(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118415
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/00 20060101AFI20220805BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20220805BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20220805BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220805BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20220805BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220805BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220805BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220805BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20220805BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
B60C9/00 L
B60C9/20 E
B60C9/22 C
B60C1/00 C
D07B1/06 A
C08L9/00
C08L7/00
C08K5/09
C08K3/06
C08L61/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014920
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋介
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3B153AA11
3B153CC52
3B153FF16
3B153GG05
3B153GG40
3D131AA15
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3D131BA02
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3D131BA20
3D131BB03
3D131BC02
3D131BC31
3D131DA54
3D131DA56
4J002AC011
4J002AC021
4J002CC032
4J002DA047
4J002EG046
4J002EN048
4J002EU188
4J002FD147
4J002FD148
4J002FD150
4J002FD206
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ベルトカバー層を配置することによりタイヤの耐久性を改善すると共に、ベルト層を構成するスチールコードのコード構造を工夫することにより低燃費性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1においてカーカス層4のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆されたスチールコードからなるベルト層7と、ベルト層7のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆された有機繊維コードからなるベルトカバー層8とを備える空気入りタイヤであって、スチールコード10は、直径が0.32mm±0.01mmである2本の無撚りの芯素線の外周側に、直径が0.32mm±0.01mmである2本の側素線を螺旋状に撚り合わせた構造を有し、ベルトカバー層8はベルト層7の全幅を覆うように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部においてカーカス層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆されたスチールコードからなるベルト層と、該ベルト層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆された有機繊維コードからなるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤであって、
前記スチールコードは、直径が0.32mm±0.01mmである2本の無撚りの芯素線の外周側に、直径が0.32mm±0.01mmである2本の側素線を螺旋状に撚り合わせた構造を有し、
前記ベルトカバー層が前記ベルト層の全幅を覆うように配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層を構成するベルト用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sb)と前記ベルトカバー層を構成するベルトカバー用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sc)との比(Sb/Sc)が2.0~3.0であり、前記ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)と前記ベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力(Mc)との比(Mb/Mc)が1.5~2.5であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層を構成するベルト用ゴム組成物が、天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを0.1~1.5質量部、硫黄を4.5~7.0質量部配合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、フェノール系樹脂を0.5~3.0質量部、硬化剤を0.5~5.0質量部配合してなり、前記ベルト用ゴム組成物の20℃における動的貯蔵弾性率E'が13~18MPaであることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
空気圧350kPa以上の条件で使用されるライトトラック用タイヤであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ベルトカバー層を配置することによりタイヤの耐久性を改善すると共に、ベルト層を構成するスチールコードのコード構造を工夫することにより低燃費性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、耐久性の向上を目的として、ベルト層のタイヤ径方向外側にベルトカバー層を配置することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ベルトカバー層が、例えばベルト層の端部のみを覆う2層のエッジカバー層を構成する場合、タイヤの低燃費性を改善することができる一方でタイヤの耐久性を十分に改善することは難しい。ベルトカバー層の配置によっては、タイヤの耐久性と低燃費性を同時に改善することができないという問題がある。
【0003】
また、空気入りタイヤにおいて、ベルト層を構成するスチールコードのコード構造(撚り構造)によっては、タイヤの耐久性と低燃費性を同時に改善することができないという問題がある。更に、スチールコードを構成する素線の太さによっても、タイヤの耐久性又は低燃費性が悪化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ベルトカバー層を配置することによりタイヤの耐久性を改善すると共に、ベルト層を構成するスチールコードのコード構造を工夫することにより低燃費性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤは、トレッド部においてカーカス層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆されたスチールコードからなるベルト層と、該ベルト層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆された有機繊維コードからなるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤであって、前記スチールコードは、直径が0.32mm±0.01mmである2本の無撚りの芯素線の外周側に、直径が0.32mm±0.01mmである2本の側素線を螺旋状に撚り合わせた構造を有し、前記ベルトカバー層が前記ベルト層の全幅を覆うように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、トレッド部にベルト層とベルトカバー層とを備える空気入りタイヤにおいて、ベルト層の全幅を覆うようにベルトカバー層が配置されているので、トレッド部における補強効果を高めることができる。これにより、タイヤの耐久性を改善することができる。更に、ベルト層を構成するスチールコードは、直径が0.32mm±0.01mmである2本の無撚りの芯素線の外周側に直径が0.32mm±0.01mmである2本の側素線を螺旋状に撚り合わせた構造を有しているので、コード構造(撚り構造)に起因してタイヤの低燃費性を改善することができると共に、素線径に起因してタイヤの耐久性と低燃費性を同時に改善することができる。その結果、本発明では、タイヤの耐久性と低燃費性をバランス良く改善することができる。
【0008】
本発明の空気入りタイヤにおいて、ベルト層を構成するベルト用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sb)とベルトカバー層を構成するベルトカバー用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sc)との比(Sb/Sc)は2.0~3.0であり、ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)とベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力(Mc)との比(Mb/Mc)は1.5~2.5であることが好ましい。これにより、タイヤの耐久性と低燃費性をバランス良く改善することができる。
【0009】
ベルト層を構成するベルト用ゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを0.1~1.5質量部、硫黄を4.5~7.0質量部配合してなることが好ましい。これにより、ベルト層においてスチールコードとゴム組成物との接着性を高めることができため、タイヤの耐久性の改善に寄与する。
【0010】
ベルト用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、フェノール系樹脂を0.5~3.0質量部、硬化剤を0.5~5.0質量部配合してなり、ベルト用ゴム組成物の20℃における動的貯蔵弾性率E'は13~18MPaであることが好ましい。これにより、ベルト用ゴム組成物の硬さ、引張り破断伸び及びスチールコードに対する接着性を向上させ、タイヤの耐久性を改善することができる。
【0011】
空気圧350kPa以上の条件で使用されるライトトラック用タイヤであることが好ましい。このようなタイヤに本発明を適用した場合、タイヤの耐久性と低燃費性の改善効果が顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤのベルト層を構成するスチールコードのコード構造を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0014】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0015】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ外周側には、少なくとも2層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。
【0016】
ベルト層7のタイヤ外周側には、タイヤの耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層(
図1では2層)のベルトカバー層8が配置されている。
図1において、タイヤ径方向内側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の全幅を覆うフルカバー層を構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。
図1の実施形態では、1層のフルカバー層及び1層のエッジカバー層を配置した例を示したが、これに限定されるものではなく、フルカバー層のみを配置してもよい。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。ベルトカバー層8の補強コードはゴム組成物で被覆されている。
【0017】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7の補強コードとして、
図2に示すスチールコード10が使用されている。このスチールコード10は、
図2に示すように、無撚りで引き揃えられた2本の芯素線(コアフィラメント)11と、該芯素線11の外周側に螺旋状に撚り合わされた2本の側素線(シースフィラメント)12とを有している。即ち、スチールコード10は、2+2構造を有している。また、芯素線11の直径dc(素線径)及び側素線12の直径ds(素線径)は、それぞれ0.32mm±0.01mmである。スチールコード10は、後述するゴム組成物で被覆されている。
【0018】
上述した空気入りタイヤでは、ベルト層7の全幅を覆うようにベルトカバー層8が配置されているので、トレッド部1における補強効果を高めることができる。これにより、タイヤの耐久性を改善することができる。更に、ベルト層7を構成するスチールコード10は、直径dcが0.32mm±0.01mmである2本の無撚りの芯素線11の外周側に直径dsが0.32mm±0.01mmである2本の側素線12を螺旋状に撚り合わせた構造を有しているので、コード構造(撚り構造)に起因してタイヤの低燃費性を改善することができると共に、素線径に起因してタイヤの耐久性と低燃費性を同時に改善することができる。その結果、本発明では、タイヤの耐久性と低燃費性をバランス良く改善することができる。
【0019】
ここで、ベルトカバー層がエッジカバー層のみで構成される場合、タイヤの低燃費性を改善することができる一方でタイヤの耐久性を十分に改善することができない。そのため、本発明ではベルトカバー層8がフルカバー層を含むことが必要である。また、ベルト層を構成するスチールコードが2+2構造を有する場合であっても、スチールコードの素線径が本発明で規定する範囲から外れて過度に小さいと、タイヤの耐久性を十分に改善することができず、逆に、スチールコードの素線径が本発明で規定する範囲から外れて過度に大きいと、タイヤの低燃費性を十分に改善することができない。そのため、本発明では、ベルト層7を構成するスチールコード10が2+2構造であって、かつその素線径が特定の範囲に設定されることにより、所望の効果を得ることができる。
【0020】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7を構成するベルト用ゴム組成物におけるジエン系ゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sb)と、ベルトカバー層8を構成するベルトカバー用ゴム組成物におけるジエン系ゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sc)との比(Sb/Sc)は、好ましくは2.0~3.0、より好ましくは2.2~2.7であるとよい。硫黄配合量の比(Sb/Sc)が2.0未満であると、ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)が不足し、タイヤの耐久性が不足する虞がある。一方、硫黄配合量の比(Sb/Sc)が3.0を超えると、タイヤの耐久性が低下する虞がある。
【0021】
その際、ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)とベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力(Mc)との比(Mb/Mc)は1.5~2.5であり、好ましくは1.6~2.45であり、より好ましくは1.7~2.4であるとよい。100%引張応力の比(Mb/Mc)が1.5未満であると、ゴム組成物のワイヤー引抜き時の引抜力が低下し、タイヤの耐久性が不足する。一方、100%引張応力の比(Mb/Mc)が2.5を超えると、ゴム組成物の老化特性が劣り、タイヤの耐久性が不足する。ベルト用ゴム組成物及びベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力の比(Mb/Mc)は、ベルト用ゴム組成物及びベルトカバー用ゴム組成物の組成及び温度、時間などの加硫条件により増減することができる。本明細書において、100%引張応力は、JIS K 6251に準拠する引張り試験において100%変形させたときの引張応力とする。
【0022】
上述したように、ベルト層7を構成するベルト用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sb)とベルトカバー層8を構成するベルトカバー用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sc)との比(Sb/Sc)が2.0~3.0であり、ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)とベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力(Mc)との比(Mb/Mc)が1.5~2.5であることで、タイヤの耐久性と低燃費性をバランス良く改善することができる。
【0023】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7を構成するベルト用ゴム組成物は後述する構成を有するとよい。このベルト用ゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴムにネオデカン酸ホウ酸コバルトと硫黄を配合してなるとよい。
【0024】
ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴムは、天然ゴムを必ず含んでいる。天然ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90~100質量%であるとよい。天然ゴムの含有量が80質量%未満であると、スチールコード10に対する接着性(例えばクロスプライ剥離力)が低下し、タイヤの耐久性を十分に改善することが難しい。
【0025】
ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴムは、天然ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することができる。他のジエン系ゴムとしては、例えばイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等を例示することができる。なかでもイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムがよい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。他のジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは0~10質量%である。
【0026】
ベルト用ゴム組成物は、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを配合することにより、スチールコード10に対する接着性を高くすることができる。ネオデカン酸ホウ酸コバルトは下記の一般式(1)で表される化合物であり、その配合量は、ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは1.0質量部を超え1.5質量部以下であるとよい。ネオデカン酸ホウ酸コバルトの配合量が0.1質量部未満であると、スチールコード10に対する初期接着性や耐久接着性を十分に高くすることができず、スチールコード10とベルト用ゴム組成物との接着性が低下する。一方、ネオデカン酸ホウ酸コバルトの配合量が1.5質量部を超えると、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。また、ネオデカン酸ホウ酸コバルトと他の脂肪酸コバルト塩をブレンドして使用することができる。他の脂肪酸コバルト塩として、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルトを例示することができる。
【化1】
【0027】
ネオデカン酸ホウ酸コバルトは、コバルト含量が好ましくは18~26質量%、より好ましくは20~24質量%であるとよい。ネオデカン酸ホウ酸コバルトとして、例えばローディア社製マノボンドC22.5及びマノボンド680C、Jhepherd社製CoMend A及びCoMend B、DIC CORPORATION社製DICNATE NBC-2等を挙げることができる。
【0028】
ベルト用ゴム組成物には、そのジエン系ゴムに硫黄及び加硫促進剤を配合するとよい。硫黄の配合量は、ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは4.5~7.0質量部、より好ましくは5.0~6.5質量部であるとよい。硫黄の配合量が4.5質量部未満であると、タイヤの耐久性が不足する。また、硫黄の配合量が7.0質量部を超えると、却ってタイヤの耐久性が低下する。本明細書において、硫黄の配合量は、加硫のために配合する硫黄及び/又は加硫剤中に含まれる硫黄の正味の配合量とする。
【0029】
上述したように、ベルト層7を構成するベルト用ゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを0.1~1.5質量部、硫黄を4.5~7.0質量部配合してなることで、ベルト層7においてスチールコード10とゴム組成物との接着性を高めることができ、タイヤの耐久性の改善に寄与する。
【0030】
本発明では、加硫促進剤は特に限定されるものではないが、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えばN,N-ジシクロヘキシル-1,3-ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(DZ)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CZ)、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(OBS)、N-(tert-ブチル)ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(NS)を挙げることができる。これらスルフェンアミド系加硫促進剤は単独で又は複数を組合わせて配合することができる。特に、N,N-ジシクロヘキシル-1,3-ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(DZ)及び/又はN-(tert-ブチル)ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(NS)を配合することが好ましい。
【0031】
加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.2~1.2質量部であるとよい。加硫促進剤の配合量が0.1質量部未満であると、タイヤの耐久性が低下する虞がある。一方、加硫促進剤の配合量が1.5質量部を超えると、劣化時の接着性が低下する虞がある。
【0032】
また、上記空気入りタイヤにおいて、ベルト用ゴム組成物の動歪2%、20℃における動的貯蔵弾性率E'は、好ましくは13~18MPaであり、より好ましくは13.5~17.5MPaであり、最も好ましくは14~17MPaであるとよい。動的貯蔵弾性率E'が13MPa未満であると、スチールコード10に対する接着性能が劣り、タイヤの耐久性が不足する。一方、動的貯蔵弾性率E'が18MPaを超えると、ワイヤー引抜き時のゴム付が低下し、タイヤの耐久性が不足する。動的貯蔵弾性率E'は、ゴム組成物の組成及び温度、時間などの加硫条件により増減することができる。本明細書において、動的貯蔵弾性率E'はJIS K 6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件により測定するものとする。
【0033】
その際、ベルト用ゴム組成物は、フェノール系樹脂及びその硬化剤を配合することができる。フェノール系樹脂及び硬化剤を配合することにより、ゴム組成物の硬さ、引張り破断伸び及びスチールコード10に対する接着性能を向上し、タイヤの耐久性を優れたものにすることができる。
【0034】
フェノール系樹脂としては、例えばクレゾール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルフェノール樹脂、変性フェノール樹脂を挙げることができる。変性フェノール樹脂としてはカシュー変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アニリン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂等が例示される。
【0035】
クレゾール樹脂は、クレゾールとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、特にm-クレゾールを用いた化合物が好適である。クレゾール樹脂としては例えば田岡化学社製スミカノール610等を例示することができる。
【0036】
レゾルシン樹脂は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、例えばSumitomo Chemical Advanced Technologies Inc.社製Penacolite B-18-S、同B-19-S、同B-20-S、同B-21-S等を例示することができる。またレゾルシン樹脂として、変性したレゾルシン樹脂を使用してもよく、例えばアルキルフェノール等により変性したレゾルシン樹脂が挙げられ、レゾルシン・アルキルフェノール・ホルマリン共重合体等を例示することができる。
【0037】
カシュー変性フェノール樹脂は、カシュー油を用いて変性したフェノール樹脂であり、例えば住友ベークライト社製スミライトレジンPR-YR-170、同PR-150、DIC CORPORATION社製フェノライトA4-1419等を例示することができる。フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られた未変性の樹脂であり、例えば田岡化学社製スミカノール620等を例示することができる。
【0038】
フェノール系樹脂の配合量は、ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5~3.0質量部、より好ましくは0.7~2.0質量部にするとよい。フェノール系樹脂の配合量が0.5質量部未満であると、動的貯蔵弾性率E'が低下すると共に、スチールコード10に対する接着性が低下し、タイヤの耐久性が不足する虞がある。一方、フェノール系樹脂の配合量が3.0質量部を超えると、タイヤの耐久性が却って低下する虞がある。
【0039】
上述したフェノール系樹脂を硬化させる硬化剤として、例えばヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ-ホルムアルデヒドのポリマー、メラミンのN-メチロール誘導体等が挙げられる。これらのメチレン供与体は、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0040】
ヘキサメチレンテトラミンとしては、例えば三新化学工業社製サンセラーHT-PO等を例示することができる。ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)としては、例えばCYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC等を例示することができる。ペンタメトキシメチルメラミン(PMMM)としては、例えば田岡化学社製スミカノール507AP等を例示することができる。
【0041】
硬化剤の配合量は、ベルト用ゴム組成物を構成するジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5~5.0質量部、より好ましくは0.7~4.0質量部にするとよい。硬化剤の配合量が0.5質量部未満であると、動的貯蔵弾性率E'が低下し、かつスチールコード10に対する接着性が低下し、タイヤの耐久性が不足する虞がある。また、硬化剤の配合量が5.0質量部を超えると、タイヤの耐久性が却って低下する虞がある。
【0042】
上述したように、ベルト用ゴム組成物が、ジエン系ゴム100質量部に対して、フェノール系樹脂を0.5~3.0質量部、硬化剤を0.5~5.0質量部配合してなり、ベルト用ゴム組成物の20℃における動的貯蔵弾性率E'が13~18MPaであることで、ベルト用ゴム組成物の硬さ、引張り破断伸び及びスチールコード10に対する接着性を向上させ、タイヤの耐久性を改善することができる。
【0043】
本発明では、無機充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等を任意に配合することができる。特に、カーボンブラック、シリカが好ましい。カーボンブラックを配合することにより動的貯蔵弾性率E'を大きくすることができる。シリカを配合することにより60℃のtanδを小さくすることができる。
【0044】
ゴム組成物には、加硫促進助剤、老化防止剤、素練促進剤、各種オイル、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0045】
本発明に係る空気入りタイヤは、特に限定されるものではないが、例えば空気圧350kPa以上の条件で使用されるライトトラック用タイヤであるとよい。このようなタイヤに本発明を適用した場合、タイヤの耐久性と低燃費性の改善効果が顕著である。
【実施例0046】
タイヤサイズ195/80R15で、トレッド部においてカーカス層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆されたスチールコードからなるベルト層と、該ベルト層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆された有機繊維コードからなるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤにおいて、スチールコードのコード構造、芯素線の直径、側素線の直径、フルカバー層の層数、エッジカバー層の層数、比Sb/Sc、比Mb/Mcを表1のように設定して従来例1、比較例1~3及び実施例1~4のタイヤを製作した。
【0047】
表1におけるスチールコードのコード構造について、「2/5」の場合、2本の芯素線と5本の側素線を同時に撚り合わせた構造を示し、「2+2」の場合、2本の無撚りの芯素線の外周側に2本の側素線を螺旋状に撚り合わせた構造を示す。
【0048】
また、表1において、ベルト層を構成するベルト用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sb)とベルトカバー層を構成するベルトカバー用ゴム組成物におけるゴム100質量部に対する硫黄配合量(Sc)との比を「比Sb/Sc」の欄に示し、ベルト用ゴム組成物の100%引張応力(Mb)とベルトカバー用ゴム組成物の100%引張応力(Mc)との比を「比Mb/Mc」の欄に示した。100%引張応力は、JIS K 6251に準拠して、引張り試験で100%変形させたときの引張応力である。
【0049】
各試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤの耐久性及び低燃費性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0050】
耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ15×5.5Jのホイールに装着し、酸素濃度60%の気体を充填し空気圧450kPaにして、温度70℃の環境中に14日間、静置した。その後、空気圧350kPaに調整し、ドラム径1707mmで、JIS D 4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、JATMA規定荷重の88%から6時間ごとに15%ずつ荷重を増加させながら、速度60km/hの条件で走行試験を行った。そして、故障が発生した際の走行距離を測定した。評価結果は、従来例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、耐久性が優れていることを意味する。
【0051】
低燃費性:
各試験タイヤをリムサイズ15×5.5JJのホイールに装着し、室内ドラム試験機(ドラム径:1707.6mm)を用いて、ISO28580に準拠して、空気圧450kPa、荷重8.13kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例1の値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が低く、低燃費性が優れていることを意味する。
【0052】
【0053】
この表1から判るように、実施例1~4のタイヤは、従来例1に比して、タイヤの耐久性及び低燃費性がバランス良く改善されていた。
【0054】
一方、比較例1においては、スチールコードのコード構造を変更したことによりタイヤの低燃費性を改善することができたが、フルカバー層を有していないため、タイヤの耐久性が悪化した。比較例2においては、素線径(芯素線及び側素線の直径)を本発明で規定する範囲より小さく設定したことによりタイヤの耐久性が悪化した。比較例3においては、素線径(芯素線及び側素線の直径)を本発明で規定する範囲より大きく設定したことによりタイヤの低燃費性が悪化した。
【0055】
次に、タイヤサイズ195/80R15で、トレッド部においてカーカス層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆されたスチールコードからなるベルト層と、該ベルト層のタイヤ径方向外側にゴム組成物で被覆された有機繊維コードからなるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤにおいて、ベルト用ゴム組成物の配合、スチールコードのコード構造、芯素線の直径、側素線の直径、ベルト用ゴム組成物のE'(20℃)が表2のように構成された従来例2、比較例4,5及び実施例5~8のタイヤを製作した。
【0056】
従来例2において、ベルトカバー層は従来例1と同じ構造を有しており、比較例4,5及び実施例5~8において、それぞれのベルトカバー層は実施例1と同じ構造を有している。
【0057】
また、表2において、動的貯蔵弾性率E'は、ベルト用ゴム組成物をJIS K 6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、動歪±2%、周波数20Hzの条件で、温度20℃において測定したものである。その測定値を表2の「ベルト用ゴム組成物のE'(20℃)」の欄に示した。
【0058】
各試験タイヤについて、上記と同様の試験方法により、タイヤの耐久性及び低燃費性を評価し、その結果を表2に併せて示した。
【0059】
耐久性に関する評価結果は、従来例2を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、耐久性が優れていることを意味する。
【0060】
低燃費性に関する評価結果は、従来例2を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が低く、低燃費性が優れていることを意味する。
【0061】
【0062】
この表2から判るように、実施例5~8のタイヤは、従来例2に比して、タイヤの耐久性及び低燃費性がバランス良く改善されていた。
【0063】
一方、比較例4においては、素線径(芯素線及び側素線の直径)を本発明で規定する範囲より小さく設定したことによりタイヤの耐久性が悪化した。比較例5においては、素線径(芯素線及び側素線の直径)を本発明で規定する範囲より大きく設定したことによりタイヤの低燃費性が悪化した。