(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118758
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】レーザ光源装置およびレーザ光源装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20220808BHJP
G02F 1/37 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
G02F1/01 B
G02F1/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015443
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】506161131
【氏名又は名称】スペクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】折井 庸亮
(72)【発明者】
【氏名】内海 功朗
(72)【発明者】
【氏名】村山 伸一
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA08
2K102AA21
2K102AA30
2K102AA32
2K102BA01
2K102BA07
2K102BA18
2K102BB01
2K102BB02
2K102BC02
2K102BC07
2K102CA00
2K102DA01
2K102DC07
2K102DD06
2K102EA21
2K102EB04
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】種光源を駆動しつつ装置から一時的にパルス光の出力を停止させ、その後出力を再開する場合に、強度が安定したパルス光を常に一定時期に出力可能なレーザ光源装置を提供する。
【解決手段】外部装置からの要求信号に基づいて繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置で、ゲインスイッチング法で駆動される種光源と、光増幅器と、光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、種光源を繰返し周期Trで駆動するとともに要求信号に基づいて光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、制御回路は、要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、要求信号から予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングでパルス光が出力されるように、種光源の駆動状態を切り替えるとともに光スイッチ素子をオン状態に切り替え、要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、種光源を継続して駆動するとともに光スイッチ素子をオフする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置からの要求信号に基づいて所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置であって、
ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅する光増幅器と、前記光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、前記種光源を前記繰返し周期Trで駆動するとともに前記要求信号に基づいて前記光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、前記要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行するように構成されているレーザ光源装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記出力許容制御において前記要求信号のオンタイミングから次式に示す調整時間Tp、
調整時間Tp=(安定時間Ts)MOD(繰返し周期Tr)、
が経過したタイミングで前記種光源の駆動状態を切り替える請求項1記載のレーザ光源装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記出力許容制御において前記要求信号のオンタイミングで次式に示す関係式、
直前の前記種光源の駆動からの経過時間Tc+調整時間Tp≧繰返し周期Tr、
が成立しているときに、前記要求信号のオンタイミングで前記種光源から保護パルスを出力するように駆動する請求項2記載のレーザ光源装置。
【請求項4】
前記安定時間Tsは、前記繰返し周期Trの調整範囲のうち最長周期Trmaxに基づいて設定されている請求項1から3の何れかに記載のレーザ光源装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記出力停止制御において前記要求信号のオフタイミング以降に検出した最初のパルス光の駆動信号から所定時間経過後に前記光スイッチ素子をオフする請求項1から4の何れかに記載のレーザ光源装置。
【請求項6】
前記光増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子をさらに備え、
前記光スイッチ素子は、前記光増幅器と前記非線形光学素子との間または前記非線形光学素子の後段に配置されている請求項1から5の何れかに記載のレーザ光源装置。
【請求項7】
ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅する光増幅器と、前記光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、前記種光源を前記繰返し周期Trで駆動するとともに前記要求信号に基づいて前記光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、外部装置からの要求信号に基づいて所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置の制御方法であって、
前記要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、
前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行するレーザ光源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部装置からの要求信号に基づいて外部装置に所定の繰返し周期でパルス光を出力するレーザ光源装置およびレーザ光源装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源装置で生成されるピークパワーの大きなパルス光は、被加工物にパルス光を照射する走査光学系を備えた加工装置などの外部装置を介在させることにより、電子材料や複合材料などの様々なデバイスの加工に好適に用いられている。
【0003】
スマートフォンを例に挙げると、タッチパネルを構成するITO(Indium Tin Oxide)のパターニング、保護ガラスや基板の孔開け加工、水晶発振子やアンテナなどの高周波部品のチューニングなど、多くの部品の加工に利用されている。
【0004】
これらの加工用途に用いられるパルス光は、外部装置からの要求信号に同期してパルス光を断続する必要があり、また被加工物への熱的ダメージを低減するという観点でピコ秒の位数のパルス幅が要求される。外部装置からの要求信号に同期してパルス光を断続するという観点では、Qスイッチレーザが候補になるが、パルス幅が数ナノ秒と長いため、微細加工を目的とする用途で採用することは困難である。同期レーザはパルス幅が数ピコ秒と短いのであるが、外部装置からの要求信号に同期してパルス光を断続することが困難なため、同様に採用することは困難である。
【0005】
特許文献1には、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子と、を備えているレーザ光源装置であって、前記ファイバ増幅器と前記固体増幅器との間に配置され前記ファイバ増幅器から前記固体増幅器への光の伝播を許容または阻止する光スイッチ素子と、前記種光源からのパルス光の出力期間に光の伝播を阻止し、前記種光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を許容するように前記光スイッチ素子を制御することにより、前記非線形光学素子からパルス光の出力を停止する出力停止状態を生成するように構成されている制御部と、を備えているレーザ光源装置が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載されたレーザ光源装置によれば、光スイッチ素子を制御することにより種光源を停止させなくても非線形光学素子からパルス光の出力を停止させる出力停止状態を実現することができる。
【0007】
さらに出力停止状態で種光源からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播が許容されるように、制御部によって光スイッチ素子が制御されるので、前段のファイバ増幅器で生じた自然放出光ノイズが後段の固体増幅器に伝播して、励起用の光源によって励起状態にある固体増幅器の活性領域のエネルギーが放出される。その結果、その後の出力許容状態への移行時にジャイアントパルスが発生することがなく固体増幅器や非線形光学素子が破損するようなことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されたようなレーザ光源装置は、一般的に走査光学系を備えた加工装置などの外部装置からの要求信号に基づいて出力停止状態と出力許容状態の間で状態が切り替えられる。
【0010】
しかし、出力停止状態から出力許容状態に切り替わったときにレーザ光源装置から出力されるパルス光のタイミングは一定とはならず、繰返し周期の範囲で変動するため、精密な微細加工に用いることが困難であるという問題があった。
【0011】
例えば、複数行にわたってパルス光を照射する場合にパルス光の出力タイミングが変動すると、行方向の始点および終点の位置がばらつき、高速に加工する場合にはそのばらつきが大きくなり、加工品質が低下するのである。
【0012】
また、レーザ光源装置から出力されるパルス光の繰返し周期は、外部装置や加工対象により要求される値に調整可能に構成されているため、出力停止状態から出力許容状態に切り替わったときに、繰返し周期の調整値に依存せずに常時一定のタイミングでパルス光を出力することが望まれている。
【0013】
そのために、出力停止状態で種光源を停止し、出力許容状態に切り替わったときに種光源を駆動するように制御すると、繰返し周期の調整値に依存せずに常時一定のタイミングでパルス光を出力することができる。しかし、出力停止状態と出力許容状態との間で光増幅器のエネルギー励起状態が変動するため、出力許容状態に切り替わったときにレーザ光源装置から出力されるパルス光の強度が変動して、加工対象の加工品質が低下するという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、種光源を駆動しつつ装置から一時的にパルス光の出力を停止させ、その後出力を再開する場合に、強度が安定したパルス光を常に一定時期に出力可能なレーザ光源装置およびレーザ光源装置の制御方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ光源装置の第一特徴構成は、外部装置からの要求信号に基づいて前記外部装置に所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置であって、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅する光増幅器と、前記光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、前記種光源を前記繰返し周期Trで駆動するとともに前記要求信号に基づいて前記光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行するように構成されている点にある。
【0016】
ゲインスイッチング法を適用することで、任意のタイミングで種光源からピコ秒の位数のパルス光を出力することができ、外部装置からの要求信号に基づいて制御回路が光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子を制御することで、光増幅器から出力されるパルス光の外部への出力を許容し、或いは、光増幅器から出力されるパルス光の外部への出力を停止することができる。
【0017】
外部装置からの要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、制御回路によって出力許容制御が実行されて、要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミング、つまり繰返し周期Trの値にかかわらず一定のタイミングで光スイッチ素子から安定した強度のパルス光が出力される。また、外部装置からの要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、制御回路によって出力停止制御が実行されて、種光源が継続して駆動されるとともに光スイッチ素子がオフされて、外部へのパルス光の出力が停止される。このときに種光源がそのまま継続して駆動されるので、種光源および光増幅器などの安定した状態が維持される。
【0018】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記制御回路は、前記出力許容制御において前記要求信号のオンタイミングから次式に示す調整時間Tp、
調整時間Tp=(安定時間Ts)MOD(繰返し周期Tr)、
が経過したタイミングで前記種光源の駆動状態を切り替える点にある。
【0019】
種光源が所定の繰返し周期Trで駆動されているときに、駆動状態が切り替えられる。例えば繰返し周期Trの一周期の範囲の任意の時点から新たに種光源が所定の繰返し周期Trで駆動されると、直前のパルス光の増幅により光増幅器の励起状態が低下した状態で最初のパルス光が光増幅器に入射されることとなり、その後、パルス光の強度が定常状態に復帰するまでに時間を要することになる。この時間を安定時間Tsとすると、(安定時間Ts)を(繰返し周期Tr)で除した場合の剰余が調整時間Tpとして求まる。そこで、要求信号のオンタイミングから調整時間Tpが経過したタイミングで種光源の駆動状態を切り替えると、繰返し周期Trの値にかかわらず一定の安定時間Ts経過後に安定した強度で最初のパルス光が出力されるようになる。
【0020】
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記制御回路は、前記出力許容制御において前記要求信号のオンタイミングで次式に示す関係式、
直前の前記種光源の駆動からの経過時間Tc+調整時間Tp≧繰返し周期Tr、
が成立しているときに、前記要求信号のオンタイミングで前記種光源から保護パルスを出力するように駆動する点にある。
【0021】
調整時間Tpと繰返し周期Trがほぼ同じ時間となる場合に種光源の駆動状態を切り替えると、切替前のパルス光の出力から繰返し周期Trに相当する時間でパルス光が出力されず、実質的に繰返し周期Trが二周期経過後に最初のパルス光が出力される虞がある。そのような場合には、光増幅器の励起状態が定常状態よりも上昇しているため、定常状態よりも大きな強度のパルス光が出力され、パルス光が照射された加工対象に損傷を与える虞がある。そこで、直前の種光源の駆動からの経過時間Tc+調整時間Tp≧繰返し周期Trとの関係が成立する場合に、要求信号のオンタイミングで種光源から保護パルスを出力するように駆動することで、その後の光増幅器の励起状態を安定させることができる。
【0022】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記安定時間Tsは、前記繰返し周期Trの調整範囲のうち最長周期Trmaxに基づいて設定されている点にある。
【0023】
レーザ光源装置で調整可能な繰返し周期Trのうち最長周期Trmaxに基づいて安定時間Tsを設定しておけば、外部装置からの要求信号がオフ状態からオン状態に切替わったときに任意の繰返し周期Trで同じタイミングで外部にパルス光を出力することができる。
【0024】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記制御回路は、前記出力停止制御において前記要求信号のオフタイミング以降に検出した最初のパルス光の駆動信号から所定時間経過後に前記光スイッチ素子をオフする点にある。
【0025】
外部装置からの要求信号がオフ状態に切り替わったときに、パルス信号の出力と光スイッチ素子をオフする制御が重なると、光スイッチ素子に生じる応答遅れなどの影響で最終のパルス信号が出力されたり、出力されなかったり、出力されても強度が低下したりする虞がある。そのような場合に備えて、要求信号のオフタイミング以降に検出した最初のパルス光の駆動信号から所定時間経過後に光スイッチ素子をオフすることにより、光スイッチ素子に生じる応答遅れなどの影響を排除することができる。なお、光スイッチ素子の応答時間は繰返し周期Trよりも短いことは言うまでもない。
【0026】
同第六の特徴構成は、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記光増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子をさらに備え、前記光スイッチ素子は、前記光増幅器と前記非線形光学素子との間または前記非線形光学素子の後段に配置されている点にある。
【0027】
光増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子を備えることにより、エネルギー強度が高く、加工効率のよい波長のパルス光が得られる。そのような非線形光学素子を備える場合には、光増幅器と非線形光学素子との間、または、非線形光学素子の後段に光スイッチ素子を配置すればよい。
【0028】
本発明によるレーザ光源装置の制御方法の第一特徴構成は、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅する光増幅器と、前記光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、前記種光源を前記繰返し周期Trで駆動するとともに前記要求信号に基づいて前記光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、外部装置からの要求信号に基づいて前記外部装置に所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置の制御方法であって、前記要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行する点にある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、種光源を駆動しつつ装置から一時的にパルス光の出力を停止させ、その後出力を再開する場合に、強度が安定したパルス光を常に一定時期に出力可能なレーザ光源装置およびレーザ光源装置の制御方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】(a)から(d)は、種光源および光スイッチ素子のタイミングチャート
【
図3】(a),(b)は、別実施形態を示し、種光源および光スイッチ素子のタイミングチャート
【
図4】(a)は繰返し周期600kHzでパルス光が出力される際に、種光源の駆動状態を切り替えるタイミングにより、その後変動するパルスの尖頭値特性図、(b)はそのときの尖頭値の回復時間特性図
【
図6】別実施形態を示すレーザ光源装置のブロック構成図
【
図7】別実施形態を示すレーザ光源装置のブロック構成図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明によるレーザ光源装置およびレーザ光源装置の制御方法の実施形態を説明する。
図1には、本発明によるレーザ光源装置1の一例となる構成が示されている。レーザ光源装置1は、上位システム100にレーザパルス光(以下、単に「パルス光」と記載する。)を出力する装置であり、種光源10と、光増幅器20と、波長変換素子30と、光スイッチ素子40と、制御回路50などを備えている。
【0032】
種光源10として、単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられ、ドライバ回路D1を介して制御回路50から出力される駆動信号に基づいて、DFBレーザから単発または100キロヘルツから数メガヘルツの間の所望の周波数範囲(例えば200キロヘルツから3メガヘルツ)で、数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光が出力される。
【0033】
ゲインスイッチング法を用いて種光源10を発光させるべく、制御回路50からDFBレーザのドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号が出力される。当該駆動回路からDFBレーザにトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0034】
光増幅器20は、直列に接続された二段のファイバ増幅器と一段の固体増幅器を備え、種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が二段のファイバ増幅器22,24で増幅され、さらに一段の固体増幅器で所望のレベルまで増幅される。
【0035】
ファイバ増幅器として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。
【0036】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源から出力されコリメータによってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0037】
種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、光増幅器20によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅される。
【0038】
尚、ファイバ増幅器及び固体増幅器の数は特に限定されることはなく、パルス光に対する所望の増幅率を得るために適宜設定すればよい。例えば三つのファイバ増幅器を縦続接続し、その後段に二つの固体増幅器を縦続接続してもよい。
【0039】
波長変換素子30として、LBO結晶(LiB3O5)と、CLBO結晶(CsLiB6O10)の2種類の非線形光学素子が用いられる。種光源10から出力され、光増幅器20で所定レベルに増幅された波長1064nmのパルス光が、LBO結晶(LiB3O5)で波長532nmに波長変換され、さらにCLBO結晶(CsLiB6O10)で波長266nmの深紫外線に波長変換される。なお、非線形光学素子の数や種類は、求める波長に従って適宜選択することが可能である。
【0040】
波長変換素子30によって波長変換されたパルス光は光スイッチ素子40に入射され、上位システム100へ出力するか否かが切り替えられる。光スイッチ素子40として、音響光学変調器AOMが好適に用いられる。
【0041】
制御回路50からRFドライバD2にゲート信号が出力されると、RFドライバD2から高周波信号が印加されたトランスジューサ(ピエゾ変換素子)によって音響光学素子を構成する結晶に回折格子が生成され、音響光学素子に入射するパルス光が一次回折されて上位システム100に入射し、RFドライバD2が停止すると音響光学素子に入射したパルス光は回折せずにそのまま通過して光ダンパ60で減衰される。
【0042】
光スイッチ素子40として音響光学変調器AOM以外に、EO変調による強度変調を利用して電界により光をオンオフする電気光学変調器EOMや、ガルバノミラーなどを用いることも可能である。
【0043】
制御回路100として、FPGA(Field Programmable Gate Array)に周辺回路を備えた回路ブロックで構成することができ、予めFPGA内のメモリに記憶したプログラムに基づいて複数の論理素子を駆動することにより、レーザ光源装置1を構成する各ブロックがシーケンシャルに制御される。尚、制御回路100はFPGAを用いて構成する以外に、マイクロコンピュータとメモリおよびIOなどの周辺回路で構成することも可能であり、プログラマル・ロジック・コントローラ(PLC)で構成することも可能である。
【0044】
上位システム100として、被加工物200に深紫外のパルス光を走査して加工する走査光学系110を備えた加工装置が例示できる。制御回路50は、上位システム100からパルス光の要求信号が入力されるとレーザ光源装置1に対してパルス光を出力し、要求信号がオフされるとパルス光の出力を停止するように種光源10および光スイッチ素子40を制御する。上位システム100が以下に説明する外部装置100となる。
【0045】
制御回路50は、予め外部装置100から要求される繰返し周期Trで、ゲインスイッチング法を用いて継続的に種光源10を間歇駆動する。このとき、光増幅器20を構成するファイバ増幅器及び固体増幅器の励起用の光源は常時オン状態に維持される。以下に制御回路50の動作について詳述する。
【0046】
図2(a)に示すように、制御回路50は、要求信号(EX-REQ)がオフ状態からオン状態に切替わると、要求信号(EX-REQ)のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで光スイッチ素子40からパルス光が出力されるように、種光源10の駆動状態を切り替えるとともに光スイッチ素子40をオン状態に切り替える出力許容制御を実行する。その結果、繰返し周期Trの値にかかわらず要求信号のオンタイミングから一定のタイミングで光スイッチ素子40から安定した強度のパルス光が出力される。
【0047】
そして、制御回路50は、要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、種光源を継続して駆動するとともに光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行する。このときに種光源10がそのまま継続して駆動されるので、種光源10および光増幅器20などの安定した状態が維持される。
【0048】
制御回路50は、出力許容制御において要求信号のオンタイミングから次式で示す調整時間Tp、つまり、調整時間Tp=(安定時間Ts)MOD(繰返し周期Tr)が経過したタイミングで、所定の繰返し周期Trで駆動されている種光源10の駆動状態を切り替える。
【0049】
例えば繰返し周期Trの一周期の範囲の任意の時点から新たに種光源10が所定の繰返し周期Trで駆動されると、直前のパルス光の増幅により光増幅器20の励起状態が低下した状態で最初のパルス光が光増幅器に入射されることとなる。
【0050】
図4(a),(b)には、種光源10の繰返し周波数が600kHzのパルス光に対して、同じ600kHzで駆動状態を切り替える(図中、「切り直し」と表現している。)ときに、そのタイミングのずれによりどのような影響が出るかが示されている。元のパルス光の駆動タイミングからずれるほどパルス光の尖頭値が低下し、回復に要する時間が長くなることが判る。
【0051】
そのために、その後、パルス光の強度が定常状態に復帰するまでに時間を要することになる。パルス光の強度が定常状態に復帰するまでの時間を安定時間Tsとすると、(安定時間Ts)を(繰返し周期Tr)で除した場合の剰余が調整時間Tpとして求まる。
【0052】
図5には、繰返し周波数(1/Tr)と調整時間Tpの関係が示されている。調整時間Tpは繰返し周波数(1/Tr)に依存性があること判る。なお、
図5の縦軸は制御回路の動作クロックを単位としている。
【0053】
そこで、要求信号のオンタイミングから調整時間Tpが経過したタイミングで種光源10の駆動状態を切り替えることにより、繰返し周期Trの値にかかわらず一定の安定時間Ts経過後に安定した強度で最初のパルス光が出力されるようになる。
【0054】
安定時間Tsは、繰返し周期Trの調整範囲のうち最長周期Trmaxに基づいて設定され、本実施形態では2000ナノ秒から20000ナノ秒の範囲となる。レーザ光源装置1で調整可能な繰返し周期Trのうち最長周期Trmaxに基づいて安定時間Tsを設定しておけば、外部装置100からの要求信号がオフ状態からオン状態に切替わったときに任意の繰返し周期Trで同じタイミングで外部にパルス光を出力することができる。
【0055】
制御回路50は、安定時間Tsの経過後に外部装置100にパルス光が出力されるように、種光源10の駆動状態を切り替えると同時に光スイッチ素子40を駆動するためのタイマーTadをセットし、タイマーTadのカウントアップ時にRFドライバD2にゲート信号を出力する。光スイッチ素子40の応答時間(遅延時間)をTaodとしたときに、タイマーTadの値は、次式で定まる。なお、このとき、繰返し周期Tr>応答時間Taodの関係が前提となる。
Tad=Ts-Taod
【0056】
制御回路50は、出力停止制御において要求信号のオフタイミング以降に検出した最初のパルス光の駆動信号から所定時間Toffの経過後に光スイッチ素子40をオフする。
【0057】
外部装置100からの要求信号がオフ状態に切り替わったときに、パルス信号の出力と光スイッチ素子40をオフする制御が重なると、光スイッチ素子40に生じる応答遅れなどの影響で最終のパルス信号が出力されたり、出力されなかったり、出力されても強度が低下したりする虞がある。
【0058】
そのような場合に備えて、要求信号のオフタイミング以降に検出した最初のパルス光の駆動信号から所定時間Toffの経過後に光スイッチ素子40をオフすることにより、光スイッチ素子40に生じる応答遅れなどの影響を排除することができる。
【0059】
図2(b)も同様のタイミングチャートを示し、繰返し周期Trが
図2(a)の繰返し周期Trより長い場合の例が示されている。
【0060】
制御回路50は、出力許容制御において調整時間Tpと繰返し周期Trの差分が所定の閾値未満になると、要求信号のオンタイミングで種光源10から保護パルスを出力するように駆動する。
【0061】
調整時間Tpが繰返し周期Trの所定比率以上の値となる場合、本実施形態では、以下の数式、0.6×Tr<Tpが成立する場合に、種光源10の駆動状態を切り替えると、切替前のパルス光の出力から繰返し周期Trに相当する時間でパルス光が出力されず、実質的に繰返し周期Trが二周期経過後に最初のパルス光が出力される場合が生じる。なお、所定比率は、0.5から1.0の範囲で適宜設定することができる。
【0062】
上述の数式が成立する場合には、光増幅器20の励起状態が定常状態よりも上昇することになるため、定常状態よりも大きな強度のパルス光が出力されるようになる。その結果、パルス光が照射された加工対象に損傷を与える虞がある。
【0063】
そのような場合に、要求信号のオンタイミングで種光源10からシングルの保護パルスを出力するように駆動することで光増幅器20の励起状態を低下させ、その後に種光源10の駆動状態を切り替えることで光増幅器20の励起状態を安定させることができる。
【0064】
ところで、制御回路50側で設定される繰返し周期Trと安定時間Tsに基づいて制御回路50で算出される調整時間Tpと、外部装置100から制御回路50に入力される要求信号の検出時期との間には時間差が生じる。その影響により直前パルスと保護パルスの粗密が発生して動作が不安定になる虞があり、時間差の影響を排除するため、安定時間Tsに値にマージンを持たせる必要がある。
【0065】
そこで、制御回路50は、出力許容制御において要求信号のオンタイミングで次式に示す関係式、つまり、直前の種光の駆動からの経過時間Tc+調整時間Tp≧繰返し周期Tr、が成立しているときに、要求信号のオンタイミングで種光源10から保護パルスを出力するように駆動することが好ましく、安定時間Tsの値にマージンを持たせる必要がなくなる。
【0066】
例えば、
図2(c)に示すように、Tp≒Trのときに、要求信号のオンタイミングから調整時間Tpの経過後に種光源10を起動すると、直前の種光源10の駆動からほぼ2Trの時間が経過すると、その間に光増幅器20に蓄積されるエネルギーが過大になり、定常状態に復帰するまでの時間が安定時間Tsより長くなる。
【0067】
そのような場合に、光増幅器20に過剰なエネルギーが励起されないように、要求信号のオンタイミングで、直前の種光の駆動からの経過時間Tc+調整時間Tp≧繰返し周期Tr、が成立しているときに種光源10から保護パルスを出力するように制御される。
【0068】
図2(d)には、
図2(c)と同様のタイミングで外部装置100から要求信号が入力され、安定時間Tsが経過する前に要求信号がオフされ、その後に再度外部装置100から要求信号が入力された例を示している。この場合にも、保護パルスを出力する点に変わりはない。
【0069】
図3(a)は、外部装置100から要求信号が入力された後に、制御回路50が予め指定されたパルス数(本実施形態では8パルス)のパルス光を出力するように制御する例が示されている。光スイッチ素子40は、駆動信号をオンした後、Taod+(8-1)×Trの時間が経過した後にオフされる。
【0070】
図3(b)は、外部装置100から要求信号が入力され、制御回路50が予め指定されたパルス数のパルス光を出力する途中で要求信号がオフされた場合の制御が示されている。この点は、
図2(a)の説明と同様である。
【0071】
上述した態様では、非線形光学素子(波長変換素子30)の後段に光スイッチ素子40を配置した例を説明したが、
図6に示すように、光増幅器20と非線形光学素子(波長変換素子30)との間に光スイッチ素子40を配置してもよい。
【0072】
また、上述した態様では、光増幅器20から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子(波長変換素子30)を備えたレーザ光源装置1について説明したが、
図7に示すように、非線形光学素子(波長変換素子30)を用いずに、光増幅器20の出力を外部装置100に出力するように構成してもよい。
【0073】
すなわち、外部装置100からの要求信号に基づいて所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置1であって、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源10と、種光源10から出力されるパルス光を増幅する光増幅器20と、光増幅器20の後段に配置した光スイッチ素子40と、種光源10を前記繰返し周期Trで駆動するとともに要求信号に基づいて光スイッチ素子を40駆動する制御回路と、を備え、制御回路50は、要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行するように構成されていればよい。
【0074】
以上の説明の通り、本発明によるレーザ光源装置の制御方法は、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、種光源から出力されるパルス光を増幅する光増幅器と、光増幅器の後段に配置した光スイッチ素子と、種光源を繰返し周期Trで駆動するとともに前記要求信号に基づいて前記光スイッチ素子を駆動する制御回路と、を備え、外部装置からの要求信号に基づいて前記外部装置に所定の繰返し周期Trでパルス光を出力するレーザ光源装置の制御方法であって、前記要求信号がオフ状態からオン状態に切替わると、前記要求信号のオンタイミングから予め定めた安定時間Tsが経過したタイミングで前記光スイッチ素子からパルス光が出力されるように、前記種光源の駆動状態を切り替えるとともに前記光スイッチ素子をオン状態に切り替える出力許容制御を実行し、前記要求信号がオン状態からオフ状態に切替わると、前記種光源を継続して駆動するとともに前記光スイッチ素子をオフする出力停止制御を実行する点にある。
【0075】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1:レーザ光源装置
10:種光源
20:光増幅器
30:波長変換素子(非線形光学素子)
40:光スイッチ素子
50:制御回路
100:上位システム(外部装置)
110:走査光学系
200:被加工物