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特開2022-118507ファンユニット用ブラシレスモータ及びその回転バランスの調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118507
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ファンユニット用ブラシレスモータ及びその回転バランスの調整方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/16 20060101AFI20220805BHJP
   F04D 29/00 20060101ALI20220805BHJP
   F04D 29/70 20060101ALI20220805BHJP
   F04D 29/64 20060101ALI20220805BHJP
   F04D 29/32 20060101ALI20220805BHJP
   H02K 21/22 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
H02K15/16 A
F04D29/00 B
F04D29/70 N
F04D29/64 F
F04D29/32 C
F04D29/32 F
H02K21/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015079
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】永元 里司
(72)【発明者】
【氏名】永原 建
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直也
【テーマコード(参考)】
3H130
5H615
5H621
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB07
3H130AB12
3H130AB26
3H130AB52
3H130AC15
3H130BA46G
3H130BA74G
3H130CB06
3H130DA02Z
3H130DD02X
3H130DD03X
3H130EA06G
3H130EA07G
3H130EB02G
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS54
5H621HH01
5H621JK07
(57)【要約】
【課題】回転部材の蓋部の水抜き孔を適切に確保しつつ、ロータのバランス調整の効率を高める。
【解決手段】本発明によるファンユニット用ブラシレスモータは、水平方向に沿った回転軸を形成している軸部と、軸部の径方向外側にステータと、軸部に回転可能に支持され、ステータの径方向外側に延在しているロータとを備えている。ロータは、回転軸まわりの周壁部と蓋部とを有している円筒状の回転部材と、周壁部に固定された、回転軸まわりに複数の永久磁石と、を有し、周壁部又は蓋部には、複数の孔が形成されており、複数の孔のそれぞれには、回転軸まわりのロータの回転バランスを調整するための錘部材を取り付け可能である。そして、複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に沿った回転軸を形成している軸部と、
前記軸部の径方向外側にステータと、
前記軸部に回転可能に支持され、前記ステータの径方向外側に延在しているロータと、
を備え、
前記ロータは、円筒状の回転部材と、前記回転軸まわりに前記回転部材に固定される複数の永久磁石と、を有し、
前記回転部材は、前記回転軸まわりの周壁部と、前記回転軸の延在方向で前記周壁部の一端側に蓋部と、を有し、
前記周壁部又は前記蓋部には、複数の孔が形成されており、前記複数の孔のそれぞれには、前記回転軸まわりの前記ロータの回転バランスを調整するための錘部材を取り付け可能であり、
前記複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、前記周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する、ファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、前記回転軸の延在方向で前記蓋部と前記複数の永久磁石のそれぞれとの間に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する、請求項1に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記複数の孔は、前記回転軸の延在方向に視て、前記蓋部における前記ステータの巻線よりも径方向外側に形成されている、請求項1又は請求項2に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項4】
前記複数の孔は、前記複数の永久磁石のそれぞれに対して、少なくとも2つ以上が前記回転軸の延在方向に対向している、請求項3に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項5】
前記錘部材は、タッピングスクリューである、請求項4に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項6】
前記複数の永久磁石と前記複数の孔との間の距離であって、前記回転軸の延在方向に沿った距離は、孔に取り付けられた状態のタッピングスクリューにおける前記孔から突出する部分の長さよりも長い、請求項5に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【請求項7】
ファンユニット用ブラシレスモータのロータの回転バランスの調整方法であって、
前記ファンユニット用ブラシレスモータは、
水平方向に沿った回転軸を形成している軸部と、
前記軸部の径方向外側にステータと、
前記軸部に回転可能に支持され、前記ステータの径方向外側に延在しているロータと、を備え、
前記ロータは、円筒状の回転部材と、前記回転軸まわりに前記回転部材に固定される複数の永久磁石と、を有し、
前記回転部材は、前記回転軸まわりの周壁部と、前記回転軸の延在方向で前記周壁部の一端側に蓋部と、を有し、
前記周壁部又は前記蓋部には、前記周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能できる複数の孔が形成されており、
当該調整方法は、
前記ロータの組み付け完了後に、前記回転軸まわりの前記ロータの回転バランスが所定基準を満たすか否かを評価するステップと、
前記ロータの回転バランスが所定基準に満たない場合に、前記複数の孔のうちの少なくとも1つの穴に、錘部材を取り付けるステップとを、備えている、調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファンユニット用ブラシレスモータ及びその回転バランスの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータを形成している円筒状の回転部材(ロータヨーク)の蓋部(前壁)の外周側に排水孔を形成し、かつ、ファンボスの開口部と排水孔とを軸方向視で互いに重ならないように配置することで、水が開口部を介してファンボス内部に侵入した場合にも、排水孔を通してロータ内部まで水が侵入しないようにする技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-173009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータを形成している円筒状の回転部材の蓋部に、回転部材の回転バランスを調整するためのパテを貼り付け可能な領域(パテ貼り付け領域)が設定される場合がある。このパテ貼り付け領域は、一般的に、回転部材の蓋部に形成される水抜き孔よりも径方向内側に設定される。パテ貼り付け領域は回転中心より遠い方が少ない量でバランス調整が可能であるので、水抜き孔よりも径方向内側にパテ貼り付け領域が設定される構成は、バランス調整の効率が良好でないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、回転部材の蓋部の水抜き孔を適切に確保しつつ、ロータのバランス調整の効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、水平方向に沿った回転軸を形成している軸部と、
前記軸部の径方向外側にステータと、
前記軸部に回転可能に支持され、前記ステータの径方向外側に延在しているロータと、
を備え、
前記ロータは、円筒状の回転部材と、前記回転軸まわりに前記回転部材に固定される複数の永久磁石と、を有し、
前記回転部材は、前記回転軸まわりの周壁部と、前記回転軸の延在方向で前記周壁部の一端側に蓋部と、を有し、
前記周壁部又は前記蓋部には、複数の孔が形成されており、前記複数の孔のそれぞれには、前記回転軸まわりの前記ロータの回転バランスを調整するための錘部材を取り付け可能であり、
前記複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、前記周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する、ファンユニット用ブラシレスモータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、回転部材の蓋部の水抜き孔を適切に確保しつつ、ロータのバランス調整の効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のブラシレスモータが使用された装置の構成を示す斜視図である。
図2】本実施形態のブラシレスモータのステータ及びモータブラケットを、図1と同じ視点から示す斜視図である。
図3】本実施形態のブラシレスモータのロータ及び軸部を、図1と同じ視点から示す斜視図である。
図4】本実施形態のブラシレスモータのロータ及び軸部を、内部が見える視点から示す斜視図である。
図5】本実施形態のブラシレスモータの断面図であり、回転軸を通る平面で切断した際の断面図である。
図5A図5のQ1部の拡大図である。
図6A】複数の孔の数と、修正誤差との関係を、計算結果に基づき示すグラフである。
図6B】修正誤差の定義の説明図である。
図7】ブラシレスモータのロータの回転バランスの調整方法の好ましい例を説明する概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について詳細に説明する。以下では、まずファンユニット用ブラシレスモータMが使用された装置の構成の概要を説明してから、ファンユニット用ブラシレスモータMの構成について説明する。以下、図面において、同一の要素が複数ある場合は、そのうちのいくつかだけに符号が付されている場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態のファンユニット用ブラシレスモータM(以下、「ブラシレスモータM」という)が使用された装置の構成を示す斜視図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態のブラシレスモータMは、例えば、吸い込み式のファンユニットF(図1)を駆動する装置の一部(すなわちファンユニット用ブラシレスモータ)として使用される。なお、ブラシレスモータMは、例えば、3相モータである。ファンユニットFは、ブラシレスモータMによる回転駆動力により回転軸Iを中心として回転することで、冷却対象物(例えばラジエータ)に空気を送ることができる。なお、ファンユニットFは、回転軸Iが水平方向に沿って延在するような向きで配置されている。
【0012】
図2は、本実施形態のブラシレスモータMのステータ10及びモータブラケット60を示す斜視図であり、図3及び図4は、本実施形態のブラシレスモータMのロータ30及び軸部20を示す斜視図である。なお、図2及び図3は、図1と同じ方向から見た斜視図であり、図4は、ロータ30の内部が見えるような方向からの斜視図である。図5は、本実施形態のブラシレスモータMの断面図であり、回転軸Iを通る平面で切断した際の断面図である。図5Aは、図5のQ1部の拡大図である。図2には、ステータ10とともに、モータブラケット60が分解図として示されている。また、図5では、モータブラケット60等の一部の要素の図示は省略されている。
【0013】
以下では、軸方向とは、回転軸Iに沿った方向を表し、径方向とは、回転軸Iを通って回転軸Iに垂直な方向を表す。また、径方向内側とは、回転軸Iに向かう方向に対応し、径方向外側とは、回転軸Iから離れる方向に対応している。
【0014】
ブラシレスモータMは、ステータ10と、軸部20、ロータ30とを備えている。
【0015】
図2に示すように、ステータ10は、複数のティース11と、ティース11に巻回されたコイル(巻線)12とを、備えている。ステータ10は、モータブラケット60に固定されている。ステータ10は、軸部20の径方向外側に設けられている。
【0016】
図3から図5に示すように、軸部20は、回転軸Iを形成している。軸部20は、モータブラケット60(図2参照)に固定されている。図5に示すように、軸部20には、ベアリングBRを介して、ロータ30が回転可能に支持されている。
【0017】
ロータ30は、ロータヨーク32(回転部材の一例)と、永久磁石34とを有している。
【0018】
ロータヨーク32は、円筒状の形態であり、磁性体(例えば鉄)により形成されている。ロータヨーク32は、周壁部321と、蓋部322と、被支持部323とを有している。
【0019】
周壁部321は、回転軸Iを中心とした回転軸Iまわりに延在している。周壁部321は、ステータ10を径方向外側から囲繞するように配置される。周壁部321の軸方向一端側には、図3に示すように、蓋部322が接続されている。また、周壁部321の軸方向の他端は、図4に示すように、開口している。周壁部321の軸方向他端側の開口を覆う態様でモータブラケット60が設けられている。
【0020】
蓋部322は、周壁部321の軸方向一端側から形成されている。蓋部322は、軸方向視で、円環状の形態であり、中央部に、軸部20が挿通される。
【0021】
被支持部323は、蓋部322の中央部(回転軸Iまわりの部位)から形成され、円筒状の形態で軸方向に延在している。被支持部323は、周壁部321よりも径方向内側で、回転軸Iを中心とした回転軸Iまわりに延在している。径方向で被支持部323と軸部20との間には、ベアリングBRが配置される。被支持部323は、軸部20にベアリングBRを介して回転可能に支持される。
【0022】
永久磁石34は、周壁部321の径方向内側に固定される。永久磁石34は、回転軸Iまわりに等間隔で複数配置される。図4では、永久磁石34は、回転軸Iまわりに72度の等ピッチで5つ配置されている。永久磁石34は、ステータ10に径方向で対向するように、ステータ10に対して配置されている。
【0023】
次に、図2から図5Aを更に参照しながら、本実施形態のブラシレスモータMの特徴部について説明する。
【0024】
本実施形態のブラシレスモータMは、ロータヨーク32の蓋部322に、複数の孔3221が形成されている。複数の孔3221は、それぞれ、同じ孔形状であり、例えば円形である。ただし、他の実施形態では、複数の孔3221の一部は、他とはわずかに異なる形状を有してもよい。また、他の実施形態では、複数の孔3221の一部又はすべてがロータヨーク32の周壁部321に形成されてもよい。この場合、複数の孔3221の一部又はすべては、周壁部321における蓋部322に近い端部に形成されてもよい。
【0025】
複数の孔3221には、ロータ30の回転バランスを調整するための錘部材90を取り付け可能である。なお、各孔3221に錘部材90が取り付けられるか否かは、ロータ30の回転バランスの調整の際に決まる。
【0026】
錘部材90は、複数の孔3221に取り付け可能な構成でありかつロータ30の回転バランスを調整するための有意な質量を有している限り、任意の材料又は形態であることができる。好ましい実施形態では、錘部材90は、タッピングスクリューである。タッピングスクリューである場合、複数の孔3221は、いわゆる“下穴”の形態であることができる。この場合、下穴は丸穴であり、その径は、例えばφ4mm程度であってよい。なお、別の実施形態では、錘部材90は、ネジであってよく、この場合、複数の孔3221は、ネジ穴の形態であってもよいし、複数の孔3221にウエルドナットが設けられてもよい。また、別の実施形態では、錘部材90は、リベットであってもよく、あるいは、パテであってもよい。錘部材90がリベットである場合は、複数の孔3221は、リベットの加締めが可能な孔であってよい。
【0027】
錘部材90は、種類ごとに質量が異なる態様で複数種類用意されてもよい。この場合、同じ孔3221に取り付ける場合でも、錘部材90の種類を変えることで、ロータ30の回転バランスの調整量を変化させることができる。
【0028】
ここで、複数の孔3221に錘部材90を取り付ける際の、取り付け方のバリエーションは、複数の孔3221の個数に応じて増加する。例えば、複数の孔3221の数が15個であれば、1つの錘部材90を取り付ける場合も、15通りのバリエーションがある。そして、2つの錘部材90を取り付ける場合、3つの錘部材90を取り付ける場合等、多くのバリエーションが存在する。そして、取り付け方ごとに、ロータ30の回転バランスが異なりうる。
【0029】
このようにして、本実施形態によれば、複数の孔3221に対する錘部材90の取り付け方が多様となるので、ロータ30の回転バランスの調整が可能である。
【0030】
本実施形態では、複数の孔3221のすべてに錘部材90が取り付けられることがないような態様でロータ30のバランス調整が実現される。この場合、複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられていない孔3221は、少なくとも1つ存在することになる。なお、錘部材90を取り付けない状態でロータ30の回転バランスが良好である場合(すなわち所定基準を満たす場合)、複数の孔3221のいずれにも、錘部材90が取り付けられないことになる。
【0031】
本実施形態では、複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられていない孔3221は、周壁部321の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する。換言すると、複数の孔3221は、水抜き孔として機能できるような孔径及び配置とされる。なお、錘部材90を取り付けない状態でロータ30の回転バランスが良好である場合、複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられていない孔3221は、複数の孔3221のすべてとなる。
【0032】
ここで、回転軸Iが水平方向に沿って延在している場合、水は、ロータヨーク32の周壁部321の径方向内側に溜まりうる。また、水は、重力の影響により下側に溜まるので、ロータヨーク32の周壁部321の全周のうちの、その時点で、鉛直方向下側の周範囲で溜まる。このような鉛直方向下側の周範囲は、ロータ30の回転停止状態に応じて異なりうる。
【0033】
そこで、複数の孔3221は、好ましくは、ロータ30の回転停止状態が変化しても鉛直方向下側の周範囲に少なくとも1つ(錘部材90が取り付けられていない孔3221が少なくとも1つ)位置するように、比較的多くの数、形成される。この点、図3に示す例では、複数の孔3221は、回転軸Iまわりに15つ配置されている。これにより、複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられていない孔3221の数を比較的多く確保することができる。すなわち、複数の孔3221のうちの、水抜き孔として機能できる孔の数を比較的多く確保することができる。
【0034】
また、複数の孔3221は、好ましくは、周壁部321に近い径方向位置に形成される。すなわち、複数の孔3221は、好ましくは、蓋部322の最外周に近い径方向位置に形成される。この場合、複数の孔3221のうちの一の孔3221が最下位置にあるとき、ロータヨーク32の周壁部321に溜まる際の水の厚み(重力の影響により下側に溜まる水の厚み)を、周壁部321と当該一の孔3221との間の径方向の比較的小さい距離以下に抑えることができる。すなわち、ロータヨーク32の周壁部321に溜まりうる水の量を最小化できる。
【0035】
また、ロータヨーク32の周壁部321の径方向内側に溜まる水は、主に、軸方向で永久磁石34と蓋部322との間に溜まりやすい。これは、永久磁石34が径方向に厚みを有し、“堰”として機能するためである。図5には、軸方向で永久磁石34と蓋部322との間に溜まっている水が、ハッチング領域500で模式的に示されている。
【0036】
そこで、複数の孔3221は、好ましくは、このような軸方向で永久磁石34と蓋部322との間の水に対して水抜き孔として機能できるように、複数の永久磁石34のそれぞれに対して軸方向に対向している。この場合、複数の孔3221のそれぞれが、好ましくは、複数の永久磁石34のいずれかに軸方向で対向している。これにより、複数の孔3221のうちの、任意の一の孔3221が水抜き孔として機能する場合(すなわち錘部材90が取り付けられない場合)でも、当該一の孔3221が最下位置にあるときに、軸方向で永久磁石34と蓋部322との間に溜まる水を、当該一の孔3221を介して外部に放出(すなわち水抜き)できる。
【0037】
ここで、複数の孔3221のうちの一部に錘部材90が取り付けられた場合、錘部材90が取り付けられた孔3221は、水抜き孔として機能できない。従って、複数の孔3221は、好ましくは、水抜き孔として機能する孔3221が各永久磁石34に対して少なくとも1つ残るように、各永久磁石34に対して複数形成される。この点、図4に示す例では、複数の孔3221は、各永久磁石34に対して3つずつ軸方向に対向するように設けられている。この場合、各永久磁石34に対して2つの孔3221に錘部材90を取り付けた場合でも、残りの1つの孔3221によって、各永久磁石34が最下位置にきたときに、軸方向で永久磁石34と蓋部322との間の水に対して水抜きを実現できる。
【0038】
なお、このような点を鑑みて、ロータ30の回転バランスの調整の際には、各永久磁石34に対して3つずつ設定される孔3221について、それぞれ、多くとも2つだけに錘部材90を取り付けるような取り付け方のみが採用されてもよい。
【0039】
なお、別の実施形態では、各永久磁石34に対して2つの孔3221が設定されてもよいし、各永久磁石34に対して4つ以上の孔3221が設定されてもよい。あるいは、孔3221は、周方向に沿って又は接線方向に沿って比較的長い周長で延在する長穴の形態であってもよい。
【0040】
また、本実施形態では、複数の孔3221は、すべて、いずれか1つの永久磁石34に軸方向に対向しているが、これに限られない。例えば、複数の孔3221は、いずれの永久磁石34にも軸方向に対向しない孔(すなわち、周方向で隣り合う2つの永久磁石34間の周方向位置に形成される孔)を含んでもよい。
【0041】
複数の孔3221の少なくともいずれかが永久磁石34に軸方向で対向している構成の場合、好ましくは、複数の永久磁石34と複数の孔3221との間の、軸方向の距離d1は、孔3221に取り付けられた状態の錘部材90における孔3221から突出する部分の軸方向の長さよりも長い。例えば錘部材90がタッピングスクリューである場合、複数の永久磁石34と複数の孔3221との間の、軸方向の距離d1は、好ましくは、図5Aに示すように、孔3221に取り付けられた状態のタッピングスクリューにおける孔3221から突出する部分の長さd2よりも長い。これにより、永久磁石34と干渉することなく錘部材90を取り付けることができる。
【0042】
ところで、上記したような複数の孔3221は、上記したように水抜き孔として機能する観点からの好ましい構成を有しつつ、ロータ30の回転バランスの調整を容易化又は効率化する観点からの好ましい構成をも有していることが望ましい。なお、水抜き孔として機能する観点からの好ましい構成と、ロータ30の回転バランスの調整を容易化又は効率化する観点からの好ましい構成は、背反とならない場合があるので、共通である場合は、双方の機能を同時に高めることができる。
【0043】
具体的には、複数の孔3221は、好ましくは、それ自体によるアンバランスを生まないように、回転軸Iまわりに等間隔でかつ同一の径方向位置に配置される。この点、図3及び図4に示す例では、複数の孔3221は、回転軸Iまわりに24度の等ピッチで配置されている。これにより、錘部材90が取り付けられていない状態で複数の孔3221に起因して生じうるアンバランス(ロータ30の回転バランスに関するアンバランス)を低減でき、錘部材90を利用しないで済む個体数(すなわち、最終的な製品状態で複数の孔3221に錘部材90が取り付けられていない個体数)を確保しやすくすることができる。
【0044】
また、回転軸Iより径方向で遠い方が少ない質量でバランス調整が可能であるので、複数の孔3221は、好ましくは、ステータ10のコイル12よりも径方向外側に形成される。この点、図3及び図4に示す例では、複数の孔3221は、蓋部322の最外周に近い径方向位置に形成されている。これにより、少ない質量(すなわち少ない錘部材90の数)で効率的なバランス調整を実現できる。なお、この場合、ステータ10のコイル12と干渉することなく(あるいは、ステータ10のコイル12に対して適切な絶縁距離を確保した位置関係で)錘部材90を取り付けることができる。
【0045】
また、複数の孔3221は、好ましくは、ロータ30の回転バランスの調整を容易化するために、比較的多くの数、形成される。この点、図4に示す例では、上記したように、複数の孔3221は、回転軸Iまわりに15つ配置されている。これにより、複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられる孔の組み合わせ(錘部材90が一切取り付けられない組み合わせも含む)の数が多くなり、ロータ30の回転バランスの調整が容易となる。
【0046】
ここで、図6A及び図6Bを参照して、複数の孔3221の数と、ロータ30の回転バランスの調整の容易性(修正誤差)について説明する。
【0047】
図6Aは、横軸に複数の孔3221の数を取り、縦軸に修正誤差を取ったときの、両者の関係を、計算結果に基づき示すグラフである。図6Bは、修正誤差の定義の説明図であり、軸方向にロータヨーク32を視た平面図である。図6Bには、永久磁石34が点線で透視図として示されている。ここでは、複数の孔3221は、等ピッチで配置されているものとする。
【0048】
図6Aにおける修正誤差は、例えば図6Bに示すように、修正量Fとアンバランス量F’とに基づいて、以下のように定義されている。
修正誤差=(F-F’)/F’×100
ここで、修正誤差が最大となるときは、図6Bに示すずれ角度θが、複数の孔3221に係るピッチの半分になるときである。例えば、複数の孔3221が本実施例のように15つである場合、ずれ角度θが12度であるときに修正誤差が最大となる。そして、最大の修正誤差は、図6Aに示すように、複数の孔3221の数が大きいほど小さくなるが、複数の孔3221の数が10つ以上となると、5%以下に収まり、複数の孔3221の数が15つ以上となると、更に小さくなるものの有意な変化がなくなる。このことから、ロータ30の回転バランスの調整を容易化する観点からは、複数の孔3221の数は、好ましくは、10つ以上であり、より好ましくは15つ以上である。
【0049】
次に、図7を参照して、ブラシレスモータMのロータ30の回転バランスの調整方法の好ましい例について説明する。
【0050】
図7は、ブラシレスモータMのロータ30の回転バランスの調整方法の好ましい例を説明する概略的なフローチャートである。
【0051】
図7に示す調整方法は、例えば、ロータ30の単品の組み付け完了後に、実行されるのが好適である。従って、調整方法は、ロータ30の単品状態や、軸部20への組み付けが完了した状態や、ブラシレスモータMの組み付け完了状態(例えば最終的な品質評価段階)等で実行されてよい。
【0052】
本調整方法は、まず、ロータ30を回転軸Iまわりに回転させてロータ30の回転バランスを評価するステップ(S10)を備えている。なお、ロータ30の回転は、治具上で実現されてもよいし、ロータ30を軸部20に組み付けた上で実現されてもよい。ロータ30の回転バランスは、例えば起振力を測定することで評価することができる。
【0053】
この評価の結果、ロータ30の回転バランスが所定基準を満たす場合(S12の“YES”)は、調整不要であるので、そのまま終了する。所定基準は、例えば、測定された起振力が所定閾値(例えば、2.0N~2.5N程度)以下であるという基準である。他方、ロータ30の回転バランスが所定基準を満たさない場合(S12の“NO”)は、調整が必要であり、複数の孔3221のうちの少なくとも1つの穴に、錘部材90を取り付けるステップ(S14)を備えている。すなわち、複数の孔3221のうちの適切な孔3221に、1つ以上の錘部材90(図7ではタッピングスクリュー)が取り付けられる(S14)。この場合、1つ以上の錘部材90が取り付けられる孔3221は、各永久磁石34に対する3つの孔3221がすべて塞がれないように決定されるのが望ましい。その後、ロータ30を回転軸Iまわりに回転させてロータ30の回転バランスを評価するステップ(S10)から繰り返し、最終的に、回転バランスが所定基準を満たすロータ30を得ることができる。なお、錘部材90がタッピングスクリューである場合は、一定の質量の錘部材90を利用するので、錘部材90としてパテを利用する場合に比べて、重さと修正位置精度が良くなる。従って、錘部材90がタッピングスクリューである場合は、バランス調整回数が1回で済む場合が多くなることが予測される。
【0054】
このようにして、図7に示すロータ30の回転バランスの調整方法によれば、複数の孔3221のうちの適切な孔3221に錘部材90を取り付けるだけで、回転バランスが所定基準を満たすロータ30を得ることができる。
【0055】
また、錘部材90がタッピングスクリューである場合は、錘部材90がパテである場合に比べて、工程数を削減できる。具体的には、パテの貼り付けの場合では、硬化のために炉に入れたり、長時間放置したり必要があるが、錘部材90がタッピングスクリューである場合は、かかる工程を削除することができる。また、バランス調整のための切削(例えば蓋部322の切削)等の加工も不要であり、孔3221に錘部材90を取り付けるだけであるので、バランス調整のための作業性が良好である。また、錘部材90がタッピングスクリューである場合は、錘部材90が蓋部322に強固に固定されることになり、ロータ30の稼働時に錘部材90が容易に離脱することがないので、ブラシレスモータMの信頼性を高めることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、ロータヨーク32の蓋部322の水抜き孔(すなわち複数の孔3221のうちの、錘部材90が取り付けられていない孔3221)を適切に確保しつつ、ロータ30のバランス調整の効率を高めることができる。また、本実施形態によれば、複数の孔3221が、水抜き孔として機能できるとともに、バランス調整用の錘部材90の取り付け孔としても機能できるので、効率的な構成を実現することができる。また、複数の孔3221は、軽量化にも寄与するので、ロータヨーク32の軽量化を図ることもできる。そして、軽量化を図ることで、省電化を実現できる。これにより、電力供給におけるカーボンフリー化の推進に寄与することができるので、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」及び目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献することが可能となる。
【0057】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0058】
なお、以上の本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)
水平方向に沿った回転軸を形成している軸部(20)と、
前記軸部の径方向外側にステータ(10)と、
前記軸部に回転可能に支持され、前記ステータの径方向外側に延在しているロータ(30)と、
を備え、
前記ロータは、円筒状の回転部材(32)と、前記回転軸まわりに前記回転部材に固定される複数の永久磁石(34)と、を有し、
前記回転部材は、前記回転軸まわりの周壁部(321)と、前記回転軸の延在方向で前記周壁部の一端側に蓋部(322)と、を有し、
前記周壁部又は前記蓋部には、複数の孔が形成されており、前記複数の孔3221のそれぞれには、前記回転軸まわりの前記ロータの回転バランスを調整するための錘部材(90)を取り付け可能であり、
前記複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、前記周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する、ファンユニット用ブラシレスモータ(M)。
【0060】
付記1の構成によれば、複数の孔は、ロータの回転バランスを調整するための錘部材の取り付け孔として機能できるとともに、複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔(複数の孔の一部又は全部)は、周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能できる。これにより、回転部材の蓋部の水抜き孔を適切に確保しつつ、ロータのバランス調整の効率を高めることが可能となる。
【0061】
(付記2)
前記複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔は、前記回転軸の延在方向で前記蓋部と前記複数の永久磁石のそれぞれとの間に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能する、付記1に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【0062】
付記2の構成によれば、径方向の厚みを有する永久磁石が堰となって蓋部との間に溜まりやすくなる水を、錘部材が取り付けられていない孔を介して外部に効率的に排出することができる。
【0063】
(付記3)
前記複数の孔は、前記回転軸の延在方向に視て、前記蓋部における前記ステータの巻線よりも径方向外側に形成されている、付記1又は付記2に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【0064】
付記3の構成によれば、錘部材とステータの巻線との間の干渉を防止できる。また、錘部材を回転中心より比較的遠い位置(径方向で離れた位置)に取り付けることが可能であり、バランス調整の効率が良好となる。
【0065】
(付記4)
前記複数の孔は、前記複数の永久磁石のそれぞれに対して、少なくとも2つ以上が前記回転軸の延在方向に対向している、付記3に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【0066】
付記4の構成によれば、複数の永久磁石のそれぞれに対して、錘部材が取り付けられていない孔を確保しやすくなる。これにより、径方向の厚みを有する永久磁石が堰となって蓋部との間に溜まりやすくなる水を、錘部材が取り付けられていない孔を介して外部に効率的に排出することができる。
【0067】
(付記5)
前記錘部材は、タッピングスクリューである、付記4に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【0068】
付記5の構成によれば、錘部材の取り付け作業が容易であり、また、取り付けされた錘部材が、ファンユニット用ブラシレスモータの稼働中に振動等に起因して離脱してしまう可能性を低減できる。また、錘部材がパテである場合に比べて、錘部材の質量管理が容易である。
【0069】
(付記6)
前記複数の永久磁石と前記複数の孔との間の距離であって、前記回転軸の延在方向に沿った距離は、孔に取り付けられた状態のタッピングスクリューにおける前記孔から突出する部分の長さよりも長い、付記5に記載のファンユニット用ブラシレスモータ。
【0070】
付記6の構成によれば、錘部材と永久磁石との間の干渉を防止できる。また、錘部材を回転中心より遠い位置(例えば、径方向で最も離れた位置)に取り付けることが可能であり、バランス調整の効率が良好となる。
【0071】
(付記7)
ファンユニット用ブラシレスモータのロータの回転バランスの調整方法であって、
前記ファンユニット用ブラシレスモータは、
水平方向に沿った回転軸を形成している軸部と、
前記軸部の径方向外側にステータと、
前記軸部に回転可能に支持され、前記ステータの径方向外側に延在しているロータと、を備え、
前記ロータは、円筒状の回転部材と、前記回転軸まわりに前記回転部材に固定される複数の永久磁石と、を有し、
前記回転部材は、前記回転軸まわりの周壁部と、前記回転軸の延在方向で前記周壁部の一端側に蓋部と、を有し、
前記周壁部又は前記蓋部には、前記周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能できる複数の孔が形成されており、
当該調整方法は、
前記ロータの組み付け完了後に、前記回転軸まわりの前記ロータの回転バランスが所定基準を満たすか否かを評価するステップと、
前記ロータの回転バランスが所定基準に満たない場合に、前記複数の孔のうちの少なくとも1つの穴に、錘部材を取り付けるステップとを、備えている、調整方法。
【0072】
付記7の構成によれば、複数の孔は、ロータの回転バランスを調整するための錘部材の取り付け孔として機能できるとともに、複数の孔のうちの、錘部材が取り付けられていない孔(複数の孔の一部又は全部)は、周壁部の径方向内側に溜まりうる水に対する水抜き孔として機能できる。これにより、回転部材の蓋部の水抜き孔を適切に確保しつつ、ロータのバランス調整の効率を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
10 ステータ
11 ティース
12 コイル(巻線)
20 軸部
30 ロータ
32 ロータヨーク
321 周壁部
322 蓋部
323 被支持部
3221 孔
34 永久磁石
60 モータブラケット
90 錘部材
BR ベアリング
F ファンユニット
I 回転軸
M ブラシレスモータ
図1
図2
図3
図4
図5
図5A
図6A
図6B
図7