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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118487
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】光半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/56 20100101AFI20220805BHJP
【FI】
H01L33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015055
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森安 研吾
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA02
5F142AA60
5F142AA82
5F142BA02
5F142BA32
5F142CA01
5F142CD02
5F142CG05
5F142CG07
5F142CG13
5F142CG27
5F142CG42
5F142FA18
5F142FA50
5F142GA31
(57)【要約】
【課題】複数の光半導体装置が一箇所にまとめて載置された場合であっても、個々の光半導体装置が相互に密着して集合体を形成しにくくする。
【解決手段】光半導体装置は、半導体発光素子又は半導体受光素子を含む光半導体チップと、内側に光半導体チップを収容したシリコーンを含んでなる封止部材とを備える。封止部材は、最外表面に近い第一領域が、第一領域よりも前記光半導体チップに近い側の第二領域と比較して、C元素の比率が低い。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子又は半導体受光素子を含む光半導体チップと、
内側に前記光半導体チップを収容した、シリコーンを含んでなる封止部材とを備え、
前記封止部材は、最外表面に近い第一領域が、前記第一領域よりも前記光半導体チップに近い側の第二領域と比較して、C元素の比率が低いことを特徴とする、光半導体装置。
【請求項2】
前記封止部材は、前記第一領域が、前記第二領域と比較してSi元素の比率が高いことを特徴とする、請求項1に記載の光半導体装置。
【請求項3】
前記封止部材及び前記光半導体チップが搭載されたパッケージを含み、
前記封止部材は、前記光半導体チップの受発光面に直交する光軸方向に関し、前記パッケージの位置よりも突出したレンズ領域を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光半導体装置。
【請求項4】
前記封止部材及び前記光半導体チップが搭載されたパッケージを含み、
前記封止部材は、前記光半導体チップの受発光面に直交する光軸方向に関し、前記パッケージの位置と実質的に同じ高さ位置を示す、窓領域を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光半導体装置。
【請求項5】
前記封止部材は、少なくとも前記第二領域がポリジメチルシロキサン(PDMS)からなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の光半導体装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法であって、
前記光半導体チップを準備する工程(a)と、
前記光半導体チップの外側に前記封止部材を形成する工程(b)と、
前記封止部材の外側から、前記封止部材に対して波長265nm未満の紫外線を照射する工程(c)とを有することを特徴とする、光半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、前記光半導体チップをパッケージに搭載する工程(d)と、
前記工程(d)の後、前記工程(b)の前に、前記光半導体チップが搭載された複数の前記パッケージをフレーム体に連結固定する工程(e)と、
前記工程(c)の後、複数の前記パッケージを個片化する工程(f)とを有し、
前記工程(b)は、前記工程(e)の後に、前記光半導体チップが搭載された複数のパッケージのそれぞれに対して前記封止部材の構成材料である樹脂を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、複数の前記パッケージが前記フレーム体に連結固定された状態下で、複数の前記パッケージ内に配置された前記樹脂の表面に対して一括して前記紫外線を照射する工程であることを特徴とする、請求項6に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記工程(f)の後、個片化された複数の前記パッケージを検査機に投入する工程(g)を有することを特徴とする、請求項7に記載の光半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置及びその製造方法に関し、特に、シリコーンを含んでなる封止部材が光半導体チップの外側に配置された状態でパッケージに搭載された、光半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1や特許文献2に示すように、LEDやLD等の半導体発光チップ、このチップに対して給電するためのワイヤ、及びその他の電子部品を、透光性の樹脂で包埋することで保護した光半導体装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-135484号公報
【特許文献2】特開2002-314143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、光半導体装置は、光半導体チップをパッケージに搭載し、樹脂が注入された後、検査工程に送られる。検査工程では、複数のパッケージが個片化された状態で、連続的に検査機に送られ、検査機において、逆方向電圧や順方向電圧等の電気特性試験や、光出力-電流特性を測定する光学特性試験が行われる。そして、製品基準を満たさないものは不良品として除外される。
【0005】
このような事情から、検査機においては、複数の光半導体装置のそれぞれに対して、連続的に検査を行うことが要求される。ただし、複数のパッケージを検査機に送るべく、一箇所にまとめると、いくつかのパッケージが相互に密着して集合体を形成することがあった。かかる状況が生じると、検査工程を行う前に集合体を解体する作業が別途必要となり、煩雑である。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、複数の光半導体装置が一箇所にまとめて載置された場合であっても、個々の光半導体装置が相互に密着して集合体を形成しにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光半導体装置は、半導体発光素子又は半導体受光素子を含む光半導体チップと、
内側に前記光半導体チップを収容した、シリコーンを含んでなる封止部材とを備え、
前記封止部材は、最外表面に近い第一領域が、前記第一領域よりも前記光半導体チップに近い側の第二領域と比較して、C(炭素)元素の比率が低いことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、封止部材の最外表面において内側(第二領域)よりもC元素の比率が低下している。詳細は後述するが、この結果、封止部材の最外表面において、シリコーン由来のタック性(粘着性)が低下するため、複数の光半導体装置が同一の箇所に集められた状態で置かれていても、相互に密着しにくくなる。
【0009】
封止部材の構成元素の比率は、例えばXPS(X線光電子分光法)を用いて分析することが可能である。封止部材の最外表面に近い箇所(「第一領域」に対応)と、最外表面から深さ方向に進行した箇所(「第二領域」に対応)に対して、それぞれXPSにより元素分析を行うことで、構成元素の比率に関する比較が行える。
【0010】
なお、「最外表面に近い」とは、最外表面、及び最外表面から深さ方向に関して0.2mm未満の距離だけ進行した箇所を含む概念である。
【0011】
なお、前記光半導体装置は、半導体発光素子が搭載された発光装置であっても構わないし、半導体受光素子が搭載された受光装置であっても構わない。前者の場合、封止部材は、半導体発光素子からの出射光に対して透過性を示す材料からなり、後者の場合、封止部材は、半導体受光素子において受光される光に対して透過性を示す材料からなる。シリコーン(シロキサン結合を主骨格とするポリマー)は、波長300nm以上の光に対して高い透過率(例えば80%以上)を示す。つまり、前記光半導体装置は、波長300nm以上の光を発する半導体発光素子を備えるか、又は波長300nm以上の光を受光する半導体受光素子を備えるものとして構わない。
【0012】
なお、ここでいうシリコーンとしては、主鎖にシロキサン結合を有するものであれば、側鎖の構造には限定されない。典型的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられるが、側鎖の官能基の一部又は全部がその他のアルキル基、アルケニル基、フェニル基、又は水素原子に置換されたものも含まれる。
【0013】
前記封止部材は、前記第一領域が、前記第二領域と比較してSi(珪素)元素の比率が高いものとしても構わない。
【0014】
前記光半導体装置は、前記封止部材及び前記光半導体チップが搭載されたパッケージを含み、
前記封止部材は、前記光半導体チップの受発光面に直交する光軸方向に関し、前記パッケージの位置よりも突出したレンズ領域を有するものとしても構わない。
【0015】
封止部材がレンズ領域を有する場合、複数の光半導体装置同士がレンズ領域の部分同士で接触しやすくなる。しかし、上記構成によれば、封止部材のうち、最外表面に近い箇所が改質されているため、複数の光半導体装置同士が相互に密着した集合体を形成しにくい。
【0016】
前記光半導体装置は、前記封止部材及び前記光半導体チップが搭載されたパッケージを含み、
前記封止部材は、前記光半導体チップの受発光面に直交する光軸方向に関し、前記パッケージの位置と実質的に同じ高さ位置を示す、窓領域を有するものとしても構わない。
【0017】
複数の光半導体装置同士が相互に接触しないようにする一つの方法としては、光軸方向に関して、光半導体チップの受発光面に対向する領域に位置する封止部材を、光半導体チップ側に近づける形状、すなわち凹形状にすることが考えられる。しかし、光半導体チップが発光素子である場合、この発光素子からの出射光の一部が凹形状の封止部材と大気との界面での反射量が高まり、光取り出し効率が低下してしまう。また、光半導体チップが受光素子である場合、凹形状の封止部材の表面で入射した光が屈折することで、受光素子の受光量が低下することがある。
【0018】
これに対し、上記構成によれば、封止部材のうちの最外表面に近い箇所が改質されているため、複数の光半導体装置同士が相互に密着した集合体を形成しにくい。このため、封止部材を凹形状にする必要がなく、封止部材に対してパッケージの位置と実質的に同じ高さ位置を示す窓領域を設けることができる。これにより、光取り出し効率又は受光効率が高められる。
【0019】
前記封止部材は、少なくとも前記第二領域がポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるものとしても構わない。なお、封止部材の最外表面の少なくとも一部は、ポリジメチルシロキサンから改質された別の材料で構成されているものとしても構わない。この別の材料としては、例えば、SiO2を初めとするSiOxなどの無機材料や、一部にCを含むもののポリジメチルシロキサンと比べて分子量が低下した材料が挙げられる。
【0020】
また、本発明は、前記光半導体装置の製造方法であって、
前記光半導体チップを準備する工程(a)と、
前記光半導体チップの外側に前記封止部材を形成する工程(b)と、
前記封止部材の外側から、前記封止部材に対して波長265nm未満の紫外線を照射する工程(c)とを有することを特徴とする。
【0021】
工程(c)において、シリコーンを含んでなる封止部材に対して波長265nm未満の紫外線が照射されると、この紫外線の一部がシリコーンにおいて吸収される。
【0022】
シリコーンは、シロキサン結合( O-Si-O )を主鎖とし、側鎖に有機基が結合された構造を示している。つまり、シリコーンは、Si-OやSi-Cといった分子結合を有している。ここで、Si-Oの結合エネルギーは444kJ/mol程度(波長269nmの光子エネルギー相当)であり、Si-Cの結合エネルギーは452kJ/mol程度(波長265nmの光子エネルギー相当)である。このため、265nm未満の紫外線がシリコーンに対して照射されると、シリコーンで吸収された紫外線のエネルギーによってSi-OやSi-Cといった分子結合が切断される。この結果、封止部材の表面の少なくとも一部が改質され、タック性が低下する。
【0023】
タック性が低下した理由として、本発明者は、シリコーンに含まれるC原子が脱離したことで、一部の分子構造がSiO2のようなガラス性材料になったためと推察している。なお、このようなガラス性材料に改質された場合であっても、波長300nm以上の光に対する透過率はシリコーンと同様に高いため、光取り出し効率や受光効率に対する影響はほとんどない。
【0024】
なお、紫外線が照射された結果、シリコーンから一部脱離したC原子は、例えば周囲のO原子と結合することでCOやCO2等、気体性状を有した物質に変化した後に大気中(雰囲気中)に排出される。
【0025】
つまり、上記方法を経て製造された光半導体装置が備える封止部材は、紫外線が吸収される領域(最外表面に近い第一領域)においては、一部が改質されてC元素の比率が低下する。一方、封止部材のうち、第一領域よりも光半導体チップに近い側の第二領域においては、紫外線が届かないため引き続きシリコーンを含む材料が維持される。よって、この封止部材は、第一領域が第二領域よりもC元素の比率が低い。
【0026】
前記光半導体装置の製造方法は、
前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、前記光半導体チップをパッケージに搭載する工程(d)と、
前記工程(d)の後、前記工程(b)の前に、前記光半導体チップが搭載された複数のパッケージをフレーム体に連結固定する工程(e)と、
前記工程(c)の後、複数の前記パッケージを個片化する工程(f)とを有し、
前記工程(b)は、前記工程(e)の後に、前記光半導体チップが搭載された複数のパッケージのそれぞれに対して前記封止部材の構成材料である樹脂を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、複数の前記パッケージが前記フレーム体に連結固定された状態下で、複数の前記パッケージ内に配置された前記樹脂の表面に対して一括して前記紫外線を照射する工程であるものとしても構わない。
【0027】
上記方法によれば、複数の光半導体装置に対して、一括して封止部材の表面に対するタック性の低下処理が行える。このため、従来と比べて大幅に処理工数を増加させることなく、個々の光半導体装置に対して相互間での密着性を低下できる。
【0028】
前記光半導体装置の製造方法は、前記工程(f)の後、個片化された複数の前記パッケージを検査機に投入する工程(g)を有するものとしても構わない。
【0029】
上記方法によれば、検査機に対して光半導体装置が投入される前(検査工程の開始前)に、既に封止部材の表面に対するタック性の低下処理が行われている。よって、検査機への投入前の段階で、複数の光半導体装置同士が集合して集合体を形成する現象が抑制されているため、この集合体を解体する作業が不要となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複数の光半導体装置同士が相互に密着して集合体を形成しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】光半導体装置の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2】光半導体チップが搭載された複数のパッケージが連結されている状態(アセンブリ)を模式的に示す平面図である。
図3】光源からアセンブリに対して紫外線が照射される状況を模式的に示す図面である。
図4】光半導体装置が検査工程に送られる状況の一例を模式的に示す図面である。
図5】光半導体装置の構造の別の一例を模式的に示す断面図である。
図6】封止部材の、深さの異なる複数の箇所における元素量の比率を、XPS分析した結果を示すグラフである。
図7A】検証に利用された封止部材の形状を模式的に示す図面であり、上面が平坦面で構成されている場合に対応する。
図7B】検証に利用された封止部材の形状を模式的に示す図面であり、上方に突出した形状を示す場合に対応する。
図7C】検証に利用された封止部材の形状を模式的に示す図面であり、下方に突出した形状を示す場合に対応する。
図8】封止部材の隆起高さと、取り出された光束の相対値との関係を示すシミュレーション結果に対応するグラフである。
図9A】封止部材の表面が平坦である場合において、受光素子に向かって進行する検知用の光の様子を模式的に示す図面である。
図9B】封止部材の表面が凹形状を示す場合において、受光素子に向かって進行する検知用の光の様子を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る光半導体装置の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0033】
図1は、光半導体装置の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す光半導体装置1は、基台5の上面に光半導体チップ3が搭載されてなる。以下の説明では、光半導体チップ3の主面をX-Y平面とし、この面に直交する方向をZ方向とする、X-Y-Z座標系が適宜参照される。
【0034】
なお、方向に関し、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。本実施形態では、光半導体チップ3の光軸方向がZ方向に対応する。
【0035】
光半導体チップ3には給電のためのワイヤ7が配線されている。基台5の上面(+Z側の面)には、光半導体チップ3の外側に枠体6が設けられている。基台5と枠体6とによって、光半導体チップ3を搭載するためのパッケージ2が形成されている。
【0036】
光半導体チップ3の上方(+Z側)には、光半導体チップ3に対して水分や粉塵から保護するための封止部材10が設けられている。本実施形態では、光半導体チップ3が半導体発光素子で構成されており、封止部材10は、光半導体チップ3から出射される光3Lに対する透過性を示す材料からなる。
【0037】
より詳細には、光半導体チップ3は、波長300nm以上の光3Lを発する素子を含む。光3Lは、波長300nm以上の紫外光であっても構わないし、可視光であっても構わないし、赤外光であっても構わない。より好適には、光3Lの波長は350nm以上である。
【0038】
封止部材10は、最外表面に近い第一領域11と、第一領域11よりも光半導体チップ3に近い側(-Z側)の第二領域12のうち、少なくとも第二領域12についてはシリコーンを含む樹脂材料からなる。シリコーンは、波長300nm以上の光3Lに対して高い透過率を示す。
【0039】
第一領域11については、後述するように第二領域12を構成する樹脂材料の一部が改質されている。詳細には、封止部材10のうち、第一領域11については、第二領域12よりもC元素の比率が低い。ただし、第一領域11の全体にわたって改質されている必要はなく、すなわち第一領域11の一部が第二領域12と同じ材料であっても構わない。封止部材10は、シリコーンを含む樹脂からなる第二領域12と同様、第一領域11についても、波長300nm以上の光3Lに対して高い透過率を示す。
【0040】
光半導体装置1を製造するに際しては、まず光半導体チップ3がパッケージ2に搭載される(工程(a),(d)に対応)。次に、図2に模式的に示すように、パッケージ2に搭載された光半導体チップ3をフレーム体21に連結してアセンブリ20を形成した後(工程(e)に対応)、パッケージ2の内側に向かって封止部材10の構成材料である樹脂(ここではシリコーンを含む樹脂)が注入される(工程(b)に対応)。この樹脂としては、典型的にはポリジメチルシロキサン(PDMS)が採用されるが、主鎖にシロキサン結合を有するものであれば側鎖の構造には限定されず、例えば、側鎖の官能基の一部又は全部がその他のアルキル基、アルケニル基、フェニル基、又は水素原子に置換されたものであってもよい。このような方法を採用することで、複数のパッケージ2に対して一括して樹脂を注入できるため、高い生産効率が得られる。樹脂が注入された後は、例えば加熱によって硬化処理が行われる。
【0041】
樹脂が硬化された後、図3に示すように、光源30からアセンブリ20に対して、すなわちフレーム体21によって連結固定された複数のパッケージ2に対して、紫外線30Lが照射される(工程(c)に対応)。この紫外線30Lは、Si-Cの結合エネルギーよりも高い光子エネルギーを有する波長を示す。具体的には、紫外線30Lは、265nm未満の波長域に光出力を示す。このような紫外線30Lを発する光源30としては、好適にはKrClエキシマランプ(ピーク波長222nm)、Xeエキシマランプ(ピーク波長172nm)、低圧水銀ランプ(ピーク波長254nm)等が用いられる。ただし、光源30は、265nm未満の波長域に光出力を示す紫外線30Lを発する限り、上記の例には限定されず、例えば、他の構成のランプや、固体光源(LED、LD)であっても構わない。
【0042】
図3に示すように、アセンブリ20に対して紫外線30Lが照射されることで、光半導体装置1の上面に近い位置の封止部材10に対して紫外線30Lが照射される。
【0043】
上述したように、封止部材10はシリコーン樹脂を含んでなる。シリコーンは、波長265nm未満の紫外線に対しては透過率が5%未満であり、実質的に透過しない。このため、照射された紫外線30Lのほとんどが、封止部材10の最外表面に近い領域で吸収される。
【0044】
シリコーンは、シロキサン結合( O-Si-O )を主鎖とし、側鎖に有機基が結合された構造を示しており、Si-OやSi-Cといった分子結合を有している。このため、シリコーンに対して上記波長帯の紫外線30Lが照射されると、紫外線30LのエネルギーによってSi-OやSi-Cといった分子結合が切断される。より詳細には、封止部材10の最外表面に近い領域(すなわち図1における第一領域11)において、Si-OやSi-Cといった分子結合が切断され、改質される。
【0045】
このように最外表面に近い第一領域11が改質されることで、シリコーンを含む樹脂が有する粘着性(タック性)が低下する。この結果、フレーム体21から各光半導体装置1が個片化された後、一箇所に集約して置かれていても、光半導体装置1同士が相互に密着して集合体を形成しにくくなる。この点は、実施例を参照して詳細に後述される。
【0046】
紫外線30Lが照射された後、複数の光半導体装置1は、フレーム体21から外されて個片化され(工程(f)に対応)、検査工程に送られる(工程(g)に対応)。図4は、光半導体装置1が検査工程に送られる状況の一例を模式的に示す図面である。個片化された複数の光半導体装置1は、ひとまず格納部46に格納された後、供給部41を介して整列装置40に送られる。整列装置40は、例えば上面視で円盤形状を呈し、振動しながら回転可能な通過領域42を備えており、通過領域42を通過中に複数の光半導体装置1が周方向に整列される。その後、搬送路43を通じて検査機45に送られる。検査機45では、光半導体装置1に対する電気特性試験や光学特性試験が行われる。
【0047】
格納部46では、複数の光半導体装置1が集約して格納されているため、相互に密接した状態となる。また、生産効率を高める観点から、供給部41から整列装置40に対して一時に多数の光半導体装置1が供給されることが想定される。しかし、上述したように、光半導体装置1は、封止部材10の最外表面に近い第一領域11が改質されおり、光半導体装置1が相互に密着して集合体を形成しにくい。このため、検査機45の手前の段階において、集合体を個々の光半導体装置1に解体する別途の作業が不要となる。
【0048】
整列装置40は、通過領域42内を通過する光半導体装置1の向きを確認するために、上方から通過領域42を撮像するカメラを備えていても構わない。光半導体装置1の光取り出し面が上下反転している場合には、例えば、通過領域42内に風が送り込まれることで光半導体装置1が正しい向きに調整された状態で周方向に整列される。
【0049】
なお、図1に示す光半導体装置1では、封止部材10の高さ位置(Z方向の位置)が、パッケージ2の高さ位置(より詳細には枠体6の高さ位置)とほぼ同等である。この場合、封止部材10の最外表面に近い側に位置する第一領域11は、光半導体チップ3から出射される光3Lを外部に取り出すための窓領域を構成する。ただし、光半導体装置1は、このような構造に限られない。例えば、図5に示すように、封止部材10の一部がパッケージ2に対して+Z側に突出する形状を示していてもよい。
【0050】
図5に示す光半導体装置1は、封止部材10の一部がパッケージ2内に位置し(12a)、他の一部がパッケージ2から+Z方向に突出している(12b,11)。そして、この突出している部分のうち、最外表面に近い領域(第一領域11)については、上記と同様に、第二領域12(12a,12b)と比べてC元素の比率が低くなるように改質処理が行われている。この結果、表面におけるタック性が低下されているため、複数の光半導体装置1の突出部同士が密着して集合体を形成することが起こりにくい。図5に示す光半導体装置1によれば、上記突出部(11,12b)によってレンズ領域が形成される。
【0051】
以下、実施例を参照して説明する。
【0052】
(検証1)
紫外線30Lの照射の有無によるタック性の評価を行った。
【0053】
[実施例1]封止部材10の材料としての樹脂がパッケージ2内に注入・硬化された後の光半導体装置に対し、ピーク波長172nmのXeエキシマランプ(「光源30」に対応)からの紫外線30Lを、大気雰囲気下で照射したサンプル(「光半導体装置1」に対応)を実施例1とした。照射線量は約8000mJ/cm2(照度9mW/cm2×15分)であった。
【0054】
[比較例1]紫外線30Lを照射しなかった点を除いては、実施例1と共通の方法で作製されたサンプルを比較例1とした。
【0055】
実施例1及び比較例1の両サンプルをそれぞれ10個準備した。そして、各サンプルのパッケージ2の樹脂面(封止部材10の表面)に対し、外径4.0mm、内径3.0mmの平滑なプラスチック製円筒を用いて200gの荷重を掛けた後、垂直方向に持ち上げた際に、パッケージ2が円筒に接着したまま持ち上がる割合(円筒部材に対するパッケージの接着率)を比較した。この結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1及び比較例1の両サンプルをそれぞれ160個準備した。そして、実施例1及び比較例1のそれぞれにつき、160個の各サンプルを内容積65mm×100mm×60mmの蓋付きのアルミニウム製容器に入れて10回回転させて撹拌した後、各サンプルのパッケージ2同士が接着している割合(パッケージ同士の接着率)を比較した。この結果を表2に示す。なお、表2の接着率の値は、小数点第2位以下を四捨五入したものである。
【0058】
【表2】
【0059】
上記表1及び表2の結果によれば、封止部材10の表面に対して紫外線30Lが照射された実施例1によれば、紫外線30Lが照射されていない比較例1と比べて、表面の密着性(タック性)が大幅に低下していることが分かる。
【0060】
(検証2)
封止部材10の表面に対して紫外線30Lが照射されることによる、組成の変化について検証した。
【0061】
具体的には、紫外線30Lが照射済の上記実施例1のサンプルに対し、封止部材10の最外表面付近(#1)及び内部(#2,#3)の元素量の比率をXPS(X線光電子分光法)を用いて分析した。この結果を、図6及び表3に示す。なお、図6及び表3における「深さ」とは、図1内のZ方向(より詳細には-Z方向)の長さに対応する。
【0062】
【表3】
【0063】
図6及び表3の元素分析の結果によれば、封止部材10の内部(#2,#3)に比べて、最外表面(#1)においてC元素の比率が低くなっていることが分かる。この理由は、以下のように推定される。
【0064】
紫外線30Lが封止部材10に対して照射されることで、封止部材10の最外表面(#1)の近傍に対して高い光エネルギーが供給された結果、最外表面(#1)近傍に位置する樹脂の分子結合の一部が切断されて改質した。そして、分子結合が切断されたことで離脱したC原子は、周囲の酸素や、紫外線30Lが酸素に吸収されることで生じたオゾンと反応し、COやCO2等の気体性状を有した物質に変化して外部に排出された。この結果、C原子の比率が相対的に低下した。
【0065】
封止部材10の内部(#2,#3)に比べて、最外表面(#1)ではO元素の比率が上昇している。この理由としては、上記のように、C元素の比率が相対的に低下したことに加えて、分子結合が切断されて一部箇所において反応性が高められた分子に対して周囲の酸素やオゾンが取り込まれたこと等が考えられる。
【0066】
紫外線30Lが照射された結果、封止部材10の最外表面(#1)においてC元素の比率が低下し、O元素の比率が上昇していることからも、最外表面(#1)近傍における封止部材10、すなわち第一領域11は、SiO2のようなガラス性材料に改質したものと考えられる。この結果、シリコーン由来のゴム的な性質が弱まり、タック性が低下したものと考えられる。
【0067】
なお、表3によれば、封止部材10の内部(#2,#3)に比べて、最外表面(#1)ではSi元素の比率が上昇している。これは、最外表面(#1)において上述したC原子の脱離量が大きいことから、相対的にSi元素の比率が高まったものと推定される。
【0068】
(検証3)
上述したように、本発明に係る光半導体装置1によれば、封止部材10のうち、最外表面に近い第一領域11が改質されているため、複数の光半導体装置1同士(パッケージ2同士)が密着しにくくなっている。このため、図1に示したように、+Z側を平坦面とすることもできるし、図5に示したように、+Z側に向けて突出する形状(凸形状)にすることもできる。
【0069】
一方、タック性を有する樹脂が表面に存在する場合において、光半導体装置同士が密着するのを防止する観点からは、-Z側に向けて突出する形状(凹形状)にする方法も考えられる。しかし、光半導体チップ3の上方に位置する封止部材10を凹形状にすると、光取り出し効率が低下してしまう。
【0070】
図7A図7Cは、検証に利用された封止部材10の形状を模式的に示す図面である。図7Aは封止部材10の表面を平坦面とした場合、図7Bは封止部材10を+Z方向に突出させた場合(凸形状)、図7Cは封止部材10を-Z方向に突出させた場合(凹形状)にそれぞれ対応する。
【0071】
隆起高さz10を変更させることで封止部材10の形状を異ならせた複数のサンプルを準備し、同じ出力で光半導体チップ3を発光させた場合に、装置の外側で受光される光量(放射光束)をシミュレーションによって比較した。シミュレーション条件は以下のように設定された。
【0072】
[シミュレーション条件]
いずれのサンプルにおいても、封止部材10は、上面(+Z側の面)が4.5mm角、底面(-Z側の面)が3.5mm角、高さ(Z方向の長さ)が0.7mmの四角錐台形状を呈しており、封止部材10の底面にはX×Y×Z=1mm×1mm×0.2mmの寸法の光半導体チップ3(LEDチップ:発光波長365nm)が設置された。
【0073】
封止部材10は、発光波長365nmの光に対する屈折率を1.45とした。また封止部材10の-Z側には銀メッキからなる金属面が設けられており、発光波長365nmの光に対する反射率を82%とした。
【0074】
光半導体チップ3の上面(出射面)及び光半導体チップ3の外周に位置する枠体6(図1参照)は、共に、発光波長365nmの光に対する反射率を0%とした。
【0075】
[結果]
図8は、封止部材10の隆起高さz10と、受光光量(取り出された光束)の相対値との関係を示すグラフである。隆起高さz10が負の値を示す場合、言い換えれば、封止部材10が凹形状を示す場合、封止部材10が平坦か凸形状を示す場合に比べて、取り出し光量が低下することが分かる。図7Cに示すように封止部材10を凹形状にすると、光半導体チップ3から出射される光3Lのうち、封止部材10と空気との界面で反射されて光半導体チップ3側に進行する光の割合が高まった結果、取り出される光束が低下したものと考えられる。
【0076】
上述したように、本発明に係る光半導体装置1によれば、光半導体装置1同士が密着するのを防止する目的で、封止部材10を-Z側に向けて突出させる必要がない。よって、図8の結果を踏まえると、高い光取り出し効率を維持しながらも、光半導体装置1同士が密着するのを抑制できることが分かる。
【0077】
[別実施形態]
以下、光半導体装置1の別実施形態につき説明する。
【0078】
〈1〉封止部材10は、パッケージ2の側面に露出しても構わない。言い換えれば、Z方向から見たときに、パッケージ2の基台5よりも封止部材10が外側に位置していても構わない。
【0079】
〈2〉封止部材10は、シリコーン樹脂に加えて、他の材料(例えばエポキシ等)の樹脂を含んでいても構わない。また、前記樹脂内に蛍光体や散乱体が混入されていても構わない。
【0080】
〈3〉封止部材10は、典型的には、光半導体チップ3の上面(+Z側の面)に接触している。ただし、本発明は、封止部材10が光半導体チップ3の上面に接触していない構造を排除するものではない。
【0081】
〈4〉上記実施形態では、光半導体チップ3が半導体発光素子である場合、すなわち光半導体装置1が発光装置である場合について説明した。しかし、光半導体チップ3がフォトダイオード等の半導体受光素子であっても構わない。この場合、光半導体装置1は受光装置である。
【0082】
光半導体チップ3が受光素子である場合において(ここでは便宜上「受光素子3」と称する。)、仮に封止部材10が凹形状を示す場合には、受光素子3に対する受光量が低下する可能性がある(図9A図9B参照)。図9Aは、封止部材10の表面が平坦である場合において、受光素子3に向かって進行する検知用の光L1の様子を模式的に示す図面である。図9Bは、封止部材10の表面が凹形状である場合において、図9Aと同様に、受光素子3に向かって進行する検知用の光L1の様子を模式的に示す図面である。図9Bのように、封止部材10の表面が凹形状である場合には、光L1の一部が屈折することで受光素子3から離れる方向に進行することが想定され、この場合には受光量が低下する。
【0083】
これに対し、本発明に係る光半導体装置1によれば、光半導体装置1同士が密着するのを防止する目的で、封止部材10を凹形状にする必要がないので、高い受光効率を維持しながらも、光半導体装置1同士が密着するのを抑制できることが分かる。
【0084】
〈5〉上述した実施形態では、光半導体装置1を製造するに際し、アセンブリ20を形成した後、パッケージ2の内側に向かって封止部材10の構成材料である樹脂が注入されるものとして説明した。しかし、パッケージ2が枠形状を呈していない場合には、光半導体チップ3の載置領域を覆うように樹脂が配置されるものとしてよく、必ずしも「注入」する必要はない。
【符号の説明】
【0085】
1 :光半導体装置
2 :パッケージ
3 :光半導体チップ
3L :光半導体チップから出射される光
5 :基台
6 :枠体
7 :ワイヤ
10 :封止部材
11 :封止部材の第一領域
12 :封止部材の第二領域
20 :アセンブリ
21 :フレーム体
30 :光源
30L :紫外線
40 :整列装置
41 :供給部
42 :通過領域
43 :搬送路
45 :検査機
46 :格納部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B