(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118748
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】海藻類生育促進用資材、同資材の製造用の塗料、同資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20220808BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220808BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220808BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A01G33/00
B05D7/24 303A
B05D7/24 302E
B05D5/00 Z
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015423
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】芦原 公美
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝司
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
【テーマコード(参考)】
2B026
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026AC02
4D075AB01
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4D075EC02
4D075EC08
4D075EC30
4J038JC38
4J038PB14
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】取り扱い性に優れるだけでなく、海藻類の生育において重要なミネラルである鉄分を、海中で効率的に供給することのできる資材を提供する。
【解決手段】海藻類生育促進用資材であって、基材に塗布層が設けられており、塗布層は樹脂成分と鉄供給剤とを含有する。鉄供給剤は、キレート化物質によりキレート化されたものとすることができる。キレート化物質は、有機酸とすることができる。樹脂成分は、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とから選択される1種以上とすることができる。基材は、繊維、撚糸、ロープ、織物、不織布、および網から選択されるいずれかの形態とすることができる。塗布層を形成するための塗料は、樹脂成分および二価鉄を含有する。塗料を基材に塗布する工程と、基材に塗布された塗料を乾燥させる工程とによって、資材が製造される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に塗布層が設けられており、前記塗布層が樹脂成分および鉄供給剤を含有することを特徴とする海藻類生育促進用資材。
【請求項2】
鉄供給剤が、キレート化物質によりキレート化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の海藻類生育促進用資材。
【請求項3】
キレート化物質が有機酸であることを特徴とする請求項2に記載の海藻類生育促進用資材。
【請求項4】
樹脂成分が、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の海藻類生育促進用資材。
【請求項5】
基材が、繊維、撚糸、ロープ、織物、不織布、および網から選択されるいずれかの形態であることを特徴とする請求項1から4までいずれか1項に記載の海藻類生育促進用資材。
【請求項6】
請求項1に記載の海藻類生育促進用資材の塗布層を形成するための塗料であって、樹脂成分および鉄供給剤を含有することを特徴とする塗料。
【請求項7】
請求項1に記載の海藻類生育促進用資材を製造するための方法であって、請求項6に記載の塗料を基材に塗布する工程と、基材に塗布された塗料を乾燥させる工程とを含むことを特徴する海藻類生育促進用資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類生育促進用資材、海藻類生育促進用資材を製造するための塗料、海藻類生育促進用資材を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンブ類、ホンダワラ類等の有用藻類の生育には、陸上の木や草と同様に、窒素、リン、ケイ素等の栄養分やミネラルが必要であり、特に、鉄分はこれらの藻類の成育に不可欠であることが指摘されている。海水中の鉄分の濃度が低い海域において、上記の有用藻類が生育する藻場が消滅し、石灰藻類が著しく繁茂するいわゆる「磯やけ」と呼ばれる現象が多発している。藻場が消滅して磯やけ地域が広がることは、有用藻類が減少するだけでなく、藻場に生息する水産動物も減少するので、水産資源の大きな損失につながる。この対策として、コンクリートを主体とする藻類増殖用の構造体を磯やけ地域に設置することにより、藻場を回復させる技術が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
ノリなど食用の藻類を養殖する海域として、鉄分を始めとする各種ミネラルが河川から豊富に流れ込む内湾が好適とされる。しかし、河川に養分を供給する役割を担う森林の伐採や、水流を停滞させるダムや河口堰の建設等によって、河川において、鉄分を始めとする栄養分の供給源としての能力が低下しており、近年では養殖ノリや養殖ワカメ等の不作が深刻化している。この問題を解決する手段として、網を構成する繊維に鉄紛を吹き付けた養殖用網が開示されている(特許文献3)。
【0004】
特許文献1、2においては、鉄供給源となる構造体がコンクリート製であることから、非常に重く、製造から運搬、海中への投入に至るまで、取り扱い性に劣るという問題がある。加えて、重量物を設置する手法の特性上、同コンクリート構造体を設置できる場所は、ほぼ沿岸部に限定されてしまう。
【0005】
特許文献3に記載の養殖用網は、鉄粉を吹き付けることによって繊維の強度が低下するだけでなく、海中で養殖用網から容易に鉄粉が脱落して、局所的に鉄を供給する機能を短期間の内に失うという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-100590号公報
【特許文献2】特開2012-217438号公報
【特許文献3】特開平9-327250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、これらの問題に鑑み、取り扱い性に優れるだけでなく、海藻類の生育において重要なミネラルである鉄分を、海中で効率的に供給することのできる資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明の海藻類生育促進用資材は、基材に塗布層が設けられており、前記塗布層が樹脂成分および鉄供給剤を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の海藻類生育促進用資材によれば、鉄供給剤が、キレート化物質によりキレート化されたものであることが好適である。
【0010】
本発明の海藻類生育促進用資材によれば、キレート化物質が、有機酸であることが好適である。
【0011】
本発明の海藻類生育促進用資材によれば、樹脂成分が、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂から選択される1種以上であることが好適である。
【0012】
本発明の海藻類生育促進用資材によれば、基材が、繊維、撚糸、ロープ、織物、不織布、および網から選択されるいずれかの形態であることが好適である。
【0013】
本発明の塗料は、上記した海藻類生育促進用資材の塗布層を形成するための塗料であって、樹脂成分および二価鉄を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の海藻類生育促進用資材の製造方法は、上記の塗料を基材に塗布する工程と、基材に塗布された塗料を乾燥させる工程とを含むことを特徴する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の海藻類生育促進用資材によれば、鉄分を海中で効率的かつ簡便に供給することができ、これにより海藻類の生育が促進されて、藻場の回復や食用藻類の収穫量の増加が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態の海藻類生育促進用資材は、基材と塗布層とを有する。このうち塗布層は、樹脂成分および鉄供給剤を含有する
【0017】
基材は、素材・形状共に特に制限されない。素材としては、樹脂、コンクリート、石材、木材、金属などが挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。このうち、取り扱い性の観点から樹脂を好適に用いることができる。その樹脂種は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂、ビニル系樹脂等を挙げることができる。このうち、加工性の観点から、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。基材の形状としては、例えば、多面体、柱体、錘体、球などの成形体が挙げられる。また、シート、フィルム、繊維、撚糸、ロープ、織物、不織布、網等が挙げられる。このうち、資材を設置する際の取り扱い易さ、また、表面積の大きさの観点から、繊維、撚糸、ロープ、織物、不織布、網が好ましい。
【0018】
塗布層に含まれる樹脂成分は、特に限定されないが、海藻類の生育を阻害しないものであることが好ましい。この樹脂成分は、1種類の樹脂であっても良く、複数種類の樹脂を組み合わせたものであっても良い。例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂等、あるいはこれらを含む共重合体、混合物等が挙げられる。このうち樹脂成分としては、親水性の観点からポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がさらに好ましい。また、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等の極性成分を共重合することによって親水化した樹脂も好適に用いることができる。
【0019】
ここにいうポリエステル樹脂とは、エステル結合を有する樹脂を意味し、モノマー成分として二価カルボン酸、二価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、三価以上のカルボン酸、モノカルボン酸、三価以上のアルコール、モノアルコール、ラクトン、オキシランが挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)等の生分解性ポリエステル樹脂を用いることもできる。
【0020】
塗布層に含まれる鉄供給剤について説明する。鉄は海藻類にとって微量要素ではあるものの必須の元素であり、特開2015-107061号公報の段落0057に記載のように鉄の濃度が1μg/L以下となると海藻類は鉄欠乏状態となり、成長が滞るだけでなく色彩が淡色化してしまう。
【0021】
塗布層に含まれる鉄供給剤は海藻類に必要な鉄を供給するための源となるものであり、鉄単体、または鉄化合物を含むことが求められる。国際公開第2007/013217号の段落0005に記載のように、鉄イオンは水の存在下で容易に水酸化第二鉄などを形成し、沈殿することが知られている。しかし、海水中でこの沈殿物を形成すると、海水中に溶出している鉄含有量が減少してしまう。この結果、海藻類の生育に帰する海水中の鉄の濃度が必要量以下となってしまう懸念がある。沈殿物の形成を防ぐために、鉄供給剤は、藻類が吸収しやすい二価鉄がキレート化物質によりキレート化されたものが好ましい。
【0022】
ここでキレート化物質とは鉄イオンを錯体化する(海水中に溶解させる)作用を有した物質であり、この作用を有する限り特に制限されるものではない。例えば有機酸、腐食酸、ポリフェノール等が挙げられる。
【0023】
一般に海藻類は生長過程において鉄イオンを二価の形で取り込み、利用することが知られている。この観点から、キレート化物質は鉄イオンを二価の状態で錯化する効果を有するものであることが好ましい。さらに、特開2015-107061号公報の段落0059において、鉄の生物利用性は、錯体化されているキレート化物質によって変化することが示唆されていることから、海藻の成育をより促進可能な生物利用性の高いキレート化物質であることがより好ましい。
【0024】
塗布層における鉄供給剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.1~300質量部の範囲であることが好ましく、0.5~200質量部であることがより好ましく、1~100質量部であることがさらに好ましい。鉄供給剤の含有量が樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部未満の場合は、添加の効果が少なく、本発明の効果が得にくい。鉄供給剤の含有量が300質量部を超えると、得られる塗膜の接着性や耐久性が低下することがある。
【0025】
本発明の海藻類生育促進用資材から海水中への鉄の溶出の機構は、完全には解明されていないが、樹脂の吸水と加水分解が影響していると推測される。以下、推測される溶出機構を説明する。すなわち、資材を海水中に浸漬させると、塗布層に含まれる樹脂成分が樹脂生来の特質により水分を僅かながら吸水し膨潤状態になる。膨潤状態は微視的には樹脂成分のポリマー鎖間の間隔が広がった状態であると考えることができ、このポリマー鎖間の隙間から鉄供給剤が移動することで鉄が海水中に溶出すると考えられる。さらに、吸水した樹脂成分は樹脂種により加水分解が進行する。加水分解が生じると、海水に接触している塗布層表面から樹脂成分が脆化され、場合によっては一部が脱落する。これにより鉄供給剤が表面に露出し鉄が海水中に溶出する。樹脂成分の吸水率及び加水分解性は選択した樹脂種により決定されるため、より溶出量を多くしたい場合には吸水率および/または加水分解性の大きい樹脂種を選択することができ、溶出量を少なくし溶出可能な期間を長くしたい場合には吸水率および/または加水分解性の低い樹脂種を選択することができる。一方、鉄供給剤についても、上記の通り吸水された僅かな水分で溶解し得るために、また膨潤状態にあるポリマー鎖間の隙間を通過し得るために、水への溶解性が高いことが望ましい。この観点からも、鉄供給剤はキレート化物質によりキレート化されていることが望ましい。
【0026】
本発明の塗料は、上記樹脂成分及び鉄供給剤をそれぞれ液状媒体に溶解または分散させた溶液を、任意の方法で混合することで、得ることができる。
【0027】
塗料を調整する際に用いる液状媒体は、水性媒体(水を含む)であっても非水性媒体であってもよい。水性媒体とは、水あるいは20℃における水に対する溶解性が50g/L以上である水溶性の有機溶媒をいう。このような水溶性の有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどが挙げられる。
【0028】
液状媒体が水性媒体である場合には、塗料は水系塗料となるが、その製造に際しては樹脂を水に溶解・分散させて調製すればよい。溶解・分散時の温度や撹拌状況は、任意で良い。例えば、鉄供給剤が溶剤系では不安定である場合や、環境対応に特に配慮すべき場合に、水系塗料を効果的に使用することができる。
【0029】
水性媒体に樹脂成分および鉄供給剤を溶解または分散する方法としては、公知の方法を用いることが可能である。水溶性の樹脂成分および鉄供給剤を用いた場合は、水性媒体の中で加熱や撹拌さらには加圧を行うことなどによって、溶液を得ることができる。また、非水溶性の樹脂成分および鉄供給剤を用いた場合は、これらを水性媒体に分散し、分散体として取得する方法を用いることが有効である。不揮発性の乳化剤を使用して分散化する場合は、塗膜の耐水性を高性能で維持するために、分散体中の乳化剤の含有量は、全固形分に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、ゼロであることが最も好ましい。乳化剤が塗膜中に存在すると、それらが塗膜の耐水性、耐久性、基材との密着性を低下させる原因となりやすい。
【0030】
非水性媒体としては、例えば、トルエン、ヘプタン、キシレン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、オクタン、シクロヘキサン、シクロへキシルベンゼン、シクロへキセン、シクロペンタン、ジペンテン、シメン、テレピン油、ヘキサン、ペンタン、メシチレン、メチルシクロヘキサン等に代表される炭化水素などを挙げることができる。上記液状媒体は単独で使用しても、2種類以上の混合物を使用しても良い。
【0031】
液状媒体が非水性媒体である場合には、塗料は溶剤系塗料となるが、その製造に際しては樹脂を有機溶剤に溶解させて調製すればよい。溶かす際の温度や撹拌状況は、任意で良い。例えば、樹脂が水に溶解・分散できないものである場合や、鉄供給剤が水系塗剤では不安定である場合や、速乾性が求められる場合に、溶剤系塗料を効果的に使用することができる。
【0032】
非水性媒体に樹脂成分および鉄供給剤を溶解または分散する方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、樹脂成分および鉄供給剤を非水性媒体に溶解する方法が一般的である。溶解する方法としては、例えば、樹脂成分および鉄供給剤を、非水溶性の溶媒の中で加熱や撹拌さらには加圧することなどを挙げることができる。これによって、樹脂成分および鉄供給剤の溶液を得ることができる。
【0033】
塗料中の樹脂成分および鉄供給剤などの不揮発性分の濃度は、塗料が基材に塗布可能な粘度である限り、特に限定されない。通常、コーティングに適切な粘度とするためには、不揮発性分の濃度が60質量%以下であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。
【0034】
塗料には、樹脂成分および鉄供給剤以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、架橋剤、無機粒子、顔料、染料等の添加剤を添加しても良い。
【0035】
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤、多価の配位座を有する金属錯体などを用いることができる。具体的には、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤(ブロック型を含む)、アミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、エポキシ系架橋剤、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物などが挙げられる。中でも、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤がより好ましい。このような架橋剤としては、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤などが挙げられる。これらは複数を組み合わせて使用してもよい。架橋剤を添加することで、塗膜強度の増大、基材への密着力の向上、耐水性の向上、塗膜の不溶化などを図ることができる。架橋剤の添加量は、本発明の効果と添加目的の効果とを共慮し適宜選択すればよいが、樹脂成分100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましい。
【0036】
無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ等の無機粒子、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ハイドロタルサイト、合成雲母等の層状無機化合物等が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒子径は、塗料の液安定性の面から、0.005~10μmであることが好ましく、0.005~5μmであることがより好ましい。添加量は、目的に応じて適宜設定されるが、通常、樹脂成分100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましい。なお、無機粒子として複数のものを混合して使用してもよい。
【0037】
顔料、染料としては、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等が挙げられ、分散染料、酸性染料、カチオン染料、反応染料等、いずれのものも使用することが可能である。添加量は、目的に応じて適宜設定されるが、通常、樹脂成分100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましい。
【0038】
本発明の塗料には、さらに必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、耐候剤、難燃剤等の各種薬剤を添加することも可能である。
【0039】
以上の添加剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の塗料を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、基材の種類に応じて従来用いられているいかなる塗布方法を選択してもよい。塗布の方法としては、例えば、ロールコート、スプレーコート、ディップコート、刷毛塗り等が挙げられる。また、必要に応じて、塗布後に塗料中の液状媒体を除去するための乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥方法や乾燥条件は特に限定されず、塗膜の厚み等に応じて適宜設定することができる。効率よく乾燥させるために、加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度は、40~250℃が好ましく、60~200℃がより好ましい。また乾燥時間は、生産性などの観点から、5~1200秒が好ましく、10~900秒がより好ましく、20~600秒がさらに好ましい。また、乾燥後のいずれかの工程で熱処理してもよい。
【0041】
例えば、ディップコートを選択した場合、樹脂成分および鉄供給剤を含む塗料に基材を浸漬した後に引き上げ、熱風乾燥機中で100℃、120秒の条件で加熱乾燥させることにより、本発明における海藻類生育促進用資材を得ることができる。また基材として繊維製品を用いる場合、基材に塗布層を形成させる時点としては、繊維を作製した時点、繊維を撚り合わせて糸とした時点、繊維あるいは糸を編む、織るなど加工した時点などがあるが、これらは資材の用いられ方により適宜選択すればよい。
【0042】
本発明における塗布層の厚みは、目的に応じて適宜設定してよい。例えば、乾燥後の塗膜の厚みとしては、0.1~500μmが好ましく、0.5~200μmがより好ましく、1~100μmがさらに好ましい。塗膜の厚みが0.1μm未満の場合は、本発明の効果が小さく、500μmを超えた場合は、効果が飽和してくるため、経済的に不利である。
【実施例0043】
(塗料の調整)
ユニチカ社製の飽和共重合ポリエステル樹脂(商品名:エリーテル、商品番号:UE-3600、ポリエチレンテレフタレート樹脂への接着性を発揮する樹脂)を準備した。また、鉄供給剤として、以下のものを準備した。
・フルボ酸鉄(ピィアイシィ・バイオ社製、カナディアンフルボの乾燥物、乾燥物中の鉄含有量:5.23質量%)
・酸化鉄(II)(寺田薬泉工業社製、酸化鉄60%含有、黒い粉末状、鉄含有量:0.466g/g)
【0044】
上述の飽和共重合ポリエステル樹脂(UE-3600)を、トルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比)の混合溶液に、固形分が30質量%になるように溶解させた。そして、その溶液に、鉄供給剤と樹脂との比が下記の表1のようになるように鉄供給剤を混合し、撹拌して、製造例1~製造例5の塗料を作製した。
【0045】
【0046】
(網・シートの準備)
以下のようにして基材としての網を製造した。すなわち、融点260℃のポリエチレンテレフタレートを準備し、繊度8.7デシテックスの長繊維を作製した。次いで、この長繊維を192本収束して、1670デシテックス/192のポリエステルマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸を8本製紐とし、製網機にかけて、15cm角の有結節網を作製した。次いで、この有結節網を、ピンテンター型熱処理装置にて幅方向に張力を加えながら、150℃雰囲気下で3分間熱処理し、その後冷却処理を施して、目的とする網地を得た。
【0047】
基材としてのシートは、以下のようにして製造した。すなわち、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、相対粘度:1.62、固有粘度:1.2、融点255℃)をプレス機にて210℃×0.1MPa×1分間プレスすることで、5.5×5.5×0.1cmのシートを得た。
【0048】
(塗布方法)
上述の網については、塗料に網を浸漬し、その後に塗料から網を引き揚げたうえで、余分な塗料を落とし、さらに熱風乾燥機で100℃×5分間の乾燥を施した。
【0049】
シートについては、同シートの両面に、各面ごとに塗布量が10g/m2となるようにワイヤーバーで塗料を塗布し、そのうえで熱風乾燥機にて各面ごとに100℃×2分間の乾燥を施した。
【0050】
(評価)
鉄の溶出状況を試験した。すなわち、シャーレに試料としての塗布層形成済の網またはシート入れ、人工海水70gに浸漬させた。1週間後、試料をシャーレから取り出し、ICP質量分析装置を用いて、試料からの鉄の溶出量(ppm)を測定することで、評価を行った。
【0051】
(実施例1)
基材としての網を製造例1の塗料に浸漬して塗布層を形成した。塗料の塗布の前後の質量差すなわち塗布層の質量は、1.06gであった。表1に示されるように、製造例1の塗料は、樹脂成分/二価鉄供給剤(質量比)が100/20であるため、この塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量は、1.06×20/(100+20)=0.177gであった。この二価鉄供給剤すなわちフルボ酸鉄は上記のように鉄含有量が5.23質量%であったため、結局、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量は、0.177×0.0523=0.009gであった。
【0052】
実施例1についての評価結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
(実施例2)
基材としてのシートと、製造例2の塗料とを用いて、塗布層を形成した。上記のようにシートは5.5×5.5cmの大きさであったので、これを「m2」に換算すると、5.5×5.5/10000(m2)であった。このシートの両面に、各面ごとに10g/m2で塗料を塗布したことから、塗布層の質量は、5.5×5.5/10000×10×2=0.061gであった。また、実施例1と同様の手法により計算したところ、この塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量は0.030g、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量は、0.030×0.0523=0.002gであった。実施例3についての評価結果を表2に示す。
【0055】
(実施例3)
基材としてのシートと、製造例3の塗料とを用いて、塗布層を形成した。そうしたところ、同様に、塗布層の質量は0.061g、塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量は0.006g、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量は、0.003gであった。実施例4についての評価結果を表2に示す。
【0056】
(実施例4)
基材としてのシートと、製造例4の塗料とを用いて、塗布層を形成した。そうしたところ、同様に、塗布層の質量は0.061g、塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量は0.0030g、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量は、0.014gであった。実施例5についての評価結果を表2に示す。
【0057】
(比較例1)
基材としての網と、製造例5の塗料であって樹脂成分は含むが二価鉄供給剤は含まないものとを用いて、塗布層を形成した。この比較例1においては、当然に、塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量と、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量とは、いずれも0gであった。比較例1についての評価結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2)
基材としてのシートと、製造例5の塗料とを用いて、塗布層を形成した。この比較例2においても、比較例1と同様に、塗料に含まれる二価鉄供給剤の質量と、この二価鉄供給剤に含まれる鉄の質量とは、いずれも0gであった。比較例2についての評価結果を表2に示す。
【0059】
表2からも明らかなように、本発明の実施例1~4の資材からは、1週間経過後に、人工海水中に鉄が溶出されていることを確認できた。したがって、海水中における海藻類の生育促進に効果的に機能すると考えられるものであった。