(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118751
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】金属粉末製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
B22F9/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015430
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】芝山 隆史
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017CA07
4K017EB02
4K017EB05
4K017EB07
4K017EB08
4K017EB12
4K017EB17
4K017EB25
4K017EB27
4K017FA07
4K017FA10
4K017FA11
(57)【要約】
【課題】噴霧槽内において溶湯ノズルとガス噴射ノズルから成る噴霧ノズルの個数が増加しても、1つの噴霧ノズル当たりの金属粉末の製造効率の低下を抑制できる金属粉末製造装置を提供すること。
【解決手段】金属粉末製造装置は、噴霧槽4と、噴霧槽4内に溶融金属8を流下させる溶湯ノズル11、及び、溶湯ノズル11から流下する溶融金属8に対して複数の噴射孔91からガスを噴射するガス噴射ノズル71をそれぞれ有する複数の噴霧ノズル20A,20Bとを備える。噴霧槽4の断面積A1[mm
2]は、噴霧ノズル20の個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c1を乗じた値に設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧槽と、
前記噴霧槽内に溶融金属を流下させる溶湯ノズル、及び、前記溶湯ノズルから流下する溶融金属に対して複数の噴射孔からガスを噴射するガス噴射ノズルをそれぞれ有する複数の噴霧ノズルとを備え、
前記噴霧槽の断面積A1[mm2]は、前記噴霧ノズルの個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c1を乗じた値である金属粉末製造装置。
【請求項2】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記所定の面積値c1は、61,250π[mm2]≦c1≦80,000π[mm2]を満たす値である金属粉末製造装置。
【請求項3】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記噴霧槽とガス流れの下流側で接続されたガス配管をさらに備え、
前記ガス配管の断面積A2[mm2]は、前記噴霧ノズルの個数nに所定の面積値c2を乗じた値である金属粉末製造装置。
【請求項4】
請求項3の金属粉末製造装置において、
前記所定の面積値c2は、1,250π[mm2]≦c2≦2,812.5π[mm2]を満たす値である金属粉末製造装置。
【請求項5】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記複数の噴霧ノズルのうち隣接する2つの噴霧ノズル間の距離Dは20-40[mm]である金属粉末製造装置。
【請求項6】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記溶湯ノズル1個につき溶融金属の溶解量は鉄換算で10-20[kg]である金属粉末製造装置。
【請求項7】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記噴霧槽の高さHは2-4[m]である金属粉末製造装置。
【請求項8】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記溶湯ノズルが取り付けられ溶解金属が蓄えられるるつぼをさらに備え、
前記るつぼの大きさは前記噴霧ノズルの個数nが増加しても一定である金属粉末製造装置。
【請求項9】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記ガス噴射ノズルのガス圧は3-10[MPa]である金属粉末製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯ノズルから流下する溶融金属に高圧ガス流体を衝突させることで微粒子状の金属(金属粉末)を製造する金属粉末製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属から微粒子状の金属(金属粉末)を製造する方法にガスアトマイズ法や水アトマイズ法を含むアトマイズ法がある。ガスアトマイズ法は、溶融金属を貯留する溶解槽の下部の溶湯ノズルから溶湯を流下させ、当該溶湯ノズルの周囲に配置された複数の噴射孔よりなるガス噴射ノズルから不活性ガスを当該溶湯に吹きつける。溶湯ノズルから流下される溶融金属は、ガス噴射ノズルからの不活性ガス流によって分断され微細な多数の金属液滴となって噴霧槽内に噴霧される。各金属液滴は噴霧槽内を落下し、表面張力によって球状化しながら凝固する。これにより噴霧槽底部のホッパーより下流側で球状の金属粉末が回収される。
【0003】
近年、大量の金属粒子を積層して所望の形状の金属を造形する金属3次元プリンターの材料等をはじめとして、アトマイズ法に従前求められていた金属粉末よりも粒径の小さいもののニーズが近年高まっている。粉末冶金や溶接等に用いられる従前からの金属粉末の粒径は例えば70-100μm程度であったが、3次元プリンターに用いられる金属粉末の粒径は例えば20-50μm程度と非常に細かい。
【0004】
金属粉末製造装置で微細な金属粉末を効率良く製造する方法としては、単位時間あたりの出湯量(噴霧槽内に流下される溶湯の量)を増加するものがある。この場合、溶湯ノズルのオリフィス径(溶湯ノズル断面積)を増加して出湯量を増加させる。出湯量が増加すると、金属粉末の微粒化のためにガス噴射ノズルのガス圧の増加も必要となる。しかし、これにより得られる粉末の粒径分布はブロードな分布となり、溶湯ノズル断面積の増加前のシャープな分布と異なってしまう。また、ガス圧を増加すると噴霧槽(チャンバー)の底部への金属付着防止のために噴霧槽の高さを増加する必要性が生じ、金属粉末製造装置のメンテナンス性が低下し得る。更に、溶湯ノズルの材質や厚みを変更し、溶湯ノズルの耐久性を高める必要性が生じ得る。このように出湯量を増加すると、それに合わせた種々の設計条件や運用条件の変更が必要となり、調整に時間を要する。
【0005】
上記課題を解決するため、特許文献1(国際公開第2019/112052号)は、溶湯ノズル1つ当たりの出湯量を増加するのではなく、噴霧槽内の溶湯ノズルの本数を増加することで1つの噴霧槽における単位時間あたりの出湯量を増加している。これにより各溶湯ノズルの断面積は変わらずガス圧の増加(変更)も不要となるので、溶湯ノズル1つ当たりの出湯量を増加させる場合に比べて、出湯量増加前後の粒径分布の変化を抑制できる。また、ガス圧の変更はないため噴霧槽への金属付着も防止でき、噴霧槽の高さ、即ち装置の高さを変える必要性も減る。更に出湯量が増加した際の設計・運用条件の変更が不要となり、噴霧槽の体型を変えずに微細な金属粉末を効率よく製造できる金属粉末製造装置を提供することを可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ただし、特許文献1のように溶湯ノズルの個数を増加させると、ガス噴射ノズルの個数も同様に増加する。ガス噴射ノズルの個数が増えるとその分だけ噴射ガス量が増加して噴霧槽内の圧力が上昇し、その結果、金属粉末製造装置の排気速度が低下して金属粉末の製造効率が低下する可能性がある。さらに、噴霧ノズルの個数が増えると、噴霧された金属液滴が噴霧槽の内壁に衝突して収率が低下する懸念があり、噴霧ノズルと噴霧槽の側壁との距離も適切に管理する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、噴霧槽内において溶湯ノズルとガス噴射ノズルから成る噴霧ノズルの個数が増加しても、1つの噴霧ノズル当たりの金属粉末の製造効率の低下を抑制できる金属粉末製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、噴霧槽と、前記噴霧槽内に溶融金属を流下させる溶湯ノズル、及び、前記溶湯ノズルから流下する溶融金属に対して複数の噴射孔からガスを噴射するガス噴射ノズルをそれぞれ有する複数の噴霧ノズルとを備え、前記噴霧槽の断面積A1[mm2]が、前記噴霧ノズルの個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c1を乗じた値である金属粉末製造装置がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、噴霧槽内の噴霧ノズルの個数が増加しても排気速度の低下を抑制できるので、1つの噴霧ノズル当たりの金属粉末の製造効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るガスアトマイズ装置の全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガスアトマイズ装置のガス噴射器200周辺の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガス噴射器200の斜視図である。
【
図4】第1ガス噴射ノズル20Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向25と第1溶湯ノズル11Aからの溶湯の流下領域27の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る金属粉末製造装置であるガスアトマイズ装置の全体構成図である。
図1のガスアトマイズ装置は、液体状の金属である溶融金属(溶湯)7が蓄えられるるつぼ(タンディッシュとも称する)100が収納される溶解槽1と、るつぼ100から溶湯ノズル(後述)11を介して細流となって流下する溶湯8に対して高圧ガス(ガス流体)を吹き付けて多数の微粒子(金属粒子)15に粉砕することで溶融金属を液体噴霧するガス噴射器200と、ガス噴射器200に高圧ガスを供給するための噴射ガス供給管(噴射流体供給管)3と、不活性ガス雰囲気に保持された容器であってガス噴射器200から噴霧された微粒子状の液体金属が落下中に急冷凝固される噴霧槽4とを備えている。
【0014】
溶解槽1内は不活性ガス雰囲気に保持することが好ましい。
【0015】
噴霧槽4は、上部及び中部では同一の径を有する円筒状の容器である。噴霧槽4の下部にはホッパー2が設けられている。ホッパー2は、噴霧槽4内で落下中に凝固した粉末状の固体金属を回収するためのものであり、採集部5とテーパ部41から構成されている。テーパ部41は、ホッパー2による金属粉末の回収を促進する観点から採集部5に近づくほど径が小さくなっている。テーパ部41の下端は採集部5の上端に接続されている。採集部5は不活性ガスの流れ方向の下流側に位置し、採集部5にはガス配管61が接続されている。ガス配管61からは凝固した金属粉末とともに不活性ガス6が装置外に排気されている。不活性ガス6によって採集部5内に旋回流を発生させて装置外に排気すれば金属粉末を効率良く回収できる。採集部5の形状としては底(底面)の有る円筒を選択できる。ガス配管61の下流には旋回流を発生する粉体分離器(サイクロン)を接続しても良い。すなわち金属粉末は採集部5の底またはサイクロンの底で回収される。
【0016】
図2は本実施形態に係るガスアトマイズ装置のガス噴射器200周辺の断面図であり、
図3は本実施形態のガス噴射器200の斜視図である。なお、
図3では
図2に示した溶湯ノズル11A,11Bを説明の都合上省略している。
【0017】
(溶湯ノズル11A,11B)
図2に示すように、るつぼ100の底部には2本の溶湯ノズル11A,11Bが取り付けられている。これら溶湯ノズル11A,11Bは、るつぼ100内の溶融金属7を噴霧槽4内にそれぞれ流下させるもので、るつぼ100の底面から鉛直下方に向かって突出して設けられている。2本の溶湯ノズル11A,11Bは、同一の形状とすることができ、それぞれの内部に溶湯8が流下する鉛直方向に延びた縦長の孔を有している。この縦長の孔は、るつぼ100の底部から鉛直下方に向かって溶融金属が流下する溶湯流路となる。るつぼ100に設ける溶湯ノズル11の本数は2本に限定されず、例えば3本以上設けても構わない。
【0018】
溶湯ノズル(第1溶湯ノズル)11Aと溶湯ノズル(第2溶湯ノズル)11Bの下端に位置する開口端21A,21Bは、ガス噴射器200の底面から突出して噴霧槽4内の空洞に臨むようにそれぞれ配置されている。るつぼ100内の溶融金属は溶湯ノズル11A,11Bの内部の孔を溶湯流8となって流下し開口端21A,21Bを介して噴霧槽4内に放出(流下)される。
【0019】
第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの最小内径は、第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの内部に設けられる図示しないオリフィスの径(オリフィス径)によって規定され、このオリフィス径(最小内径)は噴霧槽4内に導入される溶湯の径の大きさ(後述する流下領域27の径の大きさ)に寄与する。各溶湯ノズル11A,11Bの最小内径は各溶湯ノズル11A,11Bの開口端21A,21Bの径以下の値にすることもできる。
【0020】
溶湯ノズル11A,11Bの最小内径としては0.5-3.0[mm]に収まる数値を選択することが好ましい。最小内径が0.5[mm]より小さいと溶湯がノズル内部で凝固してノズルが閉塞され易くなり、3.0[mm]より大きくなると細かい粒径の粉末の製造が困難になる。
【0021】
(ガス噴射器200)
略円柱状の外形を有するガス噴射器200は、
図2に示すように、複数の溶湯ノズル11A,11Bがそれぞれ挿入される複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bと、各溶湯ノズル11A,11Bから流下する溶融金属に対してガスを噴射して粉砕するガス噴射ノズル71(71A,71B)を備えている。ガス噴射器200は、不活性の高圧ガスで満たされる中空構造の円柱形状の外形を有しており、その内部は複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲にガス流を形成するガス流路50となっている。ガス流路50は、ガス噴射器200の側面(円柱の側面)に設けられたガス吸入孔(図示せず)に接続される噴射ガス供給管3から高圧ガスの供給を受ける。なお、図示は省略するが、溶解槽1とガス噴射器200の間には、溶解槽1からの熱伝達を防止する観点から断熱材を挿入することが好ましい。
【0022】
(溶湯ノズル挿入孔12A,12B)
溶湯ノズル挿入孔12Aと溶湯ノズル挿入孔12Bは、
図3に示すように、円柱状のガス噴射器200の中心軸(Cg0)に平行な軸(Cm1,Cm2)を有する2本の円柱状の貫通孔である。第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心は円筒状のガス噴射器200の中心と同一直線上に配置することができ、ガス噴射器200の中心軸Cg0から第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm1,Cm2までの距離はそれぞれ同一になるように配置することができる。第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bには、第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bがそれぞれ挿入される。第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm1,Cm2は第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの孔の中心軸に一致させることができる。以下では、2つの溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸Cm1,Cm2がそれぞれの溶湯ノズル11A,11Bの孔の中心軸に一致しているものとして説明する。
【0023】
(ガス噴射ノズル71(71A,71B))
ガス噴射ノズル71A,71Bは、複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲に円(
図4参照)90を描くように配置された複数の噴射孔(貫通孔)91からなる。ガス噴射ノズル71A,71Bは、溶湯ノズル12A,12Bから流下する溶融金属に対して複数の噴射孔91からガスを噴射する。ここでは2つのガス噴射ノズル71A,71Bのうち、溶湯ノズル挿入孔12Aの周囲に位置する複数の噴射孔91が形成するものをガス噴射ノズル(第1ガス噴射ノズル)71Aと称し、溶湯ノズル挿入孔12Bの周囲に位置する複数の噴射孔91が形成するものをガス噴射ノズル(第2ガス噴射ノズル)71Bと称している。
【0024】
(噴霧ノズル20A,20B)
第1ガス噴射ノズル71Aと第1溶湯ノズル11Aは、噴霧槽4内に溶融金属を液体噴霧する第1噴霧ノズル20Aを構成し、第2ガス噴射ノズル71Bと第2溶湯ノズル11Bは、同様に、第2噴霧ノズル20Bを構成する。すなわち本実施形態のガスアトマイズ装置は第1噴霧ノズル20Aと第2噴霧ノズル20Bの2つの噴霧ノズルを備えている。
【0025】
図1に示すように、2つの溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸Cm1,Cm2(2つの溶湯ノズル11A,11Bの中心軸)の延長線上にはテーパ部41が位置することなく採集部5が位置していることが好ましい。テーパ部41上に金属粉末が落下すると、採集部5に移動することなくテーパ部41上に留まることがある。しかし、本実施形態のように2つの溶湯ノズル11A,11Bを配置すると、2つの噴霧ノズル20A,20Bによって製造された金属粉末のうち、テーパ部41上に落下するものの割合よりも採集部5内に直接落下するものの割合を多くできるので金属粉末の収率を向上できる。
【0026】
図4は第1ガス噴射ノズル20Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向25と第1溶湯ノズル11Aからの溶湯の流下領域27の関係図を示す。なお、
図4では溶湯ノズル11Aの図示を省略している。
【0027】
図4には複数の第1ガス噴射ノズル71Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向を直線25で示しており、各噴射孔91は対応する直線25と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器200の底面に穿つことで形成されている。この複数の噴射孔91はガス噴射器200の底面において第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1と同心円上に等間隔で配置されている。
図4では複数の噴射孔91が形成するこの円を円90としている。複数の第1ガス噴射ノズル71Aを構成する全ての噴射孔91のガス噴射方向(直線25)は共通の焦点26を通過している。すなわち全ての噴射孔91のガス噴射方向は一点(焦点26)に集中している。焦点26は第1溶湯ノズル11A(
図4には図示せず)から流下する溶融金属の外径によって規定される略円柱状の流下領域27内に位置している。流下領域27の径は、第1溶湯ノズル11Aを構成する孔の最小内径(オリフィス径)に応じて適宜調整できる。なお、説明は省略するが、ガス噴射ノズル71Bもガス噴射ノズル71Aと同様に形成されている。
【0028】
また本実施形態では各ガス噴射ノズル71A,71Bに係る噴射孔91のガス噴射方向(直線25)が共通の焦点26を通過するように噴射孔91を設けたが、その他の構成も許容される。例えば当該焦点26から所定の角度だけガス噴射方向がずれるように噴射孔91を設けても良い。
【0029】
(噴霧槽4の断面積A1)
図1に戻り、噴霧槽4の円筒状の部分(円筒部)の横断面S1における噴霧槽4の断面積A1[mm
2]が、噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c1を乗じた値になるように噴霧槽4は形成されている。すなわち断面積A1は下記式(1)で表される。つまり噴霧ノズル20がn個の場合には噴霧槽4の断面積A1はn倍になる。なお、噴霧ノズル20の個数がnであれば、溶湯ノズル11とガス噴射ノズル71の個数もそれぞれnとなる。
【0030】
断面積A1=c1×n …式(1)
【0031】
なお、c1の値は所定の範囲から選択できる。具体的には下記式(2)を満たす値にc1を設定することが好ましい。
61,250π[mm2]≦c1≦80,000π[mm2] …式(2)
【0032】
本実施形態のように噴霧ノズル20が2個(n=2)でc1が上記式(2)の範囲をとるとき、A1=c1×2=(φ1/2)2×πの関係が成立するので、横断面S1における噴霧槽4の直径φ1は下記の式(3)の範囲をとり得ることになる。
700[mm]≦φ1≦800[mm] …式(3)
【0033】
噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数nに応じて噴霧槽4の断面積A1を上記式(1)に基づいて決定すると、噴霧槽4内のガス噴射ノズル71の個数が変化してその噴射ガス量が変化しても噴霧槽4内の圧力変化を抑制できるので、噴霧ノズル20の個数nによらずガスの排気速度を保持できる。これにより噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数nを変化させてもガスとともに金属粉末をスムーズに排出できるので金属粉末の製造効率が低下することを抑制できる。さらに、噴霧槽4の断面積A1を上記式(1)に基づいて決定すると、噴霧ノズル20によって噴霧された金属液滴が噴霧槽4の内壁に衝突することも無く、噴霧槽4の内壁に金属が付着して粉末の製造効率が低下することも防止できることが発明者らにより知見されている。
【0034】
なお、ガスの排気速度を保持する観点からは、噴霧槽4の円筒部の断面積A1だけでなく当該円筒部よりも下流側でガス流路を構成する各部(例えば、テーパ部41、採集部5、ガス配管6)の断面積も噴霧ノズル20の個数nに応じてn倍にすることが好ましい。ここではガス配管6の断面積A2を例示する。
【0035】
(ガス配管6の断面積A2)
ガス配管6の横断面S2における断面積A2[mm2]が、噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c2を乗じた値になるようにガス配管6は形成されている。すなわち断面積A2は下記式(4)で表される。つまり噴霧ノズル20がn個の場合にはガス配管6の断面積A2はn倍になる。
【0036】
断面積A2=c2×n …式(4)
【0037】
なお、c2の値はc1同様に所定の範囲から選択できる。具体的には下記式(5)を満たす値にc2を設定することが好ましい。
1,250π[mm2]≦c2≦2,812.5π[mm2] …式(5)
【0038】
本実施形態のように噴霧ノズル20が2個(n=2)でc2が上記式(5)の範囲をとるとき、A2=c2×2=(φ2/2)2×πの関係が成立するので、横断面S2におけるガス配管6の直径φ2は下記の式(6)の範囲をとり得ることになる。
100[mm]≦φ2≦150[mm] …式(6)
【0039】
(噴霧槽4の高さH)
噴霧槽の高さHは、噴霧槽4内の噴霧ノズル20の数に関わらず、2-4[m]の範囲に設定することが好ましい。これは高さHを2[m]より小さくすると噴霧槽4の底部に凝固前の金属が固着して金属粉末の収率が低下する可能性があり、高さHを4[m]より高くすると金属粉末製造装置の背が高くなり操作性や清掃性(清掃のし易さ)が低下したり設置場所が制限されたりする可能性が高くなるからである。
【0040】
(隣接する2つの噴霧ノズル間の距離D)
複数の噴霧ノズル20のうち隣接する2つの噴霧ノズル20間の距離Dは20-40[mm]とすることが好ましい。これは距離Dを20[mm]より小さくすると各噴霧ノズル20から噴霧される溶融金属同士が凝固する前に衝突して金属粉末の収率が低下する可能性があり、距離Dを40[mm]より大きくすると複数の溶湯ノズル11を1つのるつぼ100に取り付けることが困難になる可能性があるからである。
【0041】
(ガス噴射ノズル71のガス圧)
各ガス噴射ノズル71のガス圧は、装置のスペックにも依存するが、3-10[MPa]の範囲に設定することが好ましい。
【0042】
(溶湯ノズル1個あたり溶融金属の溶解量)
1個の溶湯ノズル11に流下させる溶融金属の溶解量(溶解質量)は鉄換算で10-20[kg]とすることが好ましい。これは1個の溶湯ノズル11の溶解量が20[kg]を超えると当該溶湯ノズル11が溶融金属により摩耗して損傷する可能性が高くなり、溶解量が10[kg]より小さいと溶湯ノズル11の個数nに応じた初期出湯廃棄量(溶湯ノズル11の予熱に要する溶湯廃棄量)の抑制が困難になるからである。なお、溶湯ノズル11がるつぼ100と一体になっている場合には溶湯ノズル11の交換はるつぼ100ごと行われる。
【0043】
各溶湯ノズル11の溶解量の調整は、1つのるつぼ100に取り付ける溶湯ノズルの個数nと、るつぼ100の溶解量(るつぼ100の大きさ(寸法)や容量と換言できる)とにより行うことができる。ただし、溶湯ノズル11が取り付けられるるつぼ100の大きさは噴霧ノズル20の個数nが増加しても一定とすることが好ましい。その理由は寸法の大きいるつぼは作成が難しく高価になり易いためである。
【0044】
るつぼ100に取り付けられている溶湯ノズル11の個数から規定される溶解量に対して当該るつぼ100の溶解量(大きさ)が不足する場合には、当該るつぼ(第1のるつぼ)100に溶融金属7を注ぎ込むための他のるつぼ(第2のるつぼ)を溶解槽1内に設置しても良い。当該他のるつぼ(第2のるつぼ)の大きさや数は変更可能である。当該他のるつぼ(第2のるつぼ)は溶湯ノズルがついていないものを使用する。溶湯ノズル11の個数nに対してるつぼ(第1のるつぼ)100の溶解量が不足する場合には、その都度、当該他のるつぼ(第2のるつぼ)からるつぼ(第1のるつぼ)100に溶融金属7を注ぎ込んで補充すれば良い。つまり、るつぼ100の溶解量が例えば20[kg]の場合であってそれ以上の溶湯が必要になる場合には、溶解槽1内に傾倒式の他のるつぼを設置し、当該他のるつぼ内で不足分の金属を溶解し、るつぼ100内の溶湯が減少したら当該他のるつぼから継ぎ足す運用を行えば良い。
【0045】
(効果)
上記の実施形態の金属粉末製造装置は、式(1)で示したように、噴霧槽4の断面積A1[mm2]が、噴霧ノズル20の個数n(nは2以上の整数)に所定の面積値c1を乗じた値になるように噴霧槽4の形状が規定されている。噴霧槽4の形状をこのように規定すると、噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数nを増加させることで1つの装置当たりの溶解量を増加させてもガスの排気速度を保持できるとともに、各噴霧ノズル20から噴霧された液体金属が噴霧槽4の内壁に衝突・固着することも防止できるので、噴霧ノズル20ごとの金属粉末の製造効率の低下を抑制できる。また、この場合、噴霧ノズル20の個数nの増加に応じて噴霧槽4の断面積を増加すれば、各噴霧ノズル20の噴霧条件(溶湯ノズル11のオリフィス径やガス噴射ノズル71のガス噴射圧力(ガス圧)等)を調整する必要は無いので金属粉末製造装置の設計・製造・運用が容易になる。また、噴霧槽4内の噴霧ノズル20の個数nを増加させても各噴射ノズル20における溶湯ノズル11の出湯量及び出湯速度や各ガス噴射ノズル71のガス圧は一定なので、各噴霧ノズル20から噴霧された液体金属が凝固するまでに要する飛行距離も一定である。すなわち噴霧ノズル20の個数nを増加させても噴霧槽4の高さ、つまり装置の全高を変更することなく同じ品質の粉末の製造量を容易に増加できる(一般には装置を大きくすると粉末の品質は変化または低下する傾向がある。)。
【0046】
なお、上記の実施形態では噴霧ノズル20の個数nが2の場合を例示したが、噴霧ノズル20の個数nは3以上でも構わない。
【符号の説明】
【0047】
1…溶解槽,2…ホッパー,3…噴射ガス供給管,4…噴霧槽,5…採集部,6…不活性ガス,8…溶湯流,11…溶湯ノズル,12…溶湯ノズル挿入孔,15…金属微粒子,20…噴霧ノズル,21…開口端,27…溶湯流下領域,41…テーパ部,50…ガス流路,71…ガス噴射ノズル,91…噴射孔,200…ガス噴射器