(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118516
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】植物生長促進能を有する細菌及びその分離方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220805BHJP
C12N 1/06 20060101ALI20220805BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220805BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220805BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/06
C12N1/00 T
A01G7/00 604Z
A01G7/00 602Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015090
(22)【出願日】2021-02-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 明生
(72)【発明者】
【氏名】木代 勝元
(72)【発明者】
【氏名】最相 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山地 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 純
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】植物生長促進能を有する新規な微生物を提供すること、及び、植物生長促進能を有する微生物を分離する新規な方法を提供すること。
【解決手段】植物生長促進能を有する、ルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体、並びに、
(a)オオムギの根に共生する細菌を培養すること、及び
(b)前記細菌の植物生長促進能を有する細菌を選抜すること
を含む、植物生長促進能を有する細菌又はその変異体の分離方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物生長促進能を有する、ルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体。
【請求項2】
前記ルガモナス属に属する細菌又はその変異体のゲノム配列と、
ルガモナス・アクアティカ(Rugamonas aquatica)FT29W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380215.1)、ルガモナス・リブリ(Rugamonas rivuli)FT103W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380165.1)及びルガモナス・ルブラ(Rugamonas rubra)ATCC 43154株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_900114705.1)との間の平均ヌクレオチド同一性(ANI)値が、それぞれ80%以上95%未満である、請求項1に記載の細菌又はその変異体。
【請求項3】
Rugamonas sp. R1株(NITE AP-03371)、Rugamonas sp. R57株(NITE AP-03372)、Rugamonas sp. R64株(NITE AP-03373)、又はそれらの変異体である、請求項1又は2に記載の細菌又はその変異体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の細菌及びその変異体から選ばれる少なくとも1種以上の細菌又はそれらの抽出物を含有する、組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物で植物体又は種子を処理することを含む、植物生長促進方法。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物を土壌に添加又は配合することを含む、土壌改良方法。
【請求項7】
請求項4に記載の組成物で、植物体又は種子を処理することを含む、植物の生産方法。
【請求項8】
(a)オオムギの根に共生する細菌を培養すること、及び
(b)前記細菌の植物生長促進能を有する細菌を選抜すること
を含む、植物生長促進能を有する細菌又はその変異体の分離方法。
【請求項9】
さらに(c)ルガモナス属に属する細菌を選抜することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8又は9で選抜された細菌又はその変異体を含有させる工程、又は、前記細菌又はその変異体を溶媒で抽出する工程を含む、請求項4に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物生長促進能を有する新規な細菌及びその使用、及び当該細菌又はその変異体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物としてのオオムギはビールの原料として、また家畜飼料としても利用される。イネもまた、米として食用とされるほか、米加工品や飼料としても利用される。これらの植物の生産量の向上は食料や飼料の供給に重要であるが、同じ土地で栽培をし続けると、連作障害が発生して生産量が低下する場合がある。
【0003】
同じ耕地で一年の間にイネとムギを栽培する二毛作は、地力低下や連作障害などの問題に経験的に対処しながら高い土地利用効率を実現する穀物生産手法として、日本の西南暖地を中心に普及している。しかし、その持続性の基盤要因は生物学的には殆ど理解されていない。
【0004】
一方、植物の生産量向上の手段として、特定の微生物株で植物を処理して、当該植物の生長を促進させる方法が知られている。例えば特許文献1には、タバコ、オオムギ及びダイズよりなる群より選ばれる種子植物の生長促進方法であって、特定のメタノール資化性細菌メチロバクテリウム・アクアティカム(Methylobacterium aquaticum)を準備するステップと、該選ばれた種子植物の種子に該細菌を接触させて該種子の培養を行うステップとを含んでなる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/093675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
増殖可能な微生物、特に植物と共生可能な微生物によって植物の生長を促進することができれば、化学肥料や有機肥料に依存しない、持続的な植物生長促進が期待できる。しかし、そのような植物生長促進能を有する微生物に関する知見や、そのような微生物を容易に得るための手段は、未だ限られている。
【0007】
そこで、本発明は、植物生長促進能を有する新規な微生物を提供することを第1の課題とする。
【0008】
また、本発明は、植物生長促進能を有する微生物を分離する新規な方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、意外にも、特定のルガモナス属(Rugamonas)に属する新種細菌又はその変異体が、植物の生長促進能を有することを見出した。また、本発明者らは、(a)オオムギの根に共生する細菌を培養すること、及び(b)前記細菌の植物生長促進能を評価することを含む方法が、例えば当該新種細菌又はその変異体を含む、植物生長促進能を有する細菌の分離に適していることを見出した。以上の知見に基づき、本発明者らは本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のルガモナス属(Rugamonas)に属する新種細菌又はその変異体を包含する。
[1]
植物生長促進能を有する、ルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体。
[2]
前記ルガモナス属に属する細菌又はその変異体のゲノム配列と、
ルガモナス・アクアティカ(Rugamonas aquatica)FT29W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380215.1)、ルガモナス・リブリ(Rugamonas rivuli)FT103W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380165.1)及びルガモナス・ルブラ(Rugamonas rubra)ATCC 43154株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_900114705.1)との間の平均ヌクレオチド同一性(ANI)値が、それぞれ80%以上95%未満である、[1]に記載の細菌又はその変異体。
[3]
Rugamonas sp. R1株(NITE AP-03371)、Rugamonas sp. R57株(NITE AP-03372)、又はRugamonas sp. R64株(NITE AP-03373)である、[1]又は[2]に記載の細菌又はその変異体。
【0011】
また本発明は、下記の組成物を包含する。
[4]
[1]~[3]のいずれか1に記載の細菌及びその変異体から選ばれる少なくとも1種以上の細菌又はそれらの抽出物を含有する、組成物。
【0012】
さらに本発明は、下記の植物生長促進方法及び土壌改良方法を包含する。
[5]
[4]に記載の組成物で植物体又はその種子を処理することを含む、植物生長促進方法。
[6]
[4]に記載の組成物を土壌に添加又は配合することを含む、土壌改良方法。
【0013】
さらに本発明は、下記の植物の生産方法を包含する。
[7]
[4]に記載の組成物で、植物体又はその種子を処理することを含む、植物の生産方法。
【0014】
さらに本発明は、下記の細菌又はその変異体の分離方法を包含する。
[8]
(a)オオムギの根に共生する細菌を培養すること、及び
(b)前記細菌の植物生長促進能を有する細菌を選抜すること
を含む、植物生長促進能を有する細菌又はその変異体の分離方法。
[9]
さらに(c)ルガモナス属に属する細菌を選抜することを含む、[8]に記載の方法。
[10]
[8]又は[9]で選抜された細菌又はその変異体を含有させる工程、又は、前記細菌又はその変異体を溶媒で抽出する工程を含む、[4]に記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の細菌又はその変異体は植物生長促進能を有する。そのため、それらを含有する本発明の組成物は、植物生長促進や土壌改良等の用途に適し、植物の生産方法に使用することができるなど、産業上、極めて優れた利点を有する。
また、本発明の分離方法によれば、植物生長促進能を有する細菌又はその変異体を容易に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】アンプリコン解析で得られたサンプルごとのリード数を、リード数が多いものから順に並べたグラフである。
【
図2】アンプリコン解析の結果を示すグラフである。Fertilized,慣行区(施肥区); Non-fertilized,無施肥区; J64, 早木曽2号; J247,はるな二条; Root,根画分; Sonic ,超音波処理画分; Wash,根の洗浄画分。各サンプルは3植物個体を個別に分析して得られたデータを平均化した。左からサンプリングした時系列順に並べた。アンプリコン解析で得られた配列中、真核生物由来の16S rRNA (ミトコンドリア、葉緑体)を除いた集合に対しての相対的な割合を縦軸に示した。配列の解析はQIIME2.0で行い同定レベルはSpecies(level 7)である。棒グラフの色と細菌種の帰属は右側に示した。
【
図3】EzBioCloudデータベースで、107株の分離株の16S rRNA遺伝子配列に最も相同性の高い種として同定された生物種のリストである。分離株の由来した器官ごとに集計を行った。
【
図4】分離株及び基準株の16S rRNA遺伝子配列の分子系統解析によって得られた分子系統樹を表す。Isolatesは分離株を含む新種のクラスターであり、R1株、R57株及びR64が帰属する3クラスターが示されている。また、括弧にampliconと記載しているものは、アンプリコン解析によって得られた16S rRNA遺伝子のV3-V4領域配列に基づいて同定された菌株のクラスターである。括弧にTは基準株(type strain)を表す。
【
図5】アンプリコン解析でJanthinobacterium属細菌と同定された346の配列をJanthinobacterium属細菌基準株、Rugamonas属細菌基準株、及びRugamonas属に属する本実施例で得られた分離株の16S rRNA遺伝子配列に対してBLAST解析して、最も相同性の高い菌株と同定された配列リード数を比較したグラフである。棒グラフの右側の割合は、解析したリード数に対する各菌株群に同定されたリード数の割合を示す。
【
図6】本実施例で得られた分離株(Rugamonas sp. R1、Rugamonas sp. R57及びRugamonas sp. R64)並びにRugamonas属の3種の基準株のゲノム配列から計算されるdDDH値(右上側)及びANI値(左下側)の集計表である。
【
図7】本実施例で得られた分離株(Rugamonas sp. R1、Rugamonas sp. R57及びRugamonas sp. R64)を接種したオオムギ並びに対照区(Control)の栽培後のオオムギ幼苗の全体の乾燥重量、地下部の長さ、地上部の長さ及び根の数を比較したグラフである。エラーバーは標準偏差を表す(n=24)。8株の植物体を3つのポットで試験し、乾燥重量のみ8株分(1ポット)の合計重量から一株あたりの平均値を求めた(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体]
本発明は、植物生長促進能を有するルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体を包含する。
【0018】
(植物生長促進能)
本明細書において、特定の微生物(例えば細菌)が植物生長促進能を有するとは、当該特定の微生物で植物を処理した場合に、無処理の場合に比べて生長が促進されることを表す。本発明で言う植物生長促進とは、例えば、植物体全体の重量(又は乾燥重量)の増加;地下部(殊に、根)の長さ又は生長速度の増加;地上部の長さ又は生長速度の増加;根の長さ又は数の増加;種子、種実又は果実の収量の増加又は品質の向上;種子、種実又は果実の1個当たりの重量の増加又は品質の向上;花芽の数の増加又は結実数の増加;植物病抵抗性、耐寒性、耐高温性又は耐塩性の向上からなる群より選ばれる1以上が挙げられる。特定の実施形態の一例として、本発明で言う植物の生長促進能には、植物体全体の乾燥重量の増加又は地下部(殊に、根)の長さの増加促進が含まれる。植物体の根は、地上部への栄養、水分供給とともに、植物体自体を物理的に保持する、極めて重要な役割を担っている。つまり、根の長さが増加する(伸びる)ということは、例え、根の乾燥重量に差がない場合であっても、根の表面積の増大をもたらし、又は、土壌中での根の侵入体積(根の張り)を増加させるので、根を介しての植物体全体への栄養又は水分供給量が増大することを意味する。
【0019】
本明細書において、特定の微生物で植物を「処理する」とは、具体的には、例えば、種子若しくは植物体(根、茎、葉、花、果実、種実等)に当該特定の微生物又は抽出物(死菌体又はその破砕物を含む)を接触させて保持又は栽培すること、又は、土壌中に当該特定の微生物又は抽出物を含有させ、当該土壌に種子又は植物体を接触させて保持又は栽培することが挙げられる。当該処理は、栽培の前に行われてもよいし、栽培中に行われてもよいし、保存・保管・輸送期間中に行われてもよい。
一実施形態では、当該処理は、例えば、微生物又はその抽出物を含む懸濁液を種子にしみこませる、又は種子を当該懸濁液につけ込む方法が挙げられる。
【0020】
上記植物は、好ましくは種子植物であり、より好ましくはイネ科(Poaceae)植物である。イネ科植物としては、例えば、オオムギ、コムギ、ライムギ、エンバク等のムギ類植物、イネ、トウモロコシ、アワ、モロコシ等が挙げられる。中でも、ムギ類植物が好ましく、オオムギ又はコムギがより好ましく、オオムギが更に好ましい。
【0021】
(細菌又はその変異体)
ルガモナス属(Rugamonas)は、バークホルデリア科(Burkholderiales)に属する。ルガモナス属の生物種としては、例えば、ルガモナス・アクアティカ(R. aquatica)、ルガモナス・リブリ(R. rivuli)、ルガモナス・ルブラ(R. rubra)が知られている。また、これらの基準株として、R. aquatica FT29W株、R. rivuli FT103W株、R. rubra ATCC 43154株などが知られている。
【0022】
ルガモナス属の細菌としては、例えば、当該ルガモナス属に属する細菌又はその変異体のゲノム配列と、ルガモナス・アクアティカ(Rugamonas aquatica)FT29W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380215.1)、ルガモナス・リブリ(Rugamonas rivuli)FT103W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380165.1)及びルガモナス・ルブラ(Rugamonas rubra)ATCC 43154株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_900114705.1)との間の平均ヌクレオチド同一性(Average nucleotide identity, ANI)値が、それぞれ80%以上95%未満である、細菌が挙げられる。
【0023】
ルガモナス属の細菌としては、例えば、当該ルガモナス属に属する細菌又はその変異体のゲノム配列と、ルガモナス・アクアティカ(Rugamonas aquatica)FT29W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380215.1)、ルガモナス・リブリ(Rugamonas rivuli)FT103W株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_009380165.1)及びルガモナス・ルブラ(Rugamonas rubra)ATCC 43154株ゲノム配列(RefSeq assemblyアクセッション番号GCF_900114705.1)との間のデジタルDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)法によって得られるdDDH値が、例えば25%以上40%未満である、細菌が挙げられる。
【0024】
ANI法及びdDDH法の詳細は、例えば、Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2007, Vol.57(Pt.1), pp.81-91に記載されている。
【0025】
このようなANI値及びdDDH値の条件を満たす細菌の具体例として、本実施例の分離株であり新種の細菌であるRugamonas sp. R1株(NITE AP-03371)、Rugamonas sp. R57株(NITE AP-03372)、又はRugamonas sp. R64株(NITE AP-03373)が挙げられる。括弧内はそれぞれの菌株の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)の受領番号を示す(いずれの菌株も受領日は2021年1月29日)。
【0026】
Rugamonas sp. R1株、Rugamonas sp. R57株、及びRugamonas sp. R64株の分離方法として、例えば下記の[植物生長促進能を有する細菌又はその変異体の分離方法]に記載した方法を用いることができる。
【0027】
Rugamonas sp. R1株、Rugamonas sp. R57株、及びRugamonas sp. R64株はいずれも、例えばR2A培地(Reasoner D.J. et al. Appl. Environ. Microbiol., 1985, Vol.49, pp.1-7)又はその寒天を除いた液体培地によって培養して増殖させることができる。培養は好気条件下、例えば4~28℃で行うことができる。R2A培地には、必要に応じて、さらに例えば炭素源、窒素源、無機イオン、アミノ酸、ビタミン等が添加されてもよい。
【0028】
R2A培地で培養して得られるコロニーの色は、Rugamonas sp. R1株は白色、Rugamonas sp. R57株及びRugamonas sp. R64株は青紫色である。
【0029】
Rugamonas sp. R1株、Rugamonas sp. R57株、及びRugamonas sp. R64株の16SリボソームRNA遺伝子配列(16S rRNA遺伝子配列)の配列番号を表1に示す。
【0030】
【0031】
本明細書において、本発明のルガモナス属に属する細菌の「変異体」とは、表1に示す、本発明のルガモナス属に属する細菌のいずれか1種とのゲノム配列の同一性が、例えば98.7%以上、99%以上、99.9%以上、99.99%以上、又は99.999%以上のものを表す。
【0032】
当該変異体は、本発明のルガモナス属に属する細菌のいずれか1種との16S rRNA遺伝子全長の配列相同性が、例えば99.5%以上、99.9%以上又は100%であり得る。ここで、配列相同性は、NCBIのBLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastn(塩基配列の場合)において、Align two or more sequencesを用いて、当該特定の配列をQuery Sequenceに比較する配列を入力し、デフォルトのパラメータでアラインメントを行って得られる「Identities」の百分率である。
【0033】
本発明の細菌の変異体は、例えば、本発明の細菌に変異導入を行い、得られた変異体を下記の[細菌又はその変異体の分離方法]に記載した方法で分離することで得ることができる。
変異導入方法としては、例えばUV照射、X線又はガンマ線照射のような高エネルギーの電磁波による変異導入;N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、ブロモウラシル、エチルメタンスルホネート(EMS)又はアクリジン類のような変異剤による変異導入;遺伝子組み換え又はゲノム編集による変異導入などを使用することができる。
【0034】
(植物の根に共生する細菌又は変異体)
また、本発明のルガモナス属に属する細菌の変異体は、さらに植物の根に共生することができる、という特徴を有することが好ましい。本明細書において、微生物が植物の根に「共生することができる」とは、植物の根の内部に存在して、又は表面に密着して生育することができることを表す。微生物が共生していることは、例えば、植物の根を十分に水で洗浄した後の根に培地を加えて培養して、当該微生物が得られることで確認することができる。
【0035】
[ルガモナス属に属する細菌又はその変異体を含有する組成物]
本発明は、上記の植物生長促進能を有するルガモナス属に属する細菌若しくはその変異体又はそれらの抽出物を含有する組成物を包含する。
【0036】
本発明の組成物に用いられるルガモナス属に属する細菌又はその変異体は、例えばこれら細菌又はその変異体が増殖可能な培地で培養して増殖させたものである。培地及び培養条件は、これら細菌又はその変異体が増殖できるものであれば特に限定されない。例えば、上記の[ルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体]に記載した、Rugamonas sp. R1株等が増殖可能な培地及び培養条件を用いることができる。増殖後の細菌又はその変異体は、適宜、洗浄、遠心分離、凍結、乾燥等の処理を経てもよい。
【0037】
上記細菌の抽出物は、細胞内画分、死菌体及びその破砕物からなる群より選ばれる1種以上を含み得る。抽出物は、例えば、上記の細菌又はその変異体を機械的破砕;凍結融解;超音波処理;酵素、界面活性剤等による化学的処理などにより破砕又は溶菌させ、必要に応じて、公知の遠心分離法、溶媒抽出法などを適宜組み合わせて得ることができる。抽出に際し、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム及び超臨界流体から選ばれる1種以上の溶媒を適宜用いることができる。
【0038】
本発明の組成物には、ルガモナス属に属する細菌又はその変異体の他に、さらに以下の(i)及び(ii)に列記した成分から選ばれる1種単独又は2種以上を含有してもよい。
(i)窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、ホウ素、銅、亜鉛、モリブデン又は塩素を含有する塩。
(ii)油かす類、骨粉類、腐葉土、家禽糞肥料、発酵残渣、植物性堆肥、汚泥堆肥等の有機質肥料成分、その他の土壌改良材。
【0039】
本発明の組成物は、例えば、植物を当該組成物で処理することにより、植物生長促進の用途に使用することができる。なお、当該組成物の形態としては、植物の生長を促進させるための組成物全般を意味し、例えば、植物用の生長促進剤、肥料(微生物肥料を含む)、保護剤、強化剤などを例示できる。
植物生長促進用途に使用する場合、本発明の組成物は、例えば、植物体(根、茎、葉、花、果実、種実等)又は種子の一部又は全部に直接又は間接的に付着させて、又は、植物体を栽培する土壌若しくは植物体に与える水、肥料、活力剤等に添加又は配合して使用することができる。中でも植物体の根若しくは種子に付着させるか、又は土壌に添加又は配合して使用されることが好ましい。
本発明の組成物は、例えば、植物体を栽培する土壌若しくは植物体に与える水、肥料、活力剤等に添加又は配合して、土壌改良の用途に使用することができる。
【0040】
上記植物は、好ましくはイネ科(Poaceae)植物である。イネ科植物としては、例えば、オオムギ、コムギ、ライムギ、エンバク等のムギ類植物、イネ、トウモロコシ、アワ、モロコシ等が挙げられる。中でも、ムギ類植物が好ましく、オオムギ又はコムギがより好ましく、オオムギが更に好ましい。
【0041】
本発明の組成物中の、植物生長促進能を有するルガモナス属(Rugamonas)に属する細菌又はその変異体の生菌数は、例えば、10 CFU/g以上、好ましくは103 CFU/g以上であり、また1010CFU/g以下、107 CFU/g以下とすることができる。
【0042】
[植物の生産方法]
本発明は、上記の組成物で植物体又はその種子を処理することを含む、植物の生産方法を包含する。当該植物及び組成物の使用方法の具体例は、例えば上記の[ルガモナス属に属する細菌又はその変異体を含有する組成物]に記載されたものが挙げられる。
【0043】
本発明の植物の生産方法によれば、当該植物の植物体(根、茎、葉、花、果実、種実等)又は種子の生産量を増加させることができる。
【0044】
[細菌又はその変異体の分離方法]
本発明は、(a)オオムギの根に共生する細菌を培養すること、及び(b)前記細菌の植物生長促進能を有する細菌を選抜することを含む、植物生長促進能を有する細菌又はその変異体の分離方法を包含する。
【0045】
本発明の方法の細菌をサンプリングするオオムギの品種は特に限定されないが、例えば、はるな二条又は早木曽2号が挙げられる。また、当該オオムギの生育環境は、特に限定されないが、オオムギが安定して生育可能な土壌で栽培されていることが好ましい。例えば、長年(例えば、10年以上、好ましくは20年以上)にわたって同じ耕作形態でオオムギが栽培された土壌で栽培されたオオムギの根から、細菌をサンプリングすることができる。このような土壌は植物生長促進能を有する細菌の割合が多く、目的の細菌の分離に好適である。
【0046】
オオムギの根に共生する細菌は、例えば、水で土を十分に洗い落とした後の根を直接培地に接触させて培養することにより分離することができる。又は、例えば、根を乳鉢ですりつぶし、生理食塩水を加え、適宜希釈して培地に広げ、4~28℃で培養することによりコロニーを形成させることができる。
培地は、平板培地又は液体培地を使用することができ、例えば、栄養寒天培地(NB)、R2A培地のような貧栄養培地、PYG(Peptone yeast glucose)培地、LB寒天培地、トリプチケースソイ寒天培地(TSA)、標準寒天培地(SPC)又は、それらの寒天を除いた培地などを使用することができる。一実施形態では、オオムギの根に共生する細菌の分離にはNB、培養と維持にはR2A培地が用いられる。
培養は、好気条件又は嫌気条件で行われるが、好ましくは好気条件である。培養温度は、通常、例えば、4℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上又は35℃以上とすることができ、また、40℃以下、35℃以下、30℃以下又は25℃以下とすることができる。
培養時間は、適宜変更し得るが、例えば、20℃~30℃の場合、1~10日、好ましくは2~5日、より好ましくは2~3日である。
特定の実施形態では、培養時間は、例えば28℃の場合、2~3日である。
【0047】
培養した細菌は、適宜シングルコロニー化などにより単一クローンを分離してから、植物生長促進能を評価することが好ましい。
【0048】
特定の細菌の植物生長促進能の有無は、例えば、植物体(根、茎、葉、花、果実、種実等)又は種子を当該特定の細菌で処理して、生長促進が見られるかどうかで判定することができる。例えば、無処理の植物に対して、細菌で処理した植物に、植物体全体の重量(又は乾燥重量)の増加;地下部(殊に、根)の長さ又は生長速度の増加;地上部の長さ又は生長速度の増加;根の長さ又は数の増加;種子、種実又は果実の収量の増加又は品質の向上;種子、種実又は果実の1個当たりの重量の増加又は品質の向上;花芽の数の増加又は結実数の増加;植物病抵抗性、耐寒性、耐高温性又は耐塩性の向上からなる群より選ばれる1以上が認められる場合、植物生長促進能を有すると判定することができる。特定の実施形態では、無処理の植物に対して、細菌で処理した植物で、植物体全体の乾燥重量の増加又は地下部の生長速度の増加が認められる場合、植物生長促進能を有すると判定する。
【0049】
上記判定のための植物の栽培は、例えば、滅菌したバーミキュライト等の、無菌の土で行うことが好ましい。これにより、他の土壌微生物等が判定に及ぼす影響を抑えることができる。
【0050】
植物生長促進能の有無の判定には、植物として、例えばオオムギの苗又は成体を使用することができ、一実施形態ではオオムギの幼苗が用いられる。また、細菌による処理法としては、例えば、細菌又はその抽出物を含む懸濁液を種子にしみこませる、又は種子を当該懸濁液につけ込む方法が挙げられる。より具体的な例としては、例えば、寒天培地に生育した菌体を回収し、生理食塩水に懸濁し、その懸濁液を種子にしみこませる、又は種子を懸濁液につけ込む方法が挙げられる。
【0051】
本発明の細菌又はその変異体の分離方法では、(a)オオムギの根に共生する細菌を培養する工程より後に、さらに細菌としてルガモナス属に属する細菌を選別する工程を設けてもよい。ルガモナス属に属する細菌を選別する方法としては、例えば適切な選択培地によるスクリーニング、クローン株から得られるDNAのシーケンシング(例えば、16S rRNA遺伝子配列解析等)を使用することができる。
【0052】
本発明の細菌又はその変異体の分離方法は、植物生長促進能を有する細菌又は変異体を容易に分離して株を樹立することができ、特に、植物生長促進能を有するルガモナス属に属する細菌の分離に適する。
【0053】
[他の実施形態]
さらに、本発明は、下記の細菌又はその変異体、及びそれらを含む組成物を包含する。
[11]
配列番号2~68、配列番号70~75、及び配列番号77~106からなる群より選ばれるいずれかのヌクレオチド配列からなる16SリボソームRNA遺伝子をゲノム中に含み、植物生長促進能を有する、細菌又はその変異体。
[12]
[11]に記載の細菌及びその変異体から選ばれる少なくとも1種以上の細菌、又はその抽出物を含有する、組成物。
[13]
[12]に記載の組成物で植物体又はその種子を処理することを含む、植物生長促進方法。
[14]
[12]に記載の組成物を土壌に添加又は配合することを含む、土壌改良方法。
[15]
[12]に記載の組成物で、植物体又はその種子を処理することを含む、植物の生産方法。
【0054】
上記の配列番号2~68、配列番号70~75、及び配列番号77~106からなる群より選ばれるいずれかのヌクレオチド配列からなる16SリボソームRNA遺伝子をゲノム中に含む細菌又はその変異体は、新規の16S rRNA遺伝子配列を有することから、新規の菌株である。
【0055】
上記の細菌又はその変異体は、例えばR2A培地を用いて好気条件で培養することができる。培養温度は、通常、例えば10~40℃又は20℃~35℃である。
【0056】
上記の細菌又はその変異体もまた、植物生長促進能を有する。そのため、それらを含有する本発明の組成物は、植物生長促進や土壌改良等の用途に適し、植物の生産方法に使用することができる。
【実施例0057】
下記では本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。本実施例において使用する分子生物学的手順は、特に言及しない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Fourth Edition)(Sambrookら、Cold Spring Harbour Laboratory Press,2012)を参照することができる。
【0058】
[オオムギの根と根圏に生息する細菌叢のアンプリコン解析]
(1.根と根圏土壌のサンプリング)
岡山大学資源植物科学研究所の慣行区(施肥区)及び無施肥区の2圃場で栽培されたオオムギ2品種(はるな二条、早木曽2号)のそれぞれ3植物個体の根とその周りの土壌の細菌をアンプリコン解析の対象とした。各個体の根は、それらに付着する土ごと2019年1月~6月の異なる日(1月25日、2月15日、3月1日、4月12日、4月26日、5月17日、5月30日)に1回ずつ、計7回サンプリングした。上記2圃場の一方は施肥有り、もう一方は無しの状態で四半世紀以上にわたってイネ・オオムギ二毛作体系を継続しており、土壌がそれぞれの耕作形態に適応した状態にあると考えられる。
【0059】
(2.細菌サンプルの調製)
下記の方法により、各個体の根から細菌サンプル3画分を調製した。調製したサンプルの数は、2品種×2圃場×3個体×7日分×3画分=252サンプルである。
(1)根は、周りの土を手でふるい落として50 mLチューブにサンプリングした。1植物体の根に対し30~35 mLの蒸留水を加え、ボルテックスミキサーで5分間撹拌し、根を取り出し、別のチューブに移して35 mLの水を加えた。
(2)(1)で根を取り出した後の水(土壌懸濁水)は5,000 rpm、20℃で10分遠心し、上清を捨てた後に1 mLの蒸留水を加えて再懸濁し、水で分離可能な洗浄画分(Wash,W)とした。
(3)(1)で取り出した根は、超音波ホモジナイザーVC-505(家田貿易(株)製)で、テーパーマイクロチップを使用して30%出力で15秒超音波処理してから、上記と同じ条件で遠心分離し、沈殿した土を分離した。得られた土を1 mL蒸留水で懸濁し、超音波処理画分(Sonic,S)とした。さらに、超音波処理後の根は1 cm程度にカミソリで切り、根(Root,R)画分とした。得られた3画分は使用するまで-80℃保存した。
【0060】
(3.細菌DNAサンプルの調製)
上記のR、W及びS画分のそれぞれ約300 mg程度の根及び土をそれぞれサンプルとし、Quick-DNA Fecal/Soil Microbe kit(Zymo Research社製)を用いて、キット添付のプロトコールに従って細菌DNAサンプルを調製した。
【0061】
(4.1st PCR)
得られた細菌DNAサンプルを、下記の条件で1st PCRして、細菌16S rRNA遺伝子のV3-V4領域(約500 bp)を増幅した。プライマーは(株)生物技研のプライマーを使用した。当該プライマーの配列は、(株)生物技研のウェブサイト(URL: https://gikenbio.com/pdf/samplepreparation_16S_V3V4.pdf)に公開されている。
<反応組成>
KOD DNA polymerase (TOYOBO) 0.1 μL
Primer F (V3V4f_MIX, 10 μM) 1 μL
Primer R (V3V4r_MIX, 10 μM) 1 μL
細菌DNAサンプル 5 μL(1 ng DNA)
水 残部
全量 25 μL
<反応条件>
94℃ 2分→(94℃ 30秒→55℃ 30秒→72℃ 30秒)×40サイクル→72℃ 5分
【0062】
(5.DNAシーケンシング)
PCR産物を精製してから、下記の条件で2nd PCRでライブラリーを作製し、イルミナ社のMiSeqを用いてDNAシーケンシングした。これらの工程は(株)生物技研に委託して実施した。方法は、上記(株)生物技研ウェブサイトで開示されている。
【0063】
(6.シーケンス解析)
得られたデータをQIIME2.0で解析して細菌叢解析を行った。データベースはgg_13_8_99_v3v4-classifierを使用した。ノイズとキメラ配列を除き、真核生物由来のミトコンドリア、葉緑体の16S rRNA遺伝子配列を除くと、各サンプルのリード数は約4,200から46,000リードであった(平均18,308リード、SD 6244,n=252)。サンプルごとのリード数を
図1に示した。
【0064】
(7.結果)
16S rRNA遺伝子のV3-V4領域のアンプリコン解析の結果を
図2に示した。根(R)画分に特異的な細菌群として、Janthinobacterium属、及びMethylibium属細菌が存在することが判明した。これらは根の周りの土(W画分及びS画分)にはほとんど検出されないことから、根の内部に存在する共生細菌であると考えられた。またオオムギの品種、施肥の有無はあまり影響しなかった。4月までの比較的気温が低い条件でJanthinobacterium属細菌の割合が多く、その後Methylibium属細菌の割合が多くなっていた。
【0065】
[オオムギの各器官に存在する細菌の分離]
2020年4月に、オオムギの根、茎、葉を乳鉢ですりつぶし、生理食塩水に懸濁し、順次希釈したものを栄養寒天培地(NB)及び0.5%メタノールを単一炭素源とし、30 μM 塩化ランタンを加えたミネラル培地(Front. Microbiol. 6:1185, doi: 10.3389/fmicb.2015.01185参照)に植菌し、28℃で3~4日間培養し、生育したコロニーを無差別に分離した。分離株は全てR2A培地(ベクトン・ディッキンソン社製)に生育したので維持にはR2A培地を使用した。最終的に、オオムギの根、茎、葉それぞれ60、26、21株の細菌が分離された。
【0066】
[分離株の16S rRNA遺伝子配列の決定]
上記の分離された菌株について、下記の条件でコロニーPCRを行い、それぞれの菌株の16S rRNA遺伝子領域(約1.5 kbp)を増幅した。
<反応組成>
KOD DNA polymerase (TOYOBO) 0.1 μL
Eu8fプライマー(10 μM) 1 μL
Eu1492rプライマー(10 μM) 1 μL
Template DNA として、寒天培地上に生育した細菌コロニーを爪楊枝で拾った菌体
水 残部
全量 25 μL
<反応条件>
94℃ 2分→(94℃ 30秒→55℃ 30秒→72℃ 30秒)×25サイクル→72℃ 5分
【0067】
次に、得られた増幅断片をDNAシーケンシングして、各菌株の16S rRNA遺伝子全長配列を決定した。上記の増幅及びDNAシーケンシングに使用したプライマーを表2に示した。
【0068】
【0069】
次に、得られた各配列と最も相同性の高い菌株を、EzBioCloud(URL: https://www.ezbiocloud.net/)のデータベースを用いて同定した。同じ同定結果となった菌株は重複として取り除き、
図3に示す106株、23属37種の菌株を分離した。各菌株の16S rRNA遺伝子配列の配列番号と最も相同性の高い菌株の同定結果は表3に示した。
【0070】
【0071】
図3のリストから、Janthinobacterium属、Methylibium属に属する分離株は得られなかったが、根から得られた分離株に、Rugamonas属細菌と相同性の高い株が多いことが判明した。
【0072】
そこで、Rugamonas属細菌と同定された分離株、Janthinobacterium属細菌及びその近縁属の細菌の基準株の16S rRNA遺伝子配列、さらにアンプリコン解析でJanthinobacterium属細菌由来と同定された配列を系統解析した。得られた系統樹(
図4)から、下記の3点が明らかとなった。
(1)Rugamonasと同定された分離株は類縁菌とは異なる系統的位置に属する。
(2)アンプリコン解析でJanthinobacterium属細菌とされた配列は基準株のJanthinobacterium属細菌とは異なっており、分離されたRugamonas属細菌に近い。
(3)Rugamonas属細菌及びJanthinobacterium属細菌と近縁のDuganella属、Massilia属、Herminiimonas属及びPseudoduganella属の細菌とは、系統関係が必ずしも明らかではなく、同じ属名でも系統的に離れたものが多い。
【0073】
さらに、アンプリコン解析でJanthinobacterium属細菌と同定された配列を、これらの基準株の16S rRNA遺伝子配列に対してBLASTプログラムによりヒットさせると、約50%の配列がRugamonas属細菌として分離された株の16S rRNA遺伝子配列と高い相同性を示した(
図5)。
【0074】
以上から、アンプリコン解析でJanthinobacterium属細菌として検出された配列の半分は、分離されたRugamonas属細菌及びその近縁種由来であったことが確認された。
【0075】
[Rugamonas属分離株の形質の特徴及び配列解析]
分離されたRugamonas属細菌のうち、R1株、R57株及びR64株は系統的にそれぞれ離れていた。16S rRNA遺伝子全長配列を用いてEzBioCloudで得られる最も相同性の高い16S rRNA遺伝子を有する基準株とその相同性(塩基の同一性)の結果(2021年1月4日現在)は下記の通りであった。
Rugamonas sp. R1株: Rugamonas rubra ATCC43154(T) 98.97%
Rugamonas sp. R57株: Rugamonas aquatica FT29W(T) 98.48%
Rugamonas sp. R64株: Rugamonas rivuli FT103W(T) 99.38%
一般的に細菌16S rRNA遺伝子配列は98.6%以下であれば別種と判断される。しかし、上記の
図4で示したように、これら既知近縁種の分類体系に関しては問題があり、異なる種においても16S rRNA遺伝子の相同性が高い。
【0076】
そこで、上記3分離株の近縁種と同定された3つのRugamonas属細菌基準株のR2A培地(28℃, 3~4日培養)で培養して得られるコロニーの性状を比較した。Rugamonas sp. R1は白色を呈した。また、Rugamonas sp. R57株及びRugamonas sp. R64株は、それらが産生するビオラセインにより青紫色のコロニーを呈した。一方、基準株であるR. rivuli及びR. aquaticaは薄い茶色(light brown)、R. rubraはピンク色のコロニーを呈することが知られている(Lu et al., Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2020, Vol.70, pp.3328-3334、及びAustin and Moss, J. Gen. Microbiol., 1986, Vol.142, pp.1899-1909)。よって、コロニー性状からも分離された3株は既知のRugamonas属細菌とは異なることが明らかとなった。
【0077】
また、上記3分離株のコロニーは、いずれも固く、寒天培地に張り付いており、白金耳で容易にコロニーを拾えないという特徴が見られた。
【0078】
上記3分離株をR2A液体培地で3日間28℃で培養して、ゲノムDNAを精製し、次世代シーケンシング(MiSeq)によって、それぞれのゲノム配列を決定した。決定したDNA配列の長さ、GC含量、タンパク質コーディング領域の数を表4に示す。
【0079】
【0080】
さらにゲノム配列同士の相同性を調べるデジタルDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)法及び平均ヌクレオチド同一性(Average nucleotide identity, ANI)法により分離株と基準株のゲノム配列の比較の結果を
図6に示す。dDDH値は70%以上、ANI値は95%以上が同種の目安となる。分離株のdDDH値はそれぞれの分離株及び基準株に対して25~40%程度の相同性しか示さず、ANI値も81~90%しか示さなかったことから、分離した3株はそれぞれ異なる種であり、Rugamonas属の既知基準株のいずれとも異なる新種細菌であることが示された。
【0081】
[Rugamonas属分離株のオオムギ幼苗生長促進能の検証]
滅菌水を加えて湿らせたオートクレーブ滅菌したバーミキュライト約130 mLをアグリポットに入れ、1ポット当たりオオムギ(はるな二条)の種を8粒蒔いた。R2A液体培地で培養したRugamonas属細菌3株(Rugamonas sp. R1、Rugamonas sp. R57及びRugamonas sp. R64)を水で洗浄して再懸濁し、OD600=0.5としたものをそれぞれ10μLオオムギ種子に接種した。接種したオオムギを23℃で10~14時間の明暗条件で幼苗になるまで7日間栽培した。得られた幼苗の地上部及び地下部(根)の長さ、根の数を測定し、最後に苗の乾燥重量を測定した。各処理3つのポットを用いて行い、菌の接種をしていないものを対照とした。データは24株の生物学的反復(Biological replicate)として処理した。乾燥重量のみ、ポットごとにまとめて測定して3連のデータとした。One-Way ANOVA及びDunnett testにより対照区(Control)と統計比較した。
【0082】
根の長さ及び乾燥重量の結果を
図7に示す。Rugamonas属分離株は、いずれも対照区よりも乾燥重量が増加していた。また、根の長さも対照区よりも長い傾向にあった。Rugamonas sp. R57及びRugamonas sp. R64は、特に顕著な根の生長促進能が認められた。
【0083】
上記実施例全体から、オオムギの根に共生するRugamonas属細菌に、植物生長促進能を有する細菌種が複数種含まれることが明らかとなった。したがって、オオムギの根に特異的に存在するRugamonas属細菌を分離することによって、その分離菌の中から、植物の生長を促進する細菌を特に容易に分離することができると結論される。
【0084】
[圃場試験]
(方法)
(1)オオムギ種子(はるな二条)を水で洗浄、さらに70%エタノールで3分洗浄、0.1% Tween 20を含む3%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で20分処理、滅菌水で5回すすいで滅菌する。
(2)直径9cmのシャーレに15 mLの水を加え、殺菌した種子(1菌株あたり40粒)を浸す。そこにR2A寒天培地に3~4日、28°Cで培養した、配列番号1~106のいずれかのヌクレオチド配列で特定される16S rRNA遺伝子を有する細菌のコロニーをかき取って懸濁する。菌体は生育度に違いがあるので菌体量は必ずしも同じではないが、懸濁液としてOD600=0.3程度になる量とする。
(3)23°Cで一晩浸漬し、菌体懸濁液を取り除く。濾紙を引いた別の新しいシャーレに種子を移し滅菌水を5 mL加え、一晩23℃で一晩浸漬する。これで種子は発芽する。
(4)岡山大学資源植物科学研究所圃場の慣行区(施肥区)で50 m x 2列の面積を確保する。80 cmの区画に 8cmごとに千鳥状に10個植える。
(5)被検菌は36種類で1被検菌あたり3区画をそれぞれ離れた場所に設ける。コントロールは菌の処理をしていないものとする。
【0085】
上記試験に使用した細菌株のうちのいくつかの細菌で処理したオオムギは、コントロールに比べて、植物体全体の重量(又は乾燥重量)の増加;地下部(殊に、根)の長さ又は生長速度の増加;地上部の長さ又は生長速度の増加;根の長さ又は数の増加;種子、種実又は果実の収量の増加又は品質の向上;種子、種実又は果実の1個当たりの重量の増加又は品質の向上;花芽の数の増加又は結実数の増加;植物病抵抗性、耐寒性、耐高温性又は耐塩性の向上からなる群より選ばれる1以上を呈すると予想される。