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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118741
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】スポンジケーキ
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20220808BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20220808BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220808BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220808BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D10/00
A21D13/00
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015395
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙紀
【テーマコード(参考)】
4B018
4B032
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LE01
4B018MD28
4B018MD36
4B018ME03
4B018MF04
4B018MF08
4B032DB06
4B032DG02
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK47
4B032DL02
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、ベーキングパウダーや乳化剤といった食品添加物を多用せず、十分な膨らみが形成されたスポンジケーキを提供することにある。また、D-プシコースを添加すると焼成ケーキのボリュームが低下するところ、これを改善して十分な膨らみが形成されたスポンジケーキを提供することにある。
【解決手段】 添加物の範疇にない還元難消化性デキストリンを使用することにより、上記課題は解決される。詳細には、還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有するケーキバッター生地を調製し、これを焼成することにより、上記課題は達成される。また、D-プシコースを1~13%含有するケーキバッター生地にあっても、還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有させて焼成することにより、上記課題は達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-プシコース及び還元難消化性デキストリンを含有してなるスポンジケーキ用ミックス粉。
【請求項2】
D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有してなるケーキバッター生地。
【請求項3】
D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有するケーキバッター生地を焼成してなるスポンジケーキ。
【請求項4】
穀粉、卵、砂糖、D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含む生地を調製する工程と、これを型充填する工程と、100℃以上の焼成機で焼成する工程からなる、スポンジケーキの製造方法。
【請求項5】
還元難消化性デキストリンを有効成分として含むスポンジケーキ膨化用組成物。
【請求項6】
還元難消化性デキストリン及びD-プシコースを含んでなるスポンジケーキ膨化用組成物。
【請求項7】
ケーキバッター生地に還元難消化性デキストリンを0.2~7.0%含有させ、その生地を100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化方法。
【請求項8】
D-プシコースを含むケーキバッター生地に還元難消化性デキストリンを0.2~7.0%含有させ、その生地を100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボリューム感に優れたスポンジケーキに関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキは、穀粉(主に小麦粉)、卵及び砂糖を主原料とする生地を、卵の起泡力で膨らませ、この起泡を維持しながら焼成してなるものである。スポンジケーキは、通常、ふんわりとしたボリューム感あるものが好まれるため、卵の起泡力だけでは足りず、ベーキングパウダー又は重曹を生地に配合し、その溶解時又は加熱時に発生する二酸化炭素を利用してボリュームアップさせる手法をとることもある。また、生地中に発生した気泡の消泡を焼成完了まで抑えるために、例えば、乳化剤を添加することによりボリュームを維持させる手法をとることもある。
【0003】
しかし、ベーキングパウダーや乳化剤といった食品添加物を生地に添加すると、独特の好ましくない風味がケーキ類に付与されてしまうことや、最近の無添加嗜好の顧客ニーズに合わないという理由から、極力使用を避けたいものとなっている。
【0004】
そこで、ベーキングパウダーや乳化剤を使用せずにケーキ類を製造する方法として、イソマルツロース又はトレハロースを利用する方法(特許文献1)や、卵白と砂糖の泡立て温度を30℃~42℃としてメレンゲを調製し、そこへ小麦粉と洋酒、次いでバターを加えて焼成する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、特許文献1の方法では、ベーキングパウダーの添加は少量であっても依然必要であるとされているし、特許文献2の方法では、原料の添加順が限定的であることに加えて洋酒を必須原料としていることから、得られる商品及び消費者が限定的であり、汎用性が非常に低い方法といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-221031号公報
【特許文献2】特開2017-077199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ベーキングパウダーや乳化剤を使用せずとも十分な膨らみが形成されたスポンジケーキ、そのスポンジケーキの製造方法、及びそのスポンジケーキ用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、添加物の範疇にない還元難消化性デキストリンを使用することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、主に6つの発明(ケーキ用ミックス、ケーキバッター生地、焼成ケーキ、ケーキの製造方法、ケーキ膨化用組成物、ケーキの膨化方法)からなり、具体的には以下[1]~[8]である。
[1]D-プシコース及び還元難消化性デキストリンを含有してなるスポンジケーキ用ミックス粉。
[2]D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有してなるケーキバッター生地。
[3]D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含有するケーキバッター生地を焼成してなるスポンジケーキ。
[4]穀粉、卵、砂糖、D-プシコース1~13%及び還元難消化性デキストリン0.2~7.0%を含む生地を調製する工程と、これを型充填する工程と、100℃以上の焼成機で焼成する工程からなる、スポンジケーキの製造方法。
[5]還元難消化性デキストリンを有効成分として含むスポンジケーキ膨化用組成物。
[6]還元難消化性デキストリン及びD-プシコースを含んでなるスポンジケーキ膨化用組成物。
[7]ケーキバッター生地に還元難消化性デキストリンを0.2~7.0%含有させ、その生地を100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化方法。
[8]D-プシコースを含むケーキバッター生地に還元難消化性デキストリンを0.2~7.0%含有させ、その生地を100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳化剤や膨化剤を特段使用することなく、ボリュームあるスポンジケーキを提供することができる。また、低カロリー表示や機能性表示のために用いられるD-プシコースをケーキバッター生地に添加して焼成したときに生じる、焼成ケーキの膨化阻害を解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にいうスポンジケーキとは、主成分である穀粉、卵及び砂糖のほか、牛乳、油脂、塩、調味料などの副原料を混合して得られるバッター生地を型に充填し、焼成してなるものをいい、イースト発酵を伴うパン類とは区別される。本発明にいうスポンジケーキは、いわゆるスポンジケーキに限るものでなく、穀粉、卵及び砂糖を主原料として焼成されるケーキ類であればよく、例えば、シフォンケーキ、カップケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、ホットケーキ、どら焼き、蒸しどら、たい焼き、人形焼、鈴カステラ、ワッフルといった、焼成後のボリュームが必要とされるケーキ類を指す。本発明の効果がよく発揮されるスポンジケーキの形態は、卵の気泡性を利用した生地を使用して製造される、いわゆるスポンジケーキのほか、シフォンケーキ、ホットケーキ、カステラ、ブッセ、ロールケーキ、バウムクーヘンである。スポンジケーキの製造手順は定法に従えばよく、例えば、シュガーバッター法、共立て法、オールイン法、フラワーバッター法、別立て法などが挙げられる。焼成工程における生地温度が80℃を超える場合に膨化が最大となるため、本発明の効果がより明確にみられる。
【0011】
本発明のスポンジケーキの主原料である「穀粉」は、小麦粉に限定されず、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などを併用してもよく、澱粉には加工澱粉が含まれる。加工澱粉の具体例は、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉)、エステル化澱粉(例えば、酢酸澱粉)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0012】
上記の「卵」は、一般に鶏の全卵を指すが、それ以外の卵であってもよく、卵黄又は卵白のみを利用することができ、卵液のほか、その冷凍品、粉末品などの加工品を用いることもできる。また、上記の「砂糖」は、ショ糖、スクロースともいい、その粒の大きさや精製度により、グラニュー糖、粉糖、上白糖、三温糖などと名称が異なることがあるが、還元難消化性デキストリンの効果を阻害しない量範囲であれば、いずれを用いてもよい。また、近年では、消費者の「低カロリー」「血糖上昇抑制」「脂肪吸収抑制」などの健康志向に応えるため、砂糖の一部を砂糖に近い甘味を有する機能性糖に置き換えることがあり、その機能性糖の例として、希少糖が挙げられるが、本発明においては、この希少糖を用いることもできる。もっとも、希少糖のひとつであるD-プシコースを砂糖の一部置換えで使用すると、ケーキの膨化が阻害されるという課題がある。
【0013】
本発明のスポンジケーキは、上記主原料のほか、本発明の効果を得るための必須成分として還元難消化性デキストリンを含む。還元難消化性デキストリンは、難消化性デキストリンに水素添加して得られる還元型の難消化性デキストリンであればよく、例えば、焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加したものが挙げられ(特開2005-287454号公報参照)、現在までに国内流通する市販品は松谷化学工業株式会社製の「ファイバーソル2H」のみである。還元難消化性デキストリンは、スポンジケーキの原料のひとつとして用いればよく、ミックス粉の調製時又はバッター生地の調製時に少なくとも生地原料中に0.2%以上配合すればよい。しかし、還元難消化性デキストリンを、7%を超えて添加すると口どけに影響が及び、また、D-プシコースを砂糖の1~100%置き換えで用いる場合において、ケーキバッター生地中に砂糖が8%未満、かつ、D‐プシコースが12.5%以上のときには、還元難消化性デキストリンを7%を超えて添加しても、D-プシコース添加による膨化阻害を解消することができない。よって、D-プシコースを含む場合を考慮してもなお、難消化性デキストリンの添加量は0.2~7.0%にあることがよく、好ましくは0.2~6.0%、より好ましくは1.2~5.5%である。
【0014】
本発明にいう「ボリュームが向上する」とは、ケーキバッター生地が型に充填されて焼成されたものの体積が、対照となるスポンジケーキの体積より大きい状態をいい、より好ましくは、比容積(cm /g)が3.9以上であることをいう。ここで、比容積は、焼成ケーキを室温で冷まし、レーザー体積計(例えば、アステックス株式会社製、Selnac Win VM2000シリーズなど)で測定した体積(cm)を質量(g)で除したもの(cm/g)をいう。なお、レーザー体積計とは、一定の波長(パルス長)をもったレーザーを対象物に投光し、その反射光を受光部で受光するまでの時間を測定することにより対象物の形状をスキャンし、体積を測定するものである。
【0015】
本発明のスポンジケーキ用のミックス粉は、先述のとおり、必須成分である還元難消化性デキストリンを含めばよく、主原料となる穀粉、卵、砂糖とともにあらかじめ混合してミックス粉として提供するのでもよいし、スポンジケーキの製造者が還元難消化性デキストリンに対して好みの材料を後から混合して使用することもできる。また、上記主原料のほか、重曹、ベーキングパウダー、乳製品、油脂、塩などの調味料のほか、レーズンやナッツなどの具材を含むことができる。また、甘味を調節するため、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、砂糖以外の糖を含むことができ、上述のD-プシコースのほか、糖アルコール、二糖、オリゴ糖、水飴、高甘味度甘味料などを用いることができる。高甘味度甘味料の例としては、アセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン、アスパルテーム、ステビア(レバウディオサイドA,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,O、ステビオサイドなど)、サッカリン、サッカリンナトリウム、甘草、羅漢果、ネオテーム、モネリン、グリチルリチン、アリテーム、ネオヘスペリジン等が挙げられる。
【0016】
本発明の効果を得るためには、還元難消化性デキストリンは、少なくともバッター生地の段階において0.2~7.0質量%含まれるようにする必要があるので、例えば、スポンジケーキ用ミックス粉100質量部に対して添加する液(水、牛乳、卵などの混合液)が300質量部である設計の製品にあっては、当該ミックス粉中に0.8~28質量%含まれるよう調製することとなる。
【実施例0017】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。なお、以下の実験例において、とくに断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【0018】
<D-プシコースがケーキ比容積に及ぼす影響>
以下の[表1]の手順に従い、[表2]の配合で各スポンジケーキを焼成した。焼成したスポンジケーキの比容積は、レーザー体積計(アステックス株式会社製「Selnac Win VM2000シリーズ」)で測定した。その測定結果は、[表2]下方に示す。なお、以降の実験で用いたD-プシコースは、松谷化学工業株式会社製「Astraea」(規格純度95%以上)である。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
ケーキバッター生地にD-プシコースを0.26%添加して焼成したケーキは、D-プシコース無添加の焼成ケーキに比べて比容積は低下しなかったが(試験区2)、D-プシコースを1.28%、25.64%と添加していくと、比容積が低下することがわかった(試験区3、4)。
【0022】
<D-プシコース入りケーキの比容積を回復させる素材の検討>
D-プシコースを添加して焼成したケーキの比容積が低下することがわかったので、この低下した比容積を回復することができる素材を検討することとした。上の[表1]の手順に従って下の[表3]の配合で各スポンジケーキを焼成し、その比容積をレーザー体計(同上)で測定した。比容積値を[表3]下方に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、エリスリトール、キシリトールについて検討した結果、難消化性デキストリン(試験区7)、エリスリトール(試験区8)、キシリトール(試験区9)を添加しても、D-プシコース添加により低下した焼成ケーキの比容積は回復できなかったが、還元難消化性デキストリンを添加すると(試験区6)、D-プシコース無添加ケーキ(試験区1)と同等の比容積にまで回復させることができた。
【0025】
<D-プシコース入りケーキに還元難消化性デキストリンが及ぼす影響>
上の[表1]の手順に従い、下の[表4]の配合で各スポンジケーキを焼成した。焼成したスポンジケーキをレーザー体積計(同上)で測定した。測定結果は、[表4]下方に示す。
【0026】
【表4】
【0027】
還元難消化性デキストリンを0.13%添加しただけでは、D-プシコース入りケーキの低下した比容積は回復しなかったが、0.26%、1.28%、5.13%、5.64%と添加していくと、比容積は回復した(試験区12~15)。しかし、還元難消化性デキストリンを7.69%添加しても、D-プシコース入りケーキの低下した比容積は回復しなかった(試験区16)。
【0028】
<D-プシコース無添加ケーキにファイバーソル2Hが及ぼす影響>
上の[表1]の手順に従い、下の[表5]の配合で各スポンジケーキを焼成した。焼成したスポンジケーキをレーザー体積計(同上)で測定した。測定結果は、[表5]下方に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
D-プシコース無添加のケーキにおいても、還元難消化性デキストリンが、ケーキの比容積を向上させることがわかった。