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特開2022-118617異種金属接合体および異種金属接合体の製造方法
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  • 特開-異種金属接合体および異種金属接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118617
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】異種金属接合体および異種金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/02 20060101AFI20220805BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C23C28/02
C23C24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015268
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅川 倫成
(72)【発明者】
【氏名】森戸 大海
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA06
4K044BB03
4K044BB04
4K044CA11
4K044CA23
4K044CA31
(57)【要約】
【課題】接合強度が高い異種金属接合体を提供する。
【解決手段】第1部材1と第2部材2とが重ねて配置されている。第2部材2は、第1部材1の第1金属材料と異なる第2金属材料からなる。第3部材3は、第1溶射皮膜3Xと第2溶射皮膜3Yとを有する。第1溶射皮膜3Xは、第2部材2の貫通孔2hに存在する部分を有する。第2溶射皮膜3Yは、第1溶射皮膜3Xに対して第1部材1と反対側に形成されている。第2溶射皮膜3Yは、第1部材1と第2部材2とが重なる方向について、貫通孔2hと重なる重複部13aと、貫通孔2hと重ならない非重複部13bとを有する。非重複部13bは、第2部材2の第2反対面2B上に形成されている。第2部材2は、非重複部13bと第1部材1とに挟まれている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属材料からなる第1部材と、前記第1部材に重ねて配置され、前記第1金属材料と異なる第2金属材料からなる第2部材とを備えた異種金属接合体であり、
前記第2部材に、前記第1部材と重なる方向に貫通した貫通孔が形成され、
前記貫通孔に存在する部分を有する第1溶射皮膜と、前記第1溶射皮膜と連続しているとともに前記第1溶射皮膜に対して前記第1部材と反対側に形成された第2溶射皮膜とを有する第3部材を備え、
前記第2溶射皮膜は、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向について、前記貫通孔と重なる部分と、前記貫通孔と重ならない部分とを有し、
前記貫通孔と重ならない部分は、前記第2部材において前記第1部材と反対側の面上に形成され、
前記貫通孔と重ならない部分と前記第1部材とが、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向に、前記第2部材を挟んでいることを特徴とする異種金属接合体。
【請求項2】
前記第1金属材料および前記第2金属材料の一方は、アルミニウム合金であり、
前記第1金属材料および前記第2金属材料の他方は、鋼材であることを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合体。
【請求項3】
複数の前記貫通孔が離れて形成され、
複数の前記第3部材が離れて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属接合体。
【請求項4】
前記貫通孔は、一方向に長い長孔であり、
前記第1溶射皮膜および前記第2溶射皮膜が、一方向に長いことを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属接合体。
【請求項5】
第1金属材料からなる第1部材と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料からなる第2部材とを備えた異種金属接合体の製造方法であり、
前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせた後、前記第2部材において前記第1部材と重なる方向に貫通した貫通孔およびその周囲に、第3金属材料を溶射することにより、前記貫通孔に第1溶射皮膜を形成するとともに、前記第1溶射皮膜に対して前記第1部材と反対側に第2溶射皮膜を形成する工程を有し、
前記第2溶射皮膜は、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向について、前記貫通孔と重なる部分と、前記貫通孔と重ならない部分とを有し、
前記貫通孔と重ならない部分は、前記第2部材において前記第1部材と反対側の面上に形成され、
前記貫通孔と重ならない部分と前記第1部材とが、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向に、前記第2部材を挟んでいることを特徴とする異種金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属部材が重ね合わされた異種金属接合体および異種金属接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種金属部材が重ね合わされた異種金属接合体は、建物や乗物などの様々な分野で利用されている。例えば、鋼材と軽量なアルミニウム合金との接合体がある。鋼材とアルミニウム合金とを一般的な方法で溶接した場合、接合界面に脆い金属間化合物が形成される。金属間化合物は、鋼材とアルミニウム合金との接合強度を低下させる。そこで、これらの接合強度を高める技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、鋼部材と、貫通孔が形成されたアルミニウム合金部材とを重ね合わせ、貫通孔を覆うようにアルミニウム溶加材を移行させて、鋼部材を溶融させずにアルミニウム合金部材を溶融し、アルミニウム合金部材に、アルミニウム合金部材と鋼部材との界面から離れるに従って貫通孔の外側に広がる形状のアルミ溶融金属凝固部を形成する方法が記載されている。この方法によると、鋼部材とアルミ溶融金属凝固部との金属間化合物の発生を低減できるため、異種金属材同士の接合強度が向上する。
【0004】
特許文献2および特許文献3には、異種金属接合体の製造方法として、アルミニウムまたはアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、アルミニウムまたはアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせる工程と、低温溶射皮膜と鋼材とを、鋼材側からのレーザー溶接により接合する工程とを有する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-023994号公報
【特許文献2】特開2020-11269号公報
【特許文献3】特開2020-11276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法によると、アルミ溶融金属凝固部と鋼部材との界面に金属間化合物が発生することを低減させることができるものの、これらの界面に金属間化合物が発生する。脆い金属間化合物は、鋼部材とアルミニウム合金部材との接合強度を低下させる。
【0007】
特許文献2および特許文献3に記載された方法は、鋼材とアルミニウムまたはアルミニウム合金材とを接合するため、低温溶射とレーザー溶接の両方を行う必要がある。
【0008】
本発明は、接合強度が高い異種金属接合体を提供することを目的とする。また、本発明は、簡易に、接合強度が高い異種金属接合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
溶射は、一般的に、基材の表面に皮膜を形成するために利用される。溶射皮膜は、一般的に、基材の表面を覆う皮膜として形成されている。異種金属部材を接合するために溶射を利用する場合、特許文献2および特許文献3等に記載のように、溶射と溶接の両方を行うことにより、異種金属部材を接合するという技術が提案されている。
しかし、溶射単独で異種金属部材を接合するという技術思想は、これまでになかった。また、溶射皮膜により異種金属部材が接合された構造を提供するという技術思想も、これまでになかった。
本発明者らの研究から、下記の構成により、溶射皮膜により異種金属部材が接合された接合体を提供できるという知見が得られた。また、下記の方法により、溶射単独で異種金属を接合することができるという知見が得られた。
【0010】
本発明の異種金属接合体は、第1金属材料からなる第1部材と、前記第1部材に重ねて配置され、前記第1金属材料と異なる第2金属材料からなる第2部材とを備えた異種金属接合体であり、前記第2部材に、前記第1部材と重なる方向に貫通した貫通孔が形成され、前記貫通孔に存在する部分を有する第1溶射皮膜と、前記第1溶射皮膜と連続しているとともに前記第1溶射皮膜に対して前記第1部材と反対側に形成された第2溶射皮膜とを有する第3部材を備え、前記第2溶射皮膜は、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向について、前記貫通孔と重なる部分と、前記貫通孔と重ならない部分とを有し、前記貫通孔と重ならない部分は、前記第2部材において前記第1部材と反対側の面上に形成され、前記貫通孔と重ならない部分と前記第1部材とが、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向に、前記第2部材を挟んでいる。
【0011】
第2部材の貫通孔に、第3部材の第1溶射皮膜が存在する。第1溶射皮膜は、第3部材の材料を第1部材に溶射することによって形成された皮膜である。溶射により第1溶射皮膜は第1部材に接合している。第1溶射皮膜と第1部材とは、アンカー効果により、強固に接合していると考えられる。これにより、第1溶射皮膜は、第1部材に対して動かない。
また、第2溶射皮膜は、第3部材の材料を溶射することによって形成された皮膜である。溶射により、第2溶射皮膜の非重複部は第2部材に接合している。非重複部と第2部材とは、アンカー効果により、強固に接合していると考えられる。その上、非重複部は、重複部および第1溶射皮膜を介して第1部材とつながっているため、第2部材2に密着しつつ、第1部材に対して動かない。
上記より、第2部材に対してせん断方向(第2部材の面方向)へ引っ張る力が作用した場合、第2部材の貫通孔に存在する第1溶射皮膜、および、第2部材2の面上の非重複部により、第2部材のせん断方向への移動が抑制される。
【0012】
また、第1部材と第2溶射皮膜の非重複部とが、第1部材と第2部材とが重なる方向について、第2部材を挟んでいる。非重複部は、上述したように、重複部および第1溶射皮膜を介して第1部材とつながっているため、第1部材に対して動かない。第2部材に対して第1部材から剥離させる方向の力が作用した場合、第2溶射皮膜により、第2部材が第1部材から剥離することが抑制される。
【0013】
上記より、本発明は、引張せん断強度および剥離強度が高い。
したがって、本発明によると、接続強度が高い異種金属接合体を提供することができる。
【0014】
また、上記構成において、前記第1金属材料および前記第2金属材料の一方が、アルミニウム合金からなってもよい。この場合、前記第1金属材料および前記第2金属材料の他方は、鋼材であってもよい。
【0015】
上記構成によると、第2部材の鋼材により異種金属接合体の強度を高めつつ、第1部材の軽量なアルミニウム合金により異種金属接合体を軽量化できる。これにより、高強度でありつつ軽量で、且つ、引張せん断強度および剥離強度が高い異種金属接合体を提供することができる。
【0016】
また、上記構成において、複数の前記貫通孔が、離れて形成されていてもよい。複数の前記第3部材が、離れて形成されていてもよい。
【0017】
第2部材の貫通孔に第3部材を形成する際、第2部材において貫通孔の周囲に熱が加えられる。第3部材が離れて形成されている場合、第2部材へ熱が加えられる部分が少なくなるため、第2部材への熱の影響(ひずみなど)を低減できる。
【0018】
また、上記構成において、前記貫通孔は、一方向に長い長孔であってもよい。この場合、前記第1溶射皮膜および前記第2溶射皮膜が、一方向に長くてもよい。
【0019】
第1溶射皮膜が長い場合、第2部材がせん断方向により移動しにくい。
第2溶射皮膜が長い場合、第2部材が第1部材からより剥離しにくい。
これらにより、引張せん断強度および剥離強度がより高い異種金属接合体を提供することができる。
【0020】
本発明の異種金属接合体の製造方法は、第1金属材料からなる第1部材と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料からなる第2部材とを備えた異種金属接合体の製造方法であり、前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせた後、前記第2部材において前記第1部材と重なる方向に貫通した貫通孔およびその周囲に、第3金属材料を溶射することにより、前記貫通孔に第1溶射皮膜を形成するとともに、前記第1溶射皮膜に対して前記第1部材と反対側に第2溶射皮膜を形成する工程を有し、前記第2溶射皮膜は、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向について、前記貫通孔と重なる部分と、前記貫通孔と重ならない部分とを有し、前記貫通孔と重ならない部分は、前記第2部材において前記第1部材と反対側の面上に形成され、前記貫通孔と重ならない部分と前記第1部材とが、前記第1部材と前記第2部材とが重なる方向に、前記第2部材を挟んでいる。
【0021】
従来、溶射により異種金属接合体を製造する場合、溶射と溶接の2工程が必要であったが、上記構成によると、溶射だけにより、接続強度が高い異種金属接合体が得られる。そのため、簡易に、上述した接続強度が高い異種金属接合体を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、引張せん断強度および剥離強度が高い異種金属接合体を提供することができる。本発明によると、簡易に、接合強度が高い異種金属接合体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る異種金属接合体の平面図である。
図2】第1実施形態に係る異種金属接合体の一部断面図(図1のII-II線に沿った断面図)である。
図3】第2実施形態に係る異種金属接合体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
ここでは、本発明の第1実施形態に係る異種金属接合体について、図1および図2を参照しつつ以下に説明する。図1に異種金属接合体100の平面図を示し、図2図1のII-II線に沿った断面図を示している。
【0025】
異種金属接合体100は、図1および図2に示すように、第1部材1と、第1部材1に重ねて配置された第2部材2と、第3部材3とを備える。
【0026】
第1部材1は、図2に示すように、板状の部材である。第1部材1は、第2部材2に対向した第1対向面1Aと、第1対向面1Aと反対側の第1反対面1Bとを有する。
【0027】
第2部材2は、板状の部材である。第2部材2は、第1部材1に対向した第2対向面(対向面)2Aと、第2対向面2Aと反対側の第2反対面(反対面)2Bとを有する。第2部材2には、第1部材1と重なる方向に貫通した貫通孔2hが形成されている。
【0028】
貫通孔2hは、図1に示すように、異種金属接合体100の平面視において、略円形状である。図1に示す異種金属接合体100の平面視は、異種金属接合体100を、第1部材1と第2部材2とが重なる方向について、第2部材2側から視た図である。
【0029】
第3部材3は、図2に示すように、第1溶射皮膜3Xと、第2溶射皮膜3Yとを有する。
【0030】
第1溶射皮膜3Xは、第2部材2の貫通孔2hに存在する部分を有する。第1溶射皮膜3Xは、第2部材2の第2反対面2Bの高さから第1部材1側の部分である。
【0031】
第2溶射皮膜3Yは、第1溶射皮膜3Xに対して、第1部材1と反対側に形成されている。図2には、分かりやすいように第1溶射皮膜3Xと第2溶射皮膜3Yとの境界を破線で示しているが、第1溶射皮膜3Xと第2溶射皮膜3Yとの境界は無い。第1溶射皮膜3Xと第2溶射皮膜3Yとは、連続している。
【0032】
第2溶射皮膜3Yは、第1部材1と第2部材2とが重なる方向について、貫通孔2hと重なる重複部13aと、貫通孔2hと重ならない非重複部13bとを有する。重複部13aは、図中の第1溶射皮膜3Xの上に形成されている。非重複部13bは、第2反対面2Bの上に形成されている。非重複部13bは、重複部13aおよび第1溶射皮膜3Xを介して、第1部材1とつながっている。非重複部13bは、第1部材1に対して動かない。図2には分かりやすいように、重複部13aと非重複部13bとの境界を二点鎖線で示しているが、重複部13aと非重複部13bとの境界は無い。重複部13aと非重複部13bとは連続している。
【0033】
異種金属接合体100の断面視において(図2参照)、第2溶射皮膜3Yの厚さは、中央付近でも外側でもほぼ同じ厚さである。異種金属接合体100の平面視において(図1参照)、第2溶射皮膜3Yは、略円形状である。非重複部13bは、重複部13aの周囲に形成されている。非重複部13bは、重複部13aを取り囲んでいる。
【0034】
第3部材3は、溶射皮膜である(図2参照)。第3部材3は、第3部材3の材料を熱源により溶融、半溶融または軟化などさせた粒子を第1部材1および第2部材2へ吹き付けることによって形成された膜である。粒子が、第1部材1の第1対向面1Aおよび第2部材2の第2反対面2Bで固化および堆積されることによって、溶射皮膜が形成される。
【0035】
溶射により、第1溶射皮膜3Xは、第1部材1の第1対向面1Aに接合している。第1溶射皮膜3Xと第1対向面1Aとは、アンカー効果により、強固に接合していると考えられる。第2溶射皮膜3Yの非重複部13bは、溶射により、第2部材2の第2反対面2Bに接合している。非重複部13bと第2反対面2Bとは、アンカー効果により、強固に接合していると考えられる。
【0036】
第2部材2には、図1に示すように、複数の貫通孔2hが離れて形成されている。複数の貫通孔2hは、第2部材2の長手方向に離れていてもよい。複数の貫通孔2hは、第2部材2の長手方向に関係なく、ランダムに離れていてもよい。
【0037】
第2溶射皮膜3Yを有する第3部材3は、離れて形成されている。複数の第3部材3は、第2部材2の長手方向に離れていてもよい。複数の第3部材3は、第2部材2の長手方向に関係なく、ランダムに離れていてもよい。
【0038】
次に、第1部材1の材質、第2部材2の材質および第3部材3の材質について説明する。
【0039】
第1部材1は、第1金属材料からなる。第2部材2は、第1金属材料と異なる第2金属材料からなる。本発明において、「金属材料」とは、例えば、金属でもよく、金属間化合物でもよく、合金でもよい。本発明において、「金属材料」は、1種類の金属でもよい。この場合、「金属材料」は、金属に加え、非金属を含んでいてもよく、非金属を含んでいなくてもよい。本発明において、「金属材料」は、金属間化合物でもよい。金属間化合物とは、2種類以上の金属からなる化合物であり、元の金属と異なる結晶構造を有する化合物である。金属化合物に、非金属が含まれていてもよく、非金属が含まれていなくてもよい。本発明において、「金属材料」は、1種類の金属を含む合金でもよく、2種類以上の金属を含む合金でもよい。合金に、非金属が含まれていてもよく、非金属が含まれていなくてもよい。
上述した非金属は、例えば、ある特性を高めるために含まれていてもよく、不可避不純物などとして含まれていてもよい。
【0040】
第1部材1の材質および第2部材2の材質は、上記を満たす限り、特定の材質に限定されない。例えば、第1部材1の材質が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金でもよい。第2部材2の材質が、鋼材でもよい。
【0041】
純アルミニウムとは、アルミニウム及び不可避不純物からなる材料である。
アルミニウム合金は、特に限定されるものではない。アルミニウム合金として、例えば、アルミニウム-銅系合金(Al-Cu系合金)、アルミニウム-マンガン系合金(Al-Mn系合金)、アルミニウム-ケイ素系合金(Al-Si系合金)、アルミニウム-マグネシウム系合金(Al-Mg系合金)、アルミニウム-ジルコニウム系合金(Al-Zr系合金)アルミニウム-マグネシウム-ケイ素系合金(Al-Mg-Si系合金)、アルミニウム-亜鉛-マグネシウム系合金(Al-Zn-Mg系合金)、アルミニウム-亜鉛-マグネシウム-銅系合金(Al-Zn-Mg-Cu系合金)、アルミニウム-鉄-ジルコニウム系合金(Al-Fe-Zr系合金)が挙げられる。上記の例として、例えば、JIS A1000系、2000系、3000系、4000系、5000系が挙げられる。アルミニウム合金は、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0042】
鋼材は、特に限定されるものではない。鋼材として、例えば、ステンレス鋼、SPCC(冷間圧延鋼板(JIS G 3141))、鋼材の表面にめっきが施されためっき鋼材を使用してもよい。
【0043】
第3部材3は、第3金属材料からなる。この「金属材料」は、上述した本発明の「金属材料」と同様である。第3部材3の材質は、特定の材質に限定されない。例えば、第3部材3の材質は、純アルミニウム、アルミニウム合金、鋼材、炭素鋼、鉄、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金からなる群から選択される少なくとも一種でもよい。第3部材3の材質は、第1部材1の材質と同じでもよく、第2部材2の材質と同じでもよく、第1部材1の材質および第2部材2の材質と異なってもよい。
【0044】
次に、異種金属接合体100の製造方法を説明する。
【0045】
図2に示すように、第1部材1と第2部材2とを重ね合わせる。第2部材2側から、貫通孔2hおよびその周囲に、第3部材3の材料を溶射する。これにより、貫通孔2hに第1溶射皮膜3Xが形成されるとともに、第1溶射皮膜3Xに対して第1部材1と反対側に第2溶射皮膜3Yが形成される。第2溶射皮膜3Yの重複部13aは、第1溶射皮膜3Xの上に形成されている。第2溶射皮膜3Yの非重複部13bは、第2部材2の第2反対面2Bの上に形成されている。非重複部13bと第1部材1とは、第1部材1と第2部材2とが重なる方向に、第2部材2を挟んでいる。
【0046】
溶射方法は、特に限定されない。例えば、フレーム溶射、アーク溶射、プラズマ溶射、レーザー溶射を利用してもよい。また、低温溶射(コールドスプレー)を利用してもよい。
【0047】
上記方法によって製造された異種金属接合体100によると、以下の効果が得られる。
【0048】
図2に示すように、第2部材2の貫通孔2hに、第3部材3の第1溶射皮膜3Xが存在する。第1溶射皮膜3Xは、第1部材1に、第3部材3の材料を溶射することによって形成された皮膜である。溶射により、第1溶射皮膜3Xは第1部材1に接合している。第1溶射皮膜3Xと第1部材1とは、アンカー効果により強固に接合していると考えられる。そのため、第1溶射皮膜3Xは、第1部材1に対して動かない。
また、第2溶射皮膜3Yの非重複部13bが、溶射により、第2部材2に接合している。非重複部13bと第2部材2とは、アンカー効果により強固に接合していると考えられる。その上、非重複部13bは、重複部13aおよび第1溶射皮膜3Xを介して第1部材1とつながっている。そのため、非重複部13bは、第2部材2に接合しつつ、第1部材1に対して動かない。
上記より、第2部材2に対してせん断方向(第2部材の面方向)へ引っ張る力が作用した場合、第2部材2の貫通孔2hに存在する第1溶射皮膜3X、および、第2部材2の第2反対面2Bの面上の非重複部13bにより、第2部材2のせん断方向への移動が抑制される。
【0049】
また、第1部材1と第2溶射皮膜3Yの非重複部13bとが、第1部材1と第2部材2とが重なる方向について、第2部材2を挟んでいる。非重複部13bは、上述したように、重複部13aおよび第1溶射皮膜3Xを介して第1部材1とつながっているため、第1部材1に対して動かない。これにより、第2部材2に対して第1部材1から剥離させる方向の力が作用した場合、非重複部13bにより、第2部材が第1部材から剥離することが抑制される。
【0050】
上記より、第2部材2の引張せん断強度および剥離強度が高い。
したがって、本実施形態に係る異種金属接合体100は、別部材を使用することなく、接続強度が高い異種金属接合体である。
また、図2に示す構成により、溶射皮膜だけによって、第1部材1と第2部材2が接合した構造が得られる。
【0051】
また、従来、異種金属部材を接合するために溶射を利用する場合、溶射と溶接の2工程が必要であったが、本実施形態に係る方法によると、溶射だけにより、接続強度が高い異種金属接合体が得られる。そのため、簡易に、上述した接続強度が高い異種金属接合体を製造することができる。
【0052】
本実施形態に係る異種金属接合体100は、建物、乗物など様々な用途に使用可能である。例えば、異種金属接合体100を自動車および鉄道車両などの乗物に使用してもよい。
【0053】
第1部材1の材質および第2部材2の材質は特に限定されないが、例えば、第1部材1をアルミニウム合金とし、第2部材2を鋼材とした場合、第2部材2の鋼材により異種金属接合体100の強度を高めつつ、第1部材1のアルミニウム合金により軽量化を図ることができる。アルミニウム合金と鋼材を直接溶接で接合した場合、これらの界面に金属間化合物が生成するため、接合強度が低くなるが、上記構成によると、高強度でありつつ軽量で、且つ、引張せん断強度および剥離強度が高い異種金属接合体100を提供することができる。
【0054】
第3部材3の材質は特に限定されないが、例えば、鋼材、炭素鋼、鉄、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金などの強度が高い材質である場合、第3部材3の第1溶射皮膜3Xの強度および第2溶射皮膜3Yの強度が高い。この場合、第2部材2に対してせん断方向(第2部材の面方向)へ引っ張る力が作用したとき、第1溶射皮膜3Xがより破壊しにくい。第2部材2に対して第1部材1から剥離させる方向の力が作用したとき、第2溶射皮膜3Yの非重複部13bがより破壊にしにくい。そのため、異種金属接合体100の接続強度がより高い。
【0055】
また、本実施形態では、図1に示すように、第2部材2に、複数の貫通孔2hが、離れて形成されている。第3部材3が、離れて形成されている。第3部材3を形成するために第3部材3の材料を第2部材2の貫通孔2hに溶射したとき、第2部材2に熱が加えられるが、本実施形態では、貫通孔2h同士が離れているため、第2部材2への熱の影響(ひずみなど)を低減できる。
【0056】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について、図3を参照しつつ説明する。第2実施形態において第1実施形態と異なる点は、(1)第2部材202の貫通孔202hの形状、および、(2)第3部材203の形状である。なお、上述した第1実施形態と同一の構成については同一の符号を用い、その説明を適宜省略する。
【0057】
図3に、異種金属接合体200の平面図を示している。図3に示すように、第2部材202に、貫通孔202hが形成されている。貫通孔202hは、一方向に長い長孔である。貫通孔202hは、第2部材202の長手方向に長くてもよい。貫通孔202hは、第2部材202の長手方向に交差する方向に長くてもよい。
【0058】
図3に、第3部材203の第2溶射皮膜203Yを示している。図3に示す平面図は、第1部材201と第2部材202とが重なる方向について、異種金属接合体200を第2部材202側から視た図である。第2溶射皮膜203Yは、異種金属接合体200の平面視において、貫通孔202hと重複した重複部213aと、貫通孔202hと重複していない非重複部213bとを有する。非重複部213bは、第2部材202の第2反対面202Bの上に形成されている。
【0059】
異種金属接合体200の平面視において、重複部213aの奥に、図示しない第1溶射皮膜203Xが存在する。第1溶射皮膜203X(図示せず)は、貫通孔202hに存在する。第1溶射皮膜203X(図示せず)と図3に示す第2溶射皮膜203Yとは、連続している。
【0060】
第1溶射皮膜203X(図示せず)は、貫通孔202hと同じ方向に長い。第2溶射皮膜203Yの重複部213aおよび非重複部213bは、貫通孔202hと同じ方向に長い。
【0061】
第1部材1(図示せず)の材質、第2部材202の材質および第3部材203の材質は、第1実施形態の第1部材1(図示せず)の材質、第2部材202の材質および第3部材203の材質と同様である。第1部材1(図示せず)の材質、第2部材202の材質および第3部材203の材質として、例えば、第1実施形態で例示した第1部材1、第2部材2および第3部材3の材質を採用してもよい。
【0062】
第2実施形態に係る異種金属接合体200によると、第1実施形態に係る異種金属接合体100と同様に、貫通孔202hに存在する図示しない第1溶射皮膜203X、および、第2溶射皮膜203Yの非重複部13bなどにより、第2部材2がせん断方向に移動することが抑制される。また、第2溶射皮膜203Yの非重複部213bにより、第2部材202が第1部材201から剥離されることが抑制される。したがって、接続強度が高い異種金属接合体200を提供することができる。
【0063】
また、貫通孔202hに存在する図示しない第1溶射皮膜203X、および、第2溶射皮膜203Yの非重複部13bなどが、一方向に長いため、第2部材202が、せん断方向に、より移動しにくい。また、第2溶射皮膜203Yの非重複部213bが一方向に長いため、第2部材2が、第1部材1から、より剥離しにくい。
上記より、引張せん断強度および剥離強度がより高い異種金属接合体200を提供することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0065】
例えば、上述の第1実施形態において、図2に示すように、異種金属接合体100の平面視において、第2部材2に形成された貫通孔2hは、略円形状である。異種金属接合体100の平面視において、貫通孔2hに存在する第1溶射皮膜3Xと、第2溶射皮膜3Yとは、略円形状である。
上述の第2実施形態において、図3に示すように、異種金属接合体200の平面視において、第2部材202に形成された貫通孔202hは、一方向に長い長孔である。異種金属接合体100の平面視において、貫通孔202hに存在する第1溶射皮膜203X(図示せず)と、第2溶射皮膜203Yとは、一方向に長い。
しかし、第2部材の貫通孔の形状、貫通孔に存在する第1溶射皮膜の形状、および、第2溶射皮膜の形状は、上記に限定されない。第2部材の貫通孔は、例えば、多角形状でもよく、曲がっていてもよい。
【0066】
また、上述の第1実施形態において、図1に示すように、第2溶射皮膜3Yの非重複部13bは、重複部13aを取り囲んでいる。上述の第2実施形態において、図3に示すように、第2溶射皮膜203Yの非重複部213bは、重複部213aを取り囲んでいる。しかし、第2溶射皮膜の非重複部は、重複部を取り囲んでいなくてもよい。非重複部が、重複部の周囲に、部分的に形成されていてもよい。また、第2溶射皮膜、重複部および非重複部の形状は、限定されない。
【0067】
また、上述の第1実施形態では、図2に示す異種金属接合体100の断面視において、第2溶射皮膜3Yの厚さが、中央付近でも外側でもほぼ同じ厚さである。しかし、第2溶射皮膜3Yの厚さは、全て同じ厚さでなくてもよい。例えば、第2溶射皮膜3Yの中央付近の厚さと外側の厚さが異なっていてもよい。
【0068】
また、上述の第1実施形態において、図1に示すように、第1部材1は第2部材2よりやや大きい。第2実施形態において、図3に示すように、第1部材1は第2部材202よりやや大きい。しかし、第1部材と第2部材の大きさは変更可能である。例えば、第1部材が第2部材より小さくてもよい。第1部材と第2部材とが同じ大きさでもよい。第1部材と第2部材の形状、大きさ、厚さなどは限定されない。
【0069】
また、上述の第1実施形態および第2実施形態において、異種金属接合体に別の部材が重ね合わされていてもよい。例えば、図2に示す第1部材1の第1反対面1Bに、他の部材が重ね合わされていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1、201 第1部材
1A 第1対向面
1B 第1反対面
2、202 第2部材
2h、202h 貫通孔
2A 第2対向面(対向面)
2B、202B 第2反対面(反対面)
3 第3部材
3X 第1溶射皮膜
3Y、203Y 第2溶射皮膜
13a、213a 重複部
13b、213b 非重複部
100、200 異種金属接合体
図1
図2
図3