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特開2022-118422コンクリートポール主筋の破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置
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  • 特開-コンクリートポール主筋の破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118422
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】コンクリートポール主筋の破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20220805BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
G01N27/16 Z
G01N27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014931
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】大道 靖史
(72)【発明者】
【氏名】松野 直也
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA10
2G060AA14
2G060AE01
2G060AE28
2G060AF07
2G060AG03
2G060EA03
2G060EA04
2G060EA08
2G060HC15
2G060KA13
(57)【要約】
【課題】コンクリートポール全域にわたって主筋の破断箇所を検出可能な破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置を提供する。
【解決手段】破断箇所検出方法は、長手方向に延びる複数の緊張筋2と、緊張筋2の周りに巻き付けられた状態で緊張筋2に接続された螺旋筋3と、を備えるコンクリートポール1において緊張筋2の破断箇所を検出する。破断箇所検出方法は、一対の緊張筋2の端部に接続された抵抗計4で測定された一対の緊張筋2の間の抵抗値を取得する抵抗値取得工程と、抵抗値取得工程で取得された抵抗値に基づいて、一対の緊張筋2における破断箇所を検出する破断箇所検出工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる複数の主筋と、前記主筋の周りに巻き付けられた状態で前記主筋に接続された螺旋筋と、を備えるコンクリートポールにおいて前記主筋の破断箇所を検出する破断箇所検出方法であって、
一対の主筋の端部に接続された抵抗計で測定された前記一対の主筋の間の抵抗値を取得する抵抗値取得工程と、
前記抵抗値取得工程で取得された抵抗値に基づいて、前記一対の主筋における破断箇所を検出する破断箇所検出工程と、
を含む破断箇所検出方法。
【請求項2】
前記破断箇所検出工程では、前記一対の主筋の間の抵抗値と前記コンクリートポールの末口からの距離との関係を示すデータテーブルを参照して、前記抵抗計で測定された抵抗値から前記一対の主筋における破断箇所の前記コンクリートポールの末口からの距離を検出する、
請求項1に記載の破断箇所検出方法。
【請求項3】
前記抵抗値取得工程では、前記コンクリートポールの元口から末口まで延びる全ての主筋が含まれるパターンで選択された各一対の主筋の端部の間の抵抗値を取得する、
請求項1又は2に記載の破断箇所検出方法。
【請求項4】
前記抵抗値取得工程では、前記コンクリートポールの内部で互いに隣り合う位置に配置された各一対の主筋の間の抵抗値を取得する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の破断箇所検出方法。
【請求項5】
長手方向に延びる複数の主筋と、前記主筋の周りに巻き付けられた状態で前記主筋に接続された螺旋筋と、を備えるコンクリートポールにおいて一対の主筋の間の抵抗値を測定する方法であって、
前記コンクリートポールの末口側において前記一対の主筋の端部を露出させる工程と、
前記コンクリートポールから露出された前記一対の主筋の端部をそれぞれ研磨する工程と、
研磨された前記一対の主筋の端部に抵抗計の各端子をそれぞれ接続する工程と、
前記抵抗計を作動させることで、前記一対の主筋の端部の間の抵抗値を測定する工程と、
を含む抵抗値測定方法。
【請求項6】
長手方向に延びる複数の主筋と、前記主筋の周りに巻き付けられた状態で前記主筋に接続された螺旋筋と、を備えるコンクリートポールにおいて前記主筋の破断箇所を検出する破断箇所検出装置であって、
一対の主筋の端部に接続された抵抗計で測定された前記一対の主筋の間の抵抗値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された抵抗値に基づいて、前記一対の主筋における破断箇所を検出する検出部と、
を備える破断箇所検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートポール主筋の破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線、通信線を架設するためにコンクリートポールが広く用いられている。腐食環境下でコンクリートポールの内部に塩化物イオンが侵入すると、内部の鉄筋に腐食が発生し、最終的に鉄筋が破断することがある。特に、鉄筋のうち曲げ荷重を負担する主筋が破断した場合、コンクリートポールの折損を招くおそれがある。そこで、コンクリートポールにおける主筋の破断箇所を検出する方法の開発が進められている。例えば、特許文献1、2には、外部からコンクリートポール内部の主筋を磁化させ、コンクリートポールから漏れる磁束を測定することで、主筋の破断箇所を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-177747号公報
【特許文献2】登録実用新案第3163378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の検出方法は、いずれもコンクリートポールを破壊することなく、内部にある主筋の破断箇所を検出でき、有用である。とはいえ、特許文献1、2の検出方法では、外部からコンクリートポール内部の主筋を磁化させることができない部分、例えば、コンクリートポールの地際部分や、架線金具又は補強材が取り付けられた部分における主筋破断の検出が困難である。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、コンクリートポール全域にわたって主筋の破断箇所を検出可能な破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る破断箇所検出方法は、
長手方向に延びる複数の主筋と、前記主筋の周りに巻き付けられた状態で前記主筋に接続された螺旋筋と、を備えるコンクリートポールにおいて前記主筋の破断箇所を検出する破断箇所検出方法であって、
一対の主筋の端部に接続された抵抗計で測定された前記一対の主筋の間の抵抗値を取得する抵抗値取得工程と、
前記抵抗値取得工程で取得された抵抗値に基づいて、前記一対の主筋における破断箇所を検出する破断箇所検出工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリートポール全域にわたって主筋の破断箇所を検出可能な破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、本発明の実施の形態1に係るコンクリートポールの構成を示す正面図であり、(b)は、(a)のA-A線で切断した断面図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るコンクリートポールの鉄筋の構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1に係るコンクリートポールの鉄筋を等価の電気回路で表現した図である。
図4図3の電気回路において鉄筋が破断した場合の直流電流の流れを示す図である。
図5】本発明の実施の形態1に係る抵抗値測定方法の流れを示すフローチャートである。
図6】(a)は、本発明の実施の形態1に係る破断箇所検出方法の流れを示すフローチャートであり、(b)は、本発明の実施の形態1に係る破断箇所判定表を示す図である。
図7】(a)は、本発明の実施の形態2に係る破断箇所検出装置の構成を示すブロック図であり、(b)は、本発明の実施の形態2に係る抵抗値記憶部のデータテーブルの一例を示す図であり、(c)は、本発明の実施の形態2に係る破断箇所記憶部のデータテーブルの一例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態2に係る破断箇所検出処理の流れを示すフローチャートである。
図9】(a)、(b)は、いずれも実施例1における試験体の構成を示す模式図である。
図10】実施例2における一対の主筋の間の抵抗値と破断箇所の末口からの距離との関係を示すグラフである。
図11】(a)は、実施例3におけるコンクリートポールの様子を撮影した図であり、(b)は、実施例3におけるコンクリートポールのひび割れの様子を撮影した図である。
図12】(a)は、実施例3におけるコンクリートポールの末口側で露出された鉄筋の端部の様子を撮影した図であり、(b)は、実施例3における露出された鉄筋の端部に抵抗計の端子を接触させた様子を撮影した図である。
図13】(a)、(b)は、それぞれ実施例3におけるコンクリートポールの螺旋筋、緊張筋を切断した様子を示す図である。
図14】実施例3における一対の主筋の間の抵抗値の正常値との差分と破断箇所の末口からの距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
(実施の形態1)
図1図6を参照して、実施の形態1に係る破断箇所検出方法、抵抗値測定方法、破断箇所検出装置を説明する。破断箇所検出方法は、地面に設置された状態のコンクリートポールの末口側で露出された一対の主筋の端部の間の抵抗値を測定し、この抵抗値に基づいて当該一対の主筋における破断箇所を検出する方法である。コンクリートポールの鉄筋は、互いに電気的に接続されているため、一対の主筋の端部に抵抗計を接続することで、一対の主筋の端部の間の抵抗値を測定できる。以下、コンクリートポールの鉄筋の構成を説明する。
【0011】
図1(a)に示すように、コンクリートポール1は、例えば、配電線、通信線、電車の架線、交通信号、照明、アンテナを架設するために地面GLに設置されている。図1(b)に示すように、コンクリートポール1の断面は円環状であり、その内部には主筋が長手方向に配置されている。コンクリートポール1は、主筋として緊張筋2を備える。緊張筋2は、コンクリートポール1の周方向に並べて配置され、末口から元口まで延び、コンクリート本体に圧縮荷重を加える鉄筋である。
【0012】
図2に示すように、コンクリートポール1は、配力筋として螺旋筋3をさらに備える。螺旋筋3は、各緊張筋2の周りに螺旋状に巻き付いており、緊張筋2との交点で溶接により接合されている。緊張筋2及び螺旋筋3は、いずれも鋼材で形成され、互いに溶接されているため、機械的かつ電気的に接続され、一種の電気回路として扱うことができる。以下、コンクリートポール1の緊張筋2の破断箇所を検出する場合を例に説明する。
【0013】
(破断箇所検出方法の原理)
図3及び図4の具体例を参照して、実施の形態1に係る破断箇所検出方法の原理を説明する。図3及び図4では、8本の緊張筋2及び螺旋筋3からなる鉄筋構造の一例を等価の電気回路で表現し、各緊張筋2にA~Hの識別記号を付している。また、緊張筋2との交点で緊張筋2に接続された螺旋筋3の一部を実線で、緊張筋2との交点で緊張筋2に接続されず、緊張筋G及び緊張筋Hに接続された螺旋筋3の一部を点線で表現している。
【0014】
鉄筋では、任意の2つの緊張筋2が螺旋筋3を介して多数箇所で電気的に接続されているため、任意のパターンで選択された一対の緊張筋2の端部の間を抵抗計4の各端子で接続すると、一対の緊張筋2、螺旋筋3及び抵抗計4からなる閉回路が形成される。一例を説明すると、図3に示すように、緊張筋Aの末口側の端部に抵抗計4の+端子を接続し、緊張筋Bの末口側の端部に抵抗計4の-端子を接続すると、緊張筋Aの末口側の端部から螺旋筋3を経由して緊張筋Bの末口側の端部に向けて矢印のように直流電流が流れる閉回路が形成される。
【0015】
破断箇所検出方法では、上記の配筋構成の特徴を利用して、複数の緊張筋2から一定のパターンで一対の緊張筋2を選択し、選択された一対の緊張筋2の端部に抵抗計4の各端子を接続し、当該一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定することを繰り返す。そして、測定された一対の緊張筋2の間の抵抗値に基づいて、当該一対の緊張筋2のいずれかの破断の有無、及び当該一対の緊張筋2の少なくとも一方が破断している場合における破断箇所を検出する。
【0016】
一対の緊張筋2のパターンは、コンクリートポール1における全ての緊張筋2の破断を検出できるように、各緊張筋2が少なくとも一回はパターンに含まれるように選択する。また、コンクリートポール1の配筋構成を考慮し、抵抗値の測定条件、例えば、抵抗計4を含む閉回路に含まれる緊張筋2の長さや本数が同一となるように一対の緊張筋2のパターンを選択する。以下、緊張筋A及び緊張筋Bの組み合わせを「緊張筋A-B」のように簡略化して表現することがある。
【0017】
一対の緊張筋2のパターンとしては、上記の条件が満たされていれば任意であり、例えば、隣接する一対の緊張筋2をパターンとして選択してもよく、対辺に位置する一対の緊張筋2をパターンとして選択してもよい。また、互いに隣接する緊張筋2を選択せずに一つ飛ばしで一対の緊張筋2を選択してもよい。これは、図3の場合であれば、緊張筋A-C、緊張筋B-D、…のようなパターンである。
【0018】
一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定するには、一方の末口側の端部と他方の末口側の端部とに抵抗計4の各端子を接続すればよい。抵抗値Rは、一方の緊張筋2の末口側の端部と他方の緊張筋2の末口側の端部との間で測定される電圧値Vと、両者の間に印加される直流電流の電流値Iとに基づき、以下の式(1)により算出される。直流電流の電流値Iは、ユーザにより選択されるレンジにより異なるが、例えば、約30mA~約1A程度に設定すればよい。
R=V/I …(1)
【0019】
抵抗計4は、4端子法を用いた抵抗計であり、測定対象に直流電流を供給する一対の電流源端子と、測定対象の電圧を検出する一対の電圧検出端子と、を備える。抵抗計4の各端子は、緊張筋2の端部を研磨する面積が最小限で済むように、ピン状であることが好ましい。
【0020】
抵抗計4で測定された抵抗値に基づいて、一対の緊張筋2の少なくとも一方における破断箇所の有無を検出する。具体的には、一定のパターンで選択された一対の緊張筋2がいずれも破断していない場合、どのような緊張筋2の組み合わせであっても同等の抵抗値が得られる。例えば、図4の場合であれば、緊張筋C-D、緊張筋E-F、緊張筋G-Hの抵抗値は、ほぼ同一である。これは、各緊張筋2が、それぞれ等間隔で配置され、同一の材料及び寸法で形成されていると共に、螺旋筋3が一定のピッチで全ての緊張筋2に巻き付けられ、その断面形状も同一であるためである。
【0021】
なお、一対の緊張筋2を最短距離で接続する螺旋筋3が破断している場合でも、一対の緊張筋2がいずれも破断していなければ、螺旋筋3が破断していない場合とほぼ等しい抵抗値が得られる。これは、一対の緊張筋2の間で流れる電流は、一対の緊張筋2を最短距離で接続する螺旋筋3のみならず、逆周りで大きく迂回する螺旋筋3を通って流れるためである。
【0022】
他方、図4に示すように、一対の緊張筋2のいずれかが破断している場合、一対の緊張筋2のいずれも破断していない場合と比べて抵抗値が増加する。これは、矢印で示すように緊張筋2の破断箇所から元口側に電流が流れないため、一対の緊張筋2のいずれも破断していない場合と比べて電流が流れるルートが限定されるためである。また、一対の緊張筋2が両方とも末口からの距離が同一の箇所で破断している場合には、一対の緊張筋2のいずれか一方が破断している場合と電流のルートがほぼ同じであるため、ほぼ等しい抵抗値が得られる。
【0023】
各緊張筋2に対して螺旋筋3がほぼ等間隔で溶接されているため、一対の緊張筋2の間の抵抗値及び末口から破断箇所までの距離には相関関係が存在する。具体的には、緊張筋2の破断箇所が元口側にあるほど抵抗値は小さくなり、緊張筋2の破断箇所が末口側にあるほど抵抗値は大きくなる。これは、緊張筋2の破断箇所が元口側にあるほど、螺旋筋3の接続本数が多くなり、結果として電気回路の並列数が多くなるためである。この相関関係を利用して、一対の緊張筋2の間の抵抗値に基づいて、当該一対の緊張筋の少なくとも一方における破断箇所を検出できる。
【0024】
実験結果によると、一対の緊張筋2の間の抵抗値の実測値と正常値との差分yと、当該一対の緊張筋2における破断箇所の末口からの距離xとの関係は、以下の式(2)で表すことができる。正常値は、いずれの鉄筋も破断していない健全なコンクリートポール1における一対の緊張筋2の間の抵抗値であり、距離xに依存する変数である。式(2)において、yは、定数であり、a、bは、いずれも係数である。
y=ax+bx+y …(2)
【0025】
なお、一対の緊張筋2が両方とも破断しているが、末口からの距離が互いに異なる箇所で破断している場合には、末口からの距離が近い破断箇所の影響を強く受けるため、末口からの距離が近い破断箇所に対応する抵抗値が得られる。したがって、上記の方法では、2つの破断箇所のうち末口からの距離が近い破断箇所が検出される。
【0026】
上記の方法により作業者が緊張筋2の破断箇所を把握することで、緊張筋2の破断箇所に対するコンクリートポール1の補修作業、例えば、補修板の取り付け作業を行うことができる。
以上が、破断箇所検出方法の原理である。
【0027】
(抵抗値測定方法)
次に、図5のフローチャートを参照して、実施の形態1に係る一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定する方法の流れを説明する。各工程は、安全対策を施した作業者がコンクリートポール1によじ登るか、高所作業車に搭乗するなどしてコンクリートポール1の末口の高さに移動し、ホットスティックやその他の工具を用いて実施するものとする。
【0028】
まず、コンクリートポール1の内部にある緊張筋2の端部を露出させるために、コンクリートポール1の末口側の端部を除去する(ステップS11)。コンクリートポール1の末口側の端部の除去には、例えば、コンクリートカッター、ハンマーを用いる。抵抗計4の各端子が各緊張筋2の端部に点接触していれば、一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定できる。このため、コンクリートポール1の末口側のはつりは、緊張筋2の端部がわずかに露出する程度でよい。
【0029】
なお、コンクリートポール1の末口側の端部は、コンクリートポール1の周表面に比べて簡単に除去することができ、除去したとしてもコンクリートポール1の強度に影響を及ぼさない。これは、コンクリートポール1が遠心成形法により円筒形状に成形された後に、末口側及び元口側を塞いでいるためである。
【0030】
次に、露出された緊張筋2の表面から腐食部分や酸化被膜を除去し、金属素地を露出させるために、露出された緊張筋2の端部を研磨する(ステップS12)。緊張筋2の表面の研磨には、研磨用の工具、例えば、ハンドグラインダー、ディスクグラインダー、サンドペーパを用いればよい。
【0031】
次に、研磨された一対の緊張筋2の端部のそれぞれに抵抗計4の各端子を接続し、抵抗計4の測定キーを押すことで一対の緊張筋2の端部の間の抵抗値を測定する(ステップS13)。一対の緊張筋2のパターンは、図4の場合であれば、例えば、緊張筋A-B、緊張筋C-D、緊張筋E-F、緊張筋G-Hとすればよい。抵抗計4の各端子は、緊張筋2の研磨された部位に接触していればよく、端子が接触する位置は、緊張筋2の端部の外周面でも先端面でもよい。ステップ13の工程は、コンクリートポール1の各緊張筋2が少なくとも一回含まれるようなパターンで繰り返し実施する。
【0032】
次に、ステップS13で測定した抵抗値を記録する(ステップS14)。例えば、抵抗計4の表示部に表示された抵抗値を読み取り、コンピュータに入力するか記録用紙に記録してもよく、抵抗計4の記憶機能を用いてもよい。また、抵抗計4に接続されたデータロガーに抵抗値を記憶させてもよい。
【0033】
次に、ステップS11で除去されたコンクリートポール1の末口側の端部を補修する(ステップS15)。例えば、コンクリートポール1の末口側の端部に市販の樹脂製のキャップを取り付ければよい。
以上が、抵抗値測定方法の流れである
【0034】
(破断箇所検出方法)
次に、図6(a)のフローチャートを参照して、実施の形態1に係る破断箇所検出方法の流れを説明する。破断箇所検出方法は、抵抗値測定方法により一対の緊張筋2の間の抵抗値が測定された後に作業者が実行する。以下、図4に示すように、8本の緊張筋のうち緊張筋Aに破断箇所が存在している場合を例に説明する。
【0035】
まず、抵抗計4により測定された一対の緊張筋2の間の抵抗値を取得する(ステップS21)。図4の場合であれば、例えば、緊張筋A-B、緊張筋C-D、緊張筋E-F、緊張筋G-Hの抵抗値を取得する。
【0036】
次に、測定対象であるコンクリートポール1の種別に応じて破断箇所判定表を選択する(ステップS22)。図6(b)に示すように、破断箇所判定表は、全長及びJIS(Japanese Industrial Standard)規格の設計強度で規定されるコンクリートポール1の種別毎に、一対の緊張筋2の間の抵抗値と当該一対の緊張筋2における破断箇所の末口からの距離との関係を示すデータテーブルの一例である。破断箇所判定表は、過去の試験データに基づいて予め作成されている。なお、破断箇所の末口からの距離がゼロであるとは、鉄筋に破断箇所が存在していないことを意味している。
【0037】
次に、ステップS22で選択した破断箇所判定表を参照して、一対の緊張筋2のパターン毎に取得された抵抗値に基づいて当該一対の緊張筋のいずれかの破断の有無、及び当該一対の緊張筋2の少なくとも一方に破断がある場合には当該一対の緊張筋2の破断箇所を検出する(ステップS23)。図4の場合であれば、緊張筋C-D、E-F、G-Hの抵抗値はいずれも1.5mΩ未満であり、図6(b)の破断箇所判定表を参照すると、破断していないと判定できる。他方、緊張筋A-Bの抵抗値は1.5mΩ以上であり、図6(b)の破断箇所判定表を参照すると、緊張筋A-Bの少なくとも一方が破断していると判定できる。
以上が、破断箇所検出方法の流れである。
【0038】
以上説明したように、実施の形態1に係る破断箇所検出方法は、一対の緊張筋2の端部に接続された抵抗計4で測定された一対の緊張筋2の間の抵抗値を取得する抵抗値取得工程と、抵抗値取得工程で取得された抵抗値に基づいて、一対の緊張筋2における破断箇所を検出する破断箇所検出工程と、を含む。このため、コンクリートポール1の地際部分や、架線金具又は補強材が取り付けられた部分でも緊張筋2の破断箇所を検出できる。
【0039】
(実施の形態2)
図7及び図8を参照して、実施の形態2に係る破断箇所検出方法、抵抗値測定方法及び破断箇所検出装置を説明する。実施の形態2に係る破断箇所検出方法では、実施の形態1に係る破断箇所検出方法と異なり、抵抗計4で計測された抵抗値をコンピュータに取り込み、コンピュータでプログラムを実行することにより鉄筋の破断箇所を検出する。以下、両者の異なる部分を中心に説明する。
【0040】
破断箇所検出装置100は、抵抗計4で計測された抵抗値を取り込み、一対の緊張筋2の間の抵抗値に基づいて当該一対の緊張筋2の破断箇所を検出する装置である。破断箇所検出装置100は、例えば、汎用コンピュータ、スマートフォン、タブレット端末であり、有線又は無線の通信回線を介して抵抗計4に接続されている。
【0041】
抵抗計4は、測定した抵抗値を記憶するメモリと、破断箇所検出装置100との間で各種データを送受信可能な送受信機と、を備える。送受信機は、例えば、抵抗計4で取得した抵抗値に関するデータを破断箇所検出装置100に送信する。抵抗計4と破断箇所検出装置100との間では、例えば、互いにケーブルを介して接続することで各種データを送受信してもよく、Bluetooth(登録商標)のような近距離無線通信技術を用いて各種データを送受信してもよい。
【0042】
図7(a)に示すように、破断箇所検出装置100は、操作部110と、表示部120と、通信部130と、記憶部140と、制御部150と、を備える。破断箇所検出装置100の各部は、内部バス(図示せず)を介して相互に接続されている。
【0043】
操作部110は、作業員の指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部150に供給する。操作部110は、例えば、コンクリートポール1の識別番号や種別を入力する操作を受け付ける。
【0044】
表示部120は、制御部150から供給される画像データに基づいて、作業員に向けて各種の画像を表示する。表示部120は、例えば、コンクリートポール1毎の一対の緊張筋2の間の抵抗値、緊張筋2の破断箇所を表示する。
【0045】
操作部110と表示部120とは、タッチパネルによって構成されてもよい。タッチパネルは、ユーザの操作を受け付ける操作画面を表示すると共に、操作画面においてユーザが接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部150に供給する。
【0046】
通信部130は、例えば、インターネットのような通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部130は、例えば、抵抗計4から送信された抵抗値に関するデータを受信する。
【0047】
記憶部140は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリを備える。記憶部140は、制御部150で実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部140は、各種の情報を一時的に記憶し、制御部150が処理を実行するためのワークメモリとしても機能する。さらに、記憶部140は、抵抗値記憶部141と、破断箇所検出用データベース142と、破断箇所記憶部143と、を備える。
【0048】
図7(b)に示すように、抵抗値記憶部141は、一対の緊張筋2の間で測定された抵抗値をコンクリートポール1(CP)の識別情報及び種別情報と対応付けて記憶する。コンクリートポール1の識別情報は、各コンクリートポール1を識別するための固有の情報である。コンクリートポール1の種別情報は、コンクリートポール1の全長やJIS規格で規定された設計荷重で表されるコンクリートポール1の種別に関する情報である。
【0049】
破断箇所検出用データベース142は、図6(b)に示す破断箇所判定表と同様に、コンクリートポール1の種別毎に作成され、一対の緊張筋2の間の抵抗値と当該一対の緊張筋2における破断箇所の末口からの距離とを対応付けて記憶する。破断箇所検出用データベース142は、過去の試験データに基づいて予め作成されている。破断箇所検出用データベース142は、例えば、式(2)のように表現される回帰式を用いて作成すればよい。
【0050】
図7(c)に示すように、破断箇所記憶部143は、破断箇所の末口からの距離をコンクリートポール1の識別情報及び種別情報と対応付けて記憶する。破断箇所記憶部143には、緊張筋2が破断している場合の破断箇所の末口からの距離が記憶される。
【0051】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを備え、破断箇所検出装置100の各部の制御を行う。制御部150は、記憶部140に記憶されているプログラムを実行することにより、図8の破断箇所検出処理を実行する。制御部150は、機能的には、取得部151と、検出部152と、出力部153と、を備える。
【0052】
取得部151は、抵抗計4で測定された抵抗値を取得し、ユーザが入力したコンクリートポール1の識別情報及び種別情報に対応付けて抵抗値記憶部141に記憶させる。
【0053】
検出部152は、ユーザが入力したコンクリートポール1の種別情報に対応する破断箇所検出用データベース142を読み出し、読み出された破断箇所検出用データベース142を参照して一対の緊張筋2の間の抵抗値から当該一対の緊張筋2における破断箇所の末口からの距離を読み取ることで、当該一対の緊張筋2における破断の有無、及び当該一対の緊張筋2において破断が存在している場合の緊張筋2の破断箇所を検出する。
【0054】
出力部153は、検出部152で検出された緊張筋2の破断箇所に関する情報を出力する。出力部153は、例えば、緊張筋2の破断箇所に関する情報を表示部120に表示させると共に、破断箇所記憶部143に記憶させる。
【0055】
(破断箇所検出処理)
図8のフローチャートを参照して、破断箇所検出装置100が実行する破断箇所検出処理の流れを説明する。破断箇所検出処理は、抵抗計4により測定された各一対の緊張筋2の間の抵抗値に基づいて、緊張筋2の破断箇所を検出する処理である。破断箇所検出処理は、例えば、高所作業を終了した作業者が地上で抵抗計4を破断箇所検出装置100に接続し、破断箇所検出装置100の操作部110を操作して抵抗計4からの抵抗値の読み込みを指示した時点で開始される。
【0056】
まず、取得部151が抵抗計4から抵抗値を取得すると(ステップS31)、取得部151は、ユーザにコンクリートポール1の識別情報及び種別情報の入力を促す。例えば、表示部120にコンクリートポール1の識別情報及び種別情報の入力を促す旨のメッセージを表示させる。ユーザがコンクリートポール1の識別情報及び種別情報を入力すると、操作部110がその操作を受け付ける。
【0057】
取得部151がコンクリートポール1の識別情報及び種別情報を取得すると(ステップS32)、ステップS31で取得した抵抗値をステップS32で取得したコンクリートポール1の識別情報及び種別情報に対応付けて抵抗値記憶部141に記憶させる(ステップS33)。
【0058】
次に、検出部152は、破断箇所検出用データベース142を参照して破断箇所の末口からの距離を読み取ることで、鉄筋の破断箇所を検出する(ステップS34)。
【0059】
次に、出力部153は、ステップS35で算出された破断箇所に関するデータを出力する(ステップS35)。出力部153は、例えば、ステップS35で算出された破断箇所の末口からの距離を表示部120に表示させると共に、コンクリートポール1の識別情報及び種別情報と共に破断箇所記憶部143に記憶させる。
【0060】
次に、検出部152は、取得部151により取得された全ての抵抗値がステップS34の処理で閾値と比較されたかどうかを判定する(ステップS36)。全ての抵抗値が閾値と比較されていると判定された場合(ステップS36;Yes)、処理を終了する。他方、全ての抵抗値が閾値と比較されていないと判定された場合(ステップS36;No)、処理をステップS34に戻す。
以上が、破断箇所検出処理の流れである。
【0061】
以上説明したように、実施の形態2に係る破断箇所検出装置100は、一対の緊張筋2の端部に接続された抵抗計4で測定された一対の緊張筋2の間の抵抗値を取得する取得部151と、取得された抵抗値に基づいて、一対の緊張筋2における破断箇所を検出する検出部152と、を備える。このため、抵抗計4から一対の緊張筋2の間の抵抗値を取り込むことで、当該一対の緊張筋2における破断箇所を簡便かつ迅速に検出できる。
【0062】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0063】
(変形例)
上記実施の形態では、コンクリートポール1の緊張筋2の破断を検出していたが、本発明はこれに限られない。破断を検出する主筋は、コンクリートポール1の末口まで延び、螺旋筋3により固定されている主筋であれば、いかなる主筋であってもよい。例えば、破断箇所の検出対象となる主筋は、プレストレストコンクリートポールの補助筋であってもよい。
【0064】
上記実施の形態では、主筋として緊張筋2を用いたコンクリートポール1における緊張筋2の破断を検出していたが、本発明はこれに限られない。例えば、主筋として緊張筋2及び補助筋を用いたコンクリートポール1における緊張筋2の破断を検出してもよい。このとき、抵抗値の測定条件を一致させるために、一対の緊張筋2のパターンとしては、一対の緊張筋2の間に補助筋が配置されないパターンか、一対の緊張筋2の間に補助筋が配置されるパターンのいずれかに統一する必要がある。抵抗値を精度良く測定する観点から、一対の緊張筋2の間に補助筋が配置されないパターンの方が好ましい。
【0065】
上記実施の形態では、緊張筋2及び螺旋筋3のいずれも鋼材で形成されていたが、本発明はこれに限られない。緊張筋2及び螺旋筋3は、導電性材料であれば、いかなる材料であってもよい。また、上記変形例の補助筋は、非導電性材料、例えば、炭素繊維複合材であってもよい。
【0066】
上記実施の形態では、4端子法を用いた抵抗計4を用いて一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定していたが、本発明はこれに限られない。抵抗値の大きさによっては、2端子法を用いた抵抗計4で抵抗値を測定してもよい。
【0067】
上記実施の形態では、抵抗計4の端子がピン状であったが、本発明はこれに限られない。例えば、抵抗計4の端子がワニクチ状(クリップ状)であってもよい。ただし、ワニクチ状の端子は、緊張筋2の端部を挟み込むように緊張筋2の端部に接続されるため、ワニクチ状の端子が接触する緊張筋2の端部の対向する部分を予め研磨する必要がある。
【0068】
上記実施の形態では、コンクリートポール1の末口側の端部を研磨していたが、本発明はこれに限られない。コンクリートポール1が地面から抜き取られている場合、元口側の端部を研削して緊張筋2の元口側の端部を露出させてもよい。
【0069】
上記実施の形態1では、作業者がコンクリートポール1の種別毎に作成された破断箇所判定表を参照することで、測定された抵抗値から緊張筋2の破断箇所を特定していたが、本発明はこれに限られない。作業者は、コンクリートポール1の種別毎に作成された演算式を参照して、測定された抵抗値から緊張筋2の破断箇所を特定してもよい。
【0070】
上記実施の形態2では、コンクリートポール1の種別毎に作成された破断箇所検出用データベース142を参照して、測定された抵抗値から緊張筋2の破断箇所を検出していたが、本発明はこれに限られない。例えば、一対の緊張筋2の間の抵抗値(実測値)と破断箇所の末口からの距離との関係を示す演算式を作成し、破断箇所検出用データベース142に記憶させてもよい。具体的には、一対の緊張筋2の間の抵抗値(正常値)と破断箇所の末口からの距離との関係を示す回帰式を作成し、この回帰式を用いて式(2)の回帰式を変形することで、一対の緊張筋2の間の抵抗値(実測値)と破断箇所の末口からの距離との関係を示す演算式を作成してもよい。
【0071】
上記実施の形態では、一対の緊張筋2のうち、どの緊張筋2が破断しているかを特定していないが、本発明はこれに限られない。例えば、第1のパターンで一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定し、破断箇所が存在する一対の緊張筋2の組み合わせを特定した場合に、第1のパターンとは異なる第2のパターンで一対の緊張筋2の間の抵抗値を測定し、第1のパターン及び第2のパターンで測定された抵抗値を比較することで、破断が存在する緊張筋2を特定してもよい。
【0072】
図4の場合を例に説明すると、第1のパターンによる抵抗値の測定により緊張筋A-Bで破断が発生していると特定できた後、第2のパターンに基づいて緊張筋H-Aの抵抗値、緊張筋B-Cの抵抗値を測定し、緊張筋H-A及び緊張筋B-Cのどちらで破断が発生しているかを特定すればよい。図4の場合では、緊張筋H-Aにおいて破断が発生していると特定できるため、結果として緊張筋Aにおいて破断が発生していると特定できる。
【0073】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
実施例1では、図9(a)に示すように、主筋2本及び螺旋筋1本でコンクリートポール(CP)内の配筋を模擬した試験体を作成し、試験体が電気回路として機能するかどうかを検証した。主筋は、長さ1m、直径7mmであり、螺旋筋は、長さ0.15m、直径4mmである。主筋と螺旋筋とは溶接で接合されている。抵抗計を接続して主筋の間の抵抗値を測定したところ、抵抗値(実測値)は11.10mΩであった。他方、直列回路の各抵抗値から合成抵抗を計算すると、抵抗値(理論値)は10.92mΩであった。抵抗値の実測値と計算値とがわずかに乖離したのは、接触抵抗等の影響と考えられる。以上から、図9(a)の試験体が直列回路として成立していることを確認できた。
【0076】
次に、図9(b)に示すように、主筋2本、螺旋筋2本で並列回路の試験体を作成し、抵抗値を測定した。その他の条件は図9(a)の試験体の場合と同一である。抵抗計を接続して主筋の間の抵抗値を測定したところ、抵抗値(実測値)は6.019mΩであった。他方、直並列回路の各抵抗値から合成抵抗を計算すると、抵抗値(理論値)は、5.88mΩであった。抵抗値の実測値と計算値とがわずかに乖離したのは、接触抵抗等の影響と考えられる。以上から、図9(b)に示すように螺旋筋を1本増やすことで直並列回路が形成されることを確認できた。
【0077】
(実施例2)
実施例2では、表計算ソフトを用いてCPにおいて主筋が破断した場合の抵抗値の理論解析を実施した。論理解析により算出した抵抗値は、末口側の端部における一対の主筋の間の抵抗値である。理論解析の結果を図10のグラフに示す。A~Cは、それぞれ末口から2m、3m、4mの位置で主筋が破断した場合の抵抗値を示す曲線である。実施例1の実験結果から予想できるとおり、主筋が破断していない場合には、細い矢印で示すように、末口から元口に向かうにつれて徐々に抵抗値が小さくなることが確認できた。他方、主筋が破断している場合には、破断箇所が元口側にあるほど、太い矢印で示すように全体的な抵抗値が上昇する傾向があることも確認できた。
【0078】
(実施例3)
実施例3では、図11(a)に示すように、コンクリート内部の緊張筋の一つが破断したために補強板が取り付けられたCPを抜き取り、本発明の破断箇所検出方法の有効性に関する検証を行った。試験対象のCPは、全長12m、設計強度3.5kNのCPであり、その内部には8本の緊張筋が配置されている。図11(b)に示すように、CPから補強板を外してひび割れの内部を目視で確認したところ、緊張筋1本が破断しており、その破断箇所は、末口から距離が9.6mの位置に存在していた。
【0079】
まず、図12(a)に示すように、CPのコンクリートの末口側をはつり、8本の緊張筋A~Hをそれぞれ露出させ、露出した緊張筋の表面を研磨して腐食部分をきれいに取り除いた。破断しているのは緊張筋Cであった。それから、図12(b)に示すように、研磨部分に抵抗計の端子を接触させ、緊張筋A-B、緊張筋C-D、緊張筋E-F、緊張筋G-Hの抵抗値をそれぞれ測定した。
【0080】
一対の緊張筋の間で測定される抵抗値は1mΩ~4mΩ程度と小さな値であるため、2端子法の抵抗計では測定を行うことが難しく、4端子法の低抵抗測定器であるHIOKI RM3544(日置電機株式会社製)を用いた。4端子法の低抵抗測定器は、電圧計の内部抵抗が大きいため、抵抗計内部にあるリード線の抵抗の影響を受けず、微弱な抵抗値でも測定できる。
【0081】
比較のため、緊張筋A-Bの抵抗値を測定する前に、CPの末口からの距離が3.6mの位置においてコンクリートの一部を取り除き、隣り合う2本の緊張筋A、Bの一部及び緊張筋A、Bのそれぞれに溶接された螺旋筋の一部を露出させた。その後、図13(a)に示すように、外部に露出された螺旋筋を緊張筋A、Bの間の位置で切断し、緊張筋A-Bの抵抗値を測定した。次に、図13(b)に示すように、緊張筋Aを切断し、緊張筋A-Bの抵抗値を測定した。最後に、緊張筋Bも切断し、緊張筋A-Bの抵抗値を測定した。
【0082】
末口からの距離3.6mの位置で螺旋筋が切断された緊張筋A-Bの抵抗値は、1.45mΩであった。このことから、螺旋筋が1、2本程度切断されても、螺旋筋が健全な場合と比べて抵抗値にほとんど変化がないことが理解できる。他方、末口からの距離3.6mの位置で緊張筋Aを切断した場合の緊張筋A-Bの抵抗値は、3.31mΩであった。緊張筋Aだけでなく緊張筋Bも末口からの距離3.6mの位置で切断してみたが、緊張筋A-B間の抵抗値は3.31mΩのままであった。また、末口から9.6mの位置で破断していた緊張筋Cを含む緊張筋C-D間の抵抗値は4.19mΩであった。
【0083】
測定結果をまとめると、破断していない緊張筋(健全な緊張筋)の間の抵抗値は、1.0mΩ~1.5mΩの範囲内であった。他方、破断した緊張筋を含む緊張筋の間の抵抗値は、3.0mΩ~4.5mΩの範囲内であり、健全な緊張筋同士の抵抗値の2倍以上となった。以上から、一対の主筋の間の抵抗値を比較することで主筋の破断の有無を検出できることが確認できた。
【0084】
図14に示すように、一対の主筋の間の抵抗値の実測値と正常値との差分yと、破断箇所の末口からの距離xとの関係をグラフにすると、両者の間に相関関係が存在することが判明した。正常値は、一対の主筋がいずれも健全な場合の抵抗値である。ただし、実際のCPでは、破断箇所が末口から1m~3mの距離にある場合、破断時の抵抗値が正常値よりもわずかに増加し、破断箇所が末口から3mを超える距離にある場合に、破断時の抵抗値が正常値よりも小さくなることも判明した。このため、直線近似法ではなく累乗近似法を用いて回帰式を作成した。回帰式は、以下の式(3)に示すとおりであり、このときの決定係数は0.9827である。
y=-0.0068x+0.0224x-0.003 …(3)
以上から、一対の主筋の間の抵抗値に基づいて破断した主筋の破断箇所を検出できることが確認できた。
【符号の説明】
【0085】
1 コンクリートポール
2 緊張筋
3 螺旋筋
4 抵抗計
100 破断箇所検出装置
140 記憶部
142 破断箇所検出用データベース
150 制御部
151 取得部
152 検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14