IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鬼怒川ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-防振ゴム組成物および防振ゴム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118764
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】防振ゴム組成物および防振ゴム
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20220808BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220808BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220808BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L45/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015454
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 樹里亜
(72)【発明者】
【氏名】原田 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】内藤 秀則
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC01W
4J002AC03X
4J002AC03Y
4J002BK00Z
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】弾性率の温度依存性が小さく、柔軟性に優れ、かつ、カーボンブラック分散性に優れた制振、防振性能に優れる防振ゴム組成物および防振ゴムを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有するジエン系防振ゴム組成物において、該ゴム成分100質量部に対し、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有するものとする。この防振ゴム組成物の加硫物においては、タイプAデュロメータ硬さが35~70のものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有するジエン系防振ゴム組成物において、該ゴム成分100質量部に対し、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有することを特徴とする防振ゴム組成物。
【請求項2】
該ジエン系ゴムは、天然ゴム単独、もしくは天然ゴムとシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムとの混合物である請求項1記載の防振ゴム組成物。
【請求項3】
該ハイシスブタジエンゴムは、高分子量ブタジエンゴムと低分子量ブタジエンゴムを含有するものであり、ハイシスブタジエンゴム100質量%中に、高分子量ブタジエンゴムを40~95質量%含み、低分子量ブタジエンゴムを5~60質量%含むものであり、下記(i)及び(ii)を満足することを特徴とする請求項2記載の防振ゴム組成物。
(i)高分子量ブタジエンゴムは、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が2.1~5.0dl/g
(ii)低分子量ブタジエンゴムは、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が0.1~0.6dl/g
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の防振ゴム組成物から成形され、防振ゴム組成物の加硫物のタイプAデュロメータ硬さが35~70であることを特徴とする防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のブッシュ等の防振ゴムに用いられ、各種機械等の振動に対する防振,制振等に対して有効な防振ゴム組成物に関し、さらに詳細には、加工性に優れ、弾性率の温度依存性も小さく、カーボン分散性が良好で、制振・防振性能に優れる防振ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の各種車両では、搭乗者の快適性を向上させるために、振動の発生源となる部位に様々な防振ゴムを配置して、振動を吸収し、車内への振動及び騒音の侵入や、周辺環境への騒音の拡散を低減することが行われている。防振ゴムの防振性能を向上させる観点からは、防振ゴムのバネ定数(柔軟性)を制御し、かつ減衰性制御することが必要である。即ち、防振ゴムにおいては、柔軟性を確保しつつ、減衰特性をある程度以上大きくしたゴム組成物の加硫物が用いられることが多い。
【0003】
防振ゴム等に用いられるゴム組成物の減衰特性を向上する手法としては、(A);ジエン系ゴムに微粒子カーボンブラックを多量に配合する方法、あるいは(B);ジエン系ゴムとして結合スチレン量が多いSBRなどのガラス転移温度(Tg)の高いポリマーを使用する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、前記(A)の方法では、微粒子カーボンブラックを均一に分散させるのは困難なうえ、微粒子カーボンブラックの多量添加は、加硫ゴム硬度の上昇をまねき防振特性の悪化につながる。軟化剤を多量に添加することにより、柔軟性と減衰性を良好にすることは可能であるが、軟化剤の多量添加は、微粒子カーボンブラックの分散性のさらなる悪化を招くことになる。このようなカーボンブラックの分散悪化は、防振ゴムにとって重要な要求特性である繰り返しのひずみに対する耐久性及びゴム強度の悪化に繋がることが知られている。
【0005】
また、前記(B)の方法では、粘弾性特性の温度依存性が大きくなり、実用温度領域である0℃から-30℃といった低温領域での弾性率の変化が大きくなり(バネ定数の上昇が生じ)、防振ゴム特性が悪化するという問題がある。
【0006】
これらの問題に対する解決策として、流体封入式の防振ゴムが提案されている。しかしながら、流体封入式の防振ゴムは、機能面において優れたものを作製することが可能であるが、構造が複雑になるために、製造コストが高くなることに加えて、振動入力方向によっては流体による減衰効果が十分に得られないという問題がある。
【0007】
これらの問題点に対して、ゴム組成物の加硫物の減衰性を向上するために、各種の方法が提案されている。例えば、天然ゴムやイソプレンゴム(IR),ブタジエンゴム(BR)等のジエン系ゴムに対し、キシレン樹脂やクマロンインデン樹脂,C9系石油系樹脂等の各種樹脂の添加する方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)や、あるいはジエン系ゴムに対し、α位にカルボニル基を有する化合物とイミダゾール系老化防止剤を含有する防振ゴム組成物(特許文献4)や、極性基を有しないゴム100質量部に対し、シリカを80~180質量部,2以上の極性基を有する減衰性付与剤を3~50質量部を含有する防振ゴム(特許文献5)などが、提案されている。また、防振ゴム用のジエン系ゴムを使用したゴム組成物においては、耐熱性向上を目的として各種ゴム用老化防止剤を含有させることが知られている。(特許文献6)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-026794号公報
【特許文献2】特開2013-216781号公報
【特許文献3】特開2013-155333号公報
【特許文献4】特開2015-025060号公報
【特許文献5】特開2009-138053号公報
【特許文献6】特開2014-108963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3に記載されているような各種樹脂は、通常ゴム用の配合資材として知られ、ゴムの混練りにおいてロール巻き付き性が悪い場合などに改良目的でよく使用されている粘着付与剤(タッキファイヤー)としても知られているものであるが、このような樹脂を添加して減衰性を付与する場合、少量添加では減衰性付与効果が小さい。
【0010】
一方、前記のような樹脂を多量に添加した場合には、混練り加工でロールに張り付きすぎて加工性が悪くなる場合もある。すなわち、多量に添加することは困難なため、減衰性付与効果が不十分になる場合があった。
【0011】
また、特許文献4のように、ジエン系ゴムに対し、α位にカルボニル基を有する化合物とイミダゾール系老化防止剤を含有する防振ゴム組成物は、本発明者らが検討したところ、当該α位にカルボニル基を有する化合物が、当該特許文献4に記載されているように減衰性に大きく寄与するものの、加硫速度を速めてしまい、スコーチ安定性が大きく低下する傾向がある。これにより、例えば保存中にスコーチ(早期加硫)を起こす場合や、射出成型の射出中に加硫が進行して成形加工が困難となる場合があった。イミダゾール系老化防止剤は、本来の使用目的である耐熱性向上(老化防止)に寄与するものの、減衰性付与効果を確認できない場合もあり、減衰性付与のための他の方策が必要であった。
【0012】
また、特許文献6の場合、耐熱性向上を目的とした1種類の老化防止剤の添加量は、ゴム成分を100質量部としたとき0.1~5質量部とすることが示唆されているものの、具体的な実施例では0.5~2質量部の範囲としている。すなわち、特許文献6においても、1種類の老化防止剤の具体的な添加量は、2質量部以下でのみ検討されており、当該1種類の老化防止剤の5質量部を超えた添加の防振特性への影響は、全く検討されていない。
【0013】
また、特許文献5に記載されているように、2以上の極性基を有する減衰性付与剤は、減衰性付与効果が不十分な場合があり、シリカを80~180質量部添加すると、未加硫ゴムの粘度が高く金型内の流動性が悪くなり、防振ゴム成形で一般的に行われているインジェクション成形では、流動性が不十分で成形加工が困難となる場合があった。
【0014】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、振動特性の温度依存性が小さく、カーボンブラック分散性に優れた防振ゴムを製造するためのゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、このゴム組成物を用いてなる硬度が適正化された防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、弾性率の温度依存性も小さく、カーボンブラック分散性が良好で加工性に優れ、制振・防振性能に優れる防振ゴムゴム組成物を得るために、鋭意検討を重ねた。
【0016】
その結果、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して80質量部を超えて含有させずに、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を減衰性付与剤として5質量部を超え40質量部以下含有させることにより、弾性率の低温特性を悪化させることなく、カーボンブラック分散性が良好で加工性に優れ、制振・防振性能に優れることを見出し、発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の防振ゴムは、
[1]ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有するジエン系防振ゴム組成物において、該ゴム成分100質量部に対し、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有することを特徴とする防振ゴム組成物である。
【0018】
[2]該ジエン系ゴムは、天然ゴム単独、もしくは天然ゴムとシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムとの混合物である防振ゴム組成物であることが好ましい。
【0019】
[3]該ハイシスブタジエンゴムは、高分子量ブタジエンゴムと低分子量ブタジエンゴムを含有するものであり、ハイシスブタジエンゴム100質量%中に、高分子量ブタジエンゴムを40~95質量%含み、低分子量ブタジエンゴムを5~60質量%含むものであり、下記(i)及び(ii)を満足する防振ゴム組成物であることが好ましい。
(i)高分子量ブタジエンゴムは、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が2.1~5.0dl/g
(ii)低分子量ブタジエンゴムは、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が0.1~0.6dl/g
[4]前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の防振ゴム組成物から成形され、防振ゴム組成物の加硫物のタイプAデュロメータ硬さが35~70であることを特徴とする防振ゴム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、弾性率の温度依存性も小さく、カーボン分散性が良好で加工性に優れ、制振、防振性能に優れる防振ゴム用ゴム組成物、並びに、装着した車両の防振・制振性能に優れた防振ゴムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1~7および比較例1~7の各ゴム組成物において振動特性(静バネ定数、tanδ)を測定した防振ゴム形状のテストピースSの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態による防振ゴム組成物および防振ゴムを詳細に説明する。上述したように、本実施形態による防振ゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有するジエン系防振ゴム組成物において、該ゴム成分100質量部に対して、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有する。
【0023】
以降、全ての資材の添加量を示すのに単に質量部と記載されたものは、ゴム成分100質量部とした場合の各資材の質量部を示すものとする。
【0024】
本実施形態に係る防振ゴム組成物においては、ゴム成分中の主ゴム成分としてジエン系ゴムが用いられている。このジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を使用することができる。ゴム強度の安定性、防振ゴムの耐久性の観点によれば、天然ゴムが含まれることが好ましい。
【0025】
天然ゴムとしては、特に制限はなく、防振ゴムに用いられる通常の天然ゴムを適用することができる。具体的には、例えば、シートゴム(クレープを含む)では、RSS(RIBBED SMOKED SHEET)、WHITE CREPES、PALE CREPES、ESTATE BROWN CREPES、COMP CREPES、THIN BROWN CRAPES(RIMILLS)、THICH BLANCKET CRAPES(AMBERS)、FLAT BARK CREPES、PURE SMOKED BRANKET CRAPESの全ての等級が挙げられる。
【0026】
また、ブロックゴムでは、SMR(STANDARD MALAYSIAN RUBBER)、SIR(STANDARD INDONESIAN RUBBER)、STR(STANDARD THAI RUBBER)、SSR(STANDARD SINGAPOREAN RUBBER)、SCR(STANDARD CEYLON RUBBER)、SVR(STANDARD VIETNAMESE RUBBER)などが挙げられる。
【0027】
ゴム成分においては、天然ゴムを単独で用いても良いが、当該ゴム成分に天然ゴム以外の合成ジエン系ゴムが含まれる場合、合成ジエン系ゴムに対する天然ゴムの質量比(天然ゴム/合成ジエン系ゴム)は99/1~50/50、好ましくは99/1~60/40とすることが挙げられる。このような範囲内であれば、天然ゴムにおいて特有の高い耐久性を防振ゴムに付与しつつ、合成ジエン系ゴムによる耐久性の更なる向上や減衰性向上効果が得られ、加工性の改善等が図られる。天然ゴムと混合する合成ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を使用することができるが、中でも温度依存性が比較的小さいブタジエンゴムが好ましく用いられる。その他、EPDMなどの他のゴム成分が少量(例えば5質量部以下の範疇の量)含まれていても何ら問題はない。
【0028】
本実施形態の防振ゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有している。一般に、防振ゴム組成物においては、カーボンブラックの種類(粒子径)と添加量で振動特性を制御することが多い。一方で、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを多量に添加すると、加硫ゴムの硬度が上昇する。また、柔軟性を確保するために、プロセスオイルと前記カーボンブラックをどちらも多量に添加すると、カーボンブラックの分散性が悪くなる傾向にある。
【0029】
窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックの添加量が40~80質量部の範疇の時、防振ゴム組成物の加硫体は、柔軟性とカーボンブラック分散性が良好になり、耐久性に優れた防振ゴム組成物が得られる。窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックのより好ましい含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40~65質量部である。前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、当該カーボンブラックの粒子径の指標とされているものであり、当該窒素吸着比表面積が大きいことは、粒子径が小さいことを示す。
【0030】
窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラックとして知られるSAF級、SAF-HS級、SAF-LS級、ISAF級、ISAF-HS級、ISAF-LS級、HAF級、HAF-HS級、HAF-LS級、MAF級、MAF-HS級などのカーボンブラックが該当する。
【0031】
さらには、カラー用カーボンブラックや導電性カーボンブラックでも、窒素吸着比表面積が46~150m2/gの範疇のカーボンブラックであれば、なんら問題なく使用することができる。例えば、トーカブラック#7360SB,トーカブラック#7270SB,トーカブラック#4500,トーカブラック#7550SB/F,トーカブラック#3855,トーカブラック#3845(以上東海カーボン株式会社製)や、MCF級,RCF級,LFF級,SCF級などの窒素吸着比表面積が46~150M2/Gのカラー用カーボンブラック(例えばMA600、#750B、#650B、MA8、MA230、MA220などや導電性カーボンブラック#3050B;以上三菱化学株式会社製)や、SB735,SBSB285,SB335,SB605,SB625(以上旭カーボン株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
前述したように防振ゴムの柔軟性と減衰性は、通常カーボンブラックの種類と添加量、および軟化剤であるプロセスオイルの添加量で制御されていることが多い。一般に、窒素吸着比表面積が大きくなるに従い減衰性は向上するが、カーボンブラックを均一に分散させることが難しくなる。さらに、減衰性付与のために窒素吸着比表面積が大きなカーボンブラックを多量に添加し、柔軟性を確保するためにオイルを多量に添加すると、より一層、カーボンブラックの分散が悪化しやすい。このため、窒素吸着比表面積が150m2/gを超えるカーボンブラックは、分散性の観点から用いないほうが良い。すなわち、窒素吸着比表面積46~120m2/gのカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0033】
前述のように防振ゴムの柔軟性と減衰性は、通常カーボンブラックの種類と添加量、および軟化剤であるプロセスオイルの添加量で制御されていることが多く、カーボンブラックの添加量を増やした場合には、硬度が上昇し、減衰性が向上する。前述のように窒素吸着比表面積46~120m2/gのカーボンブラックは、ゴム成分100質量部に対して40~80質量部(より好ましくは40~65質量部)の範疇で添加した場合、柔軟性とカーボン分散性(耐久性)のバランスが良くなる。しかしながら、さらなる防振・制振性の向上のためには、硬度を上昇させずに、減衰性を向上させる手法が必要である。
【0034】
そこで、本実施形態の防振ゴム組成物においては、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、ゴム成分100質量部に対して、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有したものとしている。2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体によれば、ゴム硬度(柔軟性)を大きく高めることなく減衰性を付与することができる。
【0035】
2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体は、熱劣化性を低減する目的で、防振ゴム組成物のゴム成分100質量部に対し5質量部以下の範囲で添加されることがある。ジエン系ゴムの場合には、通常、2質量部以下の範囲で使用されている。これ以上の添加量で添加しても、さらなる耐熱性向上効果が得られないことから、防振ゴム組成物の老化防止剤としては、5質量部を超えて含有させる検討はなされていない。
【0036】
しかしながら、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体は、ゴム成分100質量部に対して5質量部を超えて添加しても、前述のような更なる耐熱性向上効果は望めないが、柔軟性を維持した状態で、減衰性を高めることができる。また、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体の添加量がゴム成分100質量部に対して40質量部を超えても減衰性付与効果はあるが、ゴム成分の割合が少なくなりすぎてしまい、耐久性の悪化、へたり性(圧縮永久ひずみ)の悪化が発生しやすくなる。
【0037】
以上により、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体の添加量は、ゴム成分100質量部に対して好ましくは5質量部を超えて30質量部以下の範囲とし、より好ましくは5質量部を超えて20質量部以下の範囲とする。
【0038】
また、本実施形態では、窒素吸着比表面積が46~150m2/gの範囲ではないカーボンブラックを、硬さ調整や加工性調整を目的として、ゴム成分100質量部に対して20質量部以下の範囲で併用してもかまわない。このように併用する場合には、窒素吸着比表面積が46m2/gよりも小さいカーボンブラックが、圧縮永久ひずみ性を悪化させ難く、またカーボン分散性も良好なため好ましく用いられる。
【0039】
前記ジエン系ゴムは、天然ゴムとシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムとの混合物であることが好ましい。特に、ブタジエンゴムの中でもシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムは、低温特性に優れ、かつ天然ゴムと混合した時、耐久性に優れた防振ゴムが得られやすい。
【0040】
一方で、天然ゴムとシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムは、最も減衰性(制振性)が低い加硫ゴムとなりやすい。この場合、減衰性の向上と柔軟性維持の観点では、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体の減衰性付与が、より効果を発揮することができる。
【0041】
天然ゴムとシス1,4-結合量90%以上のハイシスブタジエンゴムとの混合比率(天然ゴム/ハイシスブタジエンゴム)は、質量比では85/15~50/50、好ましくは75/35~60/40である。また、ハイシスブタジエンゴムの1,4-結合量は、好ましくは92%以上であり、より好ましくは、93%以上である。
【0042】
さらに、前記ハイシスブタジエンゴムは、ハイシスブタジエンゴム100質量%中に高分子量ブタジエンゴムを40~95質量%含み、低分子量ブタジエンゴムを5~60質量%含むものであることが好ましい。
【0043】
ここで、高分子ブタジエンゴムにおいては、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が2.1~5.0dl/gのものとする。これにより、耐動的疲労性、機械的強度特性の向上が図られる。
【0044】
また、低分子量ブタジエンゴムにおいては、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が0.1~0.6dl/gのものとする。これにより、減衰性の向上が図られる。
【0045】
前記高分子ブタジエンゴムと前記低分子量ブタジエンゴムの両者を混合した後のムーニー粘度(100℃)は、30~70の範疇であることが好ましい。この範疇の時、柔軟性があって減衰性に優れ、かつブタジエンゴムの取り扱い性が良くなる。
【0046】
本実施形態の防振ゴム組成物においては、その必須成分である前記ジエン系ゴム成分、カーボンブラック成分、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体とともに、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、充填剤、プロセスオイル、加工助剤、カップリング剤等を、必要に応じて適宜に含有させることが可能である。
【0047】
[加硫系(加硫剤および加硫促進剤)]
本実施形態の防振ゴム組成物の加硫剤としては、公知の加硫剤を使用することができ、イオウないしイオウ系化合物による加硫、樹脂加硫、キノイド加硫、ビスマレイミド加硫、有機過酸化物加硫などの加硫方法が採用できる。これらの中では、イオウないしイオウ系化合物を使用した加硫が、防振ゴムの耐久性に優れることから好ましく使用される。
【0048】
イオウないしイオウ系化合物としては、具体的には、硫黄、塩化硫黄、2-(4'-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4'-ジチオジモルホリン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが例示できる。
【0049】
また加硫剤としてイオウ化合物を使用するときは、加硫促進剤を併用することが好ましい。加硫促進剤としては、具体的には、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系化合物や、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系化合物や、ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジオルソニトリルグアニジン、オルソニトリルバイグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン化合物や、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物などを、あげることができる。
【0050】
また、加硫速度の調整として、スコーチ防止剤であるN-シクロヘキシルチオフタルイミド、N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドなどを好ましく使用することができる。
【0051】
[加硫助剤]
また、加硫剤としてイオウ化合物を使用する場合には、酸化亜鉛(ZnO)あるいは複合亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛等の加硫助剤を併用することが好ましい。これらの加硫助剤は、単独もしくは二種以上併せて用いられる。
【0052】
ここで、複合亜鉛華とは、表面に酸化亜鉛(亜鉛華)の層を有し、コア成分として内部に無機金属塩を含有するものなどがしられており、例えば井上石灰工業社製のMETA-Z Lシリーズ(META-Z L40、L50、L60)などが例示される。
【0053】
酸化亜鉛若しくは複合亜鉛華の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上15質量部以下である。
ステアリン酸若しくはステアリン酸亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。
【0054】
[老化防止剤]
本実施形態のゴム組成物には、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体以外の老化防止剤を、さらに含有することが好ましい。本実施形態で使用する防振ゴム組成物は、ジエン系ゴムを使用するため、耐オゾン性や耐熱性に劣る。このため、公知の老化防止剤により改良することが好ましい。老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等があげられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いられる。
【0055】
前記老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、1~15質量部の範囲が好ましく、3~10質量部の範囲がより好ましい。2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体以外の老化防止剤は、最大含有量(複数種類適用する場合、それぞれの最大含有量)5質量部以下の範囲で使用することが挙げられる。
【0056】
[充填剤]
本実施形態の防振ゴム組成物は、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、充填剤を含有することができる。充填剤としては、湿式シリカ,乾式シリカ,コロイダルシリカ等のシリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルク等のように、通常のゴム組成物に使用される充填剤を、使用することができる。これらの充填剤は、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0057】
[プロセスオイル]
本実施形態の防振ゴム組成物は、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、プロセスオイルを含有することができる。プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0058】
[加工助剤]
本実施形態の防振ゴム組成物は、加工性の改善を目的として、加工助剤を含有することができる。加工助剤としては、通常のゴムの加工に使用される化合物を適用することができる。具体的には、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸や、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸の塩や、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸のエステル類や、粘着性付与を目的としたテルペン樹脂やクマロン樹脂などのタッキファイヤー類が、挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0059】
[その他の成分]
本実施形態の防振ゴム組成物は、振動特性の調整を目的として、ゴム成分とカーボンブラックとのカップリング剤、ゴム成分とシリカとのシランカップリング剤などの添加剤や、加硫戻り防止剤など公知のゴム用添加剤を、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0060】
ここで、前記防振ゴムにおける柔軟性が高いとは、ゴム組成物の加硫ゴムのタイプAデュロメータ硬さが35~70ということを意味する。本実施形態の防振ゴム組成物を用いることにより、加硫ゴムのタイプAデュロメータ硬さが35~70で、防振特性に優れ、弾性率の温度依存性が小さく、カーボンブラック分散性がよいことから、耐久性に優れた防振ゴムを容易に得ることが出来る。
【0061】
〔防振ゴム組成物の調製方法〕
ここで、本実施形態の防振ゴム組成物は、その必須材料であるゴム成分、カーボンブラック成分、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、および必要に応じて前記列記したその他の材料を用い、これらを加圧ニーダー,バンバリーミキサー、インターミックスミキサー、オープンロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0062】
このような本実施形態の防振ゴム組成物は、145~170℃の加硫温度にて5~30分間で加硫することにより、防振ゴム用弾性体となる。即ち、本実施形態の防振ゴム組成物の加硫した弾性体からなる防振ゴム部材は、自動車等の車両や各種機械等の振動に対する防振,制振及び柔軟性が要求される防振ゴム部材として、好適に用いることができる。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
≪防振ゴム組成物の作成≫
下記表1、表2に示す割合で各種材料を配合して混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。なお、各種材料の混練は、まず、加硫剤と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いてで5分間混練し、ついで、オープンロールを用い、冷却水温度を約20℃に設定して冷却しながら、当該バンバリーミキサーで混錬したゴムに加硫剤と加硫促進剤を添加し、5分間混練することにより、防振ゴム組成物(実施例1~7、比較例1~7)を作成した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
なお、表1、表2に記載した材料は、次の通りである。
・天然ゴム:SVR CV60
・ブタジエンゴム-1:シス1,4-結合量97%、ムーニー粘度(ML1+4)37、下記(i)の高分子量ブタジエンゴム100質量部に対して下記(ii)の低分子量ブタジエンゴム40質量部を溶媒シクロヘキサン中で混合したプリブレンド品(日本ゼオン社製「BRX5000」)
(i)30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が3.3dl/gの高分子量ブタジエンゴム
(ii)30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が0.3dl/gの低分子量ブタジエンゴム
・ブタジエンゴム-2:シス1,4-結合量96%、ムーニー粘度(ML1+4)44、30℃トルエン中で測定した極限粘度(η)が2.4dl/g(液状の低分子ブタジエンゴム含有無)(JSR株式会社製「BR-01」)
・スチレンブタジエンゴム:結合スチレン量40%、ムーニー粘度(ML1+4)49、芳香族系オイル含油量37.5phr(日本ゼオン株式会社製「Nipol 1739」)
・カーボンブラック-1:窒素吸着比表面積76m2/g(HAF級)(キャボットジャパン株式会社製「VULCAN 3D」)
・カーボンブラック-2:窒素吸着比表面積108m2/g(ISAF級)(キャボットジャパン株式会社製「VULCAN 6J」)
・減衰性付与剤-1:2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(大内振興株式会社製「ノクラック224」)
・減衰性付与剤-2:2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-TERT-ブチルフェノール)(大内振興株式会社製「ノクラックNS-6」)
・減衰性付与剤-3:N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-P-フェニレンジアミン(大内振興株式会社製「ノクラックG-1」)
・減衰性付与剤-4:クマロンインデン樹脂(日塗化学株式会社製「ニットレジンクマロンG-90」)
・老化防止剤-1:(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-P-フェニレンジアミン)(大内振興社製「ノクラック6C」)
・老化防止剤-2:(2-メルカプトベンズイミダゾール)(大内振興株式社製「ノクラックMB」)
・老化防止剤-3:ワックス(日本精蝋株式会社「オゾエース0100」)
・複合亜鉛華:井上石灰工業社製「META-Z-L60」
・ステアリン酸:日本油脂株式会社製「ステアリン酸つばき」
・ナフテン系オイル:ENEOS株式会社製「クリセフオイルH56」
・加硫剤:硫黄(鶴見化学工業社製「金華印微粉硫黄200MESH」)
・加硫促進剤-1(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内振興化学株式会社製「ノクセラーCZ-G」
・加硫促進剤-2(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内振興化学株式会社製「ノクセラーTT-P」
≪防振ゴム組成物(未加硫ゴム)の試験方法、評価方法)≫
表1、表2に記載の実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物(未加硫ゴム)の試験方法,評価方法は、以下の通りである。各評価結果及び判定結果は、表1、表2に合わせて示す。
【0068】
[加硫特性試験―加硫速度の測定(未加硫試験)]
JIS K6300-2に準拠して、キュラストメータV型を用い、測定温度150℃,振幅角度±1°,振動数100cpmにて20分間加硫曲線を描き、当該加硫曲線からTc(10)分,Tc(90)分値を求め、それぞれキュラストTc(10),キュラストTc(90)とした。
【0069】
[ムーニースコーチタイム]
実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物において、JIS 6300-1に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを用い、測定温度125℃におけるムーニー粘度の最低値をVmとし、当該Vmより5M上昇する時間t5を測定し、当該t5をムーニースコーチタイムとした。
【0070】
評価判断として、ムーニースコーチタイムが10分より短いものは、早期加硫の恐れがあり、未加硫ゴムの保存期間や防振ゴム成形方法に制限が出てくるためスコーチ安定性が低いものとし、ムーニースコーチタイムが10分以上のものはスコーチ安定性が良好なものとした。
【0071】
[カーボンブラック分散性]
実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物において、RPA2000(ALPHA TECHNOLOGIES社製)を使用し、100℃で角周波数100rad/sにて、ひずみ率19.95%での複素弾性率G*(19.5)、及びひずみ率0.98%での複素弾性率G*(0.98)を測定し、カーボンブラック分散性指標として、カーボンブラック分散度=G*(19.5)/G*(0.98)を求めた。低ひずみと高ひずみの複素弾性率比はカーボンブラック分散性の指標として知られるもので、得られた値が大きい(高ひずみ率での複素弾性率の低下が小さく、低ひずみ率での複素弾性率との差が小さい)に近いほど分散性が良いことを意味する。結果は比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほどカーボンブラックの分散性が高いことを意味する。
【0072】
≪評価サンプル(加硫ゴム)の作成≫
・厚み2mm加硫ゴムシートの作成:実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物において、ゴムの厚みが2mmとなるキャビティの2mmシート用金型を用いたコンプレッション成形により、150℃にて加硫時間(CT90+5)分加硫成型を行うことで、厚み2mmの加硫ゴムシート(以下、単に評価用ゴムシートと適宜称する)を得た。
・タイプAデュロメータ硬さ及び圧縮永久ひずみ試験用加硫ゴム試験片の作成:実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物において、直径29.0mm×高さ12.5mmの円柱状の試験片作成用金型を用い、150℃にて加硫時間(Tc90+10)分加硫成型を行うことで、直径29.0mm×高さ12.5mmの円柱状のタイプAデュロメータ硬さ及び圧縮永久ひずみ試験用加硫ゴム試験片(以下、単にゴム試験片と適宜称する)を得た。
・防振ゴム形状テストピースの作成:実施例1~7,比較例1~7による各防振ゴム組成物において、型締め力50tonのインジェクション成形機を用いて、図1に示すようなテストピースSを得た。図1のテストピースSは、40mm×40mm×30mmの直方体の角型防振ゴム1を一対の平板状金具2により挟持し、150℃にて12分間加硫成形して得たものである。一対の平板状金具2には、それぞれ当該平板状金具2から突出するように支持棒3が設けられている。
【0073】
このようにして得られた実施例1~7,比較例1~7の防振ゴム組成物の加硫ゴム(評価用ゴムシート,ゴム試験片,テストピースS)を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果は、前記表1、表2に併せて示した。なお、各評価項目の評価方法は次の通りである。
【0074】
[タイプAデュロメータ硬さ]
実施例1~7,比較例1~7の各ゴム組成物に係るゴム試験片の硬さを、JIS K6253(2012年)に準拠しタイプAデュロメータを用いて測定した。
【0075】
[振動特性-静バネ定数]
実施例1~7,比較例1~7の各ゴム組成物に係るテストピースSにおいて、JISK 6385(2012年)に準拠し、圧縮方向(平板状金具2による挟持方向)に変位速度10mm/分で0mm~5mmの範囲で撓ませるように3回負荷を加え、その3回目の負荷過程での荷重‐撓みの関係を測定した。そして、前記荷重‐撓みの関係において、JISK 6385(2012年)の規格に記載の計算方法により、撓みの範囲=2.0~4.0mmで算出した。表1,表2に示した結果は、比較例1の算出値を100とした場合の指数で示した。
【0076】
[振動特性‐減衰性(tanδ)]
実施例1~7,比較例1~7の各ゴム組成物に係るテストピースSにおいて、JISK 6385(2012年)に準拠し、圧縮方向(平板状金具2による挟持方向)に3mm撓ませた荷重下で、当該テストピースSの軸直角方向の振動数10Hz,振幅±1mmの条件でtanδを測定し、このtanδの大きさを減衰性の指標とした。
【0077】
[耐へたり性‐圧縮永久ひずみ率]
実施例1~7,比較例1~7の各ゴム組成物に係るゴム試験片において、JIS K6262(2013年)に準拠して治具を用い、高さ方向に25.0%圧縮した状態(高さ9.38mm)にして、雰囲気温度100℃の恒温槽中に下記時間放置した後、治具ごと取り出して速やかに試験片を解放した。この解放後、23℃の雰囲気下で木製の台上に30分放置してゴム試験片の高さを測定して、圧縮永久ひずみCS(%)を算出した。100℃恒温槽中の放置時間は、22時間とした。このように算出した数値が小さい程、圧縮永久ひずみ率が小さくへたり性が良いことを意味する。
【0078】
[動的特性‐貯蔵弾性率の温度依存性]
実施例1~7,比較例1~7の各ゴム組成物に係る評価用ゴムシートにおいて、それぞれ縦40mm×横4mmの試験片を切り出す。そして、前記試験片において、上島製作所社製の粘弾性アナライザ(MODEL VR-7120)を使用し、チャック間距離20mm,引張り方向にて、初期伸長2%(0.4mm)、加振振幅0.2%(0.04mm),1Hzの条件下で、-40℃~40℃の粘弾性の温度分散を測定し、-30℃の貯蔵弾性率E’(-30℃)と23℃の貯蔵弾性率E’(23℃)を求め、E’(-30℃)/E’(23℃)を低温特性の指標とした。即ち、E’(-30℃)/E’(23℃)の値が1に近い程、温度依存性が小さく、大きくなるほど低温での貯蔵弾性率が大きくなることから、低温性に劣ることを意味する。
【0079】
≪表1,表2の考察結果≫
表1及び表2に示す実施例1~7の通り、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有するジエン系防振ゴム組成物においては、該ゴム成分100質量部に対して、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を5質量部を超え40質量部の範疇で含有しており、これにより、添加量に応じて大きな減衰性付与効果があるにも関わらず、スコーチ安定性、カーボン分散度、硬度や静バネ定数、圧縮永久ひずみ率、低温特性を良好に維持できていることがわかる。
【0080】
ジエン系ゴムに結合スチレン量が40%と比較的高いSBRを混合した比較例2は、低温での弾性率変化が大きかった。
【0081】
カーボンブラックとプロセスオイルを多量に含有せしめた比較例3は、カーボンブラック分散度に劣り、圧縮永久ひずみ率も悪化した。
【0082】
比較例4は、減衰性付与剤として提案されている2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-TERT-ブチルフェノール)を使用しているが、減衰付与効果はそれ程高くなく、スコーチ安定性が低下する傾向にあった。
【0083】
比較例5は、減衰性付与剤として提案されているN-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-P-フェニレンジアミンを使用しているが、スコーチタイムが短くスコーチ安定性に劣っていた。
【0084】
比較例6は、減衰性付与剤としても知られるクマロンインデン樹脂も用いているが、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を減衰性付与剤として用いた場合(実施例1~7の場合)よりも減衰性付与効果は小さく、圧縮永久ひずみ率も劣っていた。
【0085】
比較例7は、(2-メルカプトベンズイミダゾール)を15質量部と多量に添加しているが、減衰性付与効果は確認できなかった。
【0086】
以上のように、本実施形態の防振ゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が46~150m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有し、該ゴム成分100質量部に対し、減衰性付与剤として2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体を、5質量部を超え40質量部以下の範囲で含有することで、柔軟性・減衰性・カーボンブラック分散性・スコーチ安定性・圧縮永久ひずみ率・低温特性に優れたものとなる。
【0087】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0088】
S…テストピース
1…防振ゴム
2…金具
3…支持棒
図1