(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118566
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法ならびに焼成体を用いた電極材料
(51)【国際特許分類】
H01G 11/42 20130101AFI20220805BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20220805BHJP
【FI】
H01G11/42
H01G11/38
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015167
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB02
5E078BA12
5E078BA23
5E078BA44
5E078BB23
5E078BB33
(57)【要約】
【課題】ホウ素添加による特性の向上効果に加えて高い電荷密度を得ることができる共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を焼成し、焼成した際に生じる酸化ホウ素を洗浄除去した後、湿式粉砕してなる共有結合性有機構造体の焼成体であって、活物質としての前記共有結合性有機構造体と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、得られた混練物をペースト状にして厚さ20μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、プレスした後の厚みを50μmとして電極試験片とし、当該電極試験片の静電容量を電気化学計測器によって測定した際の、電気量を電極試験片の面積と放電電圧で除した面積比静電容量が11.7μF/cm
2以上となされたものである。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を焼成し、焼成した際に生じる酸化ホウ素を洗浄除去した後、湿式粉砕してなる共有結合性有機構造体の焼成体であって、
活物質としての前記共有結合性有機構造体と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、得られた混練物をペースト状にして厚さ20μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、プレスした後の厚みを50μmとして電極試験片とし、
当該電極試験片の静電容量を電気化学計測器によって測定した際の、電気量を電極試験片の面積と放電電圧で除した面積比静電容量が11.7μF/cm2以上となされたことを特徴とする共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項2】
XPS分析において、B-O結合、B-O-C結合の存在が確認されている請求項1に記載の共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項3】
粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成する請求項1または2に記載の共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項4】
湿式粉砕後にメソ孔の重量比容量が増加する請求項1ないし3の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体を製造する方法であって、
少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、
焼成した際に生じる酸化ホウ素を、前記焼成体を洗浄して除去する除去工程と、
工程処理前と比較して工程処理後の焼成体のメソ孔を増加させる湿式粉砕工程と、
を具備することを特徴とする共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項6】
複数の物質の合成反応により、-B-O-結合を有する共有結合性有機構造体を得る合成工程をさらに具備する請求項5に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項7】
-B-O-結合を有する共有結合性有機構造体は、(-B(OH)2)を有する有機化合物の合成反応により得られるものである請求項6に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項8】
合成工程は、下記式(1)で示される1,4-フェニレンジボロン酸と、下記式(2)で示される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンとの合成反応により行う請求項7に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【化1】
【請求項9】
洗浄工程は、焼成体の比表面積を増加させるものである請求項5ないし8の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項10】
洗浄工程は、水によって洗浄するものである請求項5ないし9の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項11】
洗浄工程は、1回または複数回行うものである請求項5ないし10の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし4の何れか一に記載の共有結合性有機構造体の焼成体を含むことを特徴とする電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電荷密度を得ることができる共有結合性有機構造体の焼成体と、その製造方法と、その焼成体を用いた電極材料とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気二重層キャパシタの分極性電極として、表面積が大きく導電性に優れている点から活性炭が用いられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、活性炭は、細孔が複雑に入り組んだ構造であるため、分極性電極として採用すると、高出力領域においては、電解質イオンのスムーズな出し入れが難しくなり、高出力領域における容量が低下する。また、製造過程では、ガス賦活(非特許文献2)や薬品賦活(非特許文献3)などの賦活処理が必要となり、製造工程が煩わしくなる。この賦活作業を避けるために鋳型炭素が提案されているが、この場合は、シリカを除去する際に、フッ酸を用いたり(非特許文献4)、硫酸を用いたり(非特許文献5)しなければならず、安全性に配慮して慎重に作業する必要を生じる。
【0004】
そこで、このような活性炭に変わり、表面積が大きい多孔質材料を形成する技術として、ホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
このようなホウ素含有化合物を使用した共有結合性有機構造体は、焼成して電極材料として使用することも提案されており、このような多孔質材料として、例えば、多孔質材料の形成時に、ホウ素や窒素を添加したものは、前記分極性電極としての特性を向上させることができることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-176043号公報
【特許文献2】特開2011-233845号公報
【特許文献3】特開2017-155120号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 186 (2009) 551-556 ”Boron and nitrogen co-doped porous carbon and its enhanced properties as supercapacitor”
【非特許文献2】Chemical Engineering Journal 105 (2004) 53-59 “Preparation of activated carbon from forest and agricultural residues through CO2 activation”
【非特許文献3】Carbon Vol. 35, No. 12, pp. 1723-1732,1997 “THE PREPARATION OF ACTIVATED CARBON FROM MACADAMIA NUTSHELL BY CHEMICAL ACTIVATION”
【非特許文献4】Journal of The Electrochemical Society, 156 _1_ A1-A6 _2009_” Electrical Double-Layer Capacitance of Zeolite-Templated Carbon in Organic Electrolyte”
【非特許文献5】Chem. Eur. J. 2014, 20, 1 - 7 “Electric Double-Layer Capacitors Based on Highly Graphitized Nanoporous Carbons Derived from ZIF-67”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ホウ素が特性の向上に貢献している反面、それが存在することで、焼成時に生じるホウ素の酸化物が、多孔質材料の細孔を閉塞してしまい比表面積値の向上を阻害してしまうことが判明した。
【0009】
したがって、上記したホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体の焼成体の場合は、焼成体に生じる酸化ホウ素が比表面積値の向上を阻害し、ホウ素添加による特性の向上効果を充分に生かすことができないといった不都合を生じることとなる。
【0010】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、焼成後に生じる酸化ホウ素を、簡単かつ安全に除去するとともに、カーボンマトリックスに組み込まれているホウ素元素のドープ効果による高い電荷密度を得ることができる共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法ならびに焼成体を用いた電極材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法は、少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、焼成した際に生じる酸化ホウ素を、前記焼成体を洗浄して除去する除去工程と、工程処理前と比較して工程処理後の焼成体のメソ孔を増加させる湿式粉砕工程と、を具備するものである。
【0012】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法においては、複数の物質の合成反応により、-B-O-結合を有する共有結合性有機構造体を得る合成工程をさらに具備するものであってもよい。この-B-O-結合を有する共有結合性有機構造体は、(-B(OH)2)を有する有機化合物の合成反応により得られるものであってもよい。合成工程で使用される(-B(OH)2)を有する有機化合物としては、下記式に示される各種の有機化合物が挙げられる。
【0013】
【0014】
また、これら有機化合物の合成反応としては、例えば、Acc.Chem.Res.2015,48,3053-3063”Chemistry of Covalent Organic Frameworks”や、Chem.Soc.Rev.2012,41,6010-6022”Covalent organic frameworks”に開示されている技術を使用することができる。
【0015】
上記した(-B(OH)2)を有する有機化合物の合成反応の代表的な一例としては、例えば、下記式(1)で示される1,4-フェニレンジボロン酸と、下記式(2)で示される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンとの合成反応が挙げられる。
【0016】
【0017】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、合成工程で使用される溶媒としては、特に限定されるものではなく、メシチレン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルアセトン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、メタノール、トルエン、酢酸の中から選択される1種以上の単独溶媒または混合溶媒を使用することができる。例えば、1,4-ジオキサンを単独で溶媒として使用するものであってもよいし、メシチレンと1,4-ジオキサン、N,Nジメチルアセトンとジクロロベンゼン、テトラヒドロフランとメタノール、1,4ジオキサンとトルエン、1,4ジオキサンと酢酸、メシチレンと1,4ジオキサンと酢酸、それぞれの混合溶媒等を使用するものであってもよい。
【0018】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、合成工程での反応条件としては、官能基を有する芳香族化合物を反応させることによって、共有結合を有する有機構造体を構成することができるものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて加熱、加圧、減圧、攪拌、冷却等の操作が行われる。これらは、複数の操作を組み合わせる場合も、段階的に行う場合も含む。共有結合性有機構造体としては、格子状、六角形状等の規則性のある環状の構造体が連なった形状のものを形成するものであれば、特に限定されるものではなく、有機多孔体(COF:Covalent Organic Framework)の一般的な形状を形成するものは含まれる。例えば、50~250℃程度の温度で、3~100時間程度の反応を行うことによって形成される。温度は段階的に昇温および/または冷却する場合も含む。また、圧力は、段階的に加圧および/または減圧する場合も含む。
【0019】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、焼成工程での焼成条件としては、共有結合性有機構造体を炭化することができる条件であれば、特に限定されるものではなく、共有結合性有機構造体の分解温度以上の温度で30分~5時間程度の焼成を行うことが好ましい。例えば600℃以上、好ましくは600℃~1200℃で、30分~5時間の条件で焼成することができる。また、焼成は、例えば、不活性ガス雰囲気(窒素ガスもしくはアルゴンガス雰囲気)にて行うものであってもよい。この際、不活性ガス雰囲気は、0.1~1.0リットル/分のガス流量で焼成雰囲気を置換しながら行うものであってもよい。また、焼成時に所定の温度から5~10℃/分程度の昇温速度で昇温して焼成を行うものであってもよい。
【0020】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、洗浄工程での酸化ホウ素を除去する条件としては、特に限定されるものではなく、焼成工程を経た炭化物を、溶媒で洗浄して濾過後、乾燥させればよい。この際、使用する溶媒としては、合成された共有結合性有機構造体を分解することなく、酸化ホウ素を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、水、酸性水溶液などの各種溶媒を使用することができる。この中でも、水が安価で安全に使用できるため好ましい。ただし、溶媒としては、酸化ホウ素を洗浄によって溶解し、除去する際、焼成体を構成する炭素原子部分にドープしたホウ素を溶解除去してしまいないように、酸化ホウ素のみを溶解する溶媒を選択することが望ましい。また、溶媒として酸性水溶液を使用する場合は、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の対象外となり、普通物として取り扱うことができる低濃度の酸性水溶液を使用することが好ましい。この洗浄工程は、洗浄工程における使用溶媒や洗浄時間や洗浄回数に比例してホウ素元素の残存量が所定の値に近づいて行くので、共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が、当該ホウ素元素の予測含有量の±5%となるまで行なう、または、X線回折において、上記した酸化ホウ素由来の回折ピークが無くなるまで行なう。
【0021】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、湿式粉砕工程の条件としては、工程処理前と比較して工程処理後の焼成体のメソ孔を増加させることができる程度のものであればよく、洗浄工程を行なった後、湿式粉砕工程をしただけのものであってもよいし、それを1セットとして何度か繰り返すものであってもよい。また、洗浄工程と湿式粉砕工程の際の溶剤を同じものとしてもよいし、異なるものとしてもよい。上記したように洗浄工程と湿式粉砕工程とを何度か繰り返す場合には、1セット目の溶剤と2セット目の溶剤とを同じにしてもよいし、異なるものにしてもよい。
【0022】
本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体は、上記製造方法によって得られるものである。
【0023】
上記共有結合性有機構造体の焼成体は、
図1に示すような分子構造で連続して構成されることとなる共有結合性有機構造体を、焼成して構成される。この共有結合性有機構造体の焼成体は、
図2に示すように、焼成時に生じる酸化ホウ素20を洗浄工程によって除去することにより、酸化ホウ素20が除去された部分に空隙10が形成され、
図3に示すように、洗浄後の焼成体1は、洗浄前の焼成体2よりも比表面積を増すこととなる。なお、共有結合性有機構造体としては、焼成することによって焼成体となった際に、カーボンマトリックスを形成することができるものであれば、特に上記したような共有結合性有機構造体である必要はなく、B、O、Cの元素が含まれた各種の有機化合物であってもよい。
【0024】
焼成体2から酸化ホウ素20が除去されたか否かの確認は、洗浄後の焼成体1の粉末を、X線回折し、酸化ホウ素20由来の回折角度のピークが無いことで、確認することができる。したがって、本発明の共有結合性有機構造体の焼成体1は、例えば、
図4に示すように、X線回折において、酸化ホウ素20由来の回折角度のピーク20a(
図4(a)参照)が無い回折データ11を形成することを確認することで、洗浄工程で酸化ホウ素20を除去できたか否かを確認することができる。すなわち、共有結合性有機構造体に酸化ホウ素20を生じている場合、共有結合性有機構造体の焼成体2の回折データ21から、酸化ホウ素20由来の回折角度のピーク20aは、突出して検出されるので、明確に把握することができる。また、洗浄工程を行った後に、当該共有結合性有機構造体の焼成体1の回折角度のデータ11を測定すると、突出して検出されていた酸化ホウ素20由来のピーク20aが減少し、それと引き換えに細孔が復活して、低角側(10°以下)のピークが増大するので、この現象が認められれば、突出していたピーク20aは、酸化ホウ素20由来のピーク20aであると特定することができる。また同時に、酸化ホウ素20が除去された部分に空隙10が形成されて細孔が復活して比表面積が増大したことを確認することができる。
【0025】
なお、
図6に示すように、洗浄工程を行った焼成体1であっても、凝集により二次粒子1aとなっており、この二次粒子1aのまま洗浄工程を経た場合であっても、当該二次粒子1aの表面の酸化ホウ素20が除去されて洗浄後の焼成体の比表面積は増すこととなるが、内部の酸化ホウ素20は完全に除去されていない。したがって、凝集により二次粒子1aとなった焼成体1を湿式粉砕して凝集状態を解除して一次粒子1bにすることが好ましい。
【0026】
これにより、二次粒子1aにより内部に入り組んでいて今まで除去されなかった酸化ホウ素20が除去されて、
図3に示すように、粉砕後の一次粒子1bの比表面積は、基本的には粉砕前の二次粒子1aの比表面積よりも一層向上することとなる。ただし、洗浄工程を経た状態で凝集状態が解除されているような場合には、まれに湿式粉砕前の比表面積よりも若干比表面積が低下する場合がある。
【0027】
なお、酸化ホウ素20は除去されているが、焼成体1にドープしたホウ素がしっかり残っていることは、例えば、
図6に示すように、XPS(X線光電子分光法)分析によって、BC
2Oに由来するB-O結合や、BCO
2に由来するB-O-C結合のピークを検出することで確認することができる。これは、焼成後の焼成体2のみでなく、洗浄後の二次粒子1aとなった焼成体1や湿式粉砕後の一次粒子1b化した焼成体1においても確認することができる。
【0028】
また、凝集状態が解除された一次粒子1bとなるので、
図7に示すように、二次粒子1aよりも、細孔分布の細孔径が大きく、細孔容積も大きくなる。湿式粉砕によって凝集状態が解除された一次粒子1b化することで、2~50nmのメソ孔の分布面積が全比表面積の30%以上、より好ましくは40%以上とすることが良い。したがって、電気二重層キャパシタの電極材料として使用した場合、粒子間を密にして高密度で電極を形成することが可能となるので、
図8に示すように、粉砕前の二次粒子1aの焼成体1を利用した電極容量と比較して粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極の静電容量は、長時間に渡って放電可能な高容量化を図ることができていることが確認できる。
【0029】
さらに、
図9に示すように、湿式粉砕前の二次粒子1aの焼成体1を利用した電極と湿式粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極の、インピーダンスの抵抗成分と容量成分との関係を見ると、湿式粉砕前の抵抗(円弧部分の直径)が大きいのに対して、湿式粉砕後の抵抗が小さくなっていることから、湿式粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極は、湿式粉砕前の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極と比較して、粒子間がより密になり、抵抗値が低くなって、ロスのない電極を形成できていることが確認できる。
【0030】
なお、電極材料としての利用を考えた観点からは、電極としての容量を確保しなければならないので、洗浄後の比表面積が400m2/g以上となるように調製された、上記した材料が好ましいが、特に上記したような材料に限定されるものではなく、少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を用いて、焼成工程、洗浄工程、および湿式粉砕工程を行うものであってもよい。この共有結合性有機構造体としては、例えば、ホウ酸のヒドロキシ基の1つまたは2つを、アルキル基に置換したものや、ヒドロキシ基を有するホウ素がアルキル基に複数結合したものなどの各種のものが挙げられる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明によると、焼成した際に生じる酸化ホウ素を洗浄除去した後、湿式粉砕することで、電子の出入りが容易なメソ孔が増えるので、活物質としての前記共有結合性有機構造体と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、得られた混練物をペースト状にして厚さ20μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、プレスした後の厚みを50μmとして電極試験片とし、当該電極試験片の静電容量を電気化学計測器によって測定した際の、電気量を電極試験片の面積と放電電圧で除した面積比静電容量が11.7μF/cm2以上となされた、高い面積比静電容量の焼成体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体に用いられる共有結合性有機構造体の分子構造の概略図である。
【
図2】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の洗浄工程前後の状態を説明する概略図である。
【
図3】(a)ないし(c)は、実施例1に係る共有結合性有機構造体の焼成体と、その過程で製造される洗浄前焼成体および洗浄後焼成体と、のそれぞれの焼成体の窒素吸着等温曲線を示すグラフである。
【
図4】(a)および(b)は、本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、洗浄工程前後の粉末X線回折の回折データを示すグラフである。
【
図5】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、湿式粉砕工程前後の焼成体の状態を示す模式図とその電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、実施例1に係る共有結合性有機構造体の焼成体と、その過程で製造される洗浄前焼成体および洗浄後焼成体と、のXPS分析結果を示すグラフである。
【
図7】(a)ないし(c)は、本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体と、その過程で製造される洗浄前焼成体および洗浄後焼成体と、のそれぞれの焼成体の細孔分布を示すグラフである。
【
図8】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、湿式粉砕工程前後のそれぞれの焼成体によって構成された電気二重層キャパシタの静電容量の時間経過を示すグラフである。
【
図9】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、湿式粉砕工程前後のそれぞれの焼成体によって構成された電気二重層キャパシタにおいて、インピーダンスの抵抗成分とインピーダンスの容量成分との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る実施例1の焼成体と、その比較対象となる比較例1および比較例2の各焼成体との、各電流密度における面積比静電容量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0034】
[実施例1]
(粉末(合成材料))
下記式(1)で表される分子構造の1,4-フェニレンジボロン酸(以下、BDBAという)と、下記式(2)で表される分子構造の2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下、HHTPという)の2種類の粉末を使用した。
【0035】
【0036】
(触媒)
メシチレンと1,4-ジオキサンの2種類の溶媒を使用した。
【0037】
(共有結合性有機構造体の合成)
循環精製装置付きグローブボックス(グローブボックスUN-800L/ガス循環精製装置CM-200:株式会社UNICO製)内を、酸素濃度0.001ppm以下、露点-80℃以下の環境とし、この循環精製装置付きグローブボックス内において、BDBA:0.055g、HHTP:0.071g、メシチレン:4mL、1,4ジオキサン:16mLを、50mL用水熱合成容器(HU-50:三愛科学株式会社製)内に入れたものを3セット作製した。その後、それら6セットの50mL用水熱合成容器(以下、水熱合成容器という)を90℃で72時間加熱して共有結合性有機構造体の合成(脱水縮合による合成)を行った。このようにして合成される共有結合性有機構造体の分子構造の概略を
図1に示す。
【0038】
(共有結合性有機構造体の焼成)
得られた共有結合性有機構造体を、窒素ガス雰囲気にて、ガス流量0.3リットル/分、室温25℃から昇温速度10℃/分で昇温し、1000℃到達後、その温度で5時間の焼成を行い、共有結合性有機構造体の焼成体を得た。
【0039】
(洗浄)
このようにして得られた共有結合性有機構造体の焼成体の一部をサンプリングして洗浄前焼成体とした。残りの焼成体は、以下の条件で洗浄した。
【0040】
この洗浄は、200ミリリットルの純水が入ったビーカーに、得られた焼成体粉末を入れて、50℃で加熱攪拌を10分間行い、粒子が沈降後に上澄み液をピペットで回収して行なった。ビーカー底部に残った粉末の一部をサンプリングして、残りを湿式粉砕した。サンプリングした粉末は、50℃で加熱乾燥して一次回収を行った後、その回収したサンプルを減圧状態において150℃で12時間乾燥して、洗浄後焼成体とした。
【0041】
(湿式粉砕)
この湿式粉砕は、前記ビーカーの底部に残った粉末を水で洗い流しながら遊星ボールミルに入れて以下の条件で湿式粉砕して実施例1の焼成体を調製した。
【0042】
遊星ボールミル PULVERISETTE 6(FRITSCH社(フリッチュ・ジャパン株式会社))を用いて、直径1.0mm,0.5mmのジルコニアボールをそれぞれ15gずつ、焼成体を0.1g,純水25mlをジルコニアの容器に入れて、回転数400rpmにおいて10時間実施して粉砕品を得た。
【0043】
上記で得られた実施例1に係る湿式粉砕後の共有結合性有機構造体の焼成体(以下、「実施例1の焼成体」という。)は、上記したように、製造工程の途中で得られた洗浄後湿式粉砕前の焼成体(以下、「洗浄後焼成体」という。)と、洗浄前の焼成体(以下、「洗浄前焼成体」という。)とともに、以下の評価を行なった。
【0044】
(窒素吸着測定(比表面積/細孔分布測定))
上記で得られた実施例1の焼成体の粉末を200℃で20時間減圧乾燥させ、室温雰囲気中で焼成体に吸着した水分を脱着させた後、当該焼成体の粉末0.02gをサンプル管に入れ、液体窒素雰囲気下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社製)によって窒素吸着等温曲線を測定し、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積と細孔分布を算出した。洗浄後焼成体、洗浄前焼成体についても、同様の測定を行い、比表面積を算出した。比表面積の結果を
図3に示す。また、細孔分布を
図7に示す。細孔分布は、窒素吸着等温曲線を、NLDFT(Non Local Density Functional Theory)法にて、分布曲線の仮定なし、細孔ピークの仮定なしでシュミレーションすることによって得た。
【0045】
(粉末X線回折)
上記で得られた洗浄前焼成体および洗浄後焼成体のそれぞれについて、粉末約0.02gを、サンプルホルダーに乗せて整地し、回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を
図4(a)および
図4(b)に示す。
測定機種:X線回折装置RINT-Ultima+(株式会社リガク社製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~40°
スキャンスピード4°/min
【0046】
(電子顕微鏡写真)
上記で得られた実施例1の焼成体および洗浄後焼成体のそれぞれについて、以下の条件で電子顕微鏡写真の測定を行なった。結果を
図5に示す。
測定機種:JSM-6010LA(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧15kV、ワーキングディスタンス11mm、スポットサイズ30
測定倍率:10000倍
【0047】
(XPS(X線光電子分光法)分析)
上記で得られた実施例1の焼成体、洗浄後焼成体、洗浄前焼成体のそれぞれについて、以下の条件でXPS分析を行なった。結果を
図6に示す。
測定機種:JPS-901MC(日本電子株式会社製)
X線光源:MgΚα
【0048】
(電極試験片の作製)
実施例1の焼成体、洗浄後焼成体のそれぞれを活物質として用い、当該活物質と、導電助剤(アセチレンブラック)と、結着剤(PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂))とを、8:1:1の重量比で混練した。この混練物をペースト状にしたものを厚さ20μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、プレスした後の厚みが50μmとなるようにして、それぞれの焼成体について、電極試験片を調製した。
【0049】
(電極試験片の容量測定)
上記で調製したそれぞれの電極試験片について、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて静電容量(以下、容量ともいう。)を測定した。その結果を
図8に示す。なお、
図8において、縦軸は、放電電圧(V)である。
【0050】
(交流インピーダンス法の測定条件)
上記で調製したそれぞれの電極試験片について、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて交流インピーダンス法による測定を行い、インピーダンスの抵抗成分および容量成分の関係を求めた。結果を
図9に示す。
測定条件:掃引周波数1MHz空10mHz
印加電圧:5mV
【0051】
(面積比静電容量の測定)
上記電極試験片の容量測定で放電時に流れた電気量(C)を、電極(片極)を0.8倍して活物質換算した電極重量で除し、さらに2倍にして単極換算して得られる値を、質量比静電容量[F/g]として求めた。この質量比静電容量[F/g]に、当該測定に用いた電極活物質の全比表面積(SBET)を掛けたものを面積比静電容量Cs[μF/cm2]として求めた。結果を表1に示す。なお、表1において、面積比静電容量は、放電時に流れた電流を40mAで換算して求めた。この測定は、水洗後焼成体と、実施例1の焼成体と、のそれぞれで電極試験片を各3個ずつ作製してそれぞれについて測定した。
【0052】
【0053】
以上の結果から、洗浄後焼成体1の回折データ11(
図4(b)参照)は、洗浄前焼成体2の回折データ21(
図4(a)参照)のように酸化物由来のピーク20aを生じていない。したがって、焼成時または焼成後の酸化物の発生によって焼成体1の細孔が閉塞されることなく、多くの細孔が形成されていることが確認できる。
【0054】
また、洗浄後焼成体1は、
図5ないし
図9に示すように、二次粒子1aの状態であっても酸化ホウ素20(
図2参照)が除去されることで高比表面積の焼成体1が得られていることが確認できるが、湿式粉砕により、さらなる湿式粉砕工程と洗浄工程を追加することで、二次粒子1aの凝集を解いて一次粒子1b化することができるので、本発明に係る実施例1の焼成体1(1b)は、内部に留まっていた酸化ホウ素20(
図1参照)もさらに除去されて、さらに高比表面積の焼成体1(1b)が得られることが確認できる。
【0055】
さらに、このように一次粒子1b化し、かつ、酸化ホウ素20を除去した本発明に係る実施例1の焼成体1(1b)は、細孔分布を見てもわかるように、細孔の大きさを大きく、かつ、細孔の静電容量を大きくすることができるので、より一層優れた電極材料として使用することができる。しかも、凝集状態を解いて一次粒子1b化しているので、粒子間を密着して電極を形成することができる。したがって、電極の静電容量の増大を図ることができるとともに、粒子間抵抗が低減された(
図9における円弧の部分が小さくなった。)電極を形成できることとなる。
【0056】
[比較例1、2]
上記実施例1の焼成体1(1b)の比較対象として、株式会社クラレ製活性炭YP50Fと、関西熱化学株式会社製活性炭MSP20と、をそれぞれ用いて上記実施例1と同じ方法によって比表面積を測定し、電極試験片を作製し、同じ方法で面積比静電容量を測定した。放電時に流れた電流と面積比静電容量との関係を
図10に示す。また、放電時に流れた電流を40mAに換算して求めた面積比静電容量を前記表1に示す。また、表1に該当する測定項目については、比較例1の活性炭YP50を、実施例1と同様に湿式粉砕したものについても測定した。
【0057】
以上の結果から、本発明に係る実施例1の焼成体1(1b)は、比表面積だけを見てみると、比較例1、2で使用した活性炭の半分以下であるが、電極として評価した場合には、当該比較例1、2で使用した活性炭によって作製した電極の約倍に近い面積比静電容量を得ることができる。したがって、略同じ静電容量とした場合には、約半分の大きさに形成することができ、略同じ大きさに形成した場合には、約倍の静電容量を得ることができることとなり、電極材料として非常に高性能であることが確認できた。また、活性炭は、湿式粉砕しても性能が低下してしまうことが確認できた。
【0058】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0059】
1 焼成体
1a 二次粒子(洗浄後焼成体)
1b 一次粒子(実施例1の焼成体)
11 焼成体の回折データ
2 焼成体(洗浄前焼成体)
20 酸化ホウ素