(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118565
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】表面分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2252 20180101AFI20220805BHJP
G01N 23/2209 20180101ALI20220805BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2209
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015166
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 丈寛
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001CA01
2G001EA01
2G001GA06
2G001HA03
2G001JA09
2G001KA01
(57)【要約】
【課題】元素マッピング分析で得られたデータに基いて、3元系状態図を利用した簡便で汎用性の高い解析を行う。
【解決手段】本発明に係る表面分析装置の一態様は、試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である3以上の元素の量を反映した信号を取得する測定部(1、2、4、5、7)と、測定部による測定結果に基いて所定の三つの元素についての3元散布図を作成するものであって、その三つの元素の信号強度をその濃度和が100%である重量濃度又は質量濃度に換算する第1換算部(62)と、第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度を、該元素の原子量を用いて、その濃度の和が100%であるモル濃度又は原子濃度に換算する第2換算部(63)と、三つの元素のモル濃度又は原子濃度を軸とする3元散布図を作成する散布図作成部(64)と、を含むデータ処理部(6)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である3以上の元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて所定の三つの元素についての3元散布図を作成するものであって、前記所定の三つの元素の信号強度をその濃度和が100%である重量濃度又は質量濃度に換算する第1換算部と、該第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度を、該元素の原子量を用いて、その濃度の和が100%であるモル濃度又は原子濃度に換算する第2換算部と、前記所定の三つの元素のモル濃度又は原子濃度を軸とする3元散布図を作成する散布図作成部と、を含むデータ処理部と、
を備える表面分析装置。
【請求項2】
前記第2換算部は、前記第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度をその元素の原子量で除して仮値を求めたうえで、前記所定の三つの元素についての該仮値の和が100%になるようにそれぞれの仮値を規格化する計算を実行する、請求項1に記載の表面分析装置。
【請求項3】
前記データ処理部は、その軸の濃度表示を重量濃度又は質量濃度とモル濃度又は原子濃度とで切り替えた3元散布図を表示する表示処理部をさらに備える、請求項1又は2に記載の表面分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料上の1次元又は2次元の測定領域に存在する成分(元素や化合物)の分布を調べる表面分析装置に関する。この表面分析装置は、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)などを含む。
【背景技術】
【0002】
EPMAを用いた元素マッピング分析では、試料上の2次元領域内の多数の微小領域(測定点)それぞれについて、含有元素の種類と量を調べることができる。こうした元素マッピング分析で得られた結果を解析する際には、例えばユーザーにより指定された二つ又は三つの元素についての特性X線の信号強度又はその信号強度から計算される元素濃度の散布図を作成し、その図上のプロット点の分布から、試料に含まれる化合物の種類やその含有割合を確認する手法、即ち、相解析(又は相分析)がしばしば用いられる。
【0003】
例えば特許文献1の
図11には、三つの元素についての3元散布図の一例が示されている。3元散布図は、3本の各軸にそれぞれ元素の相対強度又は%濃度をとった図であり、三つの元素の強度又は濃度はその合計が100%になるように規格化されている。また、3元散布図(2元散布図も同様)の軸が濃度である場合、通常、それは重量濃度(wt%)又は質量濃度(mass%)のいずれかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-153858号公報
【特許文献2】特開2006-125952号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】副島、「各種表面分析法の定量性 2.EPMAの定量性」、表面科学、第7巻、第3号、1986年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉱物学や合金製造等の分野では、EPMA等によって試料に含まれる複数の元素の濃度をそれぞれ測定し、その測定結果に基く化学組成によって試料を分類する場合に、技術論文等の様々な資料に公開されている3元系状態図が広く利用されている。3元系状態図は、金属分野では、ギブス(Gibbs)の三角形とも呼ばれている。
図4は、鉱物学において使用される3元系状態図の概念図である。この3元系状態図では、それぞれ指定された三つの元素又は化合物(
図4における[A]、[B]、[C])が正三角形の各頂点に対応付けられ、三つの辺はその元素又は化合物の濃度を示す軸である。そして、測定対象の試料に含まれる3元素の濃度が三角形の内部のどの位置にプロットされるのかによって、該試料を構成する鉱物(
図4におけるi、ii、iii、…)が同定されるようになっている。3元系状態図における濃度軸の単位としては、モル濃度(mol%)が広く利用されている。
【0007】
上述したような3元系状態図を使用した鉱物解析では、従来一般に、試料上の特定の測定点に存在する全ての元素(測定可能な全ての元素)の信号強度をEPMAによって測定し、その信号強度から標準感度法や検量線法を用いた換算によって重量濃度(又は質量濃度)を計算する。そして、その全含有元素の重量濃度から各元素の原子量を利用してモル濃度を算出し、全含有元素のモル濃度に対応する点を3元系状態図上にプロットすることで、その試料上の上記測定点に存在する鉱物を同定する。
【0008】
EPMAは一般に波長分散型分光器を用いているため、複数の元素の特性X線を同時に検出することができず、全含有元素の信号強度を得ようとすると時間が掛かる。そのため、或る程度の広い領域についての元素マッピング分析では、着目する少数の元素のみの測定が実施される場合が多い。そのため、各測定点において全含有元素のモル濃度を求めることができず、その測定点を3元系状態図上にプロットすることができない。即ち、3元散布図上のプロット点と3元系状態図とを対比して、例えば3元散布図上で把握できるプロット点の集まりがどのような鉱物に対応しているのかを判断することは困難である。
【0009】
これに対し特許文献2に記載の表面分析装置では、3元系状態図(特許文献2では3成分系状態図)の濃度軸が質量濃度と原子濃度とで切替え可能となっており、濃度軸として質量濃度を選択することで3元散布図との対比を行うことを可能としている。しかしながら、この従来の表面分析装置では、様々な3元系状態図を予めスキャナ等を利用して装置に取り込んでデータベース化しておくことを想定しており、測定によって作成された3元散布図をデータベース化されている3元系状態図としか対比することができず制約が大きい。また、ユーザーは、測定によって作成された3元散布図を手元の資料にある3元系状態図と簡便に対比することができない、という問題もある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、或る程度の広い領域についての元素マッピング分析で得られたデータに基いて、3元系状態図を利用した簡便で汎用性の高い解析が行える表面分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である3以上の元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて所定の三つの元素についての3元散布図を作成するものであって、前記所定の三つの元素の信号強度をその濃度和が100%である重量濃度又は質量濃度に換算する第1換算部と、該第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度を、該元素の原子量を用いて、その濃度の和が100%であるモル濃度又は原子濃度に換算する第2換算部と、前記所定の三つの元素のモル濃度又は原子濃度を軸とする3元散布図を作成する散布図作成部と、を含むデータ処理部と、
を備える。
【0012】
本発明に係る上記態様の表面分析装置は典型的には、EPMA、SEMなどの波長分散型分光器を備える表面分析装置である。こうした表面分析装置では、試料上で励起線(電子線やX線など)を照射する位置を変更しながら測定を繰り返すことで、試料上の1次元領域又は2次元領域内の多数の位置それぞれにおける元素の存在量を反映した信号を取得することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、一般に公開されている3元系状態図の軸はモル濃度又は原子濃度で示されている。本発明に係る上記態様の表面分析装置によれば、元素マッピング分析によって作成され得る3元散布図が、重量濃度や質量濃度ではなくモル濃度又は原子濃度を軸として示されるので、ユーザーはその3元散布図をそのまま一般的な3元系状態図と対比し、例えば鉱物の同定などを行うことができる。それにより、ユーザーは手元の資料にある3元系状態図を利用して簡便に解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態であるEPMAの要部の構成図。
【
図2】本実施形態のEPMAにおける試料測定から3元散布図表示までの処理の手順を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態のEPMAにおいて表示される3元散布図の一例を示す図。
【
図5】表面観察画像と3元散布図の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る表面分析装置の一実施形態であるEPMAについて、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のEPMAの要部の構成図である。
【0016】
図1に示すように、電子線照射部1は電子銃100や図示しない偏向コイル等を含み、微小径の電子線を試料ステージ2上に載置された試料3に照射する。この電子線を受けて、元素に特有の波長を有する特性X線が試料3の表面から放出される。試料3から放出された特性X線は分光結晶4で波長分散され、特定の波長の回折X線がX線検出器5により検出される。また、図示しないものの、このEPMAは、反射電子や2次電子を検出する検出部を備え、その検出部は、電子線の照射に応じて試料3から放出された反射電子や2次電子を検出する。
【0017】
試料3上の電子線照射位置と分光結晶4とX線検出器5とは常にローランド円上に位置しており、図示しない駆動機構によって分光結晶4は直線的に移動しつつ傾斜され、この移動に連動してX線検出器5は回動される。これにより、ブラックの回折条件を満たすように、つまり分光結晶4に対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とが等しい状態に保たれつつ、分析対象であるX線の波長走査が達成される。X線検出器5によるX線強度の検出信号は、データ処理部6に入力される。
【0018】
試料ステージ2は、試料ステージ駆動部7によって、互いに直交するX軸、Y軸の二軸方向にそれぞれ移動可能である。この移動によって、試料3上での電子線の照射位置が2次元的に走査される。また、試料ステージ2を移動させるのではなく、電子線照射部1において電子線の射出方向を偏向させることで、試料3上での電子線の照射位置を走査することも可能である。
【0019】
データ処理部6は、機能ブロックとして、元素強度算出部60、データ保存部61、重量濃度換算部62、モル濃度換算部63、3元散布図作成部64、表示処理部65などを含む。
【0020】
分析制御部8は試料3に対する分析を実行するために、試料ステージ駆動部7、分光結晶4やX線検出器5を移動させる駆動機構などの動作を制御する。中央制御部9は装置全体の制御や入出力処理を担うものであり、中央制御部9には、キーボードやマウス(又はそれ以外のポインティングデバイス)を含む操作部10、及び表示部11が接続されている。
【0021】
なお、典型的には、中央制御部9、分析制御部8、及びデータ処理部6の全て又は一部は、パーソナルコンピューターにより構成され、該コンピューターにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該コンピューターで実行することにより、それぞれの機能が達成されるようにすることができる。
【0022】
図2は、本実施形態のEPMAにおける試料測定から3元散布図表示までの処理の手順を示すフローチャートである。
図2に従って、本実施形態のEPMAにおける特徴的な処理について説明する。
【0023】
本実施形態のEPMAにおいて元素マッピング分析(面分析)を行う場合、分析制御部8は、予めユーザーにより指定された目的元素の特性X線波長に対応して分光結晶4の位置を固定し、試料3上の所定の(通常はユーザーにより指定された)2次元領域内で電子線の照射位置を所定の順序で変更しつつ、特性X線の検出を繰り返すように、試料ステージ駆動部7や電子線照射部1等を動作させる。そして、一つの目的元素についての強度分布の取得を終了したならば、別の目的元素について同様の測定を実行する。元素強度算出部60は、試料3上の測定点毎に複数の目的元素のX線強度を取得する。このX線強度データがデータ保存部61に格納される(ステップS1)。
【0024】
なお、波長分散型分光器でなくエネルギー分散型X線分光器を用いた場合には、元素強度算出部60は、2次元領域内の測定点毎にそれぞれX線スペクトルを作成し、そのX線スペクトル上で目的元素に対応する特定波長のピークを検出し、そのピーク強度を求めることによって目的元素のX線強度を算出することができる。
【0025】
試料3上の2次元領域内に設定された全ての測定点についての測定が終了したあと、ユーザーが操作部10から所定の操作を行うと、重量濃度換算部62はデータ保存部61から測定点毎の三つの元素(以下、元素A、B、Cとする)についてのX線強度データを読み出す。そして、重量濃度換算部62は、X線強度を重量濃度又は質量濃度に換算する処理を行う。ここで、重量濃度又は質量濃度は、三つの元素A、B、Cの重量濃度又は質量濃度の和が100%になるように規格化された値である(ステップS2)。
【0026】
ステップS2の処理は、例えば非特許文献1に開示されているような、従来一般的に行われている標準感度法又は検量線法などを用いて行うことができる。この処理によって、測定点毎に、元素A、B、Cの重量濃度が得られる。なお、重量濃度ではなく質量濃度を用いてもよい。従来一般的な3元散布図では、この三つの元素の重量濃度(又は濃度に換算される前の相対信号強度)を軸として、試料3上の一つの測定点が一つの点としてプロットされている。
【0027】
次に、モル濃度換算部63は、予め与えられている元素A、B、Cの原子量の情報を利用して、測定点毎に、元素A、B、Cの重量濃度をモル濃度(又は原子濃度)に換算する処理を行う(ステップS3)。具体的には、モル濃度換算部63は次のような演算を実施するものとすることができる。
【0028】
いま、試料3上の或る一つの測定点における元素A、B、Cの重量濃度(wt%)をWA、WB、WCとする。上記規定より、WA+WB+WC=100である。元素A、B、Cの原子量をa、b、cとしたとき、元素A、B、Cのモル濃度(mol%)MA、MB、MCは、MA=K×(WA/a)、MB=K×(WB/b)、MC=K×(WC/c)である。ここで、Kは不明な係数である。
【0029】
但し、3元散布図の三つの軸の表示を重量濃度からモル濃度に変換した場合でも、三つの元素の濃度の和が100%であることに変わりはないので、その3元素のモル濃度の比は試料に含まれるそれ以外の元素のモル濃度に依存しない。したがって、3元散布図上にプロットされる一つの点に対応する元素A、B、Cのモル濃度は次のようになる。
MA={K×(WA/a)}/[K×{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}]=(WA/a)/{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}
MB={K×(WB/b)}/[K×{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}]=(WB/b)/{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}
MC={K×(WC/c)}/[K×{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}]=(WC/c)/{(WA/a)+(WB/b)+(WC/c)}
即ち、不明である係数Kとは無関係に、元素A、B、Cのモル濃度をそれぞれ重量濃度と原子量とから求めることができる。
【0030】
こうしてモル濃度換算部63は、試料3上の測定点毎に、三つの元素A、B、Cのモル濃度を算出する。そして3元散布図作成部64は、その3元素A、B、Cのモル濃度の関係を示す3元散布図を作成する(ステップS4)。表示処理部65は、作成された3元散布図を、中央制御部9を通して表示部11の画面上に表示する(ステップS5)。
【0031】
図3は、このようにして作成及び表示される3元散布図の一例である。
図3に示すように、この3元散布図では三つの濃度軸はいずれもモル濃度で示される。
図5は、2次電子又は反射電子の検出信号に基いて作成される試料3の表面観察画像と3元散布図とを並べて表示したものである。
図5において右方の3元散布図上の一つの点は、左方に表示されている、試料3上の測定対象領域に対応する表面観察画像上の一つの測定点(測定位置)に対応している。
【0032】
ユーザーは、表示された3元散布図と手元の資料にある3元系状態図とを利用して次のように鉱物を同定することができる。
いま、既に説明した
図4に示した3元系状態図における[A]、[B]、[C]は、それぞれ元素A、B、Cを含み、それ以外の元素は共通している化合物であるものとする。この場合、
図3に示した3元散布図と
図4に示した3元系状態図との間で三つの軸は実質的に同じであるとみなすことができ、その3元散布図上の或る一つの点は3元系状態図上で同じ位置に対応付けることができる。したがって、3元散布図上の或る一つの点は3元系状態図上で示されている複数の鉱物のいずれかに対応付けられ、その点の位置に基いて鉱物を同定することができる。
図3及び
図4の例では、
図3においてクラスターを形成しているPに含まれる各点に対応する鉱物は、
図4から鉱物iiiであると同定することができる。
【0033】
図5に示すような表示画面上の3元散布図において、ユーザーが操作部10により、クラスターを形成している点を囲むように指示して所定の操作を行うと、表示処理部65は指示された各点に対応する試料3上の位置を他とは識別可能な色で表示する。
図5の例では、その点に対応する領域を色で表示する代わりに、その領域を斜線で示している。これにより、3元散布図上でクラスターを形成している、つまりは3元素A、B、Cの含有濃度が近い測定点が、試料3上で位置している箇所が視覚的に明らかになる。さらに、上述したように3元散布図と3元系状態図との直接的な対比によって、3元散布図上でクラスターを形成している測定点に対応する鉱物が分かるから、試料3上の或る領域に存在している鉱物を把握することが可能となる。
【0034】
なお、重量濃度と質量濃度とは実質的には同じであるので、上記説明において重量濃度は質量濃度に置き換えることができる。また、同様に、モル濃度と原子濃度とは実質的には同じであるので、上記説明においてモル濃度は原子濃度に置き換えることができる。
【0035】
また、3元散布図を表示する際に、その軸の濃度表示を重量濃度(又は質量濃度)とモル濃度(又は原子濃度)とで切り替えるためのボタンを同じ画面上に表示し、そのボタンの操作に応じて、表示する3元散布図の軸の濃度を切り替えるようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態はEPMAであるが、本発明は、SEMなど、試料上の1次元的又は2次元的な領域内の多数の測定点においてそれぞれ元素や成分(化合物など)の量を反映した信号を取得することが可能である様々な分析装置全般に適用可能である。
【0037】
また、上記実施形態はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0038】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0039】
(第1項)本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である3以上の元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて所定の三つの元素についての3元散布図を作成するものであって、前記所定の三つの元素の信号強度をその濃度和が100%である重量濃度又は質量濃度に換算する第1換算部と、該第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度を、該元素の原子量を用いて、その濃度の和が100%であるモル濃度又は原子濃度に換算する第2換算部と、前記所定の三つの元素のモル濃度又は原子濃度を軸とする3元散布図を作成する散布図作成部と、を含むデータ処理部と、
を備える。
【0040】
(第2項)第1項に記載の表面分析装置において、前記第2換算部は、前記第1換算部で得られた各元素の重量濃度又は質量濃度をその元素の原子量で除して仮値を求めたうえで、前記所定の三つの元素についての該仮値の和が100%になるようにそれぞれの仮値を規格化する計算を実行するものとすることができる。
【0041】
第1項及び第2項に記載の表面分析装置によれば、元素マッピング分析(面分析)によって作成され得る3元散布図が、重量濃度や質量濃度ではなくモル濃度又は原子濃度を軸として示されるので、ユーザーはその3元散布図をそのまま一般的な3元系状態図と対比し、例えば鉱物の同定などを行うことができる。それにより、ユーザーは手元の資料にある3元系状態図を利用して簡便に、鉱物の同定等の解析を行うことができる。
【0042】
(第3項)第1項又は第2項に記載の表面分析装置において、前記データ処理部は、その軸の濃度表示を重量濃度又は質量濃度とモル濃度又は原子濃度とで切り替えた3元散布図を表示する表示処理部をさらに備えるものとすることができる。
【0043】
第3項に記載の表面分析装置によれば、ユーザーが3元系状態図との対比を行いたい場合と通常の濃度表示で分布を確認したい場合とで、濃度表示を適宜に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…電子線照射部
100…電子銃
2…試料ステージ
3…試料
4…分光結晶
5…X線検出器
6…データ処理部
60…元素強度算出部
61…データ保存部
62…重量濃度換算部
63…モル濃度換算部
64…3元散布図作成部
65…表示処理部
7…試料ステージ駆動部
8…分析制御部
9…中央制御部
10…操作部
11…表示部