調光であり、これら回折光の強度信号は無変調信号となる。
この一方、0次回折光と1次回折光が重なった部分は、0次回折光に対して1次回折光が位相差を有した信号なので、変調された強度信号となる。なぜならば、強度ないし光学的距離のそれぞれは、ある空間周波数の集合体とみなせ、照射光であるビームの走査により0次回折光と1次回折光の重なった部分は、1次回折光に対応した空間周波数で変調される。
【0044】
この変調された光は受光素子29A、29Bによって、空間周波数に対応した周波数の電流に強度信号として変換され、この受光素子29A、29B内の光電変換部の電流電圧変換回路等により、この電流を電圧に変換する。したがって、無変調光である0次回折光及び1次回折光自体はDC信号となり、変調光である0次回折光と1次回折光の重なった部分はAC信号となる。
【0045】
次に、本実施の形態に係る光学計測装置のデータ処理について以下に具体的に説明する。ただし、反射光学系のみならず透過光学系においてもデータ処理については同様なので、以下に一括して説明する。
【0046】
各受光素子29A、29Bにてそれぞれ光電変換されて出力された各信号が信号比較器33においてコントローラ23からの信号と比較されて、測定対象物G1の信号情報を得ることになる。そして、この信号比較器33からこの信号情報が送り込まれたデータ処理部34においてヒルベルト変換される。そしてこの信号情報自体及びヒルベルト変換された信号それぞれをデータ処理部34にて、離散的な複数個のデータからなる計測データとする。
【0047】
例えば、データ処理部34の一部を構成しているADコンバータのサンプリング周波数を480MHzとし、走査ビームの走査速度をv=3.0m/sとした場合、240MHzの周波数は12.5nmの間隔に相当し、30MHzの周波数は100nmの間隔に相当する。
これに対して、例えば使用しているレーザー光源21のレーザー波長を488nmとし、対物レンズ31のNAを0.95とすると、カットオフの空間周波数は256nmとなるので、100nmの間隔でデータを取得すれば、十分ということになる。ただし、本発明の実施例4に示すような横分解能を向上させる光学的においては、さらに取得する周波数の上限を高くし、例えば60MHzまでにすればよい。
【0048】
本実施の形態の場合、測定対象物G1上における走査ビームの走査速度との関係から、ヒルベルト変換後において上記AC信号をAD変換した離散的なデータからなる計測データとして、30MHzの周波数で16個のデータを得ることにする。
【0049】
次に、受光素子29A、29Bで検出される信号がどのようになるかを以下に具体的に示す。反射光学系のみならず透過光学系においても、また、高分解能化された透過光学系においても、信号処理としては同様なので、ここで以下の実施例において一括して説明する。
【0050】
測定対象物G1の状態は、強度パターンと光学的距離パターンの積で一般的に表され、測定対象物G1によって照射光は回折される。
簡単のために、強度パターンの複素振幅E0はピッチdiの余弦波パターンとし、光学的距離パターンの位相Θはピッチdpの正弦波パターンとする。照射光の波長をλ、強度の変調度をm、媒体と測定対象物の屈折率差をδn、厚さをhとすると、以下の数式のように表すことができる。
【0051】
【0052】
これらのパターンに波長λの光を照射し、ファーフィールドであるフーリエ変換面に配置した受光素子29A、29Bで受光する。振幅部分の測定対象物G1のパターンにおける、強度パターンの複素振幅E0のフーリエ変換面では、光軸Lに対して片側でかつ1次回折光と-1次回折光が重ならない領域、すなわち、空間周波数が比較的高い領域を考えると、1次回折光側では以下の数式のようになる。
【0053】
【0054】
同様に、位相部分のフーリエ変換面では、光軸に対して片側でかつ1次回折光と-1次回折光が重ならない空間周波数が比較的高い部分を考える。1次回折光側では以下の数式で空間周波数が比較的高い部分が与えられる。
【0055】
【0056】
このため、1次回折光側では、光の振幅分布ERは以下の数式のようになる。
【0057】
【0058】
ここで、aは光学的距離の位相情報を表し、bは光学的距離の位相情報の1次ベッセル関数と0次ベッセル関数の比を表している。また、上記したようにmは強度の変調度を表している。したがって、1次回折光側で受光する光量の出力IRは以下の数式で求められる。
【0059】
【0060】
同様にして、光軸Lに対して片側でかつ1次回折光と-1次回折光が重ならない周波数が比較的高い部分を考える。-1次回折光側では、光の振幅分布ELは以下の数式のようになる。
【0061】
【0062】
したがって、-1次回折光側で受光する光量の出力ILは以下の数式のようになる。
【0063】
【0064】
なお、1次回折光側と-1次回折光側で多少の回路ゲインの違い等が生じている可能性を考慮して、係数値K1、K2を入れて検出される信号レベルA1、A2に違いを持たせ一般化した。
【0065】
上記のように強度部は同相であり、位相部は逆相となる。
詳細は割愛するが、光軸Lを境界として、対物レンズのNAと同じ領域の光を受光する受光素子を用いた場合でかつ、測定対象物G1上でのスポット径に対して、スポット径の大きさと同じ空間周波数に対して、上記数式となる。
【0066】
さて、走査ビームを速さvで走査した場合、空間周波数に相当した変調信号が走査ビームに乗るので、上記θとηはそれぞれ検出される周波数をfi,fpとすると、以下の数式で実効的に表すことができる。つまり、以下のように空間周波数の位相は、変調を受けることになる。
【0067】
【0068】
次に、各受光素子で1次回折光と-1次回折光からそれぞれ得られた信号を第1の信号とするが、この第1の信号の交流成分の変調信号を2回続けてヒルベルト変換するものとする。この際、1回目のヒルベルト変換した第2の信号をH1(IR)やH1(IL) で表し、2回目のヒルベルト変換した第3の信号をH2(IR)やH2(IL)で表すものとする。そして、1次回折光側の受光素子で得られた出力と-1次回折光側の受光素子で、得られた信号のそれぞれのヒルベルト変換は下記の式となる。
【0069】
【0070】
ここで、まず光量の現信号IR及び現信号ILである第1の信号と2回のヒルベルト変換された第3の信号H2(IR)やH2(IL)との和の出力か、現信号IR、ILのDC出力を取り出すと、以下のようになる。
【0071】
【0072】
つまり、信号比較器33が、前述の測定対象物G1で反射された走査ビームを光電変換した信号と走査ビームの基となるコントローラ23の走査を指示する信号とにより、測定対象物G1の強度情報と位相情報を得て、この信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこの強度情報と位相情報を送り込むことになる。
これに伴い、データ処理部34でこの強度情報と位相情報を平面に対する走査情報とともに記録していき、測定対象物G1の表面についての強度情報とプロフィル情報等の位相情報の計測値を簡単に導くことができる。この場合、上記した強度情報は、反射率を反映したような情報となる。
【0073】
次に、本実施例をレーザー走査微分干渉型顕微鏡として応用した光学計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法に関して以下に説明する。
上記と同様のデータ処理部34の一部を構成しているADコンバータのサンプリング周波数を走査ビームの走査速度との兼ね合いで30MHzの周波数としたとき、上記と異なってサンプリングの間隔を90nmとする。
【0074】
ただし、90nmの間隔でサンプリングした基本的なデータを基本データとすれば、各基本データのサンプリング間でオーバーサンプリングし、実際のサンプリング周波数を480MHzとし、90nm毎に16個のデータを取得する。この際、各データのサンプリングの間隔は5.625nmとなる。
【0075】
そして、サンプリング周波数を480MHzとして得たデータから16個ごとのデータを元にして、データ処理部34内で処理を行うが、その処理の手順を以下に説明する。
まず、サンプル点16n番目からサンプル点15+16n番目までの各サンプル点のデータである16個のデータの値を加算したものを第1データ群とする。また、サンプル点16n+m番目からサンプル点15+16n+m番目までの各サンプル点のデータである16個のデータの値を加算したものを第2データ群とする。この際、nは0を含む自然数とされ、mはこの手法のシェア量に相当するが0を含まない自然数とされる。
【0076】
そして、各データのサンプリングの間隔は5.625nmとなるのに伴い、各データ群内のもっとも離れた2つのデータ間では15個分のデータだけ離れていることになるので、84.375nmだけ離れていることになる。これに伴い、例えばシェア量を2とするm=2とした時に、第1データ群の複数のデータと第2データ群の複数のデータにおける各サンプル点間では、それぞれ相互に二つずつずれた個所のデータとなり、各データ群においては、これらのデータを加え合わせたものとなる。なお、m=1の時にはそれぞれ一つずつずれた個所のデータとなり、m=3の時にはそれぞれ三つずつずれた個所のデータとなる。
【0077】
ただし、上記説明は一例であり、一般的には、所定間隔で抽出されたデータの数をkとし、第1データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n番目からサンプル点k+(k+1)n番目までとし、第2データ群が抽出するデータをサンプル点(k+1)n+m番目からサンプル点k+(k+1)n+m番目までとできる。そして、上記説明においては、90nm毎に16個のデータを取得するのに伴い、kを15とし、k+1を16とした。
【0078】
以上に伴い、2つの受光素子29A、29Bでそれぞれ光電変換された信号から求まる測定対象物G1についての和信号と差信号の計測値により、測定対象物G1の強度情報と位相情報が得られるが、これら2つの受光素子29A、29Bでそれぞれ光電変換された信号から所定間隔で抽出した複数のデータの値を加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれシェア量に相当する所定量ずらして抽出した複数のデータの値を加算して得られた第2データ群とを、データ処理部34にて作成する。
【0079】
さらに、これら2種のデータ群間の差の出力から、測定対象物G1についての和信号と差信号の計測値に基づく強度情報や位相情報だけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算をそれぞれ実行できる。なお、位相だけの微分演算は、従来の微分干渉とほぼ同義になる。ただし、偏光の影響を受けない点が異なる。
【0080】
他方、光学的にはシェア量を適当な大きさにしないとコントラストが十分に生じないが、本実施例の方法では、データを電気信号に変換しているので、極めて接近させた5.625nm(シェア量m=1の時)というわずかな変化であってもS/N比さえ取れれば、コントラストを検出できる。また、例えば本実施例の光学計測装置に対する設定数値の入力によりmはいくらでも簡易に調整できるので、光学系によるシェア調整を行う必要性もない。
【0081】
以下に、強度パターン及び位相パターンの具体的な値の求め方を説明する。
強度パターンの場合、測定対象物G1自体のプロフィルをf(x)=1+mcos(kx)とすると、2つの受光素子29A、29Bの和の出力のAC信号とDC信号の比で得られる情報は、mcos(kx)となる。
また、位相パターンの場合、測定対象物G1自体のプロフィルを下記(11)式とすると、2つの受光素子29A、29Bの差の出力のAC信号のヒルベルト変換とDC信号の比で得られる情報は位相でθ(x)とすると、下記(12)式となる。これに伴い、隣接したデータ間の差の出力は、強度では下記(13)式となり、位相では下記(14)式となる。
【0082】
【0083】
このように元の各パターンに対して、k倍された強度パターンと位相パターンを得ることができる。つまり、元の測定対象物G1におけるパターンの微分となっている。したがって、これまで行ってきた2つの受光素子29A、29Bの和信号と差信号の出力を用いて導いたフーリエ変換面での強度と位相の演算の他に、上記のようにオーバーサンプリングして微分的な演算を施すことで、空間周波数に比例した強度情報と位相情報を個々に導くことが出来る。さらに、偏光光学系により微分偏光顕微鏡と同様の機能を有するようにもなる。
【0084】
すなわち、従来の微分干渉顕微鏡は、微分情報を得るのに偏光のリターデーションを用いているので、サンプルである測定対象物に複屈折性や旋光性を有する物質等が含まれている場合、偏光面を回転するのに伴い、複屈折により像が変わって見え非常に扱いづらく、正しい観察結果が得られにくい欠点を有していた。
これに対して本実施例の光学計測装置による方法によれば、偏光を用いずに電気信号を元にして微分的な情報が得られるので、複屈折性や旋光性を測定対象物が有していても、正しい微分干渉的な情報を生成することが出来る。
【0085】
以上より、従来の微分干渉顕微鏡の欠点を克服し、更に従来から用いていた強度や位相を得る手法に加えて、微分干渉顕微鏡の機能を付加した本実施例に係る光学計測装置の手法を加味することにより、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算を実行することができ、従来の装置や方法では得られない新たな情報が得られる。
【0086】
本実施例によれば、強度及び位相に関するMTF曲線Mが、
図4に示す各グラフのようになる。なお、これらのグラフにおいて、縦軸の変調度をyとし、横軸の空間周波数をfとし、カットオフ周波数をfcとする。
この内の単なる強度情報のMTF曲線Mを表す
図4(A)のグラフにおいては、下記(15)式に示すように空間周波数fが0における変調度1からMTF曲線Mが直線的に低下し、カットオフ周波数fcで変調度は0となる。
【0087】
【0088】
これに対して、本実施例の微分的な情報を加味する手法によれば、強度情報に関して、上記(16)式に基づき
図4(B)に示すグラフのように、空間周波数fが0における変調度の値が0となり、空間周波数fが高くなるにつれて曲線的に変調度が増加し、カットオフ周波数fcの1/2空間周波数fにおいて変調度が最大値の1となる。この後、曲線的に変調度は低下してカットオフ周波数fcで変調度は0となる。
【0089】
他方、単なる位相情報のMTF曲線Mを表す
図4(C)のグラフにおいては、下記(17)式と(18)式に示すように空間周波数fが0における変調度0からMTF曲線Mが直線的に増加し、カットオフ周波数fcの1/2の周波数で変調度は最大値の1となる。この後、変調度は直線的に低下してカットオフ周波数fcで変調度は0となる。この場合、曲線は上に凸の2次曲線となる。
【0090】
【0091】
これに対して、本実施例の微分的な情報を加味する手法によれば、位相情報に関して、上記(19)式と(20)式に基づき
図4(D)に示すグラフのように、空間周波数fが0における変調度の値が0となり、空間周波数fが高くなるにつれて曲線的に変調度が増加する。この区間では、下に凸の2次曲線となる。そして、カットオフ周波数fcの1/2の空間周波数fにおいて最大値の1となる。この後、曲線的に変調度はゆっくり低下してカットオフ周波数fcで変調度は0となる。この区間では、下に凸の2次曲線となる。
【0092】
すなわち、強度部及び位相部のいずれにおいても、本実施例の微分的な情報を加味する手法を用いれば、カットオフ周波数fcの1/2において最大の変調度となる情報が得られるだけでなく、高周波領域が強調されることになる。
【0093】
次に、本実施例を応用した光学計測装置及び光学計測装置のデータ演算方法の変形例に関して以下に説明する。
本変形例においても上記と同様に、サンプリング周波数を480MHzとして得たデータから16個ごとのデータを元にして、以下の処理をデータ処理部34内で行う。
【0094】
まず初めに、各サンプル点sx番目のデータを第1データ群とし、サンプル点s(x+m) 番目のデータを第2データ群とする。この際、sをデータ抽出間隔とし、xを各データ抽出間隔内の取得データ位置とし、mをシェア量とする。具体的には、上記の90nm毎に例えば合計10個のデータを取得する場合、sを16とし、xを0~15のいずれかの取得データ位置とし、mを例えば1とする。
【0095】
これにより、第1データ群では、90nm毎に10個だけサンプルデータを取得し、これら取得したサンプルデータの値を加算する。また、第2データ群では、第1データ群のサンプルデータの位置の次の位置のサンプルデータを取得する。つまり上記と同じく90nm毎に10個だけサンプルデータを取得し、これら取得したサンプルデータの値を加算する。ただし、シェア量mを例えば2とすれば、第2データ群において、第1データ群のサンプルデータの位置に対して二つだけずれた位置のサンプルデータを取得することになる。
【0096】
以上に伴い、実施例1と同様に、2つの受光素子29A、29Bでそれぞれ光電変換された信号から所定間隔の複数のデータを加算して得られた第1データ群と、この第1データ群の複数のデータに対してそれぞれシェア量に相当する所定量ずらした複数のデータを加算して得られた第2データ群とを、データ処理部34にて作成する。さらに、これら2種のデータ群間の差の出力から、測定対象物G1についての和信号と差信号の計測値に基づく強度情報や位相情報が得られるだけでなく、強度だけの微分演算、位相だけの微分演算、偏光に対しての微分演算をそれぞれ実行できる。なお、位相だけの微分演算は、従来の微分干渉とほぼ同義になる。ただし、偏光の影響を受けない点が異なる。
また、本実施例では、透過光学系であることからビームスプリッター27が不要になり、これに合わせて測定対象物G2を介した対物レンズ31と反対側の位置に、受光素子群29が配置されている。但し、実施例1と同様にこの受光素子群29は、測定対象物G2のファーフィールド面に配置されているだけでなく、実施例1の2つの受光素子29A、29Bと同様な構造の受光素子29E、29Fにより構成されている。
さらに、信号比較器33が、前述の測定対象物G2で透過された走査ビームを光電変換した信号と走査ビームの基となるコントローラ23の走査を指示する信号により、測定対象物G2の強度情報と位相情報を得て、この信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこの強度情報と位相情報を送り込むことになる。これに伴い、データ処理部34でこの強度情報と位相情報を平面に対する走査情報とともに記録していき、測定対象物G2の表面や内部についての強度情報とプロフィル情報等の位相情報の計測値を簡単に導くことができる。この場合、上記した強度情報は、反射率を反映したような情報となる。
従って、実施例1と同様に、受光素子群29を構成する受光素子29E、29Fでそれぞれ光電変換した信号及び、コントローラ23からの2次元走査デバイス26による走査を指示する信号により、信号比較器33が測定対象物G2の強度情報と位相情報を得ることになる。
そして、実施例1と同様に、元信号とヒルベルト変換を行うことにより、最終的にデータを処理してデータ処理部34が測定対象物G2のプロフィル等の光学的距離と透過度や透過率等の計測値を実質的に得ることができる。この結果として、本実施例によっても、透過光による強度情報と光学的距離情報を完全に分離することが可能となる。
特に、本実施例のように透過光学系の装置では、無染色、非侵襲で生きたままの細胞の状態変化を強度情報と光学的距離情報に分離してリアルタイムに観察できるので、iPS、ES細胞等の細胞が正常か否かの検査やがん細胞の有無検査等に大きな役割を果たすことができる。これは、電子顕微鏡のような高倍率であっても生体を殺した状態でないと観測できない測定器とは大きく異なる特徴である。
さらに、本実施例の光学計測装置による方法によれば、偏光を用いずに電気信号を元にして微分的な情報が得られるので、実施例1と同様に複屈折性や旋光性を測定対象物が有していても、正しい微分干渉的な情報を生成することが出来る。