(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118549
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】床版と鋼桁の接合構造及び接合方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20220805BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015140
(22)【出願日】2021-02-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年9月9日に藤井雄介、和田圭仙、狩野武、ランコスチャミラが、土木学会第75回年次学術講演会講演概要集に掲載した。 令和2年9月9日に藤井雄介、和田圭仙、狩野武、ランコスチャミラが、ウェブサイトのアドレス「(土木学会のアドレス)」に掲載した。 令和2年9月9日~9月11日に藤井雄介が、土木学会第75回年次学術講演会(WEB開催)で発表を行った。 令和2年10月29日にランコスチャミラが、プレストレストコンクリート工学会第29回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム講演概要集に掲載した。 令和2年10月29日にランコスチャミラが、プレストレストコンクリート工学会第29回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム(WEB開催)で発表を行った。 令和2年10月1日に三井住友建設株式会社がウェブサイトのアドレス「https://www.smcon.co.jp/service/RandD/report-2020/02.html」に掲載した。
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内堀 裕之
(72)【発明者】
【氏名】狩野 武
(72)【発明者】
【氏名】ランコス チャミラ
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄介
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA11
2D059AA14
2D059DD02
2D059GG39
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】床版と鋼桁の接合構造において、床版を貫通する貫通孔をなくし、かつ施工性を高める。
【解決手段】床版と鋼桁の接合構造1は、鋼桁3と、鋼桁3の上に互いに隣接して設置されるプレキャスト製の第1及び第2の床版2A,2Bと、鋼桁3の上面に設けられた突状体6と、第2の床版2Bを鋼桁3に接合するモルタルと、を有している。第2の床版2Bは下面に開口した凹部24を有し、突状体6は凹部24に収容され、凹部24にモルタルが充填されている。第1の床版2Aは第1の接続部27Aを有し、第2の床版2Bは第2の接続部27Bを有し、第1の接続部27Aと第2の接続部27Bが桁行方向に重なることで、第1の床版2Aと第2の床版2Bとの間に接続構造体28が形成される。突状体6と凹部24の側壁との間隔d2は、桁行方向Xにおける第1の床版側2Aで、第1及び第2の接続部27A,27Bの重なり長さd1より大きい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼桁と、前記鋼桁の上に互いに隣接して設置されるプレキャスト製の第1及び第2の床版と、前記鋼桁の上面に設けられた突状体と、前記第2の床版を前記鋼桁に接合するモルタルと、を有し、
前記第2の床版は下面に開口した凹部を有し、前記突状体は前記凹部に収容され、前記凹部に前記モルタルが充填され、
前記第1の床版は第1の接続部を有し、前記第2の床版は第2の接続部を有し、前記第1の接続部と前記第2の接続部が桁行方向に重なることで、前記第1の床版と前記第2の床版との間に接続構造体が形成され、
前記突状体と前記凹部の側壁との間隔は、前記桁行方向における前記第1の床版側で、前記第1及び第2の接続部の重なり長さより大きい、床版と鋼桁の接合構造。
【請求項2】
前記第1の床版は、前記桁行方向に延び一端に前記第1の接続部が設けられた第1の貫通孔を有し、前記第2の床版は、前記桁行方向に延び一端に前記第2の接続部が設けられた第2の貫通孔を有し、前記第1及び第2の貫通孔と前記接続構造体は周囲に対して仕切られた連続した空間を形成し、
前記空間に、前記第1及び第2の床版に圧縮力を付与する緊張材が挿入されている、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記凹部の上部に接続された上部空気排出部を有する、請求項1または2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記上部空気排出部は前記凹部の上面に接続されている、請求項3に記載の接合構造。
【請求項5】
前記上部空気排出部は前記第2の床版の下面側に開口する、請求項3または4に記載の接合構造。
【請求項6】
前記モルタルは前記第2の床版と前記鋼桁との間に、前記桁行方向に連続的に設けられ、前記第2の床版と前記鋼桁との間にモルタル充填部と下部空気排出部が設けられている、請求項3から5のいずれか1項に記載の接合構造。
【請求項7】
前記下部空気排出部は、前記第2の床版の前記桁行方向における端部に設けられている、請求項6に記載の接合構造。
【請求項8】
前記第2の床版は、平板状の本体と、前記本体の下面に設けられ、少なくとも桁行方向に延びる複数のリブと、を有し、前記凹部は少なくとも前記リブの厚さ方向の一部に設けられる、請求項1から7のいずれか1項に記載の接合構造。
【請求項9】
鋼桁の上に第1の床版を配置する第1の配置工程と、
前記鋼桁の上に、前記第1の床版に隣接してプレキャスト製の第2の床版を配置する第2の配置工程と、
前記第1の床版を前記鋼桁に接合する第1の接合工程と、
前記第2の床版を前記鋼桁に接合する第2の接合工程と、を有し、
前記鋼桁の上面に突状体が設けられ、前記第2の床版は下面に開口した凹部を有し、前記第1の床版は第1の接続部を有し、前記第2の床版は第2の接続部を有し、
前記第2の配置工程は、
前記突状体が前記凹部に収容された状態で、前記第2の接続部が桁行方向に前記第1の接続部から離間するように、前記第2の床版を前記鋼桁に対して位置決めする第1の位置決め工程と、
前記第1の接続部と前記第2の接続部が桁行方向に重なることで、前記第1の床版と前記第2の床版との間に接続構造体が形成されるように、前記第2の床版を前記第1の床版に近づける第2の位置決め工程と、を有し、
前記第2の接合工程は、前記凹部にモルタルを充填することを有し、
前記凹部は、前記第1の位置決め工程において、前記第2の接続部が前記桁行方向に前記第1の接続部から離間可能な寸法を有している、床版と鋼桁の接合方法。
【請求項10】
前記凹部の上部に接続された上部空気排出部を有し、前記接合工程では、前記上部空気排出部から前記モルタルが流出するまで、前記凹部に前記モルタルが充填される、請求項9に記載の接合方法。
【請求項11】
前記モルタルは前記第2の床版と前記鋼桁との間に連続的に設けられ、前記第2の床版と前記鋼桁との間に下部空気排出部が設けられ、前記接合工程では、前記下部空気排出部から前記モルタルが流出するまで前記モルタルが充填される、請求項10に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は床版と鋼桁の接合構造及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁等の床版取り換え工事が数多く実施されている。床版を鋼桁に接合する方法としては、床版に厚さ方向に貫通する貫通孔を設け、貫通孔の内部にスタッドを配置し、スタッドの下端を鋼桁の上面に接合し、その後モルタルを貫通孔に充填する方法が一般的に行われている。しかし、この方法ではモルタルが床版を厚さ方向に貫通するため、モルタルと貫通孔の側壁との隙間から水分や塩分が侵入し、床版の下面に到達する可能性がある。道路の維持管理を考慮した場合、このような現象に伴う接合部の耐久性の低下を避けることが望ましい。特許文献1にはプレキャスト床版と鋼桁の接続構造が開示されている。床版に、床版の下面に開口する凹部が設けられ、鋼桁の上面にスタッドが設けられ、スタッドが凹部に収容されるように床版が鋼桁に位置決めされる。その後、凹部に無収縮モルタルが充填される。この接続構造によれば、床版の上面と下面をつなぐ水分や塩分の経路が形成されないため、接合部の耐久性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に床版はプレキャスト製とされており、床版同士の接合は現場で行われる。床版間には接続構造体が設けられ、接合にあたっては、新たに据え付ける床版と施工済みの床版との間に接続構造体が形成される。そのためには、新たに据え付ける床版を桁行方向に動かしながら、位置調整を行う作業が必要となる。特許文献1にはこの作業について開示されておらず、この作業を可能とする接合構造の構成も開示されていない。
【0005】
本発明は、床版を貫通する貫通孔が形成されず、かつ施工性に優れた、床版と鋼桁の接合構造及び接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の床版と鋼桁の接合構造は、鋼桁と、鋼桁の上に互いに隣接して設置されるプレキャスト製の第1及び第2の床版と、鋼桁の上面に設けられた突状体と、第2の床版を鋼桁に接合するモルタルと、を有している。第2の床版は下面に開口した凹部を有し、突状体は凹部に収容され、凹部にモルタルが充填されている。第1の床版は第1の接続部を有し、第2の床版は第2の接続部を有し、第1の接続部と第2の接続部が桁行方向に重なることで、第1の床版と第2の床版との間に接続構造体が形成される。突状体と凹部の側壁との間隔は、桁行方向における第1の床版側で、第1及び第2の接続部の重なり長さより大きい。
【0007】
本発明の床版と鋼桁の接合方法は、鋼桁の上に第1の床版を配置する第1の配置工程と、鋼桁の上に、第1の床版に隣接してプレキャスト製の第2の床版を配置する第2の配置工程と、第1の床版を鋼桁に接合する第1の接合工程と、第2の床版を鋼桁に接合する第2の接合工程と、を有している。鋼桁の上面に突状体が設けられ、第2の床版は下面に開口した凹部を有し、第1の床版は第1の接続部を有し、第2の床版は第2の接続部を有している。第2の配置工程は、突状体が凹部に収容された状態で、第2の接続部が桁行方向に第1の接続部から離間するように、第2の床版を鋼桁に対して位置決めする第1の位置決め工程と、第1の接続部と第2の接続部が桁行方向に重なることで、第1の床版と第2の床版との間に接続構造体が形成されるように、第2の床版を第1の床版に近づける第2の位置決め工程と、を有している。第2の接合工程は、凹部にモルタルを充填することを有している。凹部は、第1の位置決め工程において、第2の接続部が桁行方向に第1の接続部から離間可能な寸法を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、床版を貫通する貫通孔が形成されず、かつ施工性に優れた、床版と鋼桁の接合構造及び接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の床版と鋼桁の接合構造が適用される床版と鋼桁の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る接合構造の、
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る接合構造の、
図1のB-B線に沿った断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る接合構造の施工手順(施工前)を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る接合構造の施工手順(配置工程)を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る接合構造の施工手順(接合工程)を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る接合構造の施工手順(緊張工程)を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る接合構造の施工手順(接合工程)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の床版2と鋼桁3の接合構造1及び床版2と鋼桁3の接続方法の実施形態について説明する。以下の説明で、鋼桁3の延在する方向、すなわち鋼桁3の長手方向を桁行方向Xといい、鋼桁3の幅方向の寸法を桁幅方向Yという。桁行方向Xと桁幅方向Yは直交しており、通常は、桁行方向X及び桁幅方向Yは鉛直方向Zと直交している。
図1は床版2と鋼桁3の斜視図、
図2は
図1に示す床版2の下面21を示す斜視図である。
図3は
図1のA-A線に沿った鋼桁3と床版2の断面図であり、
図3(a)は4つの床版2を示す図、
図3(b)は1つの床版2の拡大図である。
図4は
図1のB-B線に沿った鋼桁3と床版2の断面図であり、特に接合構造1の詳細な断面を示している。床版2は桁行方向Xに一つずつ順番に取り付けられるため、先行して鋼桁3に設置される床版2を第1の床版2A、第1の床版2Aの直後に第1の床版2Aに隣接して鋼桁3に設置される床版2を第2の床版2Bと称する場合がある。
【0011】
鋼桁3は、一例として4本の鋼製梁31からなり、その上に多数のプレキャスト製の床版2が桁行方向Xに配置されている。各床版2の桁行方向Xの長さは1.5~3mであり、桁幅方向Yの長さは鋼桁3の全幅とほぼ等しい。床版2間にはモルタルからなる間詰材4が充填され、後述するように床版2にはプレストレスが掛けられる。床版2は、平板状の本体22と、本体22の下面に設けられた複数のリブ23と、を有している。リブ23は桁行方向Xに延びる縦リブ23Xと、桁幅方向Yに延びる横リブ23Yで構成され、縦リブ23Xは鋼製梁31と対向する位置に設けられている。すなわち、床版2は縦リブ23Xの位置で鋼桁3に固定される。
【0012】
床版2は、鉄筋やPC鋼材など、腐食する可能性のある材料を含んでいない。このため、将来の維持管理の負担が軽減される。具体的には、床版2は設計基準強度80N/mm2の高強度繊維補強コンクリートで形成され、緊張材5としてアラミドFRPロッドが用いられている。床版2は下面21に開口した凹部24を有している。凹部24は縦リブ23Xに設けられている。凹部24にはモルタル7が充填される。凹部24は縦リブ23Xの厚さ方向の少なくとも一部に設けられていればよく、縦リブ23Xを貫通し、さらに本体22の厚さ方向の一部に設けられてもよい。凹部24の周辺に補強筋は設置されていない。凹部24は桁行方向Xに長く桁幅方向Yに短い長方形断面を有しているが、後述するように、重要なのは桁行方向Xの寸法であり、桁幅方向Yの寸法は施工上必要な最小寸法が確保されていればよい。従って、凹部24の断面形状は長方形である必要はなく、正方形、円、楕円等であってもよい。凹部24の深さは床版2の強度、モルタルの突状体6(後述)との付着長さ、後述する上部空気排出部9の配置スペースなどを考慮して決定することができる。なお、床版2の構成は特に限定されるものではなく、例えば鉄筋コンクリート造のプレキャスト床版を用いることもできる。また、緊張材5もアラミドFRPに限定されるものではなく、例えば、PC鋼材や、CFPC(Carbon Fiber Reinforced Polymer)などの他のFRP緊張材を用いることができる。
【0013】
鋼桁3の上面に突状体6が設けられている、本実施形態の突状体6は、鋼桁3の上面32に溶接されたスタッドである。突状体6は凹部24に収容され、凹部24に充填されたモルタル7に埋め込まれている。突状体6は、床版2からモルタル7を介して伝達される水平力を、鋼桁3に伝達する。水平力によって生じるせん断力を鋼桁3に伝達することができる限り、突状体6の形状は限定されず、スタッド以外の棒状体や箱状体などであってもよい。
【0014】
モルタル7は床版2を鋼桁3に接合する。モルタル7としては好ましくは無収縮モルタルが用いられる。モルタル7は上述のように凹部24に充填されるほか、床版2と鋼桁3との間に、桁行方向Xに連続的に設けられる。凹部24にモルタル7が充填されたことを確認するために、凹部24の上部に上部空気排出部9が接続されている。上部空気排出部9は凹部24の上面25に接続されているため、凹部24がモルタル7で充填されたことを確実に確認することができる。上部空気排出部9は凹部24の上面25以外の位置に接続してもよいが、その場合も、できる限り凹部24の上面25の近傍の位置に接続することが好ましい。上部空気排出部9は例えば床版2に埋め込まれた樹脂や木の型枠、ビニールチューブ等で形成することができる。床版2を鋼桁3に取り付ける前に、上部空気排出部9の一端から他端まで連続した流路が形成されていることを確認することが好ましい。上部空気排出部9は凹部24の上面25から上方に立ち上がり、途中で下方に曲がり床版2の下面21側に開口する。これによって、上部空気排出部9の端部開口と後述する下部空気排出部9の端部開口がともに床版2の下面21側に位置するため、モルタル7の充填の確認を容易に行うことができる。また、上部空気排出部9が床版2を厚さ方向に貫通しないため、床版2を貫通する水分や塩分の経路が形成されることがない。
【0015】
床版2には緊張材5を挿通するための、桁行方向Xに延びる貫通孔26が形成されている。具体的には、第1の床版2Aは、桁行方向Xに延びる複数の第1の貫通孔26Aを有し、第2の床版2Bは、桁行方向Xに延びる複数の第2の貫通孔26Bを有している(
図6~9参照)。第1の貫通孔26Aの第2の貫通孔26Bと対向する一端に第1の接続部(カプラー)27Aが設けられ、第2の貫通孔26Bの第1の貫通孔26Aと対向する一端に第2の接続部(カプラー)27Bが設けられている。第1の接続部27Aは、第1の床版2Aの第2の床版2Bと対向する端面から突き出した管であり、第2の接続部27Bは、第2の床版2Bの第1の床版2Aと対向する端面から突き出した管である。第1及び第2の接続部27A、27Bは第1及び第2の床版2Bが取り付けられた状態で、対応する第1及び第2の貫通孔26A,26Bと同心であり、且つ一方に他方が嵌るように若干外径を異ならせている。第1の接続部27Aと第2の接続部27Bの構成はこれに限定されず、例えば第1の接続部27Aを第1の床版2Aの第2の床版2Bと対向する端面の開口とし、第2の接続部27Bを第2の床版2Bの第1の床版2Aと対向する端面から突き出し、上記開口に嵌る管としてもよい。いずれにしても、第1の接続部27Aと第2の接続部27Bが桁行方向Xに重なることで、第1の床版2Aと第2の床版2Bとの間に接続構造体28が形成される(
図6(b)参照)。そしてこの接続構造体28によって、第1の貫通孔26Aと第2の貫通孔26Bが連結され、周囲に対して仕切られた連続した空間29が形成され、空間29に、第1及び第2の床版2A,2Bに圧縮力を付与する緊張材5が挿入される。これによって、第1の床版2Aと第2の床版2Bとの間の間詰材4を充填する際に、間詰材4が第1の貫通孔26Aと第2の貫通孔26Bに流入することを防止することができる。また、緊張材5を緊張することで、第1及び第2の床版2A,2Bの強度を高めることができる。
【0016】
次に、以上説明した床版2と鋼桁3の接合構造1の形成方法、ないし床版2と鋼桁3の接合方法について説明する。以下の説明では、第1の床版2Aはすでに鋼桁3に配置され、第2の床版2Bを第1の床版2Aに隣接して、鋼桁3に配置するものとする。
図5には第1の床版2Aとその直前に設置された床版2A’を示している。鋼桁3の上面32の所定の位置には、予め突状体6(スタッド)が設置されている。接合方法は第1の床版2Aが固定された鋼桁3の上に、第1の床版2Aに隣接して第2の床版2Bを配置する配置工程と、配置工程に続き、第2の床版2Bを鋼桁3に接合する接合工程と、を有している。
【0017】
配置工程は、第1の位置決め工程(
図6(a)参照)と、第2の位置決め工程(
図6(b)参照)と、を有している。第1の位置決め工程では、クレーンなどの揚重機で第2の床版2Bを吊り上げ、突状体6が凹部24に収容されるように鋼桁3の所定の位置に配置する。第2の床版2Bの鋼桁3との上下方向の間隔は、スペーサ(図示せず)によって調整される。この際、
図6(a)に示すように、第2の接続部27Bが第1の接続部27Aから桁行方向Xに離間するように、第2の床版2Bを鋼桁3に対して位置決めする。凹部24は突状体6に対して相対的に右側に寄るが、凹部24の寸法に余裕を持たせてあるため、凹部24の側壁241と干渉することはない。その後、第2の位置決め工程では、
図6(b)に示すように、第2の床版2Bを左側に動かす。すなわち、第2の床版2Bを第1の床版2Aに近づける。第1の接続部27Aと第2の接続部27Bが桁行方向Xに重なることで、第2の接続部27Bが第1の接続部27Aに接続され、第1の床版2Aと第2の床版2Bとの間に接続構造体28が形成される。このとき、突状体6は桁行方向Xにおいて凹部24のほぼ中央に位置していることが好ましい。以上の工程が実施可能であるためには、
図6(b)から分かるように、突状体6と凹部24の側壁241との間隔d2(間隔d2は、桁行方向Xにおける第1の床版2A側の寸法)が、第1及び第2の接続部27A,27Bの重なり長さd1より大きければよい。現実的には、
図6(c)に示すように、第1の接続部27Aと第2の接続部27Bの間に施工上の余裕代G1を確保し、突状体6と凹部24の側壁241との間に施工上の余裕代G2を確保することが好ましい。施工上の余裕代G2には、緊張材5の緊張力で床版2に生じる弾性変形(圧縮変形)の吸収代を含む。余裕代G1,G2は施工条件に応じて適宜設定することができる。d2=d1+G1+G2であるから、d2-d1=G1+G2となる。つまり、間隔d2は接続部の重なり長さd1よりも大きければいいが、現実的には余裕代G1、G2の合計だけ、重なり長さd1より大きいことが好ましい。
【0018】
次に接合工程を行う。まず、
図7に示すように、第1の床版2Aと第2の床版2Bとのギャップ12にモルタルが充填され、間詰材4が形成される。その後必要な体数の床版2を設置したら、
図8に示すように貫通孔26に緊張材5を挿入し、緊張材5を緊張して各床版2に桁行方向Xの圧縮力を掛ける。
【0019】
次に、
図9に示すように、モルタル7を各床版2と鋼桁3との間に連続的に設ける。モルタル7は凹部24にも充填される。以下、第2の床版2Bを例に説明する。
図9(a)は
図1のA-A線に沿った断面図であり、
図9(b)は
図1のB-B線に沿った断面図である。
図9(b)では、モルタル充填部8と上部空気排出部9と下部空気排出部10を示しているが、これらは桁行方向Xの互いに異なる位置にあってもよい。鋼桁3と第2の床版2Bの間には型枠11が設けられ、モルタル7は第2の床版2Bと鋼桁3との間に設置されたモルタル充填部8から充填される。モルタル充填部8は例えば、型枠11を貫通するビニールホースである。第2の床版2Bと鋼桁3との間にはさらに下部空気排出部10が設けられている。下部空気排出部10は例えば、型枠11を貫通するビニールホースである。上部空気排出部9と下部空気排出部10からモルタル7が流出するまで、凹部24にモルタル7が充填される。これによって、第2の床版2Bと鋼桁3との間の空間及び凹部24にモルタル7が充填されたことが確認できる。下部空気排出部10は充填される空間の端部に設けられることが好ましく、例えば第2の床版2Bの桁行方向Xにおける両側端部(
図9(a)のA部及びその反対側の端部(図示せず))に設けられる。上部空気排出部9は接合工程の後も第2の床版2Bの内部に残存し、上部空気排出部9の内部にはモルタルが充填される。モルタル充填部8と下部空気排出部10は接合工程の後に除去してもよいし残存させてもよい。
【0020】
上述の接合工程では、まずギャップ12に間詰材4を形成し、次に緊張材5を緊張させ、その後モルタル7を充填しているが、先にモルタル7を充填し、その後間詰材4を形成し、さらに緊張材5を緊張させることもできる。
【0021】
以上、本発明を一実施形態によって説明したが、本発明はこの実施形態に限定されない。例えば、床版間に鉄筋の継手を設けることができる。鉄筋の継手は、両側の床版の互いに対向する側面から張り出すループ鉄筋を、桁行方向Xに重ね合わせることによって形成される。従って、ループ鉄筋が第1及び第2の接続部27A,27Bとなり、継手が接続構造体28となる。この場合も継手の形成のために床版を桁行方向Xに移動する作業が必要となり、本発明を好適に適用することができる。
【0022】
また、上記の実施形態では、第1の床版2Aが予めモルタル7で鋼桁3に固定され、その後第2の床版2Bが鋼桁3に配置され、間詰材4で第1の床版2Aに接合され、最後にモルタル7で鋼桁3に固定される。しかし、第1の床版2Aと第2の床版2B(及び場合によっては後続の床版)を鋼桁3に配置し、これらを間詰材4で相互に接合し、その後モルタル7を充填して、第1の床版2Aと第2の床版2B(及び場合によっては後続の床版)をまとめて鋼桁3に固定してもよい。つまり、本発明の床版と鋼桁の接合方法は、鋼桁の上に第1の床版を配置する第1の配置工程と、鋼桁の上に、第1の床版に隣接してプレキャスト製の第2の床版を配置する第2の配置工程と、第1の床版を鋼桁に接合する第1の接合工程と、第2の床版を鋼桁に接合する第2の接合工程と、を有している。上記実施形態では、第1の配置工程、第1の接合工程、第2の配置工程、第2の接合工程の順に実施したが、変形例では、第1の配置工程、第2の配置工程、第1及び第2の接合工程の順に実施される。
【符号の説明】
【0023】
1 床版と鋼桁の接合構造
2 床版
2A 第1の床版
2B 第2の床版
3 鋼桁
5 緊張材
6 突状体
7 モルタル
8 モルタル充填部
9 上部空気排出部
10 下部空気排出部
22 本体
23 リブ
24 凹部
26A 第1の貫通孔
26B 第2の貫通孔
27A 第1の接続部
27B 第2の接続部
28 接続構造体
X 桁行方向