(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118704
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ナノ粒子組成物、抗菌抗かび抗ウイルス剤、抗菌抗かび抗ウイルス塗料、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キット及びナノ粒子組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20220805BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220805BHJP
A01N 43/78 20060101ALI20220805BHJP
A01N 31/08 20060101ALI20220805BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220805BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220805BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220805BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220805BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220805BHJP
A61K 31/785 20060101ALI20220805BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20220805BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20220805BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220805BHJP
A61P 31/10 20060101ALN20220805BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20220805BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
A01N61/00 D ZNM
A01P3/00
A01N43/78 A
A01N31/08
A01N43/40 101L
A61K9/10
A61K9/14
A61K47/04
A61K47/12
A61K31/785
A61K31/427
A61K31/05
A61K31/44
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006032
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021014962
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラムA-STEP 試験研究タイプ、及び令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラムA-STEP トライアウトタイプ、研究課題名「抗菌・防かび・抗ウイルス性を発揮するナノカプセル型塗料用添加剤の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】507333546
【氏名又は名称】株式会社エムアイシー
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】岡村 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】鬼束 聡明
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋志
(72)【発明者】
【氏名】新井 清隆
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
4H011
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA30
4C076BB31
4C076CC31
4C076CC35
4C076DD22
4C076DD41
4C076DD43
4C076FF61
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC82
4C086FA03
4C086GA07
4C086GA10
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4C086MA21
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4C086MA63
4C086NA05
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC75
4C206AA02
4C206CA17
4C206KA01
4C206MA41
4C206MA61
4C206MA83
4C206NA05
4C206ZB33
4C206ZB35
4C206ZC75
4H011AA02
4H011AA03
4H011BA04
4H011BA06
4H011BB03
4H011BB09
4H011BB10
4H011BB19
4H011BC06
4H011BC07
4H011BC18
4H011DA13
4H011DH08
(57)【要約】
【課題】溶媒に対する溶解性及び分散性を調整でき、かつ幅広い病原微生物に対して抗微生物活性を示すナノ粒子組成物、抗菌抗かび抗ウイルス剤、抗菌抗かび抗ウイルス塗料、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キット及びナノ粒子組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ粒子組成物は、グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有し、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、酸性プロトンを有し、抗かび活性を有する化合物と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有し、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、
酸性プロトンを有し、抗かび活性を有する化合物と、
を含む、ナノ粒子組成物。
【請求項2】
前記重合体は、
ポリヘキサメチレンビグアニドである、
請求項1に記載のナノ粒子組成物。
【請求項3】
前記化合物は、
チアベンダゾール、オルトフェニルフェノール及び2-メルカプトピリジン-N-オキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1又は2に記載のナノ粒子組成物。
【請求項4】
酸性成分をさらに含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物。
【請求項5】
前記酸性成分の酸解離定数pKaは、
10以下である、
請求項4に記載のナノ粒子組成物。
【請求項6】
前記酸性成分は、
塩酸、安息香酸、オレイン酸、ラウリン酸、乳酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項4又は5に記載のナノ粒子組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物を含む、
抗菌抗かび抗ウイルス剤。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物を含む、
抗菌抗かび抗ウイルス塗料。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物と、
前記ナノ粒子組成物と混合される酸性成分と、
を備える、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キット。
【請求項10】
グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有し、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、酸性プロトンを有し、抗かび活性を有する化合物とを、アルカリ条件下で混合する混合ステップを含む、
ナノ粒子組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子組成物、抗菌抗かび抗ウイルス剤、抗菌抗かび抗ウイルス塗料、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キット及びナノ粒子組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な製品に抗菌性を簡便に付与するために、抗菌性成分を含有する塗料が製造後の製品の表面に塗布される。抗菌性成分としてグアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有する化合物が広く利用されている。例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)の塩酸塩は、ビグアニジノ基由来のカチオンによる細胞膜破壊によって広範囲の細菌に有効である。さらに、PHMBは抗ウイルス活性も有する。
【0003】
清潔志向の高まりから、抗菌性のみならず、抗かび性を併せ持つ製品の需要が高まっている。上述のPHMBは抗かび性に関しては効果が乏しい。抗かび剤としては、広範囲の真菌に対して高い抗菌性を示すチアベンダゾール(TBZ)が知られている。しかし、TBZは細菌に対する抗菌性をほとんど示さない。
【0004】
オルトフェニルフェノール(OPP)及び2-メルカプトピリジン-N-オキシド(ピリチオン酸、PT)は、真菌及び細菌に抗菌性を示す。しかし、OPP及びPTが抗菌性を示す細菌及び真菌の種類は少ない。幅広い範囲の細菌及び真菌に有効な単一な化合物はこれまでのところ知られていない。
【0005】
抗菌剤と抗かび剤とを組み合わせた組成物は多数知られている。例えば、特許文献1には、PHMB塩酸塩水溶液とTBZとを界面活性剤存在下で混和して得られる木材用抗変色菌組成物が開示されている。特許文献2には、PHMB塩と抗真菌剤とで形成されたナノ粒子を含む、真菌性爪感染症の治療に用いるための局所組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-090546号公報
【特許文献2】特開2019-218393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PHMBは水溶性であって、有機溶媒、特に脂溶性の高い溶媒にはほとんど溶解しない。PHMBとともに抗かび剤を溶媒に溶解させる場合、PHMB及び抗かび剤の分散性を考慮すると、溶解性がPHMBと同程度である抗かび剤を採用せざるを得ない。TBZの水及び有機溶媒に対する溶解性は低い。このように溶媒に対する溶解性が大きく異なるPHMBとTBZ等とを組み合わせて塗料等に利用するのは困難である。また、溶媒に対する溶解性が同程度の抗菌剤及び抗かび剤を採用したとしても、溶媒が限られるため、適用できる塗料が限定されてしまう。
【0008】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、溶媒に対する溶解性及び分散性を調整でき、かつ幅広い病原微生物に対して抗微生物活性を示すナノ粒子組成物、抗菌抗かび抗ウイルス剤、抗菌抗かび抗ウイルス塗料、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キット及びナノ粒子組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係るナノ粒子組成物は、
グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有し、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、
酸性プロトンを有し、抗かび活性を有する化合物と、
を含む。
【0010】
この場合、前記重合体は、
ポリヘキサメチレンビグアニドである、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記化合物は、
チアベンダゾール、オルトフェニルフェノール及び2-メルカプトピリジン-N-オキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、
こととしてもよい。
【0012】
また、上記本発明の第1の観点に係るナノ粒子組成物は、
酸性成分をさらに含む、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記酸性成分の酸解離定数pKaは、
10以下である、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記酸性成分は、
塩酸、安息香酸、オレイン酸、ラウリン酸、乳酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種である、
こととしてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点に係る抗菌抗かび抗ウイルス剤は、
上記本発明の第1の観点に係るナノ粒子組成物を含む。
【0016】
本発明の第3の観点に係る抗菌抗かび抗ウイルス塗料は、
上記本発明の第1の観点に係るナノ粒子組成物を含む。
【0017】
本発明の第4の観点に係る抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットは、
上記本発明の第1の観点に係るナノ粒子組成物と、
前記ナノ粒子組成物と混合される酸性成分と、
を備える。
【0018】
本発明の第5の観点に係るナノ粒子組成物の製造方法は、
グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有し、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、酸性プロトンを有し、抗かび活性を有する化合物とを、アルカリ条件下で混合する混合ステップを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るナノ粒子組成物は、溶媒に対する溶解性及び分散性を調整でき、かつ幅広い病原微生物に対して抗微生物活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例5に係る組成物の
1H NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例6に係る組成物の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例7に係る組成物の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例6に係る組成物の散乱強度別粒子径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0022】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、抗かび活性を有する化合物とを含む。重合体は、グアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有する。重合体はポリマー又はオリゴマーともいう。好ましくは、重合体は、その繰り返し構造に、グアニジノ基又はビグアニジノ基に結合するC2~C140の炭素原子を含有する脂肪族基、例えばC2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9又はC10等のアルキル基を含む。好適には、重合体は、メチレン基に結合したグアニジノ基又はビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有する。繰り返し構造単位におけるメチレン基の個数は任意であるが、例えば、2~10個、3~8個、4~6個で、特に好ましくは、3個又は6個である。
【0023】
グアニジノ基を繰り返し構造単位に有する重合体は、例えば、式1に示すポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)等である。ビグアニジノ基を繰り返し構造単位に有する重合体は、例えば式2に示すPHMB、式3に示すポリアミノプロピルビグアニド(PAPB)及びクロルヘキシジン等である。なお、式1~3に示す“n”は重合体を構成する繰り返し単位の数である重合度を示す。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
好ましくは、nは2~40、3~30、4~20又は5~15、好ましくは8~12である。本実施の形態に係るナノ粒子組成物に使用する重合体は、nが異なる重合体の混合物であってもよいし、nが同一の重合体のみであってもよい。ナノ粒子組成物は、重合体として、上述の重合体の複数種類を組み合わせて含有してもよい。
【0028】
抗かび活性を有する化合物は、酸性プロトンを有し、アルカリ処理によって陰イオンとなり得る化合物であれば特に限定されない。化合物は、例えばイミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾリン系、フェノール系、ピリチオン系、トリアジン系、ニトリル系、ヨード系、アニリド系、アミノ酸系、チオカーバメート系、エステル系、スルファミド系及びアゾール系の抗かび活性を有する化合物である。
【0029】
例えば、イミダゾール系の化合物は、TBZ、カルベンタジム、2-メチルカルボニルアミノベンツイミダゾール及びこれらの誘導体である。チアゾール系の化合物は、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール及びその誘導体である。イソチアゾリン系の化合物は、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)及びその誘導体である。フェノール系の化合物は、OPP、2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル及びこれらの誘導体である。
【0030】
ピリチオン系の化合物は、式7に示すPT、2,2’-ジチオビスピリジン-1-オキシド及びこれらの誘導体である。トリアジン系の化合物は、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン及びその誘導体である。ニトリル系の化合物は、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリルである。ヨード系の化合物は、3-ヨード-2-プロピルブチルカルバメート、ジヨードメチルパラトリルスルホン及びこれらの誘導体である。
【0031】
アニリド系の化合物は、トリクロロカルバニリド及びその誘導体である。アミノ酸系の化合物は、アルキルジアミノグリシン及びその誘導体である。チオカーバメート系の化合物は、N-メチルジチオカルバミド酸及びその誘導体である。エステル系の化合物は、p-ヒドロキシ安息香酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル及びこれらの誘導体である。
【0032】
スルファミド系の化合物は、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N-ジメチル-N’-フェニル‐N’-(フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N-[ジクロロ(フルオロ)メチル]スルファニル-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド、フォルペット及びこれらの誘導体である。アゾール系の化合物は、テブコナゾール、ヘキサコナゾール、プロピナゾール、ジプロコナゾール及びこれらの誘導体である。
【0033】
好適には、抗かび活性を有する化合物として、TBZ(式4)、OPP(式5)及びPT(式6)が挙げられる。
【0034】
【0035】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物に使用する化合物は1種に限らず、複数種類を組み合わせて使用してもよい。好適には、化合物は、TBZ、OPP及びPTからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0036】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物における重合体と化合物との組成比は、特に限定されず、例えばモル比(重合体:化合物、ただし重合体のモル数は重合体の繰り返し構造単位の分子量に基づく)で2~10:1又は4~8:1、好ましくは2:1又は5:1である。
【0037】
続いて、本実施の形態に係るナノ粒子組成物の製造方法について説明する。ナノ粒子組成物の製造方法は、上述の重合体と化合物とをアルカリ条件下で混合するステップを含む。アルカリ条件下とは、pHが10~14、好ましくは12~14の範囲であることを意味する。以下では、重合体としてPHMBを用いた場合を例に、ナノ粒子組成物の製造方法について説明する。
【0038】
まず、PHMB塩を溶媒に溶解させ、撹拌しながらアルカリを添加する(アルカリ処理)。PHMB塩を溶解させる溶媒は水以外でPHMB塩が可溶であれば特に限定されない。溶媒としては、脂肪族アルコール類、グリコール類及びグリコールエーテル類が挙げられる。好適には溶媒はエタノールである。アルカリ処理に用いるアルカリは特に限定されない。好ましくは、アルカリは、PHMB塩を溶解させた溶媒にアルカリを溶解させた溶液として添加される。
【0039】
混合物をさらに撹拌した後、混合物中に生じた塩の結晶をろ過によって取り除き、PHMB溶液を得る。当該溶液中に、抗かび活性を有する化合物の懸濁液を撹拌しながら添加し、さらに撹拌する。好ましくは、懸濁液はPHMB塩を溶解させた溶媒に化合物を懸濁させた懸濁液である。以上により、本実施の形態に係るナノ粒子組成物が得られる。
【0040】
グアニジノ基又はビグアニジノ基を有する重合体と酸性プロトンを有する化合物との組み合わせによって、下記実施例に示すように、イオン結合性のナノ粒子組成物が調製可能である。本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、重合体に由来する抗菌活性及び抗ウイルス活性と、化合物に由来する抗かび活性とを示す。
【0041】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物の製造方法によれば、アルカリ条件下で重合体と化合物とを混合することで、例えば、これまで均一な溶液を得ることが難しかったPHMBとTBZとの組み合わせでも、均一な溶液となる組成物が得られる。
【0042】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、疎水性の部分構造を外側に向け、イオン性の部分構造を内側に向けた重合体によって化合物が包囲されたカプセル構造の粒子となる。当該ナノ粒子組成物は、抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する重合体と、抗かび活性を有する化合物とがイオン性結合することで形成されるナノ粒子組成物である。粒子は、その粒径がナノメートルオーダーの微細な粒子である。ナノ粒子の粒径は、例えば、1~1000nm、2~100nm、3~50nm又は4~10nmである。
【0043】
ナノ粒子の粒径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、動的光散乱法(DLS)、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察及び走査型電子顕微鏡による観察等の公知の方法で測定できる。粒径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径、球相当径で表すことができる。また、粒径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒径、体積平均粒径及び面積平均粒径等であってもよい。また、粒径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく個数分布等から算出される平均粒径であってもよい。
【0044】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、必要に応じて、酸性成分をさらに含むことで、その溶解性を制御できる。好ましくは、酸性成分の酸解離定数pKaは10以下である。ここでの“pKa”は「水中における酸解離定数」を意味し、特には「25℃水中における酸解離定数」を意味する。酸解離定数が水中で測定できない酸性成分では「ジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数」を意味し、DMSO中でも測定できない酸性成分では「アセトニトリル中の酸解離定数」を意味する。
【0045】
例えば、酸性成分は、塩酸、硫酸及びリン酸等の無機酸、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、オレイン酸及びラウリン酸等のカルボン酸、フェニルアラニン及びフェニルグリシン等のアミノ酸、グリコール酸、酒石酸及び乳酸等のヒドロキシカルボン酸、トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、並びにメタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸である。好ましくは、酸性成分は塩酸、安息香酸、オレイン酸、ラウリン酸、乳酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種である。酸性成分は1種に限らず、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
酸性成分を含む場合の本実施の形態に係るナノ粒子組成物の製造方法について例示する。当該ナノ粒子組成物の製造方法では、アルカリ条件下で上述の重合体の塩と化合物とを混合する。以下で説明する製造方法では、重合体の塩及び酸性成分として、それぞれPHMB塩酸塩及び塩酸を使用するものとする。
【0047】
まず、化合物を溶媒に懸濁し、撹拌しながらアルカリを添加し、化合物のアルカリ塩溶液を得る。PHMB塩を溶媒に溶解させ、撹拌しながら化合物のアルカリ塩溶液と混合する。さらに撹拌した後、生じた塩の結晶をろ過によって取り除き、PHMB-化合物-HCl組成物の溶液を得る。以上により、本実施の形態に係るナノ粒子組成物が得られる。
【0048】
なお、複数種類の化合物を組み合わせる場合は、各化合物の懸濁液又はアルカリ塩溶液を任意の順序で混合すればよい。また、酸性成分を含む場合であっても酸性成分を含まない場合であっても、本実施の形態に係るナノ粒子組成物の製造方法によれば、ナノ粒子組成物の各成分の比率は、重合体又は化合物の量によって任意に設定できる。酸性成分を含むナノ粒子組成物における重合体と化合物と、酸性成分との組成比は、特に限定されず、例えば化合物を1とした場合、重合体及び酸性成分のモル比は、それぞれ1~20、2~10又は3~5である。好ましくは、重合体と化合物と酸性成分との組成比は、モル比(重合体:化合物:酸性成分)で20:1:19、5:1:4又は2:1:1である。
【0049】
グアニジノ基及びビグアニジノ基は強塩基である。グアニジノ基又はビグアニジノ基を有する重合体は、酸性プロトンを有する化合物と安定な塩を形成することが期待される。形成される塩の組成比は添加する酸性成分の量によって制御することができるため、任意に組成比を決定できる。また、適切な酸性成分を添加することで、ナノ粒子組成物の物性を変化させ、各種の溶媒に対する溶解性を制御することができる。
【0050】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、例えば、水、アルコール及び有機溶媒等、種々の溶媒に溶解できる。溶媒は、例えば、エタノール、イソプロパノール、フェノキシエタノール及びベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶剤、グリセリン及びジグリセリン等のグリセリン系溶剤、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン及びγ-ブチロラクトン等の環状有機溶媒、フタル酸エステル、アジピン酸エステル及びセバシン酸エステル等のエステル系溶媒、メチルナフタレン、フェニルキシリルエタン及びアルキルベンゼン等の芳香族系溶媒、ノルマルパラフィン及びイソパラフィン等の脂肪族炭化水素溶媒、菜種油、綿実油、大豆油及びヒマシ油等である。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0051】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、溶液中でナノメートルサイズの微粒子状の物質として存在し、空気中の二酸化炭素に由来する炭酸等の酸性物質と触れることで、徐々に重合体と化合物とに分解して、抗菌性及び抗かび性を発揮すると考えられる。
【0052】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、レジオネラ菌(Legionella)、リステリア菌(Listeria)、プロテウス菌(Proteus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ菌(Salmonella)及びレンサ球菌(Streptococcus)等に対して抗菌活性を示す。また、当該ナノ粒子組成物は、例えば、コウジカビ(Aspergillus niger)、ケタマカビ(Chaetomium globosum)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、クモノスカビ(Rhizopus oryzae)及びクラドスポリウム(Cladosporium sphaerospermum)等に対して抗かび活性を示す。
【0053】
本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、例えば、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス及び新型コロナウイルス等に対して抗ウイルス活性を示す。
【0054】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るナノ粒子組成物は、溶媒に対する溶解性及び分散性を調整できる。また、当該ナノ粒子組成物は、下記実施例に示すように、幅広い細菌及び真菌に対して抗菌活性を示し、複数のウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。
【0055】
別の実施の形態では、本実施の形態に係るナノ粒子組成物を有効成分として含む抗菌抗かび抗ウイルス剤が提供される。抗菌抗かび抗ウイルス剤は、緩衝液、賦形剤、結合剤、油、水、乳化剤、グリセリン、抗酸化剤、防腐剤、透過剤及び香料等さらに含み得る。抗菌抗かび抗ウイルス剤は、ペースト又は懸濁液であってもよい。抗菌抗かび抗ウイルス剤は、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤又は散布剤の形態であってもよい。
【0056】
当該抗菌抗かび抗ウイルス剤は、ヒトを含む動物における真菌、細菌又はウイルスの感染領域に適用してもよい。当該抗菌抗かび抗ウイルス剤を皮膚に適用する場合、抗菌抗かび抗ウイルス剤は、例えば、鉱油、液体石油、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水等にナノ粒子組成物が懸濁した、あるいは溶解した軟膏剤等として製剤できる。抗菌抗かび抗ウイルス剤は、例えば、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液体パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水等にナノ粒子組成物が懸濁した、あるいは溶解したローション剤又はクリーム剤として製剤できる。
【0057】
当該抗菌抗かび抗ウイルス剤は、真菌、細菌及びウイルスの増殖を防止又は抑制したい対象に塗布又は散布し、当該対象の表面を抗菌抗かび抗ウイルス剤に暴露することによって、当該対象の表面の真菌、細菌及びウイルスの増殖を防止又は抑制することができる。
【0058】
また、当該抗菌抗かび抗ウイルス剤によって、真菌性爪感染症、水虫、及び真菌性皮膚感染症等の真菌感染症を治療又は予防できる。また、当該抗菌抗かび抗ウイルス剤は、細菌又はウイルス感染を原因とする各種の疾患の治療又は予防にも使用できる。
【0059】
また、別の実施の形態では、抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットが提供される。抗菌抗かび剤抗ウイルス調製キットは、上記実施の形態1に係るナノ粒子組成物、特には酸性成分を含まないナノ粒子組成物と、ナノ粒子組成物と混合される酸性成分と、を備える。上述のように、当該ナノ粒子組成物は、酸性成分を添加することで、ナノ粒子組成物の物性を変化させ、各種の溶媒に対する溶解性を制御することができる。よって、ナノ粒子組成物を溶解させる溶媒に応じて、酸性成分の種類及び量を調整することで、溶媒に適合した溶解性をナノ粒子組成物に付与することができる。
【0060】
当該抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットは、ナノ粒子組成物とは分離した形態で酸性成分を備える。例えば、当該抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットでは、ナノ粒子組成物が第1の容器に保持され、酸性成分が第1の容器とは異なる第2の容器に保持される。例えば、第1の容器に保持されるのは、上述のPHMB塩のアルカリ処理によって生じた塩の結晶をろ過によって取り除くことで得られたPHMB溶液と化合物の懸濁液とを混合して得られたナノ粒子組成物である。一方、第2の容器に保持されるのは、酸性成分である。この場合、第1の容器に保持されたナノ粒子組成物と、第2の容器に保持された酸性成分とを使用者が使用時に混合することで、抗菌抗かび抗ウイルス剤を調製できる。
【0061】
抗菌抗かび抗ウイルス剤の用途、例えば、抗菌抗かび抗ウイルス剤を塗料に添加する場合、塗料の成分に応じて適切な酸性成分を混合することで、抗菌抗かび抗ウイルス剤の溶解性を塗料に応じて調整することができる。当該抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットは、1種類に限らず、複数種類の酸性成分を備えてもよい。これにより、抗菌抗かび抗ウイルス剤の用途に応じて、使用者は酸性成分を選択したり組み合わせたりできる。
【0062】
なお、当該抗菌抗かび抗ウイルス剤調製キットは、ナノ粒子組成物と、酸性成分とを混合することが記載された指示書等を備えてもよい。指示書には、用途ごとに使用する酸性成分の種類、用量及び混合後の撹拌時間等が記載されていてもよい。
【0063】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る抗菌抗かび抗ウイルス塗料は、上記実施の形態1に係るナノ粒子組成物を含む。抗菌抗かび抗ウイルス塗料は、ナノ粒子組成物の他に、目的に応じて公知の塗料の成分を含んでもよい。塗料の成分は、例えば、バインダー(結合剤)、溶剤、着色剤、顔料、充填剤、粘度調整剤、表面調整剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、光安定化剤及び消泡剤等である。各成分の含有量は、添加目的等に応じて任意に調整することができる。
【0064】
バインダーは、塗料の成分として公知のバインダーであればいずれでもよく、無機系又は有機系のバインダーが用いられる。バインダーは、ナノ粒子組成物を塗膜中に固定する作用等を有する。バインダーの形態としては、溶剤型、エマルジョン(分散体)型、無溶剤型、1液型、多液型及び粉体型のいずれでもよい。
【0065】
無機系バインダーとしては、例えば、シリカバインダー、ジルコニアバインダー、アルミナバインダー、チタニアバインダー及び水ガラス(ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウム)等が挙げられる。
【0066】
有機系バインダーとしては、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、酢酸ビニル系ポリマー、ゴム系、塩化ビニル系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ポリオレフィン系、ポリエステル系、フッ素樹脂系、シリコーン系、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、コアシェルポリマー系及びエチレン性不飽和結合を有する硬化性化合物系((メタ)アクリレートモノマー系及びビニル系モノマー系等)等が挙げられる。
【0067】
有機系バインダーは、塗料分野で使用されている硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、ポリカルボン酸化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、アルデヒド化合物及びアジリジン化合物等が挙げられる。
【0068】
バインダーの含有量は、抗菌抗かび抗ウイルス性、分散性及び塗膜形成性等の観点から、抗菌抗かび抗ウイルス塗料全体に対して1~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%とすることができる。また、抗菌抗かび抗ウイルス塗料の固形分比率で50~99質量%、好ましくは70~97質量%、好ましくは80~95質量%とすることができる。バインダーの含有量が多すぎると、所望の抗菌活性、抗かび活性及び抗ウイルス活性が得られず、塗膜の強度及びコストの点で不利となるおそれがある。バインダーの含有量が少なすぎると、所望の抗菌活性、抗かび活性及び抗ウイルス活性が得られず、塗膜の強度及び分散性の点で問題が生じるおそれがある。
【0069】
溶剤としては、特に限定されず、粘度調整や希釈等を目的として、水、有機溶剤及び二酸化炭素等が用いられる。有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系;メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系;γ-ブチロラクトン等の環状エステル系;ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系;等が挙げられる。
【0070】
着色剤としては、特に限定されず、塗膜に所望の色調を付与することを目的として、無機着色顔料、有機着色顔料、蛍光顔料、光輝顔料、着色樹脂粒子及び染料等が用いられる。このうち、顔料は、少なくとも1種の親水性基又は親油性基が顔料の表面に直接又は種々の原子団により結合している自己分散型のものであってもよく、顔料の表面を種々の表面改質剤で改質したものであってもよい。
【0071】
充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、ベントナイト、炭酸バリウム、ジルコニア及びアルミナ等が挙げられる。
【0072】
粘度調整剤としては、例えば、セルロース系、ポリアミン系、デンプン系、アルギン酸系、脂肪酸エステル系、ポリビニルアルコール系及びポリアクリル酸(塩)系等が挙げられる。
【0073】
本実施の形態に係る抗菌抗かび抗ウイルス塗料が塗布される基材としては、抗菌性、抗かび性及び抗ウイルス性を付与したいもので、塗料を塗布できるものであれば任意である。基材を構成する素材としては、特に限定されないが、例えば、鉄、アルミニウム等の金属、ガラス、コンクリート、各種プラスチック、紙及び木材等が挙げられる。また、これらの1種以上を含む積層体及び組成物等の複合材でもよい。
【0074】
抗菌抗かび抗ウイルス塗料が塗布される対象としては、特に限定されないが、例えば、医療機関、商業施設、学校、公共施設、食品工場、介護現場、調理現場、飲食料品関連現場及び交通機関等に設置される各種の物品等があげられる。このような物品等としては、例えば、ドア、ドアノブ、手すり、ハンドル、壁、ガラス、建材、テーブル、いす、家電、筆記具、文房具、事務用品、医療機器、押しボタン、パソコン、キーボード、マウス、タッチパネル、携帯通信機器、電子カルテ、表示装置、机、引き出し、ファイル、名札・表示板、操作ボタン及びスイッチ等があげられる。
【0075】
本実施の形態に係る抗菌抗かび抗ウイルス塗料による塗膜形成方法としては、物品及び基材等の形状又はその用途等に応じて、抗菌抗かび抗ウイルス塗料の塗膜を物品及び基材等の上に設けるための一般的な方法を採用することができる。塗膜形成方法は、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電、回転霧化、ハケ、ローラー、ハンドガン、万能ガン、浸漬、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター及びインクジェット等である。好ましくは、塗膜形成方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電、回転霧化、ハケ、ハンドガン、万能ガン及びインクジェットである。
【0076】
抗菌抗かび抗ウイルス塗料を基材に塗装する際、油等の汚染物質で塗装面が汚染されている場合は、アルコール等で基材表面を脱脂及び清浄化するのが好ましい。基材と塗膜との間の付着性及び耐食性を改善するために、粗面化処理、プラズマ処理、火炎処理及びプライマー処理等の公知の表面処理を行ってもよい。
【0077】
抗菌抗かび抗ウイルス塗料を塗装後、常温乾燥又は強制乾燥等の手段で塗膜を乾燥させて塗装物を形成してもよい。常温乾燥の場合は、常温(例えば、10~40℃未満)で塗装物を静置すればよい。強制乾燥の場合は、ブロアー等を用いて乾燥してもよく、常温を超える温度、例えば50℃以上で1分以上加熱することで焼付け乾燥してもよい。また、バインダーが硬化性のものである場合には、紫外線等のエネルギー線又は熱により硬化させてもよい。仕上り性の点から、乾燥又は硬化前に予め常温に静置してもよい。
【0078】
塗装物において、抗菌抗かび抗ウイルス塗料により形成される塗膜の厚さ(乾燥膜厚)は、特に限定されず、用途等に合わせて適宜調整することができる。例えば、乾燥膜厚で0.1~1000μmとすることができ、80μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは1~20μmの範囲内とすることができる。
【0079】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0080】
次の組成を有する組成物を以下のように調製した。なお、表1における組成の括弧内は、モル比を示す。例えば、実施例1-1の組成はPHMBとTBZのモル比が2:1である(PHMBのモル数はPHMBの繰り返し構造単位の分子量に基づく)。
【0081】
【0082】
(実施例1-1及び1-2)
PHMB塩酸塩水溶液(20%w/w)2mLをエバポレーターによって濃縮してエタノール10mLに溶かし、撹拌しながらナトリウムエトキシドエタノール溶液(1.0M)2mLを添加した。混合物は淡黄色溶液となり生じた塩化ナトリウムのために白濁した。これを室温でさらに1時間撹拌した後、塩化ナトリウムの結晶をろ過によって取り除き、PHMBのエタノール溶液を調製した。
【0083】
PHMBのエタノール溶液中に、TBZ 1mmol(201mg)のエタノール懸濁液(10mL)を撹拌しながら添加し、室温でさらに1時間撹拌した。得られた溶液をエタノールによって希釈し、全量を55gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例1-1として得た。また、上記のPHMBのエタノール溶液中に、TBZ 2mmol(402mg)のエタノール懸濁液(20mL)を撹拌しながら添加し、室温でさらに1時間撹拌した。得られた溶液をエタノールによって希釈し、全量を75gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例1-2として得た。
【0084】
(実施例2)
実施例1-1の調製と同様に得たPHMBのエタノール溶液中に、PT 2mmol(298mg)のエタノール懸濁液(10mL)を撹拌しながら添加し、室温でさらに1時間撹拌した。得られた溶液をエタノールによって希釈し、全量を65gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例2として得た。
【0085】
(実施例3)
実施例1-1と同様にPHMBのエタノール溶液中に、TBZ 1mmol(201mg)のエタノール懸濁液(10mL)を撹拌しながら添加し、室温でさらに1時間撹拌した。得られた溶液にPT 1mmol(149mg)を添加し、室温でさらに数時間撹拌した。得られた溶液をエタノールで希釈して全量を70gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例3として得た。
【0086】
(実施例4-1及び4-2)
TBZ 0.1mmol(20mg)をエタノール5mLに懸濁し、撹拌しながらナトリウムエトキシドエタノール溶液(1.0M)1mLを添加し、TBZナトリウム塩のエタノール溶液を調製した。PHMB塩酸塩水溶液(20%w/w)2mLをエバポレーターによって濃縮してエタノール10mLに溶かし、撹拌しながらTBZナトリウム塩のエタノール溶液を添加した。これを室温でさらに数時間撹拌した後、塩化ナトリウムの結晶をろ過によって取り除き、PHMB-TBZ-塩酸(HCl)組成物のエタノール溶液を得た。得られた溶液をエタノールで希釈して全量を37gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例4-1として得た。
【0087】
TBZ 0.4mmol(80mg)及びPHMB塩酸塩水溶液(20%w/w)2mLを用いて、実施例4-1の調製と同様にPHMB-TBZ-塩酸組成物のエタノール溶液を得た。得られた溶液をエタノールで希釈して全量を43gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例4-2として得た。
【0088】
(実施例5~10)
実施例1-1と同様にPHMBのエタノール溶液中に、TBZ 1mmol(201mg)のエタノール懸濁液(10mL)を撹拌しながら添加し、室温でさらに1時間撹拌した。得られた溶液に1mmolの安息香酸(122mg)を添加し、室温でさらに数時間撹拌した。得られた溶液をエタノールで希釈して全量を67gとして濃度1.0%w/wの溶液を実施例5として得た。
【0089】
実施例6、7、8、9及び10の調製では、実施例5の調製において添加した安息香酸を、それぞれオレイン酸(282g)、ラウリン酸(200g)、トルエンスルホン酸(172g)、乳酸(90g)及び酢酸(60g)に置き換えたことを除いて実施例5と同様に調製した。
【0090】
(組成物の組成比の確認)
上記で得られた組成物中の各成分の組成比を1H NMRによって決定した。溶媒には重メタノールを用いて、各成分のプロトンシグナルの積分値から組成比を決定した。1H NMRの装置にはJEOL JNM-ECX400(日本電子社製)を用いた。
【0091】
(結果)
組成比の決定例として、実施例5、実施例6及び実施例7の
1H NMRスペクトルを
図1~3にそれぞれ示す。実施例5はその組成比がモル比2:1:1となるように調製した。実施例5の各成分のプロトンシグナルは以下の通りであった。
【0092】
PHMB:3.16ppm(br s,7H),1.53ppm(br s,9H),1.35ppm(br s,8H),TBZ:9.09ppm(d,J=1.8Hz,1H),8.23ppm(d,J=1.8Hz,1H),7.93-7.90ppm(m,2H),7.59ppm(m,J=6.3,3.2Hz,2H),安息香酸:7.39-7.30ppm(m,4H),7.22-7.19ppm(m,2H)。
【0093】
各成分のプロトンシグナルの積分値より、各成分は1.98:1.12:0.99の比であり、調製の際に加えた各成分の量比とほぼ一致していることが確認された。
【0094】
実施例6は、その組成比がモル比2:1:1となるように調製した。実施例6の各成分のプロトンシグナルは以下の通りであった。
【0095】
PHMB:3.17ppm(br s,7H),1.54ppm(br s,9H),1.36-1.28ppm(m,29H),TBZ:9.10ppm(d,J=2.3Hz,1H),8.24ppm(d,J=2.3Hz,1H),7.59ppm(q,J=3.1Hz,2H),7.21ppm(q,J=3.1Hz,2H),オレイン酸:5.36-5.28ppm(m,2H),2.16-1.99ppm(m,6H),1.36-1.28ppm(m,29H),0.89ppm(t,J=6.9Hz,3H)。
【0096】
各成分のプロトンシグナルの積分値より、各成分は2.01:1.09:1.04の比であった。調製の際に加えた各成分の量比とほぼ一致していることが確認された。
【0097】
実施例7は、その組成比がモル比2:1:1となるように調製した。実施例7の各成分のプロトンシグナルは以下の通りであった。
【0098】
PHMB:3.14ppm(d,J=18.8Hz,6H),1.60-1.45ppm(m,11H),1.36-1.28ppm(m,15H),TBZ:9.09ppm(d,J=1.8Hz,1H),8.23ppm(d,J=1.8Hz,1H),7.60ppm(m,J=3.2Hz,2H),7.19ppm(m,J=3.1Hz,2H),ラウリン酸:2.13ppm(q,J=7.5Hz,2H),1.54ppm(s,2H),1.36-1.28ppm(m,15H),1.17ppm(t,J=7.1Hz,68H),0.93-0.85ppm(m,3H)。
【0099】
各成分のプロトンシグナルの積分値より、各成分は1.71:1.09:1.06の比であった。調製の際に加えた各成分の量比とほぼ一致していることが確認された。
【0100】
(組成物の構造の確認)
実施例6の5%エタノール溶液に対して、DLS(Malvern Panalytical社製のZetasizer Nano series Nano-ZS)を用いて組成物の粒径を測定した。
【0101】
(結果)
図4に示すとおり、粒径約6.4nmの微細な粒子からなるコロイド溶液であることが確認された。PHMBの主成分は、単位構造が10個連結したポリマーであり、平均分子量は約2200である。分子シミュレーションによるとPHMBの鎖長は約10nm、オレイン酸の鎖長が約0.2nmであることを考えると、PHMB2~数分子が、TBZ及びオレイン酸それぞれ約10~数十個と結合した組成物が一つの独立した粒子になっていると推測できる。
【0102】
(組成物の性状と溶解性の検討)
表2に一部の実施例の性状と溶解性を示す。実施例の性状と溶解性は主として組み合わせる酸性成分に影響を受ける。塩酸塩であるPHMB-TBZ-HCl組成物は、淡黄色の固体として得られ、塩酸塩の比率が大きい実施例4-1の場合は水に溶ける。塩酸塩の比率が小さい実施例4-2の場合は水にはほとんど解けず、エタノールに非常によく溶け、最大15%w/wの濃度の溶液が得られる。酸性成分を含まない実施例1-1は疎水性の淡黄色固体として得られ、エタノール及びベンジルアルコールに非常によく溶ける。
【0103】
酸性成分として安息香酸又は長鎖脂肪酸を有する実施例5~7は淡黄色固体から淡黄色ロウ状物質となり、エタノールとベンジルアルコールに良く溶ける。酸性成分としてスルホン酸を有する実施例8は疎水性の高い淡黄色固体として得られ、水及びエタノールに溶けないが、ベンジルアルコールに良く溶ける。
【0104】
【0105】
(試験例1:組成物の抗菌性試験)
実施例に対して、抗菌性試験を行った。抗菌性試験としては、実施例を含ませたペーパーディスクを試験培地上に試料としておき、48時間培養後のハローの大きさで抗菌性を確認した。試験に用いた菌はStaphylococcus aureus及びEscherichia coliの2種である。
【0106】
肉エキス5.0g、ペプトン10.0g、精製水1000mL、寒天15.0g、塩化ナトリウム5.0g及び生理食塩水1000mLを混合した培地を寒天培地として用いた。培地に菌のストックカルチャーを加え106±200000個/mLになるよう混合して試験培地とした。実施例4-2等をDMSO又はエタノールで希釈して試験溶液とした。試験溶液に直径8mmのペーパーディスクを浸し、ろ紙上で24時間風乾したものを試験片とした。
【0107】
試験培地をシャーレに分注、固化させたのち、試験培地上に試験片を置き、34~36℃で48時間培養した。培養後、試験片を肉眼で観察してハローの有無を調べた。確認されたハローの大きさに従って抗菌性を次のように数値で示した。0:ハローが確認できない、1:ハローが1mm未満、2:ハローが1mm以上かつ3mm未満、3:ハローが3mm以上。
【0108】
(結果)
Staphylococcus aureus及びEscherichia coliに対する実施例の抗菌性試験の結果を表3及び表4にそれぞれ示す。程度の差はあるが、試験対象のすべての実施例について抗菌性が確認された。ハローの大きさは試料の水溶性に依存することが知られており、今回の結果も実施例の水溶性に応じたものであると考えられる。
【0109】
【0110】
【0111】
(試験例2:組成物のかび抵抗性試験)
かび抵抗性試験としては、JIS Z 2911に規定された試験法を参考にして、実施例を含ませたペーパーディスクを試料として実施した。試験に用いたかびは、Aspergillus niger及びChaetomium globosumである。
【0112】
無機塩寒天培地(リン酸二水素カリウム0.7g、硝酸ナトリウム2.0g、塩化カリウム0.5g、リン酸水素二カリウム0.3g、硫酸鉄(II)七水和物0.01g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、蒸留水1000mL及び寒天20g)から寒天を除いた水溶液に、試験に用いるかびの胞子を加え、106±200,000個/mLとなるよう調整し、湿潤液(ラウリル酸ナトリウム水溶液0.05g/L)と当量混和し、接種用菌液とした。
【0113】
実施例をDMSO又はエタノールで希釈して試験溶液とした。この溶液に直径8mmのペーパーディスクを浸し、ろ紙上で24時間風乾したものを試験片とした。無機塩寒天培地を滅菌後、シャーレに分注、固化させたのち、接種用菌液を白金耳で塗布した。この上に試験片を置き、28~30℃で14~28日間培養した。
【0114】
培養後、試験片を肉眼及び顕微鏡(倍率40倍)観察して試験菌の発育の程度を調べた。発育の程度は次のように数値で示した。0:試料表面に全く菌が発育しない、1:顕微鏡下で試料表面に菌の発育が確認できる、2:試料表面積に対して25%未満の発育、3:試料表面積に対して25%以上50%未満の発育、4:試料表面積に対して50%以上の発育、5:菌が試料表面の全面を覆っている。
【0115】
さらに、実際的な環境下でのかび抵抗性を確認するため、5種類のかび(Aspergillus niger、Chaetomium globosum、Penicillium citrinum、Rhizopus oryzae及びCladosporium sphaerospermum)を混合した菌体試料を用いて、上述のようにかび抵抗性試験を行った。
【0116】
(結果)
Aspergillus niger及びChaetomium globosumに対するかび抵抗性試験の結果を、それぞれ表5及び表6に示す。TBZはAspergillus niger及びChaetomium globosumに対して良好なかび抵抗性を示すことが知られている。実際にTBZを含む組成物のかび抵抗性試験では双方の真菌に対して明確なかび抵抗性が確認された。
【0117】
【0118】
【0119】
5種類のかびを使用したかび抵抗性試験の結果を表7に示す。TBZを含む実施例1-1、1-2、4-2、5、9の結果を見ると、親水性の高い実施例4-2及び実施例9は、より疎水性である実施例5、実施例1-1及び実施例1-2に比べてより明確なかび抵抗性を示している。この結果は、培地中の水分に二酸化炭素が溶け込んで生じた炭酸によって組成物が徐々に分解されて抗菌性と防かび性とが発揮されるという考えを裏付けるものである。
【0120】
防かび剤としてOPPを含む実施例10については、TBZと同様に明確なかび抵抗性が確認されている。一方、PTを含む実施例2ではかび抵抗性が確認できなかったが、TBZを組み合わせた実施例3でかび抵抗性が改善された。
【0121】
【0122】
(試験例3:組成物の生物活性試験)
実施例5又は実施例6を1~5%(質量%)添加した市販の塗料(鉄部用クリアコートJAN4970925-525697:アクリル樹脂、ニトロセルロース、有機溶剤含有、アサヒペン社製)を5cm角のプラスチック片に塗布した。24時間乾燥させて試験片とした。試験片を蒸留水で水洗し、24時間水中に放置した後、乾燥させて、抗菌性試験(JIS Z 2801:2000法)、かび抵抗性試験(JIS Z 2911法)及び抗ウイルス性試験(ISO21702法)を行った。なお、ウイルス感染価はプラーク法によって検定した。
【0123】
抗菌性試験には、黄色ブドウ球菌及び大腸菌を使用した。かび抵抗性試験では、試験例2と同じ5種類のかびを使用して試験例2と同様に試験菌の発育の程度を評価した。抗ウイルス性試験には、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスを使用した。
【0124】
(結果)
表8は実施例5を含有する塗料の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を示す。表9は実施例5を含有する塗料の大腸菌に対する抗菌活性を示す。なお、以下の抗菌活性値は、24時間後の生菌数に対する接種直後の生菌数の割合の対数であって、2.0以上で十分な抗菌活性を有すると言える。
【0125】
【0126】
【0127】
表10は実施例6を含有する塗料の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を示す。表11は実施例6を含有する塗料の大腸菌に対する抗菌活性を示す。
【0128】
【0129】
【0130】
表12は、実施例5を含有する塗料の防かび性を示す。表13は実施例6を含有する塗料の防かび性を示す。実施例5及び実施例6は濃度依存的に防かび性を示した。
【0131】
【0132】
【0133】
表14は実施例6を含有する塗料のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を示す。表15は実施例6を含有する塗料のネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を示す。なお、以下の抗ウイルス活性は、ブランク試験、すなわちサンプル1のウイルス感染価に対する24時間後のウイルス感染価の割合の対数であって、2.0以上で十分な抗ウイルス活性を有すると言える。
【0134】
【0135】
【0136】
本試験例において、実施例5及び実施例6は塗料に添加しても、抗菌性、かび抵抗性及び抗ウイルス性を有していることが示された。
【0137】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。